特許第6593876号(P6593876)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593876
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】尿路上皮癌の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6813 20180101AFI20191010BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20191010BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20191010BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20191010BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   C12Q1/6813 Z
   C12Q1/6876 Z
   C12Q1/686 Z
   C12Q1/6886 Z
   C12Q1/02
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-518261(P2015-518261)
(86)(22)【出願日】2014年5月20日
(86)【国際出願番号】JP2014063368
(87)【国際公開番号】WO2014189052
(87)【国際公開日】20141127
【審査請求日】2017年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2013-107956(P2013-107956)
(32)【優先日】2013年5月22日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】関 直彦
(72)【発明者】
【氏名】榎田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】中川 昌之
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−036242(JP,A)
【文献】 YAMADA Y. et al.,MiR-96 and miR-183 detection in urine serve as potential tumor markers of urothelial carcinoma: corr,Cancer Science,2011, Vol.102, No.3,p.522-529
【文献】 MENGUAL L. et al.,Using microRNA profiling in urine samples to develop a non-invasivetest for bladder cancer,International Journal of Cancer,Online 17 May 2013, Vol.133,p.2631-2641
【文献】 PUERTA-GIL P. et al.,miR-143, miR-222, and miR-452 Are Useful as Tumor Stratification and Noninvasive Diagnostic Biomarke,The American Journal of Pathology,2012, Vol.180, No.5,p.1808-1815
【文献】 WANG G. et al.,Expression of microRNAs in the Urine of Patients With Bladder Cancer,Clinical Genitourinary Cancer,2012, Vol.10, No.2,p.106-113
【文献】 WANG W. et al.,Identification of deregulated miRNAs and their targets in hepatitis B virus-associated hepatocellula,World J Gastroenterology,2012, Vol.18, No.38,p.5442-5453
【文献】 KIM T. H. et al.,Deregulation of miR-519a, 153, and 485-5p and its clinicopathological relevance in ovarian epithelia,Histopathology,2010, Vol.57,p.734-743
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉眼的血尿検体中のmiR−519aの発現量が正常組織由来の細胞の発現量に比べて10倍以上亢進していることを尿路上皮癌の判定基準とする、尿路上皮癌の検出方法。
【請求項2】
miR−519aの発現量の測定を、miR−519aに特異的にハイブリダイズするプライマーを用いて行う、請求項1に記載の尿路上皮癌の検出方法。
【請求項3】
miR−519aの発現量の測定を、リアルタイムPCR法により行う、請求項に記載の尿路上皮癌の検出方法。
【請求項4】
尿細胞検査を行う工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の尿路上皮癌の検出方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法に用いられるキットであって、miR−519aに特異的にハイブリダイズするプライマーを含有するキット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿路上皮癌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
尿路上皮癌は、尿路上皮に発生する悪性腫瘍の総称である。尿路上皮癌の発生部位は尿路全体にわたり、これは、腎盂、尿管、膀胱、および尿道を含む。代表的な尿路上皮癌である膀胱癌の日本における罹患率は、人口10万人に対して20人程度(男性)であり、近年増加傾向にある。欧米での罹患率は顕著に高く、尿路上皮癌に対しては世界的に対策が求められている。尿路上皮癌の発癌リスクを非侵襲的に、例えば検診の一環として評価することができれば、危険群に対して、リスク因子であると言われている喫煙を制限するなどの尿路上皮癌の予防措置や、頻繁な尿細胞診などの早期診断のための対策を採ることができる。
【0003】
尿路上皮癌は、尿路全体での時間的・空間的多発性が顕著である、との特徴を有する。これは、発癌のフィールド効果によると考えられている(非特許文献1)。例えば、腎盂癌、尿管癌などの上部尿路上皮癌の患者で、その一次癌を腎尿管全摘術により根治させても、10〜30%の患者においては異時性に膀胱内に尿路上皮癌が発生することが知られている。よって、現状では、腎盂・尿管癌の術後患者は、侵襲性のある膀胱鏡検査を反復して受ける必要がある。このような患者の負担を軽減するために、腎盂・尿管癌の非侵襲的な予後予測を可能にすることにより、異時性の尿路上皮癌の診断効率を高めることが求められている。
【0004】
従来、尿路上皮癌は侵襲的な内視鏡検査および生検によって診断されてきた。しかしながら、内視鏡検査は隆起性病変の診断における信頼性は高いものの、Carcinoma in situ(CIS、上皮内癌)では診断が難しいという問題がある。また、上部尿路(腎盂・尿管)の癌にとって内視鏡的アプローチは侵襲的であり、生検鉗子が使用できないため特に診断に難渋する場合が多い。一方、非侵襲的検査として有用とされている尿細胞診は、特異度は高い(90〜95%)ものの感度が低い(約30%)。したがって、検査が陰性であっても癌の存在を否定できないという問題や、診断者の主観によって結果が変わる可能性がある。
【0005】
尿路上皮癌を検出するために開発されてきた尿中NMP−22やBTAなどの新しいマーカーは、感度・特異度ともに50〜60%程度であり、尿路感染症でも陽性になるケースがあるなど補助的診断の域を出ず、普及していない。また、別のマーカーであるUrovysionは尿中剥離細胞における遺伝子異常をfluorescent in situ hybridization(FISH)によって検出するものであるが、検査コストが高いという問題がある。このような理由から、尿路上皮癌の新規診断マーカーを開発することは急務である。
【0006】
ところで、miRNA(マイクロRNA、microRNA)は、細胞内在性の、20〜25塩基程度の非コードRNAである。miRNAは、ゲノムDNA上のmiRNA遺伝子から、まず数百〜数千塩基程度の長さの一次転写物(pri−miRNA)として転写される。次いで、プロセシングを受けて約60〜70塩基程度のヘアピン構造を有するpre−miRNAとなる。その後、核から細胞質内に移り、さらにプロセシングを受けて20〜25塩基程度の二量体(ガイド鎖およびパッセンジャー鎖)からなる成熟miRNAとなる。成熟miRNAは、そのうちのガイド鎖(アンチセンス鎖)がRISC(RNA-Induced Silencing Complex)と呼ばれるタンパク質と複合体を形成し、標的遺伝子のmRNAに作用することで、標的遺伝子の翻訳を阻害する働きをすることが知られている(エピジェネティック転写制御)。現在では、数百種類のヒトmiRNAがヒトゲノム中に存在することが報告されている(miRBase::Sequences,Sanger Institute)。
【0007】
本発明者らは、従来、ヒトから採取された尿検体中の細胞中のmiR−96またはmiR−183の発現量の変動(特に、亢進)を指標とした尿路上皮癌の検出方法を確立し、特許出願している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−036242号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Harris,A.L. and Neal,D.E.,N.Engl.J.Med.,1992,326:759−761
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、miRNAを利用して尿路上皮癌を検出する技術はこれまでにも提案されているが、尿路上皮癌の検出技術として決定的に有効なものは依然として開発されてはいないのが現状である。また、検出技術のラインアップを充実させるという観点からも、尿路上皮癌の新規な検出方法を開発することの意義は大きい。
【0011】
そこで本発明は、尿路上皮癌を検出するための新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行った。その結果、尿検体中のmiR−519aの発現量の変動を測定することにより、尿路上皮癌を高い特異度・感度で検出しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の一形態によれば、尿検体中のmiR−519aの発現量の変動を測定する工程を含む、尿路上皮癌の検出方法が提供される。
【0014】
また、本発明の他の形態によれば、細胞中のmiR−519aの発現量の変動に基づく、尿路上皮癌の予防および/または治療に有効な物質のスクリーニング方法が提供される。
【0015】
本発明のさらに他の形態によれば、上述した検出方法やスクリーニング方法に用いられるキットもまた、提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、尿路上皮癌を検出するための新規な方法が提供される。また、尿路上皮癌の予防および/または治療に有効な物質のスクリーニング方法や、これらの方法に用いられるキットも提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例において、尿路上皮癌患者(30名)および非癌患者(59名)におけるhsa−miR−519aの発現を統計的に比較(Mann-WhitneyのU検定)した結果を示す図である。
図2】実施例において、尿路上皮癌患者(30名)および非癌患者(59名)におけるhsa−miR−519aの発現をReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線分析により評価した結果を示すグラフである。
図3】実施例において、尿路上皮癌患者(30名)のうち、比較的進行度の高い(High grade)患者(10名)および比較的進行度の低い(Low grade)患者(14名)におけるhsa−miR−519aの発現を統計的に比較(Mann-WhitneyのU検定)した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、説明する。なお、以下の説明では、miRNA、pri−miRNA、pre−miRNAにおいて、最終的に標的となる遺伝子のmRNAと対合する、当該mRNAに対するアンチセンス鎖(または当該アンチセンス鎖を含むRNA領域)を「ガイド鎖」と表現する。一方、前記アンチセンス鎖に対するセンス鎖(または当該センス鎖を含むRNA領域)を「パッセンジャー鎖」と表現する。
【0019】
≪尿路上皮癌の検出方法≫
本発明の一形態によれば、尿検体中のmiR−519aの発現量の変動を測定する工程を含む、尿路上皮癌の検出方法が提供される。
【0020】
ここで、本発明の方法において測定されるmiR−519aに関する情報(例えば、塩基配列等)は、上述したデータベース(miRBase::Sequences,Sanger Institute)から容易に入手可能である。
【0021】
後述する実施例で示されるように、尿検体中のmiR−519aの発現量が、正常細胞と比較して尿路上皮癌細胞において有意に亢進していることが判明した。したがって、より具体的には、miR−519aの尿検体中の発現量の亢進(増加)を測定する方法を用いることによって、尿路上皮癌を検出することが可能である。ここで、「miR−519aの発現量が有意に亢進(増加)している」とは、例えば、後述する実施例に記載のようなROC曲線分析におけるカットオフ値に基づき判定した場合に、尿検体中の細胞におけるmiR−519aの発現量の正常組織由来の細胞における発現量に対する比の値が、所定値以上となることを意味する。この「所定値」は、例えば約10であり(この場合、miR−519aの発現量は正常組織由来の細胞に比べて約10倍以上亢進している)、好ましくは約20であり、さらに好ましくは約30であり、この所定値以上であることを(判定)基準として、尿路上皮癌を検出することができる。
【0022】
ここで、後述する実施例において検査対象としたような肉眼的血尿を呈する患者の尿検体を用いた場合、従来知られているmiR−96やmiR−183等の検出による尿路上皮癌の検出方法では、これらのmiRNAの発現を測定するに当たり、感度および特異度ともに満足できる結果が得られず、癌と非癌との識別が不十分であった。この理由として、本発明者らは、赤血球には元来miR−96やmiR−183が相当量発現しているところ、非癌疾患(尿路感染症や結石)では血尿を合併することが多く、このことが、血尿を合併した非癌患者について正確な診断を困難なものとしていたと推定している。これに対し、本発明にかかる検出方法によれば、上述したように極めて高い感度および特異度をもって、尿路上皮癌の検出が可能となるのである。
【0023】
上述したような知見から、miR−519aの発現量の亢進に基づき、尿路上皮癌の予防および/または治療に有効な物質をスクリーニングすることもできる。より具体的には、以下の工程:
(a)被検物質の存在下に細胞を培養する工程、
(b)前記被検細胞におけるmiR−519aの発現量を測定する工程、および
(c)発現量の亢進を抑制するかまたは発現量を減少させる物質を選択する工程、
を含む方法でスクリーニングすることができる。
【0024】
このようなスクリーニング方法において、例えば、尿路上皮癌由来の細胞中を使用した場合には、尿路上皮癌の治療に有効な物質をスクリーニングすることが可能である。一方、癌化が促進されるような状況下(例えば、公知の発癌物質の共存下、放射線の照射等)におかれた正常組織由来の細胞を使用した場合には、尿路上皮癌の予防に有効な物質をスクリーニングすることが可能である。
【0025】
上述した本発明に係る検出方法およびスクリーニング方法において、miR−519aの発現量は当業者に公知の任煮の方法で測定することができる。例えば、miR−519aに特異的にハイブリダイズするプライマーまたはプローブを用いてmiR−519aの発現量を測定することができる。このようなプライマーまたはプローブは、当業者であれば、上記のデータベースの情報等を参考にして、miR−519aの塩基配列に基づき適宜設計することが可能である。なお、尿検体からのmiRNAの抽出およびサンプル調製も当業者に公知の任意の方法で行うことができる。
【0026】
このようなプライマーまたはプローブを用いる測定方法としては、ノーザンブロッティング法が古典的な方法である。最近では、miRNAを搭載したマイクロアレイ(Liu CG et al, (2004)An oligonucleotide microchip for genome-wide microRNA profiling in human and mouse tissues, PNAS, U S A, 101, 9740-9744; Lim LP et al, (2005) Microarray analysis shows that some microRNAs downregulate large numbers of target mRNAs, Nature, 433, 769-773)、改良型インベーダー法(Allawi HT et al, (2004) Quantitation of microRNAs using a modified Invader assay, Rna., 10, 153-1161)、ビーズを基にしたフローサイトメータ法(Lu J et al, (2005) MicroRNA expression profiles classify human cancers, Nature, 435, 834-838)などが報告されている。また、最も定量性のある方法として、定量PCR法の1種であるリアルタイムPCR法がある(Chen C et al, (2005) Real-time quantification of microRNAs by stem-loop RT-PCR, Nucleic Acids Res, 33, e179)。このリアルタイムPCR法によってmiR−519aを定量する場合には、miR−519aに特異的にハイブリダイズするステムループRTプライマーが用いられる。
【0027】
上述したプライマーまたはプローブの塩基配列は、鋳型との特異的な結合が可能となるような適当な塩基数、例えば、数十bp、10〜30bp程度を有することが好ましく、その設計には、例えば、OligoTM(National Bioscience Inc.製)のような市販のプライマー設計用のソフトウェアを使用することも可能である。
【0028】
本発明の検出方法またはスクリーニング方法に使用されるキットは、測定対象または測定原理等に応じて、適当な構成をとることができる。このキットは、その構成要素として、例えば、上記のmRNA(cDNA)の増幅用プライマーおよびDNAチップ(マイクロアレイ)等で使用するハイブリダイゼーション用のプローブを含むことができる。さらに、上記キットには、その構成・使用目的などに応じて、当業者に公知の他の要素または成分、例えば、各種試薬、酵素、緩衝液、反応プレート(容器)等が含まれる。なお、PCR反応後の検出を容易にするために、これらプライマーの少なくともいずれかの末端には、当業者に公知の任意の蛍光物質等の標識物質が結合していることが好ましい。例えば、適当な蛍光物質としては、6−カルボキシフルオレッセイン(FAM)、4,7,2',4',5',7'−ヘキサクロロー6−カルボキシフルオレッセイン(HEX)、NED(アプライドシステムズジャパン社)および6−カルボキシ−X−ローダミン(Rox)等が挙げられる。
【0029】
さらに、上述した尿路上皮癌の検出方法と尿細胞検査とを組み合わせる(併用する)ことによって、高い検出率で非侵襲的な尿路上皮癌の判定が可能となる。尿細胞検査は、例えば、「細胞診標本作成マニュアル(泌尿器)」(細胞検査士会(編)2004年発行)等に記載されている、当業者に公知の方法・手段で行うことができる。例えば、約50mL以上の採尿をして、遠心分離にて尿沈渣をとりパパニコロウ染色をして顕微鏡で観察し、核の異型度から癌の判定をする。通常5段階法でclass I, IIを陰性、class IIIを擬陽性、class IV, Vを陽性と判定する。したがって、本発明に係る尿路上皮癌の検出方法は、尿細胞検査を行う工程をさらに含むことが好ましいものであるということができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例の記載によって何ら限定解釈されるものではない。当業者であれば、本明細書の記載に基づき、本発明の技術的範囲を逸脱せずに、多くの変形および修飾を実施することが可能である。また、特に記載のない場合には、以下の実施例は、例えば、Sambrook and Maniatis, in Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989; Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 1995等に記載されている、当業者に公知の標準的な遺伝子工学および分子生物学的技術に従い実施することができる。なお、本明細書中に引用された文献の記載内容は本明細書の開示、および、内容の一部を構成するものである。
【0031】
(miRNA特異的逆転写反応および定量PCR)
外来受診時に肉眼的血尿を呈した患者89名のそれぞれから、尿検体を約10mLずつ採取した。次いで、採取された尿検体を3000rpm×15分間(4℃)遠心分離し、沈渣を約1mL残して上清をデカンテーションにより除去した。そして、後述するRNA抽出処理まで−80℃にて保存した。
【0032】
尿検体からのtotalRNAの抽出は、尿検体50μLから、mirVanaTMPARISTMKit(Ambion(登録商標))を用いて行った。
【0033】
続いて、抽出されたtotalRNAから、リアルタイムPCR(7300HT Real-Time PCR System; Applied Biosystems(登録商標))を用いて、hsa−miR−519aに特異的なステムループRTプライマーを利用したStem−loop RT−PCR法(TaqMan(登録商標)MicroRNA Assays)により、hsa−miR−519aを特異的に増幅し、定量した。PCR条件は、(95℃15秒間→60℃1分間)×40サイクルに設定した。
【0034】
その後の確定診断において、これらの患者のうち30名が尿路上皮癌、24名が尿路感染症、17名が尿路結石症、18名がその他の良性疾患と診断された。尿路上皮癌患者(30名)および非癌患者(59名)におけるhsa−miR−519aの発現を統計的に比較(Mann-WhitneyのU検定)した結果を図1に示す。図1に示す結果から、尿路上皮患者では、非癌患者と比較して有意にhsa−miR−519aの発現が増大していた。
【0035】
また、上述した尿路上皮癌患者(30名)および非癌患者(59名)におけるhsa−miR−519aの発現をReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線分析により評価した。結果を図2に示す。図2に示すように、感度70.0%、特異度74.8%で癌と非癌との鑑別が可能であった。
【0036】
さらに、上記と同様に、尿路上皮癌患者(30名)のうち、比較的進行度の高い(High grade)患者(10名)および比較的進行度の低い(Low grade)患者(14名)におけるhsa−miR−519aの発現を統計的に比較(Mann-WhitneyのU検定)した結果を図3に示す。図3に示す結果から、High gradeの患者では、Low gradeの患者と比較して有意にhsa−miR−519aの発現が増大していた。
【0037】
なお、従来用いられている尿細胞診によって尿路上皮癌について陰性と診断されていたにもかかわらず、病理学的により尿路上皮癌であると最終的に確定診断された患者11名について、上記と同様の手法によりhsa−miR−519aを検出したところ、9名が正しく陽性と診断された。このことからも、本発明に係る検出方法の感度の高さが理解される。
【0038】
上述のように、miRNAの検出は、尿沈渣サンプルから安定して行うことが可能である。また、PCR法をベースとした検出法であることから、一般的な検査機関であればどこでも測定可能である。さらに、検出のコストは1検体当たり約1500円と非常に安価であって、測定に要する時間も約4時間と迅速である。また、その診断には明確なカットオフ値が採用されることから、診断者の主観に左右されることもないという利点もある。
【0039】
本実施例において検査対象としたような肉眼的血尿を呈する患者の尿検体を用いた場合、従来知られているmiR−96やmiR−183等の検出による尿路上皮癌の検出方法では、これらのmiRNAの発現を測定するに当たり、感度および特異度ともに満足できる結果が得られず、癌と非癌との識別が不十分であった。この理由として、本発明者らは、赤血球には元来miR−96やmiR−183が相当量発現しているところ、非癌疾患(尿路感染症や結石)では血尿を合併することが多く、このことが、血尿を合併した非癌患者について正確な診断を困難なものとしていたと推定している。これに対し、本発明にかかる検出方法によれば、上述したように極めて高い感度および特異度をもって、尿路上皮癌の検出が可能となるのである。
図1
図2
図3