特許第6593927号(P6593927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593927
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】スイッチング電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20191010BHJP
【FI】
   H02M3/155 W
   H02M3/155 P
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-151620(P2016-151620)
(22)【出願日】2016年8月2日
(65)【公開番号】特開2018-23190(P2018-23190A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2018年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103208
【氏名又は名称】コーセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】堀井 一宏
【審査官】 麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−237961(JP,A)
【文献】 特開2014−204536(JP,A)
【文献】 特開2014−120454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子と出力平滑回路を備え、前記スイッチング素子のオン、オフによって入力電圧を断続電圧に変換し、前記断続電圧を前記出力平滑回路で直流電圧に変換して出力電圧を生成し、前記出力電圧は前記スイッチング素子のオンデューティで制御される電力変換部と、
誤差アンプと基準電圧源を備え、前記基準電圧源が出力する所定の基準電圧と前記出力電圧に比例した出力検出電圧を前記誤差アンプに入力して両者の誤差に応じて変化するフィードバック信号を出力するフィードバック制御回路と、
PWMコンパレータと三角波発振器を備え、前記三角波発信器から出力される所定の周波数と振幅の三角波信号と前記フィードバック信号を前記PWMコンパレータで比較した結果に基づいて前記スイッチング素子をオン、オフさせるスイッチング制御信号を出力するPWM制御回路と、
を備えたスイッチング電源装置に於いて、
前記基準電圧源は前記所定の基準電圧を上昇させる機能を備えており、
前記スイッチング素子が所定の時間以上オフしていることを検出した場合に、スイッチング動作停止検出信号を前記基準電圧源に出力して前記所定の基準電圧を上昇させ、前記フィードバック信号の前記三角波信号からの乖離を抑制させるスイッチング動作モニタ回路が設けられたことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
(スイッチング動作モニタ回路)
請求項1記載のスイッチング電源装置に於いて、
前記スイッチング動作モニタ回路は、ダイオード、コンデンサ、抵抗及びしきい値電圧検出回路を備え、前記スイッチング制御信号のオン期間に前記ダイオードを介して前記コンデンサに電荷を蓄え、前記スイッチング制御信号のオフ期間に前記コンデンサの電荷を前記抵抗を介して放電し、前記コンデンサの電圧を前記しきい値電圧検出回路に入力して所定のしきい値電圧以下となった場合に前記スイッチング動作停止検出信号を出力させるように構成されたことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項3】
(基準電圧を上昇させる機能をもった基準電圧源)
請求項1記載のスイッチング電源装置に於いて、
前記基準電圧源は、パルス信号のデューティを変化させる機能をもった方形波発振器、抵抗及びコンデンサを備え、前記方形波発振器の出力するパルス信号を前記抵抗と前記コンデンサで平滑した電圧を基準電圧として出力し、前記方形波発信器のデューティを所定値に初期設定して前記所定の基準電圧を出力し、前記スイッチング動作停止検出信号が入力された場合に前記方形波発振器のデューティを変化させて前記所定の基準電圧を上昇させるように構成されたことを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項4】
(時間経過に応じた基準電圧の上昇)
請求項3記載のスイッチング電源装置に於いて、前記基準電圧源は、前記スイッチング動作停止検出信号が入力された場合に、前記方形波発振器のデューティを時間の経過に応じて変化させることにより、前記基準電圧を時間の経過に応じて上昇させることを特徴としたスイッチング電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並列運転を行うスイッチング電源システムに用いるスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数台のスイッチング電源装置の出力を並列に接続して使用するスイッチング電源システムが知られている。
【0003】
このスイッチング電源システムから電流を得る場合において、スイッチング電源システム内の個々のスイッチング電源装置の出力電圧設定値にばらつきがあると、出力電圧設定値の高いスイッチング電源装置が多くの電流を出力することになり、それぞれのスイッチング電源装置の出力電流がアンバランスになる。
【0004】
出力電流がアンバランスになると、電流を多く出力しているスイッチング電源装置の発熱が大きくなり寿命が短くなる問題が発生する。スイッチング電源システムでは、システムを構成するスイッチング電源装置の故障はシステムとしての故障になるため、システムを構成する個々のスイッチング電源装置の出力電流をバランスさせ、発熱を均一化することで寿命を均一化し、システムとしての寿命が長くなるような対策を行う(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−143292号公報
【特許文献2】特開2008−289298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、これまで開示されている電流バランス技術は、スイッチング電源システムを構成するスイッチング電源装置から出力される電流の差分が一定値以上の場合において機能するため、スイッチング電源システムが無負荷で運転されている場合には、個々のスイッチング電源装置が出力する電流に差が無くなるため電流バランス技術が機能しない。
【0007】
そして、無負荷で動作しているスイッチング電源システムから、急峻に大きな出力電流を取り出した場合に、出力電流が増加するまでの応答時間の遅れが発生する。具体的には、無負荷状態のスイッチング電源システムから、システムを構成する1台のスイッチング電源装置が出力可能な電流値よりも大きな出力電流を取り出そうとした場合に電流出力の応答遅れが発生する。
【0008】
スイッチング電源装置の出力電流の応答特性が悪いことに対して、一般的には、スイッチング電源装置の出力側のコンデンサを大容量化することで対策を行う。これにより、スイッチング電源装置の制御回路が応答するまでの期間はスイッチング電源装置の出力側のコンデンサから電流を供給することができるようになり、スイッチング電源装置としての出力電流に対する応答特性を改善できる。しかし、この対策では、大型のコンデンサが必要になるためスイッチング電源装置の大型化、高コスト化を招いてしまう。
【0009】
(スイッチング電源システムの無負荷時の動作)
無負荷で運転されるスイッチング電源システムにおいて、システムを構成する個々のスイッチング電源装置の動作を説明する。
【0010】
スイッチング電源システムの無負荷時の動作を説明するに先立ち、まず、単体のスイッチング電源装置を無負荷で動作させた場合を説明する。無負荷で動作しているスイッチング電源装置においても、スイッチング素子を動作させることで入力側から出力側に電力を供給している。これは、スイッチング電源装置の出力電圧制御回路が若干の電力を消費しているためであり、この電力を供給する必要があるためである。
【0011】
次に、複数台のスイッチング電源装置を並列に接続してスイッチング電源システムを構成した場合において、システムが無負荷で動作している場合を説明する。
【0012】
スイッチング電源システムが無負荷で動作する場合には、システムを構成する複数台のスイッチング電源装置の中で、出力電圧設定値のばらつきにより、出力電圧設定値が一番高い値となっているスイッチング電源装置だけがスイッチング動作を行い、システム内の残りのスイッチング電源装置は、スイッチング動作を停止した状態となる。
【0013】
スイッチング電源システムの中で出力電圧設定値が一番高い値となっているスイッチング電源装置は、無負荷で動作している単体のスイッチング電源装置と同様に、スイッチング電源装置の出力電圧制御回路が消費する電力を供給するためにスイッチング動作が行われる。
【0014】
そして、スイッチング電源システムの中で出力電圧設定値が低い残りのスイッチング電源装置は、自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が出力側に印加された状態となっている。これは出力電圧設定値が一番高い値となっているスイッチング電源装置から、出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置に電圧が印加された状態である。
【0015】
ここで、自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が外部から印加されたスイッチング電源装置は、自身の出力電圧制御回路が消費する電力を外部から供給された状態となり、自身のスイッチング素子を動作させて電力を供給する必要が無くなる。また、外部から印加された電圧が自身の出力電圧制御回路の設定電圧よりも高いため、出力電圧制御回路は、自身の出力電圧が高くなっていると判断し、出力電圧を低下させるように自身のスイッチング素子の動作を制御する。この制御によってスイッチング素子の動作が完全に停止した状態となる。
【0016】
このとき、出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置は出力電流がほぼゼロ、出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置は出力電流が完全にゼロであり、出力電流としては、どちらのスイッチング電源装置もほとんど同じ値となるので、特許文献1の電流バランス技術は機能しないことになる。
【0017】
(スイッチング電源装置の構成)
図6はスイッチング電源システムを構成する従来のスイッチング電源装置の1台の回路の構成を示した回路ブロック図である。
【0018】
図6に示すように、スイッチング電源装置100は、電力変換部112と出力電圧制御回路122で構成される。出力電圧制御回路122には、フィードバック制御回路126、基準電圧源128、PWM制御回路130が設けられる。
【0019】
電力変換部112は、例えば降圧チョッパーであり、MOS−FETを用いたスイッチング素子114、整流用のダイオード118及び平滑用のインダクタ116とコンデンサ120で構成される。
【0020】
電力変換部112は、スイッチング素子114のオン、オフにより、入力端子110a,110bに対する入力電圧Vinを断続電圧に変換し、断続電圧をインダクタ116、ダイオード118及び出力コンデンサ120により整流平滑することで直流の出力電圧Voを生成し、出力端子121a,121bから負荷に供給する。
【0021】
スイッチング素子114は、PWM制御回路130からのスイッチング制御信号VGSがHレベルのときオンし、Lレベルのときオフするように動作する。出力電圧Voは、スイッチング素子114のオンデューティにより制御され、オンデューティが大きくなると出力電圧Voが上昇し、オンデューティが小さくなると出力電圧Voが低下する。
【0022】
なお、図6では、電力変換部112として降圧チョッパーを用いているが、スイッチング素子のオン、オフで電力変換できる回路であれば同様の動作となり、例えば、絶縁型のフォワードコンバータやフライバックコンバータ等でも良い。
【0023】
基準電圧源128は、所定の基準電圧Vrefを出力する電圧発生回路であり、電力変換部112の出力電圧Voを所定の出力電圧設定値に制御するために用いる。
【0024】
フィードバック制御回路126は誤差アンプ138で構成される。誤差アンプ138は、出力電圧Voが基準電圧Vrefに比例した値になるように、フィードバック制御を行う。フィードバック制御回路126の誤差アンプ138には、基準電圧Vrefと出力電圧検出回路124の抵抗134,136で分圧された出力電圧Voに比例した電圧である出力検出電圧Vsensが入力される。
【0025】
フィードバック制御回路126の誤差アンプ138は基準電圧Vrefと出力検出電圧Vsensとの誤差に応じて変化するフィードバック信号VFBをPWM制御回路130に出力する。即ち、誤差アンプ138はVsens>Vrefのときフィードバック信号VFBが低下するように制御を行い、Vsens<Vrefのときフィードバック信号VFBが上昇するように制御を行う。
【0026】
PWM制御回路130はPWMコンパレータ146と三角波発振器148で構成される。PWMコンパレータ146には、三角波発振器148からの所定周波数と振幅の三角波信号Vtriとフィードバック制御回路126からのフィードバック信号VFBが入力され、PWMコンパレータ146の出力がスイッチング制御信号VGSとして電力変換部112に出力される。
【0027】
PWM制御回路130は、VFB>Vtriのときスイッチング制御信号VGSがHレベルになるように制御を行い、VFB<Vtriのときスイッチング制御信号VGSがLレベルになるように制御を行う。従って、スイッチング電源装置100のスイッチング周波数は、三角波発振器148の周波数で決定され、フィードバック信号VFBが上昇するとスイッチング素子114のオンデューティが大きくなり、フィードバック信号VFBが低下するとスイッチング素子114のオンデューティが小さくなる。
【0028】
これによりスイッチング電源装置100の出力電圧Voは、基準電圧Vrefで決定される所定の出力電圧設定値になるように制御される。
【0029】
(並列運転時における出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置の動作)
図7は出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置の動作波形を示したタイムチャートであり、図7(A)は誤差アンプ138の入力を示し、図7(B)はPWMコンパレータ146の入力を示し、図7(C)はスイッチング制御信号VGSを示す。
【0030】
スイッチング電源システムが無負荷で動作している場合、出力電圧設定値が一番高いスイッチング電源装置だけがスイッチング動作を行い、他のスイッチング電源装置はスイッチング動作を停止した状態となる。スイッチング電源システムを構成するスイッチング電源装置の中でスイッチング動作が行われている側のスイッチング電源装置の動作を、図7を基に説明を行う。
【0031】
スイッチング電源システムが無負荷で動作している場合でも、スイッチング動作が行われているスイッチング電源装置は、スイッチング電源システムとしての出力電圧が自身の出力電圧設定値になるように制御を行う。このとき、スイッチング動作が行われているスイッチング電源装置は、スイッチング電源システムを構成しているスイッチング電源装置の出力側の消費電力の全てを供給する。
【0032】
スイッチング動作が行われているスイッチング電源装置は、図7(A)に示すように、出力電圧検出信号Vsensが基準電圧Vrefと等しくなるようにフィードバック信号VFBが制御される。
【0033】
また、スイッチング電源システムが無負荷の状態においては、スイッチング動作が行われているスイッチング電源装置は、ほとんど電力を出力しなくても良い状態であるため、図7(B)(C)に示すように、電力変換部112は、スイッチング素子114のオンデューティが小さな状態で動作する。この状態では、フィードバック信号VFBは三角波信号Vtriの下限ぎりぎりに位置した状態で動作することになる。
【0034】
(並列運転時における出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置の動作)
図8は出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置の動作波形を示したタイムチャートであり、図8(A)は誤差アンプ138の入力を示し、図8(B)はPWMコンパレータ146の入力を示し、図8(C)はスイッチング制御信号VGSを示す。
【0035】
スイッチング電源システムを構成するスイッチング電源装置の中で出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置の動作を、図8を基に説明を行う。
【0036】
スイッチング電源システムが無負荷で動作している場合は、自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が外部から印可された状態となるため、自身の出力側回路の消費電力は、外部から供給された状態となる。
【0037】
出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置は、自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が外部から印可されているため、図8(A)に示すように、Vsens>Vrefの状態となる。この状態では、フィードバック制御回路126が出力電圧を低下させるように制御を行うことになるため、フィードバック信号VFBを低下させる制御を行う。
【0038】
出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置は、フィードバック信号VFBを低下させても出力側に外部から印可された電圧が低下することがないため、フィードバック信号VFBを下限まで低下させることになり、図8(B)に示すように、フィードバック信号VFBは三角波信号Vtriの下限から剥離した状態になるように制御され、スイッチング動作が停止した状態が維持されることになる。
【0039】
(スイッチング電源システムの電流応答悪化の原理)
無負荷で運転されるスイッチング電源システムにおいて、出力電流が増加するまでの応答時間の遅れが発生する原理を以下に説明する。
【0040】
スイッチング電源システムから、急峻に大きな出力電流を取り出そうとした場合に、システムを構成するスイッチング電源装置の出力電圧が低下する。出力電圧の低下に対して、スイッチング電源装置は、スイッチング素子のオンデューティを大きくすることで出力電圧を上昇させるような制御が行われる。
【0041】
具体的には、システムを構成するスイッチング電源装置の全てがVsens<Vrefの状態となるので、フィードバック制御回路126がフィードバック信号VFBを上昇させる動作を行う。
【0042】
このとき、図7で示されている出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置は、フィードバック信号VFBが三角波信号Vtriの下限ぎりぎりの位置で動作しているため、フィードバック信号VFBが上昇すると、即座にスイッチング素子114のオンデューティが大きくなり、出力電流の増加に対して素早く応答することができる。
【0043】
一方、図8で示される出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置は、三角波信号Vtriが振幅している位置に対してフィードバック信号VFBが剥離した位置にあるため、フィードバック信号VFBが上昇しても、三角波信号Vtriの振幅位置に達するまでスイッチング素子114が動作することができず、出力電流の増加に対して素早く応答することができない。
【0044】
このため、無負荷状態のスイッチング電源システムから、システムを構成する1台のスイッチング電源装置が出力可能な電流値以下の電流に対しては素早く応答することができるが、これ以上の電流をスイッチング電源システムから急峻に出力させようとした場合、電流出力の応答遅れが発生することになる。
【0045】
(同期整流とダイオード整流の比較)
出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置における電流応答の問題は、電力変換部112にダイオード整流を用いたスイッチング電源装置を並列運転する際に顕著になる。
【0046】
これに対し電力変換部に同期整流を用いたスイッチング電源装置では、出力側から入力側に向けて逆流電流が流れる現象が発生するため、同期整流のスイッチング電源装置を並列運転する際には、例えば、特許文献2で開示されているような逆流電流を防ぐ対策を行うことで、電流応答の問題も同時に解消される。
【0047】
特許文献2のスイッチング電源装置では、スイッチング電源装置の出力側から自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が印可された場合でも、フィードバック信号が三角波信号の下限よりも低下しないような構成になっている。この状態は、フィードバック信号が三角波信号の振幅内に位置することになるため、即座に出力電流を増加させることができる。
【0048】
ところで、このような特許文献2による電流応答の遅れを無くす対策は、電力変換部に同期整流を用いることで、無負荷でも全負荷でもスイッチング素子を同じオンデューティで動作させることが可能である特徴を利用したもので、ダイオード整流のスイッチング電源装置には適用できない。
【0049】
これは、ダイオード整流のスイッチング電源装置を無負荷で用いる場合には、オンデューティを限りなくゼロに近い状態で動作させなければならないため、特許文献2による電流応答の遅れを無くす対策を用いようとすると、三角波信号やフィードバック信号のばらつきや変動を極限まで小さくする必要があり、実用的な回路とすることができないことが理由である。
【0050】
本発明は、並列運転による無負荷状態で自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が外部から印可されている状態から急峻に電流出力させるときの電流応答性を改善させるスイッチング電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0051】
(スイッチング電源装置)
本発明は、
スイッチング素子と出力平滑回路を備え、スイッチング素子のオン、オフによって入力電圧を断続電圧に変換し、断続電圧を出力平滑回路で直流電圧に変換して出力電圧を生成し、出力電圧はスイッチング素子のオンデューティで制御される電力変換部と、
誤差アンプと基準電圧源を備え、基準電圧源が出力する所定の基準電圧と出力電圧に比例した出力検出電圧を誤差アンプに入力して両者の誤差に応じて変化するフィードバック信号を出力するフィードバック制御回路と、
PWMコンパレータと三角波発振器を備え、三角波発信器から出力される所定の周波数と振幅の三角波信号とフィードバック信号をPWMコンパレータに入力して比較した結果に基づいてスイッチング素子をオン、オフさせるスイッチング制御信号を出力するPWM制御回路と、
を備えたスイッチング電源装置に於いて、
基準電圧源は所定の基準電圧を上昇させる機能を備えており、
スイッチング素子の所定時間以上のオフを検出した場合に、スイッチング動作停止検出信号を基準電圧源に出力して所定の基準電圧を上昇させ、フィードバック信号の三角波信号からの乖離を抑制させるスイッチング動作モニタ回路が設けられたことを特徴とする。
【0052】
(スイッチング動作モニタ回路)
スイッチング動作モニタ回路は、ダイオード、コンデンサ、抵抗及びしきい値電圧検出回路を備え、スイッチング制御信号のオン期間にダイオードを介してコンデンサに電荷を蓄え、スイッチング制御信号のオフ期間にコンデンサの電荷を、抵抗を介して放電し、コンデンサの電圧をしきい値電圧検出回路に入力して所定のしきい値電圧以下となった場合にスイッチング動作停止検出信号を出力させるように構成される。
【0053】
(基準電圧を上昇させる機能をもった基準電圧源)
基準電圧源は、パルス信号のデューティを変化させる機能をもった方形波発振器、抵抗及びコンデンサを備え、方形波発振器の出力するパルス信号を抵抗とコンデンサで平滑した電圧を基準電圧として出力し、方形波発信器のデューティを所定値に初期設定して所定の基準電圧を出力し、スイッチング動作停止検出信号が入力された場合に方形波発振器のデューティを変化させて基準電圧を上昇させるように構成される。
【0054】
(時間経過に応じた基準電圧の上昇)
基準電圧源は、スイッチング動作停止検出信号が入力された場合に、方形波発振器のデューティを時間の経過に応じて変化させることにより、基準電圧を時間の経過に応じて上昇させる。
【発明の効果】
【0055】
(基本的な効果)
本発明は、スイッチング素子と出力平滑回路を備え、スイッチング素子のオン、オフによって入力電圧を断続電圧に変換し、断続電圧を出力平滑回路で直流電圧に変換して出力電圧を生成し、出力電圧はスイッチング素子のオンデューティで制御される電力変換部と、誤差アンプと基準電圧源を備え、基準電圧源が出力する所定の基準電圧と出力電圧に比例した出力検出電圧を誤差アンプに入力して両者の誤差に応じて変化するフィードバック信号を出力するフィードバック制御回路と、PWMコンパレータと三角波発振器を備え、三角波発信器から出力される所定の周波数と振幅の三角波信号とフィードバック信号をPWMコンパレータに入力して比較した結果に基づいてスイッチング素子をオン、オフさせるスイッチング制御信号を出力するPWM制御回路とを備えたスイッチング電源装置に於いて、基準電圧源は所定の基準電圧を上昇させる機能を備えており、スイッチング素子の所定時間以上のオフを検出した場合に、スイッチング動作停止検出信号を基準電圧源に出力して所定の基準電圧を上昇させ、フィードバック信号の三角波信号からの乖離を抑制させるスイッチング動作モニタ回路が設けられたため、例えば複数のスイッチング電源装置の出力を負荷に並列に接続して使用する並列運転時に、無負荷状態でスイッチング電源装置自身の出力電圧設定値よりも高い外部電圧が他のスイッチング電源装置から印加されてスイッチング素子の動作が停止したことを検出すると、スイッチング動作モニタ回路がスイッチング素子の停止を検出して基準電圧値を上昇させ、基準電圧が上昇されるとフィードバック電圧が上昇し、スイッチング素子が動作して基準電圧の上昇が解除され、この動作の繰り返しにより、スイッチング電源装置のフィードバック電圧は三角波信号と大きく剥離しない状態を作ることが可能となり、スイッチング電源装置から急峻に電流を出力させようとした場合の電流出力の応答遅れを無くすことができる。
【0056】
(スイッチング動作モニタ回路による効果)
また、スイッチング動作モニタ回路は、ダイオード、コンデンサ、抵抗及びしきい値電圧検出回路を備え、スイッチング制御信号をオン期間にダイオードを介してコンデンサに電荷を蓄え、スイッチング制御信号のオフ期間にコンデンサの電荷を抵抗を介して放電し、コンデンサの電圧をしきい値電圧検出回路に入力して所定のしきい値電圧以下となった場合にスイッチング動作停止検出信号を出力させるように構成されたため、並列運転中の無負荷状態でスイッチング電源装置自身の出力電圧設定値よりも高い外部電圧が印加されてスイッチング素子の動作が停止したことを確実に検出して、基準電圧を上昇させることができる。
【0057】
(基準電圧を上昇させる機能をもった基準電圧源による効果)
また、基準電圧源は、パルス信号のデューティを変化させる機能をもった方形波発振器、抵抗及びコンデンサを備え、方形波発振器の出力するパルス信号を抵抗とコンデンサで平滑した電圧を基準電圧として出力し、方形波発信器のデューティを所定値に初期設定して所定の基準電圧を出力し、スイッチング動作停止検出信号が入力された場合に方形波発振器のデューティを変化させて所定の基準電圧を上昇させるように構成されたため、方形波発振器のデューティを変化させることで、簡単な構成により基準電圧を変化させることができる。
【0058】
(時間経過に応じた基準電圧の上昇による効果)
また、基準電圧源は、スイッチング動作停止検出信号が入力された場合に、方形波発振器のデューティを時間の経過に応じて変化させることにより、基準電圧を時間の経過に応じて上昇させるようにしたため、スイッチング電源装置から急峻に電流を出力させようとした場合に基準電圧を徐々に上昇させることで、基準電圧をステップ的に上昇させた場合に比べフィードバック制御回路を安定に動作させることができる。
【0059】
また、誤差アンプに入力している出力検出電圧を超えて基準電圧を上昇させることで、上昇後の基準電圧の出力検出電圧に対する電圧差を大きくすることが可能となるため、フィードバック信号の上昇速度が大きくなり、スイッチング素子が動作するまでの遅れ時間を更に短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】本発明によるスイッチング電源装置の第1実施形態を示した回路ブロック図
図2】複数台のスイッチング電源装置の出力を負荷に並列接続して並列運転するスイッチング電源システムを示したブロック図
図3】無負荷の並列運転中に出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置の動作波形を示したタイムチャート
図4】無負荷の並列運転中に出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置の動作波形を示したタイムチャート
図5】スイッチング電源装置の第2実施形態において、スイッチング素子の停止を検出した場合の基準電圧を時間経過に応じて上昇させる場合の動作波形を示したタイムチャート
図6】従来のスイッチング電源装置の実施形態を示した回路ブロック図
図7】無負荷の並列運転中に出力電圧設定値が高い側の従来のスイッチング電源装置の動作波形を示したタイムチャート
図8】無負荷の並列運転中に出力電圧設定値が低い側の従来のスイッチング電源装置の動作波形を示したタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0061】
[スイッチング電源装置の回路構成]
図1は本発明によるスイッチング電源装置の第1実施形態を示した回路ブロック図である。
【0062】
図1に示すように、本実施形態のスイッチング電源装置10は、電力変換部12と出力電圧制御回路22で構成される。出力電圧制御回路22には、電圧上昇機能を備えた基準電圧源28、フィードバック制御回路26、PWM制御回路30、及びスイッチング動作モニタ回路32が設けられる。電力変換部12の出力側には出力電圧検出回路24が設けられるが、これは出力電圧制御回路22に含まれる。
【0063】
(電力変換部)
電力変換部12は、非絶縁型の降圧チョッパーとしており、プラス側の入力端子11aにMOS−FETを用いたスイッチング素子14のドレインが接続され、スイッチング素子14のソースに整流用のダイオード18のアノードとインダクタ16の一端が接続され、インダクタ16の他端にコンデンサ20の一端が接続され、コンデンサ20の他端とダイオード18のカソードがマイナス側の入力端子11bに接続されている。
【0064】
電力変換部12は、入力端子11a,11bからの入力電圧Vinを、スイッチング素子14のオン、オフ動作によって断続電圧に変換し、断続電圧をダイオード18により整流してインダクタ16とコンデンサ20で構成される平滑回路で平滑することで直流電圧に変換し、出力電圧Voを生成して出力端子21a,21bから負荷に供給している。
【0065】
電力変換部12の出力電圧Voは、スイッチング素子14のオンデューティが制御されることで所定の電圧が出力される。
【0066】
なお、本実施形態では、電力変換部12として非絶縁型の降圧チョッパーを用いているが、スイッチング素子のオン、オフで電力変換できる回路であれば良く、例えば、絶縁型のフォワードコンバータやフライバックコンバータを用いても良い。
【0067】
(基準電圧源)
基準電圧源28は、通常は所定の基準電圧Vrefを出力する電圧発生回路であり、また、スイッチング動作モニタ回路32が出力するスイッチング動作停止検出信号Vstopが入力されることによって基準電圧Vrefを上昇させる機能を備えている。
【0068】
電圧上昇機能を備えた基準電圧源28の一例として、本実施形態にあっては、方形波発振器40、抵抗42、コンデンサ44で構成され、方形波発振器40から出力されるパルス信号を抵抗42とコンデンサ44で平滑した電圧を基準電圧Vrefとして出力する。
【0069】
基準電圧源28は、スイッチング動作停止検出信号Vstopが入力されることによって、方形波発振器40から出力されるパルス信号のHレベルのデューティを広げる制御を行うことで、基準電圧Vrefを上昇させる。
【0070】
方形波発振器40は、例えば、Hレベルとして5ボルト、Lレベルとして0ボルトのパルス信号を出力する。このとき、方形波発振器40のデューティを50%に設定すれば、抵抗42とコンデンサ44により平滑されて基準電圧Vref=2.5ボルトが得られ、デューティを55%に設定すればVref=2.75.ボルトが得られる。
【0071】
(フィードバック制御回路)
フィードバック制御回路26は、誤差アンプ38で構成される。誤差アンプ38には、基準電圧Vrefと出力電圧検出回路24の抵抗34,36で分圧された出力電圧Voに比例した電圧である出力検出電圧Vsensが入力される。誤差アンプ38は基準電圧Vrefと出力検出電圧Vsensとの誤差に応じて変化するフィードバック信号VFBをPWM制御回路30に出力する。
【0072】
即ち、フィードバック制御回路26の誤差アンプ38は、Vsens>Vrefのときフィードバック信号VFBが低下するように制御を行い、Vsens<Vrefのときフィードバック信号VFBが上昇するように制御を行う。
【0073】
(PWM制御回路)
PWM制御回路30は、PWMコンパレータ46と三角波発振器48から構成される。三角波発振器48は所定の周波数と振幅の三角波信号Vtriを出力する。PWMコンパレータ46には三角波信号Vtriとフィードバック信号VFBが入力され、三角波信号Vtriとフィードバック信号VFBを比較した結果に基づいてスイッチング素子14をオン、オフさせるスイッチング制御信号VGSを出力する。
【0074】
即ち、PWM制御回路30は、VFB>Vtriのときスイッチング制御信号VGSがHレベルになるように制御を行い、VFB<Vtriのときスイッチング制御信号VGSがLレベルになるように制御を行う。
【0075】
これにより、スイッチング電源装置10のスイッチング周波数は、三角波発振器48の周波数で決定される。また、スイッチング素子14のオンデューティは、フィードバック信号VFBの電圧レベルで制御され、フィードバック信号VFBが上昇するとスイッチング素子14のオンデューティが大きくなり、フィードバック信号VFBが低下するとスイッチング素子14のオンデューティが小さくなる。
【0076】
(スイッチング動作モニタ回路)
スイッチング動作モニタ回路32は、スイッチング素子14のオン、オフ動作をモニタする回路であり、一定時間以上、スイッチング素子14のオン、オフ動作が行われなかった場合にスイッチング動作停止検出信号Vstopを基準電圧源28に出力して基準電圧Vrefを上昇させる。
【0077】
本実施形態では、スイッチング動作モニタ回路32は、一例として、ダイオード50、抵抗52、コンデンサ54、しきい値電圧検出回路56で構成される。スイッチング動作モニタ回路32にはスイッチング制御信号VGSが入力され、スイッチング制御信号VGSがHレベルのときに、ダイオード50を介してコンデンサ54が充電される。また、スイッチング制御信号VGSがLレベルのとき、コンデンサ54に蓄えられた電荷が抵抗52を介して放電されることでコンデンサ54の電圧が低下する。
【0078】
スイッチング制御信号VGSによりスイッチング素子14のオン、オフ動作が行われているときは、コンデンサ54の電圧が一定の値以上に保たれるが、スイッチング素子14のオン、オフ動作が停止してオフ状態が続くと、コンデンサ54の電圧が所定のしきい値電圧Vth以下になる。コンデンサ54には、しきい値電圧検出回路56が接続されており、コンデンサ54の電圧が所定のしきい値電圧Vth以下になるとスイッチング動作停止信号Vstopが基準電圧源28に出力され、基準電圧Vrefを上昇させる。
【0079】
[並列運転を行うスイッチング電源システムの概要]
図2は複数台のスイッチング電源装置の出力を負荷に並列接続して並列運転するスイッチング電源システムを示したブロック図である。
【0080】
図2に示すように、本実施形態のスイッチング電源システムは、図1の第1実施形態のスイッチング電源装置10と同じ構成をもつ複数台のスイッチング電源装置10−1〜10−nを備え、スイッチング電源装置10−1〜10−nの入力端子に入力電源11が並列に接続され、また、スイッチング電源装置10−1〜10−nの出力端子が負荷21に並列に接続され、スイッチング電源装置10−1〜10−nの並列運転により負荷21に電源を供給している。
【0081】
ここで、スイッチング電源装置10−1はマスター電源装置として機能し、残りのスイッチング電源装置10−2〜10−nはスレーブ電源装置として機能する。
【0082】
スイッチング電源装置10−1〜10−nで並列運転を行う場合、バランス制御によりマスターに設定されたスイッチチング電源装置10−1及びスレーブに設定されたスイッチング電源装置10−2〜10−nの各出力電圧Voは同じとなり、各出力電流Ioは、負荷21に流す定格電流Iratedを電源装置の台数nで割った(Irated/n)となる。
【0083】
スイッチング電源装置10−1〜10−nで並列運転を行う場合のバランス制御は、例えば、汎用のUARTモジュールを用いたシリアル通信で実現する。UARTモジュールは、汎用非同期受信・送信機(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)モジュールの略称である。
【0084】
スイッチング電源装置10−1〜10−nからは、UARTモジュールの通信端子がINF端子として外部に取り出され、伝送線60により相互に接続されている。
【0085】
マスターに設定されたスイッチング電源装置10−1は、自身の出力電圧目標値からその設定情報を生成し、また、出力電流検出値から出力電流目標値の設定情報を生成し、シリアル通信データ信号に含めてUARTモジュールのINF端子から伝送線60を介してスレーブに設定されたスイッチング電源装置10−2〜10−nに送信される。
【0086】
スレーブに設定されたスイッチング電源装置10−2〜10−nは、シリアル通信データ信号を、INF端子を介してUARTモジュールで受信することにより、マスターに設定されたスイッチング電源装置10−1が送信した出力電圧目標値の設定値情報および出力電流目標値の設定情報を受信し、マスターの出力電圧及び出力電流と自身の出力電圧及び出力電流との差分が一定値以下になるように自身の出力電圧目標値及び出力電流目標値を設定する。
【0087】
この動作により、スレーブに設定されたスイッチング電源装置10−2〜10−nは、自身の出力電圧および出力電流がマスターに設定されたスイッチング電源装置10−1と同一になるように制御され、負荷21に対し並列接続されたスイッチング電源装置10−1〜10−nの出力電圧および出力電流がバランスする。
【0088】
並列運転で出力電圧および出力電流をバランスさせる制御は、例えば、図1の基準電圧源28に設けた方形波発振器40のデューティを、マスターに設定されたスイッチング電源装置10−1から受信した出力電圧目標値および出力電流目標値に対応した基準電圧Vrefとなるように設定する制御を行う。
【0089】
このようにスイッチング電源装置10−1〜10−nで並列運転を行う場合のバランス制御は、各スイッチング電源装置の出力電圧と出力電流の差分が一定値以下になるように制御が行われる機能であるため、負荷21に一定値以上の電流を供給している場合に有効に機能しているが、負荷21の動作が停止している無負荷状態では、スイッチング電源装置10−1〜10−nは出力電流がほぼゼロ又は完全にゼロであり、出力電流としては、全てスイッチング電源装置10−1〜10−nがほとんど同じ値となるので、バランス制御は機能しないことになる。
【0090】
[並列運転時における出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置の動作]
図3は出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置の動作波形を示したタイムチャートであり、図3(A)は誤差アンプ38の入力を示し、図3(B)はPWMコンパレータ46の入力を示し、図3(C)はスイッチング動作停止検出信号Vstopを示し、図3(D)はコンデンサ54の電圧であるしきい値電圧検出回路56の入力を示し、図3(E)はスイッチング制御信号VGSを示す。
【0091】
ここで、スイッチング電源システムのバランス制御は、複数台のスイッチング電源装置10の並列運転により負荷電流に一定値以上の差がある場合において機能するため、スイッチング電源システムが無負荷で運転されている場合には、負荷電流にほとんど差が無いため、スイッチング電源システムのバランス制御が機能しない。
【0092】
また、スイッチング電源システムが無負荷で動作する場合には、システムを構成する複数台のスイッチング電源装置の中で、出力電圧設定値のばらつきにより、出力電圧設定値が一番高い値となっているスイッチング電源装置だけが積極的にスイッチング動作を行うことでスイッチング電源システムに電流を供給することになる。
【0093】
図3を参照して並列運転時における出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置10の動作について説明すると次にようになる。
【0094】
出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置10は、スイッチング電源システムとしての出力電圧が自身の出力電圧設定値になるように制御を行う。このとき、出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置10は、スイッチング電源システムを構成しているスイッチング電源装置10の出力側の消費電力の全てを供給する。従って、並列運転時における出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置10は単体で動作するスイッチング電源装置10と同じ動作となる。
【0095】
出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置10は、図3(A)に示すように、フィードバック制御回路26により出力検出電圧Vsensが基準電圧Vrefと等しくなるようにフィードバック信号VFBが制御される。
【0096】
スイッチング電源システムが無負荷の状態においては、出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置10は、ほとんど電力を出力しなくても良い状態であるため、図3(B)に示すように、フィードバック信号VFBは三角波信号Vtriの下限ぎりぎりに位置した状態で動作することになり、図3(E)に示すように、スイッチング制御信号VGSのHレベル期間は短くなり、スイッチング素子14のオンデューティが小さな状態で動作する。
【0097】
スイッチング動作モニタ回路32のコンデンサ54は、図3(D)に示すように、スイッチング制御信号VGSのHレベルにより定期的に充電されることになり、コンデンサ54の電圧VCはしきい値電圧検出回路56のしきい値電圧Vth以下になることがない。従って、スイッチング動作モニタ回路32からは、図3(C)に示すように、スイッチング動作停止検出信号Vstopが出力されずにLレベルにあり、基準電圧源28で基準電圧Vrefが上昇する制御が行われることがなく、所定の基準電圧Vrefに保たれている。
【0098】
このような並列運転時における出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置10の動作は、スイッチング電源装置10が単体で動作している場合も同じ動作となる。ダイオード整流のスイッチング電源装置10を無負荷で動作させる場合は、スイッチング素子のオンデューティを限りなくゼロに近い状態で動作させることになるが、スイッチング素子が動作していることでスイッチング動作モニタ回路32がスイッチング動作停止検出信号Vstopを出力することが無いため、電圧上昇機能を備えた基準電圧源28は、スイッチング素子の制御に影響を及ぼすことがなく、図1に示した本実施形態のスイッチング電源装置10は、図2に示した並列運転を行うスイッチング電源システムでの使用を例に示したが、単体のスイッチング電源装置10としても使用できる。
【0099】
[並列運転時における出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置の動作]
図4は出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置の動作波形を示したタイムチャートであり、図4(A)は誤差アンプ38の入力を示し、図4(B)はPWMコンパレータ46の入力を示し、図4(C)はスイッチング動作停止検出信号Vstopを示し、図4(D)はコンデンサ54の電圧であるしきい値電圧検出回路56の入力を示し、図4(E)はスイッチング制御信号VGSを示す。
【0100】
図4を参照して並列運転時における出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置10の動作を説明すると次のようになる。
【0101】
スイッチング電源システムが無負荷で動作している場合は、自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が外部から印可された状態となるため、自身の出力側回路の消費電力は、外部から供給された状態となる。
【0102】
出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置10は、図4(A)のスイッチング動作停止未検出期間T1に示すように、自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が外部から印可されているため、Vsens>Vrefの状態となる。この状態では、フィードバック制御回路26が出力電圧を低下させるように制御を行うことになるため、図3(B)に示すように、フィードバック信号VFBを低下させる制御が行われ、フィードバック信号VFBが徐々に低下していって三角波信号Vtri以下となり、三角波信号Vtriの周波数によるスイッチング素子14のスイッチング動作が停止する。このときのフィードバック信号VFBの低下速度はフィードバック制御回路26の応答速度で決定される。
【0103】
スイッチング素子14のスイッチング動作が停止すると、スイッチング制御信号VGSはLレベルとなり、図4(D)に示すように、スイッチング動作モニタ回路32のコンデンサ54が充電されなくなり、コンデンサ54の電圧VCが低下する。コンデンサ54の電圧VCがスイッチング動作モニタ回路32のしきい値電圧検出回路56に設定されたしきい値電圧Vthを時刻t1で下回ると、図4(C)に示すように、Hレベルとなるスイッチング動作停止検出信号Vstopが出力される。
【0104】
基準電圧源28は、Hレベルとなるスイッチング動作停止検出信号Vstopが入力されると、図4(A)に示すように、出力検出電圧Vsensよりも高い状態になるように基準電圧Vrefを上昇させる。スイッチング動作停止検出期間T2に示すように、Vsens<Vrefの状態では、図4(B)に示すように、フィードバック制御回路26がフィードバック信号VFBを上昇させる制御が行われる。このときのフィードバック信号VFBの上昇速度はフィードバック制御回路26の応答速度で決定される。
【0105】
図4(B)に示すように、フィードバック信号VFBが上昇して時刻t2でVFB>Vtriの状態となると、図4(E)に示すように、Hレベルとなるスイッチング制御信号VGSが出力され、スイッチング素子14がオンする。また、Hレベルとなるスイッチング制御信号VGSが出力されると、スイッチング動作モニタ回路32のコンデンサ54が充電されてコンデンサ電圧VCが上昇し、しきい値電圧検出回路56のしきい値電圧Vthを超え、Lレベルとなるスイッチング動作停止検出信号Vstopが出力される。
【0106】
Lレベルとなるスイッチング動作停止検出信号Vstopが入力されると、基準電圧源28による基準電圧Vrefの上昇動作が解除されて通常の電圧に戻るように制御され、以下、同様な動作が繰り返される。
【0107】
このため並列運転に伴い自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が外部から印可されている側のスイッチング電源装置10において、フィードバック信号VFBは三角波信号Vtriから剥離することがなくなり、三角波信号Vtri下限付近で動作を続けることになる。
【0108】
(第1実施形態のメリット)
第1実施形態のスイッチング電源装置を並列運転するスイッチング電源システムに用いることで、無負荷状態のスイッチング電源システムから、システムを構成する1台のスイッチング電源装置が出力可能な電流値以上の電流をスイッチング電源システムから急峻に出力させようとした場合、出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置においても、電流出力の応答遅れが発生することをなくすことができ、スイッチング電源装置の出力側のコンデンサを大型化する必要がなく、小型、低コストのスイッチング電源装置を作ることができる。
【0109】
また、本実施形態のスイッチング電源装置を単体で使用した場合にも、無負荷時の動作に悪影響を及ぼすこともない。
【0110】
[スイッチング電源装置の第2実施形態]
図5はスイッチング電源装置の第2実施形態において、出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置の動作波形を示したタイムチャートであり、図5(A)は誤差アンプ38の入力を示し、図5(B)はPWMコンパレータ46の入力を示し、図5(C)はスイッチング動作停止検出信号Vstopを示し、図5(D)はしきい値電圧検出回路56の入力を示し、図5(E)はスイッチング制御信号VGSを示す。
【0111】
(第2実施形態の構成)
本実施形態のスイッチング電源装置は、図1に示した第1実施形態のスイッチング電源装置10と同じ構成となるが、Hレベルとなるスイッチング動作停止検出信号Vstopを入力した場合の基準電圧源28による基準電圧Vrefの上昇のさせ方が相違する。
【0112】
本発明の基準電圧源28は、Hレベルとなるスイッチング動作停止検出信号Vstopを入力した場合に、出力検出電圧Vsensよりも大きくなるように基準電圧Vrefを上昇させる制御を行うことが必要である。
【0113】
図1の第1実施形態では、基準電圧Vrefを通常動作時の電圧とHレベルとなるスイッチング動作停止検出信号Vstopが入力されることで上昇した後の電圧の2段階でステップ的に制御を行っているため、並列運転されるスイッチング電源装置10の出力電圧設定値のばらつきを見込んで上昇後の基準電圧Vrefを設定する必要があるが、並列運転されるスイッチング電源装置10の出力電圧設定値のばらつきが大きい場合は、上昇後の基準電圧Vrefの設定値を大きく設定しておく必要がある。しかし、基準電圧Vrefを上昇させる前後の電圧差が大きいと、基準電圧Vrefのステップ的な変化によりフィードバック制御回路26の動作が不安定になってしまう場合がある。
【0114】
本実施形態では、スイッチング動作停止検出期間の基準電圧Vrefの上昇を、図5(A)のスイッチング動作停止検出期間T2に示すように、傾きを持たせて上昇させる動作とすることで、基準電圧Vrefを大きく上昇させる場合でもフィードバック制御回路26を安定に動作させることができる。
【0115】
本実施形態のスイッチング電源装置は、図1に示した第1実施形態のスイッチング電源装置10と同じ回路で構成されており、電圧上昇機能を備えた基準電圧源28の制御を次のように行う。
【0116】
基準電圧源28は、図5(A)に示すように、時刻t1でスイッチング動作停止検出信号Vstopが入力されると、方形波発振器40のデューティを時間とともに広げる制御を行う。この制御により基準電圧Vrefが時間の経過に伴い徐々に上昇する。基準電圧Vrefが上昇して時刻t2でVsens<Vrefの状態になると、図5(B)に示すように、フィードバック制御回路26がフィードバック信号VFBを上昇させる制御となる。
【0117】
時刻t2でVsens<Vrefとなっても基準電圧Vrefが上昇を続ける。出力検出電圧Vsensと基準電圧Vrefの差が大きいほどフィードバック信号VFBの上昇速度が大きくなるので、フィードバック信号VFBを速く三角波信号Vtriの下限に到達させることができる。
【0118】
時刻t3でフィードバック信号VFBが三角波信号Vtriの下限に到達すると、Hレベルとなるスイッチング素子制御信号VGSが出力されることで、Lレベルとなるスイッチング動作停止検出信号Vstopが出力される。Lレベルとなるスイッチング動作停止検出信号Vstopが入力されると、基準電圧源28の方形波発振器40のデューティは通常の状態に戻され、基準電圧Vrefは通常時の電圧に戻る。以下、同様な動作が繰り返される。
【0119】
(第2実施形態のメリット)
第1実施形態では、基準電圧Vrefを通常動作時の電圧と上昇後の電圧の2段階でステップ的に制御を行っていたため、基準電圧Vrefを上昇させる前後の電圧差が大きいと、基準電圧Vrefのステップ的な変化によりフィードバック制御回路26の動作が不安定になってしまう場合があったが、第2実施形態では、基準電圧Vrefを時間の経過に伴い徐々に上昇させるように制御を行うため、フィードバック制御回路26を安定に動作させることができる。
【0120】
また、第1実施形態では、基準電圧Vrefを上昇させる前後の電圧差を大きくすることが難しかったため、上昇後の基準電圧Vrefと出力検出電圧Vsensの電圧差を大きくすることが難しかったが、第2実施形態では、上昇後の基準電圧Vrefと出力検出電圧Vsensの電圧差を大きくすることが可能となるため、フィードバック信号VFBの上昇速度が大きくなり、無負荷状態のスイッチング電源システムから、システムを構成する1台のスイッチング電源装置が出力可能な電流値以上の電流をスイッチング電源システムから急峻に出力させようとした場合、スイッチング素子が動作するまでの遅れ時間を短くすることができる。
【0121】
[本発明の変形例]
上記の実施形態は、複数のスイッチング電源装置の並列運転を行うスイッチング電源システムの無負荷状態で、電力変換部の出力に出力電圧より高い外部電圧が他のスイッチング電源装置から印加された場合を例に示しているが、単体で動作しているスイッチング電源装置が無負荷状態で、電力変換部の出力に出力電圧より高い外部電圧が印加された場合であっても、同様に、基準電圧を上昇させることにより、フィードバック信号の三角波信号からの乖離を抑制させ、スイッチング電源装置から急峻に電流を出力させようとした場合の電流出力の応答遅れを無くすことができる。
【0122】
また、本発明は、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0123】
10:スイッチング電源装置
11:入力電源
12:電力変換部
14:スイッチング素子
16:インダクタ
18,50:ダイオード
20,44,54:コンデンサ
21:負荷
22:出力電圧制御回路
24:出力電圧検出回路
26:フィードバック制御回路
28:基準電圧源
30:PWM制御回路
34,36,42,52:抵抗
32:スイッチング動作モニタ回路
38:誤差アンプ
40:方形波発振器
46:PWMコンパレータ
48:三角波発振器
56:しきい値電圧検出回路
60:伝送線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8