【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、これまで開示されている電流バランス技術は、スイッチング電源システムを構成するスイッチング電源装置から出力される電流の差分が一定値以上の場合において機能するため、スイッチング電源システムが無負荷で運転されている場合には、個々のスイッチング電源装置が出力する電流に差が無くなるため電流バランス技術が機能しない。
【0007】
そして、無負荷で動作しているスイッチング電源システムから、急峻に大きな出力電流を取り出した場合に、出力電流が増加するまでの応答時間の遅れが発生する。具体的には、無負荷状態のスイッチング電源システムから、システムを構成する1台のスイッチング電源装置が出力可能な電流値よりも大きな出力電流を取り出そうとした場合に電流出力の応答遅れが発生する。
【0008】
スイッチング電源装置の出力電流の応答特性が悪いことに対して、一般的には、スイッチング電源装置の出力側のコンデンサを大容量化することで対策を行う。これにより、スイッチング電源装置の制御回路が応答するまでの期間はスイッチング電源装置の出力側のコンデンサから電流を供給することができるようになり、スイッチング電源装置としての出力電流に対する応答特性を改善できる。しかし、この対策では、大型のコンデンサが必要になるためスイッチング電源装置の大型化、高コスト化を招いてしまう。
【0009】
(スイッチング電源システムの無負荷時の動作)
無負荷で運転されるスイッチング電源システムにおいて、システムを構成する個々のスイッチング電源装置の動作を説明する。
【0010】
スイッチング電源システムの無負荷時の動作を説明するに先立ち、まず、単体のスイッチング電源装置を無負荷で動作させた場合を説明する。無負荷で動作しているスイッチング電源装置においても、スイッチング素子を動作させることで入力側から出力側に電力を供給している。これは、スイッチング電源装置の出力電圧制御回路が若干の電力を消費しているためであり、この電力を供給する必要があるためである。
【0011】
次に、複数台のスイッチング電源装置を並列に接続してスイッチング電源システムを構成した場合において、システムが無負荷で動作している場合を説明する。
【0012】
スイッチング電源システムが無負荷で動作する場合には、システムを構成する複数台のスイッチング電源装置の中で、出力電圧設定値のばらつきにより、出力電圧設定値が一番高い値となっているスイッチング電源装置だけがスイッチング動作を行い、システム内の残りのスイッチング電源装置は、スイッチング動作を停止した状態となる。
【0013】
スイッチング電源システムの中で出力電圧設定値が一番高い値となっているスイッチング電源装置は、無負荷で動作している単体のスイッチング電源装置と同様に、スイッチング電源装置の出力電圧制御回路が消費する電力を供給するためにスイッチング動作が行われる。
【0014】
そして、スイッチング電源システムの中で出力電圧設定値が低い残りのスイッチング電源装置は、自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が出力側に印加された状態となっている。これは出力電圧設定値が一番高い値となっているスイッチング電源装置から、出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置に電圧が印加された状態である。
【0015】
ここで、自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が外部から印加されたスイッチング電源装置は、自身の出力電圧制御回路が消費する電力を外部から供給された状態となり、自身のスイッチング素子を動作させて電力を供給する必要が無くなる。また、外部から印加された電圧が自身の出力電圧制御回路の設定電圧よりも高いため、出力電圧制御回路は、自身の出力電圧が高くなっていると判断し、出力電圧を低下させるように自身のスイッチング素子の動作を制御する。この制御によってスイッチング素子の動作が完全に停止した状態となる。
【0016】
このとき、出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置は出力電流がほぼゼロ、出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置は出力電流が完全にゼロであり、出力電流としては、どちらのスイッチング電源装置もほとんど同じ値となるので、特許文献1の電流バランス技術は機能しないことになる。
【0017】
(スイッチング電源装置の構成)
図6はスイッチング電源システムを構成する従来のスイッチング電源装置の1台の回路の構成を示した回路ブロック図である。
【0018】
図6に示すように、スイッチング電源装置100は、電力変換部112と出力電圧制御回路122で構成される。出力電圧制御回路122には、フィードバック制御回路126、基準電圧源128、PWM制御回路130が設けられる。
【0019】
電力変換部112は、例えば降圧チョッパーであり、MOS−FETを用いたスイッチング素子114、整流用のダイオード118及び平滑用のインダクタ116とコンデンサ120で構成される。
【0020】
電力変換部112は、スイッチング素子114のオン、オフにより、入力端子110a,110bに対する入力電圧Vinを断続電圧に変換し、断続電圧をインダクタ116、ダイオード118及び出力コンデンサ120により整流平滑することで直流の出力電圧Voを生成し、出力端子121a,121bから負荷に供給する。
【0021】
スイッチング素子114は、PWM制御回路130からのスイッチング制御信号VGSがHレベルのときオンし、Lレベルのときオフするように動作する。出力電圧Voは、スイッチング素子114のオンデューティにより制御され、オンデューティが大きくなると出力電圧Voが上昇し、オンデューティが小さくなると出力電圧Voが低下する。
【0022】
なお、
図6では、電力変換部112として降圧チョッパーを用いているが、スイッチング素子のオン、オフで電力変換できる回路であれば同様の動作となり、例えば、絶縁型のフォワードコンバータやフライバックコンバータ等でも良い。
【0023】
基準電圧源128は、所定の基準電圧Vrefを出力する電圧発生回路であり、電力変換部112の出力電圧Voを所定の出力電圧設定値に制御するために用いる。
【0024】
フィードバック制御回路126は誤差アンプ138で構成される。誤差アンプ138は、出力電圧Voが基準電圧Vrefに比例した値になるように、フィードバック制御を行う。フィードバック制御回路126の誤差アンプ138には、基準電圧Vrefと出力電圧検出回路124の抵抗134,136で分圧された出力電圧Voに比例した電圧である出力検出電圧Vsensが入力される。
【0025】
フィードバック制御回路126の誤差アンプ138は基準電圧Vrefと出力検出電圧Vsensとの誤差に応じて変化するフィードバック信号VFBをPWM制御回路130に出力する。即ち、誤差アンプ138はVsens>Vrefのときフィードバック信号VFBが低下するように制御を行い、Vsens<Vrefのときフィードバック信号VFBが上昇するように制御を行う。
【0026】
PWM制御回路130はPWMコンパレータ146と三角波発振器148で構成される。PWMコンパレータ146には、三角波発振器148からの所定周波数と振幅の三角波信号Vtriとフィードバック制御回路126からのフィードバック信号VFBが入力され、PWMコンパレータ146の出力がスイッチング制御信号VGSとして電力変換部112に出力される。
【0027】
PWM制御回路130は、VFB>Vtriのときスイッチング制御信号VGSがHレベルになるように制御を行い、VFB<Vtriのときスイッチング制御信号VGSがLレベルになるように制御を行う。従って、スイッチング電源装置100のスイッチング周波数は、三角波発振器148の周波数で決定され、フィードバック信号VFBが上昇するとスイッチング素子114のオンデューティが大きくなり、フィードバック信号VFBが低下するとスイッチング素子114のオンデューティが小さくなる。
【0028】
これによりスイッチング電源装置100の出力電圧Voは、基準電圧Vrefで決定される所定の出力電圧設定値になるように制御される。
【0029】
(並列運転時における出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置の動作)
図7は出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置の動作波形を示したタイムチャートであり、
図7(A)は誤差アンプ138の入力を示し、
図7(B)はPWMコンパレータ146の入力を示し、
図7(C)はスイッチング制御信号VGSを示す。
【0030】
スイッチング電源システムが無負荷で動作している場合、出力電圧設定値が一番高いスイッチング電源装置だけがスイッチング動作を行い、他のスイッチング電源装置はスイッチング動作を停止した状態となる。スイッチング電源システムを構成するスイッチング電源装置の中でスイッチング動作が行われている側のスイッチング電源装置の動作を、
図7を基に説明を行う。
【0031】
スイッチング電源システムが無負荷で動作している場合でも、スイッチング動作が行われているスイッチング電源装置は、スイッチング電源システムとしての出力電圧が自身の出力電圧設定値になるように制御を行う。このとき、スイッチング動作が行われているスイッチング電源装置は、スイッチング電源システムを構成しているスイッチング電源装置の出力側の消費電力の全てを供給する。
【0032】
スイッチング動作が行われているスイッチング電源装置は、
図7(A)に示すように、出力電圧検出信号Vsensが基準電圧Vrefと等しくなるようにフィードバック信号VFBが制御される。
【0033】
また、スイッチング電源システムが無負荷の状態においては、スイッチング動作が行われているスイッチング電源装置は、ほとんど電力を出力しなくても良い状態であるため、
図7(B)(C)に示すように、電力変換部112は、スイッチング素子114のオンデューティが小さな状態で動作する。この状態では、フィードバック信号VFBは三角波信号Vtriの下限ぎりぎりに位置した状態で動作することになる。
【0034】
(並列運転時における出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置の動作)
図8は出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置の動作波形を示したタイムチャートであり、
図8(A)は誤差アンプ138の入力を示し、
図8(B)はPWMコンパレータ146の入力を示し、
図8(C)はスイッチング制御信号VGSを示す。
【0035】
スイッチング電源システムを構成するスイッチング電源装置の中で出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置の動作を、
図8を基に説明を行う。
【0036】
スイッチング電源システムが無負荷で動作している場合は、自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が外部から印可された状態となるため、自身の出力側回路の消費電力は、外部から供給された状態となる。
【0037】
出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置は、自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が外部から印可されているため、
図8(A)に示すように、Vsens>Vrefの状態となる。この状態では、フィードバック制御回路126が出力電圧を低下させるように制御を行うことになるため、フィードバック信号VFBを低下させる制御を行う。
【0038】
出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置は、フィードバック信号VFBを低下させても出力側に外部から印可された電圧が低下することがないため、フィードバック信号VFBを下限まで低下させることになり、
図8(B)に示すように、フィードバック信号VFBは三角波信号Vtriの下限から剥離した状態になるように制御され、スイッチング動作が停止した状態が維持されることになる。
【0039】
(スイッチング電源システムの電流応答悪化の原理)
無負荷で運転されるスイッチング電源システムにおいて、出力電流が増加するまでの応答時間の遅れが発生する原理を以下に説明する。
【0040】
スイッチング電源システムから、急峻に大きな出力電流を取り出そうとした場合に、システムを構成するスイッチング電源装置の出力電圧が低下する。出力電圧の低下に対して、スイッチング電源装置は、スイッチング素子のオンデューティを大きくすることで出力電圧を上昇させるような制御が行われる。
【0041】
具体的には、システムを構成するスイッチング電源装置の全てがVsens<Vrefの状態となるので、フィードバック制御回路126がフィードバック信号VFBを上昇させる動作を行う。
【0042】
このとき、
図7で示されている出力電圧設定値が高い側のスイッチング電源装置は、フィードバック信号VFBが三角波信号Vtriの下限ぎりぎりの位置で動作しているため、フィードバック信号VFBが上昇すると、即座にスイッチング素子114のオンデューティが大きくなり、出力電流の増加に対して素早く応答することができる。
【0043】
一方、
図8で示される出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置は、三角波信号Vtriが振幅している位置に対してフィードバック信号VFBが剥離した位置にあるため、フィードバック信号VFBが上昇しても、三角波信号Vtriの振幅位置に達するまでスイッチング素子114が動作することができず、出力電流の増加に対して素早く応答することができない。
【0044】
このため、無負荷状態のスイッチング電源システムから、システムを構成する1台のスイッチング電源装置が出力可能な電流値以下の電流に対しては素早く応答することができるが、これ以上の電流をスイッチング電源システムから急峻に出力させようとした場合、電流出力の応答遅れが発生することになる。
【0045】
(同期整流とダイオード整流の比較)
出力電圧設定値が低い側のスイッチング電源装置における電流応答の問題は、電力変換部112にダイオード整流を用いたスイッチング電源装置を並列運転する際に顕著になる。
【0046】
これに対し電力変換部に同期整流を用いたスイッチング電源装置では、出力側から入力側に向けて逆流電流が流れる現象が発生するため、同期整流のスイッチング電源装置を並列運転する際には、例えば、特許文献2で開示されているような逆流電流を防ぐ対策を行うことで、電流応答の問題も同時に解消される。
【0047】
特許文献2のスイッチング電源装置では、スイッチング電源装置の出力側から自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が印可された場合でも、フィードバック信号が三角波信号の下限よりも低下しないような構成になっている。この状態は、フィードバック信号が三角波信号の振幅内に位置することになるため、即座に出力電流を増加させることができる。
【0048】
ところで、このような特許文献2による電流応答の遅れを無くす対策は、電力変換部に同期整流を用いることで、無負荷でも全負荷でもスイッチング素子を同じオンデューティで動作させることが可能である特徴を利用したもので、ダイオード整流のスイッチング電源装置には適用できない。
【0049】
これは、ダイオード整流のスイッチング電源装置を無負荷で用いる場合には、オンデューティを限りなくゼロに近い状態で動作させなければならないため、特許文献2による電流応答の遅れを無くす対策を用いようとすると、三角波信号やフィードバック信号のばらつきや変動を極限まで小さくする必要があり、実用的な回路とすることができないことが理由である。
【0050】
本発明は、並列運転による無負荷状態で自身の出力電圧設定値よりも高い電圧が外部から印可されている状態から急峻に電流出力させるときの電流応答性を改善させるスイッチング電源装置を提供することを目的とする。