(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、コンベヤベルトの搬送面上で、金属部品等の被加工物を回転攪拌しながら研磨材(投射材)を投射して被加工物の表面処理を行なうショットブラスト装置が提供されている(特許文献1参照)。
ショットブラスト装置で用いられるコンベヤベルトは、補強層と、補強層の上に設けられ搬送面を構成するカバーゴム層とを備え、コンベヤベルトには研磨材を回収するための多数の貫通穴が形成されている。
ショットブラスト装置は、コンパクト化のため、コンベヤベルトを張架するプーリの径が小さく、コンベヤベルトの搬送面を構成するカバーゴム層に引張方向の応力が繰り返し作用する。
このような応力は貫通穴の縁部に集中するため、コンベヤベルトの長手方向と直交する方向に沿って貫通穴の縁部からクラックが発生しやすく、耐屈曲性を確保する上で不利となる。
そこで、カバーゴム層を硬度の低い材料で構成することで耐屈曲性の向上を図ることが考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。
実施の形態のショットブラスト装置用コンベヤベルト(以下単にコンベヤベルトという)は、ショットブラスト装置に装着されて使用される。
図1に示すように、ショットブラスト装置10は、駆動プーリ12と、第1〜4の従動プーリ14A〜14Dと、一対の回転板16と、投射装置18とを含んで構成され、複数のプーリ12、14A〜14Dにコンベヤベルト20が掛装されている。
一対の回転板16は、第1のプーリ14Aと第2のプーリ14Bとの間のコンベヤベルト20の搬送面21上にコンベヤベルト20の幅方向に対向して設けられている。
この回転板16とコンベヤベルト20の搬送面21とにより囲まれて形成される空間が、被加工物2の収容部19となる。
投射装置18は、収容部19の上方に配置され、研磨材4を投射する投射装置18が配置されている。
【0009】
図2に示すように、コンベヤベルト20は、補強層22と、補強層22の厚さ方向の一方に設けられた上部カバーゴム層24と、補強層22の厚さ方向の他方に設けられた下部カバーゴム層26と、多数の貫通穴28とを備えている。
補強層22は、コンベヤベルト20の張力を保持するためのものであり、複数のスチールコードあるいは有機繊維と、それらを覆うクッションゴムとで構成されている。
スチールコード、有機繊維、クッションゴムには、従来公知の様々な材料が使用可能である。
【0010】
上部カバーゴム層24は、補強層22の上に設けられ搬送面21を構成するものである。
上部カバーゴム層24は、被加工物12および研磨材4との摩擦によって摩耗しやすいため、5mm〜14mm程度の厚さで構成されている。
下部カバーゴム層26は、上部カバーゴム層24と異なり摩耗しにくいため、単一のゴム層で構成され、上部カバーゴム層24よりも薄く、2mm〜3mm程度の厚さで構成されている。
【0011】
多数の貫通穴28は、ボール盤などを用いて上部カバーゴム層24、補強層22、下部カバーゴム層26の厚さ方向に貫通形成されている。
各貫通穴28は、収容部19に投射された研磨材4をコンベヤベルト20を挿通して回収するために設けられている。
【0012】
被加工物12の表面処理をするには、駆動プーリ12を回転駆動させてコンベヤベルト20を稼動し、これと共に回転板16も回転させる。このようにして、収容されている被加工物12を回転攪拌させ、同時に投射装置18から研磨材4を投射して所定時間この加工操作を続けることにより、被加工物12の表面がむら無く研磨される。
【0013】
この加工操作中にコンベヤベルト20は、それぞれのプーリ12,14A〜14Dのまわりを通過し、その度に繰り返し屈曲される。
図3に示すように、プーリ12,14A〜14Dのまわりを回転移動するコンベヤベルト20には、二点鎖線で示す中立面Nを境にして中立面Nの外周側には引張応力が発生し、内周側には圧縮応力が発生する。
【0014】
図1に示すように、本実施の形態では、駆動プーリ12、第1、第2、第4の従動プーリ14A、14B、14Dの箇所においてコンベヤベルト20の搬送面21を構成する上部カバーゴム層24に引張応力が発生する。
したがって、ショットブラスト装置10の稼働中、上部カバーゴム層24には上記4つのプーリ12、14A、14B、14Dの箇所において繰り返して引張応力が作用し続けることになる。
このため、
図4に示すように、上部カバーゴム層24側に位置する貫通穴28の部分のうち、コンベヤベルト20の幅方向の両側の縁部には、引張応力が集中し、やがて、それら縁部からコンベヤベルト20の幅方向に沿ってクラックが発生しやすくなる。
なお、下部カバーゴム層26も、第3の従動プーリ14Cの箇所において引張応力が発生する。しかしながら、下部カバーゴム層26はその厚さが2mm〜3mmと薄いため、発生する引張応力は小さく、下部カバーゴム層26側に位置する貫通穴28の部分の縁部からクラックが発生することはほとんどない。
【0015】
上部カバーゴム層24の耐屈曲性の向上を図るためには、上部カバーゴム層24を硬度の低い材料で形成すればよい。しかしながら、硬度の低い材料の場合、貫通穴28を加工した際に、均一な穴径の貫通穴28を形成することが難しく、貫通穴28の軸方向の中間部で穴径が小さくなる変形を生じ、研磨材4が貫通穴28に詰まりやすくなる不利があり、貫通孔28の加工性が低下する。
一方、上部カバーゴム層24の貫通穴28の加工性の向上を図るためには、上部カバーゴム層24を硬度の高い材料で形成すればよい。しかしながら、硬度の高い材料の場合、上部カバーゴム層24の耐屈曲性の向上を図る上で不利がある。
【0016】
そこで、本実施の形態では、上部カバーゴム層24を、補強層22側に位置する下層24Bと、補強層22と反対側の下層24Bの面に設けられ搬送面21を構成する上層24Aとで構成し、上層24Aは下層24Bよりも硬度の低い材料で形成した。
このようにすることで、上部カバーゴム層24の耐屈曲性を向上すると共に、貫通穴28の加工性を向上する上で有利となる。
また、上層24Aは耐久性に優れる材料で形成され、下層24Bは加工性に優れる材料で形成した。
このようにすることで、上部カバーゴム層24の耐屈曲性を向上すると共に、貫通穴28の加工性を向上する上でより有利となる。
また、カバーゴム層の厚さに対して上層24Aの厚さは30%以上70%以下の割合で形成した。
このように上層24Aの厚さと下層24Bの厚さを規定することにより、上部カバーゴム層24の耐屈曲性を向上すると共に、貫通穴28の加工性を向上する上でより一層有利となる。
【0017】
次に、コンベヤベルト20の実施例について詳細に説明する。
まず、
図5を参照して、上部カバーゴム層24を構成する上層24A、下層24Bを構成するコンパウンドの配合と、実際に作製した上層24Aおよび下層24Bの物理性能とについて説明する。
図5において、コンパウンドAは上層24Aを構成するものであり、コンパウンドBは下層24Bを構成するものである。
配合剤の名称と配合の割合は
図5に示す通りである。
物理性能は以下の6つの特性について測定した。
1)M100(100%モジュラス(引張応力))
2)M300(300%モジュラス(引張応力))
3)TB(引張強度)
4)EB(引張伸度)
5)HS(硬度)
6)耐クラック成長
1)〜4)の各物理性能は、JIS K6251に規定されている加硫ゴムの引張試験に準じて行い、5)の硬度は、JIS K6253−3に規定されている加硫ゴムのタイプAデュロメータ硬さ試験に準じて行った。
なお、6)耐クラック成長は、JIS K6260に規定されている加硫ゴム屈曲試験に準じて行った。この試験では、
図6に示すように、矩形板状を呈し長手方向の中央に幅方向に延在する溝6Aが形成された試験片6を作製し、その試験片6を用いて40万回の屈曲試験を行い、発生したクラックの長さを測定した。
【0018】
図5の物理性能から明らかなように、上層24A(コンパウンドA)と下層24B(コンパウンドB)とを比較すると以下のようになる。
1)上層24A(コンパウンドA)は下層24B(コンパウンドB)よりも引張応力が小さい。
2)上層24A(コンパウンドA)は下層24B(コンパウンドB)よりも引張強度が大きい。
3)上層24A(コンパウンドA)は下層24B(コンパウンドB)よりも引張伸度が大きい。
4)上層24A(コンパウンドA)は下層24B(コンパウンドB)よりも硬度が低い。
5)上層24A(コンパウンドA)は下層24B(コンパウンドB)よりも耐屈曲性が高い。
すなわち、上層24Aは下層24Bよりも硬度の低い材料で形成され、かつ、上層24Aは耐久性に優れる材料で形成されている。
一方、下層24Bは上層24Aよりも硬度の高い材料で形成され、かつ、加工性に優れる材料で形成されている。
【0019】
次に、上述したコンパウンドAからなる上層24AとコンパウンドBからなる下層24Bとを積層して加硫し、貫通穴28を形成した試験片8を作製して耐屈曲性および穴加工性の評価を行った。
図7(A)、(B)に示すように、試験片8は、長さ150mm、幅50mmの矩形板状を呈し、中央に直径4mmの貫通穴28を形成した、試験片8の厚さは6mmとした。
なお、屈曲試験は前述したJIS規格に規定された加硫ゴム屈曲試験に準じて行った。
図8に示すように、試験片8を実験例1〜4の4つ作製した。
実験例1は、本発明の範囲外であり、試験片8の厚さに対する上層24A厚さの割合が100%、すなわち、試験片8はコンパウンドAのみで作製されている。
実験例2は、本発明の範囲内であり、試験片8の厚さに対する上層24A厚さの割合が67%、下層24B厚さの割合が33%である。
実験例3は、本発明の範囲内であり、試験片8の厚さに対する上層24A厚さの割合が33%、下層24B厚さの割合が67%である。
実験例4は、本発明の範囲外であり、試験片8の厚さに対する下層24B厚さの割合が100%、すなわち、試験片8はコンパウンドBのみで作製されている。
【0020】
図8に、屈曲試験によって測定された屈曲回数と発生したクラックの長さとを示す。なお、クラックの長さとは、貫通穴28の縁部から試験片8の幅方向に沿って発生するクラックの長さをいうものとする。
また、図中、「K」は試験片8の幅全長にわたってクラックが発生した状態を示す。
そして、屈曲回数とクラックの長さの測定結果に基づいて屈曲回数とクラックとの相関関係を示す1次回帰式を各実験例毎に導出した。ここで、1次回帰式とは、y=ax+bで示される1次式であり、xは屈曲回数、yはクラック長さを示す。
そして、各実験例の1次回帰式に基づいてクラックの長さが50mmに到達するまでの屈曲回数(万回)を算出した結果を
図8に示す。
また、各実験例においては、貫通穴28を形成するに際して、直径4mmのドリルを用いて貫通穴28を形成したのち、貫通穴28の実穴最小径を測定し、直径4mmに対する実穴最小径の割合を実穴径保持率(%)として算出した結果を
図8に記載した。
【0021】
クラックが50mmに到達するまでの屈曲回数を見ると、実験例1、2、3、4の順番に屈曲回数が低下している。したがって、硬度が低い上層24A厚さの割合が多いほど耐屈曲性が優れていることがわかる。
実穴径保持率を見ると、実験例1、2、3、4の順番に実穴径保持率が上昇している。したがって、硬度が高い下層24B厚さの割合が多いほど実穴径保持率が優れていることがわかる。
【0022】
図9は、
図8の結果を線図にまとめたものであり、横軸は上層24A(コンパウンドA)の厚さ割合(%)を示し、縦軸の一方はクラックが50mmに到達するまでの屈曲回数を示し、縦軸の他方は実穴径保持率(%)を示している。
ここで、上部ゴムカバー層24として必要な条件を、クラックが50mmに到達するまでの屈曲回数が30万回以上で、かつ、実穴保持率が70%以上であるとすると、
図9の線図から上層24Aの厚さ割合は30%以上70%以下の範囲となる。
【0023】
以上の実験結果から、上部カバーゴム層24を、補強層22側に位置する下層24Bと、補強層22と反対側の下層24Bの面に設けられ搬送面21を構成する上層24Aとで構成し、上層24Aは下層24Bよりも硬度の低い材料で形成することが、上部カバーゴム層24の耐屈曲性を向上すると共に、貫通穴28の加工性を向上する上で有利となることが明らかである。
また、上層24Aを耐久性に優れる材料で形成し、下層24Bは加工性に優れる材料で形成することが、上部カバーゴム層24の耐屈曲性を向上すると共に、貫通穴28の加工性を向上する上でより有利となることが明らかである。
また、カバーゴム層の厚さに対して上層24Aの厚さは30%以上70%以下の割合で形成することが、上部カバーゴム層24の耐屈曲性を向上すると共に、貫通穴28の加工性を向上する上でより一層有利となることが明らかである。