(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ハーフゲージのジャカードバーが2つで対になることによりフルゲージになっている一体型ジャカードバーを前後に2つ並べてシングル編みを行い、前記シングル編みにおいて、選択されたゲージ位置のジャカード機構を、選択されたコースにおいて、オーバーラップ及びアンダーラップの中から選択されたラッピング時に作用させて、前記ジャカードバーが備えるジャカードガイドを変位させ、
さらに、前側の一体型ジャカードバーに1色の糸を通し後側の一体型ジャカードバーに別の1色の糸を通すか、合計4つの前記のハーフゲージのジャカードバーにそれぞれ異なる色の糸を通すか、又は合計4つの前記のハーフゲージのジャカードバーに染色され具合の異なる糸を通して行い、
前記シングル編みにおける前記ジャカード機構を作用させる前の基本組織として、前側の一体型ジャカードバーで閉じ目デンビ組織を編成し後側の一体型ジャカードバーでカウンターラッピング組織を編成するか、前側の一体型ジャカードバーでカウンターラッピング組織を編成し後側の一体型ジャカードバーで閉じ目逆デンビ組織を編成する、
経編生地の編成方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下の実施形態は例示であり、発明の範囲はこれに限定されない。以下の実施形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲で、様々な省略、置換、変更を行うことができる。
【0010】
以下の説明において、スイングインの方向を後、スイングアウトの方向を前として、前後という表現を用いる。また左右とは、編成部を前から見た場合の表現である。
【0011】
(1)経編機の構造
本実施形態の経編生地の編成方法の実施に用いられる経編機を例示する。
【0012】
図1の経編機1は左右方向に1列に並べられたニードル(針)22で編成を行うシングルラッシェル機である。この経編機1は、
図1に示すように、編成を行う編成部2と、編成部2に糸を給糸する給糸部3と、編成部2のガイド(筬)20を動作させる柄出し部4と、編成部2のニードル22を動作させる駆動部5と、編成部2で編成された編地を巻取る巻取り部6と、編成部2と給糸部3との間に設けられ編成部2における糸のテンションを均一に保つテンション装置7とを備える。
【0013】
編成部2は、1列に並べられた多数のニードル22を備える。これらのニードル22は、駆動部5により一斉に上下運動させられる。また編成部2はガイドバー21を備える。簡略化のために
図1にはガイドバー21は1枚しか描かれていないが、実際には複数枚設けられている。1枚のガイドバー21には多数のガイド20が一列に並べられて設けられている。ガイドバー21は柄出し部4により左右に運動させられる。編成部2は、他に、ニードル22の前方に設けられたトリックプレート23や、ニードル22が上昇する際に編地をトリックプレート23側に押さえるステッチコームを備える。
【0014】
給糸部3は編成部2に糸を給糸できるものであれば良く、その詳細な構造は限定されない。給糸部3の例としては、糸が巻き取られているビーム30と、ビーム30から糸を送り出すための装置とを備えるものが挙げられる。このような装置としては、ビーム30を糸を送り出す方向に回転させる一方、ビーム30の一端に掛けた錘により前記回転方向と反対方向にブレーキをかけてビーム30の回転速度を調整する、いわゆるウエイト式消極送り出し装置や、ビーム30の回転速度をコンピュータで制御するコンピュータ装置積極送り出し装置等が挙げられる。
【0015】
柄出し部4は電子制御されるものであることが望ましい。具体的には、柄出し部4は、ガイドバー21の一端に連結された左右方向に伸びるロッド40と、該ロッド40を左右に移動させるリニアモータやボールねじ等の移動装置41と、該移動装置41を制御する電子制御装置42とを備える。電子制御装置42に動作指示が入力されると、その動作指示に従い移動装置41が動作し、ロッド40及びガイドバー21が左右に移動する。
【0016】
ただし柄出し部4の構造はこれに限定されない。例えば、柄出し部4は、回転可能なチェーンドラムと、該チェーンドラムの外周に1周するように設けられたチェーンリンクとを備えるものであっても良い。この場合、ロッド40が、チェーンリンクのチェーン番号(チェーンドラム径方向外側への高さ)の変化に伴い押されて、左右に移動する。
【0017】
駆動部5はニードル22を上下に動作させるものであれば良く、その詳細な構造は限定されない。一般的な駆動部5は、回転可能なシャフト50と、シャフト50を回転させるモータ等の回転装置51と、シャフト50に固定されたカム52とを備える。シャフト50の回転に伴いカム52が回転すると、カム52の上方にあるニードル22がカム52に押されて上下運動する。
【0018】
(2)経編機1のガイド及びガイドバーの配列
本実施形態の経編機1の編成部2には、
図2に示すように、前から順に、前側の一体型ジャカードバーPJB1と後側の一体型ジャカードバーPJB2とが設けられている。ここで、一体型ジャカードバーとは、ハーフゲージのジャカードバー(ハーフセット分のジャカードガイド20jを備えるジャカードバー)JBを2枚備え、全体でフルゲージとなる(フルセット分のジャカードガイド20jを備える)ものである。
【0019】
これらのハーフゲージのジャカードバーJBは、それぞれ基本組織の編成のための運動をする。そして、これらのハーフゲージのジャカードバーJBに設けられている複数のジャカードガイド20jは、ジャカードバーJBの運動に伴い、全て同じ運動をする。
【0020】
それに加えて、これらのジャカードガイド20jは、それぞれジャカード機構により独立して変位可能となっている。そのため複数のジャカードガイド20jはゲージ位置毎に異なる運動をすることができる。
【0021】
ジャカード機構は、ジャカードガイド20jを、基本組織の編成のための位置よりも変位させる機構である。その機構の例を
図3に基づき説明する。
図3に示すジャカードガイド20jでは、糸が通る孔10が形成された先端部11が、絶縁体12の先端に設けられている。絶縁体12の左右両側には、セラミック等でできたピエゾ素子13が設けられている。これらのピエゾ素子13の一方に電圧をかけると、そのピエゾ素子13が変形し、絶縁体12が曲がる。その結果先端部11が左右に動き、孔10の位置が左右に移動する。このようにしてジャカードガイド20jが曲がる。孔10の左右方向の移動量をジャカードガイド20jの曲がる量又は変位量とする。ピエゾ素子13に電圧がかかっていない状態ではジャカードガイド20jは曲がっていない。
【0022】
ジャカードガイド20jが曲がっていない状態でかつ編成が停止している間は、ジャカードガイド20jはニードル22の真上に位置している。基本組織の編成中は、ジャカードガイド20jは1G(ニードル22から隣のニードル22までの距離)の半分の距離だけ右に曲がっている。基本組織の編成中の状態をジャカード機構が作用していない状態とする。ジャカード機構が作用すると、ジャカードガイド20jは、左に曲がり、基本組織の編成中の位置よりも1Gの距離だけ左に変位する。ジャカード機構は、オーバーラップの際だけ作用させることも、アンダーラップの際だけ作用させることも、オーバーラップとアンダーラップの両方の際に作用させることもできる。
【0023】
編成部には、前側の一体型ジャカードバーPJB1と後側の一体型ジャカードバーPJB2の他に、普通のガイドバーが設けられていても良い。普通のガイドバーとは、そこに設けられている複数のガイドが、ガイドバーの運動に伴い、全て同じ運動をするものであり、それぞれのガイドが独立して左右に変位しないものである。例えば、後側の一体型ジャカードバーPJB2より後に普通のガイドバーが設けられていても良いし、前側の一体型ジャカードバーPJB1より前に普通のガイドバーが設けられていても良いし、前側の一体型ジャカードバーPJB1より前と、後側の一体型ジャカードバーPJB2より後との両方にガイドバーが設けられていても良い。
【0024】
後側の一体型ジャカードバーPJB2より後に普通のガイドバーが設けられている配列の例を、配列例Aとして、
図4に示す。配列例Aでは、前から順に、前側の一体型ジャカードバーPJB1、後側の一体型ジャカードバーPJB2、普通のガイドバーとしてのガイドバーGB5、普通のガイドバーとしてのガイドバーGB6が並んでいる。ここで、前側の一体型ジャカードバーPJB1はジャカードバーJB1とジャカードバーJB2を備え、後側の一体型ジャカードバーPJB2はジャカードバーJB3とジャカードバーJB4を備える。そしてジャカードバーJB1〜JB4は、それぞれ、ハーフセット分のジャカードガイド20jを備える。そして、ジャカードバーJB1とジャカードバーJB2とでフルセット分のジャカードガイド20jを備え、また、ジャカードバーJB3とジャカードバーJB4とでフルセット分のジャカードガイド20jを備える。
【0025】
また、前側の一体型ジャカードバーPJB1より前と、後側の一体型ジャカードバーPJB2より後との両方に普通のガイドバー21が設けられている配列の例を、配列例Bとして、
図5に示す。配列例Bでは、前から順に、普通のガイドバーとしてのガイドバーGB1、前側の一体型ジャカードバーPJB1、後側の一体型ジャカードバーPJB2、普通のガイドバーとしてのガイドバーGB6が並んでいる。前側の一体型ジャカードバーPJB1はジャカードバーJB2とジャカードバーJB3を備え、後側の一体型ジャカードバーPJB2はジャカードバーJB4とジャカードバーJB5を備える。そしてジャカードバーJB2〜JB5は、それぞれ、ハーフセット分のジャカードガイド20jを備える。そして、ジャカードバーJB2とジャカードバーJB3とでフルセット分のジャカードガイド20jを備え、また、ジャカードバーJB4とジャカードバーJB5とでフルセット分のジャカードガイド20jを備える。
【0026】
なお以上の実施形態ではガイドバーの配列の途中に落下板は設けられていない。
【0027】
(3)編成方法
以上の前後に並んだ2つの一体型ジャカードバーを用いて編成する際に、選択されたゲージ位置のジャカードガイドのジャカード機構を作用させることにより、該ジャカードガイドを変位させることができる。ここで、ジャカードガイドが各ゲージ位置で行うラッピングとしてオーバーラップとアンダーラップがあるが、それらのうちいずれのラッピング時にジャカード機構を作用させるかを選択できる。両方のラッピング時にジャカード機構を作用させることもできる。このように、ゲージ位置及びラッピングを選択してジャカード機構を作用させ、そのゲージ位置のジャカードガイドをそのラッピング時に変位させることができる。その結果、2つの一体型ジャカードバーによる基本組織に対し、変化を加えることができる。
【0028】
(3−1)ジャカード機構の作用による組織の変化の例
まず、ジャカード機構の作用による、ジャカードガイドが編成する組織の変化を例示する。なお以下の例では、2編コース間隔で繰り返される組織にジャカード機構を作用させて変化を加え、同じく2編コース間隔で繰り返される組織としたものを示す。しかし、3編以上のコース間隔で繰り返される組織に変化を加えても良いし、2編コース間隔で繰り返される組織に変化を加えて3編以上のコース間隔で繰り返される組織としても良い。
【0029】
図6に、ジャカードガイドによる組織の2編コース間隔での変化例を示す。図中のHはジャカード機構を作用させないことを表している。この場合、ジャカードガイドは基本組織を編成する場合と同じ位置にあることになる。図中のTはジャカード機構を作用させることを表している。この場合、ジャカードガイドは基本組織を編成する位置から左へ変位することになる。TとHは1つのニードルの上下段に記載されているが、上段のT又はHはオーバーラッピング時にジャカード機構を作用させること又はさせないことを、下段のT又はHはアンダーラッピング時にジャカード機構を作用させること又はさせないことを、それぞれ表している。
図6(1)は基本組織である1−0/1−2//の繰り返し単位からなる閉じ目デンビ組織を表しており、これに対してジャカード機構を作用させて(2)〜(16)の15通りの変化をさせることができる。例えば
図6(2)の組織は、1コース目のアンダーラップ時とオーバーラップ時にはジャカード機構を作用させず、2コース目のアンダーラップ時とオーバーラップ時にはジャカード機構を作用させて編成した組織である。
【0030】
図7〜
図11に、ジャカードガイドによる組織の別の変化例を示す。
図7の基本組織は、(1)に示す開き目デンビ組織で、0−1/2−1//の繰り返し単位からなる。
図8の基本組織は、(1)に示す開き目鎖編組織で、0−1/1−0//の繰り返し単位からなる。
図9の基本組織は、(1)に示す2ニードルアンダーラップの挿入組織で、0−0/2−2//の繰り返し単位からなる。
図10の基本組織は、(1)に示す1ニードルアンダーラップの挿入組織で、0−0/1−1//の繰り返し単位からなる。
図11の基本組織は、(1)に示す閉じ目逆デンビ組織(
図6(1)の閉じ目デンビ組織とアンダーラップが逆方向になっている組織)で、1−2/1−0//の繰り返し単位からなる。
図7〜
図11の基本組織に対して、
図6に示したものと同様にそれぞれ15通りの変化をさせることができる。ただし、
図7〜11では代表的な4通りの変化例のみを(2)〜(5)に示している。
【0031】
(3−2)1つの一体型ジャカードバーによる編成の例
一体型ジャカードバーは2枚のハーフゲージのジャカードバーを備えるが、これらが同じ動作をして同じ組織を編成することができる。よって、一体型ジャカードバーで
図6〜
図11に例示する組織を編成することができる。
【0032】
また、一体型ジャカードバーは2枚のハーフゲージのジャカードバーを備えるため、例えば、1枚のハーフゲージのジャカードバーで
図6〜
図11のいずれかの組織を編成し、もう1枚のハーフゲージのジャカードバーでそれとは別の組織であって
図6〜
図11のいずれかの組織を編成し、これらを重ねて1つの一体型ジャカードバーによる編成組織とすることができる。
【0033】
例えば
図12の組織は1つの一体型ジャカードバーによる組織の例である。(1)に示す基本組織は、1枚のハーフゲージのジャカードバーで
図6(1)の閉じ目デンビ組織を編成し、もう1枚のハーフゲージのジャカードバーで
図11(1)に示す閉じ目逆デンビ組織を編成し、これらを重ねたカウンターラッピング組織である。この基本組織に対し、ジャカード機構を作用させることにより、(2)〜(5)に例示するような変化をさせることができる。
【0034】
図13(1)〜(4)は、より広範囲の組織を表したものである。
図13(1)は
図12(1)の基本組織としてのカウンターラッピング組織を広範囲で表したものである。
図13(2)〜(4)の組織は、ジャカード機構を作用させて
図13(1)の組織を変化させた例で、図中の一部に破線で示す基本組織に対し矢印方向への変位を加えたものである。
図13(2)の組織はラッシェルネット組織である。
図13(3)の組織は、2ゲージアンダーラップしているぶん厚地となる組織で、これを薄地の例えばデンビ組織と組み合わせることにより編地に柄を描くことができる。
図13(4)の組織は絞り効果の大きい組織である。このように、
図13(1)の基本組織に対しジャカード機構を作用させることにより様々な組織とすることができる。なお
図13(2)〜(4)に例示する組織は全てのニードル位置でループを形成しているため、これに重ねる組織は、全てのニードル位置でループを形成している必要が無く、様々な組織とすることができる。
【0035】
(3−3)2つの一体型ジャカードバーによる編成の例
本実施形態の経編機1は2つの一体型ジャカードバーを備えるため、例えば、1つの一体型ジャカードバーで
図6〜
図13のいずれかの組織を編成し、もう1つの一体型ジャカードバーでも
図6〜
図13のいずれかの組織を編成し、これらを重ねることができる。以下では前後に並ぶ2つの一体型ジャカードバーが編成する組織を例示する。
【0036】
まず基本組織として例示するのは、前後2つの一体型ジャカードバーが、それぞれ
図6(1)に示す閉じ目デンビ組織を編成する組織である。この基本組織の編成中にジャカード機構を作用させることにより様々な組織を編成することができる。例えば、前側の一体型ジャカードバーでデンビ組織を編成し、後側の一体型ジャカードバーでジャカード機構を作用させて部分的に厚地や薄地となった組織を編成する。これにより、これらの組織が重なった編地に薄い部分や厚い部分を形成し、厚みの違いによる柄を形成することができる。
【0037】
次に基本組織として例示するのは、前側の一体型ジャカードバーが
図6(1)に示す閉じ目デンビ組織、後側の一体型ジャカードバーが
図11(1)に示す閉じ目逆デンビ組織を編成した組織である。この組織では前側の一体型ジャカードバーが作るシンカーループと後側の一体型ジャカードバーが作るシンカーループとが交差するため、編地に絞り効果が出る。この基本組織の編成中にジャカード機構を作用させることにより、上記と同様に様々な組織を編成することができる。その組織の編地は絞り効果のあるものである。
【0038】
次に基本組織として例示するのは、前側の一体型ジャカードバーと後側の一体型ジャカードバーが、それぞれ
図12(1)及び
図13(1)に示すカウンターラッピング組織を編成する組織である。このカウンターラッピング組織の編成中にジャカード機構を作用させることにより、様々な組織を編成することができる。例えば、一体型ジャカードバーで編成される組織の一部(A部とする)を
図13(2)に示すようなラッシェルネット組織とする。そして、2つの一体型ジャカードバーで、それぞれラッシェルネット組織を一部に有する組織を編成するとともに、これらのラッシェルネット組織を穴の位置を合わせて重ねる。すると、ラッシェルネット組織同士が重なった領域がネット状となった編地とすることができる。なおこの場合、1つの一体型ジャカードバーで編成される組織における、A部以外の部分(B部とする)の組織は限定されない。例えば、重ねられる2つのB部のうち、一方のB部をネット組織、もう一方のB部をネット組織以外の組織とすることができる。また、両方のB部をネット組織以外の組織とすることもできる。そのため、編地のうちネット状の一部領域を除く領域を、様々な組織とし、様々な見え方にすることができる。
【0039】
次に基本組織として例示するのは、前側の一体型ジャカードバーが
図6(1)に示す閉じ目デンビ組織を編成し、後側の一体型ジャカードバーが
図12(1)及び
図13(1)に示すカウンターラッピングの組織を編成する組織である。この基本組織に対し、後側の一体型ジャカードバーでは、ジャカード機構を作用させることにより、例えば
図13(2)に示すラッシェルネット組織を編成することができる。また、前側の一体型ジャカードバーでは、ジャカード機構を作用させることにより、例えば厚地部分と薄地部分とからなる柄のある組織を編成することができる。そしてこれらの組織を一体化させて、前側の一体型ジャカードバーによる組織の柄がはっきりした編み地とすることができる。
【0040】
次に基本組織として例示するのは、前側の一体型ジャカードバーが
図12(1)及び
図13(1)に示すカウンターラッピングの組織を編成し、後側の一体型ジャカードバーが
図11(1)に示す閉じ目逆デンビ組織を編成する組織である。この基本組織に対し、前側の一体型ジャカードバーでは、ジャカード機構を作用させることにより、例えば
図13(2)に示すラッシェルネット組織を編成することができる。また、後側の一体型ジャカードバーでは、ジャカード機構を作用させることにより、例えば厚地部分と薄地部分とからなる柄のある組織を編成することができる。そしてこれらの組織を一体化させて、後側の一体型ジャカードバーによる組織の柄が見える編み地とすることができる。この柄は比較的薄く見える。
【0041】
以上のように編み方によって編地のバリエーションを多くするだけでなく、2つの一体型ジャカードバー(従って4つのジャカードガイド)に通す糸を異なる種類とすることによって、編地のバリエーションを多くすることもできる。糸の種類が異なるとは、具体的には糸の原料、形状、太さ、撚り数、仕上げ加工等が異なることを言う。糸の種類が異なると、糸の弾性、伸縮性、柔軟性、光沢の有無、風合い、染色され具合等が異なる。
【0042】
例えば、4つのジャカードガイドに、所定温度での染色され具合の異なる糸、例えば少なくともポリアミド、ポリエステルをそれぞれ通して編成する。その後所定温度で染色すると、糸の染色され具合の違いから、編地に色の濃淡からなる模様を描くことができる。
【0043】
また、4つのジャカードガイドのうち1又は2以上に弾性の大きい弾性糸を通して編成すると、編成後に編成の仕方に応じた収縮をする編地とすることができる。例えば鎖編を行うジャカードガイドに弾性糸を通して編成すると、コース方向に収縮する編地とすることができる。
【0044】
また、2つの一体型ジャカードバーに通す糸の色を少なくとも2色以上とすることにより、編地に色違いによる模様を描いても良い。例えば、後側の一体型ジャカードバーに黄色の糸を通してデンビ組織を編成し、前側の一体型ジャカードバーに赤色の糸を通して穴の開いたネット組織を編成し、これらを重ねれば、赤色の下に黄色が見える編地とすることができる。また例えば、後側の一体型ジャカードバーに黄色の糸を通して閉じ目デンビ組織を編成し、前側の一体型ジャカードバーに赤色の糸を通して閉じ目デンビ組織を編成し、これらを重ねれば、シンカーループ部で、表が赤、裏が黄に色分けされた編地を編成することができる。ここで、後側の一体型ジャカードバーも前側の一体型ジャカードバーもそれぞれフルセットのジャカードガイドを備えるため、1つの一体型ジャカードバーにおいて2つのハーフゲージのジャカードバーにそれぞれ赤と黄の糸を通して編成する場合よりも、前記色分けが明確になる。また、4つのジャカードバーにそれぞれ異なる色の糸を通して編成すれば、4色からなる編地とすることもできる。
【0045】
前側の一体型ジャカードバーと後側の一体型ジャカードバーの他に、普通のガイドバーが設けられている場合、編地のバリエーションがさらに増える。
【0046】
前記の配列例Aの場合、例えば、ガイドバーGB5やガイドバーGB6により挿入糸を挿入し、該挿入糸により編地に模様を描いたり縁取りを形成したりすることができる。挿入糸により縁取りを形成する例を説明すると、例えば次の通りである。一体型ジャカードバーPJB1、PJB2により、2つの衣類を並べて編成するとする。その場合に、いずれかのガイドバーで、隣り合う衣類と衣類との間に鎖編による解き糸を設ける。そして、ガイドバーGB5又はガイドバーGB6により、解き糸と一方の衣類とに掛るようにゴム糸を挿入するとともに、解き糸と他方の衣類とに掛るようにゴム糸を挿入する。つまり、隣り合う2つの衣類が、1本の解き糸とその両側の2本のゴム糸により繋がっている状態を作る。ここでゴム糸には、伸縮性の高い例えばポリウレタンでできた糸を用いる。そして、2つの衣類を並べて編成し終えた後に、解き糸を解く。すると、2本のゴム糸が、解き糸から解放されて収縮し、それぞれ掛けられていた側の衣類の端部と一体化する。このようにして、衣類と衣類が、縁が綺麗になった状態で分離する。
【0047】
また前記の配列例Bの場合、例えば、前側の一体型ジャカードバーPJB1で挿入糸を挿入することができる。前側の一体型ジャカードバーPJB1より前にガイドバーGB1があるため、ガイドバーGB1で鎖編等を行いループを形成すれば、挿入糸を押えることができるからである。
【0048】
以上のようにして編成された編地に対し、その後、ヒートセット、洗浄、乾燥、その他必要に応じて加工処理が施されて、衣料等の製品が完成する。
【0049】
(4)効果
本実施形態の経編生地の編成方法によれば、ハーフゲージのジャカードバーが対になることによりフルゲージになっている一体型ジャカードバーを用いることと、このような一体型ジャカードバーを2つ用いて編成することと、ジャカード機構の作用/不作用をオーバーラップとアンダーラップの際に選択することにより、多くのバリエーションの編地を編成することができる。
【0050】
例えば、1つの一体型ジャカードバーにおいてハーフゲージのジャカードバーが対になっており、しかもジャカード機構の作用/不作用をオーバーラップとアンダーラップの際に選択することができるために、1つの一体型ジャカードバーで編成される組織の一部に様々な変化を加えることができる。そして、このような一体型ジャカードバーを2つ用いて編成するために、一部にのみジャカード機構による変化が加わった組織を、2つ重ねることができる。
【0051】
また、後側の一体型ジャカードバーより後や前側の一体型ジャカードバーより前にガイドバーを設けてこれも用いて編成すれば、上に例示したようにさらに多くのバリエーションの編地を編成することができる。
【0052】
また、2つの一体型ジャカードバーに通す糸の種類を少なくとも2種類以上としたり、2つの一体型ジャカードバーに通す糸の色を少なくとも2色以上としたりすれば、上に例示したようにさらに多くのバリエーションの編地を編成することができる。