(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のタイヤによれば、トレッドの陸部に複数のサイプを設けることによって排水性の向上が達成されるが、該サイプによって陸部が分断されるために、陸部の剛性はサイプの本数に応じて低下することになる。この陸部の剛性の低下は、特に乾燥路面における操縦安定性の低下を招くため、サイプを採用したタイヤにおける陸部剛性の低下を抑制することが希求されている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、湿潤路面における排水性と乾燥路面における操縦安定性を高い次元で両立させることができるタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、湿潤路面における排水性と乾燥路面における操縦安定性を向上し得る手段について鋭意究明した。その結果、湿潤路面と乾燥路面とでそれぞれサイプが担う役割を異ならせること、すなわち、路面環境に応じてサイプの形態を変化させることにより、湿潤路面における排水性と乾燥路面における操縦安定性を両立し得ることを見出した。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
(1)本発明のタイヤは、タイヤのトレッドの踏面を、タイヤの赤道面に沿って複数の周方向溝とトレッド端にて複数の陸部に区画したタイヤであって、前記陸部の、少なくともトレッド端に隣接する陸部のいずれか一方は、トレッド端および前記周方向溝のいずれか少なくとも一方に開口するサイプを複数本有し、かつ、水分環境下におけるタッキネスが200gf以下および90℃環境下におけるタッキネスが220gf以上であることを特徴とする。
なお、本発明における「タッキネス」とは、加硫ゴムの粘着性を指し、TACKINESS TESTER((株)レスカ製)を用い、円柱状のプローブ(直径3mm、ステンレス鋼製)と金属板に固定された厚さ2mmの加硫ゴム板をそれぞれ水分環境下または90℃環境下に設定し、プローブをゴムに30mm/minの速度で、300gの荷重がかかるまで押し付け、20秒間その荷重を維持した上で、120mm/minの速度でプローブを引き上げることによって測定した、ピーク時の力を意味する。そして、「水分環境下」とは、上記タッキネスの測定の際に、プローブ直下に1mm厚の水膜が存在する状態を意味し、「90℃環境下」とは、上記タッキネスの測定の際に、乾燥下において、円柱状のプローブおよび加硫ゴム板の温度を90℃に保持した状態を意味する。
【0009】
かかる構成の本発明のタイヤによれば、湿潤路面における排水性と乾燥路面における操縦安定性を高い次元で両立させることができる。
【0010】
(2)本発明のタイヤにおいては、サイプは、トレッド表面における開口幅が0.10mm以上0.35mm以下であることが好ましい。
【0011】
かかる構成により、タイヤの排水性とエッジ効果の向上を効果的に図ることができる。
【0012】
(3)本発明のタイヤにおいては、サイプは、タイヤ赤道面に対して30°以上60°以下の角度で傾斜することが好ましい。
【0013】
かかる構成により、タイヤの排水性とエッジ効果の向上を効果的に図ることができる。
【0014】
(4)本発明のタイヤは、サイプを区画する側壁のうち、少なくとも一方の開口縁を面取りしてなることが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、排水機能を確保することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、湿潤路面における排水性と乾燥路面における操縦安定性を高い次元で両立させることができるタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明のタイヤについて詳細に説明する。
なお、タイヤの内部補強構造等は一般的なタイヤのそれと同様であるので図示を省略する。
【0019】
[第1の形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかるタイヤの踏面を示す展開図である。
図1に示すように、このタイヤは、トレッドの踏面(以下、トレッド踏面と称する。)1に、タイヤの赤道CLに沿って延びる複数本、図示例で2本の周方向溝2a、2bと、トレッド端TEとによって区画された、複数の陸部3a、3bおよび4を有する。
【0020】
また、
図1に示すように、トレッド端TEに隣接する陸部3aおよび3bのうちの少なくとも一方、図示例で両陸部3aおよび3bには、トレッド周方向に間隔をおいて配置した、複数本のサイプ5を有する。該サイプ5は、一端が周方向溝2aまたは2bに開口し、他端がトレッド端TE側に向かって延び、かつ陸部3aまたは3bの幅方向中心付近に止まる、開口幅の狭い溝である。該サイプ5は、陸部3aおよび3bの各々において、トレッド周方向に等間隔を置いて配列されるとともに、該配列を陸部3aと3bとの間でトレッド周方向にずらしてある。
該サイプ5は、湿潤路面を走行する際に、トレッドの接地域内にある水分を内部に収容し、この水分を接地域外で排出することの繰り返しによって、タイヤの排水性能を助長する。
【0021】
また、図示例では、トレッド端TEから陸部3aおよび3bの幅方向中心付近にまで延びる横溝6を有し、前記サイプ5は陸部3aおよび3bの幅方向中心付近において横溝6に連通している。
【0022】
ここで、サイプをトレッド端TEに隣接する陸部の少なくとも一方に設けることとしたのは、次のとおりである。すなわち、タイヤの負荷転動時のトレッド幅方向の接地圧分布は中央域に比較してトレッド端の隣接域で高くなるため、このトレッド端の隣接域における排水性を高めることが、いわゆるウェット性能の向上に有効だからである。従って、サイプは、トレッド端TEに隣接する陸部の少なくとも一方に設けることで効果を奏するが、両陸部に設けることが好ましい。さらに、サイプは、陸部3aおよび3b以外の陸部にも設けることができ、図示例では、トレッド幅方向中央の陸部4に、周方向溝2aと2bをつなぐサイプ7を設けてある。
【0023】
次に、車両装着前の製品タイヤにおける、前記サイプ5の
図1におけるA−A線に沿う断面を
図2に示す。同図に示すように、サイプ5は、トレッド表面における開口幅wが0.10mm以上0.35mm以下であることが好ましい。すなわち、幅wが0.10mm以上であれば、接地域内ではサイプ5を区画する側壁5a、5b相互が部分または全体に離隔して開いた状態となって排水性が確保される。一方、幅wが0.35mmを超えると、側壁同士が部分的に接触することもなくなり、陸部剛性が大きく低下する虞がある。なお、図示例では側壁および底部に区画される矩形状を呈するが、底部がV字状やU字状等の形状でも構わない。サイプの深さhとしては、2mm以上7mm以下であることが、排水性と操縦安定性を両立する観点から好ましい。
【0024】
また、横溝6の
図1におけるB−B線に沿う断面図を
図3に示す。図示例では、溝壁および底部の境界部が円弧状であるが、溝壁から底部が矩形状であったり、V字状であっても構わない。
【0025】
さらに、周方向溝2a、2bの
図1におけるC−C線に沿う断面を
図4に示す。図示例では底部断面が略半円形状としているが、溝壁から底部が矩形状であったり、底部がV字状であっても構わない。溝壁および底部に区画される矩形状やU字状でも構わない。また、周方向溝2aおよび2bは、排水性の観点より、タイヤの全周にわたり形成することが好ましい。
【0026】
上記したトレッド端TEに隣接する陸部3aおよび3bのうちの少なくとも一方に、複数本のサイプ5を有するタイヤにおいて、該サイプ5を設けてある陸部につき、そのタッキネスを下記のとおり規定することが肝要である。
記
水分環境下・・200gf以下
90℃環境下・・220gf以上
以上
【0027】
トレッド端TEに隣接する陸部3aおよび3bの少なくとも一方にサイプ5を設ければ、排水性能を効果的に向上できることは上述のとおりであるが、排水性能が問題にならない乾燥路面では、トレッド端TEに隣接する陸部にサイプ5を設けることで却って操縦安定性が損なわれる虞がある。上述したように、タイヤの負荷転動時のトレッド幅方向の接地圧分布は中央域に比較してトレッド端の隣接域で高くなるため、この隣接域にサイプを導入して陸部剛性が低下することは、操縦安定性の観点からは望ましくない。
【0028】
そこで、上記のように当該陸部のタッキネスを、所定の温度毎に規定することによって、湿潤路面での排水性と乾燥路面での操縦安定性とを高次元で両立させた。
【0029】
まず、90℃におけるタッキネスが220gf以上にあることが肝要である。すなわち、乾燥路面を走行するタイヤは、その走行初期段階から、ゴムのヒステリシスロスに起因した熱を不可避に発生する結果、トレッドゴムの温度は走行開始時に時を経ることなく90℃前後に至るのが一般的である。また、サーキット走行に供される高性能タイヤでは、本走行前のならし走行によってタイヤ温度を意図的に上昇させるのが常識である。
【0030】
この90℃前後の温度域にあるタイヤにおいて、前記陸部のタッキネスが220gf以上の範囲にあれば、タイヤ負荷転動時の入力に伴って接地域内のサイプが変形を繰り返す過程で、サイプを区画する側壁相互が部分または全体に接触した際に、側壁相互が容易に粘着して側壁が相互に固着することになる。すなわち、乾燥路面走行におけるタイヤの温度上昇に伴って、サイプを区画する側壁同士が
図2に示した状態から
図5に示す状態に移行し固着する結果、陸部を分断するサイプがあたかも消失するのに近い効果をもたらす。従って、陸部の分断による剛性の低下が抑制され、タイヤの負荷転動時に接地圧の高いトレッド端の隣接域での陸部剛性が高まる結果、操縦安定性を確保することが可能になる。
【0031】
かように乾燥路面を走行する場合は、上記のタッキネスを有する陸部においてサイプを区画する側壁相互が固着することで、一体の陸部となって優れた操縦安定性を発現することが可能になる。とりわけ、上記のタッキネスを有する陸部においてサイプ側壁が相互に固着すれば、車両がレーンチェンジや旋回を行う場合等、サイプの延在方向に沿ってせん断力が働いた場合に、サイプ側壁相互の固着状態が維持されるため、陸部の一体化が崩れることがなく、優れた操縦安定性を維持できる。
【0032】
一方、タイヤが雨天走行等の湿潤路面走行を典型例とする水分環境下で走行する場合は、サイプを開いて、その排水性能を生かす必要がある。当初からサイプが開いていれば排水性は確保されるが、上記のように乾燥路面の走行から湿潤路面の走行に移行する場合等には、閉鎖状態にあるサイプを開く必要がある。
ここで、乾燥路面から湿潤路面の走行に移行し走行路面に継続して水分供給があると、トレッド表面のサイプの開口痕部分は路面の水分に晒される結果、該開口痕に水分が侵入し、毛細管現象により順次サイプの深さ方向へ浸透し、固着していたサイプ内に漸次水分が取り込まれ、サイプを区画する側壁も水分に晒された状態となる。かように水分環境下にある側壁のタッキネスが200gf以下である陸部においては、サイプ側壁の固着状態がもはや維持されなくなって側壁同士が離隔する。側壁同士の離隔により、再び開状態になったサイプは、本来の機能が復元される結果、排水性能の向上に寄与するものとなる。
【0033】
上記したサイプの側壁同士の離隔は、十分な水分が側壁相互間に取り込まれて実現するため、例えば降雨あけや断続的な降雨等の環境下にあるときは、側壁同士の離隔は不十分である。従って、上述のような路面に水分が継続的には供給されない環境では、側壁同士の離隔が緩やかに進行し、換言すると、路面の水分量に応じてサイプの開閉度が調整されることになる。
【0034】
上記の範囲に記載したタッキネスは、さらに、水分環境下において175gf以下、かつ90℃において250gf以上であることが好ましい。なお、水分環境下におけるタッキネスの下限および90℃環境下におけるタッキネスの上限については、特に限定する必要はない。
【0035】
なお、陸部3aおよび3b以外の陸部についても、当該陸部にサイプを有する場合に、タッキネスを上記の範囲に規定することが好ましい。図示例では、トレッド幅方向中央の陸部4はサイプを有することから、タッキネスを上記の範囲に規定することが有利である。
【0036】
また、上記のタッキネスは、ゴム材の配合割合を適宜変更することによって調整が可能であり、他のタイヤ性能との関係から配合物やその割合を適宜に設計すればよい。とりわけ、樹脂以外のゴム成分100質量部に対し、樹脂量が10質量部以上とすることによって、上記したタッキネスの範囲に調整するのが容易である。
【0037】
また、サイプ5は、周方向2aまたは2bからトレッド端TE側に向かって延びていればよいが、赤道CLに対する傾斜角度α(
図1参照)が30°以上60以下で延在することが好ましい。このような傾斜角度により、湿潤路面において、接地域内にあるサイプに取り込まれた水分をトレッド端側に排水しやすくなる。さらに、幅方向のエッジ成分が増加して、特に湿潤路面における性能を総合的に高めることができる。
より好ましくは、サイプ5の赤道CLに対する傾斜角度αは、40°以上50°以下である。この場合、より高い排水性とエッジ効果を得ることができる。
【0038】
[第2の形態]
図6は、他の実施形態におけるトレッド踏面1の展開図である。すなわち、
図1に示した構成において、サイプ5を区画する側壁のうち、少なくとも一方の側壁の開口縁を面取りすることができ、この形態について、サイプ5を区画する側壁の双方の開口縁を面取りする場合を
図6に示す。なお、
図6において
図1と同様の構成要素は、
図1と同じ参照符号を付してその説明を省略する。また、
図7は、車両装着前の製品タイヤにおける、
図6におけるサイプ5のD−D線に沿う断面図である。さらに、
図8は、サイプ5を区画する側壁が相互に固着した状態における、サイプ5の断面図である。
【0039】
図6において、5cおよび5dは、サイプ5を区画する側壁5aおよび5bの双方の開口縁を、
図7に示すように、トレッド表面からサイプ深さ方向へ斜めの直線状に面取りした場合の面取り部を指す。
上記した面取り部5c、5dを設けることにより、
図7に示すように、対向する面取り部5cおよび5dによって、サイプの開口部に略V字状の空間が新たに形成される。このように形成された空間により、面取りを施さないサイプ5と比較してトレッド表面近傍の溝容積が増加することから、湿潤路面における排水性能が向上する。このタイヤにおいてもサイプ5を設けた陸部3a、3bのタッキネスを上記した範囲に規定しているため、当初開いていたサイプ5は、乾燥路面での走行開始後にタイヤ温度の上昇に伴って
図7の状態から
図8の状態へと変化するのは上述の通りである。次いで、乾燥路面から十分な水分の供給下にある湿潤路面の走行に移行すると、当初の
図8に示すサイプの閉鎖状態において、面取り部5cおよび5dによって形成される略V字状の空間に路面の水分が瞬時に取り込まれ、ここから水分が排出されるまでは該空間に水分が保持される結果、毛細管現象によるサイプ5への水分の侵入が促進され、側壁5a、5bの剥離から離隔が遅滞なく実現する。
【0040】
ここで、面取り部5cおよび5dは、サイプ5の延在方向と直行する向きの面取り幅pがサイプ5のトレッド表面における開口幅wの100%以上2000%以上、径方向の面取り深さtがサイプの深さhの10%以上40%以下で形成することが望ましい。なぜなら、湿潤路面における高い排水性を実現可能な空間を形成するための面取幅および深さが必要であるが、深さtが過大となれば、剛性低下を抑制するためのサイプ5の固着機能が低下する虞があり、幅pも、過大である場合は排水性能が低下する虞がある。また、図示例においては上記幅および深さは5cと5dは同一となっているが、上記構成の範囲内であれば5cと5dの幅および深さは異なっていてもよい。
【0041】
また、横溝6においても、同様に、面取り6cおよび6dを施すことができる。すなわち、
図9は、
図6におけるE−E線に沿う横溝6の断面図であり、6cおよび6dは、横溝6を区画する溝壁の双方の開口縁を、
図9に示すように、トレッド表面からサイプ深さ方向へ斜めの直線状に面取りした場合の面取り部を指す。
【0042】
[第3の形態]
図10は、本発明の別の実施形態にかかるトレッド踏面1の展開図である。本実施形態にかかるタイヤは、タイヤの赤道CLを挟む一方側と他方側とのトレッドパターンが異なる、いわゆる非対称のパターン形状を有し、一方のトレッド端TEに隣接する陸部9が車両の幅方向外側となる配置の下装着する、回転方向が指定されるタイヤである。なお、
図10の矢印INは本実施形態にかかるタイヤを車両に装着したときの車両内側(以下、タイヤ装着内側という。)となる向きを示し、矢印OUTは本実施形態にかかるタイヤを車両に装着したときの車両外側(以下、タイヤ装着外側という)となる向きを示している。
【0043】
図10に示すように、このタイヤは、トレッド踏面1に、タイヤの赤道CLに沿って延びる3本の周方向溝8a、8bおよび8cと、トレッド端TEとによって区画された、陸部9、10a、10bおよび11を有する。
【0044】
この種のタイヤにおいて、
図10に示すように、少なくともタイヤ装着外側のトレッド端TEに隣接する陸部9には、トレッド周方向に等間隔を置いて配置された、複数本のサイプ12を有する。
該サイプ12は、
図1におけるサイプ5と同様に、トレッドの接地域内にある水分を内部に収容し、接地域外で排出することの繰り返しによって、タイヤの排水性能を助長する。
【0045】
ここで、サイプ12を少なくともタイヤ装着外側のトレッド端TEに隣接する陸部9に設けることとしたのは、次のとおりである。すなわち、タイヤの負荷転動時にトレッド幅側の接地圧分布は中央域に比較して高くなり、さらには、高速走行時におけるコーナリングの際等には、タイヤ装着方向外側で特に高くなる傾向にある。よって、タイヤ装着方向外側のトレッド端TEに隣接する陸部の排水性を高めることがいわゆるウェット性能の向上に有効であるため、少なくとも陸部9にサイプ12を形成する。
【0046】
上記したタイヤ装着外側のトレッド端TEに隣接する陸部9については、そのタッキネスを
図1におけるサイプ5を設けてある陸部と同様に規定する。
この陸部9のタッキネスを所定の温度毎に規定することによって、湿潤路面での排水性と乾燥路面での操縦安定性とが高次元で両立されるのは上述の通りである。
【0047】
また、サイプ12は、周方向溝8aからトレッド端TE側に向かって延びていればよいが、赤道CLに対する傾斜角度β(
図10参照)が30°以上60°以下で延在することが好ましい。このような傾斜角度により、湿潤路面における排水性とエッジ成分の増加によるウェット性能を総合的に高めることができる。
【0048】
また、サイプ12は、図示のように面取り部12aおよび12bを設けることができる。この面取り部は、横溝6を区画する溝壁の双方の開口縁を、
図7に示したと同様に、トレッド表面からサイプ深さ方向へ斜めの直線状に面取りした場合の面取り部を指す。なお、面取り部を12aまたは12bのいずれか一方とする場合はこの種の非対称パターンにおいては、前進回転する場合にサイプ12を挟んで後に接地する、12bとすることが好ましい。
【0049】
なお、陸部10a、10b、11には、各陸部を区画する周溝8a、8b、8c、タイヤ装着内側のトレッド端TEに両端が開口する横溝13、14、15をそれぞれ形成することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれだけに限定されるものではない。
【0051】
図1および
図6に示すトレッドパターンに従う、サイズ205/55R16のタイヤを、表1に示す各諸元の下にそれぞれ試作した。なお、サイプの深さhは全ての供試タイヤで4mmとしている。得られた各供試タイヤをリム(サイズ:6.5J)に組み付け、内圧(240kPa)を付与した後、排気量2000ccの後輪駆動車両に装着し、1名乗車状態によりテストコースを走行することにより、以下の評価を行った。
なお、表1における、水分環境下におけるタッキネスおよび90℃環境下におけるタッキネスは、上述の試験手順に従って測定した値である。
【0052】
[操縦性能の評価]
上記各タイヤについて、乾燥路面のテストコースおよび湿潤路面のテストコース(水深1mm)を走行した際の、ラップタイムの測定とにより、操縦性能を評価した。
その結果を、供試タイヤ1(比較例)にかかるタイヤの評価結果を100とした場合の指数にて表示した。なお、指数が大きい程、操縦性能に優れていることを表す。
さらに、各実施例におけるサイプの開閉状態も操縦性能を評価するため表示している。サイプの開閉状態は、目視およびサイプ幅よりも薄い金属板をサイプに挿入できるか否かにより判別して評価した。なお、目視によりサイプが閉状態かつ上記金属板をサイプに挿入できない場合は固着している(○)、目視によりサイプが開状態かつ上記金属板をサイプに挿入できる場合は固着していない(×)ものとし、目視によってサイプの延在方向の一部が固着していない、または、上記金属板が深さ方向の途中までしか挿入できない場合は、一部が固着していない(△)と評価した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
試験結果に示すように、比較例に比べて発明例のDRY操縦評価路における操縦安定性およびラップタイムは優れており、WET操縦評価路においても、発明例は比較例よりもラップタイムにおいて優れている。よって、発明例においては、乾燥路面および湿潤路面におけるタイヤの操縦性能が向上し、操縦安定性および排水性を高い次元で両立することが可能となっている。