(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線板や電子部品の実装工程で、最終表面処理として、無電解ニッケルめっき上に置換型金めっきを形成するENIG(Electroless Nickel Immersion Gold)プロセスがある。このプロセスは、はんだ接合に使用可能である。また該ENIGプロセス後に厚付け金を施すことによって、ワイヤボンディングにも使用することができる。
【0003】
一方、下地無電解ニッケルめっき上に無電解パラジウムめっきを介して金めっきを形成する、ENEPIG(Electroless Nickel Electroless Palladium Immersion Gold)プロセスも上記最終表面処理として採用されている。このプロセスは、鉛フリーはんだ接合に最適である。またワイヤボンディングにも適している。
【0004】
上記ENIGプロセスとENEPIGプロセスは、めっき被処理物の用途に応じて選択され、いずれのプロセスも、最終的に金めっきが施される。しかし該金めっきを形成するにあたり、前者はイオン化傾向の大きい(酸化還元電位の低い)ニッケルを下地とするのに対し、後者はイオン化傾向の小さい(酸化還元電位の高い)パラジウムを下地とする点で異なっている。よってこれまでは、各プロセスに応じた金めっき浴が用いられていた。
【0005】
また、上記金めっき浴として、従来はシアン金めっき浴が汎用されていたが、シアンの有毒性に鑑みて、非シアン化タイプの金めっき浴が求められている。
【0006】
例えば、上記ENEPIGプロセスに用いる非シアン化タイプの金めっき浴として、特許文献1には、プリント配線板の導体部分に、無電解ニッケルめっき皮膜、無電解パラジウムめっき皮膜及び無電解金めっき皮膜を順次形成するにあたり、前記無電解金めっき皮膜の形成に用いる金めっき液が、水溶性金化合物、還元剤及び錯化剤を含有する水溶液からなり、該還元剤が、ホルムアルデヒド重亜硫酸類、ロンガリット及びヒドラジン類からなる群から選ばれた少なくとも一種であることが示されている。また特許文献2には、無電解パラジウムめっき皮膜上に、自己触媒還元反応で直接金皮膜を析出させることのできる無電解金めっき液として、非シアンの亜硫酸金塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、水溶性ポリアミノカルボン酸、ベンゾトリアゾール化合物、硫黄を含有するアミノ酸化合物、ヒドロキノンを所定の濃度で含有しためっき液が示されている。
【0007】
しかしながら、めっき被処理物の用途に応じて、各プロセス用のめっき浴を準備したりめっき浴を交換することは、工程数とコストがかかり、作業性や経済性の点から実用的ではない。よって、ENIGプロセスとENEPIGプロセスのいずれの金めっき形成にも用いることのできる金めっき浴が望まれていた。
【0008】
更に、上記非シアン化タイプの金めっき浴は、シアン金めっき浴と比較すると、浴安定性やめっき反応性の低下が生じやすい傾向にある。よって、非シアン化タイプの金めっき浴には、浴安定性とめっき反応性の兼備が好ましい特性として求められる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、還元剤として、ギ酸またはその塩、およびヒドラジン類を含む置換還元タイプのノンシアン無電解金めっき浴とすれば、下地であるニッケルめっき等の過剰な腐食を生じさせることなく金の析出反応性を高めることができ、ENIGプロセスとENEPIGプロセスの両方に使用できることを見出し、本発明を完成させた。以下、本発明のノンシアン無電解金めっき浴を「無電解金めっき浴」または「金めっき浴」ということがある。下記では、本発明のノンシアン無電解金めっき浴に含まれる各化合物について説明する。
【0017】
(A)ヒドラジン類
ヒドラジン類は、特にパラジウム上へのめっき析出性向上に寄与する化合物であり、ENEPIGプロセスでのパラジウムめっき上への金めっき形成を促進させる。またヒドラジン類は、良好なめっき外観の確保にも寄与し、その結果、良好なはんだ接合性やワイヤボンディング接合性(W/B接合性)の確保にも寄与する化合物である。一方、ヒドラジン類は、ENIGプロセスでは、ニッケルめっき上で置換反応を必要以上に促進させ、ニッケルめっきの過剰な腐食を招くと考えられる。しかし後述の通り、ギ酸またはその塩と併用することによって、このニッケルめっきの過剰な腐食を抑制することができる。
【0018】
前記ヒドラジン類としては、ヒドラジン;ヒドラジン・1水和物等の抱水ヒドラジン;炭酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、中性硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン等のヒドラジン塩;ピラゾール類、トリアゾール類、ヒドラジド類等のヒドラジンの有機誘導体;等を用いることができる。前記ピラゾール類としては、ピラゾールの他に、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチル−5−ピラゾロン等のピラゾール誘導体を用いることができる。前記トリアゾール類としては、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、1,2,3−トリアゾール等を用いることができる。ヒドラジド類としては、アジピン酸ジヒドラジド、マレイン酸ヒドラジド、カルボヒドラジド等を用いることができる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。好ましくは、ヒドラジン・1水和物等の抱水ヒドラジン、硫酸ヒドラジンである。これらを単独または2種以上を併せて用いることができる。
【0019】
上記ヒドラジン類の合計濃度は、好ましくは0.1〜5g/Lである。より好ましくは0.3〜3g/Lである。
【0020】
(B)ギ酸またはその塩
ギ酸またはその塩は、上記ヒドラジン類による過剰な置換反応を抑制する効果を有すると考えられる。以下、「ギ酸またはその塩」を総称してギ酸類ということがある。特に、ENIGプロセスにおける金めっき時に、下地であるNi皮膜の過剰な腐食を抑制することができる。一方、上記ヒドラジン類と併用せずギ酸類のみを用いた場合、特にENEPIGプロセスにおいて、金の析出反応性が低下しやすい。具体的には、下地であるパラジウムめっき上への金の析出反応性が悪く、金めっきの膜厚の確保が困難となる。よって、上述したヒドラジン類との併用が必要となる。ヒドラジン類とギ酸類との併用により、上記ニッケルめっきの過剰な腐食が抑制され、はんだ接合性やW/B接合性の確保にも寄与する。
【0021】
前記ギ酸の塩としては、例えばギ酸カリウム、ギ酸ナトリウム等のギ酸のアルカリ金属塩;ギ酸マグネシウム、ギ酸カルシウム等のギ酸のアルカリ土類金属塩;ギ酸のアンモニウム塩、第4級アンモニウム塩、第1級〜第3級アミンを含むアミン塩;などが挙げられる。本発明では、ギ酸またはその塩を、単独でまたは2種以上併せて用いることができる。
【0022】
上記ギ酸類の合計濃度は、1〜100g/Lの範囲内で含有させることが好ましい。上記効果を十分に発揮させるには、1g/L以上とすることが好ましく、より好ましくは5g/L以上、更に好ましくは10g/L以上である。一方、過剰に含まれると浴が不安定になりやすいため、上記の通り100g/L以下とすることが好ましい。
【0023】
つまり本発明では、還元剤としてヒドラジン類とギ酸類とを併用することによって、ENIGプロセスの金めっき処理では、ヒドラジン類によるニッケル腐食性(置換反応)がギ酸類により抑制され、金めっきの下地であるニッケルめっきの腐食を抑制できる。一方、ENEPIGプロセスの金めっき処理では、ヒドラジン類のパラジウムめっき上への高い反応性により、ギ酸単独で使用の場合よりも金めっきの形成が促進され、金めっきの厚膜化が可能となった。これは、還元反応が促進されたためと考えられる。
【0024】
本発明の金めっき浴は、上記ヒドラジン類とギ酸類の他、水溶性金塩と錯化剤とを必須とする、シアンを含まない無電解金めっき浴である。また後述の通り、ヒドラジン類とギ酸類以外の還元剤を用いてもよい。以下、上記水溶性金塩から順に説明する。
【0025】
まず本発明の無電解金めっき浴は、金源として、水溶性金塩を含有する。上述の通り水溶性金塩はノンシアンであり、具体的には、金の亜硫酸塩、チオ硫酸塩、チオシアン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、メタンスルホン酸塩、テトラアンミン錯体、塩化物、臭化物、ヨウ化物、水酸化物、酸化物等が挙げられる。これらを単独でまたは2種以上併せて用いることができる。めっき浴中の水溶性金塩の合計濃度は、金(Au)濃度として0.3〜5g/L、特に0.5〜4g/Lが好ましい。0.3g/L未満では、析出速度が遅くなる場合がある。一方、5g/Lを超えると、安定性が低下する場合があり、増量しても効果はほとんど変わらず、また、コストも高くなる。
【0026】
本発明の無電解金めっき浴は、還元剤として、上記ヒドラジン類とギ酸類の他、次の還元剤を更に有していてもよい。即ち、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸(エリソルビン酸)等のアスコルビン酸化合物又はその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等);ヒドロキノン、メチルヒドロキノン等のヒドロキノン又はその誘導体;ピロガロール、ピロガロールモノメチルエーテル、ピロガロール−4−カルボン酸、ピロガロール−4,6−ジカルボン酸、没食子酸等のピロガロール又はその誘導体;が挙げられる。これらを単独でまたは2種以上併せて用いることができる。本発明では、還元剤として、上記ヒドラジン類とギ酸類の併用が必須であって、上記ヒドラジン類とギ酸類以外の還元剤として例えばアスコルビン酸を、ギ酸類と併用しても、所望とする特性は得られないことを、後述する実施例のNo.10で示している。
【0027】
金めっき浴中のヒドラジン類とギ酸類以外の上記還元剤の合計濃度は、0.5〜50g/L、特に1〜10g/Lであることが好ましい。
【0028】
本発明の無電解金めっき浴は、錯化剤を含有する。錯化剤としては、溶出する金属(例えば、ニッケル、パラジウム等)の錯化作用を有する錯化剤、金の錯化作用を有する錯化剤が好適である。前記溶出する金属の錯化作用を有する錯化剤であって好適なものとして、グリコール酸、ジグリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、ヘプトグルコン酸等の、ヒドロキシカルボン酸又はそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等);グリシン、アミノジカルボン酸、ニトリロ3酢酸、EDTA、ヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、ポリアミノカルボン酸等のアミノカルボン酸又はそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、塩酸塩、硫酸塩等);HEDP(ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸)、アミノトリメチルスルホン酸、エチレンジアミンテトラメチルスルホン酸等の亜リン酸系キレート剤又はそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、塩酸塩、硫酸塩等);エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアミン系キレート剤及びその塩(塩酸塩、硫酸塩等);などが挙げられる。これらを単独でまたは2種以上併せて用いることができる。
【0029】
また金の錯化作用を有する錯化剤であって好適なものとして、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、重亜硫酸アンモニウム、二亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸カリウム、二亜硫酸アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム、ヒダントイン化合物、イミド化合物などが挙げられる。これらを単独または2種以上を併せて用いることができる。より好ましくは亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム等が用いられる。
【0030】
金めっき浴中の、前記溶出する金属の錯化作用を有する錯化剤と前記金の錯化作用を有する錯化剤との合計濃度は、1〜200g/L、特に10〜150g/Lであることが好ましい。
【0031】
本発明の無電解金めっき浴は、更に、ニトロ基を有する化合物を含むことが好ましい。このニトロ基を有する化合物を含むことによって、シアンを含まなくとも、めっき反応性、即ち、金の析出反応性を損なわずに、浴安定性を十分に確保することができる。この作用機構として、ニトロ基が金を捕捉して安定化していることが考えられる。これに対し、ニトロ基を含まない例えば単なるカテコールや安息香酸では安定性の効果を示さない。
【0032】
上記ニトロ基を有する化合物として、例えばニトロ基を有する芳香族化合物が挙げられる。該ニトロ基を有する芳香族化合物として、例えばニトロベンゼン;ニトロフェノール、4−ニトロカテコール等のニトロ基と水酸基を有する芳香族化合物;ニトロトルエン、ニトロキシレン、ニトロスチレン等のニトロ基とアルキル基を有する芳香族化合物;ニトロアニリン、4−ニトロ−1,2−フェニレンジアミン等のニトロ基とアミノ基を有する芳香族化合物;ニトロチオフェノール、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸等のニトロベンゼンスルホン酸等のニトロ基と硫黄含有基を有する芳香族化合物;が挙げられる。更には、ニトロ基とカルボキシル基を有するニトロ安息香酸として、2−ニトロ安息香酸、3,5−ジニトロ安息香酸、3,4−ジニトロ安息香酸、アミノ基を更に有する5−アミノ−2−ニトロ安息香酸等が挙げられる。その他、ニトロ基と共に、ハロゲン基、エステル基、エーテル基、カルボニル基、アルデヒド基等を有する芳香族化合物が挙げられる。またはこれらニトロ基を有する芳香族化合物の塩として、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等を用いることもできる。
【0033】
例えば上記ニトロ安息香酸の場合、ニトロ基がカルボキシル基に隣接した位置にあると、安定性の効果が大きくなるため好ましい。即ち、安定性の効果の大きさは、2−ニトロ安息香酸>3−ニトロ安息香酸>4−ニトロ安息香酸の順である。
【0034】
上記ニトロ基を有する化合物として、上述したニトロ基を有する芳香族化合物の他に、ニトロ基を有する脂肪族化合物も用いることができる。
【0035】
より好ましくはニトロ基と共に電子供与性基を有する化合物、特にはニトロ基と共に電子供与性基を有する芳香族化合物である。電子供与性基を有していると、ニトロ基の安定化の効果が大きくなる。ニトロ基が2つ隣接したジニトロの場合も、ニトロ基2つでトラップする形となり安定性への効果が大きくなると考えられる。前記電子供与性基として、例えば、水酸基、アルキル基、アミノ基、硫黄含有基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン基、エーテル基などが挙げられる。これらのうちの1以上を有していることが好ましい。
【0036】
上記ニトロ基を有する化合物は、上述した様な化合物を、単独または2種以上を併せて用いることができる。上記ニトロ基を有する化合物の合計濃度は、例えば0.0010〜5g/Lの範囲とすることが好ましい。上記合計濃度が0.0010g/Lを下回ると上記効果が得られにくいためである。上記合計濃度は、より好ましくは0.005g/L以上、更に好ましくは0.010g/L以上である。一方、上記ニトロ基を有する化合物の濃度が高すぎると、下地であるニッケルめっきの表面が腐食されやすくなる。よって上記合計濃度は、上記の通り5g/L以下とすることが好ましく、より好ましくは4g/L以下、更に好ましくは3g/L以下である。
【0037】
本発明の無電解金めっき浴のpHは5〜10であることが好ましい。この範囲を下回ると金の析出速度が低下しやすく、一方、上記範囲を超えると浴が不安定になりやすいからである。上記pHはより好ましくは6〜9である。
【0038】
本発明の無電解金めっき浴には、本発明の目的を損なわない範囲で、公知のpH調整剤、pH緩衝剤、その他の添加剤が適宜含まれていてもよい。上記pH調整剤としては、例えば酸として塩酸、硫酸、硝酸、りん酸、カルボン酸等、アルカリとして水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等が挙げられる。また、上記pH緩衝剤としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フタル酸等のカルボン酸;正リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸等のリン酸、またはそれらのカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等のリン酸塩;ホウ酸、四ホウ酸;等が挙げられる。その他、金属イオン隠蔽剤として、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール等のアゾール類、フェナントロリン、ビピリジル、サリチル酸塩等が挙げられる。また補助錯化剤として、EDTA、EDTMPなどのアミノカルボン酸、アンモニウム塩、塩化物等が挙げられる。また安定剤としては、例えば含硫黄複素化合物(2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール等)、含窒素複素化合物(ベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール等)等が挙げられる。
【0039】
本発明の無電解金めっき浴には、更に、タリウム化合物、ヒ素化合物、および鉛化合物のうちの1種以上を添加することができる。これらの化合物は、金めっき速度の向上や結晶調整剤として作用する。該化合物として具体的には、化合物を構成する金属(ヒ素、タリウム、鉛)の、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩等が挙げられる。金めっき浴中の上記結晶調整剤の濃度は、金属濃度として例えば合計で0.1〜100mg/Lとすることが好ましく、より好ましくは合計で0.2〜50mg/L、更に好ましくは合計で0.2〜20mg/Lである。
【0040】
本発明は、上記ノンシアン無電解金めっき浴を用いて無電解金めっき方法を行うことも規定する。金めっきを施すめっき被処理物は、その表面が、ニッケルまたはニッケル合金であることが挙げられる。上述したENIGプロセスでは、めっき被処理物の表面が無電解ニッケルめっきまたは無電解ニッケル合金めっき(以下「無電解ニッケル系めっき」という)である場合が挙げられる。前記ニッケル合金としては、ニッケル−リン合金、ニッケル−ホウ素合金などが挙げられる。
【0041】
金めっきを施すめっき被処理物は、その表面が、パラジウムまたはパラジウム合金であってもよい。上述したENEPIGプロセスでは、めっき被処理物の表面が無電解パラジウムめっきまたは無電解パラジウム合金めっき(以下「無電解パラジウム系めっき」という)である場合が挙げられる。前記パラジウム合金としては、パラジウム−リン合金などが挙げられる。
【0042】
ENIGプロセスでは、例えば電極を構成するAlやAl基合金、CuやCu基合金の上に、無電解ニッケル系めっき、次いでその上に無電解金めっきを形成し、ENEPIGプロセスでは、例えば電極を構成するAlやAl基合金、CuやCu基合金の上に、無電解ニッケル系めっき、次いで、無電解パラジウム系めっき、次いでその上に無電解金めっきを形成するが、上記無電解ニッケル系めっきや無電解パラジウム系めっきの形成は、通常行われている方法を採用すればよい。
【0043】
上記ENIGプロセスとENEPIGプロセスのいずれにおいても、無電解金めっきの形成は、本発明のノンシアン無電解金めっき浴を用いること以外は、通常行われている条件を採用すればよい。例えば本発明の無電解金めっき浴に3〜20分程接触させることが挙げられる。該接触として浸漬等の従来公知の方法を採用できる。無電解金めっき浴の使用温度は、40〜90℃であることが好ましい。上記範囲未満であると析出速度が低下するおそれがあり、一方、上記範囲を超えると浴が不安定になるおそれがある。上記使用温度は好ましくは50〜80℃である。
【0044】
本発明の無電解金めっき浴およびこれを用いた無電解金めっき方法は、プリント配線基板、セラミックス基板、半導体基板、ICパッケージ等の電子部品の配線回路実装部分や端子部分を金めっき処理する場合に好適である。特には、ウェハー上のAl電極またはCu電極に対して、はんだ接合およびワイヤボンディング(W/B)接合を目的としたUBM(Under Barrier Metal)形成技術に好適に用いられる。本発明の金めっき浴を用いることによって、UBM形成技術の一部である無電解金めっきの形成を安定して行うことができ、その結果、安定した皮膜特性を実現することが可能となる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0046】
[金めっきの膜厚測定、ニッケルめっきの腐食の有無の確認、および金めっきの外観観察のための試料の作製]
〔ENIGプロセスの試料〕
上記金めっきの膜厚測定等に用いるENIGプロセスの試料は、次の様にして得た。即ち、電極がAl基合金であるAl−CuからなるTEGウェハーを用意し、この電極上に、無電解ニッケルめっき浴(上村工業株式会社製 NPR−18)を用い、無電解めっき法により5.0μm厚みのニッケルめっきを形成し、次いで、表1に示す無電解金めっき浴を用いて、無電解金めっきを施して得た。この試料を以下「ENIGプロセスの試料I」ということがある。
【0047】
〔ENEPIGプロセスの試料〕
上記金めっきの膜厚測定等に用いるENEPIGプロセスの試料は、次の様にして得た。即ち、電極がAl基合金であるAl−CuからなるTEGウェハーを用意し、この電極上に、無電解ニッケルめっき浴(上村工業株式会社製 NPR−18)を用い、無電解めっき法により5.0μm厚みのニッケルめっきを形成し、次いで該ニッケルめっき上に、無電解パラジウムめっき浴(上村工業株式会社製 TFP−30)を用い、無電解めっき法により0.05μm厚みのパラジウムめっきを形成し、更に、表1に示す無電解金めっき浴を用いて、無電解金めっきを施して得た。この試料を以下「ENEPIGプロセスの試料I」ということがある。
【0048】
上記ENIGプロセスとENEPIGプロセスの各試料作製で行った無電解金めっきの更なる条件は次の通りである。即ち、無電解金めっき浴には、金源として亜硫酸金ナトリウム溶液(Au濃度=100g/L)を用い、後記表1には無電解金めっき浴中のAu濃度を示している。またタリウム(Tl)化合物として炭酸タリウムを用い、後記表1には無電解金めっき浴中のTl濃度を示している。前記無電解金めっき浴の温度は75℃とし、前記無電解金めっき浴への浸漬を、ENIGプロセスの試料Iの場合は20分間、ENEPIGプロセスの試料Iの場合は30分間行って金めっきを形成した。尚、後記の表1のNo.1、2、4および6のENEPIGプロセスの試料Iでは、金めっきの膜厚を早期に確保できたため、浸漬時間を20分間とした。
【0049】
[ENIGプロセスまたはENEPIGプロセスにおける金めっきの膜厚の測定]
上記ENIGプロセスの試料IとENEPIGプロセスの試料Iの、形成された金めっきの膜厚を蛍光X線膜厚計で測定した。そして特に、ENEPIGプロセスにおけるパラジウムめっき上への金めっきの膜厚が0.05μm以上の場合を、ENEPIGプロセスに適用可能な金めっき浴であると評価した。
【0050】
[SEM観察によるニッケルめっきの腐食の有無]
ENIGプロセスの試料Iの金めっきを金剥離液で除去することにより現れるニッケルめっき表面を、SEMにて倍率5000倍で観察し、腐食痕の有無を確認した。そして腐食痕が確認されたものをニッケルめっきの腐食「あり」と評価し、腐食痕が確認されなかったものをニッケルめっきの腐食「無」と評価した。参考までに
図1にSEM観察写真を示す。
図1(a)がニッケルめっきの腐食痕の確認されない本発明例の写真であり、
図1(b)がニッケルめっきの腐食痕の確認された比較例の写真である。
【0051】
[金めっきの外観観察]
上記ENIGプロセスの試料IとENEPIGプロセスの試料Iの、金めっきの表面を目視で観察した。そして、均一に金色のめっき外観を呈しているものを「良好」、金色ではなく赤変色しているものを「不良」と評価した。
【0052】
[はんだ接合性とワイヤボンディング(W/B)性の評価用試料の作製]
〔ENIGプロセスの試料〕
はんだ接合性およびW/B性の評価に用いるENIGプロセスの試料は、上村工業株式会社製BGA基板(パット径φ0.5mm)を用意し、この基板上に、前述のENIGプロセスの試料Iと同様に、無電解ニッケルめっき浴(上村工業株式会社製 NPR−18)を用い、無電解めっき法により5.0μm厚みのニッケルめっきを形成し、次いで、表1に示す無電解金めっき浴を用い、無電解金めっきを施すことによって得た。この試料を以下「ENIGプロセスの試料II」ということがある。
【0053】
〔ENEPIGプロセスの試料〕
はんだ接合性およびW/B性の評価に用いるENEPIGプロセスの試料は、上村工業株式会社製BGA基板(パット径φ0.5mm)を用意し、この基板上に、前述のENEPIGプロセスの試料Iと同様に、無電解ニッケルめっき浴(上村工業株式会社製 NPR−18)を用い、無電解めっき法により5.0μm厚みのニッケルめっきを形成し、次いで無電解パラジウムめっき浴(上村工業株式会社製 TFP−30)を用い、前記ニッケルめっき上に無電解めっき法により0.05μm厚みのパラジウムめっきを形成し、更に、表1に示す無電解金めっき浴を用いて、無電解金めっきを施して得た。この試料を以下「ENEPIGプロセスの試料II」ということがある。
【0054】
[はんだ接合性の評価]
上記ENIGプロセスの試料IIとENEPIGプロセスの試料IIを用い、Dage社製ボンドテスタSERIES4000を用いて1条件につき20点評価した。詳細には、表1の各No.につき、
ENIGプロセスの試料IIを用い、下記リフロー回数が1回の場合;
ENEPIGプロセスの試料IIを用い、下記リフロー回数が1回の場合;
ENIGプロセスの試料IIを用い、下記リフロー回数が5回の場合;および
ENEPIGプロセスの試料IIを用い、下記リフロー回数が5回の場合;
の合計4条件×20=80点のはんだ接合強度を測定した。該はんだ接合強度として、破壊モードのはんだ破断率を求めた。はんだ形成とはんだ接合強度測定の条件は下記の通りである。本実施例では、はんだ破断率が85%以上の場合を、はんだ接合性が「良」、はんだ破断率が85%未満の場合を、はんだ接合性が「不良」と評価した。
【0055】
〔はんだ形成とはんだ接合強度測定の条件〕
測定方式:ボールプルテスト
半田ボール:千住金属製 φ0.6mm Sn−3.0Ag−0.5Cu
リフロー装置:タムラ製作所製TMR−15−22LH
リフロー条件:Top 240℃
リフロー環境:Air
リフロー回数:1回または5回
フラックス:千住金属製 529D−1(RMAタイプ)
テストスピード:5000μm/秒
半田マウント後エージング:1時間
【0056】
[ワイヤボンディング(W/B)性の評価]
上記ENIGプロセスの試料IIとENEPIGプロセスの試料IIを用い、TPT社製セミオートマチックワイヤボンダHB16によりワイヤボンディングを行って、Dage社製ボンドテスタSERIES4000により1条件につき20点評価した。詳細には、表1の各No.につき、ENIGプロセスの試料IIを用いた場合とENEPIGプロセスの試料IIを用いた場合の、合計2条件×20=40点のワイヤボンディング強度(W/B強度)を測定し、その平均値であるW/B平均強度と、標準偏差とを算出した。更に、それらを基にして変動係数(=標準偏差÷平均値×100)を求めた。ワイヤボンディング形成条件とワイヤボンディング性評価の条件は下記の通りである。そして、W/B平均強度が8gf以上、かつ変動係数が15%以下の場合を、ワイヤボンディング性が「良」と評価し、上記W/B平均強度と変動係数の少なくともいずれかが上記範囲を外れる場合を、ワイヤボンディング性が「不良」と評価した。
【0057】
〔ワイヤボンディング形成とワイヤボンディング性評価の条件〕
キャピラリー:B1014−51−18−12(PECO)
ワイヤ:1Mil−Gold
ステージ温度:150℃
超音波(mW):250(1st),250(2nd)
ボンディング時間:(ミリ秒):200(1st),50(2nd)
引っ張り力(gf):25(1st),50(2nd)
ステップ(第1から第2への長さ):0.700mm
測定方式:ワイヤープルテスト
テストスピード:170μm/秒
【0058】
そして本実施例では、上記はんだ接合性と上記ワイヤボンディング性のいずれもが「良」である場合を、はんだ接合性およびW/B性が「良好」と評価し、上記はんだ接合性と上記ワイヤボンディング性の少なくともいずれかが「不良」である場合を、はんだ接合性およびW/B性が「不良」と評価した。
【0059】
[浴安定性の評価]
表1に示す各浴組成の無電解金めっき浴を70℃の温度で1ヶ月放置して浴の安定性を評価した。1ヶ月放置しても分解しなかったものを「安定」、1ヶ月たたないうちに分解したものを「不安定」と評価した。
【0060】
これらの結果を表1に併記する。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から次のことがわかる。No.1〜6は、規定のギ酸類とヒドラジン類とを併用した金めっき浴を用いて金めっきを行ったため、金めっきの膜厚は、ENEPIGプロセスの場合も十分確保でき、かつENIGプロセスにおいてニッケルめっきの腐食も抑えられ、良好なめっき外観が得られた。また、これらの例はいずれもはんだ接合およびワイヤボンディング接合を共に良好に行うことができた。尚、No.1〜3とNo.4の対比から、十分な浴安定性確保の観点からはニトロ基を有する化合物を更に含む金めっき浴が好ましいことがわかる。またNo.3とNo.5の対比から、ギ酸類の含有量を推奨される上限以下(100g/L以下)とすることが好ましいことがわかる。
【0063】
これに対し、No.7〜10は、規定のギ酸類とヒドラジン類のいずれかを含んでいないため、不具合が生じた。詳細には、No.7とNo.8はギ酸類を含んでいないため、ニッケルめっきの腐食が発生した。その結果、はんだ接合性およびW/B性が不良となった。またNo.9はヒドラジン類を含んでいない例である。この例では、ENEPIGプロセスにおいて金めっきの膜厚が薄くなった。またNo.10は、ヒドラジン類の代わりに還元剤であるアスコルビン酸を、ギ酸類と併用した例である。この例においても、ENEPIGプロセスにおいて金めっきの膜厚が薄くなった。またNo.9と10では金めっきの外観が赤変色となった。この様な赤変色の不良が生じことに起因して、はんだ接合性およびW/B性が不良となった。