(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594104
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】改質用触媒の再生方法。
(51)【国際特許分類】
B01J 38/18 20060101AFI20191010BHJP
B01J 38/12 20060101ALI20191010BHJP
B01J 23/755 20060101ALI20191010BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20191010BHJP
B01J 23/94 20060101ALI20191010BHJP
B01J 23/96 20060101ALI20191010BHJP
C10J 3/54 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
B01J38/18
B01J38/12 C
B01J23/755 M
B01J23/46 301M
B01J23/94 M
B01J23/96 M
C10J3/54 J
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-163567(P2015-163567)
(22)【出願日】2015年8月21日
(65)【公開番号】特開2017-39101(P2017-39101A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】杉村 枝里子
(72)【発明者】
【氏名】澤田 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 直人
【審査官】
西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−111543(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2011−0052839(KR,A)
【文献】
特開2006−326521(JP,A)
【文献】
特開2001−220103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス資源を熱分解・ガス化処理して改質ガスを生じさせるガス化処理システムにおける改質炉に設置される改質用触媒の再生方法であって、改質反応に伴って生じ該改質用触媒に付着した付着物を空気または酸素により酸化除去する工程と、前記の酸化除去する工程により酸化された改質用触媒を改質ガスにより還元する工程とを含み、
改質炉を2炉以上設置するかまたは1炉中に2以上の複数の区画を設置し、このうちの1炉または1区画について改質用触媒の再生を行っている間に、他の炉または区画において改質を行い、改質を行っている炉または区画から生じた改質ガスの一部を引き抜き、これを還元する工程にある改質炉に循環させることを特徴とする改質用触媒の再生方法。
【請求項2】
前記ガス化処理システムは改質ガスを燃料として駆動するガスエンジンを備え、
前記酸化除去する工程における酸化処理により生じた排ガスを、前記ガスエンジンの前側に導入する、請求項1に記載の改質用触媒の再生方法。
【請求項3】
前記ガス化処理システムは改質ガスに含まれる不要物が取り除かれるガス精製設備を備え、
前記還元する工程における還元処理中にある改質炉に、前記ガス精製後の改質ガスの一部を循環させる、請求項1または2に記載の改質用触媒の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質炉に設置される改質用触媒の再生方法、より具体的には、バイオマス等の炭素質原料由来のガス化ガスを改質する際に使用する改質用触媒の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一般廃棄物などのバイオマス資源を熱分解・ガス化処理してガスエンジン等に燃料として供給される改質ガスを生じさせるガス化処理システムが知られている。
【0003】
このようなシステムの概略を
図3に示す。従来の方法では、
図3に示すように、バイオマス等に含まれる炭素質原料(1)を破砕機(2)での破砕処理の後、500〜700℃のガス化炉(3)で熱分解・ガス化することでガス、タール、チャーが生じる。これらは後段の改質炉(4)に移され、この改質炉(4)では、水蒸気を用いてタールやチャーをガスへ改質させる。改質炉(4)からの改質ガスは、ガス精製(5)の後、ガスエンジン(6)に供給され、ガスエンジン(6)の駆動後の排ガスは、熱交換(7)の後、煙突(8)を介して外部に放出される。
【0004】
改質炉(4)における改質方法として、水蒸気改質法が知られている。水蒸気改質法は、水蒸気とガス化ガスに含まれる炭化水素を1000〜1200℃の高温で熱反応させることによりH
2、CO等のガスへ転化させる方法である。
【0005】
これに対して、改質炉(4)における改質反応に際して改質用触媒を用いる触媒改質法が知られている(特許文献1〜3)。このような触媒改質法により改質を行う場合、800〜1000℃の程度の比較的低温でも触媒無しの水蒸気改質法と同等以上の効果が得られることが知られている。
【0006】
改質用触媒における改質活性成分としては、Ni、Rh、Ru、Pt、Cu、La、Mn、Mgなどの金属が知られており、改質炉(4)で生成した改質ガスは、ガス精製設備(5)において硫黄成分等の不純物が取り除かれた後、ガスエンジン(6)等の内燃機関に送られ、ここで発電される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2001−501861号公報
【特許文献2】特開2008−132458号公報
【特許文献3】特開2013−78743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般廃棄物等のバイオマスを原料とする触媒改質法では、改質炉にタールやチャーが投入されると共に、HClやSOx、H
2Sなどが同伴されるため、長時間の使用により改質用触媒の表面上に炭素析出(コーキング)や硫黄等の酸性成分が付着し、これにより改質用触媒の活性が低減し最終的には失活してしまうことが問題となっていた。
【0009】
また、Niなどを用いた改質用触媒では、改質に際して当該金属成分が0価の状態であることが望ましく、金属が酸化された状態にある場合には改質効果が低くなる傾向がある。
【0010】
一方、改質炉は800℃以上で運転する必要があるため、ガス化炉で生成したガス化ガス(ガス、タール、チャー)の一部を空気または酸素により改質炉中で燃焼させることで改質炉の温度が維持されるようにしている。このことから、改質炉は局所的に酸化雰囲気となり、触媒中の金属が一部酸化されてしまうという問題もある。
【0011】
従来は、改質用触媒の活性が低下すれば、その時点で新しい改質用触媒に取り替えるようにしているが、費用面から取替えまでの期間がなるべく長い改質用触媒を使用することが望ましく、活性が低下しにくい改質用触媒の開発が行われてきた(例えば、特許文献2および3)。しかしながら、そのような特殊な触媒を得るためには、触媒活性成分以外の金属を含有させ、かつ、そのような多種の成分の配合割合を調整する必要があり、費用の面および調製の面で問題があり、尚且つ、そのような触媒にあってもいずれ失活してしまいそのための再生を行わなければならないという問題は解消されていない。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、改質触媒が失活してもその取り替えの必要がなく、容易に再生することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討した結果、下記発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、改質炉に設置される改質用触媒の再生方法であって、改質反応に伴って生じ該改質用触媒に付着した付着物を空気または酸素により酸化除去する工程と、前記の酸化除去工程により酸化された改質用触媒を改質ガスにより還元する工程とを含むことを特徴とするものである。
【0015】
好ましくは、改質炉を2炉以上設置するかまたは1炉中に2以上の複数の区画を設置し、このうちの1炉または1区画について改質用触媒の再生を行っている間に、他の炉または区画において改質を行う。
【0016】
好ましくは、改質を行っている炉または区画から生じた改質ガスの一部を、再生を行っている炉または区画の還元工程に投入する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の改質用触媒の再生方法では、第1の工程において、改質用触媒上のコーキングまたは酸性成分の析出物に対して空気または酸素により酸化させてこれらを除去し、第2の工程において、第1の工程を行うことで酸化された改質用触媒について改質ガスで改質用触媒中の金属を還元させる。当該方法によって、従来必要であった、コーキング等により失活した改質用の新品触媒への取り換え作業が不要であり、取替えにかかるコストを削減することができる。
【0018】
また、改質炉を2炉以上設置するかまたは1炉中に2以上の複数の区画を設置し、このうちの1炉または1区画について改質用触媒の再生を行っている間に、他の炉または区画において改質を行うようにすることで、改質用触媒の再生をプラントのオンライン上で行うことができ、プラントを停止させることなく改質用触媒の再生が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に関するガス化処理システムの構成を示し、特に、触媒再生プロセスにおける酸化処理を示す図である。
【
図2】本発明に関するガス化処理システムの構成を示し、特に、触媒再生プロセスにおける還元処理を示す図である。
【
図3】従来のガス化処理システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1および2は、本発明に関するガス化処理システムの構成を示す図である。
図1は、触媒再生プロセス(酸化処理)を示し、
図2は、触媒再生プロセス(還元処理)を示す。
【0022】
まず、
図1および2を用いて、本発明の改質用触媒の再生方法に関わるガス化処理システムについて概略的に説明する。
【0023】
本システムに投入される原料(11)としてはバイオマス資源が選ばれる。さらに、バイオマス資源としては、家庭やオフィスからの一般廃棄物、産業廃棄物、汚泥、木質バイオマスなど炭素質を含むものが挙げられる。
【0024】
このような原料としてのバイオマス資源は、破砕機(12)に投入され、ここで適当なサイズに破砕される。
【0025】
破砕された原料は、ガス化炉(13)に投入される。ガス化炉(13)では、空気が別経路にて導入され、500〜700℃の加熱条件下に置かれることにより、適当なサイズに破砕された原料が、熱分解およびガス化される。
【0026】
生じた熱分解ガスは、次いで、2炉あるうちのいずれか一方の
改質炉に投入される。
図2に示されるシステムでは、図中下側に設置された改質炉(14a)が運転中でありこの改質炉(14a)に熱分解ガスが投入される。
改質炉(14a)で生じた不燃物は不要物であり、
改質炉(14a)から排出される(図示省略)。
【0027】
運転中の下側の改質炉(14a)では、空気と水蒸気が導入され、熱分解ガス中に含まれるタール、チャーの改質が行われる。
【0028】
この改質炉(14a)には、改質用触媒が設置されており、このような改質触媒による触媒作用により、水蒸気改質法と比較して800〜1000℃程度の低い温度で改質反応が行われる。
【0029】
本発明に関わるシステムにおいて、改質用触媒としては、特殊な組成のものである必要はなく、従来から用いられているものが用いられてよく、例えば、Ni、Rh、Ru、Pt、Cu、La、Mn、Mgなどの金属を含むものが挙げられる。
【0030】
改質炉(14a)での改質反応を経て生じた改質ガスは、ボイラ設備などの手段(15)に送られ、ここで熱交換がなされ改質ガスの温度が低減する。
【0031】
熱交換後の改質ガスは、ガス精製手段(16)に送られて、ここで、改質反応で改質されなかった残留のチャー、タール等が取り除かれる。
【0032】
ガス精製により残留の不要物が除かれた改質ガスは、ガスエンジン(17)に送られる。ガスエンジン(17)では、給送された改質ガスを燃料として駆動する。ガスエンジン(17)から排出される排ガスは、熱交換手段(18)における熱交換の後、煙突(19)を介して大気へ排出される。
【0033】
熱交換手段(18)では、排ガスの熱交換のために冷却用の水が用いられ、排ガスとの熱交換により水は水蒸気となり、この水蒸気は改質炉(14a)に導入される。
【0034】
次に、本発明による改質触媒の再生方法について説明する。
【0035】
図1および
図2では、上側に示された改質炉(14b)が触媒再生プロセスに入っていることを示しており、
図1は、触媒再生プロセスのうち、酸化処理工程を示し、
図2は、還元処理工程を示している。
【0036】
図1および
図2では、改質用触媒の再生をオンラインで行い、再生中でも改質ガスを製造するための運転が続行できるように改質炉を2炉設置し、このうちの1炉にて改質ガス製造運転としている。なお、ここでは改質炉を2炉設置する場合について説明するが、3炉以上の複数炉を設置するようにしてもよく、あるいは、改質炉の1炉についてこれに仕切りを入れることにより2区画以上の複数の区画に分けるように構成してもよい。
【0037】
本実施によりガス化処理システムでは、2炉のうちの1炉において改質ガス製造運転を行い、この運転が継続しているうちに改質炉中の改質用触媒に付着物が付着したり析出物が堆積したりして改質用触媒の活性が低下してきた時点で、改質ガスの製造を他方(下側)の改質炉(14a)に切り替え、改質用触媒の活性が低下した改質炉(14b)の再生プロセスを開始する。
【0038】
図1に示すように、酸化処理工程に入っている改質炉(14b)には、ガス化炉(13)からの熱分解ガスが導入されず、そのための経路が遮断された状態になっている。当該改質炉(14b)には、付着物を除去するために空気または酸素を炉内に吹き込み、酸化除去する。
【0039】
ここでの酸化処理は、100℃以上の空気または酸素を炉内に吹き込み付着物を酸化除去することが好ましい。この温度以上であれば酸化反応が進むと考えられるためである。酸化処理のために必要な温度条件および処理時間は、用いられる改質用触媒の付着物の程度、付着物を構成する成分の種類および組成、改質用触媒の種類に応じて変動する。酸化処理による付着物の除去が終了したか否かは、当該改質炉からの排ガス中のガス成分をモニタリングするようにして把握するようにしてもよい。
【0040】
酸化処理により生じた排ガスは、ここに示す
図1の場合においてはガスエンジン(17)の後側に導入するようにしているが、ガスエンジン(17)の前側に導入するようにしてもよい。
【0041】
ここで、酸化処理により発生した酸化熱は、ガスエンジン(17)後段の熱交換器(18)以外で回収または利用するようにしてもよい。
【0042】
酸化処理の終了に続いて、還元処理を行う。
【0043】
図2に示すように、付着物の酸化処理に伴って改質用触媒に含まれる活性金属も酸化された状態になっているので、還元処理を行うことにより改質用触媒中の金属は、0価の状態に戻される。
【0044】
この還元処理のために、下側の改質炉(14a)に通されることにより生じた改質ガスの一部を引き抜き、これを還元処理のために還元処理工程にある改質炉(14b)に循環させる。
【0045】
還元処理工程中にある改質炉には、下側の改質炉(14a)から出て熱交換およびガス精製後の200℃程度の改質ガスが通される。
【0046】
還元処理により生じた排ガスは、ここに示す
図2の場合においてはガス精製設備(16)の後側に導入するようにしているが、ガス精製設備(16)の前側に導入するようにしてもよい。
【0047】
さらに、還元処理により生じた排ガスは、ここに示す
図2の場合においてはガスエンジン(17)の前側に導入するようにしているが、ガスエンジン(17)の後ろ側に導入するようにしてもよい。
【0048】
なお、改質炉を2炉または1炉2区画にすることが不可能な場合、改質炉の再生時には運転を休止し、改質炉へ空気を吹き込んだ後、改質後のガスを循環させず、H
2、N
2などの還元ガス(系外のもの)を改質炉へ投入することで、触媒の還元処理を行うことができる。
【0049】
次に、一例として改質にNi触媒およびRu触媒を用いた改質炉においてその再生処理として酸化処理、続いて還元処理した場合について、ラボスケールでの実施を模擬し、机上での平衡計算を行ったので、その結果について表1および表2に示す。
【0052】
再生処理に入る前の改質用触媒は、Ni触媒およびRu触媒の双方ともに顕著にCが析出している(11.28g/h)のに対して、酸化処理を行うことによりCが酸化除去されている(2.09g/h)。
【0053】
その一方で、このような酸化処理の操作により触媒成分である改質触媒中のNiおよびRuも酸化されることでNi
2SO
4、NiOおよびRuO
2が生成されてしまう。
【0054】
酸化処理工程に続いてこれらを改質後のガスにより酸化処理後に生じていたNi
2SO
4、NiOおよびRuO
2がそれぞれ還元されてNiおよびRuに再生された。
【0055】
ここでは、ガス精製設備を改質炉後段に設ける場合について言及を行ったが、ガス精製設備を改質炉前段に設ける場合は、改質炉の後段のガスを改質用触媒の還元の為に改質炉へ吹き込むことができる。
【0056】
また、ガス精製設備を改質炉後段に設ける場合、ガス精製設備は乾式バグフィルタや湿式洗浄塔などを用いることが出来る。
【0057】
一方で、ガス精製設備を改質炉前段に設ける場合、ガス精製設備は活性炭吸着塔等を用いることが出来る。
【符号の説明】
【0058】
11 原料
12 破砕機
13 ガス化炉
14a、14b 改質炉
15 熱交換設備
16 ガス精製設備
17 ガスエンジン
18 熱交換設備
19 煙突