【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合技術開発機構「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト/研究開発項目(1)−1−2高品質・大口径SiC結晶成長技術開発(その2)」継続研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭化珪素単結晶基板からなる種結晶上に、炭化珪素単結晶が成長した成長結晶を備えた炭化珪素単結晶インゴットであって、種結晶と成長結晶との界面近傍の少なくとも該インゴットの直径方向中心部において、種結晶と成長結晶との界面から種結晶側に厚さ0.2mmの界面領域は、ドナー型不純物を1×1019cm-3以下含み、また、種結晶と成長結晶との界面から成長結晶側に厚さ0.5mmの界面領域は、ドナー型不純物を1×1019cm-3以上6×1020cm-3以下含むと共にアクセプター型不純物を1×1019cm-3以上4×1019cm-3以下含んで、かつ、該成長結晶側の界面領域での総転位密度が、該種結晶側の界面領域での総転位密度の10倍未満であり、
前記成長結晶におけるアクセプター型不純物の濃度は、前記成長結晶側の界面領域から該インゴットの結晶成長先端側に向かって漸減することを特徴とする炭化珪素単結晶インゴット。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(以下、SiC)は、2.2〜3.3eVの広い禁制帯幅を有するワイドバンドギャップ半導体であり、その優れた物理的、化学的特性から、耐環境性半導体材料として研究開発が行われている。特に近年では、青色から紫外にかけての短波長光デバイス、高周波電子デバイス、高耐圧・高出力電子デバイス等の材料として注目されており、SiCによるデバイス(半導体素子)作製の研究開発が盛んになっている。
【0003】
SiCデバイスの実用化を進めるにあたっては、大口径のSiC単結晶を製造することが不可欠であり、その多くは、種結晶を用いた昇華再結晶法(改良型レーリー法)によってバルクのSiC単結晶を成長させる方法が採用されている(非特許文献1参照)。すなわち、坩堝内にSiCの昇華原料を収容し、坩堝の蓋体にはSiC単結晶からなる種結晶を取り付けて、原料を昇華させることで、再結晶により種結晶上にSiC単結晶を成長させる。そして、略円柱状をしたSiCのバルク単結晶であるSiC単結晶インゴットを得た後、一般には、300〜600μm程度の厚さに切り出すことでSiC単結晶基板が製造され、電力エレクトロニクス分野等でのSiCデバイスの作製に供されている。
【0004】
ところで、SiC単結晶中には、マイクロパイプと呼ばれる成長方向に貫通した中空ホール状欠陥のほか、転位欠陥、積層欠陥等の結晶欠陥が存在する。これらの結晶欠陥はデバイス性能を低下させるため、その低減がSiCデバイスへ応用する上で重要な課題となっている。このうち、転位欠陥には、貫通刃状転位、基底面転位、及びらせん転位が含まれる。例えば、市販されているSiC単結晶基板では、らせん転位が8×10
2〜3×10
3(個/cm
2)、貫通刃状転位が5×10
3〜2×10
4(個/cm
2)、基底面転位が2×10
3〜2×10
4(個/cm
2)程度存在するとの報告がある(非特許文献2参照)。
【0005】
近年、SiCの結晶欠陥とデバイス性能に関する研究・調査が進み、転位欠陥がデバイスのリーク電流の原因となることや、ゲート酸化膜寿命を低下させることなどが報告されており(非特許文献3及び4参照)、高性能なSiCデバイスを作製するには、転位密度を低減させたSiC単結晶インゴットが求められる。
【0006】
昇華再結晶法における転位の挙動について、種結晶と、種結晶上に成長した成長SiC単結晶との界面において、成長SiC単結晶では転位密度が種結晶と比較して大きく増加することが分かっている(非特許文献5参照)。転位密度の低減のためには、この成長SiC単結晶における転位密度の増大を発生させない結晶成長が効果的である。特に、貫通刃状転位は界面で10
3(個/cm
2)オーダーから10
5(個/cm
2)オーダーまで100倍以上に増大するため、界面での転位密度増大の抑制が行なえれば、貫通刃状転位の低減に非常に効果的であるといえる。
【0007】
ところで、昇華再結晶法によりドナー型不純物とアクセプター型不純物を共にドープさせて炭化珪素単結晶を成長させる方法が知られている(特許文献1、2参照)。このような方法では、ドナー型不純物、アクセプター型不純物のそれぞれの濃度を調整することにより、SiC単結晶中に発生する基底面転位もしくは積層欠陥を低減させることができるとする。ところが、この特許文献1及び2では、種結晶と成長単結晶との界面近傍については考慮しておらず、転位欠陥が最も発生し易い界面近傍での転位増大の抑制が十分に行えないと考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、昇華再結晶法による炭化珪素単結晶インゴットの製造では、種結晶と成長SiC単結晶との界面において、成長SiC単結晶側の転位密度が増大する傾向にある。そこで、本発明の目的は、種結晶と成長SiC単結晶との界面近傍での転位の増大が抑制されたSiC単結晶インゴットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、昇華再結晶法を用いて、成長させたSiC単結晶(成長結晶)と種結晶との界面における転位増大の抑制されたSiC単結晶インゴットを得るための手段について鋭意検討した結果、ドナー型不純物とアクセプタ−型不純物を共にドープさせた結晶について、種結晶と成長結晶とのドナー型不純物の濃度差がある程度大きい場合には、成長結晶側のアクセプター型不純物濃度をコントロールすることにより、種結晶と成長結晶との界面での転位の増大が抑制されたSiC単結晶インゴットが得られるようになることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)炭化珪素単結晶基板からなる種結晶上に、炭化珪素単結晶が成長した成長結晶を備えた炭化珪素単結晶インゴットであって、種結晶と成長結晶との界面近傍の少なくとも該インゴットの直径方向中心部において、種結晶と成長結晶との界面から種結晶側に厚さ0.2mmの界面領域は、ドナー型不純物を1×10
19cm
-3以下含み、また、種結晶と成長結晶との界面から成長結晶側に厚さ0.5mmの界面領域は、ドナー型不純物を1×10
19cm
-3以上6×10
20cm
-3以下含むと共にアクセプター型不純物を1×10
19cm
-3以上4×10
19cm
-3以下含んで、かつ、該成長結晶側の界面領域での総転位密度が、該種結晶側の界面領域での総転位密度の10倍未満であることを特徴とする炭化珪素単結晶インゴット。
(2)前記成長結晶におけるアクセプター型不純物の濃度は、前記成長結晶側の界面領域から該インゴットの結晶成長先端側に向かって漸減する(1)に記載の炭化珪素単結晶インゴット。
(3)前記ドナー型不純物が窒素であり、前記アクセプター型不純物がアルミニウムである(1)又は(2)に記載の炭化珪素単結晶インゴット。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、SiC単結晶が成長した成長結晶と種結晶との界面近傍における転位の増大が抑制されたSiC単結晶インゴットを得ることができる。すなわち、本発明のSiC単結晶インゴットは、種結晶と成長結晶との界面近傍で発生する転位密度の増大の程度が従来に比べて抑制され、好適には増大を起こさないことから、成長初期の転位密度が大幅に低減される。そのため、例えば、転位密度の非常に小さい種結晶を用いれば、その転位密度をそのまま引き継いだSiC単結晶インゴットが得られるようになる。また、本発明のSiC単結晶インゴットは成長初期の転位密度が小さいため、成長初期の領域からも高品質なSiC単結晶基板を切り出せるようになることから、SiC単結晶基板製造の歩留まりを向上させることができるなど、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
本発明の目的は、SiC単結晶基板からなる種結晶上に昇華再結晶法によりSiC単結晶を成長させる際に、成長したSiC単結晶(単に「成長結晶」と言う)と種結晶との界面部分で転位の増大を抑制することである。先に述べたように、本発明者らは、ドナー型不純物とアクセプター型不純物を共にドープさせたSiC単結晶について、種結晶と成長結晶とのドナー型不純物の濃度差がある程度大きい場合、成長結晶側のアクセプター型不純物濃度をコントロールすることにより、種結晶と成長結晶との界面における転位増大の抑制が可能であることを見出した。
【0016】
種結晶と成長結晶との界面における転位欠陥の発生要因として、種結晶と成長結晶との格子定数の違いが可能性の一つとして挙げられている(Ohtani, et al. Journal of Crystal Growth, 386(2014)p.9)。例えば、この格子定数の違いは種結晶と成長結晶のドナー型不純物濃度の違いによって起こる。種結晶は、通常ポリタイプ安定性や抵抗率を保つためにドナー型不純物を原子数密度で1×10
19cm
-3以下ドープさせて作製する。詳細は明らかではないが、成長開始時は種結晶よりも成長結晶のドナー型不純物濃度の方が高くなり(1×10
19cm
-3以上6×10
20cm
-3以下程度)、種結晶と成長SiC単結晶との格子定数に違いが生じ、その歪みを緩和するために界面で転位が入ると考えられる。このことから、種結晶と成長結晶との界面で発生する転位欠陥を抑制するためには、種結晶と成長結晶との界面近傍領域で成長結晶側のドナー型不純物濃度が高くなることに起因する格子定数の違いを緩和する必要がある。
【0017】
そこで、本発明者らは、成長結晶側にアクセプター型不純物を添加することによって、種結晶と成長結晶との界面近傍でのドナー型不純物の濃度差による格子定数の変化を緩和し、種結晶と成長結晶との界面における転位欠陥の増大を抑制するようにしている。
【0018】
本発明において、昇華再結晶法によるSiC単結晶の成長における不純物の添加方法としては、ドナー型不純物の場合、アクセプター型不純物の場合、ともに様々な方法を用いることが可能である。例えば、昇華原料である粉末の炭化珪素原料中に不純物元素を含んだ粉末を添加したり、成長雰囲気中にガスとして不純物を添加することができる。
【0019】
ここで、種結晶と成長結晶との界面近傍において、少なくともインゴットの直径方向中心部では、種結晶と成長結晶との界面から種結晶側に厚さ0.2mmの界面領域(以下、「種結晶側界面領域」と言う)と、種結晶と成長結晶との界面から成長結晶側に厚さ0.5mmの界面領域(以下、「成長結晶側界面領域」と言う)とが、それぞれ次のような不純物濃度を備えるようにする。
【0020】
先ず、成長結晶側界面領域のアクセプター型不純物の濃度としては、1×10
19cm
-3以上4×10
19cm
-3以下となるようにする。このアクセプター型不純物濃度が1×10
19cm
-3未満では、種結晶と成長結晶との界面における転位増大の抑制効果を得るのは難しく、反対に4×10
19cm
-3を超えると、4H型のポリタイプが不安定化して、デバイス利用に好適な結晶が得られない可能性がある。特に、種結晶と成長結晶との界面で4×10
19cm
-3を超えるアクセプター型不純物のドープを行おうとすると、インゴットの成長後半までアクセプター型不純物が一定濃度で残る可能性がある。つまり、SiC単結晶インゴットにおいてドナー・アクセプターペアを形成し、バイポーラデバイスに重要なキャリア寿命の低下を引き起こす可能性がある。そのため、好ましくは、成長結晶におけるアクセプター型不純物の濃度は、成長結晶側界面領域からインゴットの結晶成長先端側に向かって漸減するのがよい。
【0021】
また、本発明におけるSiC単結晶インゴットは、成長結晶側界面領域のドナー型不純物の濃度が1×10
19cm
-3以上6×10
20cm
-3以下であり、種結晶側界面領域のドナー型不純物の濃度が1×10
19cm
-3以下である。SiCの格子定数は1×10
19cm
-3近傍を境に大きく変化しており(T. Matsumoto et al., Materials Science Forum 645-648 (2010) 247-250)、この格子定数の違いにより種結晶と成長結晶との界面における歪が大きくなり転位が発生しやすくなるため、上記のとおり、成長結晶側界面領域におけるアクセプター型不純物の濃度が1×10
19cm
-3以上4×10
19cm
-3以下となるようにする。なお、種結晶側界面領域のドナー型不純物の濃度は1×10
19cm
-3以下であれば格子定数の違いが小さいため特に制限されないが、上述したようにポリタイプ安定性や抵抗率を保つため1×10
16cm
-3以上であるのがよく、好ましくは1×10
17cm
-3以上、さらに好ましくは1×10
18cm
-3以上であるのがよい。
【0022】
ここで、添加不純物については、公知のSiC単結晶の場合と同様のものを用いることができるが、濃度による格子歪の程度が最も近いとされている組合せとして、ドナー型不純物に窒素、アクセプター型不純物にアルミニウムを用いるのが好ましい。
【0023】
上述したように、本発明では、成長結晶側にアクセプター型不純物をドープすることにより(特に、成長結晶側界面領域にアクセプター型不純物をドープすることにより)、種結晶と成長結晶との界面における転位密度増大を抑制したSiC単結晶インゴットが得られるようになる。従来の方法では、種結晶と成長結晶との界面近傍、詳しくは、少なくともインゴットの直径方向中心部において、種結晶と成長結晶との界面から成長結晶側に厚さ0.5mmの範囲内の成長結晶(成長結晶側界面領域)の総転位密度は、種結晶と成長結晶との界面から種結晶側に厚さ0.2mmの範囲内の種結晶(種結晶側界面領域)の総転位密度の10倍以上となってしまうが、本発明を用いることによりこれを10倍未満に低減することが可能である。
【0024】
すなわち、本発明においては、特にSiC単結晶インゴットの直径方向中心部における種結晶と成長結晶との界面近傍での転位密度の増大を抑制することができ、なかでも、成長結晶側で発生する貫通刃状転位を従来法に比べて大幅に減らすことができ、成長結晶側界面領域で発生した貫通刃状転位密度が、種結晶側界面領域に存在する貫通刃状転位密度の10倍未満である。
ここで、従来技術として成長初期に種結晶表面の一部、特に外周部において成長前にエッチング現象を起こす手法が知られている(Kato, et al. Journal of Crystal Growth, 233 (2001) p.219)。このエッチング現象は種結晶表面全面ではなく、外周部(直径方向中心から外周方向に向かって直径比で50%より外側の領域)で起こる。エッチング領域では貫通刃状転位密度の増大が抑えられるため、本発明におけるSiC単結晶インゴットの直径方向中心部とは、より詳しくは該インゴットの直径方向中心から外周方向に向かって直径比で50%以内の範囲である。
【0025】
このように、本発明によれば、少なくともインゴット直径方向の中心部における種結晶との界面近傍での転位密度の増加を抑制することができ、成長させたSiC単結晶の転位密度を種結晶の転位密度と同等レベルまで低減させることができる。特に、従来法において種結晶の界面近傍で増大している転位欠陥は貫通刃状転位であり、本発明ではこの貫通刃状転位の低減において極めて大きな効果を得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例等に基づき本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例の内容に制限されるものではない。
【0027】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例に係るSiC単結晶インゴットを製造するための装置であって、改良レーリー法(昇華再結晶法)による単結晶成長装置の一例を示す。結晶成長は、SiCの昇華原料1を誘導加熱により昇華させ、SiC単結晶基板からなる種結晶2上に再結晶させることにより行われる。また、
図2には、昇華原料1と種結晶2が配される坩堝内部の構造を示す。種結晶2は黒鉛製の坩堝(黒鉛坩堝)4を形成する黒鉛蓋3の内面に取り付けられており、昇華原料1は黒鉛坩堝4の内部に充填される。この実施例1では、昇華原料1として用いるSiC粉末の上部にはアクセプター型不純物含有材料12(例えばこの実施例1ではAl
4C
3を使用)を質量比0.1%だけ設置した。この黒鉛坩堝4及び黒鉛蓋3は、熱シールドのために黒鉛製フェルト5で被膜されており、二重石英管6内部の黒鉛支持棒7の上に設置される。二重石英管6の内部を真空排気装置8によって真空排気した後、高純度Arガス及び窒素ガスを配管9を介してマスフローコントローラ10でAr:窒素=15:1になるように制御しながら流入させ、石英管内圧力(成長雰囲気圧力)を真空排気装置8で調整して80kPaにした。この圧力下において、ワークコイル11に電流を流して温度を上げ、種結晶2の温度が2200℃になるまで上昇させた。その後、30分かけて成長雰囲気圧力を1.3kPaに減圧して、種結晶2の(000−1)面を結晶成長面とする30時間の結晶成長を行った。
【0028】
上記のプロセスにより、高さ9mm、口径51mmのSiC単結晶インゴットが得られた。得られたSiC単結晶インゴットについて、先ず、該インゴットから、種結晶からの高さで表される成長高さ2mmの位置において、種結晶表面に平行に(すなわち4°のオフ角を有するように)評価用基板Aを切り出した。得られた評価用基板Aについて、520℃の溶融KOHに基板の全面が浸るように5分間浸して溶融KOHエッチングを行い、エッチングされた評価用基板Aの表面を光学顕微鏡(倍率:80倍)で観察して転位密度を計測した。ここでは、J. Takahashi et al., Journal of Crystal Growth, 135, (1994), 61-70に記載されている方法に従い、貝殻型ピットを基底面転位、小型の6角形ピットを貫通刃状転位、中型・大型の6角形ピットをらせん転位として、エッチピット形状による転位欠陥を分類し、各転位密度を求めて、総欠陥密度(エッチピッド密度:EPD)を算出した。その結果、評価用基板Aの外周から直径比で内側に5%のリング状領域(外周から幅2.55mmの領域)を除いた残りの領域でほぼ一様に転位密度が分散していることを確認した。なお、同様にして種結晶についても確認したところ、面内に転位密度は一様に分布していた。
【0029】
次に、
図3(a)に示したように、上記で得られたSiC単結晶インゴットを、種結晶2のc軸のオフ方向と反対方向へ4°傾いた方向が結晶のc軸となるように切り出し(図中の斜め太実線が切り出し面を示す)、(0001)面に種結晶と反対方向にオフ角を持つ評価用基板Bを得た。その際、評価用基板Bが種結晶の直径方向中心を通るようにして切り出し、評価用基板Bの表面には、種結晶からなる結晶領域と成長した成長SiC単結晶からなる結晶領域とが含まれるようにして、
図3(b)に示したように、評価用基板Bの表面上のa辺と種結晶の直径方向上のb辺とのなす角が8°であり、高さhの直角三角形が形成される位置関係となるようにした。本切り出し方法を用いることにより、成長に従う転位密度の変化を連続的に観察することが可能となる。また、種結晶2と成長SiC単結晶16との界面17も直接観察可能である。更に、成長方向の変化が実質的に1/sin8°(約7倍)に拡大されるため、より詳細な高精度の転位密度計測を行なうことができる。
【0030】
得られた評価用基板Bについて、先の評価用基板Aと同様に、520℃の溶融KOHに基板の全面が浸るように5分間浸して溶融KOHエッチングを行い、エッチングされた基板Bの表面を、成長SiC単結晶の高さ変化に沿うように、
図3(b)に示したa辺(=h/sin8°)上の測定点を主に2mm(成長方向の高さhの変化がおよそ0.3mmに相当)ごとに光学顕微鏡(倍率:80倍)で観察して転位密度を計測した。結果を表1に示す。なお、表1中、界面からの測定位置(a=h/sin8°)、対応する高さ(h)、及び、中心からの距離(b=h/tan8°)がマイナスの値の測定点は、種結晶領域に相当する箇所であることを示す(直径方向中心における種結晶と成長SiC単結晶との界面であって、
図3(b)中、直径方向中心を通る垂線pと界面17との交わる点がゼロになる)。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示した結果から分かるように、測定点iiiとivによれば、種結晶から成長SiC単結晶への転位密度増大は、約2倍であった。すなわち、成長結晶側の界面領域での総転位密度は、種結晶側の界面領域での総転位密度の10倍未満であると言える。そして、先の評価用基板Aで確認した転位分布の一様性からすれば、種結晶2と成長SiC単結晶16との界面から少なくとも高さh=1.67mmの成長SiC単結晶領域では、インゴットの直径方向中心から外周方向に向かって直径比で90%以内は上記と同様に転位の増大を抑制できていることになる。また、表1に示した評価用基板Bの結果からすれば、この実施例1で得られたSiC単結晶インゴットの直径方向中心から外周方向に向かって直径比で50%以内の範囲(直径比50%の同心円の範囲)では、上記と同様に成長結晶側の界面領域での総転位密度は、種結晶側の界面領域での総転位密度の10倍未満であると言える。
【0033】
また、上記の評価基板Bと同様の方法で更に評価基板Cを切り出し、種結晶からの成長高さが0.5mmに対応する位置の成長SiC単結晶についてSIMS測定を行ったところ、窒素濃度が3×10
20cm
-3、アルミニウム濃度が2×10
19cm
-3であった。更には、種結晶部分については、種結晶の表面から厚さ0.2mmの位置でSIMS測定を行ったところ、窒素濃度8×10
18cm
-3であった。更にまた、種結晶からの成長高さが1.0mm以上の点についても同様にSIMS測定を行ったところ、アルミニウム濃度は1×10
16cm
-3以下であった。これは、昇華原料1の表面に配置したアクセプター型不純物含有材料12は結晶成長の初期に消費されてしまったことを示しており、この実施例1では、特にバイポーラデバイスに好適な、ドナー・アクセプターペアが十分に抑制されたn型SiCが実現されていることを確認した。
【0034】
(比較例1)
比較例1では、昇華原料部分にアクセプター型不純物を含む材料を設置しなかった以外は実施例1と同様にして、SiC単結晶インゴットを製造した。得られたSiC単結晶インゴットは実施例1と同様に(0001)面に種結晶と反対方向にオフ角を持つように切り出して、評価用基板Bを得て、実施例1と同様にKOHエッチングを行ない、光学顕微鏡で転位密度を計測した。結果を表2に示す。表2に示した結果から分かるように、測定点iiiとivによれば、種結晶から成長SiC単結晶への転位密度増大は約58倍に増大していることが分かった。
【0035】
【表2】