(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、車両の概略構成図である。車両は、エンジン1と、トルクコンバータ2と、バリエータ3と、終減速機構4と、駆動輪5と、第1オイルポンプ10と、第2オイルポンプ11と、油圧制御回路12と、コントローラ13と、センサ・スイッチ群14と、を備える。車両では、自動変速機15が、バリエータ3のほか、トルクコンバータ2や、第1オイルポンプ10や、第2オイルポンプ11や、油圧制御回路12や、コントローラ13や、センサ・スイッチ群14を有して構成される。
【0014】
エンジン1は、車両の駆動源を構成する。エンジン1の出力は、トルクコンバータ2、バリエータ3及び終減速機構4を介して駆動輪5へと伝達される。換言すれば、トルクコンバータ2やバリエータ3や終減速機構4は、エンジン1から駆動輪5に動力を伝達する動力伝達経路に設けられる。
【0015】
トルクコンバータ2は、流体を介して動力を伝達する。トルクコンバータ2では、ロックアップクラッチ2aを締結することで、動力伝達効率を高めることができる。
【0016】
バリエータ3は、プライマリプーリ31と、セカンダリプーリ32と、プライマリプーリ31及びセカンダリプーリ32に巻き掛けられたベルト33と、を有する。以下では、プライマリをPRIとも称し、セカンダリをSECとも称す。バリエータ3は、PRIプーリ31とSECプーリ32との溝幅をそれぞれ変更することでベルト33の巻掛け径を変更して変速を行うベルト式無段変速機構を構成している。
【0017】
PRIプーリ31は、固定プーリ31aと、可動プーリ31bと、PRI室31cと、を有する。PRIプーリ31では、PRI室31cに供給されるプライマリ圧を制御することにより、可動プーリ31bが作動し、PRIプーリ31の溝幅が変更される。
【0018】
SECプーリ32は、固定プーリ32aと、可動プーリ32bと、SEC室32cと、を有する。SECプーリ32では、SEC室32cに供給されるセカンダリ圧を制御することにより、可動プーリ32bが作動し、SECプーリ32の溝幅が変更される。
【0019】
ベルト33は、PRIプーリ31の固定プーリ31aと可動プーリ31bとにより形成されるV字形状をなすシーブ面と、SECプーリ32の固定プーリ32aと可動プーリ32bとにより形成されるV字形状をなすシーブ面に巻き掛けられる。
【0020】
終減速機構4は、複数の歯車列やディファレンシャルギアを有して構成される。終減速機構4は、車軸を介して駆動輪5を回転する。
【0021】
第1オイルポンプ10は、電動オイルポンプであり、第2オイルポンプ11は、機械式のオイルポンプである。第1オイルポンプ10及び第2オイルポンプ11はともに、油圧制御回路12に供給する油を吐出する。バリエータ3には、第1オイルポンプ10及び第2オイルポンプ11を油圧源として油圧が供給される。第2オイルポンプ11は、エンジン1の動力で駆動する。
【0022】
油圧制御回路12は、第1オイルポンプ10や第2オイルポンプ11が吐出した油の圧力すなわち油圧を調整してバリエータ3の各部位に伝達する。油圧制御回路12では、ライン圧PLやPRI圧やSEC圧の調整が行われる。ライン圧PLは、自動変速機15における油圧の一例であり、自動変速機15における油圧の元圧を構成する。油圧制御回路12は、トルクコンバータ2にも油圧を供給する。
【0023】
コントローラ13は、電子制御装置であり、コントローラ13には、センサ・スイッチ群14からの信号が入力される。
【0024】
センサ・スイッチ群14は例えば、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサや、ブレーキペダルの踏み込み量BRPに基づくブレーキ踏力を検出するブレーキセンサや、車速Vspを検出する車速センサや、回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサや、変速レバーの操作位置を検出するインヒビタスイッチや、自動変速機15の油温OLTを検出する油温センサや、エンジン1の始動、停止を行うためのイグニッションスイッチIGSWや、第1オイルポンプ10の回転速度Nepを検出するポンプ回転速度センサを含む。センサ・スイッチ群14からの信号は例えば、他のコントローラを介してコントローラ13に入力されてもよい。
【0025】
センサ・スイッチ群14はさらに例えば、ライン圧PLを検出するライン圧センサや、PRI圧を検出するPRI圧センサや、SEC圧を検出するSEC圧センサや、PRIプーリ31の入力側回転速度である回転速度Npriを検出するPRI回転速度センサや、SECプーリ32の出力側回転速度である回転速度Nsecを検出するSEC回転速度センサを含む。
【0026】
コントローラ13は、センサ・スイッチ群14からの信号に基づき、油圧制御回路12を制御する。バリエータ3の変速比は、油圧制御回路12及びコントローラ13によって、第1オイルポンプ10や第2オイルポンプ11が吐出するオイルを制御することで変更される。コントローラ13は、第1オイルポンプ10の吐出量も制御する。具体的にはコントローラ13は、回転速度Nepが目標回転速度Neptになるように第1オイルポンプ10を制御することで、第1オイルポンプ10の吐出量を制御する。
【0027】
図2は、油圧制御回路12の要部を示す図である。
図2では、第1オイルポンプ10や、PRI室31cや、SEC室32cについても併せて示す。油圧制御回路12は、ライン圧制御弁121と、PRI圧制御弁122と、SEC圧制御弁123と、ライン圧油路124と、チェック弁125と、を有する。
【0028】
ライン圧制御弁121はライン圧PLを制御する。ライン圧制御弁121は、本体121aと、スプール121bと、スプリング121cと、を備える。ライン圧制御弁121は、ポート121dからポート121gを有する。ライン圧制御弁121はライン圧油路124に設けられる。
【0029】
本体121aは、スプール121b及びスプリング121cを収容する。スプリング121cは、スプール121bをポート121f側に付勢する。ポート121dからポート121gは、本体121aの内外を連通する。
【0030】
ポート121dは入口ポートであり、ライン圧油路124に接続される。ポート121eは出口ポートであり、循環系等に接続される。ポート121fはフィードバックポートであり、ポート121fにはライン圧PLの実圧がフィードバック圧としてオリフィス等を介して入力される。ポート121gはパイロットポートであり、ポート121gには図示しないソレノイド弁によってライン圧PLの指示圧に応じた制御圧Psが入力される。
【0031】
ライン圧制御弁121では、スプール121bに作用する力、具体的にはフィードバック圧に応じた作用力、スプリング121cの付勢力及び制御圧Psに応じた作用力がバランスする位置にスプール121bが移動することで、実圧が指示圧になるようにライン圧PLが制御される。以下では、ライン圧PLの実圧をライン実圧PLrと称し、ライン圧PLの指示圧をライン指示圧PLiと称す。
【0032】
PRI圧制御弁122は、PRI圧を制御し、SEC圧制御弁123は、SEC圧を制御する。PRI圧制御弁122及びSEC圧制御弁123は、ライン圧油路124のうちライン圧制御弁121の下流部分に設けられる。PRI圧制御弁122及びSEC圧制御弁123には、ライン圧制御弁121同様、フィードバックポート等を有する制御弁を適用することができる。
【0033】
第1オイルポンプ10は、チェック弁125を介してライン圧油路124に油を供給する。第1オイルポンプ10はさらに、PRI圧制御弁122を介してPRI室31cに油を供給し、SEC圧制御弁123を介してSEC室32cに油を供給する。なお、図示省略しているが、第2オイルポンプ11は、ライン圧油路124に対し、第1オイルポンプ10と並列に接続される。
【0034】
ところで、ライン指示圧PLiを急上昇させると、制御圧Psの上昇に対してフィード
バック圧の上昇が遅れる。このため、スプール121bはポート121f側に移動して、平衡状態よりもポート121eを閉じたオーバーストローク状態になる。結果、フィードバック圧がライン指示圧PLiに達してもすぐには出口ポート121eから油をドレーン
できずに、油圧サージが発生する可能性がある。
【0035】
図3は、ライン指示圧PLiの上昇指示に応じて発生する油圧サージの説明図である。
図3では、ライン指示圧PLiの上昇指示はあるが、第1オイルポンプ10の回転の立ち
上がりがない場合を示す。
図3において、ポンプ流量は第1オイルポンプ10及び第2オイルポンプ11の供給流量の合計流量を示す。
【0036】
この例では、ポンプ流量Q1すべてが第2オイルポンプ11によって供給されている状態、したがって第1オイルポンプ10の回転の立ち上がりがない状態で、ライン指示圧PLiの上昇指示が行われている。そして、これに応じて油圧サージが発生すると、油圧サ
ージによって、ライン実圧PLrがライン指示圧PLiを上回るライン圧PLのオーバー
シュートが引き起こされる。
【0037】
油圧サージはさらに、第1オイルポンプ10の回転が急に立ち上がった際にも発生する可能性がある。第1オイルポンプ10の回転が急に立ち上がった際には、第1オイルポンプ10から吐出されるオイルの流量が急増するためである。そして、第1オイルポンプ10の回転の急な立ち上がりとライン指示圧PLiの上昇指示とが重なり合った場合、油圧
サージが発生し易くなったり悪化したりする可能性がある。
【0038】
このため、本実施形態ではコントローラ13が次に説明するように制御を行う。
【0039】
図4は、コントローラ13が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。コントローラ13は、本フローチャートの処理を例えば微小時間毎に繰り返し実行する。
【0040】
ステップS1で、コントローラ13は、第1オイルポンプ10の回転速度Nepの上昇指示があったか否かを判定する。第1オイルポンプ10の上昇指示があったことは、第1オイルポンプ10の目標回転速度Neptが大きく変更されたことを含む。第1オイルポンプ10の上昇指示があったことは、さらにその後、回転速度Nepが上昇している間の状態を含むことができる。
【0041】
第1オイルポンプ10の上昇指示があったことは例えば、自動変速機15の状態を含む車両の状態に基づき検出することができる。車両の状態は例えば、センサ・スイッチ群14の出力に基づき検出される状態のほか、センサ・スイッチ群14の出力に基づき算出される目標回転速度Neptやライン指示圧PLi等の目標値を含む。
【0042】
ステップS1で、コントローラ13は具体的には、第1オイルポンプ10の回転速度Nepの急上昇指示があったか否かを判定する。第1オイルポンプ10の急上昇指示があったことは例えば、第1オイルポンプ10の目標回転速度Neptの到達値及び初期値の差の大きさが所定値よりも大きいこと、とすることができる。
【0043】
これは、所定時間内に到達値への回転速度Nepの変更を達成する要請などから、傾向として、差の大きさが大きい場合ほど、第1オイルポンプ10の回転速度上昇率も高く設定されるためである。
【0044】
上述の回転速度Nepの急上昇指示に関し、所定値は、ライン圧PLのオーバーシュートが発生し得る程度に第1オイルポンプ10の回転の立ち上がりが急であることを規定するための値として、実験等により予め設定することができる。また、差は、到達値から初期値を引いて得られる値とすることができる。ステップS1で否定判定であれば、本フローチャートは一旦終了する。ステップS1で肯定判定であれば、処理はステップS2に進む。
【0045】
ステップS2で、コントローラ13は、ライン指示圧PLiの上昇指示があったか否か
を判定する。ライン指示圧PLiの上昇指示があったことは、ライン指示圧PLiが大き
く変更されたことを含む。ライン指示圧PLiの上昇指示があったことは、さらにその後
、ライン実圧PLrがライン指示圧PLiに到達するまでの状態を含むことができる。ラ
イン指示圧PLiの上昇指示があったことは例えば、車両の状態に基づき検出することが
できる。
【0046】
ステップS2で、コントローラ13は具体的には、ライン指示圧PLiの急上昇指示が
あったか否かを判定する。ライン指示圧PLiの急上昇指示があったことは、ライン指示
圧PLiがステップ的に指示される場合には例えば、ライン指示圧PLiの到達値及び初
期値の差の大きさが所定値よりも大きいこと、とすることができる。ライン指示圧PLi
の急上昇指示中であることは例えばさらに、ライン指示圧上昇率が所定上昇率よりも高いこと、とされてもよい。ライン指示圧PLiがステップ的に上昇指示される場合、ライン
指示圧PLiの初期値は具体的には、上昇指示直前のライン指示圧PLiである。
【0047】
上述のライン指示圧PLiの急上昇指示に関し、所定値は、ライン圧PLのオーバーシ
ュートが発生し得る程度に上昇指示に基づくライン指示圧PLiの上昇が急であることを
規定するための値として、実験等により予め設定することができる。所定上昇率についても同様である。差は、到達値から初期値を引いて得られる値とすることができる。
【0048】
ステップS2で肯定判定であれば、処理はステップS3に進む。ステップS3で、コントローラ13は、第1オイルポンプ10の目標回転速度Neptを第2目標回転速度Nep2に設定する。第2目標回転速度Nep2は、ステップS1及びステップS2の判定条件が成立する場合、すなわち回転速度Nepの上昇指示とライン指示圧PLiとが重なる
ときに設定される回転速度であり、後述する第1目標回転速度Nep1よりも高く設定される。
【0049】
第2目標回転速度Nep2は具体的には、ライン実圧PLrがライン指示圧PLiに到
達する前に、第1オイルポンプ10の回転速度Nepが第1目標回転速度Nep1よりも高い値まで上昇するように設定される。第2目標回転速度Nep2は例えば、車両の状態や設定時間Tsに応じて予め設定することができる。第2目標回転速度Nep2は、一定値であってもよい。
【0050】
ステップS4で、コントローラ13は、ライン実圧PLrとライン指示圧PLiとの差
ΔPLの大きさが所定値α未満になったか否かを判定する。差ΔPLは具体的には、ライン指示圧PLiからライン実圧PLrを引いて得られる値とすることができる。
【0051】
所定値αは、ライン実圧PLrがライン指示圧PLiに到達するタイミングについての
値であり、実験等によって予め設定することができる。所定値αによって、ライン実圧PLrがライン指示圧PLiになるタイミングに対し、制御応答性等を考慮した手前のタイ
ミングを検出することができる。このため、所定値αは例えば、ゼロよりも大きな値に設定することができる。所定値αは、ゼロであってもよい。
【0052】
ステップS4で、コントローラ13は、ライン指示圧PLiの上昇指示をしてから設定
時間Tsが経過したか否かを判定してもよい。設定時間Tsは、ライン指示圧PLiの上
昇指示をしてから差ΔPLの大きさが所定値α未満になる時間として設定される。設定時間Tsは、実験等により予め設定することができる。設定時間Tsは例えば、生産ラインでワーク毎に測定及び設定されてもよい。
【0053】
コントローラ13は、ライン指示圧PLiの上昇指示をしてから差ΔPLの大きさが所
定値α未満になる時間を記憶するとともに、記憶された時間に基づき設定時間Tsを設定してもよい。すなわち、コントローラ13は設定時間Tsを学習してもよい。設定時間Tsは例えば、記憶された時間の最新値や最小値や演算値に設定することができる。設定時間Tsの初期値は予め設定されてもよい。
【0054】
設定時間Tsを学習する場合、コントローラ13は、エンジン1の運転状態である回転速度Ne、自動変速機15の油温OLT、上昇指示時のライン指示圧PLiの初期値、及
び上昇指示時のライン指示圧PLiの到達値のうち少なくともいずれかに応じて、時間の
記憶を行うことができる。これらが変化すると、当該時間も変化し得るためである。ステップS4で否定判定であれば、処理はステップS3に戻る。
【0055】
これにより、差ΔPLの大きさが所定値α未満になるまでは、ステップS4で否定判定される結果、回転速度Nepは第2目標回転速度Nep2になるように制御される。結果、ライン実圧PLrがライン指示圧PLiに到達する前に、回転速度Nepが第1目標回
転速度Nep1よりも高い値まで上昇するように制御される。
【0056】
差ΔPLの大きさが所定値α未満になると、ステップS4で肯定判定され、処理はステップS5に進む。ステップS5で、コントローラ13は、第1オイルポンプ10の目標回転速度Neptを第1目標回転速度Nep1に設定する。第1目標回転速度Nep1は設定値であり、具体的には次のような回転速度である。
【0057】
すなわち、油圧制御回路12全体の必要流量から第2オイルポンプ11の流量を引いたものが第1オイルポンプ10の必要流量であり、当該必要流量に応じて第1オイルポンプ10の必要吐出量は決まる。このため、第1目標回転速度Nep1は具体的には、当該必要吐出量に応じた回転速度である。
【0058】
ステップS4の肯定判定に続き、ステップS5に進んだ場合、回転速度Nepは第1目標回転速度Nep1まで下げられる。なお、ステップS2で否定判定であった場合にも、処理はステップS5に進む。ステップS5の後には、本フローチャートの処理は一旦終了する。
【0059】
コントローラ13は、第1オイルポンプ10を備える自動変速機15の制御装置であり、ステップS2の肯定判定やステップS4の否定判定に続きステップS3の処理を行うとともに、ステップS4の肯定判定に続きステップS5の処理を行うことで、制御部として機能する。コントローラ13は、制御部として機能することで、制御部を有する。自動変速機15の制御装置は、さらに油圧制御回路12やセンサ・スイッチ群14を有して構成されていると把握されてもよい。
【0060】
次に、コントローラ13の主な作用効果について説明する。
【0061】
図5Aは、コントローラ13が行う制御に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
図5Bは、
図5Aの比較例を示す図であり、第1目標回転速度Nep1への回転速度Nepの上昇指示を継続する場合を示す。
【0062】
図5A及び
図5Bでは、ポンプ流量として第1オイルポンプ10の供給流量を示す。また、ポンプ流量につき、実線は回転速度Nepに応じた実ポンプ流量Qepを示し、破線は目標回転速度Neptに応じた目標ポンプ流量Qeptを示す。ポンプ流量Qep1は、第1目標回転速度Nep1に対応する目標ポンプ流量であり、ポンプ流量Qep2は、第2目標回転速度Nep2に対応する目標ポンプ流量である。
【0063】
図5A及び
図5Bの場合ともに、目標ポンプ流量Qeptの変化からわかるように、第1オイルポンプ10の回転はタイミングT1で立ち上り始めている。また、ライン指示圧PLiもタイミングT1で上昇指示されている。このようなライン指示圧PLiの上昇指
示は例えば、次のような場合に行われることがある。
【0064】
すなわち、第1オイルポンプ10の供給油量は例えば、アクセルペダルの踏み込み時やエンジン1の始動時に増加される。そして、これらの場合には、エンジントルクの増大に対応したり変速を開始したりするために、ライン指示圧PLiの上昇指示も行われること
がある。
【0065】
図5A及び
図5Bの場合ともに、ライン実圧PLrとライン指示圧PLiとの差ΔPL
の大きさは、タイミングT2で所定値α未満になる。したがって、タイミングT1及びタイミングT2間の時間は、設定時間Tsに相当する。
【0066】
図5Bに示す比較例の場合、目標ポンプ流量Qeptの変化からわかるように、目標回転速度Neptは、タイミングT1から第1目標回転速度Nep1のままとされる。結果、第1オイルポンプ10の回転の立ち上がりとライン指示圧PLiの上昇指示とによって
油圧サージが発生すると、ライン圧PLのオーバーシュートが大きく発生する。また、目標回転速度Neptが第1目標回転速度Nep1のままとされるので、実ポンプ流量Qepの変化の傾きは、タイミングT2後も引き続き正となる。
【0067】
図5Aに示す本実施形態の場合、コントローラ13は、タイミングT1におけるライン指示圧PLiの上昇指示後において、タイミングT1´からわかるように、ライン実圧P
Lrがライン指示圧PLiに到達する前に、回転速度Nepを第1目標回転速度Nep1
よりも高い値まで上昇させる。また、コントローラ13はその後、タイミングT2以降の実ポンプ流量Qepの変化からわかるように、回転速度Nepを第1目標回転速度Nep1まで下げる。
【0068】
このような構成のコントローラ13によれば、ライン実圧PLrがライン指示圧PLi
に到達する前に回転速度Nepを第1目標回転速度Nep1よりも高い値まで上昇させることで、回転速度上昇率を高めることができる。このため、ライン圧PLの立ち上がりの遅れを抑制することができる。また、このときにはライン実圧PLrがライン指示圧PLiに到達する前なので、仮にこのような回転速度Nepの制御に起因して、ライン実圧P
Lrの変化に凸状のS部を引き起こすような油圧サージが発生したとしても、ライン実圧PLrをライン指示圧PLiよりも低く抑制することができる。
【0069】
さらに、このような構成のコントローラ13によれば、その後、回転速度Nepを第1目標回転速度Nep1まで下げるので、実ポンプ流量Qepの変化の傾きを負にすることができる。したがって、第1オイルポンプ10の供給流量を減少させることができる。結果、次の式1からわかるように、油圧サージのピーク値を抑制することができる。
【0070】
[式1]
dP/dt=K(Qin−Qout)/V
式1で、「P」はライン実圧PLrを、「t」は時間を、「K」は体積弾性率を、「Qin」はライン圧油路124へのオイルの供給流量を、「Qout」はライン圧油路124からのオイルの流出流量を、「V」はライン圧油路124の容積をそれぞれ示す。
【0071】
回転速度Nepを第1目標回転速度Nep1まで下げた場合、式1によれば、供給流量Qinが減少することになるので、ライン圧変化率dP/dtが小さくなる。このため、回転速度Nepを第1目標回転速度Nep1まで下げることで、ライン実圧PLrの上昇の勢いが抑えられるので、油圧サージのピーク値を抑制することができる。
【0072】
したがって、このような構成のコントローラ13によれば、油圧サージの抑制とライン圧PLの立ち上がりの遅れ抑制とを両立させることができる。コントローラ13は、油圧サージを抑制することで具体的には、部品の耐久性向上や変速ショックの改善を図ることができる(請求項1、6に対応する効果)。
【0073】
コントローラ13は、タイミングT2で差ΔPLの大きさが所定値α未満になると、回転速度Nepを第1目標回転速度Nep1まで下げる。
【0074】
このような構成のコントローラ13によれば、油圧サージの抑制とライン圧PLの立ち上がりの遅れ抑制とを両立させるにあたり、適切なタイミングで回転速度Nepを下げることができる(請求項2に対応する効果)。
【0075】
コントローラ13は、ライン指示圧PLiの上昇指示をしてから設定時間Tsが経過し
た後に回転速度Nepを第1目標回転速度Nep1まで下げる構成とすることができる。
【0076】
このような構成のコントローラ13によれば、差ΔPLの大きさが所定値α未満になったことをリアルタイムで検出せずに回転速度Nepを制御することができる。このため、第1オイルポンプ10の回転の立ち上がりやライン指示圧PLiの上昇指示に応じて、極
短時間で生じる油圧サージに回転速度Nepの制御が間に合わなくなる事態が発生しないようにすることができる(請求項3に対応する効果)。
【0077】
コントローラ13は、ライン指示圧PLiの上昇指示をしてから差ΔPLの大きさが所
定値α未満になる時間を記憶するとともに、記憶された時間に基づき設定時間Tsを設定する構成とすることができる。
【0078】
このような構成のコントローラ13によれば、自動変速機15に個体差のばらつきがあっても、設定時間Tsを適切に設定することができる。したがって、自動変速機15に個体差のばらつきがあっても、回転速度Nepを適切に制御することができる(請求項4に対応する効果)。
【0079】
コントローラ13は、回転速度Ne、自動変速機15の油温OLT、ライン指示圧PLiが上昇指示された際の初期値、又はライン指示圧PLiが上昇指示された際の到達値に
応じて、時間の記憶を行う構成とすることができる。
【0080】
このような構成のコントローラ13によれば、これらの要因で設定時間Tsが変動する場合であっても、設定時間Tsを適切に設定することで、回転速度Nepを適切に制御することができる(請求項5に対応する効果)。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0082】
上述した実施形態では、自動変速機15における油圧をライン圧PLとする場合について説明した。しかしながら、自動変速機15における油圧は例えば、PRI圧やSEC圧であってもよい。
【0083】
上述した実施形態では、自動変速機15が、バリエータ3を有して構成される場合について説明した。しかしながら、自動変速機15は例えば、有段の自動変速機構すなわち所謂オートマチックトランスミッションを有して構成されてもよい。また、バリエータ3は例えば、トロイダル型の無段変速機構であってもよい。
【0084】
上述した実施形態では、エンジン1が駆動源である場合について説明した。しかしながら、駆動源は例えば、モータやエンジン1及びモータであってもよい。
【0085】
上述した実施形態では、コントローラ13が、制御部を有する場合について説明した。しかしながら、制御部は例えば、複数のコントローラで構成されてもよい。