特許第6594162号(P6594162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594162
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20191010BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20191010BHJP
   C08K 5/18 20060101ALI20191010BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20191010BHJP
   C08F 255/02 20060101ALI20191010BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   C08L23/10
   C08K5/521
   C08K5/18
   C08F2/44 C
   C08F255/02
   C08J5/00CES
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-214903(P2015-214903)
(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公開番号】特開2016-89176(P2016-89176A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2018年8月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-223531(P2014-223531)
(32)【優先日】2014年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】597021842
【氏名又は名称】サンアロマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】片桐 章公
(72)【発明者】
【氏名】安元 一寿
(72)【発明者】
【氏名】中島 武
(72)【発明者】
【氏名】内田 雅司
【審査官】 中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−530900(JP,A)
【文献】 特表2003−509562(JP,A)
【文献】 特開平07−003087(JP,A)
【文献】 特開2008−308699(JP,A)
【文献】 特開2012−126828(JP,A)
【文献】 特開2012−107136(JP,A)
【文献】 稲沢伸太郎,ポリオレフィン系材料の進歩,材料,1995年,Vol.44, No.507,p.1401-1408
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08F 2/00−301/00
C08J 5/00−5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂と造核剤とを含有し、タルクの含有量が、前記ポリプロピレン系樹脂を100質量部とした際の0.5質量部以下であるポリプロピレン系樹脂組成物であって、
前記ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン単位が99.5質量%以上のプロピレン重合体とエチレン・1−ブテン共重合体とが重合時に混合され、エチレン・1−ブテン共重合体の含有割合が10〜25質量%、キシレン可溶分の135℃のテトラヒドロナフタレン中での極限粘度が0.8〜1.2dl/g、最高融点が155℃以上であり、前記エチレン・1−ブテン共重合体における1−ブテン単位含有割合が15〜25質量%である混合樹脂であり、
前記造核剤が、芳香族リン酸エステル系造核剤とトリアミノベンゼン誘導体系造核剤とを含み、
JIS K7210に従い、温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定したメルトフローレートが10g/10分を超え30g/10分以下である、ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記造核剤の含有量が、前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.01〜1.0質量部である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
フェノールリン系酸化防止剤を前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して0.02〜0.20質量部含有する、請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物が成形された成形品。
【請求項5】
射出成形品である、請求項4に記載の成形品。
【請求項6】
JIS Z8741に準拠して測定される表面の光沢度(入射角60°)が92%以上である、請求項5に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高光沢のポリプロピレン系樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂は、耐衝撃性と剛性とのバランスに優れ、高光沢であるため、外観が良いことから、家電製品の筐体や部品に広く使用されている。
しかし、汎用のABS樹脂は耐薬品性が低いため、例えば、冷蔵庫の部品に使用された場合、食品、飲料、調味料等がこぼれて付着したときに割れることがあった。耐薬品性に優れたABS樹脂も知られているが、高コストであった。さらに、ABS樹脂は比重が大きいため、ABS樹脂の成形品においては、樹脂の使用量が多くなり、重くなる傾向にあると共にコストが高くなる傾向にあった。
そこで、近年、ABS樹脂を、安価で低比重のポリプロピレン系樹脂に置き換えることが要求されている。しかし、通常のポリプロピレン系樹脂は光沢が低いため、ポリプロピレン系樹脂の高光沢化が検討されている。
例えば、特許文献1には、高剛性、高耐衝撃性、高光沢性のバランスに優れたポリプロピレン系樹脂組成物として、プロピレン系重合体に、エチレン・α−オレフィン共重合体を含む改質剤を添加したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−158440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物でも、優れた成形流動性、耐衝撃性及び剛性を確保しつつ、ABS樹脂並みの高光沢を得ることは困難であった。
本発明は、充分な成形流動性、耐衝撃性及び剛性を確保しつつ光沢が高い成形品を容易に製造できるポリプロピレン系樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、充分な耐衝撃性及び剛性を確保しつつ光沢が高い成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂と造核剤とを含有し、タルクの含有量が、前記ポリプロピレン系樹脂を100質量部とした際の0.5質量部以下であるポリプロピレン系樹脂組成物であって、前記ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン単位が99.5質量%以上のプロピレン重合体とエチレン・1−ブテン共重合体とが重合時に混合され、エチレン・1−ブテン共重合体の含有割合が10〜25質量%、キシレン可溶分の、135℃のテトラヒドロナフタレン中での極限粘度が0.8〜1.2dl/g、最高融点が155℃以上であり、前記エチレン・1−ブテン共重合体における1−ブテン単位含有割合が15〜25質量%である混合樹脂であり、JIS K7210に従い、温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定したメルトフローレートが10g/10分を超え30g/10分以下である。
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物においては、造核剤の含有量が、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.01〜1.0質量部であることが好ましい。
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物においては、フェノールリン系酸化防止剤を前記ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して0.02〜0.20質量部含有することが好ましい。
本発明の成形品は、上記ポリプロピレン系樹脂組成物が成形されたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物によれば、充分な成形流動性、耐衝撃性及び剛性を確保しつつ光沢が高い成形品を容易に製造できる。
本発明の成形品は、充分な耐衝撃性及び剛性を確保しつつ光沢が高い。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<ポリプロピレン系樹脂組成物>
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂と造核剤とを含有する。
該ポリプロピレン系樹脂組成物は、メルトフローレート(以下、「MFR」という。)が10g/10分を超え30g/10分以下であり、15〜30g/10分であることが好ましい。ここで、MFRは、JIS K7210に従い、温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定した値である。
ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRが前記下限値未満であると、成形流動性が不十分で目的とする成形品が得られないことがあり、また、得られる成形品の剛性及び光沢が低くなることがある。ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRが前記上限値を超えると、該樹脂組成物から得られる成形品の耐衝撃性が低くなることがある。
【0008】
(ポリプロピレン系樹脂)
ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン重合体とエチレン・1−ブテン共重合体とが重合時に混合された混合樹脂である。
ここで、前記プロピレン重合体は、プロピレン単独重合体、又は、エチレン単位を0.5質量%以下及びプロピレン単位を99.5質量%以上有するプロピレン共重合体である。プロピレン共重合体におけるプロピレン単位量が99.5質量%未満(すなわち、エチレン単位が0.5質量%超)であると、該樹脂組成物から得られる成形品の剛性と耐熱性が低くなる傾向にある。
ポリプロピレン系樹脂におけるエチレン・1−ブテン共重合体の含有割合は10〜25質量%であり、15〜25質量%であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂におけるエチレン・1−ブテン共重合体の含有割合が前記下限値未満であると、該樹脂組成物から得られる成形品の耐衝撃性が低下する傾向にあり、前記上限値を超えると、該樹脂組成物から得られる成形品の剛性が低下する傾向にある。
前記ポリプロピレン系樹脂は、キシレン可溶分の、135℃のテトラヒドロナフタレン中での極限粘度が0.8〜1.2dl/gであり、0.9〜1.1dl/gであることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂の極限粘度が前記下限値未満であると、ポリプロピレン系樹脂の製造が困難になることがあり、前記上限値を超えると、該樹脂組成物から得られる成形品の光沢が低下する傾向にある。
【0009】
ポリプロピレン系樹脂は、最高融点が155℃以上であり、160℃以上であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂の最高融点は、示差熱分析により求めることができる。2種の樹脂を含むポリプロピレン系樹脂は、各樹脂成分に由来する複数の融点を有する場合があり、最高融点とは、複数の融点のうち最も高い融点のことである。ポリプロピレン系樹脂の最高融点が前記下限値未満であると、該樹脂組成物から得られる成形品の剛性と耐熱性が低くなることがある。
実現性の点からは、ポリプロピレン系樹脂の最高融点は、186℃以下であることが好ましい。
【0010】
前記エチレン・1−ブテン共重合体は、エチレン単位と1−ブテン単位を有する共重合体である。エチレン・1−ブテン共重合体においては、1−ブテン単位含有割合が15〜25質量%であり、19〜25質量%であることが好ましい。エチレン・1−ブテン共重合体における1−ブテン単位含有割合が前記下限値未満であると、該樹脂組成物から得られる成形品の耐衝撃性が低下する傾向にあり、前記上限値を超えると、重合によるポリプロピレン系樹脂の製造が困難になることがある。
【0011】
前記ポリプロピレン系樹脂は、多段重合により製造することができる。例えば、1段目の重合反応器にて、触媒存在下、プロピレンモノマーを重合し、得られたプロピレン重合体を2段目の重合反応器に供給すると共に2段目の重合反応器にてエチレンモノマーと1−ブテンモノマーとを共重合することでポリプロピレン系樹脂を得ることができる。この方法では、2段目の重合反応器にて、プロピレン重合体存在下、エチレン・1−ブテン共重合体を生成させながら、その生成するエチレン・1−ブテン共重合体とプロピレン重合体とを混合する。
プロピレン重合体の存在下でエチレン・1−ブテン共重合体を生成させることにより、生産性が高くなる上に、プロピレン重合体中のエチレン・1−ブテン共重合体の分散性が高くなるため、物性バランスが向上する。
また、多段重合は上記の方法に限らず、プロピレン重合体を複数の重合反応器にて重合してもよいし、エチレン・1−ブテン共重合体を複数の重合反応器にて重合してもよい。また、ポリプロピレン系樹脂を得る方法として、モノマー濃度や重合条件の勾配を有する重合器を用いて行う方法が挙げられる。このような重合器では、例えば、少なくとも2つの重合領域が接合されたものを使用し、気相重合でモノマーを重合することができる。
具体的には、触媒の存在下、上昇管からなる重合領域にてモノマーを供給して重合し、上昇管に接続された下降管にてモノマーを供給して重合し、上昇管と下降管とを循環しながら、ポリマー生成物を回収する。この方法では、上昇管中に存在する気体混合物が下降管に入るのを全面的または部分的に防止する手段を備える。また、上昇管中に存在する気体混合物とは異なる組成を有する気体および/または液体混合物を下降管中に導入する。この重合方法は、例えば、特表2002−520426号公報に記載された方法を適用することができる。
また、重合の際には、公知のプロピレン重合用触媒が使用され、また、必要に応じて、分子量の調整のために、水素が添加されてもよい。
【0012】
重合によってプロピレン重合体とエチレン・1−ブテン共重合体とが混合された混合樹脂は、プロピレン重合体とエチレン・1−ブテン共重合体とが分子レベルに近い状態で混じり合う。そのため、重合によってプロピレン重合体とエチレン・1−ブテン共重合体とが混合された混合樹脂は、プロピレン重合体とエチレン・1−ブテン共重合体との単なるブレンド物や溶融混練物よりも優れた物性バランスを示す。
一方、プロピレン重合体とエチレン・1−ブテン共重合体とを溶融混錬する場合には、製造コストが高くなるという問題を含んでいる。
【0013】
(造核剤)
造核剤は、ポリプロピレン結晶核の形成を促進させるものである。結晶核を形成することによって、剛性を向上させることができる。
造核剤の具体例としては、ソルビトール化合物、カルボン酸の金属塩、芳香族リン酸エステル系化合物、トリアミノベンゼン誘導体核剤などが挙げられる。剛性が高く臭気が少ない点では、芳香族リン酸エステル系化合物とトリアミノベンゼン誘導体核剤が好ましい。
ソルビトール化合物としては、例えば、ジベンジリデンソルビトール、1,3,2,4−ジ−(メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−(エチルベンジリテン)ソルビトール、1,3,2,4−(メトキシベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−(エトキシベンジリデン)ソルビトール、1,2,3−トリデオキシ−4,6−5,7−ビス−o−[(4−プロピルフェニル)メチレン]ノニトールなどが挙げられる。
カルボン酸の金属塩としては、例えば、アジピン酸ナトリウム、アジピン酸カリウム、アジピン酸アルミニウム、セバシン酸ナトリウム、セバシン酸カリウム、セバシン酸アルミニウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸アルミニウム、ジ−パラ−t−ブチル安息香酸アルミニウム、ジ−パラ−t−ブチル安息香酸チタン、ジ−パラ−t−ブチル安息香酸クロム、ヒドロキシ−ジ−t−ブチル安息香酸アルミニウムなどが挙げられる。
芳香族リン酸エステル系造核剤としては、リン酸2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウム塩系造核剤、リン酸−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)アルミニウム塩系造核剤、リン酸−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リチウム塩系造核剤が挙げられる。
また、トリアミノベンゼン誘導体系造核剤として、例えば、1,3,5−トリス(2,2−ジメチルプロパンアミド)ベンゼン等が挙げられる。
上記造核剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
造核剤の含有量は、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.01〜1.0質量部であることが好ましく、0.05〜0.5質量部であることがより好ましい。造核剤の含有量が前記下限値以上であれば、該樹脂組成物から得られる成形品の剛性をより高くできる。しかし、前記上限値を超えて造核剤を含有させても、結晶核形成の促進効果は頭打ちとなる。
また、造核剤として、芳香族リン酸エステル系化合物とトリアミノベンゼン誘導体核剤とを併用した場合には、剛性をより向上させることができるが、トリアミノベンゼン誘導体核剤が多くなると、成形体に反りが生じやすくなる。そのため、芳香族リン酸エステル系化合物とトリアミノベンゼン誘導体核剤とを併用した場合には、トリアミノベンゼン誘導体核剤の含有割合を、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.015質量部以下にすることが好ましく、0.01質量部以下にすることがより好ましい。
【0015】
(帯電防止剤)
ポリプロピレン系樹脂組成物においては、プロピレン系樹脂組成物に導電性を付与する帯電防止剤が含まれてもよい。
帯電防止剤としては、非イオン系帯電防止剤、アニオン系帯電防止剤、カチオン系帯電防止剤、両性帯電防止剤が挙げられる。
非イオン系帯電防止剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンの脂肪酸エステル、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。
アニオン系帯電防止剤としては、例えば、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルサルフェート、アルキルホスフェート等が挙げられる。
カチオン系帯電防止剤としては、例えば、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩等が挙げられる。
両性帯電防止剤としては、例えば、アルキルベタイン、イミザゾリン型誘導体等が挙げられる。
【0016】
本発明の効果がとりわけ発揮される点では、帯電防止剤の中でも、非イオン系帯電防止剤が好ましく、非イオン系帯電防止剤の中でも、グリセリン脂肪酸エステルが好ましい。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリンモノイソステアレート等が挙げられる。
帯電防止剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
プロピレン系樹脂組成物における帯電防止剤の含有割合は、0.1〜0.7質量%であることが好ましく、0.15〜0.6質量%であることがより好ましい。帯電防止剤の含有割合が前記下限値以上であれば、帯電防止性をより発揮でき、前記上限値以下であれば、帯電防止剤のブリードを抑制できる。
【0018】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、フェノールリン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。これらのなかでも、射出成形により得た成形品において、ウェルド部の曇りを抑制でき、成形品の光沢を全体的に高くできることから、フェノールリン系酸化防止剤が好ましい。ここで、フェノールリン系酸化防止剤は、フェノール構造と3価のリン原子を一分子中に含むものであり、フェノール系酸化防止剤はフェノール構造を含むが、リン原子を含まないものであり、硫黄系酸化防止剤は、硫黄原子を含むものである。
市販されているフェノールリン系酸化防止剤としては、住友化学株式会社製スミライザーGPが挙げられる。なお、住友化学株式会社製スミライザーGPは、6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピンである。
酸化防止剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
酸化防止剤の合計の含有割合は、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.01〜0.50質量部であることが好ましく、0.03〜0.50質量部であることがより好ましく、0.03〜0.30質量部であることがさらに好ましい。
酸化防止剤がフェノールリン系酸化防止剤である場合には、フェノールリン系酸化防止剤の含有割合は、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.02〜0.20質量部であることが好ましく、0.04〜0.15質量部であることがさらに好ましい。フェノールリン系酸化防止剤の含有割合が前記下限値以上であれば、射出成形により得た成形品において、ウェルド部の曇りをより抑制できる。一方、フェノールリン系酸化防止剤の含有割合を前記上限値より多くしても、ウェルド部の曇り防止効果が頭打ちとなり、無駄が多くなるので好ましくない。
【0020】
(他の成分)
ポリプロピレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂又はゴムを含有してもよい。ポリプロピレン系樹脂組成物が含有してもよい樹脂又はゴムは1種のみでもよいし、2種以上でもよい。例えば、前記ポリプロピレン系樹脂とは別に作製したプロピレン単独重合体とエチレン・1−ブテン共重合体とを溶融混練して得た混合樹脂がポリプロピレン系樹脂組成物に含まれてもよい。また、エチレン単位が5質量%以上且つプロピレン単位が95質量%未満のエチレン・プロピレン共重合体がポリプロピレン系樹脂組成物に含まれてもよい。
また、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物には、任意成分として、例えば、塩素吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、内部滑剤、外部滑剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、発泡剤、気泡防止剤、架橋剤、過酸化物、油展および顔料(有機または無機)等のその他の添加剤が含まれてもよい。各添加剤の添加量は公知の量としてよい。
【0021】
ポリプロピレン系樹脂組成物が造核効果のある充填剤として、平板状の無機粒子であるタルクを含む場合があるが、ポリプロピレン系樹脂組成物におけるタルクの含有量は、前記ポリプロピレン系樹脂を100質量部とした際の0.5質量部以下であり、0.3質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましい。ポリプロピレン系樹脂組成物にタルクが全く含まれていなくてもよい。
タルクの含有量が前記上限値を超えると、該樹脂組成物から得られる成形品の光沢が低下する傾向にある。
【0022】
ポリプロピレン系樹脂組成物にタルクが含まれる場合、タルクの平均粒子径は、1〜10μmであることが好ましく、2〜7μmであることがより好ましい。ここで、平均粒子径は、レーザー回折法により測定した体積平均粒子径である。タルクの平均粒子径が前記下限値以上であれば、タルク添加による機械的物性向上効果を充分に発揮でき、前記上限値以下であれば、タルク添加による光沢低下を抑制できる。
【0023】
ポリプロピレン系樹脂組成物はタルク以外の無機粒子を含むことができる。タルク以外の無機充填剤としては、例えば、カオリナイト、焼成クレー、バイロフィライト、セリナイト、ウォラストナイトなどの天然珪酸または珪酸塩;沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの水酸化物;酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの酸化物;及び、含水珪酸カルシウム、含水珪酸アルミニウム、含水珪酸、無水珪酸などの合成珪酸または珪酸塩などの粉末状フィラー、マイカなどのフレーク状フィラー;塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、チタン酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、セピオライト、PMF(Processed Mineral Filler)、ゾノトライト、チタン酸カリウム、及びエレスタダイトなどの繊維状フィラー;並びに、ガラスバルン、フライアッシュバルンなどのバルン状フィラー等を用いることができる。
タルク以外の無機粒子の含有量は、前記ポリプロピレン系樹脂を100質量部とした際の0.5質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以下であることがより好ましい。タルク以外の無機粒子の含有量が前記上限値以下であれば、光沢低下を抑制できる。
【0024】
(製造方法)
ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法としては、前記ポリプロピレン系樹脂と前記造核剤とを混合し、溶融混練する方法が挙げられる。必要に応じて、ポリプロピレン系樹脂以外の他の樹脂又はゴム、添加剤等をさらに混合してもよい。各成分の添加の順序には制限はない。
溶融混練の方法としては特に制限はなく、例えば、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー等のミキサーを用いる方法が挙げられる。
混合した後、得られた混合物を溶融混練し、さらにペレット化してもよい。溶融混練装置としては、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールミル等を用いることができる。
【0025】
<成形品>
本発明の成形品は、上記ポリプロピレン系樹脂組成物が成形されたものである。
ポリプロピレン系樹脂組成物の成形方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、中空成形法等を適用できる。また、押出成形機を用いてシート状に成形した後、このシートを真空成形法、圧空成形法等の二次加工方法によって所望の形状に成形してもよい。
上記ポリプロピレン系樹脂組成物は、上記成形方法のなかでも、射出成形法で成形するのに適している。
本発明の成形品は、ABS樹脂が使用されている成形品、例えば、家電製品の筐体又は部品、電子機器の筐体又は部品、OA機器の筐体又は部品として好適に使用される。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例及び比較例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されない。後述する実施例1〜8は参考例である。
各例における、エチレン・1−ブテン共重合体における1−ブテン単位の含有割合、ポリプロピレン系樹脂のキシレン可溶分の極限粘度、ポリプロピレン系樹脂の最高融点、ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRは以下のように測定した。
1)エチレン・1−ブテン共重合体の1−ブテン単位の含有割合:
エチレン・1−ブテン共重合体の1−ブテン単位の含有割合は、1,2,4−トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解した試料について、日本電子株式会社製JNM LA−400(13C共鳴周波数100MHz)を用い、13C−NMR法で測定した。
2)ポリプロピレン系樹脂のキシレン可溶分の極限粘度:
ポリプロピレン系樹脂のキシレン可溶分は、以下の方法によって得た。
サンプル2.5gを、o−キシレン(溶媒)を250ml入れたフラスコに入れ、ホットプレートおよび還流装置を用いて、135℃で、窒素パージを行いながら、30分間撹拌し、ポリプロピレン系樹脂を完全溶解させた後、25℃で1時間、冷却した。これにより得られた溶液を、濾紙を用いて濾過した。濾過後の濾液を100ml採取し、アルミニウムカップ等に移し、窒素パージを行いながら、140℃で蒸発乾固を行い、室温で30分間静置して、キシレン可溶分を得た。
得られたキシレン可溶分を試料として用い、テトラヒドロナフタレン中、135℃において毛細管自動粘度測定装置(SS−780−H1、株式会社柴山科学器械製作所製)を用いて、極限粘度を測定した。
3)最高融点
ポリプロピレン系樹脂の最高融点は、以下のようにして求めた。ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットをプレス成形して厚み0.3mmのシートを得た後、そのシートから、5〜7mgの重量の試料片を切り出した。その試料片を、株式会社パーキンエルマー製ダイヤモンドDSCの所定の測定位置に取り付けた。次いで、試料片を、窒素雰囲気下、10℃/分で昇温し、230℃にて5分保持し、その後、10℃/分で30℃まで降温した。30℃で5分間保持した後、引き続き、10℃/分で昇温してセカンドスキャンを行い、最高温側の融点を測定した。
4)MFR:
ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRは、JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重:21.18Nの条件で測定した。
【0027】
(実施例1)
ポリプロピレン系樹脂100質量部と、芳香族リン酸エステル系有機造核剤を含む造核剤(株式会社ADEKA製アデカスタブNA−18)0.2質量部、酸化防止剤(BASF社製B225、イルガノックス1010とイルガフォス168の1:1混合物)0.2質量部、中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)0.05質量部とを、ヘンシェルミキサーで1分間攪拌、混合して混合物を得た。本例では、ポリプロピレン系樹脂として、1段目で、プロピレン単独重合体を形成し、2段目で、プロピレン単独重合体存在下、エチレン・1−ブテン共重合体を形成させた混合樹脂であって、プロピレン単独重合体:79質量%、エチレン・1−ブテン共重合体:21質量%、キシレン可溶分の極限粘度:1.1dl/g、エチレン・1−ブテン共重合体における1−ブテン単位含有割合:19質量%、最高融点:161℃のものを用いた。その際、水素供給量、重合温度、重合圧力、触媒の添加量、1段目と2段目の滞留時間、2段目のエチレン供給量と1−ブテン供給量を調整することによって、該プロピレン系樹脂材料を得た。
次いで、前記混合物を、スクリュー温度を180℃、スクリュー回転数300rpmに設定した同方向二軸押出機(神戸製鋼株式会社製KTX−30)を用いて溶融混練し、ペレット化して、MFRが22g/10分のポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0028】
(実施例2)
ポリプロピレン系樹脂及び造核剤に加えて他のゴム(三井化学株式会社製タフマーA4050S)を、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して5質量部混合すると共に、ポリプロピレン系樹脂を、エチレン・1−ブテン共重合体含有割合が24質量%、且つ、ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRが16g/10分になるものとした以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0029】
(実施例3)
ポリプロピレン系樹脂及び造核剤に加えて充填剤としてタルクを、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して0.3質量部混合した以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0030】
(実施例4)
ポリプロピレン系樹脂を、キシレン可溶分の極限粘度が0.9dl/g、且つ、エチレン・1−ブテン共重合体における1−ブテン単位含有割合が25質量%のものに変更した以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0031】
(実施例5)
ポリプロピレン系樹脂を、エチレン・1−ブテン共重合体含有割合が10質量%、且つ、ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRが23g/10分になるものに変更した以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0032】
(実施例6)
ポリプロピレン系樹脂を、エチレン・1−ブテン共重合体含有割合が13質量%、且つ、ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRが23g/10分になるものに変更した以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0033】
(実施例7)
ポリプロピレン系樹脂を、ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRが29g/10分になるものに変更した以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0034】
(比較例1)
ポリプロピレン系樹脂100質量部と、芳香族リン酸エステル系有機造核剤を含む造核剤(株式会社ADEKA製アデカスタブNA−11)0.07質量部、酸化防止剤(BASF社製B225)0.2質量部、中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)0.05質量部と、タルク1.0質量部とを、ヘンシェルミキサーで1分間攪拌、混合して混合物を得た。本例では、ポリプロピレン系樹脂として、1段目で、プロピレン単独重合体を形成し、2段目で、プロピレン単独重合体存在下、エチレン・プロピレン共重合体を形成させた混合樹脂であって、プロピレン単独重合体:87質量%、エチレン・プロピレン共重合体:13質量%、キシレン可溶分の極限粘度:2.8dl/g、エチレン・プロピレン共重合体におけるプロピレン単位含有割合:65質量%、最高融点:161℃のものを用いた。その際、水素供給量、重合温度、重合圧力、触媒の添加量、1段目と2段目の滞留時間、2段目のエチレン供給量とプロピレン供給量を調整することによって、該プロピレン系樹脂材料を得た。
次いで、前記混合物を、スクリュー温度を180℃、スクリュー回転数300rpmに設定した同方向二軸押出機(神戸製鋼株式会社製KTX−30)を用いて溶融混練し、ペレット化して、MFRが20g/分のポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0035】
(比較例2)
ポリプロピレン系樹脂100質量部と、芳香族リン酸エステル系有機造核剤を含む造核剤(株式会社ADEKA製アデカスタブNA−11)0.2質量部、酸化防止剤(BASF社製B225)0.2質量部、中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)0.05質量部とを、ヘンシェルミキサーで1分間攪拌、混合して混合物を得た。本例では、ポリプロピレン系樹脂として、1段目で、プロピレン単独重合体を形成し、2段目で、プロピレン単独重合体存在下、エチレン・1−ブテン共重合体を形成させた混合樹脂であって、プロピレン単独重合体:82質量%、エチレン・1−ブテン共重合体:18質量%、キシレン可溶分の極限粘度:1.3dl/g、エチレン・1−ブテン共重合体における1−ブテン単位含有割合:25質量%、最高融点:161℃のものを用いた。その際、水素供給量、重合温度、重合圧力、触媒の添加量、1段目と2段目の滞留時間、2段目のエチレン供給量と1−ブテン供給量を調整することによって、該プロピレン系樹脂材料を得た。
次いで、前記混合物を、スクリュー温度を180℃、スクリュー回転数300rpmに設定した同方向二軸押出機(神戸製鋼株式会社製KTX−30)を用いて溶融混練し、ペレット化して、MFRが5g/10分のポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0036】
(比較例3)
キシレン可溶分の極限粘度を0.7dl/gに変更した以外は実施例1と同様のポリプロピレン系樹脂を多段重合により得ようとしたが、重合が困難であり、得られなかった。
【0037】
(比較例4)
エチレン・1−ブテン共重合体における1−ブテン単位含有割合を28質量%に変更した以外は実施例1と同様のポリプロピレン系樹脂を多段重合により得ようとしたが、重合が困難であり、得られなかった。
【0038】
(比較例5)
ポリプロピレン系樹脂を、キシレン可溶分の極限粘度が1.0dl/g、エチレン・1−ブテン共重合体における1−ブテン単位含有割合が12質量%、且つ、ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRが20g/10分になるものに変更した以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0039】
(比較例6)
ポリプロピレン系樹脂を、エチレン・1−ブテン共重合体含有割合が8質量%、キシレン可溶分の極限粘度が1.0dl/gのものに変更した以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0040】
(比較例7)
ポリプロピレン系樹脂を、エチレン・1−ブテン共重合体含有割合が27質量%、キシレン可溶分の極限粘度が1.0dl/g、且つ、ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRが21g/10分になるものに変更した以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0041】
(比較例8)
ポリプロピレン系樹脂を、エチレン・1−ブテン共重合体含有割合が18質量%、エチレン・1−ブテン共重合体における1−ブテン単位含有割合が22質量%、且つ、ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRが4g/10分になるものに変更した以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0042】
(比較例9)
ポリプロピレン系樹脂を、キシレン可溶分の極限粘度が1.0dl/g、且つ、ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRが35g/10分になるものに変更した以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0043】
(比較例10)
ポリプロピレン系樹脂を、エチレン・1−ブテン共重合体含有割合が22質量%、キシレン可溶分の極限粘度が1.0dl/g、且つ、ポリプロピレン系樹脂組成物のMFRが2g/10分になるものに変更した以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0044】
(比較例11)
造核剤を含有しなかった以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0045】
(比較例12)
ポリプロピレン系樹脂及び造核剤に加えてタルクを、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して1.0質量部混合し、且つ、ポリプロピレン系樹脂を、キシレン可溶分の極限粘度が1.0dl/gのものに変更した以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0046】
(比較例13)
ポリプロピレン系樹脂を、1段目でエチレンを供給することによりプロピレン・エチレン共重合体を形成させて最高融点が154℃のものに変更した以外は実施例1と同様にしてポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0047】
(比較例14)
実施例1におけるポリプロピレン系樹脂の製造において、2段目の重合をせずに、1段目の重合のみで、プロピレン単独重合体を形成した。このプロピレン単独重合体と、プロピレンとエチレン・1−ブテン共重合体(三井化学株式会社製タフマーA4050S)と、実施例1と同様の造核剤、酸化防止剤、中和剤とをブレンドした。得られたブレンド物を、スクリュー温度を180℃、スクリュー回転数300rpmに設定した同方向二軸押出機(神戸製鋼株式会社製KTX−30)を用いて溶融混練し、ペレット化して、MFRが30g/10分のポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0048】
<評価>
各例のポリプロピレン系樹脂組成物又は樹脂について、下記方法に光沢度、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度、面衝撃強度、成形流動性を測定した。測定結果を表1,2,3に示す。
【0049】
[光沢度]
ポリプロピレン系樹脂組成物又はポリプロピレン系樹脂を、射出成形機(ファナック株式会社製FANUC ROBOSHOT α−100C 射出成形機)を、シリンダー温度230℃、金型温度40℃、射出速度35mm/秒、冷却時間25秒の条件で成形し、幅130mm、厚み2mm、長さ130mmの測定用試験片を得た。その測定用試験片を用い、JIS Z8741に準拠し、株式会社村上色彩研究所製光沢計で60°光沢度を測定した。
【0050】
[曲げ弾性率]
ポリプロピレン系樹脂組成物又はポリプロピレン系樹脂を、射出成形機(ファナック株式会社製FANUC ROBOSHOT S2000i 射出成形機)を用い、シリンダー温度200℃、金型温度40℃、平均射出速度200mm/秒、冷却時間20秒の条件で成形し、幅10.0mm、厚み4.0mm、長さ80mmの測定用試験片を得た。
その測定用試験片を用い、JIS K7171に準拠し、島津製作所製全自動試験機(AG−X10KN)を用い、温度23℃、相対湿度50%、スパン間64mm、曲げ速度2.0mm/分の条件で曲げ弾性率を測定した。曲げ弾性率の値が高い程、剛性に優れる。
【0051】
[シャルピー衝撃強度]
ポリプロピレン系樹脂組成物又はポリプロピレン系樹脂を、射出成形機(ファナック株式会社製FANUC ROBOSHOT S2000i 射出成形機)を用い、シリンダー温度200℃、金型温度40℃、平均出速度200mm/秒、冷却時間20秒の条件で成形し、幅10.0mm、厚み4.0mm、長さ80mmの測定用試験片を得た。
その測定用試験片を用い、JIS K7111−1に準拠し、株式会社東洋精機製作所製デジタル衝撃試験機(DG−UB2)を用い、温度23℃、−20℃の各温度条件でシャルピー衝撃強度を測定した。シャルピー衝撃強度の値が高い程、耐衝撃性に優れる。
【0052】
[面衝撃強度]
ポリプロピレン系樹脂組成物又はポリプロピレン系樹脂を、射出成形機(ファナック株式会社製FANUC ROBOSHOT α−100C 射出成形機)を、シリンダー温度230℃、金型温度40℃、射出速度35mm/秒、冷却時間25秒の条件で成形し、幅130mm、厚み2mm、長さ130mmの測定用試験片を得た。
株式会社東洋精機製作所製デュポン式落下衝撃試験機を用い、温度−10℃の温度条件で、1kg、2kg及び3kgの錘を用い、高さを10cm単位で調整し(最大100cm)、2mm厚の測定用試験片が割れる位置を測定し、荷重(kg)×高さ(cm)で表示した。うち抜き型の半径は6.35mmで、受け治具は外形48mm、内径46mmの筒状ものを用いた。面衝撃強度の値が高い程、耐衝撃性に優れる。
【0053】
[成形流動性]
スパイラルフロー測定試験:
スパイラル流動長は、アルキメデススパイラルが形成されたスパイラルフロー金型(流路断面:上辺8mm、下辺10mm×高さ2mmの台形)を取り付けた射出成形機(α−100C(ファナック株式会社製))を用いて測定した。下記成形条件での測定値である。
シリンダー温度:230℃
金型温度:40℃
射出圧力:750kgf/cm
射出速度:10mm/秒
保圧:750kgf/cm(3秒保持)
冷却時間:8秒
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
実施例1〜7のポリプロピレン系樹脂組成物を成形した成形品は、十分な成形流動性を有し、剛性及び耐衝撃性が高く、しかも高光沢であった。
エチレン・1−ブテン共重合体の代わりにプロピレン単位量が多いエチレン・プロピレン共重合体を含み、タルクを1.0質量部含有する比較例1のポリプロピレン系樹脂組成物を成形した成形品は、光沢が低かった。
MFRが5g/10分の比較例2のポリプロピレン系樹脂組成物は、成形流動性が低かった。また、ポリプロピレン系樹脂の極限粘度が1.3dl/gである比較例2のポリプロピレン系樹脂組成物を成形した成形品は、光沢が低かった。
比較例3では、極限粘度が0.7dl/gのポリプロピレン系樹脂を多段重合により得ようとしたが、重合が困難なため、得られなかった。
比較例4では、エチレン・1−ブテン共重合体における1−ブテン単位含有割合が28質量%のポリプロピレン系樹脂を多段重合により得ようとしたが、重合が困難であり、得られなかった。
エチレン・1−ブテン共重合体における1−ブテン単位含有割合が12質量%のポリプロピレン系樹脂を含む比較例5のポリプロピレン系樹脂組成物を成形した成形品は、耐衝撃性が低かった。
エチレン・1−ブテン共重合体含有割合が8質量%のポリプロピレン系樹脂を含む比較例6のポリプロピレン系樹脂組成物を成形した成形品は、耐衝撃性が低かった。
エチレン・1−ブテン共重合体含有割合が27質量%のポリプロピレン系樹脂を含む比較例7のポリプロピレン系樹脂組成物を成形した成形品は、剛性が低かった。
MFRが4g/10分の比較例8のポリプロピレン系樹脂組成物は、成形流動性が低かった。
MFRが35g/10分の比較例9のポリプロピレン系樹脂組成物を成形した成形品は、耐衝撃性が低かった。
MFRが2g/10分の比較例10のポリプロピレン系樹脂組成物は、成形流動性が低かった。また、MFRが2g/10分の比較例10のポリプロピレン系樹脂組成物を成形した成形品は、光沢及び剛性が低かった。
造核剤を含まない比較例11のポリプロピレン系樹脂組成物を成形した成形品は、剛性が低かった。
タルクを1.0質量部含有する比較例12のポリプロピレン系樹脂組成物を成形した成形品は、光沢が低かった。
最高融点が154℃のポリプロピレン系樹脂を含む比較例13のポリプロピレン系樹脂組成物を成形した成形品は、剛性が低かった。
プロピレン重合体とエチレン・1−ブテン共重合体とが溶融混練により混合された混合樹脂を含む比較例14のポリプロピレン系樹脂組成物を成形した成形品は、剛性と面衝撃強度とのバランスが必ずしも良好ではなかった。
【0058】
(実施例8)
ポリプロピレン系樹脂として、エチレン・1−ブテン共重合体含有割合が10質量%、エチレン・1−ブテン共重合体における1−ブテン単位含有割合が21質量%、キシレン可溶分の極限粘度が1.0dl/gのものに変更した以外は実施例1と同様のポリプロピレン系樹脂を用いた。
前記ポリプロピレン系樹脂100質量部、芳香族リン酸エステル系有機造核剤を含む造核剤(株式会社ADEKA製アデカスタブNA−18)0.1質量部、帯電防止剤(グリセリンモノステアレート)0.2質量部、酸化防止剤(BASF社製B225、イルガノックス1010とイルガフォス168の1:1混合物)0.1質量部を中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)0.05質量部とを、ヘンシェルミキサーで1分間攪拌、混合して混合物を得た。
次いで、前記混合物を、スクリュー温度を180℃、スクリュー回転数300rpmに設定した同方向二軸押出機(神戸製鋼株式会社製KTX−30)を用いて溶融混練し、ペレット化して、MFRが23g/10分のポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0059】
(実施例9)
造核剤として、芳香族リン酸エステル系有機造核剤を含む造核剤(株式会社ADEKA製アデカスタブNA−18)0.2質量部と、トリアミノベンゼン誘導体系造核剤(BASF社製イルガクリアXT386)0.01質量部とを用いた以外は実施例8と同様にして、ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0060】
(実施例10)
造核剤として、芳香族リン酸エステル系有機造核剤を含む造核剤(株式会社ADEKA製アデカスタブNA−18)0.1質量部と、トリアミノベンゼン誘導体系造核剤(BASF社製イルガクリアXT386)0.01質量部とを用いた以外は実施例8と同様にして、ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0061】
(実施例11)
造核剤として、芳香族リン酸エステル系有機造核剤を含む造核剤(株式会社ADEKA製アデカスタブNA−18)0.2質量部と、トリアミノベンゼン誘導体系造核剤(BASF社製イルガクリアXT386)0.02質量部とを用いた以外は実施例8と同様にして、ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0062】
(実施例12)
ポリプロピレン系樹脂におけるエチレン・1−ブテン共重合体含有割合を14質量%とし、造核剤として、芳香族リン酸エステル系有機造核剤を含む造核剤(株式会社ADEKA製アデカスタブNA−18)0.2質量部と、トリアミノベンゼン誘導体系造核剤(BASF社製イルガクリアXT386)0.02質量部とを用いた以外は実施例8と同様にして、ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0063】
(実施例13)
ポリプロピレン系樹脂におけるエチレン・1−ブテン共重合体含有割合を14質量%とし、造核剤として、芳香族リン酸エステル系有機造核剤を含む造核剤(株式会社ADEKA製アデカスタブNA−18)0.07質量部と、トリアミノベンゼン誘導体系造核剤(BASF社製イルガクリアXT386)0.02質量部とを用いた以外は実施例8と同様にして、ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0064】
(実施例14)
ポリプロピレン系樹脂におけるエチレン・1−ブテン共重合体含有割合を22質量%とし、造核剤として、芳香族リン酸エステル系有機造核剤を含む造核剤(株式会社ADEKA製アデカスタブNA−18)0.2質量部と、トリアミノベンゼン誘導体系造核剤(BASF社製イルガクリアXT386)0.02質量部とを用いた以外は実施例8と同様にして、ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0065】
(比較例15)
造核剤を添加しなかった以外は実施例8と同様にして、ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0066】
<評価>
上記の実施例及び比較例と同様に、光沢、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度、面衝撃強度、スパイラルフローを測定し、また、成形品の反りを下記の方法により測定した。各測定結果を表4に示す。
【0067】
[成形品の反り測定]
ポリプロピレン系樹脂組成物を、射出成形機(ファナック株式会社製FANUC ROBOSHOT α−100C 射出成形機)を、シリンダー温度230℃、金型温度40℃、射出速度35mm/秒、冷却時間20秒の条件で成形し、直径200mm円盤、厚み2mmの測定用試験片を得た。円盤中央のゲートをカット後、穴加工し、ボルトで台座に固定した。円盤の縁で最も高いところと最も低いところの高さを定規で測定し、その差を反り量とした。その値が大きい程、反りが大きいことを意味する。
【0068】
【表4】
【0069】
実施例8〜14及び比較例15の対比より、芳香族リン酸エステル系有機造核剤を含む造核剤とトリアミノベンゼン誘導体系造核剤とを併用すると、曲げ弾性率(剛性)が高くなることが分かった。
しかし、トリアミノベンゼン誘導体系造核剤を0.02質量部にすると、成形品の反りが大きくなり、好ましくないことがわかった。
【0070】
(実施例15)
ポリプロピレン系樹脂として、エチレン・1−ブテン共重合体含有割合が10質量%、エチレン・1−ブテン共重合体における1−ブテン単位含有割合が21質量%、キシレン可溶分の極限粘度が1.0dl/gのものに変更した以外は実施例1と同様のポリプロピレン系樹脂を用いた。
前記ポリプロピレン系樹脂100質量部、トリアミノベンゼン誘導体系造核剤(BASF社製イルガクリアXT386)0.02質量部、芳香族リン酸エステル系有機造核剤を含む造核剤(株式会社ADEKA製アデカスタブNA−18)0.2質量部、フェノールリン系酸化防止剤(住友化学株式会社製スミライザーGP)0.06質量部と、帯電防止剤(グリセリンモノステアレート)0.3質量部、酸化防止剤(BASF社製B225、イルガノックス1010とイルガフォス168の1:1混合物)0.08質量部を中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)0.05質量部とを、ヘンシェルミキサーで1分間攪拌、混合して混合物を得た。
次いで、前記混合物を、スクリュー温度を180℃、スクリュー回転数300rpmに設定した同方向二軸押出機(神戸製鋼株式会社製KTX−30)を用いて溶融混練し、ペレット化して、MFRが20g/10分のポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0071】
(実施例16)
フェノールリン系酸化防止剤を含有させず、帯電防止剤の含有割合を0.15質量部に変更した以外は実施例15同様にして、MFRが23g/10分のポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0072】
<評価>
上記の実施例及び比較例と同様に、光沢、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度、面衝撃強度、スパイラルフローを測定し、また、成形品のウェルド部の曇りを下記の方法により測定した。各測定結果を表5に示す。
【0073】
[ウェルド部の曇り]
ポリプロピレン系樹脂組成物を、射出成形機(ファナック株式会社製FANUC ROBOSHOT α−100C 射出成形機)を、シリンダー温度190℃又は240℃、金型温度40℃、射出速度35mm/秒、冷却時間25秒の条件で成形し、射出成形平板100mm×200mm×3mm両側ピンゲート(直径30mm穴つき)の測定用試験片を得た。その測定用試験片のウェルド部と非ウェルド部について、日本電色工業株式会社製の樹脂成型品評価測定器FW098を用いて測定した。光源を100%とし、照射角度0度で光学ファイバーを通し、直径4mm照射筒を測定部に当て、反射率(%)を測定した。そして、非ウェルド部の光沢とウェルド部の光沢との差を、ウェルド部の曇りとした。その値が大きい程、ウェルド部の光沢が低く、曇っていることを意味する。
【0074】
【表5】
【0075】
実施例15と実施例16との対比より、フェノールリン系酸化防止剤を含有する実施例15のポリプロピレン系樹脂組成物は、ウェルド部の曇りを抑えることがわかった。
なお、実施例15と実施例16とでは帯電防止剤の量が異なっているが、帯電防止剤の含有割合を前記好ましい範囲内で変更しても、ウェルド部の曇りには影響しないことを別の実験にて確認した。