特許第6594163号(P6594163)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594163
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】排ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/28 20060101AFI20191010BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20191010BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20191010BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20191010BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20191010BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   F01N3/28 301P
   F01N3/10 AZAB
   F01N3/022 C
   F01N3/035 A
   B01D53/94 241
   B01J23/63 A
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-215114(P2015-215114)
(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公開番号】特開2017-82745(P2017-82745A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(72)【発明者】
【氏名】野村 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】坂神 新吾
(72)【発明者】
【氏名】尾上 亮太
(72)【発明者】
【氏名】森下 雄太
(72)【発明者】
【氏名】栗山 純実
(72)【発明者】
【氏名】関根 洋
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−082915(JP,A)
【文献】 特開2014−001679(JP,A)
【文献】 特開2006−088027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 1/00−3/38
B01D 53/94
B01J 23/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置され、該内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
排ガス流入側の端部のみが開口した入側セルと、該入側セルに隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セルと、前記入側セルと前記出側セルとを仕切る多孔質の隔壁とを有するウォールフロー構造の基材と、
前記隔壁の内部細孔に保持された触媒層と
を備え、
前記触媒層は、酸素吸蔵能を有するOSC材からなる担体と、該担体に担持された貴金属とを少なくとも含んでおり、
ここで、前記隔壁の厚み方向において、前記入側セルに接する前記隔壁の表面から前記出側セル側に向かって前記隔壁の厚さの1/2までに当たる入側領域における内部細孔の空隙率が50%以上であり、かつ、該内部細孔に保持された触媒層の平均占有率が50%以下である、排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記触媒層に含まれる担体の全質量のうち前記OSC材の割合が70質量%以上である、請求項1に記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記触媒層は、アルミナを含まないアルミナレス層である、請求項1または2に記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記OSC材は、CeOまたはCeO−ZrO複合酸化物からなる、請求項1〜3の何れか一つに記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記内燃機関は、ガソリンエンジンである、請求項1〜4の何れか一つに記載の排ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化装置に関する。詳しくは、ガソリンエンジン等の内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関から排出される排ガスには、炭素を主成分とする粒子状物質(PM:Particulate Matter)、不燃成分からなるアッシュなどが含まれ、大気汚染の原因となることが知られている。そのため、粒子状物質の排出量については、排ガスに含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)などの成分とともに年々規制が強化されている。そこで、これらの粒子状物質を排ガスから捕集して除去するための技術が提案されている。
【0003】
例えば、上記粒子状物質を捕集するためのパティキュレートフィルタが内燃機関の排気通路内に設けられている。例えばガソリンエンジンは、ディーゼルエンジンよりは少ないものの一定量の粒子状物質を排ガスとともに排出するため、ガソリンパティキュレートフィルタ(Gasoline Particulate Filter:GPF)が排気通路内に装着される場合がある。かかるパティキュレートフィルタとしては、基材が多孔質からなる多数のセルから構成され、多数のセルの入口と出口を交互に閉塞した、いわゆるウォールフロー型と呼ばれる構造のものが知られている(特許文献1、2)。ウォールフロー型パティキュレートフィルタでは、セル入口から流入した排ガスは、仕切られた多孔質のセル隔壁を通過し、セル出口へと排出される。そして、排ガスが多孔質のセル隔壁を通過する間に、粒子状物質が隔壁内部の細孔内に捕集される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−82915号公報
【特許文献2】特開2007−185571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、さらなる排ガス浄化性能向上のために、上記パティキュレートフィルタにロジウム、白金、パラジウム等の貴金属触媒を担持させた触媒層を形成することが試みられている。かかる貴金属触媒を担持させる多孔質担体としては、アルミナと酸素吸蔵能を有するOSC材(例えばセリア−ジルコニア複合酸化物)とを併用した多孔質担体が広く用いられている。また、近年、かかる触媒層を有するフィルタでは、より高いOSC能を実現するために、OSC材の割合を増やすことが検討されている。しかし、本発明者が得た知見によれば、高割合のOSC材を含む触媒層については、OSC能は向上し得るものの、触媒層がフィルタから剥がれやすくなり、所望の浄化性能を安定して得られない可能性がある。
【0006】
本発明は、かかる事案に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ウォールフロー構造タイプのフィルタ触媒を備えた排ガス浄化装置において、触媒層の剥離を防止して浄化性能の更なる向上を実現することができる排ガス浄化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る排ガス浄化装置は、内燃機関の排気通路に配置され、該内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置である。この装置は、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セルと、該入側セルに隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セルと、前記入側セルと前記出側セルとを仕切る多孔質の隔壁とを有するウォールフロー構造の基材と、前記隔壁の内部細孔の表面に保持された触媒層を備える。前記触媒層は、酸素吸蔵能を有するOSC材からなる担体と、該担体に担持された貴金属とを少なくとも含んでいる。そして、前記隔壁の厚み方向において、前記入側セルに接する前記隔壁の表面から前記出側セル側に向かって前記隔壁の厚さの1/2までに当たる入側領域における内部細孔の空隙率が25%以上であり、かつ、該内部細孔に保持された触媒層の平均占有率が75%以下である。
【0008】
かかる構成の排ガス浄化装置では、隔壁の厚み方向において、入側セルに接する隔壁の表面から出側セル側に向かって隔壁の厚さの1/2までに当たる入側領域における内部細孔の空隙率を25%以上とし、かつ、該内部細孔に保持された触媒層の平均占有率を75%以下とすることで、触媒層が内部細孔の表面から剥がれ難くなり、耐久性に優れた排ガス浄化装置とすることができる。したがって、本発明によると、触媒のOSC能を長期にわたって発揮し得る最適な排ガス浄化装置を提供することができる。
【0009】
ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい一態様では、前記触媒層に含まれる担体の全質量のうち前記OSC材の割合が70質量%以上である。このようにOSC材を高割合で含む触媒層は、高いOSC能を有する一方で、内部細孔の表面から触媒層が剥がれがちである。しかし、本排ガス浄化装置の態様によれば、OSC材が高割合であるにもかかわらず、触媒層の剥離を抑制して高いOSC能を安定して発揮し得る。
【0010】
ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい一態様では、前記触媒層は、アルミナ(典型的にはアルミナからなる担体)を含まないアルミナレス層である。アルミナは嵩高いゆえ、圧損上昇の要因となり得る。したがって、アルミナフリーの触媒層とすることで、圧損の低減を図ることができる。また、アルミナフリーの触媒層は、内部細孔の表面から触媒層が剥がれがちであるところ、本態様によれば、アルミナレスであるにもかかわらず、触媒層の剥離を抑制して良好な浄化性能を安定して維持し得る。
【0011】
ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい一態様では、前記入側領域における内部細孔の空隙率が50%以上であり、かつ、該内部細孔に保持された触媒層の平均占有率が50%以下である。このようにすれば、より耐久性のある(触媒層が剥がれ難い)排ガス浄化装置を得ることができる。
【0012】
ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい一態様では、前記OSC材は、CeOまたはCeO−ZrO複合酸化物からなる。CeOまたはCeO−ZrO複合酸化物は高いOSC能を有しており、ここで開示される排ガス浄化装置に用いられるOSC材として好適である。
【0013】
ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい一態様では、前記内燃機関は、ガソリンエンジンである。ガソリンエンジンでは、排ガスの温度が比較的高温であり、隔壁内にPMが堆積しにくい。そのため、内燃機関がガソリンエンジンである場合、上述した効果がより有効に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、一実施形態に係る排ガス浄化装置を模式的に示す図である。
図2図2は、一実施形態に係る排ガス浄化装置のフィルタを模式的に示す斜視図である。
図3図3は、一実施形態に係る排ガス浄化装置のフィルタ断面を模式的に示す断面図である。
図4図4は、図3のIV領域を拡大した断面模式図である。
図5図5は、実施例1の基材の断面SEM像である。
図6図6は、実施例2の基材の断面SEM像である。
図7図7は、実施例3の基材の断面SEM像である。
図8図8は、実施例4の基材の断面SEM像である。
図9図9は、比較例1の基材の断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えばパティキュレートフィルタの自動車における配置に関するような一般的事項)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
先ず、本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置の構成について図1を参照しつつ説明する。ここで開示される排ガス浄化装置1は、該内燃機関の排気系に設けられている。図1は、内燃機関2と、該内燃機関2の排気系に設けられた排ガス浄化装置1を模式的に示す図である。
【0017】
本実施形態に係る内燃機関(エンジン)には、酸素と燃料ガスとを含む混合気が供給される。内燃機関は、この混合気を燃焼させ、燃焼エネルギーを力学的エネルギーに変換する。このときに燃焼された混合気は排ガスとなって排気系に排出される。図1に示す構成の内燃機関2は、自動車のガソリンエンジンを主体として構成されている。
【0018】
上記エンジン2の排気系について説明する。上記エンジン2を排気系に連通させる排気ポート(図示せず)には、エキゾーストマニホールド3が接続されている。エキゾーストマニホールド3は、排ガスが流通する排気管4に接続されている。エキゾーストマニホールド3と排気管4とにより本実施形態の排気通路が形成されている。図中の矢印は排ガス流通方向を示している。
【0019】
ここで開示される排ガス浄化装置1は、上記エンジン2の排気系に設けられている。この排ガス浄化装置1は、触媒部5とフィルタ部6とECU7を備え、上記排出される排ガスに含まれる有害成分(例えば、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NO))を浄化するとともに、排ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集する。
【0020】
触媒部5は、排気ガス中に含まれる三元成分(NOx、HC、CO)を浄化可能なものとして構成されており、上記エンジン2に連通する排気管4に設けられている。具体的には図1に示すように、排気管4の下流側に設けられている。触媒部5の種類は特に限定されない。触媒部5は、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の貴金属が担持された触媒であってもよい。なお、フィルタ部6の下流側の排気管4に下流側触媒部をさらに配置してもよい。かかる触媒部5の具体的な構成は本発明を特徴付けるものではないため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0021】
フィルタ部6は、触媒部5の下流側に設けられている。フィルタ部6は、排ガス中に含まれる粒子状物質(以下、単に「PM」と称する)を捕集して除去可能なガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)を備えている。以下、本実施形態に係るパティキュレートフィルタを詳細に説明する。
【0022】
図2は、パティキュレートフィルタ100の斜視図である。図3は、パティキュレートフィルタ100を軸方向に切断した断面の一部を拡大した模式図である。図2および図3に示すように、パティキュレートフィルタ100は、ウォールフロー構造の基材10と、触媒層20(図4)とを備えている。以下、基材10、触媒層20の順に説明する。
【0023】
<基材10>
基材10としては、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材及び形態のものが使用可能である。例えば、コージェライト、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスまたは合金(ステンレス等)から形成された基材を好適に採用することができる。一例として外形が円筒形状(本実施形態)である基材が例示される。ただし、基材全体の外形については、円筒形に代えて、楕円筒形、多角筒形を採用してもよい。かかる基材10は、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セル12と、該入側セル12に隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セル14と、入側セル12と出側セル14とを仕切る多孔質の隔壁16とを有している。
【0024】
<入側セル12および出側セル14>
入側セル12は、排ガス流入側の端部のみが開口しており、出側セル14は、入側セル12に隣接し排ガス流出側の端部のみが開口している。この実施形態では、入側セル12は、排ガス流出側の端部が封止部12aで目封じされており、出側セル14は、排ガス流入側の端部が封止部14aで目封じされている。入側セル12および出側セル14は、フィルタ100に供給される排ガスの流量や成分を考慮して適当な形状および大きさに設定するとよい。例えば入側セル12および出側セル14の形状は、正方形、平行四辺形、長方形、台形などの矩形、三角形、その他の多角形(例えば、六角形、八角形)、円形など種々の幾何学形状であってよい。
【0025】
<隔壁16>
隣接する入側セル12と出側セル14との間には、隔壁16が形成されている。この隔壁16によって入側セル12と出側セル14とが仕切られている。隔壁16は、排ガスが通過可能な多孔質構造である。隔壁16の平均細孔径としては特に限定されないが、PMの捕集効率および圧損上昇抑制等の観点から、概ね5μm〜30μm、好ましくは10μm〜25μmである。かかる隔壁16の平均細孔径は、後述する低粘度スラリーを用いて該隔壁16の内部細孔に薄膜の触媒層を形成する観点からも好適である。隔壁16の厚みとしては特に限定されないが、概ね0.2mm〜1.6mm程度であるとよい。このような隔壁の厚みの範囲内であると、PMの捕集効率を損なうことなく圧損の上昇を抑制する効果が得られる。かかる隔壁16の厚みは、後述する低粘度スラリーを用いて該隔壁16の内部細孔に薄膜の触媒層を形成する観点からも好適である。
【0026】
<触媒層20>
図4は、図3のIV領域を拡大した拡大模式図である。図4に示すように、触媒層20は、隔壁16の内部に設けられている。より詳細には、触媒層20は、隔壁16の内部細孔18の壁表面に保持されている。触媒層20は、酸素吸蔵能を有するOSC材からなる担体と、該担体に担持された貴金属とを少なくとも含んでいる。
【0027】
なお、本明細書において、「隔壁の内部細孔に触媒層が保持されている」とは、触媒層が隔壁の表面(すなわち外部)ではなく、隔壁の内部(内部細孔の壁表面)に主として存在することをいう。より具体的には、例えば基材の断面を電子顕微鏡で観察し、触媒層のコート量全体を100%とする。このとき、隔壁の内部細孔の壁表面に存在するコート量分が、典型的には90%以上、例えば95%以上、好ましくは98%以上、さらには99%以上、特には実質的に100%である(すなわち隔壁の表面には触媒層が実質的に存在しない)ことをいう。したがって、例えば隔壁の表面に触媒層を配置しようとした際に触媒層の一部が意図せずに隔壁の内部細孔へ浸透するような場合とは明確に区別されるものである。
【0028】
ここで開示されるパティキュレートフィルタ100は、図3および図4に示すように、隔壁16の厚み方向において、入側セル12に接する隔壁16の表面から出側セル14側に向かって隔壁16の厚さの1/2までに当たる入側領域16aにおける内部細孔18(隔壁16)の空隙率が25%以上である。また、当該入側領域16aにおいて内部細孔18に保持された触媒層20の平均占有率が75%以下である。このことによって、触媒層20が内部細孔18の表面から剥がれ難くなり、耐久性に優れたパティキュレートフィルタ100とすることができる。
【0029】
このような効果が得られる理由としては、特に限定的に解釈されるものではないが、例えば以下のように考えられる。すなわち、OSC能向上の観点からは、貴金属を担持する担体は、酸素吸蔵能を有するOSC材を含むことが好ましい。しかし、OSC材を担体として含む触媒層20は、密着力が弱く、排ガスが隔壁16を通過する際に細孔18の表面から剥がれやすい。特に、通過する排ガスの圧力が比較的大きい隔壁16の入側領域16aでは、触媒層20の剥がれが生じやすい。これに対して、入側領域16aにおける内部細孔18の空隙率を25%以上とし、かつ、内部細孔18に保持された触媒層20の平均占有率を75%以下としたパティキュレートフィルタ100は、排ガスが隔壁16の内部細孔18を通過しやすく、排ガスの圧力が触媒層20に伝わりにくい。このことが、触媒層20の剥離抑制に寄与するものと考えられる。なお、ここでいう「隔壁の入側領域」とは、隔壁の全領域のうち空隙率および平均占有率の評価対象となる領域を意味する。したがって、ここで開示される技術において、触媒層が形成される領域は、隔壁の入側領域に限定されない。例えば触媒層は、隔壁の入側領域のみならず、入側領域以外の領域(後述する出側領域)にも好ましく形成され得る。
【0030】
隔壁16の入側領域16aにおける空隙率は、概ね25%以上である。触媒層20の剥離抑制および圧損上昇抑制等の観点からは、入側領域16aの空隙率は、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは65%以上、特に好ましくは80%以上である。入側領域16aの空隙率の上限は特に限定されないが、フィルタ100の機械的強度等の観点から、概ね90%以下にすることが適当であり、好ましくは85%以下である。例えば、入側領域16aの空隙率が25%以上90%以下(好ましくは50%以上85%以下)である隔壁16が、触媒層の剥離抑制と機械的強度向上とを高いレベルで両立させる観点から好適である。なお、本明細書において、隔壁の空隙率は、水銀圧入法によって測定した値が採用され得る。
【0031】
上記入側領域16aにおいて内部細孔18に保持された触媒層20の平均占有率は、概ね75%以下である。このような内部細孔に占める割合(占有率)の小さい薄層の触媒層20であると、触媒層20の剥離が適切に抑制され得る。触媒層20の剥離抑制等の観点からは、入側領域16aにおける触媒層20の平均占有率は、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下である。入側領域16aにおける触媒層20の平均占有率の下限は特に限定されないが、浄化性能向上の観点からは、概ね5%以上にすることが適当であり、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上である。例えば、入側領域16aにおける触媒層20の平均占有率が10%以上75%以下(好ましくは15%以上50%以下)であるパティキュレートフィルタ100が、触媒層の剥離抑制と浄化性能向上とを高いレベルで両立させる観点から好適である。
【0032】
なお、この明細書において、隔壁の内部細孔に保持された触媒層の占有率は、次のようにして算出するものとする。すなわち、
(1)走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、隔壁の断面SEM画像または断面TEM画像に含まれる細孔であって触媒層が保持された内部細孔を観察し、画像内で最も大きい細孔径を取れる部位から細孔の分離を始める。
(2)細孔が繋がっている場合は、最大孔径の50%まで径が狭くなったところで細孔を仕切り、一つの細孔として分離する(その際、触媒層は細孔として処理する)。
(3)そして、分離した細孔画像から算出された細孔の面積Xと同一の面積を有する理想円(真円)の直径を細孔の細孔径として算出する。
(4)また、分離した細孔画像から該細孔内に保持された触媒層の面積Yを算出し、該触媒層の面積Yを細孔の面積Xで除した値の百分率(すなわち100×Y/X)を触媒層の占有率(%)として算出する。
(5)上記(1)で分離した細孔に次いで大きな細孔径の細孔を分離する。
その後、分離した細孔の細孔径が5μm以下になるまで(2)〜(5)の処理を繰り返すことで、隔壁内部に設けられた細孔の細孔径および該細孔に保持された触媒層の占有率を求めることができる。そして、各細孔の触媒層の占有率を算術平均することにより、触媒層の平均占有率を導出することができる。なお、各細孔の細孔径および触媒層の占有率は、所定のプログラムに沿って所定の処理を行うコンピュータによる画像解析ソフトウェアを用いて求めることができる。
【0033】
ここで開示されるパティキュレートフィルタ100の好適例として、隔壁16の入側領域16aにおける内部細孔18の空隙率が25%〜90%であり、かつ該内部細孔18に保持された触媒層20の平均占有率が5%〜75%であるもの;隔壁16の入側領域16aにおける内部細孔18の空隙率が40%〜85%であり、かつ該内部細孔18に保持された触媒層20の平均占有率が10%〜60%であるもの;隔壁16の入側領域16aにおける内部細孔18の空隙率が50%〜85%であり、かつ該内部細孔18に保持された触媒層20の平均占有率が15%〜50%であるもの;等が例示される。このような隔壁16の空隙率および平均占有率の範囲内であると、高いOSC能を安定して発揮し得る、最適な排ガス浄化装置とすることができる。
【0034】
触媒層20は、隔壁16の入側領域16a以外の領域、すなわち、入側セル12に接する隔壁16の表面から出側セル14側に向かって隔壁16の厚さの50%〜100%までに当たる部分(当該部分における細孔内)にも形成され得る。換言すれば、触媒層20は、出側セル14側に接する隔壁16の表面から入側セル12に向かって隔壁16の厚さの1/2までに当たる出側領域16bにおける内部細孔に形成されていてもよい。隔壁16の出側領域16bにおける内部細孔の空隙率および該内部細孔に保持された触媒層の平均占有率としては、特に限定されない。
隔壁16の出側領域16bにおける空隙率は、上述した入側領域16aの空隙率と同じであってもよく異なっていてもよい。例えば、出側領域16bの空隙率は、概ね25%以上が適当であり、圧損増大抑制の観点からは、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは55%以上である。また、出側領域16bの空隙率は、概ね95%以下にすることが適当であり、機械的強度の観点からは、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは65%以下である。例えば、出側領域16bの空隙率が50%〜70%(好ましくは55%〜65%)である隔壁16が、圧損低減と機械的強度向上とを高いレベルで両立させる観点から好適である。
【0035】
出側領域16bにおいて内部細孔に保持された触媒層の平均占有率は、上述した入側領域16aの内部細孔に保持された触媒層の平均占有率と同じであってもよく異なっていてもよい。例えば、出側領域16bにおける触媒層の平均占有率は、概ね90%以下にすることが適当であり、圧損増大抑制の観点からは、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは50%以下である。また、出側領域16bにおける触媒層の平均占有率は、概ね0%以上にすることが適当であり、浄化性能向上の観点からは、例えば5%以上、典型的には10%以上(例えば15%以上)でもよい。出側領域16bにおける触媒層の平均占有率が0%(すなわち実質的に触媒層が形成されていない出側領域16b)であってもよい。
【0036】
<貴金属>
触媒層20には、貴金属と、該貴金属を担持する担体が含まれている。上記触媒層20に含まれる貴金属は、排ガスに含まれる有害成分に対する触媒機能を有していればよい。貴金属として、例えば、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)等を用いることができる
【0037】
<担体>
上記貴金属を担持する担体は、前述のように、酸素吸蔵能を有するOSC材を含んでいる。かかるOSC材は、排ガスの空燃比がリーンであるとき(即ち酸素過剰側の雰囲気)には排ガス中の酸素を吸蔵し、排ガスを還元雰囲気にすることで排ガス中のNOを還元されやすくする働きをする。また、OSC材は、排ガスの空燃比がリッチであるとき(即ち燃料過剰側の雰囲気)には吸蔵されている酸素を放出し、排ガスを酸化雰囲気にすることで排ガス中のCOおよびHCを酸化されやすくする働きをする。このように、貴金属を担持する担体として、酸素吸蔵能を有するOSC材を含むことにより、触媒のOSC能をより良く向上させることができる。
【0038】
上記OSC材としては、例えば、酸化セリウム(セリア:CeO)や該セリアを含む複合酸化物(例えば、セリア−ジルコニア複合酸化物(CeO−ZrO複合酸化物)などが挙げられる。CeOまたはCeO−ZrO複合酸化物を貴金属の担体として使用することにより、触媒層の酸素濃度の変動が緩和され、安定した触媒性能が得られるようになる。したがって、より良好な触媒性能を確実に発揮することができる。上述したOSC材の中でも、CeO−ZrO複合酸化物の使用が好ましい。CeOにZrOを固溶させることにより、CeOの粒成長が抑制され、耐久後のOSC能の低下を抑制することができる。CeO−ZrO複合酸化物におけるCeOとZrOとの混合割合は、CeO/ZrO=0.25〜0.75(好ましくは0.3〜0.6、より好ましくは0.5程度)であるとよい。CeO/ZrOを上記範囲にすると、高いOSC(酸素吸蔵能)を実現することができる。
【0039】
上記OSC材には、副成分として他の材料(典型的には無機酸化物)が添加されていてもよい。担体に添加し得る物質としては、ランタン(La)、イットリウム(Y)等の希土類元素、カルシウムなどのアルカリ土類元素、その他遷移金属元素などが用いられ得る。上記の中でも、ランタン、イットリウム等の希土類元素は、触媒機能を阻害せずに高温における比表面積を向上できるため、安定化剤として好適に用いられる。
【0040】
また、ここで開示される触媒層20は、OSC材以外の材料(非OSC材)が含まれていてもよい。この非OSC材は、貴金属を担持していてもよく、貴金属を担持していなくてもよい。かかる非OSC材としては、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、マグネシア(MgO)、酸化チタン(チタニア:TiO)等の金属酸化物、若しくはこれらの固溶体が挙げられる。
【0041】
ここに開示される技術は、触媒層20に含まれる担体の全質量のうち前記OSC材の割合が70質量%以上である態様で好ましく実施され得る。上記OSC材の割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上(典型的には98質量%以上)である。OSC材の割合が増えるほど、触媒のOSC能が向上し得る一方で、触媒層20が内部細孔18の表面から剥がれやすくなる。しかし、本態様によれば、前述のように触媒層20の剥離を抑制して高いOSC能を長期にわたって安定して維持し得る。
【0042】
また、ここに開示される触媒層20は、アルミナを含まないアルミナレス層であることが好ましい。すなわち、好ましい一態様では、触媒層20は、アルミナ以外の少なくともOSC材を含む担体(典型系には粉体状)に貴金属を担持させることによって形成され得る。アルミナは嵩高いゆえ、圧損上昇の要因となり得る。したがって、アルミナフリーの触媒層20とすることで、圧損の低減を図ることができる。また、アルミナフリーの触媒層20は、密着性が弱く、該触媒層20が内部細孔の表面から剥がれがちであるところ、本態様によれば、アルミナレスであるにもかかわらず、前述のように触媒層20の剥離を抑制して良好な浄化性能を安定して維持し得る。
【0043】
上記担体における貴金属の担持量は特に制限されないが、触媒層20の貴金属を担持する担体の全質量に対して0.01質量%〜2質量%の範囲(例えば0.05質量%〜1質量%)とすることが適当である。触媒層20の上記担体に貴金属を担持させる方法としては特に制限されない。例えば、Alおよび/またはCeO−ZrO複合酸化物を含む担体粉末を、貴金属塩(例えば硝酸塩)や貴金属錯体(例えば、テトラアンミン錯体)を含有する水溶液に含浸させた後、乾燥させ、焼成することにより調製することができる。
【0044】
触媒層20は、上述した貴金属および担体のほか、NOx吸蔵能を有するNOx吸収材を含んでいてもよい。NOx吸収材は、排ガスの空燃比が酸素過剰のリーン状態にある状態では排ガス中のNOxを吸収し、空燃比がリッチ側に切り替えられると、吸収されていたNOxを放出するNOx吸蔵能を有するものであればよい。かかるNOx吸収材としては、NOxに電子を供与し得る金属の一種または二種以上を含む塩基性材料を好ましく用いることができる。例えば、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、セシウム(Cs)のようなアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)のようなアルカリ土類金属、ランタノイドのような希土類および銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、イリジウム(Ir)等の遷移金属が挙げられる。中でもバリウム化合物(例えば硫酸バリウム)は高いNOx吸蔵能を有しており、ここで開示される排ガス浄化装置に用いられるNOx吸収材として好適である。
【0045】
<触媒層のコート量>
触媒層のコート量は、隔壁16の入側領域16aにおいて触媒層20の平均占有率が前記範囲を満たす限りにおいて特に制限はないが、基材の体積1L当たりについて、概ね140g/L以下、好ましくは120g/L以下、より好ましくは100g/L未満、さらに好ましくは80g/L以下、特に好ましくは65g/L以下である。本構成によると、OCS材の使用量を従来に比して増やすことができるので、フィルタ全体での触媒層のコート量を減らしつつ(ひいては圧損の低減や低コスト化を図りつつ)、排ガスの浄化性能を効果的に向上させることができる。したがって、例えば基材の体積1L当たりのコート量が140g/L以下(好ましくは100g/L未満、より好ましくは80g/L以下、さらに好ましくは65g/L以下)であるような少量の触媒層であるにもかかわらず、浄化性能に優れた、高性能な(例えば基材を排ガスが通過する際の圧力損失の上昇を招くことがない)排ガス浄化装置を実現することができる。触媒層のコート量の下限は特に限定されないが、浄化性能向上等の観点から、好ましくは30g/L以上、より好ましくは40g/L以上、さらに好ましくは50g/L以上である。ここに開示される技術は、基材の体積1L当たりについて、触媒層のコート量が60g/L以上120g/L以下であるような態様で好ましく実施され得る。
【0046】
<触媒層20の形成方法>
触媒層20を形成するに際しては、少なくともOSC材を含む担体に貴金属を担持してなる粉末と、適当な溶媒(例えばイオン交換水)とを含む触媒層形成用スラリーを用意するとよい。
【0047】
ここで、上記スラリーの粘度は、上述した触媒層の平均占有率を実現するという観点から一つの重要なファクターである。すなわち、上記スラリーは、隔壁の内部細孔の表面に薄く広がりやすいように、粘度が適宜調整されているとよい。好ましくは、上記スラリーは、せん断速度:4s−1のときの粘度が8000mPa・s以下(例えば1mPa・s〜8000mPa・s)、好ましくは3mPa・s〜4000mPa・s、より好ましくは5mPa・s〜2000mPa・s、さらに好ましくは10mPa・s〜800mPa・s、特に好ましくは10mPa・s〜100mPa・sである。このような粘度のスラリーを用いることにより、隔壁16の内部細孔の表面に薄層の触媒層を形成しやすくなる。かかるスラリー粘度を実現するため、スラリーには増粘剤や分散剤を含有させてもよい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)等のセルロース系のポリマーが例示される。スラリー中の全固形分に占める増粘剤の含有量としては、スラリーの粘度が上記範囲を満たす限りにおいて特に限定されないが、概ね0.5質量%〜10質量%、好ましくは1質量%〜5質量%、より好ましくは1.1質量%〜3質量%である。なお、上記スラリー粘度は、常温において市販のせん断粘度計により測定され得る粘度である。例えば、当該分野で標準的な動的粘弾性測定装置(レオメータ)を使用することにより、上記のようなせん断速度域の条件で容易に粘度を測定することができる。ここで「常温」とは15〜35℃の温度範囲をいい、典型的には20〜30℃の温度範囲(例えば25℃)をいう。
【0048】
ここで開示される触媒層の平均占有率を実現する他の好適な条件の一つとして、スラリー中の粒子(典型的には貴金属を担持した担体粉末)の平均粒子径を隔壁16の平均細孔径(メジアン値:D50径)の1/50〜1/3程度にすることが挙げられる。スラリー中の粒子の平均粒子径は、隔壁16の平均細孔径の1/40〜1/5程度がより好ましく、1/30〜1/10程度がさらに好ましい。例えば、隔壁16の平均細孔径が15μm〜20μmの場合、スラリー中の粒子の平均粒子径は0.3μm〜3μm(好ましくは0.4μm〜1μm、より好ましくは0.5μm〜0.7μm)とすることができる。このようなスラリー中の粒子の平均粒子径の範囲内であると、隔壁16の内部細孔に薄層の触媒層を形成することができる。なお、スラリー中の粒子の平均粒子径(メジアン値:D50径)はレーザ回折・散乱法に基づいて把握することができる。
【0049】
触媒層20を形成するに際しては、上記スラリーを基材10(図2)の排ガス流入側の端部となる部分に塗工し、他方の端部(すなわち基材10の排ガス流出側の端部となる部分)から吸引する。かかる吸引により、入側セル12(図3)に接する隔壁16の表面から出側セル14(図3)側に向かって上記スラリーを隔壁16の細孔内に流入させる。また、隔壁16の入側領域16aだけでなく、出側領域16bにも触媒層20を形成する場合には、必要に応じて、上記スラリーを基材10の排ガス流出側の端部となる部分に塗工し、他方の端部(すなわち基材10の排ガス流入側の端部となる部分)から吸引してもよい。かかる吸引により、出側セル14(図3)に接する隔壁16の表面から入側セル12(図3)側に向かって上記スラリーを隔壁16の細孔内に流入させる。このようにして上記スラリーを隔壁16の細孔内に流入させたら、次いで乾燥・焼成するとよい。これにより、隔壁16の細孔の壁表面に触媒層20が保持される。
【0050】
ここで、スラリーの吸引速度(風速)は、該スラリーが隔壁の内部細孔の表面に薄く広がりやすいように、適宜調整され得る。好ましい一態様では、スラリーの吸引速度は、概ね20m/s以上(例えば20m/s〜80m/s)、好ましくは25m/s以上に設定され得る。このように高速でスラリーを吸引することで、該スラリーが隔壁の内部細孔の表面に薄く広がりやすくなり、前述した平均占有率を有する触媒層がより良く実現され得る。スラリーの吸引時間は特に限定されないが、概ね1秒〜120秒にすることが適当である。ここで開示される技術の好適例として、スラリーの吸引速度が20m/s〜80m/sであり、かつ、スラリーの吸引時間が1秒〜120秒であるもの;スラリーの吸引速度が25m/s〜50m/sであり、かつ、スラリーの吸引時間が10秒〜120秒であるもの;が挙げられる。このようなスラリーの吸引速度および吸引時間の範囲内であると、薄層の触媒層をより安定して形成することができる。
【0051】
なお、スラリーを基材10の排ガス流入側の端部となる部分に塗工し、他方の端部(すなわち基材10の排ガス流出側の端部となる部分)から吸引する場合、入側セル12に接する隔壁16の表面から出側セル14側に向かって隔壁16の厚さの少なくとも50%(例えば50%〜100%)までに当たる部分(当該部分における細孔内)にスラリーがコートされるようにスラリーを吸引することが好ましい。また、必要に応じて、上記スラリーを基材10の排ガス流出側の端部となる部分に塗工し、他方の端部(すなわち基材10の排ガス流入側の端部となる部分)から吸引する場合、出側セル14に接する隔壁16の表面から入側セル12側に向かって隔壁16の厚さの少なくとも50%(例えば50%〜100%)までに当たる部分(当該部分における細孔内)にスラリーがコートされるようにスラリーを吸引することが好ましい。
【0052】
また、ここに開示される技術によると、隔壁の厚み方向において、入側セルに接する隔壁の表面から出側セル側に向かって隔壁の厚さの1/2までに当たる入側領域における内部細孔の空隙率が25%以上であり、かつ、該内部細孔に保持された触媒層の平均占有率が75%以下である、パティキュレートフィルタを製造する方法が提供され得る。
その製造方法は、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セルと、該入側セルに隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セルと、前記入側セルと前記出側セルとを仕切る多孔質の隔壁とを有するウォールフロー構造の基材を用意(購入、製造等)すること;
前記基材の排ガス流入側の端部となる部分に触媒層形成用スラリーを塗工し、他方の端部(すなわち基材の排ガス流出側の端部となる部分)から吸引すること、および、
前記スラリーを吸引した前記基材を乾燥・焼成すること;
を包含する。
ここで、上記触媒層形成用スラリーは、せん断速度:4s−1のときの粘度が2000mPa・s以下となるように設定されている。また、好ましい一態様では、スラリーの吸引速度(風速)が20m/s以上となるように設定されている。さらに、好ましい一態様では、スラリー中の粒子の平均粒子径が、隔壁の平均細孔径の1/40〜1/5程度となるように設定されている。かかる方法により製造されたフィルタは、排ガス浄化装置のパティキュレートフィルタとして好適に使用され得る。
【0053】
このパティキュレートフィルタ100は、図3に示すように、基材10の入側セル12から排ガスが流入する。入側セル12から流入した排ガスは、多孔質の隔壁16を通過して出側セル14に到達する。図3においては、入側セル12から流入した排ガスが隔壁16を通過して出側セル14に到達するルートを矢印で示している。このとき、隔壁16は多孔質構造を有しているので、排ガスがこの隔壁16を通過する間に、粒子状物質(PM)が隔壁16の表面や隔壁16の内部の細孔内に捕集される。また、図4に示すように、隔壁16の細孔内には、触媒層20が設けられているので、排ガスが隔壁16の細孔18内を通過する間に、排ガス中の有害成分が浄化される。その際、触媒層20は、担体として酸素吸蔵能を有するOSC材を含んでいるので、排ガス中の有害成分を効果的に浄化することができる。また、隔壁16の入側領域16aにおける内部細孔の空隙率が25%以上であり、かつ、該内部細孔18に保持された触媒層20の平均占有率が75%以下であるので、OSC材を担体に用いているにもかかわらず、触媒層20の剥離が有効に抑制され、上記浄化性能を長期にわたって安定して維持し得る。隔壁16を通過して出側セル14に到達した排ガスは、排ガス流出側の開口からフィルタ100の外部へと排出される。
【0054】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0055】
<実施例1>
担体としてのセリア−ジルコニア複合酸化物(CZ)を用意し、貴金属触媒溶液として硝酸Rh溶液に含浸させた後、蒸発乾固してRhを担持したRh/CZ担体粉末を調製した。また、担体としてのアルミナを用意し、貴金属触媒溶液として硝酸Rh溶液に含浸させた後、蒸発乾固してRhを担持したRh/アルミナ担体粉末を調製した。このRh/CZ担体粉末80質量部とRh/アルミナ担体粉末20質量部と増粘剤としてのCMC3質量部とイオン交換水300質量部とを混合して触媒層形成用スラリーを調製した。かかるスラリーのせん断速度:4s−1のときの粘度は1600mPa・s、スラリー中の粒子の平均粒子径は0.7μmであった。次いで、このスラリーをコージェライト基材10(図2および図3に示すウォールフロー型基材:直径103mm、全長100mm)の排ガス流入側の端部となる部分に塗工し、他方の端部(すなわち基材10の排ガス流出側の端部となる部分)から吸引することにより、隔壁16の細孔内にスラリーを流入させた。その際、入側セル12に接する隔壁16の表面から出側セル14側に向かって隔壁16の厚さの70%までに当たる部分(当該部分における細孔内)にスラリーがコートされるよう吸引条件を設定した。次いで乾燥・焼成することにより、隔壁16の細孔内に触媒層20を形成した。吸引速度は25m/s、吸引時間は10秒とした。また、基材の体積1L当たりの触媒層のコート量は100g/Lとした。以上のようにして、触媒層20を備えたパティキュレートフィルタを得た。この基材の前記入側領域16aにおける空隙率は、82.7%であった。また、前記入側領域16aにおいて内部細孔に保持された触媒層20の平均占有率は、17.3%であった。実施例1の基材の断面SEM像を図5に示す。
【0056】
<実施例2>
本例では、入側領域16aにおける内部細孔の空隙率を52.2%とし、さらにスラリーの粘度、吸引速度等の条件を工夫することで、上記内部細孔に保持された触媒層20の平均占有率を47.8%とした。それ以外は実施例1と同じ手順でパティキュレートフィルタを作製した。実施例2の基材の断面SEM像を図6に示す。
【0057】
<実施例3>
本例では、入側領域16aにおける内部細孔の空隙率を29.9%とし、さらにスラリーの粘度、吸引速度等の条件を工夫することで、上記内部細孔に保持された触媒層20の平均占有率を71.1%とした。それ以外は実施例1と同じ手順でパティキュレートフィルタを作製した。実施例3の基材の断面SEM像を図7に示す。
【0058】
<実施例4>
本例では、Rh/アルミナ担体粉末20質量部に代えてRh/CZ担体粉末20質量部を用いて(すなわちRh/CZ担体粉末の合計使用量を100質量部として)触媒層を形成した。また、入側領域16aにおける内部細孔の空隙率を61.3%とし、さらにスラリーの粘度、吸引速度等の条件を工夫することで、上記内部細孔に保持された触媒層20の平均占有率を38.7%とした。それ以外は実施例1と同じ手順でパティキュレートフィルタを作製した。実施例4の基材の断面SEM像を図8に示す。
【0059】
<比較例1>
本例では、入側領域16aにおける内部細孔の空隙率を9.0%とし、さらにスラリーの前記粘度を2500mPa・s、吸引速度を15m/sとすることで、上記内部細孔に保持された触媒層20の平均占有率を91.0%とした。それ以外は実施例1と同じ手順でパティキュレートフィルタを作製した。比較例1の基材の断面SEM像を図9に示す。
【0060】
<剥離率>
各例のフィルタについて、触媒層の剥離率を測定した。具体的には、各例のフィルタを蒸発する液分がなくなるまで十分に乾燥した後、質量(A)を測定した。次いで、空気中にて1000℃で5時間熱処理した。かかる熱処理後のフィルタを500℃以下に冷却した後、フィルタの側面を棒で5回叩いた。そして、再度、蒸発する液分がなくなるまでフィルタを十分に乾燥した後、質量(B)を測定した。そして、(A−B)/A×100で算出した値を触媒層の剥離率(%)とした。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示されるように、入側領域における内部細孔の空隙率が25%以上であり、かつ、該内部細孔に保持された触媒層の平均占有率が75%以下である実施例1〜4は、比較例1に比べて剥離率が低下傾向を示していた。この結果から、入側領域における内部細孔の空隙率を25%以上とし、かつ、該内部細孔に保持された触媒層の平均占有率を75%以下とすることにより、触媒層の剥離が抑制されることが確かめられた。特に、アルミナレスの触媒層を用いた実施例4は、アルミナを用いずにCZ担体のみを使用したにもかかわらず、比較例1に比べて剥離率が低下傾向を示していた。本態様の構成は、アルミナを用いずにCZ担体の割合を増やすことで、OSC能向上および圧損低減を図りつつ、触媒層の剥離を抑制し得る点で、技術的価値が高いといえる。
【0063】
以上、パティキュレートフィルタ100ならびに該パティキュレートフィルタ100を備えた排ガス浄化装置1について種々の改変例を例示したが、パティキュレートフィルタ100ならびに排ガス浄化装置1の構造は、上述した何れの実施形態にも限定されない。
【0064】
例えば、排ガス浄化装置1の各部材、部位の形状や構造は変更してもよい。図1に示した例では、フィルタ部の上流側に触媒部を設けているが、触媒部は省略しても構わない。この排ガス浄化装置1は、例えば、ガソリンエンジンなど、排気温度が比較的高い排ガス中の有害成分を浄化する装置として特に好適である。ただし、本発明に係る排ガス浄化装置1は、ガソリンエンジンの排ガス中の有害成分を浄化する用途に限らず、他のエンジン(例えばディーゼルエンジン)から排出された排ガス中の有害成分を浄化する種々の用途にて用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
10 基材
12 入側セル
14 出側セル
14a 封止部
16 隔壁
16a 入側領域
16b 出側領域
18 内部細孔
20 触媒層
100 パティキュレートフィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9