(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記冷却ユニットと前記冷却治具の前記冷却胴部との間に、熱伝導材が配置されており、そして該冷却ユニットと該熱伝導材と該冷却胴部とが互いに接触している、請求項6から8のいずれかに記載の装置。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工場や電子部品製造工場などでは、製品への粉塵や不純物への混入を避ける必要がある。また、当該製造現場において、超純水などの純度の高い水が通るチューブにはフッ素樹脂チューブが採用され、当該チューブの配管接合にはフッ素樹脂製の継手が使用される。
【0003】
図9は、当該分野にて使用されるチューブと継手との接合構造を説明するための当該構造の一例を示す模式断面図である。
図9において、チューブ700の端部は、継手710の端部と継手カバー720との間で気密性を保持するように固定されている。この固定において、チューブ700の端部は、継手710の端部外径に一致するように拡径して成形される。このチューブ700の端部における拡径では、不純物の混入や発生を防ぐために、継手710の内径とチューブ700の内径とは略同一となるように成形することが必要とされる。
【0004】
従来、このようなフッ素樹脂チューブの加工は、例えば、クリーンルーム内にて、エキスパンダによる常温での機械的拡径やヒートガンで加熱を通じた拡径が行われていた。しかし、エキスパンダによる機械的拡径は、チューブ内壁を損傷して、粉塵発生の原因となる溝を形成するおそれがあるため、半導体製造工場などで配管接合には適用が困難であった。また、ヒートガンによる加熱は、加熱時間や加熱温度、加熱場所などの条件管理が重要となり、作業者の熟練度に依存せざるを得ず、均質な拡径チューブを効率良く製造する点が課題とされていた。
【0005】
これに対し、特許文献1では、
図10に示すような加熱治具を使用してチューブの拡径を行う方法が提案されている。
【0006】
図10の(a)に示すように、まず、チューブ800は、加熱治具810の先端に設けられた突起部820に挿入される。加熱治具810は予めチューブ800を軟化させるための温度に設定されており、当該挿入により、チューブ800は内壁を通じて徐々に軟化を開始する。次いで、
図10の(b)に示すように、さらに軟化したチューブ800を押し進めると、チューブ800は、突起部820の基部に設けられたショルダー部822を越えて拡径し、さらに押し進めると、チューブ800の端部の内径は、冷却胴部826の外周に略一致する大きさにまで拡張される(
図10の(c))。その後、チューブ800を加熱治具810から取り外し、放冷するか、または水中への浸漬(水冷)やエアーブローなどの手段を用いて冷却することによって拡径チューブを得ることができる(
図10の(d))。
【0007】
しかし、
図10に記載の方法では、放冷または上記冷却によって拡径したチューブが熱収縮するため、加熱治具810は、当該熱収縮を計算して設計されなければならず、実際に製造される拡径チューブの寸法安定性を保持することが困難である。また、放冷の場合、例えば、肉厚0.5mm以上のチューブを拡径するには約60秒以上の放冷時間を要し、必ずしも作業効率が好ましいとは言い難い。さらに、水冷の場合は、浸漬後のチューブに付着した水滴を除去するために、追加の作業設備、作業工程および作業時間が必要となる。またさらに、エアーブローの場合、クリーンルーム内の粉塵を巻き上げるおそれがあり、クリーン環境の維持が困難となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、フッ素樹脂チューブの配管接合に利用可能な拡径チューブの寸法精度を高め、かつ粉塵などの発生を回避して製造することのできる、拡径チューブ製造装置および拡径チューブの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、フッ素樹脂で構成されるチューブの端部を拡径するための装置であって、
略水平な作業台、ならびに該作業台上に配置された加熱治具および冷却治具を備え、
ここで、
該加熱治具が、該チューブの端部を収容可能な外径であって該チューブの内径よりも小さい外径を有する加熱突起部と、該加熱突起部を該フッ素樹脂が軟化する温度にまで加熱するヒーターとを備え、そして
該冷却治具が、該チューブの該端部を収容可能な外径であって該チューブの内径よりも小さい外径を有する冷却突起部と、該冷却突起部に対して該作業台の側に設けられた冷却胴部と、該冷却突起部と該冷却胴部との間に設けられておりかつ該冷却突起部から該冷却胴部にかけて拡径する冷却ショルダー部とを備える、装置である。
【0011】
1つの実施形態では、上記冷却治具における上記冷却胴部の外径は、拡径チューブとして所望される内径の大きさに一致する。
【0012】
1つの実施形態では、上記フッ素樹脂が軟化する温度は200℃から300℃の範囲内である。
【0013】
1つの実施形態では、上記冷却治具は、上記冷却胴部を冷却するためのデバイスを備える。
【0014】
さらなる実施形態では、上記冷却胴部を冷却するためのデバイスはペルチェ素子である。
【0015】
1つの実施形態では、上記冷却治具と上記作業台との間に、冷却ユニットが配置されている。
【0016】
さらなる実施形態では、上記冷却ユニットと上記冷却治具の上記冷却胴部との間に、熱伝導材が配置されており、そして該冷却ユニットと該熱伝導材と該冷却胴部とが互いに接触している。
【0017】
さらなる実施形態では、上記冷却ユニットはペルチェ素子を備える。
【0018】
1つの実施形態では、上記加熱治具における上記加熱突起部および上記冷却治具における上記冷却突起部は、上記作業台に対してそれぞれ垂直な方向に指向している。
【0019】
本発明はまた、拡径チューブの製造方法であって、
フッ素樹脂で構成されるチューブの端部を、該フッ素樹脂が軟化する温度にまで加熱した加熱治具の加熱突起部に挿入して、該チューブの該端部を軟化する工程;および
該軟化したチューブの該端部を冷却治具の冷却突起部に挿入する工程;
該軟化したチューブの該端部を、該冷却治具の該冷却突起部から冷却胴部まで押し進めて拡径する工程;
を包含し、
ここで、
該冷却治具の該冷却突起部および該冷却胴部が、該冷却突起部から該冷却胴部にかけて拡径する冷却ショルダー部によって連結されている、方法である。
【0020】
1つの実施形態では、上記冷却治具における上記冷却胴部の外径は、上記拡径チューブに所望される内径の大きさに一致する。
【0021】
1つの実施形態では、上記フッ素樹脂が軟化する温度は200℃から300℃の範囲内である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、作業者の熟練度に依存することなく、優れた寸法精度により均質な拡径チューブをより簡便に製造することができる。さらに、本発明によれば、例えば、使用する冷却治具における冷却胴部の外径を変更することにより、拡径された部分の内径の大きさが異なる拡径チューブを製造することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(拡径チューブ製造装置)
まず、本発明の拡径チューブ製造装置について説明する。
【0025】
図1は、本発明の拡径チューブ製造装置の一例を模式的に説明するための当該装置の一部を切り欠いた図である。
【0026】
本発明の拡径チューブ製造装置は、加熱により塑性変形し得るフッ素樹脂のような樹脂(例えば、PFA、PTFE、FEP、ETFE、およびPVDF)で構成されるチューブの端部を拡径することができるものである。
図1に示すように拡径チューブ製造装置100は、略水平に配置された作業台102と、該作業台102上に配置された加熱治具120および冷却治具140を備える。
【0027】
作業台102は、内部に、加熱治具120および冷却治具140に付加する温度を制御するための各種手段(図示せず)が配置されたハウジング110の一部であってよく、例えば、ステンレススチール、ハステロイなどの金属板;ガラス板;大理石などの石板;ホーローのような複合板などの材料から構成されている。ハウジング110の下方には、必要に応じて装置100の安定性を高めるために脚部114が設けられていてもよい。
【0028】
加熱治具120および冷却治具140は、後述するような所定の温度にまで加熱または冷却されるものである。特に加熱治具120は高温に付されることから、作業者が不用意に接触して火傷などの負傷を防ぎ、かつ火災を防止する目的で、加熱治具120の周囲には、例えば、取り外し可能な安全カバー150が設けられていてもよい。安全カバー150には、上方に開口部152が設けられている。開口部152を通じて、加熱治具120の上端部(後述する加熱突起部)にチューブを挿入することができる。安全カバー150はまた、側方から加熱治具120を視認することができる、安全カバー150内に熱が滞留することを防止する等の理由から、必要に応じて多数の孔151が設けられていてもよく、あるいは安全カバー150の全体が金網などのメッシュ構造を有していてもよい。安全カバー150を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、ステンレススチール、ハステロイなどの金属板;ガラス板;およびアクリル板のような樹脂板;ならびにこれらの組合せから構成されている。
【0029】
本発明の拡径チューブ製造装置において、加熱治具120および冷却治具140は、加熱治具120で加熱したチューブを、速やかに冷却治具140に移すために、作業台102上で適切な間隔を開けて設けられていることが好ましい。加熱治具120と冷却治具140との間隔は、例えば、加熱治具120の頂部重心と冷却治具140頂部重心との距離(すなわち、
図1に示すような加熱治具120の頂部重心から鉛直方向に下ろした軸L
1と、冷却治具140の頂部重心から鉛直方向に下ろした軸L
2との間の最短距離sを基準にして、好ましくは10cm〜15cmである。
【0030】
図2は、本発明の拡径チューブ製造装置を構成する加熱治具の一例を説明するための図であって、当該加熱治具の模式断面図である。
【0031】
図2に示す加熱治具120は、加熱突起部122とヒーター126とを備える。
図2において、加熱突起部122は、加熱胴部124の上方に設けられている。加熱突起部122は、少なくともその上端部にて、拡径するために使用される拡径前のチューブ(以下「未拡径チューブ」ということがある)の端部を収容し得る(すなわち、チューブの端部から挿入可能な)外径となるように設計されている。例えば、加熱突起部122は、未拡径チューブの内径よりも小さい外径を有するように設計されている。加熱突起部122の外径は、使用する未拡径チューブの内径に応じて変化するため、必ずしも限定されないが、例えば、3.6mm〜22.2mm、好ましくは3.95mm〜21mmである。加熱突起部122は、未拡径チューブの内側形状に合わせて、例えば、略円柱または略楕円柱の形態を有していてもよく、あるいは上端部から下端部(すなわち、加熱胴部124側)にかけて徐々に拡径する形態(例えば、円錐、楕円錐、円錐台、または楕円錐台)を有していてもよい。加熱突起部122が当該拡径する形態を有する場合、加熱突起部122に挿入されたチューブの端部を加熱下で押し進めるにつれ、当該チューブの端部を徐々に押し広げることが可能となる。加熱突起部122の長さ(すなわち、上端部から下端部までの長さ)もまた、特に限定されないが、例えば、20mm〜25mm、好ましくは18mm〜22mmである。さらに、
図2において、加熱突起部122の上端部は略水平な面を形成するように記載されているが、本発明において加熱突起部122の上端部の形状は、必ずしもこれに限定されない。例えば、上端部全体が丸みを帯びた形状を有するように加工されていてもよい。当該丸みを帯びた形状に加工されていることによって、加熱突起部122に未拡径チューブの端部が挿入される際、当該未拡径チューブの内壁が損傷し、粉塵が発生する可能性をより低減することができるからである。
【0032】
図2において、加熱突起部122および加熱胴部124は一体的に成形されたものとして記載されているが、予め分離したものを組み合わせたものであってもよい。また、
図2では、加熱突起部122の下端と加熱胴部124の上端との間の接合部分において、略水平方向に延びる平面を有する加熱ショルダー部128が形成されている。加熱ショルダー部128が形成されている場合、加熱突起部122の上端から挿入された未拡径チューブの端部は、当該加熱ショルダー部128に当接すると、それ以上のチューブの挿入を阻止することができる。その結果、加熱突起部122に挿入可能な未拡径チューブの長さは、当該加熱突起部122の上端部から加熱ショルダー部128までの長さに略一致することとなり、多数の未拡径チューブに対して略同じ長さの端部を加熱することが可能となる。加熱治具120が加熱胴部124を有する場合、当該加熱胴部124の形態は、例えば、円柱、楕円柱、多角柱、円錐台、または楕円台のいずれであってもよい。加熱胴部124が円柱の形態を有する場合、その外径は、例えば、10mm〜30mm、好ましくは15mm〜21mmである。
【0033】
加熱突起部122および加熱胴部124は、例えば、熱伝導性に優れた材料から構成されており、具体的な例としては、金属(銅、アルミニウム、ステンレススチール、ハステロイ)、セラミックスなどが挙げられる。
【0034】
図2に示す加熱治具120において、ヒーター126は、例えば、作業台の下方に設けられた制御手段と電気的に接続されており、少なくとも加熱突起部122、あるいは加熱治具120全体(すなわち加熱突起122および加熱胴部124)をフッ素樹脂が軟化する温度にまで加熱することができる。本発明において設定される当該フッ素樹脂が軟化する温度は、好ましくは200℃〜300℃である。
図2において、ヒーター126は、加熱胴部124側にのみ設けられているが、ヒーター126の配置は
図2のものに限定されない。例えば、ヒーターは、加熱胴部124から加熱突起部122にかけて設けられていてもよく、あるいは加熱胴部124内を通る配線を介して加熱突起部122内にのみ設けられていてもよい。
【0035】
本発明において、加熱治具120には、上記ヒーター126以外に、加熱突起122の表面温度を検知するための温度センサー(図示せず)が設けられていてもよい。
【0036】
図3は、本発明の拡径チューブ製造装置を構成する加熱治具の他の例を説明するための図であって、当該他の例の加熱治具の模式断面図である。
【0037】
図3に示す加熱治具120’は、
図2に示す加熱突起部122、加熱胴部124、および加熱ショルダー部128に加えて、加熱カバー130を備える。
【0038】
加熱カバー130は、ヒーター126から発せられた熱が、加熱突起部122、または加熱突起部122および加熱胴部124を通じて外部に放出されることを防ぐことができる。これにより、加熱突起部122に挿入された未拡径チューブの端部に対し、より効率的に熱を伝達することができる。
【0039】
加熱カバー130は、上端部および下端部が開放した管状の形態を有し、内壁または内壁のうち下方が、加熱胴部124の外径と同一または僅かに大きくなるように設計されている。これにより、加熱カバー130は、加熱突起部122の上端部から被せられ、加熱胴部124の外壁に沿って上下方向にスライドさせることが可能となる。一方、加熱カバー130の内壁のうち少なくとも上方は、加熱突起部122の外壁との間に空隙が形成されるように設計されている。当該空隙が挿入可能な未拡径チューブの壁厚に相当する。
【0040】
加熱カバー130の上端部から下端部までの長さは、必ずしも限定されないが、加熱突起部122の上端部から被せられた際、
図3に示すように加熱カバー130の上端部が、加熱突起部122の上端部よりも上方に位置するような長さに設計されていることが好ましい。これにより、加熱突起部122に挿入された未拡径チューブの端部の外周は、加熱カバー130によって完全に覆われ、ヒーター126を通じて加熱突起部122から発せられる熱が外部に放出されることなく、挿入された未拡径チューブの端部に対し、より効率的に伝達することができる。加熱カバー130の上端部から下端部までの長さは、例えば、30mm〜55mm、好ましくは35mm〜50mmである。
【0041】
加熱カバー130は、例えば、金属(銅、アルミニウム、ステンレススチール、ハステロイ)、セラミックスなどの材料から構成されている。さらに、
図3において、加熱カバー130は、加熱胴部124と分離して設けられているが、加熱カバー130と加熱胴部124は一体となるように当業者に公知の方法を用いて固定されていてもよい。
【0042】
図4は、本発明の拡径チューブ製造装置を構成する冷却治具の一例を説明するための図であって、当該冷却治具の模式断面図である。
【0043】
図4に示す冷却治具140は、冷却突起部142と、冷却突起部142に対して作業台の側(
図4における下方)に設けられた冷却胴部144と、冷却突起部142と冷却胴部144との間に設けられておりかつ冷却突起部142から冷却胴部144にかけて拡径する冷却ショルダー部148とを備える。
【0044】
図4において、冷却突起部142は、少なくともその上端部にて、上記加熱治具にて加熱された拡径前のチューブ(以下「加熱未拡径チューブ」ということがある)の端部を収容し得る(すなわち、チューブの端部から挿入可能な)外径となるように設計されている。例えば、冷却突起部142は、加熱未拡径チューブの内径よりも小さい外径を有するように設計されている。冷却突起部142の外径は、挿入される加熱未拡径チューブの内径に応じて変化するため、必ずしも限定されないが、例えば、3.6mm〜22.2mm、好ましくは3.95mm〜21.8mmである。冷却突起部142は、例えば、略円柱または略楕円柱の形態を有し得る。冷却突起部142の長さ(すなわち、上端部から下端部までの長さ)もまた、特に限定されないが、例えば、2mm〜15mm、3mm〜12mm、12mm〜13mm、2mm〜7mm、および3mm〜5mmの範囲のうちのいずれかを有していてもよい。
【0045】
あるいは、本発明において、
図4に示す冷却治具140の冷却突起部142の長さは、
図2に示す加熱治具120の加熱突起部122の長さを基準にして所定の割合を有するように設計されていてもよい。
【0046】
1つの実施形態では、上記冷却突起部142の長さにおける所定の割合は、例えば、拡径を必要とするチューブ(例えば、未拡径チューブ)の内径、またはその内径と外径に応じて選択される。例えば、未拡径チューブが小口径のチューブである場合(すなわち、未拡径チューブの内径が4mm〜6mmであるような場合、または未拡径チューブが外径6mmかつ内径4mm、外径6.35mmかつ内径3.95mm、および外径8mmかつ内径6mmであるような場合を包含する)は、加熱治具で加熱した後の加熱未拡径チューブを冷却突起部142に挿入する際のチューブの座屈を防止するために、冷却突起部142の長さは、
図2に示す加熱治具120の加熱突起部122の長さを基準にして、例えば、10%〜60%、好ましくは15%〜50%となるように設計されている。
【0047】
他の実施形態では、上記冷却突起部142の長さは、加熱未拡径チューブを挿入して拡径を行う前に、当該チューブが冷却突起部142にて無用に冷却されることを防止するために可能な限り短い長さとなるように設計されている。この場合の冷却突起部142の長さは、
図2に示す加熱治具120の加熱突起部122の長さを基準にして、例えば、10%〜30%、好ましくは15%〜25%である。
【0048】
さらに、
図4において、冷却突起部142の上端部は略水平な面を形成するように記載されているが、本発明において冷却突起部142の上端部の形状は、必ずしもこれに限定されない。例えば、上端部全体が丸みを帯びた形状を有するように加工されていてもよい。当該丸みを帯びた形状に加工されていることによって、冷却突起部122に加熱未拡径チューブの端部が挿入される際、当該チューブの内壁が損傷し、粉塵が発生する可能性をより低減することができるからである。
【0049】
図4において、冷却胴部144の外径は、好ましくは、拡径チューブとして所望される内径の大きさに略一致する長さとなるように設計されている。冷却胴部144の形態は、例えば、円柱または楕円柱のいずれであってもよい。冷却胴部144が円柱の形態を有する場合、その外径は、例えば、6.5mm〜30mm、好ましくは7mm〜28mmである。
【0050】
冷却ショルダー部148は、上記冷却突起部142と冷却胴部144とを連結するものである。ここで、
図4において、冷却突起部142と冷却ショルダー部148と冷却胴部144とは一体的に成形されたものとして記載されているが、予め分離したものを組み合わせたものであってもよい。
【0051】
さらに、
図4では、冷却ショルダー部148において
図4の上方から下方に向かって、すなわち冷却突起部142の上端部側から冷却胴部144の下端部側に向かって、一定傾斜をもって拡径していることが記載されている。この傾斜に伴う角度θ
1は、好ましくは20°〜50°、より好ましくは30°〜40°である。角度θ
1がこのような範囲を満たすことにより、冷却突起部142の上端部から挿入された加熱未拡径チューブの端部は、作業者が当該チューブを押し進めることによって、より円滑に冷却ショルダー部148を通過させることが可能となると同時に冷却胴部144に向かって容易に拡径することができる。
【0052】
冷却突起部142、冷却ショルダー部148、および冷却胴部144は、例えば、熱伝導性に優れた材料から構成されており、具体的な例としては、金属(銅、アルミニウム、ステンレススチール、ハステロイ)、セラミックスなどが挙げられる。
【0053】
図4に示すように、冷却治具140の内部には、好ましくは冷却デバイス146が設けられている。冷却デバイス146は、例えば、ペルチェ素子のような、常温よりも低い温度に調節可能なデバイスである。冷却デバイス146は、例えば、作業台の下方に設けられた制御手段と電気的に接続されており、冷却治具140のうち、好ましくは冷却ショルダー部148および冷却胴部144、より好ましくは冷却胴部144を冷却することができる。ここで、冷却デバイス146によって、冷却治具140のうち、冷却突起部122よりも冷却ショルダー部148や冷却胴部144を積極的に冷却することにより、加熱未拡径チューブが拡径する前に冷却突起部122で冷却される(すなわち、形状が固定される)ことが回避可能である。その結果、冷却突起部142の上端部から挿入された加熱未拡径チューブの端部は、冷却突起部142を通過して、冷却ショルダー部148や冷却胴部144にまで押し進めることが一層容易となる。冷却デバイス146により設定され得る温度は、必ずしも限定されないが、例えば、冷却胴部144の外表面において、好ましくは5℃〜20℃であり、より好ましくは10℃〜15℃である。冷却胴部144の外表面が5℃未満に設定されていると、冷却胴部144の表面に結露が生じ、継手として使用する際の水滴の膜となって、チューブの脱落や位置ずれの原因となる場合がある。また、このような水滴はチューブ内を流れる洗浄処理液と所望でない反応を引き起こすおそれがある。冷却胴部144の外表面が20℃を上回って設定されていると、加熱未拡径チューブを拡径しながら短時間で冷却することが困難となる場合がある。
【0054】
本発明において、冷却治具140には、上記冷却デバイス146以外に、例えば、冷却胴部144の表面温度を検知するための温度センサー(図示せず)が設けられていてもよい。
【0055】
さらに、本発明においては、冷却治具140に挿入されるチューブが、当該冷却治具140の冷却突起部142、冷却ショルダー部148および冷却胴部144を構成する材料(上記金属、セラミックスなど)によって汚染されることを防止する;当該冷却治具140から離型し易くする;等の目的のために、冷却治具140の冷却突起部142、冷却ショルダー部148および/または冷却胴部144の外表面は、フッ素樹脂(例えば、PTFE)でコーティングされていることが好ましい。ここで、当該冷却治具140に設けられるフッ素樹脂コーティングの厚みは、好ましくは20μm〜50μmである。フッ素樹脂コーティングの厚みが20μm未満であると、冷却治具140から冷却後のチューブを適切に離型することが困難となる場合がある。フッ素樹脂コーティングの厚みが50μmを上回ると、フッ素樹脂コーティング層を介した冷却治具140からチューブへの熱伝導が不充分となり、効率良く冷却されない場合がある。
【0056】
上記冷却治具140上でのフッ素樹脂のコーティング層の形成は、例えば、以下のようにして行なわれる:まず、冷却治具140の外表面を、溶剤洗浄および/または空焼きによって脱脂した後、コーティングの接着性を向上させるためにブラストによる下地処理が行われ得る。次いで、例えば、エアスプレーまたは粉体スプレーのような手段を用いてフッ素樹脂をコーティングし、充分に乾燥させた後に焼結炉にて所定時間をかけて焼結することにより、当該コーティング層が冷却治具140上に配置される。
【0057】
図5は、本発明の拡径チューブ製造装置の他の例を模式的に説明するための当該装置の一部を切り欠いた図である。
【0058】
図5に示すように拡径チューブ製造装置200は、
図1に示す冷却治具140の代わりに別の冷却治具240が用いられ、冷却治具240と作業台102との間には、冷却ユニット280が配置されている。拡径チューブ製造装置200において、作業台102、ハウジング110、加熱治具120、安全カバー150等の構成は
図1に示すものと同様である。
【0059】
図6は、
図5に示す拡径チューブ製造装置200を構成する冷却治具240の一例を説明するための図であって、冷却ユニット280上に配置された当該冷却治具240の模式断面図である。
【0060】
冷却ユニット280は、内部にペルチェ素子のような、常温よりも低い温度に調節可能な冷却デバイス246を備える。例えば、冷却ユニット280は、市販品であってもよい。市販品の冷却ユニットを使用することにより、拡径チューブ製造装置の製造において、専用の冷却手段の設計および製造が不要となり、製造に要するコストを低減することができる。
【0061】
冷却治具240は、冷却突起部242と、冷却突起部242に対して冷却ユニットの側(
図6における下方)に設けられた冷却胴部244と、冷却突起部242と冷却胴部244との間に設けられておりかつ冷却突起部242から冷却胴部244にかけて拡径する冷却ショルダー部248とを備える。
【0062】
冷却突起部242は、
図4に示す冷却突起部142と同様に、少なくともその上端部にて、加熱未拡径チューブの端部を収容し得る外径となるように設計されている。冷却突起部242はまた、例えば、略円柱または略楕円柱の形態を有し得る。冷却突起部242の長さ(すなわち、上端部から下端部までの長さ)もまた、特に限定されないが、例えば、2mm〜15mm、3mm〜12mm、12mm〜13mm、2mm〜7mm、および3mm〜5mmの範囲のうちのいずれかを有していてもよい。
【0063】
あるいは、本発明において、
図6に示す冷却治具240の冷却突起部242の長さは、
図2に示す加熱治具120の加熱突起部122の長さを基準にして所定の割合を有するように設計されていてもよい。
【0064】
1つの実施形態では、上記冷却突起部242の長さにおける所定の割合は、例えば、拡径を必要とするチューブ(例えば、未拡径チューブ)の内径、またはその内径と外径に応じて選択される。例えば、未拡径チューブが小口径のチューブである場合は、加熱治具で加熱した後の加熱未拡径チューブを冷却突起部242に挿入する際のチューブの座屈を防止するために、冷却突起部242の長さは、
図2に示す加熱治具120の加熱突起部122の長さを基準にして、例えば、10%〜60%、好ましくは15%〜50%となるように設計されている。
【0065】
他の実施形態では、上記冷却突起部242の長さは、加熱未拡径チューブを挿入して拡径を行う前に、当該チューブが冷却突起部242にて無用に冷却されることを防止するために可能な限り短い長さとなるように設計されている。この場合の冷却突起部242の長さは、
図2に示す加熱治具120の加熱突起部122の長さを基準にして、例えば、10%〜30%、好ましくは15%〜25%である。
【0066】
本発明においては、冷却胴部244の下端にはフランジ250が設けられていてもよい。これにより、固定板262によって当該フランジ250を係止し、固定板262の端部からビス264によって冷却治具240を冷却ユニット280に固定することができる。
【0067】
冷却胴部244の外径は、好ましくは、拡径チューブとして所望される内径の大きさに略一致する長さとなるように設計されている。冷却胴部244の形態は、例えば、円柱または楕円柱のいずれであってもよい。冷却胴部244が円柱の形態を有する場合、その外径は、例えば、6.5mm〜30mm、好ましくは7mm〜28mmである。
【0068】
冷却ショルダー部248は、上記冷却突起部242と冷却胴部244とを連結するものである。
図6には、冷却突起部242および冷却胴部244と一体的に成形された例がしめされているが、予め分離した冷却突起部242、冷却胴部244、および冷却ショルダー部248が互いに組み合わせたものであってもよい。なお、冷却ショルダー部248の傾斜面を構成する角度(
図4のθ
1に相当する角度)は、
図4に示す冷却ショルダー部148のものと同様である。
【0069】
冷却突起部242、冷却ショルダー部248、および冷却胴部244は、例えば、熱伝導性に優れた材料から構成されており、具体的な例としては、金属(銅、アルミニウム、ステンレススチール、ハステロイ)、セラミックスなどが挙げられる。
【0070】
さらに本発明においては、冷却ユニット280と冷却治具240の冷却胴部244との間に、熱伝導材270が配置されていることが好ましい。熱伝導材270は、アルミニウム板のような熱伝導性に優れた材料で構成されており、冷却ユニット280と冷却胴部244との間でそれぞれに対し、互いに密接に接触することにより、冷却ユニット280からの温度を冷却胴部244に効率良く伝達することができる。熱伝導材270の厚みは必ずしも限定されないが、例えば、0.1mm〜0.5mmである。
【0071】
このように、
図1および
図5に示す本発明の拡径チューブ製造装置100,200は、それぞれ一つ作業台の上に、加熱治具および冷却治具が設けられている。このため、作業者は未拡径チューブを加熱治具で加熱した後、直ちに冷却治具に移動させることが可能となる。このような構成は、従来のヒートガンで加熱する場合と比較して、拡径チューブの製造に要する時間を短縮することが可能となる。さらに、本発明においては、チューブの拡径が冷却治具にて冷却する際に行われる。これにより、最終的な拡径チューブの内径の固定が冷却時に行われるため、チューブを構成するフッ素樹脂の熱収縮に伴う寸法変化の影響を考慮することなく、作業者は所望の内径を有する拡径チューブを容易に製造することができる。本発明の拡径チューブ製造装置はまた、従来のヒートガンを用いた拡径プロセスに要求されていた製造条件(例えば、加熱温度、加熱時間、加熱位置)と比較して、加熱温度および加熱位置をより均一に保つことがきるため、作業者は実質的に加熱時間のみに注意を払えばよいという作業環境の改善にも貢献する。
【0072】
なお、
図1および
図5に示す本発明の拡径チューブ製造装置100,200では、作業台102上に、1つの加熱治具120および1つの冷却治具140または240が設けられた場合について説明したが、本発明の拡径チューブ製造装置は、必ずしもこのような構成のみに限定されない。例えば、1つの作業台上に、複数の加熱治具および冷却治具(例えば、1つの加熱治具と1つの冷却治具とがセットになって、複数セットの形式で)設けられていてもよく、1つの加熱治具の両側にそれぞれ1つの冷却治具(すなわち、2つの冷却治具)が設けられていてもよく、あるいは1つの冷却治具の両側にそれぞれ1つの加熱治具(すなわち、2つの加熱治具)が設けられていてもよい。
【0073】
(拡径チューブの製造方法)
次に、本発明の拡径チューブの製造方法の一例として、例えば、
図1に示す拡径チューブ製造装置100を用いて当該チューブを製造する方法について説明する。
【0074】
本発明の製造方法では、まず、フッ素樹脂で構成されるチューブの端部が、フッ素樹脂が軟化する温度にまで加熱した加熱治具の加熱突起部に挿入される。
【0075】
例えば、
図7の(a)および(b)を用いて説明すると、作業者はフッ素樹脂製チューブ300の一方の端部を手に持ち、この端部が加熱治具120における加熱突起部122に挿入され(
図7の(a))、例えば、チューブ300の端部が加熱ショルダー部128に当接するまで押し進められる(
図7の(b))。ここで、ヒーター126を通じてチューブ300の端部内壁は、当該チューブ300の端部が軟化するまで、例えば急速に加熱される。なお、
図7の(a)および(b)では、外部への熱の放出を防ぐために、加熱カバー130が加熱突起部122および加熱胴部124を覆うように配置されている。
【0076】
チューブ300の端部が軟化するまでの時間は、チューブ300を構成するフッ素系樹脂の種類、チューブの内径および壁厚、加熱突起部の長さおよびその表面温度等によって変動するため、必ずしも限定されないが、例えば3秒間〜10秒間である。
【0077】
次いで、上記にて軟化したチューブ300の端部が冷却治具140の冷却突起部142に挿入される。当該挿入は、素早く行うことが望ましい。加熱治具によって加熱されたチューブの端部が放冷によって再び硬くなることを回避するためである。
【0078】
その後、軟化したチューブ300の端部は、冷却治具140の冷却突起部142から、冷却ショルダー部148を通じて冷却胴部144まで押し進められる(
図8の(a))。当該端部が冷却ショルダー部148を通過することにより、その内径が冷却ショルダー部148に設けられた傾斜に沿って拡張する。また、拡張したチューブ300の端部は冷却胴部144を通じて冷却され、冷却胴部144の外径に沿って熱収縮する。なお、
図8の(a)では、冷却治具140の冷却胴部144の内部に設けられた冷却デバイス146により、端部の冷却は急速に行われ得る。これにより、より短時間でチューブ300の端部が冷却胴部144の外径の大きさにまで収縮することができる。チューブ300の端部を冷却する時間は、チューブ300を構成するフッ素系樹脂の種類、チューブの内径および壁厚、冷却胴部の表面温度等によって変動するため、必ずしも限定されないが、例えば5秒間〜10秒間である。
【0079】
最終的に、チューブ300の端部は、上記冷却治具から取り外される(
図8の(b))。
【0080】
このようにして、拡径チューブを製造することができる。
【0081】
本発明の方法を用いて製造された拡径チューブは、例えば、半導体製造工場や電子部品製造工場における配管継手との接合部分に用いることができる。本発明の方法により製造された拡径チューブは、優れた寸法精度を有し、製造されるチューブ毎の品質をより均一に保つことが可能となる。また、製造にあたり作業者の操作もより単純化され得る。