(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
架橋重合体層と、(メタ)アクリル酸エステルおよび必要によりこれと共重合可能な他の単官能性単量体の混合物を重合してなる硬質重合体層とから構成される多層構造粒子をさらに含有し、前記硬質重合体層が、前記多層構造粒子の最外層であり、当該最外層の内側に前記架橋重合体層が隣接しており、前記架橋重合体層までの体積平均粒子径が20〜450nmである、請求項1又は2に記載の光学用樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれら実施形態に限定されない。
【0049】
本発明の光学用樹脂組成物は、必須成分として、少なくとも2種類の樹脂、すなわち樹脂(A)および樹脂(B)を含有する。樹脂(A)および樹脂(B)は相溶性が高く、併用して各樹脂の優れた透明性を維持することができ、配向複屈折と光弾性複屈折が共に小さく、高い熱安定性、耐溶剤性も維持できる。
【0050】
(樹脂(A))
樹脂(A)は、下記一般式(5)で表されるマレイミド単位と(メタ)アクリル酸エステル単位とを有する共重合体である。
【0052】
上記一般式(5)中、R
11およびR
12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基であり、
R
13は、水素原子、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜18のアルキル基、又は、下記A群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基もしくは炭素数1〜12のアルキル基である。
【0053】
A群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基。)
<R
11およびR
12>
R
11及びR
12における炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。また、R
11及びR
12における炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられ、これらのうち、透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。
【0054】
R
11及びR
12における炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性等の光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好適である。
【0055】
R
11及びR
12は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0056】
<R
13>
R
13における炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、6−フェニルヘキシル基、8−フェニルオクチル基が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性等の光学的特性が一層向上する点において、ベンジル基が好適である。
【0057】
また、R
13における炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性等の光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好適である。
【0058】
また、R
13は置換基を有する炭素数6〜14のアリール基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基からなる群(A群)より選ばれる基である。
【0059】
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0060】
置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がより好ましい。また、置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−デシルオキシ基、1−ドデシルオキシ基等が挙げられる。
【0061】
置換基としての炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられ、これらのうち、透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。
【0062】
さらに、置換基としての炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、6−フェニルヘキシル基、8−フェニルオクチル基が挙げられ、これらのうち、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基が好適である。
【0063】
R
13において、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、置換基を有するフェニル基、置換基を有するナフチル基が好ましい。また、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、2,4,6−トリブロモフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基等が挙げられ、これらのうち、難燃性が付与される点において、2,4,6−トリブロモフェニル基が好適である。
【0064】
R
13における炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ビシクロオクチル基、トリシクロドデシル基、イソボルニル基、アダマンチル基、テトラシクロドデシル基等が挙げられ、これらのうち、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基が好適であり、耐候性及び透明性等の光学特性が一層向上するとともに、低吸水性を付与できる点からは、シクロヘキシル基がより好適である。
【0065】
また、R
13における炭素数1〜18のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。また、R
13における炭素数1〜18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基、n−オクタデシル基、2−エチルヘキシル基、1−デシル基、1−ドデシル基等が挙げられ、これらのうち、耐候性及び透明性等の光学特性が一層向上することから、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好適である。
【0066】
また、R
13は置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基及び炭素数1〜12のアルコキシ基からなる群(A群)より選ばれる基である。
【0067】
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0068】
置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がより好ましい。また、置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−デシルオキシ基、1−ドデシルオキシ基等が挙げられる。
【0069】
R
13において、置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基としては、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロエチル基、ヒドロキシエチル基等が挙げられ、これらのうち、トリフルオロエチル基が好適である。
【0070】
一般式(5)で表されるマレイミド単位の具体例としては、無置換のマレイミド単位、N−メチルマレイミド単位、N−フェニルマレイミド単位、N−シクロヘキシルマレイミド単位、N−ベンジルマレイミド単位等が挙げられる。
【0071】
マレイミド単位としては1種類のみを含有してもよいし、2種類以上を含有してもよい。
【0072】
樹脂(A)において、マレイミド単位の含有量は特に限定されず、例えば、R
13の構造等を考慮して適宜決定することができる。しかしながら、マレイミド単位の含有量は、樹脂(A)全量のうち1.0重量%以上が好ましく、1重量%〜99重量%がより好ましく、1重量%〜80重量%がさらに好ましい。マレイミド単位の含有量が上記範囲を外れた場合、光学等方性が低下する傾向がある。
【0073】
樹脂(A)が有する(メタ)アクリル酸エステル単位としては、樹脂(B)について後述する一般式(2)で表される単位と同様のものを使用することができる。特に、透明性の点から、樹脂(A)にはメタクリル酸メチル単位が含まれることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、特に限定されないが、樹脂(A)全量のうち、1〜99重量%が好ましく、10〜95重量%がより好ましく、10〜90重量%がさらに好ましい。当該(メタ)アクリル酸エステル単位としては1種類のみを含有してもよいし、2種類以上を含有してもよい。
【0074】
また、樹脂(A)は、光学特性を調整するため、下記一般式(3)で表される単位をさらに有することが好ましい。
【0076】
(式中、R
7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R
8は、炭素数6〜10のアリール基である。)
上記一般式(3)で表される芳香族ビニル単位としては特に限定されないが、スチレン単位、α−メチルスチレン単位が挙げられ、スチレン単位が好ましい。
【0077】
樹脂(A)は、上記一般式(3)で表される単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、R
7およびR
8のいずれか又は双方が異なる複数の単位を含んでいてもよい。
【0078】
樹脂(A)において、一般式(3)で表される単位の含有量は特に限定されないが、樹脂(A)全量のうち0〜40重量%が好ましく、0〜20重量%がより好ましく、0〜15重量%が特に好ましい。
【0079】
樹脂(A)には、必要に応じ、以上で説明した単位以外のその他の単位がさらに含まれていてもよい。
【0080】
樹脂(A)の重量平均分子量は特に限定されないが、1×10
4〜5×10
5の範囲にあることが好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりすることがない。一方、重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、フィルムにした場合の機械的強度が不足する傾向がある。また、上記範囲よりも大きいと、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。
【0081】
樹脂(A)は、例えば下記重合工程により得ることができる。また、下記脱揮工程により精製することができる。
【0082】
(重合工程)
樹脂(A)は、上記各構成単位の単量体から選ばれた単量体群を重合することにより得ることができる。
【0083】
本実施形態に係る樹脂(A)の重合反応においては、互いに反応性が近しい単量体、及び/又は共重合性が高い単量体を組み合わせることが、得られる樹脂(A)の樹脂組成比を、反応液に仕込む原料組成比に基づいて容易に制御することが可能であることから望ましい。一方、反応性が著しく異なる単量体を組み合わせる場合、a)反応性が低い単量体が十分に反応せず未反応単量体として残存する、b)結果として得られる樹脂(A)の樹脂組成比が予測し難い等の問題が生じ得る。特に、未反応単量体が残存すると、樹脂(A)の特性、例えば、透明性、耐光性、が低下する等の問題もある。
【0084】
樹脂(A)の重合方法として、例えば、キャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、リビングラジカル重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができる。樹脂(A)を光学材料用途として用いるには微小な異物の混入は出来るだけ避けるのが好ましく、この観点からキャスト重合、溶液重合、懸濁重合、さらには懸濁剤や乳化剤を用いないキャスト重合や溶液重合を用いることが望ましい。
【0085】
また、重合形式として、例えば、バッチ重合法、連続重合法のいずれも用いることができる。重合操作が簡単という観点からは、バッチ重合法が望ましく、より均一組成の重合物を得るという観点では、連続重合法を用いることが望ましい。
【0086】
重合反応時の温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合等に応じて適宜調整できるが、例えば、重合温度が0〜150℃、重合時間が0.5〜24時間であり、好ましくは、重合温度が40〜150℃、重合時間が1〜15時間である。
【0087】
ラジカル重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
【0088】
重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは0.005〜5質量%の範囲で用いられる。
【0089】
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤は、一般的なラジカル重合において用いる任意のものが使用され、例えばブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。これらの分子量調節剤は、分子量が先述の範囲内に制御されるような濃度範囲で添加される。
【0090】
重合反応時に溶剤を使用する場合、重合溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。使用する溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られる樹脂(A)の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃である溶剤が好ましい。
【0091】
重合反応時には、必要に応じて、有機リン系化合物や有機酸を添加してもよい。これらの化合物が共存することで、副反応が抑制される、及び/又は未反応N−置換マレイミド量が低減される等して、得られる樹脂(A)の成形加工時の着色が低減される場合がある。
【0092】
有機リン系化合物としては、例えば、アルキル(アリール)亜ホスホン酸及びこれらのジエステル又はモノエステル;ジアルキル(アリール)ホスフィン酸及びこれらのエステル;アルキル(アリール)ホスホン酸及びこれらのジエステル又はモノエステル;アルキル亜ホスフィン酸及びこれらのエステル;亜リン酸ジエステル、亜リン酸モノエステル、亜リン酸トリエステル;リン酸ジエステル、リン酸モノエステル、リン酸トリエステル等が挙げられる。これらの有機リン系化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。有機リン系化合物の使用量は、単量体の総量に対して好ましくは0.001〜5.0質量%である。
【0093】
有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等及びこれらの酸無水物等が挙げられる。これらの有機酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。有機酸の使用量は、単量体の総量に対して好ましくは0.001〜1.0質量%である。
【0094】
重合反応を行う際には、重合体濃度としては重合中の除熱の観点から、反応液の粘度を適切にするために、10〜95質量%で実施することが好ましく、75質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。10質量%以上であれば、分子量と分子量分布の調整が容易である。95質量%以下であれば、高分子量の重合体を得ることができる。
【0095】
得られた重合反応液の粘度を適切に保つという観点から、重合溶剤を適宜添加することができる。反応液の粘度を適切に保つことで、除熱を制御し、反応液中のミクロゲル発生を抑制することができる。特に、粘度が上昇する重合反応後半においては重合溶剤を適宜添加して50質量%以下となるように制御することが更に好ましい。
【0096】
重合溶剤を重合反応液に適宜添加する形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応液中に生成した樹脂(A)の濃度を制御することによって、反応器内部の温度均一性を向上させ、反応液のゲル化をより十分に抑制することができる。添加する重合溶剤としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの単一溶剤であっても2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0097】
樹脂(A)を懸濁重合法で重合する場合には、水性媒体中で行い、懸濁剤及び必要に応じて懸濁助剤を添加して行う。懸濁剤としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の無機物質等がある。水溶性高分子は、単量体の総量に対して0.01〜2質量%使用するのが好ましく、無機物質は、単量体の総量に対して0.01〜2質量%使用するのが好ましい。懸濁助剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤等の低分子界面活性剤、ホウ酸、炭酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、硫酸ナトリウム等の水溶性の無機塩などである。懸濁助剤としては、リン酸水素2ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。また、懸濁剤として無機物質を使用する場合には、懸濁助剤を使用するのが好ましい。懸濁助剤は、単量体100質量%に対して0.001〜2質量%使用するのが好ましい。
【0098】
(脱揮工程)
脱揮工程とは、重合溶剤、残存単量体、水分等の揮発分を、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程を意味する。この除去処理が不充分であると、得られた樹脂(A)の残存揮発分が多くなり、成形時の変質等により着色することや、泡やシルバーストリーク等の成形不良が起こることがある。残存揮発分量は、樹脂(A)100質量%に対して1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、更により好ましくは0.3質量%以下である。残存揮発分量とは、前述した重合反応時に反応しなかった残存単量体、重合溶媒、副反応生成物の合計量に相当する。
【0099】
脱揮工程に用いる装置としては、例えば、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置;ベント付き押出機;脱揮装置と押出機を直列に配置したもの等が挙げられる。ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
【0100】
脱揮工程の温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは170〜330℃、更に好ましくは200〜300℃である。この温度が150℃未満であると、残存揮発分が多くなることがある。逆に、この温度が350℃を超えると、得られた樹脂(A)の着色や分解が起こることがある。
【0101】
脱揮工程における圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは800〜13.3hPa(600〜10mmHg)、更に好ましくは667〜20.0hPa(500〜15mmHg)である。この圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、揮発分が残存しやすいことがある。逆に、圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
【0102】
処理時間は、残存揮発分の量により適宜選択されるが、得られた樹脂(A)の着色や分解を抑えるためには短いほど好ましい。
【0103】
重合反応時の単量体反応転化率が低い場合、重合液には未反応単量体が多量に残存している。その場合、得られる樹脂(A)の残存揮発分量を減らすには高い処理温度で、長時間処理することになるが、そうすると着色や分解が生じ易いという問題がある。多量に未反応単量体を含む重合反応液を処理する場合には、問題となる単量体は、例えば、芳香族炭化水素系溶剤、炭化水素系溶剤、又はアルコール系溶剤等を重合溶液に添加した後、ホモジナイザー(乳化分散)処理を行い、未反応単量体について液−液抽出、固−液抽出する等の前処理を施すことで重合反応液から分離できる。前処理による単量体分離後の重合反応液を前述した脱揮工程に供すると、得られる熱可塑性樹脂100質量%中に残存する単量体の合計を1質量%以下に抑えることができる。
【0104】
(グルタルイミドアクリル系樹脂(B)))
グルタルイミドアクリル系樹脂(B)は、グルタルイミド構造を有するアクリル系樹脂であり、一般に、ガラス転移温度が120℃以上である。具体的には、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位とを有する樹脂が挙げられる。
【0106】
上記一般式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R
3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。上記一般式(1)で表される単位を、以下、「グルタルイミド単位」ともいう。
【0107】
上記一般式(1)において、好ましくは、R
1およびR
2はそれぞれ独立して水素またはメチル基であり、R
3は、水素、メチル基、ブチル基、シクロヘキシル基であり、より好ましくは、R
1はメチル基であり、R
2は水素であり、R
3はメチル基である。
【0108】
グルタルイミドアクリル系樹脂(B)は、グルタルイミド単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるR
1、R
2、およびR
3のいずれか又は全てが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0109】
グルタルイミド単位は、下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位をイミド化することにより形成することができる。また、無水マレイン酸等の酸無水物、当該酸無水物と炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル、または、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸)をイミド化することによっても、上記グルタルイミド単位を形成することができる。
【0110】
グルタルイミドアクリル系樹脂(B)において、グルタルイミド単位の含有量は特に限定されず、例えば、R
3の構造等を考慮して適宜決定することができる。しかしながら、グルタルイミド単位の含有量は、グルタルイミドアクリル系樹脂(B)全量のうち1.0重量%以上が好ましく、3.0重量%〜90重量%がより好ましく、5.0重量%〜60重量%がさらに好ましい。グルタルイミド単位の含有量が上記範囲より少ないと、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂(B)の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれたりする傾向がある。逆に上記範囲よりも多いと、不必要に耐熱性および溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなったり、フィルム加工時の機械的強度が極端に低くなったり、透明性が損なわれたりする傾向がある。
【0111】
グルタルイミド単位の含有量は以下の方法により算出される。
【0112】
1H−NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて、樹脂の
1H−NMR測定を行い、樹脂中のグルタルイミド単位またはエステル単位などの各モノマー単位それぞれの含有量(mol%)を求め、当該含有量(mol%)を、各モノマー単位の分子量を使用して含有量(重量%)に換算する。
【0113】
例えば、上記一般式(1)においてR
3がメチル基であるグルタルイミド単位とメチルメタクリレート単位からなる樹脂の場合、3.5から3.8ppm付近に現れるメタクリル酸メチルのO−CH
3プロトン由来のピークの面積aと、3.0から3.3ppm付近に現れるグルタルイミドのN−CH
3プロトン由来のピークの面積bから、以下の計算式によりグルタルイミド単位の含有量(重量%)を求めることができる。
[メチルメタクリレート単位の含有量A(mol%)]=100×a/(a+b)
[グルタルイミド単位の含有量B(mol%)]=100×b/(a+b)
[グルタルイミド単位の含有量(重量%)]=100×(b×(グルタルイミド単位の分子量))/(a×(メチルメタクリレート単位の分子量)+b×(グルタルイミド単位の分子量))
なお、モノマー単位として上記以外の単位を含む場合においても、樹脂中の各モノマー単位の含有量(mol%)と分子量から、同様にグルタルイミド単位の含有量(重量%)を求めることができる。
【0114】
本発明の光学用樹脂組成物を例えば偏光子保護フィルムに使用する場合、グルタルイミド単位の含有量は、複屈折を抑制しやすいため20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。
【0116】
上記一般式(2)中、R
4およびR
5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R
6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。上記一般式(2)で表される単位を、以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」ともいう。なお、本願において「(メタ)アクリル」とは、「メタクリルまたはアクリル」を指すものとする。
【0117】
上記一般式(2)において、好ましくは、R
4およびR
5はそれぞれ独立して水素またはメチル基であり、R
6は水素またはメチル基であり、より好ましくは、R
4は水素であり、R
5はメチル基であり、R
6はメチル基である。
【0118】
グルタルイミドアクリル系樹脂(B)は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(2)におけるR
4、R
5およびR
6のいずれか又は全てが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0119】
グルタルイミドアクリル系樹脂(B)は、必要に応じて、下記一般式(3)で表される単位(以下、「芳香族ビニル単位」ともいう)をさらに含んでいてもよい。
【0121】
上記一般式(3)中、R
7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R
8は、炭素数6〜10のアリール基である。
【0122】
上記一般式(3)で表される芳香族ビニル単位としては特に限定されないが、スチレン単位、α−メチルスチレン単位が挙げられ、スチレン単位が好ましい。
【0123】
グルタルイミドアクリル系樹脂(B)は、芳香族ビニル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、R
7およびR
8のいずれか又は双方が異なる複数の単位を含んでいてもよい。
【0124】
グルタルイミドアクリル系樹脂(B)において、芳香族ビニル単位の含有量は特に限定されないが、グルタルイミドアクリル系樹脂(B)全量のうち0〜50重量%が好ましく、0〜20重量%がより好ましく、0〜15重量%が特に好ましい。芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲より多いと、グルタルイミドアクリル系樹脂(B)の十分な耐熱性を得ることができない。
【0125】
しかし本発明では、耐折り曲げ性および透明性の向上、フィッシュアイの低減、さらに耐溶剤性または耐候性の向上といった観点から、グルタルイミドアクリル系樹脂(B)は芳香族ビニル単位を含まないことが好ましい。
【0126】
グルタルイミドアクリル系樹脂(B)には、必要に応じ、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、および芳香族ビニル単位以外のその他の単位がさらに含まれていてもよい。
【0127】
その他の単位としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド系単位、グルタル無水物単位、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系単位等が挙げられる。
【0128】
これらのその他の単位は、グルタルイミドアクリル系樹脂(B)中に、ランダム共重合により含まれていてもよいし、グラフト共重合により含まれていてもよい。
【0129】
これらのその他の単位は、その単位を構成する単量体を、グルタルイミドアクリル系樹脂(B)、及び/又は、樹脂(B)を製造する際の原料となる樹脂に対し共重合することで導入したものでもよい。また、前記のイミド化反応を行う際に、これらその他の単位が副生して樹脂(B)に含まれることとなったものでもよい。
【0130】
グルタルイミドアクリル系樹脂(B)の重量平均分子量は特に限定されないが、1×10
4〜5×10
5の範囲にあることが好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりすることがない。一方、重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、フィルムにした場合の機械的強度が不足する傾向がある。また、上記範囲よりも大きいと、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。
【0131】
グルタルイミドアクリル系樹脂(B)のガラス転移温度は、フィルムが良好な耐熱性を発揮するよう、120℃以上であることが好ましい。より好ましくは125℃以上である。ガラス転移温度が上記範囲よりも低いと、フィルムが十分な耐熱性を発揮することができない。
【0132】
次に、グルタルイミドアクリル系樹脂(B)の製造方法の一例を説明する。
【0133】
まず、(メタ)アクリル酸エステルを重合することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体を製造する。グルタルイミドアクリル系樹脂(B)が芳香族ビニル単位を含む場合には、(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルとを共重合させ、(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体を製造する。
【0134】
この工程において、上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルを用いることが好ましく、メタクリル酸メチルを用いることがより好ましい。
【0135】
(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。複数種の(メタ)アクリル酸エステルを用いることにより、最終的に得られるグルタルイミドアクリル系樹脂(B)に複数種の(メタ)アクリル酸エステル単位を含ませることができる。
【0136】
上記(メタ)アクリル酸エステル重合体または上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体の構造は、続くイミド化反応が可能なものであれば、特に限定されない。具体的には、線状ポリマー、ブロックポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、架橋ポリマー等が挙げられる。
【0137】
ブロックポリマーの場合、A−B型、A−B−C型、A−B−A型、およびこれら以外のタイプのブロックポリマーのいずれであってもよい。
【0138】
上記(メタ)アクリル酸エステル重合体または上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体に、イミド化剤を反応させることで、イミド化反応を行う。これにより、グルタルイミドアクリル系樹脂(B)を製造することができる。
【0139】
上記イミド化剤は特に限定されず、上記一般式(1)で表されるグルタルイミド単位を生成できるものであればよい。具体的には、アンモニア又は一級アミンを用いることができる。上記一級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有一級アミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有一級アミン、シクロヘキシルアミン等の脂環式炭化水素基含有一級アミンが挙げられる。
【0140】
上記イミド化剤としては、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素等の、加熱によりアンモニア又は一級アミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。
【0141】
上記イミド化剤のうち、コスト、物性の面から、アンモニア、メチルアミン、シクロヘキシルアミンを用いることが好ましく、メチルアミンを用いることが特に好ましい。
【0142】
このイミド化の工程においては、上記イミド化剤に加えて、必要に応じて、閉環促進剤を添加してもよい。
【0143】
このイミド化の工程では、上記イミド化剤の添加割合を調整することにより、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂(B)におけるグルタルイミド単位の含有量を調整することができる。
【0144】
上記イミド化反応を実施するための方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、押出機、又は、バッチ式反応槽(圧力容器)を用いることでイミド化反応を進行させることができる。
【0145】
上記押出機としては特に限定されず、各種押出機を使用できるが、例えば、単軸押出機、二軸押出機または多軸押出機等を用いることができる。
【0146】
中でも、二軸押出機を用いることが好ましい。二軸押出機によれば、原料ポリマーとイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤および閉環促進剤)との混合を促進することができる。
【0147】
二軸押出機としては、例えば、非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、および噛合い型異方向回転式等が挙げられる。中でも、噛合い型同方向回転式が好ましい。噛合い型同方向回転式の二軸押出機は、高速回転可能であるため、原料ポリマーとイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤および閉環促進剤)との混合を、より一層促進することができる。
【0148】
上記例示した押出機は単独で用いてもよいし、複数を直列に連結して用いてもよい。
【0149】
グルタルイミドアクリル系樹脂(B)を製造するにあたっては、上記イミド化工程に加えて、エステル化剤で処理するエステル化工程を含むことができる。このエステル化工程によって、イミド化工程にて副生した、樹脂中に含まれるカルボキシル基を、エステル基に変換することができる。これにより、グルタルイミドアクリル系樹脂(B)の酸価を所望の範囲内に調整することができる。
【0150】
グルタルイミドアクリル系樹脂(B)の酸価は特に限定されないが、0.50mmol/g以下であることが好ましく、0.45mmol/g以下であることがより好ましい。下限は特に制限されないが、0mmol/g以上が好ましく、0.05mmol/g以上が好ましく、0.10mmol/g以上が特に好ましい。酸価が上記範囲内であれば、耐熱性、機械物性、および成形加工性のバランスに優れたグルタルイミドアクリル系樹脂(B)を得ることができる。一方、酸価が上記範囲より大きいと、フィルム成形のための溶融押出時に樹脂の発泡が起こりやすくなり、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。なお、酸価は、例えば特開2005−23272号公報に記載の滴定法などにより算出することが可能である。
【0151】
上記エステル化剤としては特に限定されず、例えば、ジメチルカーボネート、2,2−ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリエチルオルトホルメート、トリメチルオルトアセテート、トリメチルオルトホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルサルフェート、メチルトルエンスルホネート、メチルトリフルオロメチルスルホネート、メチルアセテート、メタノール、エタノール、メチルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、ジメチルカルボジイミド、ジメチル−t−ブチルシリルクロライド、イソプロペニルアセテート、ジメチルウレア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエトキシシラン、テトラ−N−ブトキシシラン、ジメチル(トリメチルシラン)フォスファイト、トリメチルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、ジアゾメタン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、コスト、反応性などの観点から、ジメチルカーボネート、およびトリメチルオルトアセテートが好ましく、コストの観点から、ジメチルカーボネートが特に好ましい。
【0152】
上記エステル化剤の使用量は特に限定されないが、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体または上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体100重量部に対して0〜12重量部であることが好ましく、0〜8重量部であることがより好ましい。エステル化剤の使用量が上記範囲内であれば、グルタルイミドアクリル系樹脂(B)の酸価を適切な範囲に調整できる。一方、上記範囲を外れると、未反応のエステル化剤が樹脂中に残存する可能性があり、当該樹脂を使って成形を行った際に、発泡または臭気発生の原因となることがある。
【0153】
上記エステル化剤に加え、触媒を併用することもできる。触媒の種類は特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族3級アミンが挙げられる。これらの中でもコスト、反応性などの観点からトリエチルアミンが好ましい。
【0154】
エステル化工程は、上記イミド化工程と同様、例えば、押出機、又は、バッチ式反応槽を用いることで進行させることができる。
【0155】
このエステル化工程は、エステル化剤を使用せずに、加熱処理のみによって実施することもできる。当該加熱処理は、押出機内で溶融樹脂を混練および分散することで達成することができる。エステル化工程として加熱処理のみを行なう場合、イミド化工程にて副生した樹脂中のカルボキシル基同士の脱水反応、および/または、樹脂中のカルボキシル基と樹脂中のアルキルエステル基との脱アルコール反応等により、前記カルボキシル基の一部または全部を酸無水物基とすることができる。この時、閉環促進剤(触媒)を使用することも可能である。
【0156】
エステル化剤を用いたエステル化工程においても、並行して、加熱処理による酸無水物基化を進行させることが可能である。
【0157】
イミド化工程およびエステル化工程ともに、使用する押出機には、大気圧以下に減圧可能なベント口を装着することが好ましい。このような機械によれば、未反応のイミド化剤、エステル化剤、メタノール等の副生物、または、モノマー類を除去することができる。
【0158】
グルタルイミドアクリル系樹脂(B)の製造には、押出機に代えて、例えば住友重機械(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置や、スーパーブレンドのような竪型二軸撹拌槽などの、高粘度対応の反応装置も好適に用いることができる。
【0159】
グルタルイミドアクリル系樹脂(B)をバッチ式反応槽(圧力容器)を用いて製造する場合、そのバッチ式反応槽(圧力容器)の構造は特に限定されない。具体的には、原料ポリマーを加熱により溶融させ、撹拌することができ、イミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤および閉環促進剤)を添加することができる構造を有していればよいが、撹拌効率が良好な構造を有するものであることが好ましい。このようなバッチ式反応槽によれば、反応の進行によりポリマー粘度が上昇し、撹拌が不十分となることを防止することができる。このような構造を有するバッチ式反応槽としては、例えば、住友重機械(株)製の撹拌槽マックスブレンド等が挙げられる。
【0160】
以上により、グルタルイミド単位の含有量が特定の数値に制御されたグルタルイミドアクリル系樹脂(B)を容易に製造することができる。
【0161】
前記樹脂(A)の含有量は、光学用樹脂組成物の所望の物性に応じて、適宜決定することができ、例えば、前記樹脂(A)と前記樹脂(B)の合計100重量部に対して1〜99重量部であることが好ましい。より好ましくは1〜80重量部であり、さらに好ましくは5〜70重量部である。
【0162】
樹脂(A)およびグルタルイミドアクリル系樹脂(B)は相溶性が高いため、混合しても高い透明性を有する。具体的には、前記樹脂(A)および前記グルタルイミドアクリル系樹脂(B)からなる成形体(厚さ125μm)とした時、当該成形体のヘイズが好ましくは2.0%以下であり、より好ましくは1.0%以下であり、さらに好ましくは0.8%以下であり、0.5%以下であることが特に好ましい。
【0163】
樹脂(A)およびグルタルイミドアクリル系樹脂(B)の混合樹脂は、小さい光弾性定数を有することができる。樹脂(A)およびグルタルイミドアクリル系樹脂(B)の混合樹脂の光弾性定数は、好ましくは−10×10
−12〜+10×10
−12Pa
−1であり、より好ましくは−7×10
−12〜+7×10
−12Pa
−1であり、さらに好ましくは−5×10
−12〜+5×10
−12Pa
−1、なおさら好ましくは−3×10
−12〜+3×10
−12Pa
−1、特に好ましくは−1×10
−12〜+1×10
−12Pa
−1である。樹脂(A)およびグルタルイミドアクリル系樹脂(B)の光弾性定数が互いに異符号である場合、混合樹脂の光弾性定数をより低減させることができる。
また、樹脂(A)およびグルタルイミドアクリル系樹脂(B)の混合樹脂は小さい配向複屈折を有することができ、好ましくは−15×10
−4〜+15×10
−4であり、より好ましくは−10×10
−4〜+10×10
−4であり、さらに好ましくは−5×10
−4〜+5×10
−4、なおさら好ましくは−3×10
−4〜+3×10
−4、特に好ましくは−2.6×10
−4〜+2.6×10
−4である。樹脂(A)およびグルタルイミドアクリル系樹脂(B)の配向複屈折が互いに異符号である場合、混合樹脂の配向複屈折をより低減させることができる。
【0164】
(多層構造粒子(E))
本発明の光学用樹脂組成物は、前記樹脂(A)と前記樹脂(B)をマトリックス樹脂として多層構造粒子(E)をさらに含有することができる。(以下、マトリックス樹脂とは、前記樹脂(A)と前記樹脂(B)をさす。)多層構造粒子の配合により、フィルムの耐折り曲げ性、トリミング性等の機械的強度を高めることができる。多層構造粒子としては、マトリックス樹脂との相溶性の観点から、アクリル系ゴム粒子が好ましい。
【0165】
本発明の多層構造粒子(E)は重量平均分子量が5000を超える重合体が好ましく、より好ましくは10000以上、さらに好ましくは20000以上であることが好ましい。重量平均分子量が5000以下の場合、成形体の機械的特性、耐熱性、硬度などの物性低下や、高温成形加工時に成形体表面にブリードアウトし、成形体の外観を損なうおそれがある。
【0166】
多層構造粒子は、機械的強度を向上させる観点や、光学等方性の観点から、その一部に架橋構造部分を有することが好ましく、架橋重合体層を有する多層構造重合体を例示できる。多層構造粒子は、耐熱性の観点から、硬質重合体部を有していることが好ましく、複屈折を小さくする観点からは非架橋構造を有することが好ましく、中でも、非架橋構造の硬質重合体部を有することが好ましい。例えば、硬質重合体層を有する多層構造重合体が例示される。多層構造粒子は、架橋重合体層および硬質重合体層を含む多層構造重合体であることがより好ましい。一般に多層構造重合体のことをグラフト共重合体、コアシェルポリマーとも表現されるが、本発明の多層構造粒子はこれらも含むものである。
【0167】
本発明の光学用樹脂組成物からなる成形体、特には光学フィルムにおいて、高い耐熱性、および機械的強度が必要とされるケースがある。特に、液晶ディスプレイ用の光学フィルムとして使用される場合には、実使用時はもちろん、フィルムコーティング工程等の製造工程で高温にさらされたりするため、高い耐熱性が必要となる。また、フィルム製造時はもちろん、フィルムにコーティングしたあとや、他の部材と張り合わせしたあとでの打ち抜き工程など、トリミング性や、耐割れ性などの機械的強度も必要となる。このような場合には、多層構造粒子(E)の架橋重合体層を「軟質」にすることで、この多層構造粒子(E)をマトリックス樹脂に添加することにより、機械的強度を飛躍的に向上させると同時に、高い耐熱性も同時に実現可能であるというところにある。その効果を発現するために、多層構造粒子(E)は、軟質の架橋重合体層、および硬質重合体層を有するグラフト共重合体(コアシェルポリマー)であることが好ましい。通常、機械的強度を向上させるために軟質のポリマーを添加することも方法として挙げられるが、この場合、マトリックス樹脂と軟質ポリマーが均質に混ざってしまい、得られる成形体の耐熱性を下げてしまうという欠点がある。一方、軟質の架橋重合体層と硬質重合体層を有するグラフト共重合体(コアシェルポリマー)の場合、成形体中において、軟質の架橋重合体層が「島」、マトリックス樹脂と硬質重合体層が「海」となる、不連続な海島構造をとるため、機械的強度を向上させ、かつ耐熱性をほとんど下げないという、優れた効果を出すことが可能である。また、通常、軟質の架橋重合体は、マトリックス樹脂とは別組成となるため、マトリックス樹脂に均一に分散することは困難であり、透明性などの光学特性の低下や、フィッシュアイ等の欠陥となる。しかしながら、軟質の架橋重合体層と硬質の重合体層を併せ持つグラフト共重合体であれば、前述のようにマトリックス樹脂中に軟質の架橋重合体を均一に分散させることが可能となる。
【0168】
ここでいう「軟質」とは、重合体のガラス転移温度が20℃未満であることを意味する。軟質層の衝撃吸収能力を高め、耐割れ性などの耐衝撃性改良効果を高める観点から、重合体のガラス転移温度が0℃未満であることが好ましく、−20℃未満であることがより好ましい。
【0169】
また、ここでいう「硬質」とは、重合体のガラス転移温度が20℃以上であることを意味する。重合体のガラス転移温度が20℃未満の場合、多層構造粒子(E)を配合した光学用樹脂組成物、およびフィルムの耐熱性が低下したり、また多層構造粒子(E)を製造する際に多層構造粒子(E)の粗大化や塊状化が起こり易くなるなどの問題が発生する。
【0170】
本願において、「軟質」および「硬質」の重合体のガラス転移温度は、ポリマーハンドブック[Polymer Hand Book(J.Brandrup,Interscience 1989)]に記載されている値を使用してFoxの式を用いて算出した値を用いることとする(例えば、ポリメチルメタクリレートは105℃であり、ポリブチルアクリレートは−54℃である)。
【0171】
ここで、本発明の光学用樹脂組成物からなる成形体、およびフィルムに対して、高い機械的強度がそれほど必要とされない場合には、前記架橋重合体層は「軟質」でも、「硬質」でもよく、この定義は前記のとおりである。
【0172】
本願では、多層構造粒子(E)に関して、架橋重合体層に対して、硬質重合体層がどの程度共有結合しているかを表すために、グラフト率というパラメーターを使う。
【0173】
多層構造粒子(E)のグラフト率とは、架橋重合体層の重量を100とした場合の、架橋重合体層に対して、グラフトされた硬質重合体層の重量比率を表す指標である。このグラフト率は10〜250%が好ましく、より好ましくは40〜230%、最も好ましくは60〜220%である。グラフト率が10%未満では、成形体中で多層構造粒子(E)が凝集しやすく、透明性が低下したり、異物原因となる恐れがある。また引張破断時の伸びが低下しフィルム切断時にクラックが発生しやすくなったりする傾向がある。250%以上では成形時、たとえばフィルム成形時の溶融粘度が高くなり、フィルムの成形性が低下する傾向がある。算出式は実施例の項にて説明する。
【0174】
なお、硬質重合体層の一部には架橋重合体層と結合していない(グラフトしていない)ポリマー(フリーポリマーとも言う)も存在する場合があるが、このフリーポリマーも多層構造粒子(E)に含むものとする。
【0175】
(架橋重合体層の説明)
ここでは、多層構造粒子(E)がグラフト共重合体である場合の
「軟質」の架橋重合体層と「硬質」の重合体層について説明する。
【0176】
1.「軟質」の架橋重合体層の説明
まず、「軟質」の架橋重合体層について説明する。先述のとおり、「軟質」とは重合体のガラス転移温度が20℃未満であれば良く、ゴム状重合体が好適に使用される。具体的には、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、オルガノシロキサン系架橋重合体などが挙げられる。なかでも、光学用樹脂組成物、およびフィルムの耐候性(耐光性)、透明性の面で、(メタ)アクリル系架橋重合体が特に好ましい。
【0177】
ここでは、好適な「軟質」の架橋重合体層である、(メタ)アクリル系架橋重合体層に関して、詳細に説明する。
【0178】
(メタ)アクリル系架橋重合体層における(メタ)アクリル系架橋重合体は、(メタ)アクリル系の架橋重合体であれば特に限定されないが、耐割れ性などの耐衝撃性の観点から、アクリル酸エステル50〜100重量%、アクリル酸エステルと共重合可能な他の単官能性単量体50〜0重量%、ならびに多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸エステルおよびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量部に対して)を重合してなるものが好ましい。単量体成分を全部混合して1段で重合してなる層であってもよいし、単量体組成を変化させて2段以上で重合してなる層であってもよい。
【0179】
ここで用いられるアクリル酸エステルとしては、重合反応性やコストの点からアクリル酸アルキルエステルが好ましく、具体的にはアルキル基の炭素数が1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル等があげられ、これらの単量体は1種または2種以上が併用されてもよい。アクリル酸エステルは、単官能性単量体全体(アクリル酸エステルおよびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量)に対し50〜100重量%が好ましく、60〜100重量%がより好ましく、70〜100重量%が最も好ましい。50重量%未満ではフィルムの耐割れ性が悪化する場合がある。
【0180】
アクリル酸エステルと共重合可能な他の単官能性単量体(以下、「共重合可能な他の単官能性単量体」と称することがある。)としては、例えば、メタクリル酸エステルがあげられ、重合性やコストの点よりメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、具体的にはアルキル基の炭素数1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等があげられる。また、共重合可能な他の単官能性単量体としては、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニルおよびその誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩等があげられる。これらの単量体は2種以上が併用されてもよい。
【0181】
上述の単官能性単量体は、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体と共重合されるため、得られる重合体が架橋体(ゴム)となる。ここで用いられる多官能性単量体としては、アリルメタクリレ−ト、アリルアクリレ−ト、トリアリルシアヌレ−ト、トリアリルイソシアヌレ−ト、ジアリルフタレ−ト、ジアリルマレ−ト、ジビニルアジペ−ト、ジビニルベンゼンエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、ジビニルベンゼンエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリアクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラメタクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラアクリレ−ト、ジプロピレングリコ−ルジメタクリレ−トおよびジプロピレングリコ−ルジアクリレ−ト等があげられ、これらは2種以上が併用されてもよい。
【0182】
単官能性単量体に対する多官能性単量体の添加量は、単官能性単量体の総量100重量部に対して、0.05〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。多官能性単量体の添加量が0.05重量部未満では、架橋体を形成できない傾向があり、10重量部を超えても、フィルムの耐割れ性が低下する傾向がある。
【0183】
2.「硬質」の重合体層の説明
ここでは「硬質」の重合体層について説明する。先述のとおり、「硬質」とは、重合体のガラス転移温度が20℃以上であるものを示す。
【0184】
ガラス転移温度が20℃以上になるものであれば特に制限はなく、具体的には、前記「軟質」の架橋重合体層の説明で記載したモノマーを適宜使用することが出来る。
【0185】
以下、硬質重合体の詳細なポリマー組成について説明する。
【0186】
機械的強度、耐熱性、フィッシュアイ等の外観欠陥を低減させるために多層構造粒子(E)の樹脂中での分散性を向上させる(すなわち、相溶性をあげる)という観点をみたすのであれば、硬質重合体の組成に関しては特に限定はない。たとえば、(メタ)アクリル酸エステル、および、必要によりこれと共重合可能な他の単官能性単量体の混合物を重合してなる硬質重合体が挙げられる。メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等が使用できるが、メタクリル酸メチルが最も好ましい。アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等が使用できる。さらに共重合可能な他のビニル単量体としては、スチレンなどの芳香族ビニル単量体、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体などの公知の単量体が使用できる。
【0187】
なかでも、さらに、マトリックス樹脂の光弾性複屈折、場合によっては配向複屈折を打ち消すという観点から、特に好適に使用されうるモノマー(単量体)を挙げるとすれば、分子構造中に、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基等の環構造を有するビニル系単量体(以下、「環構造含有ビニル系単量体」と称することがある。)が好ましく、中でも、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体がより好ましい。脂環式構造を有するビニル系単量体においては、その環構造は、多環式構造が好ましく、縮合環式構造がより好ましい。脂環式構造を有する単量体としては(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、などが挙げられる。また、芳香族基を有する単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類、または(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等を挙げることができる。複素環式構造を有する単量体としては、ペンタメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。中でも、下記式(4)で表される単量体を構造単位に含むことが好ましい。
【0189】
上記式(4)中のR
9は、水素原子、または、置換もしくは無置換で直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。R
10は、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の芳香族基、または、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の脂環式基であり、単素環式構造または複素環式構造を有する。R
9およびR
10が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン、水酸基、カルボキシル基、アルコキシ基、カルボニル基(ケトン構造)、アミノ基、アミド基、エポキシ基、炭素−炭素間の二重結合、エステル基(カルボキシル基の誘導体)、メルカプト基、スルホニル基、スルホン基、及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。なかでも、ハロゲン、水酸基、カルボキシル基、アルコキシ基、及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。lは1〜4の整数を示し、好ましくは1または2である。mは0〜1の整数である。nは0〜10の整数を示し、好ましくは0〜2の整数を示し、より好ましくは0または1である。
【0190】
脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有するビニル系単量体は、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリル系単量体が好ましく、具体的には、式(4)において、R
9は、水素原子または置換もしくは無置換の炭素数1のアルキル基である、(メタ)アクリル系単量体であることが好ましい。式(4)において、R
10は、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の芳香族基、または、置換もしくは無置換の炭素数1〜24の脂環式基であり、単素環式構造を有する、(メタ)アクリル系単量体であることがより好ましい。
【0191】
式(4)において、lは1〜2の整数である、nは0〜2の整数である、(メタ)アクリル系単量体であることがより好ましい。
【0192】
式(4)で表される(メタ)アクリル系単量体の中でも、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルが好ましい。
【0193】
前記式(4)で表される単量体のなかでも、(メタ)アクリル酸ベンジルが光学的等方性、マトリックス樹脂との相溶性、成形性の面で最も好ましい。さらには、アクリル酸ベンジルよりもメタクリル酸ベンジルのほうが、共重合の結果得られる多層構造粒子および光学用樹脂組成物のガラス転移温度が高くなることから、耐熱性の面で好ましい。本発明に使用されるマトリックス樹脂であるアクリル系樹脂の光弾性定数は負であるため、比較的大きな正の光弾性定数を有するメタクリル酸ベンジルを用いることで、メタクリル酸ベンジルの使用量が少なくて済み、また多層構造粒子(E)の使用量も少なくて済むなど、光学用樹脂組成物の設計自由度が増えるなどのメリットがある。また、成形体の配向複屈折が大きく、実用上問題となるケースにおいても、アクリル系樹脂が配向複屈折/光弾性複屈折ともに負であるのに対して、メタクリル酸ベンジルは配向複屈折/光弾性複屈折ともに正であるため、光学用樹脂組成物、およびフィルムの光弾性複屈折を小さくしながら、同時に配向複屈折も小さくすることが可能である。
【0194】
優れた光学的等方性を維持しながら、多層構造粒子(E)の分散性を良好にし、フィッシュアイ等の外観欠陥を低減させる観点から、前記環構造含有ビニル系単量体を構成単位に有する硬質重合体は、前記環構造含有ビニル系単量体1〜100重量%、これと共重合可能な他の単官能性単量体99〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部(前記環構造含有ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量部に対して)を重合してなるものが好ましい。当該硬質重合体層は単量体を全部混合して一段で重合してなるものであってもよく、また単量体組成を変化させて2段以上で重合してなるものであってもよい。
【0195】
本発明においては、環構造含有ビニル系単量体は、いずれか1種、もしくは2種以上併用して使用することができる。
【0196】
前記環構造含有ビニル系単量体と共重合可能な他の単官能性単量体としては、メタクリル酸エステルが挙げられ、重合性やコストの点よりメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、具体的にはアルキル基の炭素数1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。また、アクリル酸エステルも好適に用いることができ、重合反応性やコストの点からアクリル酸アルキルエステルが好ましく、具体的にはアルキル基の炭素数が1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル等があげられる。また、共重合可能な他の単官能性単量体としては、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸、ジクロロ無水マレイン酸、ブロモ無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、フェニル無水マレイン酸、ジフェニル無水マレイン酸等の無置換及び/又は置換無水マレイン酸類、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニルおよびその誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ターシャリーブチル等の(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル等があげられる。これらの単量体は単独、もしくは2種以上が併用されてもよい。なかでも、メタクリル酸エステルおよび/またはアクリル酸エステルが含まれることが好ましく、メタクリル酸アルキルエステルおよび/またはアクリル酸アルキルエステルが含まれることがより好ましい。マトリックス樹脂との相溶性の点でメタクリル酸メチル、ジッパー解重合を抑制する点でアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、もしくはアクリル酸n−ブチルを用いるのが好ましい。そのため、メタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルが含まれることが好ましい。メタクリル酸エステルは、前記環構造含有ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量%において0〜98重量%含まれることが好ましく、0.1〜98重量%含まれることがより好ましく、1〜94重量%がさらに好ましく、30〜90重量%が特に好ましい。また、アクリル酸エステルは、前記環構造含有ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量%において0〜98重量%含まれることが好ましく、0.1〜98重量%含まれることがより好ましく、1〜50重量%がさらに好ましく、5〜50重量%が特に好ましい。
【0197】
成形加工時の熱安定性が向上し、耐溶剤性が向上し、多層構造粒子(E)の分散性が向上する観点では、(メタ)アクリル酸および/またはその塩が使用されることが好ましい。(メタ)アクリル酸の塩としては、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カルシウム、(メタ)アクリル酸マグネシウム、(メタ)アクリル酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0198】
(メタ)アクリル酸および/またはその塩の使用量は、単官能性単量体の総量100重量%において0〜30重量%が好ましく、0.1〜30重量%がより好ましく、0.1〜20重量%がさらに好ましく、0.1〜15重量%がなおさらに好ましく、0.1〜10重量%がことさらに好ましく、0.1〜7重量%が最も好ましい。
【0199】
前記単量体混合物を重合して形成される重合体層中に(メタ)アクリル酸の構造単位が存在することにより、(メタ)アクリル酸構造単位のカルボキシル基と、(メタ)アクリル酸構造単位の隣に存在する(メタ)アクリル酸誘導体構造単位のアルキル基とが、成形加工時(例えば、樹脂(A)とグルタルイミドアクリル系樹脂(B)との加熱溶融混練のような加熱処理)に脱アルキルアルコール化することにより環化し、酸無水物構造が形成され得る。たとえば、(メタ)アクリル酸の隣が(メタ)アクリル酸メチルであれば、脱メタノール反応が起こり、グルタル酸無水物構造が形成され得る。さらに、(メタ)アクリル酸の隣が(メタ)アクリル酸ベンジルであれば、脱ベンジルアルコール反応が起こり、グルタル酸無水物構造が形成され得る。
【0200】
また、前記単量体混合物を重合して形成される重合体層中に(メタ)アクリル酸塩の構造単位が存在する場合には、(メタ)アクリル酸塩の構造単位中のカルボキシル基の塩が成形加工時の高温条件下で遊離のカルボキシル基に解離し、このカルボキシル基と、(メタ)アクリル酸誘導体構造単位のアルキル基とが環化して酸無水物構造が形成され得る。
【0201】
さらに、単量体混合物を重合して形成される重合体層中に(メタ)アクリル酸の構造単位が存在する場合において、後述する塩凝固処理において(メタ)アクリル酸構造単位のカルボキシル基が塩を形成することがある。その場合も、カルボキシル基の塩が成形加工時の高温条件下で遊離のカルボキシル基に解離することで酸無水物構造が形成され得る。
【0202】
(メタ)アクリル酸が酸無水物構造になる割合は、加工条件等の熱履歴で変わり、必ずしも全ての(メタ)アクリル酸が酸無水物構造になる必要はなく、環化率は必要な特性に応じて任意に調整すればよい。
【0203】
優れた光学等方性、熱安定性、耐溶剤性、および、多層構造粒子(E)の分散性が向上する観点からは、環構造含有ビニル系単量体、並びに、(メタ)アクリル酸および/またはその塩を構成単位に有する硬質重合体層を有することが好ましい。
【0204】
前記環構造含有ビニル系単量体の使用量は、単官能性単量体の総量(環構造含有ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量)100重量%において1〜100重量%が好ましく、5〜70重量%がより好ましく、5〜50重量%が最も好ましい。
【0205】
なお、硬質重合体層には、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体を使用してもよい。ここで、多官能性単量体としては、架橋重合体層に使用され得る多官能性単量体を同様に使用することができる。硬質重合体層における多官能性単量体の使用量(単官能性単量体の総量100重量部に対して)は、光学的等方性および分散性の観点から、0〜2.0重量部が好ましく、0〜1.0重量部がより好ましく、0〜0.5重量部がさらに好ましく、0〜0.04重量部がなおさら好ましく、0重量部が最も好ましい。
【0206】
多層構造粒子(E)は、多層構造中に前記環構造含有ビニル系単量体を構成単位に有する硬質重合体層を有することが好ましく、硬質の最外層を有する場合に、この最外層に前記環構造含有ビニル系単量体、および/または、(メタ)アクリル酸および/またはその塩を構成単位に有する硬質重合体層を有することがより好ましい。硬質の最外層に有することにより、マトリックス樹脂とより相溶しやすくなり、配向複屈折および光弾性定数をより小さくでき、さらに光学的等方性に優れるフィルムを得やすくなる。この硬質の最外層の内側に、(メタ)アクリル系架橋重合体層((メタ)アクリル系ゴム)を有する軟質層が隣接していてもよい。
【0207】
多層構造粒子(E)は、(メタ)アクリル系架橋重合体層および硬質重合体層を各々少なくとも1層有する多層構造重合体であることが好ましく、光学特性の観点から、当該硬質重合体層の少なくとも一層が環構造含有ビニル系単量体および/または(メタ)アクリル酸および/またはその塩を構成単位に有することがより好ましい。多層構造粒子(E)の好ましい一形態を例示すれば、軟質の内層および硬質の外層を有し、上記内層が(メタ)アクリル系架橋重合体層を有し、上記外層が前記式(4)で表される単量体および/または(メタ)アクリル酸および/またはその塩を構成単位に有する硬質重合体層を有する形態を挙げることができる。この形態は生産性の観点から好ましい。その他の好ましい一形態を例示すれば、多層構造粒子(E)が、硬質の内層、軟質の中間層および硬質の外層を有し、上記内層が少なくとも一種の硬質重合体層からなり、上記中間層が(メタ)アクリル系架橋重合体層からなる軟質重合体層を有し、上記外層が前記式(4)で表される単量体および/または(メタ)アクリル酸および/またはその塩を構成単位に有する硬質重合体層を有する形態を挙げることができ、この形態はさらに軟質の最内層を有していてもよい。本発明においては、これらを適宜1種、または2種以上を組合せて使用することができる。
【0208】
本願における、軟質の内層、軟質の中間層および軟質層(以下、軟質層)は、少なくとも1種の軟質重合体からなる内層、中間層および層のことをいう。
【0209】
一方、本願における、硬質の(最)外層および硬質の内層は、少なくとも1種の硬質重合体からなる(最)外層および内層のことをいう。ここでいう「軟質」および「硬質」とは、上述した「軟質」および「硬質」と同様である。
【0210】
多層構造粒子(E)が、例えば、硬質の内層、軟質の中間層および硬質の外層からなる多層構造体のように、最内層に硬質層を有する場合は、最内層の硬質重合体としては、硬度や耐割れ性バランスの観点から、メタクリル酸エステル40〜100重量%、アクリル酸エステル0〜60重量%、芳香族ビニル系単量体0〜60重量%、多官能性単量体0〜10重量%、ならびにメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、および芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他の単官能性単量体0〜20重量%からなる硬質重合体が好適に例示されうる。
【0211】
多層構造粒子(E)は、例えば、(メタ)アクリル系架橋重合体層を有する軟質の内層、および、前記式(4)で表される単量体を構成単位に有する重合体層を有する硬質の外層からなる多層構造体である場合、軟質の内層を外層の硬質重合体が完全に被覆した層構造が一般的であるが、軟質の内層と硬質の外層の重量比等によっては、層構造を形成するための硬質重合体量が不充分な場合もありうる。そのような場合は、完全な層構造である必要はなく、軟質の内層の一部を外部となる硬質重合体が被覆した構造、或いは軟質の内層の一部に外部となる硬質重合体がグラフト重合した構造も好適に用いることができる。なお、その他形態の多層構造粒子についても同様のことが当てはまる。
【0212】
多層構造粒子(E)の架橋重合体層までの体積平均粒子径は、20〜450nmが好ましく、20〜300nmがより好ましく、20〜150nmが更に好ましく、30〜80nmが最も好ましい。20nm未満では耐割れ性が悪化する場合がある。一方、450nmを超えると透明性が低下する場合がある。さらに、耐折り曲げ白化性の観点から、80nm未満にすることが好ましい。また、トリミング性の観点からは、20〜450nmが好ましく、50〜450nmがより好ましく、60〜450nmがより好ましく、100〜450nmが更に好ましい。なお、体積平均粒子径は、動的散乱法により、例えば、MICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)を用いることにより測定することができる。ここで、多層構造粒子(E)の架橋重合体層までの体積平均粒子径とは、具体的には、多層構造粒子(E)粒子の中心から架橋重合体層までの粒子の体積平均粒子径を指す。多層構造粒子(E)が架橋重合体層を2層以上有する場合は、中心に対して最も外側に位置する架橋重合体層までの体積平均粒子径をいうものとする。
【0213】
多層構造粒子(E)中の架橋重合体の含有量は、多層構造粒子(E)を100重量%とした場合、10〜90重量%が好ましく、20〜80重量%がより好ましく、30〜60重量%がさらに好ましく、35〜55重量%が最も好ましい。10重量%未満では、得られる光学用樹脂組成物の耐割れ性等の機械的強度が低くなる場合がある。一方、90重量%を上回ると、多層構造粒子(E)の分散性が損なわれ、成形体の表面の平滑性が得られず、フィッシュアイ等の外観不良が発生する傾向がある。また、硬質重合体の含有量が十分ではなく、配向時の複屈折や光弾性定数が大きくなるなど光学的等方性を保てなくなる傾向がある。
【0214】
多層構造粒子(E)の製造方法は特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法または溶液重合法が適用可能である。多層構造粒子(E)の重合については乳化重合法が特に好ましい。
【0215】
多層構造粒子(E)は、多段重合により得られるものが好ましく、例えば、この多段重合の少なくとも1段の重合として、(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子の存在下において、前記環構造含有ビニル系単量体、並びに/若しくは、(メタ)アクリル酸および/またはその塩を含有する混合物を重合することによって得られる、多段重合の(メタ)アクリル系ゴム含有グラフト共重合体を好ましく使用できる。中でも、環構造含有ビニル系単量体として、前記(4)で表される単量体が使用されることがより好ましい。混合物には、環構造含有ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸および/またはその塩のほかに、これらと共重合可能な他の単官能性単量体を含有してもよいし、多官能性単量体を含有させてもよい。
【0216】
ここでの混合物の重合により、前記環構造含有ビニル系単量体、並びに/若しくは、(メタ)アクリル酸および/またはその塩を構成単位に有する硬質重合体が形成される。環構造含有ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸および/またはその塩、これらと共重合可能な他の単官能性単量体は、上述の例示と同様であり、同様に好ましく使用でき、含有量についても同様である。また、多官能性単量体についても、上述の例示と同様であり、同様に好ましく使用できる。
【0217】
(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子は、少なくとも(メタ)アクリル系ゴムを含有する多段重合体粒子であればよく、アクリル酸エステル50〜100重量%、アクリル酸エステルと共重合可能な他の単官能性単量体50〜0重量%、ならびに多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸エステルおよびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量部に対して)を重合してなるゴム((メタ)アクリル系架橋重合体)部を有することが好ましい。ゴム部は、単量体成分を全部混合して1段で重合してもよいし、単量体組成を変化させて2段以上で重合してもよい。
【0218】
(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子は、多段重合における少なくとも1段の重合として(メタ)アクリル系架橋重合体(ゴム部)が形成されるものであれば特に限定されず、(メタ)アクリル系架橋重合体の重合段階の前および/または後に、硬質重合体の重合を行なっても良い。
【0219】
中でも、生産性の点から、多層構造粒子(E)が、(b−1)アクリル酸エステル50〜100重量%、これと共重合可能な他の単官能性単量体50〜0重量%、および多官能性単量体0.05〜10重量部(アクリル酸エステルおよびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子を得、
(b−2)上記(メタ)アクリル系ゴム含有重合体粒子の存在下に、環構造含有ビニル系単量体1〜100重量%、これと共重合可能な他の単官能性単量体99〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部(前記環構造含有ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物、または、環構造含有ビニル系単量体1〜99.9重量%、(メタ)アクリル酸および/またはその塩0.1〜30重量%、これと共重合可能な他の単官能性単量体98.9〜0重量%および多官能性単量体0〜2.0重量部(環構造含有ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸および/またはその塩、および、これと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量部に対して)からなる単量体混合物を重合して、(メタ)アクリル系ゴム含有グラフト共重合体として得られるものが好ましい形態として例示できる。ここで、(b−1)重合段階の単量体混合物、および/または(b−2)重合段階の単量体混合物は、単量体成分を全部混合して1段で重合してもよいし、単量体組成を変化させて2段以上で重合してもよい。また、(b−1)における、アクリル酸エステル、これと共重合可能な他の単官能性単量体および多官能性単量体、並びにこれらの好ましい使用量は、上述の(メタ)アクリル酸架橋重合体における例示と同様である。(b−2)における、単量体混合物の成分およびこれらの好ましい使用量は、上述の硬質重合体層における例示と同様である。
【0220】
上述の(メタ)アクリル系ゴム含有グラフト共重合体の(メタ)アクリル系ゴム層までの体積平均粒子径は、上述の多層構造粒子(E)の(メタ)アクリル系架橋重合体層までの体積平均粒子径と同様に測定されるものであり、好ましい範囲も同様である。
【0221】
多層構造粒子(E)を乳化重合により製造する場合には、公知の乳化剤を用いて通常の乳化重合により製造することができる。具体的には、例えばアルキルスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩等の陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノール類、脂肪族アルコール類とプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとの反応生成物等の非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に要すれば、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。このうち、得られた多層構造粒子(E)の熱安定性を向上させる観点から、特にはポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩(アルカリ金属、又はアルカリ土類金属)を用いて重合することが好ましい。
【0222】
このように乳化重合で製造された多層構造粒子(E)は、水相中に、多層構造粒子(E)の一次粒子が乳化分散した、いわゆるラテックスの状態で得られる。このような多層構造粒子(E)の多層構造重合体ラテックスは、多層構造粒子(E)粒子の多層重合の工程にともなって副生する、スケールと言われる、より粒子径の大きな、しばしば部分的または全体に架橋構造を伴うポリマー粒子やポリマー塊を含むことが多い。更に、重合工程を通じて、外部環境から、無機物や気相中や水中のダストなどを含む異物が混入することが有る。これらのスケールや異物は、本発明の光学用樹脂組成物中に混入した場合に、フィルムの光学的な欠陥の原因となり好ましくない。このため、これらのスケールや異物を減少あるいは除去する目的で、多層構造粒子(E)の多層構造重合体ラテックスを、メッシュあるいはフィルターでろ過することが好ましい。ろ過に使用されるメッシュやフィルターは、液状物のろ過目的で提案されている公知のものが広く適用可能であり、多層構造粒子(E)の一次粒子が通過出来る範囲の目開きで、副生する重合スケールや混入する異物の大きさや必要な除去率に応じて、方式や目開き、ろ過容量などを適宜選択すれば良い。
【0223】
乳化重合により得られる多層構造重合体ラテックスは、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、あるいは塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の塩、または塩酸、硫酸等の酸を凝固剤として添加することで凝固を行ない、適宜加熱処理等により凝固した樹脂分を水相より分離して、洗浄、乾燥を行なう、等の既知の方法により処理することで、粉末状の多層構造重合体が得られる。重合体ラテックスの凝固により多層構造重合体を得る場合には、凝固剤としては、酸や塩などの公知の凝固剤が使用できるが、得られた共重合体の成形時の熱安定性を向上させる観点からマグネシウム塩、特には硫酸マグネシウムを用いることが特に好ましい。
【0224】
多層構造粒子(E)は、多層構造粒子(E)が含有する架橋重合体が光学用樹脂組成物100重量部において1〜60重量部含まれるように配合されることが好ましく、1〜30重量部がより好ましく、1〜25重量部がさらに好ましい。1重量部未満ではフィルムの耐割れ性、真空成形性が悪化したり、また光弾性定数が大きくなり、光学的等方性に劣ったりする場合がある。一方、60重量部を越えるとフィルムの耐熱性、表面硬度、透明性、耐折曲げ白化性が悪化する傾向がある。
【0225】
マトリックス樹脂と多層構造粒子(E)の配合比率については、前記配合条件を満たしていれば特に問題はなく、また、多層構造粒子(E)に含まれる架橋重合体の量にもよるが、マトリックス樹脂と多層構造粒子(E)の合計を100重量%とした場合、多層構造粒子(E)が1〜99重量%が好ましく、1〜80重量%がより好ましく、1〜60重量%がさらに好ましい。1重量%未満ではフィルムの耐割れ性、真空成形性が悪化したり、また光弾性定数が大きくなり、光学的等方性に劣ったりする場合がある。一方、99重量%を越えるとフィルムの耐熱性、表面硬度、透明性、耐折曲げ白化性が悪化する傾向がある。
【0226】
本発明の光学用樹脂組成物は、光透過性の樹脂組成物であり、例えば、各種の光学関連機器で用いられるフィルム状、板状、レンズ状等の光学部材(例えば、液晶表示装置で用いられるフィルムや基板、プリズムシート等;光ディスク装置の信号読み取り用レンズ系中のレンズ、プロジェクションスクリーン用フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ等)が挙げられるが、これらに限られず、光透過性が要求される各種用途に適用されうる。
【0227】
本発明の光学用樹脂組成物は、各成分を粒状のまま混合して、または押出機によりペレット状としたのち、加熱しながら押出成形や射出成形、圧縮成形、ブロー成形、紡糸成形等により、用途に適した形状の成形品とすることができる。特にフィルムとして有用であり、例えば、通常の溶融押出法であるインフレーション法やTダイ押出法、あるいはカレンダー法、更には溶剤キャスト法等により良好に加工される。中でも、溶剤を使用しない溶融押出法を用いることが好ましい。溶融押出法によれば、製造コストや溶剤による地球環境や作業環境への負荷を低減することができる。
【0228】
本発明の光学用樹脂組成物は、成形加工時の複屈折が生じず、実用上問題のない成形体を得られる点から、配向複屈折の値が−15×10
-4〜15×10
-4であることが好ましく、−10×10
-4〜10×10
-4であることがより好ましく、−5×10
-4〜5×10
-4であることがさらに好ましい。さらに、安定した光学特性が得られる点から、−2.6×10
-4〜2.6×10
-4であることが好ましく、−2.1×10
-4〜2.1×10
-4であることがより好ましく、−1.7×10
-4〜1.7×10
-4であることがさらに好ましく、−1.6×10
-4〜1.6×10
-4であることがなおさら好ましく、−1.5×10
-4〜1.5×10
-4であることがことさら好ましく、−1.0×10
-4〜1.0×10
-4であることがとりわけ好ましく、−0.5×10
-4〜0.5×10
-4であることが特に好ましく、−0.2×10
-4〜0.2×10
-4であることが最も好ましい。ここでいう配向複屈折は、光学用樹脂組成物を膜厚125μmのフィルム(原反フィルム)に成形し、2倍(100%に延伸)に長さ方向へ一軸に延伸した時における複屈折の測定値をいう。詳細は、後述の実施例で記載のとおりである。
【0229】
本発明の光学用樹脂組成物は、高温高湿などの環境下において成形体に応力がかかった際にも生じる複屈折が小さい点から、光弾性定数が−10×10
-12〜10×10
-12Pa
−1であることが好ましく、−4×10
-12〜4×10
-12Pa
−1であることがより好ましく、−2×10
-12〜2×10
-12Pa
−1であることがさらに好ましく、−1.5×10
-12〜1.5×10
-12Pa
−1であることがよりさらに好ましく、−1×10
-12〜1×10
-12Pa
−1であることがとりわけ好ましく、−0.5×10
-12〜0.5×10
-12Pa
−1であることが特に好ましく、−0.3×10
-12〜0.3×10
-12Pa
−1であることが最も好ましい。光弾性定数が−4×10
-12〜4×10
-12Pa
−1であれば、フィルム化して液晶表示装置に用いても、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生したりすることがない。ここでいう光弾性定数は、光学用樹脂組成物を、膜厚125μmのフィルム(原反フィルム)に成形し、フィルムの長辺の一方を固定し、他方は無荷重から4kgfまで0.5kgfずつ荷重をかけた状態で、各々の印加時の複屈折を測定し、得られた結果から、単位応力による複屈折の変化量を算出した光弾性定数をいう。詳細は後述の実施例に記載のとおりである。
【0230】
本発明の光学用樹脂組成物は、透明性の観点から、当該光学用樹脂組成物を成形体(125μm厚み)にした時に成形体の全光線透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上がさらに好ましい。また、前記光学用樹脂組成物を成形体(125μm厚)にした時の成形体のヘイズが2.0%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1.0%以下であり、なおさら好ましくは0.8%以下であり、0.5%以下であることが特に好ましい。
【0231】
また、本発明の光学用樹脂組成物は機械的強度が高いことが好ましい。機械的強度は、たとえば引張試験における引張破断点伸度で評価することができ、引張破断点伸度が10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることがなおさら好ましく、50%以上であることがことさら好ましく、60%以上であることが特に好ましく、90%以上であることが最も好ましい。上記範囲内の引張破断点伸度を示す本発明の光学用樹脂組成物は、成形加工時に割れ等の問題が発生しないなど、生産性に極めて優れる。また、実際に製品として使用する際にも割れ等のトラブルがおこらない。この割れ性については特に引張破断点伸度が相関しており、引張破断点伸度が高いほど、耐割れ性に優れる。
【0232】
必要に応じて、フィルムを成形する際、フィルム両面をロールまたは金属ベルトに同時に接触させる(挟み込む)ことにより、特にガラス転移温度付近の温度に加熱したロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、表面性のより優れたフィルムを得ることも可能である。また、目的に応じて、フィルムの積層成形や、二軸延伸によるフィルムの改質も可能である。
【0233】
本発明の光学用樹脂組成物はTダイ製膜を用いるような高温での成形条件下でも、紫外線吸収剤の飛散による成形機の汚染やフィルム欠陥を発生させることなく、フィルムを製造することができる。
【0234】
以下、本発明に係るフィルムの製造方法の一実施形態として、本発明に係る光学用樹脂組成物を溶融押出法により成形してフィルムを製造する方法について詳細に説明する。
【0235】
なお、以下の説明では、溶融押出法で成形されたフィルムを、溶液流延法等の他の方法で成形されたフィルムと区別して、「溶融押出フィルム」と称する。
【0236】
本発明に係る光学用樹脂組成物を溶融押出法によりフィルムに成形する場合、まず、本発明に係る光学用樹脂組成物を、押出機に供給し、該光学用樹脂組成物を加熱溶融させる。
【0237】
光学用樹脂組成物は、押出機に供給する前に、予備乾燥することが好ましい。このような予備乾燥を行うことにより、押出機から押し出される樹脂の発泡を防ぐことができる。
【0238】
予備乾燥の方法は特に限定されるものではないが、例えば、原料(すなわち、本発明に係る光学用樹脂組成物)をペレット等の形態にして、熱風乾燥機等を用いて行うことができる。
【0239】
また、本発明に係る光学用樹脂組成物を成形するための押出機は、好ましくは加熱溶融時に発生する揮発分を除去するための脱揮装置を一つ以上有しているものが好ましい。脱気装置を有する事により、樹脂の発泡や分解劣化反応によるフィルム外観の悪化を軽減することができる。
【0240】
更に、本発明に係る光学用樹脂組成物を成形するための溶融押出に際しては、押出機のシリンダに、樹脂材料の供給とともに、窒素やヘリウムなどの不活性ガスを供給する事が好ましい。不活性ガスの供給により、系中の酸素の濃度を低下させ、酸化劣化に伴う分解、架橋、黄変等の外観や品質の劣化を軽減することができる。
【0241】
次に、押出機内で加熱溶融された光学用樹脂組成物を、ギアポンプやフィルターを通して、Tダイに供給する。このとき、ギアポンプを用いれば、樹脂の押出量の均一性を向上させ、厚みムラを低減させることができる。一方、フィルターを用いれば、光学用樹脂組成物中の異物を除去し、欠陥の無い外観に優れたフィルムを得ることができる。
【0242】
フィルターの種類としては、溶融ポリマーからの異物除去が可能なステンレス製のリーフディスクフィルターを使用するのが好ましく、フィルターエレメントとしてはファイバータイプ、パウダータイプ、あるいはそれらの複合タイプを使用するのが好ましい。フィルターはペレット化時、もしくはフィルム化時に使用する押出機等に好適に使用することができる。
【0243】
次に、Tダイに供給された光学用樹脂組成物を、シート状の溶融樹脂として、Tダイから押し出す。そして、該シート状の溶融樹脂を2つの冷却ロールで挟み込んで冷却し、フィルムを成膜することが好ましい。
【0244】
上記シート状の溶融樹脂を挟み込む2つの冷却ロールの内、一方は、表面が平滑な剛体性の金属ロールであり、もう一方は、表面が平滑な弾性変形可能な金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールであることが好ましい。
【0245】
このような剛体性の金属ロールと金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールとで、上記シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却して成膜することにより、表面の微小な凹凸やダイライン等が矯正されて、表面が平滑で厚みムラが5μm以下であるフィルムを得ることができる。
【0246】
なお、本明細書において、「冷却ロール」とは、「タッチロール」および「冷却ロール」を包含する意味で用いられる。
【0247】
上記剛体性の金属ロールとフレキシブルロールとを用いる場合であっても、何れの冷却ロールも表面が金属であるため、成膜するフィルムが薄いと、冷却ロールの面同士が接触して、冷却ロールの外面に傷が付いたり、冷却ロールそのものが破損したりすることがある。
【0248】
そのため、上説したような2つの冷却ロールでシート状の溶融樹脂を挟み込んで成膜する場合、まず、該2つの冷却ロールで、シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却することで、フィルムが得られる。
【0249】
得られた本発明のフィルムは、延伸による配向複屈折がほぼ発生せず、さらに光学的に等方である。また、真空成形等の2次成形時、高温での使用時等の熱による収縮も小さい。さらに、延伸工程を経ることにより、強度の向上、膜厚精度の向上を図ることができる。また、本発明の光学樹脂組成物は光学等方性に優れているため、延伸条件の許容幅が広く、実質的に複屈折を生じさせることなく、かつ、ヘイズの増大を実質的に伴うことなく、厚みムラの小さなフィルムを容易に製造することができる。
【0250】
本発明に係るフィルムが延伸フィルムである場合、本発明に係る光学用樹脂組成物を一旦、未延伸状態のフィルムに成形し、その後、一軸延伸または二軸延伸を行うことにより、延伸フィルム(一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルム)を製造することができる。例えば、上記2つの冷却ロールで、シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却し、一旦、厚み150μmの未延伸状態のフィルムを取得する。その後、該フィルムを縦横二軸延伸により延伸させ、厚み40μmのフィルムを製造すればよい。
【0251】
本明細書では、説明の便宜上、本発明に係る光学用樹脂組成物をフィルム状に成形した後、延伸を施す前のフィルム、すなわち未延伸状態のフィルムを「原料フィルム」と称する。
【0252】
原料フィルムを延伸する場合、原料フィルムを成形後、直ちに、該原料フィルムの延伸を連続的に行ってもよいし、原料フィルムを成形後、一旦、保管または移動させて、該原料フィルムの延伸を行ってもよい。
【0253】
なお、原料フィルムに成形後、直ちに該原料フィルムを延伸する場合、フィルムの製造工程において、原料フィルムの状態が非常に短時間(場合によっては、瞬間)にて延伸してもよく、一旦原料フィルムを製造したのち、時間を開けて延伸してもよい。
【0254】
本発明のフィルムを延伸フィルムとする場合は、上記原料フィルムは延伸されるのに充分な程度のフィルム状を維持していればよく、完全なフィルムの状態である必要はない。
【0255】
原料フィルムを延伸する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の延伸方法を用いればよい。具体的には、例えば、テンターを用いた横延伸、ロールを用いた縦延伸、及びこれらを逐次組み合わせた逐次二軸延伸等を用いることができる。
【0256】
また、縦と横とを同時に延伸する同時二軸延伸方法を用いたり、ロール縦延伸を行った後、テンターによる横延伸を行う方法を用いたりすることもできる。
【0257】
原料フィルムを延伸するとき、原料フィルムを一旦、延伸温度より0.5℃〜5℃、好ましくは1℃〜3℃高い温度まで予熱した後、延伸温度まで冷却して延伸することが好ましい。
【0258】
上記範囲内で予熱することにより、原料フィルムの厚みを精度よく保つことができ、また、延伸フィルムの厚み精度が低下したり、厚みムラが生じたりすることがない。また、原料フィルムがロールに貼り付いたり、自重で弛んだりすることがない。
【0259】
一方、原料フィルムの予熱温度が高すぎると、原料フィルムがロールに貼り付いたり、自重で弛んだりするといった弊害が発生する傾向にある。また、原料フィルムの予熱温度と延伸温度との差が小さいと、延伸前の原料フィルムの厚み精度を維持しにくくなったり、厚みムラが大きくなったり、厚み精度が低下したりする傾向がある。
【0260】
なお、本発明に係る光学用樹脂組成物は、原料フィルムに成形後、延伸する際、ネッキング現象を利用して、厚み精度を改善することが困難である。したがって、本発明では、上記予熱温度の管理を行うことは、得られるフィルムの厚み精度を維持したり、改善したりするためには重要となる。
【0261】
原料フィルムを延伸するときの延伸温度は、特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムに要求される機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、変更すればよい。
【0262】
一般的には、DSC法によって求めた原料フィルムのガラス転移温度をTgとした時に、(Tg−30℃)〜(Tg+30℃)の温度範囲とすることが好ましく、(Tg−20℃)〜(Tg+20℃)の温度範囲とすることがより好ましく、(Tg)〜(Tg+20℃)の温度範囲とすることがさらに好ましい。
【0263】
延伸温度が上記温度範囲内であれば、得られる延伸フィルムの厚みムラを低減し、さらに、伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を良好なものとすることができる。また、フィルムがロールに粘着するといったトラブルの発生を防止することができる。
【0264】
一方、延伸温度が上記温度範囲よりも高くなると、得られる延伸フィルムの厚みムラが大きくなったり、伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質が十分に改善できなかったりする傾向がある。さらに、フィルムがロールに粘着するといったトラブルが発生しやすくなる傾向がある。
【0265】
また、延伸温度が上記温度範囲よりも低くなると、得られる延伸フィルムのヘイズが大きくなったり、極端な場合には、フィルムが裂けたり、割れたりするといった工程上の問題が発生したりする傾向がある。
【0266】
上記原料フィルムを延伸する場合、その延伸倍率もまた、特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムの機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、決定すればよい。延伸温度にも依存するが、延伸倍率は、一般的には、1.1倍〜3倍の範囲で選択することが好ましく、1.3倍〜2.5倍の範囲で選択することがより好ましく、1.5倍〜2.3倍の範囲で選択することがさらに好ましい。
【0267】
延伸倍率が上記範囲内であれば、フィルムの伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を大幅に改善することができる。それゆえ、厚みムラが5μm以下であり、複屈折が実質的にゼロであり、さらに、ヘイズが2.0%以下である延伸フィルムを製造することもできる。
【0268】
本発明に係るフィルムは、必要に応じて、粘着剤等により別のフィルムをラミネートしたり、表面にハードコート層等のコーティング層を形成させたりして用いることができる。
【0269】
本発明の光学用樹脂組成物は、配向複屈折を調整する意味合いで、特許第3648201号や特許第4336586号に記載の複屈折性を有する無機微粒子や、特許第3696649号に記載の複屈折性を有する、分子量5000以下、好ましくは1000以下の低分子化合物を適宜配合してもよい。
【0270】
また、本発明の光学用樹脂組成物は、樹脂(A)、樹脂(B)と必要に応じて多層構造粒子(E)を各々少なくとも1種類含むものであればよく、本発明の目的を満たす範囲であれば、1種以上の他の樹脂を特に制限なく添加することができる。他の樹脂としては、たとえば、他の熱可塑性樹脂、コアシェルポリマー、グラフト共重合体などの多層構造重合体、ブロックポリマーなどの熱可塑性エラストマー、などが挙げられる。他の熱可塑性樹脂としては、例えば、無水グルタル酸アクリル系樹脂、ラクトン環化アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。ブレンドの方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0271】
本発明の光学用樹脂組成物は、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、艶消し剤、光拡散剤、着色剤、染料、顔料、帯電防止剤、熱線反射材、滑剤、可塑剤、紫外線吸収剤、安定剤、フィラー等の公知の添加剤、または、その他の樹脂を含有しても良い。
【0272】
本発明のフィルムは、必要に応じて、公知の方法によりフィルム表面の光沢を低減させることができる。例えば、光学用樹脂組成物に無機充填剤または架橋性高分子粒子を混練する方法等で実施することが可能である。また、得られるフィルムをエンボス加工により、フィルム表面の光沢を低減させることも可能である。
【0273】
本発明のフィルムは、金属、プラスチック、ガラス、あるいは印刷、加飾、保護などの材料層などに積層して用いることができる。フィルムの積層方法としては、積層成形や、鋼板などの金属板に接着剤を塗布した後、金属板にフィルムを載せて乾燥させ貼り合わせるウエットラミネートや、ドライラミネート、エキストルージョンラミネート、ホットメルトラミネートなどがあげられる。
【0274】
プラスチック部品にフィルムを積層する方法としては、フィルムを金型内に配置しておき、射出成形にて樹脂を充填するインサート成形またはラミネートインジェクションプレス成形や、フィルムを予備成形した後に金型内に配置し、射出成形にて樹脂を充填するインモールド成形などがあげられる。
【0275】
本発明のフィルムの積層品は、自動車内装材,自動車外装材などの塗装代替用途、窓枠、浴室設備、壁紙、床材などの建材用部材、日用雑貨品、家具や電気機器のハウジング、ファクシミリ、ノートパソコン、コピー機などのOA機器のハウジング、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどの端末の液晶画面の前面板や、電気または電子装置の部品などに使用することができる。
【0276】
本発明のフィルムは、その耐熱性、透明性、柔軟性等の性質を利用して、以下の各種用途に使用することができる。具体的には、自動車内外装、パソコン内外装、携帯内外装、太陽電池内外装、太陽電池バックシート;カメラ、VTR、プロジェクター用の撮影レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ、レンズカバーなどの映像分野、CDプレイヤー、DVDプレイヤー、MDプレイヤーなどにおける光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CD、DVD、MDなどの光ディスク用の光記録分野、有機EL用フィルム、液晶用導光板、拡散板、バックシート、反射シート、偏光子保護フィルム、偏光フィルム透明樹脂シート,位相差フィルム,光拡散フィルム、プリズムシートなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライト、テールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡、コンタクトレンズ、内視鏡用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路標識、浴室設備、床材、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓、カーポート、照明用レンズ、照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具などに使用することができる。また、転写箔シートを使用した成形品の代替用途としても使用できる。
【0277】
本発明における光学用樹脂組成物のフィルム以外の成形品の使用用途としては、例えば、一般カメラ用レンズ,ビデオカメラ用レンズ,レーザーピックアップ用の対物レンズ,回折格子,ホログラム,及びコリメータレンズ,レーザープリンター用のfθレンズ,シリンドリカルレンズ,液晶プロジェクター用のコンデンサーレンズや投射レンズ,フレネルレンズ,眼鏡用レンズ等のレンズ、コンパクトディスク(CD,CD−ROM等)、ミニディスク(MD)、DVD用のディスク基板、液晶用導光板、液晶用フィルム、LCD用基板,液晶素子結合用接着剤等の液晶素子用部材、プロジェクター用スクリーン、光学フィルター、光ファイバー、光導波路、プリズム、照明用レンズ、自動車ヘッドライト、滅菌処理の必要な医療用品、電子レンジ調理容器、家電製品のハウジング、玩具またはレクリエーション品目などが挙げられる。
【0278】
本発明に係るフィルムは、配向複屈折が−2.6×10
-4〜2.6×10
-4で、光弾性定数が−4×10
-12〜4×10
-12で、10μm以上500μm以下の厚みを持たせることができる。中でも、光学的均質性、透明性等の光学特性に優れている。また、多層構造粒子(E)を配合することで機械的強度を向上させることができ、引張破断点伸度が10%以上を満たすことが好ましい。そのため、これらの光学特性を利用して、表面保護フィルム、液晶用導光板、拡散板、バックシート、反射シート、偏光フィルム透明樹脂シート、位相差フィルム、プリズムシート、光学的等方フィルム、偏光子保護フィルムや透明導電フィルム等液晶表示装置周辺、有機EL装置周辺等の公知の光学的用途に特に好適に用いることができる。
【0279】
本発明のフィルムは、偏光子に貼り合わせて、偏光板として用いることができる。すなわち、本発明に係るフィルムは、偏光板の偏光子保護フィルムとして用いることができる。上記偏光子は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の偏光子を用いることができる。具体的には、例えば、延伸されたポリビニルアルコールにヨウ素を含有させて得た偏光子等を挙げることができる。偏光子との貼り合わせに使用する方法としては、例えば、セルロース系樹脂等のプライマーを介してポリビニルアルコール系等の水系接着剤にて偏光子と貼り合わせる方法、UV照射等により硬化性の樹脂からなる接着剤により偏光子と直接貼り合わせる方法など、アクリル系フィルム等に一般的に使用される貼り合わせ方法を広く適用することができる。
【0280】
本発明のフィルムは、必要に応じて、表面処理が施されたものであってもよい。例えば、本発明のフィルムの表面にコーティング加工等の表面加工を施したり、本発明のフィルムの表面に別のフィルムをラミネートしたりして用いる場合、本発明のフィルムに表面処理を施すことが好ましい。このような表面処理を施すことにより、本発明のフィルムと、コーティング材またはラミネートされる別のフィルムとの間の密着性を向上させることができる。
【0281】
なお、本発明のフィルムに対する表面処理の目的は上記に限定されない。本発明のフィルムは、その用途に関係なく、表面処理が施されていてもよい。このような表面処理は特に限定されないが、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射、アルカリ処理等を挙げることができる。中でも、コロナ処理が好ましい。
【0282】
本発明のフィルムの厚みは特に限定されないが、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがさらに好ましく、200μm以下であることが特に好ましい。また、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましく、100μm以上であることが特に好ましい。フィルムの厚みが上記範囲内であれば、当該フィルムを用いて真空成形を実施する際に変形しにくく、深絞り部での破断が発生しにくいという利点があり、さらに、光学特性が均一で、透明性が良好なフィルムを製造することができる。一方、フィルムの厚みが上記範囲を越えると、成形後のフィルムの冷却が不均一になり、光学的特性が不均一になる傾向がある。また、フィルムの厚みが上記範囲を下回ると、フィルムの取扱が困難になることがある。
【0283】
本発明のフィルムは、ヘイズ値(125μm厚)が2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることが特に好ましい。本発明のフィルムのヘイズ値が上記範囲内であれば、フィルムの透明性を十分に高く、透明性が要求される光学用途、加飾用途、インテリアー用途、または、真空成形用途で好適である。
【0284】
本発明のフィルムは、全光線透過率(125μm厚)が85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましい。全光線透過率が上記範囲内であれば、フィルムの透明性を十分に高く、透明性が要求される光学用途、加飾用途、インテリアー用途、または、真空成形用途で好適に用いることができる。
【0285】
本発明のフィルムは、ガラス転移温度が100℃以上が好ましく、115℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましく、124℃以上であることがなおさら好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であれば、十分に耐熱性が優れたフィルムを得ることができる。
【0286】
本発明のフィルムは、引張破断点伸度が10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることがなおさら好ましく、50%以上であることがとりわけ好ましく、60%以上であることが特に好ましく、90%以上であることが最も好ましい。上記範囲内の引張破断点伸度を示す本発明のフィルムは、当該フィルムをトムソン刃またはカッター刃で切り抜く時にクラックが発生しにくいこと(トリミング性)、および、当該フィルムをロールに巻き取る時、または、当該フィルムの表面に対しコーティング、蒸着、スパッタリング、保護フィルムの貼り合わせ等の後加工をする時に、破断しにくい。またフィルムを折り曲げたときの耐割れ性が高く、後加工工程のみならず、実際に製品として使用する際にも割れ等のトラブルがおこらない。この割れ性については特に引張破断点伸度が相関しており、引張破断点伸度が高いほど、耐割れ性に優れる。
【0287】
本発明のフィルムは上述のとおり光学フィルムとして使用することができる。この場合、特に偏光子保護フィルムとして使用する場合、光学異方性が小さいことが好ましい。特に、フィルムの面内方向(長さ方向、幅方向)の光学異方性だけでなく、厚み方向の光学異方性についても小さいことが好ましい。換言すれば、面内位相差、および、厚み方向位相差の絶対値がともに小さいことが好ましい。より具体的には、面内位相差は10nm以下であることが好ましく、6nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがより好ましく、3nm以下であることがさらに好ましい。また、厚み方向位相差の絶対値は50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましく、5nm以下であることが最も好ましい。このような位相差を有するフィルムは、液晶表示装置の偏光板が備える偏光子保護フィルムとして好適に使用することができる。一方、フィルムの面内位相差が10nmを超えたり、厚み方向位相差の絶対値が50nmを超えたりすると、液晶表示装置の偏光板が備える偏光子保護フィルムとして用いる場合、液晶表示装置においてコントラストが低下するなどの問題が発生する場合がある。
【0288】
位相差は複屈折をベースに算出される指標値であり、面内位相差(Re)および厚み方向位相差(Rth)は、それぞれ、以下の式により算出することができる。3次元方向について完全光学等方である理想的なフィルムでは、面内位相差Re、厚み方向位相差Rthがともに0となる。
【0289】
Re=(nx−ny)×d
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
上記式中において、nx、ny、およびnzは、それぞれ、面内において伸張方向(ポリマー鎖の配向方向)をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率を表す。また、dはフィルムの厚さを表し、nx−nyは配向複屈折を表す。なお、溶融押出フィルムの場合は、MD方向がX軸、さらに延伸フィルムの場合は延伸方向がX軸となる。
【0290】
本発明の光学用樹脂組成物からなる成形体は、配向複屈折の値が、−15×10
-4〜15×10
-4であることが好ましく、−10×10
-4〜10×10
-4であることがより好ましく、−5×10
-4〜5×10
-4であることがさらに好ましく、−1.6×10
-4〜1。6×10
-4であることがなおさら好ましく−1×10
-4〜1×10
-4であることがとりわけ好ましく、−0.5×10
-4〜0.5×10
-4であることが特に好ましく、−0.2×10
-4〜0.2×10
-4であることが最も好ましい。配向複屈折が上記範囲内であれば、成形加工時の複屈折が生じることなく、実用上問題ない成形体を得ることができる。
【0291】
また、本発明の光学用樹脂組成物からなるフィルムは、配向複屈折の値が、−2.6×10
-4〜2.6×10
-4であることが好ましく、−2.1×10
-4〜2.1×10
-4であることがより好ましく、−1.7×10
-4〜1.7×10
-4であることがさらに好ましく、−1.6×10
-4〜1.6×10
-4であることがよりさらに好ましく、−1.5×10
-4〜1.5×10
-4であることがより一層好ましく、−1.0×10
-4〜1.0×10
-4であることがなおさら好ましく、−0.5×10
-4〜0.5×10
-4であることが特に好ましく、−0.2×10
-4〜0.2×10
-4であることが最も好ましい。配向複屈折が上記範囲内であれば、成形加工時の複屈折が生じることなく、安定した光学特性を得ることができる。また液晶ディスプレイ等に使用される光学フィルムとしても非常に適している。
【0292】
本発明の光学用樹脂組成物からなる成形体は、光弾性定数が、−10×10
-12〜10×10
-12であることが好ましく、−4×10
-12〜4×10
-12であることがより好ましく、−2×10
-12〜2×10
-12であることがさらに好ましく、−1×10
-12〜1×10
-12であることがよりさらに好ましく、−0.5×10
-12〜0.5×10
-12であることがさらに好ましく、−0.3×10
-12〜0.3×10
-12であることが最も好ましい。光弾性定数が上記範囲内であれば、高温高湿などの環境下において成形体に応力がかかった際にも生じる複屈折が小さく、実用上問題ない成形体を得ることができる。
【0293】
また、本発明の光学用樹脂組成物からなるフィルムは、光弾性定数が、−4×10
−12Pa
−1〜4×10
−12Pa
−1が好ましく、−1.5×10
−12Pa
−1〜1.5×10
−12Pa
−1であることがより好ましく、−1.0×10
−12Pa
−1〜1.0×10
−12Pa
−1であることがさらに好ましく、−0.5×10
−12Pa
−1〜0.5×10
−12Pa
−1であることがなおさら好ましく、−0.3×10
−12Pa
−1〜0.3×10
−12Pa
−1であることが最も好ましい。光弾性定数が上記範囲内であれば、本発明に係るフィルムを液晶表示装置に用いても、高温高湿などの環境下において成形体に応力がかかった際にも生じる複屈折が小さく、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生したりすることがない。
【0294】
本発明の延伸フィルムは、配向複屈折の値が、−5.0×10
-4〜5.0×10
-4であることが好ましく、−3.0×10
-4〜3.0×10
-4であることがより好ましく、−2.6×10
-4〜2.6×10
-4であることがさらに好ましく、−1.0×10
-4〜1.0×10
-4であることがよりさらに好ましく、−0.5×10
-4〜0.5×10
-4であることが最も好ましい。配向複屈折が上記範囲内であれば、成形加工時の複屈折が生じることなく、安定した光学特性を得ることができる。また液晶ディスプレイ等に使用される光学フィルムとしても非常に適している。
【0295】
本発明の延伸フィルムは、光弾性定数が、−4×10
−12Pa
−1〜4×10
−12Pa
−1が好ましく、−1.5×10
−12Pa
−1〜1.5×10
−12Pa
−1であることがより好ましく、−1.0×10
−12Pa
−1〜1.0×10
−12Pa
−1であることがさらに好ましく、−0.5×10
−12Pa
−1〜0.5×10
−12Pa
−1であることがなおさら好ましく、−0.3×10
−12Pa
−1〜0.3×10
−12Pa
−1であることが最も好ましい。光弾性定数が上記範囲内であれば、本発明に係るフィルムを液晶表示装置に用いても、高温高湿などの環境下において成形体に応力がかかった際にも生じる複屈折が小さく、位相差ムラが発生したり、表示画面周辺部のコントラストが低下したり、光漏れが発生したりすることがない。
【実施例】
【0296】
以下、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下で「部」および「%」は、特記ない限り、「重量部」および「重量%」を意味する。
【0297】
(多層構造粒子(E)の(メタ)アクリル系架橋重合体層までの体積平均粒子径)
グラフト共重合体(多層構造粒子(E))の(メタ)アクリル系架橋重合体層までの体積平均粒子径(アクリル系ゴム粒子の体積平均粒子径)は、アクリル系ゴム粒子ラテックスの状態で測定した。測定装置として、日機装株式会社製のMICROTRAC UPA150を用いて体積平均粒子径(μm)を測定した。
【0298】
(重合転化率)
まず、得られたスラリーの一部を採取・精秤し、それを熱風乾燥器中で120℃、1時間乾燥し、その乾燥後の重量を固形分量として精秤した。次に、乾燥前後の精秤結果の比率をスラリー中の固形成分比率として求めた。最後に、この固形成分比率を用いて、以下の計算式により重合転化率を算出した。なお、この数式1において、連鎖移動剤は仕込み単量体として取り扱った。
【0299】
重合転化率(%)
=〔(仕込み原料総重量×固形成分比率−水・単量体以外の原料総重量)/仕込み単量体重量〕×100
(グラフト率)
得られたグラフト共重合体(多層構造粒子(E))2gをメチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpmにて1時間遠心分離を行い、不溶分と可溶分とを分離した(遠心分離作業を合計3セット)。得られた不溶分を用いて、次式によりグラフト率を算出した。
【0300】
グラフト率(%)={(メチルエチルケトン不溶分の重量−架橋重合体層の重量)/架橋重合体層の重量}×100
なお、架橋重合体層の重量は、架橋重合体層を構成する単官能性単量体の仕込み重量である。
【0301】
(イミド化率)
イミド化率の算出は、IRを用いて下記の通り行った。生成物のペレットを塩化メチレンに溶解し、その溶液について、SensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温にてIRスペクトルを測定した。得られたIRスペクトルより、1720cm
−1のエステルカルボニル基に帰属する吸収強度(Absester)と、1660cm
−1のイミドカルボニル基に帰属する吸収強度(Absimide)との比からイミド化率(Im%(IR))を求めた。ここで、「イミド化率」とは、全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
【0302】
(グルタルイミド単位の含有量)
1H−NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて、樹脂の
1H−NMR測定を行い、樹脂中のグルタルイミド単位またはエステル単位などの各モノマー単位それぞれの含有量(mol%)を求め、当該含有量(mol%)を、各モノマー単位の分子量を使用して含有量(重量%)に換算した。
【0303】
(酸価)
得られたグルタルイミドアクリル樹脂0.3gを37.5mlの塩化メチレンおよび37.5mlのメタノールの混合溶媒の中で溶解した。フェノールフタレインエタノール溶液を2滴加えた後に、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5ml加えた。過剰の塩基を0.1N塩酸で滴定し、酸価を添加した塩基と中和に達するまでに使用した塩酸との間のミリ当量で示す差で算出した。
【0304】
(屈折率)
グルタルイミドアクリル樹脂の屈折率は、それぞれの組成物をシート状に加工し、JIS K7142に準じて、アタゴ社製アッベ屈折計2Tを用いて、ナトリウムD線波長における屈折率(nD)を測定した。
【0305】
(ガラス転移温度)
セイコーインスツルメンツ製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC−5200を用い、試料を一旦200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め(DDSC)、その極大点からガラス転移温度を求めた。
【0306】
(全光線透過率・ヘイズ値)
フィルムの全光線透過率、ヘイズ値は、(株)日本電色工業 NDH−300Aを用い、JIS K7105に記載の方法にて測定した。
【0307】
(膜厚)
フィルムの膜厚は、デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。
【0308】
(一軸延伸フィルムの作製、および配向複屈折の測定)
実施例および比較例で得られた未延伸の膜厚125μmの原反フィルムから、25mm×90mmの試験片を切り出し(MD方向に長辺が来るように切り出す)、両短辺を保持してガラス転移温度+30℃にて2分保ち、2倍(100%に延伸とも言う)に長さ方向へ200mm/分の速度で一軸に延伸する(この際、両長辺は固定なし)。その後、得られたフィルムを23℃に冷却し、サンプル中央部分をサンプリングし、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0°にて複屈折(配向複屈折)を測定した。同時に、面内位相差Re、厚み方向位相差Rth(入射角40°)も測定した。(面内位相差Re、厚み方向位相差Rthに関しては、その詳細を後述する)
なお、多層構造粒子(E)単体の配向複屈折の測定に関しては、多層構造粒子(E)単品を、190℃でプレスし、膜厚500μmのプレス成形シートを作製する。得られたプレス成形シートの中央部から、25mm×90mmの試験片を切り出し、上記記載と同様にして延伸し、測定した。
【0309】
(原反フィルムの配向複屈折)
実施例および比較例で得られた未延伸の原反フィルム(膜厚125μm)から40mm×40mmの試験片を切り出し、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0°にて測定した。同時に、面内位相差Re、厚み方向位相差Rth(入射角40°)も測定した。(面内位相差Re、厚み方向位相差Rthに関しては、その詳細を後述する)
(面内位相差Reおよび厚み方向位相差Rth)
実施例および比較例で得られた未延伸の膜厚125μmのフィルム(原反フィルム)から、40mm×40mmの試験片を切り出した。この試験片の面内位相差Reを、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0゜で測定した。
【0310】
デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した試験片の厚みd、アッベ屈折計(株式会社アタゴ製 3T)で測定した屈折率n、自動複屈折計で測定した波長590nmでの面内位相差Reおよび40°傾斜方向の位相差値から3次元屈折率nx、ny、nzを求め、厚み方向位相差 Rth=((nx+ny)/2−nz)×d を計算した。なお、測定値に、100(μm)/フィルム厚さ(μm)を掛けて、100μm厚換算値とし、表2に記載した。
【0311】
(光弾性定数)
実施例および比較例で得られた未延伸の膜厚125μmのフィルム(原反フィルム)からTD方向に15mm×90mmの短冊状に試験片を切断した(TD方向に長辺がくるように切り出す)。自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0°にて測定した。測定は、フィルムの長辺の一方を固定し、他方は無荷重から4kgfまで0.5kgfずつ荷重をかけた状態で複屈折を測定し、得られた結果から、単位応力による複屈折の変化量を算出した。
【0312】
なお、多層構造粒子(E)単体の光弾性定数の測定に関しては、多層構造粒子(E)単品を、190℃でプレスし、膜厚500μmのプレス成形シートを作製した。得られたプレス成形シートの中央部から、15mm×90mmの試験片を切り出し、上記記載と同様にして測定した。
【0313】
(延伸フィルムの透明性)
本発明は、延伸しても透明性に優れるフィルムを提供することを目的の一つとしている。ここでは、以下に説明する2軸延伸フィルムの全光線透過率とヘイズを測定することにより、延伸フィルムの透明性の評価指標と定義する。本発明によれば、この評価で得られたヘイズが2.0%以下となる。
【0314】
(2軸延伸フィルムの作製、各種物性の測定)
未延伸の膜厚125μmの原反フィルムから、13cm×13cmの試験片を切り出し、4辺全て保持してガラス転移温度+20℃にて10分保ち、2倍(100%に延伸とも言う)に120mm/分の速度で、同時に2軸方向に延伸する。その後、得られたフィルムを23℃に冷却し、サンプル中央部分をサンプリングし、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0°にて複屈折(配向複屈折)を測定した。同時に、面内位相差Re、厚み方向位相差Rth(入射角40°)も測定した。(面内位相差Re、厚み方向位相差Rthに関しては、その詳細を先述する)。また全光線透過率、ヘイズについても先述の方法で測定した。
【0315】
(機械的強度の評価)
(トリミング性評価)
上記記載の2軸延伸フィルムを、カッターナイフを用いて、10cmの長さで切断した。それを合計5回行い、フィルム中に発生したクラック数をカウントした。クラック数が少ないほど、トリミング性は良好であり、機械的強度に優れる。
【0316】
(MITの評価)
フィルムの耐折り曲げ性は、(株)東洋精機製作所 MIT耐折疲労試験機を用い、JIS C5016の方法に従って行った。測定条件は、測定角度=135°、速度=175回/分、R=0.38、荷重100gとした。
【0317】
(成形体の外観評価)
膜厚60μmのフィルムを用い、以下のように判定した。
○:表面ムラ、微細な梨地状の荒れなどがなく、MD方向1mの厚みのバラつきが2μm以下である。
×:表面ムラ、微細な梨地状の荒れなどがあり、MD方向1mの厚みのバラつきが2μmよりも大きい。
【0318】
(耐溶剤性)
膜厚125μmのフィルムを用いた。23℃の雰囲気下、パスツールピペットを用いて0.5ml滴下し、完全に揮発するまで1時間放置した(N=10で実施)。
○:表面にシワ、凹凸の発生などの変形が起こらない。
×:表面にシワ、凹凸の発生等の変形が起こる。
【0319】
(熱安定性)
熱安定性は、熱重量測定(TGA)を用いて測定した。
【0320】
セイコーインスツルメンツ製のSII EXSTAR 6000、TG/DTA 6300を用いた。スタート温度は30℃、最終温度は460℃、昇温速度は5℃/分、保持時間0分で測定を実施した。試料はフィルム化前のペレットを用い、試料量は20mg、パージガスは窒素(400ml/分)で行った。
【0321】
1%重量減少温度は以下のように算出した。
【0322】
重量減少率=((wt−wt0)/wt0)×100%
wt=その温度の試料重量
wt0=基準重量(40℃の試料の重量)
重量減少率が−1%となった時の温度=1%重量減少温度と定義
(製造例1)
<マレイミドアクリル系樹脂(A1)の製造>
マレイミドアクリル系樹脂(A1)として、PM120N(旭化成ケミカルズ株式会社製、メタクリル酸メチル−N−フェニルマレイミド−スチレン共重合体(81/15/4重量%)を用いた。
【0323】
(製造例2)
<グルタルイミドアクリル系樹脂(B1)の製造>
原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、グルタルイミドアクリル系樹脂(B1)を製造した。
【0324】
この製造においては、押出反応機を2台直列に並べたタンデム型反応押出機を用いた。
【0325】
タンデム型反応押出機に関しては、第1押出機、第2押出機共に直径が75mm、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)が74の噛合い型同方向二軸押出機を使用し、定重量フィーダー(クボタ(株)製)を用いて、第1押出機の原料供給口に原料樹脂を供給した。
【0326】
第1押出機、第2押出機における各ベントの減圧度は−0.095MPaとした。更に、直径38mm、長さ2mの配管で第1押出機と第2押出機を接続し、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力制御機構には定流圧力弁を用いた。
【0327】
第2押出機から吐出された樹脂(ストランド)は、冷却コンベアで冷却した後、ペレタイザでカッティングしペレットとした。ここで、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力調整、又は押出変動を見極めるために、第1押出機の吐出口、第1押出機と第2押出機間の接続部品の中央部、および、第2押出機の吐出口に樹脂圧力計を設けた。
【0328】
第1押出機において、原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル樹脂(Mw:10.5万)を使用し、イミド化剤として、モノメチルアミンを用いてイミド樹脂中間体1を製造した。この際、押出機の最高温部の温度は280℃、スクリュー回転数は55rpm、原料樹脂供給量は150kg/時間、モノメチルアミンの添加量は原料樹脂100部に対して2.0部とした。定流圧力弁は第2押出機の原料供給口直前に設置し、第1押出機のモノメチルアミン圧入部圧力を8MPaになるように調整した。
【0329】
第2押出機において、リアベント及び真空ベントで残存しているイミド化剤及び副生成物を脱揮したのち、エステル化剤として炭酸ジメチルを添加しイミド樹脂中間体2を製造した。この際、押出機の各バレル温度は260℃、スクリュー回転数は55rpm、炭酸ジメチルの添加量は原料樹脂100部に対して3.2部とした。更に、ベントでエステル化剤を除去した後、ストランドダイから押し出し、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することで、グルタルイミドアクリル系樹脂(B1)を得た。
【0330】
得られたグルタルイミドアクリル系樹脂(B1)は、一般式(1)で表されるグルタミルイミド単位と、一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位が共重合したアクリル系樹脂(B)である。
【0331】
グルタルイミドアクリル系樹脂(B1)について、上記の方法に従って、イミド化率、グルタルイミド単位の含有量、酸価、ガラス転移温度、および、屈折率を測定した。その結果、イミド化率は13%、グルタルイミド単位の含有量は7重量%、酸価は0.4mmol/g、ガラス転移温度は130℃、屈折率は1.50であった。グルタルイミドアクリル系樹脂(B1)の光弾性定数の符号は−(マイナス)であった。
【0332】
(製造例3)
<グラフト共重合体(E1)の製造>
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.05部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部
硫酸第一鉄 0.001部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、表1に示したアクリル系ゴム粒子(E−1)の原料混合物45.266部を135分かけて連続的に添加した。(E−1)追加開始から12分後、24分後、36分後にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)を0.2部ずつ重合機に添加した。添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル系ゴム粒子((E−1)の重合物)を得た。重合転化率は99.4%であった。
【0333】
その後、内温を60℃にし、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、表1に示した硬質重合体層(E−2)の原料混合物55.254部を165分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、グラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は100.0%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のグラフト共重合体(E1)を得た。
【0334】
グラフト共重合体(E1)のゴム粒子(E−1の重合物)の平均粒子径は133nmであった。グラフト共重合体(E1)のグラフト率は77%であった。
【0335】
(製造例4)
<グラフト共重合体(E2)の製造>
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.05部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部
硫酸第一鉄 0.001部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、表1に示したアクリル系ゴム粒子(E−1)の原料混合物45.266部を135分かけて連続的に添加した。(E−1)追加開始から12分後、37分後、62分後、87分後にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)を、0.21部、0.21部、0.21部、0.11部ずつ重合機に添加した。添加終了後、さらに1時間重合を継続し、アクリル系ゴム粒子((E−1)の重合物)を得た。重合転化率は99.6%であった。
【0336】
その後、内温を60℃にし、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)を0.11部、続けてソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、表1に示した硬質重合体層(E−2)の原料混合物55.254部を165分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、グラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は99.6%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のグラフト共重合体(E2)を得た。
【0337】
グラフト共重合体(E2)のゴム粒子(E−1の重合物)の平均粒子径は103nmであった。グラフト共重合体(E2)のグラフト率は92%であった。
【0338】
【表1】
【0339】
(実施例1〜5、比較例1〜2)
直径40mmのフルフライトスクリューを用いた単軸押出機を用い、押出機の温度調整ゾーンの設定温度を255℃、スクリュー回転数を52rpmとし、表2に示す樹脂(A)、樹脂(B)、および多層構造粒子(E)の混合物を、10kg/hrの割合で供給した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を水槽で冷却し、ペレタイザでペレット化した。
【0340】
得られたペレットを、目開き5μmのリーフディスクフィルターを備えた、出口にTダイを接続した単軸押出機を用い、押出機の温度調整ゾーンの設定温度を260℃、スクリュー回転数を20rpmとし、ペレットを10kg/hrの割合で供給し、溶融押出することにより、実施例、および表2に示す膜厚(125μm、60μm)のフィルムを得た。これらフィルムについて各種物性を評価した。
【0341】
【表2】
【0342】
表2で示すように、実施例1で得られたフィルムは、熱安定性、耐溶剤性が高く、透明性も高く、配向複屈折、光弾性定数が小さく、光学等方性に優れる。さらに実施例2〜5で得られたフィルムは、実施例1で得られたフィルムの優れた特性に加え、機械的強度にも優れる。