特許第6594217号(P6594217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594217
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】軸封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20191010BHJP
   F16J 15/48 20060101ALI20191010BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   F16J15/34 L
   F16J15/48
   F16J15/18 B
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-12354(P2016-12354)
(22)【出願日】2016年1月26日
(65)【公開番号】特開2017-133563(P2017-133563A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084342
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 久巳
(72)【発明者】
【氏名】二宮 正信
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 貴倫
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−099532(JP,A)
【文献】 特開2014−185691(JP,A)
【文献】 実開昭63−024456(JP,U)
【文献】 特開2013−194899(JP,A)
【文献】 特開2011−007239(JP,A)
【文献】 特開2003−185030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00 − 15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸とこれが洞貫するシールハウジングとの間に機内側メカニカルシールと大気側メカニカルシールとを配設して、機内領域と大気領域とを両メカニカルシール間に形成されシール流体領域を介して遮蔽シールするように構成されており、機内領域が腐食性流体領域であり且つシール流体領域が機内領域より高圧の非腐食性流体領域である軸封装置において、
機内側メカニカルシールが、回転軸及びシールハウジングの一方に固定側Oリングを介して嵌合固定された固定密封環と当該回転軸及びシールハウジングの他方に可動側Oリングを介して軸線方向移動可能に嵌合保持された可動密封環とこれを固定密封環へと押圧附勢するスプリング部材とを具備して、両密封環の相対回転作用により機内領域とシール流体領域とを遮蔽シールするように構成されており、
前記固定側Oリングが、固定密封環とこれを嵌合固定する固定部材である回転軸又はシールハウジングとの対向周面間に形成された径方向幅一定のOリング装填空間に、シール流体領域の圧力による押圧移動を固定部材に形成された係止部によって規制される状態で装填されており、
前記Oリング装填空間に、固定側Oリングと係止部との間に配して、本体部とこれから固定側Oリングに向けて内外周方向に傾斜状に延びて前記対向周面に弾性的に圧接する内周リップ部及び外周リップ部とからなる耐蝕性プラスチック製の1個の環状シール部材が装填されていることを特徴とする軸封装置。
【請求項2】
前記環状シール部材がポリテトラフルオロエチレン製のものであることを特徴とする、請求項1に記載する軸封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸とこれが洞貫するシールハウジングとの間に機内側メカニカルシールと大気側メカニカルシールとを配設して、機内領域と大気領域とを両メカニカルシール間に形成されシール流体領域を介して遮蔽シールするように構成されており、機内領域が腐食性流体領域であり、シール流体領域が機内領域より高圧の非腐食性流体領域である軸封装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1又は特許文献2に示された軸封装置にあっては、回転軸とこれが洞貫するシールハウジングとの間に機内側メカニカルシールと大気側メカニカルシールとを配置して、機内領域と大気領域とを両メカニカルシール間に形成されたシール流体領域を介して遮蔽シールするように構成されており、機内領域の流体(被密封流体)が腐食性流体である場合には、シール流体領域に機内領域(及び大気領域)より高圧の非腐食性流体であるシール流体を供給することによって、すなわちシール流体領域を機内領域より高圧に保持することによって、被密封流体の大気領域への漏洩を確実に阻止するように図っている。
【0003】
而して、かかる軸封装置における機内側メカニカルシールにあっては、特許文献1の図1又は特許文献2の図2に示す如く、回転軸及びこれが洞貫するシールハウジングの一方に固定側Oリングを介して嵌合固定された固定密封環と当該回転軸及びシールハウジングの他方に可動側Oリングを介して軸線方向移動可能に嵌合保持された可動密封環とこれを固定密封環へと押圧附勢するスプリング部材とを具備して、両密封環の相対回転作用により腐食性流体領域である機内領域とこれより高圧の非腐食性流体領域であるシール流体領域とを遮蔽シールするように構成されており、前記固定側Oリングが、固定密封環とこれを嵌合固定する固定部材である回転軸又はシールハウジングとの対向周面間に形成された径方向幅一定のOリング装填空間に、高圧のシール流体による押圧移動を固定部材に形成した係止部によって規制される状態で装填されている。すなわち、特許文献1の図1に示す軸封装置の機内側メカニカルシールにあっては、固定部材である回転軸が軸本体とこれに固定した密封環保持体とを具備するものに構成されており、固定密封環の内周部を密封環保持体に嵌合させると共にその嵌合部分の対向周面間に形成された径方向幅一定のOリング装填空間に、固定側Oリングをシール流体の圧力による押圧移動を密封環保持部に形成した係止部によって阻止された状態で装填して、回転軸と固定密封環との嵌合部分をシール(二次シール)している。また、特許文献2の図2に示す軸封装置の機内側メカニカルシールにあっては、固定部材であるシールハウジングに固定密封環の外周部を嵌合させると共にその嵌合部分の対向周面に形成された径方向幅一定のOリング装填空間に、固定側Oリングをシール流体の圧力による押圧移動をシールハウジングに形成した係止部によって阻止された状態で装填することによって、シールハウジングと固定密封環との嵌合部分をシール(二次シール)している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−007239号公報
【特許文献2】特開2011−099532号公報
【特許文献3】特開2003−185030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、何れの軸封装置の機内側メカニカルシールにあっても、低圧領域の流体(被密封流体)が腐食性流体である場合、固定側Oリングは被密封流体より高圧のシール流体によって固定部材に形成された係止部に押し付けられているものの、腐食性流体に常時接触しているため、耐蝕性弾性材で構成されているときにも、長期使用のうちには腐食損傷してシール機能が低下する虞れがある。
【0006】
なお、被密封流体がOリングを膨潤させるような流体である場合には、特許文献3に開示される如く、固定側Oリングに代えてポリテトラフルオロエチレン等の耐蝕性プラスチック製の断面略V字状の環状シール部材(本体部とこれから内外周方向に傾斜状に延びて前記対向周面に弾性的に圧接する内周リップ部及び外周リップ部とからなるもので、一般にVリングと称せられているもの)が使用されることがあるが、かかるVリングは、長期に亘って腐食性流体に接触してもOリングのように腐食損傷することはないものの、内外周リップ部の弾性力によってシール機能を発揮するものであるから、Oリングに比してシール機能が低く、信頼性に欠けるものであり、固定密封環とこれを嵌合固定する固定部材(回転軸又はシールハウジング)との間を十分にシール(二次シール)しうるものとは言い難い。
【0007】
本発明は、上記した点に鑑みてなされたもので、腐食性流体と接触する機内側メカニカルシールの固定側Oリングが腐食損傷することなく長期に亘って良好な軸封機能を発揮しうる軸封装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、回転軸とこれが洞貫するシールハウジングとの間に機内側メカニカルシールと大気側メカニカルシールとを配設して、機内領域と大気領域とを両メカニカルシール間に形成されシール流体領域を介して遮蔽シールするように構成されており、機内領域が腐食性流体領域であり且つシール流体領域が機内領域より高圧の非腐食性流体領域である軸封装置において、上記の目的を達成すべく、特に、機内側メカニカルシールを、回転軸及びシールハウジングの一方に固定側Oリングを介して嵌合固定された固定密封環と当該回転軸及びシールハウジングの他方に可動側Oリングを介して軸線方向移動可能に嵌合保持された可動密封環とこれを固定密封環へと押圧附勢するスプリング部材とを具備して、両密封環の相対回転作用により機内領域とシール流体領域とを遮蔽シールするように構成し、前記固定側Oリングを、固定密封環とこれを嵌合固定する固定部材である回転軸又はシールハウジングとの対向周面間に形成された径方向幅一定のOリング装填空間に、シール流体領域の圧力による押圧移動を固定部材に形成された係止部によって規制される状態で装填し、前記Oリング装填空間に、固定側Oリングと係止部との間に配して、本体部とこれから固定側Oリングに向けて内外周方向に傾斜状に延びて前記対向周面に弾性的に圧接する内周リップ部及び外周リップ部とからなる耐蝕性プラスチック製の環状シール部材を装填しておくことを提案するものである。
【0009】
かかる軸封装置にあっては、前記Oリング装填空間に、固定側Oリングと係止部との間に配して、前記環状シール部材を内外周リップ部を固定側Oリングに向けた並列状態で複数個装填しておくことができる。また、前記環状シール部材としては、ポリテトラフルオロエチレン製のものを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の軸封装置にあっては、機内側メカニカルシールの固定側Oリングが耐蝕性プラスチック製の環状シール部材によって機内領域の腐食性流体との接触を遮断されることから、固定側Oリングが腐食性流体との接触により腐食損傷することがない。しかも、環状シール部材の内外周リップ部によるシール力が、機内領域より高圧のシール流体領域の圧力によって固定側Oリングが内外周リップ部間に食い込むことによって、増大されることから、固定側Oリングと腐食性流体との接触が環状シール部材により確実に遮断され、固定側Oリングによるシール機能が長期に亘って良好に発揮される。したがって、本発明の軸封装置によれば、被密封流体が腐食性流体である場合にも、長期に亘って良好な軸封機能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は本発明に係る軸封装置の一例を示す断面図である。
図2図2図1と異なる断面を示す図1相当の断面図である。
図3図3図2の要部を拡大して示す詳細図である。
図4図4図2の要部を取り出して示す断面図である。
図5図5は本発明に係る軸封装置の変形例を示す図3相当の要部の断面図である。
図6図6は本発明に係る軸封装置の他の変形例を示す要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態を図1図4に基づいて具体的に説明する。図1は本発明に係る軸封装置の一例を示す断面図であり、図2図1と異なる断面を示す図1相当の断面図であり、図3図2の要部を拡大して示す詳細図であり、図4図2の要部を取り出して示す断面図である。
【0013】
図1及び図2に示す軸封装置は、腐食性流体(例えば、エチルベンゼンやスチレン等)を扱うポンプ、攪拌機等の回転機器に装備されたもので、当該回転機器の回転軸1とこれが洞貫するシールハウジング2との間に機内側メカニカルシール3と大気側メカニカルシール4とを配設して、腐食性流体領域である機内領域Aと機外領域である大気領域Bとを両メカニカルシール3,4間に形成され非腐食性流体領域であるシール流体領域Cを介して遮蔽シールするように構成されたダブルシールである。なお、以下の説明において前後とは図1図3における左右を意味するものとする。
【0014】
シールハウジング2は、図1及び図2に示す如く、当該回転機器のハウジングに設けられた本体部2aとその大気領域側端部(前端部)に取り付けられた円環状のフランジ部2bとからなり、両部2a,2bの内周部は円形をなして回転軸1が同心状に洞貫している。回転軸1は、図1及び図2に示す如く、軸本体1aとこれにシールハウジング2内に位置して挿通固定されたスリーブ1bとからなる。
【0015】
機内側メカニカルシール3は、図1及び図2に示す如く、シールハウジング2に固定側Oリング5を介して嵌合固定された固定密封環6と回転軸1に可動側Oリング7を介して軸線方向移動可能(前後方向移動可能)に嵌合保持された可動密封環8とこれを固定密封環6へと押圧附勢するスプリング部材9(図2参照)とを具備して、両密封環6,8の対向端面である密封端面6a,8aの相対回転摺接作用により機内領域Aとシール領域Cとを遮蔽シールするように構成された端面接触形メカニカルシールである。
【0016】
固定密封環6は、図3に示す如く、先端面(前端面)を軸線に直交する平滑環状平面である密封端面6aに構成した密封端面形成部6bとこれに連なる中間部6cとこれに連なるOリング保持部6dとからなるカーボン製の円環状体であり、回転軸1のスリーブ1bに遊嵌された状態で、シールハウジング2の基端部つまり本体部2aの基端部(後端部)に固定側Oリング5を介して内嵌固定されている。固定密封環6の中間部6cの外径はシールハウジング2の本体部2aの基端部の内径より若干小さく設定されており、Oリング保持部6dの外径は中間部6cの外径より小さく設定されていて、シールハウジング2の本体部2aの基端部と固定密封環6のOリング保持部6dとの対向周面間つまりシールハウジング2の本体部2aの基端部の内周面であるハウジング側シール面2cと固定密封環6のOリング保持部6dの外周面である密封環側シール面6eとの間には、径方向幅一定の環状のOリング装填空間10が形成されている。なお、固定密封環6は、図1に示す如く、Oリング保持部6dの基端部(後端部)に形成した凹部6fにシールハウジング2の本体部2aに突設したドライブピン2dを係合させることによりシールハウジング2に対する相対回転を阻止されている。
【0017】
固定側Oリング5は、図3に示す如く、Oリング装填空間10に径方向に圧縮された状態で装填されていて、ハウジング側シール面2cと密封環側シール面6eとに弾性的に圧接することによりシールハウジング2と固定密封環6との嵌合部分をシール(二次シール)している。
【0018】
シールハウジング2の本体部2aには、図3に示す如く、Oリング装填空間10の基端部(後端部)に突入する環状の係止部2eが設けられていて、固定側Oリング5のOリング装填空間10からの飛び出しを規制している。すなわち、固定側Oリング5は、シール流体領域Cの圧力による機内領域A方向(後方)への押圧移動(軸線方向移動)を係止部2eによって規制される状態で、Oリング装填空間10に装填されている。
【0019】
可動密封環8は、図1及び図2に示す如く、固定密封環6より大気領域側(前側)に配して、回転軸1のスリーブ1bに可動側Oリング7を介して軸線方向移動可能に嵌合保持されている。可動密封環8は、固定密封環6の構成材より硬質の材料(この例では超硬合金)で構成された密封環本体8bとこれを先端部(後端部)に嵌合固定する金属製(この例ではチタン製)の密封環保持体8cとその基端部に連結されたドライブカラー8dとからなる円環状体であり、密封環本体8bの先端面(後端面)を軸線に直交する平滑な環状平面であって固定密封環6の密封端面6aに接触する密封端面8aに構成してある。なお、可動密封環8の密封端面8aの外径は固定密封環6の密封端面6aの外径より大きく、可動密封環8の密封端面8aの内径は固定密封環6の密封端面6aの内径より小さく設定されている。また、可動密封環8は、図1に示す如く、その大気領域側(前側)に配してスリーブ1bに嵌合固定したドライブリング11にドライブカラー8dに突設したドライブピン12を挿通係合させることにより、所定範囲での軸線方向移動を許容した状態で回転軸1に対する相対回転を阻止されている。
【0020】
可動側Oリング7は、図1及び図2に示す如く、可動密封環8の密封環保持体8cの基端部(前端部)と回転軸1のスリーブ1bとの対向周面間に形成された径方向幅一定の環状のOリング装填空間13に装填されていて、可動密封環8と回転軸1との嵌合部分をシール(二次シール)している。可動側Oリング7は、可動密封環8の密封環保持体8cの内周中間部に形成された環状段部8eとドライブカラー8dとで規制された範囲において軸線方向相対移動可能な状態で、Oリング装填空間13に装填されており、シール流体領域Cの圧力によって環状段部8eに押し付けられている。
【0021】
なお、固定側Oリング5及び可動側Oリング7はフッ素ゴム、カルレッツ(登録商標)等の耐蝕性弾性材で構成されており、この例では、両Oリング5,7をグリーン,ツイード アンド カンパニー社製のケムラッツ505で構成してある。
【0022】
大気側メカニカルシール4は、図1及び図2に示す如く、機内側メカニカルシール3と同様構造をなすもので、機内側メカニカルシール3より大気領域側(前側)に位置して機内側メカニカルシール3と逆向きの形態をなして配置されている。すなわち、大気側メカニカルシール4は、ドライブリング11を挟んで機内側メカニカルシール3と対称構造をなすもので、シールハウジング2のフランジ部2bにOリング15を介して嵌合固定された固定密封環16と回転軸1のスリーブ1bにOリング17を介して軸線方向移動可能(前後方向移動可能)に嵌合保持された可動密封環18とこれを固定密封環16へと押圧附勢するスプリング部材9とを具備して、両密封環16,18の対向端面である密封端面16a,18aの相対回転摺接作用により大気領域Bとシール領域Cとを遮蔽シールするように構成された端面接触形メカニカルシールである。この例では、スプリング部材9は、図2に示す如く、ドライブリング11を貫通して両メカニカルシール3,4の可動密封環8,18間に装填されたコイルバネで構成されており、両可動密封環8,18を各固定密封環6,16へと押圧附勢する共通の附勢部材とされている。また、両Oリング15,17はフッ素ゴムで構成されている。
【0023】
シールハウジング2には、図1に示す如く、シール流体領域Cに機内領域Aより高圧のシール流体Sを供給するシール流体供給流路20及びシール流体Sをシール流体領域Cから排出するシール流体排出路21が形成されていて、シール流体Sをシール流体領域Cに循環供給し、シール流体領域Cを機内領域A(及び大気領域B)より高圧に保持するようになっている。シール流体Sとしては、機内領域A及び大気領域Bに漏出しても支障のない非腐食性流体が使用されており、この例では水が使用されている。なお、シールハウジング2のフランジ部2bには、図1に示す如く、大気側メカニカルシール4の固定密封環16の基端側(前端側)に開口して、ブッシュシール22で区画されたシールハウジング2内の大気領域部分にクエンチング流体Q(この例では水)を供給するクエンチング流路23が形成されており、更に図2に示す如く、当該大気領域部分からドレンDを排出するドレン路24が形成されている。
【0024】
而して、本発明に係る軸封装置にあっては、機内領域Aの流体(被密封流体)が腐食性流体である場合にも機内側メカニカルシール3の固定側Oリング5の腐食損傷を防止すべく、次のような工夫が施されている。
【0025】
すなわち、前記Oリング装填空間10に固定側Oリング5と係止部2eとの間に配して耐蝕性プラスチック製の環状シール部材25を装填することによって、固定側Oリング5が機内領域Aの腐食性流体に接触しないように工夫している。
【0026】
環状シール部材25は、図3及び図4に示す如く、本体部25aとこれから固定側Oリング5に向けて内外周方向に傾斜状に延びて前記密封環側シール面6e及びハウジング側シール2c面に弾性的に圧接する内周リップ部25b及び外周リップ部25cとからなる断面略V字形の環状体であり、特許文献3に開示されるVリングと同様形状をなすものである。この例では、環状シール部材25の構成材である耐蝕性プラスチックとしてポリテトラフルオロエチレンが使用されている。
【0027】
環状シール部材25は、図4に実線で示す自然状態(径方向の負荷が作用しない状態)から同図に鎖線で示す如く内外周リップ部25b,25cを互いに接近する方向に弾性変形させた状態で、Oリング装填空間10に装填されている。すなわち、環状シール部材25は、図3に示す如く、内周リップ部25bが固定側密封環6のOリング保持部6dの外周面である密封環側シール面6eに弾性的に圧接すると共に外周リップ部25cがシールハウジング2の本体部2aの内周面であるハウジング側シール面2cに弾性的に圧接する状態で、且つ本体部25aが係止部2eに衝合すると共に固定側Oリング5が両リップ部25b,25c間に若干突入した状態で、Oリング装填空間10に装填されている。
【0028】
而して、固定側Oリング5には機内領域Aより高圧のシール流体領域Cの圧力によって環状シール部材25方向への押圧力が作用するが、この押圧力によって固定側Oリング5が環状シール部材25の両リップ部25b,25c間へと食い込むことになり、これによって環状シール部材25の両リップ部25b,25c間が径方向に押し広げられることになる。その結果、内周リップ部25bの密封環側シール面6eへの圧接力及び外周リップ部25cのハウジング側シール面2cへの圧接力つまり内外周リップ部25b,25cによるシール力が増大されることになる。
【0029】
したがって、環状シール部材25それ自体によるシール力は冒頭で述べた如く小さいものであるが、つまり内外周リップ部25b,25c自体が有する弾性力によるシール面6e,2cへの圧接力は小さいものであるが、この圧接力(シール力)が固定側Oリング5の内外周リップ部25b,25c間への食い込みによって増大されることから、固定側Oリング5と機内領域Aとの間が環状シール部材25によって確実にシールされ、固定側Oリング5が機内領域Aの流体である腐食性流体に接触することがない。一方、腐食性流体に接触する環状シール部材25は、これが耐蝕性プラスチック製(この例ではポリテトラフルオロエチレン製)のものであるから、腐食性流体と長期に亘って接触しても腐食損傷されることはない。
【0030】
このように、固定側Oリング5は、腐食性流体との接触によっては腐食損傷することがない環状シール部材25により機内領域Aの腐食性流体との接触を遮断されることから、機内領域Aの流体が腐食性流体である場合にも固定側Oリング5が腐食損傷することがなく、長期に亘って適正なシール機能(二次シール機能)を発揮することができる。したがって、軸封装置による軸封機能が長期に亘って良好に発揮される。
【0031】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本原理を逸脱しない範囲において適宜に改良、変更することができる。
【0032】
例えば、Oリング装填空間10に装填させる環状シール部材25の個数は任意であり、必要に応じて、固定側Oリング5とシールハウジング2の係止部2eとの間に複数個の環状シール部材25を装填させておくことができる。このように複数個の環状シール部材25をOリング装填空間10に装填させる場合には、図5に例示する如く、全環状シール部材25をこれらの内外周リップ部25b,25cが本体部25aから固定側Oリング5に向けて延びる同一姿勢で並列するように配置させておく。このようにすれば、シール流体領域Cの圧力によって固定側Oリング5が係止部2e方向に押圧されると、これによって全環状シール部材25が係止部2eへと押し付けられ、その結果、固定側Oリング5に接触する環状シール部材25においてはその内外周リップ部25b,25c間に固定側Oリング5が食い込むことによって、またこの環状シール部材25以外の各環状シール部材25においてはその内外周リップ部25b,25c間に隣接する環状シール部材25の本体部25aが食い込むことによって、全環状シール部材25の内外周リップ部25b,25cの密封環側シール面6e及びハウジング側シール面2cへの圧接力が増大される。したがって、環状シール部材25によるシール機能は、その装填個数が増加するに従って増大され、固定側Oリング5と機内領域Aの腐食性流体との接触をより確実に遮断することができる。
【0033】
また、環状シール部材25は、機内側メカニカルシール3における可動側Oリング7のOリング装填空間13にも装填させておくことができる。すなわち、環状シール部材25を、図6に示す如く、可動側Oリング7と可動密封環8の環状段部8eとの間に配して、シール流体領域Cの圧力によって押圧された可動側Oリング7が内外周リップ部25b,25c間に食い込む状態で、Oリング装填空間13に装填させる。このようにした場合にも、環状シール部材25の内外周リップ部25b,25cによるシール力、つまり可動密封環8の保持体8cと回転軸1のスリーブ1bとの対向周面への内外周リップ部25b,25cの圧接力が増大して、可動側Oリング7と機内領域Aの腐食性流体との接触を遮断することができ、腐食性流体との接触による可動側Oリング7の腐食損傷を確実に防止することができる。なお、かかる場合にも、Oリング装填空間13に装填させる環状シール部材25の個数は任意である。
【0034】
また、本発明は、前記した如く機内側メカニカルシール3における固定密封環6を嵌合固定する固定部材がシールハウジング2である軸封装置に適用される他、特許文献1に示すように、機内側メカニカルシールにおける固定密封環を嵌合固定する固定部材が回転軸である軸封装置、つまり機内側メカニカルシールが固定側Oリングを介して回転軸に嵌合固定された固定密封環とシールハウジングに可動側Oリングを介して軸線方向移動可能に嵌合保持された可動密封環とを具備するものである軸封装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 回転軸
1a 軸本体
1b スリーブ
2 シールハウジング
2a 本体部
2b フランジ部
2c ハウジング側シール面
2d ドライブピン
2e 係止部
3 機内側メカニカルシール
4 大気側メカニカルシール
5 固定側Oリング
6 固定側密封環
6a 密封端面
6b 密封端面形成部
6c 中間部
6d Oリング保持部
6e 密封環側シール面
6f 凹部
7 可動側Oリング
8 可動密封環
8a 密封端面
8b 密封環本体
8c 保持体
8d ドライブカラー
9 スプリング部材
10 Oリング装填空間
11 ドライブリング
12 ドライブピン
13 Oリング装填空間
15 Oリング
16 固定密封環
16a 密封端面
17 Oリング
18 可動密封環
18a 密封端面
20 シール流体供給路
21 シール流体排出路
22 ブッシュシール
23 クエンチング流路
24 ドレン路
25 環状シール部材
25a 本体部
25b 内周リップ部
25c 外周リップ部
A 機内領域(腐食流体領域)
B 大気領域
C シール流体領域
D ドレン
Q クエンチング流体
S シール流体
図1
図2
図3
図4
図5
図6