(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594321
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】電気絶縁材料及び変圧器
(51)【国際特許分類】
H01B 3/52 20060101AFI20191010BHJP
H01B 3/02 20060101ALI20191010BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20191010BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20191010BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20191010BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20191010BHJP
C08L 25/14 20060101ALI20191010BHJP
H01F 41/12 20060101ALI20191010BHJP
D21H 13/16 20060101ALI20191010BHJP
D21H 17/68 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
H01B3/52 C
H01B3/02 Z
C08L29/04
C08K3/00
C08K7/02
C08L33/00
C08L25/14
H01F41/12 E
D21H13/16
D21H17/68
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-548075(P2016-548075)
(86)(22)【出願日】2015年1月27日
(65)【公表番号】特表2017-506793(P2017-506793A)
(43)【公表日】2017年3月9日
(86)【国際出願番号】US2015012982
(87)【国際公開番号】WO2015113012
(87)【国際公開日】20150730
【審査請求日】2018年1月24日
(31)【優先権主張番号】61/931,792
(32)【優先日】2014年1月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ターピン, ロバート エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ブラウニング, レサ エム.
(72)【発明者】
【氏名】マホニー, デイヴィッド ブイ.
(72)【発明者】
【氏名】ホアン, ミッチェル ティー.
(72)【発明者】
【氏名】スタンクス, デイヴィッド エス.
(72)【発明者】
【氏名】フォックス, マーティン エイチ.
【審査官】
井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/082180(WO,A1)
【文献】
特公昭55−022886(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/00− 3/56
C08K 3/00− 3/40
C08K 7/00− 7/28
C08L 25/00−25/18
C08L 29/00−29/14
C08L 33/00−33/26
D21H 13/00−13/50
D21H 17/00−17/70
H01F 41/00−41/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機充填剤と、
完全加水分解型ポリビニルアルコール繊維と、
ポリマーバインダーと、
高表面積繊維であるガラスマイクロファイバーと、を含み、
前記無機充填剤がカオリン粘土を含む、不織紙物品であって、
3%〜20%の完全加水分解型ポリビニルアルコール繊維と、
50%〜85%のカオリン粘土と、
7%〜25%のポリマーバインダーと、
2%〜10%のガラスマイクロファイバーと、を含み、前記%が重量%である、物品。
【請求項2】
前記ポリマーバインダーが、アクリルラテックス、ニトリルラテックス、及びスチレンアクリルラテックスのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記物品が非吸湿性である、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
完全加水分解型ポリビニルアルコール繊維を有する電気絶縁紙を含み、前記電気絶縁紙が、無機充填剤、ポリマーバインダー、及びガラスマイクロファイバーを更に含み、前記無機充填剤がカオリン粘土を含む、油充填変圧器であって、
前記電気絶縁紙は、
3%〜20%の完全加水分解型ポリビニルアルコール繊維と、
50%〜85%のカオリン粘土と、
7%〜25%のポリマーバインダーと、
2%〜10%のガラスマイクロファイバーと、を含み、前記%が重量%である、
油充填変圧器。
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、電気絶縁用途に好適な材料に関する。具体的には、本発明は、液体充填変圧器などの変圧器に好適な電気絶縁材料に関する。
【0002】
[背景]
電動モータ、発電機、及び変圧器などの電気機器は、隣り合った導電体同士を絶縁するために何らかの形の誘電体絶縁が必要となることが多い。従来の絶縁材料にはクラフト紙があり、これは液体充填変圧器においてしばしば用いられるセルロース系材料である。
【0003】
しかしながら、セルロース紙は、高い吸湿性、分解時の水の生成、及び限定された耐熱性など、いくつかの短所がある。現在の液体充填変圧器は、その設計上の製品寿命全体を通じて確実に動作するためには、含水量が0.5重量%未満である必要がある。液体充填変圧器中の水の汚染は、電気損失及び放電活動の増大による性能の低下をきたす。セルロース紙は水に対するその強い親和性(吸湿性)のために、液体充填変圧器の製造業者は、液体充填変圧器への最終的な組み込みに先立って、これらの材料を乾燥させるために多くの時間とエネルギーを費やすことを余儀なくされている。水分の存在は、セルロースの分解を更に加速させ、分解生成物としての更なる水の放出につながる。
【0004】
セルロース紙のその他の大きな欠点は、その限定された耐熱性がある。標準クラフト紙の耐熱クラスが105℃であり、高耐熱クラフト紙の耐熱クラスが120℃である。クラフト紙で絶縁された液体充填変圧器の最大動作温度は、クラフト紙の耐熱性能によって制限される。
【0005】
[概要]
特定の電気絶縁用途において、電気機器用途で好適な性能を達成する、より低い吸湿性及びより高い耐熱性を有する材料が必要とされている。
【0006】
本発明の材料は、電気的要素の絶縁を必要とする、変圧器、モータ、発電機、及びその他の装置内で、電気的要素を絶縁するために好適である。具体的には、このような材料は、液体充填変圧器及び他の液体充填電気的要素のための絶縁紙として好適である。
【0007】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、より低い吸湿性を有する絶縁物品を提供する。本発明の少なくともいくつかの実施形態は、従来のセルロース系クラフト紙と比較して望ましい吸湿性、耐熱性、及び熱伝導性を有する電気絶縁紙を提供する。
【0008】
本発明の少なくとも1つの実施形態は、無機充填剤、完全加水分解型ポリビニルアルコール繊維、ポリマーバインダー、及び高表面積繊維を含む物品を提供する。別の態様では、本物品は、不織紙として形成される。
【0009】
別の態様では、無機充填剤は、カオリン粘土、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、アルミナ三水和物、モンモリロナイト、スメクタイト、ベントナイト、イライト、クロライト、セピオライト、アタパルジャイト、ハロイサイト、バーミキュライト、ラポナイト、レクトライト、パーライト、窒化アルミニウム、シリコンカーバイド、窒化ホウ素、及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む。
【0010】
別の態様では、無機充填剤はカオリン粘土を含む。更なる態様では、カオリン粘土は、水洗浄されたカオリン粘土、層間剥離されたカオリン粘土、焼成されたカオリン粘土、及び表面処理されたカオリン粘土のうちの少なくとも1つを含む。
【0011】
別の態様では、ポリマーバインダーは、ラテックス系材料を含む。更なる態様では、ポリマーバインダーは、アクリルラテックス、ニトリルラテックス、及びスチレンアクリルラテックスのうちの少なくとも1つを含む。
【0012】
別の態様では、高表面積繊維は、ガラスマイクロファイバーを含む。
【0013】
別の態様では、本物品は、約3%〜約20%の完全加水分解型ポリビニルアルコール繊維を含む。更なる態様では、本物品は、約50%〜約85%のカオリン粘土、約7%〜約25%のポリマーバインダー、及び約2%〜約10%のガラスマイクロファイバーを含む。これらの%は重量%である。
【0014】
別の態様では、本物品は、セルロースを実質的に含まない。
【0015】
別の態様では、本物品は、非吸湿性である。
【0016】
本発明の別の実施形態は、電気機器用絶縁システムであって、上述した物品を含む、絶縁システムを提供する。電気機器は、変圧器、モータ、及び発電機のうちの1つを含む。一態様では、電気機器は液体充填変圧器を含む。
【0017】
本発明の別の実施形態は、完全加水分解型ポリビニルアルコール繊維を有する電気絶縁紙を含む、油充填変圧器を提供する。別の態様では、電気絶縁紙は、無機充填剤、ポリマーバインダー、及び高表面積繊維を更に含む。更なる態様では、油充填変圧器が、約3%〜約20%の完全加水分解型ポリビニルアルコール繊維、約50%〜約85%のカオリン粘土、約7%〜約25%のポリマーバインダー、及び約2%〜約10%のガラスマイクロファイバーを含み、%は重量%である。更なる態様では、電気絶縁紙は、セルロースを実質的に含まない。
【0018】
本明細書で使用されるとき、
「セルロースを実質的に含まない」は、セルロース系材料の含有量が10重量(wt)%未満である、好ましくはセルロース系材料の含有量が5重量%未満である、更に好ましくはセルロース系材料の含有量がごく微量である、最も好ましくはセルロース系材料をまったく含まないことを意味する。
【0019】
「非吸湿性」は、相対湿度50%において含水量が5重量%未満である、より好ましくは相対湿度50%において含水量が1.5重量%未満である、更により好ましくは相対湿度50%において含水量が1重量%未満であることを意味する。
【0020】
本発明の上述した発明の概要は、本発明の開示される各実施形態又はすべての実現形態について説明することを意図したものではない。以下に続く発明を実施するための形態では、本発明の実施形態がより具体的に例示される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
以下、本発明を、一部において非限定的な実施例を参照しながら、また本発明の図面を参照しながら説明する。
【
図1】本発明の一態様による、電気変圧器における用途に好適な絶縁システムの概略図である。
【
図2】本発明の一態様による絶縁紙と従来のクラフト紙とにおける乾燥時間を比較するグラフである。
【0022】
本発明には様々な改変及び代替的な形態が可能であるが、それらの詳細を例として図面に示したものであり、また下記に詳細に説明するものである。しかしながら、その目的とするところは、本発明を、説明される特定の実施形態に限定することではない点は理解されるべきである。逆に、その目的とするところは、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲内に含まれるすべての改変物、均等物、及び代替物を網羅することにある。
【0023】
[詳細な説明]
以下の説明において、本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態を想到し、実施し得ることは理解されるべきである。したがって、以下の詳細な説明は、限定的な意味で解釈されるべきではない。
【0024】
別途記載のない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される特徴寸法、量、及び物理的特性を表すすべての数字は、いずれの場合においても「約」なる語によって修飾されているものとして理解されるべきである。それ故に、そうでないことが示されない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲で示される数値パラメータは、当業者が本明細書で開示される教示内容を用いて得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。端点による数値範囲の使用には、その範囲内のすべての数及びその範囲内の任意の数値が含まれる(例えば、1〜5には1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、及び5が含まれる)。
【0025】
本発明の少なくとも1つの実施形態は、無機充填剤、完全加水分解型ポリビニルアルコール繊維、ポリマーバインダー、及び高表面積繊維を含む物品を提供する。本物品は、変圧器、モータ、発電機などの電気機器のための絶縁紙として形成され得る。電気機器は、絶縁性(誘電性)液体又は流体で充填されることがある。液体充填電気機器において用いられる典型的な流体としては、鉱物油、天然エステル油、合成エステル油、シリコーン油等を挙げることができる。本物品は、液体充填電気機器、例えば液体充填変圧器、液体充填ケーブル、及び液体充填開閉装置などのための絶縁紙として形成され得る。この結果、絶縁システム及び電気機器はセルロースを実質的に含まないものとなり得る。
【0026】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、従来のセルロース系クラフト紙と比較して、より低い吸湿性、より高い耐熱性、及びより高い熱伝導性を有する電気絶縁物品を提供する。
【0027】
セルロース系クラフト紙は、液体充填変圧器業界において長年利用されてきたが、高い吸湿性、加水分解感受性、及び限定された高い耐熱性が短所として知られている。セルロースを使用せずに、代わりに完全加水分解型ポリビニルアルコール繊維、より具体的には、カオリン粘土などの無機充填剤と完全加水分解型ポリビニルアルコール繊維との組み合わせを物品内に用いることにより、標準クラフト紙と比較して、より低い吸湿性、より高い加水分解安定性、より高い耐熱性、及びより高い熱伝導性を備えた電気絶縁紙が実証された。
【0028】
本明細書に記載される液体充填変圧器用の物品及び電気絶縁紙を用いることで、変圧器製造業者は、従来のクラフト紙で絶縁された変圧器ユニットを、油を含浸するのに先立って乾燥させるために典型的に行われている、長い時間と大量のエネルギーを消費する現在の乾燥サイクルを減らすことが可能となる。このような乾燥サイクルは、ユニットの設計及び寸法によって12時間〜数日間かかり得る。更に、クラフトセルロース紙は、吸湿性であるばかりでなく、セルロースの経時変化及び実際の分解によって副生成物として水を生じ、これによって変圧器の油の絶縁品質が更に低下し得る。
【0029】
上述したように、電気絶縁紙は、ポリビニルアルコール(PVOH)繊維を含む。一例では、電気絶縁紙が、約3重量%〜約20重量%の完全加水分解型ポリビニルアルコール繊維を含む。完全加水分解型というのは、繊維に含まれる未加水分解型ビニルアセテート単位が5%未満であり、したがってその加水分解度が少なくとも95%であることを意味する。完全加水分解型ポリビニルアルコールは、典型的には230℃の融点を有する。より好ましくは、完全加水分解型繊維は、高い引張強さ(>6g/デニール)を保有する。完全加水分解型の高い引張強さを有するポリビニルアルコール繊維は、典型的には室温で非水溶性である。加水分解度の低いポリビニルアルコール繊維は、典型的には室温で水溶性であり、典型的にはバインダー繊維として用いられる。部分加水分解型ポリビニルアルコールは、典型的には180〜190℃の範囲の融点を有する。
【0030】
加えて、電気絶縁紙は無機充填剤を含む。一態様では、好適な無機充填剤として、カオリン粘土、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、アルミナ三水和物、モンモリロナイト、スメクタイト、ベントナイト、イライト、クロライト、セピオライト、アタパルジャイト、ハロイサイト、バーミキュライト、ラポナイト、レクトライト、パーライト、窒化アルミニウム、シリコンカーバイド、窒化ホウ素、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。無機充填剤はまた、表面処理され得る。好適な種類のカオリン粘土としては、水洗浄されたカオリン粘土、層間剥離されたカオリン粘土、焼成されたカオリン粘土、及び表面処理されたカオリン粘土が挙げられるが、これらに限定されない。一例では、電気絶縁紙が、約50重量%〜約85重量%のカオリン粘土を含む。
【0031】
加えて、電気絶縁紙はポリマーバインダーを含む。好適なポリマーバインダーとしては、ラテックス系材料を挙げることができる。別の態様では、好適なポリマーバインダーとして、アクリルラテックス、ニトリルラテックス、スチレンアクリルラテックス、グアーガム、デンプン、及び天然ゴムラテックスが挙げられるが、これらに限定されない。一例では、電気絶縁紙は、約7重量%〜約25重量%のポリマーバインダーを含む。
【0032】
加えて、電気絶縁紙は高表面積繊維を含む。一例では、電気絶縁紙はガラスマイクロファイバーを含む。一例では、電気絶縁紙は、約2重量%〜約10重量%のガラスマイクロファイバーを含む。この態様では、高表面積繊維が、約0.6μm以下の平均直径を有する。高表面積繊維は、紙形成プロセスを通して混合物の排出を助けるために用い得る。
【0033】
多くの実施形態では、電気絶縁紙は不織紙として形成される。加えて、不織紙は、標準的な紙生産プロセスから形成され得る。例えば、配合成分を水中で混合してスラリーとし、ポンプで円網抄紙機内に注入し、シート状に成形した後に乾燥させる。また、不織紙にカレンダー仕上げを施すことにより高密度紙を製造することも可能である。
【0034】
結果として、液体充填変圧器内の絶縁システム用などの、電気機器用途に好適な不織非吸湿性絶縁紙が得られる。電気絶縁紙は、油で飽和させ得る。
【0035】
例えば、
図1は、本発明の別の態様として、液体充填変圧器用の絶縁システム10の図を示す。例示的な一態様では、変圧器は油充填変圧器からなる。絶縁システム10は、変圧器用の巻線として示されている。
【0036】
例示的な一実現形態では、巻き型11が絶縁システム10の中心領域に設けられている。巻き型は、上述した電気絶縁紙から形成された厚板絶縁体として形成され得る。第1の低電圧巻線12が巻き型11を取り囲んでいる。巻線12は、絶縁層、例えば、1つ又は2つ以上の絶縁紙(例えば上述したような電気絶縁紙)層によって分離された、1つ又は2つ以上の巻き導電体層を含む。第1の巻線間絶縁体13が第1の低電圧巻線12の周りに設けられるが、これは、1つ又は2つ以上の上述した電気絶縁紙層から形成され得る。第1の高電圧巻線14は、絶縁層、例えば、1つ又は2つ以上の絶縁紙(例えば上述した電気絶縁紙)層によって分離された1つ又は2つ以上の巻き導電体層を含み、第1の巻線間絶縁体13を取り囲んでいる。第2の巻線間絶縁体15が第1の高電圧巻線14の周りに設けられるが、これは、1つ又は2つ以上の上述した電気絶縁紙層から形成され得る。第2の低電圧巻線16(上述したものと同様に構成される)が、第2の巻線間絶縁体15を取り囲み得る。当業者において理解されるように、スペーサ、チューブ、テープ、板、及びその他の従来の変圧器要素もまた、含まれ得る。これら追加的な変圧器要素の1つ又は2つ以上もまた、本明細書に記載される電気絶縁紙から形成され得る。組立品全体は、鉱物油、シリコーン油、天然若しくは合成エステル油などの油、又はその他の従来の変圧器流体中に浸漬され得る。
【0037】
本明細書に記載される電気絶縁紙を用いることにより、変圧器はより高い動作クラス用として承認され、例えばIEEE標準規格C57.154−2012に適合するように設計することが可能である。
【0038】
以下の実施例に示すように、セルロース及びセルロース系の変圧器要素を排除することにより、乾燥時間を大幅に短縮できるようになるとともに、変圧器動作温度を高めることが可能となる。
【実施例】
【0039】
以下の実施例及び比較例は、本発明の理解を助けるために提供されものであり、本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。特に断らない限り、すべての部及び百分率は重量基準である。以下の試験方法及び手順を、それに続く例示的実施例及び比較例の評価に用いた。
【0040】
試料の作製
以下のように、当該技術分野において既知の方法を用いて、例示的な電気絶縁不織紙を作製した。
6重量%のマイクロガラス(Lauscha Fiber InternationalからのB−04)、64重量%の層間剥離されたカオリン粘土(KaMin,LLC,USAからのHYDRAPRINT)、13%のポリ(ビニルアルコール)繊維(完全加水分解型、1.8デニール×6mm、繊維引張強さ13g/デニール、Minifibers Inc,USAから)、及び17重量%のアクリルラテックス(HYCAR 26362、Lubrizol Corp)の混合物を水中に分散させ、約2重量%の固形分を持つスラリーを形成した。この完成紙料をその後、円網抄紙機内に注入し、そこで水を排出してから製紙用湿式フェルト間で300lb/リニアインチ(54kg/cm)の圧力で加圧した。この紙をその後、製紙会社の乾燥工程へと送り、250°F(121℃)で蒸気加熱乾燥缶と接触させることによって、含水量が約2%未満となるまで更に乾燥させた。標準密度紙(実施例1)については、乾燥後、カレンダー仕上げは行わずに(not calendared)、約50lb/ft
3(800kg/m
3)の密度が得られた。高密度紙(実施例2)については、乾燥後、スチール製のカレンダー仕上げロール間で押圧し、約80lb/ft
3(1280kg/m
3)の密度が得られた。
【0041】
完成紙料を実験用ブレンダ−内で混合、製紙用スクリーン及びプレスを通して脱水、更に実験用手抄き紙乾燥機で乾燥させることにより、実験用手抄き紙試料を作製した。
【0042】
比較例CE1としては、市販の絶縁セルロース系クラフト紙をそのまま用いた。
【0043】
【表1】
【0044】
試料紙とともに経時処理した後の油の色を目視検査により決定した。各試料に1〜7の相対等級を割り当てた。等級1は淡色を示し、等級7は油の色が濃いことを示した。
【0045】
修正ASTM D5470−06熱流量計を用い、以下の手順で試料の熱伝導率を測定した。直径2インチ(5cm)、長さ約3インチ(7.6cm)の高温及び低温メーターバーに、均等間隔をおいた6つの熱電対を、第1のものがバー間の界面から5.0mm離れるようにして設けた。各バーは、130W/m−Kの基準熱伝導率を持つように、真鍮から構成される。メーターバーの接触面は約5マイクロメートル以内で平行であり、試験中の試料にかかる力は約120Nである。試料の厚さを、試験中に公称精度2マイクロメートルのデジタル変位変換器によって測定する。
【0046】
メーターバーが平衡状態に達したときに、デジタル変位変換器をゼロに設定する。絶縁紙試料をガラス瓶内の絶縁油中に浸漬した後、真空オーブン内、真空下で、室温にて脱気した。油で飽和させた絶縁紙試料を油から取り除き、底部のメーターバー上に配置した。油は、接触熱抵抗を排除するために界面流体として機能した。メーターバーを閉じて、通常の力を加えた。メーターバーを通る熱流及び試料の厚さの測定を、試験時間の全体、典型的には約30分間を通して、行った。約10分以内に概ね平衡状態に到達した。
【0047】
その後、試料の熱伝導率kを、試料の厚さ(L)、メーターバーの熱伝導率(k
m)、メーターバーにおける温度勾配(dT/dx)、及び試料全体にわたる外挿温度差(T
u−Tl)から計算した。
【0048】
【数1】
【0049】
結果
表1は、実施例1及び2の絶縁耐力が、鉱物油、天然エステル植物油(Cargill Inc.,USAからのENVIROTEMP FR3)、及び空気(油なし)において、CE1の絶縁耐力と同等であることを示している。
【0050】
【表2】
【0051】
絶縁紙はまた、絶縁油と適合性がなければならず、油の絶縁品質を実質的に低下させるものであってはならない。表2は、開発紙及び比較紙を用いて302°F(150℃)で経時処理後の誘電損失測定及び絶縁油の色の結果を示す。絶縁紙試料は、油中に配置する前に2つの方法により条件付け、すなわち、一方のセットは真空オーブン内で乾燥させ、他方のセットは23℃(23C)、50% RHに制御された環境中で24時間の条件付けを行った。その後、紙に油を浸み込ませるため、絶縁紙試料を含む油の瓶を真空槽中に配置し、高温で数時間保持した。結果は、開発紙の条件付け環境が、絶縁油の誘電損失にほとんど影響しないことを示している。しかしながら、本発明の絶縁紙とともに経時処理された絶縁油は、CE1とともに経時処理された絶縁油と比較して誘電損失がより低く、電気絶縁性能がより優れていることが示された。絶縁油の色は、絶縁油品質を見分けるもう1つの特徴である。クラフトセルロース紙(CE1)とともに経時処理した油は明らかに色が濃かったが、これは、紙からの分解生成物がより高レベルで油中に存在することを示している。
【0052】
【表3】
【0053】
表3及び4は、乾燥した条件下で経時処理した後、常温及び高温で測定した場合に、本発明の紙の誘電損失及び誘電定数がCE1と同等であることを示している。しかしながら、23℃及び相対湿度(RH)50%の条件で経時処理した後の試験結果によれば、実施例1及び2の誘電特性は、含水量に対する感受性が、CE1と比べてはるかに低いということが示されている。表5の結果からまた、実施例1及び2の吸水レベルがCE1と比較して実質的に低いことも明らかである。吸水レベルについて、標準密度紙(実施例1)と高密度紙(実施例2)との間に統計上有意な差はなく、いずれもCE1の吸水度よりも著しく低かった。
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
絶縁紙中に存在する水分が除去され得る速さを実証するために、厚さ約95ミル(2.4mm)の絶縁紙の積層体を、まず95%RHで20時間条件付けした後、115℃又は150℃のいずれかで乾燥させた。結果を表6に示すが、CE1と比較して本発明の実施例中の水分がより速やかに除去されることが実証されている。150℃における試験結果について、
図2にグラフでも示している。
【0058】
【表7】
【0059】
熱劣化寿命曲線試験の結果を表7に示す。実施例1では、鉱物油中において190℃で700時間の経時処理後でも、引張強度保持率(97%)が良好であることが分かる。これに対しCE1では、鉱物油中において180℃で500時間の経時処理後には既に引張強度保持率が0%に達しており、235時間の経時処理では50%の引張強度保持率である。(典型的には、引張強度保持率が50%に達した時点で寿命試験終了値とされることに留意されたい。)CE1と比較して例示的なセルロースを含まない電気絶縁紙の引張強度保持率がはるかに高いことは、本発明の絶縁紙がより高い変圧器動作温度で機能する可能性があることを示している。
【0060】
【表8】
【0061】
例示の実施例及び比較例の機械的特性を表8にまとめる。実施例1及び2の引裂強度は、機械方向(MD)及び横断方向(CD)のいずれにおいてもCE1に匹敵すると見られる。実施例1及び2の引張強度はCE1ほど高くはないが、変圧器製造業者によるコイル巻線試験では、本発明紙の引張強度が変圧器製造プロセスに耐えるに十分であることが示された。実施例1を用いて作製された変圧器ユニットは、標準品質管理試験の要件に合格した。加えて、実施例1を用いて作製した変圧器ユニットの乾燥前後に行った抵抗測定では、乾燥工程の省略も可能であることが示された。
【0062】
熱伝導率の結果(同様に表8に示す)によれば、実施例1及び2のいずれも、鉱物油で飽和させた場合にはCE1より高い熱伝導率を示している。
【0063】
【表9】
【0064】
独立の試験機関による試験において、実施例1及び2のいずれも、ASTM D3455−11「構成材料の石油系の電気絶縁油との適合性の標準試験方法」に詳述される適合性要求を満たすかそれを上回ることが証明されている。
【0065】
好ましい実施形態の説明の目的のために、特定の実施形態を本明細書において示し説明してきたが、種々多様な代替的及び/又は等価な実現形態によって、本発明の範囲を逸脱することなく、図示及び説明された特定の実施形態に置き換え得ることを、当業者は理解されよう。本出願は、本明細書で説明した好適な実施形態のあらゆる適応例又は変形例を網羅することを意図する。したがって、本発明が特許請求の範囲及びその等価物によってのみ限定されることが、明白に意図されている。