(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594336
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】耐火性鋳型基材とレゾールとを含む物体の層ごとの構築方法、及び該方法によって製造される鋳型又はコア
(51)【国際特許分類】
B22C 9/02 20060101AFI20191010BHJP
B22C 9/12 20060101ALI20191010BHJP
B22C 1/00 20060101ALI20191010BHJP
B22C 1/22 20060101ALI20191010BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20191010BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20191010BHJP
B29C 67/00 20170101ALI20191010BHJP
B33Y 70/00 20150101ALI20191010BHJP
【FI】
B22C9/02 101Z
B22C9/12 C
B22C9/12 J
B22C1/00 B
B22C1/00 G
B22C1/22 M
B33Y10/00
B33Y80/00
B29C67/00
B33Y70/00
【請求項の数】17
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-564634(P2016-564634)
(86)(22)【出願日】2015年4月30日
(65)【公表番号】特表2017-515682(P2017-515682A)
(43)【公表日】2017年6月15日
(86)【国際出願番号】DE2015000208
(87)【国際公開番号】WO2015165437
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2018年5月1日
(31)【優先権主張番号】102014106178.0
(32)【優先日】2014年5月2日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516319588
【氏名又は名称】アーエスカー ケミカルズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ASK CHEMICALS GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】特許業務法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】バルテルス,デニス
(72)【発明者】
【氏名】ギエニエック,アントニオ
【審査官】
池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−114490(JP,A)
【文献】
特開平07−275994(JP,A)
【文献】
特表平08−506054(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/171921(WO,A1)
【文献】
欧州特許第01638758(EP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 5/00−9/30
B29C 64/00−64/40
B33Y 10/00、70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)エステル含浸鋳型材料混合物を得るために、少なくとも1種の耐火性鋳型基材と少なくとも1種のエステルを混合するステップ、
b)前記エステル含浸鋳型材料混合物のグレイン1個から6個、グレイン1個から5個、またはグレイン1個から3個の層厚を有する薄層を延展するステップ、
c)前記薄層の選択領域に、前記領域を硬化させるためのレゾールを少なくとも含む結合剤を印刷するステップ、および
d)少なくとも部分的に硬化した3次元物体の製作のために前記ステップb)及びc)を複数回繰り返すステップ
を少なくとも含む、物体の層ごとの構築のための方法。
【請求項2】
e1)部分的に硬化した前記3次元物体を炉中でもしくはマイクロ波によって二次硬化させ、その後にのみ、非結合鋳型材料混合物を除去するステップ、又は
e2)前記非結合鋳型材料混合物を前記少なくとも部分的に硬化した鋳型から除去するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記耐火性鋳型基材が、石英、ジルコニウム又はクロム鉱砂、橄欖石、バーミキュライト、ボーキサイト、耐火粘土、ガラスビーズ、ガラス顆粒、ケイ酸アルミニウム中空ミクロスフェア、またはそれらの混合物を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記鋳型材料混合物は、80重量%を超える、または90重量%を超える、または95重量%を超える前記耐火性鋳型基材を含む、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記耐火性鋳型基材の平均粒径がDIN ISO3310に従う篩分析で測定して100μmから600μm、または120μmから550μmである、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
更なるアモルファス二酸化ケイ素を前記鋳型材料混合物に添加し、BET法によって測定される表面積が1から200m2/gの間、1m2/g以上30m2/g以下、または1m2/g以上15m2/g以下である、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アモルファス二酸化ケイ素が、沈殿シリカ、火炎加水分解によって又は電気アーク炉中で製造される熱分解法二酸化ケイ素、ZrSiO4の熱分解によって製造されるアモルファス二酸化ケイ素、酸素含有ガスによる金属ケイ素の酸化によって製造される二酸化ケイ素、結晶性石英から融解及び急速再冷却によって調製された、球状粒子を含む石英ガラス粉末、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アモルファス二酸化ケイ素が、各々前記耐火性鋳型基材に対して0.1から2重量%、または0.1から1.5重量%の量で使用される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記アモルファス二酸化ケイ素の含水量が5重量%未満、または1重量%未満である、請求項6〜8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記アモルファス二酸化ケイ素が、動的光散乱によって測定される平均一次粒径が0.05μmから10μm、0.1μmから5μm、または0.1μmから2μmである、粒状アモルファス二酸化ケイ素である、請求項6〜9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記レゾールが各々前記耐火性鋳型基材の重量に対して0.8から5重量%、または1から4重量%の量で添加される、請求項1〜10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記鋳型材料混合物が、1種/又はそれより多い塩基を含む、請求項1〜11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記物体が金属鋳造用鋳型又はコアである、請求項1〜12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記印刷が、複数のノズルを有する印刷ヘッドによって行われ、前記ノズルが個々に選択的に制御可能である、請求項1〜13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記印刷ヘッドを少なくとも1つの面においてコンピュータの制御によって移動させることができ、前記ノズルが液体結合剤を層ごとに塗布する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記印刷ヘッドが、インクジェット又はピエゾ技術によるドロップ・オン・デマンド印刷ヘッドである、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記耐火性鋳型基材が、50重量%を超えるケイ砂を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火性鋳型基材とレゾールとを含む物体の層ごとの構築方法、及び該方法によって製造される金属鋳造用鋳型又はコアの形の3次元物体に関する。
【背景技術】
【0002】
ラピッドプロトタイピングという用語の下で、層ごとの構築によって3次元物体を製造する様々な方法が知られている。この方法の利点は、アンダーカット及び空洞を有する、単一の小片からなる複雑な物体も製造できることである。従来法を用いると、これらの物体は、幾つかの個々に製作された部品から組み立てなければならない。もう一つの利点は、該方法が、成形用具(molding tool)なしでCADデータから直接に物体を製造できることである。
【0003】
欧州特許第0538244(B1)号には、いわゆる選択的レーザ焼結法(SLS法:selective laser sintering method)が記述されている。この特許によれば、例えば塊になっていない金属又はプラスチック粒子の形の粉体を、ドラムによって、物体の上に均一な層として塗布し、CADプログラムによってあらかじめ決められた部位において、旋回可能なレーザ光線によって選択的に部分的に溶融すると、それらは、そこで層内と下地層の両方に付着する。好ましくは、焼結が起こる。3次元物体の製作完了後、後者を非結合粒子から取り出し、更なる処理に供し、又はその最終用途に向けることができる。
【0004】
欧州特許第0711213(B1)号は、成形物体の層ごとの製造の追加の例を記述している。その中で、反応性結合剤で被覆された、適切な鋳型基材、例えば、ケイ砂の塊になっていないグレインは、例えば赤外レーザの形の、電磁放射によるエネルギー添加によって結合剤を硬化させることによって、選択的に層ごとに互いに結合する。適切な鋳型基材として、ケイ砂に加えて、ジルコニウム砂、オリビン砂、クロム鉄鉱砂、耐火粘土、コランダム又は炭素砂、及びそれらの混合物も挙げられる。
【0005】
適切な結合剤は、各々液体、固体、顆粒又は粉末の形の、フラン、尿素又はアミノ樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコール尿素ホルムアルデヒド樹脂、フェノール変性フラン樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、フルフリルアルコールフェノールホルムアルデヒド樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、アクリル樹脂又はポリアクリル樹脂の群からの加温又は加熱結合樹脂である。その十分な強度を得るためには、層の繰り返しの塗布及び固化によって製造された3次元物体を、場合によっては、例えば、非結合鋳型材料の除去後に、炉又はマイクロ波で加熱することによって、二次硬化させることができる。
【0006】
欧州特許第0882568(B1)号によれば、塊になっていない鋳型基材を、適切な結合剤、例えば、ノボラック又はレゾール樹脂などのフェノールホルムアルデヒド樹脂で被覆する。3次元物体の製造の場合、まず、印刷技術を利用して、いわゆる改質剤、例えば、アルコール又は酸を選択的に層ごとに塗布する。この目的は、第2のステップにおいて続く固化ステップ、すなわち熱硬化を阻害又は促進することである。2つの形態のうちどちらを実施するかは、選択する操作手順に応じて決まる。改質剤が反応阻害剤である場合には、鋳型基材/結合剤混合物は、所望の成形部品が加熱中に形成する間に、改質剤で処理されなかった部位で硬化する。一方、反応促進剤の場合には、結合剤と潜在性硬化剤は、改質剤を施した部位で互いに反応し、そこで完成品を形成するために、それまで塊になっていない粒子を結合させる。続いて、通常行われるように、塊になっていない未硬化鋳型材料/結合剤混合物を該完成品から取り除くことができる。
【0007】
欧州特許第1324842(B1)号は、3次元物体がそこから構築される塊になっていない鋳型基材に、選択的に層ごとに結合剤を施す方法を開示する。ここでの結合剤の塗布は、インクジェットプリンタの操作手順と同様に希薄ジェット(thin jet)又は希薄ジェットの束によって行われる。硬化は、3次元物体の製造に必要な層すべてが完成したときにのみ起こる。硬化反応は、例えば、成分全体に硬化剤、好ましくはガスを大量に送ることによって誘発される。
【0008】
国際公開第01/68336(A2)号においては、結合剤、例えば、フラン樹脂、フェノール樹脂又はレゾールエステルは、層ごとに非選択的に、ただし塊になっていない鋳型材料の加工面全体に噴霧され、続いて、有機酸などの硬化剤の選択的塗布によってやはり層ごとに硬化される。
【0009】
欧州特許第1268165(B1)号は、この方法とは異なり、液体結合剤は、塊になっていない鋳型材料の加工面全体には層ごとに噴霧されず、続いて硬化される鋳型材料の部分的領域にのみ選択的に噴霧される。硬化は、液体硬化剤の層ごとの選択的塗布によって起こる。
【0010】
この方法の開発は、欧州特許第1509382(B1)号に記載されており、その教示によれば、結合剤は、鋳型材料上に層ごとに選択的に印刷されないが、代わりに鋳型材料/結合剤混合物が生成され、それは次いでCADプログラムによってあらかじめ決められた部位に硬化剤を選択的に層ごとに塗布することによって硬化される。
【0011】
欧州特許第1638758(B1)号においては、添加の順序が逆である。まず、鋳型材料が活性化剤(硬化剤)と前もって混合され、次いで結合剤が選択的に層ごとに塗布される。記載されている硬化剤は、酸、例えば、p−トルエンスルホン酸水溶液を含み、結合剤として記載されているのは、フェノール樹脂、ポリイソシアナート、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フラン樹脂、ポリウレタンポリマー、フェノールポリウレタン、フェノールホルムアルデヒドフルフリルアルコール、尿素ホルムアルデヒドフルフリルアルコール、ホルムアルデヒドフルフリルアルコール、過酸化物、ポリフェノール樹脂、レゾールエステル、ケイ酸(例えば、ケイ酸ナトリウム)、塩、石膏、ベントナイト、水溶性ポリマー、有機酸、炭水化物、糖、糖アルコール又はタンパク質である。
【0012】
特に、実際には、欧州特許第1638758(B1)号に係る酸/フラン樹脂系が広範に使用され、新しい鋳造部品の開発、及び成形用具を用いた従来の製造が複雑すぎる又は高価すぎると考えられる個々の部品又は小さいシリーズの製造に使用される。
【0013】
例えば、鋳型の製造速度、高鋳型寸法安定性、良好な貯蔵安定性などのそれらの利点にもかかわらず、依然として改善が必要である。例えば、鋳造操作中、少なくとも鉄鋳造中、1つの欠点は、酸硬化フラン樹脂を用いて結合された鋳型が余りにも早く分解し、大きな鋳造エラーを招き得ることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、目的は、鋳造中により良好な熱安定性を有し、ガス発生の傾向がより少ない、ラピッドプロトタイピング法による鋳型の製造を可能にする鋳型材料/結合剤/硬化剤の組合せを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、請求項1に記載の特徴を有する鋳型によって達成される。有利な発展は、従属クレームの主題であり、又は後述される。
【0016】
本発明による鋳型は、少なくとも、
a)耐火性鋳型基材、
b)エステル(硬化剤)によって硬化されるアルカリ性レゾール樹脂(結合剤)、及び
c)場合によっては、無機添加剤、
好ましくは、
a)耐火性鋳型基材、
b)エステルによって硬化されるアルカリ性レゾール樹脂、及び
c)無機添加剤
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0017】
耐火性鋳型基材(以下、単に鋳型基材とも称する)として、従来の公知の材料は、鋳型の製造に使用することができる。適切なのは、例えば、石英、ジルコニウム又はクロム鉱砂、橄欖石、バーミキュライト、ボーキサイト、耐火粘土、及び合成鋳型基材、特に耐火性鋳型基材に対して50重量%を超えるケイ砂である。鋳型基材とは、高融点(融解温度)の物質を指すと理解される。好ましくは、耐火性鋳型基材の融点は、600℃より高い、好ましくは900℃より高い、特に好ましくは1200℃より高い、特に好ましくは1500℃より高い。耐火性鋳型基材は、注ぐことができる状態である。
【0018】
鋳型基材は、好ましくは、鋳型材料混合物の80重量%を超える、特に90重量%を超える、特に好ましくは95重量%を超える。
【0019】
耐火性鋳型基材の平均直径は、概して、100μmから600μm、好ましくは120μmから550μm、特に好ましくは150μmから500μmである。粒径は、例えば、DIN ISO3310に従う篩分けによって測定することができる。特に好ましいのは、(互いに直角で、かつ各々すべての空間方向に対して)最小長軸方向長さに対する最大長軸方向長さが1:1から1:5又は1:1から1:3である粒子形状、すなわち、例えば繊維の形でない粒子形状である。
【0020】
ここでは、Oregon Resources Corporation(ORC)によってSpherichrome(登録商標)の名称で市販されている特別なクロム鉄鉱砂を使用することが特に適切である。欧州では、Spherichrome(登録商標)はPossehl Erzkontor GmbH、リューベックによって市販されている。Spherichrome(登録商標)は、既知の南アフリカクロム鉱砂とはグレイン形状が異なる。後者とは対照的に、Spherichrome(登録商標)は、主に丸いグレインである。好ましい実施形態によれば、Spherichrome(登録商標)は、鋳型基材の100重量%である必要はなく、別の鋳型基材、とりわけケイ砂との混合物も可能である。ここでの混合比は、鋳型のそれぞれの要件に従って設定される。しかし、最も一般的には、ケイ砂を使用する場合、この混合比は、少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも40重量%、特に好ましくは少なくとも60重量%のSpherichrome(登録商標)を含むべきである。それとは無関係に、鋳型基材は、(互いに直角で、かつ各々すべての空間方向に対して)最大長軸方向長さと最小長軸方向長さの比(平均)が特に1:1から1:3、特に好ましくは1:1から1:3である粒子形状少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも40重量%、特に好ましくは少なくとも60重量%を含む。
【0021】
結合剤は、アルカリ性レゾール樹脂である。
レゾールは、アルカリ性触媒の存在下でヒドロキシ芳香族化合物とアルデヒドの縮合によって製造される。
【0022】
通常、レゾールは、各々鋳型基材に対して約0.8重量%から約5重量%、好ましくは約1重量%から約4重量%、特に好ましくは約1重量%から約3.5重量%の濃度で使用される。ここでは、鋳型内の結合剤の濃度を変えることができる。鋳型のより厚い部分領域においては、結合剤の割合は、上記よりも確実に低くてもよく、より薄くより複雑な部分においては、結合剤含有量は、上記限界値を超えてもよい。
【0023】
本発明ではレゾールは、メチレン基(−CH
2−)及び/又はエーテル架橋(特に−CH
2−O−CH
2−)を介して互いに結合した芳香族化合物であり、各々が少なくとも1個の−OH基を有する(ヒドロキシ芳香族化合物)。
【0024】
適切なヒドロキシ芳香族化合物は、例えば、フェノール、置換フェノール、例えば、クレゾール若しくはノニルフェノール、1,2−ジヒドロキシベンゼン(ピロカテコール)、1,2−ジヒドロキシベンゼン(レソルシノール)、カシューナッツシェル油、すなわちカルダノールとカルドールの混合物、若しくは1,4−ジヒドロキシベンゼン(ヒドロキノン)、又はビスフェノールAなどのフェノール化合物である。レゾールは、例えば、特に水酸化アンモニウムなどのアルカリ性触媒又はアルカリ金属水酸化物の存在下で、1種以上のヒドロキシ芳香族化合物と1種以上のアルデヒドの縮合によって調製される。アルカリ金属水酸化物触媒を使用することが好ましい。
【0025】
適切なアルデヒドは、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ブチルアルデヒド、グリオキサール及びそれらの混合物である。ホルムアルデヒド、又は(アルデヒドのモル量に対して)ホルムアルデヒドを主に含む混合物が特に好ましい。
【0026】
フェノールとアルデヒドのモル比は、1:1から1:3の範囲とすることができるが、好ましくは1:1.2から1:2.6、特に好ましくは1:1.3から1:2.5である。
【0027】
隣接するヒドロキシ芳香族化合物が各々(内部のフェノール/芳香族化合物のヒドロキシ基に対して)オルト及び/又はパラ位でメチレン架橋及び/又はエーテル架橋を介して結合したレゾールを使用することが好ましい。すなわち、結合の大部分は「パラ」及び/又はオルトである。
【0028】
アルカリ性触媒としては、有機塩基、例えば、アミン若しくはアンモニウム化合物、又は無機塩基、例えば、アルカリ金属水酸化物を使用することができる。アルカリ金属水酸化物、特に好ましくは水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムを水溶液の形で使用することが好ましい。アルカリ性触媒の混合物を使用することもできる。
【0029】
結合剤系のヒドロキシ芳香族基(フェノールなど)と水酸化イオンのモル比は、好ましくは、1:0.4から1:1.2、好ましくは1:0.5から1:1.0である。
【0030】
縮合の最初から塩基の全量を添加する必要はなく、通常、添加は2つ以上のサブステップで行われ、一部を製造プロセスの最後にのみ添加することもできる。
【0031】
レゾールの製造は、例えば、欧州特許第0323096(B2)号及び欧州特許第1228128(B1)号に開示されている。更に別のレゾール系結合剤は、例えば、米国特許第4426467号、米国特許第4474904号に記述されている。3つの特許においては、レゾールは、エステルによって硬化され、硬化は、液体硬化剤、例えば、ラクトン(米国特許第4426467号)又はトリアセチン(米国特許第4474904号)の添加によって行われる。
【0032】
既述の成分に加えて、レゾールは、好ましくは組成物の重量に対して25重量%から50重量%の量の、水を含む。ここでは、水は、一方では、結合剤製造に使用される水溶液から生じ、他方では、結合剤に別個に添加することもできる。溶媒としてのその機能に加えて、水は、例えば、約15mPa.sから約300mPa.s、好ましくは約15mPa.sから約200mPa.s、特に好ましくは約15mPa.sから約100mPa.sの塗布に適切な粘度を結合剤に付与するためにも使用される。粘度は、ブルックフィールド回転粘度計、少量の試料、スピンドルNo.21を用いて100rpm及び25℃で測定される。
【0033】
さらに、結合剤は、例えば、アルコール、グリコール、界面活性剤、シランなどの添加剤を約50重量%まで含むことができる。これらの添加剤を使用すると、例えば、結合剤による鋳型材料のぬれ性、及び鋳型材料に対するその接着を高めることができ、それによって強度を改善し、耐湿性を高めることができる。
【0034】
この点で、各々組成物の重量に対して約0.1重量%から約1.5重量%、好ましくは約0.2重量%から約1.3重量%、特に好ましくは約0.3重量%から約1.0重量%の濃度でシラン、例えば、ガンマアミノプロピルトリエトキシシラン又はガンマグリシドキシプロピルトリメトキシシランを添加すると、特に好ましい効果が得られる。
【0035】
レゾールの
硬化に適切なエステル(硬化剤)は、例えば、米国特許第4426467号、米国特許第4474904号及び米国特許第5405881号から当業者に公知である。それらは、ラクトン、有機炭酸エステル、並びにC1からC10モノ及びポリカルボン酸とC1からC10モノ及び多価アルコールのエステルを含む。これらの化合物の好ましい非限定的例は、ガンマブチロラクトン、炭酸プロピレン、エチレングリコール二酢酸エステル、モノ、ジ及びトリアセチン、並びにDBEの名称で知られるそれらの混合物を含めて、コハク酸、グルタル酸及びアジピン酸のジメチルエステルである。個々のエステルの鹸化速度が違うため、レゾールの硬化速度は、使用するエステルに応じて急速に進行し、これは強度にも影響し得る。1種以上のエステルを混合することによって、所望の硬化時間を広範に変えることができる。
【0036】
エステル成分を改変する1つの可能性は、米国特許第4988745号に記載のベンジルエステル樹脂、米国特許第5405881号に記載のエポキシ化合物、及び/又は米国特許第5424376号に記載のポリフェノール樹脂を各々エステル成分に対して約40重量%までの量で添加することである。さらに、エステル成分は、例えば、結合剤の場合に既述したアルコール、グリコール、界面活性剤、シランなどの追加の成分を50重量%まで含むことができる。
【0037】
本発明では、硬化剤の添加量は、通常、各々結合剤の量に対して10重量%から50重量%、好ましくは10重量%から40重量%、特に好ましくは10重量%から30重量%である。
【0038】
さらに、本発明による鋳型材料混合物は、ある割合の
アモルファスSiO2を含むことができる。これは、特に、粒状アモルファスSiO
2である。合成製造される粒状アモルファス二酸化ケイ素が特に好ましい。
【0039】
アモルファスSiO
2は、特に、以下のタイプとすることができる。
a)アルカリケイ酸溶液からの沈殿によって得られるアモルファスSiO
2、
b)SiCl
4の火炎加水分解によって得られるアモルファスSiO
2、
c)コークス又は無煙炭を用いてケイ砂を還元して一酸化ケイ素を形成し、続いてSiO
2に酸化することによって得られるアモルファスSiO
2、
d)ZrO
2及びSiO
2へのZrSiO
4の熱分解プロセスから得られるアモルファスSiO
2、
e)酸素含有ガスによる金属Siの酸化によって得られるアモルファスSiO
2、及び/又は
f)結晶性石英の融解とそれに続く急速冷却によって得られるアモルファスSiO
2。
【0040】
c)は、アモルファスSiO
2が主生成物として標的にされて製造されるプロセスと、例えばケイ素又はフェロシリコンの製造などにおいて、副生物として製造されるプロセスの両方を含む。
【0041】
アモルファスSiO
2として、合成製造シリカと天然シリカの両方を使用することができる。後者は、例えば独国特許第102007045649号から公知であるが、概して、かなりの結晶含有量を有し、したがって発癌性として分類されるので、好ましくない。合成物は、天然に存在しないアモルファスSiO
2を意味すると理解される。すなわち、その製造は、例えば、人間によって誘発される意図的に実施される化学反応、例えば、アルカリケイ酸溶液からのイオン交換プロセスによるシリカゾルの調製、アルカリケイ酸溶液からの沈殿、四塩化ケイ素の火炎加水分解、フェロシリコン及びケイ素の製造における電気アーク炉中のコークスを用いたケイ砂の還元を含む。上記最後の2つの方法によって製造されるアモルファスSiO
2は、熱分解法SiO
2とも称される。
【0042】
時折、合成アモルファス二酸化ケイ素は、沈殿シリカ(CAS No.112926−00−8)、及び火炎加水分解によって製造されるSiO
2(熱分解法シリカ、フュームドシリカ、CAS No.112945−52−5)のみを指し、フェロシリコン及びケイ素の製造において生成する生成物は、単にアモルファス二酸化ケイ素(シリカフューム、マイクロシリカ、CAS No.69012−64−12)と呼ばれる。本発明では、フェロシリコン又はシリコンの製造において生成する生成物もアモルファスSiO
2を指すと理解される。
【0043】
沈殿シリカ及び熱分解法二酸化ケイ素、すなわち、火炎加水分解によって、又は電気アーク炉中で製造される二酸化ケイ素を使用することが好ましい。(独国特許出願公開第102012020509号に記載の)ZrSiO
4の熱分解によって製造されるアモルファス二酸化ケイ素、及び(独国特許出願公開第102012020510号に記載の)酸素含有ガスによる金属Siの酸化によって製造されるSiO
2を使用することが特に好ましい。
【0044】
結晶性石英から融解及び急速な新たな再冷却(rapid renewed re−cooling)によって製造され、したがって粒子が球状であり、破片の形でない(独国特許出願公開第102012020511号に記載)、石英ガラス粉末(主にアモルファス二酸化ケイ素)も好ましい。粒状アモルファス二酸化ケイ素の平均一次粒径は、0.05μmから10μm、特に0.1μmから5μm、特に好ましくは0.1μmから2μmとすることができる。一次粒径は、例えば、動的光散乱(例えば、堀場(Horiba)LA950)によって測定することができ、走査型電子顕微鏡観察(例えばFEI社製Nova NanoSEM230を用いた、SEM)によって確認することができる。さらに、SEM観察によって、0.01μmの桁までの一次粒子形状の詳細を見ることができる。二酸化ケイ素試料をSEM測定のために蒸留水に分散させ、続いて水が蒸発する前に、銅片が積層されたアルミニウムホルダ上に塗布した。
【0045】
さらに、粒状アモルファス二酸化ケイ素の比表面積をDIN66131に従うガス吸着測定(BET法)によって測定した。粒状アモルファスSiO
2の比表面積は、1から200m
2/g、特に1から50m
2/g、特に好ましくは17m
2/g未満、更には15m
2/g未満である。場合によっては、例えば、ある粒径分布を有する混合物を得るために、生成物を制御された様式で混合することもできる。
【0046】
粒状アモルファスSiO
2は、異なる量の副生物を含むことができる。以下がここでの例として挙げられる。
−コークス又は無煙炭を用いたケイ砂の還元の場合には炭素
−ケイ素又はフェロシリコンの場合には酸化鉄及び/又はSi
−ZrO
2及びSiO
2を形成するZrSiO
4の熱組成物の場合にはZrO
2。
【0047】
更に別の副生物は、例えば、Al
2O
3、P
2O
5、HfO
2、TiO
2、CaO、Na
2O及びK
2Oであり得る。
【0048】
本発明による鋳型材料混合物に添加されるアモルファスSiO
2の量は、通常、各々鋳型基材に対して0.05重量%から3重量%、好ましくは0.1重量%から2.5重量%、特に好ましくは0.1重量%から2重量%である。
【0049】
鋳型基材へのアモルファスSiO
2の添加は、水中スラリーとして水性ペーストの形で、又は乾燥粉末として行うことができる。後者がここでは好ましい。粒状アモルファスSiO
2は、好ましくは、(塵を含めて)粉体として使用される。本発明による優先的に使用される粒状アモルファス二酸化ケイ素は、含水量が15重量%未満、特に5重量%未満、特に好ましくは1重量%未満である。
【0050】
アモルファスSiO
2は、通常、粒子の形である。粒状アモルファス二酸化ケイ素の粒径は、好ましくは、300μm未満、好ましくは200μm未満、特に好ましくは100μm未満であり、例えば、平均一次粒径が0.05μmから10μmである。125μmメッシュ幅(120メッシュ)の篩の通過における粒状アモルファスSiO
2の篩分残留物は、好ましくは、10重量%以下、特に好ましくは5重量%以下、最も特に好ましくは2重量%以下である。それとは無関係に、メッシュ幅63μmの篩上の篩分残留物は10重量%未満、好ましくは8重量%未満である。ここでは、篩分残留物の測定は、DIN66165(パート2)に記載の機械篩分法に従って行われ、さらに、チェーンリングが篩分補助として使用される。
【0051】
結合剤及び/又は鋳型基材へのアモルファスSiO
2の添加の順序は重要ではない。それは、結合剤の前に若しくは後に、又は一緒に行うことができる。しかし、好ましくは、アモルファスSiO
2の添加が最初に行われ、結合剤の添加がその後に行われる。
【0052】
さらに、場合によっては、鋳造業において従来使用されている他の添加剤、例えば、砕木繊維、又は酸化鉄などの無機質添加剤を、鋳型基材に混合することができ、その割合は、通常、鋳型基材に対して0重量%から6重量%、好ましくは0重量%から5重量%、特に好ましくは0重量%から4重量%である。
【0053】
さらに、本発明は、
a)鋳型材料混合物を得るために、耐火性鋳型基材をエステル成分、場合によっては無機添加剤、及び場合によっては追加の添加剤と混合するステップ、
b)a)で製造された鋳型材料混合物の1から約6、好ましくは1から約5、特に好ましくは1から3個のグレインの層厚を有する薄層を規定加工面上で延展するステップ、
c)CADデータによってあらかじめ決められた部位において、鋳型材料混合物の薄層を結合剤と一緒に選択的に印刷するステップ、ここで結合剤は、エステルとの接触の結果として少なくとも部分的に硬化する、
d)鋳型の製作が完了するまでステップb)及びc)を複数回繰り返すステップ、
e1)非結合鋳型材料混合物の事前除去なしに、部分硬化鋳型を炉中で又はマイクロ波によって二次硬化させるステップ、
又はe1)の代替として
e2)非結合鋳型材料混合物を少なくとも部分的に硬化した鋳型から除去するステップ
を含む、鋳型(又は一般に物体)を製造する方法に関する。
【0054】
強度が許す時点で、ステップe1)後に、非結合鋳型材料混合物を鋳型から除去することができ、該鋳型を更なる処理、例えば、金属鋳造物の調製に導くことができる。
【0055】
ステップe2)後、鋳型を、必要に応じて、高温貯蔵、マイクロ波などの従来の手段によって二次硬化させることができる。強度が許す時点で、鋳型を更なる処理、例えば、金属鋳造物の調製に導くことができる。
【0056】
2つの代替においては、少なくとも部分的に硬化した鋳型を除去した後に、非結合鋳型材料混合物を別の鋳型の製造に導くことができる。
【0057】
印刷は、例えば、複数のノズルを有する印刷ヘッドによって行われ、ノズルは、好ましくは、個々に選択的に制御可能である。更に別の設計によれば、印刷ヘッドを少なくとも1つの面においてコンピュータによって制御様式で移動させ、ノズルは液体結合剤を層ごとに塗布する。印刷ヘッドは、例えば、インクジェット又はピエゾ技術によるドロップ・オン・デマンド印刷ヘッドとすることができる。
【0058】
以下の実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は該実施例に限定されない。
【実施例】
【0059】
まず、強度に対する鋳型基材及びマイクロシリカの影響を、従来の試験試料、いわゆるゲオルク−フィッシャー(Georg−Fischer)試験バーを用いて試験した。
【0060】
後で実施される3D印刷技術による鋳型の製造によって、プロセスにおいて得られた知見を確認した。
【0061】
1.試料の製造
1.1.SiO
2の添加なし
鋳型材料をHobart社製混合機(モデルHSM10)のボウルに入れた。続いて、撹拌下、最初に硬化剤、次いで結合剤を添加し、各々1分間強力に鋳型基材と混合した。鋳型基材、硬化剤及び結合剤のタイプ、並びにそれぞれの添加量を表1に示す。
【0062】
【表1】
(a)PossehlマイクロシリカPOS B−W90LD(Possehl Erzkontor GmbH;製造プロセス:ZrSiO4からのZrO
2及びSiO
2の製造
(b)触媒5090(ASK Chemicals GmbH)トリアセチン
(c)NOVASET700RPT
(d)ケイ砂ホルダー(MK032)Quarzwerk
(e)クロム鉄鉱砂(Oregon Resources Corporation−欧州−Possehl Erzkontor GmbH社)
(f)クロム鉱砂0.1〜0.4MM
(g)ボーキサイト砂H27
(h)ジルコニウム砂(East)
(i)セラビーズ650
【0063】
1.2.SiO
2の添加あり
用いた手順は1.1.と同様であったが、硬化剤添加後、合成アモルファスSiO
2も添加し、1分間混合した。鋳型基材、硬化剤及び結合剤のタイプ、並びにそれぞれの添加量を表1に示す。
【0064】
2.試験バーの製造
試料の試験のために、寸法220mm×22.36mm×22.36mmの矩形ブロック試験バーを作製した(いわゆるゲオルク−フィッシャーバー)。
【0065】
1.によって調製した混合物の一部を、8個の彫り込み(engraving)を有する成形用具に導入し、押板(hand plate)で圧縮して固め、除去時間の経過後に成形用具から取り出した。
【0066】
加工時間(PT:processing time)、すなわち、混合物を問題なく固めることができる時間を、目視で決定した。加工時間が過ぎたことは、混合物がもはや自由に流れず、平板状に離れる(roll off)かどうかで見ることができる。個々の混合物の加工時間を表2に示す。
【0067】
除去時間(ST:stripping time)、すなわち、混合物が十分に固化し、成形用具から取り出すことができる時間を決定するために、それぞれの混合物の第2の部分を高さ100mm及び直径100mmの丸い鋳型に手で導入し、やはり押板で固める。
【0068】
続いて、固めた混合物の表面硬度をある時間間隔でゲオルク−フィッシャー表面硬度テスターによって試験した。混合物が十分に固く、試験ボールがもはやコア表面に貫入しない時点で、除去時間に到達する。個々の混合物の除去時間を表2に示す。
【0069】
3.曲げ強さ試験
曲げ強さの測定では、試験バーを3点曲げ装置を備えたゲオルク−フィッシャー強度試験装置に挿入し、試験バーを破断させる力を測定した。曲げ強さを以下のスキームに従って測定した。
−成形後4時間
−成形後24時間
−成形後24時間+120℃で30分間の後焼戻し(post tempering)
【0070】
結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
(a)加工時間
(b)除去時間
(c)24時間古いコア/120℃で30分間焼戻し/冷却後測定した強度
【0072】
表2から、以下のことが分かる。
−Spherichrome(登録商標)は、鋳造業において現在まで使用されている南アフリカクロム鉱砂よりもすべての強度で優れる。
−二次焼戻しの場合、Spherichrome(登録商標)は、試験した他の鋳型基材を大きく超える強度増加を示す。
−マイクロシリカの添加は、すべての鋳型基材の強度を改善する。
【0073】
4.鋳造試験
鉄を用いた1400℃における非被覆鋳造(uncoated casting)の場合、エステル硬化フェノールレゾールを用いて3D印刷技術によって製造された鋳型は、酸硬化フラン樹脂を用いて3D印刷技術によって製造された鋳型よりも鋳造表面が平滑であり、ガスの含有が少なかった。