特許第6594390号(P6594390)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594390
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 3/04 20060101AFI20191010BHJP
   H01Q 1/32 20060101ALI20191010BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   H01Q3/04
   H01Q1/32 Z
   B60R11/02 A
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-192372(P2017-192372)
(22)【出願日】2017年10月2日
(65)【公開番号】特開2019-68280(P2019-68280A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2018年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椎名 岳人
(72)【発明者】
【氏名】手塚 俊介
【審査官】 佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5237617(JP,B2)
【文献】 特開2004−227412(JP,A)
【文献】 特開平11−198731(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0373384(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 11/02
G08G 1/16
H01Q 1/00− 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーフレールを備える車両に設けられ、電波を送受信するアンテナエレメントと、
前記アンテナエレメントを介した通信が途絶した場合、前記アンテナエレメントによって送受信される電波の特性を、通信が回復するまで変化させる電波特性切り替え制御部と、
を有するアンテナ装置。
【請求項2】
前記アンテナエレメントを前記車両のルーフに平行な面に沿って移動させる移動部を有し、
前記電波特性切り替え制御部は、前記アンテナエレメントを介した通信が途絶した場合、前記移動部を駆動させて、前記アンテナエレメントを通信が回復する位置まで移動させる請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記電波特性切り替え制御部は、周辺車両の将来の移動軌跡と自車両の将来の移動軌跡とから衝突予測時間を算出し、前記衝突予測時間が最も短い周辺車両をターゲット車両に決定し、前記ターゲット車両との通信が途絶した場合、前記移動部を駆動させて、前記アンテナエレメントを通信が回復する位置まで移動させる請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記アンテナエレメントを収容する本体部と、
前記本体部を前記車両のルーフに平行な面に沿って移動させる移動部と、を有し、
前記電波特性切り替え制御部は、前記アンテナエレメントを介した通信が途絶した場合、前記移動部を駆動させて、前記本体部を通信が回復する位置まで移動させる請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記電波特性切り替え制御部は、周辺車両の将来の移動軌跡と自車両の将来の移動軌跡とから衝突予測時間を算出し、前記衝突予測時間が最も短い周辺車両をターゲット車両に決定し、前記ターゲット車両との通信が途絶した場合、前記移動部を駆動させて、前記本体部を通信が回復する位置まで移動させる請求項4に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記アンテナエレメントは、前記車両のルーフに平行な面に沿って複数設けられており、
前記電波特性切り替え制御部は、前記アンテナエレメントを介した通信が途絶した場合、通信が回復するまで、通信を行う前記アンテナエレメントを複数の前記アンテナエレメントの中の他の前記アンテナエレメントに切り替える請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記電波特性切り替え制御部は、周辺車両の将来の移動軌跡と自車両の将来の移動軌跡とから衝突予測時間を算出し、前記衝突予測時間が最も短い周辺車両をターゲット車両に決定し、前記ターゲット車両との通信が途絶した場合、通信が回復するまで、通信を行う前記アンテナエレメントを複数の前記アンテナエレメントの中の他の前記アンテナエレメントに切り替える請求項6に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置、特に、ルーフレールを備えた車両に搭載されるアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両のルーフに取り付けられるアンテナ装置が開示されている。特許文献1のアンテナ装置は、車両から突出している高さが低く(例えば、約70mm以下)、先端に行くほど低くなるとともに側面も内側に絞った流線形のアンテナケースにアンテナ部が収容されている。これにより、このアンテナ装置は、車庫入れ時や洗車時にアンテナ部が破損することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5237617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ルーフレールを備えた車両のルーフに特許文献1のアンテナ装置を取り付けた場合、アンテナ装置から送受信される電波がルーフレールによって干渉し、アンテナ装置による車両の全方位通信が阻害されるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、ルーフレールによる電波の干渉を抑制し、全方位通信が可能なアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のアンテナ装置は、ルーフレールを備える車両に設けられ、電波を送受信するアンテナエレメントと、アンテナエレメントを介した通信が途絶した場合、アンテナエレメントによって送受信される電波の特性を、通信が回復するまで変化させる電波特性切り替え制御部と、を有する。
【0007】
アンテナエレメントを車両のルーフに平行な面に沿って移動させる移動部を有し、電波特性切り替え制御部は、アンテナエレメントを介した通信が途絶した場合、移動部を駆動させて、アンテナエレメントを通信が回復する位置まで移動させてもよい。
【0008】
電波特性切り替え制御部は、周辺車両の将来の移動軌跡と自車両の将来の移動軌跡とから衝突予測時間を算出し、衝突予測時間が最も短い周辺車両をターゲット車両に決定し、ターゲット車両との通信が途絶した場合、移動部を駆動させて、アンテナエレメントを通信が回復する位置まで移動させてもよい。
【0009】
アンテナエレメントを収容する本体部と、本体部を車両のルーフに平行な面に沿って移動させる移動部と、を有し、電波特性切り替え制御部は、アンテナエレメントを介した通信が途絶した場合、移動部を駆動させて、本体部を通信が回復する位置まで移動させてもよい。
【0010】
電波特性切り替え制御部は、周辺車両の将来の移動軌跡と自車両の将来の移動軌跡とから衝突予測時間を算出し、衝突予測時間が最も短い周辺車両をターゲット車両に決定し、ターゲット車両との通信が途絶した場合、移動部を駆動させて、本体部を通信が回復する位置まで移動させてもよい。
【0011】
アンテナエレメントは、車両のルーフに平行な面に沿って複数設けられており、電波特性切り替え制御部は、アンテナエレメントを介した通信が途絶した場合、通信が回復するまで、通信を行うアンテナエレメントを複数のアンテナエレメントの中の他のアンテナエレメントに切り替えてもよい。
【0012】
電波特性切り替え制御部は、周辺車両の将来の移動軌跡と自車両の将来の移動軌跡とから衝突予測時間を算出し、衝突予測時間が最も短い周辺車両をターゲット車両に決定し、ターゲット車両との通信が途絶した場合、通信が回復するまで、通信を行うアンテナエレメントを複数のアンテナエレメントの中の他のアンテナエレメントに切り替えてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ルーフレールによる電波の干渉を抑制し、全方位通信が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態によるアンテナ装置が設けられた車両の構成を示す平面概略図である。
図2】アンテナ装置の構成を示す概略図である。
図3】移動部の構成の一例を示す斜視図である。
図4】アンテナエレメントから放射される電波の利得の一例を示す図である。
図5】アンテナエレメントから放射される電波の利得の別の一例を示す図である。
図6】制御部が行う処理を示すフローチャートである。
図7】自車両に対するターゲット車両の相対距離、ターゲット車両との通信状態およびアンテナエレメントを移動させる移動信号の関係を説明する説明図である。
図8】第2実施形態によるアンテナ装置の構成を示す概略図である。
図9】第3実施形態によるアンテナ装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態によるアンテナ装置1が設けられた車両2の構成を示す平面概略図である。図1では、信号の流れを破線の矢印で示している。以下、車両2を基準として、進行方向を前方向とし、後進方向を後方向とし、進行方向に対して左の方向を左方向とし、進行方向に対して右の方向を右方向とする。
【0017】
車両2のルーフ3には、2本のルーフレール10L、10Rが設けられている。ルーフレール10L、10Rは、車幅方向に離隔して車両2の前後方向に延在している。ルーフレール10Lは、ルーフ3上において、左側端付近に配置されており、ルーフレール10Rは、ルーフ3上において、右側端付近に配置されている。ルーフレール10L、10Rを区別しないときは、ルーフレール10と表記する。
【0018】
アンテナ装置1は、本体部20、通信部30および制御部40を含んで構成される。本体部20は、ルーフ3上において、ルーフレール10Lとルーフレール10Rとの間であり、車両2の後方中央付近に配置されている。通信部30および制御部40は、例えば、車両2に搭載される車車間通信ユニット50を構成する。
【0019】
車両2には、速度センサ4、操舵角センサ5、GNSS受信機6が設けられている。速度センサ4は、車両2の車速を検出する。車速を示す速度情報は、制御部40に送信される。操舵角センサ5は、ハンドルの操舵角を検出する。操舵角を示す操舵角情報は、制御部40に送信される。GNSS受信機6は、複数の衛星から送信される電波を受信する。GNSS受信機6は、受信した電波に基づいて、車両2の位置(緯度および経度)を示す位置情報を取得する。車両2の位置情報は、制御部40に送信される。
【0020】
図2は、アンテナ装置1の構成を示す概略図である。本体部20は、内部に空間が形成されたケースである。本体部20は、前後方向の長さに対して幅が短くなっており、上方の先端および前方の先端に行くほど幅が漸減している。本体部20は、高さ寸法がルーフレール10の高さ寸法よりも小さくなっており、前方の先端に行くほど高さ寸法が漸減している。すなわち、本体部20は、流線形のシャークフィンのような形状となっている。
【0021】
本体部20内には、アンテナエレメント21および移動部22が収容されている。アンテナエレメント21は、移動部22に連結されている。アンテナエレメント21は、移動部22上で起立している。アンテナエレメント21は、移動部22を介して、通信部30および制御部40に電気的に接続されている。アンテナエレメント21は、電波の送受信を行う。
【0022】
通信部30は、アンテナエレメント21が受信した電波による信号を受け取るとともに、信号をアンテナエレメント21に出力して電波を送信させる。このようにして、通信部30は、周囲の車両(例えば、先行車両など)と通信を行う。
【0023】
移動部22は、アンテナエレメント21をルーフ3に平行な面に沿って移動させる。具体的には、移動部22は、アンテナエレメント21を車両2の前後方向に移動させる。
【0024】
図3は、移動部22の構成の一例を示す斜視図である。移動部22は、筐体23、ベルト24およびモータ25を含んで構成される。筐体23は、内部に空間が設けられた直方体状に形成されている。筐体23は、本体部20内の底面に固定される。筐体23は、長手方向が車両2の前後方向に重なるように配置される。筐体23の上面には、長手方向に延びるスリット26が設けられている。筐体23の内部には、ベルト24およびモータ25が収容されている。ベルト24は、帯状部材の両端が接合されたループ状に形成されており、スリット26に沿って配置される。モータ25は、制御部40からの信号に応じて作動し、ベルト24を回転させる。
【0025】
アンテナエレメント21は、底部の少なくとも一部がスリット26に挿入され、ベルト24に固定される。このため、アンテナエレメント21は、ベルトの回転に応じて、スリット26に沿って移動可能となっている。図3では、前方寄りに配置された場合のアンテナエレメント21を実線で示し、後方寄りに配置された場合のアンテナエレメント21を破線で示している。
【0026】
制御部40は、移動部22および通信部30に電気的に接続される。制御部40は、CPU、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路で構成される。
【0027】
制御部40は、移動部22を駆動させて、アンテナエレメント21を移動させる。具体的には、制御部40は、移動部22のモータ25を駆動させて、ベルト24を回転させる。ベルト24が回転すると、アンテナエレメント21が車両2の前後方向に移動することとなる。
【0028】
ここで、アンテナエレメント21から放射された電波の一部は、ルーフレール10に当たる。ルーフレール10に当たった電波は、ルーフレール10によって屈折および反射される。屈折および反射された電波は、アンテナエレメント21から直進する電波と干渉する。屈折および反射された電波の位相が直進する電波の位相から約半波長ずれると、屈折および反射された電波と直進する電波とが互いに打ち消し合うように作用する。これにより、車両2の水平方向のうちの電波が打ち消し合うように作用した方向において、電波の電界強度および利得が低下する。その結果、電波の電界強度および利得が低下する方位の車両に電波が届かないおそれがある。電波が届かなくなると、その車両との通信が途絶することとなる。
【0029】
図4は、アンテナエレメント21から放射される電波の利得の一例を示す図である。図5は、アンテナエレメント21から放射される電波の利得の別の一例を示す図である。図4は、アンテナエレメント21が前方寄りに配置される場合を示す。図5は、アンテナエレメント21が後方寄りに配置される場合を示す。図4および図5では、電波の利得が、車両2を中心とした水平方向の全方位について示されている。図4および図5において、0°は、前方向を示し、90°は右方向を示し、180°は後方向を示し、270°は左方向を示す。利得は電界強度を測定して得られるため、図4および図5は、電界強度分布を示すものでもある。
【0030】
図4の例では、破線で囲まれたエリアA1で示すように、約120°の方向において利得が大幅に低下している。また、図4の例では、破線で囲まれたエリアA2で示すように、約260°の方向において利得が大幅に低下している。前方寄りの位置にアンテナエレメント21が配置されているときは、これら約120°の方向および約260°の方向において、通信が途絶する可能性が高い。
【0031】
これに対し、図5の例では、破線で囲まれたエリアA3で示すように、約75°の方向において利得が大幅に低下している。また、図5の例では、破線で囲まれたエリアA4で示すように、約285°の方向において利得が大幅に低下している。後方寄りの位置にアンテナエレメント21が配置されているときは、これら約75°の方向および約285°の方向において、通信が途絶する可能性が高い。
【0032】
図4および図5を比較すれば明らかなように、前方寄りに配置されたアンテナエレメント21における利得が低下する方向(図4参照)と、後方寄りに配置されたアンテナエレメント21における利得が低下する方向(図5参照)とが異なる。すなわち、前方寄りに配置されたアンテナエレメント21を介した通信が途絶する方向と、後方寄りに配置されたアンテナエレメント21を介した通信が途絶する方向とが異なる。このように、利得が低下する方位(通信が途絶する可能性の高い方位)は、アンテナエレメント21の位置が移動することで変わる。
【0033】
例えば、120°の方向にいる車両と通信をする場合、アンテナエレメント21が前方寄りに移動すると、通信が途絶する可能性が高い。しかし、その後、アンテナエレメント21が後方寄りに移動すれば、120°の方向の利得の低下が解消される。これにより、120°の方向にいる車両との通信が回復可能となる。
【0034】
制御部40は、アンテナエレメント21を介した通信が途絶した場合、移動部22を駆動させて、アンテナエレメント21を通信が回復する位置まで移動させる。
【0035】
図6は、制御部40が行う処理を示すフローチャートである。まず、制御部40は、自車両の周りの周辺車両との衝突軌跡を算出する(S100)。
【0036】
具体的には、制御部40は、速度センサ4、操舵角センサ5およびGNSS受信機6から、車両2(以下、自車両という)の速度情報、操舵角情報および位置情報を取得する。制御部40は、操舵角情報から自車両の進行方向を算出する。制御部40は、速度情報が示す自車両の速度の時間変化から加速度を算出する。制御部40は、速度情報、位置情報、進行方向を示す進行方向情報および加速度を示す加速度情報に基づいて、自車両の過去の移動軌跡および将来の移動軌跡を算出する。将来の移動軌跡は、例えば、自車両が現在の位置から進行方向に向かって、算出された加速度および速度で進行すると仮定して算出される。
【0037】
また、通信部30は、車車間通信を行って、周辺車両の走行状態を示す各情報を取得する。車車間通信によって取得される情報は、例えば、周辺車両についての速度情報、進行方向情報、位置情報、加速度情報、過去の移動軌跡を示す情報、将来の移動軌跡を示す情報、車両を識別する識別情報などである。通信部30は、自車両の周囲の通信可能なすべての車両から、これらの各情報を取得する。これらの各情報は、制御部40に送信される。制御部40は、取得した周辺車両の将来の移動軌跡を、自車両を基準とした移動軌跡に変換する。周辺車両の将来の移動軌跡と、自車両の将来の移動軌跡とは、衝突軌跡を示すものである。なお、通信部30は、周辺車両から速度情報および位置情報を取得し、制御部40は、周辺車両の将来の移動軌跡を、取得した速度情報および位置情報から算出してもよい。
【0038】
制御部40は、周辺車両の将来の移動軌跡と自車両の将来の移動軌跡との交点を算出する。制御部40は、識別情報が得られたすべての周辺車両について、交点の算出を行う。交点が算出された場合、自車両と周辺車両とが衝突する可能性のある位置である衝突ポイントが発生したと判断される。交点が算出されなかった場合、衝突ポイントが発生しなかったと判断される。
【0039】
次に、制御部40は、衝突ポイントが発生したすべての車両について、衝突予測時間(TTC)を算出する(S110)。衝突予測時間は、衝突ポイントに達するまでの時間のことである。例えば、衝突予測時間は、自車両が現在の位置から衝突ポイントまでの距離を現在の速度で移動した場合に、衝突ポイントに達する時間である。
【0040】
次に、制御部40は、衝突予測時間が算出された車両のうち、衝突予測時間が最も短い車両を最も危険な車両であるとして、ターゲット車両に決定する(S120)。例えば、制御部40は、衝突予測時間が最も短い車両の識別情報にターゲット車両を示すフラグを付与する。衝突予測時間が最も短い車両が見つからない場合、制御部40は、ターゲット車両を決定しない。ターゲット車両が決定されなかった場合(S130におけるNO)、制御部40は、一連の処理を終了する。
【0041】
ターゲット車両が決定された場合(S130におけるYES)、制御部40は、決定したターゲット車両の移動をモニタする(S140)。例えば、制御部40は、車車間通信で得られるターゲット車両の位置情報や速度情報の推移からターゲット車両の移動をモニタする。また、制御部40は、ターゲット車両から送信される電波の電界強度の大きさや方向の推移からターゲット車両の移動をモニタしてもよい。
【0042】
次に、制御部40は、自車両に対するターゲット車両の相対距離が、時間の経過に従って短縮されているか否かを判断する(S150)。相対距離が短縮されていない場合(S150におけるNO)、制御部40は、一連の処理を終了する。相対距離が短縮されている場合(S150におけるYES)、制御部40は、ターゲット車両との通信に途絶が発生したか否かを判断する(S160)。ターゲット車両との通信に途絶が発生していない場合(S160におけるNO)、制御部40は、ステップS150の処理に戻る。
【0043】
ターゲット車両との通信に途絶が発生した場合(S160におけるYES)、制御部40は、移動部22を駆動させて、アンテナエレメント21を移動させる(S170)。例えば、制御部40は、予め設定された所定の距離だけアンテナエレメント21を移動させる。所定の距離は、例えば、最も前方寄りの位置と最も後方寄りの位置との距離を区分して決定してもよい。すなわち、制御部40は、ターゲット車両の相対距離が短縮している状況において、ターゲット車両との通信が途絶した場合にアンテナエレメント21を移動させる。
【0044】
アンテナエレメント21を移動させた後、制御部40は、通信が回復したか否かを判断する(S180)。通信が回復していない場合(S180におけるNO)、制御部40は、ステップS170の処理に戻り、アンテナエレメント21を移動させる。一方、通信が回復した場合(S180におけるYES)、制御部40は、アンテナエレメント21の移動を停止し(S190)、ステップS150の処理に戻る。すなわち、制御部40は、通信が回復するまでアンテナエレメント21を移動させる。このように、制御部40は、ターゲット車両が自車両から離れていくまで、ステップS150からステップS190の処理を繰り返す。
【0045】
図7は、自車両に対するターゲット車両の相対距離、ターゲット車両との通信状態およびアンテナエレメント21を移動させる移動信号の関係を説明する説明図である。時刻T0から時刻T1までの間、ターゲット車両の相対距離は、次第に短縮されている。また、時刻T0から時刻T1までの間、自車両とターゲット車両との間の通信状態は、良好となっている。図7では、良好な通信状態を、ハイレベルの信号で示している。また、時刻T0から時刻T1までの間、制御部40は、移動信号を移動部22に送信しない。図7では、移動信号を送信しないことを、ローレベルの移動信号で示している。すなわち、時刻T0から時刻T1までの間、アンテナエレメント21は、所定の位置(例えば、最も前方の位置)に維持されている。時刻T0から時刻T1までの間、図6におけるステップS150およびステップS160の処理が繰り返されることとなる。
【0046】
時刻T1において、ターゲット車両との通信が途絶したとする。図7では、通信が途絶したことを、ローレベルの信号で示している。通信に途絶が発生したと判断した制御部40は、時刻T1の直後の時刻T2において、移動信号を移動部22に送信する。図7では、移動信号を送信することを、ハイレベルの移動信号で示している。制御部40は、例えば、予め設定された時間だけ、移動信号を送信する。これにより、アンテナエレメント21は、移動信号の送信された時間に対応する距離だけ移動することとなる。アンテナエレメント21は、例えば、最も前方の位置から後方へ移動する。
【0047】
制御部40は、移動信号の送信(すなわち、図6におけるステップS170)および通信の回復の確認(すなわち、図6におけるステップS180)を繰り返す。アンテナエレメント21の位置が移動していくと、電波の利得が低下する方位が移動していく。そして、ターゲット車両のいる方位における電波の利得の低下が解消される。これにより、ターゲット車両との通信が回復することとなる。
【0048】
時刻T3において、通信が回復したとする。通信が回復したと判断した制御部40は、時刻T3の直後の時刻T4において、移動信号の送信を停止する。これにより、アンテナエレメント21の移動が停止することとなる。すなわち、通信が良好な位置に、アンテナエレメント21が維持される。
【0049】
また、時刻T1から時刻T3までの間は、ターゲット車両との通信が途絶している。このため、時刻T1から時刻T3までの間は、ターゲット車両の位置情報を取得できず、ターゲット車両の相対距離は、不明となる。しかし、時刻T3において通信が回復すると、ターゲット車両の位置情報を再び取得することができる。これにより、時刻T3以降、ターゲット車両の相対距離が再び分かることとなる。
【0050】
また、車車間通信の情報には、周辺車両の識別情報が含まれている。制御部40は、通信が回復した際、通信の回復によって得られた周辺車両の識別情報と、ターゲット車両の識別情報とを照合する。制御部40は、識別情報が一致した周辺車両をターゲット車両とする。これにより、通信が途絶する前のターゲット車両との通信が確立される。
【0051】
また、時刻T4以降、ターゲット車両が自車両から離れていくまで、ステップS150からステップS190までの処理が繰り返される。時刻T4以降、ターゲット車両との通信が途絶した場合、制御部40は、アンテナエレメント21を通信が回復する位置まで再び移動させる。
【0052】
アンテナ装置1では、瞬間的には、ルーフレール10によって電波が干渉し、電波の利得が低下する方位が生じる。ターゲット車両の位置が電波の利得が低下する方位に重なると、ターゲット車両との通信が途絶する。しかし、アンテナ装置1は、ターゲット車両との通信が途絶した場合、通信が回復する位置までアンテナエレメント21を移動させる。このため、アンテナ装置1は、自車両とターゲット車両との位置関係が変わらないとしても、ターゲット車両との通信を回復させることができる。したがって、アンテナ装置1によれば、ルーフレール10による電波の干渉を抑制し、全方位通信が可能となる。
【0053】
また、アンテナ装置1は、アンテナエレメント21を移動させて通信を回復させるため、通信が途絶される時間を短くすることができる。
【0054】
また、アンテナ装置1は、衝突予測時間が最も短い車両をターゲット車両とし、ターゲット車両との通信を回復させる。このため、アンテナ装置1は、最も危険な車両と通信することができ、安全性を向上させることが可能となる。
【0055】
制御部40は、アンテナエレメント21の移動によって、電波の利得が低下する方位を変化させている。このため、制御部40は、アンテナエレメント21によって送受信される電波の特性を、通信が回復するまで変化させる電波特性切り替え制御部として機能する。
【0056】
なお、移動部22は、アンテナエレメント21を移動可能であればよく、ベルト24を含む構成に限らない。
【0057】
また、移動部22は、アンテナエレメント21を車両2の前後方向に移動させる態様に限らない。例えば、移動部22は、アンテナエレメント21を車両2の左右方向に移動させてもよい。
【0058】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態によるアンテナ装置100の構成を示す概略図である。アンテナ装置100は、移動部22に代えて、移動部122を有する点において第1実施形態のアンテナ装置1と異なる。
【0059】
移動部122は、本体部20の底部における外部側の面に連結される。移動部122は、ルーフ3に設けられる。移動部122は、本体部20をルーフ3に平行な面に沿って移動させる。移動部122は、例えば、第1実施形態の移動部22と同様な構成となっている。アンテナ装置100では、本体部20の底部の少なくとも一部が、移動部122のベルト24に固定される。また、アンテナエレメント21は、本体部20の底部における内部側の面に固定される。
【0060】
制御部40は、周辺車両の将来の移動軌跡と自車両の将来の移動軌跡とから衝突予測時間を算出し、衝突予測時間が最も短い周辺車両をターゲット車両に決定する。制御部40は、アンテナエレメント21を介したターゲット車両との通信が途絶した場合、移動部122を駆動させて、本体部20を通信が回復する位置まで移動させる。図8では、後方へ移動後の本体部20の一部を破線で示す。本体部20が移動することで、結果として、アンテナエレメント21が移動することとなる。アンテナエレメント21が移動することで、電波の利得が低下する方位が変化し、ターゲット車両がいる方位の電波の利得の低下が解消される。これにより、ターゲット車両との通信が回復される。
【0061】
アンテナ装置100は、自車両とターゲット車両との位置関係が変わらないとしても、ターゲット車両との通信を回復させることができる。したがって、アンテナ装置100によれば、ルーフレール10による電波の干渉を抑制し、全方位通信が可能となる。
【0062】
また、アンテナ装置100は、通信が途絶される時間を短くすることができる。
【0063】
また、アンテナ装置100は、最も危険な車両と通信することができ、安全性を向上させることが可能となる。
【0064】
制御部40は、アンテナエレメント21を介した通信が途絶した場合、アンテナエレメント21によって送受信される電波の特性を、通信が回復するまで変化させる電波特性切り替え制御部として機能する。
【0065】
なお、移動部122は、本体部20を車両2の前後方向に移動させる態様に限らない。例えば、移動部122は、本体部20を車両2の左右方向に移動させてもよい。
【0066】
(第3実施形態)
図9は、第3実施形態によるアンテナ装置200の構成を示す概略図である。アンテナ装置200は、アンテナエレメント21が複数設けられ、移動部22が設けられない点において第1実施形態のアンテナ装置1と異なる。
【0067】
複数のアンテナエレメント21は、本体部20の底部における内部側の面に固定される。複数のアンテナエレメント21は、ルーフ3に平行な面に沿って配置される。具体的には、複数のアンテナエレメント21は、車両2の前後方向に並べられる。図9の例では、3個のアンテナエレメント21が車両2の前後方向に等間隔に並べられている。
【0068】
制御部40は、複数のアンテナエレメント21の中から通信を行うアンテナエレメント21を決定する。制御部40は、周辺車両の将来の移動軌跡と自車両の将来の移動軌跡とから衝突予測時間を算出し、衝突予測時間が最も短い周辺車両をターゲット車両に決定する。ターゲット車両との通信が途絶した場合、通信が回復するまで、通信を行うアンテナエレメント21を複数のアンテナエレメント21の中の他のアンテナエレメント21に切り替える。
【0069】
例えば、制御部40は、通信が途絶した場合、通信を行うアンテナエレメント21を、隣接するアンテナエレメント21に切り替える。その後、制御部40は、通信が回復したか否かを判断する。通信が回復しない場合、制御部40は、通信を行うアンテナエレメント21を、更に隣接するアンテナエレメント21に切り替える。制御部40は、通信が回復するまで、アンテナエレメント21の切り替えを繰り返す。制御部40は、前方から後方に向かってアンテナエレメント21の切り替えを行ってもよいし、後方から前方に向かってアンテナエレメント21の切り替えを行ってもよい。
【0070】
アンテナ装置200では、通信を行うアンテナエレメント21が切り替わる。このため、アンテナ装置200では、アンテナエレメント21が移動することと同じ作用が生じる。すなわち、アンテナ装置200では、第1実施形態と同様に、電波の利得が低下する方位が変化し、ターゲット車両がいる方位の電波の利得の低下が解消される。このため、アンテナ装置200は、自車両とターゲット車両との位置関係が変わらないとしても、ターゲット車両との通信を回復させることができる。したがって、アンテナ装置200によれば、ルーフレール10による電波の干渉を抑制し、全方位通信が可能となる。
【0071】
また、アンテナ装置200は、通信が途絶される時間を短くすることができる。
【0072】
また、アンテナ装置200は、最も危険な車両と通信することができ、安全性を向上させることが可能となる。
【0073】
制御部40は、アンテナエレメント21を介した通信が途絶した場合、通信が回復するまで、通信を行うアンテナエレメント21を複数のアンテナエレメント21の中の他のアンテナエレメント21に切り替える電波特性切り替え制御部として機能する。
【0074】
なお、アンテナエレメント21の数は、3個に限らない。
【0075】
また、複数のアンテナエレメント21の配列方向は、車両2の前後方向に限らない。例えば、複数のアンテナエレメント21は、車両2の左右方向に並べられてもよい。
【0076】
また、アンテナエレメント21の切り替え先は、隣接するアンテナエレメント21に限らない。例えば、制御部40は、通信を行うアンテナエレメント21をランダムに切り替えてもよい。
【0077】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0078】
各実施形態において、通信部30および制御部40は、車車間通信ユニット50を構成していた。しかし、通信部30および制御部40は、車車間通信ユニット50とは別体として設けられてもよい。
【0079】
また、制御部40が行う処理を複数の装置で分担してもよい。例えば、制御部40は、車車間通信ユニット50とECUとにより構成され、ECUが、衝突軌跡の算出およびTTCの算出を担い、車車間通信ユニット50が、通信が途絶したか否かの判断を担ってもよい。
【0080】
各実施形態では、通信が途絶した場合、電波の利得が低下する方位という電波の特性を、通信が回復するまで変化させていた。しかし、制御部40は、その他の電波の特性を変化させてもよい。例えば、制御部40は、電波の指向性を変化させてもよい。また、制御部40は、電波の出力を変化させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、アンテナ装置、特に、ルーフレールを備えた車両に搭載されるアンテナ装置に利用できる。
【符号の説明】
【0082】
1 アンテナ装置
20 本体部
21 アンテナエレメント
22 移動部
40 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9