(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記遮光部材が、前記蛍光光束の光軸に交差する方向に配列された複数のピンホールを備え、かつ、該ピンホールの配列方向に移動可能に設けられている請求項3に記載の顕微鏡。
前記演算部が、前記設定部により設定された2種類の位置関係において前記検出器により取得された蛍光信号により生成された2種類の画像の差分を演算する請求項1から請求項12のいずれかに記載の顕微鏡。
前記演算部が、前記設定部により設定された2種類の位置関係において前記検出器により取得された蛍光信号の差分を画素毎に演算する請求項1から請求項12のいずれかに記載の顕微鏡。
スキャナにより走査された励起光を対物光学系によって試料に集光し、各走査位置で試料において発生した蛍光を対物光学系によって集光し、遮光部材を通過した蛍光を検出器により検出する顕微鏡観察方法であって、
前記遮光部材における開口位置と前記試料における前記対物光学系の焦点との位置関係が、該焦点から発せられる焦点蛍光が前記遮光部材を通過する光学的に共役な位置関係に配置された状態で前記検出器により蛍光を検出する第1のステップと、
前記遮光部材における前記開口位置と前記試料における前記対物光学系の焦点との位置関係が、前記焦点蛍光が前記遮光部材を通過しない光学的に非共役な位置関係に配置された状態で前記検出器により前記第1のステップとは異なる時刻に蛍光を検出する第2のステップと、
前記第1のステップにおいて前記検出器により検出された蛍光信号から前記第2のステップにおいて前記検出器により検出された蛍光信号を減算する第3のステップとを含む顕微鏡観察方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の顕微鏡は、異なる光束に対して異なる検出器で焦点蛍光と焦点外蛍光とを検出しているため、焦点外蛍光を精度よく検出することが困難であり、光検出器により検出された蛍光に含まれる焦点外蛍光を除去することが困難である。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、試料から発せられた焦点外蛍光を精度よく検出し、検出された蛍光から焦点外蛍光を除去して鮮明な蛍光画像を取得することができる顕微鏡および顕微鏡観察方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、光源からの励起光を走査するスキャナと、該スキャナにより走査される励起光を試料に集光する一方、各走査位置で試料において発生した蛍光を集光する対物光学系と、該対物光学系により集光された前記蛍光の一部分を通過させ他の部分を遮断する遮光部材と、該遮光部材を通過した前記蛍光を検出する検出器と、前記遮光部材における開口位置と前記試料における前記対物光学系の焦点との位置関係を、前記試料から前記検出器までの光路において、前記焦点から発せられる焦点蛍光が前記遮光部材を通過する光学的に共役な位置関係と、前記焦点蛍光が前記遮光部材を通過しない光学的に非共役な位置関係とに設定し、設定された2種類の位置関係において前記遮光部材をそれぞれ通過した蛍光を、異なる時刻に前記検出器に検出させる設定部と、前記検出器により異なる時刻に取得された蛍光信号の差分を演算する演算部とを備える顕微鏡である。
【0007】
本態様によれば、光源からの励起光がスキャナにより走査され、対物光学系によって試料に集光されることにより、試料における励起光の集光点において蛍光物質が励起されて蛍光が発生する。発生した蛍光は対物光学系によって集光された後に遮光部材を通過した部分が検出器により検出され、検出された蛍光の強度と走査位置とを対応づけることにより蛍光画像が生成される。
【0008】
この場合において、設定部の作動により、検出器の前段に設けられた遮光部材における開口位置と試料における対物光学系の焦点との位置関係が光学的に共役な位置関係となる場合には、焦点蛍光および焦点外蛍光が検出器により検出される。また、切替部の作動により、遮光部材と試料における対物光学系の焦点との位置関係が光学的に非共役な位置関係となる場合には、焦点蛍光は遮光部材を通過できずに焦点外蛍光のみが検出器により検出される。これらの蛍光は、設定部により、時間的に分離されて異なる時刻に同一の検出器により検出させられる。そして、演算部によりこれら蛍光信号の差分が演算されることにより、焦点外蛍光が除去された焦点蛍光を得ることができ、鮮明な蛍光画像を取得することができる。
【0009】
上記態様においては、前記設定部が、前記遮光部材と該遮光部材に入射する前記試料からの蛍光光束との位置を相対的に移動させてもよい。
このようにすることで、遮光部材における開口位置と試料における対物光学系の焦点との位置関係として、光学的に共役な位置関係と光学的に非共役な位置関係とを簡易に設定することができる。ここで、蛍光光束の位置とは蛍光光束の光軸に交差する方向の位置および蛍光光束の光軸に沿う方向の位置の両方を含む。
【0010】
また、上記態様においては、前記設定部が、前記遮光部材と該遮光部材に入射する前記蛍光光束との位置を、該蛍光光束の光軸に交差する方向に相対的に移動させてもよい。
このようにすることで、遮光部材における開口位置に蛍光光束の焦点位置を一致させたときには、遮光部材における開口位置と、試料における励起光の集光点との位置関係を光学的に共役な位置関係とすることができる。一方、遮光部材における開口位置に対して蛍光光束の焦点位置を光軸に交差する方向にずらして配置したときには、遮光部材における開口位置と、試料における励起光の集光点との位置関係を光学的に非共役な位置関係とすることができる。
【0011】
また、上記態様においては、前記光源が前記励起光を任意の繰り返し波形で発振させ、前記設定部が、前記対物光学系により集光された前記蛍光を光路長の異なる複数の光路に分岐して、前記遮光部材の異なる位置に入射させる空間光学系を備えていてもよい。
【0012】
このようにすることで、光源から射出された明滅する励起光が試料に集光されることにより、試料において発生した明滅する蛍光が対物光学系によって集光され、空間光学系に入射される。空間光学系に入射された蛍光は、光路長の異なる複数の光路に分岐された後に、遮光部材の異なる位置に入射される。
【0013】
これにより、長い光路により時間的な遅れを与えることで、遮光部材に到達する時刻を時間的に異ならせ、かつ、遮光部材における開口位置と試料における集光点とが光学的に共役な位置関係となる状態と、光学的に非共役な位置関係となる状態とを切り替えることができる。すなわち、試料において同時刻に発生した焦点蛍光と焦点外蛍光とを用いて焦点蛍光をさらに精度よく検出することができる。
【0014】
また、上記態様においては、前記光源が前記励起光を任意の繰り返し波形で発振させ、前記設定部が、前記蛍光光束をその光軸に交差する方向に移動させる光束移動部を備えていてもよい。
このようにすることで、光束移動部の作動により蛍光光束を光軸に交差する方向に移動させて、遮光部材の異なる位置に蛍光を時間的に異ならせて入射させることができる。
【0015】
また、上記態様においては、前記光束移動部が、偏向角度を変更可能な偏向素子であってもよい。
このようにすることで、偏向素子の作動により、偏向素子による蛍光光束の偏向角度を変化させて、蛍光光束を光軸に交差する方向に容易に移動させることができる。
【0016】
また、上記態様においては、前記光束移動部が、音響光学素子または電気光学素子であってもよい。
このようにすることで、音響光学素子または電気光学素子に加える電圧を切り替えることで、蛍光光束の射出角度を変化させ、蛍光光束を光軸に交差する方向に容易に移動させることができる。
【0017】
また、上記態様においては、前記遮光部材が、前記蛍光光束の光軸に交差する方向に配列された複数のピンホールを備え、かつ、該ピンホールの配列方向に移動可能に設けられていてもよい。
このようにすることで、蛍光光束を移動させることなく、遮光部材をピンホールの配列方向に移動させて、蛍光の結像位置がピンホールに一致する光学的に共役な位置関係と、蛍光の結像位置がピンホールからずれた光学的に非共役な位置関係とを容易に切り替えることができる。
【0018】
また、上記態様においては、前記設定部が、前記遮光部材と該遮光部材に入射する前記蛍光光束の結像位置とを、該蛍光光束の光軸方向に相対的に移動させてもよい。
このようにすることで、遮光部材における開口位置に蛍光光束の結像位置を一致させたときには、遮光部材における開口位置と、試料における励起光の集光点との位置関係を光学的に共役な位置関係とすることができる。一方、遮光部材における開口位置に対して蛍光光束の結像位置を光軸方向にずらして配置したときには、遮光部材における開口位置と、試料における励起光の集光点との位置関係を光学的に非共役な位置関係とすることができる。
【0019】
また、上記態様においては、前記光源が前記励起光を任意の繰り返し波形で発振させ、前記設定部が、前記対物光学系により集光された前記蛍光を光路長の異なる複数の光路に分岐して、前記蛍光光束の結像位置を異ならせる空間光学系を備えていてもよい。
このようにすることで、空間光学系に入射されることにより異なる光路に分岐された蛍光は光路長の違いにより時間的な相違を付与されるとともに、光路を通過する間に焦点位置を異ならされて遮光部材に入射させられる。一方の光路を通過した蛍光の結像位置が遮光部材の開口位置に一致しているときには、光学的に共役な位置関係となる。他方の光路を通過した蛍光の結像位置が遮光部材に対して光軸方向にずれているときには、光学的に非共役な位置関係となる。
【0020】
また、上記態様においては、前記設定部が前記蛍光光束の結像位置を変更可能な音響光学レンズであってもよい。
このようにすることで、音響光学レンズに加える電圧を切り替えることで、蛍光光束の焦点位置を光軸方向に容易に移動させることができる。
【0021】
また、上記態様においては、前記光源が前記励起光を任意の繰り返し波形で発振させ、前記設定部が、前記対物光学系により集光された前記蛍光を入射させる長さの異なる複数の光ファイバを備え、前記遮光部材が、各前記光ファイバへの前記蛍光の入射端を前記試料からの蛍光光束の光軸に交差する方向に並べて配置することにより構成されていてもよい。
【0022】
このようにすることで、試料において発生した明滅する蛍光が、対物光学系によって集光され、試料における励起光の集光点と光学的に共役な位置に入射端が配置されている光ファイバによって焦点蛍光および焦点外蛍光が伝播され、光学的に非共役な位置に入射端が配置されている光ファイバによって焦点外蛍光が伝播される。長さの異なる光ファイバを伝播したこれらの蛍光は、長さの違いによる遅れによって、異なる時刻に検出器によって検出される。これにより、異なる光ファイバを伝播した蛍光を同一の検出器によって別々に検出することができ、焦点蛍光を精度よく分離抽出して鮮明な画像を取得することができる。
【0023】
また、上記態様においては、前記演算部が、前記設定部により設定された2種類の位置関係において前記検出器により取得された蛍光信号により生成された2種類の画像の差分を演算してもよい。
また、上記態様においては、前記演算部が、前記設定部により設定された2種類の位置関係において前記検出器により取得された蛍光信号の差分を画素毎に演算してもよい。
このようにすることで、画素毎に短い時間差で取得された蛍光信号の差分を演算するので、動きの速い被写体に対してもブレの少ない鮮明な画像を取得することができる。
【0024】
また、本発明の他の態様は、スキャナにより走査された励起光を対物光学系によって試料に集光し、各走査位置で試料において発生した蛍光を対物光学系によって集光し、遮光部材を通過した蛍光を検出器により検出する顕微鏡観察方法であって、前記遮光部材における開口位置と前記試料における前記対物光学系の焦点との位置関係が、該焦点から発せられる焦点蛍光が前記遮光部材を通過する光学的に共役な位置関係に配置された状態で前記検出器により蛍光を検出する第1のステップと、前記遮光部材における前記開口位置と前記試料における前記対物光学系の焦点との位置関係が、前記焦点蛍光が前記遮光部材を通過しない光学的に非共役な位置関係に配置された状態で前記検出器により前記第1のステップとは異なる時刻に蛍光を検出する第2のステップと、前記第1のステップにおいて前記検出器により検出された蛍光信号から前記第2のステップにおいて前記検出器により検出された蛍光信号を減算する第3のステップとを含む顕微鏡観察方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、試料から発せられた焦点外蛍光を精度よく検出し、検出された蛍光から焦点外蛍光を除去して鮮明な蛍光画像を取得することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の第1の実施形態に係る顕微鏡1および顕微鏡観察方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡1は、
図1に示されるように、レーザ光源(光源)2からの励起光を試料Aに照射して、試料Aにおいて発生した蛍光を検出する顕微鏡本体4と、該顕微鏡本体4において検出された蛍光を用いて演算により画像を生成する演算部5と、該演算部5により生成された画像を表示するモニタ6とを備えている。
【0028】
顕微鏡本体4は、レーザ光源2からの励起光を2次元的に走査するスキャナ7と、該スキャナ7により走査された励起光を試料Aに照射し、試料Aからの蛍光を集光する対物レンズ(対物光学系)8と、該対物レンズ8により集光され、スキャナ7を経由して戻る蛍光を励起光の光路から分岐するダイクロイックミラー9と、該ダイクロイックミラー9によって分岐された蛍光を2種類に切り替える切替部(設定部)3と、該切替部3により切り替えられた蛍光をそれぞれ集光する結像レンズ10と、対物レンズ8の焦点位置と光学的に共役な位置に配置されたピンホール(遮光部材)11と、該ピンホール11を通過した蛍光を検出する光検出器(検出器)12とを備えている。
【0029】
スキャナ7は、例えば、非平行な軸線回りに揺動可能な2枚のガルバノミラー(図示略)を近接配置してなる近接ガルバノミラーである。光検出器12は、例えば、光電子増倍管(PMT)である。
【0030】
レーザ光源2は、励起光を連続的に射出する光源である。
切替部3は、
図1に示されるように、ダイクロイックミラー9と結像レンズ10との間に配置され、揺動角度を変化させる可動ミラー(偏向素子、光束移動部)13と、該可動ミラー13を駆動する周波数を決定する周波数発振器14とを備えている。
【0031】
可動ミラー13は、周波数発振器14により発振される周波数に同期して、ダイクロイックミラー9によって励起光の光路から分岐された蛍光の結像レンズ10への入射角度を交互に切り替えるようになっている。図中符号15はミラーである。
【0032】
これにより、試料Aにおける励起光の集光点において連続的に発生した蛍光は、結像レンズ10に、入射角度の異なる2種類の蛍光として、交互に入射させられるようになっている。すなわち、結像レンズ10に入射してくる2種類の蛍光は、
図2A、
図2Bに示されるように、反転したタイミングを有する矩形波状に形成されるようになっている。
【0033】
図2Aに示される一方の蛍光は、結像レンズ10によりピンホール11に一致する位置に焦点を結び、
図2Bに示される他方の蛍光は、結像レンズ10によりピンホール11に対して、ずれた位置に焦点を結ぶようになっている。これにより、
図2Aの状態では、試料Aにおける励起光の集光点とピンホール11とが光学的に共役な位置関係となっており、
図2Bの状態では、試料Aにおける励起光の集光点とピンホール11とが光学的に非共役な位置関係となっている。蛍光の結像レンズ10への入射角度の切替周波数は、各画素位置において2種類の蛍光を少なくとも1回明滅させることができる周波数に設定されている。
【0034】
すなわち、試料Aに励起光を照射することにより発生した蛍光は、対物レンズ8によって集光された後に、切替部3を構成する可動ミラー13によって異なる2つの角度に交互に偏向され、交互に異なる時刻に光検出器12により検出されるようになっている。
演算部5は、同一の画素位置において、光検出器12により検出された、2種類の蛍光の強度の差分を算出するようになっている。演算部5は、例えば、ロックインアンプ(図示略)を備えた電気回路によって構成されている。
【0035】
ロックインアンプは、周波数発振器14により発生された周波数に同期して光検出器12から出力された2種類の蛍光信号の差分をハードウェア的に算出するようになっている。
そして、演算部5は、画素毎に算出された差分とスキャナ7による走査位置とを対応づけて記憶することにより、画像を生成するようになっている。
【0036】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡1を用いた顕微鏡観察方法について以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡1を用いて試料Aの蛍光観察を行うには、顕微鏡本体4のステージ(図示略)に試料Aを配置して、対物レンズ8の焦点位置を試料Aに一致するように調節した状態で、レーザ光源2から連続した励起光を発生させる。
【0037】
そして、周波数発振器14によって発振された所定の周波数に従って、切替部3において可動ミラー13の角度を変化させる。
レーザ光源2から発せられた励起光は、ダイクロイックミラー9を通過してスキャナ7により2次元的に走査され、対物レンズ8によって試料Aに集光される。試料Aにおける励起光の照射により発生した蛍光の一部は対物レンズ8によって集光されて、スキャナ7を介して戻る途中でダイクロイックミラー9によって励起光の光路から分岐され、切替部3に入射される。
【0038】
切替部3は可動ミラー13の角度を交互に切り替えているので、
図2A、
図2Bに示されるように、反転したタイミングを有する矩形波状の2種類の蛍光に分離される。
その結果、一方の蛍光は、ピンホール11に一致する位置に集光されるので、ピンホール11を通過した部分が光検出器12により検出される(第1のステップ)。
【0039】
この場合において、試料Aに励起光が照射されると、励起光は対物レンズ8の焦点位置に至る経路の途中においても試料Aを通過することにより蛍光物質を励起するので、蛍光は対物レンズ8の焦点位置のみならず該焦点位置に至る経路の途中においても発生する。特に、試料Aが散乱物質からなる場合には、励起光の散乱により蛍光が焦点位置以外の部位において蛍光が発生し易い。
【0040】
また、特に、高精細な観察を行うために試料Aに入射される励起光のNAを増大させると、焦点位置に至るまでに励起光が通過する領域が増えるため、焦点位置以外の部位で発生する蛍光が増大する。また、同様に深部観察時にも励起光が通過する領域が増加するため焦点外蛍光が増加する。さらに深部観察には散乱の影響を補償するために励起光を強める必要があり焦点外蛍光の影響が特に顕著である。
【0041】
試料Aにおいて発生した蛍光の内、対物レンズ8の焦点位置から発生した蛍光は、光学的に共役な位置に配置されているピンホール11を容易に通過するので光検出器12により信号光として検出されるが、焦点位置以外の部位から発生した蛍光は試料Aにより散乱され、その一部がピンホール11を通過して光検出器12によりノイズとして検出されてしまう。したがって、一方の蛍光には、対物レンズ8の焦点位置において発生した、信号として取得すべき蛍光(焦点蛍光)と、他の部位において発生した、信号として取得すべきでない蛍光(焦点外蛍光)とが含まれている。
【0042】
また、他方の蛍光に含まれる焦点蛍光は、ピンホール11に対してずれた位置に集光させられる。このため、焦点蛍光はピンホール11を通過することができずに遮断される一方、焦点位置以外の部位から発生した焦点外蛍光の一部は試料Aにより散乱され、第1のステップと同様に同じピンホール11を通過して光検出器12により検出される(第2のステップ)。
【0043】
したがって、ピンホール11を通過した他方の蛍光には、対物レンズ8の焦点位置以外の部位において発生した焦点外蛍光のみが含まれている。
そして、演算部5において、これらの2種類の蛍光の差分が演算される(第3のステップ)。これにより、対物レンズ8の焦点位置以外の部位において発生した、信号として取得すべきでない焦点外蛍光が除去された蛍光を取得することができる。
【0044】
2種類の励起光が照射されることにより蛍光が発生する範囲は厳密には一致していないが、多くの部分において一致しているため、また同じピンホール11および光検出器12を用いて検出を行っていることにより、そのまま減算しても大部分の焦点外蛍光を除去することができる。特に、励起光のNAを大きくして高精細な観察を行う場合には、蛍光発生範囲の重複率が増大するので、さらに効果的に焦点外蛍光を除去することができる。
【0045】
このように本実施形態に係る顕微鏡1によれば、対物レンズ8の焦点位置において発生した蛍光を高いS/N比で検出することができ、ノイズの少ない鮮明な画像を取得することができるという利点がある。特に、励起光のNAが大きな高精細の観察時、および、試料Aが強い散乱物質であって焦点外蛍光が発生し易い場合に効果が高い。
【0046】
また、本実施形態においては、画素毎に極めて短い時間差で取得した2種類の蛍光の差分を演算しているので、高速に移動する試料Aであってもブレの少ない蛍光画像を取得することができるという利点がある。
【0047】
なお、本実施形態においては、遮光部材としてピンホール11を例示したが、これに代えて、対物レンズ8の焦点位置と光学的に共役な位置に配置されたときに焦点蛍光を通過させ、非共役な位置に配置されたときに焦点蛍光を遮断する任意の遮光部材を採用してもよい。他の遮光部材としてはマイクロミラーデバイスや空間光変調器が挙げられる。
【0048】
また、本実施形態においては、切替部3を構成する偏向素子として可動ミラー13を例示したが、
図3に示されるように、音響光学偏向器(音響光学素子、光束移動部)16や電気光学偏向器(電気光学素子、光束移動部)17などのデバイスを使用することもできる。これらのデバイス16,17も、周波数発振器14によって発振された所定の周波数に従って入力する電圧を切り替えることにより、可動ミラー13と同様に入力電圧に同期して蛍光光束の結像レンズ10への入射角度を変化させることができる。これらのデバイス16,17によれば、可動ミラー13のような可動部分を含まないため、コンパクトかつ長寿命に構成することができる。
【0049】
また、本実施形態においては、固定された遮光部材11に対して入射する蛍光光束の入射位置を時間的に切り替えることとしたが、これに代えて、蛍光光束を固定しておき、遮光部材18を蛍光光束の光軸に交差する方向に移動させることにしてもよい。
すなわち、遮光部材18として、
図4Bに示されるように、周方向に間隔をあけて配列された複数のピンホール19を有する円板状のディスクを採用し、
図4Aに示されるように、モータ20によってディスク18を中心軸回りに回転させることにしてもよい。
【0050】
このようにすることで、結像レンズ10による蛍光の集光位置をディスク18に一致させておき、モータ20によってディスク18を回転させることにより、蛍光の光軸にピンホール19が一致する状態と一致しない状態とを交互に繰り返すことができる。すなわち、蛍光の光軸にいずれかのピンホール19が一致した状態で、試料Aにおける励起光の集光点とピンホール19とが光学的に共役な位置関係となり、蛍光の光軸に対していずれのピンホール19も一致していない状態で、試料Aにおける励起光の集光点とピンホール19とが光学的に非共役な位置関係となる。
【0051】
これにより、光学的に共役な位置関係と光学的に非共役な位置関係とを時間的に交互に形成し、焦点蛍光を精度よく検出するための2種類の蛍光を同一の光検出器12によって、順次検出することができる。また、ディスク18を高速に回転させることにより、2つの位置関係をより高速に切り替えることができるという利点がある。
【0052】
また、本実施形態においては、蛍光光束とピンホール11とを蛍光光束の光軸に交差する方向に相対的に移動させる場合について説明したが、これに代えて、
図5に示されるように、蛍光光束とピンホール11とを蛍光光束の光軸に沿う方向に相対的に移動させることにしてもよい。
【0053】
すなわち、
図5に示す例では、音響光学偏向器16あるいは電気光学偏向器17に代えて、音響光学レンズ(設定部)21を採用している。音響光学レンズ21は、入力される電圧に応じて、屈折力を変化させるレンズであり、周波数発振器14による周波数に同期して屈折力を切り替えることにより、結像レンズ10による蛍光の結像位置をピンホール11に一致する位置とピンホール11から光軸方向にずれた位置とで切り替えることができる。
これにより、蛍光の結像位置をピンホール11に一致させた光学的に共役な位置関係と、蛍光の結像位置をピンホール11から光軸方向にずらした光学的に非共役な位置関係とを容易に切り替えることができる。
【0054】
次に、本発明の第2の実施形態に係る顕微鏡22について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態の説明において、第1の実施形態に係る顕微鏡1と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0055】
本実施形態に係る顕微鏡22は、レーザ光源2が周波数発振器14により設定された周波数で明滅するパルス状の励起光を射出する点、および、切替部(設定部)23の構成において第1の実施形態と相違している。
レーザ光源2は、周波数発振器14が発生した所定の周波数で励起光を
図2Aに示されるような繰り返し波形で発振させるようになっている。レーザ光源2の周波数は、各画素位置において少なくとも1周期繰り返される周波数である。
切替部23は、ダイクロイックミラー9と結像レンズ10との間に配置された空間光学系である。
【0056】
空間光学系23は、
図6に示されるように、ダイクロイックミラー9により励起光の光路から分岐された蛍光を2つの光路に分岐する第1の偏光ビームスプリッタ24と、2つの光路を通過してきた蛍光を合波する第2の偏光ビームスプリッタ25とを備えている。
図6に示す例では、第1の偏光ビームスプリッタ24により第1の光路に分岐された蛍光は、そのまま第2の偏光ビームスプリッタ25に入射され、第2の光路に分岐された蛍光は、2枚の光路形成用のミラー26によって第1の光路より長い光路を経て第2の偏光ビームスプリッタ25に入射されるようになっている。
【0057】
また、第1の光路を経由して第2の偏光ビームスプリッタ25から射出される蛍光と、第2の光路を経由して第2の偏光ビームスプリッタ25から射出される蛍光の射出角度が異なるようにミラー26の角度が設定されている。
これにより、例えば、第1の光路を経由した蛍光は結像レンズ10によってピンホール11に一致する位置に焦点を結び、第2の光路を経由した蛍光はピンホール11からずれた位置に焦点を結ぶようになっている。さらに、第2の光路を経由した蛍光は、光路長の相違により、第1の光路を経由した蛍光よりも時間的に遅れてピンホール11に到達するようになっている。
【0058】
すなわち、第1の光路を経由した蛍光に対しては、試料Aにおける励起光の集光点とピンホール11とは光学的に共役な位置関係となっており、第2の光路を経由した蛍光に対しては光学的に非共役な位置関係となっている。そして、光路長の相違による遅れによって、光学的に共役な位置関係での蛍光の検出と、光学的に非共役な位置関係での蛍光の検出とが時間的にずれて行われる。
【0059】
したがって、本実施形態によっても、第1の実施形態に係る顕微鏡1と同様にして、同一の光検出器12によって2種類の蛍光を別々に検出し、その差分を演算することにより、焦点外蛍光を除去した鮮明な画像を生成することができるという利点がある。
【0060】
なお、本実施形態においては、光路形成用のミラー26の角度調節により、2種類の蛍光の結像位置を蛍光光束の光軸に交差する方向にずらすこととしたが、これに代えて、
図7に示されるように、空間光学系23内にいずれかの光路にレンズ27を配置することにより、2種類の蛍光の結像位置を蛍光光束の光軸に沿う方向にずらすことにしてもよい。
【0061】
また、本実施形態においては、2つの偏光ビームスプリッタ24,25により蛍光を分岐および合波する例を示したが、これに代えて、ハーフミラーのような無偏光のビームスプリッタを用いてもよい。
また、レーザ光源2が、
図2Aに示されるような矩形波状の励起光を発生させることとしたが、これに代えて、正弦波状等の任意の繰り返し形状を有し、位相の異なる励起光を発生させることにしてもよい。
【0062】
次に、本発明の第3の実施形態に係る顕微鏡28について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態の説明において、上述した第2の実施形態に係る顕微鏡22と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0063】
本実施形態に係る顕微鏡28は、設定部29および遮光部材30の構成において第2の実施形態に係る顕微鏡22と相違している。
すなわち、本実施形態において、設定部29は、
図8に示されるように、結像レンズ10と光検出器12との間に配置された長さの異なる2本の光ファイバ(設定部)31,32によって構成されている。また、遮光部材30は、2本の光ファイバ31,32の一端(入射端)31a,32aによって構成されている。
【0064】
第1の光ファイバ31の一端31aは、結像レンズ10による蛍光の結像位置に一致する位置に配置されている。一方、第2の光ファイバ32の一端32aは、結像レンズ10による蛍光の結像位置に対して、蛍光光束の光軸に交差する方向にずれた位置に配置されている。
2本の光ファイバ31,32の他端は、それぞれ伝播してきた蛍光を同一の光検出器12に入射させることができる位置に配置されている。
【0065】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡28によれば、第1の光ファイバ31の一端31aが結像レンズ10による蛍光の結像位置に一致する位置に配置されているので、第1の光ファイバ31の入射端31aと試料Aにおける励起光の集光点とが光学的に共役な位置となっている。一方、第2の光ファイバ32の入射端32aと試料Aにおける励起光の集光点とが光学的に非共役な位置となっている。
【0066】
2本の光ファイバ31,32の長さが異ならされることにより、長い方の第2の光ファイバ32を伝播させられた蛍光は、第1の光ファイバ31を伝播させられた蛍光よりも時間的に遅れて光検出器12により検出される。
すなわち、本実施形態によれば、可動ミラー13や音響光学偏向器16あるいは空間光学系23のような大がかりな切替部を用いることなく、固定された、長さの異なる2本の光ファイバ31,32によってコンパクトかつ安価に設定部29を構成することができるという利点がある。光ファイバ31,32としてはカップリング効率の高いマルチモードファイバを用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0067】
また、本実施形態においては、長さの異なる2本の光ファイバ31,32を用いることとしたが、これに代えて、
図9に示されるように、長さの異なる3本以上の光ファイバ(設定部)31,32,33を用い、その内の2本以上については光学的に非共役な位置関係で別々に蛍光を取得して平均することにしてもよい。平均することにより非共役な位置関係で取得された蛍光のノイズを低減することができる。
【0068】
また、
図10に示されるように、3本以上の光ファイバ31,32,33を用い、共役な位置関係で蛍光を検出する1本の光ファイバ31と他の2本以上の光ファイバ32,33との長さを異ならせることとして、光学的に非共役な位置関係で2本以上の光ファイバ32,33によって伝播した蛍光を同時に取得して平均することにしてもよい。この場合、遮光部材30は、3本の光ファイバ31,32,33の一端(入射端)31a,32a,33aによって構成されている。
【0069】
また、上記各実施形態においては、光検出器12により取得された蛍光の差分を画素毎に演算することとしたが、画像毎に演算してもよい。
また、演算部5においては、ロックインアンプによってハードウェア的に減算することとしたが、これに代えて、演算部5をコンピュータにより構成し、信号処理等のソフトウェアを用いて差分を演算してもよい。
【0070】
また、第1の実施形態および第2の実施形態においても、第3の実施形態の変形例と同様にして、複数の光学的に非共役な位置関係において蛍光を取得して平均することにしてもよい。