(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594442
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】モータ制御装置及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/00 20160101AFI20191010BHJP
【FI】
H02P29/00
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-551482(P2017-551482)
(86)(22)【出願日】2015年11月20日
(86)【国際出願番号】JP2015082639
(87)【国際公開番号】WO2017085853
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2018年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】馬場 繁之
(72)【発明者】
【氏名】小沼 雄作
(72)【発明者】
【氏名】杉本 卓也
【審査官】
池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−092896(JP,A)
【文献】
特開2003−061377(JP,A)
【文献】
特開昭61−106078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに供給されるモータ電流を検出して、電流検出信号を生成する電流検出部と、
前記電流検出信号を用いて前記モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
速度応答ゲインに基づいて前記モータの速度を制御する速度制御部と、
前記速度応答ゲインの調整を行う速度応答ゲイン調整部と、
前記モータ電流が設定値以上であるか否かを判定する判定部と、を備え、
前記制御部は、入力される速度応答ゲインに基づいて前記モータを制御し、前記モータ電流が前記設定値以上の場合、前記モータの制御を停止し、前記制御部で使用している速度応答ゲインを変更して再制御する、というサイクルを、前記モータ電流が前記設定値以上とならないまで繰り返し、前記制御部で使用している速度応答ゲインを変更する際、前記速度応答ゲインを所定値又は所定割合増加させることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
モータに供給されるモータ電流を検出して、電流検出信号を生成する電流検出部と、
前記電流検出信号を用いて前記モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
速度応答ゲインに基づいて前記モータの速度を制御する速度制御部と、
前記速度応答ゲインの調整を行う速度応答ゲイン調整部と、
前記モータ電流が設定値以上であるか否かを判定する判定部と、を備え、
前記制御部は、入力される速度応答ゲインに基づいて前記モータを制御し、前記モータ電流が前記設定値以上の場合、前記モータの制御を停止し、前記制御部で使用している速度応答ゲインを第1の所定値又は第1の所定割合増加させて再制御する、という第1のサイクルを繰り返し、前記第1のサイクルの回数が所定回数を超過した場合、前記制御部で使用している速度応答ゲインを第2の所定値又は第2の所定割合減少させて再制御する、という第2のサイクルを、前記モータ電流が前記設定値以上とならないまで繰り返すことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
モータに供給されるモータ電流を検出して、電流検出信号を生成する電流検出部と、
前記電流検出信号を用いて前記モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
速度応答ゲインに基づいて前記モータの速度を制御する速度制御部と、
前記速度応答ゲインの調整を行う速度応答ゲイン調整部と、
前記モータ電流が設定値以上であるか否かを判定する判定部と、を備え、
前記制御部は、入力される速度応答ゲインに基づいて前記モータを制御し、前記モータ電流が前記設定値以上の場合、前記モータの制御を停止し、前記制御部で使用している速度応答ゲインを第1の所定値又は第1の所定割合減少させて再制御する、という第1のサイクルを繰り返し、前記第1のサイクルの回数が所定回数を超過した場合、前記制御部で使用している速度応答ゲインを第2の所定値又は第2の所定割合増加させて再制御する、という第2のサイクルを、前記モータ電流が前記設定値以上とならないまで繰り返すことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
モータに供給されるモータ電流を検出して電流検出信号を生成する電流検出部と、前記電流検出信号を用いて前記モータを制御する制御部と、を備えるモータ制御装置におけるモータ制御方法であって、
前記制御部は、入力される速度応答ゲインに基づいて前記モータを制御し、前記モータ電流が設定値以上であるか否かを判定し、前記モータ電流が前記設定値以上の場合、前記モータの制御を停止し、前記制御部で使用している速度応答ゲインを変更して再制御する、というサイクルを、前記モータ電流が前記設定値以上とならないまで繰り返し、前記制御部で使用している速度応答ゲインを変更する際、前記速度応答ゲインを所定値又は所定割合増加させることを特徴とするモータ制御方法。
【請求項5】
モータに供給されるモータ電流を検出して電流検出信号を生成する電流検出部と、前記電流検出信号を用いて前記モータを制御する制御部と、を備えるモータ制御装置におけるモータ制御方法であって、
前記制御部は、入力される速度応答ゲインに基づいて前記モータを制御し、前記モータ電流が設定値以上の場合、前記モータの制御を停止し、前記制御部で使用している速度応答ゲインを第1の所定値又は第1の所定割合増加させて再制御する、という第1のサイクルを繰り返し、前記第1のサイクルの回数が所定回数を超過した場合、前記制御部で使用している速度応答ゲインを第2の所定値又は第2の所定割合減少させて再制御する、という第2のサイクルを、前記モータ電流が前記設定値以上とならないまで繰り返すことを特徴とするモータ制御方法。
【請求項6】
モータに供給されるモータ電流を検出して電流検出信号を生成する電流検出部と、前記電流検出信号を用いて前記モータを制御する制御部と、を備えるモータ制御装置におけるモータ制御方法であって、
前記制御部は、入力される速度応答ゲインに基づいて前記モータを制御し、前記モータ電流が設定値以上の場合、前記モータの制御を停止し、前記制御部で使用している速度応答ゲインを第1の所定値又は第1の所定割合減少させて再制御する、という第1のサイクルを繰り返し、前記第1のサイクルの回数が所定回数を超過した場合、前記制御部で使用している速度応答ゲインを第2の所定値又は第2の所定割合増加させて再制御する、という第2のサイクルを、前記モータ電流が前記設定値以上とならないまで繰り返すことを特徴とするモータ制御方法。
【請求項7】
モータに供給されるモータ電流を検出して、電流検出信号を生成する電流検出部と、
前記電流検出信号に基づいて前記モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
速度指令、速度フィードバック信号及び速度応答ゲインに基づいて、トルク指令を生成する速度制御部と、
前記トルク指令と前記電流検出信号に基づいて、電圧指令を生成する電流制御部と、
前記電圧指令と前記速度フィードバック信号に基づいて、前記モータを駆動させるためのPWM信号を出力するPWM制御部と、
前記電圧指令と前記電流検出信号に基づいて、前記速度フィードバック信号を生成する速度推定部と、
前記速度応答ゲインを調整する速度応答ゲイン調整部と、
前記モータ電流が過負荷電流設定値以上であるか否かを判定する過負荷判定部と、を備え、
前記過負荷判定部が前記モータ電流が前記過負荷電流設定値以上であると判定した場合、前記PWM制御部は前記PWM信号の出力を停止し、前記速度応答ゲイン調整部は前記速度応答ゲインを変更して新たな速度応答ゲインを生成し、前記速度制御部は前記新たな速度応答ゲインに基づいて新たなトルク指令を生成し、前記電流制御部は前記新たなトルク指令に基づいて新たな電圧指令を生成し、前記PWM制御部は前記新たな電圧指令に基づいて新たなPWM信号を出力する、というサイクルを、前記モータ電流が前記過負荷電流設定値以上とならないまで繰り返し、前記速度応答ゲイン調整部は、前記速度応答ゲインを変更する際、前記速度応答ゲインを所定値又は所定割合増加させることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項8】
モータに供給されるモータ電流を検出して、電流検出信号を生成する電流検出部と、
前記電流検出信号に基づいて前記モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
速度指令、速度フィードバック信号及び速度応答ゲインに基づいて、トルク指令を生成する速度制御部と、
前記トルク指令と前記電流検出信号に基づいて、電圧指令を生成する電流制御部と、
前記電圧指令と前記速度フィードバック信号に基づいて、前記モータを駆動させるためのPWM信号を出力するPWM制御部と、
前記電圧指令と前記電流検出信号に基づいて、前記速度フィードバック信号を生成する速度推定部と、
前記速度応答ゲインを調整する速度応答ゲイン調整部と、
前記モータ電流が過負荷電流設定値以上であるか否かを判定する過負荷判定部と、を備え、
前記過負荷判定部が前記モータ電流が前記過負荷電流設定値以上であると判定した場合、前記PWM制御部は前記PWM信号の出力を停止し、前記速度応答ゲイン調整部は前記速度応答ゲインを第1の所定値又は第1の所定割合増加させて第1の速度応答ゲインを生成し、前記速度制御部は前記第1の速度応答ゲインに基づいて第1のトルク指令を生成し、前記電流制御部は前記第1のトルク指令に基づいて第1の電圧指令を生成し、前記PWM制御部は前記第1の電圧指令に基づいて第1のPWM信号を出力する、という第1のサイクルを繰り返し、前記第1のサイクルの回数が所定回数を超過した場合、前記速度応答ゲイン調整部は前記速度応答ゲインを第2の所定値又は第2の所定割合減少させて第2の速度応答ゲインを生成し、前記速度制御部は前記第2の速度応答ゲインに基づいて第2のトルク指令を生成し、前記電流制御部は前記第2のトルク指令に基づいて第2の電圧指令を生成し、前記PWM制御部は前記第2の電圧指令に基づいて第2のPWM信号を出力する、という第2のサイクルを、前記モータ電流が前記過負荷電流設定値以上とならないまで繰り返すことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項9】
モータに供給されるモータ電流を検出して、電流検出信号を生成する電流検出部と、
前記電流検出信号に基づいて前記モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
速度指令、速度フィードバック信号及び速度応答ゲインに基づいて、トルク指令を生成する速度制御部と、
前記トルク指令と前記電流検出信号に基づいて、電圧指令を生成する電流制御部と、
前記電圧指令と前記速度フィードバック信号に基づいて、前記モータを駆動させるためのPWM信号を出力するPWM制御部と、
前記電圧指令と前記電流検出信号に基づいて、前記速度フィードバック信号を生成する速度推定部と、
前記速度応答ゲインを調整する速度応答ゲイン調整部と、
前記モータ電流が過負荷電流設定値以上であるか否かを判定する過負荷判定部と、を備え、
前記過負荷判定部が前記モータ電流が前記過負荷電流設定値以上であると判定した場合、前記PWM制御部は前記PWM信号の出力を停止し、前記速度応答ゲイン調整部は前記速度応答ゲインを第1の所定値又は第1の所定割合減少させて第1の速度応答ゲインを生成し、前記速度制御部は前記第1の速度応答ゲインに基づいて第1のトルク指令を生成し、前記電流制御部は前記第1のトルク指令に基づいて第1の電圧指令を生成し、前記PWM制御部は前記第1の電圧指令に基づいて第1のPWM信号を出力する、という第1のサイクルを繰り返し、前記第1のサイクルの回数が所定回数を超過した場合、前記速度応答ゲイン調整部は前記速度応答ゲインを第2の所定値又は第2の所定割合増加させて第2の速度応答ゲインを生成し、前記速度制御部は前記第2の速度応答ゲインに基づいて第2のトルク指令を生成し、前記電流制御部は前記第2のトルク指令に基づいて第2の電圧指令を生成し、前記PWM制御部は前記第2の電圧指令に基づいて第2のPWM信号を出力する、という第2のサイクルを、前記モータ電流が前記過負荷電流設定値以上とならないまで繰り返すことを特徴とするモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを駆動するモータ制御装置の制御ゲイン調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2003−61377号公報(特許文献1)がある。この公報には、モータ制御装置において、モータに連結されて回転位置を検出する検出器を備え、モータ位置が目標位置に到達するまでの時間である位置決め時間と、モータ位置のオーバーシュートと、位置指令が変化しない状態であるサーボロック時の振動とを診断する応答診断部を備え、その診断結果に基づいて調整されたゲインにより再びモータを駆動するというサイクルを数回繰り返して、最適な制御ゲインを自動的にチューニングし、所定の評価関数が予め設定された値より小さくなった場合は終了と判断するオートチューニング機能を備えた制御方法が記載されている(請求項1参照)。
【0003】
また、特開2010−252494号公報(特許文献2)がある。この公報には、モータ制御装置において、実効負荷率もしくはモータ制御装置とモータと機械との少なくともいずれか一つの温度に関する物理量を観測或いは推測し、過負荷になる可能性が高いと判断した場合に、実効負荷率を下げる方向にトルク制御部の入力側経路に形成される制御系の制御応答性を変更する過負荷回避動作を行う構成を備えた制御方法が記載されている(請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−61377号公報
【特許文献2】特開2010−252494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、モータ制御装置において、回転位置を検出する検出器からの信号に基づいて、最適な制御ゲインを自動的にチューニングするオートチューニング機能を備えた制御方法が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の方法では、回転位置を検出する検出器が必要であり、安価な構成とならず、回転位置検出器がないシステムで使用する汎用インバータには適用されない。また、位置偏差からゲインを調整するプロセスが複雑であり、ソフトプログラムが複雑になり、ソフトウェア負荷が増大する。
【0007】
特許文献2には、実効負荷率もしくは温度に関する物理量を観測或いは推測し、過負荷になる可能性が高いと判断した場合に、実効負荷率を下げる方向に制御応答性を変更する制御方法が記載されている。
【0008】
しかし、特許文献2に記載の方法では、特許文献1同様に回転位置を検出する検出器が必要であり、汎用インバータには適用されない。また、実効負荷率を下げる方向に制御応答ゲインを変更すると記載されているが、実効負荷率を下げる程度であれば、ハンチングなど不安定現象を引き起こさないほどゲインを小さく設定すれば良い。これは過負荷回避動作のような特殊な状態のみであり、通常運転のゲインには適用できない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、複雑なソフトウェアや回転位置検出器を必要とせず、モータに供給する電流検出信号を使用した簡易な方法により、速度応答ゲインを自動調整するモータ制御装置及びその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、モータに供給されるモータ電流を検出して、電流検出信号を生成する電流検出部と、前記電流検出信号を用いて前記モータを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、速度応答ゲインに基づいて前記モータの速度を制御する速度制御部と、前記速度応答ゲインの調整を行う速度応答ゲイン調整部と、前記モータ電流が設定値以上であるか否かを判定する判定部と、を備え、前記制御部は、入力される速度応答ゲインに基づいて前記モータを制御し、前記モータ電流が前記設定値以上の場合、前記モータの制御を停止し、前記制御部で使用している速度応答ゲインを変更して再制御する、というサイクルを、前記モータ電流が前記設定値以上とならないまで繰り返すことを特徴とするモータ制御装置である。
【0011】
また、モータに供給されるモータ電流を検出して電流検出信号を生成する電流検出部と、前記電流検出信号を用いて前記モータを制御する制御部と、を備えるモータ制御装置におけるモータ制御方法であって、前記制御部は、入力される速度応答ゲインに基づいて前記モータを制御し、前記モータ電流が設定値以上であるか否かを判定し、前記モータ電流が前記設定値以上の場合、前記モータの制御を停止し、前記制御部で使用している速度応答ゲインを変更して再制御する、というサイクルを、前記モータ電流が前記設定値以上とならないまで繰り返すことを特徴とするモータ制御方法である。
【0012】
また、モータに供給される電流を検出して、電流検出信号を生成する電流検出部と、前記電流検出信号に基づいて前記モータを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、速度指令、速度フィードバック信号及び速度応答ゲインに基づいて、トルク指令を生成する速度制御部と、前記トルク指令と前記電流検出信号に基づいて、電圧指令を生成する電流制御部と、前記電圧指令と前記速度フィードバック信号に基づいて、前記モータを駆動させるためのPWM信号を出力するPWM制御部と、前記電圧指令と前記電流検出信号に基づいて、前記速度フィードバック信号を生成する速度推定部と、前記速度応答ゲインを調整する速度応答ゲイン調整部と、前記モータ電流が過負荷電流設定値以上であるか否かを判定する過負荷判定部と、を備え、前記過負荷判定部が前記モータ電流が前記過負荷電流設定値以上であると判定した場合、前記PWM制御部は前記PWM信号の出力を停止し、前記速度応答ゲイン調整部は前記速度応答ゲインを変更して新たな速度応答ゲインを生成し、前記速度制御部は前記新たな速度応答ゲインに基づいて新たなトルク指令を生成し、前記電流制御部は前記新たなトルク指令に基づいて新たな電圧指令を生成し、前記PWM制御部は前記新たな電圧指令に基づいて新たなPWM信号を出力する、というサイクルを、前記モータ電流が前記過負荷電流設定値以上とならないまで繰り返すことを特徴とするモータ制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、モータに供給される電流から簡易な方法により、最適な速度応答ゲインを自動調整するモータ制御装置及びその制御方法を提供することができる。
【0014】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)は、モータ制御装置のシステム構成ブロック図であり、(b)は、センサレスベクトル制御を適用した制御部のシステム構成ブロック図である。
【
図2】実施例1における増加型速度応答自動調整における速度応答ゲインの時系列変化例を示した図である。
【
図3】実施例1における増加型速度応答自動調整におけるモータ回転数の時系列変化例を示した図である。
【
図4】実施例1における増加型および実施例2における減少型速度応答自動調整におけるモータ電流の時系列変化例を示した図である。
【
図5】実施例2における減少型速度応答自動調整における速度応答ゲインの時系列変化例を示した図である。
【
図6】実施例2における減少型速度応答自動調整におけるモータ回転数の時系列変化例を示した図である。
【
図7】実施例3における増加型速度応答自動調整における速度応答ゲインの時系列変化例を示した図である。
【
図8】実施例4における減少型速度応答自動調整における速度応答ゲインの時系列変化例を示した図である。
【
図9】実施例5における増加型から減少型に移行する速度応答自動調整におけるフローチャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0016】
図1(a)に本実施例のモータ制御装置のシステム構成を、
図1(b)にモータ制御装置にセンサレスベクトル制御を適用した制御部の機能ブロック図の一例を示す。
【0017】
以下、実施例を図面を用いて説明する。
【0018】
三相交流電源1よりモータ制御装置2に電源が供給されモータ7を駆動する。モータ7にはクレーン等の機械に用いられる負荷9が接続されている。モータ制御装置2の内部はコンバータ部3と平滑コンデンサ4とインバータ部5とドライブ回路8とマイクロコンピュータ等で構成された制御部10で構成されている。コンバータ部3は、三相交流電源から供給される交流電圧を直流電圧に変換する。平滑コンデンサ4で平滑された直流電圧をインバータ部5で交流電力に変換する。ドライブ回路8は、制御部10で演算された駆動制御信号であるPWM(Pulse Width Modulation)信号に応じて、インバータ部5の各スイッチング素子を駆動する。制御部10が保有するソフトウェアは、
図1(b)に示す制御ブロックで構成される。
【0019】
制御部10は、速度制御部11、電流制御部12、速度推定部13、PWM制御部14、速度応答ゲイン調整部15、及び過負荷判定部16を備える。通常の運転状態において、速度制御部11は、速度応答ゲインと、設定された速度指令aと速度フィードバック信号bの偏差に基づきトルク指令cを演算する。速度推定部13は、電流フィードバック信号eと電流制御部12によって生成された電圧指令dによって速度を推定し、速度フィードバック信号bを生成する。電流検出器6は、モータ制御装置2内部に搭載されているホール素子等を用いてモータ電流を検出し、電流フィードバック信号eを生成する。電流制御部12は、電流フィードバック信号eとトルク指令cにより電流制御を行い、電圧指令dを生成する。PWM制御部14は、電流制御部12から出力される電圧指令dと速度フィードバック信号bに基づいてPWM信号fを生成する。PWM信号fがドライブ回路8に伝達され、インバータ部5を通じてモータ7が駆動される。
【0020】
速度応答自動調整において、過負荷判定部16は、モータ電流が予め設定される過負荷電流設定値以上であるか否かを判定している。判定信号gはPWM制御部14と速度応答ゲイン調整部15に送られる。判定信号gが過負荷電流設定値以上と判定された信号であれば、PWM制御部14はPWM信号の出力を停止することで運転を停止し、速度応答ゲイン調整部15はゲイン調整を行い、新たな速度応答ゲインhを速度制御部11に送る。速度制御部11は新たな速度応答ゲインに基づいて新たなトルク指令を生成し、電流制御部12は新たなトルク指令に基づいて新たな電圧指令を生成し、PWM制御部14は新たな電圧指令に基づいて新たなPWM信号を出力する、というサイクルを繰り返す。判定信号gが過負荷電流設定値未満と判定された信号であれば、PWM制御部14はそのまま運転を継続する。
【0021】
図2、
図3、
図4を用いて、第1の実施例の自動調整方法を示す。
【0022】
図2は速度応答ゲインを増加させながら自動調整(以下増加型速度応答自動調整と呼ぶ)を行う場合の速度応答ゲイン時系列変化を示す。
図3は
図2に対応するモータ回転数の時系列変化を示す。
図4は
図2、
図3に対応するモータ電流の時系列変化を示す。クレーンなどの昇降装置の場合、速度応答ゲインが適正値より小さいと、モータ回転数がインバータ出力周波数に追随できずにずり落ちてしまう現象などが見られ(
図3)、モータ電流は過度に成長する(
図4)。このようなケースの場合、増加型自動調整を実施する。増加型自動調整は、モータ電流が、予め設定しておいた過負荷電流設定値以上となった場合、運転(制御部によるモータの制御)を停止し、次回の運転前に速度応答ゲインを、所定値増加させて、自動的に再運転する。
図2では、例えば一例として予め設定される初期値の2割上げ、自動的に再運転する例を示している。この例では、モータ電流が過負荷電流設定値以下となり収束するまで速度応答ゲインを初期値の2割ずつ上げ、このサイクルを繰り返す(
図2)。
【0023】
過負荷判定部は、モータ電流が過負荷電流設定値以上であるか否かを判定し、速度応答ゲイン調整部がゲイン調整を行い、新たな速度応答ゲインを速度制御部に送るよう作用する。
【0024】
このように、本実施例では、モータ電流が過負荷電流設定値以上である場合、モータの制御を停止し、制御部で使用している速度応答ゲインを所定値増加させて、モータの制御を再度行う。そして、モータ電流が過負荷電流設定値以上とならないまで、言い換えれば、モータ回転数が速度指令に対応する設定速度に達して安定するまで、このサイクル繰り返す。これにより、複雑なソフトウェアや回転位置検出器を必要とせず、簡易な方法により、速度応答ゲインを自動調整することができる。
【実施例2】
【0025】
図5、
図6を用いて、第2の実施例の自動調整方法を示す。
【0026】
図5は速度応答ゲインを減少させながら自動調整(以下減少型速度応答自動調整と呼ぶ)を行う場合の速度応答ゲイン時系列変化を示す。
図6は
図5に対応するモータ回転数の時系列変化を示す。クレーンを含む一般負荷の場合、速度応答ゲインが適正値より大きいと、モータがハンチングやオーバーシュートを起こし(
図6)、電流が脈動的になる。この場合も
図4と同様にモータ電流が過度に成長する。このようなケースの場合、減少型自動調整を実施する。減少型自動調整は、モータ電流が予め設定しておいた過負荷電流設定値以上となった場合、運転を停止する。次回の運転前に速度応答ゲインを、所定値減少させて、自動的に再運転する。
図5では、例えば一例として初期値の2割下げておき、自動的に再運転する例を示している。この例では、モータ電流が過負荷電流設定値以下となり収束するまで速度応答ゲインを初期値の2割ずつ下げて、このサイクルを繰り返す(
図5)。
【0027】
本実施例により、複雑なソフトウェアや回転位置検出器を必要とせず、簡易な方法により、速度応答ゲインを自動調整することができる。
【実施例3】
【0028】
第3の実施例の自動調整方法を示す。
【0029】
図7は第2の増加型速度応答自動調整における速度応答ゲインの時系列変化例を示した図である。実施例1との主たる相違点は、前回の運転から次回の運転に移行した場合、速度応答ゲインを所定割合増加させる点である。
図7では、例えば一例として初期値を1.2倍した値を速度応答ゲインとして適用し、次回の運転時に、前回の設定値を1.2倍した値を適用し、運転のたびに1.2倍ずつ変更する例を示している。この例では、モータ電流が過負荷電流設定値以下となり収束するまで、速度応答ゲインを1.2倍ずつ増加させて、このサイクルを繰り返す(
図7)。
【0030】
本実施例により、複雑なソフトウェアや回転位置検出器を必要とせず、簡易な方法により、速度応答ゲインを自動調整することができる。
【実施例4】
【0031】
第4の実施例の自動調整方法を示す。
【0032】
図8は第2の減少型速度応答自動調整における速度応答ゲインの時系列変化例を示した図である。実施例2との主たる相違点は、前回の運転から次回の運転に移行した場合、速度応答ゲインを所定割合減少させる点である。
図8では、例えば一例として運転のたびに前回の設定値の0.8倍になるよう速度応答ゲインを減少させ、変更する例を示している。この例では、モータ電流が過負荷電流設定値以下となり収束するまで、速度応答ゲインを0.8倍ずつ減少させて、このサイクルを繰り返す(
図8)。
【0033】
本実施例により、複雑なソフトウェアや回転位置検出器を必要とせず、簡易な方法により、速度応答ゲインを自動調整することができる。
【0034】
また、実施例3(
図7)、実施例4(
図8)は、増加または減少倍率を高くすれば、運転回数が少なくなる効果があるが、適正値を比較的大きく離れてしまう可能性がある。また、増加または減少倍率を低くすれば、運転回数が多くなる反面、適正値を大きく離れてしまう可能性は低いという効果がある。
【実施例5】
【0035】
第5の実施例の自動調整方法を示す。
【0036】
モータの挙動や負荷の用途を推察すれば、速度応答自動調整に増加型を選択するか、減少型を選択するかはある程度推測がつく。しかし、ユーザが熟知していない場合は、増加型と減少型のどちらを選択すべか分からない場合や、判断に迷う場合もありうる。そこで、本実施例では、第1の実施例である増加型速度応答自動調整を実施し、調整がうまく行かなかった場合に、自動的に第2の実施例である減少型速度応答自動調整に移行する例を示す。これにより、ユーザにとって容易に、速度応答ゲインを自動調整することができる。
【0037】
なお、第1の実施例の増加型自動調整の代わりに第3の実施例の増加型自動調整を実施してもよいし、第2の実施例の減少型自動調整の代わりに第4の実施例の減少型自動調整を実施してもよい。また、増加型と減少型の順序を変えてもよい。
【0038】
図9は、第5の実施例のフローチャートを示す。
【0039】
スタートは増加型速度応答自動調整を行う。速度応答ゲインに予め設定された初期値を設定する(S1)。次に運転開始後(S2)、モータ電流が過負荷電流設定値未満であるか判定する(S3)。未満である場合は運転を継続する。過負荷電流設定値以上である場合は運転を停止し(S4)、所定時間待機後(S5)、総運転回数又は再運転回数が所定運転回数以下であるか否かを判定する(S6)。所定回数以下であれば、速度応答ゲインを所定値だけ増加させ(S7)、再度運転を開始する。このサイクルを繰り返し、運転回数が所定回数を超過したら(S6でNO)、減少型速度応答自動調整に移行する。
【0040】
まず、増加型速度応答自動調整の初回で使用した速度応答ゲイン初期値を設定する(S8)。前記同様に運転開始後(S9)、過負荷電流設定値の判定(S10)から、過負荷電流設定値未満である場合は運転を継続する。過負荷電流設定値以上である場合は運転を停止し(S11)、所定時間待機後(S12)、総運転回数又は再運転回数が所定運転回数以下であるか否かを判定する(S13)。所定回数以下であれば、速度応答ゲインを所定値だけ減少させ(S14)、再度運転を開始する。このサイクルを過負荷電流設定値未満となるまで繰り返す。なお、運転回数が所定回数を超過すれば調整未完で終了とする(S15)。
【0041】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0042】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0043】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…三相交流電源
2…モータ制御装置
3…コンバータ部
4…平滑コンデンサ
5…インバータ部
6…電流検出器
7…モータ
8…ドライブ回路
9…負荷
10…制御部
11…速度制御部
12…電流制御部
13…速度推定部
14…PWM制御部
15…速度応答ゲイン調整部
16…過負荷判定部