特許第6594444号(P6594444)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594444
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】軸継手
(51)【国際特許分類】
   F16D 1/02 20060101AFI20191010BHJP
   F16D 1/04 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   F16D1/02 100
   F16D1/04 200
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-553577(P2017-553577)
(86)(22)【出願日】2015年12月3日
(86)【国際出願番号】JP2015084056
(87)【国際公開番号】WO2017094171
(87)【国際公開日】20170608
【審査請求日】2018年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(73)【特許権者】
【識別番号】592153953
【氏名又は名称】鍋屋バイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】城越 教夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 敬
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−68645(JP,A)
【文献】 特開2014−52016(JP,A)
【文献】 特開平10−131976(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/027383(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/02
F16D 1/04
F16D 1/08
F16D 3/72
F16B 39/02
F16B 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のカップリング本体と、
前記カップリング本体の一方の第1端面から軸線方向に所定距離の位置において、前記カップリング本体を、前記軸線方向に所定の角度範囲に亘って分断している第1スリットと、
前記カップリング本体における前記第1端面から前記第1スリットまでの間の部分によって規定される軸締結部と、
前記軸締結部を周方向に分断している第2スリットと、
前記軸締結部の内周面によって規定され、前記第1端面に開口している締結用軸穴と、
前記第2スリットを挟み対峙している前記軸締結部の第1、第2周方向端面を相互に離れる方向および接近する方向に前記軸締結部を変形させる押し拡げ力および締結力を発生可能な押圧機構と、
を有しており、
前記軸締結部が変形前の状態では、前記締結用軸穴は、締結対象の軸に対して、しまりばめ状態あるいは中間ばめ状態を形成可能な内径寸法を備え、
前記押圧機構による所定の前記押し拡げ力が作用している押し拡げ状態では、前記締結用軸穴は、前記軸との間に隙間が形成される内径寸法を備えており、
前記軸締結部における前記第1周方向端面の側の端部を第1周方向端部、前記第2周方向端面の側の端部を第2周方向端部とすると、
前記押圧機構は、
前記第1周方向端部に形成したボルト挿通穴と、
前記第2周方向端部に形成したボルトねじ穴と、
前記ボルト挿通穴を通って前記ボルトねじ穴にねじ込まれた状態に配置され、前記第2周方向端部に対して接近および離れる方向には移動しないように、前記第1周方向端部に係合している締結ボルトと、
前記第1周方向端部に固定したボルト係合ピンと
を備えており、
前記締結ボルトは、前記第1周方向端部に対して、前記第2周方向端部とは反対側から係合しているボルト頭部を備え、
前記ボルト係合ピンは、前記ボルト頭部に対して、前記第2周方向端部とは反対側から係合しており、
前記第1周方向端部には当該第1周方向端部の外周面に露出する凹部が形成され、当該凹部の端面に前記ボルト挿通穴が開口しており、
前記締結ボルトのボルト頭部は、前記凹部の端面に当接しており、
前記ボルト係合ピンは、前記第1端面から前記カップリング本体に打ち込まれ、当該ボルト係合ピンのピン脚部は、前記凹部内に突出していると共に、前記ボルト頭部に形成されている六角穴に掛からないように前記ボルト頭部の中心に対してオフセットした位置において当該ボルト頭部に係合している軸継手。
【請求項2】
請求項1において、
前記カップリング本体における前記軸締結部に隣接する隣接筒部分は、前記締結用軸穴に対して同軸に繋がっている軸挿入穴を備えており、
前記軸挿入穴は、前記締結用軸穴に挿入される連結対象の軸の先端部分が挿入される穴であり、当該軸の外径寸法よりも大きな内径寸法を備えている軸継手。
【請求項3】
請求項1において、
前記カップリング本体における前記軸締結部に隣接する隣接筒部は、前記締結用軸穴に対して同軸に繋がっている軸挿入穴を備えており、
前記軸挿入穴は、締結対象の軸の外径寸法よりも大きな内径寸法を備えており、
前記カップリング本体は、前記第1端面とは反対側の第2端面から前記軸線方向に所定の長さの軸連結用筒部を備えており、
前記軸連結用筒部の円形内周面によって前記第2端面に開口する軸連結穴が規定されている軸継手。
【請求項4】
請求項1または3において、
前記締結ボルトは、
前記変形前の状態では、前記ボルトねじ穴に所定量だけねじ込まれた第1位置にあり、
前記押し広げ状態では、前記第1位置よりも前記ボルトねじ穴から引き抜かれた第2位置にあり、
前記軸締結部に対して所定の前記締結力が作用している締結状態では、前記第1位置よりも前記ボルトねじ穴にねじ込まれた第3位置にある軸継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2本の軸を同軸に連結する場合等に用いられるすり割り式の軸継手に関する。さらに詳しくは、軸継手のすり割りの付いている軸締結部に対して、偏心を抑制し連結対象の軸を、締結ボルト等によって締結固定することのできる軸継手に関する。
【背景技術】
【0002】
すり割り式の軸継手では、すり割り(スリット)の付いている円筒状の軸締結部に連結対象の一方の軸を挿入し、この状態で軸締結部を締結ボルトによって締結して、当該軸締結部に軸を同軸に締結固定している。
【0003】
特許文献1には、リジッドタイプの軸継手において締結した軸に傾きが生じることを防止あるいは抑制可能な構造が提案されている。ここに開示のリジッドタイプの軸継手では、締結対象の軸が挿入される軸穴において、軸締結部の軸穴部分に比べて、軸方向に隣接する軸穴部分の内径寸法を僅かに大きくしている。これにより、軸締結部を締結ボルトによって締結した際において、軸に対する軸穴内周面の接触面圧の不均衡を緩和して、軸の傾きを抑制し軸締結部に締結固定できるようにしている。
【0004】
一方、すり割り式の軸継手としては、特許文献2、および、特許文献3に記載されているようなフレキシブルタイプの軸継手も知られている。特許文献2に記載のフレキシブルタイプの軸継手は、連結対象の一方の軸が締結固定されるすり割り付きの第1連結部材と、連結対象の他方の軸が締結固定されるすり割り付きの第2連結部材とが弾性体を介して同軸に連結された構造をしている。特許文献3に記載のフレキシブルタイプの軸継手は、連結対象の一方の軸が締結固定されるすり割り付きの第1連結部材と、連結対象の他方の軸が締結固定されるすり割り付きの第2連結部材とが第3の金属体を介して同軸に連結された構造をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/027383号
【特許文献2】特開2008−241029号公報
【特許文献3】特開2001−295851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、軸継手においては、すり割りの付いている円筒状の軸締結部に形成した軸穴に、連結対象の軸を挿入できるように、軸穴内径寸法が軸外径寸法よりも僅かに大きい。このため、軸穴に軸を挿入した状態において、軸穴内周面と軸外周面との間に隙間が生じる。軸締結部が締結ボルトによって締結されると、軸が軸穴に対して一方に片寄り、軸は偏心状態で軸締結部に固定されるおそれがある。
【0007】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、連結対象の軸を、偏心誤差を抑制し連結可能な軸継手を提供することにある。
【0008】
また、本発明の課題は、連結対象の軸を、偏心および偏角誤差を抑制し連結可能な軸継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の軸継手は、
筒状のカップリング本体と、
前記カップリング本体の一方の第1端面から軸線方向に所定距離の位置において、前記カップリング本体を、前記軸線方向に所定の角度範囲に亘って分断している第1スリットと、
前記カップリング本体における前記第1端面から前記第1スリットまでの間の部分によって規定される軸締結部と、
前記軸締結部を周方向に分断している第2スリットと、
前記軸締結部の内周面によって規定され、前記第1端面に開口している締結用軸穴と、
前記第2スリットを挟み対峙している前記軸締結部の第1、第2周方向端面を相互に離れる方向および接近する方向に前記軸締結部を変形させる押し拡げ力および締結力を発生可能な押圧機構と、
を有しており、
前記軸締結部が変形前の状態では、前記締結用軸穴は、締結対象の軸に対して、しまりばめ状態あるいは中間ばめ状態を形成可能な内径寸法を備え、
前記押圧機構による所定の前記押し拡げ力が作用している押し拡げ状態では、前記締結用軸穴は、前記軸との間に隙間が形成される内径寸法を備えていることを特徴としている。
【0010】
本発明の軸継手では、締結用軸穴が連結対象の軸と同一寸法となるように製作される(変形前の状態)。締結用軸穴に連結対象の軸を挿入する際には、締結用軸穴に軸を挿入できるように、押圧機構から軸締結部に押し拡げ力を加えて当該軸締結部を押し拡げる(押し拡げ状態)。押し拡げた締結用軸穴に軸を挿入した後は、押圧機構による押し拡げ力を解除する。
【0011】
押圧機構による押し拡げ力を解除すると、軸締結部の弾性復帰力によって軸穴は元の大きさに戻ろうとする。これにより、締結用軸穴に対して隙間が実質的に無い状態で、軸が締結用軸穴に装着された状態になる。この状態から、押圧機構によって軸締結部に締結力を加えて当該軸締結部を押し窄めると、締結用軸穴と軸との間の隙間に起因する軸の偏心が生じない状態で、軸締結部に軸が締結固定された締結固定状態が形成される。
【0012】
実際には、軸とのはめあい公差を「中間ばめ」として製作することで、押し拡げ力を解除した時に、軸との間に「すきま」もしくは「しめしろ」のある状態であるが、軸と穴の寸法差を小さくすることができる。これにより、軸と穴の間の隙間に起因する軸の偏心誤差を抑制できる。
【0013】
本発明において、前記軸締結部における前記第1周方向端面の側の端部を第1周方向端部、前記第2周方向端面の側の端部を第2周方向端部とすると、前記押圧機構は
前記第1周方向端部に形成したボルト挿通穴と、
前記第2周方向端部に形成したボルトねじ穴と、
前記ボルト挿通穴を通って前記ボルトねじ穴にねじ込まれた状態に配置され、前記第2周方向端部に対して接近および離れる方向には移動しないように、前記第1周方向端部に係合している締結ボルトと、
を備えている。
【0014】
この場合には、前記締結ボルトは、前記変形前の状態では、前記ボルトねじ穴に所定量だけねじ込まれた第1位置にある。前記押し拡げ状態では、前記第1位置に対して前記ボルトねじ穴から引き抜かれる方向に所定量だけ回された第2位置とされる。締結ボルトは、第1周方向端部に係合しているので、締結ボルトを第2周方向端部から引き抜く方向に回すと、締結ボルトが第2周方向端部から引き抜かれる量だけ、第1周方向端部は第2周方向端部から離れる方向に押される。この結果、第2スリットが広げられて、締結用軸穴が押し拡げられて軸よりも僅かに大きくなる。
【0015】
締結ボルトを第2周方向端部に向けてねじ込まれる方向に回して、前記第1位置よりも更に第2周方向端部にねじ込まれた第3位置にすると、締結ボルトが第2周方向端部にねじ込まれた量だけ、第1周方向端部は第2周方向端部に接近する方向に押し込まれる。よって、第2スリットが狭められ、締結用軸穴が押し窄められて、締結用軸穴が挿入されている軸を、十分な締結力で締結固定可能な状態になる。
【0016】
本発明において、締結ボルトを、前記第2周方向端部に対して接近および離れる方向には移動しないように、第1周方向端部に係合させるために、次の構成を採用している。すなわち
前記締結ボルトは、前記第1周方向端部に対して、前記第2周方向端部とは反対側から係合しているボルト頭部を備え、
前記ボルト係合ピンは、前記ボルト頭部に対して、前記第2周方向端部とは反対側から係合しており、
前記第1周方向端部には当該第1周方向端部の外周面に露出する凹部が形成され、当該凹部の端面に前記ボルト挿通穴が開口しており、
前記締結ボルトのボルト頭部は、前記凹部の端面に当接しており、
前記ボルト係合ピンは、前記第1端面から前記カップリング本体に打ち込まれ、当該ボルト係合ピンのピン脚部は、前記凹部内に突出していると共に、前記ボルト頭部に形成されている六角穴に掛からないように前記ボルト頭部の中心に対してオフセットした位置において当該ボルト頭部に係合している。
【0017】
この構成によれば、ボルト係合ピンを取り付けるだけで、締結ボルトによって、軸締結部を押し広げる方向、および、押し窄める方向に押圧可能な押圧機構を実現できる。
【0018】
次に、本発明の軸継手においては、上記構成に加えて、
前記カップリング本体における前記軸締結部に隣接する隣接筒部分は、前記締結用軸穴に対して同軸に繋がっている軸挿入穴を備えており、
前記軸挿入穴は、前記締結用軸穴に挿入される軸の先端部分が挿入される穴であり、当該軸の外径寸法よりも大きな内径寸法を備えていることが望ましい。
【0019】
軸締結部を締結ボルトによって押し窄める方向に変形させた際に、当該軸締結部に繋がっている隣接筒部分の軸挿入穴の内周面部分が軸の外周面を半径方向に押し付けて、軸に傾きが生じるおそれがある。本発明では、連結対象の軸の先端部分が挿入される軸挿入穴を、当該軸よりも僅か大きくしてあるので、軸が傾いた状態で締結されることを防止あるいは抑制できる。よって、偏心、偏角の生じない状態で軸を軸締結部に締結固定することができる。
【0020】
次に、2本の軸を、軸継手を用いて同軸に連結する場合には、本発明の軸継手は、上記構成に加えて、
前記カップリング本体は、前記第1端面とは反対側の第2端面から前記軸線方向に所定の長さの軸連結用筒部分を備えており、
前記軸連結用筒部分の円形内周面によって前記第2端面に開口する第2軸穴が規定される。
【0021】
この構成の軸継手においては、その第2軸穴に圧入固定などの方法によって一方の軸を同軸となるように連結する。他方の軸は、反対側の軸締結部に対して上記のように心ずれ、傾きを抑制し、精度良く締結固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明を適用したリジッドタイプの軸継手に2本の軸を連結した状態を示す斜視図である。
図2図1の軸継手を、その軸線を含む平面で切断した状態で示す斜視図である。
図3図2の軸継手の穴内周面を示す拡大部分断面図である。
図4図1の軸継手の軸締結部の押圧機構を示す部分斜視図、軸締結部を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した軸継手の実施の形態を説明する。
【0024】
図1は本発明を適用したリジッドタイプの軸継手(以下、「リジッドカップリング」と呼ぶ。)を示す斜視図であり、図2はその軸線を含む平面で切断した状態での斜視図であり、図3はリジッドカップリングの穴内周面を示す拡大部分断面図である。
【0025】
これらの図を参照して説明すると、リジッドカップリング1は、円筒状のカップリング本体2と、締結ボルト3を備えた押圧機構4とを有している。カップリング本体2における軸線1aの方向における一方の端面2aに開口している第1軸穴5(締結用軸穴)には連結対象の一方の軸6が挿入されて、締結ボルト3によってカップリング本体2に対して同軸状態で締結固定される。カップリング本体2の軸線1aの方向の他方の端面2bに開口している第2軸穴7には、連結対象の他方の軸8が例えば同軸状態で圧入固定される。これにより、双方の軸6、8がリジッドカップリング1を介して同軸に連結された状態が形成される。
【0026】
カップリング本体2は、その一方の端面2aから他方の端面2bに向けて、大径の円筒部11、これよりも小径の円筒部12、および、これよりも更に小径の円筒部13が同軸に形成されている。大径の円筒部11においては、端面2aから軸線1aの方向に所定の距離の位置に、略180度の角度範囲に亘って円周方向に延びる一定幅の第1スリット14が形成されている。第1スリット14によって、円筒部11は、第1スリット14が形成されている部分が軸線1aの方向において分断されている。
【0027】
また、円筒部11には、端面2aから軸線1aの方向に延びる一定幅の第2スリット15が形成されている。第2スリット15は第1スリット14に繋がっており、当該第1スリット14を超えた位置まで延びている。第2スリット15によって、円筒部11における端面2aから第1スリット14までの部分が円周方向において分断されている。この第2スリット15が形成されている部分は、締結ボルト3によって軸6を締結固定するための軸締結部16として機能する。
【0028】
カップリング本体2の端面2aに開口している第1軸穴5は、図2図3に示すように、円筒部11における軸締結部16の円形内周面16aによって規定される穴部分である。円筒部11における軸締結部16に隣接する隣接円筒部分17および円筒部12の途中位置までは、円形の軸挿入穴18が形成されている。軸挿入穴18は第1軸穴5に同軸に繋がっている。連結対象の一方の軸6は、端面2aの側から第1軸穴5を通って軸挿入穴18の途中位置まで挿入される。
【0029】
これに対して、他方の端面2bに開口している第2軸穴7は、第1軸穴5よりも小径の円形軸穴であり、円筒部13における軸線1aの方向の途中位置まで延びている。この第2軸穴7と軸挿入穴18は同軸に形成されており、これらの穴よりも小径の円形連通穴19を介して相互に繋がっている。
【0030】
ここで、軸6が挿入される第1軸穴5は、図3に示すように、その内径寸法d(5)が軸6の外径寸法d(6)と同一寸法となるように製作されている。換言すると、軸6に対する第1軸穴5のはめあい公差が中間ばめとなるように加工されている。これに対して、軸挿入穴18の内径寸法d(18)は、軸6との間に必ず隙間が形成される大きさに設定されている。換言すると、軸6に対する軸挿入孔のはめあい公差がプラスとなるように加工されている。したがって、軸締結部16の円形内周面16aと、これに連続している軸挿入穴18の円形内周面18aとの間には、円弧形状の段差面20が付いている。
【0031】
次に、図4(a)はリジッドカップリング1の軸締結部16の押圧機構4を示す部分斜視図であり、図4(b)はその横断面図である。
【0032】
押圧機構4は第2スリット15によって周方向に分断されている軸締結部16を押し拡げる方向および押し窄める方向に変形させる機構である。軸締結部16は第2スリット15によって分断されて、当該第2スリット15を挟み、第1周方向端面21aおよび第2周方向端面22aが対峙している。押圧機構4は、六角穴付き締結ボルト3によって、第1、第2周方向端面21a、22aが離れる方向および接近する方向に、軸締結部16を変形させることができる。
【0033】
軸締結部16における第1周方向端面21aの側の端部を第1周方向端部21、第2周方向端面22aの側の端部を第2周方向端部22とすると、押圧機構4は、第1周方向端部21に形成したボルト挿通穴23と、第2周方向端部22に形成したボルトねじ穴24とを備えている。第1周方向端部21には外周面に露出する凹部25が形成され、この凹部25の端面25aにボルト挿通穴23が開口している。ボルト挿通穴23、ボルトねじ穴24は第2スリット15に直交する方向(軸締結部16の半径方向に直交する方向)に同軸に形成されている。締結ボルト3は、ボルト挿通穴23を通ってボルトねじ穴24にねじ込まれた状態に配置されている。
【0034】
ここで、締結ボルト3は、第2周方向端部22に接近および離れる方向には移動しないように第1周方向端部21に係合している。すなわち、締結ボルト3のボルト頭部3aは、ボルト挿通穴23が開口している凹部25の端面25aに当接している。また、押圧機構4は、第1周方向端部21に固定したボルト係合ピン26を備えている。ボルト係合ピン26は、カップリング本体2の端面2aから軸線1aに沿った方向に打ち込まれて、そのピン脚部26aが凹部25内に突出している。ピン脚部26aは、ボルト頭部3aに対して、第2周方向端部22とは反対側から係合している。具体的には、ピン脚部26aは、ボルト頭部3aの六角穴に挿入されるボルト締結用工具の邪魔にならないように、ボルト頭部3aの中心に対してオフセットした位置においてボルト頭部3aに係合している。
【0035】
リジッドカップリング1の締結用の第1軸穴5に軸6を同軸となるように連結する手順を説明する。初期状態においては、締結ボルト3は、ボルトねじ穴24に所定量だけねじ込まれた第1位置にある。この状態では、軸締結部16は元の形状のままであり、その第1軸穴5の内径寸法d(5)は連結対象の軸6の外径寸法d(6)に対して、中間ばめとなる寸法である。
【0036】
この状態(変形前の状態)において、締結ボルト3をボルトねじ穴24から引き抜かれる方向に所定量だけ回す。締結ボルト3のボルト頭部3aは、ボルト軸線3bの方向において、第1周方向端部21の凹部25の端面25aと、当該第1周方向端部21に固定したボルト係合ピン26との間に挟まれている。締結ボルト3を引き抜く方向に所定量だけ回して第2位置に移動させる。これにより、第2周方向端部22の側から引き抜かれる方向に移動した締結ボルト3によって、第1周方向端部21が第2周方向端部22から離れる方向に押される。この結果、第2スリット15のスリット幅が拡がり、第1軸穴5が押し拡げられて、軸6よりも大きくなる(押し拡げ状態)。これにより、軸6を第1軸穴5に挿入することができる。軸6は第1軸穴5から軸挿入穴18の途中位置まで挿入される。
【0037】
この後は、締結ボルト3をボルトねじ穴24にねじ込まれる方向に回して、初期の第1位置よりも第2周方向端部22の側の第3位置まで移動させる。締結ボルト3が第2周方向端部22にねじ込まれる量だけ、第1周方向端部21が第2周方向端部22に接近する方向に押し込まれる。よって、第2スリット15が狭められ、第1軸穴5が押し窄められて、当該第1軸穴5に挿入されている軸6が締結固定された締結固定状態が形成される。
【0038】
このように、第1軸穴5は軸6に対してはめあい公差が中間ばめとなるように設定されており、この第1軸穴5を強制的に押し拡げて軸6を挿入し、然る後に、第1軸穴5を元の状態よりも更に押し窄めている。よって、すきまばめ状態の軸穴に軸を挿入して軸穴を締め付ける場合とは異なり、締結時に軸穴と軸との間に隙間が形成されないので、軸を芯ずれなく締結固定することができる。
【0039】
また、第1軸穴5よりも奥の側の軸挿入穴18の内径寸法d(18)は軸6よりも僅かに大きくしてある。したがって、軸締結部16の締結時に、この軸締結部16に繋がっている軸挿入穴18の内周面部分によって軸6が半径方向に押圧されて傾きが生じることがない。よって、軸を傾きなく締結固定することができる。
【0040】
(その他の実施の形態)
上記の実施の形態は、本発明をリジッドカップリングに適用した場合のものである。本発明は、フレキシブルタイプの軸継手にも同様に適用可能である。例えば、特許文献2(特開2008−241029号公報)の図8図9や、特許文献3(特開2001−295851号公報)の図3に記載されている軸継手にも適用可能である。
【0041】
例えば、このような軸継手は、連結対象の一方の軸が締結固定される軸穴を備えたすり割り付きの筒状の第1連結部材と、連結対象の他方の軸が締結固定される軸穴を備えたすり割り付きの第2連結部材と、これら第1、第2連結部材を同軸に連結して一体化している弾性体、もしくは、第3の金属体とを備えている。弾性体は、例えば、過酸化加硫された水素化ニトリルゴム、硫黄加硫された水素化ニトリルゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、プロピレンゴム、フッ素ゴムなどから形成される成形体であり、例えば、インサート成形により、第1、第2連結部材が弾性部材を介して一体化される。第3の金属体は、例えば、A2017やA7075等のアルミニウム、SUS303、SUS304等のステンレス、S45C等の鉄などを材料として加工された金属体であり、例えば、ねじ締結により第1、第2連結部材が第3の金属体を介して一体化される。
【0042】
この場合、例えば、前述の実施の形態における筒状のカップリング本体を、一方の軸が締結固定される第1連結部材と、他方の軸が締結固定される第2連結部材と、これら第1、第2連結部材を連結している弾性部材、もしくは第3の金属体とによって構成する。そして、例えば、第1連結部材を、次の構成を備えた部分とすればよい。
【0043】
すなわち、第1連結部材は、その一方の第1端面から軸線方向に所定距離の位置において、当該第1連結部材を、軸線方向に所定の角度範囲に亘って分断している第1スリットと、第1連結部材における第1端面から第1スリットまでの間の部分によって規定される軸締結部と、軸締結部を周方向に分断している第2スリットと、軸締結部の内周面によって規定され、第1端面に開口している締結用軸穴と、第2スリットを挟み対峙している軸締結部の第1、第2周方向端面を相互に離れる方向および接近する方向に軸締結部を変形させる押し拡げ力および締結力を発生可能な押圧機構とを有しており、軸締結部が変形前の状態では、締結用軸穴は、締結対象の軸に対して、しまりばめ状態あるいは中間ばめ状態を形成可能な内径寸法を備え、押圧機構による所定の押し拡げ力が作用している押し拡げ状態では、締結用軸穴は、軸との間に隙間が形成される内径寸法を備えている。
図1
図2
図3
図4