【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の軸継手は、
筒状のカップリング本体と、
前記カップリング本体の一方の第1端面から軸線方向に所定距離の位置において、前記カップリング本体を、前記軸線方向に所定の角度範囲に亘って分断している第1スリットと、
前記カップリング本体における前記第1端面から前記第1スリットまでの間の部分によって規定される軸締結部と、
前記軸締結部を周方向に分断している第2スリットと、
前記軸締結部の内周面によって規定され、前記第1端面に開口している締結用軸穴と、
前記第2スリットを挟み対峙している前記軸締結部の第1、第2周方向端面を相互に離れる方向および接近する方向に前記軸締結部を変形させる押し拡げ力および締結力を発生可能な押圧機構と、
を有しており、
前記軸締結部が変形前の状態では、前記締結用軸穴は、締結対象の軸に対して、しまりばめ状態あるいは中間ばめ状態を形成可能な内径寸法を備え、
前記押圧機構による所定の前記押し拡げ力が作用している押し拡げ状態では、前記締結用軸穴は、前記軸との間に隙間が形成される内径寸法を備えていることを特徴としている。
【0010】
本発明の軸継手では、締結用軸穴が連結対象の軸と同一寸法となるように製作される(変形前の状態)。締結用軸穴に連結対象の軸を挿入する際には、締結用軸穴に軸を挿入できるように、押圧機構から軸締結部に押し拡げ力を加えて当該軸締結部を押し拡げる(押し拡げ状態)。押し拡げた締結用軸穴に軸を挿入した後は、押圧機構による押し拡げ力を解除する。
【0011】
押圧機構による押し拡げ力を解除すると、軸締結部の弾性復帰力によって軸穴は元の大きさに戻ろうとする。これにより、締結用軸穴に対して隙間が実質的に無い状態で、軸が締結用軸穴に装着された状態になる。この状態から、押圧機構によって軸締結部に締結力を加えて当該軸締結部を押し窄めると、締結用軸穴と軸との間の隙間に起因する軸の偏心が生じない状態で、軸締結部に軸が締結固定された締結固定状態が形成される。
【0012】
実際には、軸とのはめあい公差を「中間ばめ」として製作することで、押し拡げ力を解除した時に、軸との間に「すきま」もしくは「しめしろ」のある状態であるが、軸と穴の寸法差を小さくすることができる。これにより、軸と穴の間の隙間に起因する軸の偏心誤差を抑制できる。
【0013】
本発明において、前記軸締結部における前記第1周方向端面の側の端部を第1周方向端部、前記第2周方向端面の側の端部を第2周方向端部とすると、前記押圧機構は
、
前記第1周方向端部に形成したボルト挿通穴と、
前記第2周方向端部に形成したボルトねじ穴と、
前記ボルト挿通穴を通って前記ボルトねじ穴にねじ込まれた状態に配置され、前記第2周方向端部に対して接近および離れる方向には移動しないように、前記第1周方向端部に係合している締結ボルトと、
を備えている。
【0014】
この場合には、前記締結ボルトは、前記変形前の状態では、前記ボルトねじ穴に所定量だけねじ込まれた第1位置にある。前記押し拡げ状態では、前記第1位置に対して前記ボルトねじ穴から引き抜かれる方向に所定量だけ回された第2位置とされる。締結ボルトは、第1周方向端部に係合しているので、締結ボルトを第2周方向端部から引き抜く方向に回すと、締結ボルトが第2周方向端部から引き抜かれる量だけ、第1周方向端部は第2周方向端部から離れる方向に押される。この結果、第2スリットが広げられて、締結用軸穴が押し拡げられて軸よりも僅かに大きくなる。
【0015】
締結ボルトを第2周方向端部に向けてねじ込まれる方向に回して、前記第1位置よりも更に第2周方向端部にねじ込まれた第3位置にすると、締結ボルトが第2周方向端部にねじ込まれた量だけ、第1周方向端部は第2周方向端部に接近する方向に押し込まれる。よって、第2スリットが狭められ、締結用軸穴が押し窄められて、締結用軸穴が挿入されている軸を、十分な締結力で締結固定可能な状態になる。
【0016】
本発明において、締結ボルトを、前記第2周方向端部に対して接近および離れる方向には移動しないように、第1周方向端部に係合させるために、次の構成を採用
している。すなわち
、
前記締結ボルトは、前記第1周方向端部に対して、前記第2周方向端部とは反対側から係合しているボルト頭部を備え、
前記ボルト係合ピンは、前記ボルト頭部に対して、前記第2周方向端部とは反対側から係合して
おり、
前記第1周方向端部には当該第1周方向端部の外周面に露出する凹部が形成され、当該凹部の端面に前記ボルト挿通穴が開口しており、
前記締結ボルトのボルト頭部は、前記凹部の端面に当接しており、
前記ボルト係合ピンは、前記第1端面から前記カップリング本体に打ち込まれ、当該ボルト係合ピンのピン脚部は、前記凹部内に突出していると共に、前記ボルト頭部に形成されている六角穴に掛からないように前記ボルト頭部の中心に対してオフセットした位置において当該ボルト頭部に係合している。
【0017】
この構成によれば、ボルト係合ピンを取り付けるだけで、締結ボルトによって、軸締結部を押し広げる方向、および、押し窄める方向に押圧可能な押圧機構を実現できる。
【0018】
次に、本発明の軸継手においては、上記構成に加えて、
前記カップリング本体における前記軸締結部に隣接する隣接筒部分は、前記締結用軸穴に対して同軸に繋がっている軸挿入穴を備えており、
前記軸挿入穴は、前記締結用軸穴に挿入される軸の先端部分が挿入される穴であり、当該軸の外径寸法よりも大きな内径寸法を備えていることが望ましい。
【0019】
軸締結部を締結ボルトによって押し窄める方向に変形させた際に、当該軸締結部に繋がっている隣接筒部分の軸挿入穴の内周面部分が軸の外周面を半径方向に押し付けて、軸に傾きが生じるおそれがある。本発明では、連結対象の軸の先端部分が挿入される軸挿入穴を、当該軸よりも僅か大きくしてあるので、軸が傾いた状態で締結されることを防止あるいは抑制できる。よって、偏心、偏角の生じない状態で軸を軸締結部に締結固定することができる。
【0020】
次に、2本の軸を、軸継手を用いて同軸に連結する場合には、本発明の軸継手は、上記構成に加えて、
前記カップリング本体は、前記第1端面とは反対側の第2端面から前記軸線方向に所定の長さの軸連結用筒部分を備えており、
前記軸連結用筒部分の円形内周面によって前記第2端面に開口する第2軸穴が規定される。
【0021】
この構成の軸継手においては、その第2軸穴に圧入固定などの方法によって一方の軸を同軸となるように連結する。他方の軸は、反対側の軸締結部に対して上記のように心ずれ、傾きを抑制し、精度良く締結固定できる。