(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594558
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】放射線硬化性コーティング組成物、耐引掻性コーティングを製造する方法、コーティング組成物を使用する方法、およびコーティング組成物でコー
(51)【国際特許分類】
C09D 175/16 20060101AFI20191010BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20191010BHJP
C09D 7/48 20180101ALI20191010BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20191010BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20191010BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20191010BHJP
B05D 7/02 20060101ALI20191010BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20191010BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20191010BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20191010BHJP
C08J 7/04 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
C09D175/16
C09D4/02
C09D7/48
C09D7/63
C08F290/06
C08F2/50
B05D7/02
B05D3/06 102Z
B05D5/00 B
B05D7/24 302T
B05D7/24 302P
B05D7/24 302V
B05D7/24 303A
B05D7/24 303E
B05D7/24 301T
C08J7/04 KCFD
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-538588(P2018-538588)
(86)(22)【出願日】2017年1月16日
(65)【公表番号】特表2019-509362(P2019-509362A)
(43)【公表日】2019年4月4日
(86)【国際出願番号】EP2017050772
(87)【国際公開番号】WO2017125339
(87)【国際公開日】20170727
【審査請求日】2018年9月4日
(31)【優先権主張番号】16152256.0
(32)【優先日】2016年1月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】コッファー,イザベル
(72)【発明者】
【氏名】クライン,ギュンター
(72)【発明者】
【氏名】マイエンフェルス,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンキンク,ウルリケ
(72)【発明者】
【氏名】ライトナー,トマス
【審査官】
上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−052660(JP,A)
【文献】
特開2011−219691(JP,A)
【文献】
特開2010−254840(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/035265(WO,A1)
【文献】
特開2012−180487(JP,A)
【文献】
特表2013−518943(JP,A)
【文献】
特開2007−191530(JP,A)
【文献】
特開2014−070211(JP,A)
【文献】
特開2013−241556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/00
B05D 3/00
B05D 5/00
B05D 7/00
C08F 2/00
C08F 290/00
C08J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート三量体およびブタンジオールモノアクリレートから製造される少なくとも1種のウレタンアクリレートを含む、特にポリカーボネート表面上に耐引掻性コーティングを製造するための、放射線硬化性コーティング組成物であって、前記イソシアヌレート三量体は、19.6〜24.0質量%のNCO含量および175〜214当量を有し、
前記ウレタンアクリレートは、イソシアヌレート三量体とブタンジオールモノアクリレートとの質量比1.0:0.65〜1.0:0.9を有し、前記コーティング組成物は、
i) 45.0〜59.0質量% の少なくとも1種のウレタンアクリレート、
ii) 25.0〜37.0質量% の少なくとも1種の四官能性ポリエステルアクリレートモノマー、
iii) 8.0〜12.0質量% の少なくとも1種のジオールジアクリレートエステルおよび/または少なくとも1種のモノアクリレートエステル、
iv) 2.3〜3.5質量% の少なくとも1種の光開始剤、
v) 2.1〜3.1質量% の少なくとも1種の反応性アクリロイルトリアゾールUV吸収剤、
vi) 1.5〜2.0質量% の少なくとも1種の非反応性UV吸収剤、
vii) 0.7〜1.0質量% の少なくとも1種の立体障害アミン、および
viii) 0.4〜0.9質量% の少なくとも1種の流れ調整剤、
を含み、
質量パーセントの範囲が、記載された成分i)〜viii)の固形分の合計に対してであり、それらの合計が100質量%である、放射線硬化性コーティング組成物。
【請求項2】
成分i)〜viii)の固形分の合計に対して、45.0〜55.0質量%の前記ウレタンアクリレートを含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記四官能性ポリエステルアクリレートモノマーがエーテル結合を有する、請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
成分iii)がジオールジアクリレートエステルである、請求項1から3のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記ジオールジアクリレートエステルが、最も長い炭素鎖に2〜12個の炭素原子を含む、請求項4に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記光開始剤が、少なくとも1種のリン含有化合物を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記光開始剤が、少なくとも1種のリン含有化合物と少なくとも1種の芳香族α−ヒドロキシケトンとの混合物を含む、請求項6に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記反応性アクリロイルトリアゾールUV吸収剤が、アクリロイルフェノールベンゾトリアゾールである、請求項1から7のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
前記立体障害アミンが、セバシン酸のジエステルである、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
UV照射で硬化可能である、請求項1から9のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
クリアコート材料である、請求項1から10のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
i)ポリカーボネート表面上に、請求項1から11のいずれか一項に記載のコーティング組成物を塗布し、
ii)コーティング組成物をUV照射で硬化させる
ことにより、ポリカーボネート表面上に耐引掻性コーティングを製造する方法。
【請求項13】
前記耐引掻性コーティングの乾燥膜厚が8〜25μmである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
引掻傷および風化の影響から車両用ヘッドランプの表面を保護するためのコーティングを製造するための、請求項1から11のいずれか一項に記載のコーティング組成物を使用する方法。
【請求項15】
請求項1から11のいずれか一項に記載の硬化コーティング組成物でコーティングされた基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート三量体およびブタンジオールモノアクリレートの少なくとも1種のウレタンアクリレートを含む、特にポリカーボネート表面上に耐引掻性コーティングを製造するための、放射線硬化性コーティング組成物に関する。本発明はまた、ポリカーボネート表面上に耐引掻性コーティングを製造する方法、このコーティング組成物を使用する方法、およびそれに応じてコーティングされた基材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ヘッドランプのガラスまたはレンズは、最適な光学収率、高い透明性、容易な成形性を示すことが必要であり、これにより、所望の形状、高い堅牢性(強度)および適切な質量にすることができることが公知である。これらの特性のすべてが、実際のガラス製の従来のガラスまたはレンズで得られるわけではない。現在の傾向は、より軽量でより容易に成形できるポリマー材料製のレンズによって、ガラス製のレンズを置き換えることである。この観点から最適であると考えられる材料の1つは、ポリカーボネートであり、これはまた、実際のガラスの光学特性と一致またはほぼ一致する光学特性を有する。
【0003】
それにもかかわらず、ポリカーボネートは特に柔らかい材料であり、したがって引掻傷が生じやすく、これによりレンズ(ガラス)の光学特性の劣化をもたらすことが公知である。さらに、日光または環境影響および/または化学薬品に長時間曝露されることにより、老化がもたらされ、レンズ(ガラス)が脆くなり、特に黄変を起こし、したがって透明性を失うことがある。
【0004】
これらの問題を解決するために、ポリカーボネート(または他の類似のポリマー材料)製のヘッドランプ用のレンズまたはガラスは、特別な透明ワニスの塗布によって、少なくとも使用中に環境に曝露されたその外面上において、保護しなければならない。
【0005】
冒頭に明記したタイプの放射線硬化性コーティング組成物は、DE69615819T2から公知である。公知のコーティング組成物は、引掻傷および風化効果に対抗するために、車両用ヘッドランプ用のプラスチックレンズ又はガラスに良好な保護を提供するが、この工程をさらに改善する必要がある。さらに、公知のコーティング組成物は、適切な保護を提供するために、厚い膜厚で塗布しなければならないという欠点を有する。したがって、公知のコーティング組成物で製造されたワニス塗膜の乾燥膜厚は、少なくとも20μm、好ましくは実際には少なくとも25μmである。このような膜の厚さは、材料の高レベルの消費をもたらし、もはや時代に即していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】DE69615819T2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、特にポリカーボネート表面のコーティングに好適であり、薄くなった乾燥膜厚に対して耐引掻性を改善し、かつ耐候安定性を改善することを特徴とする硬化ワニスコーティングをもたらす放射線硬化性コーティング組成物を、特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、本発明によれば、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート三量体およびブタンジオールモノアクリレートから製造される少なくとも1種のウレタンアクリレートを含む、放射線硬化性コーティング組成物によって達成され、このイソシアヌレート三量体は、19.6〜24.0質量%のNCO含量および175〜214当量を有し、このウレタンアクリレートは、イソシアヌレート三量体とブタンジオールモノアクリレートとの質量比1.0:0.65〜1.0:0.9を有し、このコーティング組成物は、
【0009】
i) 45.0〜59.0質量% の少なくとも1種のウレタンアクリレート、
ii) 25.0〜37.0質量% の少なくとも1種の四官能性ポリエステルアクリレートモノマー、
iii) 8.0〜12.0質量% の少なくとも1種のジオールジアクリレートエステルおよび/または少なくとも1種のモノアクリレートエステル、
iv) 2.3〜3.5質量% の少なくとも1種の光開始剤、
v) 2.1〜3.1質量% の少なくとも1種の反応性アクリロイルトリアゾールUV吸収剤、
vi) 1.5〜2.0質量% の少なくとも1種の非反応性UV吸収剤、
vii) 0.7〜1.0質量% の少なくとも1種の立体障害アミン、および
viii) 0.4〜0.9質量% の少なくとも1種の流れ調整剤、
を含み、
質量パーセントの範囲は、記載された成分i)〜viii)の固形分の合計に対してであり、それらの合計は100質量%である。
【0010】
本発明の放射線硬化性コーティング組成物の有利な改善は、従属請求項から明らかである。
【0011】
固形分は、物質または組成物の不揮発性の割合である。固形分は、DIN EN ISO 3251:2008に従って、3gの物質または組成物を60℃で60分間乾燥させることにより測定する。乾燥後に残る不揮発性の割合は、初期質量に関連して設定すると、物質または組成物の固形分が得られる。
【0012】
イソシアネート基の含量は、DIN EN ISO 11909に従って測定する。
【0013】
本明細書で特に指示がない限り、規格の全ての記述は、本発明の出願日における現行の規格に関する。
【0014】
放射線硬化性コーティング組成物は、好ましくは、UV照射によって硬化されるコーティング組成物である。UV硬化は、紫外線によって誘発される化学反応を意味する。UV照射は、100〜400nmの波長範囲を包含する電磁放射線の構成成分の用語である。
【0015】
さらに好ましくは、本発明のコーティング組成物は、クリアコート材料である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ウレタンアクリレート
ウレタンアクリレートは、一般にヒドロキシアルキルアクリレート、ジイソシアネートおよびポリオールの付加反応によって、またはヒドロキシアルキルアクリレートのポリイソシアネートへの直接付加反応によって製造することができる。これにより、光重合の硬化速度および効率と相まって、ポリウレタンコーティングの性能レベルを高め、多様な用途を実現することが可能になる。ウレタンアクリレートは、工業用途用の放射線硬化性コーティングに使用される。
【0017】
本発明のコーティング組成物は、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート三量体およびブタンジオールモノアクリレートから製造される少なくとも1種のウレタンアクリレートを含み、このイソシアヌレート三量体は、19.6〜24.0質量%のNCO含量および175〜214当量を有し、このウレタンアクリレートは、イソシアヌレート三量体とブタンジオールモノアクリレートとの質量比1:0.65〜1:0.9を有する。
【0018】
DE69615819T2では、コーティング組成物中に、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート三量体およびブタンジオールモノアクリレートから製造した、ベース樹脂を使用する。使用するイソシアネート化合物は、11.0質量%のNCO含量および382当量を有する。本発明に関連して、得られる硬化コーティング膜の耐引掻性および耐候安定性は、より高いNCO含量およびより低い当量を有するポリイソシアネート、ならびに重合性モノマーの改質組成物およびUV吸収剤によって改善され得ることが見出された。
【0019】
本発明において、コーティング組成物は、記載された成分i)〜viii)の固形分の合計に対して、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート三量体およびブタンジオールモノアクリレートから製造した、45.0〜59.0質量%のウレタンアクリレートを含むことが必須である。コーティング組成物は、好ましくは、45.0〜55.0質量%の当該ウレタンアクリレートを含む。ウレタンアクリレートの質量パーセント分率が上記の限度を下回る場合、コーティング組成物の硬化における成分の反応性が損なわれる。記載された成分i)〜viii)の固形分の合計に対して、ウレタンアクリレートの質量パーセント分率が59.0質量%を超える場合、コーティング組成物が塗布された基材に対する、このコーティング組成物によるコーティングの接着性が損なわれる。
【0020】
四官能性ポリエステルアクリレートモノマー
本発明のコーティング組成物は、成分i)〜viii)の固形分の合計に対して、25.0〜37.0質量%の少なくとも1種の四官能性ポリエステルアクリレートモノマーを含む。コーティング組成物は、成分i)〜viii)の固形分の合計に対して、好ましくは、27.0〜37.0質量%の少なくとも1種の四官能性ポリエステルアクリレートモノマーを含む。
【0021】
四官能性ポリエステルアクリレートモノマーの質量パーセント分率が上記の限度を下回る場合、コーティング組成物が塗布された基材に対する、このコーティング組成物から製造されたコーティングの接着性が損なわれる。四官能性ポリエステルアクリレートモノマーの質量パーセント分率が上記の限度を上回る場合、得られたコーティングの部分の耐引掻性が損なわれる。
【0022】
本発明においては、成分ii)に関しては、4種のアクリル酸ビルディングブロックを含むことが必須であり、したがってアクリル酸ビルディングブロックに関して四官能性である。
【0023】
四官能性ポリエステルアクリレートモノマーは、好ましくは、さらなる構造元素として、エーテル結合の形態の酸素原子を有する。より好ましくは、四官能性ポリエステルアクリレートモノマーは、厳密に1つのエーテル結合を有する。特に好ましいエーテル結合の存在により、コーティング組成物から製造されたコーティング部分において化学的耐性が改善される。非常に好ましくは、四官能性ポリエステルアクリレートモノマーは、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレートである。
【0024】
ジオールジアクリレートエステル/モノアクリレートエステル
本発明によれば、放射線硬化性コーティング組成物は、成分iii)として、8.0〜12.0質量%の少なくとも1種のジオールジアクリレートエステルおよび/または少なくとも1種のモノアクリレートエステルを含む。より好ましくは、コーティング組成物は、成分i)〜viii)の固形分の合計に対して、9.0〜10.0質量%の少なくとも1種のジオールジアクリレートエステルおよび/または少なくとも1種のモノアクリレートエステルを含む。したがって、上記の質量パーセント範囲内で、コーティング組成物は、少なくとも1種のジオールジアクリレートエステルもしくは少なくとも1種のモノアクリレートエステルのどちらか、または少なくとも1種のジオールジアクリレートエステルと少なくとも1種のモノアクリレートエステルとの混合物を含み、ジオールジアクリレートエステルの使用が好ましい。
【0025】
使用するモノアクリレートエステルは、好ましくはトリメチロールプロパンホルマールアクリレート、ブタンジオールモノアクリレート(4−HBA)、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)、オクチルデシルアクリレート(ODA)、またはイソデシルアクリレート(IDA)である。ブタンジオールモノアクリレート(4−HBA)、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)、オクチルデシルアクリレート(ODA)、またはイソデシルアクリレート(IDA)の使用が特に好ましい。
【0026】
使用するジオールジアクリレートエステルは、好ましくは、最も長い炭素鎖に2〜12個の炭素原子を有する化合物である。特に好ましい1種のジオールジアクリレートエステルは、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートである。
【0027】
本発明のコーティング組成物中の質量パーセント量のジオールジアクリレートエステルおよび/またはモノアクリレートエステルの使用により、コーティング組成物が塗布される基材、より詳細にはポリカーボネートの部分膨潤を制御し、いわゆるIPL層(相互侵入層)を形成することが可能になる。これにより、基材へのコーティングの接着性が保証される。この「IPL」層の形成は、ポリカーボネート基材の最上層の部分的溶解によって達成される。しかし、部分的溶解は、コーティングされたポリカーボネート基材の透明性を低下させ、それに応じて重度の曇りの外観を呈するほどのものであってはならない。この「部分膨潤」により、基材とコーティング組成物との間の接触領域が拡大して、接着性が改善される。さらに、過度の膨潤によって耐候安定性が損なわれるので、部分膨潤は過度であってはならない。一方、部分膨潤が低すぎると、その結果、基材への接着が損なわれる。
【0028】
光開始剤
本発明のコーティング組成物は、成分i)〜viii)の固形分の合計に対して、2.3〜3.5質量%の少なくとも1種の光開始剤を含む。光開始剤は、放射線に曝露させるときに架橋反応を開始させるために使用する。
【0029】
少なくとも1種の光開始剤は、有利にはリン含有化合物を含む。対応する製品は、Irgacureの商標名で市販されている。特に有利には、光開始剤は、少なくとも1種のリン含有化合物と少なくとも1種の芳香族α−ヒドロキシケトンとの混合物を含む。
【0030】
2つの異なる光開始剤の好ましい使用は、コーティング組成物のスルー硬化(through−curing)に有益であり、これにより、スルー硬化がコーティング組成物の表面および基材表面付近の両方で達成されることが可能になる。
【0031】
光安定剤
本発明のコーティング組成物は、ラジカルスカベンジャーとして少なくとも2つのUV吸収剤と少なくとも1種の立体障害アミンとの組み合わせを含む種々の光安定剤を含む。光安定剤の機能は、架橋されたコーティング膜の分解をもたらし得る化学的に反応性の中間成分の形成を防止することである。周囲からの有害なUV照射によってもたらされる化学結合の切断の結果として形成される、コーティング内のフリーラジカルは、このようにして捕捉され、不活性化される。化学結合の切断の結果として形成されるラジカルは、コーティング内で連鎖反応をもたらし、さらなる結合の切断が生じる。したがって、光安定剤の使用は、本発明のコーティング組成物から製造されたコーティングの長期的に有効な耐候安定性を保証するために、本発明にとって必須である。
【0032】
UV吸収剤
本発明のコーティング組成物は、反応性アクリロイルトリアゾールUV吸収剤と非反応性UV吸収剤の組み合わせを含む。ここで、「反応性」とは、放射線硬化におけるUV吸収剤が、他の放射線硬化性成分と反応し、共重合により組み込まれることを意味する。対照的に、非反応性UV吸収剤は、コーティング組成物の他の成分と反応しない。
【0033】
本発明のコーティング組成物は、各場合とも、成分i)〜viii)の固形分の合計に対して、2.1〜3.1質量%の少なくとも1種の反応性アクリロイルトリアゾールUV吸収剤および1.5〜2.0質量%の少なくとも1種の非反応性UV吸収剤を含む。
【0034】
反応性アクリロイルトリアゾールUV吸収剤は、有利にはアクリロイルフェニルベンゾトリアゾールである。この吸収剤は、分子中のアクリレート官能基によって、架橋反応の間に、得られたコーティング中に化学的に組み込まれ、したがって固定され、このようにして移動が防止される。市販品は、Double Bond Chemical製Chisorb 593の商標名で入手可能である。
【0035】
非反応性UV吸収剤は、有利には、1,3,5−トリアジンをベースとする化合物である。市販品は、BASF SE製(以前はCiba製)Tinuvin400の商標名で入手可能である。
【0036】
少なくとも1種の反応性アクリロイルトリアゾールUV吸収剤と少なくとも1種の非反応性UV吸収剤との組み合わせの本発明の使用により、確実に、本発明のコーティング組成物から製造されたコーティングにおいて、環境からの照射が、これらの分子の対応する回転エネルギーおよび振動エネルギーに変換され、それによりコーティング内の化学結合に対する損傷を回避し、したがって結合の切断を防止することができる。
【0037】
ラジカルスカベンジャー−立体障害アミン
本発明のコーティング組成物は、成分i)〜viii)の固形分の合計に対して、ラジカルスカベンジャーとして作用する、0.7〜1.0質量%の少なくとも1種の立体障害アミンを含む。
【0038】
立体障害アミンをベースとする光安定剤として、セバシン酸のジエステルを使用する利点がある。適切な市販品は、BASF SE製(以前はCiba製)Tinuvin123の商標名で入手可能である。
【0039】
流れ調整剤
本発明のコーティング組成物は、成分i)〜viii)の固形分の合計に対して、0.4〜0.9質量%の少なくとも1種の流れ調整剤を含む。
【0040】
本発明のコーティング組成物中の流れ調整剤として、好ましくは不飽和末端基を有するポリシロキサン変性ポリマーを使用する。適切な市販品はBASF製のEFKA製品ラインで入手可能である。
【0041】
特に、本発明のコーティング組成物をクリアコート材料として使用する場合、この流れ調整剤により、効果的にトップコートを保持し、本発明のコーティング組成物から製造されたコーティングの部分の良好な外観をもたらすことができる。一般的に言えば、通常、>25μmの十分に厚い膜厚のクリアコート材料は、良好なレベリングを示すが、これは通常、薄くなった膜厚のクリアコート材料では悪化する。本発明のコーティング組成物は、好ましくは8〜25μmの範囲の薄い膜厚で塗布されるので、少なくとも1種の流れ調整剤であって成分i)〜viii)の固形分の合計に対して、0.4〜0.9質量%の範囲にある好適な流れ調整剤の使用が、本発明に必須である。上記の質量パーセント範囲を超えると、コーティング組成物から製造されたコーティングの部分における耐引掻性が損なわれる。
【0042】
溶剤
本発明のコーティング組成物は、好ましくは有機溶剤の使用により所望の塗布粘度に調整する。コーティング組成物は、有利には、コーティング組成物の総質量に対して、27.0〜70.0質量%の有機溶剤を含む。
【0043】
企図される有機溶剤は、有利には、一方では成分の溶解性を良好にし、他方では貯蔵安定性を良好にし、コーティング組成物による良好な塗布挙動を可能にすることで当業者に公知である、すべての慣用の有機溶剤である。この目的に好適であるのは、特に、イソプロパノールおよびn−ブタノールなどのアルコール、酢酸n−ブチルおよび酢酸1−ヒドロキシプロピルなどのエステル、および/またはメチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンなどのケトンである。溶剤または溶剤の組み合わせを選択する際には、コーティング組成物の塗布時に、ポリカーボネート基材の透明性が、コーティング組成物の硬化後に、曇りの増加が現れるなどの悪影響を受けるほどに、ポリカーボネート基材が部分的に膨潤しないように、確実に選択されるように注意するべきである。溶剤の選択により、コーティング組成物から生じるコーティングの基材への接着に影響を与えることも可能である。しかし、溶剤は、基材の部分的な膨潤により、良好な付着効果を達成するが、硬化した塗料組成物のくすみを引き起こすことがないように確実に選択されるべきである。
【0044】
コーティング組成物の全質量に対する溶剤画分の種々の質量パーセント調整によって、コーティング組成物の固形分を有利に変えて、本発明のコーティング組成物を、フローコーティングまたはスプレーコーティングとして基材へ塗布することができる。フローコーティング分野での塗布においては、有利な固形分は、コーティング組成物の総質量に対して、27.0〜50.0質量%である。スプレーコーティング分野内では、有利な固形分は、コーティング組成物の総質量に対して、60.0〜70.0質量%である。しかし、一般的に言えば、本発明のコーティング組成物については、コーティング組成物の全質量に対して、上記の固形分よりも高い固形分を実現することができる。しかし、これらの場合に、コーティング組成物の総質量に対する溶剤画分の減少により、トップコートの保持およびレベリングの点で不利益を生じないことが保証されなければならない。
【0045】
本発明はまた、i)ポリカーボネート表面に本発明のコーティング組成物を塗布し、ii)コーティング組成物をUV照射で硬化させることにより、ポリカーボネート表面上に耐引掻性コーティングを製造する方法に関する。
【0046】
耐引掻性コーティングは、有利には8〜25μmの乾燥膜厚、より好ましくは10〜20μmの乾燥膜厚で塗布する。クリアコートの乾燥膜厚は、白色光干渉計を用いて測定する。クリアコートではないコーティングの乾燥膜厚は、粉砕切片を作製し、次いでこの切片を顕微鏡検査に供して測定する。
【0047】
本発明はさらに、引掻傷および風化の影響から車両用ヘッドランプの表面を保護するためのコーティングを製造するための、本発明のコーティング組成物を使用する方法に関する。
【0048】
最後に、本発明はまた、本発明の硬化コーティング組成物でコーティングした基材に関する。当該基材は、好ましくはポリカーボネート基材である。
【実施例】
【0049】
以下の明細書では、実施例および比較例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0050】
製造実施例1:DE69615819T2によるウレタンアクリレート1の製造(比較例)
ベース樹脂は、以下の成分を、記載した割合(グラムで表示)で一緒に混合することにより製造する。
【0051】
【表1】
【0052】
製造実施例2:ウレタンアクリレート2の製造(本発明)
1000mlの三つ口フラスコに、170.70gのイソシアネート三量体(Desmodur N3300、Bayer製)を仕込む。装置には、KPG羽根付き撹拌棒、滴下ロート、および希薄空気を導入するためのガス供給部を取り付けている。
【0053】
イソシアネートを83.05gの反応性希釈剤ジ−TMPテトラアクリレート(Ebecryl 140、Allnex製)で希釈する。
【0054】
さらに、ヒドロキノン0.4g(三井化学製)で初期仕込みを安定させ、次いで溶液を40℃に加熱する。
【0055】
反応温度に達するとすぐに、ブタンジオールモノアクリレート(BASF SE製)133.75g、Coscat 83(Erbsloeh製)0.05g、ヘキサンジオールジアクリレート(Laromer HDDA、BASF SE製)49.25g、ジ−TMP−テトラアクリレート(Ebecryl 140、Allnex製)61.05g、およびメトキシプロパノール(Solvenon PM、BASF SE製)1.75gを滴下する。添加時間(約4時間)中、60℃の反応温度を超えてはならない。
【0056】
添加終了後、反応混合物を60℃に保ち、NCO含量を1時間毎に測定する。NCO含量が0%に達したら、生成混合物を50℃に冷却し、濾過する。
【0057】
Coscat83は、有機ビスマス化合物であり、ウレタン形成のための触媒として使用する。
【0058】
上記の2種のウレタンアクリレートを用いて、放射線硬化性コーティング組成物を製造した。使用した原材料は以下の通りであった。
【0059】
【表2】
【0060】
以下の表1に従って、本発明によるコーティング組成物および本発明によらないコーティング組成物を製造した。表1中の数字は、質量部を示す。
【0061】
【表3】
【0062】
コーティング組成物1〜12を塗布し、以下のように硬化させた:
1.5mmのノズルを介して3バールの圧縮空気をスプレーする重力供給カップガン(例えば、DeVilbissGTI重力スプレーガン)を用いて、スプレー塗布を行った。2回のスプレーパスで、必要な膜厚を塗布した。
【0063】
フラッシュオフ:23℃で1分、強制空気オーブン中80〜90℃で5分、次いで冷却して30秒。
【0064】
UV照射による硬化:2.5〜3.5J/cm
2(International Light製IL390で測定した照射量)。
【0065】
コーティング組成物から製造されたコーティングについて達成された膜厚(乾燥膜厚)は、11〜18μmであり、「IPL」(相互侵入層)の厚さは3〜5μmであった。
膜/層の厚さの測定は、白色光干渉計(例えばFuchs製「FTM−Lite UVNIR膜厚測定器」という名称の)を用いて行った。試料の塗布後に測定された曇価は<1%であるべきである。
【0066】
曇価は、BYK−Gardner製「Haze−Gard Plus」機器を用いて測定した。この機器は、ASTM規格D1003−13に従う、透明度の測定用の標準化された計器である。この機器は、透明コーティングの光学的品質を判定するために使用する。この機器を使用して、初期曇価および引掻試験(Taber Abraser試験)の実施後の曇価も測定する。
【0067】
硬化したコーティングフィルムの耐引掻性を以下のように試験した:
耐引掻性試験は、Taber Industries製5155 Abraser装置を使用して行った。引掻試験は、ASTM規格ASTM D1044−13(Standard Test Method for Resistance of Transparent Plastics to Surface Abrasion, Standard by ASTM International, 09/01/2013)に従って実施し、試験を行った。評価は、ASTM規格ASTM D1003−13(Standard Test Method for Haze and Luminous Transmittance of Transparent Plastics)に従って行った。
【0068】
確認した耐引掻値は、以下の通りであった:
【0069】
【表4】
【0070】
評価
ポリカーボネートランプハウジング上のコーティングの耐引掻性は、Taber Abraser試験の実施時に、≦15のΔ曇価を示す(Taber Abraser試験で300回転後)場合に良好である。
【0071】
耐引掻性の高い系は、Δ曇価が10未満を示す(Taber Abraser試験で300回転後)系である。