特許第6594611号(P6594611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594611
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】高性能タイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20191010BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20191010BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20191010BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20191010BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20191010BHJP
   C08L 45/02 20060101ALI20191010BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20191010BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20191010BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   C08L9/06
   B60C1/00 A
   C08K5/12
   C08K5/521
   C08L33/08
   C08L45/02
   C08L61/06
   C08L65/00
   C08L91/00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-161227(P2014-161227)
(22)【出願日】2014年8月7日
(65)【公開番号】特開2016-37544(P2016-37544A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年6月1日
【審判番号】不服2018-12463(P2018-12463/J1)
【審判請求日】2018年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 郭葵
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 隆行
【合議体】
【審判長】 近野 光知
【審判官】 大熊 幸治
【審判官】 井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−249230(JP,A)
【文献】 特開2005−307166(JP,A)
【文献】 特開2004−137463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00- 21/02
C08L 61/00- 61/34
C08L 45/02
C08L 65/00
C08L 33/00- 33/26
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液重合スチレンブタジエンゴムおよび/または変性スチレンブタジエンゴムを含むゴム成分および軟化剤を含有するゴム組成物(ただし、ゴム成分100質量部に対し、軟化点が−50℃〜50℃でありビニル結合含量が50%以上の高ビニルブタジエンを5質量部以上含む組成物、および軟化点が110〜150℃で且つOH価が180以上であるフェノール系樹脂を10質量部以上含む組成物を除く)で構成されるトレッドを有する高性能タイヤであり、
前記軟化剤が、ゴム成分100質量部に対し、35〜100質量部の粘着樹脂10〜50質量部の低温可塑剤および15〜85質量部のオイルを含む軟化剤であり、
低温可塑剤の含有量に対する粘着樹脂の含有量の比(粘着樹脂の含有量/低温可塑剤の含有量)が1.2〜3.0である高性能タイヤ。
【請求項2】
軟化剤中の粘着樹脂の含有量が25質量%以上である請求項1記載の高性能タイヤ。
【請求項3】
粘着樹脂の軟化点が80〜170℃である請求項1または2に記載の高性能タイヤ。
【請求項4】
粘着樹脂が、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、テルペン樹脂およびアクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜のいずれか1項に記載の高性能タイヤ。
【請求項5】
低温可塑剤の凝固点が−50℃以下である請求項1〜のいずれか1項に記載の高性能タイヤ。
【請求項6】
低温可塑剤の25℃における粘度が30mPa・s以下である請求項1〜のいずれか1項に記載の高性能タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のゴム組成物により構成されたトレッドを有する高性能タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
高性能タイヤ用のトレッドには、走行初期から走行終了まで、乾燥路面(ドライ路面)における優れた操縦安定性(グリップ性能)を保つことが望まれている。すなわち、優れた初期グリップ性能と共に、走行中のグリップ性能も良好に保つことが望まれている。
【0003】
従来から、初期グリップ性能を向上させる目的で、トレッドゴム組成物において液状ポリマーの配合量を増量する方法や、低温軟化剤を配合する方法が検討されている。しかし、これらの方法で初期グリップ性能は向上するものの、トレッドの温度が上昇するにつれて走行中のグリップ性能が低下するという問題がある。また、液状ポリマー中に二重結合が存在するため、架橋が緩くなり耐摩耗性が低下するという問題がある。
【0004】
一方、走行中の安定したグリップ性能を得る目的では、トレッドゴム組成物へ粘着樹脂を配合する方法が検討されている。しかし、粘着樹脂を配合することで走行中の安定したグリップ性能は得られるものの、初期グリップ性能が大きく低下するという問題がある。
【0005】
特許文献1には、ゴム成分に、アミン・ケトン系老化防止剤、2種以上の樹脂を混合した混合樹脂、ステアリン酸、および酸化亜鉛を含有することで、良好な製造負荷、耐老化特性を確保しながら、グリップ性能、初期グリップ性能、耐摩耗性および外観特性に優れる高性能タイヤ用トレッドゴム組成物が記載されているが、高性能タイヤの重要性能である、耐摩耗性、走行中のグリップ性能、および初期グリップ性能の向上については、まだ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−105273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、十分な耐摩耗性を維持しながら、特にドライ路面における初期グリップ性能および走行中の安定したグリップ性能を同時に高次元に向上できる高性能タイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ゴム組成物に、所定量の粘着樹脂および所定量の低温可塑剤を含む軟化剤を含有することで、耐摩耗性を維持しながら走行中のグリップ性能を向上させる効果はそのままに、初期グリップ性能を大幅に向上させることで、前記課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ゴム成分および軟化剤を含有するゴム組成物で構成されるトレッドを有する高性能タイヤであり、前記軟化剤が、ゴム成分100質量部に対し、35〜100質量部の粘着樹脂および10〜50質量部の低温可塑剤を含む軟化剤である高性能タイヤに関する。
【0010】
軟化剤中の粘着樹脂の含有量が25質量%以上であることが好ましい。
【0011】
低温可塑剤の含有量に対する粘着樹脂の含有量の比(粘着樹脂の含有量/低温可塑剤の含有量)が1.0〜3.0であることが好ましい。
【0012】
粘着樹脂の軟化点が80〜170℃であることが好ましい。
【0013】
粘着樹脂が、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、テルペン樹脂およびアクリル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
低温可塑剤の凝固点が−50℃以下であることが好ましい。
【0015】
低温可塑剤の25℃における粘度が30mPa・s以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ゴム成分、ならびに、所定量の粘着樹脂および所定量の低温可塑剤を含む軟化剤を含有するゴム組成物で構成されるトレッドを有する高性能タイヤとすることで、十分な耐摩耗性を維持しながら、特にドライ路面における初期グリップ性能および走行中の安定したグリップ性能を同時に高次元に向上できる高性能タイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の高性能タイヤは、ゴム成分、ならびに、粘着樹脂および低温可塑剤を含む軟化剤を含有するゴム組成物により構成されたトレッドを有することを特徴とする。
【0018】
前記ゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)等のジエン系ゴムが挙げられる。これらのゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、グリップ性能および耐摩耗性がバランスよく得られるという理由からNR、BR、SBRが好ましく、SBRがより好ましい。なお、本明細書におけるゴム成分は、後述の液状ジエン系重合体とは別に配合されるゴム成分である。
【0019】
前記SBRとしては特に限定されず、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)、これらのSBRの末端を変性した変性SBR(変性E−SBR、変性S−SBR)など、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、耐摩耗性と走行中の安定したグリップ性能との両立の観点から、S−SBRが好ましい。
【0020】
SBRのスチレン含有量は、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましい。SBRのスチレン含有量が20質量%未満の場合は、十分なグリップ性能が得られない傾向がある。また、SBRのスチレン含有量は、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。SBRのスチレン含有量が60質量%を超える場合は、耐摩耗性が低下するだけでなく、温度依存性が増大し、温度変化に対する性能変化が大きくなってしまい、走行中の安定したグリップ性能が良好に得られない傾向がある。なお、本明細書におけるSBRのスチレン含有量は、H1−NMR測定により算出される値である。
【0021】
SBRを含有する場合のゴム成分中のSBRの含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。SBRの含有量が10質量%未満の場合は、十分な耐熱性、グリップ性能、耐摩耗性が得られない傾向がある。また、SBRの含有量の上限は特に限定されず、100質量%であることが耐摩耗性と走行中の安定したグリップ性能との両立の観点から最も好ましい。
【0022】
前記軟化剤は、粘着樹脂および低温可塑剤を含む軟化剤であり、粘着樹脂の配合による初期グリップ性能の低下を低温可塑剤との併用により改善することで、初期グリップ性能および走行中の良好なグリップ性能を同時に高次元に向上することが可能となる。
【0023】
前記粘着樹脂としては芳香族石油樹脂などの従来タイヤ用ゴム組成物で慣用される樹脂が挙げられる。芳香族石油樹脂としては例えば、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、テルペン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ロジン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)などが挙げられる。フェノール系樹脂としては例えばコレシン(BASF社製)、タッキロール(田岡化学工業(株)製)などが挙げられる。クマロンインデン樹脂としては例えばエスクロン(新日鉄化学(株)製)、ネオポリマー(JX日鉱日石エネルギー(株)製)などが挙げられる。スチレン樹脂としては例えばSylvatraxx 4401(Arizona chemical社製)などが挙げられる。テルペン樹脂としては例えばTR7125(Arizona chemical社製)、TO125(ヤスハラケミカル(株)製)などが挙げられる。これらの粘着樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、走行中のグリップ性能に優れるという理由から、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、テルペン樹脂、およびアクリル樹脂を用いることが好ましい。
【0024】
また粘着樹脂は、低軟化点の粘着樹脂(低軟化点樹脂)と高軟化点の粘着樹脂(高軟化点樹脂)とを併用することがより好ましい。低軟化点樹脂を配合することにより、初期グリップ性能がより改善でき、高軟化点樹脂を配合することにより、より良好な走行中の安定したグリップ性能が得られる。
【0025】
低軟化点樹脂の軟化点は60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましい。軟化点が60℃未満の場合は、走行中の安定したグリップ性能が得られない恐れがある。また、低軟化点樹脂の軟化点は、115℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましい。軟化点が115℃を超える場合は、初期グリップ性能が低下する恐れがある。
【0026】
低軟化点樹脂としては、軟化点が上記範囲内の樹脂であれば特に限定されないが、なかでも、走行中の安定したグリップ性能が得られるという理由からは、クマロンインデン樹脂が好ましい。
【0027】
高軟化点樹脂の軟化点は、120℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましい。軟化点が120℃未満である場合は、走行中の安定したグリップ性能が得られない恐れがある。また、高軟化点樹脂の軟化点は、170℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。軟化点が170℃を超える場合は、初期グリップ性能が低下する恐れがある。
【0028】
高軟化点樹脂としては、軟化点が上記範囲内の樹脂であれば特に限定されないが、なかでも、初期グリップ性能とのバランスが優れるという理由からは、テルペン樹脂が好ましい。
【0029】
なお、本明細書における低軟化点樹脂および高軟化点樹脂の軟化点は、JIS K 6220−1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0030】
前記粘着樹脂のゴム成分100質量部に対する含有量は、35質量部以上であり、45質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましい。粘着樹脂の含有量が35質量部未満の場合は、走行中の安定したグリップ性能が得られなくなる傾向がある。また、粘着樹脂の含有量は、100質量部以下であり、90質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましい。粘着樹脂の含有量が100質量部を超える場合は、未加硫ゴム組成物の粘着性が高くなり加工性が悪化する傾向がある。
【0031】
さらに、粘着樹脂の含有量は、走行中の良好なグリップ性能が得られるという理由から、軟化剤中25質量%以上が好ましく、30%質量以上がより好ましい。また、軟化剤中の粘着樹脂の含有量の上限は特に限定されないが、低温可塑剤の含有量との関係から75質量%以下である。なお、該軟化剤中の粘着樹脂の含有量とは、本発明に係るゴム組成物に含まれる、粘着樹脂、低温可塑剤、オイルおよび液状ジエン系重合体の合計含有量中の粘着樹脂の含有量である。
【0032】
前記低温可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジブチル(DBA)、アジピン酸ジイソブチル(DIBA)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、アゼライン酸ジ2−エチルヘキシル(DOZ)、セバシン酸ジブチル(DBS)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジブチル(DBP)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、リン酸トリブチル(TBP)、リン酸トリオクチル(TOP)、リン酸トリエチル(TEP)、リン酸トリメチル(TMP)、チミジントリリン酸(TTP)、リン酸トリクレシル(TCP)、リン酸トリキシレニル(TXP)等のエステル系可塑剤が挙げられ、低温時における可塑効果と耐摩耗性のバランスから、DOS、TOPが好ましい。
【0033】
低温可塑剤の凝固点は、十分な初期グリップ改善効果が得られるという理由から、−50℃以下が好ましく、−70℃以下がより好ましい。また、低温可塑剤の凝固点の下限は特に限定されない。
【0034】
低温可塑剤の25℃における粘度は、十分な初期グリップ改善効果が得られるという理由から、30mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以下がより好ましい。また、低温可塑剤の粘度の下限は特に限定されない。
【0035】
低温可塑剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、10質量部以上であり、20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましい。低温可塑剤の含有量が10質量部未満の場合は、十分な初期グリップ性能が得られなくなる傾向がある。また、低温可塑剤の含有量は、50質量部以下であり、45質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましい。低温可塑剤の含有量が50質量部を超える場合は、走行中の安定したグリップ性能が得られなくなる傾向がある。
【0036】
さらに、低温可塑剤の含有量に対する前記粘着樹脂の含有量の比(粘着樹脂含有量/低温可塑剤含有量)は、1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましい。該含有量比が1.0未満である場合は、十分な走行中の安定したグリップ性能が得られない恐れがある。また、該含有量比は、3.0以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。該含有量比が3.0を超える場合は、十分な初期グリップ性能が得られない恐れがある。
【0037】
本発明に係るゴム組成物は、さらに、軟化剤として、オイル(ポリマー油展分を含む)や液状ジエン系重合体を含有することが、初期グリップ性能、走行中の安定したグリップ性能などの観点から好ましい。
【0038】
前記オイルとしては、例えば、パラフィン系、アロマ系、ナフテン系プロセスオイルなどのプロセスオイルが挙げられる。
【0039】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対するオイルの含有量は、15質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましい。オイルの含有量が15質量部未満の場合は、添加による効果が得られない傾向がある。また、オイルの含有量は、85質量部以下が好ましく、75質量部以下がより好ましい。オイルの含有量が85質量部を超える場合は、耐摩耗性が悪化する傾向がある。なお、本明細書におけるオイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル分も含まれる。
【0040】
前記液状ジエン系重合体は、常温(25℃)で液体状態のジエン系重合体であり、例えば、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)などが挙げられる。なかでも、耐摩耗性と走行中の安定したグリップ性能がバランスよく得られるという理由から、液状SBRが好ましい。
【0041】
液状ジエン系重合体の重量平均分子量(Mw)は、1.0×103以上が好ましく、3.0×103以上がより好ましい。液状ジエン系重合体のMwが1.0×103未満の場合は、耐摩耗性、破壊特性が低下し、十分な耐久性が確保できない傾向がある。また、液状ジエン系重合体のMwは、2.0×105以下が好ましく、1.5×104以下がより好ましい。液状ジエン系重合体のMwが、2.0×105を超える場合は、重合溶液の粘度が高くなり過ぎ、生産性が悪化する傾向がある。なお、本明細書における液状ジエン系重合体のMwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値である。
【0042】
液状ジエン系重合体を含有する場合のゴム成分100質量部に対する液状ジエン系重合体の含有量は、20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましい。液状ジエン系重合体の含有量が20質量部未満の場合は、十分なグリップ性能が得られない傾向がある。また、液状ジエン系重合体の含有量は、80質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましい。液状ジエン系重合体の含有量が80質量部を超える場合は、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0043】
軟化剤の含有量(粘着樹脂、低温可塑剤、オイル、および液状ジエン系重合体の合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対して、50質量部以上が好ましく、100質量部以上がより好ましく、120質量部以上がさらに好ましい。また、軟化剤の含有量は、250質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましく、180質量部以下がさらに好ましい。軟化剤の含有量が上記範囲内である場合は、本発明の効果がより好適に得られる。
【0044】
本発明に係るゴム組成物には、前記成分以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルクなどの補強用充填剤、ワックス、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0045】
前記補強用充填剤としては、耐摩耗性が優れるという理由から、カーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、オイルファーネス法により製造されたカーボンブラックなどが挙げられ、2種類以上のコロイダル特性の異なるものを併用してもよい。具体的にはGPF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、なかでも、SAFが好適である。
【0046】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、100m2/g以上が好ましく、105m2/g以上がより好ましく、110m2/g以上がさらに好ましい。N2SAが100m2/g未満の場合は、グリップ性能が低下する傾向がある。また、カーボンブラックのN2SAは、600m2/g以下であることが好ましく、250m2/g以下であることがより好ましく、180m2/g以下であることがさらに好ましい。カーボンブラックのN2SAが600m2/gを超える場合は、分散性が劣り、耐摩耗性が低下する傾向がある。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAは、JIS K6217−2:2001に準じて測定される値である。
【0047】
カーボンブラックのDBP吸油量は、50ml/100g以上が好ましく、100ml/100g以上がより好ましい。DBP吸油量が50ml/100g未満の場合は、十分な耐摩耗性が得られない傾向がある。また、カーボンブラックのDBP吸油量は、250ml/100g以下が好ましく、200ml/100g以下がより好ましく、135ml/100g以下がより好ましい。DBP吸油量が250ml/100gを超える場合は、グリップ性能が低下する傾向がある。なお、本明細書におけるカーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K6217−4:2008に準じて測定される値である。
【0048】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量は、50質量部以上が好ましく、80質量部以上がより好ましく、100質量部以上がさらに好ましい。カーボンブラックの含有量が50質量部未満の場合は、十分な耐摩耗性、グリップ性能が得られない傾向がある、また、カーボンブラックの含有量は、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましい。カーボンブラックの含有量が200質量部を超える場合は、グリップ性能が低下する傾向がある。
【0049】
前記酸化亜鉛としては、タイヤなどのゴム分野で使用されているものであれば特に限定されないが、微粒子酸化亜鉛を使用することが好ましい。
【0050】
微粒子酸化亜鉛の平均一次粒子径は、200nm以下が好ましく、100nm以下がさらに好ましい。また、酸化亜鉛の平均一次粒子径の下限は特に限定されないが、20nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましい。なお、本明細書における酸化亜鉛の平均一次粒子径は、窒素吸着によるBET法により測定した比表面積から換算された平均粒子径(平均一次粒子径)である。
【0051】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する酸化亜鉛の含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、酸化亜鉛の含有量は、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。酸化亜鉛の含有量が上記範囲内である場合は、本発明の効果がより好適に得られる。
【0052】
前記加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、グアニジン系加硫促進剤などが挙げられ、チアゾール系、チウラム系加硫促進剤が好適に使用できる。チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィドなどが挙げられ、なかでも、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィドが好ましい。チウラム系加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT−N)などが挙げられ、なかでも、TOT−Nが好ましい。
【0053】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する加硫促進剤の含有量は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。加硫促進剤の含有量が1質量部未満の場合は、十分な加硫速度が得られず、良好なグリップ性能、耐摩耗性が得られない傾向がある。また、加硫促進剤の含有量は15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。加硫促進剤の含有量が15質量部を超える場合は、ブルーミングを起こし、グリップ性能、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0054】
本発明に係るゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで前記各成分を混練りし、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0055】
本発明の高性能タイヤは、本発明に係るゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ゴム成分に対して前記の配合剤を必要に応じて配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本発明の高性能タイヤを製造することができる。なお、本発明における高性能タイヤは、レースなどの競技用タイヤ、特にドライ路面に使用される高性能ドライタイヤに好適に適用できる。
【実施例】
【0056】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例にのみ限定されるものではない。
【0057】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
SBR:旭化成(株)製のタフデン4850(S−SBR、スチレン含有率:40質量%、ゴム固形分100質量部に対してオイル分50質量部含有)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のN219(N2SA:106m2/g、DBP吸油量:78ml/100g)
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスAH−24
液状ジエン系重合体:(株)クラレ製のL−SBR−820(液状SBR、Mw:10000)
粘着樹脂1:日塗化学(株)製のクマロンG−90(クマロンインデン樹脂(低軟化点樹脂)、軟化点:90℃)
粘着樹脂2:ヤスハラケミカル(株)製のTO125(テルペン樹脂(高軟化点樹脂)、軟化点125℃)
粘着樹脂3:JX日鉱日石エネルギー(株)製の日石ネオポリマー170S(クマロンインデン樹脂(高軟化点樹脂)、軟化点:160℃)
粘着樹脂4:アリゾナケミカル社製のSylvatraxx4401(スチレン樹脂(低軟化点樹脂)、軟化点:85℃)
低温可塑剤1:大八化学工業(株)製のDOS(凝固点:−62℃、粘度:18mPa・s(25℃))
低温可塑剤2:大八化学工業(株)製のTOP(凝固点:−70℃以下、粘度:12mPa・s(25℃))
酸化亜鉛:ハクスイテック(株)製のジンコックスーパーF−1(平均一次粒子径:100nm)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤1:大内新興化学(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N−フェニル−p−フェニレンジアミン、6PPD)
老化防止剤2:大内新興化学(株)製のノクラックRD(ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン))
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDM(ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーTOT−N(テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド)
【0058】
実施例および比較例
表1および2に示す配合内容に従い、上記各種薬品(硫黄および加硫促進剤を除く)を、1.7Lバンバリーミキサーにて、排出温度140℃で20分間混練りし、混練り物を得た。得られた混練り物に、硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼りあわせ、150℃の条件下で30分間加硫し、試験用タイヤ(タイヤサイズ:215/45R17)を得た。得られた試験用タイヤについて、下記評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
<初期グリップ性能>
試験用タイヤを国産FR車(2000cc)の全輪に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて10周の実車走行を行った。その際における、2周目の操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが評価し、比較例1を100として指数表示をした。数値が大きいほど初期グリップ性能が高いことを示す。なお、初期グリップ性能指数は110以上を性能目標指数とする。
【0060】
<走行中のグリップ性能>
試験用タイヤを国産FR車(2000cc)の全輪に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて10周の実車走行を行った。その際における、ベストラップと最終ラップの操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが比較評価し、比較例1を100として指数表示をした。数値が大きいほどドライ路面において、走行中のグリップ性能の低下が小さく、走行中の安定したグリップ性能が良好に得られることを示す。なお、走行中のグリップ性能指数は110以上を性能目標指数とする。
【0061】
<耐摩耗性>
試験用タイヤを国産FR車(2000cc)の全輪に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて実車走行を行った。その際におけるタイヤトレッドゴムの残溝量を計測し(新品時15mm)、比較例1の残溝量を100として指数表示した。耐摩耗性指数が大きいほど、耐摩耗性が高いことを示す。なお、耐摩耗性指数は96以上を性能目標指数とする。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
表1および2の結果より、ゴム成分、ならびに、所定量の粘着樹脂および所定量の低温可塑剤を含む軟化剤を含有するゴム組成物で構成されるトレッドを有する高性能タイヤは、十分な耐摩耗性を維持しながら、特にドライ路面における初期グリップ性能および走行中の安定したグリップ性能を同時に高次元に向上できることが分かる。