(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記流動状況予測ステップのシミュレーションにより得られた前記空間を分割した各メッシュ内の歩行者の人数を取得し、前記空間における歩行者の人数の分布を示すマップを作成するマップ作成ステップを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の推計方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の集計データ生成方法等では、歩行者が或るノードから他のノードに移動する場合の経路を推定するものであり、複数の出入口を有する建物内等の空間における歩行者のOD通行量を断面通行量に基づき推定することはできないといった問題点があった。
【0009】
また、非特許文献1のOD交通量のオンライン推定では、流入交通量に基づきOD交通量を推定しているものの、高速道路を走行する自動車を対象にしているため、例えば、自動車は高速道路の入口から流出することや、高速道路を逆走することはできず、或る出入口から流入し、自由な経路を通った後、同一の出入口から流出する場合が想定される歩行者のOD通行量を推定することはできないといった問題点があった。
【0010】
本発明の課題は、複数の出入口を有する空間における歩行者のOD通行量や混雑状況を断面通行量に基づきリアルタイムに把握することができる歩行者のOD通行量の推計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するため、この発明は、
複数の出入口を有する空間における歩行者のOD通行量の推計方法であって、
前記出入口毎に設置された通行量計測装置で計測された前記出入口毎の流入人数及び流出人数を取得する計測値取得ステップと、
前記出入口毎のOD分岐率を前記流入人数に乗算して前記出入口毎のOD通行量を推計する通行量推計ステップと、
前記出入口毎の推計されたOD通行量に基づき歩行者の平均的な流動状況を確率的にシミュレーションして前記出入口毎の流出予測値を得る流動状況予測ステップと、
所定の周期で、前記出入口毎の前記流出人数と前記出入口毎の前記流出予測値との差分が小さくなるように前記出入口毎のOD分岐率の補正値を求めて前記OD分岐率を補正する分岐率補正ステップと、
を含
み、
前記流動状況予測ステップにおける確率的なシミュレーションは、
複数の出入口を有する空間を複数のメッシュに等分に分割し、歩行者が一のメッシュから他のメッシュに移動する場合、歩行者自身を確率的に分割して、複数のメッシュに分割して移動させるシミュレーションである。
【0012】
OD分岐率を計測された流入人数に乗算してOD通行量を推計して、歩行者の平均的な
流動状況を確率的にシミュレーションして得られた流出予測値と、出入口毎の流出人数との差分が小さくなるように、所定の周期で出入口毎のOD分岐率の補正値を求めてOD分岐率を補正することにより、断面通行量である流入人数に基づき推計されるOD通行量を実際のOD通行量に追従させることができ、複数の出入口を有する空間における歩行者のOD通行量をリアルタイムで正確に把握することができる。
【0013】
また、望ましくは、前記分岐率補正ステップでは、前記差分から前記差分の平均値を引いた値が正の場合は前記補正値を負に、前記差分から前記差分の平均値を引いた値が負の場合は前記補正値を正にするようにしたものである。
差分から差分の平均値を引いた値が正の場合は補正値を負に、差分から差分の平均値を引いた値が負の場合は補正値を正にすることにより、補正値を効率よく近似的に求めることができ、推計されるOD通行量を迅速に実際のOD通行量に追従させることができ、複数の出入口を有する空間における歩行者のOD通行量をリアルタイムで、より正確に把握することができる。
【0014】
また、望ましくは、前記分岐率補正ステップでは、前記差分の大きい前記出入口の前記補正値を大きくするようにしたものである。
差分の大きい出入口の補正値を優先的に大きくすることにより、補正値を効率よく近似的に求めることができ、推計されるOD通行量を迅速に実際のOD通行量に追従させることができ、複数の出入口を有する空間における歩行者のOD通行量をリアルタイムで、より正確に把握することができる。
【0015】
また、望ましくは、前記分岐率補正ステップでは、流入人数の大きい前記出入口の前記補正値を大きくするようにしたものである。
流入人数の大きい出入口の補正値を優先的に大きくすることにより、補正値を効率よく近似的に求めることができ、推計されるOD通行量を迅速に実際のOD通行量に追従させることができ、複数の出入口を有する空間における歩行者のOD通行量をリアルタイムで、より正確に把握することができる。
【0016】
また、望ましくは、前記分岐率補正ステップでは、前記補正値の合計が零になるように前記出入口毎の前記補正値の値を調整するようにしたものである。
補正値の合計が零になるように出入口毎の補正値の値を調整することにより、推計されるOD通行量の整合性を保つことができ、推計されるOD通行量を実際のOD通行量に追従させることができるので、複数の出入口を有する空間における歩行者のOD通行量をリアルタイムに把握することができる。
【0017】
また、望ましくは、前記流動状況予測ステップのシミュレーションにより得られた前記空間を分割した各メッシュ内の歩行者の人数を取得し、前記空間における歩行者の人数の分布を示すマップを作成するマップ作成ステップを含むようにしたものである。
空間における各メッシュ内の歩行者の人数の分布を示すマップを作成することにより、視覚的に空間内の歩行者の人数の密集の度合いが分かるので、複数の出入口を有する空間における歩行者の混雑状況をリアルタイムに把握したり、時間的な変化を把握することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、OD分岐率を計測された流入人数に乗算してOD通行量を推計して、歩行者の平均的な
流動状況を確率的にシミュレーションして得られた流出予測値と、出入口毎の流出人数との差分が小さくなるように、所定の周期で出入口毎のOD分岐率の補正値を求めてOD分岐率を補正することにより、断面通行量である流入人数に基づき推計されるOD通行量を実際のOD通行量に追従させることができるので、複数の出入口を有する空間における歩行者のOD通行量をリアルタイムに把握することができる。
【0019】
また、シミュレーションで得られたメッシュ毎の歩行者の分布を示すマップを作成することにより、視覚的に空間内の歩行者の人数の密集の度合いが分かるので、複数の出入口を有する空間における歩行者の混雑状況をリアルタイムに把握したり、時間的な変化を把握することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施形態)
[1.構成の説明]
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態である歩行者のOD通行量の推計方法及び推計装置を詳細に説明する。但し、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0022】
本発明の実施形態の歩行者のOD通行量の推計装置の構成について
図1を参照して説明する。
図1は、歩行者のOD通行量の推計装置100の機能をブロック図として表した概略構成図である。
【0023】
図1に示すように、歩行者のOD通行量の推計装置100(以下、単に装置100と呼ぶ。)は、入力部1、記憶部2、表示部3、通信部4、操作部5、計測値取得部6、通行量推計部7、流動状況予測部8、分岐率補正部9及びマップ作成部10を有する。
【0024】
また、計測値取得部6、通行量推計部7、流動状況予測部8、分岐率補正部9及びマップ作成部10は、演算制御部50によってその機能が実現される。具体的には、演算制御部50は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有しており、RAMの作業領域に展開されたROM等に記憶された各種プログラムデータとCPUとの協働により、入力部1、記憶部2、表示部3、通信部4及び操作部5を統括制御すると共に、計測値取得部6、通行量推計部7、流動状況予測部8、分岐率補正部9及びマップ作成部10における処理を実行して各部の機能を実現する。
【0025】
入力部1は、演算制御部50の制御により、装置100外部の装置から、例えば、複数の出入口を有する空間の当該出入口にそれぞれ設置された通行量計測装置で計測された歩行者の出入口毎の流入人数及び流出人数を取得する。
入力部1は、例えば、情報を入力するためのUSB(Universal Serial Bus)コネクタ等の入力ポートである。また、通行量計測装置は、例えば、空間の出入口に設置された改札機、カメラや光学センサにより取得された画像情報等から歩行者の通行量(人数)を抽出する装置である。
【0026】
記憶部2は、演算制御部50(計測値取得部6、通行量推計部7、流動状況予測部8、分岐率補正部9及びマップ作成部10)から読み書き可能に情報を記憶する。例えば、記憶部2は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、半導体メモリ等であって、入力部1で収集されたデータ等の情報が保存されている。例えば、記憶部2は、HDD(Hard Disk Drive)、半導体メモリなどであってよい。
具体的に、記憶部2には、出入口毎の歩行者のOD通行量を推計する際に用いられる出入口毎の歩行者のOD分岐率等が記憶されていると共に、通行量計測装置から取得した出入口毎の歩行者の流入人数及び流出人数や、流動状況予測部8から取得した出入口毎の歩行者の流出予測値が適宜記憶される。
【0027】
表示部3は、演算制御部50(計測値取得部6、通行量推計部7、流動状況予測部8、分岐率補正部9及びマップ作成部10)から出力された表示制御信号に基づいた情報や画像を表示画面上に表示する。
例えば、表示部3は、CRT(Cathode Ray Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Organic Electro-Luminescence)素子を用いたFPD(Flat Panel Display)等である。
また、スマートフォンやタブレット端末等のように表示部3は、操作部5と一体的に形成されたタッチパネルなどであってもよい。
【0028】
通信部4は、演算制御部50の制御により、インターネット、無線通信等のネットワークに接続し、装置100外部の通行量計測装置等により計測された出入口毎の歩行者の流入人数及び流出人数を受信して取り込み、記憶部2に格納する。
【0029】
操作部5は、演算制御部50の制御により、表示部3に表示される表示画面を操作する。例えば、表示画面を操作するためのキーボード、マウス等である。
また、スマートフォンやタブレット端末等のように操作部5は、表示部3と一体的に形成されたタッチパネルなどであってもよい。
【0030】
計測値取得部6は、入力部1又は通信部4を制御して、装置100外部から、複数の出入口を有する空間の当該出入口にそれぞれ設置された通行量計測装置で計測された出入口毎の歩行者の流入人数及び流出人数を取得して記憶部2に格納する。例えば、計測値取得部6は1秒間隔で、通行量計測装置で計測された出入口毎の歩行者の流入人数及び流出人数を取得して記憶部2に格納する。
【0031】
通行量推計部7は、記憶部2に記憶されている出入口毎の歩行者のOD分岐率を読み出して、通行量計測装置から取得した出入口毎の歩行者の流入人数に乗算して出入口毎の歩行者のOD通行量を推計する。また、通行量推計部7は、推計された出入口毎の歩行者のOD通行量を記憶部2に格納すると共に、表示部3に適宜表示させる。
【0032】
流動状況予測部8は、後述するように、出入口毎の歩行者の推計されたOD通行量に基づき歩行者の平均的な流動状況を確率的にシミュレーションして、出入口毎の歩行者の流出予測値を求める。
【0033】
分岐率補正部9は、所定の周期で、通行量計測装置で計測された出入口毎の歩行者の流出人数と、流動状況予測部8でシミュレーションした出入口毎の歩行者の流出予測値との差分が小さくなるように出入口毎の歩行者のOD分岐率の補正値を求め、当該補正値を用いて出入口毎の歩行者のOD分岐率を補正する。
例えば、分岐率補正部9は、1分間隔で、出入口毎の歩行者の流出人数と流出予測値との差分が小さくなるように出入口毎の歩行者のOD分岐率の補正値を求め、当該補正値を用いて出入口毎の歩行者のOD分岐率を補正する。
【0034】
マップ作成部10は、流動状況予測部8のシミュレーションにより得られた空間を分割した各メッシュ内の歩行者の人数を取得し、空間における歩行者の人数の分布を示すマップを作成する。例えば、流動状況予測部8のシミュレーションで得られた各メッシュ内の歩行者の人数に基づき、空間内の歩行者の分布を求めて歩行者の人数の分布を示すマップを作成して、表示部3に表示させる。
【0035】
[2.推計装置の動作の説明]
ここで、本発明の実施形態における歩行者のOD通行量の推計装置100の具体的な動作の説明を
図2〜
図5を用いて詳細に行う。
図2は歩行者のOD通行量を推計する複数の出入口を有する空間の一例を示す平面図であり、当該空間SP21は、4つの出入口ET21、ET22、ET23及びET24を有している。
【0036】
また、出入口ET21には通行量計測装置である歩行者の通行量(流出人数及び流入人数)を計測する改札機GT21が設置されており、他の出入口ET22、ET23及びET24には、通行量計測装置であるカメラや光学センサにより取得された画像情報等から歩行者の通行量(流出人数及び流入人数)を抽出する装置EQ21、EQ22及びEQ23が設置されている。
【0037】
[2−1.動作の説明]
図3のフローチャートに示すように、計測値取得部6は、入力部1又は通信部4を制御して、空間SP21の出入口(ET21〜ET24)毎に設置された通行量計測装置(GT21、EQ21〜EQ23)で計測された歩行者の流入人数及び流出人数を取得して記憶部2に格納する(ステップS31:計測値取得ステップ)。
【0038】
次に、通行量推計部7は、記憶部2に記憶されている出入口毎の歩行者のOD分岐率を読み出して、計測値取得部6が取得した出入口毎の歩行者の流入人数に乗算して出入口毎の歩行者のOD通行量を推計する(ステップS32:通行量推計ステップ)。また、通行量推計部7は、推計された出入口毎の歩行者のOD通行量を記憶部2に格納し、必要に応じて表示部3に歩行者のOD通行量を適宜表示させる。
【0039】
そして、流動状況予測部8は、通行量推計部7で推計した出入口毎の歩行者のOD通行量に基づき歩行者の平均的な流動状況を確率的にシミュレーションする(ステップS33:流動状況予測ステップ)。
【0040】
[2−2.シミュレーションの説明]
ここで、流動状況予測部8における確率的シミュレーションについて詳細に説明する。流動状況予測部8は、
図2に示す複数の出入口を有する空間SP21を、
図4に示すように複数のメッシュ(例えば、ME41、ME42、ME43、ME44等)に等分に分割し、例えば、出入口ET21から流入した歩行者がどのメッシュに移動しながらどの出入口(ET21〜ET24)から流出するかの流動状況等をシミュレーションする。
【0041】
一般に、このような複数のメッシュに分割して流入した歩行者の動向をシミュレーションする場合、例えば、
図5(a)に示すように、歩行者がメッシュME51から他のメッシュに移動する場合、歩行者自身を分割できないので、
図5(b)に示すように或る一つのメッシュME53に移動することになる。このような、シミュレーションは確定的シミュレーションと呼ばれ、歩行者をどのメッシュに移動させるかを確定するための計算に時間を要してリアルタイム性に劣る。
【0042】
一方、例えば、
図5(c)に示すように、歩行者がメッシュME51から他のメッシュに移動する場合、歩行者自身を確率的に分割して、
図5(d)に示すように複数のメッシュME52〜ME54に分割して移動させる。
具体的には、「0.2人」の歩行者がそれぞれメッシュME52及びME54に移動し、「0.6人」の歩行者がメッシュME53に移動する。このような、シミュレーションは確率的シミュレーションと呼ばれ、出入口毎の歩行者のOD通行量に基づき歩行者の平均的な移動状況を確率的に予測するため、計算の時間をあまり必要とせずリアルタイム性に優れている。
【0043】
このため、本発明の実施形態における歩行者のOD通行量の推計装置100では、複数の出入口を有する空間における歩行者のOD通行量をリアルタイムに把握するために、流動状況予測部8では、確率的シミュレーションを行う(出入口毎の歩行者のOD通行量に基づき歩行者の平均的な移動状況を確率的に予測する)。
【0044】
ここで、確率的シミュレーションを行うための空間、時刻、歩行者の属性及び状態の各種設定や、確率的シミュレーションにより得られる流動マップ及び流動マップの状態変化を詳細に説明する。なお、流動状況予測部8における確率的シミュレーションは、一般的な表計算ソフトウェアによる計算によって行われる。
【0045】
[2−2−1.空間の設定]
シミュレーションする複数の出入口を有する空間を縦横長さΔxの区間(1メッシュ)に等分して、左上を原点とするメッシュを、
【数1】
と表記する。複数の出入口を有する空間内の位置は単位Δxの離散した値をとり、その間の距離は扱わない。また、Δxは、混雑していない時の歩行速度に対する時間の刻み幅との条件を満足すれば自由に設定可能である。
【0046】
[2−2−2.時刻の設定]
或る時刻を基準として、時間Δt刻みのステップ数として時刻を、
【数2】
と表記する。時刻は離散的な値をとり、その間の時刻は扱わない。また、Δtについても、混雑していない時の歩行速度に対するメッシュサイズとの条件を満足すれば自由に設定可能である。
【0047】
[2−2−3.歩行者の属性の設定]
複数の出入口を有する空間への流入地点種類(O)と、複数の出入口を有する空間からの流出地点種類(D)との組み合わせによって歩行者の属性を、
【数3】
と表記する。なお、複数の出入口を有する空間に流入した後、歩行者は流出地点種類(D)のみの属性を持つことになる。
【0048】
[2−2−4.状態の設定]
各メッシュに対する歩行者の人数と流動を考える。時刻tにおけるメッシュ(i,j)内の属性dの歩行者の人数を、
【数4】
と表記する。また、属性毎の人数を集計したメッシュ(i,j)内の歩行者の人数を、
【数5】
と表記する。歩行者の人数は連続量として表記する。
【0049】
また、或るメッシュ(i,j)について周辺の8つのメッシュを近傍メッシュとする。メッシュ(i,j)に対する歩行者の流動は、
(1)メッシュ(i,j)から近傍メッシュへの流動
(2)近傍メッシュからメッシュ(i,j)への流動
(3)空間外からメッシュ(i,j)への流入
(4)メッシュ(i,j)から空間外への流出
に限られるとする。つまり、1ステップの時刻で近傍メッシュよりも遠い場所への流動は扱わない。
【0050】
時刻t〜t+1の間にメッシュ(i,j)へ近傍メッシュkから流入する属性dの歩行者の人数を、
【数6】
と表記する。また、逆向きの流動として、メッシュ(i,j)から近傍メッシュkへ流出する属性(o,d)の歩行者の人数を、
【数7】
と表記する。
【0051】
また、複数の出入口を有する空間外からメッシュ(i,j)へ流入する属性(o,d)の歩行者の人数を便宜的に近傍0からの流入として、
【数8】
と表記する。また、複数の出入口を有する空間外への流出を、
【数9】
と表記する。
【0052】
人数と同様に、属性毎の流動を集計した値を、
【数10】
【数11】
と表記する。
【0053】
[2−2−5.流動マップ]
以上のような各種設定を行うことにより、複数の出入口を有する空間内における時刻tでの歩行者の人数(q)と流動(f)は、
【数12】
と表記され、これらをまとめて広義の流動マップと呼ぶ。
【0054】
また、各メッシュ内の時刻tでの歩行者の人数、
【数13】
を狭義の流動マップと呼ぶ。
【0055】
[2−2−6.流動マップの状態変化]
複数の出入口を有する空間内の流動や当該空間に対する流入出による流動マップの変化を状態変化と呼ぶ。状態変化を人数と流動毎に整理する。条件として、
(1)空間内の流動と空間外に対する流入出以外の原因でメッシュ内の歩行者
の人数が増減しない
(2)Δtの時間に近傍メッシュ以外からのメッシュへの移動はない
を考慮すると、
【数14】
が成り立つ。
【0056】
また、[数4]の値は既に得られているので、[数8]で表記された複数の出入口を有する空間外から流入する歩行者の人数は、各出入口において実際に計測された流入人数にOD分岐率を乗算することにより求めることができる。
一方、複数の出入口を有する空間からの流出人数(流出予測値)については、目的地点に該当するメッシュの歩行者が全て空間から流出するので、
【数15】
Dd:目的地点dのメッシュ集合
として得られることになる。
【0057】
図3のフローチャートに戻って、分岐率補正部9は、所定の補正周期(例えば、1分間隔)になったか否かを判断し(ステップS34)、もし、所定の補正周期ではないと判断した場合には(ステップS34:No)、ステップS31に戻る。
【0058】
一方、分岐率補正部9が、所定の補正周期であると判断した場合には(ステップS34:Yes)、分岐率補正部9は、通行量計測装置で計測された出入口毎の流出人数と、流動状況予測部8における、推計したOD通行量に基づく確率的シミュレーションにより得られた出入口毎の流出予測値との差分が小さくなるように出入口毎のOD分岐率の補正値を求め、求めた補正値を用いて出入口毎のOD分岐率を補正して記憶部2に格納する(ステップS35:分岐率補正ステップ)。
【0059】
最後に、分岐率補正部9(演算制御部50)は、歩行者のOD通行量の推計を終了するか否か(例えば、ユーザ所定の分岐率補正ステップ数の上限値に達したか)を判断し(ステップS36)、もし、分岐率補正部9(演算制御部50)が、歩行者のOD通行量の推計を終了しない(例えば、ユーザ所定の分岐率補正ステップ数の上限値に達していない)と判断した場合(ステップS36:No)、ステップS31に戻り、一方、歩行者のOD通行量の推計を終了する(例えば、ユーザ所定の分岐率補正ステップ数の上限値に達した)と判断した場合には(ステップS36:Yes)、歩行者のOD通行量の推計処理を終了する。
【0060】
[2−3.補正値の求め方の説明]
ここで、ステップS35(分岐率補正ステップ)における出入口毎のOD分岐率の補正値の求め方をより詳細に説明する。推計されるOD交通量は、[数16]で表される。
【数16】
O
i(t):流入地点iへ、時刻t〜t+Δtに流入する歩行者の人数(計測値)
_
R
i,j(t):iからjへのOD分岐率(推計値)
【0061】
そして、通行量計測装置で計測された出入口毎の流出人数と、流動状況予測部8から取得した出入口毎の流出予測値との差分は、[数17]となる。
【数17】
D
j(t):流出地点jで、時刻t〜t+Δtに流出する歩行者の人数(計測値)
_
D
j(t):流出地点jで、時刻t〜t+Δtに流出する歩行者の人数(予測値)
【0062】
また、OD分岐率の補正は、[数18]で行う。
【数18】
ΔR
i,j(t):OD分岐率の補正値
_
R
i,j(t):OD分岐率(推計値)
但し、
【数19】
を満たすために、
【数20】
を満たす必要がある。
【0063】
また、OD分岐率の補正値を求めるために、以下を前提条件として仮定する。
前提条件1:移動速度に極端な偏りがなく、密度によって概ね一律の平均速度
vで移動すると見做せる
前提条件2:OD分岐率は緩やかに変化し、ある程度の短時間ならほぼ同じ値
【0064】
ここで、流出地点jでの時刻tにおける流出人数は、距離に応じた過去の各流入人数とOD分岐率によって決まる。この時刻は、各入流地点iと流出地点jの距離d
i,jと速度vを用いて、
【数21】
だけ遡った時刻を用いて、[数22]と表される。
【数22】
ε:誤差
【0065】
シミュレーション(予測値)も同様で、[数23]と表される。
【数23】
【0066】
但し、このような、前提条件に基づき差分が小さくなるように出入口毎のOD分岐率の補正値を厳密に求めると計算に時間を要してしまい、リアルタイム性が悪化するので、出入口毎のOD分岐率の補正値を効率よく近似的に求める。
【0067】
[2−3−1.設定条件]
そして、出入口毎のOD分岐率の補正値を効率よく近似的に求めるために、下記の条件を設定する。
条件1:差分の正負に応じて補正値の正負を定める
条件2:差分の大きい出入口の補正値を大きくする
条件3:流入人数の大きい出入口の補正値を大きくする
【0068】
[2−3−2.条件1]
例えば、或る出入口における流出人数と流出予測値との差分が正の場合には、当該出入口におけるOD分岐率の流出予測値に対する分岐率が不十分なので、補正値を正にする。一方、或る出入口における流出人数と流出予測値との差分が負の場合には、当該出入口におけるOD分岐率の流出予測値に対する分岐率が大きすぎるので、補正値を負にする。
【0069】
但し、差分の全てが正又は負の場合には、全ての補正値を正又は負にすると、[数20]の条件を満足できない場合があるので、差分の平均値を、[数24]とする。
【数24】
【0070】
そして、或る出入口における流出人数と流出予測値との差分から差分の平均値を引いた値が正の場合には、当該出入口におけるOD分岐率の流出予測値に対する分岐率が不十分なので、補正値を正にする。一方、或る出入口における流出人数と流出予測値との差分から差分の平均値を引いた値が負の場合には、当該出入口におけるOD分岐率の流出予測値に対する分岐率が大きすぎるので、補正値を負にする。
【0071】
[2−3−3.条件2]
或る出入口における流出人数と流出予測値との差分の大きい出入口ほど補正値を大きくするために、差分の大小関係を[数25]で表す。
【数25】
【0072】
そして、[数25]によって差分の大きさを相対的に評価して、補正値の大小関係を決定する。
【0073】
[2−3−4.条件3]
流入人数の大きい流入地点iの補正値を優先的に大きくするために、流入人数の大小関係を[数26]で表す。
【数26】
【0074】
そして、[数26]によって流入人数の大きさを相対的に評価して、補正値の大小関係を決定する。
【0075】
このような条件1〜条件3を考慮して補正値を求める中間段階として、[数20]の条件を満足する前の基本値を、[数27]で表す。
【数27】
【0076】
[数27]の基本値を差分の大きさに対応させるため、補正値k
jを用いて、[数28]で表す。
【数28】
【0077】
そして、[数28]によって補正値k
jを求める。但し、差分と基本値の正負が異なる場合には差分の大きさに揃える必要はないので、
【数29】
【数30】
と一定の値を与える。
【0078】
ここで、「k
j×ΔR’
i,j」は、[数20]の条件を満足していないので、最終的に修正する。流出地点jについて、「k
j×ΔR’
i,j」の正の値の合計をS+、負の値の合計をS−とし、S+とS−の絶対値を求め、その大きい方を、S
big、小さい方を、S
smallとする時、[数31]によって補正値を求める。
【数31】
【0079】
本発明の実施形態における歩行者のOD通行量の推計装置100の推計の結果として、各出入口でのOD分岐率及び指定した時刻(t
from〜t
to)でのOD通行量が、[数32]及び[数33]として求まる。
【数32】
【数33】
【0080】
以上のように、OD分岐率を計測された流入人数に乗算してOD通行量を推計して、推計したOD通行量に基づき歩行者の平均的な流動状況を確率的にシミュレーションして得られた流出予測値と、出入口毎の流出人数との差分が小さくなるように、所定の周期で出入口毎のOD分岐率の補正値を求めてOD分岐率を補正することにより、補正値を効率よく近似的に求めることができ、断面通行量である流入人数に基づき推計されるOD通行量を実際のOD通行量に追従させることができるので、複数の出入口を有する空間における歩行者のOD通行量をリアルタイムで正確に把握することができる。
【0081】
[3.歩行者の混雑状況のマップの説明]
マップ作成部10は、流動状況予測部8が複数の出入口を有する空間におけるシミュレーション時に得られた、時刻tでの各メッシュ内の歩行者の人数である狭義の流動マップ([数13])を取得して、
図4において分割したメッシュにおける時刻tでの歩行者の人数の分布を示すマップを作成して表示部3に表示させる。例えば、マップ作成部10は、各メッシュを、各メッシュ内の歩行者の人数に応じて色分け表示、或いは、濃淡表示等の識別可能な表示方法で表示したマップを作成して表示部3に表示させる。
【0082】
例えば、
図6は、マップ作成部10で作成されたマップの一例を示す説明図であり、
図6において、DS61はメッシュ内の歩行者の人数が最も多くて混雑が激しいエリアを示し、DS64がメッシュ内の歩行者の人数が最も少なくて混雑が生じていないエリアを示している。また、
図6におけるDS62及びDS63は、DS61とDS64との中間の混雑状況であるエリアを示しており、メッシュ内の歩行者の人数の大小関係は、DS61>DS62>DS63>DS64である。
【0083】
以上のように、空間における各メッシュ内の歩行者の人数の分布を示すマップを作成して表示させることにより、視覚的に空間内の歩行者の人数の密集の度合いが分かるので、複数の出入口を有する空間における歩行者の混雑状況をリアルタイムで把握したり、時間的な変化を把握することができる。
【0084】
なお、実施形態の説明に際しては、流動状況予測部8は、確率的シミュレーションを行う(出入口毎の歩行者のOD通行量に基づき歩行者の平均的な移動状況を確率的に予測する)手法を採用しているが、勿論、既存の他のシミュレーショの手法を採用してもよい。
【0085】
また、実施形態の説明に際しては、出入口毎のOD分岐率の補正値を効率よく近似的に求めるために、条件1〜条件3を設定しているが、勿論、出入口毎のOD分岐率の補正値を効率よく近似的に求めることが可能な他の条件を設定してもよい。
【0086】
また、実施形態の説明に際しては、空間SP21として、4つの出入口を有する空間を例示したが、勿論、出入口の数には何ら限定はなく、複数の出入口を有する空間であればよい。