特許第6594680号(P6594680)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6594680中空複合磁性部材の製造方法及び製造装置並びに燃料噴射弁
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594680
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】中空複合磁性部材の製造方法及び製造装置並びに燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/354 20140101AFI20191010BHJP
   F02M 61/16 20060101ALI20191010BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20191010BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20191010BHJP
【FI】
   B23K26/354
   F02M61/16 P
   F02M61/16 F
   B23K26/00 G
   B23K26/064 Z
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-135987(P2015-135987)
(22)【出願日】2015年7月7日
(65)【公開番号】特開2017-18960(P2017-18960A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】張 旭東
(72)【発明者】
【氏名】岡本 晋哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 信章
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貴博
(72)【発明者】
【氏名】山崎 昭宏
【審査官】 岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−087875(JP,A)
【文献】 特開平10−225770(JP,A)
【文献】 特開平05−057480(JP,A)
【文献】 特開平08−300175(JP,A)
【文献】 特開平06−142974(JP,A)
【文献】 特開2011−156573(JP,A)
【文献】 特開昭59−202197(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/070272(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
F02M 61/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性で形成された中空部材の一部における磁性を弱めた中空複合磁性部材を製造する方法であって、
前記中空部材の一部にNi含有材料を連続的に送給するとともに、レーザビームにより線分状の照射領域の加熱をすることにより、前記Ni含有材料及び前記中空部材を溶融し混合し磁性を弱めた弱磁性領域を形成する工程を含
前記照射領域の長辺の長さをaとし、前記照射領域の前記長辺に平行する断面における前記弱磁性領域の幅をwとした場合に、aはwの1倍以上2倍未満であり、
前記照射領域の短辺の長さをbとし、前記Ni含有材料の断面の直径をdとした場合に、b/d≦1.0の関係を満たす、中空複合磁性部材の製造方法。
【請求項2】
前記照射領域の加熱をする際、前記中空部材を回転する、請求項1記載の中空複合磁性部材の製造方法。
【請求項3】
前記Ni含有材料は、その断面が中実若しくは中空の円形状、楕円形状若しくは矩形状を有する単芯のソリッドワイヤ、又は断面が中実若しくは中空の円形状、楕円形状若しくは矩形状を有する単芯のソリッドワイヤを複数撚り合わせたストランドワイヤである、請求項1又は2に記載の中空複合磁性部材の製造方法。
【請求項4】
前記レーザビームは、シリンドリカルレンズより形成する、請求項記載の中空複合磁性部材の製造方法。
【請求項5】
前記線分状の前記照射領域は、点状のレーザビームを走査することにより形成する、請求項1〜のいずれか一項記載の中空複合磁性部材の製造方法。
【請求項6】
強磁性の中空部材の一部における磁性を弱めた中空複合磁性部材を製造する装置であって、
前記中空部材の一部にNi含有材料を連続的に送給する材料送給ユニットと、
線分状の照射領域を有するレーザビーム形成ユニットと、
前記Ni含有材料及び前記中空部材を溶融し混合して磁性を弱めた弱磁性領域を形成するために前記中空部材を設置する照射対象設置ユニットと、を備え
前記照射領域の長辺の長さをaとし、前記照射領域の前記長辺に平行する断面における前記弱磁性領域の幅をwとした場合に、aはwの1倍以上2倍未満であり、
前記照射領域の短辺の長さをbとし、前記Ni含有材料の断面の直径をdとした場合に、b/d≦1.0の関係を満たす、中空複合磁性部材の製造装置。
【請求項7】
さらに、前記中空部材を回転する照射対象回転ユニットを備えた、請求項記載の中空複合磁性部材の製造装置。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の中空複合磁性部材の製造方法により製造された中空複合磁性部材であるパイプを有する、燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空複合磁性部材の製造方法及び製造装置並びに燃料噴射弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接は、熱源のレーザビームのエネルギー密度が高いため、低歪み、高速度及び高精度で溶接継手が得られることから、各方面で使用されている。自動車分野においては、ステンレス鋼や炭素鋼などの鉄鋼材料や、アルミ合金や、ニッケル合金などの金属材料に対し、複数の被溶接材を重ね又は突合せて溶接した製品が多い。例えば、車体や、燃料ポンプ、インジェクタ(燃料噴射弁)の製造において、パルス波または連続波のレーザ光を用いた溶接プロセスが使われている。
【0003】
また、金属材料の表面又は一部の組織や性能を改善するために、金属材料と異なる成分を持つ添加材(ワイヤ又はパウダー)を使用し、レーザビームの照射により金属材料の局部組織や性能を向上する表面改質も幅広い製品に適用されている。
【0004】
例えば、自動車分野で使っている燃料噴射弁の応答性を向上するために、パイプ状の磁性材料に対し局部の非磁性又は低磁性化処理が行われている。
【0005】
しかし、薄肉のパイプに対し、レーザ照射により改質部がパイプ内側面に落ち込みが生じ、低磁性化処理後の形状調整工程が必要である。
【0006】
上記の落ち込みの発生原因は、レーザビームを所定の低磁性化処理領域に照射する際に、燃料噴射弁の性能から要求される処理領域の幅を得られるため、レーザビームスポット径を大きく設定するか、又は、レーザビームの入熱量を大きく設定する必要がある。この場合、薄肉パイプに対する入熱量が大きく、溶け落ちが生じる場合や、大きく変形する場合がある。
【0007】
上記の落ち込みの問題を解決するために、特許文献1には、上記パイプの内部に非酸化性のシールドガスを供給しながらレーザ照射を行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−87875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されたレーザ改質方法は、パイプ内部にシールドガスの提供により落ち込みの抑制効果があるが、レーザ全体の入熱量が依然高いため、変形に対しての低減効果が得られない。また、パイプ肉厚や低磁性化処理幅等の寸法を変更する場合、シールドガスの圧力を調整する必要があるため、落ち込みが生じない安定なプロセスを実現することが簡単ではない。
【0010】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、中空部材の内部に供給するシールドガスによる圧力調整を行わない状態でレーザビームによる溶接をする際、低磁性化処理領域の変形を低減する方法及びそのための装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の中空複合磁性部材の製造方法は、強磁性で形成された中空部材の一部における磁性を弱めた中空複合磁性部材を製造する方法であって、中空部材の一部にNi含有材料を連続的に送給するとともに、レーザビームにより線分状の照射領域の加熱をすることにより、Ni含有材料及び中空部材を溶融し混合し磁性を弱めた弱磁性領域を形成する工程を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中空の強磁性パイプの局部を弱磁性化処理に生じやすい落込みを防止でき、レーザ照射により生じた変形を大幅に低減でき、且つ、パイプ内部のシールドガス圧力の調整も不要になるため、より高能率、高品質な弱磁性化処理ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係わるレーザ弱磁性化処理を模式的に示す斜視図である。
図2A】本発明に係わるレーザ弱磁性化処理に用いるNi添加材の形状を示す断面図である。
図2B】本発明に係わるレーザ弱磁性化処理に用いるNi添加材の形状を示す断面図である。
図2C】本発明に係わるレーザ弱磁性化処理に用いるNi添加材の形状を示す断面図である。
図2D】本発明に係わるレーザ弱磁性化処理に用いるNi添加材の形状を示す断面図である。
図3】本発明のレーザ弱磁性化処理に使われているNiワイヤの径と線状レーザビームの形状とを示す図である。
図4】本発明のレーザ弱磁性化処理に使われている線状レーザビームの形状と処理領域の幅とを示す図である。
図5A】本発明の装置に用いるシリンドリカルレンズを含む線状ビーム変換ヘッドの構成を示す模式側面図である。
図5B】本発明の装置に用いるシリンドリカルレンズを含む線状ビーム変換ヘッドの構成を示す模式側面図である。
図6】本発明の装置に用いる回折型レンズを含む線状ビーム変換ヘッドの構成を示す模式側面図である。
図7】本発明の装置に用いる高速スキャナーを含む線状ビーム変換ヘッドを示す概略構成図である。
図8】本発明の中空複合磁性部材であるパイプを用いた燃料噴射弁を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、線状加熱方式を用いたワイヤ添加するレーザ熱処理により表面改質、肉盛又は溶接などのレーザ加工方法、およびそれを実現するためのレーザ加工装置に関するものである。
【0015】
燃料噴射弁用強磁性パイプの一部を弱磁性化する燃料噴射弁用強磁性パイプ弱磁性化処理方法においては、前記燃料噴射弁用強磁性パイプの一部にNi含有材料を連続的に送給しながら、線状加熱方式のレーザビームにより、前記Ni含有材料及び前記燃料噴射弁用強磁性パイプを溶融させることで前記燃料噴射弁用強磁性パイプの一部を弱磁性化する。
【0016】
上記の連続送給されるNi含有添加材(Ni含有材料)の断面形状は、中実又は中空の円状、楕円状又は矩形のいずれかを有し、単芯のソリッドワイヤ又は多芯のストランドワイヤを使用することが好ましい。
【0017】
また、上記線状加熱方式のレーザビームの照射範囲の長さは、弱磁性化処理領域の幅の1倍以上2倍未満とし、照射範囲の幅がNi添加材の直径の1.0倍以下とすることが好ましい。
【0018】
上記線状加熱方式のレーザビームは、シリンドリカルレンズ、あるいは回折型レンズより形成した線状ビームを使用するか、又は円状ビームを高速往復走査させる高速ビームスキャナーを使用し、線状の照射領域を形成することができる。
【0019】
上記のレーザ弱磁性化処理プロセスを実現するための本発明のレーザ加工装置は、線状加熱方式のレーザ照射範囲の長さと幅を調整できるビーム変換ヘッド又は円状ビームを高速往復走査させるビームスキャナーのいずれか(レーザビーム形成ユニット)を有し、Ni添加材(Ni含有材料)を連続送給できる機構(材料送給ユニット)を組み合わせた装置である。
【0020】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。
【実施例1】
【0021】
本発明の実施例の溶接方法は、図1図5Bを用いて下記の通りである。
【0022】
図1は、強磁性パイプの弱磁性化処理(中空複合磁性部材(パイプ)の製造に用いる強磁性パイプ、ワイヤ及びレーザ光照射部の配置)を示す図である。ここで、中空複合磁性部材とは、部分的に磁性を弱めた部分を有する中空の強磁性部材(強磁性パイプ)をいう。
【0023】
強磁性パイプ1は、例えば電磁ステンレス鋼等の磁性金属材料により形成された金属パイプ等からなる。この金属パイプの形状は、円筒形状に限定されるものではなく、一般に、中空の部材(中空部材)であればよい。
【0024】
強磁性パイプ1は、例えば、肉厚0.5mmのフェライト系ステンレス鋼SUS430のパイプ材を用いることができる。強磁性パイプ1は、Crを15質量%以上18質量%以下有する。このような金属としては、例えばCrを16.49質量%、Siを0.44質量%、Niを0.19質量%、Cを0.01質量%、Mnを0.25質量%含有するものが挙げられる。
【0025】
図示しないレーザ発信器からレーザ光を発生させ、転送ファイバー5等の転送経路を経由し、線状ビーム変換ヘッド6により線状ビームに変換し、強磁性パイプ1の表面にレーザ光(線状ビーム)を照射する。符号2は、その照射領域を示したものである。
【0026】
この強磁性パイプ1にNiを含むワイヤ4(Ni含有材料)を当て、レーザ発信器からのレーザ熱により強磁性パイプ1の非磁性化処理をする。非磁性化処理を施した部分では強磁性パイプ1にNiが添加される。
【0027】
図1に示す本実施例のレーザ弱磁性化処理では、例えば、波長が1070〜1080nmのファイバーレーザを用いることができるが、他の波長のレーザ光を使用してもよい。
【0028】
線状加熱方式のレーザビームの照射範囲(照射領域2)となる照射形状は、線状形状(線分状)である。図1のように照射領域2の長手方向を強磁性パイプ1の回転軸と平行になるように、照射対象設置ユニット(不図示)に強磁性パイプ1を設置し、レーザを照射する。
【0029】
強磁性パイプ1を照射対象回転ユニット(不図示)により回転させながら、ワイヤ送給装置(不図示、「材料送給ユニット」ともいう。)により、直径0.6mmのワイヤ4をパイプ表面に連続的に供給し、線状ビーム2によりワイヤ4とパイプ1の表面局部とを同時に溶融し、弱磁性化処理領域3を形成する。弱磁性化処理領域3は、強磁性パイプ1の側面に環状に形成される。
【0030】
図2A〜2Dは、ワイヤの断面形状のバリエーションを示したものである。
【0031】
図2Aのワイヤ4aは、断面が円形状のソリッドワイヤであり、直径0.6mmである。
【0032】
図2Bのワイヤ4bは、楕円形状のソリッドワイヤである。図2Cのワイヤ4cは、矩形状のソリッドワイヤである。弱磁性化の効果を得るためには、ワイヤの添加量を確保する必要がある。円状ワイヤに比べ、楕円状又は矩形状ワイヤを使用した場合、狭い方向の寸法が小さくなるため、線状ビームにより溶融し易いメリットがある。円状ワイヤは、楕円状や矩形状ワイヤよりコストの面で有利である。
【0033】
上記の図2A〜2Cにおいては、単芯のソリッドワイヤを示したが、多芯のストランドワイヤを使用しても良い。図2Dのワイヤ4dは、多芯のストランドワイヤである。ストランドを構成する1本1本のワイヤ104は、断面が円形状のものである。
【0034】
図3は、本実施例に使用した単芯ソリッドワイヤの断面形状及び寸法並びにパイプの表面に照射されるレーザビーム形状(線状ビーム)すなわちパイプの表面におけるレーザビームの照射領域の形状及び寸法を示したものである。
【0035】
図3において符号4は、ワイヤの断面である。符号2は、パイプ表面に照射されるレーザビーム形状(照射領域の形状及び寸法)である。dは、ワイヤ4の直径である。bは、照射領域の幅(短辺)である。aは、照射領域の長さ(長辺)である。
【0036】
本実施例では、ワイヤの直径dを0.6mmとし、照射領域の幅bを0.5mmとしたが、ワイヤ径および照射領域の幅を適宜変更することが可能である。しかし、弱磁性化処理に伴う変形を最小化するためには、上記ワイヤ径dと照射領域の幅bとの関係は下記の(式1)に従うことが好ましい。
【0037】
b/d≦1.0 …(式1)
ここで、ワイヤの断面が楕円形状である場合には、ワイヤの断面のレーザ照射の進行方向における直径(幅)をdとする。例えば、図3のような場合(レーザ照射の進行方向は図上の上または下)、楕円の幅狭方向の直径(d)となる。一般に、ワイヤの断面形状がどのようなものであっても、ワイヤの断面のレーザ照射の進行方向における幅をdとする。
【0038】
上記のb/d≦1.0に満足する必要性を説明する。
【0039】
レーザ照射による変形の最小化するためには、線状ビームの幅方向をワイヤ以外のパイプ領域に照射しないように制御する必要がある。照射領域の幅bがワイヤ径dよりも大きくなると、照射領域の長さa及び幅bにより決まるレーザビーム照射面積a×bも増加する。
【0040】
ワイヤとパイプ弱磁性化処理領域を同時に溶融させるためには、所定のレーザパワー密度(単位面積に当たるレーザ出力、W/mm)がワイヤに当たる必要がある。照射範囲がワイヤに対して広すぎる場合、レーザ出力の密度が下がるため、十分な溶融ができず、弱磁性化処理の効果が低くなる。このため、同じレーザ出力をワイヤに照射させるためには全体の出力を上げる必要がある。しかし、全体の出力を上げるとワイヤに当たらない箇所での入熱量が増加するため、パイプの変形が大きくなる問題点がある。したがって、レーザ照射は線状であることが好ましく、そのサイズbとdは、上記のような関係となるように調節することが更に好ましい。
【0041】
例えば、本実施例では直径0.6mmのワイヤを使用し、強磁性のパイプの弱磁性化処理領域の範囲を2.5mmとしており、この場合、照射領域の寸法は0.6mm×2.5mmを設定する。しかし、従来の円状ビームを使用した場合、同じ2.5mmの弱磁性化処理領域を得られるために、ビームスポット径を2.5mm設定する必要がある。この結果、レーザ照射面積は線状ビームに比べ4倍以上大きくなる。同じ出力のレーザを用いた場合、円状ビームの場合、線状ビームよりも出力密度が下がるため、ワイヤに充分な出力を照射させるためには線状ビームよりも高い出力が必要となる。高い出力にした場合、広範囲に高出力のレーザが照射されることになるため、パイプの変形が大きくなる可能性がある。
【0042】
次に、本実施例に使用した線状ビームの照射領域の長さaについて図4を用いて詳細に説明する。
【0043】
図4は、線状ビームの照射領域2と、強磁性パイプ1の断面の一部と、を示したものである。本図に示す照射領域2の長辺及び強磁性パイプ1の断面は、強磁性パイプ1の回転軸に平行するものである。
【0044】
弱磁性化処理領域(弱磁性領域)の幅wは、燃料噴射弁の応答性の観点から、最適な範囲が設けられている。例えば、この幅wを2.5mmとする。一般に、パイプ自身の熱伝導や環境の熱伝熱の影響で、レーザ照射により溶融する範囲は、上記照射領域の長さaより若干狭くなるため、照射領域の長さaをwより小さく設定すると、弱磁性化処理領域が狭くなり、応答性能が低下する。したがって、1.0≦a/wとすることが重要となる。
【0045】
一方で、a/wを2.0以上に設定すると、レーザの照射範囲が広すぎ、弱磁性化処理領域の幅wが要求の2.5mmより大幅に上回る。その結果、変形が大きくなり、応答性も低下する。
【0046】
したがって、レーザの線状ビームの照射領域の長さaと要求されている弱磁性化処理領域の幅wは、線状形状の幅広方向の長さをa、燃料噴射弁用強磁性パイプの弱磁性化処理する幅をwとした場合、aはwの1倍以上2倍未満とすることが好ましく、下記の(式2)を満たすことが好ましい。
【0047】
1.0≦a/w<2.0 …(式2)
図5A及び5Bは、本実施例で使用したビーム変換ヘッドを示したものである。これらの図は、上記の線状ビームの照射領域の形状を実現するためのレンズの配置を示したものである。
【0048】
具体的には、転送用ファイバーからのレーザビーム111は、コリメーションレンズ7により平行ビーム112に変換される。その後、2つのシリンドリカルレンズ8及び9を使用して線状ビーム113に変換する。これらの構成は、レーザビーム形成ユニットに含まれる。
【0049】
図5Aは、線状ビーム113の照射領域の長さaに対応する面を示したものである。図5Bは、線状ビーム113の照射領域の幅bに対応する面を示したものである。
【0050】
シリンドリカルレンズ8は、線状ビームの長さ方向に集光効果あるが、幅方向に集光しない。これに対し、レンズ9は線状ビームの長さ方向に集光しない。レンズ8と9の組合せにより所定形状の線状ビームが得られる。
【0051】
また、弱磁性化処理パイプの形状や処理領域の寸法などが変更することを考慮し、本発明のシリンドリカルレンズ8と9の上下位置を調整できる機構を設けている。
【0052】
本実施例に使われたレーザ弱磁性化処理条件は、例えば、レーザ出力を300W〜1000W、線状ビームの長さaを2.5mm〜5.0mm、幅bを0.05mm〜0.6mm、パイプの回転により処理速度を10mm/s〜100mm/sで適宜設定することができる。また、レーザ照射期間において、溶融されている溶融金属の酸化を防止するために、窒素ガスをシールドガスとして使用する。
【0053】
上記の弱磁性化処理条件で強磁性パイプの処理を行った結果、磁性化処理部の寸法および磁性特性が要求値を満足し、パイプ全体の変形も小さいことを確認した。
【実施例2】
【0054】
本発明の実施例2の溶接方法は、下記の通りである。本実施例において用いた強磁性パイプは、実施例1で用いたものと同じものである。
【0055】
本実施例のレーザ弱磁性化処理では、例えば、波長が500nm〜880nmの可視光及び近赤外線のレーザを用いることができるが、他の波長のレーザ光を使用してもよい。それ以外の装置構成は、実施例1の図1と同じように設定されている。図示しないレーザ発信器からレーザ光を発生させ、転送ファイバー5等の転送経路を経由し、線状ビーム変換ヘッド6により線状ビーム2に変換し、上記の強磁性パイプ1の表面にレーザ光を照射する。
【0056】
弱磁性化処理方法は本発明の実施例1に示した方法と同様に、強磁性パイプ1を回転させながら、ワイヤ送給装置(不図示)により、直径0.6mmのNiワイヤ4をパイプ表面に連続的に供給し、線状ビームにより上記ワイヤ4とパイプ1の表面局部とを同時に溶融し、弱磁性化処理領域3を形成する。
【0057】
本実施例に使用したNiワイヤは、直径0.8mmの円状ストランドワイヤであるが、図2B及び2Cに示す楕円状や矩形状のソリッドワイヤを使用してもよい。
【0058】
図6は、本実施例で用いた線状ビーム変換ヘッドの構成を示したものである。
【0059】
具体的には、転送用ファイバーからのレーザビーム121は、コリメーションレンズ7により平行ビーム122に変換される。その後、回折型変換レンズ10により線状ビーム123に変換される。これらの構成は、レーザビーム形成ユニットに含まれる。
【0060】
上記回折型変換レンズ10により変換されたビーム形状は、下記の通りである。線状ビームの照射領域2の長さaと弱磁性化処理領域の幅wとの関係を1.0≦a/w<2.0とし、線状ビームの照射領域2の幅bとNiワイヤの径dとの関係をb/d≦1.0とした。
【0061】
本実施例に使われたレーザ弱磁性化処理条件は、例えば、レーザ出力を600W〜1200W、線状ビームの照射領域2の長さaを2.5mm〜5.0mm、幅bを0.1mm〜0.8mm、パイプの回転により処理速度を10mm/s〜100mm/sで適宜設定することができる。また、レーザ照射期間において、溶融されている溶融金属の酸化を防止するために、アルゴンガスをシールドガスとして使用した。
【0062】
上記の弱磁性化処理条件で強磁性パイプの処理を行った結果、磁性化処理部の寸法および磁性特性が要求値を満足し、パイプ全体の変形も小さい欠陥なしの弱磁性化部が得られた。
【実施例3】
【0063】
本発明の実施例3の溶接方法は、下記の通りである。本実施例において用いた強磁性パイプや、レーザ波長、ワイヤ径等の条件は、実施例1で用いたものと同じである。
【0064】
図7は、本実施例で用いた線状ビーム変換ヘッドの構成を示したものである。
【0065】
具体的には、転送用ファイバー5からの転送されたレーザビーム131は、コリメーションレンズ7により平行ビーム132に変換され、反射ミラー11により反射され、ビーム133となる。その後、ビーム133は、ガルバノミラー12によりビーム134となる。ビーム134は、レンズ13により線状ビーム135に変換される。ビーム134、135は、ガルバノミラー12により高速で走査される。ビーム135は、焦点においては点状ビームとなるが、ガルバノミラー12により走査されることにより、線状ビームとして作用する。破線は、ビーム134、135の走査範囲を示している。これらの構成は、レーザビーム形成ユニットに含まれる。
【0066】
上記のガルバノミラー12により走査される範囲の長さaと弱磁性化処理領域の幅wとの関係を1.0≦a/w≦2.0とし、走査される範囲の幅bとNiワイヤの径dとの関係をb/d≦1.0とした。
【0067】
本実施例のレーザ弱磁性化処理条件は、実施例1と同じである。具体的には、レーザ出力を600W〜1200W、線状ビーム長さaを2.5mm〜5.0mm、幅bを0.1mm〜0.8mm、パイプの回転により処理速度を10mm/s〜100mm/sで適宜設定することができる。また、レーザ照射期間において、窒素ガスをシールドガスとして使用した。
【0068】
上記の弱磁性化処理条件を用いて実施結果、磁性化処理部の寸法および磁性特性が要求値を満足し、パイプ全体の変形も小さい欠陥なしの弱磁性化部が得られた。
【0069】
最後に、本発明の中空複合磁性部材であるパイプを用いた燃料噴射弁の例を示す。
【0070】
図8は、本発明のパイプを用いた燃料噴射弁を示す縦断面図である。
【0071】
本図において燃料噴射弁101は、自動車用ガソリンエンジンに用いられるものであって、インテークマニホールド内に向けて燃料を噴射する、低圧用の燃料噴射弁である。以下では、図8において燃料噴射弁101の紙面上方を上流、紙面下方を下流と記す。
【0072】
燃料噴射弁101は、大部分が強磁性材料で形成されたパイプ102と、パイプ102内に収容されたコア103と、アンカ104と、アンカ104に固定された弁体105と、閉弁時に弁体105により閉鎖される弁座106を有する弁座部材107と、開弁時に燃料が噴射される燃料噴射孔を有するノズルプレート108と、通電時に弁体105を開弁方向に作動させる電磁コイル109と、磁束線を誘導するヨーク1010と、を有している。
【0073】
パイプ102は、例えば、電磁ステンレス鋼等の磁性金属材料により形成された金属パイプ等からなり、深絞り等のプレス加工、研削加工等の手段を用いることにより、段付き筒状をなして形成されている。パイプ102は、大径部1021と、大径部1021よりも径が小さい小径部1022と、を有している。なお、パイプ102は、横断面形状が円形である。
【0074】
小径部1022には、一部を薄肉化した薄肉部1023が形成されている。小径部1022は、薄肉部1023より上流側にコア103を収容するコア収容部1024と、薄肉部1023より下流側にアンカ104、弁体105及び弁座部材107からなる弁部材1011を収容する弁部材収容部1025と、に分けられている。薄肉部1023は、コア103及びアンカ104がパイプ102に収容された状態で、コア103とアンカ104との間の隙間部分(コア103とアンカ104とが対向する領域)を取り囲むように形成されている。コア103とアンカ104とは、隙間を介して対向している。さらに、この部分とパイプ102の内壁が対向しており、パイプ102のこの箇所に薄肉部1023が形成され、この部分には、後述するように改質部が設けられている。
【0075】
薄肉部1023は、コア収容部1024と弁部材収容部1025との間の磁気抵抗を増大させ、コア収容部1024と弁部材収容部1025との間を磁気的に遮断している。
【0076】
大径部1021の内側には弁部材1011に燃料を送る燃料通路1026が形成されており、大径部1021の上流側には燃料を濾過する燃料フィルタ1012が設けられている。
【0077】
コア103は、中空部1031を有する円筒形に形成されており、パイプ102のコア収容部1024に圧入されている。中空部1031には、圧入等の手段により固定されたばね受部材1032が収容されている。このばね受部材1032の中心には、軸方向に貫通した燃料通路1033が形成されている。
【0078】
アンカ104は、磁性部材によって形成され、その下流側で弁体105と溶接によって固定されている。アンカ104は、上流側にパイプ102の小径部1022の内周よりも若干小径な外径を有する大径部1041と、大径部1041より外径が小さい小径部1042と、を有する。
【0079】
大径部1041の内側には、ばね収容部43が形成されている。ばね収容部1043の内径は、コア103の中空部1031の内径とほぼ同径に形成されている。ばね収容部1043の底部には、ばね収容部1043の内周よりも径が小さい貫通孔である燃料通路孔1044が形成されている。ばね収容部1043の底部には、ばね受部1045が設けられている。
【0080】
弁体105の外形状は略球体状であり、外周表面には燃料噴射弁101の軸方向に対して平行に削られ穿孔された燃料通路1051が設けられている。
【0081】
弁座部材107には、略円錐状の弁座106と、弁座106より上流側に弁体104の径とほぼ同一に形成された弁体保持孔1071と、弁体保持孔1071から上流側に向かうにつれて大径に形成された上流開口部1072と、弁座106の下流側に開口する下流開口部1073と、が形成されている。弁座106は、弁体保持孔1071から下流開口部1073へ向かって径が小さくなるように形成され、閉弁時には弁体105が弁座106に座るようになっている。弁座部材107の下流側には、ノズルプレート108が溶接されている。
【0082】
アンカ104及び弁体105は、パイプ102内に軸方向に動作できるように配設されている。アンカ104のばね受部1045とばね受部材1032との間には、コイルばね1013が設けられ、アンカ104および弁体105を下流側に付勢している。弁座部材107は、パイプ102に挿入され、溶接によりパイプ102に固定されている。パイプ102の上流部外周には、燃料を送るポンプの配管に接続するためのOリング1014が設けられている。
【0083】
パイプ102のコア103の外周には、電磁コイル109が配設されている。電磁コイル109は、樹脂材料により形成されたボビン1091と、このボビン1091に巻回されたコイル1092と、から構成されている。コイル1092は、コネクタピン1015を介して電磁コイル制御装置に接続されている。
【0084】
ヨーク1010は、中空の貫通孔を有し、上流側に形成された大径部1101と、大径部1101より小径に形成された中径部1102と、中径部1102より小径に形成され下流側に形成された小径部1103と、から構成されている。小径部1103は、弁部材収容部1025の外周に嵌合されている。中径部1102の内周部には、電磁コイル109が配設されている。大径部1101の内周には、連結コア1016が配置されている。
【0085】
連結コア1016は、磁性金属材料等により形成されている。連結コア1016により大径部1101とパイプ102とが接続している。つまり、ヨーク1010は小径部1103と大径部1101においてパイプ102と接続しており、電磁コイル109の両端部でパイプ102と磁気的に接続されている。ヨーク1010の下流側には、パイプ102の先端を保護するためのプロテクタ1017が取り付けられている。
【0086】
コネクタピン1015を介して電磁コイル109に給電されると磁界が発生し、この磁界の磁力によって、アンカ104および弁体105をコイルばね1013の付勢力に抗して開弁する。これにより、ポンプから供給された燃料がエンジンの燃焼室に噴射される。
【符号の説明】
【0087】
1:強磁性パイプ、2:照射領域、3:弱磁性化処理領域、4:ワイヤ、5:転送ファイバー、6:ビーム変換ヘッド、7:コリメーションレンズ、8:シリンドリカルレンズ、9:シリンドリカルレンズ、10:回折型レンズ、11:反射ミラー、12:ガルバノミラー、13:集光レンズ、101:燃料噴射弁、102:パイプ、103:コア、104:アンカ、105:弁体、106:弁座、107:弁座部材、108:ノズルプレート、109:電磁コイル、1010:ヨーク、1011:弁部材、1012:燃料フィルタ、1013:コイルばね、1014:Oリング、1015:コネクタピン、1016:連結コア、1017:プロテクタ、1021:(パイプの)大径部、1022:(パイプの)小径部、1023:薄肉部、1024:コア収容部、1025:弁部材収容部、1026:(パイプの)燃料通路、1031:(コアの)中空部、1032:ばね受部材、1033:(コアの)燃料通路、1041:(アンカの)大径部、1042:(アンカの)小径部、1043:ばね収容部、1044:(アンカの)燃料通路孔、1045:(アンカの)ばね受部、1051:(弁体の)燃料通路、1071:弁体保持孔、1072:上流開口部、1073:下流開口部、1091:ボビン、1092:コイル、1101:(ヨークの)大径部、1102:(ヨークの)中径部、1103:(ヨークの)小径部。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8