【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代プリンテッドエレクトロニクス材料・プロセス基盤技術開発/次世代プリンテッドエレクトロニクス材料・プロセス基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高分子フィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリ乳酸及びこれらの共重合体からなる群より選択される1種以上である請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高精度及び微細化の印刷技術が求められている現状では、印刷版及び基板のいずれかの方向からのアプローチでは対処出来なくなっているのが実情である。
【0007】
更に、印刷デバイス又はフレキシブルデバイス等の技術を応用し、デバイスを連続的、高速、及び大面積で製造することが求められている。この様な状況下で、印刷デバイスにおける画像パターンの歪みは、例えば配線の微細化が求められる基板回路において導電性や粘度を有する特殊な印刷インクを用いる場合、印刷インクの溶剤を蒸発させる際又は印刷インクに含まれる金属粒子を焼結させて導電性を付与する際に基板を熱処理すること等に起因すると考えられる。
【0008】
そこで、本発明は、画像パターン形成後に熱処理される場合、精度の高い画像パターンを形成する方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる状況に鑑み、本発明者らは鋭意研究を続け、次なる発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 有版印刷法を用いて基板上に画像パターンを形成する方法において、
(1)基板上にXY直交座標系を定める工程、
(2)画像パターン形成後の熱処理工程を少なくとも含む全工程を通過させた場合、XY直交座標系に対する少なくとも1つの歪角を計測する工程、
(3)基板の少なくとも1つの変形率を計測する工程、
(4)少なくとも1つの歪角を相殺するように印刷版のxy直交座標系を傾け、かつ少なくとも1つの変形率を相殺するように画像パターンを変形した印刷版を作製する工程、及び
(5)得られた印刷版を用い、基板上に画像パターンを形成する工程を含み、
基板が、少なくとも成形工程を経て製造される高分子フィルムであり、かつ高分子フィルムの幅方向に沿って長尺又は枚葉に切り出された基板又は基板の群である事を特徴とする画像パターン形成方法。
[2] XY直交座標系に対する少なくとも1つの歪角のうち最大の歪角が0.010°以上である[1]に記載の画像パターン形成方法。
[3] 少なくとも1つの変形率が±200ppm以上である[1]又は[2]に記載の画像パターン形成方法。
[4] 少なくとも1つの変形率が負の値である[1]〜[3]のいずれかに記載の画像パターン形成方法。
[5] 最小の変形率に対する最大の変形率の比が1.5以上である[1]〜[4]のいずれかに記載の画像パターン形成方法。
[6] 高分子フィルムがポリエステルフィルム又はその積層体であり、画像パターン形成後に70℃以上で熱処理されたものである[1]〜[5]のいずれかに記載の画像パターン形成方法。
[7] 高分子フィルムが恒温恒湿条件下で工程(1)〜工程(5)に使用される(但し、画像パターン形成後の熱処理工程を除く)[1]〜[6]のいずれかに記載の画像パターン形成方法。
[8] 高分子フィルムの膜厚が10〜400μmである[1]〜[7]のいずれかに記載の画像パターン形成方法。
[9] 高分子フィルムの少なくとも1辺が50mm以上1500mm以下である[1]〜[8]のいずれかに記載の画像パターン形成方法。
[10] 高分子フィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリ乳酸及びこれらの共重合体からなる群より選択される1種以上である[1]〜[9]のいずれかに記載の画像パターン形成方法。
[11] 高分子フィルムが二軸配向フィルムである[1]〜[10]のいずれかに記載の画像パターン形成方法。
[12] 印刷された高分子フィルムが印刷デバイス又はフレキシブルデバイスに使用される[1]〜[11]のいずれかに記載の画像パターン形成方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、画像パターン形成後に熱処理を行っても、精度の高い画像パターンを高分子フィルム基板上に形成することが可能となる。また、本発明によれば、精度の良いパターン形成が工業的に実現され、印刷デバイス又はフレキシブルデバイス等の製造に応用することも可能である。更に、本発明によれば、より大面積の印刷デバイス又はフレキシブルデバイスでも精度の高い画像パターンを形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、有版印刷法を用いて基板上に画像パターンを形成する方法であり、特に画像パターン形成後に熱処理する際に生じる基板の歪角及び変形率等の変形を逆補正した印刷版を用いて、基板上に画像パターンを形成する方法である。本発明によれば、基板として高分子フィルムを熱処理する場合に高分子フィルムの位置に応じて角度や変形率の変化度合いが異なっても、高分子フィルムの基板又は基板群毎に逆補正を施し、全体として精度の高い画像パターンを形成できる。
【0014】
本発明における画像パターン形成手段である有版印刷法とは、画像複製に刷版を用いる方法であり、古典的な凸版印刷法、凹版印刷法、孔版印刷法(スクリーン印刷法)、平版印刷法を用いることができる。またこれらの応用として、グラビアオフセット印刷法、反転印刷法、マイクロコンタクト印刷法などを用いることができる。なかでも高密度で極精細な回路を形成する点で、グラビアオフセット印刷法又は反転印刷法であることが好ましい。
【0015】
本発明の方法は、(1)基板上にXY直交座標系を定める工程、(2)画像パターン形成後の熱処理工程を少なくとも含む全工程を通過させた場合、XY直交座標系に対する少なくとも1つの歪角を計測する工程、(3)基板の少なくとも1つの変形率を計測する工程、(4)少なくとも1つの歪角を相殺するように印刷版のxy直交座標系を傾け、かつ少なくとも1つの変形率を相殺するように画像パターンを変形した印刷版を作製する工程、及び(5)得られた印刷版を用い、基板上に画像パターンを形成する工程を含む事を特徴とする。
【0016】
基板は、少なくとも成形工程を経て製造される高分子フィルムであり、好ましくは未延伸フィルム形成工程、延伸工程、並びに熱固定工程を経て製造される高分子フィルムであり、より好ましくはロール形状の未延伸フィルム形成工程、長手方向延伸工程及び/又は幅方向延伸工程、並びに熱固定工程を経て製造される高分子フィルムである。
【0017】
未延伸フィルム形成工程は、融点以上の温度で高分子樹脂(例えばポリエステル樹脂)を溶融し、押出機を用いダイスから層状に押出し、(好ましくは静電密着法を用い)回転式ロールに密着固化させ、ロール形状の未延伸フィルムを形成することが好ましい。必要に応じて、回転式却ロールに空気を吹付けて冷却してもよい。
【0018】
延伸工程は、一軸延伸及び/又は二軸延伸、すなわち長手方向延伸及び/又は幅方向延伸を行うことが好ましく、より好ましくは二軸延伸、すなわち長手方向延伸及び幅方向延伸を行う。延伸工程は、逐次延伸であっても、同時二軸延伸であってもよい。
【0019】
熱固定工程は、所定の温度(例えば180℃以上240℃以下)で行われることが好ましい。さらに、長手方向及び/又は幅方向に緩和処理を施してもよい。
【0020】
基板は、高分子フィルムの幅方向に沿って長尺又は枚葉に切り出された基板又は基板の群である。当該基板は同様の変形挙動を示すことから、印刷版による画像パターンを精度良く複製することができる。
【0021】
本発明で用いられる基板は、高分子素材からなる高分子フィルムであり、高分子フィルムはポリエステルフィルム又はその積層体であり、画像パターン形成後に所定の温度以上で熱処理されたものであることが好ましい。
【0022】
高分子フィルムがポリエステルフィルムの積層体である場合、積層体は、例えば2層以上又は3層以上であり、それぞれの層には本発明の方法を採用して印刷された画像パターンが作成されていてもよく、画像パターンは各層において同じでもよく、異なっていてもよい。
【0023】
高分子フィルムの膜厚は、10〜400μmであることが好ましく、より好ましくは20〜350μm、さらに好ましくは30〜300μm、さらにより好ましくは50〜200μmである。
【0024】
高分子フィルムの大きさは、本発明の方法による補正効果が得られる限り、特に限定されない。
高分子フィルムの少なくとも1辺が50mm以上1500mm以下であることが好ましく、より好ましくは100mm以上1000mm以下、さらに好ましくは200mm以上800mm以下、さらにより好ましくは350mm以上500mm以下である。この様な大面積を有する高分子フィルムでは、画像パターン形成時に印刷ズレが従来のフィルムサイズより大きくなる傾向があるが、従来のフィルムサイズに匹敵し得る補正の効果を得ることができる。
【0025】
高分子フィルムとしてはポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリプロピレンテレフタレートフィルム、ポリ乳酸フィルム、ポリイミドフィルム、ポリエステルイミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、アセチルセルロースフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリベンゾオキサゾールフィルム、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリフェニレンエーテルフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、全芳香族ポリエステルフィルム、液晶ポリマーフィルム等を用いることができる。
【0026】
高分子フィルムは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリ乳酸及びこれらの共重合体からなる群より選択される1種以上であることがより好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、又はポリ乳酸がさらに好ましい。
高分子フィルム(好ましくはポリエステルフィルム)は、二軸配向ポリエステルフィルムであることが好ましい。
【0027】
以下、工程(1)〜(5)について工程毎に説明する。
【0028】
<工程(1)>
工程(1)は、画像パターン形成後の熱処理工程を少なくとも含む全工程での変形を求める基準として、基板上にXY直交座標系を定める工程である。基板のXY直交座標系は、基板の長手方向をY軸とし、基板の幅方向をX軸としてもよく、基板の幅方向をY軸とし、基板の長手方向をX軸としてもよい。当該基板(好ましくは成形工程を経た高分子フィルムの基板)のXY軸上に任意の点を特定し、全工程完了後の各点や各点を結んだ多角形の変化を追跡することで、歪角及び変形率を求めることができる。
【0029】
<工程(2)>
工程(2)は、画像パターン形成後の熱処理工程を少なくとも含む全工程を通過させた場合、XY直交座標系に対する少なくとも1つの歪角を計測する工程である。
本発明において全工程には、工程(1)〜(5)に加えて、画像パターン形成後の熱処理工程が含まれていてもよく、高分子フィルムの成形工程が含まれていてもよい。
【0030】
具体的には、XY直交座標系において予め任意点(好ましくは複数の基準点、より好ましくは4以上の基準点)をマーカーしておき、全工程通過後の各点の移動を計測する方法を用い、算出することができる。この場合、移動した後のXY座標点を極座標に変換し、その偏角を歪角として算出してもよい。歪角の数は、逆補正の精度を高める点で、1つ以上が好ましく、より好ましく2以上、さらに好ましくは3以上、さらにより好ましくは4以上である。
【0031】
歪角は、
図1に示す通り、始線(原点を通る半直線、X軸の正の方向)から反時計回りの角度で示され、X
+軸に対応するθx
+、Y
+軸に対応するθy
+、X
-軸に対応するθx
-、Y
-軸に対応するθy
-であることが好ましい。
【0032】
上記各軸に対応した歪角の少なくとも一つは、0.0010°以上であることが好ましく、より好ましくは0.0015°以上、さらに好ましくは0.0020°以上である。
【0033】
少なくとも1つの歪角のうち最大の歪角は、0.010°以上であることが好ましく、より好ましくは0.015°以上、さらに好ましくは0.020°以上、さらにより好ましくは0.025°以上45°以下である。歪角が小さい場合には、補正する効果が小さく、補正に伴う工程が増加して、かえって生産性を低下させる結果をもたらす場合がある。歪角が大きすぎる場合には、印刷版への逆補正の精度が低下する虞がある。
【0034】
<工程(3)>
工程(3)は、基板の少なくとも1つの変形率を計測する工程である。
【0035】
高分子フィルム基板の変形率を求める手法としては、IEC 61189−2:2006,12.1(Text 2X02)、IPC−TM−650 2.2.4等が挙げられるが、変形挙動を詳細に把握するためには得られる情報が少なすぎて不適である。
本発明において変形挙動を把握する手段としては、一定間隔で格子状に目印(マーク)を配置してその変形率を測定する方法など、多点測定により評価する方法を好ましく用いることができる。
【0036】
変形率の数は、少なくとも1つであり、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上である。当該変形率の数が多いほど、高分子フィルム全体の変形度合いを把握でき、しかも印刷版での逆補正を行う点を増やすことができる為、基板上の画像パターンの精度を高めることができる。
【0037】
少なくとも1つの変形率は、±200ppm以上であることが好ましく、より好ましくは±250ppm以上、さらに好ましくは±300ppm以上、さらにより好ましくは±350ppm以上である。少なくとも1つの変形率の上限は、例えば±3000ppm程度である。変形率がこの値を下回る又は上回る場合は、補正効果が小さく、補正に伴う工程が増加して、かえって生産性を低下させる結果をもたらす場合がある。
【0038】
変形率は、例えばXY直交座標系において第一象限〜第四象限に分けて計測されてもよく、例えば第一象限においてX
+軸、Y
+軸上の2点と、原点と、必要に応じて原点の対角となる点とを結んだ多角形の変形に基づいて、変形率をX
+軸、X
-軸、Y
+軸、Y
-軸それぞれに反映させてもよい。
少なくとも1つの変形率は負の値であることが好ましく、より好ましくは2以上の変形率は負の値であり、さらに好ましくは3以上の変形率は負の値である。なお、変形率の値が、負の値である場合、高分子フィルムは収縮する事を意味し、一方、変形率の値が、正の値である場合、高分子フィルムは膨張する事を意味する。
この様に、本発明で使用する高分子フィルムは、画像パターン形成後の熱処理により少なくとも一方向で収縮を示すフィルムであることが好ましい。
【0039】
最小の変形率に対する最大の変形率の比は1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.8以上、さらに好ましくは2.1以上、さらにより好ましくは2.4以上である。最小の変形率に対する最大の変形率の比の上限は、例えば、20、18又は15程度である。この値は、高分子フィルムの変形特性を概略的に示すものであり、印刷版を逆補正する際に有効な情報となり得る。
【0040】
<工程(4)>
工程(4)は、画像パターンの変形分を逆補正した印刷版を作製する工程であり、少なくとも1つの歪角を相殺するように印刷版のxy直交座標系を傾け、かつ少なくとも1つの変形率を相殺するように画像パターンを変形した印刷版を作製する工程である。
【0041】
この様に、事前に高分子フィルム基板群より任意に1枚抜き取り、高分子フィルムの長手方向をX軸ないしY軸とした直交座標系を設定し、所定の画像パターンを形成するのに必要な熱処理を含む全工程を通過させ、得られた画像パターンが設計値に対してどの程度変形しているかを詳細に評価し、その結果を基に変形を逆補正することで本発明で用いる印刷版を作製する事ができる。
【0042】
例えば、印刷版は、歪角及び変形率を相殺する様に逆補正して作製されたものであり、(0,0)、(100,0)、(100,100)、(0,100)の4点の変形データに基づいて第一象限の歪角及び変形率を逆補正し、(0,0)、(0,100)、(−100,100)、(−100,0)の4点の変形データに基づいて第二象限の歪角及び変形率を逆補正し、(0,0)、(−100,0)、(−100,−100)、(0,−100)の4点の変形データに基づいて第三象限の歪角及び変形率を逆補正し、(0,0)、(0,−100)、(100,−100)、(100,0)の4点の変形データに基づいて第四象限の歪角及び変形率を逆補正したものであってもよい。
【0043】
印刷版は、印刷方法に応じて形成すればよく、凸版印刷法であれば、凸部に逆補正した画像パターンを形成し、凹版印刷法であれば、凹部に逆補正した画像パターンを形成し、孔版印刷法(スクリーン印刷法)であれば、逆補正した画像パターンに対応する孔を多数形成し、平版印刷法であれば、転写される画像パターンそのものを逆補正しておけばよい。
【0044】
印刷版の材質は、従来公知のものであれば、特に限定されないが、アルミニウム、亜鉛、ステンレス、樹脂、鋼、石、ゴム等であることが好ましい。
【0045】
<工程(5)>
工程(5)は、得られた印刷版を用い、基板上に画像パターン形成を行う工程である。
【0046】
印刷インキは、無機顔料又は有機顔料等の顔料、染料等の従来公知のものを使用してもよいし、樹脂や導電性フィラーを含む導電性ペーストを使用してもよい。
無機顔料としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カーボンブラック、アルミニウム粉末(銀インキ)、ブロンズ粉末(金インキ)等が挙げられる。
有機顔料としては、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ジスアゾイエロー、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、メチルバイオレッドレーキ等が挙げられる。
導電性フィラーは、金属粉及び/又は導電材料を含んでいてもよい。金属粉は、フレーク状金属粉、球状金属粉又は凝集状金属粉等であることが好ましく、銀粉、金粉、白金粉、パラジウム粉、銅粉、ニッケル粉、アルミ粉等であることがより好ましく、銀粉及び/又は金粉がさらに好ましい。導電材料としては、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0047】
印刷インキは、溶剤に溶解させて使用することが好ましい。溶媒としては、n−ヘキサン、ミネラルスピリット、インキオイル等の脂肪族炭化水素系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、シクロヘキシルアルコール等のアルコール系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;水等が挙げられる。
この他、エチレングリコール、セロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレン等の溶剤を使用してもよい。
【0048】
基板上に画像パターンを印刷する方法は、上述したものであればよく、次に、画像パターンを印刷した基板は、溶剤を蒸発させたり、印刷インクに含まれる金属を焼結させて導電性を付与したりする為、熱処理工程に供される。
熱処理温度は、70℃以上であることが好ましく、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは110℃以上、さらに好ましくは125℃以上、さらにより好ましくは150℃以上である。
当該温度を採用すると、例えば印刷インキに含まれる溶媒を短時間で蒸発させる事ができ、又、インクに含まれる金属粒子等の物質を焼結させて導電性を付与する事が可能となる。
【0049】
高分子フィルムがポリイミドフィルム、ポリベンゾオキサゾールフィルム、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム、ポリアミドイミドフィルムなどの耐熱高分子フィルムの場合、熱処理温度は、例えば650℃以下、好ましくは490℃以下、より好ましくは420℃以下である。
【0050】
高分子フィルムがポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムなどの熱可塑性エンプラフィルムの場合、熱処理温度は、例えば250℃以下、好ましくは220℃以下、より好ましくは195℃以下である。
【0051】
熱処理工程の時間は、各々の温度において例えば1分間以上、好ましくは3分間以上、より好ましくは6分間以上、さらに好ましくは11分間以上である。熱処理工程の時間は求められる加工スループットによって異なるが、一般的な工業製品の範疇では例えば150分以下、好ましくは100分以下、より好ましくは75分程度以下である。
【0052】
本発明で用いられる高分子フィルムは温度変化や湿度変化による寸法変化の影響を抑制するため、画像パターン形成工程前及び/又は変形状態測定工程前に恒温恒湿条件にて平衡状態に保つことが好ましく、画像パターン形成工程前及び/又は変形状態測定工程前に平衡状態に達するのに十分な時間を確保する為、全ての工程を恒温恒湿条件で行う事がより好ましい(すなわち高分子フィルムを恒温恒湿条件下で工程(1)〜(5)に供することがより好ましい(但し、画像パターン形成後の熱処理工程を除く)。)。この際、高分子フィルムに応力が発生しない状態で保管する事が好ましい。
【0053】
温度は、画像パターン形成前の処理工程時及び/又は熱処理後の変形状態測定工程時に、当該方法を行う温度(例えば10〜50℃、好ましくは20〜40℃)を基準として、±1℃の範囲で維持する事が好ましく、±0.5℃の範囲で維持することがより好ましい。温度が±1℃超となると、高分子フィルムが更に変形する虞がある。
【0054】
湿度は、画像パターン形成前の処理工程時及び/又は熱処理後の変形状態測定工程時に、当該方法を行う湿度(例えば10〜70%、好ましくは20〜60%、より好ましくは30〜50%)を基準として、±10%RHの範囲で維持することが好ましく、より好ましくは±7%RHの範囲、さらに好ましくは±5%RHの範囲で維持する。また湿度に関して精密な制御が困難な場合、高分子フィルム表面に水蒸気バリア層を形成させ、湿度による影響を抑制させてから使用しても良い。湿度が±10%RH超となると、高分子フィルムがより一層変形する虞がある。
【0055】
これら温度条件と湿度条件の両方を満たす処理時間は、例えば、1時間以上100時間以下、好ましくは2時間以上80時間以下、より好ましくは5時間以上60時間以下、さらに好ましくは10時間以上40時間以下である。
【0056】
本発明で得られる基板の画像パターン精度は、3σで評価されてもよく、3σは、サンプル数n全数の印刷ずれの測定値について、平均値、標準偏差σを求め、平均値を中心とした正規分布で、平均値より片側(+側あるいは−側)で標準偏差の値を3倍したものである(平均値±3σの範囲内に99.7%の測定データが収まる)。
当該印刷ずれの平均値及び標準偏差は、設計時の画像パターン(例えば基板のXY軸上に描かれる理想の画像パターン)に対し評価されてもよく、X軸及び/又はY軸を基準として評価されてもよい。
【0057】
補正前後で印刷ずれの平均値(例えばX軸及び/又はY軸を基準にした平均値)は、例えば1/1.1倍以下、好ましくは1/1.5倍以下、より好ましくは1/2.0倍以下、例えば1/100倍以上、好ましくは1/50倍以上、より好ましくは1/30倍以上である。
【0058】
補正前後で印刷ずれのバラツキ(3σ)(例えばX軸及び/又はY軸を基準にしたバラツキ)は、例えば1/1.1倍以下、好ましくは1/1.5倍以下、さらに好ましくは1/2.0倍以下であり、例えば1/200倍以上である。
本発明の方法で得られる基板は、印刷ずれやそのバラツキのいずれか一方又は両方が上記範囲を満たしていれば、本発明の範疇にあると言え、特に印刷ずれの平均値を有意に低減できる基板を提供できる。
【0059】
この様に特定の位置より切り出した高分子フィルムの基板又は基板群を用い、画像パターン形成後の熱処理工程を少なくとも含む全工程で生じる基板(高分子フィルム)の変形を逆補正した印刷版を用いる事により、最終的に所望の画像パターンを高精度に得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下の実施例における特性の評価方法は下記の通りである。
【0061】
<高分子フィルムの膜厚測定>
高分子フィルムの厚さは、マイクロメーター(ファインリューフ社製「ミリトロン1245D」)を用い、無作為に抽出した任意の10点の平均値を求めた。
【0062】
<高分子フィルムの変形状態測定>
1100mm幅の高分子フィルムロールを210mm幅×5本に分割し、それぞれを297mm毎に裁断することで同じ幅方向位置から枚葉に切り出された基板群(A4サイズ/長辺長さ方向)を得た。同じ幅方向位置から切り出された基板群よりサンプルを抜き取り、温度23±0.5℃、湿度45±5%RHに制御された測定環境内にて24時間以上静置した。続いてサンプルの長手方向をX軸に、幅方向をY軸に合わせ、中心を(0,0)としたXY座標において(0,0)、(100,0)、(100,100)、(0,100)、(−100,100)、(−100,0)、(−100,−100)、(0,−100)、(100,−100)の9点に、レーザーマーカーにて測長用のマークを付けた。その後、目的とするパターンが得られるまでの全工程を通過させ、再び温度23±0.5℃、湿度45±5%RHに制御された測定環境内にて24時間以上静置し、画像測定システム(NEXIV VMR−6555、Nikon社製)を用い、X軸を基準軸、中心のマークを(0,0)として各マーク位置を計測する事で、パターン形成に伴う高分子フィルムの変形状態を評価した。各点の歪角は、全工程を通過させることにより移動したXY直交座標の各点を極座標に変換する事によって求めた。
【0063】
<印刷版の作製>
高分子フィルムの変形状態測定の結果を基に、変形が相殺されるように歪角や距離を逆補正した印刷版を作製した。具体的には(0,0)、(100,0)、(100,100)、(0,100)の4点のデータを基に第一象限の歪角や距離を逆補正し、第二象限では(0,0)、(0,100)、(−100,100)、(−100,0)の4点のデータを基に第二象限の歪角や距離を逆補正し、第三象限では(0,0)、(−100,0)、(−100,−100)、(0,−100)の4点のデータを基に第三象限の歪角や距離を逆補正し、第四象限では(0,0)、(0,−100)、(100,−100)、(100,0)の4点のデータを基に第四象限の歪角や距離を逆補正し、すなわち、これらを組み合わせて逆補正した印刷版を作製した。得られた印刷版を用いてテストサンプルを作製し、歪角θのズレなどがあれば微調整してから使用した。
【0064】
<画像パターン整合性確認>
得られた画像パターンが設計値とどの程度整合しているのかを確認するため、画像パターン形成後に熱処理された高分子フィルムを温度23±0.5℃、湿度45±5%RHに制御された測定環境内にて24時間以上静置した後、画像測定システム(NEXIV VMR−6555、Nikon社製)を用いてX軸を基準軸、中心マークを(0,0)として画像パターン座標を測定し、設計値とのズレを確認した。
【0065】
実施例1
高分子フィルムとしてポリエチレンテレフタレート〔二軸配向、膜厚125μm、東洋紡株式会社製〕を用い、グラビアオフセット印刷により画像パターンを印刷し、150℃で1時間熱処理することで目的の画像パターンを得た。その後、フィルムの変形状態を提示の方法で評価した結果、各軸に対する歪角と変形率は以下の通りであった。
【0066】
X
+軸:0.002°、−1018ppm(収縮)、X
-軸:179.998°、−1003ppm(収縮)
Y
+軸:90.027°、−415ppm(収縮)、Y
-軸:270.024°、−438ppm(収縮)
【0067】
上記方法により逆補正したグラビア印刷版を用いて画像パターンを基板又は基板群に印刷した。印刷インクにはオフセット印刷用の導電性ペーストを用いた。得られたサンプルを、熱処理装置〔クリーンオーブン、PVC−212M、エスペック株式会社製〕を用いて150℃で1時間熱処理した後、上記方法により設計値からのズレを評価した結果、補正前はX軸方向=−249±75μm(3σ)、Y軸方向=−74±5.6μm(3σ)であったが、補正後はX軸方向=−36±7.0μm(3σ)、Y軸方向=−34±4.6μm(3σ)と比較的良好な画像パターンを形成できていることが確認できた。
【0068】
実施例2
高分子フィルムとしてポリエチレンナフタレート〔二軸配向、膜厚125μm、帝人株式会社製〕を用い、反転印刷によりパターンを印刷し、150℃で30分間熱処理することで目的の画像パターンを得た。その後、高分子フィルムの変形状態を提示の方法で評価した結果、各軸に対する歪角と変形率は以下の通りであった。
【0069】
X
+軸:0.011°、−377ppm(収縮)、X
-軸:179.989°、−352ppm(収縮)
Y
+軸:89.968°、35ppm(膨張)、Y
-軸:269.977°、−86ppm(収縮)
【0070】
上記方法により逆補正した反転印刷用の印刷版を用い、高精度印刷装置により画像パターンを印刷した。印刷インクには反転印刷用の銀インクを用いた。得られたサンプルを熱処理装置〔クリーンオーブン、PVC−212M、エスペック株式会社製〕を用いて150℃で30分間熱処理した後、上記方法により設計値からのズレを評価した結果、補正前はX軸方向=−91±40μm(3σ)、Y軸方向=−15±24μm(3σ)であったが、補正後はX軸方向=3.5±22μm(3σ)、Y軸方向=−9.5±2.1μm(3σ)と比較的良好な画像パターンを形成できていることが確認できた。
【0071】
実施例3
高分子フィルムとして1200mm幅の高分子フィルムロールを370mm幅×3本に分割し、それぞれを470mm毎に裁断することで得たG2サイズ(370mm×470mm)のポリエチレンナフタレート〔二軸配向、膜厚125μm、帝人株式会社製〕を用い、反転印刷により画像パターンを印刷し、180℃で30分間熱処理することで目的の画像パターンを形成した。
また同じ幅方向位置から切り出された基板群よりサンプルを抜き取り、温度23±0.5℃、湿度45±5%RHに制御された測定環境内にて24時間以上静置し、続いてサンプルの長手方向をX軸に、幅方向をY軸に合わせ、中心を(0,0)としたXY座標において(0,0)、(180,0)、(180,180)、(0,180)、(−180,180)、(−180,0)、(−180,−180)、(0,−180)、(180,−180)の9点に、レーザーマーカーにて測長用のマークを付けた。その後、目的とするパターンが得られるまでの全工程を通過させ、再び温度23±0.5℃、湿度45±5%RHに制御された測定環境内にて24時間以上静置し、画像測定システム(NEXIV VMR−6555、Nikon社製)を用い、X軸を基準軸、中心のマークを(0,0)として各マーク位置を計測する事で、高分子フィルムの変形状態を評価した結果、各軸に対する歪角と変形率は以下の通りであった。
【0072】
X
+軸:−0.008°、−190ppm(収縮)、X
-軸:180.008°、−191ppm(収縮)
Y
+軸:90.030°、−302ppm(収縮)、Y
-軸:270.044°、−261ppm(収縮)
【0073】
上記と同様の方法により逆補正した反転印刷用の印刷版を用い、高精度印刷装置により画像パターンを印刷した。印刷インクには反転印刷用の銀インクを用いた。得られたサンプルを熱処理装置〔クリーンオーブン、PVC−212M、エスペック株式会社製〕にて180℃で30分間熱処理した後、上記方法により設計値からのズレを評価した結果、補正前はX軸方向=−73±153μm(3σ)、Y軸方向=−104±30μm(3σ)であったが、補正後はX軸方向=−20±15μm(3σ)、Y軸方向=−45±16μm(3σ)と比較的良好な画像パターンを形成できていることが確認できた。
【0074】
実施例1及び2で使用した210mm×297mmのフィルムサイズを用いて本実施例と同様な処理を行った結果、XY軸の歪角や変形率は以下の通りであった。
X
+軸:−0.006°、−174ppm(収縮)、X
-軸:180.006°、−191ppm(収縮)
Y
+軸:90.030°、−357ppm(収縮)、Y
-軸:270.042°、−283ppm(収縮)
【0075】
印刷ズレの大きさとバラツキについて補正前はX軸方向=−50±108μm(3σ)、Y軸方向=−63±14μm(3σ)であり、補正後はX軸方向=−15±11μm(3σ)、Y軸方向=−22±10μm(3σ)であった。
A4サイズのフィルムとG2サイズのフィルムの結果を対比すると、フィルムサイズが大きくなる場合に、印刷ズレの大きさやバラツキ等の変化は大きくなり、補正の効果はA4サイズで得られる補正効果に匹敵する事が分かる。