特許第6594757号(P6594757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イビデン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6594757-セラミック複合材 図000002
  • 特許6594757-セラミック複合材 図000003
  • 特許6594757-セラミック複合材 図000004
  • 特許6594757-セラミック複合材 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594757
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】セラミック複合材
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/83 20060101AFI20191010BHJP
   C23C 16/26 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   C04B35/83
   C23C16/26
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-239502(P2015-239502)
(22)【出願日】2015年12月8日
(65)【公開番号】特開2017-105661(P2017-105661A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 俊
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−201750(JP,A)
【文献】 特開2000−247757(JP,A)
【文献】 特開平08−188469(JP,A)
【文献】 特開2015−030632(JP,A)
【文献】 特開平05−097554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/52−35/536
C04B 35/83
C04B 41/87
C23C 16/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック繊維からなる基材と、前記基材の表面から内部に浸透する熱分解炭素とを含むセラミック複合材であって、
前記セラミック複合材は、前記熱分解炭素の浸透する浸透領域と、熱分解炭素が到達しない非浸透領域とを有し、
少なくとも前記基材の前記非浸透領域は、炭素繊維と、耐酸化性繊維との混紡糸から構成されるセラミック複合材。
【請求項2】
前記耐酸化性繊維は、SiC、ジルコニア、アルミナ、シリカ、ムライトから選ばれる1または2以上のセラミック繊維である請求項1に記載のセラミック複合材。
【請求項3】
前記混紡糸は、セラミック繊維の長繊維または連続繊維からなることを請求項1または2に記載のセラミック複合材。
【請求項4】
前記基材の非浸透領域は、セラミック繊維からなる織布またはブレーディングである請求項1から3のいずれか1項に記載のセラミック複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維と炭素マトリックスとからなるC/C複合材は、高い耐熱性を有し化学的に安定であるので、半導体製造装置、ホットプレス、原子炉、熱処理炉の構造材料などさまざまな用途で使用されている。しかしながら、従来のC/C複合材では2000℃以上の高温且つ高速ガス気流下で使用すると損傷が生じていた。
【0003】
このような課題を解決するために、特許文献1には、樹脂を含浸して熱処理した炭素繊維のトウの表面に熱分解性黒鉛を被覆したC/C複合材が提案されている。このようにして製造されたC/C複合材を約2700℃の弱酸化雰囲気の超高速ガス流路中で3秒間暴露してもまったく損傷しなかったことが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−163669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記記載された発明は、極めて特殊なごく短時間の条件における酸化の評価であり、熱伝導率の高いC/C複合材では、内部に熱が拡散し十分な評価にはならない。このため長時間使用する半導体製造装置、ホットプレス、原子炉、熱処理炉の構造材料などにおいて有用なC/C複合材を提供するものであるとはいえない。
【0006】
半導体製造装置、ホットプレス、原子炉、熱処理炉などの構造材料では、長期間の使用、炉体の損傷などにより、少しずつ酸化し、強度が低下し、構造物そのものの破壊に至ることがある。本発明では、高い初期強度を有するとともに、酸化しても構造物自体が崩壊しにくくすることのできるセラミック複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための本発明のセラミック複合材は、
(1)セラミック繊維からなる基材と、前記基材の表面から内部に浸透する熱分解炭素とを含むセラミック複合材であって、前記セラミック複合材は、前記熱分解炭素が浸透する浸透領域と、熱分解炭素が到達しない非浸透領域とを有し、少なくとも前記基材の前記非浸透領域は、炭素繊維と、耐酸化性繊維との混紡糸から構成される。
【0008】
セラミック繊維は、共有結合を有し、高弾性、高強度の繊維である。特に炭素繊維は、強度が非常に高いことが特徴のセラミック繊維であり、他のセラミック繊維である耐酸化性繊維と比較しても圧倒的に高い強度を有している。しかしながら炭素繊維は、酸素の存在下では、酸化が進行しやすく、徐々に強度が低下する。一方、耐酸化性繊維は炭素繊維のような高い強度を有していないが、酸素の存在下でも安定である。
【0009】
一般に繊維は張力によって破壊する。繊維が圧縮されたときの座屈、曲げなど、張力以外のモードの力が働いた場合であっても、繊維が引っ張られる側において張力が破壊強度を超えることによって破壊が起こる。繊維の破壊に関して、破壊に至る張力を破壊強度として評価することもできるが、[破壊強度]/[弾性率]である破壊歪によって評価することもできる。強度の高い炭素繊維は、他のセラミック繊維である耐酸化性繊維と比較しても圧倒的に高い破壊歪を有している。このため、炭素繊維と耐酸化性繊維とを同時に引っ張ると、耐酸化性繊維が先に破断しやすい。
【0010】
本発明のセラミック複合材の基材には、熱分解炭素の浸透する浸透領域と、熱分解炭素が到達しない非浸透領域とを有し、非浸透領域には、耐酸化性繊維を備えている。非浸透領域は、マトリックスとなる熱分解炭素がなくセラミック繊維が自由に動くことのできる空間を有し、セラミック複合材が変形しても、非浸透領域のセラミック繊維に強い歪が加わりにくい。このため、セラミック複合材が変形しても、耐酸化性繊維の破壊歪に到達しにくく、耐酸化性繊維だけが選択的に切断されにくくすることができる。
【0011】
また、本発明のセラミック複合材は、表面から内部に浸透する熱分解炭素を有しているので、表面は硬く構造材料として好適に利用することができる。さらに内部に浸透しているので、表面が磨耗しても硬く、構造材料として好適に利用することができる。また、熱分解炭素は、セラミック繊維の隙間を充填するので、表面を空気に曝されても熱分解炭素が内部への酸素の侵入を防止し、酸化を抑制することができる。
【0012】
また、耐酸化性繊維は、炭素繊維、熱分解炭素からなるマトリックスが酸化しても、酸化することがないので、構造物を構成するセラミック複合材が酸化を受けても、構造物自体が崩壊しにくくすることができる。
【0013】
本発明のセラミック複合材は、炭素繊維糸を骨材として有しているので、高い耐熱性を有している。また、炭素繊維は、単一の元素からなるので表面の傷が形成されにくいので高い初期強度を有している。このため、構造物を構成するセラミック複合材が高い初期強度と耐熱性を有し、かつ酸化しても構造物自体が崩壊しにくいセラミック複合材を提供することができる。
【0014】
前記基材の前記非浸透領域が、炭素繊維と耐酸化繊維との混紡糸からなると、糸(ストランド)に広く耐酸化繊維を行き渡らせることができるので、炭素繊維が酸化消耗した際の耐酸化繊維の形状保持効果をより強く発揮することができ、構造物自体をより崩壊しにくくすることができる。
【0015】
(2)前記耐酸化性繊維は、SiC、ジルコニア、アルミナ、シリカ、ムライトから選ばれる1または2以上のセラミック繊維である。
【0016】
これらの繊維は、高い耐熱性を有しているとともに強度を有しているので、炭素繊維および熱分解炭素が酸化して強度が低下しても、セラミック複合材の形状を維持することができる。特にSiCは、高い耐熱性と強度を有しているので、セラミック複合材の耐酸化性繊維として好適に利用することができる。
【0017】
(3)前記混紡糸は、セラミック繊維の長繊維または連続繊維からなる。
【0018】
これらの形態で使用すると、セラミック繊維を構成する炭素繊維が酸化しても残った耐酸化性繊維が互いに絡まりあうことができるので高い強度のセラミック構造材を提供することができる。
【0019】
(4)前記基材は、セラミック繊維からなる織布またはブレーディングである。
【0020】
基材が、セラミック繊維からなる織布またはブレーディングであると、セラミック繊維は交差するセラミック繊維と互いに干渉しあうので屈曲して備えられる。また、非浸透領域では、拘束する熱分解炭素が及んでいないので、耐酸化性繊維を含むセラミック繊維は、周囲に自由に動くことのできる空間を有している。このため、セラミック複合材が変形しても耐酸化性繊維が動く余裕を確保することができ、セラミック複合材が酸化したときの強度をより高くすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、構造物を構成するセラミック複合材であって、高い初期強度を有するとともに、酸化を受けても、構造物自体が崩壊しにくくすることのできるセラミック複合材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例1のセラミック複合材であって、セラミック繊維がフィラメントワインディング法で巻回されたセラミック複合材を示し、(a)は斜視図、(b)は表面の拡大図、(c)は中心軸を含む長手方向に沿った断面図である。
図2図1(c)のS領域の部分拡大図である。
図3】本発明の実施例2のセラミック複合材であって、セラミック繊維がブレーディング法で編み込まれたセラミック複合材の表面の拡大図である。
図4】本発明の実施例3のセラミック複合材であって、セラミック繊維が織布を構成し、織布が積層したセラミック複合材を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【0023】
[発明の詳細な説明]
以下、本発明のセラミック複合材について説明する。
本明細書において、糸は繊維を束ねたものであり、特に複数種の繊維を束ねたものは混紡糸とする。また糸はストランドとも表記する。
【0024】
セラミック繊維からなる基材と、前記基材の表面から内部に浸透する熱分解炭素とを含むセラミック複合材であって、前記セラミック複合材は、前記熱分解炭素の浸透する浸透領域と、熱分解炭素が到達しない非浸透領域とを有し、少なくとも前記基材の前記非浸透領域は、炭素繊維と、耐酸化性繊維との混紡糸から構成される。
【0025】
上記構成によれば、セラミック複合材において、熱分解炭素の浸透する浸透領域と、熱分解炭素が到達しない非浸透領域とを有し、非浸透領域には、耐酸化性繊維を備える。非浸透領域は、マトリックスとなる熱分解炭素がなくセラミック繊維が自由に動くことのできる空間を有し、セラミック複合材が変形しても、非浸透領域のセラミック繊維に強い歪が加わりにくい。このため、セラミック複合材が変形しても、耐酸化性繊維の破壊歪に到達しにくく、耐酸化性繊維だけが選択的に切断されにくくすることができる。結果的にセラミック複合材の高い強度が確保される。
【0026】
前記耐酸化性繊維は、例えば、SiC、ジルコニア、アルミナ、シリカ、ムライトから選ばれる1または2以上のセラミック繊維である。
【0027】
上記構成によれば、これらの繊維は、高い耐熱性を有しているとともに強度を有しているので、炭素繊維および熱分解炭素が酸化して強度が低下しても、セラミック複合材の形状を維持することができる。
【0028】
本発明のセラミック複合材は、炭素繊維糸を骨材として有しているので、高い耐熱性を有している。また、炭素繊維は、単一の元素からなるので表面の傷が形成されにくいので高い初期強度を有している。このため、構造物を構成するセラミック複合材が高い初期強度と耐熱性を有し、かつ酸化しても構造物自体が崩壊しにくいセラミック複合材を提供することができる。
【0029】
前記混紡糸は、例えば、セラミック繊維の長繊維または連続繊維からなる。
【0030】
上記構成によれば、セラミック繊維を構成する炭素繊維が酸化しても残った耐酸化性繊維が互いに絡まりあうことができるので高い強度のセラミック構造材を提供することができる。
【0031】
前記基材の非浸透領域は、例えば、セラミック繊維からなる織布またはブレーディングである。
【0032】
上記構成によれば、セラミック繊維は交差するセラミック繊維と互いに干渉しあうので屈曲して備えられる。また、非浸透領域では、拘束する熱分解炭素が及んでいないので、耐酸化性繊維を含むセラミック繊維は、周囲に自由に動くことのできる空間を有している。このため、セラミック複合材が変形しても耐酸化性繊維が動く余裕を確保することができ、セラミック複合材が酸化したときの強度をより高くすることができる。
【0033】
本発明のセラミック複合材の浸透領域を構成するセラミック繊維は、どのような形態で用いられても良い。複数のセラミック繊維を束ねた糸を巻回したフィラメントワインディング、複数のセラミック繊維を束ねた糸を織った織布、複数のセラミック繊維を束ねた糸を編んだブレーディングの形態で基材を構成しても良いし、セラミック繊維が、個々に分散した抄造体、フェルトの形態で基材を構成しても良い。
【0034】
本発明のセラミック複合材の基材は、異なる形態を積層して構成することもできる。例えば表面側はフィラメントワインディング、織布、ブレーディング、抄造体、フェルトなどの形態で利用でき特に限定されない。また、内部側は炭素繊維と耐酸化性繊維との混紡糸が用いられていれば良く、例えば織布、フィラメントワインディング、ブレーディングなどの形態で利用できる。
【0035】
本発明のセラミック複合材は、耐酸化性繊維が、非浸透領域と浸透領域とを跨いで備えられていることが好ましい。耐酸化性繊維は、酸化環境下に曝されても、強度劣化がないので、アンカーとなり、基材の層間剥離を防止することができる。特に板の形状で用いたときに剥離しにくくすることができる。
【0036】
さらに本発明のセラミック複合材は、浸透領域が非浸透領域を挟んで両側にあり、非浸透領域を挟んで両側の浸透領域に延びる耐酸化性繊維を有することが好ましい。
【0037】
耐酸化性繊維は、酸化環境下に曝されても、強度劣化がないので、両端の浸透領域をつなぐアンカーとなり、基材の層間剥離を防止することができる。
【0038】
浸透領域と非浸透領域との境界は、基材を構成する層の境界と一致していても一致しなくてもよく、特に限定されない。
【0039】
また、本発明のセラミック複合材の非浸透領域は、炭素繊維と耐酸化性繊維との混紡糸からなるが、浸透領域を構成するセラミック繊維は、炭素繊維と耐酸化性繊維との混紡糸であっても炭素繊維のみの糸であっても良い。
【0040】
本発明のセラミック複合材は、例えば、板、パイプなどどのような形状にも適用することができる。板の場合は、平板、曲面の板など、パイプの場合には丸パイプ、角パイプなどどのような断面形状でも適用することができる。
【0041】
本発明において混紡糸とは、炭素繊維と耐酸化性繊維が混在していることを示していることを示している。
【0042】
混紡糸は、炭素繊維と耐酸化性繊維とをどのように配置しても良い。例えば炭素繊維の周りに耐酸化性繊維を配置しても、耐酸化性繊維の周りに炭素繊維を配置しても良い。このほか、炭素繊維と耐酸化性繊維とをランダムに配置しても、それぞれ束にしたものを組み合わせても良い。
【0043】
本発明のセラミック複合材は、例えば、以下のようにして得ることができる。
【0044】
<基材>
炭素繊維と耐酸化性繊維との混紡糸を用いて基材を形成する。基材の内部は混紡糸を用い、表層部は炭素繊維の糸であっても混紡糸であってもよい。表層部を炭素繊維の糸とする場合には、内部が混紡糸となるように構成する。内部の非浸透領域を構成する混紡糸の耐酸化性繊維が、炭素繊維が酸化した場合のセラミック複合材の全体形状を保持する役割を果たすことができる。
【0045】
本発明のセラミック複合材は、耐酸化性繊維と炭素繊維との混紡糸を用いて、織布、フィラメントワインディングあるいはブレーディングの基材を形成する。
【0046】
本発明のセラミック複合材は、CVD法で、熱分解炭素を浸透させ、浸透の及ばない非浸透領域に混紡糸が存在していれば良い。
本発明のセラミック複合材の基材は、どのような形態でもよく、織布、フィラメントワインディングあるいはブレーディングを組み合わせて基材を形成しても、混紡糸を用いて基材を形成した後、さらに炭素繊維からなる織布、フィラメントワインディング、ブレーディング、マット、抄造体などを表層側に組み合わせて形成しても良い。
【0047】
混紡糸に用いられる耐酸化性繊維、炭素繊維は、長繊維、連続繊維のいずれでも利用することができる。連続繊維とは、連続的に紡糸されたものをそのまま束ねたものであって、実質的に混紡糸と同等の長さとなる。長繊維とは、連続繊維が裁断されたもの、有限の繊維長しか得られないものであって、長繊維の向きを揃え、束ねることによって1本の繊維長よりも長い混紡糸を得ることができる。長繊維の長さは好ましくは10mm以上、さらに好ましくは100mm以上である。
【0048】
連続繊維、長繊維とも混紡糸は無撚糸、撚糸のいずれでも使用することができる。長繊維を用いて混紡糸を紡ぐ際には、混紡糸の引っ張り強度を高めるため撚りを加えても良い。
【0049】
基材の形状は、得られるセラミック複合材にあわせて形成する。例えば、セラミック複合材の形状がパイプの場合には、パイプ状の基材を形成する。パイプ状の基材は、例えば、ブレーディング、巻回された織布、フィラメンドワインディングなどとして形成することができる。板状のセラミック複合材の場合には、織布を基材として利用することができる。
【0050】
このようにして、目的の形状にあわせた基材を得る。
【0051】
<熱分解炭素>
次に基材に表面から熱分解炭素を浸透させる。
【0052】
熱分解炭素は、CVD炉を用いて形成する。CVD炉に基材を入れ、内部を真空引きして加熱した後、原料ガスを導入する。原料ガスは、炭化水素であれば特に限定されず、例えば、メタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、トルエンなどを使用することができる。また、熱分解反応における平衡を制御するために水素などをキャリアガスとして使用することができる。
【0053】
CVDの温度は特に限定されない。例えば1000〜2000℃で熱分解炭素を形成し、基材に浸透させることができる。CVDの圧力は特に限定されない。CVDの圧力は、原料ガスおよびキャリアガスの圧力によって決定される。圧力の調整は、例えば、CVD炉から排ガスを吸引する真空ポンプの回転、真空ポンプとCVD炉間のダンパーの開度によって調整することができる。
【0054】
また、CVD炉内の圧力が低いほど原料ガスの分子の衝突確率が小さくなるので、平均自由工程が大きくなり、熱分解炭素が基材の内部まで浸透しやすくなる。CVD炉の製膜温度が低いほど、基材と接触した際に熱分解しにくくなるので、基材の内部まで浸透しやすくなる。
【0055】
CVD炉によって形成された熱分解炭素は、最初に基材に接触する表面で熱分解が起こりやすく、製膜が進行するとともに気孔の入り口を塞ぐので、内部まで熱分解炭素が浸透できず、内部に熱分解炭素の非浸透領域が形成される。
【0056】
このようにCVD炉を用いて、熱分解炭素の浸透する浸透領域と、熱分解炭素の到達しない非浸透領域とを有するセラミック複合材を得ることができる。
【実施例】
【0057】
本発明の実施例について、以下説明する。
【0058】
実施例1は、フィラメントワインディング法で構成された基材を有するセラミック複合材1Aである。図1(a)は実施例1の斜視図、(b)はセラミック複合材1Aの表面の拡大図、(c)はセラミック複合材1Aの中心軸を含む長手方向に沿った断面図である。図2は、図1(c)のS領域の部分拡大図である。図1(a)に示すようにセラミック複合材1Aは、断面が円筒の丸パイプ形状を呈する。
【0059】
実施例2は、糸(ストランド)を編んで形成したブレーディング体を基材とするセラミック複合材1Bであり、図3は実施例2のセラミック複合材1Bの表面の拡大図である。実施例3は、糸(ストランド)を織ったクロス体を積層した基材を有するセラミック複合材1Cであり、図4(a)は、実施例3のセラミック複合材1Cの平面図、(b)は側面図である。
【0060】
<実施例1>
図1および図2に示す実施例1のフィラメントワインディング法で構成された基材を有するセラミック複合材1Aについて、説明する。
【0061】
ストランドは、炭素繊維と耐酸化性繊維であるSiC繊維とからなり、図2に示すように1本のストランドの断面はSiC繊維が炭素繊維に混じって分散した混紡糸である。混紡糸であるストランドは、フィラメントワインディング法によってマンドレルに巻回されフィラメントワインディング体(基材)を構成している。1本のストランドが、複数層に分けて巻回されている。最下層は、ストランドが左右横方向に大きく動かしながら巻回されるヘリカル巻きであり、中間層は、ストランドが互いに間隔をあけないように巻回されるフープ巻きであり、最上層は、ストランドが左右横方向に大きく動かしながら巻回されるヘリカル巻きである。
【0062】
最下層及び最上層ではストランドは中心軸方向に対して45°傾斜して巻回され、中間層は中心軸方向に対してほぼ直行するように巻回されている。
【0063】
1本のストランドは、500本の炭素繊維と500本の耐酸化性繊維であるSiC繊維からなる。炭素繊維の太さは7μm、SiC繊維の太さは10μmである。実施例1のフィラメントワインディング体は、1本のストランドを巻回して構成されているので炭素繊維とSiC繊維は、長さの同じ連続繊維である。
【0064】
図1に示すように、こうして得られた基材は、最下層(内層)が中心軸に対して45°傾斜したヘリカル巻き、中間層はフープ巻き、最上層(外層)は中心軸に対して45°傾斜したヘリカル巻きでできた筒状体(筒状の丸パイプ)である。筒状体は、外径φ80mm、長さ1000mm、肉厚3mmである。ヘリカル巻きの最上層及び最下層は、間隔を空けて巻回されているので隙間があり、フープ巻きの中間層が一部露出している。
【0065】
次に、得られた基材に熱分解炭素を製膜する。基材をCVD炉に入れ、真空引きした後に加熱し、炭化水素の原料ガスを導入する。炉内の温度は1200℃、メタンガスを導入することにより熱分解炭素を製膜することができる。基材は最下層、最上層がヘリカル巻きで構成されているので中間層にも熱分解炭素の被膜を形成し、一部が中間層に浸透する。このため、中間層の表面部分及び最下層、最上層が浸透領域となり、中間層の中心部は非浸透領域となる。尚、図2に示す例では、浸透領域が非浸透領域と同様に、炭素繊維と耐酸化性繊維の混紡糸により構成されているが、浸透領域を実質的に炭素繊維によってのみ構成してもよい。
【0066】
<実施例2>
次に、図3に示す実施例2のブレーディング法で構成された基材を有するセラミック複合材1Bについて、説明する。
【0067】
実施例1と同様に、ストランドは、炭素繊維と耐酸化性繊維であるSiC繊維とからなり、1本のストランドの断面はSiC繊維が炭素繊維に混じって分散した混紡糸である。混紡糸であるストランドはブレーディング法によって互いに編み込まれ、1本のブレーディング体を構成する。1本のストランドは、800本の炭素繊維と200本の耐酸化性繊維であるSiC繊維からなる。炭素繊維の太さは7μm、SiC繊維の太さは10μmである。実施例2のフィラメントワインディング体は、1本のストランドの中に炭素繊維とSiC繊維とが並行して備えられているので、炭素繊維とSiC繊維とは長さの同じ連続繊維で構成されている。
【0068】
ストランドは、左右の回転方向に同数のストランドが用いられている。右回り、左回りはそれぞれ16本用いられ、計32本のストランドで構成されている。
【0069】
ブレーディング体の大きさは、外径φ12mm、長さ300mm、厚さ0.5mmのパイプ状である。外径形状は、図1に示す実施例1と同じである。
【0070】
こうして得られたブレーディング体の基材の表面に熱分解炭素を被覆する。基材をCVD炉に入れ、真空引きした後に加熱し、炭化水素の原料ガスを導入する。炉内の温度は1200℃、メタンガスを導入することにより熱分解炭素を製膜することができる。このようにして、筒状のブレーディング体の外側及び内側に熱分解炭素の被膜が形成される。熱分解炭素の被膜は、基材に浸透し、筒状のブレーディング体の内側及び外側に熱分解炭素の浸透層を形成する。このような方法によって浸透領域が非浸透領域を挟んで両側にあり、非浸透領域を挟んで両側の浸透領域に延びる耐酸化性繊維を有するセラミック複合材を得ることができる。本実施例のセラミック複合材は、耐酸化性繊維が、酸化環境下に曝されても、強度劣化がないので、両端の浸透領域をつなぐアンカーとなり、基材の層間剥離を防止することができる。
【0071】
<実施例3>
次に、図4に示す実施例3のクロスの積層体で構成された基材を有するセラミック複合材1Cについて、説明する。
【0072】
実施例1、2と同様に、ストランドは、炭素繊維と耐酸化性繊維であるSiC繊維とからなり、1本のストランドの断面はSiC繊維が炭素繊維に混じって分散した混紡糸である。1本のストランドは、600本の炭素繊維と400本の耐酸化性繊維であるSiC繊維からなる。炭素繊維の太さは7μm、SiC繊維の太さは10μmである。実施例3のクロスの積層体は、1本のストランドの中に炭素繊維とSiC繊維とが並行して備えられているので、炭素繊維とSiC繊維とは長さの同じ連続繊維で構成されている。
【0073】
混紡糸であるストランドは、織られることによってクロスを構成し、5枚のクロスを重ねクロスの積層体を構成する。
【0074】
クロスの積層体のサイズは、100×100×2mm、織り目の大きさは、2mmである。積層されたクロスは、フェノール樹脂からなるバインダーで接着されている。接着はバインダーに浸漬後、乾燥、焼成され、セラミックとなっている。
【0075】
こうして得られたクロスの積層体の基材の表面に熱分解炭素を被覆する。基材をCVD炉に入れ、真空引きした後に加熱し、炭化水素の原料ガスを導入する。炉内の温度は1200℃、メタンガスを導入することにより熱分解炭素を製膜することができる。このようにして、クロスの積層体の外側及び内側に熱分解炭素の被膜が形成される。熱分解炭素の被膜は、基材に浸透し、両側に熱分解炭素の浸透層を形成する。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、高い強度を備えたセラミック複合材が実現され、当該セラミック複合材により、信頼性の高い種々の構造物を製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0077】
1A セラミック複合材(セラミック繊維がフィラメントワインディング法で巻回されたもの)
1B セラミック複合材(セラミック繊維がブレーディング法で巻回されたもの)
1C セラミック複合材(セラミック繊維が織布を構成し織布が積層したもの)
図1
図2
図3
図4