(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記繊維シートにおいて、任意の繊維が有するフィブリル部の少なくとも一部が、他の繊維に水素結合してなるシート内ネットワーク構造を有する、請求項1または請求項2に記載の積層体。
前記積層体の厚み方向に平行な断面において、前記厚み方向に平行な方向を縦方向とし、前記厚み方向に直交する方向を横方向とした場合に、前記縦方向の領域には少なくとも隣り合う2層の繊維シート間を含み、前記横方向の領域の幅が636μmである区画を観察したときに、一の繊維シートが有する繊維と、他の一の繊維シートが有する繊維とを水素結合させるフィブリル部の数が、30以上である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の積層体。
前記積層体の厚み方向に平行な断面において、前記厚み方向に平行な方向を縦方向とし、前記厚み方向に直交する方向を横方向とした場合に、前記縦方向の領域には少なくとも隣り合う2層の繊維シート間を含み、前記横方向の領域の幅が636μmである区画を観察したときに、一の繊維シートが有する繊維と、他の一の繊維シートが有する繊維とを水素結合させるフィブリル部のアスペクト比が、30以上である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の積層体。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施の形態を示して本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において「A〜B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味しており、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0020】
<積層体>
本発明者らは、一次使用時における形態安定性と、二次使用における剥離性との両特性を兼ね備える積層体を得るべく考察を重ねた。具体的には、まず、本発明者らは、一次使用と二次使用との両使用時における積層体の状態に着目した。そして、多くの場合、一次使用時には、少なくとも積層体の外縁部分には液体成分は浸透されていないのに対し、二次使用において積層体を剥離する際には、積層体の外縁部分にまで液体成分が浸透されていることに着眼した。つまり、一次使用時においては積層体の少なくとも一部は乾燥状態であり、二次使用においては積層体の全体(または一時使用時よりも大きな面積)が湿潤状態となる。
【0021】
そこで、本発明者らは上記着眼点に基づいて鋭意検討を重ね、本発明の積層体を完成させた。すなわち、本発明の積層体は、以下(1)〜(3)を満たす積層体である。
(1)繊維が集合してなる繊維シートが2層以上積層されてなる積層体である。
(2)繊維シートは、乾燥状態における破断強度S
DRYおよび湿潤状態における破断強度S
WETの各々が20N/5cm以上である。
(3)積層体の面内方向における少なくとも一方向において、隣接する2層の繊維シート間の乾燥状態における接着強度A
DRYと、隣接する2層の繊維シート間の湿潤状態における接着強度A
WETとの比A
DRY/A
WETが、5以上である。
【0022】
上記(1)に関し、「繊維シート」は、繊維が集合してなるものであり、具体的には、織布(織物)、編み物、レース、フェルト、不織布などが挙げられる。用途に応じて繊維シートは適宜選択することができ、たとえば繰り返し使用する用途であれば、織物、編み物から選択することが耐久性の面で好ましく、使い捨ての用途においては、価格の面から不織布を選択することが好ましい。
【0023】
繊維シートが2層以上積層されてなる積層体とは、積層体の厚み方向において、繊維シートが積層されてなる積層体を意味する。本発明の積層体は、2層以上の繊維シートから構成されていればよく、3層以上の繊維シートを有していても良いことはいうまでもない。また、繊維シートが、MD(機械)方向、CD(幅)方向等の方向性を有する場合があるが、このような方向性を有する繊維シートが積層されている場合に、各繊維シートの方向性を一致させてもよく、相違させてもよい。ただし、使い捨て用途に用いられる場合、加工工程がシンプルで生産効率が良い点から、各繊維シートの方向性を一致させることが好ましい。
【0024】
ここで、積層体において積層される2層以上の繊維シートは、その一部が連続していてもよい。このような構成を有する積層体としては、1枚の繊維シートを折り曲げて2層以上の繊維シートからなる積層構造とされた積層体が挙げられる。また、本発明において、1枚の繊維シートが折り曲げられてなる積層構造と、異なる繊維シートが積層されてなる積層構造との両積層構造が組み合わせられていてもよい。なお、積層構造の積層数の上限は、特に制限されないが、製造容易性等の観点から、1000層以下である。
【0025】
上記(2)に関し、繊維シートの破断強度S
DRYおよび破断強度S
WETは、次のようにして測定される。まず、50mm×150mm(幅方向×長さ方向)の形状の繊維シートを準備する。この繊維シートとしては、積層体の製造工程の途中において作製される繊維シート、すなわち積層前の繊維シートを用いてもよい。積層される前の繊維シートの物性は、積層された後においても維持されるためである。また、積層体を水で濡らし、該濡れた積層体から1枚の繊維シートを剥離し、該剥離された繊維シートを十分に乾燥させたものを用いてもよい。
【0026】
準備した繊維シートを、50℃で1時間予備乾燥を行ない、標準状態(温度20℃、相対湿度65%)で24時間放置し、これを乾燥状態の繊維シートとする。一方、準備した繊維シートを20℃の水に24時間浸漬し、その後該繊維シートを水から取り出して布帛上に静置して水を切り、繊維シートの400重量%の含水状態に調整したものを湿潤状態の繊維シートとする。なお、以下本明細書において「乾燥状態」の繊維シートとは、上記乾燥処理を施した繊維シートを意味し、「湿潤状態」の繊維シートとは、上記湿潤処理を施した繊維シートを意味する。
【0027】
そして、乾燥状態の繊維シートおよび湿潤状態の繊維シートの各々に対し、JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準拠した引張試験を実施(それぞれ異なるサンプルで5回実施)し、得られた結果の各平均値を、破断強度S
DRYおよび破断強度S
WETとする。
【0028】
ここで、繊維シートは、上述のように方向性を有する場合があるが、本発明においては、面内方向の少なくとも一方向(たとえば、MD方向またはCD方向)における破断強度S
DRYおよび破断強度S
WETが上記値を満たせばよい。ただし、好ましくは面内方向にて直交する二方向(たとえば、MD方向およびCD方向)における破断強度S
DRYおよび破断強度S
WETが上記値を満たす。
【0029】
上記(3)に関し、積層体の接着強度A
DRYおよび接着強度A
WETは、次のようにして測定される。まず、
図1(a)に示されるように、2層の繊維シート1a,1bからなる積層体10を準備する。積層体が3層以上の繊維シートからなる場合、測定したい層間を形成する2つの繊維シート以外の繊維シートは除去する。この除去の方法としては、乾燥状態の各繊維シートの形状が変形しないように、除去すべき繊維シートを静かに剥離させる方法が好適である。なお、2層の繊維シートが、連続している場合(1枚の繊維シートが折り曲げられてなる積層構造の場合)には、連続している部分は切断する必要がある。
【0030】
次に、
図1(b)に示されるように、積層体10において、2つの繊維シート1a,1bの接触する領域が50mm×50mmとなるように、各繊維シート1a,1bの一部(
図1(b)において一点鎖線で示す部分)を除去して、積層体10Aを作製する。なお、積層体10Aにおいて、CD方向の幅D1および、両繊維シート1a,1bが重なる領域のMD方向における幅D2は、それぞれ50mmである。
【0031】
準備した積層体10Aを、50℃で1時間予備乾燥を行ない、標準状態(温度20℃、相対湿度65%)で24時間放置し、これを乾燥状態における積層体とする。一方、準備した積層体10Aを20℃の水に24時間浸漬し、その後該積層体を水から取り出して布帛上に静置して水を切り、積層体の400重量%の含水状態に調整したものを、湿潤状態における積層体とする。
【0032】
そして、乾燥状態における積層体10Aおよび湿潤状態における積層体10Aの各々に対し、JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準拠した引張試験を実施(それぞれ異なるサンプルで5回ずつ実施)し、得られた結果の各平均値を、接着強度A
DRYおよび接着強度A
WETとする。具体的には、オートグラフAGS−D装置(島津製作所製)を用い、
図1(c)に示されるように、積層体10Aの一端1aaを固定した状態で、積層体10Aの一端1bbを図の矢印方向(MD方向に一致)に引っ張る。そして、繊維シート1a,1bが剥離したときの引張力(N/25cm
2)の各平均値を、接着強度A
DRYおよび接着強度A
WETとする。
【0033】
なお、上記では、MD方向における接着強度A
DRYおよび接着強度A
WETの測定方法を説明したが、たとえばCD方向における接着強度A
DRYおよび接着強度A
WETを求める場合には、
図2に示されるような試験片を作製し、CD方向に一致する方向(図の矢印方向)に繊維シートが引っ張られるような引張試験を実施すればよい。
【0034】
本発明の積層体は、上記(1)〜(3)を満たすことにより、乾燥状態(一次使用時)においては優れた形態安定性を有しつつ、湿潤状態(二次使用時)においては優れた剥離性を有することができる。
【0035】
一方、破断強度S
DRYおよび破断強度S
WETの各々が20N/5cm未満の場合、乾燥状態および湿潤状態のいずれにおいても、十分な形態安定性が発揮され難い。破断強度S
DRYおよび破断強度S
WETの各々は、好ましくは30N/5cm以上であり、より好ましくは50N/5cm以上である。破断強度S
DRYおよび破断強度S
WETの上限値は特に制限されない。
【0036】
また、上記比A
DRY/A
WETが5未満の場合、A
DRYが小さすぎたり、A
WETが大きすぎたりする傾向がある。A
DRYが小さすぎると、乾燥状態での積層体の形態安定性が不十分となるために積層体がよれ易く、A
WETが大きすぎると、湿潤状態での剥離性が不十分となる傾向がある。上記比A
DRY/A
WETは、好ましくは5〜50であり、より好ましくは6〜30であり、さらに好ましくは6〜25である。
【0037】
ここで、上述のように、繊維シートには、MD方向およびCD方向がある場合がある。このような繊維シートとして、たとえば、スパンレース法により形成されるスパンレース不織布が挙げられる。この場合、少なくとも、MD方向における比A
DRY/A
WETが、上記範囲を満たすことが好ましい。何故なら、一般的に、MD方向、CD方向といった方向性を有する積層体においては、CD方向に関する破断強度を測定する際、繊維シートの変形に伴う材破が引き起こされ易く、破断強度の適切な測定が行い難いためである。
【0038】
上記(1)〜(3)を満たす積層体として、繊維の少なくとも一部は、幹部と、該幹部から延出するフィブリル部とを有し、積層体のうち隣接する2層の繊維シート間において、その一の繊維シートにおけるフィブリル部が、他の一の繊維シートにおける繊維に水素結合してなるシート間ネットワーク構造を有する積層体が挙げられる。このような積層体について、
図3および
図4を用いながら説明する。
【0039】
図3は、積層体の断面構造を示す走査型電子顕微鏡写真(撮影倍率:500倍)であり、
図4は、積層体が有するシート間ネットワーク構造を説明するための模式図である。
【0040】
図3および
図4に示されるように、積層体10は、繊維2が集合してなる繊維シート1a,1bが2層以上積層されてなる積層体10である。繊維2の少なくとも一部は、幹部2aと、該幹部2aから延出するフィブリル部2bとを有する。
【0041】
フィブリル部2bは、繊維2に発生した亀裂を起点として、繊維2から分裂(フィブリル化)したより小さな繊維(小繊維)であり、直径0.005μm以上0.05μm未満のいわゆる「ミクロフィブリル」および直径0.05〜5μmのいわゆる「マクロフィブリル」の両方を包含する。一方、幹部2aは、フィブリル部2bが繊維2から分裂した後の繊維2の基本骨格である。したがって、幹部2aの直径は、繊維の直径から、該繊維から分裂したフィブリル部2bの直径を差し引いたものとみなすことができる。
【0042】
そして、
図3および
図4に示されるように、積層体10は、隣接する2層の繊維シート1a,1b間において、1層の繊維シート1aにおける任意のフィブリル部2bが、他の繊維シート1bにおける繊維2に水素結合してなるシート間ネットワーク構造3を有している。積層体10がシート間ネットワーク構造3を有することは、走査型電子顕微鏡を用いて、積層体10の断面を観察することにより確認することができる。なお、
図3のZは積層体10の厚み方向を示し、
図3のXは積層体10の面内方向を示す。
図3において、繊維シート1a,1bの間(境界)は、Z方向における繊維2の交絡の有無により決定することができる。
【0043】
本発明者らは、このような積層体10が上記(1)〜(3)を満たすことができ、もって、乾燥状態(一次使用時)においては優れた形態安定性を有しつつ、湿潤状態(二次使用時)においては優れた剥離性を有することができる理由について、次のように考察する。
【0044】
上述のようなシート間ネットワーク構造3を有する積層体10は、シート間ネットワーク構造3を有さない従来の積層体と比して、接着強度A
DRYが高くなる傾向がある。乾燥状態おいて、水素結合からなるシート間ネットワーク構造3は、強固であるためである。一方で、水素結合からなるシート間ネットワーク構造3に対し、水分を含む液体成分が付与された場合、すなわち積層体10の湿潤時には、シート間ネットワーク構造3を構成する水素結合は容易に外れる。このため、接着強度A
WETはA
DRYよりも低くなる傾向がある。したがって、積層体10において、比A
DRY/A
WETが5以上という高い値を示すことができ、結果的に、上記のような効果を発揮することができる。
【0045】
特に、積層体10の厚み方向Zに平行な断面において、厚み方向に平行な方向を縦方向とし、厚み方向に直交する方向を横方向とした場合に、縦方向の領域には少なくとも隣り合う2層の繊維シート間を含み、横方向の領域の幅が636μmである区画を観察したときに、一の繊維シート1aが有する繊維2と、繊維シート1aに隣接する他の一の繊維シート1bが有する繊維2とを結合させるフィブリル部2bの数N
1が、30以上であることが好ましい。これにより、積層体10の繊維シート1a,1b間の水素結合が十分な数となり、もって繊維シート1a,1b間の接着強度A
DRYをさらに大きく設計し得るため、比A
DRY/A
WETが大きくなることとなる。
【0046】
数N
1は、具体的には、次のようにして求めることができる。まず、走査型電子顕微鏡(好適には、「S−3400N型」、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、積層体10の断面であって、上記を満たす区画を10箇所撮像する。なお、積層体10が複数の積層数を有する場合、「繊維シート間」は複数存在することとなるが、撮像される10箇所は、同一の「繊維シート間」である。そして、各画像を観察して、2層の繊維シート間を水素結合するフィブリル部2bの数を求め、10個の画像での平均値を算出し、この値を数N
1とする。
【0047】
ここで、走査型電子顕微鏡を用いることにより、シート間ネットワーク構造を形成しているとみなされる形態に関し、以下(a)または(b)の形態がある。
(a)一方の繊維シートが有する繊維から延出したフィブリル部が、他方の繊維シートが有する繊維の幹部に水素結合している。
(b)一方の繊維シートが有する繊維から延出するフィブリル部と、他方の繊維シートが有する繊維から延出するフィブリル部とが、水素結合している。
【0048】
走査型電子顕微鏡の画像において、上記(a)および(b)を区別するのは困難である。このため、数N
1を算出するに当たっては、上記(a)および(b)の区別なく、一の繊維シートと他の一の繊維シートとが、フィブリル部によって水素結合されている場合、これを「1本」として数えることとする。
【0049】
なお、走査型電子顕微鏡の撮影倍率をたとえば5000倍以上にすると、フィブリル部2bがさらに細かく枝分かれしていることが観察でき、厳密には数十ナノメートルのフィブリル部が観察できる場合がある。しかし、厳密にそれらの本数をカウントすることは不可能である。したがって、数N
1は、たとえば走査型電子顕微鏡を用いて200倍の倍率で撮影し、その映像から確実に1本のフィブリル部2bとして観察されるフィブリル部2bのみをカウントする。
【0050】
また、積層体に方向性がある場合には、物性が異なる可能性のある各方向の断面について均等に測定を行い、その平均値を数N
1とすることが好ましい。たとえば、積層体にMD方向およびCD方向があり、それらの間に物性の差異がある場合には、MD方向およびCD方向において、各々10箇所ずつ上記測定を行い、合計20箇所の測定結果に基づいて平均値を算出し、その値を数N
1とすることが好ましい。
【0051】
上記数N
1は、より好ましくは50以上であり、さらに好ましくは100以上である。数N
1が大きくなるにつれて、シート間ネットワーク構造が密になることにより、もって比A
DRY/A
WETがさらに大きくなる。上記数N
1の上限値は特に限定されないが、乾燥時の積層体が硬すぎたり、湿潤時の積層体の形態安定性が低すぎたりすることを避ける観点から、100000以下であることが好ましい。
【0052】
特に、積層体10の厚み方向Zに平行な断面において、厚み方向に平行な方向を縦方向とし、厚み方向に直交する方向を横方向とした場合に、縦方向の領域には少なくとも隣り合う2層の繊維シート間を含み、横方向の領域の幅が636μmである区画を観察したときに、一の繊維シート1aが有する繊維2と、他の一の繊維シート1bが有する繊維2とを結合させるフィブリル部2bのアスペクト比が30以上であることが好ましい。このようなアスペクト比を有するフィブリル部2bは、一の繊維シートから、隣に位置する他の一の繊維シートにまで延在し易く、故に、他の一の繊維シートと水素結合をし易いという利点がある。このため、このようなフィブリル部2bがシート間ネットワーク構造を構成することにより、水素結合による繊維シート間の接着構造をより強固にすることができる。上記アスペクト比は、より好ましくは50〜100000であり、さらに好ましくは、100〜50000である。
【0053】
ここで、フィブリル部のアスペクト比とは、フィブリル部の径に対する長さの比(長さ/径)であり、次のようにして求めることができる。まず、上記の走査型電子顕微鏡の画像において、シート間ネットワーク構造を構成しているフィブリル部を抽出する。そして、該フィブリル部のうち、両端部が確認されるものをさらに抽出する。なお、両端部とは、上記画像において、一の幹部に結合しているように観察されるその結合部分と、他の一の幹部に結合しているように観察されるその結合部分とを意味する。そして、フィブリル部の両端部間の長さを上記「長さ」とし、フィブリル部の直径(画像中観察される長さ方向に直交する幅)を上記「径」として、その比を算出する。このようにアスペクト比が算出可能なフィブリル部を100本測定し、その平均値をアスペクト比とする。
【0054】
さらに
図3に示されるように、積層体10は、任意の繊維シート1aにおいて、任意の繊維2が有するフィブリル部2bの少なくとも一部が、他の任意の繊維2に水素結合してなるシート内ネットワーク構造4を有することが好ましい。これにより、乾燥時の繊維シート1aの形態安定性が向上し、もって乾燥時の積層体10の形態安定性が向上するとともに、湿潤時の繊維シート1aのフィブリル部2bが結合状態から解放されて一端が遊離のフィブリル部2bとなるため、二次使用時の繊維シートの柔軟性が向上する。
【0055】
なお、走査型電子顕微鏡の画像において観察されるネットワーク構造が、シート間ネットワーク構造であるか、シート内ネットワーク構造であるかは、その画像上の違いによって区別される。すなわち、積層体の断面構造を観察した場合、繊維シート内部に存在する繊維間を繋ぐフィブリル部と、一の繊維シートと他の一の繊維シートとを繋ぐフィブリル部とは、その状態および配置などから、明確に区別できる。
【0056】
上記において、2層構造の積層体10について説明したが、上記のように、積層体10の積層数はこれに限られない。いずれの構造の積層体10においても、2層の繊維シート間において、少なくとも一方の繊維シートの表面に、幹部2aおよびフィブリル部2bを有する繊維2が存在していればよい。隣接する2つの表面のうち、少なくとも一方の面がフィブリル部2bを有していれば、繊維シート間におけるシート間ネットワーク構造3が形成され得るためである。
【0057】
以上詳述した本発明の積層体において、繊維シートは、不織布であることが好ましい。不織布で繊維シートを形成する場合、不織布以外で繊維シートを形成する場合と比較して、繊維間に空隙を作りやすい、安価に製造できるなどの利点があるためである。なかでも、繊維シートは、スパンレース不織布であることが好ましい。スパンレース不織布においては、スパンレース以外の手法で不織布を形成した場合と比較して、シートとしての形態、強度を得るために熱可塑性樹脂などの接着成分を用いる必要がなく、たとえば、フィブリルを有する繊維の配合比率を自由に設定できるという利点がある。
【0058】
本発明の積層体の厚みは、好ましくは0.1〜50mmであり、より好ましくは0.5〜20mmであり、さらに好ましくは1.0〜10mmである。このような厚みの積層体は、対人用ワイパーに好適に用いられる。また、本発明の積層体を構成する繊維シートの厚みは、好ましくは0.05〜10mmである。
【0059】
また本発明の積層体において、上記接着強度A
DRYは3.0〜20が好ましく、接着強度A
WETは0.5〜2.0が好ましい。乾燥時の積層体が硬すぎたり、湿潤時の積層体の形態安定性が低すぎたりすることを避けるためである。これらの値についても、積層体の面内方向の少なくとも一方向で満たされればよく、特に方向性がある場合には、MD方向において満たされることが好ましい。
【0060】
また本発明の積層体を構成する繊維シート(乾燥状態)において、面内方向における少なくとも一方向(たとえば、MD方向またはCD方向)についての破断伸度E
DRYは、好ましくは10%以上であり、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは35%以上である。なかでも、面内方向にて直交する二方向(たとえば、MD方向およびCD方向)における各破断伸度E
DRYがこれを満たすことが好ましい。このような繊維シートは、ワイパーとして用いた場合、拭き取り時に引っ掛かり等が発生しても、繊維シートが局所的に伸びて力を吸収することができる。これによって、積層体の剥離や繊維シートの破れといった損傷を軽減することができる。
【0061】
また本発明の積層体を構成する繊維シート(湿潤状態)においても、面内方向における少なくとも一方向(たとえば、MD方向またはCD方向)における破断伸度E
WETは、好ましくは10%以上であり、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは35%以上である。なかでも、面内方向にて直交する二方向(たとえば、MD方向およびCD方向)における各破断伸度E
WETがこれを満たすことが好ましい。このような繊維シートは、ワイパーとして用いた場合に、柔軟で取扱い性に優れる。
【0062】
また本発明の積層体を構成する繊維シートにおいて、空隙率は好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。繊維シートの空隙率が75%未満である場合、空隙が小さ過ぎ、保液能力が十分でない恐れがある。また、繊維シートにおいて、空隙率は好ましくは97%以下であり、より好ましくは95%以下である。繊維シートの空隙率が97%を超える場合には、繊維シートの繊維密度が小さく、その形状(たとえばシート状)の維持が困難となる恐れがある。繊維シートの空隙率は、繊維シートの目付量、厚み、および繊維の平均比重を用いて算出することができる。
【0063】
また本発明の積層体を構成する繊維シートにおいて、見かけ密度は、好ましくは0.015〜0.45g/cm
3であり、より好ましくは0.045〜0.37g/cm
3であり、さらに好ましくは0.08〜0.30g/cm
3である。従来の技術では、このような低密度の繊維シートにおいて、高い接着強度A
DRYを実現することはできないが、本発明によれば、このような低密度においても、高い接着強度A
DRYを実現することができる。見かけ密度は、JIS L 1913「一般不織布試験方法」に準じて、目付量(g/m
2)と厚み(mm)とを算出し、目付量を厚みで除することにより求められる。
【0064】
本発明の積層体において、その繊維は特に制限されないが、フィブリルを有する繊維であることが好ましい。上述のような繊維シートを形成できるためである。フィブリルを有する繊維としては、セルロース系繊維(レンチング社製「テンセル(登録商標)」、旭化成社製「キュプラ」、ナノバル社製「NANOVAL」など)、パラ系アラミド繊維(ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン社製「ケブラー(登録商標)」、テイジン・アラミド社製「トワロン」);コポリパラフェニレン−3,4−ジフェニールエーテルテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製「テクノーラ(登録商標)」)など)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(東洋紡績社製「ザイロン」など)、全芳香族ポリエステル繊維(クラレ社製「ベクトラン」など)、ポリケトン繊維(旭化成社製「サイバロン」など)、超高分子量ポリエチレン繊維(東洋紡績社製「ダイニーマ」、ハネゥエル社製「スペクトラ」など)、メタ系アラミド繊維(ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製「ノーメックス」、帝人テクノプロダクツ社製「コーネックス」))、ポリビニルアルコール系繊維(クラレ社製「クラロン」)などが挙げられる。これらの繊維は高配向繊維であるため好ましい繊維である。
【0065】
上記のフィブリルを有する繊維に関し、液体を好適に拡散吸収し得、さらには汎用繊維で入手が容易で価格が安いという利点を有することから、セルロース系繊維(セルロースを原料とした繊維)が好ましい。セルロース系繊維としては、天然セルロース繊維、再生セルロース繊維、精製セルロース繊維などが好適な例として挙げられる。具体的には、コットン、麻、パルプなどの天然セルロース繊維、レーヨン、キュプラなどの再生セルロース繊維、テンセル(登録商標)などの精製セルロース繊維などが挙げられる。中でも、その高い分子量により高強度であり、湿潤時にも強度が殆ど低下しない点でテンセル(登録商標)が好ましい。具体的には、本発明の繊維シートを構成する繊維のうち50質量%以上がテンセル(登録商標)であることが好ましく、繊維の全て(100質量%)がテンセル(登録商標)であることがより好ましい。
【0066】
また、本発明の積層体において、フィブリルを有する繊維は、溶剤紡糸によって製造される溶剤紡糸セルロース繊維であることが好ましい。このような溶剤紡糸セルロース繊維としては、木材パルプをNMMO(N−メチルモルフォリン−N−オキサイド)を溶媒として、NMMO/水/セルロース=80%/10%/10%の配合比で溶解させ紡糸した繊維である上述のテンセル(登録商標)が挙げられる。
【0067】
フィブリルを有する繊維の繊度は、特に制限されないが、0.01〜5.5dtexの範囲が好ましい。繊維の繊度が0.01dtex未満である場合には、繊維強度が低くなることによって繊維シートの強度が低くなる傾向にあるためであり、また、繊度が5.5dtexを超える場合には、繊維シートにおける繊維間の距離が大きくなることから、ネットワーク構造が形成されにくい傾向にあるためである。強度と適度な繊維空間(空隙)を好適に形成できるという理由からは、繊維の繊度は、0.7〜5.0dtexの範囲がより好ましく、1.3〜3.8dtexの範囲が特に好ましい。
【0068】
また、積層体の繊維シートに含まれる繊維が有するフィブリル部は、30以上のアスペクト比を有することが好ましい。このようなフィブリル部は、その長さが十分であることによりシート間ネットワーク構造を形成し易いという利点がある。上記アスペクト比は、より好ましくは50〜100000であり、さらに好ましくは、100〜50000である。
【0069】
また本発明の積層体を構成する繊維の繊維長は特に制限されないが、たとえば20mm以上とすることが好ましい。このような長繊維を用いた繊維シートは、たとえばスパンレース法によって不織布として作製することができる。繊維長が20mm未満の場合、形成される繊維シートの密度が高くなるため、フィブリルによるネットワーク形成に必要な繊維間の空隙が確保され難くなる。上記繊維長は、より好ましくは25〜60mmであり、さらに好ましくは32〜51mmである。
【0070】
なお、本発明の積層体において、上述の効果を奏する限り、上述のフィブリルを有する繊維以外の繊維が含まれていても良い。フィブリルを有する繊維以外の繊維は、その目的に応じて自由に選択することができ、特に制限されるものではないが、たとえば合成繊維が挙げられる。また、嵩高にするために、他の繊維としてポリエステル繊維を混合するようにしてもよい。さらに、芯鞘構造を有する従来公知の適宜の複合繊維を他の繊維として用いるようにしてもよい。
【0071】
他の繊維の繊度は特に制限されるものではないが、0.1〜5.5dtexの範囲が好ましく、0.5〜3.8dtexの範囲がより好ましく、1.3〜3.8dtexの範囲がさらに好ましい。他の繊維の繊度が0.1dtex未満である場合には、繊維シートの密度が高くなるため、フィブリルによるネットワーク構造の形成に必要な繊維間の空隙が確保できない傾向にある。他の繊維の繊度が5.5dtexを超える場合には、繊維シートの繊維間の距離が大きくなることから、フィブリルによるネットワーク構造の形成が困難となる傾向にある。また、他の繊維の繊維長についても特に制限されるものではなく、上述したフィブリルを有する繊維と同様に、20mm以上とすることができる。
【0072】
他の繊維を混合する場合、他の繊維を混合することで本発明の繊維シートに空隙を作りやすく作用するため好ましく、その一方で他の繊維の混合率が高くなるとフィブリルによるネットワーク構造の形成が困難となる方向に働く。このため、重量比で、フィブリルを有する繊維が、当該フィブリルを有する繊維および他の繊維全体のうち20%以上を占めることが好ましく、50%以上を占めることがより好ましい。フィブリルを有する繊維が20%未満である場合には、上述のようなネットワーク構造が形成されにくくなってしまうためである。
【0073】
以上詳述した本発明の積層体は、ワイパー用の積層体として、好適に用いられる。具体的には、一次使用時(すなわち少なくとも外縁が乾燥状態である場合)には、高い寸法安定性を有するために、たとえば、積層体のよれ等を発生させることなく、拭き取り対象物の表面を拭き取ることができる。一方、二次使用時(すなわち、積層体の全体が湿潤状態である場合)には、繊維シート毎への剥離が容易である。ワイパーとしては、工業用ワイパー、工業用ウエス、キッチンペーパー、フェイスマスク、コットン、介護用ワイパー、制汗シートなどが挙げられる。なかでも、肌触り性の観点から、フェイスマスク、コットン、介護用ワイパー、制汗シート等の対人用ワイパーに好適である。
【0074】
また本発明の積層体において、一次使用は消費者の利用に限定されない。たとえば、次のような利用方法が挙げられる。一次使用時には、積層体の状態での商品加工、たとえばパッケージ加工が容易に行われ、後に液体と共に封入される。二次使用時には、消費者が積層体から繊維シートを剥離させて、各繊維シートを使用する。
【0075】
また、本発明の積層体においては、極細繊維であるフィブリル部は、これに対して太い繊維である幹部から延出している。すなわち、フィブリル部の一端は幹部であり(幹部に連続しており)、故に、たとえば太い繊維と極細繊維とが混合されたような積層体で生じるような毛羽立ちが生じ難いという利点を有する。なお、観察される極細繊維が、その一端が太い繊維と連続しているフィブリル部であること(つまり、極細繊維と太い繊維とが個別のものではないこと)は、たとえば、走査型電子顕微鏡を用いて2000倍以上の倍率で極細繊維の両端を観察した際に、該極細繊維の一端が、繊維の幹部と構造上繋がっていることにより確認される。
【0076】
<積層体を構成するための繊維シート>
本発明は、上述の積層体を構成するための繊維シートであって、乾燥状態における破断強度S
DRYおよび湿潤状態における破断強度S
WETの各々が20N/5cm以上であり、繊維シートの厚み方向に平行な断面において、厚み方向に平行な方向を縦方向とし、厚み方向に直交する方向を横方向とした場合に、縦方向の幅が少なくとも繊維シートの表面を含み、横方向の幅が636μmである区画を観察したときに、繊維シートの表面から起毛するフィブリル部のうち、アスペクト比が30以上のフィブリル部の数N
2が300以上である、繊維シートにも関わる。
【0077】
繊維シートの破断強度S
DRYおよび破断強度S
WETは、上述と同様の方法により測定することができる。繊維シートにおいて、面内方向の少なくとも一方向(たとえば、MD方向またはCD方向)における破断強度S
DRYおよび破断強度S
WETが上記値を満たせばよい。ただし、好ましくは面内方向にて直交する二方向(たとえば、MD方向およびCD方向)における破断強度S
DRYおよび破断強度S
WETが上記値を満たす。ここでの繊維シートの破断強度S
DRYおよび破断強度S
WETは、積層体を構成している繊維シートの破断強度S
DRYおよび破断強度S
WETと一致する。この繊維シートの物性は、積層体を構成していてもなお引き継がれるためである。
【0078】
上記フィブリル部の数N
2は、次のようにして求めることができる。まず、走査型電子顕微鏡(好適には、「S−3400N型」、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、繊維シートの厚み方向における断面であって、上記を満たす区画を10箇所撮像する。そして、各画像を観察して、アスペクト比が30以上のフィブリル部の数を求め、求められた各フィブリル部の数の平均値を算出し、この値を数N
2とする。撮像倍率を200倍にすることが好ましいことは上述と同様である。アスペクト比の求め方は上記と同様である。なお、このフィブリル部は、端部が遊離(水素結合していない)していてもよく、水素結合していてもよい。
【0079】
また、繊維シートに方向性がある場合には、物性が異なる可能性のある各方向の断面について均等に測定を行い、その平均値を数N
2とすることが好ましい。たとえば、積層体にMD方向およびCD方向があり、それらの間に物性の差異がある場合には、MD方向およびCD方向において、各々10箇所ずつ上記測定を行い、合計20箇所の測定結果に基づいて平均値を算出し、その値を数N
2とすることが好ましい。
【0080】
上記のような繊維シートは、
図5に示されるように、その表面に、細くて長いフィブリル部2bを多く有しているため、他の繊維シートと積層された場合(または、折り曲げられて積層された場合)に、隣接する繊維シートの表面間で密なシート間ネットワーク構造を形成することができる。
【0081】
本発明の繊維シートのその他の構成等は、<積層体>において説明した繊維シートと同様であるため、その説明は繰り返さない。なぜなら、積層前の繊維シート単体と、積層後の積層体に含まれる繊維シートの物性とは概ね一致するためである。
【0082】
<積層体の製造方法>
本発明に係る積層体の製造方法について説明する。ここでは、2層構造の積層体10の製造方法について説明する。
【0083】
本実施形態に係る積層体の製造方法は、複数本の繊維を集合させてシート状の第1前駆体を形成する工程(繊維シート形成工程)と、第1前駆体の厚み方向に関し、少なくとも一方側からキャビテーションエネルギーを与えることにより、繊維からフィブリル部を起毛させて、第2前駆体を形成する工程(フィブリル化工程)と、第2前駆体に対して吸引処理を行って第3前駆体を形成する工程(フィブリル引出工程)と、第3前駆体を積層させて第4前駆体を形成する工程(積層工程)と、第4前駆体を熱処理する工程(熱処理工程)と、を備える。
【0084】
(繊維シート形成工程)
本実施形態の製造方法においては、まず、複数本の繊維を集合させてシート状の第1前駆体が形成される。第1前駆体は、フィブリルを有する繊維として好ましいものとして上述した繊維を用いて、または、場合によっては他の繊維として好ましいものとして上述した繊維を混合して、既存の加工技術(織物、編み物、レース、フェルト、不織布(乾式、湿式のいずれでもよい)の製法)を特に制限なく用いて形成することができる。第1前駆体は、好ましくは、スパンレース(水流)にて繊維を三次元交絡させた不織布であることが好ましい。
【0085】
(フィブリル化工程)
次に、得られた第1前駆体に、その厚み方向において少なくとも一方側からキャビテーションエネルギーを与える。当該工程は、上述の工程で第1前駆体を形成し、そのまま行ってもよいし、形成後に一旦巻き取られた第1前駆体を取り出して行ってもよい。これにより、繊維からフィブリル部が起毛された、第2前駆体が形成される。
【0086】
キャビテーションエネルギーを与える方法としては、第1前駆体を媒体となる液体(一般には水が用いられる)に浸漬しながら、第1前駆体に超音波を適用することにより、キャビテーションエネルギーを与える方法がある。超音波エネルギーを与える場合、媒体中で、第1前駆体を、超音波発振器から発生する電気エネルギーを機械振動エネルギーに変換するホーンの近くに配置し、超音波に曝す方法がある。超音波の振動方向は、第1前駆体に対して垂直方向となる縦振動が好ましい。第1前駆体とホーンの距離は、約1mm未満とし、ホーンから1/4の波長距離に配置することが好ましいが、第1前駆体をホーンに接触配置させてもよい。
【0087】
キャビテーションの強度、およびキャビテーションに曝す時間は、第1前駆体における繊維の種類やフィブリル化の程度に応じて調整するのがよい。キャビテーションの強度が高くなればなるほど、フィブリル部の生成速度が速くなり、より細く、かつアスペクト比の大きい(たとえば300以上)フィブリル部が生成され易くなる。超音波振動周波数は、通常10〜500kHz、好ましくは10〜100kHz、更に好ましくは10〜40kHzである。
【0088】
媒体の温度は特に限定されるものではなく、10〜100℃とするのが好ましい。処理時間は、第1前駆体における繊維の種類、目的とする繊維シートの形態、繊維の繊度によって異なる。処理時間は0.005秒以上10分未満、好ましくは0.01秒以上2分未満、さらに好ましくは0.02秒以上1秒未満である。処理時間と同様に処理回数によってもネットワーク構造の密度を調整することができる。処理回数は特に限定されないが、2回以上の処理を行うことが好ましい。
【0089】
第1前駆体に液体が含浸されている状態であれば、超音波によるキャビテーション処理は大気中でも構わない。ただし、大気中で第1前駆体を超音波処理した場合、霧吹きのように液体が放出されてしまうので、数秒程度超音波処理した後、液体を第1前駆体に含浸させることを繰り返すか、常時液体を第1前駆体に垂れ流しながら、第1前駆体に超音波処理を行う方法が好ましい。この場合、特に超音波の振動方向は第1前駆体に対して垂直方向となる縦振動が好ましい。
【0090】
当該工程は、繰り返し実施されてもよい。たとえば、第1前駆体の一方の表面側からキャビテーションエネルギーを与えた後に、該第1前駆体の他方の表面側からキャビテーションエネルギーを与えても良い。この場合、第2前駆体の両面において、多くのフィブリル部を起毛させることができる。なお、以下本明細書においては、キャビテーションエネルギーが与えられることにより、その表面にフィブリル部が起毛した面を、「キャビテーション処理面」ともいう。
【0091】
(フィブリル引出工程)
次に、フィブリル部が起毛した第2前駆体に対し、起毛するフィブリル部をさらに繊維シートの表面から引き出して、その方向をより第2前駆体の厚み方向に近似させるべく、第2前駆体の厚み方向に対して吸引処理を行う。具体的には、まず、第2前駆体のうち、キャビテーション処理面が金属多孔性の支持体の表面に接するように、該支持体上に第2前駆体を載置する。そして、第2前駆体の裏面(キャビテーション処理面の反対の面)側からキャビテーション処理面に向けて空気が流れるように、吸引処理を行う。これにより、キャビテーション処理面に存在するフィブリル部は、第2前駆体の表面からより外部に向けて露出するように引き出されることとなる。
【0092】
このときの吸引条件は、たとえば、温度:10〜40℃、吸引圧:300〜3500mmH
2Oとするのが好ましい。これにより、第2前駆体の表面に起毛していたフィブリル部が、第2前駆体の厚み方向に引き出されるため、フィブリル部は、第2前駆体の厚み方向に起毛し、かつより長く延出することとなる。たとえば、その表面に、アスペクト比が30以上のフィブリル部が300本以上起毛した第3前駆体が得られる。この第3前駆体は、上述の<繊維シート>に該当する。なお、以下本明細書においては、キャビテーション処理面であり、かつフィブリル引出工程においてフィブリルが引き出された面を、「吸引処理面」ともいう。
【0093】
(乾燥工程)
上記のフィブリル化工程における吸引処理を経た第3前駆体を、このまま後述する積層工程に用いてもよいが、該第3前駆体を乾燥工程に供した後に、積層工程に供することが好ましい。これにより、第3前駆体はより十分に乾燥した状態の繊維シートとなるため、後述する積層工程が実施し易くなる。乾燥処理の方法は特に制限されず、たとえば、吸引処理面が乾燥ドラムの表面に接するように、100〜150℃の乾燥ドラム上に第3前駆体を載置することにより、乾燥処理を行うことができる。
【0094】
(積層工程)
次に、第3前駆体を積層させる。積層方法は特に限定されない。また、積層方向に関し、2枚の第3前駆体が相互に接する2つの面のうち、少なくとも一方の面が、吸引処理面となるように積層させて、第4前駆体(積層構造体)を作製する。たとえば、第3前駆体を円筒状の支持体に巻き取って巻回体(ロール)を作成し、複数の巻回体のそれぞれから繊維シートを巻出しながら、第4前駆体を作製することができる。
【0095】
(熱処理工程)
次に、第4前駆体を熱処理する。熱処理の方法は特に制限されず、たとえば第4前駆体に熱風を吹き付けてもよい。第4前駆体において互いに隣接する面のうち少なくとも一方の面において、長くて細い(アスペクト比の高い)フィブリル部が多く起毛している。このようなフィブリル部は、隣接する他の面を構成する繊維に対し、高い頻度で水素結合を構成することができる。これにより、積層体10が作製される。
【0096】
熱処理の温度は、繊維の種類、第3前駆体の目付量、媒体量(水分量)等によって適宜調整されるが、たとえば、100〜150℃が好ましい。また、熱処理に要する処理時間についても、繊維の種類、第2前駆体の目付量、水分量等によって適宜調整されるが、30秒間〜10分間であることが好ましい。
【0097】
また、第4前駆体に対し、その目付量に対して、50〜500%の水分を均一に含ませた状態で、本熱処理工程を実施することが好ましい。これにより、より均一にフィブリル部による水素結合を形成することができ、もってシート間ネットワーク構造をより均一に形成させることができる。第4前駆体に水分を含ませる方法は特に制限されず、たとえば水槽に水を満たし、第4前駆体をこの水に浸漬する方法が挙げられる。浸漬後の第4前駆体を水槽から引き揚げ、適切な脱水処理を適宜実施することに、第4前駆体の水分量が上記範囲内となるように調製することができる。
【0098】
以上詳述した製造方法によれば、本発明の積層体を製造することができる。またたとえば、2枚の繊維シート(第3前駆体)を用いて2層構造の積層体を構成する場合に、互いに接する2つの表面が、キャビテーション処理後の吸引処理面である場合、シート間ネットワーク構造を形成するためのフィブリル部がより多く存在することができる。このため、両繊維シート間に形成されるシート間ネットワーク構造はより密となることができる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例における各物性値の測定方法は次のとおりである。
【0100】
〔1〕繊維シートの目付量(g/m
2)
JIS L 1906に準じ、温度20℃、湿度65%の標準状態に繊維シートの試験片を24時間放置後、幅方向1m×長さ方向1mの試料を採取し、天秤を用いて重量(g)を測定する。得られた重量(g)の小数点第2位を四捨五入して目付量とした。
【0101】
〔2〕繊維シートの厚み(mm)
剃刀(フェザー安全剃刀(株)製「フェザー剃刃S片刃」)を用いて、サンプルを表面面に対して垂直なMD方向に切断し、デジタル顕微鏡[(株)キーエンス(KEYENCE)製デジタルマイクロスコープ(DIGITALMICROSCOPE)VHX−900]にて試料の断面を観察し厚さを計測した。
【0102】
〔3〕繊維シートの見かけ密度(g/cm
3)
目付量(g/m
2)を厚み(mm)で除して、見かけ密度を求めた。
【0103】
〔4〕繊維シートの空隙率(%)
目付量F(g/m
2)、厚みG(μm)および繊維の平均比重H(g/cm
2)から、下記式
空隙率(%)=100−((F/G/H)×100)
により空隙率(%)を算出した。
【0104】
〔5〕繊維シートの破断強度S(N/5cm)
JIS L 1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて、繊維シートのMD方向およびCD方向に関し、乾燥状態および湿潤状態における各々の破断強度を測定した。
【0105】
〔6〕繊維シートの破断伸度E(%)
JIS L 1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて、繊維シートの機械方向(MD)および幅方向(CD)に関し、乾燥状態および湿潤状態における各々の破断伸度をそれぞれ測定した。
【0106】
〔7〕繊維シートにおける数N
2
走査型電子顕微鏡(「S−3400N型」、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、繊維シートの厚み方向における断面において、縦方向の領域に隣り合う2層の繊維シート間を含み、横方向(MD方向)の領域の幅が636μmである区画を10箇所撮像(撮影倍率:200倍)した。そして、各画像を観察して、アスペクト比が30以上のフィブリル部の数を求めた。また、繊維シートの厚み方向における断面において、縦方向の領域に隣り合う2層の繊維シート間を含み、横方向(CD方向)の領域の幅が636μmである区画を10箇所撮像(撮影倍率:200倍)し、同様にして、アスペクト比が30以上のフィブリル部の数を求めた。そして、合計20箇所における上記フィブリル部の数の平均値を数N
2とした。
【0107】
〔8〕積層体の目付量(g/m
2)
JIS L 1906に準じ、温度20℃、湿度65%の標準状態に繊維シートの試験片を24時間放置後、幅方向1m×長さ方向1mの試料を採取し、天秤を用いて重量(g)を測定する。得られた重量(g)の小数点第2位を四捨五入して目付量とした。
【0108】
〔9〕積層体における接着強度A
DRYおよび接着強度A
WETの比A
DRY/A
WET
積層体から、上述の方法にしたがって、乾燥状態における試験片および湿潤状態における試験片を作製した。なお、積層体が3層構造以上の場合には、積層体から、最外層を構成する繊維シートと、該繊維シートに隣接する繊維シートとの2層構造からなる構造体を取り出し(これ以外の層を除去し)、これを用いて試験片を作製した。そして、乾燥状態における試験片および湿潤状態における試験片の各々に対し、JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準拠し、オートグラフAGS−D型装置(島津製作所製)を用いて上述の引張試験を実施した。得られた結果から、上記比A
DRY/A
WETを求めた。ただし、各実施例および各比較例では、MD方向に関する接着強度A
DRYおよび接着強度A
WETのみを求めた。
【0109】
〔10〕積層体における数N
1
走査型電子顕微鏡(「S−3400N型」、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、積層体の厚み方向において、縦方向の領域に隣り合う2層の繊維シート間を含み、横方向(MD方向)の領域の幅が636μmである区画を10箇所撮像(撮影倍率:200倍)した。そして、各画像を観察して、2層の繊維シート間を水素結合するフィブリル部の数を求めた。また、繊維シートの厚み方向における断面において、縦方向の領域に隣り合う2層の繊維シート間を含み、横方向(CD方向)の領域の幅が636μmである区画を10箇所撮像(撮影倍率:200倍)し、同様にして、2層の繊維シート間を水素結合するフィブリル部の数を求めた。そして、合計20箇所における上記フィブリル部の数の平均値を数N
1とした。
【0110】
〔11〕官能評価1(一次使用)
積層体を15cm×15cm(MD方向×CD方向)にカットした積層シートを作製し、水分を吸収しないアクリル板の上に載置した。次に、載置した積層シートの中央部分に3mlのイオン交換水を滴下した。滴下から60秒後に、10人の被験者が積層シートを用いてそれぞれ自身の腕を擦り、その際の積層シートの一体感を、以下の3つの判定基準で官能評価を行った。
AAA:積層シートが剥離することなく、取扱い性が良いと感じる。
AA:積層シートが一部剥離して取扱い性が悪く感じる。
A:積層シートが完全に剥離して積層状態が維持できず、取扱い性がとても悪く感じる。
【0111】
そして、以下の基準に基づいて、官能評価結果を判定した。
+++:AAA評価が6人以上。
++:AAA評価が1〜5人。
+:AAA評価が0人。
【0112】
〔12〕官能評価2(二次使用)
まず、官能評価1で「+++」と評価された積層シートを、プラスチック製のバットに入れ、100mlの水を注いだ。次に、10人の被験者が、積層シートの最表面から1枚ずつ摘み上げて積層シートを剥離させた。その際の積層シートの剥離性を、以下の判定基準で官能評価を行った。
BBB:積層シートの最表面から1枚ずつきれいに剥離させて摘み上げることができた。
B:積層シートの最表面が剥離せず、積層状態のままであった。
【0113】
そして、以下の基準に基づいて、官能評価結果を判定した。
+++:BBB評価が6人以上。
++:BBB評価が1〜5人。
+:BBB評価が0人。
【0114】
ここで、以下詳述する各実施例に係る積層体は上述の第1工程〜第4工程を含む製造方法により製造された積層体であり、各比較例に係る積層体は上述の第2工程を実施しない製造方法により製造された積層体である。上記〔1〕〜〔7〕は、繊維シートの各物性であり、上記〔8〕〜〔10〕は積層体の各物性であるが、各実施例および各比較例に関する上記〔1〕〜〔7〕を求めるにあたっては、第3工程後の繊維シート(第3前駆体)に対し、130℃、3分の条件で熱風処理を行って得られた繊維シートを用いた。
【0115】
<実施例1>
(繊維シート形成工程)
繊度1.7dtex、繊維長38mmのテンセル(登録商標)(レンチング社製)を用い、CADでセミランダムウェブを作成した。次いで、水流による三次元絡合処理を施した。具体的には、まず、ウェブを金属製多孔性支持部材上に載置し、直径0.10mmの噴射孔がウェブの幅方向に間隔0.6mm毎に設けられた2列のノズルを用い、それぞれ水流を水圧3MPa、5MPaの順で噴射し交絡させた(第1交絡処理)。更にウェブの表裏を搬送コンベアで反転させ、ポリエステル平織りメッシュ(日本フィルコン株式会社製、OP−76)支持体上に載置し、2列のノズルにおけるそれぞれ水流を水圧3MPa、5MPaの順で噴射し三次元絡合させた(第2交絡処理)。これら一連の処理を5m/分の速度で行ない、スパンレース不織布(第1前駆体)を得た。
【0116】
(フィブリル化工程)
次に、精電舎電子工業株式会社製の超音波加工機を用い、関西金網株式会社製ナイロン平織りメッシュ(線径160μm、#200)で形成された支持体上で、スパンレース不織布の片面に、出力:1200W、周波数:20kHz、水温:25℃で、水浴超音波加工により0.2秒間処理を行なった。これにより、フィブリル部が起毛した繊維シート(第2前駆体)を得た。
【0117】
(フィブリル引出工程)
次に、フィブリル化工程後の繊維シートにおいて、キャビテーション処理面がパンチングドラムに接するように、該繊維シートを、パンチングドラム上に載置した。そして、スパンレース不織布の裏面(キャビテーション処理面ではない面)側からキャビテーション処理面側に向けて空気が流れるように、温度:25℃、吸引圧:2000mmH
2Oで、吸引処理を行った。これにより、キャビテーション処理面と吸引処理面とは一致し、かつ吸引処理が施された後の繊維シート(第3前駆体)が作製された。
【0118】
(乾燥工程)
次に、吸引処理後の繊維シートを、130℃の乾燥ドラムに供することにより、乾燥処理を実施した。乾燥処理後の繊維シート(第3前駆体)は、引き続き巻取体に巻き取った。このようにして、5つの巻回体を作製した。
【0119】
(積層工程)
次に、5つの巻回体から繊維シートを巻き出しながら、5層構造の積層構造体(第4前駆体)を作製した。このとき、フィブリル部が起毛する面の全てが、積層構造体の一方の面側に位置するように配置した。このように巻き出しながら作製された積層構造体を、そのまま25℃の水で満たされた水槽内に浸漬し、続いて水槽から引き揚げた積層構造体を、脱水用マングルで脱水し、積層構造体の目付量に対する水分量を500%程度とした。
【0120】
(熱処理工程)
そして、脱水後の積層構造体に対し、130℃の熱風を5分間吹き付けることにより、積層構造体を乾燥させた。最後に、積層構造体をMD方向に裁断し、実施例1に係る積層体(MD方向×CD方向:100cm×50m)を作製した。
【0121】
<実施例2>
繊度1.3dtex、繊維長38mmのテンセル(登録商標)(レンチング社製)を用いた。また、第1前駆体の両面に対してフィブリル加工を行い、かつ積層構造体を3層構造とした以外は、実施例1と同様の方法により、実施例2に係る積層体を作製した。
【0122】
ここで、実施例2において、キャビテーション処理は繊維シートの両面(表面および裏面)に実施され、吸引処理は繊維シートの(表面)のみに実施された。そして、積層構造体を作製するにあたっては、繊維シートの表面が、隣接する繊維シートの裏面と向かい合うように、3枚の繊維シートを積層させた。
【0123】
<実施例3>
繊度1.7dtex、繊維長38mmのテンセル(登録商標)(レンチング社製)と、再生セルロースである繊度1.7dtex、繊維長40mmのビスコースレーヨン(コロナ、オーミケンシ社製)とを、重量比で50:50となるように均一に混合させた繊維を用いた。また、第1交絡処理および第2交絡処理のそれぞれにおいて、水流を5MPa、8MPa、10MPaとし、かつ積層構造を2層構造とした以外は、実施例1と同様の方法により、実施例3に係る積層体を作製した。
【0124】
<実施例4>
繊度1.7dtex、繊維長38mmのテンセル(登録商標)(レンチング社製)と用いた。また、第1交絡処理の水流を3MPaとし、第2交絡処理の水流を4MPaとした以外は、実施例1と同様の方法により、実施例4に係る積層体を作製した。
【0125】
<比較例1>
繊維として、繊度1.7dtex、繊維長38mmのテンセル(登録商標)(レンチング社製)と、繊度1.7dtex、繊維長51mmの芯鞘複合繊維(芯:ポリプロピレン、鞘:ポリエチレン、「HR−NTW」、宇部日東株式会社製)とを、重量比で75:25となるように均一に混合させた繊維を用いた。また、第2工程を実施せず、第3工程における乾燥処理の条件を、135℃、5分間とした以外は、実施例1と同様の方法により、積層体を作製した。
【0126】
<比較例2>
第2工程を実施しなかった以外は、実施例1と同様の方法により、積層体を作製した。
【0127】
<比較例3>
繊度3.8dtex、繊維長51mmの分割繊維(ナイロン6とポリエチレンテレフタレートの質量比:33/67、「WRAMP W102」、(株)クラレ製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、積層体を作製した。
【0128】
<比較例4>
繊維として、繊度1.7dtex、繊維長38mmのテンセル(登録商標)(レンチング社製)を用いた。また、第1交絡処理の水流を1MPaとし、第2交絡処理の水流を1MPaとした以外は、実施例1と同様の方法により、比較例4に係る積層体を作製した。
【0129】
【表1】
【0130】
表1に、各実施例および各比較例で作製された積層体の物性、および該積層体に用いられた繊維シートの物性を示す。なお、表1の「数N
2(表面)」とは、キャビテーション処理面であり、かつ吸引処理面である面を意味し、「数N
2(裏面)」とは、キャビテーション処理面であるものの、吸引処理面ではない面、またはいずれの処理も行われていない面を意味する。
【0131】
表1を参照し、実施例1〜4の積層体は、上記(1)〜(3)を満たすことが確認された。特に、実施例1〜4の積層体によれば、A
WETがA
DRYよりも小さいため、乾燥時には剥離し難く、湿潤時には剥離し易いことが理解される。なお、実施例2の積層体においては、数N
1が100を超えていた。これは、テンセルの繊度が小さいことにより、表面の繊維本数が相対的に増えたことと、両面をキャビテーション処理したことによるものと考えられる。
【0132】
一方、比較例1〜4の積層体は、上記(3)を満たさないことが確認された。特に、比較例1の積層体は、繊維シートを構成する芯鞘複合繊維の鞘成分であるポリエチレンが乾燥工程において融解し、芯鞘複合繊維同士が接着されることによって繊維シート間が固定された。このため、比較例1においては、乾燥時には剥離し難い積層シートが得られた。しかし、比較例1の積層シートは、湿潤時においても剥離させることが出来なかった。
【0133】
また、比較例4の積層体は、さらに上記(2)を満たさないことが確認された。比較例4の積層体は、乾燥状態での積層体の形態安定性が不十分でよれ易く、たとえば積層体を両手で持ち90度に折り曲げただけで、積層体の層間とは異なる部分から材破し剥離した。
【0134】
また表1の官能評価1および官能評価2の結果から、実施例1〜4の積層体は、一次使用時における形態安定性、および二次使用時における剥離性に優れることが分かった。なお、比較例2〜4は、官能評価1の結果が「+」であったため、官能評価2は実施しなかった。
【0135】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲および実施例と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。