特許第6594815号(P6594815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594815
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】船体構造
(51)【国際特許分類】
   B63B 3/20 20060101AFI20191010BHJP
   B63B 11/04 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   B63B3/20
   B63B11/04 Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-63606(P2016-63606)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-177846(P2017-177846A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】503218067
【氏名又は名称】住友重機械マリンエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 太一
(72)【発明者】
【氏名】岩井 潮
【審査官】 福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】 韓国登録特許第10−0516948(KR,B1)
【文献】 米国特許第05582124(US,A)
【文献】 実開平06−051097(JP,U)
【文献】 特表2007−530337(JP,A)
【文献】 韓国公開実用新案第20−2009−0006891(KR,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 3/20
B63B 3/26 − 3/36
B63B 3/62 − 3/64
B63B 11/04
B63B 25/08
B63B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の二重船殻を構成する外壁及び内壁と、
前記外壁及び前記内壁の間を前記船体の前後方向に隔てる隔壁と、
前記船体の前後方向に延在する縦通部材と、を備え、
複数の前記縦通部材が、上下方向に配列されており、
前記船体の前記上下方向において前記縦通部材が設けられていない位置に、前記隔壁を貫通する交通孔が設けられ
前記複数の縦通部材のうちの前記上下方向において前記交通孔を挟んで互いに隣接する2つの第1縦通部材の間隔は、前記上下方向において互いに隣接する2つの前記縦通部材であって前記第1縦通部材とは異なる第2縦通部材を少なくとも一つ含む前記2つの縦通部材の間隔よりも広い、船体構造。
【請求項2】
前記隔壁は、第1部分と、前記第1部分に前記上下方向に隣接する第2部分と、を有し、
前記第2部分には、互いに隣接する前記2つの第1縦通部材と前記第2縦通部材とが位置する、請求項に記載の船体構造。
【請求項3】
前記第1部分には、前記複数の縦通部材は同じ間隔で配列されている、請求項に記載の船体構造。
【請求項4】
第1縦通部材は、前記外壁及び前記内壁のそれぞれから突出する一対の枠部材を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の船体構造。
【請求項5】
前記一対の枠部材は、連結部材を介して連結されている、請求項に記載の船体構造。
【請求項6】
前記交通孔は、前第1縦通部材に対して前記上下方向に所定の間隔を空けて設けられている、請求項1〜のいずれか1項に記載の船体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、ダブルハル(二重船殻)を構成する外殻及び内殻と、船殻内に配置され船体の前後方向に延在する複数のロンジ(縦通部材)と、を備えた船体構造が知られている。このような船体構造では、例えば特許文献1に開示されているように、船殻内の保守・点検に作業者が利用するため、船殻内において船体の前後方向に貫通する通路が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−132974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述のような船体構造において、船体の強度を確保するために、互いに対向するロンジ同士を連結部材によって連結することが考えられる。しかしながら、例えば、通路近傍において連結部材と通路とが干渉してしまう等の問題が生じる場合があった。そのため、構造の複雑化を抑制しつつ、強度を確保することが望まれている。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、シンプルな構造で船体の強度を十分に確保することができる船体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る船体構造は、船体の二重船殻を構成する外壁及び内壁と、船体の横断面視において外壁及び内壁が延びる方向に延在し、外壁及び内壁の間を船体の前後方向に隔てる隔壁と、隔壁の延在方向に所定の配列間隔をおいて複数配列され、船体の前後方向に延在する縦通部材と、を備え、縦通部材は、外壁及び内壁のそれぞれから突出して互いに対向する一対の枠部材を有し、隔壁は、一定の配列間隔の縦通部材を複数配列する第1部分と、隔壁を貫通する交通孔が設けられると共に、交通孔の位置に応じた配列間隔の縦通部材を複数配列する第2部分と、を有し、第2部分において、縦通部材の隔壁の延在方向における位置は、交通孔の隔壁の延在方向における位置と異なっており、縦通部材は、少なくとも2つの互いに異なる間隔を含む配列間隔で配列されることによって交通孔の位置に応じて配列され、第1部分及び第2部分において、一対の枠部材は、連結部材によって連結されている。
【0007】
本発明に係る船体構造によれば、隔壁は、交通孔が設けられると共に、交通孔の位置に応じた配列間隔の縦通部材を複数配列する第2部分を有している。また、縦通部材は、互いに対向する一対の枠部材を有しており、第2部分において、縦通部材の隔壁の延在方向における位置は、交通孔の隔壁の延在方向における位置と異なっている。そのため、交通孔近傍において、交通孔と異なる位置で一対の枠部材同士を連結部材によって連結することができる。従って、シンプルな構造で船体の強度を十分に確保することができる。
【0008】
本発明に係る船体構造において、隔壁は、外壁及び内壁の上下方向に延びる位置において第2部分を有していてもよい。船体構造の複雑化は、外壁及び内壁の上下方向に延びる位置において特に発生しやすい。このような構成により、隔壁の上下方向に延びる位置において、交通孔と異なる位置で一対の枠部材同士を連結部材によって連結することができる。従って、シンプルな構造で船体の強度を十分に確保するという効果を顕著に得ることができる。
【0009】
本発明に係る船体構造において、第2部分における配列間隔は、第1部分における配列間隔よりも狭い間隔を含んでいてもよい。このような構成により、縦通部材を、少なくとも2つの互いに異なる間隔を含む配列間隔で配列することによって交通孔の位置に応じて配列するという構成を簡易に実現することができる。
【0010】
本発明に係る船体構造において、内壁は、船体の船側部において船体の前後方向に延在する内側壁と、船体の船底部において船体の前後方向に延在する内底壁と、を有し、隔壁は、内側壁と内底壁との接合部に対応する位置において第2部分を有していてもよい。内側壁と内底壁との接合部には応力が集中しやすく、強度の向上が望まれる。このような構成により、接合部の強度を向上させることができる。
【0011】
本発明に係る船体構造において、縦通部材は、外壁及び内壁を連結した状態で船体の前後方向に延在する床部材を有し、床部材は、第2部分に配列されていてもよい。このような構成により、交通孔と床部材とを任意の間隔に設定することができる。
【0012】
本発明に係る船体構造は、第2部分において、交通孔と床部材との間には枠部材が配列されており、交通孔と床部材との間における枠部材の位置は、床部材よりも交通孔に近い位置であってもよい。このような構成により、第2部分において互いに異なっている縦通部材の配列間隔の差が大きくなることを抑制することができる。そのため、配列間隔の不規則性の増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シンプルな構造で船体の強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る船体構造が適用される船舶の全体構成を示す概略側面図である。
図2図1に示すII−II線に沿った断面図である。
図3図2に示すIII部分の拡大図である。
図4図3に示すIV部分の拡大図である。
図5図4に示すV−V線に沿った断面図である。
図6図4に示すVI−VI線に沿った断面図である。
図7】比較例を示す図である。
図8図7に示すVIII−VIII線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の船体構造の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、「前」「後」の語は船体の進行方向に対応するものであり、「横」の語は船体の左右(幅)方向に対応するものであり、「上」「下」の語は船体の上下方向に対応するものである。また、図面においては、便宜上、各部材の板厚を省略する場合がある。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る船体構造が適用される船舶の一例を示す概略側面図である。図2は、図1に示すII−II線に沿った断面図である。船体構造1が適用される船舶は、原油や液体ガス等の石油系液体貨物を運搬する船舶であり、例えば、オイルタンカーである。なお、船舶は、オイルタンカーに限定されず、例えば、ダブルハルバルクキャリアであってもよい。
【0017】
船舶10は、図1に示すように、船体11と、推進器12と、を備えている。船体11は、船首部13と、船尾部14と、を有している。船首部13は、船体11の前方側に位置している。船尾部14は、船体11の後方側に位置している。船首部13は、例えば満載喫水状態における造波抵抗の低減が図られた形状を有している。船首部13は、推進される船体11から見て前方から船体11に向かって来る海水Wをせき止めるように機能する。推進器12は、船体11を推進させるものであり、例えばスクリューシャフトが用いられている。推進器12は、船尾部14における喫水線SLよりも下方に設置されている。また、船尾部14における喫水線SLよりも下方には、推進方向を調整するための舵15が設置されている。
【0018】
船体11は、図2に示すように、カーゴオイルタンク16と、バラストタンク17と、を備えている。カーゴオイルタンク16は、船舶10によって運搬される石油系貨物を積載する。バラストタンク17は、カーゴオイルタンク16に積載された石油系貨物の重量に応じた量のバラスト水を収容する。例えば、バラストタンク17は、石油系貨物の重量が小さい場合にはバラストポンプ(不図示)によって海水W(バラスト水)を吸い上げ、収容されているバラスト水を増加させる。一方、積載された石油系貨物の重量が大きい場合には、バラスト水を海に排出し、収容されているバラスト水を減少させる。これにより、船舶10全体としての重量は、船舶10の安全性を確保できると共に十分な喫水を確保できる重量となるように調整される。
【0019】
カーゴオイルタンク16は、図2に示すように、船体11の内側に設けられている。カーゴオイルタンク16の天井面は、上甲板18で構成されている。カーゴオイルタンク16の側方側及び下方側は、船体11の外壁20及び内壁30によって二重船殻が構成されている。また、カーゴオイルタンク16の側方側及び下方側には、二重船殻内を船体11の前後方向に隔てるフロアー(隔壁)40が設けられている(図1参照)。
【0020】
バラストタンク17は、図2に示すように、カーゴオイルタンク16の側方側及び下方側に設けられている。すなわち、船体11の二重船殻を構成する外壁20及び内壁30とフロアー40とで囲まれる領域がバラストタンク17とされている。バラストタンク17は、船体11の船側部11aにおいて上下方向に延びると共に、船体11の船底部11bにおいて横方向に延びている。
【0021】
次に、図3図6を参照して、バラストタンク17について詳細に説明する。図3は、図2に示すIII部分の拡大図である。図4は、図3に示すIV部分の拡大図である。図5は、図4に示すV−V線に沿った断面図である。図6は、図4に示すVI−VI線に沿った断面図である。なお、ここでは、主にバラストタンク17の上下方向に延びる位置において説明するが、横方向に延びる位置においても同様の構成を適用可能である。
【0022】
バラストタンク17は、図3に示すように、外壁20及び内壁30と、フロアー(隔壁)40と、縦通部材50と、を備えている。
【0023】
外壁20は、船側外板21と、船底外板22と、を有している。船側外板21は、船体11の船側部11aにおいて船体11の前後方向に延在している。船底外板22は、船体11の船底部11bにおいて船体11の前後方向に延在している。また、内壁30は、船側隔壁(内側壁)31と、内底板(内底壁)32と、を有している。船側隔壁31は、船体11の船側部11aにおいて船体11の前後方向に延在している。内底板32は、船体11の船底部11bにおいて船体11の前後方向に延在している。内底板32は、船側隔壁31に向かって上方に傾斜する傾斜面32sを有している。内底板32の傾斜面32sと船側隔壁31とは、接合部33により接合されている。
【0024】
フロアー40は、図3に示すように、船体11の横断面視において外壁20及び内壁30が延びる方向に延在している。すなわち、フロアー40は、船側部11aにおいて上下方向に延在しており、船底部11bにおいて横方向に延在している。従って、図4に示すフロアー40は、上下方向に延在している。図5及び図6に示すように、フロアー40は、船側外板21及び船側隔壁31の間を船体11の前後方向に隔てると共に、船体11の前後方向に通過可能に形成されている。フロアー40には、船体11の前後方向に通過可能とするための交通孔40hが設けられている。なお、図3において、交通孔40hは、船側部11aに設けられているが、交通孔40hは、船底部11bに設けられてもよく、船側部11a及び船底部11bの交差する部分に設けられてもよい。
【0025】
交通孔40hは、バラストタンク17内の保守・点検に作業者が利用するための通路としての機能を有している。図5及び図6に示すように、交通孔40hは、フロアー40を貫通して形成されている。図4に示すように、交通孔40hは、上下方向を長軸、横方向を短軸とする断面略楕円形状に形成されている。また、交通孔40hは、上下方向を短軸、横方向を長軸としてもよい。長軸の向きは垂直、水平でなくてもよい。交通孔40hの上下方向(楕円の長軸)の大きさは、例えば、800mmである。交通孔40hの横方向(楕円の短軸)の大きさは、例えば、600mmである。ただし、交通孔40hの大きさは限定されない。交通孔40hの上下方向の大きさは、例えば、600〜1200mmであってもよい。交通孔40hの横方向の大きさは、例えば、400〜800mmであってもよい。また、交通孔40hの形状は、断面略楕円形状に限定されない。交通孔40hの大きさ及び形状は、作業者が通過可能な範囲であれば、任意に設定することができる。
【0026】
縦通部材50は、外壁20及び内壁30をそれぞれ補強する部材である。図3に示すように、縦通部材50は、フロアー40の延在方向に所定の配列間隔をおいて複数配列されている。すなわち、縦通部材50は、船体11の船側部11aにおいて、上下方向に所定の配列間隔をおいて複数配列されている。なお、図3において、船側部11a及び船底部11bの交差する部分の縦通部材50は図示を省略する。ただし、縦通部材50は、船側部11a及び船底部11bの交差する部分においても任意に配列されてよい。また、縦通部材50の配列間隔については後述する。それぞれの縦通部材50は、船体11の前後方向に延在している。縦通部材50は、フロアー40を貫通して、船体11の前後方向に延在している。縦通部材50は、ロンジ(枠部材)51と、縦桁52と、を有している。
【0027】
ロンジ51は、図3に示すように、外壁20及び内壁30のそれぞれからバラストタンク17内に突出している。ロンジ51は、フロアー40の延在方向における所定の位置において、フロアー40の延在方向に交差する方向に互いに対向して一対設置されている。すなわち、図4に示すように、船体11の船側部11aにおいて、ロンジ51は、上下方向の同位置に一対設置されている。また、船体11の船側部11aにおいて、ロンジ51は、横方向に互いに対向している。ロンジ51は、例えば、断面略T形状に形成されている。ロンジ51は、断面略T形状のフランジ面51sが互いに対向するように、船側外板21及び船側隔壁31にそれぞれ設置されている。
【0028】
一対のロンジ51は、図6に示すように、それぞれウェブスチフナ(連結材)53に接合されることにより互いに連結されている。ウェブスチフナ53は、ロンジ51及びフロアー40に、例えば、溶接等によって接合されている。一対のロンジ51は、互いに連結されることにより、補強部材としての機能を向上させることができる。
【0029】
縦桁52は、図3に示すように、バラストタンク17内において外壁20から内壁30に亘って設置されている。縦桁52は、例えば、断面略I形状に形成されている。縦桁52は、断面略I形状の両端部において外壁20及び内壁30に接合されて、バラストタンク17内をフロアー40の延在方向に交差する方向に隔てている。すなわち、図4及び図5に示すように、船側部11aにおいて、縦桁52は、バラストタンク17内を上下方向に隔てている。船側部11aの縦桁52は、船側外板21及び船側隔壁31を連結した状態で船体11の前後方向に延在している。船側部11aの縦桁52は、床部材を構成している。床部材を構成している縦桁52は、上面において歩路面52sを有している。歩路面52sは、バラストタンク17内の保守・点検の際、交通孔40hを通過する作業者が歩く面としての機能を有している。
【0030】
なお、縦通部材50の形状は、上述のものに限定されない。縦通部材50のロンジ51及び縦桁52として、上述したものも含め、断面略T形状、断面略I形状、又は断面略L形状の各種のビルトアップ材、フラットバー、アングル等を適宜、必要に応じて採用することができる。
【0031】
図3に示すように、縦通部材50のうち、縦桁52よりもロンジ51の方が多く配列されている。例えば、縦桁52は、ロンジ51が複数(例えば、6つ)配列されるごとに1つの割合で配列されている。また、縦桁52が設置される位置は、内底板32の傾斜面32sと船側隔壁31との接合部33に対応する位置を含んでいる。図4に示すように、縦桁52は、接合部33に対応する位置において、船側隔壁31及び内底板32にそれぞれ上下方向に接合されている。なお、縦桁52は、船側隔壁31又は内底板32に横方向に接合されていてもよい。縦桁52と船側隔壁31又は内底板32との接合は、いずれの方向であってもよい。
【0032】
次に、縦通部材50の配列間隔について説明する。縦通部材50の配列間隔とは、フロアー40の延在方向(ここでは、上下方向)に隣り合う縦通部材50同士の間隔をいい、ロンジ51同士の間隔、及び、ロンジ51と縦桁52との間隔を含む。
【0033】
図3及び図4に示すように、フロアー40は、第1部分41と、第2部分42と、を有している。第1部分41及び第2部分42は、フロアー40の延在方向に沿って順に配列された互いに隣り合う領域である。図3に示すように、船体11の船側部11aにおいて、第1部分41及び第2部分42は、上下方向に互いに隣り合っている。すなわち、図4に示すように、船側部11aにおいて、フロアー40は、外壁20及び内壁30の上下方向に延びる位置に第2部分42を有している。
【0034】
船側部11aにおいて、第1部分41及び第2部分42は、上から順に上下方向に並んでいる。上下方向において、第2部分42の下端は、船側隔壁31の下端(すなわち、船側隔壁31と内底板32の傾斜面32sとの接合部33)と同じ位置である。従って、フロアー40は、船側隔壁31と内底板32の傾斜面32sとの接合部33に対応する位置において、第2部分42を有している。床部材を構成する縦桁52は、第2部分42の下端に配列されている。
【0035】
例えば、第1部分41において、縦通部材50は、一定の配列間隔D1で複数(例えば、6つ)配列されている。また、第2部分42において、縦通部材50は、配列間隔D2,D3で複数(ここでは、3つ)配列されている。配列間隔D2,D3は、互いに異なる間隔である。また、配列間隔D2,D3は、例えば、それぞれ配列間隔D1とも異なる間隔である。
【0036】
第2部分42には、交通孔40hが設けられている。縦通部材50のフロアー40の延在方向における位置は、交通孔40hのフロアー40の延在方向における位置と異なっている。すなわち、図4に示すように、船側部11aにおいて、縦通部材50の位置と交通孔40hの位置とは、上下方向に異なっている。第2部分42における縦通部材50の配列間隔D2,D3は、交通孔40hの位置に応じた配列間隔である。
【0037】
ここで、配列間隔D2,D3について詳細に説明する。上述のように、フロアー40の第2部分42の下端には縦桁(床部材)52が配列されている。従って、フロアー40における第1部分41及び第2部分42に該当する領域には、当該縦桁52から上方に、複数(ここでは、6つ)のロンジ51、縦桁52の順で縦通部材50が上下方向に配列されている。また、図4に示すように、横方向に対向する一対のロンジ51は、第1部分41及び第2部分42において、ウェブスチフナ53によって連結されている。複数(ここでは、6つ)のロンジ51を、同じ領域内においてすべて一定の配列間隔で配列しようとした場合、上下方向において、交通孔40hの設けられた位置と重複する位置にもロンジ51が配列されることになる。そのような場合、交通孔40hと重複する位置のロンジ51同士をウェブスチフナ53によって連結することが困難となる。そのため、第2部分42において、ロンジ51を互いに異なる間隔である配列間隔D2,D3で配列することによって、ロンジ51の位置と交通孔40hの位置とが上下方向に重複することを回避している。
【0038】
交通孔40hは、図4に示すように、縦桁52の歩路面52sから上方へ離間した位置に設けられている。また、第2部分42の上下方向において、交通孔40hの下端と縦桁52の歩路面52sとの間には、ロンジ51が配列されている。このロンジ51と縦桁52とは、配列間隔D3で配列されている。従って、交通孔40hは、上下方向において、2つのロンジ51に挟まれている。すなわち、交通孔40hは、配列間隔D2で配列された2つのロンジ51の間に位置している。配列間隔D2で配列された2つのロンジ51は、ウェブスチフナ53をフロアー40に溶接するための所定の溶接作業用スペースの分(例えば、15mmずつ)、交通孔40hの上端及び下端からそれぞれ上下方向に間隔をおいて位置している。
【0039】
縦通部材50の配列間隔は、縦通部材50が設けられる外壁20(ここでは、船側外板21)の板厚に対応した基準値内に設定される。フロアー40の第1部分41における縦通部材50の配列間隔D1は、ロンジ51同士の間隔及びロンジ51と縦桁52との間隔を含む。
【0040】
フロアー40の第2部分42における縦通部材50の配列間隔D2は、図4に示すように、ロンジ51同士の上下方向における間隔である。配列間隔D2は、例えば、845mmである。配列間隔D2は、例えば、交通孔40hの上下方向の大きさに対して所定の溶接作業用スペース(ここでは、ウェブスチフナ53の上下に15mmずつ)を加えた値に、縦通部材50の板厚を考慮して設定される。
【0041】
フロアー40の第2部分42における配列間隔D3は、図4に示すように、ロンジ51と縦桁52との上下方向における間隔である。配列間隔D3は、例えば、585mmである。配列間隔D3は、例えば、歩路面52sと交通孔40hの下端との上下方向における間隔が所定の規定値(例えば、600mm以内)を満たす最大値(ここでは、600mm)である場合、歩路面52sと交通孔40hの下端との間隔に対して所定の溶接長(ここでは、15mm)を減じた値に、縦通部材50の板厚を考慮して設定される。従って、第2部分42における配列間隔D3は、第1部分41における配列間隔D1よりも狭い間隔である。
【0042】
また、上述のように、交通孔40hと縦桁52との間に配列されたロンジ51は、ウェブスチフナ53をフロアー40に溶接するための所定の溶接作業用スペースの分(ここでは、15mm)、交通孔40hの下端から下方向に間隔をおいて位置している。従って、第2部分42において、ロンジ51と交通孔40hとの上下方向の間隔は、ロンジ51と縦桁52との上下方向の間隔(配列間隔D3)よりも小さい。すなわち、交通孔40hと縦桁52との間におけるロンジ51の位置は、縦桁52よりも交通孔40hに近い位置である。
【0043】
なお、配列間隔D2,D3は、上述のものに限定されない。配列間隔D2,D3は、ロンジ51同士の上下方向における間隔、又は、ロンジ51と縦桁52との上下方向における間隔に限定されず、隣り合う縦通部材50同士の間隔であればよい。また、配列間隔D2は、例えば、400〜900mmであってもよい。配列間隔D3は、例えば、400〜600mmであってもよい。また、配列間隔D2,D3は、配列間隔D1よりも狭い間隔を含んでいなくてもよい。配列間隔D2,D3は、配列間隔D1と同じ間隔を含んでいてもよく、配列間隔D1よりも広い間隔を含んでいてもよい。また、配列間隔D3は、ロンジ51と交通孔40hとの上下方向における間隔よりも小さくてもよい。
【0044】
また、フロアー40の第2部分42における縦通部材50の配列間隔は、配列間隔D2,D3に限定されない。第2部分42における縦通部材50の配列間隔は、3つ以上であってもよい。第2部分42における配列間隔は、第1部分41における配列間隔D1と異なる間隔を含む少なくとも2つの互いに異なる間隔を有し、かつ、縦通部材50が設けられる外壁20の板厚に対応した基準値内の値であれば採用することができる。
【0045】
また、フロアー40が第2部分42を有する位置は、外壁20及び内壁30の上下方向に延びる位置に限定されない。フロアー40が第2部分42を有する位置は、例えば、外壁20及び内壁30の横方向に延びる位置(船底部11b)であってもよい。なお、その場合は、第1部分41及び第2部分42は、横方向に互いに隣り合っている。また、船側部11aにおいて、フロアー40が第2部分42を有する位置は、船側隔壁31と内底板32の傾斜面32sとの接合部33に対応する位置でなくてもよい。フロアー40が第2部分42を有する位置は、例えば、接合部33に対応する位置から上方に離間した位置であってもよい。フロアー40が第2部分42を有する位置は、交通孔40hが設けられると共に、互いに異なる配列間隔D2,D3の縦通部材50を配列する位置であればよい。
【0046】
次に、本実施形態に係る船体構造1の作用・効果について説明する。
【0047】
本実施形態に係る船体構造1との比較のため、比較例として従来の石油系液体貨物の運搬用の船体構造100について説明する。図7は、比較例を示す図である。図8は、図7に示すVIII−VIII線に沿った断面図である。
【0048】
図7に示すように、比較例の船体構造100において、縦通部材150は、一定の配列間隔で配列されている。ここで、上述したように、縦通部材150の配列間隔は、縦通部材150が設けられる外壁120(ここでは、船側外板121)の板厚に対応した基準値内に設定される。比較例において、縦通部材150の配列間隔は、設計上の利便性から、互いに等しくなる値であって基準値内において最大となる値が適用されている。また、縦通部材150であるロンジ151は、フロアー140の延在方向において交通孔140hの設けられている位置にも配列されている。
【0049】
ここで、一対のロンジ151同士を連結するために、交通孔140hを避けて縦通部材150を一定の配列間隔に配列しようとすると、大きな値の配列間隔となる。配列間隔を大きくするためには、船側外板121の板厚を大きくすることが必要となる場合もある。従って、経済的ではないため、好ましくないとされていた。以上より、交通孔140h近傍の縦通部材150であるロンジ151には、ウェブスチフナ53に代えて、ブラケット153を設置していた。ウェブスチフナ53によって連結されていない場合、ロンジ151の強度が弱くなる。そのため、ウェブスチフナ53によって連結されているロンジ151よりも大きいサイズのロンジ151を採用している。また、ブラケット153を設置するための別の部材を追加する場合もある。
【0050】
一方、本実施形態に係る船体構造1において、フロアー40は、交通孔40hが設けられると共に、交通孔40hの位置に応じた配列間隔D2,D3の縦通部材50を複数配列する第2部分42を有している。また、縦通部材50は、互いに対向する一対のロンジ51を有しており、第2部分42において、縦通部材50のフロアー40の延在方向における位置は、交通孔40hのフロアー40の延在方向における位置と異なっている。そのため、交通孔40h近傍において、交通孔40hと異なる位置で一対のロンジ51同士をウェブスチフナ53によって連結することができる。従って、比較例のようにロンジ51の強度が弱くなることを低減することができる。
【0051】
なお、本実施形態においても、配列間隔D1,D2,D3は、いずれも船側外板121の板厚に対応した基準値内に設定される。従って、船側外板121の板厚を大きくすることを抑制することができる。本実施形態によれば、比較例におい一定の配列間隔に配列していたロンジ151を、複数の配列間隔で配列するというシンプルな構成によって、交通孔40h近傍においても、一対のロンジ51同士をウェブスチフナ53によって連結することを実現している。以上により、シンプルな構造で船体11の強度を十分に確保することができる。
【0052】
また、比較例におけるロンジ151よりも小さいサイズのロンジ51を採用することができると共に、ブラケット153の設置に伴う部材点数の増加も抑制することができる。そのため、船体構造1を軽量化でき、コストの抑制にも寄与する。
【0053】
更に、本実施形態に係る船体構造1においては、小さいサイズのロンジ51を採用することができるため、バラストタンク17内に必要な交通装置との干渉を避けることができ、結果として外壁20及び内壁30によって構成される二重船殻の幅(船側部11aにおける横方向の大きさ、又は、船底部11bにおける上下方向の大きさ)を小さくすることができる。すなわち、図2に示すバラストタンク17の容積を小さくすることができる。従って、カーゴオイルタンク16の容積を大きくすることができ、船舶10が貨物を運搬する能力を向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態に係る船体構造1において、フロアー40は、外壁20及び内壁30の上下方向に延びる位置において第2部分42を有している。船体構造1の複雑化は、特に、外壁20及び内壁30の上下方向に延びる位置において発生しやすい。このような構成により、フロアー40の上下方向に延びる位置において、交通孔40hと異なる位置で一対のロンジ51同士をウェブスチフナ(連結部材)53によって連結することができる。従って、シンプルな構造で船体11の強度を十分に確保するという効果を顕著に得ることができる。
【0055】
また、本実施形態に係る船体構造1において、第2部分42における配列間隔D2,D3は、第1部分41における配列間隔D1よりも狭い間隔を含んでいる。上述のように、配列間隔D1,D2,D3は、いずれも船側外板121の板厚に対応した基準値内に設定される。そのため、このような構成により、縦通部材50を、少なくとも2つの互いに異なる間隔を含む配列間隔D2,D3で配列することによって交通孔40hの位置に応じて配列するという構成を簡易に実現することができる。
【0056】
ここで、狭い間隔を含むことは、外壁20の板厚に対して縦通部材50が必要とされる強度を過剰に満たすことになる。そのため、過剰設計となり、従来は、経済的ではないと考えられていた。すなわち、本実施形態のような構成とすることについて、船体構造1は過剰設計となり経済的ではない部分を有するという阻害要因があった。しかしながら、本実施形態によれば、前述した船体構造1の軽量化、コスト抑制、及び船舶10の運搬能力の向上という効果を奏する。これらの効果により、過剰設計によって経済的ではないと考えられる部分を有している場合であっても、船体構造1は、経済的な利益を顕著に得ることができる。
【0057】
本実施形態に係る船体構造1において、内壁30は、船体11の船側部11aにおいて船体11の前後方向に延在する船側隔壁31と、船体11の船底部11bにおいて船体11の前後方向に延在する内底板32と、を有し、フロアー40は、船側隔壁31と内底板32との接合部33に対応する位置において第2部分42を有する。船側隔壁31と内底板32との接合部33には応力が集中しやすく、強度の向上が望まれる。このような構成により、接合部33の強度を向上させることができる。
【0058】
また、本実施形態に係る船体構造1において、縦通部材50は、外壁20及び内壁30間を連結した状態で船体11の前後方向に延在する縦桁(床部材)52を有し、縦桁52は、第2部分42に配列されている。このような構成により、交通孔40hと縦桁52とを任意の間隔に設定することができる。
【0059】
ここで、交通孔40hと歩路面52s(すなわち、縦桁52の上面)との間隔が600mmを超えると、歩路面52sから交通孔40hへの出入りが困難となるおそれがある。そのため、ステップ等の別の部材を追加することが考えられる。従って、縦通部材50を避けるために交通孔140hの位置を上方に変更することは、部材点数を増加させる場合があり、好ましくない。本実施形態に係る船体構造1においては、交通孔40hと歩路面52sとの間隔を600mmに設定しても、ロンジ51同士をウェブスチフナ53によって連結させることができる。従って、部材点数の増加を抑制することができる。
【0060】
また、第2部分において、交通孔40hと縦桁52の歩路面52sとの間にはロンジ51が配列されており、交通孔40hと縦桁52の歩路面52sとの間におけるロンジ51の位置は、縦桁52よりも交通孔40hに近い位置である。このような構成により、第2部分42において互いに異なっている縦通部材50の配列間隔D2,D3の差が大きくなることを抑制することができる。そのため、配列間隔の不規則性の増大を抑制することができる。
【0061】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0062】
1…船体構造、11…船体、11a…船側部、11b…船底部、20…外壁、30…内壁、31…船側隔壁(内側壁)、32…内底板(内底壁)、33…接合部、40…フロアー(隔壁)、40h…交通孔、41…第1部分、42…第2部分、50…縦通部材、51…ロンジ(枠部材)、52…縦桁(床部材)、53…ウェブスチフナ(連結部材)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8