【文献】
旭化成アミダス株式会社「プラスチックス」編集部,プラスチック・データブック,株式会社 工業調査会,1999年12月 1日,初版,p.410
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
《熱成型用多層シート》
図1に示すように、本発明の第一態様の熱成型用多層シート(以下、単に「多層シート」ともいう。)1は、ポリスチレン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂の発泡層10と、発泡層10の少なくとも一方の面に設けられたポリスチレン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂の非発泡層20を備える。
【0010】
本発明の一例である多層シート1においては、発泡層10の一方の面に非発泡層20が備えられている。さらに、発泡層10を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg1)と非発泡層20を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg2)の差(Tg1−Tg2)は2℃超である。
このようにTg1>(Tg2+2℃)の関係であることによって、熱成型時において、低温の雌金型に接する非発泡層20の硬化速度が、高温の雄金型に接する発泡層10の硬化速度よりも過度に速くなることを抑制することができる。この結果、成型された容器の最外層を形成する非発泡層20にチルマークが形成されることを抑制することができる。
【0011】
Tg1とTg2の差(Tg1−Tg2)は、2℃超25℃以下が好ましく、8℃以上20℃以下がより好ましく、10℃以上〜16℃以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、チルマークの形成をより容易に抑制することができる。
上記範囲の上限値以下であると、成型された容器を雌金型から外す際に、冷却が過度に遅れることを抑制することができる。また、非発泡層20の一部又は全部が雌金型に付着する成型不良の発生を抑制することができる。
【0012】
成型された容器に熱湯を注ぐ用途を想定した場合、発泡層10を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg1)は、100℃以上が好ましい。
上記範囲であると、容器に熱湯を注いだ場合に容器の形状が充分に維持される。
上記Tg1の上限値は特に限定されず、例えば150℃以下が好ましい。
【0013】
成型された容器に熱湯を注ぐ用途を想定した場合、非発泡層20を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg2)は、85℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、95℃以上がさらに好ましい。
上記範囲であると、容器に熱湯を注いだ場合に容器の非発泡層20が流動化し、粘着性を示すことを防止することができる。
上記Tg2の上限値は特に限定されず、例えば145℃以下が好ましい。
【0014】
本発明におけるガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)で求められる値であり、具体的には、JIS K7121:1987「プラスチックの転移温度測定方法」に記載の方法に準拠して、以下の手順により測定される。
DSC装置として、DSC6220型(エスアイアイナノテクノロジー株式会社製)を用いる。アルミニウム製の測定容器の底に隙間のないように測定対象物を約6mg充填して、窒素ガス流量20mL/分のもと20℃/分の速度で30℃から200℃まで昇温し、10分間保持する。その後、前記測定容器を速やかに取り出し、25±10℃の環境下にて放冷したものを測定試料とする。前記DSC装置により前記測定試料を20℃/分の速度で30℃から200℃まで昇温してDSC曲線を得る。得られたDSC曲線から、装置付属の解析ソフトを用いて、上記JIS K7121:1987の(9.3「ガラス転移温度の求め方」)に記載された方法により中間ガラス転移温度を求め、その値をガラス転移温度とする。
なお、発泡層10及び非発泡層20を構成する熱可塑性樹脂のTgは、各層を形成する熱可塑性樹脂の組成を調整することによって調整することができる。
【0015】
<発泡層10と非発泡層20の厚み比>
熱成型によって得られる容器の外観を良好にする観点から、非発泡層20の厚みT
2は発泡層10の厚みT
1に対して0.04〜0.09倍であることが好ましい。即ち、(非発泡層20の厚みT
2)/(発泡層10の厚みT
1)の比は、0.04〜0.09倍であることが好ましい。
非発泡層20が過度に薄いと、非発泡層20の構造的強度が弱いので、容器の熱成型時又は容器の使用時に、非発泡層20の一部が発泡層10から剥離する恐れがある。
非発泡層20が過度に厚いと、熱成型時において、非発泡層20の加熱及び冷却に時間を要し、容器の外観に悪い影響を与える恐れがある。
ここで、各層の厚みは、デジタル顕微鏡にて観察したシート断面の画像を測定することにより行い、シートの幅方向に10点測定した厚みの算術平均値である。
【0016】
<多層シート1の厚み>
熱成型によって得られる容器の外観を良好にする観点から、多層シート1の厚みT(=T
1+T
2)は、1〜5mmが好ましく、1.5〜4mmがより好ましい。
ここで、多層シートの厚みは、その幅方向(TD方向)に50mm間隔でシックネスゲージによって測定した厚みの算術平均値である。
【0017】
<発泡層10>
発泡層10は、ポリスチレン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂で形成される。
発泡層10の厚みT
1は、多層シート1の用途等に応じて適宜調整されるが、例えば0.5〜3.5mmが好ましく、1.0〜3.0mmがより好ましい。
発泡層10の坪量は、特に限定されないが、例えば50〜500g/m
2が好ましく、100〜400g/m
2がより好ましい。
【0018】
前記熱可塑性樹脂は、1種類の樹脂のみからなる単独樹脂であってもよいし、2種類以上の樹脂が混合されてなる混合樹脂であってもよい。
前記ガラス転移温度(Tg1)は、上記の単独樹脂又は混合樹脂のTgを測定した値である。
【0019】
発泡層10を形成するポリスチレン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂を主成分として含有する熱可塑性樹脂が好ましい。ここで主成分とは、発泡層10を形成する全熱可塑性樹脂成分(100質量%)に対してポリスチレン系樹脂の含有量が50質量%以上であることを意味する。前記ポリスチレン系樹脂の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0020】
前記ポリスチレン系樹脂としては、スチレン系単量体の単独重合体または共重合体、スチレン系単量体と他のビニル系単量体との共重合体、またはこれらの混合物等が挙げられる。
ポリスチレン系樹脂としては、スチレン系単量体に基づく構成単位が、前記ポリスチレン系樹脂の全構成単位に対して50質量%以上含まれるものが好ましく、70質量%以上含まれるものがより好ましく、80質量%以上含まれるものがさらに好ましい。
【0021】
スチレン系単量体の単独重合体または共重合体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等のスチレン系単量体の単独重合体または共重合体が挙げられる。このなかでも、スチレンに基づく構成単位を、全構成単位に対して50質量%以上有するものが好ましく、ポリスチレンがより好ましい。
また、ポリスチレン系樹脂として、ゴム成分を含むハイインパクトポリスチレンが用いられてもよい。
【0022】
スチレン系単量体と他のビニル系単量体との共重合体としては、例えば、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体等が挙げられる。
前記スチレン系単量体と他のビニル系単量体との共重合体としては、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体が好ましい。
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
【0023】
スチレン系単量体と他のビニル系単量体との共重合体としては、スチレン系単量体に基づく構成単位を、前記共重合体の全構成単位に対して50質量%以上含むものが好ましく、70質量%以上含むものがより好ましく、80質量%以上含むものがさらに好ましい。
【0024】
ポリスチレン系樹脂としては、市販のポリスチレン系樹脂、懸濁重合法等により合成されたポリスチレン系樹脂、リサイクル原料でないポリスチレン系樹脂(バージンポリスチレン)を使用できる他、使用済みのポリスチレン系発泡板、ポリスチレン系樹脂発泡成形体(食品包装用トレー等)等を再生処理して得られたリサイクル原料を使用できる。前記リサイクル原料としては、使用済みのポリスチレン系発泡板、ポリスチレン系樹脂発泡成形体を回収し、リモネン溶解方式や加熱減容方式によって再生したリサイクル原料が挙げられる。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂には、上記ポリスチレン系樹脂以外の樹脂が添加されてもよい。
ポリスチレン系樹脂以外の樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、エチレン−プロピレン−非共役ジエン三次元共重合体樹脂、アクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂等が挙げられる。なかでも、ポリフェニレンエーテル系樹脂が好ましい。ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2.6−ジクロルフェニレン−1,4−エーテル)等が挙げられる。
【0026】
発泡層10には、上記熱可塑性樹脂以外に、発泡剤、気泡調整剤、架橋剤、充填剤、難燃剤、難燃助剤、滑剤(炭化水素、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石鹸、シリコーン油、低分子ポリエチレン等のワックス等)、展着剤(流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ポリブテン等)、着色剤等の添加剤が含まれてもよい。これらのなかでも、発泡剤、気泡調整剤が含まれることが好ましい。
【0027】
前記発泡剤としては、公知の発泡剤が挙げられ、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、シクロペンタジエン、ヘキサン等の炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルエチルエーテル、石油エーテル等のエーテル化合物、二酸化炭素、窒素、アンモニア、水等が挙げられる。
また、前記発泡剤として、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、炭酸水素ナトリウム、クエン酸等の有機酸又はその塩と炭酸水素ナトリウムとの混合物等の分解性の発泡剤が用いられてもよい。
これらの発泡剤は、いずれか1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
前記発泡剤としては、炭化水素が好ましい。炭化水素のなかでも、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタンまたはこれらの混合物が好ましい。
前記発泡剤の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましい。
【0028】
前記気泡調整剤としては、例えば、タルク、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸カルシウム、クレー、クエン酸等が挙げられる。なかでも、タルクが好ましい。
気泡調整剤は、いずれか1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
気泡調整剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましい。
【0029】
<非発泡層20>
非発泡層20は、ポリスチレン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂で形成される。
非発泡層20の厚みT
2は、多層シート1の用途等に応じて適宜調整されるが、例えば0.01〜0.5mmが好ましく、0.05〜0.2mmがより好ましい。
非発泡層20の坪量は、特に限定されないが、例えば50〜250g/m
2が好ましく、80〜200g/m
2がより好ましい。
【0030】
前記熱可塑性樹脂は、1種類の樹脂のみからなる単独樹脂であってもよいし、2種類以上の樹脂が混合されてなる混合樹脂であってもよい。
前記ガラス転移温度(Tg2)は、上記の単独樹脂又は混合樹脂のTgを測定した値である。
【0031】
非発泡層20を形成するポリスチレン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂の説明は、発泡層10を形成する熱可塑性樹脂の説明と同様であるので、重複する説明については省略する。
【0032】
前述した(Tg1−Tg2)>2℃の関係を容易に満たす観点から、非発泡層20には、ゴム成分を含むハイインパクトポリスチレンが含まれることが好ましい。
また、前述した(Tg1−Tg2)>2℃の関係を容易に満たす観点から、非発泡層20には(メタ)アクリル酸エステルが含まれることが好ましく、(メタ)アクリル酸エステのうち、アクリル酸ブチルが含まれることがより好ましい。その含有量は、非発泡層20を形成する熱可塑性樹脂の総質量に対して、1〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましく、2〜10質量%がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、上記Tgの関係を容易に満たすことができる。
上記範囲の上限値以下であると、成型品の耐熱性を容易に維持又は高めることができる。
【0033】
多層シート1には、発泡層10と、非発泡層20との間に、接着層が設けられてもよい。接着層が設けられることで、非発泡層20の接着性がより高められる。さらに、多層シート1の一体性がより高められる。
【0034】
<接着層>
接着層としては、特に限定されず、公知の樹脂から形成される接着層が用いられる。
接着層が用いられる場合、その厚みは、特に限定されないが、例えば2〜50μmが好ましい。
接着層の坪量は、特に限定されないが、例えば1〜60g/m
2が好ましく、3〜50g/m
2がより好ましく、5〜30g/m
2がさらに好ましい。
【0035】
接着層は、エチレン−酢酸ビニル共重合体とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含む混合樹脂で形成されることが好ましい。接着層が前記混合樹脂で形成されると、上記発泡層10及び上記非発泡層20の両方の層に対する接着性が高められやすくなる。
【0036】
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体としては、共重合体中の酢酸ビニルに基づく構成単位の含有量が0質量%超30質量%以下のものが好ましく、0質量%超10質量%以下のものがより好ましく、3〜10質量%のものがさらに好ましい。また、成型性及び耐熱性が両立される点から、前記共重合体の融点は70〜110℃が好ましい。
【0037】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SIPS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)又はこれらが無水マレイン酸等の酸で変性された変性物等が挙げられる。
これらのなかでも、より優れた接着性が得られる点から、SBS、SBBS、SEBSが好ましい。
また、同様の理由から、スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレンに基づく構成単位の含有量が、スチレン系熱可塑性エラストマー中30〜40質量%のものが好ましい。
接着層には、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体とスチレン系熱可塑性エラストマー以外の樹脂や着色剤等の添加剤が添加されてもよい。
【0038】
(多層シート1の製造方法)
多層シート1の製造方法としては、特に限定されないが、押出ラミネート法、熱ラミネート法、共押出法等が挙げられる。
押出ラミネート法としては、フラットダイから押出成型されたフィルム状の高温非発泡層20を、ロールから巻き出された発泡層10の表面に直接積層し、総厚みを規制する矯正ロールで押圧することで、両者を熱接着して、一体化する方法が挙げられる。この場合、押出される非発泡層20の温度は200〜300℃が好ましく、220〜280℃がより好ましい。
熱ラミネート法としては、発泡層10及び非発泡層20をそれぞれ別個に作製しておき、これらを積層して加熱ローラーの間を通過させ、非発泡層20の表面方向から加熱、加圧することで発泡層10と非発泡層20とを一体化される方法が挙げられる。前記方法において、前記発泡層10と非発泡層20の間に、上記接着層を配置し、3層の積層シートとしてもよい。この場合の加熱温度は、120〜210℃が好ましく、140〜200℃がより好ましい。
【0039】
共押出法としては、発泡層を形成する熱可塑性樹脂、添加剤及び発泡剤を溶融混練して発泡層溶融樹脂を得る工程と、非発泡層を形成する熱可塑性樹脂及び添加剤を溶融混練して非発泡層溶融樹脂を得る工程と、前記発泡層溶融樹脂及び非発泡層溶融樹脂を合流金型に供給し一つのダイから押出して、発泡層及び非発泡層の形成と積層を行う工程を有する方法(以下、「共押出法1」ともいう。)が挙げられる。
【0040】
上記共押出法1における発泡層溶融樹脂には、上述の熱可塑性樹脂100質量部に対して、発泡剤が1〜10質量部、気泡調整剤が0.01〜5質量部含まれることが好ましい。
【0041】
上記共押出法1において、上記合流金型に供給される直前の発泡層溶融樹脂の樹脂温度は、150〜190℃が好ましく、160〜190℃がより好ましい。
上記共押出法1において、上記合流金型に供給される直前の非発泡層溶融樹脂の樹脂温度は、170〜200℃が好ましく、175〜190℃がより好ましい。
【0042】
多層シートに接着層が含まれる場合の共押出法としては、発泡層を形成する熱可塑性樹脂、添加剤及び発泡剤を溶融混練して発泡層溶融樹脂を得る工程と、接着層を形成する樹脂及び添加剤を溶融混練して接着層溶融樹脂を得る工程と、非発泡層を形成する熱可塑性樹脂及び添加剤を溶融混練して非発泡層溶融樹脂を得る工程と、前記発泡層溶融樹脂、接着層溶融樹脂及び非発泡層溶融樹脂を合流金型に供給し一つのダイから押出して、発泡層、接着層及び非発泡層の形成と積層を行う工程を有する方法(以下、「共押出法2」ともいう。)が挙げられる。
【0043】
共押出法2における発泡層溶融樹脂としては、共押出法1と同様のものが好ましい。
共押出法2における発泡層溶融樹脂の合流金型に供給される直前の樹脂温度は、共押出法1と同様の温度が好ましい。
共押出法2における接着層溶融樹脂の合流金型に供給される直前の樹脂温度は、160〜190℃が好ましく、165〜180℃がより好ましい。
共押出法2における非発泡層溶融樹脂の合流金型に供給される直前の樹脂温度は、共押出法1と同様の温度が好ましい。
【0044】
(他の実施形態)
本発明の多層シートは、上述の実施形態に限定されない。
例えば、上述の実施形態では、発泡層の一方の面にだけ非発泡層が設けられたが、これに限定されず、発泡層の他方の面にも非発泡層が設けられてもよい。
また、発泡層及び/又は非発泡層の表面に印刷等の装飾が施されていてもよい。
【0045】
《容器》
本発明の第二態様は、本発明の第一態様の多層シートを用いて形成された容器である。
本発明の容器は、熱成型時のチルマークの形成が抑制されているため、外観に優れ、印刷に適した容器表面を有する。また、発泡層を備えているため、保温性に優れた食品用容器として好適に用いられる。食品用容器としては、トレー容器、丼容器、カップ容器等が挙げられる。
【0046】
《容器の製造方法》
本発明の第三態様は、本発明の第一態様の多層シートをあらかじめ加熱しておき、軟化した多層シートを雌金型と雄金型の間に挟み、多層シートの非発泡層を前記雌金型に接触させて真空成型することにより容器を製造する方法であって、雌金型の温度を、雄金型の温度よりも低く設定する、容器の製造方法である。この温度に設定することにより、真空成型時の容器の冷却時間を短縮できるため、成型不良を抑制しながら製造効率を高めることができる。
上記の製造方法においては本発明の多層シートを使用しているので、従来方法では大きなチルマークが形成され易い、丼容器、カップ容器等の深絞り容器を製造する場合であっても、チルマークの形成を抑制することができる。
【0047】
雌金型の温度を雄金型の温度よりも低く設定する方法としては、雌金型及び雄金型のうち、少なくとも雄金型をヒータ等の加熱手段によって加熱する方法が挙げられる。チルマークの形成を容易に抑制する観点から、雌金型及び雄金型の両方を加熱し、且つ、雄金型を加熱する程度を、雌金型を加熱する程度よりも高めることが好ましい。
【0048】
真空成型方法としては、プラグアシスト真空成型、マッチモールド真空成型などが好ましく使用することが出来る。
【実施例】
【0049】
本発明の一例を以下に詳細に説明する。本実施例において「%」は特に断りがない限り「質量%」を示す。
各例の多層シートにおける原料の配合を表1に示す。表1中、発泡層における気泡調整剤の含有量は、発泡層の全樹脂成分100質量部に対する質量部を示す。
各例の多層シートの製造に使用した原料は下記の通りである。
【0050】
・HRM52N:スチレン単独重合体を主成分とした汎用ポリスチレン(略称:GPPS、東洋スチレン株式会社製、MFR=2.2g/10分、Tg=105℃)
・DSM1401:気泡調整剤(タルク含有、東洋スチレン株式会社製)
・E640N:ハイインパクトポリスチレン(略称:HIPS、ゴム含有量:約6質量%、東洋スチレン株式会社製、MFR=2.7g/10分、Tg=98℃)
・PS−BA1:下記合成例1により得た、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体(質量平均分子量32万、アクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有量:7質量%、MFR=4.5g/10分、Tg=92℃)
・PS−BA2:下記合成例2により得た、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体(質量平均分子量32万、アクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有量:14質量%、MFR=6.5g/10分、Tg=75℃)
【0051】
<合成例1>
内容積106リットルの撹拌機付オートクレーブ(以下、反応器ともいう)に、スチレンモノマー26.4kgとアクリル酸ブチルモノマー2.0kgを投入し混合液とした。この混合液に、重合開始剤として、ベンゾイルパーオキサイド(純度75%、日油社製、商品名ナイパーBW)41g、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート(日油社製、商品名パーブチルE)57gを添加し溶解した。その後、上記反応器に、ピロリン酸マグネシウム170g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4.6g及び蒸留水56.8kgを投入し、70rpmで撹拌して懸濁液を作製した。反応器内を90℃まで昇温し7時間保持した。次に、120rpmで撹拌し、反応器内の温度を125℃まで昇温して3時間保持した。その後、反応器内の温度を40℃まで冷却し、反応器から重合スラリーを取り出し、脱水、洗浄、乾燥して、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体(PS−BA1、質量平均分子量32万、アクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有量7質量%)を製造した。
【0052】
<合成例2>
スチレンモノマーの投入量を24.4kg、アクリル酸ブチルモノマーの投入量を4.0kgとした以外は、合成例1と同様にしてアクリル酸ブチル成分を14質量%含有するスチレン−アクリル酸エステル共重合体(PS−BA2、質量平均分子量32万、アクリル酸ブチルに基づく構成単位の含有量14質量%)を得た。
前記質量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した値を、標準ポリスチレンによる較正曲線に基づき換算した値である。
【0053】
<スチレン系樹脂中のアクリル酸エステルの測定方法>
ポリスチレン系樹脂中の(メタ)アクリル酸エステルに基づく構成単位の含有量は、スチレン−(メタ)アクリル酸エステルの仕込み量から計算により算出できる。その他、例えば当該ポリスチレン系樹脂からなる試料片をATR法による赤外分光分析で分析して得られる(D1728/D1600)の吸光度比から求められる。ここで前記D1728は、1728cm
−1でのアクリル酸エステルに基づく構成単位に含まれるエステル基のC=O伸縮振動に由来するピークであり、前記D1600は、1600cm
−1でのポリスチレン系樹脂に含まれるベンゼン環の面内振動に由来するピークである。
【0054】
実施例1〜10、比較例1〜2の多層シートを以下のように製造した。
(実施例1)
実施例1の多層シートを、押出ラミネート法により以下のように製造した。
(発泡層10の作製工程)
発泡層10の製造装置としては、第1段目の単軸押出機と第2段目の単軸押出機とからなるタンデム型押出機にサーキュラーダイを備えるものを用いた。
第一押出機の第一段目の単軸押出機に、HRM52N及びDSM1401を表1に示す配合で供給して溶融混練した後、この溶融樹脂100質量部に対して、前記第一段目の途中に設けられた投入口から発泡剤としてブタン(ノルマルブタン:35質量%、イソブタン:65質量%)3.0質量部を圧入して溶融混練した。得られた溶融混練物を第二段目の単軸押出機に供給しながら樹脂温度155.5℃に調整し、円筒状の発泡層10をサーキュラーダイから押出することで形成させた。
この円筒状の発泡体を風冷し、その後、この円筒状の発泡層10を押出方向に連続的に切断して切り開き、厚み2mm、坪量250g/m
2の発泡層10を製造した。
(積層工程)
フラットダイを備えている単軸押出機にE640N、PS−BA1、PS−BA2、HRM52Nを表1に示す配合割合で供給して溶融混練した。樹脂温度を250℃に調整し、常温(20℃〜40℃)で28日間養生した発泡層10の一面側にラミネートすることで、実施例1の多層シートを製造した。
製造した多層シートの各層のガラス転移温度、坪量、厚み等を表2に示す。
【0055】
(実施例2
〜3、5〜
7、9、
例4、8、10、比較例1〜2)
非発泡層の組成を表1に示すものに代えたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2
〜3、5〜
7、9、例4、8、10及び比較例1〜2の多層シートを製造した。
【0056】
【表1】
【0057】
≪ラミネート状態の評価≫
各例の多層シートにおける非発泡層のラミネート状態(発泡層に対する密着状態)を目視及び触視により観察し、下記判断基準に基づいて評価した。この結果を表2に併記する。
[判断基準]
良好:非発泡層に膨れが観察されない。
不良:非発泡層に明らかな膨らみが観察される。
【0058】
《チルマーク評価方法》
各例の多層シートを用いて、深さ方向に直交する断面の形状が略円形であり、かつ開口部の内径が120mm、底部の内径が70mm、深さが65mmである、カップ麺容器としての丼容器を製造した。詳しくは、上記丼容器の外形に対応する凹部を7個備えた雌型(凹型)と、丼容器の内形に対応する凸部を7個備えた雄型(凸型)とを有する試験用真空成型装置を使用した。この装置に各例の多層シートを供給し、予熱した多層シートの非発泡層を前記凹部に接触させて成型することにより、丼容器の成型を行った。
成型の条件は、加熱時間10秒、上側(雌型側)のヒータの設定温度400℃、下側(雄型側)のヒータの設定温度300℃、雌型の設定温度60℃、雄型の設定温度100℃とした。上側の雌型と下側の雄型との間に多層シートを配置し、雌型と雄型がほぼ同時に多層シートに接触して、成型を開始するようにタイミングを設定した。
[判断基準]
得られた成型品の全てについて、チルマークの容器の高さ方向の長さを「チルマークの巾」として、容器1つ毎に最大巾を測定し、その平均値を下記判断基準に基づいて評価した。この結果を表2に併記する。
○:チルマークの巾の平均値が0mm以上2mm未満であった。
△:チルマークの巾の平均値が2mm以上〜4mm未満であった。
×:チルマークの巾の平均値が4mm以上であった。
なお、平均値が0mmであるとは、チルマークが全く形成されなかったことを意味する。
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示す結果から、本発明にかかる実施例1
〜3、5〜
7、9の多層シートを用いて成型された容器では、チルマークの形成が抑制されており、形成された場合でも巾が小さく目立たないものであった。したがって、実施例1
〜3、5〜
7、9の容器は比較例の容器に比べて外観が優れているといえる。
上記実施例においてガラス転移温度差が7℃超30℃未満である場合には、チルマークは殆ど発生しなかった。
比較例1,2は、発泡層と非発泡層のガラス転移温度差が2℃以下であったため、チルマークを抑制することはできなかった。
例10では、発泡層と非発泡層のガラス転移温度差が30℃という比較的大きい差であったため、容器が雌型に張り付いて成型不良を起こす場合があった
。