(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0014】
以下、
図1〜
図6を用いて、本発明の第1の実施例によるエンジンの制御装置の構成及び動作について説明する。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施例によるエンジンの制御装置を、自動車用筒内噴射式ガソリンエンジンに適用させたシステム構成図である。
【0016】
エンジン100は、火花点火式燃焼を実施する自動車用の4気筒ガソリンエンジンである。吸入空気量を計測するエアフローセンサ1と、吸気を過給するための過給機のコンプレッサ4aと、吸気を冷却するためのインタークーラ7と、吸気管6内の圧力を調整する電子制御スロットル2と、吸気管6内の圧力を計測する吸気圧力センサ14が吸気管6に設けられている。また、エンジン100には、各気筒のシリンダ15の中に燃料を噴射する燃料噴射装置(以下、インジェクタ)13と、噴射された燃料と空気の混合気を圧縮するためのピストン18、点火エネルギーを供給する点火プラグ17が気筒ごとに備えられている。また、筒内に流入、または筒内から排出するガスを調整する可変バルブタイミング機構5a(吸気側)、5b(排気側)が、シリンダヘッドに設けられている。可変バルブタイミング5a、5bにより、1番から4番まで全気筒の吸気バルブ21及び排気バルブ22の開弁、閉弁時期を調整することにより、吸気量および内部EGR量を調整する。また、図示していないがインジェクタ13に高圧燃料を供給するための高圧燃料ポンプが燃料配管によってインジェクタ13と接続されており、燃料配管中には、燃料噴射圧力を計測するための燃料圧力センサが備えられている。
【0017】
さらに、排気エネルギーによって過給機のコンプレッサ4aに回転力を与えるためのタービン4bと、タービンに流れる排気流量を調整するための電子制御ウェイストゲート弁11と、排気を浄化する三元触媒10と、空燃比検出器の一態様であって、三元触媒10の上流側にて排気の空燃比を検出する空燃比センサ9と、が排気管16に設けられている。また、図示していないがクランク軸には、回転角度を算出するためのクランク角度センサに設けられている。
【0018】
さらに、排気管の触媒10の下流から、吸気管6のコンプレッサ4aの上流に排気を還流させるためのEGR管40を備えている。また、EGRを冷却するためのEGRクーラ42、EGR流量を制御するためのEGR弁41、EGR弁前後の差圧を検出する差圧センサ43、EGR温度を検出するEGR温度センサ44が、EGR管40の各々の適宜位置に、取りつけられている。
【0019】
エアフローセンサ1と空燃比センサ9と吸気圧センサ14と差圧センサ43とEGR温度センサ44から得られる信号は、エンジンコントロールユニット(ECU)20に送られる。また、アクセル開度センサ12から得られる信号がECU20に送られる。アクセル開度センサ12は、アクセルペダルの踏み込み量、すなわち、アクセル開度を検出する。ECU20は、アクセル開度センサ12の出力信号に基づいて、要求トルクを演算する。すなわち、アクセル開度センサ12は、エンジンへの要求トルクを検出する要求トルク検出センサとして用いられる。また、ECU20は、クランク角度センサの出力信号に基づいて、エンジンの回転速度を演算する。ECU20は、上記各種センサの出力から得られるエンジンの運転状態に基づき、空気流量、燃料噴射量、点火時期、燃料圧力等のエンジンの主要な作動量を最適に演算する。
【0020】
ECU20で演算された燃料噴射量は開弁パルス信号に変換され、インジェクタ13に送られる。また、ECU20で演算された点火時期で点火されるように、点火信号が点火プラグ17に送られる。また、ECU20で演算されたスロットル開度は、スロットル駆動信号として電子制御スロットル2に送られる。また、ECU20で演算された可変バルブタイミングの作動量は、可変バルブタイミング駆動信号として、可変バルブタイミング5へ送られる。また、ECU20で演算されたウェイストゲート弁開度は、ウェイストゲート弁駆動信号として、ウェイストゲート弁11へ送られる。また、ECU20で常時演算されるEGR弁開度は、EGR弁開度駆動信号として、EGR弁41へ送られる。
【0021】
吸気管6から吸気バルブ21を経てシリンダ15内に流入した空気に対し、燃料が噴射され、混合気を形成する。混合気は所定の点火時期で点火プラグ17から発生される火花により爆発し、その燃焼圧によりピストンを押し下げてエンジンの駆動力となる。更に、爆発後の排気ガスは排気管16を経て、三元触媒10に送りこまれ、排気成分は三元触媒10内で浄化され、外部へと排出される。
【0022】
図2は、一般的なエンジン制御装置の、1サイクル中における点火時期補正制御の一例を示すシステムブロック図である。ECU20は中央処理装置(CPU)を有しており、これが制御部として機能する。そして、ECU20の制御部はステップS201で吸気バルブ21を開き(Intake Valve Opening)、吸気を行い、S202で吸気バルブ21を閉じて(Intake Valve Closing)、圧縮を開始するように吸気バルブ21を制御する。またECU20の制御部はS203で筒内圧力の測定値を取得し、S204で筒内圧力の測定値からEGR率を推定し、S205では、推定されたEGR率に基づいて、点火時期補正値を算出する。またECU20の制御部はS206において、点火時期補正値を現在の点火時期目標値と比較し、点火時期補正値が点火時期目標値より進角している場合は、S207で点火時期目標値を点火時期補正値と等しくなるように進角させる。一方で、S206において、点火時期補正値を現在の点火時期目標値と比較し、点火時期補正値が点火時期目標値より進角していない場合にはS208に移行し、S208で遅角していると判断した場合は、S209で点火時期目標値を点火時期補正値と等しくなるように遅角させる。
【0023】
その後、ECU20の制御部はS210で点火プラグ17の点火を行い、シリンダ15の筒内で燃焼を開始させる。そしてECU20の制御部はS211で排気バルブ22を開いて(Exhaust Valve Opening)排気を行い、S212で排気バルブ22を閉じ(Exhaust Valve Closing)、1サイクルが終了する。
【0024】
吸気バルブ21および排気バルブ22が閉じた時点において、筒内に閉じ込められた気体である混合気は、外部から取り込んだ空気と、前サイクルの燃焼後ガスが残留したEGRガスと、筒内に噴射された燃料で構成される。この混合気中における、酸素以外で燃焼に寄与しないガスの質量割合をEGR率と呼ぶ。
【0025】
ここで、S204では、EGR率に応じて点火時期補正値が決定されるが、最適な点火時期は、混合気温度にも依存して変化する。特に排気ポートから排気ガスを直接引き戻す内部EGRでは、高温の排ガスが残留するため、圧縮行程における混合気の温度が、サイクルごとに大きく変動する。すると、点火時期目標値を定めた際に想定した混合気温度よりも、実際の混合気温度の方が高かった場合、点火タイミングを進角し過ぎたことにより、ノッキングを引き起こすおそれがあり、逆に実際の混合気の温度の方が低かった場合、最適燃費点より余計に遅角した点火時期となり、燃料消費量が増加してしまうという問題がある。
【0026】
図3は、本発明の第1の実施例による、1サイクル中における点火時期補正制御の一例を示すシステムブロック図である。S301からS303、およびS306からS312は、
図2のS201からS203、およびS206からS212と同様であるので、詳しい説明は省略する。本実施例においてECU20の制御部はS303までに得た筒内圧力から、S304のパラメータ推定部により、圧縮行程のガス温度とEGR率を推定する。その後、ECU20の制御部はガス温度およびEGR率に基づいて、S305の補正値算出部により、点火時期の補正値を計算する。そしてECU20の制御部は計算した点火時期補正値に対して、S306からS309までの処理を行い、点火時期目標値を燃焼開始前に補正する。
【0027】
図4は、本発明の第1の実施例によるエンジンの制御装置における、1サイクル中の吸排バルブの動作と、シリンダ15の筒内圧と点火時期目標値の時間変化を示すタイムチャートである。
図4上段は吸気バルブ21と排気バルブ22のリフトを示したものである。時刻T1で吸気バルブ21が閉じ、吸気行程が完了すると圧縮行程が始まり、
図4中段に示される筒内圧が、時刻T1において、圧力がP1から上昇し始める。圧縮行程が進んだ時刻T2における筒内圧P2を測定すると、2点における圧力変化(P2−P1)を得ることができる。また、クランク角度の検出値から、筒内体積V1およびV2も得ることができる。これらの測定値と、空燃比、および吸気質量の少なくとも1つ以上の値から、パラメータ推定部S304により、ガス温度およびEGR率を推定する。推定したガス温度およびEGR率に基づいて、補正値算出部S305により点火時期の補正値を算出する。
【0028】
図4下段はECUが記憶している点火時期の目標値であり、時刻T3において、補正値に基づいて点火時期目標値を書き換える。前燃焼サイクルまでの点火時期目標値では、時刻T4において点火が行われることになっていたが、時刻T3に目標値が書き換えられたことにより、当該燃焼サイクルにおける点火時期は時刻T5となる。時刻T5において、開始時期が補正された点火が行われ、燃焼が開始し、筒内圧はピークに到達する。その後、膨張行程に入って筒内圧力は下がり、排気バルブ22が開いて燃焼後のガスが排出され、圧力が大気圧同等まで落ちた後に、排気バルブ22が閉じられ、1燃焼サイクルが完了する。
【0029】
以上の通り、本実施例においてECU20の制御部は、燃焼サイクルにおいて吸気バルブ21及び排気バルブ22の双方が閉じている状態における筒内のガスの温度とEGR率とを求め、この求めたガスの温度とEGR率に基づいて前記の燃焼サイクルと同じ燃焼サイクルにおける燃焼パラメータを補正する。
【0030】
より具体的には、ECU20の制御部は、求めたガスの温度とEGR率に基づいて前記燃焼サイクルと同じ燃焼サイクルにおける点火プラグ17の点火タイミングを補正する。このガスの温度とEGR率を求めるタイミングは圧縮行程における点火前に行い、これにより点火タイミングの補正値を算出することが好ましい。なお、内燃機関(エンジン100)には点火を行う点火プラグ17に高電圧を供給するための図示しない点火コイルが取り付けられている。そしてECU20の制御部は求めたガスの温度とEGR率に基づいて前記燃焼サイクルと同じ燃焼サイクルにおける点火コイルの二次側コイル電流の立ち上がりタイミングを補正する。
【0031】
図5は、本発明の第1の実施例によるエンジンの制御装置における、ガス温度とEGR率に基づいて点火時期目標値を補正する点火時期補正値のマップを示す図である。まず、S501においてガス温度を取得し、次にS502においてEGR率を取得する。S503ではこれら2つの値から、
図5の点火時期補正値マップに基づき点火時期補正値を算出する。
【0032】
点火時期補正値のマップの概形は、
図5に示されるような、ガス温度とEGR率に対する3次元曲面として表される。
図5の点火時期補正値マップに示すように点火時期補正値は、ガス温度が一定の場合は、EGR率が高くなるほど、進角側に設定される。EGRでは混合気に不活性ガスが混ざることによりノッキングが抑制され、進角限界が拡大し、より点火時期を進角させることが可能になるためである。またEGR率が一定の場合は、ガス温度が高いほど、点火時期目標値が遅角するように点火時期補正値が設定される。これは混合気体温度が高いほどノッキングしやすくなり、進角限界が縮小し、点火時期を進角できなくなるためである。
【0033】
すなわち、ECU20の制御部は、求めたガスの温度が大きいほど、又は求めたEGR率が小さいほど、前記燃焼サイクルと同じ燃焼サイクルにおける点火プラグ17の点火タイミングを遅角するように補正する。逆にECU20の制御部は、求めたガスの温度が小さいほど、又は求めたEGR率が大きいほど、前記燃焼サイクルと同じ燃焼サイクルにおける点火プラグ17の点火タイミング(点火時期目標値)を進角するように補正する。別の言い方をすると、ECU20の図示しない記憶部には、
図5に示すような点火時期補正値のマップが記憶される。そしてこの点火時期補正値マップには
図5に示すようにガスの温度とEGR率とにより点火タイミング(点火時期補正値)が設定され、かつ、この点火タイミングはガスの温度が大きいほど、又はEGR率が小さいほど、遅角するように設定される。そして、制御部は、ある燃焼サイクルの圧縮工程において、記憶された点火時期補正値マップに基づいて、求めたガスの温度、及びEGR率から設定された点火タイミング(点火時期補正値)となるように、前記燃焼サイクルと同じ燃焼サイクルにおける点火タイミング(点火時期目標値)を点火プラグ17の点火前に補正する。
【0034】
なお、EGR率はおおむね30%を超えると、燃焼安定性の悪化により、点火進角しても安定燃焼しなくなる。そこで、EGR率が設定値(たとえば30%)以上となった場合には、進角しないように点火時期補正値マップの補正値が設定される。同様に、ガス温度が低くなり過ぎると、燃料の蒸発が不十分となり混合気に不均質性が出て燃焼安定性が悪化するため、点火進角しても安定燃焼しなくなる。そのため、点火時期補正値マップの補正値はガス温度の低下に対して一定以上は進角されない。また、ガス温度が高すぎると、点火が行われる前に混合気が自着火してしまう、プレイグニッションが発生し、シリンダやピストンの破損に至る場合がある。そのため、点火時期補正値マップの補正値はガス温度の上昇に対して、一定以上は遅角されない。
【0035】
ここでは、外部EGRと内部EGRを例として、それぞれに対する点火時期補正プロセスを説明する。
外部EGRでは、
図1における排気管の触媒10の下流から、排気をEGR管40へ取り出し、EGRクーラ42で所定の温度まで冷却した後に、吸気管6上のコンプレッサ4a上流に還流させる。この方式によるEGRを、後述する内部EGRと区別するために外部EGRと呼ぶ。外部EGRにより再循環させる排気の量は、EGR弁41により一定に制御される。ここで、排気ガスの組成は、前燃焼サイクルの空燃比や吸気量ばらつき等により変動するため、EGR率は燃焼サイクルごとに変動する。
【0036】
そのため、ある燃焼サイクルでは
図5のA点の温度およびEGR率で燃焼していても、次の燃焼サイクルでは前の燃焼サイクルに比べてEGR率が増減することがある。EGR率が増加した場合、ノッキングが抑制され、点火時期の進角限界が拡大するため、最適点火時期は進角側に移動する。逆にEGR率が減少した場合、ノッキング抑制効果が減少し、点火時期の進角限界は縮小するため、最適点火時期は遅角側に移動する。本実施例によるエンジンの制御装置では、例えばEGR率が増加した場合は、ガスの温度およびEGR率を、前燃焼サイクルよりもEGR率が高いB点の状態にあると同定し、点火時期補正値マップに基づいて点火時期目標値を進角するように補正する。
【0037】
内部EGRでは、
図1において、可変バルブタイミング機構5を用いて排気行程の排気ガスを筒内に閉じ込めるバルブタイミングを設定することで、次の燃焼サイクルに排気ガスを再循環させる。この方式によるEGRを内部EGRと呼ぶ。内部EGRにより再循環させる排気の量は、吸気および排気のバルブタイミングにより定まるが、燃焼サイクルごとの吸気量のばらつきやバルブの密閉性能の差等により、EGR率が変動する。加えて、内部EGRでは高温の排気ガスを筒内に残留させるため、ガスの温度も変動する。
【0038】
そのため、例えば
図5のA点の温度およびEGR率で燃焼している際、前の燃焼サイクルに比べて次の燃焼サイクルのEGR率および温度が共に増減することがある。EGR率の増加および減少に対しては前述のように進角限界の拡大および縮小がそれぞれみられる。温度が上昇した場合は、未燃ガスが自着火しやすくなり、ノッキング発生条件に近づくため、点火時期の進角限界は縮小し、最適点火時期は遅角側に移動する。温度が低下した場合は、未燃ガスの自着火が抑制され、ノッキングが抑制されるため、点火時期の進角限界が拡大し、最適点火時期は進角側に移動する。本実施例によるエンジンの制御装置では、例えば内部EGRの増加により、EGR率が増加し、ガスの温度が上昇した場合は、ガスの温度およびEGR率を、前燃焼サイクルよりもEGRが高く、ガスの温度が高いC点の状態にあると同定し、点火時期補正マップに基づいて点火時期目標値を遅角するように補正する。
【0039】
このように、圧縮行程における点火前の筒内のガスの温度とEGR率とを求め、この求めたガスの温度とEGR率に基づいて圧縮行程における点火時期目標値を点火プラグ17の点火前に補正することで、ガス温度およびEGR率の燃焼サイクル変動を考慮して、点火時期を燃焼サイクルごとに燃費最適点に近づけることができ、燃料消費量を低減させることができる。
【0040】
図6は、本発明の第1の実施例によるエンジンの制御装置における、燃料のオクタン価と点火時期補正マップ値の関係を示すグラフである。ノッキングの発生しやすさは燃料種にも依存し、一般的なガソリンの場合、オクタン価が高いほどノッキングが抑制される。本実施例によるエンジンの制御装置では、用いられる燃焼のオクタン価を検知して、オクタン価が高いほど点火時期補正値マップの値を進角方向に補正する。また、オクタン価が低いほど点火時期目標値が遅角方向に移動するように点火時期補正値マップを設定する。
図5の点火時期補正値マップ上のすべての点に対して前記の補正を行うため、オクタン価の高低によって、
図5のマップ全体が進角、遅角方向に平行移動する。
【0041】
このように、燃料のオクタン価に基づいて点火時期補正値マップを補正することで、燃料種が異なる燃料であっても、より最適点火時期付近で燃焼させることができ、燃料消費量を低減させることができる。
【実施例2】
【0042】
第2の実施例では
図7〜
図9を用いて、ECU20の制御部による点火時期以外の燃焼パラメータの補正方法として、圧縮比を補正する場合の、エンジンの制御装置の構成及び動作の実施例を説明する。実施例1と同様の構成については説明を省略する。
【0043】
図7は本発明の第2の実施例による、1燃焼サイクル中における圧縮比補正制御の一例を示すシステムブロック図である。S701からS704、およびS706からS712は、
図2のS201からS204、およびS206からS212と同様であるので、詳しい説明は省略する。本実施例では、ECU20の制御部は、ガス温度およびEGR率に基づいて、S705の補正値算出部により、圧縮比の補正値を計算する。
【0044】
一般的に圧縮比が高いほど理論熱効率が向上して燃料消費量は減少するが、圧縮上死点におけるガスの温度が高くなるため、ノッキングが発生しやすくなる。逆に圧縮比が低いほど理論熱効率は低下して、燃料消費量は増加するが、圧縮上死点におけるガスの温度が低くなるため、ノッキングは発生しづらくなる。圧縮比の変更には、機械的に燃焼室の形状やピストンのストローク量等を変更する必要があり、点火時期変更に比べて所要時間が長く、一般的にノッキング回避手段には用いられない。しかし、ノッキングを回避する際に、点火時期の遅角のみを行うと燃焼効率が低下し、圧縮比を下げた場合に比べて燃料消費量が増加してしまう場合がある。そこでノッキング回避の際に、点火時期までの猶予時間を考慮して、圧縮比の減少、または圧縮比の減少と点火時期の遅角の組み合わせを行うことで、燃料消費量を減少させる。
【0045】
ECU20の記憶部には点火時期までの猶予時間に応じて、圧縮比補正値が記憶される。ECU20の圧縮比の補正値算出部は、記憶された圧縮比補正値マップに基づいて、ガス温度が上昇またはEGR率が低下するにつれて、圧縮比が小さくなるよう圧縮比補正値を出力して、制御部はこれに基づき圧縮比を制御する。圧縮比補正値は、点火時期まで猶予があるように設定され、圧縮比を補正した後に点火プラグ17の点火が行われる。すなわち、点火までの時間が、圧縮比変更にかかる時間よりも小さい場合、圧縮比補正量は小さくなるように設定され、不足分を点火時期補正で補うように、点火時期補正値を出力する。ECU20の制御部は、補正値算出部から出力された圧縮比補正値に対して、S706からS709までの処理を行い、圧縮比が燃焼開始前に補正される。そして、ECU20の制御部は、補正後の圧縮比において、実施例1で示したようにガス温度およびEGR率に基づいて点火時期の補正を行う。つまり、本実施例では、ECU20の記憶部には、圧縮比毎に実施例1の
図5の点火時期補正値マップが記憶される。
【0046】
図8は、本発明の第2の実施例によるエンジンの制御装置における、1燃焼サイクル中の吸排バルブの動作と、筒内圧と圧縮比マップ値の時間変化を示すタイムチャートである。時刻T1で吸気バルブ21が閉じ、吸気行程が完了すると圧縮行程が始まり、圧縮行程途中の時刻T2までの間に、筒内圧P1およびP2、筒内体積V1およびV2を得ることができる。ECU20のパラメータ推定部はS704において、これらの測定値と、空燃比、および吸気質量の少なくとも1つ以上の値から、ガス温度およびEGR率を推定する。補正値算出部はS705において、記憶部に記憶された圧縮比補正値マップに基づいて、圧縮比の補正値を算出する。
【0047】
図8下段は補正された圧縮比目標値を示し、時刻T3において、時刻T5において、ECU20の制御部(補正値算出部)は圧縮比を補正し、そのうえで、点火プラグ17の点火を行うように制御することで、燃焼を開始し、筒内圧はピークに到達する。その後、膨張行程に入って筒内圧力は下がり、排気バルブ22が開いて燃焼後のガスが排出され、圧力が大気圧同等まで落ちた後に、排気バルブ22が閉じられ、1燃焼サイクルが完了する。
【0048】
このように、圧縮行程における点火前の筒内のガスの温度とEGR率とを求め、この求めたガスの温度とEGR率に基づいて圧縮行程における圧縮比を補正することで、点火進角によるHC発生や、点火遅角による排気温度上昇等、点火時期補正によるデメリット無く、燃焼サイクルごとに燃費最適点で燃焼させることができ、燃料消費量を低減させることができる。
【0049】
図9は、本発明の第2の実施例として、シリンダ15の外部にシリンダ15と接続される副室50を設け、シリンダ15と副室50との接続部に、バルブ機構49を配置した場合のシリンダ付近の構成図である。バルブ機構49を開けることでシリンダ15の筒内体積が拡大し、圧縮比が低下する。また、バルブ機構49を閉じることで筒内体積が縮小し、圧縮比が増加する。
【0050】
このように副室を設けて、バルブ機構の開閉により筒内との接続を行い、シリンダ15の筒内の体積を短時間で変化させることで、燃焼サイクル変動に対応した、高速な圧縮比の変更が可能となる。
【実施例3】
【0051】
第3の実施例では
図10〜
図12を用いて、ECU20の制御部による点火時期以外の燃焼パラメータの補正方法として、燃料噴射時期を補正する場合の、エンジンの制御装置の構成及び動作の実施例を説明する。実施例1と同様の構成については説明を省略する。
【0052】
図10は本発明の第3の実施例による、1燃焼サイクル中における燃料噴射時期補正制御の一例を示すシステムブロック図である。S1001からS1004、およびS1006からS1012は、
図2のS201からS204、およびS206からS212と同様であるので、詳しい説明は省略する。本実施例において、ECU20の制御部は、ガス温度およびEGR率に基づいて、S1005の補正値算出部により、燃料噴射時期の補正値を計算する。一般的に圧縮行程中の筒内に燃料が噴射されると、燃料の気化熱によりガス温度が低下し、ノッキング抑制効果が得られる。
【0053】
そこでECU20の記憶部には
図5に示される点火時期補正値マップと同様に、ガス温度及びEGR率に応じて、インジェクタ13による噴射量、又は噴射タイミングを補正するためのインジェクタ噴射補正値マップが記憶される。ECU20の燃料噴射量の補正値算出部では、インジェクタ噴射補正値マップに基づいて、ガスの温度が上昇またはEGR率が低下した場合に、圧縮行程において追加の燃料噴射が行われるよう、インジェクタ13の噴射タイミングを補正する。ECU20の制御部は、補正された噴射タイミングとなるように、S1006にて、インジェクタの噴射性能などを加味して、追加噴射を行う。なお、S1007で追加の燃料噴射が燃焼開始前に行われる。
【0054】
図11は、本発明の第3の実施例によるエンジンの制御装置における、1燃焼サイクル中の吸排バルブの動作と、筒内圧と燃料噴射信号のマップ値の時間変化を示すタイムチャートである。燃料噴射信号は、その値がゼロでない期間に燃料が噴射される。時刻T1で吸気バルブ21が閉じ、吸気行程が完了すると圧縮行程が始まり、圧縮行程途中の時刻T2までの間に、筒内圧P1およびP2、筒内体積V1およびV2を得ることができる。パラメータ推定部はS1004において、これらの測定値と、空燃比、および吸気質量の少なくとも1つ以上の値から、ガス温度およびEGR率を推定する。補正値算出部はS1005において、推定したガス温度およびEGR率に基づいて、燃料噴射時期の補正値を算出する。ECU20の補正値算出部は、S1006において、追加噴射の有無を決定し、追加の燃料噴射が不要な場合は、追加燃料噴射は行わない。
【0055】
図11下段は補正されたインジェクタの燃料噴射時期を示し、時刻T3において、圧縮行程中に追加の燃料噴射が行われる。時刻T5において、追加の燃料噴射完了後に点火が行われ、燃焼が開始し、筒内圧はピークに到達する。その後、膨張行程に入って筒内圧力は下がり、排気バルブ22が開いて燃焼後のガスが排出され、圧力が大気圧同等まで落ちた後に、排気バルブ22が閉じられ、1燃焼サイクルが完了する。
【0056】
このように、圧縮行程における点火前の筒内のガスの温度とEGR率とを求め、この求めたガスの温度とEGR率に基づいて圧縮行程における燃料噴射時期を補正することで、点火時期補正によるデメリット無く、また圧縮比補正に必要な追加装置なども必要なく、燃焼サイクルごとに燃費最適点で燃焼させることができ、燃料消費量を低減させることができる。
【0057】
図12は、本発明の第3の実施例によるエンジンの制御装置における、追加の燃料噴射として、インジェクタ13とは別に異種燃料を噴射するためのサブインジェクタ13aを配置した場合のシリンダ付近の構成図である。ECU20の制御部は、求めたガスの温度が設定温度よりも低い場合、又は求めたEGR率が設定値よりも大きい場合、同じ圧縮行程における自着火を促進する燃料を筒内に噴射する。あるいは制御部は、求めたガスの温度が設定温度よりも高い場合、又は求めたEGR率が設定値よりも小さい場合、同じ圧縮行程における自着火を抑制する燃料を筒内に噴射する。燃料噴射による化学的な効果として、噴射する燃料種により燃焼状態を制御することが可能である。着火性の良い燃料を噴射した場合は、自着火が促進されノッキングが発生しやすくなり、点火時期の進角限界は縮小する。逆に、着火性の悪い燃料を噴射した場合は、自着火が抑制され、気化熱によるガス温度の低下効果と併せて、ノッキング抑制効果が高まり、点火時期の進角限界が拡大する。
【0058】
このように、追加の燃料噴射として異種燃料を噴射することで、自着火の抑制、促進の両方を行うことができ、燃焼状態を高精度に制御することが可能となる。
【実施例4】
【0059】
第4の実施例では
図13〜
図14を用いて、ECU20の制御部によるHCCI燃焼を行うエンジンの制御装置の構成及び動作の実施例を説明する。実施例1と同様の構成については説明を省略する。
【0060】
図13は本発明の第4の実施例によるエンジンの制御装置における、1燃焼サイクル中における点火方法補正制御の一例を示すシステムブロック図である。
【0061】
S1301からS1304、およびS1308からS1309は、
図2のS201からS204、およびS211からS212と同様であるので、詳しい説明は省略する。本実施例では、ガス温度およびEGR率に基づいて、S1305の自着火判定部で実験値等との比較により、圧縮上死点でガスが自着火するかを予測する。S1306において、確実な自着火、すなわちHCCI燃焼が成立するかを判定し、成立する場合は点火信号をキャンセルして、HCCI燃焼に移行する。自着火が成立しない場合は、点火信号を送り、点火プラグ17により強制点火を行う。
【0062】
図14は、本発明の第4の実施例によるエンジンの制御装置における、1燃焼サイクル中の吸排バルブの動作と、筒内圧と点火信号の時間変化を示すタイムチャートである。
【0063】
時刻T1で吸気バルブ21が閉じ、吸気行程が完了すると圧縮行程が始まり、圧縮行程途中の時刻T2までの間に、筒内圧P1およびP2、筒内体積V1およびV2を得ることができる。これらの測定値と、空燃比、および吸気質量の少なくとも1つ以上の値から、パラメータ推定部S1304により、ガス温度およびEGR率を推定する。推定したガス温度およびEGR率に基づいて、S1305の自着火判定部により、圧縮上死点での自着火の有無を予測する。S1306において、自着火の有無、すなわちHCCI燃焼の成立可否が判定され、成立する場合は時刻T3にて点火信号がキャンセルされる。時刻T5において、自着火または点火により燃焼が開始され、筒内圧が上昇し、ピークに到達する。すなわちECU20の制御部は圧縮工程で求めたガスの温度とEGR率とに応じて点火コイル17を使用した着火による燃焼と点火コイル17を使用しない自着火による燃焼とを切り替えるように制御する。
【0064】
このように、圧縮行程における点火前の筒内のガスの温度とEGR率とを求め、この求めたガスの温度とEGR率に基づいて、圧縮上死点での自着火有無を予測し、自着火可能な場合に点火信号をキャンセル、すなわちHCCI燃焼への移行を行うことで、過渡時の失火やノッキングを防止しつつ、スムースにHCCI燃焼と、コイル点火によるSI燃焼を切り替えることができ、過渡損失低減によりトータルの燃料消費量を低減させることができる。
【0065】
次に、
図15を用いて、本発明における、ガスの温度およびEGR率の同定方法を説明する。
図15は、本発明の第1から第4の実施例によるエンジンの制御装置における、ガス温度およびEGR率の計算プロセスを示すフローチャートである。
まず、各種センサにより、筒内の状態量を取得する。S1501では、筒内圧センサの値から筒内圧Pを取得する。S1502では、クランク角センサより現状のクランク角θを取得し、シリンダの形状情報から定まる筒内体積Vを取得する。S1503では、排気管に取り付けられた空燃比センサにより、空燃比CAFを取得する。S1504では、吸気エアフローセンサにより、吸気の質量mを取得する。
【0066】
次に、S1505において、圧縮行程を断熱圧縮と仮定して比熱比を算出する。圧縮開始時刻T1から、行程途中の時刻T2までの間に、筒内圧P1およびP2、筒内体積V1およびV2を得て、以下の式(1)により混合気体の比熱比実測値γ1を算出する。
【0067】
【数1】
【0068】
次に、S1506からS1508では、IVC時のガスの温度と、EGR率を仮定し、気体の状態方程式を用いて比熱比の計算値を算出する。
【0069】
S1506では、IVC時のガスの温度T1、およびガスのEGR率Y
EGRを仮の値に設定する。S1507では、事前に測定して記憶した値として、空気の比熱比γ
AIR(T)、気化燃料γ
FUEL(T)、理論空燃比で燃焼した際の排気ガスの比熱比γ
EGR(T)を、温度依存データとして取得する。するとS1508では、空気、燃料、排気ガスが混ざった混合気体の比熱比γ2は、S1503で取得した空燃比CAFを用いて、以下の式(2)で表すことができる。
【0070】
【数2】
【0071】
ここで、式(2)において、空気の質量割合γ
A、燃料の質量割合γ
Fは以下の式(3)、(4)で示されている。
【0072】
【数3】
【0073】
【数4】
【0074】
次に、S1504で取得した吸気質量mも用いて、IVC時における筒内ガスの状態方程式を式(5)に表す。
【0075】
【数5】
【0076】
ここで、式(5)において、筒内ガスの質量M
1、気体定数R
1はRuを一般気体定数として以下の式(6)、(7)で示されている。
【0077】
【数6】
【0078】
【数7】
【0079】
式(2)、(5)の中で、未知であるパラメータはIVC時のガスの温度T1、およびガスのEGR率
YEGRのみであり、2式を解くことで、未知パラメータを求めることができる。しかし、2つの式はそれぞれ非線形項を含むため、直接解くことが困難である。そこで、S1509において式(1)で求めた比熱比の実測値γ1と、式(2)、(5)で定まる比熱比の計算値γ2の残差計算し、S1510においてそれを最小化するよう収束計算を行い、未知数T1およびEGR率を同定する。収束計算においては、探索による計算負荷増大を抑制するために、ガスの温度T1とEGR率
YEGRの取りうる範囲をあらかじめ規定したうえで、前記の範囲内を複数、例えば30通りずつ仮定して、並列計算を行う。同定結果から、S1511でガス温度T1、S1512でEGR率
YEGRが得られる。
【0080】
IVC時の温度T1が定まることで、以下の式(8)により、圧縮上死点での温度を含む、圧縮中の任意の点におけるガスの温度を算出できる。
【0081】
【数8】
【0082】
本実施例によるエンジンの制御装置では、筒内圧履歴の変化に基づいて比熱比を同定する。ここでは、同定されるパラメータの定性的な傾向を述べる。ガスの温度が高いときは、空気、燃料、排気ガスの比熱比は温度上昇とともに低下し、筒内圧の上昇がなだらかになる。同様に、EGR率が高いときにも、比熱比が1.25前後と、常温空気の比熱比1.40前後と比べても小さい排気ガスの割合が増えるため、ガスの比熱比は低下し、筒内圧の上昇はなだらかになる。逆に、ガスの温度が低いとき、またはEGR率が高いときは、筒内圧の上昇は急になる。これらの筒内圧変化の特徴に基づいて、ガスの温度とEGR率を同定する。
【0083】
以上のようにECU20の制御部は、吸気バルブ21及び排気バルブ22の双方が閉じている状態における筒内のガスの筒内圧および筒内体積から、気体の比熱比を同定し、ガス温度とEGR率を仮定して計算した混合気の比熱比の残差を最小をとし、かつ混合気の状態方程式を満足する、ガス温度およびEGR率を同定することでガスの温度とEGR率とを求める。このように、比熱比の実測値と計算値の収束計算によりガスの温度とEGR率を同定することで、従来の吸気温度センサでは測定できなかった、IVC時の筒内ガスの温度を予測することができる。
【0084】
ここで、S1503で取得する空燃比や、S1504で取得する吸気質量も、一般的に吸気管6の上流で測定されるため、その値は気筒ごと、燃焼サイクルごとに変動する。そのため、空燃比CAFや吸気質量mについても仮定値を与えて、センサ値を参照値として探索範囲を設定し、未知数として同定しても良い。
【0085】
なお、探索による計算負荷増大を更に抑制するために、温度に対して非線形に変化する比熱比γ
AIR(T)、γ
FUEL(T)、γ
EGR(T)を区間ごとに直線として近似し、仮定した温度に対して直線の方程式を定めることで、(3)(4)を連立方程式として解析的に解くことができ、収束計算を不要としても良い。
【0086】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。