(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一回転体と、前記第一回転体が回転伝達可能に係合する第二回転体と、前記第一回転体を前記第二回転体に対して離間方向に付勢する付勢部材と、前記第一回転体および前記第二回転体に挿通されるスパイラルロッドと、前記第二回転体の回転に対する抵抗力を発生する抵抗体と、前記スパイラルロッドに取り付けられる係合体とを備え、
前記第二回転体は、前記スパイラルロッドの軸方向における前記第一回転体および前記係合体間に配置され、
前記スパイラルロッドは、その軸方向であって前記第一回転体を前記第二回転体に接近させる第一方向および前記第一回転体を前記第二回転体から離間する第二方向に移動可能に配置され、
前記第一回転体は、前記スパイラルロッドの軸方向であって前記係合体が前記第二回転体から離間する第一方向の移動によって回転可能に当該スパイラルロッドにねじ係合し、
前記第一回転体は、前記第一方向の移動速度に応じて、前記付勢部材の付勢力によって前記第二回転体から離間した非係合状態と、前記付勢部材の付勢力に抗して前記第二回転体に回転伝達可能に係合した係合状態とを切替える
ことを特徴とする制動装置。
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の制動装置と、前記制動装置のスパイラルロッドに連結されるとともに前記スパイラルロッドに軸方向の移動力を付与する付与装置とを備える
ことを特徴とする自動移動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の扉の制動装置では、スパイラルロッドが制動装置の本体よりも戸尻側に位置する扉の戸車ブラケットに固定されるため、扉の閉鎖移動中にスパイラルロッドが中空軸に押し付けられることとなり、当該スパイラルロッドに圧縮力が加わって座屈等を生じるおそれがある。
また、特許文献1に記載の扉の制動装置では、扉の閉鎖移動中に中空軸が回転し続けるため、扉の移動が低速で開口部枠に強く衝突しない場合などの制動が必要とされない場合にも制動し続けることとなり、扉を移動操作しづらくなるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、スパイラルロッドに圧縮力が加わることなく扉等の移動速度に応じて制動できる制動装置、自動移動装置および建具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の制動装置は、第一回転体と、前記第一回転体が回転伝達可能に係合する第二回転体と、前記第一回転体を前記第二回転体に対して離間方向に付勢する付勢部材と、前記第一回転体および前記第二回転体に挿通されるスパイラルロッドと、前記第二回転体の回転に対する抵抗力を発生する抵抗体と、前記スパイラルロッドに取り付けられる係合体とを備え、前記第二回転体は、前記スパイラルロッドの軸方向における前記第一回転体および前記係合体間に配置され、前記スパイラルロッドは、その軸方向であって前記第一回転体を前記第二回転体に接近させる第一方向および前記第一回転体を前記第二回転体から離間する第二方向に移動可能に配置され、前記第一回転体は、前記スパイラルロッドの軸方向であって前記係合体が前記第二回転体から離間する第一方向の移動によって回転可能に当該スパイラルロッドにねじ係合し、前記第一回転体は、前記第一方向の移動速度に応じて、前記付勢部材の付勢力によって前記第二回転体から離間した非係合状態と、前記付勢部材の付勢力に抗して前記第二回転体に回転伝達可能に係合した係合状態とを切替えることを特徴とする。
【0007】
本発明の制動装置によれば、第二回転体が第一回転体および係合体間に配置されるので、係合体に係合する被係合体から当該係合体に第一方向の移動力が加えられると、係合体が第二回転体から離間する方向にスパイラルロッドを引張ることとなり、これにより、スパイラルロッドが第一方向に移動して第一回転体が第二回転体に接近して係合状態にできる。この係合状態では第一回転体から第二回転体に回転伝達され、抵抗体に対する第二回転体の回転によって抵抗力が発生するが、第一方向に移動するスパイラルロッドが圧縮されて座屈などが生じるおそれはない。
また、前記被係合体から係合体に第二方向の移動力が加えられると、係合体が第二回転体に接近する方向に押されることとなるが、この場合には、第一回転体が第二回転体から離間して非係合状態にできるので、スパイラルロッドが第二方向に移動する際に過度な負荷がかかることがなく、スパイラルロッドに座屈などが生じるおそれを抑制できる。
さらに、本発明の制動装置によれば、例えば制動装置が枠体に取り付けられ、制動装置の係合体に係合される被係合体が閉鎖面材に取り付けられる場合、扉等の閉鎖面材が静止した状態では、第一回転体は付勢部材によって離間方向に付勢されて第二回転体から離間した非係合状態とされる。閉鎖面材の移動によって被係合体が係合体に係合し、スパイラルロッドが第一方向に移動する際、第一回転体は、スパイラルロッドの第一方向への所定速度以上の移動によって回転しつつ付勢部材の付勢力に抗して第二回転体に接近する。このように接近しても、第一回転体の第二回転体への接近力が付勢部材の付勢力を下回っている状態では、第一回転体が第二回転体と非係合状態にあるので、第一回転体から第二回転体に回転伝達されず、第二回転体の回転に対する抵抗体の抵抗力は発生しない。これにより、閉鎖面材に抵抗体の抵抗力が加わることなくスムーズに閉鎖面材を移動できる。
スパイラルロッドの第一方向への移動の速度上昇に応じて、スパイラルロッドと第一回転体との摩擦力が大きくなり、第一回転体の第二回転体へ接近する第一方向の移動力(接近力)が付勢部材の付勢力を上回り、第一回転体が第二回転体に接近して係合状態となった場合、第一回転体の回転は第二回転体に伝達される。これにより、第二回転体は回転して抵抗体に抵抗力を発生させ、閉鎖面材に抵抗体の抵抗力が加わり、閉鎖面材の移動を制動できる。
前述した作用効果は、例えば制動装置が閉鎖面材に取り付けられ、制動装置の係合体に係合される被係合体が枠体に取り付けられる場合でも同様に発揮できる。
なお、本発明において、閉鎖面材には、扉、戸、障子、シャッター、パーティション、ゲートなどが含まれる。
【0008】
本発明の制動装置では、前記第一回転体および前記第二回転体には、互いに係合する係合歯が形成されることが好ましい。
このような構成によれば、前述した係合歯によって噛み合って係合するため、第一回転体が第二回転体に係合するまでの回転量を前述した係合歯の配置角度に応じて設定できる。従って、例えば係合歯の歯数を増やして配置角度を小さく形成することで、第一回転体が第二回転体に係合するまでの回転量を少なくできる。
また、例えば係合歯の歯数を減らすことで、当該係合歯を大きく形成できて強度を向上できる。
【0009】
本発明の制動装置では、前記スパイラルロッドは、軸方向に沿って異なるねじピッチを有することが好ましい。
このような構成によれば、前述したねじピッチによってスパイラルロッドの軸方向の移動によって第一回転体に加わる移動力を調整できる。
【0010】
本発明の制動装置では、前記スパイラルロッドの一端側は他端側よりもねじピッチが大きく形成され、前記第一回転体は、前記スパイラルロッドの軸方向の移動によって当該スパイラルロッドの軸方向の移動によって当該スパイラルロッドの一端側から他端側へ相対的に移動することが好ましい。
このような構成によれば、閉鎖面材がさほど加速されていない移動開始時には閉鎖面材の移動を制動する必要性が低いが、第一回転体はスパイラルロッドの他端側よりもねじピッチが大きい一端側にねじ係合した状態であるため、スパイラルロッドの他端側に第一回転体がねじ係合した状態と比べ、スパイラルロッドの軸方向の移動によって第一回転体に加わる移動力を小さくできる。このため、閉鎖面材の移動開始から移動終期前まで閉鎖面材をスムーズに移動できる。
【0011】
本発明の自動移動装置は、前述した本発明の制動装置と、前記制動装置のスパイラルロッドに連結されるとともに前記スパイラルロッドに軸方向の移動力を付与する付与装置とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の自動移動装置によれば、前述した本発明の制動装置と同様の作用効果を発揮できる自動移動装置を構成できるうえ、建物の開口部側と閉鎖面材側とのうちの一方に係合体を取り付け、建物の開口部側と閉鎖面材側とのうちの他方に被係合体を取り付けることで、閉鎖面材の移動操作によって係合体を被係合体に係合した状態で、付与装置からスパイラルロッドに軸方向の移動力を付与することで閉鎖面材を自動移動できる。
さらに、スパイラルロッドの軸方向の移動によって第一回転体が第二回転体に係合した場合には、前述した本発明の制動装置と同様に閉鎖面材の移動を制動できる。
【0013】
本発明の建具は、建物の開口部に配置可能な閉鎖面材と、前述した本発明の制動装置とを備え、前記閉鎖面材側および前記開口部側のうちの一方には、前記制動装置の係合体が取り付けられ、前記閉鎖面材側および前記開口部側のうちの他方には、前記制動装置の被係合体が取り付けられることを特徴とする建具。
本発明の建具によれば、前述した本発明の制動装置と同様の作用効果を発揮可能に構成できる。
【0014】
本発明の建具は、建物の開口部に配置可能な閉鎖面材と、前述した本発明の自動移動装置とを備え、前記閉鎖面材側および前記開口部側のうちの一方には、前記制動装置の係合体が取り付けられ、前記閉鎖面材側および前記開口部側のうちの他方には、前記制動装置の被係合体が取り付けられることを特徴とする。
本発明の建具によれば、前述した本発明の自動移動装置と同様の作用効果を発揮可能に構成にできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、扉等の制動においてスパイラルロッドに圧縮力が加わることなく制動できる制動装置、自動移動装置および建具を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[本実施形態の構成]
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1において、本実施形態に係る建具としての玄関引戸などの引戸1は、建物の開口部に設けられて一方側である屋内空間と他方側である屋外空間とを仕切る出入り口を開閉するものであって、枠体10と、枠体10内に左右方向にスライド可能に配置される二つの戸体20A,20B(閉鎖面材)とを備える。
【0018】
枠体10は、上枠11、下枠12および左右の縦枠13によって枠組みされている。戸体20Aは、上框21A、下框22A、左右の縦框23Aおよびパネル24Aによって框組みされている。戸体20Bは、上框21B、下框22B、左右の縦框23Bおよびパネル24Bによって框組みされている。
【0019】
上枠11、下枠12にはレールが形成されており、上框21A,21B、下框22A,22Bには、前記レールに嵌合する溝形成部が形成されており、戸体20A,20Bは前記レールに沿ってスライド可能に枠体10内に配置されている。
上枠11には、断面コ字状のコ字枠4が固定されている。コ字枠4は、
図2に示すように、底片部4Aと、二つの側片部4Bとを有しており、
図1に示すように上枠11の戸先側寄りの位置に固定されている。
コ字枠4の底片部4Aおよび二つの側片部4Bによって形成される溝部には、制動装置50が設置されており、制動装置50の長手方向における両端側には押え部材6,7が設置されている。なお、上框21Aには、制動装置50の後述するキャッチャー43に係合するストライク44が取り付けられている。
なお、説明の便宜上、
図2(B)は、
図2(A)に示すコ字枠4の一方の側片部4Bを省略して示しており、
図2(C)は、一方の側片部4Bのほか、ガイド部材41、押えプレート58およびケース59を省略して示している。
【0020】
制動装置50は、戸体20Aを閉鎖方向(
図1において左方向)の移動を制動するダンパであり、
図2,3に示すように、第一回転体54と、第二回転体55と、付勢部材としてのコイルバネ56と、スパイラルロッド57と、押えプレート58と、抵抗体であるケース59と、スパイラルロッド57に軸方向Xの移動力を伝達する伝達装置40とを備えている。
【0021】
第一回転体54および第二回転体55は、スパイラルロッド57の軸方向Xにおいて互いに突き合わされて配置されており、コイルバネ56は第一回転体54および第二回転体55の突合せ部分に配置されており、ケース59は、第二回転体55の周囲に配置されている。第二回転体55およびケース59は、軸方向Xにおいて第一回転体54および伝達装置40間に配置されている。
図2(B)(C)に示すように、第一回転体54は第二回転体55およびケース59に対して右側に位置しており、伝達装置40は第二回転体55およびケース59に対して左側に位置している。押えプレート58は、
図2(A)に示すように第一回転体54およびケース59の下部を押えている。
スパイラルロッド57は、第一回転体54、第二回転体55、コイルバネ56およびケース59に挿通されている。スパイラルロッド57のねじピッチは等ピッチである。
【0022】
第一回転体54は、円筒状に形成されており、スパイラルロッド57にねじ係合しているとともに、第一回転体54の端部(第二回転体55に対する突合せ部)に形成された係合歯70(
図4参照)と、外周面に形成されたバネ受け部とを有している。第一回転体54は、スパイラルロッド57の軸方向Xにおいて受け部材60に回転可能に支持されている。
第一回転体54は、スパイラルロッド57が当該第一回転体54に対して軸方向Xに移動すると、スパイラルロッド57の軸心を中心として回転する。そして、スパイラルロッド57の軸方向Xに移動する移動速度が上昇すると、当該移動速度の上昇に応じてスパイラルロッド57と第一回転体54のねじ係合部(図示省略)との摩擦力が増大し、第一回転体54はコイルバネ56の弾性付勢力に抗して第二回転体55に向かって接近移動する。
【0023】
第一回転体54の係合歯70は、
図4に示すように、第二回転体55に向かって突出して直角三角形状に形成されており、第一回転体54の端面に円周方向(回転方向)に沿って間欠的に複数並んでいる。複数の係合歯70は等ピッチに配置されている。係合歯70は、第一噛合い歯面71と、第一非噛合い歯面72とを有している。第一噛合い歯面71は、スパイラルロッド57の軸方向Xに沿っているとともに、第一回転体54の端面に直交する平坦面である。第一非噛合い歯面72は、スパイラルロッド57の軸方向Xおよび第一回転体54の端面に対して傾斜している。第一噛合い歯面71および第一非噛合い歯面72が交わる第一歯先73は尖状に形成されている。
【0024】
例えば第一回転体54の端面(突合せ側の端面)の外径が約14mmの場合には、係合歯70の歯数は3〜12個で設定されてもよい。
ここで、係合歯70を多く設定した場合には、係合歯70同士の間隔が小さくなり、当該係合歯70が係合歯80と噛み合うのに必要とされる第一回転体54の回転量を少なくできる。また、係合歯70の歯数を少なく設定した場合には、係合歯70の円周方向幅を大きく形成でき、係合歯70の強度を向上できる。
【0025】
第二回転体55は、円筒状に形成されており、スパイラルロッド57がねじ係合せずに軸方向Xに移動自在に挿通されているとともに、第二回転体55の端部(第一回転体54に対する突合せ部)に形成された係合歯80(
図4参照)とを有している。第二回転体55は、スパイラルロッド57の軸心を中心として回転可能に配置されているとともに、軸方向Xにおいて受け部材52に支持されている。
【0026】
第二回転体55の係合歯80は、第一回転体54に向かって突出して直角三角形状に形成されており、第二回転体55の端面に円周方向(回転方向)に沿って間欠的に複数並んでいる。複数の係合歯80は等ピッチに配置されている。係合歯80は、
図4に示すように、第二噛合い歯面81と、第二非噛合い歯面82とを有している。第二噛合い歯面81は、スパイラルロッド57の軸方向Xに沿っているとともに、第二回転体55の端面に直交する平坦面である。第二非噛合い歯面82は、スパイラルロッド57の軸方向Xおよび第二回転体55の端面に対して傾斜している。第二噛合い歯面81および第二非噛合い歯面82が交わる第二歯先83は尖状に形成されている。
第二回転体55の係合歯80の歯たけは、第一回転体54の係合歯70の歯たけよりも長い。また、複数の係合歯70のピッチは、複数の係合歯80のピッチと等しくされている。従って、係合歯70,80の歯数は互いに等しい。
さらに、複数の係合歯80のうちの少なくとも一つの係合歯80の歯たけは、他の係合歯80の歯たけと異なっていてもよく、例えば係合歯80のうちの1本の歯たけだけが他の係合歯80の歯たけよりも高くされていてもよい。この場合には、係合歯70と歯先の衝突が起こりうるのは係合歯80のうち歯たけの高い1本のみになるので、より安定した噛合い動作を行い得る。
【0027】
例えば第二回転体55の端面(第一回転体54に対する突合せ側の端面)の外径が約14mmの場合には、係合歯80の歯数は3〜12個で設定されてもよい。
ここで、係合歯80を多く設定した場合には、係合歯80同士の間隔が小さくなり、当該係合歯80が係合歯70と噛み合うのに必要とされる第一回転体54の回転量を少なくできる。また、係合歯80の歯数を少なく設定した場合には、係合歯80の円周方向幅を大きく形成でき、係合歯80の強度を向上できる。
【0028】
なお、第一噛合い歯面71および第二噛合い歯面81は、スパイラルロッド57の軸方向Xに対して施工誤差の範囲で傾いていても、スパイラルロッド57の軸方向Xに沿って配置された範囲内とする。また、第一歯先73および第二歯先83は、加工誤差の範囲でR形状であっても前述した尖状の範囲内とする。
【0029】
第一歯先73および第二歯先83がそれぞれ尖状に形成されるので、
図4(A)に示すように非係合状態にある第一回転体54が第二回転体55に接近して係合する際、第一歯先73と第二歯先83とが衝突することを抑制でき、
図4(B)に示すように、第一噛合い歯面71と第二噛合い歯面81とをスムーズに噛み合わせることができる。
また、第一噛合い歯面71および第二噛合い歯面81がスパイラルロッド57の軸方向Xに沿って形成されるので、スパイラルロッド57を中心とする第一回転体54の回転を第二回転体55に回転伝達する際、第一噛合い歯面71および第二噛合い歯面81間に噛み合いが外れる方向の力(第一回転体54が第二回転体55から離間する方向の力)が生じることがない。このため、第一回転体54と第二回転体55との係合状態を維持できる。
さらに、第一回転体54と第二回転体55とが係合しても、第一回転体54の係合歯70の第一歯先73が第二回転体55の端面に当らないので、第一歯先73が潰れて変形することがない。このため、例えば第一歯先73が衝突によって変形した場合には第一回転体54が回転すると第一歯先73が周囲の構成に干渉する虞があるが、本実施形態では、前述したように第一歯先73が衝突によって変形することがないので、第一回転体54が回転しても第一歯先73が周囲の構成に干渉することがなく、第一回転体54の円滑な回転を維持できる。
【0030】
コイルバネ56は、
図3に示すように、第一回転体54のバネ受け部とケース59の端部との間に配置されており、係合歯70,80の周りに外装されている。このコイルバネ56は、第一回転体54を第二回転体55から軸方向Xに沿って離間するB方向(第二方向)に弾性付勢しており、第一回転体54と第二回転体55との離間状態を維持している。
第一回転体54、第二回転体55およびコイルバネ56によってクラッチ機構が構成されている。このクラッチ機構では、コイルバネ56によって第一回転体54と第二回転体55との離間状態が維持されている場合には、第一回転体54から第二回転体55に回転伝達されない非係合状態にあり、第一回転体54がコイルバネ56の弾性付勢力に抗して第二回転体55に接近し、係合歯70が係合歯80に係合した場合では、第一回転体54から第二回転体55に回転伝達される係合状態となる。この係合状態において第二回転体55がケース59に対して回転されることで、摩擦抵抗力を発生する。
【0031】
ケース59は、
図3に示すように、第二回転体55が配置される中空部を形成しているとともに、割溝591が形成されている。ケース59の内面は断面円形状である。ケース59のうち割溝591の両側部分には、内径調整用の調整ねじ592が取り付けられており、調整ねじ592の調整によってケース59の第二回転体55に対する接触圧を調整する。この接触圧の調整によって第二回転体55の回転によって発生するケース59との摩擦力を調整できる。
【0032】
伝達装置40は、
図2(B)(C)に示すように、ガイド部材41と、係合体としてのキャッチャー43とを備えている。キャッチャー43は、上框21Aの溝形成部に取り付けられる被係合体としてのストライク44と係合可能に構成されている。
【0033】
ガイド部材41は、コ字枠4に取り付けられており、キャッチャー43がスパイラルロッド57の軸方向Xに沿ってスライド案内可能に嵌合している。また、ガイド部材41は、後述する出没部材432のガイドピン432Aが配置されるガイド溝を形成するガイド溝形成部411を有している。ガイド溝形成部411は、軸方向Xに沿って延びて形成されているとともに、
図2(B)に示す右側の端部側が軸方向Xに対して上方に傾斜して形成されている。
【0034】
キャッチャー43は、キャッチャー本体431と、キャッチャー本体431に出没可能に取り付けられる出没部材432とを備えており、キャッチャー本体431には突部433が形成されている。突部433は、突出状態の出没部材432との間に軸方向Xの間隔を隔てて配置されており、この間隔は、突部433および出没部材432間にストライク44が係合可能な程度の間隔である。
キャッチャー本体431は、スパイラルロッド57のうち
図3において第二回転体55から左側に突き出た部分の端部に取り付けられている。キャッチャー本体431には、上下方向に沿った長孔431Aと、軸方向Xに沿ったガイドバー431Bとが形成されている。長孔431Aには、出没部材432のガイドピン432Aが挿通されており、出没部材432を上下方向にガイド可能に構成されている。ガイドバー431Bは、ガイド溝形成部411に形成されるガイド溝に配置されており、当該ガイド溝に沿って軸方向Xにガイドされる構成とされている。
【0035】
キャッチャー43の出没部材432は、キャッチャー43の軸方向Xの移動において上下方向に出没可能であり、ガイドピン432Aが
図2(B)に示すガイド溝形成部411の上方に傾斜した右側の端部に位置するときは、キャッチャー本体431に没入し、ガイドピン432Aがガイド溝形成部411の前記右側の端部よりもさらに右側に位置するときは、キャッチャー本体431から突出する。
【0036】
[本実施形態の動作]
以下、本実施形態に係る引戸1の閉鎖動作および開放動作について説明する。
[閉鎖動作]
先ず、引戸1の閉鎖動作について説明する。なお、説明の便宜上、
図5において一方の側片部4Bは図示省略している。
図5(A)に示すように、キャッチャー43およびストライク44が非当接状態では、キャッチャー43はガイド部材41に対して戸尻側に位置し、キャッチャー43の突部433はキャッチャー本体431内に没入している。
【0037】
戸体20Aを手動操作して戸先側の縦枠13に向かって左側に閉鎖移動すると、ストライク44がキャッチャー43に接近して突部433に当接する。続いて、戸体20Aの閉鎖移動により、キャッチャー43が軸方向Xに沿って戸先側に向かうA方向に移動するとともに、ガイドピン432Aがガイド溝形成部411にガイドされ、出没部材432がキャッチャー本体431から下方に突出し、
図5(B)に示すように、ストライク44に当接する。これにより、キャッチャー43は、突部433および出没部材432によってストライク44を挟んだ係合状態となる。また、スパイラルロッド57の
図5における左側の端部がキャッチャー43に引張られることで、A方向に移動する。
【0038】
前述した戸体20Aの閉鎖移動においては、制動装置50は次のように動作する。
戸体20Aの閉鎖移動により、スパイラルロッド57が、例えば200〜300mm/Sを下回る移動速度でA方向に移動すると、スパイラルロッド57にねじ係合している第一回転体54が回転する。このとき、第一回転体54には、第二回転体55に向かうA方向の移動力も加えられるが、コイルバネ56によって第一回転体54が第二回転体55から離間した非係合状態(
図4(A)参照)が維持され、第一回転体54から第二回転体55に回転伝達されず、第二回転体55はケース59に対して回転しない。従って、第二回転体55およびケース59間に摩擦抵抗力は発生せず、戸体20Aはスムーズに閉鎖移動する。
【0039】
次に、戸体20Aの移動速度が、例えば200〜300mm/S以上にまで上昇すると、第一回転体54が第二回転体55に接近する軸方向Xの移動力が大きくなり、第一回転体54はコイルバネ56の弾性付勢力に抗して第二回転体55に接近して回転伝達可能に係合した係合状態(
図4(B)参照)となり、第一回転体54から第二回転体55に回転伝達され、第二回転体55がケース59に対して回転する。従って、第二回転体55およびケース59間に摩擦抵抗力が発生してスパイラルロッド57に加わり、戸体20Aの閉鎖移動は制動され、戸体20Aの閉鎖方向の移動は減速される。
【0040】
図5(C)に示すように、戸体20Aが戸先側の縦枠13に当接すると、戸体20Aの閉鎖移動は停止し、これとともにスパイラルロッド57のA方向の移動も停止する。このとき、第一回転体54はコイルバネ56の弾性付勢力によって第二回転体55から離間するので、第二回転体55との係合が解除される。
このように、制動装置50は、戸体20Aの閉鎖移動において当該移動速度に応じて制動動作を行う。
【0041】
なお、戸体20Aの閉鎖移動中に移動速度が低下し、第一回転体54が第二回転体55に接近する移動力がコイルバネ56の弾性付勢力を下回る場合には、第一回転体54はコイルバネ56によって第二回転体55から離間して係合が解除されるので、戸体20Aの閉鎖移動に対する制動力がなくなり、小さな力で閉鎖移動操作できる。
【0042】
[開放動作]
以下、引戸1の開放動作について説明する。
戸体20Aが操作により
図5(C)に示す位置(閉鎖位置)から戸尻側に向かって開放移動されると、ストライク44に係合しているキャッチャー43は、スパイラルロッド57を軸方向Xに沿って戸尻側に向かって押しながらB方向に移動する。
ここで、スパイラルロッド57がキャッチャー43に押されても、第一回転体54には第二回転体55から離間するB方向の移動力が加えられるだけなので、第二回転体55およびケース59間に摩擦抵抗力が発生することはなく、スパイラルロッド57を軽い力でB方向に移動でき、戸体20Aをスムーズに開放移動できる。
続いて、戸体20Aの開放移動により、ガイドピン432Aがガイド溝形成部411の
図2(B)に示す上方に傾斜した右側の端部にガイドされてキャッチャー43の出没部材432がキャッチャー本体431内に没入し、
図5(A)に示すように、キャッチャー43とストライク44との係合が解除され、戸体20Aは図示しない全開位置まで開放移動する。
【0043】
[本実施形態の効果]
(1)本実施形態では、制動装置50は、第一回転体54と、第一回転体54が回転伝達可能に係合する第二回転体55と、第一回転体54を第二回転体55に対して離間するB方向に付勢するコイルバネ56と、第一回転体54および第二回転体55に挿通されるスパイラルロッド57と、第二回転体55の回転に対する抵抗力を発生するケース59と、スパイラルロッド57に取り付けられるキャッチャー43とを備え、第二回転体55は、スパイラルロッド57の軸方向Xにおける第一回転体54およびキャッチャー43間に配置され、スパイラルロッド57は、その軸方向Xであって第一回転体54を第二回転体55に接近させるA方向および第一回転体54を第二回転体55から離間するB方向に移動可能に配置され、第一回転体54は、スパイラルロッド57の軸方向Xであってキャッチャー43が第二回転体55から離間するA方向の移動によって回転可能に当該スパイラルロッド57にねじ係合し、第一回転体54は、A方向の移動速度に応じて、コイルバネ56の付勢力によって第二回転体55から離間した非係合状態と、コイルバネ56の付勢力に抗して第二回転体55に回転伝達可能に係合した係合状態とを切替えることを特徴とする。
上記構成を有するため、第二回転体55が第一回転体54およびキャッチャー43間に配置されるので、キャッチャー43に係合するストライク44から当該キャッチャー43にA方向の移動力が加えられると、キャッチャー43が第二回転体55から離間するB方向にスパイラルロッド57を引張ることとなり、これにより、スパイラルロッド57がA方向に移動して第一回転体54が第二回転体55に接近して係合状態にできる。この係合状態では第一回転体54から第二回転体55に回転伝達され、ケース59に対する第二回転体55の回転によって抵抗力が発生するが、A方向に移動するスパイラルロッド57が圧縮されて座屈などが生じるおそれはない。
また、ストライク44からキャッチャー43にB方向の移動力が加えられると、キャッチャー43が第二回転体55に接近する方向に押されることとなるが、この場合には、第一回転体54が第二回転体55から離間して非係合状態にできるので、スパイラルロッド57がB方向に移動する際に過度な負荷がかかることがなく、スパイラルロッド57に座屈などが生じるおそれを抑制できる。
さらに、例えば制動装置50が枠体10に取り付けられ、制動装置50のキャッチャー43に係合されるストライク44が戸体20Aに取り付けられる場合、戸体20Aが静止した状態では、第一回転体54はコイルバネ56によってB方向に付勢されて第二回転体55から離間した非係合状態とされる。戸体20Aの移動によってストライク44がキャッチャー43に係合し、スパイラルロッド57がA方向に移動する際、第一回転体54は、スパイラルロッド57のA方向への所定速度以上の移動によって回転しつつコイルバネ56の付勢力に抗して第二回転体55に接近する。このように接近しても、第一回転体54の第二回転体55への接近力がコイルバネ56の付勢力を下回っている状態では、第一回転体54が第二回転体55と非係合状態にあるので、第一回転体54から第二回転体55に回転伝達されず、第二回転体55の回転に対するケース59の抵抗力は発生しない。これにより、戸体20Aにケース59の抵抗力が加わることなくスムーズに戸体20Aを移動できる。
スパイラルロッド57のA方向への移動速度の上昇に応じて、スパイラルロッド57と第一回転体54との摩擦力が大きくなり、第一回転体54の第二回転体55へ接近するA方向の移動力(接近力)がコイルバネ56の付勢力を上回り、第一回転体54が第二回転体55に接近して係合状態となった場合、第一回転体54の回転は第二回転体55に伝達される。これにより、第二回転体55は回転してケース59に抵抗力を発生させ、戸体20Aにケース59の抵抗力が加わり、戸体20Aの移動を制動できる。
さらに、本実施形態では、以下の各効果を発揮できる。
(2)前記実施形態では、第一回転体54および第二回転体55には、互いに係合する係合歯70,80が形成される。このため、係合歯70,80によって噛み合って係合するため、第一回転体54が第二回転体55に係合するまでの回転量を係合歯70,80の配置角度に応じて設定できる。従って、例えば係合歯70,80の歯数を増やして配置角度を小さく形成することで、第一回転体54が第二回転体55に係合するまでの回転量を少なくできる。
また、例えば係合歯70,80の歯数を減らすことで、当該係合歯70,80を大きく形成できて強度を向上できる。
(3)前記実施形態では、スパイラルロッド57を戸先側に向かってA方向に引張ることによって制動力を発生させるため、キャッチャー43、スパイラルロッド57、第一回転体54、第二回転体55の位置がスパイラルロッド57の軸心に沿って自律的に定まる。これにより、各部品の寸法精度や組立精度の影響を受け難く、制動装置50の動作のさらなる安定化を図れる。
(4)前記実施形態では、第二回転体55およびケース59間の摩擦抵抗力に基づいて戸体20Aに制動力を与えるため、例えばダンピンググリース等の粘性流体の粘性抵抗力に基づいて戸体20Aに制動力を与える場合と比べて温度変化等の影響を受け難く、制動装置50による制動を安定させることができる。
【0044】
[変形例]
本発明は、以上の実施形態で説明した構成のものに限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形例は、本発明に含まれる。
例えば、前記実施形態では、制動装置50が上枠11に取り付けられ、ストライク44が上框21Aに取り付けられているが、これに限られず、制動装置50が下枠12に取り付けられ、ストライク44が下框22Aに取り付けられてもよい。また、制動装置50が上框21Aに取り付けられ、かつ、ストライクが上枠11に取り付けられていてもよく、制動装置50が下框22Aに取り付けられ、ストライク44が下枠12に取り付けられていてもよい。この場合には、制動装置50を左右逆向きに配置し、ストライク44をキャッチャー43に対応した位置に配置することで、戸体20Aの閉鎖方向の移動を制動可能な構成となる。
【0045】
前記実施形態では、係合歯70,80の歯数は互いに等しくされているが、これに限られず、係合歯70,80のいずれか一方が他方の整数倍の歯数とされてもよく、例えば、第一回転体54の係合歯70の歯数が、第二回転体55の係合歯80の歯数の整数倍とされてもよい。
また、第一非噛合い歯面72および第二非噛合い歯面82は平坦面状に形成されているが、凸状または凹状の湾曲形状に形成されていてもよい。
さらに、第一回転体54の外径は第二回転体55の外径よりも若干小さく形成されていてもよい。
【0046】
前記実施形態では、制動装置50の第一回転体54および第二回転体55には、互いに係合する直角三角形状の係合歯70,80が形成されているが、これに限られず、互いに係合可能な形状であればよく、例えば矩形形状であってもよい。
また、第一回転体54および第二回転体55は、係合歯70,80に代えて、互いに回転伝達可能に摩擦接触する摩擦部を有していてもよい。
【0047】
前記実施形態では、スパイラルロッド57のねじピッチは等ピッチであるが、これに限られず、スパイラルロッド57の軸方向Xに沿ってねじピッチを異ならせてもよい。このように構成することで、スパイラルロッド57の軸方向Xの移動によって第一回転体54に加わる移動力を調整できる。
このねじピッチは、戸体20Aの閉鎖移動に対する制動タイミング、制動力を考慮して設定してもよい。例えば、スパイラルロッド57の戸尻側寄りのねじピッチを戸先側寄りのねじピッチよりも大きくしてもよく、この場合には、第一回転体54は、スパイラルロッド57の戸尻側寄りにねじ係合した状態よりも、戸先側寄りにねじ係合した状態で第二回転体55に係合しやすくなり、また、スパイラルロッド57の軸方向Xの移動に対する回転量も増加する。このため、戸体20Aの移動開始期にはスムーズに閉鎖移動でき、移動終期には当該閉鎖移動を制動できる。
【0048】
前記実施形態では、制動装置50は、第一回転体54をコイルバネ56によって第二回転体55から離間方向に弾性付勢しているが、これに限られず、例えば、ゴム等の弾性体やスプリングワッシャによって弾性付勢してもよく、また、磁石によって付勢してもよい。
【0049】
前記実施形態では、引戸1に制動装置50を取り付けているが、この制動装置50に代えて、例えば
図6に示すクローザー3(自動移動装置)を取り付けてもよい。
クローザー3は、戸体20Aを自動的に閉鎖移動するものであり、前述した制動装置50の構成に加え、スパイラルロッド57のうち
図6において第一回転体54から右側に突き出た部分に連結されている付与装置30を備えている。
【0050】
付与装置30は、筒体31と、筒体31内に配置されるねじりバネ(図示省略)とを備え、ねじりバネの一端はスパイラルロッド57にねじ係合する回転部材に固定され、ねじりバネの他端は筒体31に固定されている。
この付与装置30は、ねじりバネの回転方向の弾性力を軸方向Xの移動力としてスパイラルロッド57に伝達し、スパイラルロッド57に戸体20Aを閉鎖移動させる軸方向Xの移動力を付与する。
【0051】
このように、引戸1にクローザー3を取り付けることで、戸体20Aの移動操作によってキャッチャー43にストライク44を係合させた状態で、付与装置30からスパイラルロッド57に軸方向Xの移動力を付与でき、戸体20Aを閉鎖方向に自動移動できる。
さらに、スパイラルロッド57の軸方向Xの移動によって第一回転体54が第二回転体55に係合した場合には、前述同様に戸体20Aの閉鎖移動を制動できる。
【0052】
なお、付与装置30は、
図6において第一回転体54よりも右側に配置されているが、これに限られず、第二回転体55およびケース59と伝達装置40との間に配置されていてもよい。
また、前述したクローザー3の構成を左右逆向きに配置し、戸体20Aを自動的に開放移動する自動開放装置としてもよい。
【0053】
前記実施形態では、引戸1を、本実施形態のクローザー3が取り付けられる建具として説明したが、これのほか、折り戸、上げ下げ窓、パーティション、スライド門扉、シャッター、ゲートなどであってもよい。