(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る荷電粒子線治療装置、及びリッジフィルタについて説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る荷電粒子線治療装置を設置した建屋50の断面図である。
図2は、本発明の実施形態に係る荷電粒子線治療装置の照射部付近の構成を示す斜視図である。
図3は、本発明の実施形態に係る荷電粒子線治療装置の概略構成図である。
図3に示すように、荷電粒子線治療装置1は、患者15の体内の腫瘍(被照射体)14に対し、荷電粒子線Rを照射するものである。荷電粒子線Rとは、電荷をもった粒子を高速に加速したものであり、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線、電子線等が挙げられる。
【0015】
なお、以下の説明においては、「X軸方向」、「Y軸方向」、「Z軸方向」という語を用いて説明する。「Z軸方向」とは、照射部8(詳細は後述する)内において荷電粒子線Rの基軸AXが延びる方向である。なお、「基軸AX」とは、後述の走査電磁石3a,3bで偏向しなかった場合の荷電粒子線Rの照射軸とする。
図3では、基軸AXに沿って荷電粒子線Rが照射されている様子を示している。なお、以下の説明では、基軸AXに沿って荷電粒子線Rが照射される方向を「荷電粒子線Rの照射方向」であるものとする。「X軸方向」とは、Z軸方向と直交する平面内における一の方向である。「Y軸方向」とは、Z軸方向と直交する平面内においてX軸方向と直交する方向である。
【0016】
図1及び
図3に示すように、荷電粒子線治療装置1は、加速器2と、照射部(照射ノズル)8を備える回転ガントリー3と、輸送ライン40と、制御装置7と、を備えている。
図1に示すように、荷電粒子線治療装置1は、建屋50の中に設置されている。
図1に示す例では、建屋50は複数階(ここでは2階)の建物であり、加速器2及び回転ガントリー3は、それぞれの階層の部屋に設置されている。輸送ライン40は、建屋50の各階層にわたって設けられており、加速器2と回転ガントリー3の照射部8(
図2参照)を接続している。回転ガントリー3は、患者15が載置される治療台4のまわりを回転又は揺動可能である。照射部8による荷電粒子線の照射方向は、回転ガントリー3の回転によって変更可能である。なお、加速器2及び回転ガントリー3は、それぞれ異なる階層に設置されるのではなく、同じ階層に設置されてもよい。また、照射部8は、回転ガントリー3に取り付けられずに、室内で固定された状態(いわゆる固定照射方式)としてもよい。
【0017】
加速器2は、荷電粒子を加速して、荷電粒子線Rを出射する。加速器2として、例えば、サイクロトロン、シンクロトロン、サイクロシンクロトロン、ライナック等が挙げられる。加速器2で発生した荷電粒子線Rは、輸送ライン40によって照射部8へ輸送される。この加速器2は、制御装置7に接続されており、制御装置7によってその動作が制御される。
【0018】
輸送ライン40は、加速器2から出射された荷電粒子線Rを照射部8へ輸送するラインである。輸送ライン40には、内部が真空状態又は不活性ガスで満たされた状態のダクトや、ダクト内を通過する荷電粒子線Rの進行方向を変化させるための磁場を生成する偏向電磁石等が設けられている。
【0019】
照射部8は、回転ガントリー3内において治療台4上に載置された患者15に対して荷電粒子線Rを照射する。照射部8は、走査電磁石3a,3bと、モニタ4a,4bと、散乱体5と、リッジフィルタ22と、ディグレーダ30と、マルチリーフコリメータ24と、ボーラス26と、患者コリメータ27と、を備える。なお、照射部8内の各部品は荷電粒子線Rの照射方式に応じて適宜省略するか、荷電粒子線Rの照射が妨げられない位置へ退避してもよい。また、ディグレーダ30及び患者コリメータ27は省略してもよい。
【0020】
走査電磁石3a,3bは、それぞれ一対の電磁石から構成され、制御装置7から供給される電流に応じて一対の電磁石間の磁場を変化させ、当該電磁石間を通過する荷電粒子線Rを走査する。X軸方向走査電磁石3aは、X軸方向に荷電粒子線Rを走査し、Y軸方向走査電磁石3bは、Y軸方向に荷電粒子線Rを走査する。これらの走査電磁石3a,3bは、基軸AX上であって、加速器2の下流側にこの順で配置されている。走査電磁石3a,3bは、荷電粒子線Rが予め定めた軌道(例えば、円軌道やジグザグ軌道等)となるように荷電粒子線Rを走査する。
【0021】
モニタ4aは、荷電粒子線Rのビーム位置を監視し、モニタ4bは、荷電粒子線Rの線量の絶対値と荷電粒子線Rの線量分布とを監視する。各モニタ4a,4bは、監視した監視情報を制御装置7に出力する。モニタ4aは、荷電粒子線Rの基軸AX上であって、加速器2の下流側でX軸方向走査電磁石3aの上流側に配置されている。モニタ4bは、基軸AX上であってディグレーダ30の下流側に配置されている。ただし、各モニタ4a,4bの位置は特に限定されない。
【0022】
散乱体5は、通過する荷電粒子線Rを、照射軸と直交する方向に広がりを持つ幅広のビームに拡散する。この散乱体5は、板状を呈し、例えば厚さ数mmのタングステンで形成されている。散乱体5は、基軸AX上において、走査電磁石3bの下流側でモニタ4bの上流側に配置されている。
【0023】
リッジフィルタ22は、荷電粒子線Rの線量分布を調整するものである。具体的には、リッジフィルタ22は、患者15の体内の腫瘍14の厚さ(照射方向の長さ)に対応するように、荷電粒子線Rに拡大ブラッグピーク(SOBP)を与える。これにより、荷電粒子線Rのブラッグピークが厚さ方向(ここではZ軸方向)に一様に広がる。リッジフィルタ22は、基軸AX上において散乱体5の下流側でモニタ4bの上流側に配置されている。なお、リッジフィルタ22の詳細な説明は、後述する。
【0024】
ディグレーダ30は、基軸AX上においてリッジフィルタ22とモニタ4bとの間に配置されている。ディグレーダ30は、通過する荷電粒子線Rのエネルギーを低下させて当該荷電粒子線Rの飛程を調整する。なお、飛程の調整は、加速器2の直後に設けられたディグレーダ(不図示)によって荒調整が行われ、照射部8内のディグレーダ30で微調整が行われてもよい。ディグレーダ30は、基軸AX上であって、走査電磁石3a,3b、散乱体5、及びリッジフィルタ22よりも荷電粒子線Rの下流側に設けられ、患者15の体内における荷電粒子線Rの最大到達深さを調整する。ただし、ディグレーダ30の位置は特に限定されない。ディグレーダ30は、X軸方向及びY軸方向に拡がる板状の部材である。
【0025】
マルチリーフコリメータ(Multi Leaf Collimator:以下、「MLC」という)24は、照射方向と垂直な平面方向における荷電粒子線Rの形状(平面形状)を整形するものであり、複数の櫛歯を含む遮線部24a,24bを有している。遮線部24a,24bは、互いに突き合わせるように配置されており、これらの遮線部24a,24b間には、開口部24cが形成されている。このMLC24は、開口部24cに荷電粒子線Rを通過させることで、開口部24cの形状に対応する輪郭に荷電粒子線Rを切り取る。
【0026】
また、MLC24は、Z軸方向と直交する方向に遮線部24a,24bを進退させることで、開口部24cの位置及び形状を変化することが可能となっている。さらに、MLC24は、リニアガイド28で照射方向に沿って案内されており、Z軸方向に沿って移動可能になっている。このMLC24は、モニタ4bの下流側に配置されている。
【0027】
ボーラス26は、荷電粒子線Rの最大到達深さの部分の立体形状を、腫瘍14の最大深さ部分の形状に合わせて整形する。このボーラス26の形状は、例えば、腫瘍14の輪郭線と、X線CTのデータから求められる周辺組織の電子密度とに基づいて算出される。ボーラス26は、基軸AX上においてMLC24の下流側に配置されている。患者コリメータ27は、荷電粒子線Rの平面形状を腫瘍14の平面形状に合わせて最終的に整形するものである。この患者コリメータ27は、基軸AX上においてボーラス26の下流側に配置されており、MLC24の代わりとして用いられてもよいし、MLC24と患者コリメータ27の双方を用いてもよい。ボーラス26及び患者コリメータ27は、照射部8の先端部8aに設けられている。
【0028】
制御装置7は、例えばCPU、ROM、及びRAM等により構成されている。この制御装置7は、モニタ4a,4bから出力された監視情報に基づいて、加速器2、走査電磁石3a,3b、散乱体5、リッジフィルタ22、ディグレーダ30、及びMLC24のそれぞれの動作を必要に応じて制御する。
【0029】
図3に示す荷電粒子線治療装置1により、ワブラー法(ブロードビーム法)によって荷電粒子線Rの照射を行う場合、腫瘍14の形状に合わせてMLC24の遮線部24a,24bが進退されて開口部24cが所定形状とされる。また、治療が行われる患者15用のボーラス26及び患者コリメータ27が照射部8に取り付けられる。
【0030】
続いて、加速器2から荷電粒子線Rを出射する。出射された荷電粒子線Rは、走査電磁石3a,3bによって所定の軌道を描くように走査されて散乱体5によって拡散された後、リッジフィルタ22、ディグレーダ23、MLC24、ボーラス26及び患者コリメータ27によって整形及び調整される。これにより、腫瘍14の形状に沿った一様照射範囲でもって腫瘍14に荷電粒子線Rが照射されることとなる。
【0031】
なお、
図3では、ワブラー法による荷電粒子線治療装置1を例示したが、必要な構成要素のセット・退避を切り替えることで、ワブラー法と他の照射方法(例えば、積層原体法)とを切替可能な構成としてもよい。また、本実施形態に係るリッジフィルタ22は、拡大ブラッグピークを生成する場合であれば照射方式に関わらず用いることができるため、積層原体法による照射の際に用いてもよい。積層原体法による照射を行う場合には、生成される拡大ブラッグピークがワブラー法(ブロードビーム法)時の拡大ブラッグピークよりも小さくなるような薄いリッジフィルタ22が用いられる。
【0032】
次に、リッジフィルタ22の構成の詳細について、
図4〜
図6を用いて説明する。
図4は、リッジフィルタを荷電粒子線の照射方向における上流側から下流側へ向かって見た図である。
図5(a)は、リッジフィルタの拡大図である。
図5(b)はリッジフィルタを構成する減衰部材の拡大図である。
図6(a)は、
図5(a)中に示すVIa−VIa線に沿った断面図である。
図6(b)は、
図5(a)中に示すVIb−VIb線に沿った断面図である。なお、本実施形態では、XY平面方向が、請求項における「交差方向」に該当し、X軸方向が「第1の方向」に該当し、Y軸方向が「第2の方向」に該当するものとして説明する。ただし、XY平面方向におけるいずれの位置が「第1の方向」及び「第2の方向」に該当してもよい。
【0033】
図4に示すように、リッジフィルタ22は、全体として矩形板状の形状を有しており、矩形板状に構成されている本体部11と、本体部11を全周に亘って取り囲む矩形環状の枠体12と、を備えている。枠体12は、本体部11の四辺に沿ってそれぞれ延びると共に、本体部11の四方の角部において互いに連結されている。後述のように、本体部11は複数の貫通部16を有する部材であるが、枠体12が本体部11の四方を支持することで、リッジフィルタ22の強度を確保することができる。リッジフィルタ22の材料として、例えば、アルミニウム、樹脂等を用いてよい。なお、本体部11の材料及び枠体12の材料は同一であってもよく、異なる材料であってもよい。なお、リッジフィルタ22の材料として樹脂を採用する場合、光造形装置を用いてリッジフィルタ22の三次元構造を形成することができる。
【0034】
図5(a)に示すように、リッジフィルタ22の本体部11は、入射した荷電粒子線Rのエネルギーを低減させる減衰部材13を複数備えている。減衰部材13は、荷電粒子線Rの照射方向(基軸AXが延びる方向)と交差するXY平面上に並べられている。減衰部材13は、荷電粒子線Rの照射方向に沿って断面積が変化する部材である。本実施形態では、
図5(b)に示すように、減衰部材13は、錐形状であって、底面が略正方形(正方向の四隅が面取りされた八角形)である四角錐を基本形状としている。従って、減衰部材13は、照射方向に上流側から下流側(Z軸正方向)へ向かって、断面積が増加する。なお、
図5(b)は、本体部11における複数の減衰部材13の一つ当たりの形状を示す斜視図である。後述のように、減衰部材13は、他の減衰部材13との接合面として、底面13aと、隣り合う二つの斜面13bとが、角部にて平面状に切り欠かれた側面13cを有している。側面13cは三角形状を有している。ただし、ここでは説明の便宜上、側面13cを定義しているが、実際のリッジフィルタ22は、各減衰部材13は、互いに一体的に接合されているため、側面13c同士の境界面は消滅した状態にある。
【0035】
図5(a)に示すように、本実施形態では、減衰部材13の底面13aの一方の対角線がY軸方向と平行となり、他方の対角線がX軸方向と平行となるように配置される。当該状態で、減衰部材13は、Y軸方向に複数並べられると共に、X軸方向に複数並べられている。すなわち、減衰部材13は、少なくとも2つの方向に沿って、二次元的に配置されている。減衰部材13は、X軸方向における両端側に側面13cを有し、Y軸方向における両端側に側面13cを有している。従って、X軸方向に互いに隣り合う減衰部材13は、側面13c同士で互いに接合されている。Y軸方向に互いに隣り合う減衰部材13は、側面13c同士で互いに接合されている。また、照射方向における上流側から下流側を見たときに、各減衰部材13の斜辺13dは、互いに連結されて、Y軸方向に真っ直ぐに延びる直線及びX軸方向に真っ直ぐに延びる直線を形成するように、並べられる。
【0036】
このような構成により、減衰部材13は、XY平面方向から見た場合における側面13cが、他の減衰部材13の側面13cと接合されている。本実施形態では、
図6(a)に示すように、減衰部材13では、Y軸方向から見た場合における側面13cが、他の減衰部材13の側面13cと接合されている。また、照射方向における上流側(Z軸方向負側)では、各減衰部材13の斜辺13dが組み合わせられることによって、二等辺三角形状の突出部が複数並べられた構成(あるいは、V字状の溝部が複数並べられた構成)となる。また、照射方向における下流側(Z軸方向正側)では、各減衰部材13の底面13aが組み合わせられることによって、X軸方向へ真っ直ぐに広がる平面が構成される。同様に、減衰部材13は、X軸方向から見た場合における側面13cが、他の減衰部材13の側面13cと接合されている。X軸方向から見た場合における断面形状は、
図6(a)に示すようなY軸方向から見た場合における断面形状と同趣旨の構成を有する。
【0037】
図5(a)に示すように、リッジフィルタ22の本体部11のうち、照射方向から見た場合における減衰部材13と異なる位置には、照射方向に貫通する貫通部16が形成されている。減衰部材13と異なる位置とは、本体部11のうち、減衰部材13が配置されている領域を除く領域である。すなわち、本体部11のうち、減衰部材13が配置されてない領域が、「減衰部材13と異なる位置」に該当する。本実施形態では、各減衰部材13の底面13aのそれぞれの縁部13eで囲まれる部分に、正方形状の貫通部16が形成される。この貫通部16は、対角線がY軸方向と平行をなし、X軸方向と平行をなすように形成される。また、貫通部16は、Y軸方向に沿って所定のピッチで複数並べられ、X軸方向に沿って所定のピッチで複数並べられる。
【0038】
減衰部材13は、XY平面方向から見た場合における縁部13eが、他の減衰部材13の縁部13eと貫通部16を介して離間している。本実施形態では、
図6(b)に示すように、減衰部材13は、X軸方向正側へ向かってY軸方向負側へ45°傾斜した方向から見た場合における縁部13eが、他の減衰部材13の縁部13eと貫通部16を介して離間している。照射方向における上流側(Z軸方向負側)では、各減衰部材13の斜面13bが組み合わせられることによって、二等辺三角形状の突出部が複数並べられた構成となる。また、照射方向における下流側(Z軸方向正側)では、各減衰部材13の底面13aが貫通部16で分断されながら、X軸方向へ真っ直ぐに広がる平面が構成される。同様に、減衰部材13は、X軸方向から見た場合における側面13cが、他の減衰部材13の側面13cと接合されている。X軸方向正側へ向かってY軸方向正側へ45°傾斜した方向から見た場合における断面形状は、
図6(b)に示すような断面形状と同趣旨の構成を有する。
【0039】
上述のような減衰部材13及び貫通部16は、本体部11全域において、同一の形状及び同一の配列にて並べられる。また、減衰部材13及び貫通部16によるパターン構造は、Y軸に対して対称性を有すると共に、X軸に対して対称性を有している。従って、照射方向から見て、本体部11の各領域において、減衰部材13が占める面積と貫通部16が占める面積との間の比率は、略一定となる。具体的には、
図4に示すように、本体部11に対して所定の単位面積SEを設定する。当該単位面積SEを本体部11内でどのように移動させた場合であっても、単位面積SE内において、減衰部材13が占める面積と貫通部16が占める面積との間の比率は、略一定であってよい。このように減衰部材13が占める面積と貫通部16が占める面積との間の比率を略一定とした状態で、錐形状を所定のパターンでY軸方向及びX軸方向に互いに連結することで、本体部11の強度を確保している。ここで、本体部11は、自重によって本体部11が撓むこと無く、平板状の姿勢を維持できる程度の強度を維持していることが好ましい。
【0040】
次に、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1及びリッジフィルタ22の作用・効果について説明する。
【0041】
まず、
図7を参照して、比較例に係るリッジフィルタ100について説明する。比較例に係るリッジフィルタ100は、同一断面形状でX軸方向へ複数配列される減衰部材111と、複数の減衰部材111全体を支持する支持部材112と、を備える。減衰部材111は、荷電粒子線Rの照射方向における上流側へ向かって突出する三角形状の断面形状を有しており、当該断面形状にてY軸方向へ沿って延びている。また、
図7(b)に示すように、互いに隣り合う減衰部材111同士の間には、隙間113が形成されるが、当該隙間113に対応する部分においても、支持部材112が広がっている。従って、リッジフィルタ100に入射した荷電粒子線Rは、減衰部材111を通過しない箇所においても支持部材112を通過することになるため、当該支持部材112にて荷電粒子線Rが散乱する場合がある。
【0042】
これに対し、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1では、リッジフィルタ22は、入射した荷電粒子線Rのエネルギーを低減させる減衰部材13を荷電粒子線Rの照射方向と交差するXY平面方向に複数備えている。ここで、減衰部材13は、XY平面方向から見た場合における側面13cが、他の減衰部材13の側面13cと接合されている。このように、隣り合う減衰部材13同士が互いに支持し合うことにより、減衰部材13全体を支持するような支持部材を設けなくとも、リッジフィルタ22としての強度を確保することができる。そして、支持部材を設けなくとも強度を確保することができるため、リッジフィルタ22のうち、照射方向から見た場合における減衰部材13と異なる位置に、照射方向に貫通する貫通部16を形成することができる。このような構造により、減衰部材13に入射しない荷電粒子線Rは、貫通部16を通過することができるため、散乱することなく、リッジフィルタ22の下流側へ向かうことができる。以上により、荷電粒子線Rの散乱を抑制できる。
【0043】
本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1において、XY平面方向は、X軸方向、及びY軸方向を有している。減衰部材13は、錐形状を有しており、X軸方向に沿って並べられており、且つ、Y軸方向に沿って並べられている。このような構成により、支持部材を設けなくとも、リッジフィルタ22としての強度を確保することができる。また、減衰部材13が錐形状を有し、且つ、X軸方向及びY軸方向に沿って並べられることで二次元的な配列にて配置される。例えば、
図7に示すような比較例に係るリッジフィルタ100では、Y軸方向に真っ直ぐ延びる減衰部材111をX軸方向に並べているため、X軸方向にはブラッグピークの濃淡が出るものの、Y軸方向には濃淡がでず、平面的にとらえた場合に縞模様の濃淡となる。一方、減衰部材13を二次元的な配列にて配置することで、ブラッグピークの濃淡を平面的にすることができ、これによってブラッグピークの濃淡を一様に近づけることができる。
【0044】
また、本実施形態に係るリッジフィルタ22は、荷電粒子線Rの拡大ブラッグピークを生成する荷電粒子線治療装置用のリッジフィルタ22であって、入射した荷電粒子線Rのエネルギーを低減させる減衰部材13を荷電粒子線Rの照射方向と交差するXY平面方向に複数備える。減衰部材13は、照射方向に沿って断面積が変化し、交差方向から見た場合における側面13cが、他の減衰部材13の側面13cと接合されている。照射方向から見た場合における減衰部材13と異なる位置には、照射方向に貫通する貫通部16が形成されている。
【0045】
本実施形態に係るリッジフィルタ22によれば、上述の荷電粒子線治療装置1と同様の作用・効果を得ることができる。
【0046】
本発明は、上述の実施形態に限定されない。
【0047】
減衰部材の形状及び配列は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、
図8に示すように、三角錐形状の減衰部材150を採用してもよい。
図8(a)に示す例では、各減衰部材150が一定方向を向いた状態で並べられており、三つの減衰部材150の各縁部150eで三角形状の貫通部156を形成するようなパターンで配列されてよい。あるいは、
図8(b)に示すように、六つの減衰部材150が互いに向きを変化させながら互いに接合され、各減衰部材150の縁部150eで六角形状の貫通部157を形成するようなパターンで配列されてよい。
図8(a)及び
図8(b)のいずれの例においても、減衰部材150は、隣り合う減衰部材150と、角部の部分に形成された側面を介して接合されている。
【0048】
また、
図9(a)に示すように、六角錐形状の減衰部材160を採用し、各角部において側面を介して他の減衰部材160と接合されている。各減衰部材160の縁部160eによって三角形状の貫通部166が形成される。
図9(b)に示すように、八角錐形状の減衰部材170を採用し、側面を介して他の減衰部材170と接合されている。各減衰部材170の縁部170cによって四角形状の貫通部176が形成される。
【0049】
また、減衰部材は、上述の実施形態及び変形例のように、完全な錐形状でなくともよく、段差形状を組み合わせることで錐形状を近似的に構成したものであってもよい。例えば、
図10に示すリッジフィルタは、
図8(b)に示すリッジフィルタの三角錐形状の減衰部材150を近似的に構成した減衰部材180を備えている。減衰部材180は、略三角板状の部材181を複数段積層することによって構成されている。この部材181は、照射方向における上流に向かうに従って、相似形を維持したまま徐々に寸法が小さくなっていく。これにより、減衰部材180は、三角錐の斜面を複数段の段差面で近似した構成を有する。このような減衰部材180も、照射方向に沿って断面積が変化する形状に該当する。
【0050】
図8及び
図9は、いずれもX軸方向及びY軸方向に沿って、特定のパターンで配列されている。従って、リッジフィルタの各領域において、減衰部材が占める面積と、貫通部が占める面積の比率を略一定にすることができる。なお、
図8及び
図9以外でも、あらゆる減衰部材の形状及び配列パターンを採用してもよい。なお、各リッジフィルタの減衰部材は、アルキメデスの平面充填を満たす幾何模様をなしている。また、上述の例の減衰部材の全ての錐形状は円錐に置換されてよい。