特許第6594860号(P6594860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594860
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】シアル酸付加の定量的調節
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/18 20060101AFI20191010BHJP
   C12P 19/44 20060101ALI20191010BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20191010BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20191010BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20191010BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20191010BHJP
   C12N 9/24 20060101ALN20191010BHJP
【FI】
   C12P19/18ZNA
   C12P19/44
   C12N15/56
   C12N15/54
   C12P21/02 A
   !C12N9/10
   !C12N9/24
【請求項の数】9
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2016-515718(P2016-515718)
(86)(22)【出願日】2014年5月16日
(65)【公表番号】特表2016-520315(P2016-520315A)
(43)【公表日】2016年7月14日
(86)【国際出願番号】EP2014060101
(87)【国際公開番号】WO2014191240
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2017年5月8日
(31)【優先権主張番号】13169714.6
(32)【優先日】2013年5月29日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】13175390.7
(32)【優先日】2013年7月5日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】エンゲル,アルフレート
(72)【発明者】
【氏名】グライフ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ユング,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー,ライナー
(72)【発明者】
【氏名】ゾベック,ハラルト
(72)【発明者】
【氏名】ズップマン,ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】マリク,セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】トマン,マルコ
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/149999(WO,A2)
【文献】 国際公開第2013/050335(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/143713(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0199892(US,A1)
【文献】 特表2009−537165(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/083683(WO,A1)
【文献】 特表2006−509515(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/113863(WO,A1)
【文献】 JOURNAL OF IMMUNOLOGICAL METHODS,2012年 5月30日,Vol. 382, No. 1,pp. 167-176
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/00−21/08
C12N 9/10
C12N 15/09
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分おけるα2,6グリコシド結合を加水分解する方法であって、該部分はシアル酸付加糖タンパク質または糖脂質中のグリカンの末端構造であり、該方法は、
(a)前記糖タンパク質のグリカン部分において末端N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分を含むシアル酸付加糖タンパク質または糖脂質を、水溶液中で提供し;
(b)N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分と、配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIをインキュベーションし、ここで該N末端一部切除は配列番号1の1位〜89位の連続配列である;
それによって、N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分中のα2,6グリコシド結合を加水分解する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
調節された量のシアリル残基を含むシアル酸付加ターゲット分子をin vitroで産生する方法であって
(a)緩衝塩、pH6〜pH8の範囲のpH、及び二価イオンを含有し、0℃〜40℃の範囲の温度である水溶液中、グリコシル化ターゲット分子を提供し、ここで、ターゲット分子が糖タンパク質および糖脂質より選択され、ターゲット分子が、複数のアンテナを含み、アンテナの少なくとも2つが各々、末端構造として、ガラクトシル残基中のC6位でヒドロキシル基を含むβ−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分を有し;
(b)工程(a)のターゲット分子を、第一のあらかじめ決定された時間に渡って、配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIと、そしてドナー化合物として、シチジン−5’−モノホスホ−N−アセチルノイラミン酸、またはその機能的同等物の存在下で、インキュベーションすることによって、1またはそれより多い末端アンテナN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン残基[=α2,6シアル酸付加末端アンテナ残基]を形成し、それによって、シアル酸付加ターゲット分子を提供し、ここで該N末端一部切除は配列番号1の1位〜89位の連続配列である;続いて、
(c)工程(b)のシアル酸付加ターゲット分子を、第二のあらかじめ決定された時間に渡って、配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIとインキュベーションすることによって、1またはそれより多い末端アンテナN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン残基中のα2,6グリコシド結合を加水分解し;
それによって、調節された量のシアリル残基を含むシアル酸付加ターゲット分子をin vitroで産生する
工程を含む、前記方法。
【請求項3】
工程(b)および(c)の間に、ターゲット分子のシアル酸付加を定量的に決定する、請求項記載の方法。
【請求項4】
工程(c)の後、ターゲット分子のシアリル化を定量的に決定する、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
工程(a)、(b)および(c)を、同じ容器中で連続して行う、請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
ターゲット分子が、IgGクラスの精製免疫グロブリン分子である、請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
ターゲット分子が、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4より選択される免疫グロブリンクラスのモノクローナル抗体である、請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
測定した量のターゲット分子を用いて、工程(a)、(b)および(c)を、同じ容器中で連続して行う、ここで工程(b)を24時間行い、そして続く工程(c)を72時間またはそれより長く行い、そしてここで、一シアル酸付加ターゲット分子の相対量が60%〜75%である、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
ターゲット(免疫グロブリン)分子:ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼI分子の重量対重量[w/w]比が10:1であり、各々が80%またはそれより高い相対純度を有する、請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、N末端一部切除(truncation)欠失を有する特定のグリコシルトランスフェラーゼ変異体の使用に関する。以前の知見とは対照的に、特定の一部切除、特に、それぞれの野生型ポリペプチドの最初の89 N末端アミノ酸を含む一部切除欠失を有するヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼI(hST6Gal−I)の変異体がシアリダーゼ酵素活性を示すことが見出された。本開示に文書化される基本的な発見は、グリコシル部分のトランスファーならびにその加水分解を触媒することが可能なこの酵素の変異体が存在することである。したがって、開示するのは、哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼの特定の例示的な変異体、該酵素をコードする核酸、哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ変異体を組換え的に産生するための方法および手段、ならびにその使用、特に免疫グロブリンなどの糖タンパク質の一部であるグリカン部分の末端アクセプター基に、定量的に調節された方式でシアル酸付加するための使用である。
【発明の概要】
【0002】
トランスフェラーゼ(EC2)は、1つの物質から別の物質への官能基のトランスファーを触媒する。酵素のスーパーファミリーであるグリコシルトランスフェラーゼは、糖タンパク質、糖脂質およびグリコサミノグリカンの炭水化物部分を合成する際に関与する。特定のグリコシルトランスフェラーゼは活性化された糖ドナーの単糖部分をアクセプター分子に連続してトランスファーすることによって、オリゴ糖を合成する。したがって、「グリコシルトランスフェラーゼ」は、ヌクレオチドドナーから、ポリペプチド、脂質、糖タンパク質または糖脂質のアクセプター部分への糖部分のトランスファーを触媒する。このプロセスはまた、「グリコシル化」としても知られる。例えば糖タンパク質の構造部分である炭水化物部分はまた、「グリカン」とも呼ばれる。グリカンは、すべての既知の翻訳後タンパク質修飾のうち、最もよく見られる修飾を構成する。グリカンは、接着、免疫反応、神経細胞遊走および軸索伸張のように多様な、広い範囲の生物学的認識プロセスに関与する。糖タンパク質の構造部分として、グリカンはまた、タンパク質フォールディング、ならびにタンパク質安定性および生物学的活性の補助においても役割を果たす。
【0003】
グリコシルトランスフェラーゼ触媒において、単糖単位グルコース(Glc)、ガラクトース(Gal)、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)、N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)、グルクロン酸(GlcUA)、ガラクツロン酸(GalUA)およびキシロースは、ウリジン二リン酸(UDP)−α−D誘導体として活性化され;アラビノースは、UDP−β−L誘導体として活性化され;マンノース(Man)およびフコースは、それぞれ、GDP−α−DおよびGDP−β−L誘導体として活性化され;そしてシアル酸(=Neu5Ac;=SA)は、β−D−Neu5AcのCMP誘導体として活性化される。
【0004】
多くの異なるグリコシルトランスフェラーゼがグリカン合成に寄与する。糖タンパク質の炭水化物部分の構造的多様性は特に大きく、そしてこれは、複雑な生合成経路によって決定される。真核生物において、糖タンパク質のグリカン部分の生合成は、小胞体(「ER」)およびゴルジ体の管腔で行われる。糖タンパク質の単一(分枝または直鎖)炭水化物鎖は、典型的には、NまたはO連結グリカンである。翻訳後プロセシング中、炭水化物は、典型的には、アスパラギンを通じて(「N連結グリコシル化」)、あるいはセリンまたはスレオニンを通じて(「O連結グリコシル化」)、ポリペプチドに連結される。グリカン合成は、NまたはO連結のいずれであっても(=「N/O連結」)、いくつかの異なる膜係留グリコシルトランスフェラーゼの活性によって達成される。糖タンパク質は、1またはそれより多いグリカン連結アミノ酸(=「グリコシル化部位」)を含むことも可能である。特定のグリカン構造は、直鎖または分枝いずれでもよい。分枝は、炭水化物の顕著な特徴であり、DNA、RNA、およびポリペプチドには典型的な直鎖性質とは対照的である。これらの基本的構築ブロック、単糖が非常に不均一であることと組み合わせて、グリカン構造は高い多様性を示す。さらに、特定の糖タンパク質種のメンバーでは、特定のグリコシル化部位に付着するグリカンの構造は多様であることも可能であり、したがって、それぞれの糖タンパク質種の微少不均一性を生じ、すなわちポリペプチド部分の同じアミノ酸配列を共有する種が生じる。
【0005】
シアリルトランスフェラーゼ(=「ST」)は、ドナー化合物から(i)糖脂質またはガングリオシドの末端単糖アクセプター基への、または(ii)糖タンパク質のN/O連結グリカンの末端単糖アクセプター基への、シアル酸(=5−N−アセチルノイラミン酸=Neu5Ac=NANA)残基のトランスファーを触媒する、グリコシルトランスフェラーゼである。ヒトST種を含む哺乳動物シアリルトランスフェラーゼに関しては、シチジン−5’−モノホスホ−N−アセチルノイラミン酸(=CMP−Neu5Ac=CMP−NANA)である共通のドナー化合物がある。シアル酸残基のトランスファーはまた、「シアル酸付加する」および「シアル酸付加」とも称される。
【0006】
シアル酸付加糖タンパク質のグリカン構造において、(1またはそれより多い)シアリル部分は、通常、オリゴ糖の末端位に見られる。末端、すなわち曝露される位であるため、シアル酸は、多くの異なる生物学的認識現象に関与し、そして異なる種類の生物学的相互作用において働くことも可能である。糖タンパク質中に1より多いシアル酸付加部位が存在してもよく、すなわちシアリルトランスフェラーゼの基質として働くことが可能であり、そしてシアル酸残基のトランスファーに適したアクセプター基であることも可能な部位が存在してもよい。こうした1より多い部位は、原理上、糖タンパク質の異なるグリコシル化部位に係留される、複数の直鎖グリカン部分の末端であることも可能である。さらに、分枝グリカンは、シアル酸付加が起こりうる複数の部位を有しうる。
【0007】
現在の知識によれば、末端シアル酸残基は、(i)ガラクトシル−Rに連結されるα2→3(α2,3)、(ii)ガラクトシル−Rに連結されるα2→6(α2,6)、(iii)N−アセチルガラクトサミニジル−Rに連結されるα2→6(α2,6)、(iv)N−アセチルグルコサミニジル−Rに連結されるα2→6(α2,6)、および(v)シアリジル−Rに連結されるα2→8/9(α2,8/9)、式中、−Rはアクセプター基質部分の残りを示す、に見出されうる。したがって、シアリルコンジュゲート(=「シアル酸付加」)の生合成において活性であるシアリルトランスフェラーゼは、一般的に、それぞれの単糖アクセプター基質にしたがって、そして触媒するグリコシド結合の3、6または8/9位にしたがって命名され、そして分類される。したがって、当該技術分野に知られる文献において、例えばPatel RYら, Glycobiology 16(2006)108−116において、真核生物シアリルトランスフェラーゼに対する言及は、グリコシド結合を形成する間に、Neu5Ac残基がトランスファーされるアクセプター糖残基のヒドロキシル位に応じて、例えば(i)ST3Gal、(ii)ST6Gal、(iii)ST6GalNAc、または(v)ST8Siaとされる。より一般的な方式において、シアリルトランスフェラーゼに対する言及はまた、例えばST3、ST6、ST8とされることも可能である;したがって、「ST6」は、具体的には、α2,6シアル酸付加を触媒するシアリルトランスフェラーゼを含む。
【0008】
二糖部分β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン(=Galβ1,4GlcNAc)は、糖タンパク質のN連結グリカンのアンテナにしばしばある末端残基であるが、また、O連結グリカンおよび糖脂質にも存在しうる。酵素、β−ガラクトシド−α2,6−シアリルトランスフェラーゼ(=「ST6Gal」)は、グリカンの末端Galβ1,4GlcNAcまたはグリカンの分枝(=「アンテナ」)のα2,6−シアル酸付加を触媒することが可能である。この一般的な側面に関しては、DallOlio F. Glycoconjugate Journal 17(2000)669−676の文書に言及される。ヒトおよび他の哺乳動物において、ST6Galのいくつかの種があるようである。本開示は特に、ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼI(=hST6Gal−I;IUBMB酵素命名法にしたがってEC 2.4.99.1)を扱うが、これに限定されない。
【0009】
シアリルトランスフェラーゼのST6群は、2つの下位群、ST6GalおよびST6GalNAcを含む。ST6Gal酵素の活性は、グリカン中の末端Galβ1,4GlcNAcまたはグリカンのアンテナの一部である未結合(free)ガラクトシル残基のC6ヒドロキシル基への、Neu5Ac残基のトランスファーを触媒し、それによって、グリカンにおいて、Galβ1,4GlcNAc部分のガラクトシル残基に連結された末端シアル酸残基α2→6を形成する。グリカン中に生じる新規に形成される末端部分は、Neu5Acα2,6Galβ1,4GlcNAcである。
【0010】
本文書提出時点で、ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼI(hST6Gal−I)の野生型ポリペプチドは、公的にアクセス可能なNCBIデータベースにおいて「UniProtKB/Swiss−Prot:P15907.1」として開示された(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/115445)。コード配列を含むさらなる情報は、データベースエントリー「GeneID:6480」内にコンパイルされるハイパーリンクとして提供される(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/6480)。
【0011】
哺乳動物シアリルトランスフェラーゼは、他の哺乳動物ゴルジ常在グリコシルトランスフェラーゼと、(i)短い細胞質N末端テール、(ii)膜貫通断片、その後、(iii)様々な長さのステム領域および(iv)ゴルジ体の管腔に向いたC末端触媒ドメインを含む、いわゆる「II型構造」を共有する(Donadio S.ら Biochimie 85(2003)311−321中)。哺乳動物シアリルトランスフェラーゼは、その触媒ドメイン中に有意な配列相同性を示すようである。
【0012】
Donadio S.らは、CHO細胞において、hST6Gal−IのいくつかのN末端一部切除変異体を発現させ、そして最初の35、48、60および89アミノ酸を含むN末端欠失が、突然変異酵素を生じるが、それにもかかわらず、なおシアル酸を外因性アクセプターにトランスファーする活性を有する。
【0013】
グリコシル化は、タンパク質フォールディング、安定性、および生物学的活性の制御に影響を及ぼす、タンパク質の重要な翻訳後修飾である。シアリル部分(=シアル酸、5−N−アセチルノイラミン酸、Neu5Ac)は、通常、Nグリコシル化の末端位で曝露され、そしてしたがって生物学的認識およびリガンド機能の主要な寄与因子であり、例えば末端シアル酸を特徴とするIgGは、より少ない炎症反応および増加した血清半減期を誘導することが示された。
【0014】
定義されるグリカン構造の酵素的合成のためのグリコシルトランスフェラーゼの使用は、抗体などの療法タンパク質のNグリコシル化を導くツールとなりつつある。原核生物起源のグリコシルトランスフェラーゼは、通常、複雑な糖タンパク質構造に作用しないため、哺乳動物起源のシアリルトランスフェラーゼが好ましい。例えば、Barbら(2009)は、単離されたヒトST6Gal−Iを用いて、免疫グロブリンGのFc断片の非常に強力なシアル酸付加型を調製した。しかし、療法適用のための組換えST6Gal−Iへのアクセスは、なお、多様な宿主(ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)、および大腸菌(E. coli))において、低発現および/または劣った活性のため、制限されている。
【0015】
当該技術分野には、複雑なターゲット分子、例えば糖タンパク質または糖脂質にin vitroでシアル酸付加するために、哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼが好適に使用可能であることが知られる。しかし、反対の反応(シアリダーゼ活性、グリカン部分からの末端シアリル残基の加水分解的切断)は、典型的には、ノイラミニダーゼによって提供される。本発明者らによる独自の発見は、しかし、哺乳動物起源のシアリルトランスフェラーゼの変異体が、シアリダーゼ活性を示すというものである。実際、N末端が一部切除されたヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼ−Iの特定の変異体は、(i)ターゲット糖タンパク質のシアル酸付加、および(ii)シアル酸付加ターゲット糖タンパク質からのシアリル残基の加水分解的切断の両方のために使用可能である。変異体酵素の動力学の調節に応じて、シアル酸付加を定量的に調節することも可能である。すなわち、本開示は、ターゲット分子の2またはそれより多く、あるいはさらにすべてのアクセプター部位にシアル酸付加するのとは対照的に、いくつかのアクセプター部位のうちの1つのみにシアル酸付加することを可能にする手段、方法および条件を提供する。
【0016】
これは、特に免疫グロブリンの、そしてまた他のグリコシル化ターゲット分子のin vitro糖鎖工学分野において、いくつかの異なるアプローチのための道を開く。本明細書において、特に、そして例示的に、主に一シアル酸付加または二シアル酸付加された免疫グロブリンG分子産生を生じる方法を提供する。しかし、シアル酸付加しようとするターゲット分子の定量的シアル酸付加調節を伴う、いくつかの他のin vitroシアル酸付加アプローチが実行可能となり、そしてこれらを本開示から推定することも可能である。
【0017】
特定の態様において、本文書は、HEK293細胞における一過性遺伝子発現によって、ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼI(hST6Gal−I、EC 2.4.99.1;データベースエントリーP15907)のΔ89 N末端一部切除変異体の高収率の発現をさらに開示し、収量は100mg/Lに達し、驚くほど特徴的なシアル酸付加活性を特徴とする。
【0018】
発明の概要
第一の側面において、N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分であって、シアル酸付加糖タンパク質または糖脂質中のグリカンの末端構造である前記部分におけるα2,6グリコシド結合を加水分解するための、配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIの使用を開示する。
【0019】
さらなる側面において、N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分であって、シアル酸付加糖タンパク質または糖脂質中のグリカンの末端構造である前記部分におけるα2,6グリコシド結合を加水分解する方法であって、(a)前記糖タンパク質のグリカン部分において末端N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分を含むシアル酸付加糖タンパク質または糖脂質を、水溶液中で提供し;(b)N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分と、配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIをインキュベーションし;それによって、N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分中のα2,6グリコシド結合を加水分解する工程を含む、前記方法を開示する。
【0020】
さらにさらなる側面において、調節された量のシアリル残基を含むシアル酸付加ターゲット分子をin vitroで産生する方法であって、(a)水溶液中、およびグリコシルトランスフェラーゼ酵素活性を許可する条件下で、グリコシル化ターゲット分子を提供し、ここで、ターゲット分子が糖タンパク質および糖脂質より選択され、ターゲット分子が、複数のアンテナを含み、アンテナの少なくとも2つが各々、末端構造として、ガラクトシル残基中のC6位でヒドロキシル基を含むβ−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分を有し;(b)工程(a)のターゲット分子を、第一のあらかじめ決定された時間に渡って、配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIと、そしてドナー化合物として、シチジン−5’−モノホスホ−N−アセチルノイラミン酸、またはその機能的同等物の存在下で、インキュベーションすることによって、1またはそれより多い末端アンテナN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン残基(単数または複数)[=α2,6シアル酸付加末端アンテナ残基(単数または複数)]を形成し、それによって、シアル酸付加ターゲット分子を提供し;(c)工程(b)のシアル酸付加ターゲット分子を、第二のあらかじめ決定された時間に渡って、配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIとインキュベーションすることによって、1またはそれより多い末端アンテナN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン残基中のα2,6グリコシド結合を加水分解し;それによって、調節された量のシアリル残基を含むシアル酸付加ターゲット分子をin vitroで産生する工程を含む、前記方法を開示する。
【0021】
さらにさらなる側面において、ターゲット分子がIgGクラスの免疫グロブリン分子であり、ここで、調製物中の二シアル酸付加ターゲット分子の量が約35%〜約90%であり、調製物が本明細書に開示するような方法によって得られる、グリコシル化ターゲット分子の調製物を開示する。
【0022】
さらにさらなる側面において、ターゲット分子がIgGクラスの免疫グロブリン分子であり、ここで、調製物中の一シアル酸付加ターゲット分子の量が約60%〜約75%であり、調製物が本明細書に開示するような方法によって得られる、グリコシル化ターゲット分子の調製物を開示する。
【0023】
さらにさらなる側面において、ターゲット分子がIgGクラスの免疫グロブリン分子であり、ここで、調製物中の一および二シアル酸付加ターゲット分子の量が調節された量であり、調製物が本明細書に開示するような方法によって得られる、グリコシル化ターゲット分子の調製物を開示する。
【0024】
さらにさらなる側面において、薬学的組成物を調製するための、本明細書開示のグリコシル化免疫グロブリン分子の調製物の使用を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】精製組換えΔ89 hST6Gal−IのSDS−PAGE。レーン1:分子量マーカー;レーン2:精製酵素、5μgをゲル上に装填した。
図2】組換えΔ89 hST6Gal−Iを用いたMAB<IL−1R>のシアル酸付加の時間経過。
図3-1】異なるシアル酸付加ターゲット分子種の相対含量の決定に関する基礎として取ったマススペクトルによって示されるような、組換えΔ89 hST6Gal−Iによって触媒される、G2+2SAおよびG2+1SAの形成の動力学。
図3-2】異なるシアル酸付加ターゲット分子種の相対含量の決定に関する基礎として取ったマススペクトルによって示されるような、組換えΔ89 hST6Gal−Iによって触媒される、G2+2SAおよびG2+1SAの形成の動力学。
図3-3】異なるシアル酸付加ターゲット分子種の相対含量の決定に関する基礎として取ったマススペクトルによって示されるような、組換えΔ89 hST6Gal−Iによって触媒される、G2+2SAおよびG2+1SAの形成の動力学。
図4】CTPによる組換えΔ89 hST6Gal−Iのシアリダーゼ活性の阻害。末端ガラクトース残基を含むグリカン(G2+0SA、「アシアロ」)、一シアル酸付加グリカン(G2+1SA)および二シアル酸付加グリカン(G2+2SA)の相対量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
用語「a」、「an」および「the」には、文脈が別に明白に示さない限り、一般的に複数の指示対象が含まれる。本明細書において、「複数」は、1より多いことを意味する。例えば、複数は、少なくとも2、3、4、5またはそれより多くを指す。具体的に言及されるかまたは文脈より明らかでない限り、本明細書において、用語「または」は包括的であると理解される。
【0027】
具体的に言及されるかまたは文脈より明らかでない限り、本明細書において、用語「約」は、当該技術分野の通常の許容の範囲内と理解され、例えば平均の2標準偏差以内である。「約」は、言及する値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%以内と理解されうる。文脈から別に明らかでない限り、本明細書に提供するすべての数値は、用語「約」によって修飾可能である。
【0028】
用語「アミノ酸」は、一般的に、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質内に取り込まれうる、任意の単量体単位を指す。本明細書において、用語「アミノ酸」には、以下の20の天然または遺伝的にコードされるアルファ−アミノ酸が含まれる:アラニン(AlaまたはA)、アルギニン(ArgまたはR)、アスパラギン(AsnまたはN)、アスパラギン酸(AspまたはD)、システイン(CysまたはC)、グルタミン(GlnまたはQ)、グルタミン酸(GluまたはE)、グリシン(GlyまたはG)、ヒスチジン(HisまたはH)、イソロイシン(IleまたはI)、ロイシン(LeuまたはL)、リジン(LysまたはK)、メチオニン(MetまたはM)、フェニルアラニン(PheまたはF)、プロリン(ProまたはP)、セリン(SerまたはS)、スレオニン(ThrまたはT)、トリプトファン(TrpまたはW)、チロシン(TyrまたはY)、およびバリン(ValまたはV)。「X」残基が定義されていない場合、これらは、「任意のアミノ酸」と定義されるべきである。これらの20の天然アミノ酸の構造は、例えばStryerら, Biochemistry, 第5版, Freeman and Company(2002)に示される。さらなるアミノ酸、例えばセレノシステインおよびピロールリジンもまた、遺伝的にコードされうる(Stadtman(1996)“Selenocystein,” Annu Rev Biochem. 65:83−100およびIbbaら(2002)“Genetic code: introducing pyrrolysine,” Curr Biol. 12(13):R464−R466)。用語「アミノ酸」にはまた、非天然アミノ酸、修飾アミノ酸(例えば修飾側鎖および/または主鎖を有する)、およびアミノ酸類似体も含まれる。例えば、Zhangら(2004)“Selective incorporation of 5−hydroxytryptophan into proteins in mammalian cells,” Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 101(24):8882−8887、Andersonら(2004) “An expanded genetic code with a functional quadruplet codon” Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 101(20):7566−7571、Ikedaら(2003) “Synthesis of a novel histidine analogue and its efficient incorporation into a protein in vivo,” Protein Eng. Des. Sel. 16(9):699−706、Chinら(2003) “An Expanded Eukaryotic Genetic Code,” Science 301(5635):964−967、Jamesら(2001) “Kinetic characterization of ribonuclease S mutants containing photoisomerizable phenylazophenylalanine residues,” Protein Eng. Des. Sel. 14(12):983−991、Kohrerら(2001) “Import of amber and ochre suppressor tRNAs into mammalian cells: A general approach to site−specific insertion of amino acid analogues into proteins,” Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98(25):14310−14315、Bacherら(2001) “Selection and Characterization of Escherichia coli Variants Capable of Growth on an Otherwise Toxic Tryptophan Analogue,” J. Bacteriol. 183(18):5414−5425、Hamano−Takakuら(2000) “A Mutant Escherichia coli Tyrosyl−tRNA Synthetase Utilizes the Unnatural Amino Acid Azatyrosine More Efficiently than Tyrosine,” J. Biol. Chem. 275(51):40324−40328、およびBudisaら(2001) “Proteins with {beta}−(thienopyrrolyl)alanines as alternative chromophores and pharmaceutically active amino acids,” Protein Sci. 10(7):1281−1292を参照されたい。さらに例示するため、アミノ酸は、典型的には、置換または非置換アミノ基、置換または非置換カルボキシ基、および1またはそれより多い側鎖または基、あるいはこれらの基いずれかの類似体を含む有機酸である。例示的な側鎖には、例えば、チオール、セレノ、スルホニル、アルキル、アリール、アシル、ケト、アジド、ヒドロキシル、ヒドラジン、シアノ、ハロ、ヒドラジド、アルケニル、アルキニル、エーテル、ボレート、ボロネート、ホスホ、ホスホノ、ホスフィン、複素環、エノン、イミン、アルデヒド、エステル、チオ酸、ヒドロキシルアミン、またはこれらの基の任意の組み合わせが含まれる。他の代表的なアミノ酸には、限定されるわけではないが、光活性化可能架橋剤を含むアミノ酸、金属結合アミノ酸、スピン標識アミノ酸、蛍光アミノ酸、金属含有アミノ酸、新規官能基を含むアミノ酸、他の分子と共有または非共有相互作用するアミノ酸、光ケージ化(photocaged)および/または光異性体化可能(photoisomerizable)アミノ酸、放射性アミノ酸、ビオチンまたはビオチン類似体を含むアミノ酸、グリコシル化アミノ酸、他の炭水化物修飾アミノ酸、ポリエチレングリコールまたはポリエーテルを含むアミノ酸、重原子置換アミノ酸、化学的切断可能および/または光切断可能アミノ酸、炭素連結糖含有アミノ酸、酸化還元活性アミノ酸、アミノチオ酸含有アミノ酸、および1またはそれより多い毒性部分を含むアミノ酸が含まれる。
【0029】
用語「タンパク質」は、リボソーム翻訳プロセスの産物としてのポリペプチド鎖(アミノ酸配列)を指し、ここでポリペプチド鎖は翻訳後フォールディングプロセスを経て、三次元タンパク質構造を生じる。用語「タンパク質」はまた、1またはそれより多い翻訳後修飾、例えば(限定されるわけではないが)グリコシル化、リン酸化、アセチル化およびユビキチン化を含むポリペプチドもまた含む。
【0030】
本明細書に開示するような任意のタンパク質、特に本明細書に開示するような組換え産生タンパク質は、特定の態様において、「タンパク質タグ」を含むことも可能であり、該タグは、組換えタンパク質上に遺伝的に移植されるペプチド配列である。タンパク質タグは、タンパク質分解によってタグの除去を促進する、特異的プロテアーゼ切断部位を持つリンカー配列を含むことも可能である。特定の態様として、ターゲットタンパク質に「アフィニティタグ」を付随させて、アフィニティ技術を用いてターゲットが未精製生物学的供給源から精製可能であるようにする。例えば、供給源は、ターゲットタンパク質を発現する、形質転換された宿主生物、または形質転換された宿主生物によってターゲットタンパク質が分泌される培養上清であってもよい。アフィニティタグの特定の態様には、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質(MBP)、およびグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)が含まれる。ポリ(His)タグは、広く用いられるタンパク質タグであり、特定の金属キレートマトリックスへの結合を促進する。
【0031】
用語「キメラタンパク質」、「融合タンパク質」または「融合ポリペプチド」の各々は、等しく、そのアミノ酸配列が少なくとも2つの別個のタンパク質由来のアミノ酸配列の下位配列の融合産物に相当するタンパク質を指す。融合タンパク質は、典型的には、アミノ酸配列の直接操作によっては産生されず、むしろ、キメラアミノ酸配列をコードする「キメラ」遺伝子から発現される。
【0032】
用語「組換え」は、組換え法によって意図的に修飾されているアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を指す。用語「組換え核酸」によって、本明細書において、一般的に、エンドヌクレアーゼによる核酸の操作によって、in vitroで元来形成され、天然に通常見られない形である核酸を意味する。したがって、直鎖型の単離された突然変異DNAポリメラーゼ核酸、または通常連結されていないDNA分子を連結することによってin vitroで形成された発現ベクターは、どちらも、本発明の目的のため、組換えと見なされる。ひとたび組換え核酸が作製され、そして宿主細胞内に再導入されると、非組換え的に、すなわちin vitro操作よりもむしろ、宿主細胞のin vivo細胞機構を用いて、複製するであろう;しかし、ひとたび組換え的に産生されたこうした核酸は、続いて非組換え的に複製されるが、なお、本発明の目的のため、組換えと見なされる。「組換えタンパク質」または「組換え的に産生されたタンパク質」は、組換え技術を用いて、すなわち上述のような組換え核酸の発現を通じて作製されるタンパク質である。
【0033】
核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に配置された際、「機能可能であるように連結され」ている。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、これらがコード配列の転写に影響を及ぼす場合、該配列に機能可能であるように連結されており;あるいは、リボソーム結合部位は、翻訳を促進するように配置されている場合、コード配列に機能可能であるように連結されている。
【0034】
用語「宿主細胞」は、単細胞原核生物および真核生物(例えば哺乳動物細胞、昆虫細胞、細菌、酵母、および放線菌)、ならびに細胞培養中で増殖している場合のより高次の植物または動物由来の単細胞の両方を指す。
【0035】
用語「ベクター」は、外来DNA片を挿入することが可能な、典型的には二本鎖のDNA片を指す。ベクターは例えばプラスミド起源のものであってもよい。ベクターは、宿主細胞中のベクターの自律複製を促進する「レプリコン」ポリヌクレオチド配列を含有する。外来DNAは、宿主細胞中に天然には見られないDNAであり、例えばベクター分子を複製するか、選択可能またはスクリーニング可能マーカーをコードするか、あるいは導入遺伝子をコードする、異種DNAと定義される。ベクターは、外来または異種DNAを適切な宿主細胞内に輸送するために用いられる。ひとたび宿主細胞中に入ると、ベクターは、宿主染色体DNAとは独立にまたはそれと同時に複製することも可能であり、そしてベクターおよびその挿入DNAの数コピーを生成することも可能である。さらに、ベクターはまた、挿入DNAのmRNA分子への転写を可能にするか、または別の方式で挿入DNAの複数コピーのRNAへの複製を引き起こす、必要な要素も含有することも可能である。いくつかの発現ベクターは、さらに、発現されたmRNAの半減期を増加させ、そして/またはmRNAのタンパク質分子への翻訳を可能にする、挿入DNAに隣接する配列要素を含有する。したがって、挿入DNAによってコードされるmRNAおよびポリペプチドの多くの分子が迅速に合成可能である。
【0036】
用語「核酸」または「ポリヌクレオチド」は、交換可能に使用可能であり、そしてリボース核酸(RNA)またはデオキシリボース核酸(DNA)ポリマー、あるいはその類似体に対応させうる、ポリマーを指す。これには、RNAおよびDNAなどのヌクレオチドのポリマー、ならびにその合成型、修飾型(例えば化学的にまたは生化学的に修飾された型)、および混合ポリマー(例えば、RNAおよびDNAサブユニット両方を含む)が含まれる。例示的な修飾には、メチル化、1またはそれより多い天然存在ヌクレオチドの類似体での置換、ヌクレオチド間修飾、例えば非荷電連結(例えばメチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメート等)、ペンデント(pendent)部分(例えばポリペプチド)、挿入剤(例えばアクリジン、ソラレン等)、キレ−ター、アルキル化剤、および修飾連結(例えばアルファアノマー核酸等)が含まれる。やはり含まれるのは、水素結合および他の化学的相互作用を通じて、設計される配列に結合する能力において、ポリヌクレオチドを模倣する、合成分子である。典型的には、ヌクレオチド単量体は、ホスホジエステル結合を通じて連結されるが、核酸合成型は、他の連結を含んでもよい(例えばNielsenら(Science 254:1497−1500, 1991)に記載されるようなペプチド核酸)。核酸は、例えば、染色体または染色体セグメント、ベクター(例えば発現ベクター)、発現カセット、裸のDNAまたはRNAポリマー、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物、オリゴヌクレオチド、プローブ、およびプライマーであってもよいし、またはこれらを含んでもよい。核酸は例えば、一本鎖、二本鎖、または三本鎖であってもよいし、そして任意の特定の長さに限定されない。別に示されない限り、特定の核酸配列は、明確に示す任意の配列に加えて、相補配列を含むかまたはコードする。
【0037】
用語「グリコシル化」は、アクセプター基にグリコシル残基を共有カップリングさせる化学反応を示す。1つの特定のアクセプター基は、ヒドロキシル基、例えば別の糖のヒドロキシル基である。「シアル酸付加」は、グリコシル化の特定の型であり、アクセプター基をシアル酸(=N−アセチルノイラミン酸)残基と反応させる。こうした反応は、シチジン−5’−モノホスホ−N−アセチルノイラミン酸をドナー化合物または補助基質として用いて、典型的にはシアリルトランスフェラーゼ酵素によって触媒される。
【0038】
「シアル酸付加」は、グリコシルトランスフェラーゼ酵素活性を許容する条件下での、該活性(特定の場合、シアリルトランスフェラーゼ酵素活性)の結果の特定の態様である。一般的に、当業者は、グリコシルトランスフェラーゼ酵素反応を実行可能である(=「グリコシルトランスフェラーゼ酵素活性を許容する」)水性緩衝液が、特にpH6〜pH8のpH範囲、より具体的にはpH6〜pH7の範囲に緩衝可能な、さらにより具体的には約pH6.5の溶液に緩衝可能な、Tris、MES、リン酸塩、酢酸塩、または別の緩衝塩などの緩衝塩を用いて緩衝される必要があることを認識する。緩衝剤はさらに、限定されるわけではないがNaClなどの中性塩を含有することも可能である。さらに、特定の態様において、当業者は、二価イオン、例えばMg2+またはMn2+を含む塩、例えば限定されるわけではないがMgClおよびMnClを水性緩衝液に添加することを考慮することも可能である。当該技術分野に知られるグリコシルトランスフェラーゼ酵素活性を許容する条件には、周囲温度(室温)が含まれるが、より一般的には、0℃〜40℃、特に10℃〜30℃、特に20℃の範囲の温度が含まれる。
【0039】
用語「グリカン」は、多糖またはオリゴ糖、すなわち、酸加水分解に際して、複数の単糖を生じる多量体化合物を指す。糖タンパク質は、典型的にはアスパラギンまたはアルギニンを通じて(「N連結グリコシル化」)あるいはセリンまたはスレオニンを通じて(「O連結グリコシル化」)、ポリペプチド鎖の側鎖に共有結合している、1またはそれより多くのグリカン部分を含む。
【0040】
複雑なグリカン構造の酵素的合成のためのグリコシルトランスフェラーゼの使用は、複雑な生理活性糖タンパク質を得るための魅力的なアプローチである。例えば、Barbら Biochemistry 48(2009)9705−9707は、単離されたヒトST6Gal−Iを用いて、免疫グロブリンGのFc断片の非常に強力なシアル酸付加型Fc断片を調製した。しかし、糖タンパク質の療法的適用に対する関心が大きくなるにつれて、シアリルトランスフェラーゼを含むグリコシルトランスフェラーゼへの要求は増加しつつある。糖タンパク質のシアル酸付加を増加させるかまたは修飾する異なる戦略は、Bork K.ら J. Pharm. Sci. 98(2009)3499−3508に記載された。魅力的な戦略は、組換え産生タンパク質(例えば限定されるわけではないが、免疫グロブリンおよび増殖因子)、特に療法タンパク質のin vitroシアル酸付加である。この目的に向けて、いくつかの研究グループが、形質転換生物におけるシアリルトランスフェラーゼの発現、および組換え産生シアリルトランスフェラーゼの精製を記載した。原核生物起源のグリコシルトランスフェラーゼは、通常、複雑な糖タンパク質(例えば抗体)に対しては作用しないため、哺乳動物起源由来のシアリルトランスフェラーゼが優先して研究された。
【0041】
本開示、および本文書のすべての側面、ならびに本明細書の側面および態様の対象である特定の糖タンパク質は、限定なしに、細胞表面糖タンパク質および血清中に可溶性型で存在する糖タンパク質(「血清糖タンパク質」)、特に哺乳動物起源である糖タンパク質を含む。「細胞表面糖タンパク質」は、該糖タンパク質の部分が、表面糖タンパク質のポリペプチド鎖の膜係留部分によって、膜表面上に位置し、そして膜表面に結合しており、膜が生物学的細胞の一部である、糖タンパク質と理解される。用語「細胞表面糖タンパク質」はまた、細胞表面糖タンパク質の単離型、ならびに例えばタンパク質分解的切断によって、またはこうした可溶性断片の組換え産生によって、膜係留部分から分離されている、その可溶性断片も含む。「血清糖タンパク質」は、血清中に存在する糖タンパク質、すなわち全血の非細胞部分、例えば細胞性血液構成要素の沈降後の上清中に存在する血液タンパク質と理解される。限定なしに、具体的に考慮され、そして具体化される血清糖タンパク質は、免疫グロブリンである。本明細書に言及する特定の免疫グロブリンは、IgG群(ガンマ重鎖によって特徴付けられる)、特に任意の4つのIgG下位群に属する。本明細書の開示、側面および態様に関して、用語「血清糖タンパク質」はまた、モノクローナル抗体を含み;人工的なモノクローナル抗体は、当該技術分野に周知であり、そして例えばハイブリドーマ細胞により、または形質転換宿主細胞を用いて組換え的に、産生可能である。さらなる血清特異的糖タンパク質は、キャリアータンパク質、例えば血清アルブミン、フェチュイン、またはフェチュインがメンバーであるヒスチジンリッチ糖タンパク質スーパーファミリーの別の糖タンパク質メンバーである。さらに、限定なしに、本明細書のすべての開示、側面および態様に関して、具体的に考慮され、そして具体化される血清糖タンパク質は、グリコシル化タンパク質シグナル伝達分子である。この群の特定の分子は、エリスロポエチン(EPO)である。
【0042】
糖タンパク質のin vitro操作のため、グリコシルトランスフェラーゼを効率的なツールとして使用可能である(Weijers 2008)。哺乳動物起源のグリコシルトランスフェラーゼは基質としての糖タンパク質と適合する一方、細菌グリコシルトランスフェラーゼは、通常、オリゴ糖のようなより単純な基質を修飾する。このため、糖タンパク質のグリカン部分における合成変化は、都合よくは、選択ツールとして哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼを用いて行われる。しかし、糖鎖工学において、グリコシルトランスフェラーゼを大規模適用するためには、適切な酵素が多量に(すなわち産業量で)入手可能であることが必要である。本明細書の開示は、特に、1またはそれより多いアクセス可能なガラクトシル基質部分を持つターゲット糖タンパク質の定量的に調節されたin vitroシアル酸付加のために使用可能な、(i)hST6Gal−Iシアリルトランスフェラーゼ活性および(ii)シアリダーゼ活性を持つタンパク質を提供する。適切なターゲットには、一方で、アシアロ糖タンパク質、すなわちシアリダーゼの作用によってシアル酸残基が除去されている糖タンパク質が含まれる。もう一方で、二シアル酸付加糖タンパク質はシアリダーゼ活性の基質として働きうる。非常に好適なことに、アシアロ、一シアル酸付加および二シアル酸付加免疫グロブリンが特異的な基質であり、特にIgGクラスの免疫グロブリンがそうである。
【0043】
メチロトローフ酵母、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)において野生型hST6Gal−Iを発現させ、そして宿主生物の分泌経路に対して、発現されるポリペプチドをターゲティングする一方、組換え産生hST6Gal−Iの異なる一部切除変異体を観察した。一般的に、hST6Gal−I由来タンパク質をクロマトグラフィ精製し、そして特に質量分析によって、そしてN末端からのアミノ酸配列を決定する(エドマン分解)することによって分析した。これらの手段によって、hST6Gal−Iの一部切除、特にN末端一部切除を詳細に性質決定した。
【0044】
いくつかの顕著な一部切除変異体が、形質転換ピキア属株の上清中で同定された。変異体は、おそらく、酵母細胞からの分泌経過中の部位特異的タンパク質分解的切断から生じうるか、あるいは培養ピキア属株の上清中に存在する1またはそれより多い細胞外プロテアーゼによるタンパク質内分解的(endoproteolytic)切断から生じうる。
【0045】
同定される一部切除変異体各々は、「デルタ」(=「Δ」)表示を与えられ、これは、配列番号1に記載する野生型hST6Gal−IポリペプチドのN末端から数えたそれぞれの一部切除欠失の最後のアミノ酸位の数字を示す。hST6Gal−Iの特定のN末端一部切除変異体Δ89をより詳細に研究した。
【0046】
原核生物、例えば大腸菌およびバチルス属種(Bacillus sp.)、酵母、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)およびピキア・パストリス、ならびに哺乳動物細胞、例えばCHO細胞およびHEK細胞を含む、多様な宿主生物における、hST6Gal−I野生型タンパク質の、ならびにΔ89一部切除変異体の発現のために、発現ベクターを構築した。hST6Gal−IのΔ89一部切除変異体のための発現構築物を含むベクターを分子的に組み立て、それによって、いくつかの発現系におけるヒトST6Gal−IのΔ89変異体を組換え的に産生する手段を提供する。組換え的に発現された酵素、すなわち一部切除変異体の精製を容易にするため、構築物にコードされるポリペプチドには、場合によって、N末端Hisタグが含まれた。
【0047】
特定の一連の実験において、ピキア・パストリス株KM71Hにおける増殖のため、発現構築物をベクター内に挿入した。発現は、典型的には、AOX1プロモーターなどの誘導性プロモーターによって調節された。発現された一次翻訳産物を形質転換宿主の分泌経路にターゲティングすることが可能なリーダーペプチドに、Hisタグ化一部切除変異体をさらに融合させた。翻訳後プロセシングには、したがって、Hisタグ化一部切除変異体の周囲培地内への分泌が含まれ、一方、リーダーペプチドは、分泌機構のエンドプロテアーゼによって切断された。
【0048】
形質転換ピキア属細胞を典型的には液体培地中で培養する。発現誘導後、形質転換細胞を特定の時間培養して、それぞれのターゲットタンパク質を産生した。培養工程の終結後、細胞および培養中に存在する他の不溶性物質を、上清から分離した。透明な上清中の一部切除変異体Δ89 hST6Gal−Iを分析した。しかし、Ni−キレートアフィニティマトリックスを装填したクロマトグラフィカラムを用いて、上清から酵素を精製しようとする試みは、活性酵素がカラム上に保持されず、フロースルー中に見られたため、失敗した。陽イオン交換樹脂を用いた酵素(野生型および変異体)の精製は、にもかかわらず、非常に濃縮された酵素調製物を生じた。しかしこの精製法は、一般的に、酵素活性に負に影響を及ぼすようであった。
【0049】
本明細書に開示するような側面、およびすべての他の側面の特定の態様は、糖タンパク質中のグリカンのN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分のα2,6グリコシド結合の加水分解を触媒可能な変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼである。特に、変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼは、糖タンパク質グリカン中のN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分のα2,6グリコシド結合の形成を触媒し、それによって、遊離N−アセチルノイラミン酸を生成可能である。本明細書に開示するようなすべての側面の特定の態様において、α2,6グリコシド結合の加水分解を触媒可能な変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼは、哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ由来であり、配列番号1記載のヒトβ−ガラクトシド−α2,6−シアリルトランスフェラーゼIからアミノ酸欠失によって得られ、前記配列はN末端からの欠失によって一部切除されている。本明細書に開示するようなすべての側面のさらなる特定の態様において、N末端からの一部切除欠失は、配列番号1の1位〜89位の連続配列である。
【0050】
本明細書に開示するような別の側面、およびすべての他の側面の特定の態様は、本明細書に開示するような任意の態様にしたがった、変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼのポリペプチドを含む融合ポリペプチドである。融合タンパク質または融合ポリペプチドは、2またはそれより多いポリペプチドのアミノ酸配列を含むキメラポリペプチドである。2またはそれより多いポリペプチドは、相補的機能を有してもよく、ポリペプチドの一方は、補助的な機能的特性を提供してもよいし、またはポリペプチドの一方は、融合ポリペプチド中の他のものとは関連しない機能を有してもよい。細胞内小器官ターゲティングまたは保持配列を含む1またはそれより多いポリペプチドを、望ましいポリペプチドと融合させて、特定の細胞性小器官に望ましいポリペプチドをターゲティングするか、または望ましいポリペプチドを細胞内に保持することも可能である。融合ポリペプチドの発現、精製および/または検出を補助するキャリアー配列を含む1またはそれより多いポリペプチドを、望ましいポリペプチド(例えばFLAG、mycタグ、6xHisタグ、GST融合体等)と融合させてもよい。特定の融合パートナーには、融合ポリペプチドを発現させる宿主生物の分泌経路に融合ポリペプチドの変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ部分を導くことが可能な、N末端リーダーペプチドが含まれる。それによって、細胞外空間および周囲培地中の分泌が促進される。さらに、本明細書に開示するような別の側面、およびすべての他の側面の特定の態様は、本明細書に開示するような任意の態様にしたがった変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ、または本明細書に開示するような任意の態様にしたがって変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼを部分として含む融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列である。本明細書に開示するようなすべての側面の特定の態様において、ヌクレオチド配列には、配列番号3の95位〜1048位の配列が含まれる。
【0051】
さらに、本明細書に開示するような別の側面、およびすべての他の側面の特定の態様は、ターゲット遺伝子、および発現ベクターで形質転換された宿主生物におけるターゲット遺伝子の発現を促進する配列を含む、発現ベクターであり、ここで、ターゲット遺伝子は、本明細書に開示するようなヌクレオチド配列を含む。
【0052】
さらに、本明細書に開示するような別の側面、およびすべての他の側面の特定の態様は、形質転換された宿主生物であり、ここで、宿主生物は、本明細書に開示するような発現ベクターで形質転換されている。特に都合よくは、ヒト胚性腎臓293(HEK)細胞を用いて、本明細書に開示するような解説を実施することも可能である。これらの細胞の特定の利点は、これらが、トランスフェクション、それに続く培養、およびターゲット遺伝子の一過性発現に非常に適したターゲットであることである。したがって、HEK細胞を効率的に用いて、組換え発現によって、ターゲットタンパク質を産生することも可能である。非常に都合よくは、発現構築物が翻訳産物を、分泌経路に導くように設計して、本明細書に開示するような変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼまたは融合ポリペプチドの分泌を導く。にもかかわらず、Jurkat、NIH3T3、HeLa、COSおよびチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、周知の代替物であり、そして形質転換および本明細書に開示するようなすべての側面の特定の態様のための代替宿主生物として本明細書に含まれる。
【0053】
さらに、本明細書に開示するような別の側面、およびすべての他の側面の特定の態様は、変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼを組換え的に産生する方法であって、本明細書に開示するような変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を、発現ベクターで形質転換された宿主生物において発現し、ここでポリペプチドが形成され、それによって変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼを産生する工程を含む、前記方法である。
【0054】
先の知見にしたがって、グリコシルトランスフェラーゼのN末端一部切除変異体は、膜貫通ドメインを欠如しているため、in vitroで好適に用いられる。したがって、こうした変異体は、溶液中でグリコシルトランスフェラーゼ反応を触媒し、そして実行するために有用である。驚くべきことに、特に、N末端一部切除変異体Δ89 hST6Gal−Iは、例えばグリコシル化抗体とインキュベーションした際に、in vitroで異なる活性を提示することが見出され、そして本明細書において、これを開示する。したがって、本開示の特定の態様ならびに本明細書のすべての側面および態様は、二シアル酸付加糖タンパク質、すなわち糖タンパク質の1またはそれより多いグリカン部分に2つの別個の末端N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分を含む糖タンパク質のN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分のα2,6グリコシド結合の加水分解を触媒可能な変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼである。特定の態様において、1つのみのα2,6グリコシド結合を加水分解する。さらに特定の態様において、二シアル酸付加糖タンパク質は、二シアル酸付加IgG免疫グロブリンである。
【0055】
例示的な例として、IgG−FcグリカンG2は、アンテナ分枝の末端に2つのガラクトース部分を有し、これはシアル酸付加可能である。適切な反応条件下で、N末端一部切除変異体Δ89 hST6Gal−Iは、二シアル酸付加G2グリカン(G2+2SA)を含むIgGの合成を、免疫グロブリンFc部分で触媒する。しかし、インキュベーション時間を延長した際、酵素変異体は、二シアル酸付加(G2+2SA)抗体から1つのシアル酸部分を除去することが可能なシアリダーゼとして作用し、一シアル酸付加(G2+1SA)抗体を生じる。この活性は、予期せず発見され、そして内因性のシアリダーゼ(ノイラミニダーゼ)活性に相当するようであり、これまでのところ、哺乳動物ST6Gal−I酵素に関しては記載されてきていない。
【0056】
ヒトST6Gal−Iに関する基本的な刊行物において、該酵素は、いかなるシアリダーゼ活性も含有しないと言及された。Sticherら Glycoconjugate Journal 8(1991)45−54を参照されたい。本発明の驚くべき発見の観点から、同じ酵素を使用して、そして酵素の反応動力学を調節することで、一または二シアル酸付加グリカンを含む糖タンパク質を優先的に合成することが可能になる。さらなる利点は、両方の活性、シアル酸付加活性およびシアリダーゼ活性が、同じ酵素によって、同じ反応容器中で提供されることである。
【0057】
本開示中に文書化される一般的な発見は、しかし、糖タンパク質中のグリカンのN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分のα2,6グリコシド結合の加水分解を触媒可能な、変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ、特に本開示にしたがったグリコシルトランスフェラーゼが存在することである。驚くべき発見は、すでに知られるシアリルトランスフェラーゼ(シアル酸付加)活性に加えて、少なくとも配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIに関して特に示されるように、慣用的なシアリルトランスフェラーゼだけでなく、この酵素によって仲介されるシアリダーゼ酵素活性もあることであった。興味深いことに、例示的な例において、これらの2つの活性は同時には観察されず、これは部分的に、予期せぬ発見を説明する可能性がある。図2に示すように、シアリルトランスフェラーゼ活性は、最初に優先的であり、そしてシアリダーゼ活性は、インキュベーション中の後の段階のみで明らかとなり、この理由はこの時点では明らかでない。にもかかわらず、同じ酵素の2つの別個の活性の明らかな認識は、例えばインキュベーション時間を変化させることによって、ターゲット分子のシアル酸付加の度合いを調節することを可能とする。
【0058】
したがって、本明細書に開示するような別の側面、およびすべての他の側面の特定の態様は、本明細書に開示するような変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ、特にN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分であって、シアル酸付加糖タンパク質または糖脂質中のグリカンの末端構造である前記部分におけるα2,6グリコシド結合を加水分解するための、配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIの使用である。特定の態様において、シアル酸付加糖タンパク質または糖脂質は、それぞれ、二シアル酸付加糖タンパク質または糖脂質である。
【0059】
こうした使用の特定の態様、およびさらに本明細書に開示するようなすべての側面の別の態様は、N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分であって、シアル酸付加糖タンパク質または糖脂質中のグリカンの末端構造である前記部分におけるα2,6グリコシド結合を加水分解する方法であって、(a)前記糖タンパク質のグリカン部分において末端N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分を含むシアル酸付加糖タンパク質または糖脂質を、水溶液中で提供し;そして(b)N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分と、本明細書に開示するような変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼをインキュベーションし;それによって、N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分中のα2,6グリコシド結合を加水分解する工程を含む、前記方法である。特に、加水分解反応によって放出されるシアリル残基を、α2,6結合で、グリカン中のアンテナ構造の末端にあるβ−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミンに連結する。
【0060】
特定の態様において、そして特定の利点を伴い、変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼは、配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIである。さらなる特定の態様において、加水分解反応およびグリコシルトランスフェラーゼ活性の触媒は、競合様式で行われる。しかし、シアル酸付加のため、2またはそれより多いアクセプター部位を持つ基質ターゲット分子を考慮すると、反応を促進するために利用可能な十分なドナー化合物がある限り、グリコシルトランスフェラーゼ活性によって、すべての可能な部位がシアル酸付加されるようになる点は注目に値する。配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIのこの特性を本開示に例示する。したがって、二シアル酸付加IgG分子は主に、8時間続くシアル酸付加反応の例示的なインキュベーションにおいて得られる。しかし、8時間またはそれより長いインキュベーション時間後、増加する量の一シアル酸付加IgG分子が観察された。一つのありうる結論は、一および二シアル酸付加IgG分子の比が2つの競合反応:トランスファーおよび加水分解の動的平衡の結果であるというものでありうる。あるいは、シアル酸反応混合物中の条件は、例えばドナー化合物枯渇のありうる結果として、時間とともに変化しうる。にもかかわらず、一シアル酸付加IgG分子の実質的な量は、例示されるように、72時間の長期インキュベーション後であっても保持される。
【0061】
本明細書に開示するようなすべての側面の特定の態様において、調節された量のシアリル残基を含むシアル酸付加ターゲット分子をin vitroで産生する方法であって
、(a)水溶液中、およびグリコシルトランスフェラーゼ酵素活性を許可する条件下で、グリコシル化ターゲット分子を提供し、ここで、ターゲット分子が糖タンパク質および糖脂質より選択され、ターゲット分子が、複数のアンテナを含み、アンテナの少なくとも2つが各々、末端構造として、ガラクトシル残基中のC6位でヒドロキシル基を含むβ−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分を有し;(b)工程(a)のターゲット分子を、第一のあらかじめ決定された時間に渡って、配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIと、そしてドナー化合物として、シチジン−5’−モノホスホ−N−アセチルノイラミン酸、またはその機能的同等物の存在下で、インキュベーションすることによって、1またはそれより多い末端アンテナN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン残基を形成し、それによってシアル酸付加ターゲット分子を提供し;工程(b)のシアル酸付加ターゲット分子を、第二のあらかじめ決定された時間に渡って、配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIとインキュベーションすることによって、1またはそれより多い末端アンテナN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン残基中のα2,6グリコシド結合を加水分解し;それによって、調節された量のシアリル残基を含むシアル酸付加ターゲット分子をin vitroで産生する工程を含む、前記方法を提供する。
【0062】
こうして調節されたシアル酸付加は、望ましい度合いのシアル酸付加を伴う、一、二およびより高次のシアル酸付加糖タンパク質をin vitroで合成する新規手段として提供される。したがって、IgG分子で望ましい技術的効果を示すことによって例示されるが、本明細書中の開示にしたがった使用はまた、グリコシルトランスフェラーゼ活性に関して、糖タンパク質が、2またはそれより多い末端アンテナβ−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分を含むという条件で、類似の方式で、他の糖タンパク質をプロセシングすることも可能にする。同じ論拠は、糖脂質にも類似の方式で適用される。
【0063】
特定の例において、G2+0SA(アクセプター部位にシアル酸付加なし)として特徴付けられる、組換えヒト化IgG1およびIgG4モノクローナル抗体(mab)、ならびにEPO(=エリスロポエチン)を、シアル酸付加実験において、ターゲットとして用いた(30μg酵素/300μgターゲットタンパク質)。Δ89 hST6Gal−Iを標準的反応条件下で用い、そしてG2+0SA、G2+1SA(一シアル酸付加)およびG2+2SA(二シアル酸付加)状態を質量分析によって分析した。
【0064】
発現率が高く、そして効率的な精製法があるため、Δ89 hST6Gal−Iは、大量に、そして高純度で入手可能である。変異体酵素は、モノクローナル抗体がその単なる一例である、高分子量基質で活性である。インキュベーション時間に応じて、Δ89 hST6Gal−Iは基質として二アンテナ性グリカンを伴うモノクローナル抗体を用いたシアル酸付加実験において、異なる性能を示す。変異体Δ89を用いると、より短いインキュベーション期間後は、好ましくは二シアル酸付加グリカンが非常に好適に得られる一方、Δ89を用いた同一の条件下で、より長いインキュベーション期間後は、一シアル酸付加グリカンが得られる。
【0065】
四アンテナグリカンもまた、基質として許容される(データ未提示)。結果は、どちらの変異体も療法抗体のin vitro糖鎖工学のために成功裡に使用可能であることを立証する。
【0066】
本明細書に提供するような解説を実施することによって、ヒトST6−Gal−Iの組換えΔ89変異体は、より多量に入手可能な酵素である。すでに入手可能なドナー基質(補助基質として用いる活性化糖)とともに、タンパク質の定量的に調節されたin vitro糖鎖工学のための試薬の非常に好適なセットが提供される。
【0067】
以下の項目はさらに、開示の特定の側面、および本明細書に提供する解説を実施するための特定の態様を提供する。
1. 糖タンパク質において、グリカンのN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分のα2,6グリコシド結合の加水分解を触媒することが可能な変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ。
【0068】
2. 糖タンパク質グリカンにおけるN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分のα2,6グリコシド結合の形成を触媒することがさらに可能である、項目1記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ。
【0069】
3. 加水分解が遊離N−アセチルノイラミン酸を生成する、項目1および2のいずれか記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ。
4. 糖タンパク質グリカンの部分である、アクセプター基β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミンの末端ガラクトシル残基中のC6位のヒドロキシル基と、ドナー化合物シチジン−5’−モノホスホ−N−アセチルノイラミン酸のN−アセチルノイラミン酸残基を反応させることによって、α2,6グリコシド結合の形成を達成する、項目1〜3のいずれか記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ。
【0070】
5. 変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼが、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼI由来のアミノ酸交換またはアミノ酸欠失によって得られる、項目1〜3のいずれか記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ。
【0071】
6. 変異体ポリペプチドが、N末端からの欠失によって一部切除された、配列番号1記載のアミノ酸配列を有する野生型哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列を含む、項目5記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ。
【0072】
7. N末端からの欠失が、配列番号1の1位〜89位の配列である、項目6記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ。
8. 変異体ポリペプチドが配列番号2のアミノ酸配列である、項目6および7のいずれか記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ。
【0073】
9. 変異体ポリペプチドのN末端またはC末端がアフィニティタグに融合している、項目1〜8のいずれか記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ。
10. アフィニティタグが、4、5、6またはそれより多い連続ヒスチジン残基を含む、項目9記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ。
【0074】
11. ペプチダーゼ切断部位が、アフィニティタグおよび変異体ポリペプチドのN末端またはC末端の間に位置する、項目9および10のいずれか記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ。
【0075】
12. 変異体ポリペプチドがN末端メチオニン残基をさらに含む、項目1〜11のいずれか記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ。
13. 項目1〜12のいずれか記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼのポリペプチドを含む、融合ポリペプチド。
【0076】
14. 項目1〜12のいずれか記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼのポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列。
15. 項目1〜12のいずれか記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼのポリペプチドを含む融合ポリペプチドのポリペプチドをコードする、ヌクレオチド配列。
【0077】
16. 発現ベクターで形質転換されている宿主生物において、ターゲット遺伝子の発現を促進する配列に機能可能であるように連結されたターゲット遺伝子を含む発現ベクターであって、ターゲット遺伝子が、項目14および15のいずれか記載のヌクレオチド配列を含む、前記発現ベクター。
【0078】
17. 項目16記載の発現ベクターで形質転換されている、形質転換宿主生物。
18. 生物が酵母細胞および哺乳動物細胞より選択される、項目17記載の形質転換宿主生物。
【0079】
19. 生物が、HEK細胞、Jurkat細胞、NIH3T3細胞、COS細胞、CHO細胞、およびHeLa細胞からなる群より選択される哺乳動物細胞である、項目19記載の形質転換宿主生物。
【0080】
20. 糖タンパク質におけるグリカンのN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分のα2,6グリコシド結合の加水分解を触媒可能な変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼを組換え的に産生する方法であって、項目1〜12のいずれか記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を、形質転換宿主生物において発現し、ここでポリペプチドが形成され、それによって変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼを産生する工程を含む、前記方法。
【0081】
21. 産生された酵素が、宿主生物から分泌される、項目20記載の方法。
22. 宿主生物が真核細胞である、項目20および21のいずれか記載の方法。
23. 宿主生物が、酵母細胞および哺乳動物細胞より選択される、項目22記載の方法。
【0082】
24. 宿主生物が、HEK細胞、COS細胞、CHO細胞、およびHeLa細胞からなる群より選択される哺乳動物細胞である、項目23記載の方法。
25. 変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼを精製する、項目20〜24のいずれか記載の方法。
【0083】
26. シアル酸付加糖タンパク質または糖脂質におけるグリカンの末端構造である、N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分におけるα2,6グリコシド結合を加水分解するための、項目1〜12のいずれか記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼ、または項目13記載の融合タンパク質の使用。
【0084】
27. 変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼが、配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIである、項目26記載の使用。
【0085】
28. 糖タンパク質が、細胞表面糖タンパク質、グリコシル化タンパク質シグナル伝達分子、グリコシル化免疫グロブリン、およびウイルス起源のグリコシル化タンパク質からなる群より選択される、項目26および27のいずれか記載の使用。
【0086】
29. 糖タンパク質が、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、EPO、およびアシアロフェチュインからなる群より選択される、項目26および27のいずれか記載の使用。
【0087】
30. N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分におけるα2,6グリコシド結合を加水分解する方法であって、該部分はシアル酸付加糖タンパク質または糖脂質中のグリカンの末端構造であり、該方法は、
(a)前記糖タンパク質のグリカン部分において末端N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分を含むシアル酸付加、および特定の態様において、二シアル酸付加糖タンパク質または糖脂質を、水溶液中で提供し;
(b)N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分と、項目1〜12のいずれか記載の変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼをインキュベーションし;
それによって、N−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分中のα2,6グリコシド結合を加水分解する
工程を含む、前記方法。
【0088】
31. 変異体哺乳動物グリコシルトランスフェラーゼが、配列番号2のアミノ酸配列を有する、N末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIである、項目30記載の方法。
【0089】
32. 糖タンパク質が、細胞表面糖タンパク質、グリコシル化タンパク質シグナル伝達分子、グリコシル化免疫グロブリン、およびウイルス起源のグリコシル化タンパク質からなる群より選択される、項目30および31のいずれか記載の方法。
【0090】
33. 工程(a)を、グリコシルトランスフェラーゼ酵素活性を許可する条件下で実行する、項目30〜32のいずれか記載の方法。
34. 工程(b)を、グリコシルトランスフェラーゼ酵素活性を許可する条件下で実行する、項目30〜33のいずれか記載の方法。
【0091】
35. 調節された量のシアリル残基を含むシアル酸付加ターゲット分子をin vitroで産生する方法であって
(a)水溶液中、およびグリコシルトランスフェラーゼ酵素活性を許可する条件下で、グリコシル化ターゲット分子を提供し、ここで、ターゲット分子が糖タンパク質および糖脂質より選択され、ターゲット分子が、複数のアンテナを含み、アンテナの少なくとも2つが各々、末端構造として、ガラクトシル残基中のC6位でヒドロキシル基を含むβ−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分を有し;
(b)工程(a)のターゲット分子を、第一のあらかじめ決定された時間に渡って、配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIと、そしてドナー化合物として、シチジン−5’−モノホスホ−N−アセチルノイラミン酸、またはその機能的同等物の存在下で、インキュベーションすることによって、1またはそれより多い1またはそれより多い末端アンテナN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン残基を形成し、それによって、シアル酸付加ターゲット分子を提供し;
(c)工程(b)のシアル酸付加ターゲット分子を、第二のあらかじめ決定された時間に渡って、配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIとインキュベーションすることによって、1またはそれより多い末端アンテナN−アセチルノイラミニル−α2,6−β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン残基中のα2,6グリコシド結合を加水分解し;
それによって、調節された量のシアリル残基を含むシアル酸付加ターゲット分子をin vitroで産生する
工程を含む、前記方法。
【0092】
36. 工程(b)および(c)の間に、ターゲット分子のシアル酸付加を定量的に決定する、項目35記載の方法。
37. 工程(c)の後、ターゲット分子のシアル酸付加を定量的に決定する、項目35および36のいずれか記載の方法。
【0093】
38. 工程(a)、(b)および(c)を、同じ容器中で連続して行う、項目35〜37のいずれか記載の方法。
39. ターゲット分子が、精製免疫グロブリン分子である、項目35〜38のいずれか記載の方法。
【0094】
40. 単一の免疫グロブリン分子が2つのアンテナを含み、各アンテナが、ガラクトシル残基中のC6位にヒドロキシル基を伴う末端構造β−D−ガラクトシル−1,4−N−アセチル−β−D−グルコサミン部分を有する、項目39記載の方法。
【0095】
41. 免疫グロブリン分子がIgGクラスのものである、項目40記載の方法。
42. 測定した量のターゲット分子を用いて、工程(a)、(b)および(c)を、同じ容器中で連続して行う、ここで工程(b)を0時間〜約24時間行い、そして続く工程(c)を0時間行い、そしてここで、二シアル酸付加ターゲット分子の相対量が約35%〜約90%である、項目41記載の方法。
【0096】
43. 工程(b)を約0時間〜約2時間行い、そして二シアル酸付加ターゲット分子の相対量が約80%〜約90%である、項目42記載の方法。
44. 工程(b)を約2時間〜約8時間行い、そして二シアル酸付加ターゲット分子の相対量が約80%〜約90%である、項目42記載の方法。
【0097】
45. 一シアル酸付加ターゲット分子の相対量が約10%〜約60%である、項目42〜44のいずれか記載の方法。
46. 一シアル酸付加ターゲット分子の相対量が約10%〜約15%である、項目43および44のいずれか記載の方法。
【0098】
47. 測定した量のターゲット分子を用いて、工程(a)、(b)および(c)を、同じ容器中で連続して行う、ここで工程(b)を24時間行い、そして続く工程(c)を0時間〜約72時間またはそれより長く行い、そしてここで、一シアル酸付加ターゲット分子の相対量が約60%〜約75%である、項目41記載の方法。
【0099】
48. 工程(c)を約0時間〜24時間行い、そして一シアル酸付加ターゲット分子の相対量が約60%〜約70%である、項目47記載の方法。
49. 工程(c)を約24時間〜48時間行い、そして一シアル酸付加ターゲット分子の相対量が約70%〜約75%である、項目47記載の方法。
【0100】
50. 二シアル酸付加ターゲット分子の相対量が約20%〜約35%である、項目47〜49のいずれか記載の方法。
51. 二シアル酸付加ターゲット分子の相対量が約10%〜約20%である、項目48および49のいずれか記載の方法。
【0101】
52. ターゲット(免疫グロブリン)分子:ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼI分子の重量対重量[w/w]比が10:1であり、各々が80%またはそれより高い相対純度を有する、項目42〜49のいずれか記載の方法。
【0102】
53. ターゲット分子がIgGクラスの免疫グロブリン分子であり、ここで、二シアル酸付加ターゲット分子の量が約35%〜約90%であり、調製物が項目41〜46のいずれか記載の方法によって得られる、グリコシル化ターゲット分子の調製物。
【0103】
54. ターゲット分子がIgGクラスの免疫グロブリン分子であり、ここで、一シアル酸付加ターゲット分子の量が約60%〜約75%であり、調製物が項目47〜51のいずれか記載の方法によって得られる、グリコシル化ターゲット分子の調製物。
【0104】
55. ターゲット分子がIgGクラスの免疫グロブリン分子であり、ここで、一および二シアル酸付加ターゲット分子の量が調節された量であり、調製物が項目41〜51のいずれか記載の方法によって得られる、シアル酸付加ターゲット分子の調製物。
【0105】
56. 薬学的組成物を調製するための、項目55記載のシアル酸付加免疫グロブリン分子の調製物の使用。
57.調節された量のシアリル残基を含むシアル酸付加ターゲット分子をin vitroで産生する方法であって、項目35〜52のいずれか記載の方法を実行する工程を含み、工程(c)の後に、測定された量のシチジン三リン酸(CTP)を水溶液に添加し、それによって配列番号2のアミノ酸配列を有するN末端一部切除ヒトβ−ガラクトシド−α−2,6−シアリルトランスフェラーゼIを阻害し、それによって調節された量のシアリル残基を含むシアル酸付加ターゲット分子をin vitroで産生する工程を含む工程(d)が続く、前記方法。
【0106】
58. 水溶液中のCTP濃度が0.5mM〜1.5mMであり、そして特に約0.67mMである、項目57記載の方法。
【実施例】
【0107】
以下の実施例は、開示の特定の態様、およびその多様な使用の例示である。これらは、例示目的のために示し、そして開示を限定するとは解釈されないものとする。
実施例1
シアリルトランスフェラーゼ酵素活性のための試験
アシアロフェチュイン(脱シアル酸化フェチュイン、Roche Applied Science)をアクセプターとして用い、そしてCMP−9−フルオロ−NANA(CMP−9−フルオレセイニル−NeuAc)をドナー基質として用いた(Brossmer, R. & Gross H.J.(1994)Meth. Enzymol. 247, 177−193)。ドナー化合物からアシアロフェチュインへのシアル酸のトランスファーを測定することによって、酵素活性を決定した。反応混合物(35mM MES、pH6.0、0.035%Triton X−100、0.07%BSA)は、51μLの総体積中、2.5μgの酵素試料、5μLアシアロフェチュイン(20mg/ml)および2μL CMP−9−フルオロ−NANA(1.0mg/ml)を含有した。反応混合物を37℃で30分間インキュベーションした。10μLの阻害剤CTP(10mM)を添加することによって反応を停止した。0.1M Tris/HCl、pH8.5で平衡化したPD10脱塩カラム上に、反応混合物を装填した。平衡緩衝液を用いて、カラムからフェチュインを溶出させた。分画サイズは1mLであった。蛍光分光計を用いて、形成されたフェチュイン濃度を決定した。励起波長は490nmであり、発光を520nmで測定した。酵素活性をRFU(相対蛍光単位)として表した。10000RFU/μgは、0.0839nmol/μgx分の比活性に同等である。
【0108】
実施例2
SDSゲル電気泳動
NuPAGEゲル(4〜12%、Invitrogen)を用いて、分析SDSゲル電気泳動を行った。試料(36μl)を12μl NuPAGE LDS試料緩衝液(Invitrogen)で希釈し、そして85℃で2分間インキュベーションした。典型的には5μgタンパク質を含有するアリコットをゲル上に装填した。SimplyBlue SafeStain(Invitrogen)を用いて、ゲルを染色した。
【0109】
実施例3
エドマン分解によるN末端配列決定
Life Technologiesから得た試薬およびデバイスを用いたエドマン分解によって、ヒトST6Gal−Iの発現された変異体のN末端配列を分析した。ProSorb試料調製カートリッジ(カタログ番号401950)およびProBlott Mini PK/10膜(カタログ番号01194)の取扱説明書に記載されるように試料調製を行った。配列決定のため、Prociseタンパク質配列決定プラットフォームを用いた。
【0110】
実施例4
質量分析
HEK細胞中で発現させたヒトST6Gal−Iの変異体の分子マスを質量分析において分析した。したがって、ヒトST6Gal−Iのグリコシル化および脱グリコシル化型を調製し、そしてMicromass Q−Tof UltimaおよびSynapt G2 HDMSデバイス(Wakers 英国)およびMassLynx V 4.1ソフトウェアを用いて分析した。
【0111】
実施例5
グリコシル化ヒトST6Gal−I酵素の質量分析
質量分析測定のため、試料をエレクトロスプレー培地(20%アセトニトリル+1%ギ酸)中で緩衝した。illustraTM MicroSpinTM G−25カラム(GE−Healthcare)で緩衝液交換を行った。1mg/ml濃度の20μgシアリルトランスフェラーゼ変異体を、あらかじめ平衡化したカラムに適用し、そして遠心分離によって、溶出させた。生じた溶出液をエレクトロスプレーイオン化質量分析によって分析した。
【0112】
実施例6
脱グリコシル化ヒトST6Gal−I酵素の質量分析
脱グリコシル化のため、シアリルトランスフェラーゼの試料を変性させ、そして還元した。100μgのシアリルトランスフェラーゼに、45μL変性緩衝液(6Mグアニジニウム塩酸)および13μL TCEP(0.1mM、変性緩衝液中に希釈)を添加した。さらに、適切な体積の超純水を添加し、グアニジニウム塩酸の全体の濃度が約4Mになるようにした。試料を37℃で1時間インキュベーションした後、あらかじめ超純水で平衡化したSpinR 6 Trisカラム(Bio Rad)を用いて、緩衝液を交換した。全試料をカラム上に適用し、そして遠心分離によって溶出させた。生じた溶出液に、5.5μlの0.1U/μl溶液のPNGアーゼFを添加し、そして37℃で一晩インキュベーションした。その後、試料を30%ACNおよび1%FAに調節し、そしてエレクトロスプレーイオン化質量分析によって分析した。
【0113】
実施例7
哺乳動物宿主細胞における一過性遺伝子発現(TGE)のためのpM1MT発現構築物のクローニング
エリスロポエチン・シグナルペプチド配列(Epo)および2アミノ酸(「AP」)のペプチドスペーサーを用いて、ヒトST6Gal−Iの一部切除変異体Δ89を一過性発現のためにクローニングした。Epo−AP−Δ89 hST6Gal−I構築物のため、コドン最適化したcDNAを合成した。配列番号3を参照されたい。天然リーダー配列およびN末端タンパク質配列の代わりに、hST6Gal−Iコード領域は、宿主細胞株の分泌機構によって発現されたポリペプチドの正しいプロセシングを確実にするため、エリスロポエチン・シグナル配列に加えてAPリンカー配列を宿する。さらに、発現カセットは、あらかじめ消化されたpM1MTベクター断片(Roche Applied Science)のマルチクローニングサイト内にクローニングするための、SalIおよびBamHI制限部位を特徴とする。ST6Gal−Iコード配列の発現は、したがって、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)極初期エンハンサー/プロモーター領域の調節下にあり、その後、発現制御のための「イントロンA」、およびBGHポリアデニル化シグナルが続く。
【0114】
HEK細胞中のEpo−AP−Δ89 hST6Gal−I構築物の発現、および細胞上清へのΔ89 hST6Gal−Iタンパク質の分泌を、実施例8に記載するように行った。
【0115】
実施例8
HEK細胞の形質転換、ならびに一過性発現および分泌
プラスミドDNAのトランスフェクションによる一過性遺伝子発現(TGE)は、哺乳動物細胞培養において、タンパク質を産生する迅速な戦略である。組換えヒトタンパク質の高レベル発現のため、懸濁適応ヒト胚性腎臓(HEK)293細胞株に基づくTGEプラットフォームを用いた。細胞を血清不含培地条件下、37℃で振盪フラスコ中で培養した。製造者の指針にしたがって、293−FreeTM(Merck)トランスフェクション試薬によって複合体化されたpM1MT発現プラスミド(0.5〜1mg/L細胞培養)を用いて、細胞をおよそ2x10vc/mlでトランスフェクションした。トランスフェクション3時間後、発現をブーストするため、HDAC阻害剤であるバルプロ酸(最終濃度4mM)を添加した(Backliwalら(2008), Nucleic Acids Research 36, e96)。各日、培養に6%(v/v)のダイズ・ペプトン加水分解産物に基づくフィードを補った。トランスフェクション7日後、遠心分離によって培養上清を収集した。
【0116】
実施例9
形質転換HEK細胞上清からのヒトST6Gal−IのΔ89 N末端一部切除変異体(Δ89 hST6Gal−I)の精製
実施例8に記載するように、HEK細胞を形質転換した。実施例7に記載するように、発現構築物を調製した。特定のhST6Gal−Iコード配列は、Δ89 hST6Gal−I N末端一部切除変異体をコードするヌクレオチド配列であり、したがって、発現される構築物はEpo−AP−Δ89−hST6Gal−Iであった。
【0117】
HEK細胞発酵上清から、単純化精製プロトコルを用いて、変異体Epo−AP−Δ89−hST6Gal−Iを精製した。最初の工程において、0.1リットルの培養上清を濾過し(0.2μm)、緩衝液A(20mMリン酸カリウム、pH6.5)に対して溶液を透析した。緩衝液Aで平衡化したS−SepharoseTM ff(迅速流動)カラム(1.6cmx2cm)上に透析物を装填した。100mL緩衝液Aで洗浄した後、10mL緩衝液Aおよび10mLの緩衝液A+200mM NaClの直線勾配で、酵素を溶出させ、その後、48mLの緩衝液A+200mM NaClを用いる洗浄工程を行った。分画(4mL)を分析SDSゲル電気泳動によって分析した。
【0118】
酵素を含有する分画をプールし、そして緩衝液B(50mM MES、pH6.0)に対して透析した。透析したプールを、緩衝液Bで平衡化したヘパリンSepharose ffカラム(0.5cmx5cm)上に装填し、そして緩衝液B+200mM NaClを用いて溶出させた。酵素を含有する分画(1ml)をプールし、そして緩衝液Bに対して透析した。タンパク質濃度を280nmで決定した(E280nm[1mg/ml]=1.931)。酵素の質量分析によって、Epo−AP−Δ89 hST6Gal−Iの構築物が、N末端アミノ酸APを含まずに分泌されることが示された。この驚くべき発見は、Epo部分を除去する一方で、シグナルペプチダーゼによる発現タンパク質の異常な切断があることを示す。組換えヒトΔ89 hST6Gal−Iに関して、>1100RFU/μgの比活性と決定された。
【0119】
図1は、HEK細胞からの精製組換えΔ89 hST6Gal−I変異体のSDS−PAGEの結果を示す。
実施例10
Δ89 hST6Gal−Iを用いたヒト化モノクローナル抗体(MAB)のシアル酸付加
高ガラクトシル化ヒト化モノクローナル抗体IgG4 MAB<IL−1R>(WO 2005/023872)をシアル酸付加実験に用いた。反応混合物は、MAB<IL−1R>(55μlの35mM酢酸ナトリウム/Tris緩衝液pH7.0中、300μg)、ドナー基質CMP−NANA(50μlの水中、150μg)およびシアリルトランスフェラーゼ(20mMリン酸カリウム、0.1M NaCl、pH6.5中、30μg Δ89 hST6Gal−I)を含有した。試料を、37℃で、定義した時間、インキュベーションした。反応を停止するため、試料を−20℃で凍結した。質量分析のため、100μl変性緩衝液(6M塩化グアニジニウム)および30μl TCEP(0.1mM、変性緩衝液中で希釈)を試料に添加し、そして試料を37℃で1時間インキュベーションした。あらかじめ平衡化したillustraTM Nap5−カラム(GE−Healthcare)を用いて、エレクトロスプレー培地(20%ACN、1%FA)中で試料を緩衝した。エレクトロスプレーイオン化質量分析によって試料を分析し、そしてG2+0SA、G2+1SAおよびG2+2SA Nグリカンの含量を決定した。Micromass Q−Tof UltimaおよびSynapt G2 HDMSデバイス(Waters 英国)を用い、用いたソフトウェアはMassLynx V4.1であった。シアル酸付加の動力学を決定するため、反応を最長72時間インキュベーションした。図2は、インキュベーション期間中、異なる時点の後に得た、異なってシアル酸付加されたターゲットタンパク質の相対量を示す。
【0120】
G2+0SA、G2+1SAおよびG2+2SAの含量を質量分析によって決定した。変異体Δ89 hST6Gal−Iに関して、インキュベーションの2時間後すでに、高含量(88%)の二シアル酸付加型G2+2SAが得られた。図2を参照されたい。データはまた、Δ89 hST6Gal−Iの内因性のシアリダーゼ(ノイラミニダーゼ)活性のため、G2+0SAおよびG2+1SAの含量が再び、長期に渡って増加したことも示す。インキュベーション48時間後、71%のG2+1SA含量が得られた。したがって、1つの単一酵素のみを用い、そして単にインキュベーション時間を変化させることによって、免疫グロブリンの一または二シアル酸付加型を、好ましく得ることが可能である。
【0121】
図3は、MAB<IL−1R>の異なる試料の質量分析によって得られるスペクトルを示す。試料をt=0の時点(下部パネル)、t=8hの時点(中央パネル)およびt=48hの時点(上部パネル)で採取した。G2+0SA、G2+1SAおよびG2+2SAグリカンを含むIgG分子の質量スペクトルにおける1つの電荷状態の質量電荷(m/z)シグナルを示す。異なるシアル酸付加種の相対強度は、これらのシグナルから得られる。図2に対応して、t=0hでは、G2+0SAが主要グリカン種である。t=8hでは、G2+2SAのシグナルが主要な型であり、一方、t=48hでは、G2+1SAが最も豊富な種である。決定された数値に関しては、図2を参照されたい。
【0122】
実施例11
Δ89 hST6Gal−Iのシアリダーゼ活性の阻害
化合物、シチジン三リン酸(CTP)は、シアリルトランスフェラーゼの強力な阻害剤である(Scudder PR & Chantler EN BBA 660(1981)136−141)。シアリダーゼ活性がΔ89 hST6Gal−Iの内因性活性であることを立証するため、阻害実験を行った。実験の最初の相において、Δ89 hST6Gal−IによるMAB<IL−1R>のシアル酸付加を行って、高含量のG2+2SAを達成した(実施例10を参照されたい)。インキュベーション7h後、G2+2SA含量は94%であった。続いて、CTPを添加してΔ89 hST6Gal−Iのシアリダーゼ活性を阻害した(CTPの最終濃度:0.67mM)。異なる時点で、試料を採取し、そしてG2+0SA、G2+1SAおよびG2+2SAの含量を質量分析によって決定した。結果を図4に示す。図2に示す阻害剤不含条件に比較して、シアリダーゼ活性によって引き起こされるG2+2SAの分解は有意に減少した。インキュベーション72h後、73%のG2+2SAがなお存在した。シアリルトランスフェラーゼ活性の既知の阻害剤によるシアリダーゼ活性の阻害は、どちらの活性もΔ89 hST6Gal−Iの同じ活性中心に位置することを強く示す。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]