(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被保冷物を所望の時間内で所望の温度帯に急冷する急冷用蓄熱材と、前記急冷用蓄熱材を収容する急冷用蓄熱材収容部とを備え、前記被保冷物の周辺部に配置される急冷層と、
前記被保冷物を前記所望の時間以上に亘って前記所望の温度帯に保持する温度保持用蓄熱材と、前記温度保持用蓄熱材を収容する温度保持用蓄熱材収容部とを備え、前記急冷層の外側に配置される温度保持層と
を有し、
前記温度保持用蓄熱材が固相と液相間で相変化する温度は、前記急冷用蓄熱材が固相と液相間で相変化する温度より高い保冷部材。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施の形態による保冷部材10について、
図1〜
図21を用いて説明する。なお、以下の全ての図面においては、理解を容易にするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせて図示している。
図1および
図2は、本実施の形態による保冷部材10の断面形状を示している。
図1(a)および
図2(a)は、円筒形状の保冷部材10の中心軸を含む平面で切断した断面を示し、
図1(b)および
図2(b)はそれぞれ
図1(a)、
図2(a)に示す保冷部材10の中心軸に直交するA−A線で保冷部材10を切断した断面を示している。保冷部材10は、例えば液体Lが入ったガラス瓶等の容器Gを含む被保冷物Bを所望の時間内で所望の温度帯に急冷し、被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持するために用いられる。
図1(a)、(b)は、保冷部材10で被保冷物Bを保冷している状態を示しており、
図2(a)、(b)は、保冷部材10から被保冷物Bを取り去った状態を示している。保冷部材10は、上面および底面が開口した中空円筒形状を備え、内側から外側に向かって順に急冷層1と温度保持層2とを有している。
図1に示すように、急冷層1は、保冷部材10の使用時において、被保冷物Bの周辺部に配置される。本実施の形態では、保冷部材10はガラス瓶等の容器Gを含む被保冷物Bを保冷するために用いられているので、急冷層1は被保冷物Bの外周部を覆うように配置されている。また、温度保持層2は、急冷層1の外周部を覆うように急冷層1の外側に配置されている。
【0020】
急冷層1は、急冷用蓄熱材1aと、急冷用蓄熱材1aを収容する急冷用蓄熱材収容部1bとを有している。また、温度保持層2は、温度保持用蓄熱材2aと、温度保持用蓄熱材2aを収容する温度保持用蓄熱材収容部2bとを有している。急冷用蓄熱材1aおよび温度保持用蓄熱材2aは、被保冷物Bを所望の温度帯に冷却するために、所望の温度帯より低い相変化温度を有している。また、温度保持用蓄熱材2aは、急冷用蓄熱材1aの相変化温度より高い相変化温度を有している。相変化温度は、急冷用蓄熱材1aおよび温度保持用蓄熱材2aが固相と液相間で相変化する温度である。急冷用蓄熱材1aは、所定の相変化温度で固相と液相との間で可逆的に相変化する。同様に、温度保持用蓄熱材2aは、所定の相変化温度で固相と液相との間で可逆的に相変化する。
【0021】
保冷部材10を不図示の冷却機構を用いて急冷用蓄熱材1aの相変化温度より低い温度で所定時間に亘って冷却することにより、急冷用蓄熱材1aおよび温度保持用蓄熱材2aを固相状態に相変化させることができる。急冷用蓄熱材1aおよび温度保持用蓄熱材2aが固相状態になったら、急冷層1が被保冷物Bの周囲に位置するように保冷部材10を配置する。急冷用蓄熱材1aは、室温(例えば、25℃)と同じ温度(常温)である被保冷物Bの容器G内の液体Lを所望の時間内で所望の温度帯に急冷するために用いられる。保冷用蓄熱材1bは、被保冷物Bの容器G内の液体Lを所望の時間以上に亘って前記所望の温度帯に保持するために用いられる。このため、急冷用蓄熱材1aおよび温度保持用蓄熱材2aは、室温(常温)よりも低い相変化温度を有している。
【0022】
保冷部材10は、より具体的には
図1に示すように、円筒状の開口部内に被保冷物Bを挿し込むようにして被保冷物Bに設置されて、室温(例えば、25℃)中で使用される。保冷部材10により保冷される被保冷物Bの液体Lとしては、各種の飲料が挙げられ、特に室温より低い温度が飲み頃温度となる飲料が好適である。例えば、4℃〜6℃程度が飲み頃温度であるスパークリングワイン、9℃〜11℃程度が飲み頃温度である白ワインおよび16℃〜18℃程度が飲み頃温度である赤ワインは、本実施の形態による保冷部材10を保冷に用いることが好ましい。また、液体Lは、水より粘性が高い液体や固形物が混入された液体でもよい。さらには、液体Lに代えて固体を保冷してもよい。容器Gとしては、ガラス製やセラミック製のビン、鉄製やアルミニウム製の缶、ペットボトル等が挙げられる。
【0023】
ここで、蓄熱とは、熱を一時的に蓄え、必要に応じてその熱を取り出す技術をいう。蓄熱方式としては、顕熱蓄熱、潜熱蓄熱、化学蓄熱等があるが、本実施の形態では、潜熱蓄熱および顕熱蓄熱を利用する。潜熱蓄熱は、物質の潜熱を利用して、物質の相変化の熱エネルギーを蓄える。潜熱蓄熱は、蓄熱密度が高く、出力温度が一定である。顕熱蓄熱は、物質の顕熱を利用して、物質の温度変化分の熱エネルギーを蓄える。
【0024】
急冷用蓄熱材1aは、温度保持用蓄熱材2aよりも低い相変化温度を有している。このため、保冷部材10の使用時において、急冷用蓄熱材1aは温度保持用蓄熱材2aよりも早く相変化温度に到達する。このため、保冷部材10は、急冷用蓄熱材1aの潜熱を利用した保冷を温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用した冷却よりも先に行う。急冷用蓄熱材1aは、潜熱を利用した冷却を行っている間、温度がほぼ一定になる。また、急冷用蓄熱材1aは、被保冷物Bの所望の温度帯よりも十分に低い(例えば、15℃〜30℃低い)相変化温度を有している。このため、急冷用蓄熱材1aが潜熱を利用した冷却を行っている状態では、被保冷物Bが相対的に短時間で所望の温度帯に急冷される。また、温度保持用蓄熱材2aも急冷用蓄熱材1aの相変化温度程度に冷却される。
【0025】
急冷用蓄熱材1aは、固相から液相への相変化が完了すると、潜熱を利用した冷却を終了し、顕熱を利用した冷却を開始する。これにより、被保冷物Bは、所望の温度帯に冷却される。また、保冷部材10の全体の温度が上昇し、温度保持用蓄熱材2aは相変化温度に到達する。これにより、保冷部材10は、温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用した冷却を開始する。温度保持用蓄熱材2aは、潜熱を利用した冷却を行っている間、温度がほぼ一定になる。急冷層1は、温度保持層2と接するため、急冷用蓄熱材1aは温度保持用蓄熱材2aの相変化温度程度に冷却される。また、温度保持用蓄熱材2aの相変化温度は、被保冷物Bの所望の温度帯よりも数℃(例えば、2℃〜6℃)低くなっている。このため、保冷部材10は、急冷層1を介して被保冷物Bを温度保持用蓄熱材2aにより冷却するので、温度保持用蓄熱材2aの相変化温度よりも高い所望の温度で被保冷物Bの温度を保持することができる。このように、潜熱を利用した冷却を行った後の急冷層1は、温度保持層2の冷却により被保冷物Bが所望の温度よりも冷えすぎないようにする緩衝層としての機能を有する。また、保冷部材10は、温度保持用蓄熱材2aの固相から液相への相変化温度が完了するまで、被保冷物Bを所望の温度帯に保冷する。これにより、保冷部材10は、被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持することができる。
【0026】
急冷層1に備えられる急冷用蓄熱材1aの役割は、潜熱と顕熱を利用して速やかに被保冷物Bの熱を吸収することである。また、温度保持層2に備えられる温度保持用蓄熱材2aの役割は、潜熱と顕熱を利用して被保冷物Bを所望の温度帯に保つことである。このように、保冷部材10は、急冷層1と温度保持層2の機能を分離させていることに特徴を有している。
【0027】
急冷用蓄熱材1aおよび保冷用蓄熱材2aには、例えば、パラフィン(一般式C
nH
2n+2で表される飽和鎖式炭化水素の総称)、水、無機塩水溶液等が用いられる。無機塩水溶液の無機塩には、例えば、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化アンモニウム(NH
4Cl)、炭酸水素カリウム(KHCO
3)等が挙げられるが、本実施の形態においては急冷用蓄熱材1aおよび保冷用蓄熱材2aに用いることができる無機塩はこれらに限定されない。
【0028】
また、急冷用蓄熱材1aおよび保冷用蓄熱材2aには、例えば、包接水和物や無機塩水和物等が用いられる。急冷用蓄熱材1aおよび保冷用蓄熱材2aに用いられる包接水和物として、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、テトラブチルアンモニウムクロリド(TBAC)等の四級アンモニウム塩の分子をゲスト分子とする包接水和物等が挙げられる。包接水和物等が用いられた急冷用蓄熱材1aおよび保冷用蓄熱材2aは、相変化温度で四級アンモニウム塩の分子をゲスト分子とする包接水和物と、四級アンモニウム塩を含む水溶液とに可逆的に変化する。急冷用蓄熱材1aおよび保冷用蓄熱材2aは、包接水和物の状態で固相状態となり、水溶液の状態で液相状態となる。なお、本実施の形態においては急冷用蓄熱材1aおよび保冷用蓄熱材2aに用いることができる包接水和物はこれらに限定されない。
【0029】
また、急冷用蓄熱材1aおよび保冷用蓄熱材2aに用いられる無機塩水和物として、硫酸ナトリウム十水和物、酢酸ナトリウム三水和物、チオ硫酸ナトリウム五水和物、リン酸水素二ナトリウム十二水和物とリン酸水素二カリウム六水和物との二元系組成物(融解点5℃)、硝酸リチウム三水和物を主成分とする硝酸リチウム三水和物と塩化マグネシウム六水和物との二元系組成物(融解点8〜12℃)又は硝酸リチウム三水和物−塩化マグネシウム六水和物−臭化マグネシウム六水和物の三元系組成物(融解点5.8〜9.7℃)等が挙げられるが、本実施の形態においてはこれらの無機塩水和物に限定されない。
【0030】
急冷用蓄熱材1aによる被保冷物Bの冷却効果を向上させるためには、急冷層1と被保冷物Bとの接触面積が大きくすることが好ましい。このため、急冷層1は被保冷物Bの形状に併せて形状変化できることが好ましい。急冷層1と被保冷物Bとの接触面積を大きくするために、保冷部材10の使用状態において、急冷層1の急冷用蓄熱材1aは、被保冷物Bを急冷する温度帯では一部が固相状態であり、他の一部が液相状態になるようにしてもよい。これにより、急冷層1は被保冷物Bの形状に併せて形状変化できる柔軟性を有することができる。例えば、急冷用蓄熱材1aの主剤に相変化温度が−11℃である塩化カリウム水溶液を用いる場合には、相変化温度が−21℃である塩化ナトリウム水溶液を塩化カリウム水溶液に混合する。この際、急冷用蓄熱材1aにおける塩化ナトリウムの濃度を共晶濃度よりも小さくする。これにより、急冷用蓄熱材1aは、−11℃付近と−21℃付近とに相変化温度を備えることになる。急冷用蓄熱材1aは、主剤である塩化カリウム水溶液の潜熱を利用した冷却を行うので、塩化カリウム水溶液が固相状態であり、塩化ナトリウム水溶液が液相状態である状態で使用される。保冷部材10は、急冷層1の急冷用蓄熱材1aが潜熱を利用した冷却を行っている場合に、急冷層1内に固相状態の部分と液相状態の部分とが共存する状態にできるので、急冷層1と被保冷物Bとの接触面積を大きくすることができる。これにより、保冷部材10は、急冷層1の冷却効果を高めることができる。
【0031】
また、温度保持用蓄熱材2aによる被保冷物Bの冷却効果を向上させるためには、温度保持層2が被保冷物Bの形状に併せて形状変化できることが好ましい。このため、保冷部材10の使用状態において、温度保持層2の温度保持用蓄熱材2aは、被保冷物Bを冷却する温度帯では一部が固相状態であり、他の一部が液相状態になるようにしてもよい。これにより、温度保持層2は被保冷物Bの形状に併せて形状変化できる柔軟性を有することができる。例えば、温度保持用蓄熱材2aの主剤に相変化温度が0℃である水を用いる場合には、相変化温度が−21℃である塩化ナトリウム水溶液を当該水に混合する。この際、温度保持用蓄熱材2aにおける塩化ナトリウムの濃度を共晶濃度よりも小さくする。これにより、温度保持用蓄熱材2aは、0℃付近と−21℃付近とに相変化温度を備えることになる。温度保持用蓄熱材2aは、主剤である水の潜熱を利用した冷却を行うので、水が固相状態であり、塩化ナトリウム水溶液が液相状態である状態で使用される。保冷部材10は、温度保持層2の温度保持用蓄熱材2aが潜熱を利用した冷却を行っている場合に、温度保持層2内に固相状態の部分と液相状態の部分とが共存する状態にできるので、温度保持層2と急冷層1との接触面積を大きくし、温度保持層2の冷却効果を高めることができる。
【0032】
また、急冷用蓄熱材1aと温度保持用蓄熱材2aとはゲル化されていてもよい。ゲル化された急冷用蓄熱材1aと温度保持用蓄熱材2aにはゲル化剤が含有されている。ゲルとは一般に、分子が部分的に架橋されることで三次元的な網目構造を形成し、その内部に溶媒を吸収し膨潤したものをいう。ゲルの組成はほぼ液相状態であるが、力学的には固相状態となる。ゲル化した急冷用蓄熱材1aと温度保持用蓄熱材2aは、固相と液相との間で可逆的に相変化しても全体として固体状態を維持し、流動性を有しない。ゲル状の蓄熱材は、相変化の前後で全体として固体状態を維持できるので取扱いが容易である。
【0033】
ゲル化剤としては、ヒドロキシル基もしくはカルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基、アミド基を1つ以上備えた分子を用いた合成高分子、天然系多糖類又はゼラチン等が挙げられる。合成高分子としては、ポリアクリルアミド誘導体、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸誘導体等が挙げられる。天然系多糖類としては、寒天、アルギン酸、ファーセルラン、ペクチン、澱粉、キサンタンガムとローカストビーンガムの混合物、タマリンド種子ガム、ジュランガム、カラギーナン等が挙げられる。これらは、ゲル化剤の一例として挙げられるが、本実施の形態においてゲル化剤はこれらに限定されない。
【0034】
また、ゲル化剤として、アクリルアミドモノマー、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマー、2−ケトグルタル酸等が挙げられるが、本実施の形態においてゲル化剤はこれらに限定されない。
【0035】
また、急冷用蓄熱材収容部1bおよび温度保持用蓄熱材収容部2bは、例えば、樹脂材料で形成されている。急冷用蓄熱材収容部1bおよび温度保持用蓄熱材収容部2bに用いられる樹脂材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)等のプラスチック材料が挙げられる。急冷用蓄熱材収容部1bおよび温度保持用蓄熱材収容部2bには、こられのプラスチック材料を射出成形やブロー成形等によって成形したプラスチック容器からなる硬質包装材、または溶液法、溶融法、カレンダー法等によって成膜されたプラスチックフィルムからなる軟質包装材が用いられる。急冷用蓄熱材収容部1bおよび温度保持用蓄熱材収容部2bは、樹脂に限らずガラス、セラミック、金属等の無機材料を用いて形成されていてもよい。また、急冷用蓄熱材収容部1bおよび温度保持用蓄熱材収容部2bは、繊維質(グラスウール、綿、セルロース、ナイロン、カーボンナノチューブ、炭素繊維等)、粉末(アルミナ粉末、金属粉末、マイクロカプセル等)及びその他改質剤が含まれていてもよい。
【0036】
次に、
図3を用いて、急冷用蓄熱材1aに水、炭酸水素カリウム水溶液または塩化カリウム水溶液を用いた場合の急冷用蓄熱材1aの設計量の計算方法について説明する。本例では、被保冷物Bの液体Lがスパークリングワイン、白ワインまたは赤ワインである場合の急冷用蓄熱材1aの設計量の計算方法について説明する。
図3(a)は、750gの液体Lを含む被保冷物Bを25℃から所望の温度に冷却するために必要な冷却量を示している。スパークリングワインの所望の温度帯は、飲み頃温度である4℃〜6℃とする。また、スパークリングワインの所望の温度は、所望の温度帯の中心値の5℃とする。また、白ワインの所望の温度帯は、飲み頃温度である9℃〜11℃とする。また、白ワインの所望の温度は、所望の温度帯の中心値の10℃とする。また、赤ワインの所望の温度帯は、飲み頃温度である16℃〜18℃とする。また、赤ワインの所望の温度は、所望の温度帯の中心値の17℃とする。また、スパークリングワイン、白ワインおよび赤ワインの比熱の値には、水の比熱(4.2J/(g・℃))を簡易的に用いている。
【0037】
750gのワインを25℃から所望の温度に冷却するために必要な冷却量は、次の式(1)で求めることができる。
必要冷却量=0.75(kg)×冷却温度(℃)×4.2J/(g・℃)・・・(1)
ここで、冷却温度は、25℃から所望の温度(℃)を減算した値である。
上記の式(1)より、スパークリングワインを所望の温度である5℃に冷却するために必要な冷却量は63.0kJになり、白ワインを所望の温度である10℃に冷却するために必要な冷却量は47.3kJになり、赤ワインを所望の温度である17℃に冷却するために必要な冷却量は25.2kJになる。
【0038】
図3(b)は、被保冷物Bの液体Lがスパークリングワインである場合の急冷用蓄熱材1aの設計量について説明する表である。本例では、急冷用蓄熱材1aに、水、炭酸水素カリウム水溶液または塩化カリウム水溶液が用いられている。水を用いた急冷用蓄熱材1aは0℃に相変化温度を有する。また、炭酸水素カリウムの濃度が20wt%である炭酸水素カリウム水溶液を用いた急冷用蓄熱材1aは約−6℃に相変化温度を有する。また、塩化カリウムの濃度が20wt%である塩化カリウム水溶液を用いた急冷用蓄熱材1aは約−11℃に相変化温度を有する。
【0039】
図3(b)には、各材料が用いられた急冷用蓄熱材1aの100gにおける潜熱量(kJ)、顕熱量(kJ)、冷却量(kJ)、実際の冷却量(kJ)および設計量(g)を示している。ここでの潜熱量は、実際の測定値を示している。潜熱量は、例えば、温度履歴法等により測定される。温度履歴法は、対象物の温度変化をモニタリングし、潜熱量が特定されている参照物質と比較して潜熱量を算出する手法である。また、ここでの顕熱量は、相変化が終了して液相状態になった急冷用蓄熱材1aが被保冷物Bを所望の温度に冷却する際に用いる熱量とする。この顕熱量は、所望の温度から急冷用蓄熱材1aの相変化温度を引いた値に水の比熱を掛けて求められる。なお、急冷用蓄熱材1aが固相状態での顕熱量は、潜熱量および急冷用蓄熱材1aが液相状態での顕熱量よりも小さいため、急冷用蓄熱材1aの冷却量として考慮していない。また、冷却量は、潜熱量と顕熱量との合計値である。また、実際の冷却量および設計量については後述する。
【0040】
図3(b)に示すように、水を用いた急冷用蓄熱材1aの潜熱量は30.5kJであり、顕熱量は2.1kJであり、冷却量は32.6kJである。また、炭酸水素カリウム水溶液を用いた急冷用蓄熱材1aの潜熱量は25.9kJであり、顕熱量は4.6kJであり、冷却量は30.5kJである。また、塩化カリウム水溶液を用いた急冷用蓄熱材1aの潜熱量は27.9kJであり、顕熱量は6.7kJであり、冷却量は34.6kJである。
【0041】
急冷層1の厚さを無視すると、急冷層1と被保冷物Bとが接触する面積は、急冷層1の表面積のうちの半分となる。急冷層1の表面積のうちの半分が被保冷物Bへの放熱面であるとし、急冷用蓄熱材1aの冷却量の半分が実際に被保冷物Bの冷却に用いられることと仮定する。したがって、急冷用蓄熱材1aの実際の冷却量は冷却量の半分の値になるので、水を用いた急冷用蓄熱材1aの実際の冷却量は16.3kJとなり、炭酸水素カリウム水溶液を用いた急冷用蓄熱材1aの実際の冷却量は15.3kJとなり、塩化カリウム水溶液を用いた急冷用蓄熱材1aの実際の冷却量は17.3kJとなる。
【0042】
急冷用蓄熱材1aの設計量は、
図3(a)に示す必要冷却量を実際の冷却量で割った値に計算の前提として用いた急冷用蓄熱材1aの質量(100g)を掛けることで求められる。したがって、水を用いた急冷用蓄熱材1aの設計量は387gとなり、炭酸水素カリウム水溶液を用いた急冷用蓄熱材1aの設計量は412gとなり、塩化カリウム水溶液を用いた急冷用蓄熱材1aの設計量は364gとなる。
【0043】
図3(c)は、被保冷物Bの液体Lが白ワインである場合の急冷用蓄熱材1aの設計量について説明する表である。本例においても、
図3(b)に示す例と同様に、水、炭酸水素カリウム水溶液または塩化カリウム水溶液が急冷用蓄熱材1aに用いられている。
図3(c)には、各材料が用いられた急冷用蓄熱材1aの100gにおける潜熱量(kJ)、顕熱量(kJ)、冷却量(kJ)、実際の冷却量(kJ)および設計量(g)を示している。顕熱量、実際の冷却量および設計量は、
図3(b)に示す例と同様の方法で求められる。
【0044】
図3(c)に示すように、水を用いた急冷用蓄熱材1aの潜熱量は30.5kJであり、顕熱量は4.2kJであり、冷却量は34.7kJであり、実際の冷却量は17.4kJであり、設計量は272gである。また、炭酸水素カリウム水溶液を用いた急冷用蓄熱材1aの潜熱量は25.9kJであり、顕熱量は6.7kJであり、冷却量は32.6kJであり、実際の冷却量は16.3kJであり、設計量は290gである。また、塩化カリウム水溶液を用いた急冷用蓄熱材1aの潜熱量は27.9kJであり、顕熱量は8.8kJであり、冷却量は36.7kJであり、実際の冷却量は18.4kJであり、設計量は257gである。
【0045】
図3(d)は、被保冷物Bの液体Lが赤ワインである場合の急冷用蓄熱材1aの設計量について説明する表である。本例においても、
図3(b)に示す例と同様に、水、炭酸水素カリウム水溶液または塩化カリウム水溶液が急冷用蓄熱材1aに用いられている。
図3(d)には、各材料が用いられた急冷用蓄熱材1aの100gにおける潜熱量(kJ)、顕熱量(kJ)、冷却量(kJ)、実際の冷却量(kJ)および設計量(g)を示している。顕熱量、実際の冷却量および設計量は、
図3(b)に示す例と同様の方法で求められる。
【0046】
図3(d)に示すように、水を用いた急冷用蓄熱材1aの潜熱量は30.5kJであり、顕熱量は7.1kJであり、冷却量は37.6kJであり、実際の冷却量は18.8kJであり、設計量は134gである。また、炭酸水素カリウム水溶液を用いた急冷用蓄熱材1aの潜熱量は25.9kJであり、顕熱量は9.7kJであり、冷却量は35.6kJであり、実際の冷却量は17.8kJであり、設計量は142gである。また、塩化カリウム水溶液を用いた急冷用蓄熱材1aの潜熱量は27.9kJであり、顕熱量は11.8kJであり、冷却量は39.7kJであり、実際の冷却量は19.9kJであり、設計量は127gである。
【0047】
このように、急冷用蓄熱材1の潜熱量と顕熱量との合計値は、被保冷物Bを所望の温度帯に冷却するための必要な冷却量より大きくなっている。このため、保冷部材10は、急冷用蓄熱材1aを用いて被保冷物Bを所望の温度帯に冷却することができる。
【0048】
(実施例1)
次に、本実施の形態の実施例1による保冷部材10について
図4〜
図6を用いて説明する。本実施例では、液体Lとして750gのスパークリングワインを含む被保冷物Bを
図1および
図2に示す保冷部材10により冷却した。保冷部材10には、冷凍室で約−20℃に冷却したものを用いた。スパークリングワインの所望の温度帯は4℃〜6℃である。急冷用蓄熱材1aには、主剤として塩化カリウムの濃度が20wt%である塩化カリウム水溶液を200gに、塩化ナトリウムの濃度が20wt%である塩化ナトリウム水溶液を200g混合したものを用いた。本実施例の急冷用蓄熱材1aは、塩化カリウム水溶液の相変化温度である約−11℃と、塩化ナトリウム水溶液の相変化温度である約−21℃とに相変化温度を備える。本実施例の急冷用蓄熱材1aは、共晶濃度の塩化カリウム水溶液と共晶濃度の塩化ナトリウム水溶液を1:1で混合して作製される。共晶濃度の塩化カリウム水溶液と共晶濃度の塩化ナトリウム水溶液を1:1の割合で混合して作製した急冷用蓄熱材1aは、塩化カリウム水溶液の相変化温度である約−11℃で50%が凍結状態(固相状態)となり、残りの50%が未凍結状態(液相状態)となる。また、共晶濃度の塩化カリウム水溶液と共晶濃度の塩化ナトリウム水溶液を3:1の割合で混合して作製した急冷用蓄熱材1aは、塩化カリウム水溶液の相変化温度である約−11℃で75%が凍結状態(固相状態)となり、残りの25%が未凍結状態(液相状態)となる。本実施例では、保冷部材10の使用状態において、急冷層1の急冷用蓄熱材1aは、固相状態の塩化カリウム水溶液の部分と液相状態の塩化ナトリウム水溶液の部分とが共存する状態になるようにしている。これにより、急冷層1は被保冷物Bの形状に併せて形状変化できるようになる。また、急冷用蓄熱材1aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。400gの急冷用蓄熱材1aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、急冷用蓄熱材1aはゲル化されていなくてもよい。
【0049】
また、温度保持用蓄熱材2aには、100gの水を用いた。本実施例の温度保持用蓄熱材2aは、0℃に相変化温度を備える。また、温度保持用蓄熱材2aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。100gの温度保持用蓄熱材2aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、温度保持用蓄熱材2aはゲル化されていなくてもよい。
【0050】
図4は、本実施例による保冷部材10を用いて常温の被保冷物Bを冷却した場合の被保冷物Bの温度変化を示すグラフである。
図4の横軸は時間(min)を表し、縦軸は温度(℃)を表している。また、
図4中の実線で示す曲線は、被保冷物Bの温度変化を示している。本実施例では、被保冷物Bの容器Gの中心部の液体Lの温度を被保冷物Bの温度として測定した。また、
図4中の一点鎖線で示す曲線は、保冷部材10の急冷層1と温度保持層2の間の温度変化を示している。温度測定開始後に温度センサを被保冷物Bと、急冷層1と温度保持層2との間に設置したので、温度測定開始時点では室内の温度が測定されている。急冷層1と温度保持層2との間の温度は、温度測定開始の約3分後に−18℃と計測されている。
【0051】
図4に示すように、被保冷物Bは約20分経過後に所望の温度帯上限の6℃に冷却されている。また、約40分経過後に急冷層1と温度保持層2の間の温度が温度保持用蓄熱材2aの相変化温度である0℃に到達しており、温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用した保冷が開始されている。保冷部材10は、温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用した保冷により、約120分経過後まで被保冷物Bを所望の温度帯内の6℃に保持できている。なお、約23分〜約90分の間では、被保冷物Bが所望の温度帯(4℃〜6℃)よりも1℃程度低い温度に冷却されているが許容範囲とする。
【0052】
このように、本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bを約20分で所望の温度帯に急冷することができた。被保冷物Bであるワインは、常温から飲み頃温度まで約20分以内に冷却されるのが望ましい。また、本実施例による保冷部材10は、温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用して、被保冷物Bを約100分間、所望の温度帯に保持することができた。これは、温度保持用蓄熱材2aが被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持するために必要な潜熱量を有しているからである。このように、本実施例による保冷部材10は、スパークリングワイン用のワインクーラーとして好適に用いることができる。
【0053】
次に、比較例1による保冷部材について説明する。比較例1による保冷部材は、急冷層を有しているが、温度保持層を有していない。比較例1による保冷部材の急冷層は、上記実施例1による保冷部材10の急冷層1と同じ構成を備えている。また、上記実施例1と同様に、液体Lとして750gのスパークリングワインを含む被保冷物Bを用いた。また、被保冷物Bの容器Gの中心部の液体Lの温度を被保冷物Bの温度として測定した。なお、その他の条件は、上記実施例1と同様である。
【0054】
図5は、比較例1による保冷部材を用いて常温の被保冷物Bを冷却した場合の被保冷物Bの温度変化を示すグラフである。
図5の横軸は時間(min)を表し、縦軸は温度(℃)を表している。また、
図5中の実線で示す曲線は、被保冷物Bの温度変化を示している。
図5に示すように、約60分経過後に被保冷物Bの温度は約13℃になり、約70分経過後に被保冷物Bの温度が再び上昇し始めている。このように、比較例1による保冷部材は、被保冷物Bを所望の温度帯に冷却することができなかった。これは、比較例1による保冷部材は、温度保持層を有していないので、急冷層の外周側が外気に晒されてしまい、急冷層の冷熱が外気に奪われてしまったためであると考えられる。
【0055】
次に、比較例2による保冷部材について説明する。比較例2による保冷部材は、急冷層を有していないが、温度保持層を有している。比較例1による保冷部材の温度保持層は、上記実施例1による保冷部材10の温度保持層2と同じ構成を備えている。また、上記実施例1と同様に、液体Lとして750gのスパークリングワインを含む被保冷物Bを用いた。また、被保冷物Bの容器Gの中心部の液体Lの温度を被保冷物Bの温度として測定した。なお、その他の条件は、上記実施例1と同様である。
【0056】
図6は、比較例2による保冷部材を用いて常温の被保冷物Bを冷却した場合の被保冷物Bの温度変化を示すグラフである。
図6の横軸は時間(min)を表し、縦軸は温度(℃)を表している。また、
図6中の実線で示す曲線は、被保冷物Bの温度変化を示している。
図6に示すように、約50分経過後に被保冷物Bの温度は約19℃になり、約60分経過後に被保冷物Bの温度が再び上昇し始めている。このように、比較例2による保冷部材は、被保冷物Bを所望の温度帯に冷却することができなかった。これは、比較例2による保冷部材は、急冷層を有しておらず、被保冷物Bを所望の温度帯に冷却するために必要な冷却量を温度保持層の温度保持用蓄熱材が備えていないためであると考えられる。
【0057】
本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bを所望の時間内で所望の温度帯に急冷する急冷用蓄熱材1aを備えた急冷層1と、被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持する温度保持用蓄熱材2aを備えた温度保持層2と有している。急冷用蓄熱材1aの冷却量は、被保冷物Bを所望の温度帯に冷却するための必要な冷却量よりも大きい。温度保持用蓄熱材2aは被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持するために必要な潜熱量を有している。保冷部材10は、急冷層1で被保冷物Bを所望の時間内で所望の温度帯に急冷し、温度保持層2で被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持することができる。
【0058】
(実施例2)
次に、本実施の形態の実施例2による保冷部材10について
図7を用いて説明する。本実施例では、液体Lとして750gの白ワインを含む被保冷物Bを
図1および
図2に示す保冷部材10により冷却した。保冷部材10には、冷凍室で約−20℃に冷却したものを用いた。白ワインの所望の温度帯は9℃〜11℃である。急冷用蓄熱材1aには、主剤として塩化カリウムの濃度が20wt%である塩化カリウム水溶液を200g用いた。本実施例の急冷用蓄熱材1aは、塩化カリウム水溶液の相変化温度である約−11℃に相変化温度を備える。また、急冷用蓄熱材1aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。200gの急冷用蓄熱材1aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、急冷用蓄熱材1aはゲル化されていなくてもよい。
【0059】
また、温度保持用蓄熱材2aには、TBABを用いた。温度保持用蓄熱材2aは、TBABの濃度が25wt%であるTBAB水溶液を100g用いて作製した。TBABの濃度が25wt%であるTBAB水溶液を用いた温度保持用蓄熱材2aは、約8℃〜10℃に相変化温度を備える。また、温度保持用蓄熱材2aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。100gの温度保持用蓄熱材2aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、温度保持用蓄熱材2aはゲル化されていなくてもよい。
【0060】
図7は、本実施例による保冷部材10を用いて常温の被保冷物Bを冷却した場合の被保冷物Bの温度変化を示すグラフである。
図7の横軸は時間(min)を表し、縦軸は温度(℃)を表している。また、
図7中の実線で示す曲線は、被保冷物Bの温度変化を示している。本実施例では、被保冷物Bの容器Gの中心部の液体Lの温度を被保冷物Bの温度として測定した。また、
図7中の一点鎖線で示す曲線は、保冷部材10の急冷層1と温度保持層2の間の温度変化を示している。温度測定開始後に温度センサを被保冷物Bと、急冷層1と温度保持層2との間に設置したので、温度測定開始時点では室内の温度が測定されている。急冷層1と温度保持層2との間の温度は、温度測定開始の約3分後に約−8℃と計測されている。
【0061】
図7に示すように、被保冷物Bは約20分経過後に所望の温度帯上限の11℃に冷却されている。また、約70分経過後に急冷層1と温度保持層2の間の温度が温度保持用蓄熱材2aの相変化温度である約8℃に到達しており、温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用した保冷が開始されている。保冷部材10は、温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用した保冷により、約150分経過後まで被保冷物Bを所望の温度帯内の11℃に保持できている。
【0062】
このように、本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bを約18分で所望の温度帯に急冷することができた。また、本実施例による保冷部材10は、温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用して、被保冷物Bを約130分間、所望の温度帯に保持することができた。これは、温度保持用蓄熱材2aが被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持するために必要な潜熱量を有しているからである。このように、本実施例による保冷部材10は、白ワイン用のワインクーラーとして好適に用いることができる。
【0063】
本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bを所望の時間内で所望の温度帯に急冷する急冷用蓄熱材1aを備えた急冷層1と、被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持する温度保持用蓄熱材2aを備えた温度保持層2と有している。急冷用蓄熱材1aの冷却量は、被保冷物Bを所望の温度帯に冷却するための必要な冷却量よりも大きい。温度保持用蓄熱材2aは被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持するために必要な潜熱量を有している。保冷部材10は、急冷層1で被保冷物Bを所望の時間内で所望の温度帯に急冷し、温度保持層2で被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持することができる。
【0064】
(実施例3)
次に、本実施の形態の実施例3による保冷部材10について
図8を用いて説明する。本実施例では、液体Lとして750gの赤ワインを含む被保冷物Bを
図1および
図2に示す保冷部材10により冷却した。保冷部材10には、冷凍室で約−20℃に冷却したものを用いた。赤ワインの所望の温度帯は16℃〜18℃である。急冷用蓄熱材1aには、主剤として塩化カリウムの濃度が20wt%である塩化カリウム水溶液を150g用いた。本実施例の急冷用蓄熱材1aは、塩化カリウム水溶液の相変化温度である約−11℃に相変化温度を備える。また、急冷用蓄熱材1aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。150gの急冷用蓄熱材1aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、急冷用蓄熱材1aはゲル化されていなくてもよい。
【0065】
また、温度保持用蓄熱材2aには、TBABを用いた。温度保持用蓄熱材2aは、TBABの濃度が35wt%であるTBAB水溶液を200g用いて作製した。TBABの濃度が35wt%であるTBAB水溶液を用いた温度保持用蓄熱材2aは約11.5℃に相変化温度を備える。また、温度保持用蓄熱材2aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。200gの温度保持用蓄熱材2aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、温度保持用蓄熱材2aはゲル化されていなくてもよい。
【0066】
図8は、本実施例による保冷部材10を用いて常温の被保冷物Bを冷却した場合の被保冷物Bの温度変化を示すグラフである。
図8の横軸は時間(min)を表し、縦軸は温度(℃)を表している。また、
図8中の実線で示す曲線は、被保冷物Bの温度変化を示している。本実施例では、被保冷物Bの容器Gの中心部の液体Lの温度を被保冷物Bの温度として測定した。また、
図8中の一点鎖線で示す曲線は、保冷部材10の急冷層1と温度保持層2の間の温度変化を示している。温度測定開始後に温度センサを被保冷物Bと、急冷層1と温度保持層2との間に設置したので、温度測定開始時点では室内の温度が測定されている。急冷層1と温度保持層2との間の温度は、温度測定開始の約3分後に約−12℃と計測されている。
【0067】
図8に示すように、被保冷物Bは約14分経過後に所望の温度帯上限の18℃に冷却されている。また、約130分経過後に急冷層1と温度保持層2の間の温度が温度保持用蓄熱材2aの相変化温度である約11.5℃に到達しており、温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用した保冷が開始されている。保冷部材10は、温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用した保冷により、約180分経過後まで被保冷物Bを所望の温度帯内の18℃に保持できている。なお、約24分〜約160分の間では、被保冷物Bが所望の温度帯(16℃〜18℃)よりも1℃程度低い温度に冷却されているが許容範囲とする。
【0068】
このように、本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bを約14分で所望の温度帯に急冷することができた。また、本実施例による保冷部材10は、温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用して、被保冷物Bを約165分間、所望の温度帯に保持することができた。これは、温度保持用蓄熱材2aが被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持するために必要な潜熱量を有しているからである。このように、本実施例による保冷部材10は、赤ワイン用のワインクーラーとして好適に用いることができる。
【0069】
本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bを所望の時間内で所望の温度帯に急冷する急冷用蓄熱材1aを備えた急冷層1と、被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持する温度保持用蓄熱材2aを備えた温度保持層2と有している。急冷用蓄熱材1aの冷却量は、被保冷物Bを所望の温度帯に冷却するための必要な冷却量よりも大きい。温度保持用蓄熱材2aは被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持するために必要な潜熱量を有している。保冷部材10は、急冷層1で被保冷物Bを所望の時間内で所望の温度帯に急冷し、温度保持層2で被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持することができる。
【0070】
次に、本実施の形態による保冷部材10の他の例について
図9〜
図15を用いて説明する。なお、
図1等に示す保冷部材10と同一の作用効果を奏する同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する説明を省略する。
図9および
図10は、本実施の形態による保冷部材10の断面形状を示している。
図9(a)および
図10(a)は、円筒形状の保冷部材10の中心軸を含む平面で切断した断面を示し、
図9(b)および
図10(b)はそれぞれ
図9(a)、
図10(a)に示す保冷部材10の中心軸に直交するA−A線で保冷部材10を切断した断面を示している。
図9(a)、(b)は、保冷部材10で被保冷物Bを保冷している状態を示しており、
図10(a)、(b)は、保冷部材10から被保冷物Bを取り去った状態を示している。
【0071】
本実施の形態による保冷部材10は、使用状態での上方部分が被保冷物Bの容器Gと同じテーパー形状を有することに特徴を有している。具体的には、急冷層1の上方部分が容器Gのテーパー形状と同じ形状を有している。温度保持層2は、急冷層1と同じ形状を有し、急冷層1を覆うように急冷層1に接触して配置されている。これにより、本実施の形態による保冷部材10は被保冷物Bとの接触面積を大きくして、保冷効果を向上することができる。
【0072】
(実施例4)
次に、本実施の形態の実施例4による保冷部材10について
図11〜
図13を用いて説明する。本実施例では、液体Lとして750gのスパークリングワインを含む被保冷物Bを
図9および
図10に示す保冷部材10により冷却した。保冷部材10には、冷凍室で約−20℃に冷却したものを用いた。スパークリングワインの所望の温度帯は4℃〜6℃である。急冷用蓄熱材1aには、主剤として塩化カリウムの濃度が20wt%である塩化カリウム水溶液を200gに、塩化ナトリウムの濃度が20wt%である塩化ナトリウム水溶液を100g混合したものを用いた。本実施例の急冷用蓄熱材1aは、塩化カリウム水溶液の相変化温度である約−11℃と、塩化ナトリウム水溶液の相変化温度である約−21℃とに相変化温度を備える。本実施例の急冷用蓄熱材1aは、共晶濃度の塩化カリウム水溶液と共晶濃度の塩化ナトリウム水溶液を1:1で混合して作製される。共晶濃度の塩化カリウム水溶液と共晶濃度の塩化ナトリウム水溶液を1:1の割合で混合して作製した急冷用蓄熱材1aは、塩化カリウム水溶液の相変化温度である約−11℃で50%が凍結状態(固相状態)となり、残りの50%が未凍結状態(液相状態)となる。保冷部材10の使用状態において、急冷層1の急冷用蓄熱材1aは、固相状態の塩化カリウム水溶液の部分と液相状態の塩化ナトリウム水溶液の部分とが共存する状態になる。このため、急冷層1は被保冷物Bの形状に併せて形状変化できる。また、急冷用蓄熱材1aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。300gの急冷用蓄熱材1aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、急冷用蓄熱材1aはゲル化されていなくてもよい。
【0073】
また、温度保持用蓄熱材2bには、主剤として100gの水に、塩化ナトリウムの濃度が20wt%である塩化ナトリウム水溶液を100g混合したものを用いた。本実施例の温度保持用蓄熱材2aは、水の相変化温度である0℃と、塩化ナトリウム水溶液の相変化温度である約−21℃とに相変化温度を備える。本実施例の温度保持用蓄熱材2aは、水と共晶濃度の塩化ナトリウム水溶液を1:1で混合して作製される。水と共晶濃度の塩化ナトリウム水溶液を1:1の割合で混合して作製した温度保持用蓄熱材2aは、水の相変化温度である0℃で50%が凍結状態(固相状態)となり、残りの50%が未凍結状態(液相状態)となる。保冷部材10の使用状態において、温度保持層2の温度保持用蓄熱材2aは、固相状態の水の部分と液相状態の塩化ナトリウム水溶液の部分とが共存する状態になるようにする。これにより、温度保持層2は被保冷物Bの形状に併せて形状変化できるようになる。また、温度保持用蓄熱材2aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。200gの温度保持用蓄熱材2aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、温度保持用蓄熱材2aはゲル化されていなくてもよい。
【0074】
図11は、本実施例による保冷部材10を用いて常温の被保冷物Bを冷却した場合の被保冷物Bの温度変化を示すグラフである。
図11の横軸は時間(min)を表し、縦軸は温度(℃)を表している。また、
図11中の実線で示す曲線は、被保冷物Bの温度変化を示している。本実施例では、被保冷物Bの容器Gの中心部の液体Lの温度を被保冷物Bの温度として測定した。
【0075】
図11に示すように、被保冷物Bは約24分経過後に所望の温度帯上限6℃に冷却されている。保冷部材10は、温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用した保冷により、約140分経過後まで被保冷物Bを所望の温度帯に保持できている。なお、約33分〜約108分の間では、被保冷物Bが所望の温度帯(4℃〜6℃)よりも1〜3℃程度低い温度に冷却されているが許容範囲とする。
【0076】
温度保持用蓄熱材2aが被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持するために必要な潜熱量を有している。このように、本実施例による保冷部材10は、スパークリングワイン用のワインクーラーとして好適に用いることができる。
【0077】
次に、比較例3による保冷部材について説明する。比較例3による保冷部材は、急冷層を有しているが、温度保持層を有していない。比較例3による保冷部材の急冷層は、上記実施例4による保冷部材10の急冷層1と同じ構成を備えている。また、上記実施例4と同様に、液体Lとして750gのスパークリングワインを含む被保冷物Bを用いた。また、被保冷物Bの容器Gの中心部の液体Lの温度を被保冷物Bの温度として測定した。なお、その他の条件は、上記実施例4と同様である。
【0078】
図12は、比較例3による保冷部材を用いて常温の被保冷物Bを冷却した場合の被保冷物Bの温度変化を示すグラフである。
図12の横軸は時間(min)を表し、縦軸は温度(℃)を表している。また、
図12中の実線で示す曲線は、被保冷物Bの温度変化を示している。
図12に示すように、約60分経過後に被保冷物Bの温度は約13℃になり、約70分経過後に被保冷物Bの温度が再び上昇し始めている。このように、比較例3による保冷部材は、被保冷物Bを所望の温度帯に冷却することができなかった。これは、比較例3による保冷部材は、温度保持層を有していないので、急冷層の外周側が外気に晒されてしまい、急冷層の冷熱が外気に奪われてしまったためであると考えられる。
【0079】
次に、比較例4による保冷部材について説明する。比較例4による保冷部材は、急冷層を有していないが、温度保持層を有している。比較例4による保冷部材の温度保持層は、上記実施例4による保冷部材10の温度保持層2と同じ構成を備えている。また、上記実施例4と同様に、液体Lとして750gのスパークリングワインを含む被保冷物Bを用いた。また、被保冷物Bの容器Gの中心部の液体Lの温度を被保冷物Bの温度として測定した。なお、その他の条件は、上記実施例4と同様である。
【0080】
図13は、比較例4による保冷部材を用いて常温の被保冷物Bを冷却した場合の被保冷物Bの温度変化を示すグラフである。
図13の横軸は時間(min)を表し、縦軸は温度(℃)を表している。また、
図13中の実線で示す曲線は、被保冷物Bの温度変化を示している。
図13に示すように、約20分経過後に被保冷物Bの温度は約18℃になるが、約40分経過後に被保冷物Bの温度が再び上昇し始めている。このように、比較例4による保冷部材は、被保冷物Bを所望の温度帯に冷却することができなかった。これは、比較例4による保冷部材は、急冷層を有しておらず、被保冷物Bを所望の温度帯に冷却するために必要な冷却量を温度保持層の温度保持用蓄熱材が備えていないためであると考えられる。
【0081】
本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bを所望の時間内で所望の温度帯に急冷する急冷用蓄熱材1aを備えた急冷層1と、被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持する温度保持用蓄熱材2aを備えた温度保持層2と有している。急冷用蓄熱材1aの冷却量は、被保冷物Bを所望の温度帯に冷却するための必要な冷却量よりも大きい。温度保持用蓄熱材2aは被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持するために必要な潜熱量を有している。保冷部材10は、急冷層1で被保冷物Bを所望の時間内で所望の温度帯に急冷し、温度保持層2で被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持することができる。
【0082】
(実施例5)
次に、本実施の形態の実施例5による保冷部材10について
図14を用いて説明する。本実施例では、液体Lとして750gの白ワインを含む被保冷物Bを
図9および
図10に示す保冷部材10により冷却した。保冷部材10には、冷凍室で約−20℃に冷却したものを用いた。白ワインの所望の温度帯は9℃〜11℃である。急冷用蓄熱材1aには、主剤として塩化カリウムの濃度が20wt%である塩化カリウム水溶液を100gに、塩化ナトリウムの濃度が20wt%である塩化ナトリウム水溶液を50g混合したものを用いた。本実施例の急冷用蓄熱材1aは、塩化カリウム水溶液の相変化温度である約−11℃と、塩化ナトリウム水溶液の相変化温度である約−21℃とに相変化温度を備える。本実施例の急冷用蓄熱材1aは、共晶濃度の塩化カリウム水溶液と共晶濃度の塩化ナトリウム水溶液を2:1で混合して作製される。共晶濃度の塩化カリウム水溶液と共晶濃度の塩化ナトリウム水溶液を2:1の割合で混合して作製した急冷用蓄熱材1aは、塩化カリウム水溶液の相変化温度である約−11℃で約66%が凍結状態(固相状態)となり、残りの約33%が未凍結状態(液相状態)となる。保冷部材10の使用状態において、急冷層1の急冷用蓄熱材1aは、固相状態の塩化カリウム水溶液の部分と液相状態の塩化ナトリウム水溶液の部分とが共存する状態になるようにする。これにより、急冷層1は被保冷物Bの形状に併せて形状変化できるようになる。また、急冷用蓄熱材1aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。150gの急冷用蓄熱材1aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、急冷用蓄熱材1aはゲル化されてなくてもよい。
【0083】
また、温度保持用蓄熱材2aには、主剤としてTBABの濃度が35wt%であるTBAB水溶液を100gに、塩化ナトリウムの濃度が20wt%である塩化ナトリウム水溶液を100g混合したものを用いた。本実施例の温度保持用蓄熱材2aは、TBABの包接水和物の相変化温度(水とTBABとに分解される温度)である約11.5℃と、塩化ナトリウム水溶液の相変化温度である約−21℃とに相変化温度を備える。温度保持用蓄熱材2aは、液相状態の塩化ナトリウム水溶液の部分と固相状態のTBABの包接水和物の部分とが共存する状態になるようにする。これにより、温度保持用蓄熱材2aは被保冷物Bの形状に併せて形状変化できるようになる。また、温度保持用蓄熱材2aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。200gの温度保持用蓄熱材2aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、温度保持用蓄熱材2aはゲル化されてなくてもよい。
【0084】
図14は、本実施例による保冷部材10を用いて常温の被保冷物Bを冷却した場合の被保冷物Bの温度変化を示すグラフである。
図14の横軸は時間(min)を表し、縦軸は温度(℃)を表している。また、
図14中の実線で示す曲線は、被保冷物Bの温度変化を示している。本実施例では、被保冷物Bの容器Gの中心部の液体Lの温度を被保冷物Bの温度として測定した。
【0085】
図14に示すように、被保冷物Bは約15分経過後に所望の温度帯上限の11℃に冷却されている。保冷部材10は、温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用した保冷により、約80分経過後まで被保冷物Bを所望の温度帯内の11℃に保持できている。このように、本実施例による保冷部材10は、白ワイン用のワインクーラーとして好適に用いることができる。
【0086】
本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bを所望の時間内で所望の温度帯に急冷する急冷用蓄熱材1aを備えた急冷層1と、被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持する温度保持用蓄熱材2aを備えた温度保持層2と有している。急冷用蓄熱材1aの冷却量は、被保冷物Bを所望の温度帯に冷却するための必要な冷却量よりも大きい。温度保持用蓄熱材2aは被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持するために必要な潜熱量を有している。保冷部材10は、急冷層1で被保冷物Bを所望の時間内で所望の温度帯に急冷し、温度保持層2で被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持することができる。
【0087】
(実施例6)
次に、本実施の形態の実施例6による保冷部材10について
図15を用いて説明する。本実施例では、液体Lとして750gの赤ワインを含む被保冷物Bを
図9および
図10に示す保冷部材10により冷却した。保冷部材10には、冷凍室で約−20℃に冷却したものを用いた。赤ワインの所望の温度帯は16℃〜18℃である。急冷用蓄熱材1aには、主剤として塩化カリウムの濃度が20wt%である75gの塩化カリウム水溶液に、塩化ナトリウムの濃度が20wt%である25gの塩化ナトリウム水溶液を混合したものを用いた。本実施例の急冷用蓄熱材1aは、塩化カリウム水溶液の相変化温度である約−11℃と、塩化ナトリウム水溶液の相変化温度である約−21℃とに相変化温度を備える。本実施例の急冷用蓄熱材1aは、共晶濃度の塩化カリウム水溶液と共晶濃度の塩化ナトリウム水溶液を3:1で混合して作製される。共晶濃度の塩化カリウム水溶液と共晶濃度の塩化ナトリウム水溶液を3:1の割合で混合して作製した急冷用蓄熱材1aは、塩化カリウム水溶液の相変化温度である約−11℃で75%が凍結状態(固相状態)となり、残りの25%が未凍結状態(液相状態)となる。また、急冷用蓄熱材1aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。100gの急冷用蓄熱材1aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、急冷用蓄熱材1aはゲル化されていなくてもよい。
【0088】
また、温度保持用蓄熱材2aには、TBABを用いた。温度保持用蓄熱材2aは、TBABの濃度が35wt%であるTBAB水溶液を100g用いて作製した。TBABの濃度が35wt%であるTBAB水溶液を用いた温度保持用蓄熱材2aは、約11.5℃に相変化温度を備える。また、温度保持用蓄熱材2aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。100gの温度保持用蓄熱材2aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、温度保持用蓄熱材2aはゲル化されていなくてもよい。
【0089】
図15は、本実施例による保冷部材10を用いて常温の被保冷物Bを冷却した場合の被保冷物Bの温度変化を示すグラフである。
図15の横軸は時間(min)を表し、縦軸は温度(℃)を表している。また、
図15中の実線で示す曲線は、被保冷物Bの温度変化を示している。本実施例では、被保冷物Bの容器Gの中心部の液体Lの温度を被保冷物Bの温度として測定した。
【0090】
図15に示すように、被保冷物Bは約12分経過後に所望の温度帯上限の18℃に冷却されている。保冷部材10は、温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用した保冷により、約120分経過後まで被保冷物Bを所望の温度帯である16℃〜18℃に保持できている。
【0091】
このように、本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bを約12分で所望の温度帯に急冷することができた。また、本実施例による保冷部材10は、温度保持用蓄熱材2aの潜熱を利用して、被保冷物Bを約110分間、所望の温度帯に保冷することができた。これは、温度保持用蓄熱材2aは、被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持するために必要な潜熱量を有しているからである。このように、本実施例による保冷部材10は、赤ワイン用のワインクーラーとして好適に用いることができる。
【0092】
本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bを所望の時間内で所望の温度帯に急冷する急冷用蓄熱材1aを備えた急冷層1と、被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持する温度保持用蓄熱材2aを備えた温度保持層2と有している。急冷用蓄熱材1aの冷却量は、被保冷物Bを所望の温度帯に冷却するための必要な冷却量よりも大きい。温度保持用蓄熱材2aは被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持するために必要な潜熱量を有している。保冷部材10は、急冷層1で被保冷物Bを所望の時間内で所望の温度帯に急冷し、温度保持層2で被保冷物Bを所望の時間以上に亘って所望の温度帯に保持することができる。
【0093】
(実施例7)
次に、本実施の形態の実施例7による保冷部材10について、
図16〜
図18を用いて説明する。なお、
図1等に示す保冷部材10と同一の作用効果を奏する同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する説明を省略する。
図16および
図17は、本実施例による保冷部材10の断面形状を示している。
図16(a)および
図17(a)は、円筒形状の保冷部材10の中心軸を含む平面で切断した断面を示し、
図16(b)および
図17(b)はそれぞれ
図16(a)、
図17(a)に示す保冷部材10の中心軸に直交するA−A線で保冷部材10を切断した断面を示している。本実施の形態による保冷部材10は、温度保持層2の外側に配置され、断熱材を備えた断熱層3を有することに特徴を有している。
【0094】
断熱層3は、温度保持層2の外周に沿って配置されている。断熱層3の断熱材は、急冷層1および温度保持層2に外部から熱が伝わらないように断熱している。断熱層3の断熱材は、繊維系断熱材(グラスウール等)や発泡樹脂系断熱材(発泡スチロール、発泡ウレタン)、真空断熱材や布等を用いて形成される。
【0095】
本実施の形態による保冷部材10は、温度保持層2の外側に配置された断熱層3を有するので、急冷層1および温度保持層2の冷熱が外部に放出されないようにし、冷却効果を向上することができる。
【0096】
(実施例8)
本実施の形態の実施例8による保冷部材10について、
図18を用いて説明する。本実施例の保冷部材10は、複数に分割された急冷層1および温度保持層2を有している点に特徴を有している。保冷部材10は、急冷層1および温度保持層2が複数に分割されていると、被保冷物Bの形状や大きさに併せて、急冷層1および温度保持層2を配置することができる。これにより、本実施例による保冷部材10は、効率的に被保冷物を短時間で所望の温度帯までに冷却し、かつ所望の温度度帯で長時間保持することができる。
【0097】
図18(a)は、
図16(b)および
図17(b)に示す状態と同様に、保冷部材10の断面形状を示している。
図18(b)は、保冷部材10を温度保持層2側から観察した状態を示している。
図18(a)、(b)に示すように、保冷部材10は、六つに分割された急冷層1および温度保持層2を有している。また、一つの急冷層1および温度保持層2は一体的に形成され、長方形形状を有している。
【0098】
急冷層1および温度保持層2は、接続部4で接続されている。また、接続部4が収縮性を有し、保冷部材10の被保冷物Bへの設置が容易となる。接続部4の形成材料には、例えば、シリコンゴム、エラストマー樹脂、あるいはスポンジ等を用いることができるが、本実施例では、これらに限定されない。
【0099】
図18(c)および(d)は、
図16(b)および
図17(b)に示す状態と同様に、保冷部材10の断面形状を示している。
図18(c)は、三つ分割された急冷層1および温度保持層2を有する保冷部材10の断面形状を示している。
図18(c)に示す保冷部材10は、三つの独立した急冷層1と温度保持層2とを備えている。また、一つの急冷層1および温度保持層2は一体的に形成され、被保冷物Bの容器Gと同じ曲率に形成された曲面形状を有している。本例の保冷部材10は、複数の急冷層1および温度保持層2を有している。複数の急冷層1および温度保持層2は独立して形成されており、保冷部材10は、不図示の紐やゴム紐等で被保冷物Bに固定されて使用される。本例の保冷部材10は、被保冷物Bとの密着性を高めて、冷却効果を向上することができる。
【0100】
図18(d)は、
図18(c)に示す複数の急冷層1および温度保持層2が互に接続された保冷部材10を示している。本例の保冷部材10は、複数の急冷層1および温度保持層2を接続する接続部5を有している。接続部5の形成材料には、例えば、シリコンゴム、エラストマー樹脂、あるいはスポンジ等を用いることができるが、本実施例では、これらに限定されない。本例の保冷部材10は、被保冷物Bへの設置が容易である。
【0101】
本実施の形態による保冷部材10は、急冷層1および温度保持層2を複数有している。一つの急冷層1および温度保持層2は一体的に形成されている。また、隣り合う急冷層1および温度保持層2は、接続部4、5で互に接続されている。本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bへの設置を容易にすることができる。
【0102】
(実施例9)
次に、本実施の形態の実施例9による保冷部材10について説明する。本実施例による保冷部材10は、
図16および
図17に示す保冷部材10と同様の構成を備えている。急冷用蓄熱材1aには、塩化ナトリウムの濃度が10wt%である塩化ナトリウム水溶液を250g用いた。本実施例の急冷用蓄熱材1aは、約−7℃に相変化温度を備える。また、急冷用蓄熱材1aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。250gの急冷用蓄熱材1aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、急冷用蓄熱材1aはゲル化されていなくてもよい。
【0103】
温度保持用蓄熱材2aには、塩化ナトリウムの濃度が10wt%である塩化ナトリウム水溶液を153g用いた。本実施例の温度用蓄熱材2aは、約−7℃に相変化温度を備える。また、温度保持用蓄熱材2aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。153gの温度保持用蓄熱材2aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、温度保持用蓄熱材2aはゲル化されていなくてもよい。また、断熱層3には、長方形状のポリエチレン(PE)の片面にアルミが蒸着されている約1mm厚の断熱シートを用いた。
【0104】
図19(a)は、冷凍室で約−18℃に冷却した本実施例による保冷部材10を用いて、実際の使用状況を想定して被保冷物Bを冷却した場合の被保冷物Bに含まれるスパークリングワインの温度変化を示すグラフである。
図19(a)の横軸は時間(min)を表し、縦軸は温度(℃)を表している。本例では、容器Gに高さ30cmのガラス製のワインボトルを用い、ワインボトル内のスパークリングワインの温度をワインボトル内の上部、中部、下部の3箇所で測定した。ワインボトル内の上部の温度測定箇所は、ワインボトル上端から鉛直下方に13cmの箇所とし、ワインボトル内の中部の温度測定箇所は、ワインボトル上端から鉛直下方に17cmの箇所とし、ワインボトル内の下部の温度測定箇所は、ワインボトルの上端から鉛直下方に22cmの箇所とした。
図19(a)中の点線で示す曲線はワインボトル内上部のスパークリングワインの温度変化を示し、一点鎖線で示す曲線はワインボトル内中部のスパークリングワインの温度変化を示し、実線で示す曲線はワインボトル内下部のスパークリングワインの温度変化を示している。
【0105】
また、上記の保冷部材10の実際の使用状況として、ワインを冷却開始してから30分後に飲み始めると想定し、保冷部材10を用いたスパークリングワインの冷却開始から30分後にスパークリングワイン200mlを容器Gからグラスに注ぎ、冷却開始から45分後にスパークリングワイン100mlを容器Gからグラスに注ぎ、冷却開始から60分後にスパークリングワイン100mlを容器Gからグラスに注いだ。冷却開始から30分後にスパークリングワイン200mlを容器Gからグラスに注いだことで、ワインボトル内のスパークリングワインの液面がワインボトル内上部の温度測定箇所よりも下方になった。このため、冷却開始から30分後以降のワインボトル内上部の温度は計測していない。また、冷却開始から60分後以降では、合計400mlのスパークリングワインが容器Gからグラスに注がれたことで、ワインボトル内のスパークリングワインの液面がワインボトル内中部の温度測定箇所よりも下方になった。このため、冷却開始から60分後以降のワインボトル内中部の温度は計測していない。
【0106】
次に、
図19(a)を参照しつつ、
図19(b)を用いて本実施例による保冷部材10の保冷性能の実験結果についてより詳しく説明する。
図19(b)は、本実施例による蓄熱部材10の保冷性能の実験結果をまとめた表である。
図19(b)の表に示す目標温度は、本実施例の保冷部材10を用いてスパークリングワインを冷却する場合のスパークリングワインの目標の温度を示し、目標温度はスパークリングワインの飲み頃温度の4〜6℃とした。また、
図19(b)の表に示す目標到達時間は、本実施例の保冷部材10を用いて常温のスパークリングワインを目標温度にまで冷却するのに要する目標の時間を示し、目標到達時間は30分とした。また、
図19(b)の表に示す到達時間は、
図19(a)に示すスパークリングワインの温度変化のグラフにおいて、ワインボトル内中部のスパークリングワインの温度が常温から目標温度上限の6℃に到達するのに要した時間を示し、到達時間は27分であった。また、
図19(b)の表に示す目標保持時間は、本実施例の保冷部材10を用いて、常温のスパークリングワインを目標温度で保持する目標の時間を示し、目標保持時間は60分とした。また、
図19(b)の表に示す保持時間は、
図19(a)に示すスパークリングワインの温度変化のグラフにおいて、ワインボトル内下部のスパークリングワインの温度が目標温度4〜6℃で保持されていた時間であり、保持時間は59分であった。このように、本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bに含まれるスパークリングワインを目標到達時間内の27分で常温から目標温度の上限の6℃に急冷し、その後、目標保持時間に相当する59分間に亘って目標温度の4〜6℃で保持することができた。なお、被保冷物Bの冷却開始から30分後においてグラスに注いだスパークリングワイン200mlの温度は、8.7℃であり、被保冷物Bの冷却開始から45分後においてグラスに注いだスパークリングワイン100mlの温度は、6.5℃であり、被保冷物Bの冷却開始から30分後においてグラスに注いだスパークリングワイン100mlの温度は、6.6℃であった。
【0107】
本実施例による保冷部材10は、温度保持層2の外側に配置された断熱層3を有している。このため、本実施例による保冷部材10は、外部との熱移動を減少させて急冷層1の冷却効果を向上させることができ、上記実施例1、4による保冷部材10よりも急冷用蓄熱材1aの量を減らすことができる。
【0108】
また、本実施例による保冷部材10は、急冷用蓄熱材1aおよび温度保持用蓄熱材2aに同一の蓄熱材が用いられている。急冷用蓄熱材1aを有する急冷層1は被保冷物Bの周辺部に配置され、温度保持用蓄熱材2aを有する温度保持層2は急冷層1の外側に配置されるため、温度保持用蓄熱材2aは、急冷用蓄熱材1aに比して温度の上昇が緩やかになる。このため、急冷用蓄熱材1aが被保冷物Bの温度とほぼ同一温度になった後においても、急冷用蓄熱材1aと温度保持用蓄熱材2aとの温度差によって、温度保持層2に被保冷物Bの熱が流入することになり、温度保持層2は被保冷物Bを冷却し続けることができる。このため、急冷用蓄熱材1aおよび温度保持用蓄熱材2aに同一の蓄熱材を用いる場合においても、急冷層1を被保冷物の周辺部に配置し、温度保持層2を急冷層1の外側に配置することで、被保冷物を目標温度で保持する時間を長くすることができる。
【0109】
このように、本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bに含まれるスパークリングワインを目標到達時間内の27分で常温から目標温度の上限の6℃に急冷し、その後、目標保持時間とほぼ同じ59分間に亘って目標温度の4〜6℃で保持することができた。また、本実施例による保冷部材10は、急冷用蓄熱材の量を減らすことで材料の費用を削減することができる。このように、本実施例による保冷部材10は、スパークリングワイン用のワインクーラーとして好適に用いることができる。
【0110】
(実施例10)
次に、本実施の形態の実施例10による保冷部材10について説明する。本実施例による保冷部材10は、
図16および
図17に示す保冷部材10と同様の構成を備えている。急冷用蓄熱材1aには、塩化ナトリウムの濃度が10wt%である塩化ナトリウム水溶液を165g用いた。本実施例の急冷用蓄熱材1aは、約−7℃に相変化温度を備える。また、急冷用蓄熱材1aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。250gの急冷用蓄熱材1aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、急冷用蓄熱材1aはゲル化されていなくてもよい。
【0111】
また、温度保持用蓄熱材2aは、主剤としてTBABの濃度が25wt%であるTBAB水溶液を75gに、塩化ナトリウムの濃度が20wt%である塩化ナトリウム水溶液を75g混合して作製した。TBABの濃度が25wt%である75gのTBAB水溶液に、塩化ナトリウムの濃度が20wt%である塩化ナトリウム水溶液を75g混合することで、TBABの濃度が12.5wt%であり、塩化ナトリウムの濃度が10wt%である温度保持用蓄熱材2aが作製される。本実施例の温度保持用蓄熱材2aは、TBABの包接水和物の相変化温度(水とTBABとに分解される温度)である約11.5℃と、塩化ナトリウム水溶液の相変化温度である約−21℃とに相変化温度を備える。温度保持用蓄熱材2aは、−20℃〜11℃の温度域において、液相状態の塩化ナトリウム水溶液の部分と固相状態のTBABの包接水和物の部分とが共存する状態となる。これにより、温度保持用蓄熱材2aは被保冷物Bの形状に併せて形状変化できるようになる。また、温度保持用蓄熱材2aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。150gの温度保持用蓄熱材2aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、温度保持用蓄熱材2aはゲル化されてなくてもよい。また、断熱層3には、長方形状のポリエチレン(PE)の片面にアルミが蒸着されている約1mm厚の断熱シートを用いた。
【0112】
図20(a)は、冷凍室で約−18℃に冷却した本実施例による保冷部材10を用いて、実際の使用状況を想定して被保冷物Bを冷却した場合の、被保冷物Bに含まれる白ワインの温度変化を示すグラフである。
図20(a)の横軸は時間(min)を表し、縦軸は温度(℃)を表している。本例では、容器Gに高さ30cmのガラス製のワインボトルを用い、ワインボトル内の白ワインの温度をワインボトル内の上部、中部、下部の3箇所で測定した。ワインボトル内の上部の温度測定箇所は、ワインボトル上端から鉛直下方に13cmの箇所とし、ワインボトル内の中部の温度測定箇所は、ワインボトル上端から鉛直下方に17cmの箇所とし、ワインボトル内の下部の温度測定箇所は、ワインボトルの上端から鉛直下方に22cmの箇所とした。
図20(a)中の点線で示す曲線はワインボトル内上部の白ワインの温度変化を示し、一点鎖線で示す曲線はワインボトル内中部の白ワインの温度変化を示し、実線で示す曲線はワインボトル内下部の白ワインの温度変化を示している。
【0113】
また、上記の保冷部材10の実際の使用状況として、ワインを冷却開始してから30分後に飲み始めると想定して、保冷部材10を用いた白ワインの冷却開始から30分後に白ワイン200mlを容器Gからグラスに注ぎ、冷却開始から45分後に白ワイン100mlを容器Gからグラスに注ぎ、冷却開始から60分後に白ワイン100mlを容器Gからグラスに注いだ。冷却開始から30分後に白ワイン200mlを容器Gからグラスに注いだことで、ワインボトル内の白ワインの液面がワインボトル内上部の温度測定箇所よりも下方になった。このため、冷却開始から30分後以降のワインボトル内上部の温度は計測していない。また、冷却開始から60分後以降では、合計400mlの白ワインが容器Gからグラスに注がれたことで、ワインボトル内の白ワインの液面がワインボトル内中部の温度測定箇所よりも下方になった。このため、冷却開始から60分後以降のワインボトル内中部の温度は計測していない。
【0114】
次に、
図20(a)を参照しつつ、
図20(b)を用いて本実施例による蓄熱部材10の保冷性能の実験結果についてより詳しく説明する。
図20(b)は、本実施例による蓄熱部材10の保冷性能の実験結果をまとめた表である。
図20(b)の表に示す目標温度は、本実施例の保冷部材10を用いて白ワインを冷却する場合の白ワインの目標の温度を示し、目標温度は白ワインの飲み頃温度の9〜11℃とした。また、
図20(b)の表に示す目標到達時間は、本実施例の保冷部材10を用いて常温の白ワインを目標温度にまで冷却するのに要する目標の時間を示し、目標到達時間は30分とした。また、
図20(b)の表に示す到達時間は、
図20(a)に示す白ワインの温度変化のグラフにおいて、ワインボトル内中部の白ワインの温度が常温から目標温度上限の11℃に到達するのに要した時間を示し、到達時間は22分であった。また、
図20(b)の表に示す目標保持時間は、本実施例の保冷部材10を用いて、常温の白ワインを目標温度で保持する目標の時間を示し、目標保持時間は90分とした。また、
図20(b)の表に示す保持時間は、
図20(a)に示す白ワインの温度変化のグラフにおいて、ワインボトル内下部の白ワインの温度が目標温度9〜11℃で保持されていた時間であり、保持時間は88分であった。このように、本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bに含まれる白ワインを目標到達時間内の22分で常温から目標温度の上限の11℃に急冷し、その後、目標保持時間に相当する88分間に亘って目標温度の9〜11℃で保持することができた。なお、被保冷物Bの冷却開始から30分後においてグラスに注いだ白ワイン200mlの温度は、12.6℃であり、被保冷物Bの冷却開始から45分後においてグラスに注いだ白ワイン100mlの温度は、10.8℃であり、被保冷物Bの冷却開始から60分後においてグラスに注いだ白ワイン100mlの温度は、10.5℃であった。
【0115】
本実施例による保冷部材10は、温度保持層2の外側に配置された断熱層3を有している。このため、本実施例による保冷部材10は、外部との熱移動を減少させて急冷層1の冷却効果を向上させることができ、上記実施例2、5による保冷部材10よりも急冷用蓄熱材1aの量を減らすことができる。
【0116】
このように、本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bに含まれる白ワインを目標到達時間内の22分で常温から目標温度の上限の11℃に急冷し、その後、目標保持時間とほぼ同じ88分間に亘って目標温度の9〜11℃で保持することができた。また、本実施例による保冷部材10は、急冷用蓄熱材1aの量を減らすことで材料の費用を削減することができる。このように、本実施例による保冷部材10は、白ワイン用のワインクーラーとして好適に用いることができる。
【0117】
(実施例11)
次に、本実施の形態の実施例11による保冷部材10について説明する。本実施例による保冷部材10は、
図16および
図17に示す構成を備えている。急冷用蓄熱材1aには、塩化ナトリウムの濃度が10wt%である塩化ナトリウム水溶液を75g用いた。本実施例の急冷用蓄熱材1aは、約−7℃に相変化温度を備える。また、急冷用蓄熱材1aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。250gの急冷用蓄熱材1aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、急冷用蓄熱材1aはゲル化されていなくてもよい。
【0118】
また、温度保持用蓄熱材2aは、主剤としてTBABの濃度が25wt%であるTBAB水溶液を60gに、塩化ナトリウムの濃度が20wt%である塩化ナトリウム水溶液を60g混合して作製した。TBABの濃度が25wt%である60gのTBAB水溶液に、塩化ナトリウムの濃度が20wt%である塩化ナトリウム水溶液を60g混合することで、TBABの濃度が12.5wt%であり、塩化ナトリウムの濃度が10wt%である温度保持用蓄熱材2aが作製される。本実施例の温度保持用蓄熱材2aは、TBABの包接水和物の相変化温度(水とTBABとに分解される温度)である約11.5℃と、塩化ナトリウム水溶液の相変化温度である約−21℃とに相変化温度を備える。温度保持用蓄熱材2aは、−20℃〜11℃の温度域において、液相状態の塩化ナトリウム水溶液の部分と固相状態のTBABの包接水和物の部分とが共存する状態となる。これにより、温度保持用蓄熱材2aは被保冷物Bの形状に併せて形状変化できるようになる。また、温度保持用蓄熱材2aにゲル化剤を加えてゲル化した。ゲル化剤には、アクリルアミドモノマーと、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーと、2−ケトグルタル酸とを用いた。150gの温度保持用蓄熱材2aに対して、アクリルアミドモノマーは5%とし、N,N’−メチレンビスアクリルアミドモノマーは0.1%とし、2−ケトグルタル酸は0.12%とした。なお、温度保持用蓄熱材2aはゲル化されてなくてもよい。また、断熱層3には、長方形状のポリエチレン(PE)の片面にアルミが蒸着されている約1mm厚の断熱シートを用いた。
【0119】
図21(a)は、冷凍室で約−18℃に冷却した本実施例による保冷部材10を用いて、実際の使用状況を想定して被保冷物Bを冷却した場合の、被保冷物Bに含まれる赤ワインの温度変化を示すグラフである。
図21(a)の横軸は時間(min)を表し、縦軸は温度(℃)を表している。本例では、容器Gに高さ30cmのガラス製のワインボトルを用い、ワインボトル内の赤ワインの温度をワインボトル内の上部、中部、下部の3箇所で測定した。ワインボトル内の上部の温度測定箇所は、ワインボトル上端から鉛直下方に13cmの箇所とし、ワインボトル内の中部の温度測定箇所は、ワインボトル上端から鉛直下方に17cmの箇所とし、ワインボトル内の下部の温度測定箇所は、ワインボトルの上端から鉛直下方に22cmの箇所とした。
図21(a)中の点線で示す曲線はワインボトル内上部の赤ワインの温度変化を示し、一点鎖線で示す曲線はワインボトル内中部の赤ワインの温度変化を示し、実線で示す曲線はワインボトル内下部の赤ワインの温度変化を示している。
【0120】
また、上記の保冷部材10の実際の使用状況として、ワインを冷却開始してから30分後に飲み始めると想定して、保冷部材10を用いた赤ワインの冷却開始から30分後に赤ワイン200mlを容器Gからグラスに注ぎ、冷却開始から45分後に赤ワイン100mlを容器Gからグラスに注ぎ、冷却開始から60分後に赤ワイン100mlを容器Gからグラスに注いだ。冷却開始から30分後に赤ワイン200mlを容器Gからグラスに注いだことで、ワインボトル内の赤ワインの液面がワインボトル内上部の温度測定箇所よりも下方になった。このため、冷却開始から30分後以降のワインボトル内の上部の温度は計測していない。また、冷却開始から60分後以降では、合計400mlの赤ワインが容器Gからグラスに注がれたことで、ワインボトル内の赤ワインの液面がワインボトル内中部の温度測定箇所よりも下方になった。このため、冷却開始から60分後以降のワインボトル内中部の温度は計測していない。
【0121】
次に、
図21(a)を参照しつつ、
図21(b)を用いて本実施例による蓄熱部材10の保冷性能の実験結果についてより詳しく説明する。
図21(b)は、本実施例による蓄熱部材10の保冷性能の実験結果をまとめた表である。
図21(b)の表に示す目標温度は、本実施例の保冷部材10を用いて赤ワインを冷却する場合の赤ワインの目標の温度を示し、目標温度は赤ワインの飲み頃温度の16〜18℃とした。また、
図21(b)の表に示す目標到達時間は、本実施例の保冷部材10を用いて常温の赤ワインを目標温度にまで冷却するのに要する目標の時間を示し、目標到達時間は20分とした。また、
図21(b)の表に示す到達時間は、
図21(a)に示す赤ワインの温度変化のグラフにおいて、ワインボトル内中部の赤ワインの温度が常温から目標温度上限の18℃に到達するのに要した時間を示し、到達時間は13分であった。また、
図21(b)の表に示す目標保持時間は、本実施例の保冷部材10を用いて、常温の赤ワインを目標温度で保持する目標の時間を示し、目標保持時間は120分とした。また、
図21(b)の表に示す保持時間は、
図21(a)に示す赤ワインの温度変化のグラフにおいて、ワインボトル内下部の赤ワインの温度が目標温度16〜18℃で保持されていた時間であり、保持時間は127分であった。このように、本実施例による保冷部材10は、被保冷物Bに含まれる赤ワインを目標到達時間内の13分で常温から目標温度の上限の18℃に急冷し、その後、目標保持時間よりも長い127分間に亘って目標温度の16〜18℃で保持することができた。なお、被保冷物Bの冷却開始から30分後においてグラスに注いだ赤ワイン200mlの温度は、17.5℃であり、被保冷物Bの冷却開始から45分後においてグラスに注いだ赤ワイン100mlの温度は、16.6℃であり、被保冷物Bの冷却開始から60分後においてグラスに注いだ赤ワイン100mlの温度は、16.7℃であった。
【0122】
また、本実施例による保冷部材10は、温度保持層2の外側に配置された断熱層3を有している。このため、本実施例による保冷部材10は、急冷層1の冷却効果を向上させていることから、上記実施例3、6による保冷部材10と比較して、急冷用蓄熱材1aの量を減らすことができる。
【0123】
このように、本実施例の保冷部材10は、被保冷物Bに含まれる赤ワインを目標到達時間内の13分で常温から目標温度の上限の18℃に急冷し、その後、目標保持時間よりも長い127分間に亘って目標温度の16〜18℃で保持することができた。また、本実施例の保冷部材10は、急冷用蓄熱材の量を減らすことで材料の費用を削減することができる。このように、本実施例による保冷部材10は、赤ワイン用のワインクーラーとして好適に用いることができる。
【0124】
本発明は、上記実施の形態に例に限らず種々の変形が可能である。
上記実施例1では、保冷部材10は上面および底面が開口された円筒形状を有しているが、本発明はこれに限られない。例えば保冷部材10の底部が急冷層1および温度保持層2で閉じられていてもよい。また、保冷部材10は、中空の角柱形状を有していてもよい。また例えば、保冷部材10の中心軸に直交する平面で切断した断面形状は、円形に限られず、楕円形状や三角形以上の多角形形状であってもよい。
【0125】
また、上記の各実施例では、ワインクーラーとして保冷部材10が用いられているが、本発明はこれらに限られない。本発明による保冷部材は、野菜、魚、肉、果物等の生鮮食料品や加工食品、臓器移植に用いられる臓器等を冷却するために用いられてもよい。
【0126】
また、本発明による保冷部材は、クーラーボックス等の保冷容器に設置されてもよい。本発明による保冷部材を備えた保冷容器は、ワインクーラー、生鮮食料品、加工食品、臓器等を保冷するクーラーボックス等に用いることができる。
【0127】
なお、上記の各実施例に記載されている技術的特徴(構成要件)は相互に組合せ可能であり、組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。