特許第6594877号(P6594877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6594877エチレン系不飽和モノマー工程のための重合防止剤としての、ニトロキシドヒドロキシルアミンとフェニレンジアミンとの組合せ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594877
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】エチレン系不飽和モノマー工程のための重合防止剤としての、ニトロキシドヒドロキシルアミンとフェニレンジアミンとの組合せ
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/40 20060101AFI20191010BHJP
   C08F 20/00 20060101ALI20191010BHJP
   C08F 12/00 20060101ALI20191010BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20191010BHJP
   C08F 36/00 20060101ALI20191010BHJP
   C09K 3/00 20060101ALN20191010BHJP
【FI】
   C08F2/40
   C08F20/00 510
   C08F12/00 510
   C08F10/00 510
   C08F36/00 510
   !C09K3/00 109
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-536644(P2016-536644)
(86)(22)【出願日】2014年12月2日
(65)【公表番号】特表2017-503871(P2017-503871A)
(43)【公表日】2017年2月2日
(86)【国際出願番号】US2014068154
(87)【国際公開番号】WO2015084843
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2017年11月14日
(31)【優先権主張番号】14/095,606
(32)【優先日】2013年12月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515050220
【氏名又は名称】エコラブ ユーエスエイ インク
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トン デヴィッド ユウドン
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−199736(JP,A)
【文献】 特表2001−505929(JP,A)
【文献】 特表2002−530357(JP,A)
【文献】 特開平09−124713(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/106410(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第00594341(EP,A1)
【文献】 米国特許第04797504(US,A)
【文献】 特開平04−288302(JP,A)
【文献】 特開平11−236352(JP,A)
【文献】 特開2002−363128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00− 2/60
C07B31/00− 61/00
C07B63/00− 63/04
C07C 1/00−109/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチルの重合を防止する方法であって、
メタクリル酸メチルを含む流体を準備する工程と、
合防止剤組成物を前記流体に加える工程であって、前記重合防止剤組成物が、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、およびN,N’−ジ−1,4−ジメチルペンチル−1,4−フェニレンジアミンを含む工程と、
メタクリル酸メチルの重合を防止する工程と、
含む、方法。
【請求項2】
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、およびN,N’−ジ−1,4−ジメチルペンチル−1,4−フェニレンジアミンの添加量は、それぞれ、メタクリル酸メチルの質量に対して1ppmから2,000ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記重合防止剤組成物は、連続的または断続的に前記流体に添加される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
スチレンの重合を防止する方法であって、
スチレンを含む流体を準備する工程と、
重合防止剤組成物を前記流体に加える工程であって、前記重合防止剤組成物が、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、およびN,N’−ジ−1,4−ジメチルペンチル−1,4−フェニレンジアミンを含む工程と、
スチレンの重合を防止する工程と
を含む、方法。
【請求項5】
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、およびN,N’−ジ−1,4−ジメチルペンチル−1,4−フェニレンジアミンの添加量は、それぞれ、スチレンの質量に対して1ppmから2,000ppmである、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記重合防止剤組成物は、連続的または断続的に前記流体に添加される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
ブタジエンの重合を防止する方法であって、
ブタジエンを含む流体を準備する工程と、
重合防止剤組成物を前記流体に加える工程であって、前記重合防止剤組成物が、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、およびN,N’−ジ−1,4−ジメチルペンチル−1,4−フェニレンジアミンを含む工程と、
ブタジエンの重合を防止する工程と
を含む、方法。
【請求項8】
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、およびN,N’−ジ−1,4−ジメチルペンチル−1,4−フェニレンジアミンの添加量は、それぞれ、ブタジエンの質量に対して1ppmから2,000ppmである、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記重合防止剤組成物は、連続的または断続的に前記流体に添加される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記重合防止剤組成物は、エチレン製造工程中に添加される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記重合防止剤組成物は、ブタジエン製造工程中に添加される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
メタクリル酸の重合を防止する方法であって、
メタクリル酸を含む流体を準備する工程と、
重合防止剤組成物を前記流体に加える工程であって、前記重合防止剤組成物が、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、およびN,N’−ジ−1,4−ジメチルペンチル−1,4−フェニレンジアミンを含む工程と、
メタクリル酸の重合を防止する工程と
を含む、方法。
【請求項13】
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、およびN,N’−ジ−1,4−ジメチルペンチル−1,4−フェニレンジアミンの添加量は、それぞれ、メタクリル酸の質量に対して1ppmから2,000ppmである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記重合防止剤組成物は、連続的または断続的に前記流体に添加される、請求項12または13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、重合防止剤混合物とその使用法に関する。より詳細には、本開示は、少なくとも1つの、ニトロキシドのヒドロキシルアミンと、少なくとも1つのフェニレンジアミンとを含む、モノマーの重合を防止するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン系不飽和モノマーの早過ぎる重合は、モノマー製造工程における付着物発生の主な機構である。早過ぎる、または不必要な重合反応を防止するため、一般に、2種類の化合物、防止剤と遅延剤が開発された。防止剤は重合反応の発生を防ぎ、一般にすぐに消費される。遅延剤は重合反応の速度を遅くするが、防止剤ほどの効果はない。しかし、遅延剤は通常、防止剤ほど速くは消費されない。
【0003】
殆どの重合抑制剤(antipolymerants)は、防止剤であると考えられている。一般に、重合抑制剤は、カップリング反応による炭素中心ラジカルの捕捉または除去に非常に効果のある、安定なフリーラジカルである。殆どの酸化防止剤は遅延剤と考えられており、効率の良い水素供与体であることが多い。従って、これらは、酸素中心ラジカルに水素を供与することで酸素中心ラジカルを消失させる効果がある。
【0004】
エチレン系不飽和モノマーは本質的に反応性で、ラジカル重合の機構により、特に、高温で、また、重合開始剤が存在する場合に、重合する傾向がある。不必要な重合反応はしばしば操作上の課題となり、蒸留操作が含まれる場合には、高温が重合を加速する可能性があるため、深刻な操作上の課題となることがある。
【0005】
エチレン系不飽和モノマーの製造には典型的に3つの段階、反応、回収、および精製が含まれる。回収および精製段階に、高温での蒸留操作がしばしば含まれる。製造の際のエチレン系不飽和モノマーの重合は、生成したポリマーが、プロセス流から沈殿し、製造装置表面に堆積して、装置の正常な機能を損なうおそれがあるため、一般に望ましくない。従って、モノマー製造工程を行う際には、習慣的に重合防止剤が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012−0203020号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フェノール系およびフェニレンジアミン系酸化防止剤、ニトロキシド安定フリーラジカル、およびフェノチアジン誘導体は、この産業において重合を防止するために一般的に使用される試薬である。ヒドロキノン(HQ)、フェノチアジン(PTZ)、フェニレンジアミン(PDA)、および4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(HTMPO)は、この産業で最も一般的に使用されている重合防止剤のいくつかの例である。しかし、従来の防止剤処理では、重合から生じる付着物を十分に予防できないことが多い。更に、従来の防止剤の使用は、物流的、経済的、および安全上の懸念がしばしば生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
モノマーの重合を防止する組成物を提示する。ある態様において、モノマーの重合を防止する組成物は、少なくとも1つのニトロキシドのヒドロキシルアミンと、少なくとも1つのフェニレンジアミンとを含む。
【0009】
モノマーの重合を防止する方法もここに提示する。ある態様において、モノマーの重合を防止する方法は、エチレン系不飽和モノマーを含む流体を準備する工程と、有効量の重合防止剤組成物を流体に加える工程と、を含む。重合防止剤組成物は、有効量の少なくとも1つのニトロキシドのヒドロキシルアミンと、有効量の少なくとも1つのフェニレンジアミンとを含む。重合防止剤組成物を流体に加えることで、エチレン系不飽和モノマーの重合が防止されると考えられる。
【0010】
ここまで、後に示す詳細な記述が良く理解できるよう、本開示の特徴および技術的長所の概略をやや大まかに述べてきた。本開示のその他の特徴および長所については後に述べることとし、これが本願の請求の主題を成している。その概念および開示されている具体的な実施形態を、本開示の同じ目的を果たす別の実施形態を変更または考案するための基礎として容易に使用できることは、当業者ならば当然理解できよう。更に、このような同等の実施形態が、添付の請求項に述べられている本開示の精神および範囲から外れないことは、当業者ならば十分に理解できよう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
次に、図を詳しく参照しながら本発明を詳細に述べる。
【0012】
図1】本件に開示した重合防止剤組成物の実験解析を行うために使用する実験装置を示す略図である。
図2】本件に開示した重合防止剤組成物と従来の防止剤の特徴の比較を示すグラフである。
図3】本件に開示した重合防止剤組成物の2成分間の相乗効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の様々な実施形態を以下に示す。実施形態の様々な要素の関係および機能は、以下の詳細な記述を参照することで更に良く理解できよう。しかし、実施形態は、ここに明確に述べたものに限定されず、当然、場合によっては、従来の装置や合成法など、ここに開示した実施形態の理解に必要のない詳細は省略しても良い。
【0014】
本開示は、重合防止剤混合と、エチレン系不飽和モノマーの重合を防止する方法に関する。本開示による重合防止剤混合物/組成物は、複数の成分から成る混合物/組成物であっても良い。ある態様において、重合防止剤混合物/組成物は、少なくとも1つの、ニトロキシドのヒドロキシルアミンと、少なくとも1つのフェニレンジアミンとを含む。本件に開示した重合防止剤混合物/組成物はどれも、重合反応の開始および成長に関わるフリーラジカルを除去する効果を持つ。
【0015】
本開示によれば、ニトロキシドのヒドロキシルアミンは、次の一般化学構造式のいずれかで示すことができる。
【化1】
または
【化2】
式中、それぞれのR、R、R、およびRは独立して、任意のアルキル基より選ばれる。例えば、それぞれのR、R、R、またはRは独立して、任意のC〜Cアルキル基から成る群より選ぶことができる。従って、一部の態様において、それぞれのR、R、RまたはRは独立して、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル(haptanyl)、およびオクチルから成る群より選ぶことができる。Rは独立して、水素、酸素、アルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アミノ、アミド、およびカルボキシラートから成る群より選ばれる。
【0016】
本開示に従って使用可能な、6員環ニトロキシドのヒドロキシルアミンの一般構造を次に示す。
【化3】
式中、それぞれのR、R、R、およびRは独立して、任意のアルキル基より選ばれる。例えば、それぞれのR、R、R、またはRは独立して、任意のC〜Cアルキル基から成る群より選ぶことができる。従って、一部の態様において、それぞれのR、R、R、またはRは独立して、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、およびオクチルから成る群より選ぶことができる。RおよびR’は独立して、水素、アルキル、およびアリールから成る群より選ばれる。
【0017】
このため、本開示のある態様において、ニトロキシドのヒドロキシルアミンは、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、4−アセタート−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、1,2,3,6−テトラヒドロ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール、セバシン酸ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール)、およびこれらの任意の組合せから成る群より選ぶことができる。ある特定の態様において、ニトロキシドのヒドロキシルアミンは、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノールである。
【0018】
本件に開示したニトロキシドのヒドロキシルアミンは、対応するニトロキシドと混同してはならない。本件に開示したニトロキシドのヒドロキシルアミンは、後で十分に説明するように、追加的な重合防止性を与える能力など、その対応するニトロキシド以上の利点を持つ。ニトロキシドのヒドロキシルアミンを製造する一般的な合成径路は、次のように、還元剤を用いて、その対応するニトロキシドを還元することである。
【化4】
【0019】
ニトロキシドのヒドロキシルアミンは、炭素中心および酸素中心ラジカル開始剤が存在する場合、対応するニトロキシドに比べ、追加的な重合防止性を与える可能性を持っている。これは、次のように説明される。
【化5】
【0020】
ニトロキシドのヒドロキシルアミンは、化合物中のその弱いNO−H結合のため、優れた水素供与体であり、従って、効果的な酸化防止剤である。酸化防止剤として、ニトロキシドのヒドロキシルアミンは、過酸化物ラジカルなどの酸素中心ラジカルと容易に反応して、その対応するニトロキシドに転化する。ニトロキシドは、ほぼ拡散律速で炭素中心フリーラジカルを捕捉する、その優れた防止能力により、最も効果のある防止剤として一般的に知られている。この速度は、フェノール化合物より数桁も速い。しかし、その速度論的優位性は必ずしも有利であるとは限らない。例えば、酸素中心ラジカルが支配的なフリーラジカルとして存在する場合、その優位性が失われると考えられる。ニトロキシドに関するもうひとつの問題は、プロセス流成分または他の防止剤添加物との、非防止性で不必要な反応によりこれが消費されることである。その結果、所定の防止効果を得るために、しばしば、ニトロキシド防止剤の用量を多くする必要があり、このためその使用に経済的魅力がなくなり、あるいは、実行不可能となることもある。
【0021】
本質的に、酸素中心ラジカルと炭素中心ラジカルの両方が存在する場合、それぞれのニトロキシドのヒドロキシルアミンは、1つの水素供与体+1つのニトロキシド重合抑制剤に等しく、これがニトロキシドのヒドロキシルアミンを興味深いものにしている。つまり、ニトロキシドが炭素中心ラジカルを除去できるだけであるのに対し、1つのニトロキシドのヒドロキシルアミンは、1つの酸素中心ラジカルと1つの炭素中心ラジカルを除くことができる。
【0022】
本開示のフェニレンジアミンは、次の一般構造で示される。
【化6】
式中、RまたはRは独立して、水素、アルキル、アルキルアリール、アリール、アリールアルキル、ヒドロキシル含有アルキル基、エトキシラート含有アルキル基、およびアミノ含有アルキル基から成る群より選ぶことができる。
【0023】
従って、本開示のある態様において、フェニレンジアミンは、1,2−フェニレンジアミン、1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−1,4−ジメチルペンチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジアセチル−1,4−フェニレンジアミン、N−tert−ブチル−N’−フェニル−1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミン、およびこれらの任意の組合せから成る群より選ばれる。ある特定の態様において、フェニレンジアミンは、N,N’−ジ−sec−ブチル−1,4−フェニレンジアミンまたはN,N’−ジ−1,4−ジメチルペンチル−1,4−フェニレンジアミンである。
【0024】
本件に開示した重合防止剤の態様はいずれも、少なくとも1つのニトロキシドのヒドロキシルアミンと少なくとも1つのフェニレンジアミンなど、2つ以上の成分の組合せを含むことができる。この重合防止剤は、それぞれの成分をどのような量で含んでいても良い。例えば、一部の態様では、フェニレンジアミンよりもニトロキシドのヒドロキシルアミンを多く含んでいても良い。別の態様では、ニトロキシドのヒドロキシルアミンよりもフェニレンジアミンを多く含んでいても良い。更に別の態様では、等量のニトロキシドのヒドロキシルアミンとフェニレンジアミンとを含んでいても良い。従って、一部の態様において、少なくとも1つのニトロキシドのヒドロキシルアミンと少なくとも1つのフェニレンジアミンとの比は、質量比で、約10:1から約1:10、または約5:1から約1:5、または約1:1とすることができる。
【0025】
本件に開示した重合防止剤組成物は、従来の重合防止剤組成物よりも著しく改善されている。例えば、本開示の重合防止剤組成物は、効果、安全性/取り扱い性、環境影響、必要用量、および処理コストが非常に改善されている。これらの改善の、全てではなくともその多くは、本発明の発明者が、ここに開示した重合防止剤組成物の様々な成分の間で思いがけず発見した相乗効果にある程度基づいている。
【0026】
本開示に従って、モノマーの重合を防止する様々な方法を開示する。ある態様では、エチレン系不飽和モノマーの重合を防止する方法を提示する。エチレン系不飽和モノマーは当該技術において非常に良く知られており、全てのエチレン系不飽和モノマーが本開示の範囲に入るものとする。つまり、ここに開示した重合防止剤組成物は、どのようなエチレン系不飽和モノマーの重合も防止することができる。
【0027】
本開示の一部の態様において、エチレン系不飽和モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクロレイン、メタクロレイン、アクリラート、メタクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ブタジエン、エチレン、プロピレン、およびスチレンから成る群より選ばれる。
【0028】
本開示のある態様に従って、エチレン系不飽和モノマーの重合を防止する方法を開示する。この場合も、エチレン系不飽和モノマーは、どのようなエチレン系不飽和モノマーであっても良い。この方法は、エチレン系不飽和モノマーを含む流体を準備する工程を含む。この流体は、いかなる特定の流体にも限定されず、モノマー製造工程に存在するどのような流体であっても良い。この流体は、重合防止剤組成物が添加される、モノマーを含むプロセス流とすることができる。
【0029】
次に、有効量の、本件に開示した重合防止剤組成物の1つ以上を流体に加える。例えば、有効量の、少なくとも1つのニトロキシドのヒドロキシルアミンと少なくとも1つのフェニレンジアミンとを含む組成物を流体に加えることができる。
【0030】
ニトロキシドのヒドロキシルアミンおよび/またはフェニレンジアミン、および/または、本件に開示した重合防止剤組成物の他の成分は、手動で、または自動的に流体へ加えることができる。更に、これらは、連続的および/または断続的に加えることができる。自動的な添加は、薬液注入ポンプを使用して行っても良い。薬液注入ポンプをプログラムして、特定量の重合防止剤組成物またはその任意の成分を、ある一定の時間間隔で流体に加えても良い。別の態様では、薬液注入ポンプを手動で制御して、特定量の重合防止剤組成物またはその任意の成分を流体に加えることができる。更に、フェニレンジアミンおよびニトロキシドのヒドロキシルアミン、または、この重合防止剤組成物の他の任意の成分を、1つの溶液として一緒に流体へ加えても良く、あるいは、これらを別々に流体へ加えても良い。本件に開示した重合防止剤組成物を、エチレン系不飽和モノマーを含む流体に添加することで、エチレン系不飽和モノマーの重合が防止されると考えられる。
【0031】
少なくとも1つのニトロキシドのヒドロキシルアミンの有効量は、モノマーの重合を効果的に防ぐ量であればどのような量であっても良い。例えば、ニトロキシドのヒドロキシルアミンの有効量は、モノマーの質量に対して約1ppmから約2,000ppmとすることができる。ある態様において、有効量は約5ppmから約500ppmであっても良い。別の態様において、ニトロキシドのヒドロキシルアミンの有効量は約10ppmから約200ppmであっても良い。
【0032】
少なくとも1つのフェニレンジアミンの有効量は、モノマーの重合を効果的に防ぐ量であればどのような量であっても良い。例えば、フェニレンジアミンの有効量は、モノマーの質量に対して約1ppmから約2,000ppmとすることができる。ある態様において、有効量は約5ppmから約500ppmであっても良い。別の態様において、フェニレンジアミンの有効量は約10ppmから約200ppmであっても良い。
【実施例】
【0033】
重合防止剤組成物の性能を、実験室規模の連続流蒸留カラムを用いて評価した(図1参照)。この実験装置において、カラム(1)は、カラムサンプとボイラーに相当する3つ口フラスコ(2)と、蒸留カラムトレイ部に相当する穴開き金属板を備えた挿入装置(3)と、蒸留還流を供給するオーバーヘッド凝縮器に相当する凝縮器(4)とを含んでいる。原料供給ポンプ(5)でカラム原料を供給し、排出ポンプでサンプの液面を保った。加熱マントルで加熱して、フラスコの中身を約85℃から約95℃の温度に保った。この装置は、典型的なアクリラート製造工程の蒸留操作における操作および付着物発生環境を模倣している。
【0034】
10〜35ppmのモノメチルエーテルヒドロキノン(MEHQ)で防止してある、市販グレードのメタクリル酸メチル(MMA)を入手した。非防止(uninhibited)メタクリル酸メチルは、防止剤除去剤でMEHQを除去して得た。過酸化ベンゾイル(BPO)を、実験の重合開始剤として使用した。
【0035】
重合防止剤をBPOと共に非防止モノマー(MMA)溶液に加えた。得られた溶液の一部を3つ口フラスコに注ぎ入れて熱を加えた。重合防止剤/非防止モノマー溶液の残りの部分を原料供給タンク(6)に入れた。実験を行っている間、原料供給タンク中の重合防止剤/非防止モノマー溶液の一部を、原料供給タンクから蒸留カラムへポンプで送る一方、3つ口フラスコの中身を連続的にポンプで排出する。
【0036】
第1実験群では、本開示による重合防止剤組成物を従来の重合防止剤と比較した。第1実験では、100ppmのフェノチアジン(PTZ)を非防止モノマー溶液に加えた。第2実験では、100ppmの4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(HTMPO)を非防止モノマー溶液に加えた。第3実験では、100ppmのヒドロキノン(HQ)を非防止モノマー溶液に加え、第4実験では、約18ppmのN,N’−ジ−sec−ブチル−1,4−フェニレンジアミンと、約18ppmの4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノール(HTMPOH)とを、非防止モノマー溶液に加えた。それぞれの実験は上記の実験手順に従って行った。即ち、溶液の一部を3つ口フラスコに注ぎ入れ、残りを原料供給タンクに入れ、溶液を原料供給タンクから蒸留カラムへポンプで送る、などである。
【0037】
特有の性能を試験するため、結果としてポリマーが生成するよう、時間と共にサンプ中のポリマー濃度を上げた。効果的な重合防止剤組成物は、蒸留カラム中でのポリマー生成を減らして、サンプ中のポリマーの濃度上昇を遅らせると予想される。
【0038】
図2から分かるように、本開示の重合防止剤は、相対的ポリマー濃度が最も低くなり、全ての従来の重合防止剤よりも性能が優れていた。
【0039】
第2実験群では、本開示の重合防止剤組成物の態様の相乗効果を示すため、前述と同じ実験工程を用いた。第1実験では、約10ppmのN,N’−ジ−sec−ブチル−1,4−フェニレンジアミンを非防止モノマー溶液に加えた。第2実験では、約10ppmのHTMPOHを非防止モノマー溶液に加え、第3実験では、約10ppmのN,N’−ジ−sec−ブチル−1,4−フェニレンジアミン+約10ppmのHTMPOHを非防止モノマー溶液に加えた。
【0040】
これらの実験の結果を図3に示す。これは、HTMPOHとN,N’−ジ−sec−ブチル−1,4−フェニレンジアミンとの強い相乗効果を明らかに示している。この相乗効果は、本件に開示した重合防止剤組成物のどのような態様にも存在すると期待できる。
【0041】
文中に開示請求されている組成物および方法は全て、本開示に照らして、必要以上に実験を行うことなく、製造および実行することが可能である。本発明は多くの様々な形で具体化できるが、ここでは本発明の特定の望ましい実施形態について詳しく説明している。本開示は本発明の原理の例示であり、本発明を、説明した特定の実施形態に制限しようとするものではない。更に、明確に否定されていない限り、用語“a”の使用は、“少なくとも1つの”または“1つ以上の”を含むことを意図している。例えば、“あるひとつの(a)重合防止剤”は、“少なくとも1つの重合防止剤”または“1つ以上の重合防止剤”を含むことを意図している。
【0042】
範囲は、絶対値または近似値のどちらで示されていても、両方を含むことを意図しており、文中で用いられている定義はいずれも、明確にするものであって、制限しようとするものではない。本発明の広い範囲を説明している数値域およびパラメータは近似値ではあるが、具体例に述べた数値は、できる限り正確に報告されている。しかし、どの数値にも、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる、ある種の誤差が本質的に含まれる。更に、文中に開示した全ての範囲が、本件に含まれる、いずれかおよび全てのサブレンジ(全ての部分値と全体値を含む)を包含していることは当然である。
【0043】
更に、本発明は、文中に述べた様々な実施形態の一部または全ての、いずれかおよび全ての可能な組合せを包含する。当然のことながら、当業者には、文中に述べた、現時点で望ましいとされる実施形態の様々な変化および変更が明らかであろう。このような変化および変更は、本発明の精神および範囲から外れることなく、また、企図したその利点を損なうことなく実行可能である。従って、このような変化および変更も添付の請求項の範囲に含まれるものとする。
図1
図2
図3