(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594878
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】遷移金属酸化物粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 45/02 20060101AFI20191010BHJP
【FI】
C01G45/02
【請求項の数】44
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-537355(P2016-537355)
(86)(22)【出願日】2014年8月28日
(65)【公表番号】特表2016-531832(P2016-531832A)
(43)【公表日】2016年10月13日
(86)【国際出願番号】FI2014050659
(87)【国際公開番号】WO2015028718
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2017年8月8日
(31)【優先権主張番号】20135869
(32)【優先日】2013年8月28日
(33)【優先権主張国】FI
(31)【優先権主張番号】61/870,799
(32)【優先日】2013年8月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516060211
【氏名又は名称】インクロン リミテッド
【氏名又は名称原語表記】INKRON LTD
(73)【特許権者】
【識別番号】516060222
【氏名又は名称】ユーハ ランタラ
【氏名又は名称原語表記】RANTALA, Juha
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】ユーハ ランタラ
【審査官】
森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−533288(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/090749(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/023597(WO,A1)
【文献】
特表平08−503918(JP,A)
【文献】
特開昭61−017424(JP,A)
【文献】
米国特許第05312457(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 45/00 − 45/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)遷移金属塩、および、
b)可溶性導電性向上化合物を、一緒にまたは別々に水と混合して電解質溶液を形成する工程であって、前記電解質溶液は、鉛アノードであるアノードと、カソードとの間に提供される工程と;
前記溶液に定電圧パルス電解を行って、前記アノードで金属酸化物粒子の形成を発生させる工程であって、前記金属酸化物粒子は、前記アノードから離間して前記電解質溶液内に戻る工程と;
任意で、前記電解質溶液から前記金属酸化物粒子を分離する工程とを、含む、金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
形成された前記金属酸化物は、ZnO、In2O3、RuO2、IrO2、CrO2、MnO2、ReO3から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
形成された前記金属酸化物は、Ce、Zr、Zn、Co、Fe、Mg、Gd、Ti、Sn、Ru、Mn、Cr、Cuから選択される1つ以上の金属の金属酸化物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属酸化物粒子は前記アノード上で形成され、即座に前記アノードから離間して、前記電解質溶液中で遊離するナノ粒子になる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アノードにおける前記金属酸化物粒子の形成は酸化反応である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
形成された前記金属酸化物粒子は酸化マンガン粒子である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記電解質溶液から分離された前記酸化マンガン粒子の平均直径は10ミクロン未満である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記粒子の平均直径は1ミクロン未満である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記粒子は球形である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記粒子の平均直径は0.5ミクロン未満である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
溶液中の遊離粒子の収率は40%よりも大きい、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記定電圧パルス電解は、前記電極間に印加される一連の電圧パルスを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
電解中に前記電解質溶液に超音波を付与する工程を更に含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記電解質溶液のpHは7未満である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記電解質溶液の導電性は1〜30mS/cmである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記アノードはアレイであり、複数のマイクロメートルサイズまたはサブマイクロメートルサイズの電極を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記定電圧パルス電解は、パルス幅が1秒未満である一連の電圧パルスを含む、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記遷移金属塩は、Ni、W、Pb、Ti、Zn、V、Fe、Co、Cr、Mo、Mn、Ruから選択される遷移金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記遷移金属は早期遷移金属である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記遷移金属塩は硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、または、ハロゲン塩である、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記可溶性導電性向上化合物は酸である、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記可溶性導電性向上化合物は、硫酸、硝酸、塩素含有酸、リン酸、または、炭酸である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記可溶性導電性向上化合物はハロゲンを含有する塩または酸である、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記可溶性導電性向上化合物は塩である、請求項1〜20、23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記可溶性導電性向上化合物は極性共有結合化合物である、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記極性共有結合化合物はHCl、HBr、HI、HNO3、H3PO4、または、H2SO4である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記遷移金属塩は後期遷移金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記遷移金属塩および前記可溶性導電性向上化合物は、両方とも、同じ硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、または、ハロゲン基を含む、請求項1〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記遷移金属塩および前記導電性向上化合物に加えて、有機溶媒が前記溶液中に添加される、請求項1〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記有機溶媒は脂肪族酸である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
分離された前記酸化物粒子は、一次電池または充電式電池に添加される、請求項1〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
形成された前記金属酸化物粒子の平均最大寸法は800nm未満である、請求項1〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記金属酸化物粒子の最大寸法は0.2〜0.7ミクロンである、請求項1〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記遷移金属塩は、周期表の第4行、第5行、第6行または第7行から選択される遷移金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
ろ過前において、形成された全ての前記金属酸化物は溶液中の粒子である、請求項1〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記電極で形成された全ての前記金属酸化物は、当該電極に付着したままの金属酸化物を残さずに、前記電解質中に粒子として分離する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記電解質のpHは1〜2であり、導電性は5〜15mS/cmである、請求項1〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記電解質溶液は、粒子形成中、50〜90℃に加熱される、請求項1〜37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記金属酸化物粒子を前記電解質溶液から分離する前記工程は、前記粒子を経時で前記電解質溶液中で沈殿させ、前記電解質溶液を除去し、次いで、残存する前記粒子を洗浄および乾燥する工程を含む、請求項1〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記金属酸化物を前記電解質溶液から分離する前記工程は、液体サイクロンまたはデカンタ式の遠心分離工程を含む、請求項1〜39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
全ての前記粒子は、最大寸法が1ミクロン未満である、請求項1〜40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記遷移金属塩は、前記アノードにおいてアノード酸化されることが可能な、周期表の第4〜第7行つまり第4〜第7周期から選択される遷移金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項43】
形成された前記金属酸化物は、銀、銅、ニッケル、チタンもしくはそれらの酸化物、グラフェン、グラファイト、カーボンナノチューブ、金、白金、または、パラジウムで更にコートされる、請求項1〜42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
結晶性金属酸化物粒子を形成する工程を含む、請求項1〜43のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物粒子、その使用、および、当該粒子の製造に関する。特に、本発明は、電解質溶液全体に電圧を印加することにより調製される遷移金属酸化物粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物、特に酸化マンガン(MnO
2)は、一次電池、充電式電池、電磁波吸収用途、触媒用途、抗菌・滅菌用途などの実用上の用途のいくつかに使用されている。近年まで、マイクロメートルスケールの粒子のみが使用されてきたが、一部の研究では、サブミクロン粒子(すなわち、ナノ酸化物粒子)を適用することにより、大型粒子よりも優れた利点がいくつか得られることが示されている。酸化物ナノ粒子の既知の合成・製造方法は、化学沈殿法、熱水沈殿法、熱分解法、機械破砕法であると記載されている。
【0003】
様々な種類の二酸化マンガン(MnO
2)が、触媒として、特に、電気化学コンデンサー・電池における電気活性材料として使用されている。これは、二酸化マンガンは豊富に存在していること、低コストであること、電荷密度が良好であること、電気化学的安定性および化学的安定性が高いこと、そして、毒性が低いことに起因している。デジタルカメラやコードレスツールなどの近年の電子装置では、電池が高出力用途により適していることが要求される。新しい電池システムの開発や商業化が著しく進んでいるのにもかかわらず、アルカリZn/MnO
2電池はコストや毒性が低いため、いまだに電池市場のシェアの大部分を占めている。しかし、カソードとして電解二酸化マンガンを使用した現在市販されているアルカリZn/MnO
2電池は、ハイレート性能について、新世代電子装置の要求を満たすことができない。例えば、アルカリZn/MnO
2電池のカソード用活物質は、その30〜40%が高出力電子装置に利用されているに過ぎない。
【0004】
したがって、新規電子装置を開発するためにアルカリZn/MnO
2電池のハイレート性能を改善する必要がある。
【0005】
アルカリZn/MnO
2電池の性能に影響を与えるファクターは多数ある。カソードの性質は、電池性能の制限について、他のファクターよりも重要な役割を果たす。現行のアルカリZn/MnO
2電池におけるカソードの活物質は電解二酸化マンガン(electrolytic manganese dioxide;EMD)である。市販のEMDの比表面積は比較的小さい(約40m
2/g)。比表面積が小さいと、電解質とMnO
2との間の接触面積が制限されるため、特にハイレート条件で、利用率およびレート能力が低くなる。よって、MnO
2の比表面積を増加させることは、Zn/MnO
2電池の性能を改善する有効な手段である。ナノ材料は特別な物理的・化学的特性を有し、ナノ構造により表面積が大きくなっている。ナノ二酸化マンガンは、分子/イオン篩い、触媒、磁性材料、電池材料、スーパーコンデンサー、燃料電池用カソード電極触媒などの様々な用途に使用することができる。
【0006】
アルカリZn/MnO
2電池の性能に影響を与える第2のファクターはEMDの結晶相である。酸化マンガンはいくつかのの結晶相を有し、ナノ材料を同時に達成しつつ結晶相を制御することは困難である。今日まで、単純還元法、共沈殿法、熱分解法、ゾルゲル法を含む、多くのナノ酸化マンガン調製方法が提案されている。これらの方法は、通常自然状態では複雑であり、また、生成物の比表面積は市販のEMDと比較してそれほど大きくない。しかしながら、今に至るまで、EMDでは、遊離の凝集体フリーなナノ粒子粉体を製造できていない。
【0007】
リチウムイオン電池のカソード材料は通常、遷移金属の酸化物である。高度に可逆的なリチウム挿入/脱離中の電気化学ポテンシャルが高いからである。リチウム電池カソードについて、Co、Ni、Mn、Vの酸化物の調製、構造および電気化学の研究に関する文献がある。近年、リチウム電池用電極材料としてナノ粒子が提案されている。リチウム電池用電極の活物質としてのナノ粒子の考えられる利点は、ハイレート能に関係すると思われる。リチウム挿入電極における律速段階は固体拡散(活物質のバルク中のリチウムイオン)であると考えられるため、粒子が小さいほど拡散長が短くなり、電極における反応速度(キネティクス)がより速くなることが期待される。充電式リチウム電池におけるMnO
2化合物の実用性は過去に盛んに議論され、市販の充電式リチウム電池でも実証されている。4.1V(vs Li/Li+)付近で可逆的にリチウムが挿入されること、マンガンが地球外殻に豊富に存在すること、および、比較的毒性が低いことが、リチウム化コバルト酸化物やリチウム化ニッケル酸化物と比したスピネル型LiMn
2O
4の利点である。これまでに公開されているLiMn
2O
4の合成経路は、長時間かつ高温の焼成ステップを主要な必須ステップとして含むものである。これらの方法ではマイクロ粒子が生成される。
【0008】
金属酸化物粒子はまた、マイクロ波吸収など、高周波で応用されている。マイクロ波は、周波数範囲が300MHz〜300GHzの電磁スペクトルである電磁波である。しかし、マイクロ波技術の用途の多くは、1〜40GHzの範囲の周波数を利用している。無線通信が急速に進歩する中で、周囲の無線周波数波やマイクロ波の密度は深刻な問題になってきている。携帯電話やパソコンなどの電子装置は電磁波を出射するため、深刻な電磁波干渉現象を引き起こし、電磁波汚染問題となっている。このような現象を防止するために、電磁(EM)波吸収材料が一般的に使用されている。
【0009】
電磁波吸収材を使用することにより上記問題を軽減することができるため、電磁波吸収材は、防音室、レーダーシステム、軍事用途などの特別な分野外の用途で益々重要になっている。上記問題を解決するために、有望な電磁波吸収材が広範囲に調査されている。特に、製造方法が実用的かつ簡便であるために、プレート状の構造を有する吸収材の研究に焦点が当てられている。また、二酸化マンガン(MnO
2)はマンガンフェライトの原材料の一つであり、マンガンフェライトは低周波数バンドの電磁波吸収性能が優れているため、軍事・土木工学で幅広く使用されている。しかし、我々の知る限り、MnO
2ナノ粒子、特に、電解生成した凝集体フリーなMnO
2ナノ粒子粉体の電磁特性・電磁波吸収メカニズムについての結果は報告されていない。
【0010】
上述の電気的な用途を超えて、MnO
2などの金属酸化物のナノ粒子は、オゾンや塩素などの他の抗菌剤と同様に酸化によりバクテリアの細胞エンベロープの一体性を破壊する高い酸化能を有するため、抗菌用途にも応用することができる。
【0011】
背景技術は特許文献1〜4である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2013199673号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第102243373号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2012093680号明細書
【特許文献4】国際公開第0027754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、電解質溶液全体に電圧を印加することにより製造された酸化物、好ましくは遷移金属酸化物粒子に関する。電解質溶液は、水中の遷移金属塩を含み、また好ましくは、電解質の導電性を向上させるための化合物も含む。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施形態では、遷移金属酸化物および可溶性導電性向上化合物を一緒にまたは別々に水と混合して、電解質溶液を形成する工程を含む、金属酸化物粒子の製造方法が提供される。電解質溶液は電極間に設けられ、次いで定電圧パルス電解を行って、上記電極の一方の電極で金属酸化物粒子の形成を発生させる。金属酸化物粒子は第1の電極または第2の電極から離間して電解質溶液中に戻り、次いで、電解質溶液から分離される。
【0015】
定電圧パルス電解を金属酸化物粒子の製造に使用することは、従来技術において提案されていない。
【0016】
本発明の他の一実施形態では、電解酸化マンガン粒子(EMD)などの電解金属ナノ粒子が提供され、最大寸法は1ミクロン未満であり、インク、スラリーまたはペーストで提供される。本発明の更に他の実施形態では、上記電解ナノ粒子を内部に含む蓄電装置が提供される。
【0017】
本願明細書に記載のプロセスにより製造される上記粒子は、マイクロメートル範囲またはナノメートル範囲のサイズを有することができる。
【0018】
上記粒子は、典型的には結晶性であり、特にε相およびγ相を呈する。
【0019】
上記酸化物粒子は、蓄電装置を含む様々な用途に使用することができる。一例として、上述したとおり、リチウムイオン電池を含む様々な用途のために酸化マンガン粒子およびその製造方法が開示される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は実施例1で得られたMnO
2粒子のSEM写真である。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは、それぞれ、実施例2で得られたMnO
2粒子のSEM写真およびEDSプロットを示す。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bは、それぞれ、実施例3で得られたMnO
2粒子のSEM写真およびEDSプロットを示す。
【
図4】
図4は、実施例4で得られたMnO
2粒子のXRDの結果を示す。
【
図5】
図5は、本発明の技術で使用可能な合成装置を模式的に図示する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
マイクロ粒子、ナノ粒子などの粒子の製造方法および製造装置を本願明細書に開示する。
【0022】
上記プロセスは、その様々なバリエーションにおいて、まず水性電解質を形成する工程と、当該電解質を電極間に配置する工程と、次いで、当該電極間に電位を印加して電解を行い、所望の上記粒子を形成する工程とを含む。好適な例では、上記電解質は、水に金属塩および導電性向上化合物を混合して形成した水溶液であり、その後、上記電極間および上記電解質を介して電圧を印加する。この電圧は一連の電圧パルスとして印加されることが好ましい。上記電圧パルスは、一連のオン電圧およびオフ電圧、一連の高電圧および低電圧、一連の順方向電圧パルスおよび逆方向電圧パルス、または、それらの組み合わせとすることができる。
【0023】
酸化物粒子製造の一例において、電解質溶液は遷移金属塩から形成される。好ましくは、上記電解質溶液の導電性を向上するために可溶性導電性向上化合物も添加される。上記遷移金属塩および上記可溶性導電性向上化合物の両方を水に添加することができる。あるいは、上記遷移金属塩を第1の水に添加し、次いで別個に上記可溶性導電性向上化合物を他の水に添加し、両者を合わせて上記電解質溶液とすることができる。
【0024】
上記遷移金属塩は、上記プロセスで可溶な任意の所望な遷移金属化合物とすることができる。上記遷移金属は後期遷移金属または早期遷移金属とすることができる。上記遷移金属は、周期表の第4列〜第12列からの遷移金属であることが好ましい。上記遷移金属は、周期表の第4行〜第6行から選択されることが好ましいが、任意の好適な遷移金属とすることができる。一例では、上記遷移金属は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znなど、周期表の第4行から選択される。また、上記遷移金属は、限定されないがZr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rhなど、周期表の第5行から選択され得る。上記遷移金属塩は、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、または、ハロゲン塩である化合物とすることができる。
【0025】
上記可溶性導電性向上化合物は、上記酸化物粒子を製造するための電解プロセスで可溶な化合物である。一例として、上記導電性向上化合物は、硫酸、硝酸、塩素含有酸、リン酸、炭酸などの酸である。上記導電性向上化合物は、ハロゲンを含有する塩または酸とすることができる。
【0026】
好適な一例では、上記導電性向上化合物は、HCl、HBr、HI、H
2SO
4などの極性共有結合化合物である。一例では、上記遷移金属塩および上記導電性向上塩は、両方とも硝酸塩であるか両方とも硫酸塩である。他の一例では、上記遷移金属塩は、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩またはハロゲン基を含み;上記導電性向上塩は、上記遷移金属塩の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩またはハロゲン基とは異なる、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩またはハロゲン基を含む。好ましくは、上記遷移金属塩は、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩またはハロゲン基を含み;上記導電性向上塩は、上記遷移金属塩の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩またはハロゲン基と同じである、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩またはハロゲン基を含む。
【0027】
所望な場合、追加の化合物または添加剤を上記電解質溶液に添加することができる。このような化合物は、上記電解プロセスに有益な有機溶媒、機能性有機化合物、界面活性剤またはポリマーであり得る。これらのクラスの化合物のより具体的な例は、アルコール、ケトン、エステル、有機酸、有機硫黄含有化合物、様々なアニオン性、カチオン性または非極性界面活性剤、ならびに、機能性ポリマーであり得る。上記有機溶媒は、上記の中でも、酢酸、グリコール酸、シュウ酸、デカン酸、または、オクタン酸とすることができる。上記機能性ポリマーは、エチレンとプロピレンオキサイドとのコポリマー、ポリビニルアルコール、および、ポリビニルピロリドンであり得るが、これらに限定されない。
【0028】
形成される粒子の直径は、平均で1ミクロン以上(例えば、1〜50ミクロン、または、例えば、1〜10ミクロン)であり得るが、上記方法は、直径(つまり最大寸法)が1ミクロン未満であるナノ酸化物粒子を形成するために使用することが好ましい。
【0029】
一実施形態では、上記粒子の平均直径(または最大寸法)は0.01〜0.90ミクロン、好ましくは0.025〜0.85ミクロン、例えば、0.1〜0.75ミクロンであり、実質的に丸い(つまり球形である)。
【0030】
他の一実施形態では、棒、薄片または花びらの形状を有する粒子が形成される。かかる粒子の平均最大寸法は上述の範囲内とすることができる。
【0031】
平均直径または最大寸法が0.6ミクロン未満、例えば、0.5ミクロン未満、更には0.3ミクロン未満であるナノ粒子を、本願明細書に記載の方法に従って製造することができる。
【0032】
好適な例では、形成された粒子はサイズが実質的に均一であるため、上述の範囲内の特定の平均寸法について、形成された粒子の実質的に全てが、かかる範囲内の寸法を有する。
【0033】
上記溶液に対する形成された金属酸化物粒子の収率は、40%よりも大きくすることができ、好ましくは、65%以上(最大100%、あるいは、より一般的には99%)の収率を含む、50%よりも大きくすることができる。
【0034】
粒子形成中の上記電解質のpHは酸性であることが好ましく、例えば7未満であり、例えば1〜6である。場合によっては、当該範囲のより低いpH、例えば1〜4、または、1〜2.5、例えば、1〜2が望ましい。粒子形成中の電解質の温度は様々な温度から選択することができ、例えば、電解質溶液は粒子形成中に50〜90℃、または、60〜80℃に加熱される。しかしながら、大気温度以下などの50℃未満の温度を含む、これらの温度範囲よりも低温側および高温側の温度の両方を使用することができる。
【0035】
一例では、上記導電性向上化合物は、HCl、HBr、HI、HNO
3、H
2SO
4などの極性共有結合化合物である。また、上記導電性向上化合物として、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を使用することができる。かかる場合、アルカリ金属はKまたはNaであり得、アルカリ土類金属はMgまたはCaであり得る。このような塩はまた、NO
3、SO
4、PO
4、BO
3、ClO
4、(COOH)
2、ハロゲン基から選択されるイオン(アニオン)を有し得る。
【0036】
上記定電圧パルス電解は、電源から供給される一連の電圧パルスを有し得、電圧はアノードおよびカソードの間に印加される。上記電圧パルスは順方向パルスおよび逆方向パルスの両方を含むことができる。
【0037】
一例では、逆方向パルスを提供せず、1つ以上の順方向パルスのみを上記電極間に提供する。しかしながら、好適な一例では、1つ以上の順方向パルスおよび1つ以上の逆方向電圧の両方が提供される。
【0038】
一例では、複数の順方向パルスの後に複数の逆方向パルスが続く。
【0039】
他の一例では、複数の順方向パルスの後に単一の逆方向パルスが続く。
【0040】
第3の例では、単一の順方向パルスの後に複数の逆方向パルスが続く。
【0041】
好適な一例では、複数の順方向パルスおよび複数の逆方向パルスの両方が提供され、各順方向パルスの後に1つの逆方向パルスが続く。
【0042】
一例では、順方向電圧パルスは、0.5〜5V/cm
2の電圧および任意で逆方向パルスと、0.01〜5A/cm
2の電流を有する。順方向電圧パルスの後に、0.01〜5A/cm
2の電圧の逆方向パルスが続くことが好ましい。
【0043】
他の一例では、順方向電圧パルスは任意の所望の電圧、例えば、0.25〜25V/cm
2、好ましくは2〜15V/cm
2の電圧パルスを有し、かつ、0.01〜5A/cm
2、好ましくは0.1〜5A/cm
2の電流を有する。順方向電圧パルスの後には、0.25〜25V/cm
2、好ましくは2〜15V/cm
2の電圧を有し、かつ、0.1〜5A/cm
2、好ましくは0.1〜5A/cm
2の電流を有する、当該順方向パルスとは逆極性の逆方向パルスが続く。
【0044】
上記順方向パルスおよび逆方向パルスは同じ大きさとすることができる。あるいは、逆方向パルスを順方向パルスよりも高くまたは低くすることができる。多くの例において、逆方向パルスは順方向パルスよりも大きさが小さく、例えば、順方向パルスの大きさの15〜85%である。また、順方向パルスの時間の長さは、電解を通して同じである必要はなく、逆方向パルスを、電解を通して同じ時間に維持する必要もない。順方向パルスの時間は、電解プロセス中の後期の時間よりも初期の時間で短くする(またはその逆)ことができる。同様に、逆方向パルスの時間は、電解プロセスの後期の時間よりも初期の時間で短くする(またはその逆)ことができる。さらに、順方向パルスおよび逆方向パルスのパルス時間、つまり時間幅を同じにしたり、あるいは、逆方向パルスのパルス時間を順方向パルスのパルス時間と異ならせる(順方向パルスよりも長くまたは短くする)ことができ、かかる関係または比は、電解プロセス中に変更することができる。
【0045】
さらに、電解セルに電流が印加されていないときに、パルス間にパルス遅延が起こり得る。このような遅延は、アノードまたはカソードのそれぞれから成長粒子を脱離させるのに有用であり得る。パルス遅延は、順方向パルスまたは逆方向パルスよりも短くあるいは長くすることができる。好ましくは、プロセスの歩留まりを最大限とするためにパルス遅延は短くすべきである。
【0046】
上記酸化物粒子はカソードおよびアノードのいずれでも形成することができるが、好適なプロセスでは上記粒子はアノードで形成され、アノードは、超ミクロ電極を含む任意の好適な電極設計とすることができる。上記アノードはステンレス、アルミニウムまたは鉛アノード、または、銅、白金などの他の任意の好適な材料のアノードとすることができる。電解質に超音波を付与するために、
図5に示すような超音波(メガソニック)パルセータを任意で設けてもよい。上記超音波装置は、周波数20キロヘルツ〜200メガヘルツの音圧波を提供することができる。
【0047】
酸化物粒子の製造方法としての上記定電圧パルス電解は、得られる粒子の結晶度の制御を可能とする。本願明細書に記載の方法を使用することにより、例えば、ε相およびγ相をかなりの程度含む酸化マンガンナノ材料を得ることができる。プロセスのパラメータを調整することにより、結晶度および相形態を更に制御することができる。
【0048】
よって、本発明の方法は、ε相およびγ相を有する、酸化マンガンなどの金属酸化物の大部分が結晶であるナノ粒子を提供する。このような粒子の粒子サイズは、1ミクロン未満、特に0.01〜0.90ミクロン、好ましくは0.025〜0.85ミクロン、例えば0.1〜0.75ミクロンの範囲であり得る。サイズは、上記粒子の平均直径または平均最大サイズ(φ)として表される。上記粒子の典型的なXRDスペクトルを
図4に示す。
【0049】
対照的に、KMnO
4によるMnSO
4の単純な還元では、結晶性のα相をいくつか含む、大部分がアモルファスな材料が得られる。
【0050】
このように、本発明の技術は、従来の技術で形成される粒子よりも結晶度が高い結晶性金属酸化物粒子を提供することが見込まれる。本発明に係る粒子の非結晶性部分は、平均で、粒子の質量の50%未満、特に40%未満、例えば、30%未満、有利には20%未満、更には、10%未満である。
【0051】
好ましくは、上記酸化物粒子はアノードで形成され、次いで短時間でアノードから離間して溶液中に戻る。一例では、上記酸化物粒子は、アノードの表面上に1秒未満、好ましくは0.5秒未満、より好ましくは0.1秒未満の間、配置される。他の例では、上記酸化物粒子は、0.01〜100ミリ秒以内など、形成後ミリ秒以内にアノードから離間し、例えば、形成後1〜100ミリ秒以内、更には、0.01〜1ミリ秒以内に離間する。電圧パルス幅の時間の長さに応じて、上記酸化物粒子は、1〜100パルス時間幅、例えば、1〜10パルス時間幅の間、アノード表面に存在し得る。好ましくは、電極で形成された全ての金属酸化物は、電極に付着したままの金属酸化物を実質的に残さずに、電解質中に粒子として分離する。
【0052】
形成される酸化物粒子は、Ce、Zr、Zn、Co、Fe、Mg、Gd、Ti、Sn、Ru、Mn、CrまたはCuの酸化物の粒子などの遷移金属酸化物粒子が好ましいが、半金属酸化物粒子とすることができる。他の酸化物粒子の例には、ZnO、In
2O
3、RuO
2、IrO
2、CrO
2、MnO
2、ReO
3が含まれる。遷移金属の酸化物が好ましい例であるが、後期遷移金属の酸化物も本願明細書の例であり、元素の周期表の第3列〜第12列かつ第4行〜第6行(特に、周期表の第5列〜12列かつ第4行)の遷移金属が好ましい。
【0053】
上記粒子は、形成後、好適なフィルターを用いたり、重力、遠心などで経時で沈殿させることにより、電解質溶液から分離することができる。さらに、自由流動粒子の電解質からの分離は、バッチモードまたは連続モードの、追加の液体サイクロンまたはデカンタ式の遠心分離工程を含み得る。
【0054】
残った電解質溶液を形成された粒子から除去した後、粒子を脱イオン水などで洗浄し、次いで乾燥することができる。上記粒子は、次いで、1つ以上の好適な担体を含むスラリー、インクまたはペーストにすることができる。かかる担体の例は、水、および、1つ以上の官能部分を有する炭素数1〜10の様々な有機溶媒である。このような官能部分の例は、分子内のアルコール、エーテル、ケトン、ハロゲン、エステル、アルカン、二重結合、芳香族である。上記担体の溶媒分子は、上記官能基の1つ以上を有し得る。
【0055】
最終配合物は、更に、2つ以上の担体溶媒からなり得る、つまり、特定の用途に有益な化学物質の混合物からなり得る。さらに、最終配合物は、上記粒子がその用途で期待通りの役割を果たすことを可能にする様々な界面活性剤、ポリマーまたは有機酸を含み得る。
【0056】
ハウジングが第1の電極および第2の電極を含み、かつ、これらの電極の一方が本願明細書に記載の酸化物粒子から製造された材料を含む蓄電装置が更なる実施形態である。上記蓄電装置の電極材料の製造に使用される上記酸化物粒子は、直径(または最大寸法)1〜10ミクロンのサイズを有することができる。しかしながら、蓄電装置の電極の酸化物粒子は表面積が大きい方が有益であるため、上記粒子の平均直径または最大寸法は、800nm未満など、1ミクロン未満であることが好ましく、例えば、0.2〜0.7ミクロンである。
【0057】
更なる一例では、上記粒子の平均直径(または最大寸法)は、50〜850nm、例えば、100〜700nmである。好ましくは、上記粒子は、棒や薄片ではなく、実質的に丸い。
【0058】
上記蓄電装置は、充電可能な(またはそうではない)リチウムイオン電池とすることができる。また、アルカリ電池などの他のタイプの電池とされ得る。上記蓄電装置のアノード及びカソードの間は、リチウム塩および溶媒を含む電解質である。上記溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、および/または、ジエチルカーボネートなどの有機溶媒とすることができる。
【0059】
上記蓄電装置のアノードは、グラファイトアノードなどの炭素製とすることができる。上記蓄電装置のカソードは、スピネル型カソードとすることができ、例えば、本願明細書に記載の酸化マンガン粒子から製造されたマンガン酸リチウムスピネル(LiMn
2O
4)を含むことができる。あるいは、本願明細書に記載の上記酸化物粒子は、コバルト酸リチウムカソードを製造するための酸化コバルト粒子、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム電極(例えば、NMCスピネル)を製造するための酸化物粒子、または、リチウムニッケルコバルトアルミニウム電極を製造するための酸化物粒子であり得る。好ましくは、形成される電極の容量は少なくとも175mAh g
−1、好ましくは、少なくとも200mAh g
−1、より好ましくは、少なくとも250mAh g
−1である。
【0060】
好ましくは、上記酸化物は実質的に金属不純物を含まない。電解質中のリチウム塩は、LiPF、LiBF、LiClOまたは他の好適な塩とすることができる。上記蓄電装置が充填式リチウム電池である場合、電解質中のリチウムは層間(インターカレート)リチウム化合物とすることができる。トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、過塩素酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム一水和物、または、他の好適なリチウム塩などの電池電解質で好適なリチウム塩を使用することができる。
【0061】
上記蓄電装置は、所望に応じて電圧レギュレータまたは温度センサを備え得る。上記蓄電装置は、電気自動車や、携帯電話・スマートフォン、ラップトップ型パソコン、ノートブック、ebookリーダー、iPad、アンドロイド・タブレットなどの携帯電子装置の充電式リチウムイオン電池とすることができる。
【0062】
また、上記金属の酸化物粒子を、グラファイト、グラフェン、他の金属酸化物(例えば、二酸化チタン)などの追加の材料層、または、銀、ニッケル、銅またはそれらの酸化物、金、白金、パラジウムなどの金属層でコートすることができる。
【0063】
上記金属酸化物は、限定されないが、シロキサン、アクリレート、エポキシ、ウレタンなどのポリマー樹脂に対して様々な比率でブレンドまたは配合され得る。次いで金属酸化物含有樹脂は、押出成形されるか塗布され、電磁波吸収材または抗菌面として機能する。抗菌面用途の場合、樹脂材料は多孔または部分的に多孔であることが有益である。
【実施例】
【0064】
本発明の実施形態を以下の非限定的な実施例により更に説明する。
【0065】
[比較例1]
MnSO
4・H
2O(0.43g,2.5mmol)および硫酸(0.25g,2.6mmol)を脱イオン水249.32g中に含んでなる電解質を300mlのビーカー内で調製した。2枚のステンレスプレート(幅:50mm、厚さ:1mm)を上記電解質中に深さ50mmに浸漬した。上記ステンレスプレートを定電位電解装置(ポテンシオスタット)に接続し、MnO
2粒子を合成するためにパルス電流を印加した。順方向パルス電圧および電流は、それぞれ、14.97Vおよび0.67Aとし、逆方向については、それぞれ、9.97Vおよび0.88Aとした。粒子やフィルムの形成はいずれの電極でも観察されなかった。
【0066】
[比較例2]
ステンレスアノードを同サイズ(幅:50mm、厚さ:1mm、深さ50mmに浸漬)のアルミニウムシートに置き換えて、比較例1の実験を繰り返した。順方向パルス電圧および電流は、それぞれ、14.96Vおよび0.08Aとし、逆方向については、それぞれ、9.97Vおよび0.67Aとした。粒子やフィルムの形成はいずれの電極でも観察されなかった。
【0067】
[実施例1]
ステンレスアノードを略同サイズ(幅:50mm、厚さ:1mm、深さ50mmに浸漬)の鉛シートに置き換えて、比較例1の実験を繰り返した。順方向パルス電圧および電流は、それぞれ、14.96Vおよび0.59Aとし、逆方向については、それぞれ、9.97Vおよび0.93Aとした。合成を5分間行ったところ、最初は無色透明であった溶液が固体粒子の形成により黒色になった。粒子は容器の底に沈殿し、2日以内に保存した。透明な電解質を粒子からデカンテーションで除去し、粒子を脱イオン水に再分散し、沈殿させ、そして、回収・乾燥した。SEM写真により、サブミクロン粒子が得られたことが確認された。
【0068】
[実施例2]
MnSO
4・H
2O(1.29g,7.6mmol)および硫酸(0.75g,7.7mmol)を脱イオン水247.96g中に含んでなる電解質を使用して実施例1の実験を繰り返した。順方向パルス電圧および電流は、それぞれ、9.98Vおよび0.84Aとし、逆方向については、それぞれ、4.98Vおよび1.01Aとした。合成を7分間行ったところ、最初は無色透明であった溶液が固体粒子の形成により黒色になった。粒子は容器の底に沈殿し、2日以内に保存した。透明な電解質を粒子からデカンテーションで除去し、粒子を脱イオン水に再分散し、沈殿させ、そして、回収・乾燥した。SEM写真によれば、粒子はサブミクロンのサイズであった。
【0069】
[実施例3]
MnSO
4・H
2O(1.29g,7.6mmol)および硫酸(0.75g,7.7mmol)を脱イオン水247.96g中に含んでなる電解質を使用して実施例1の実験を繰り返した。順方向パルス電圧および電流は、それぞれ、6.98Vおよび1.01Aとし、逆方向については、それぞれ、1.98Vおよび1.18Aとした。合成を15分間行い、粒子を上述のとおり回収した。SEM写真(
図3を参照)によれば、粒子はサブミクロンのサイズであった。
【0070】
[実施例4]
256cm
2サイズの電極を使用して実施例2の実験を繰り返した。順方向パルス電圧および電流は、それぞれ、11.983Vおよび8.03Aとし、逆方向については、それぞれ、8.96Vおよび9.83Aとした。合成を2時間行い、粒子を上述のとおり回収した。SEM写真によれば、粒子はサブミクロンのサイズであり、プロセスが拡張可能であることが示された。XRDにより、上記物質が結晶性であることが確認された(
図4)。
【0071】
[実施例5]
MnSO
4・H
2O(2.6g,15.2mmol)および硫酸(1.5g,15.4mmol)を脱イオン水245.9g中に含んでなる電解質を使用して実施例2の実験を繰り返した。順方向パルス電圧および電流は、それぞれ、4.69Vおよび1.01Aとし、逆方向については、それぞれ、2.48Vおよび2.11Aとした。最初は無色透明であった溶液が黒色になり、1時間後に透明になった。固体沈殿物が電解セルの底に観察され、実施例2よりも大きいサイズの粒子を含んでいた。
【0072】
[実施例6]
順方向パルス電圧および電流を、それぞれ、9.49Vおよび3.13Aとし、逆方向については、それぞれ、12.47Vおよび6.52Aとして、実施例5の実験を繰り返した。最初は無色透明であった溶液が非常に迅速に黒色になった。SEM写真によれば粒子はサブミクロンのサイズであり、電流の増加によりプロセスが加速化されることが示された。
【0073】
[実施例7]
実施例1のMnO
2ナノ粒子を硝酸銀のエタノール溶液と混合し、次いで激しく4時間室温で撹拌することにより、MnO
2ナノ粒子を銀でコートした。この銀被覆粒子を分離・乾燥した。上記銀被覆MnO
2粉体を高温で焼成した。あるいは、硝酸銀処理プロセスを行う前に、まず、MnO
2粒子をSnCl
2またはSnCl
2/PdCl
2処理シークエンスで処理することができる。
【符号の説明】
【0074】
101 カソード
102 アノード
103 任意の超音波パルセータ
104 定電位電解装置
105 電解質