(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
<本発明の実施形態の説明>
本発明のある実施形態にかかる単結晶ダイヤモンド材料は、410nm以上750nm以下の波長の光の透過率がいずれの波長においても15%以下であり、かつ、光学的評価による電気絶縁体および電気的評価による電気絶縁体の少なくともいずれかである。本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、光の透過率とは、その光の波長の如何を問わず、単結晶ダイヤモンド材料の任意に特定される実質的に平坦で(JIS B0601:2013に規定する表面の算術平均粗さRaが2nm以下で)平行な(平行度が0.1°以下の)両平面を両主面とするとき、一方の主面に実質的に垂直に(垂直方向からのずれ角が0.1°以下で)入射して他方の主面から出射する光の透過率、換言すれば、加工により平行度が0.1°以下の両主面を形成したときに、一方の主面の垂直方向からのずれ角が0.1°以下で入射して他方の主面から出射する光の透過率をいう。光学的評価による電気絶縁体とは、光学的に評価した電気的絶縁体(実質的に電気を通さない物体)をいい、光学的評価とは、好ましくは、10.6μmの波長の光の透過率が1%以上である物体である。また、電気的評価による電気絶縁体とは、電気的に評価した電気的絶縁体(実質的に電気を通さない物体)をいい、電気的評価とは、好ましくは、平均抵抗率が1×10
6Ωcm以上の物体である。補足すると、本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料は、実質的に使用目的に利用される範囲において、全体が電気的絶縁体であって、表面や内部の一部に導電層を備えるものではないことを意味している。本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料は、410nm以上750nm以下の波長の光の透過率がいずれの波長においても15%以下であり、かつ、光学的または電気的に絶縁体であるため、黒々とした色調と絶縁性を有する。
【0014】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、光学的評価は、10.6μmの波長の光の透過率を1%以上とすることができる。かかる単結晶ダイヤモンド材料は、さらに10.6μmの波長の光の透過率が1%以上であることから、黒々とした色調および赤外光の透過性すなわち光学的な絶縁性を有する。
【0015】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、電気的評価は、平均抵抗率を1×10
6Ωcm以上とすることができる。本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料の平均抵抗率とは、チタン蒸着電極を用いて50Vの電圧下25℃で電流を流したときに、その電圧、その電流と、チタン蒸着電極の面積と、両主面間の距離とから算出される平均抵抗率をいう。かかる単結晶ダイヤモンド材料は、黒々とした色調と電気的な絶縁性を有する。
【0016】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、410nm以上750nm以下の波長の光の透過率をいずれの波長においても3%以下とすることができる。これにより、かかる単結晶ダイヤモンド
材料は、漆黒の色調と絶縁性を有する。
【0017】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、全窒素濃度を孤立置換型窒素濃度の8倍以上とすることができる。ここで、全窒素濃度は、2次イオン質量分析(SIMS)により測定され、孤立置換型窒素濃度は、電子スピン共鳴分析(ESR)により測定される。これにより、かかる単結晶ダイヤモンド
材料は、黒々とした色調および絶縁性を有する。
【0018】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、全窒素濃度を1ppm以上とすることができる。これにより、かかる単結晶ダイヤモンド
材料は、黒々とした色調および絶縁性有する。
【0019】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、全窒素濃度から孤立置換型窒素濃度を引いた非置換型窒素濃度を0.875ppm以上とすることができる。ここで、非置換型窒素濃度とは、SIMSで測定した全窒素濃度からESRで測定した孤立置換型窒素
濃度を差し引いた値である。また、空孔濃度を非置換型窒素濃度の0.1倍より高くすることができる。これにより、かかる単結晶ダイヤモンド
材料は、結晶を壊したり欠けさせることなく大量の窒素原子を含有することができ、黒々とした色調、絶縁性を有する。
【0020】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、空孔濃度を、孤立置換型窒素濃度、非置換型窒素濃度、全窒素濃度および1ppmの少なくともいずれかより高くすることができる。ここで、空孔濃度は、イオン注入法で定量・検量された陽電子消滅法により求められる。あるいは、ESRにより測定される不純物と結合した空孔濃度が補助的に用いられる。これにより、かかる単結晶ダイヤモンド
材料は、結晶を壊したり欠けさせることなく大量の窒素原子を含有することができ、黒々とした色調および絶縁性を有する。
【0021】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リンおよびイオウからなる群から選ばれる少なくとも1種類の不純物元素の総不純物元素濃度を、50ppb以上とすることができる。ここで、総不純物元素濃度は、SIMSにより測定される。これにより、かかる単結晶ダイヤモンド
材料は、大量の窒素を含有することができ、黒々とした色調および絶縁性を有する。
【0022】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リンおよびイオウからなる群から選ばれる少なくとも1種類の不純物元素の総不純物元素濃度を、上記の不純物元素の総置換型不純物元素濃度の8倍以上とすることができる。ここで、総不純物元素濃度はSIMSにより測定され、総置換型不純物元素濃度はESRにより測定される。これにより、かかる単結晶ダイヤモンド材料は、黒々とした色調および絶縁性を有する。
【0023】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、全ホウ素濃度を、全窒素濃度以下とすることができる。ここで、全ホウ素濃度および全窒素濃度は、SIMSにより測定される。かかる単結晶ダイヤモンド
材料は、導電性を付与されることなく大量の窒素を含有することができ、黒々とした色調および絶縁性を有する。
【0024】
本発明の別の実施形態にかかる工具は、上記の実施形態の単結晶ダイヤモンド材料を含む。このため、本実施形態の工具は、工具作製時、使用時において欠けの少ない工具とすることができる。
【0025】
本発明のさらに別の実施形態にかかる放射温度モニターは、上記の実施形態の単結晶ダイヤモンド材料を含む。このため、本実施形態の放射温度モニターは、黒体輻射により近いもので、真の温度を評価できる。
【0026】
本発明のさらに別の実施形態にかかる赤外光学部品は、上記の実施形態の単結晶ダイヤモンド材料を含む。このため、本実施形態の赤外光学部品は、可視光の漏れが極めて少なく、赤外光の感知が十分にできる。
【0027】
[本発明の実施形態の詳細]
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料は、410nm以上750nm以下の波長の光の透過率がいずれの波長においても15%以下であり、好ましくは10%以下であり、より好ましくは8%以下である。かつ、本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料は、光学的評価による電気絶縁体および電気的評価による電気絶縁体の少なくともいずれかである。本実施形態の単結晶ダイヤモンド
材料は、410nm以上750nm以下の波長の光の透過率がいずれの波長においても15%以下であり、かつ、光学的評価および電気的評価の少なくともいずれかにおいて電気絶縁体であるため、黒々とした色調と絶縁性を有する。
【0028】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料の光の透過率は、光の経路が重要であるため、光の経路を特定して、以下のように定義する。すなわち、その光の波長の如何を問わず、単結晶ダイヤモンド材料の任意に特定される実質的に平坦で(JIS B0601:2013に規定する表面の算術平均粗さRaが2nm以下で)平行な(平行度が0.1°以下の)両平面を両主面とするとき、一方の主面に実質的に垂直に(垂直方向からのずれ角が0.1°以下で)入射して他方の主面から出射する光の透過率、換言すれば、加工により、上記表面の算術平均粗さRaが2nm以下で、平行度が0.1°以下の両主面を形成したときに、一方の主面の垂直方向からのずれ角が0.1°以下で入射して他方の主面から出射する光の透過率をいう。ここで、光学的評価による電気絶縁体とは、光学的に評価した電気的な絶縁体(実質的に電気を通さない物体)をいい、10.6μmの赤外領域の波長の
光の透過率がゼロではないことで示すことができ、好ましくは10.6μmの波長の光の透過率を1%以上である物体である。また、電気的評価による電気絶縁体とは、電気的に評価した電気的な絶縁体(実質的に電気を通さない物体)をいい、平均抵抗率がゼロでないことで示すことができ、好ましくは平均抵抗率が1×10
6Ωcm以上の物体である。本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料の平均抵抗率とは、チタン蒸着電極を用いて50Vの電圧下25℃で電流を流したときに、その電圧、その電流と、チタン蒸着電極の面積と、両主面間の距離とから算出される平均抵抗率をいう。
【0029】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料は、410nm以上750nm以下の可視領域の光の透過率が低く、かつ、光学的および電気的の少なくともいずれかにおいて絶縁体であることから、温度をモニターする際の理想的な黒体輻射になり得るとともに、加熱対象物を絶縁状態にできる。また煤(すす)のような単なる黒い物体ではなく、金属的というのでもなく、質感に奥行きが出て、立体感のあるものができる。本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料は、炭素のSP2結合によって黒い物体となっているわけではなく、炭素のSP3結合により形成される純粋なダイヤモンドであり、高温状態でも割れやすいとか、欠け易いということがない。
【0030】
人の視感度の高い波長530nmの光の透過率が20%以下になると、色調が黒いといえるダイヤモンド(以下、黒色ダイヤモンドともいう)になるが、光の遮断と言う意味では不十分である。可視光領域(410nm以上750nm以下の波長)の全域の光の透過率が15%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下となると、黒々とした色調のダイヤモンド(以下、黒々ダイヤモンドともいう)なる。ダイヤモンドの反射率は通常30%程度であるから、光の透過率が反射率の1/2以下、好ましくは1/3以下、より好ましくは約1/4以下になることにより黒々とした色調が得られ、光の吸収による遮断が十分なものとなる。
【0031】
上述の単結晶ダイヤモンド材料の光の透過率の定義によれば、両主面が平坦で(表面の算術平均粗さRaが2nm以下で)平行な(平行度が0.1°以下の)平板形状を有するものは、光は一方の主面に実質的に垂直(垂直方向からのずれ角が0.1°以下)に入射させればよい。また、板状でないもの、あるいは相対する平坦で(表面の算術平均粗さRaが2nm以下で)平行な(平行度が0.1°以下の)面がない場合は、一番距離が近いと思われるところに、相対する上記のような平坦で平行な面を作製して、1つの平坦で平行な面に実質的に垂直に光を垂入射させればよい。このようにいちばん近いところと思われるところが、本発明の規定する範囲であれば、他のほとんどのところはほとんど全て本発明の規定の範囲になるからである。さらに厳密にいうならば、レーザー形状計測器によって、形状を測定し、距離の分布をみた時に全体の70%以上(これは、正規分布において標準偏差±σの範囲内に入る測定点が全体の68%であることから、それより高い70%以上の場合を示す。)が、測定点よりも距離が長ければ、その部分で代用してもよい。目で見ているところのものは、ほとんどがこの70%の範囲に入るからである。
【0032】
なお、相対する平行面を出す、すなわち相対する平坦で平行な面を形成することができない場合(たとえば、貴重で破壊できない場合)、積分球型の反射、散乱測定装置で、反射と散乱を測定し、同じ光学入射を保ったまま、レーザーカロリーメーターで吸収された光量を温度上昇で測定し、入射光から反射光と吸収光を差し引けば、透過率が測定できる。また、単結晶ダイヤモンド材料の形状に依存する特異な値となることを防ぐために、入射方向をランダムに変えて、5回測定した数値の平均値をもって透過率とすることもできる。
【0033】
410nm以上750nm以下の波長の光の透過率は、分光光度計を用いて、波長を410nmから750nmの間でスキャンさせることにより、測定することができる。また、レーザー光で測定する場合は、相対する平坦で平行な面は少なくとも直径3mmに相当する面積があれば足りる。
【0034】
光の透過率Tは、入射した光の強度I
0に対する透過した光の強度I
1の百分率をいい、以下の式(1)
T(%)= I
1/I
0 × 100 ・・・(1)
により定義される。
【0035】
上記式(1)で定義される透過率は、厳密には反射率と平行な(平行度が0.1
°以下の)主面での多重反射を考慮したものであり、空気と単結晶ダイヤモンド材料との界面での反射率R
1と透過率T
1とを使って、全透過率Tを、
T=T
12・exp(−αD)/(1−R
12・exp(−αD)) ・・・(2)
と式(2)で表されるものである。ここで、αは吸収係数(単位:cm
-1)であり、Dは平行な両主面間の距離(単位:cm
-1)である。
【0036】
上記式(2)中の反射率R
1と透過率T
1は、単結晶ダイヤモンド材料の屈折率をn
1、空気の屈折率をn
0として、
R
1=(n
0−n
1)
2/(n
0+n
1)
2 ・・・(3)
T
1=4n
0n
1 /(n
0+n
1)
2 ・・・(4)
と式(3)および式(4)で表される。式(3)および(4)において単結晶ダイヤモンド材料の屈折率n
1を2.4、空気の屈折率n
0を1.0として計算される反射率R
1および透過率T
1の値を、式(2)に代入して得られる全透過率Tは、透明な場合(α=0と近似される場合)、約71%であり、実測に合う結果である。
【0037】
一方、本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料の場合は、吸収係数αが大きな場合であり、上記式(2)の右辺の分母の項が1に漸近する場合となるので、透過率は、
T=T
12・exp(−αD) ・・・(5)
と式(5)で表しても構わない領域である。
【0038】
単結晶ダイヤモンド材料の平均抵抗率ρavは、その電圧V
0、その電流I
0と、チタン蒸着電極の面積Sと、平行な(平行度が0.1°以下の)両主面間の距離Dから、ρav=(V
0/I
0)・(S/D)により算出される。ここで、V
0が50V、Dが0.5mmのときのρavを測定したものである。Dが0.5mmで測定できない場合(たとえば板の厚さが足りない場合や、厚くて研磨できない場合)は、100V/mmの電界に相当する、電圧印加時の電流を測定すればよい。かかる平均抵抗率は、絶縁性を確保する観点から、1×10
6Ωcm以上であり、1×10
9Ωcm以上が好ましく、1×10
12Ωcm以上がより好ましい。単結晶ダイヤモンド材料は、平均抵抗率が高い方が、微小な光をも反射されにくく好ましい。
【0039】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、漆黒の色調および絶縁性を有する観点から、410nm以上750nm以下の波長の光の透過率がいずれの波長においても3%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。可視領域(410nm以上750nm以下の波長)の全域の光の透過率が3%以下、1.5%以下、さらには1%以下となると、黒い漆を塗ったような漆黒の色調のダイヤモンド(以下、漆黒ダイヤモンドともいう)となる。ダイヤモンドの反射率は通常30%程度であるから、光の透過率が反射率の1/10以下、1/20以下、さらには1/30以下になることにより漆黒の色調が得られ、光の吸収による遮断がより十分なものとなる。
【0040】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、黒々とした色調、絶縁性および赤外光の透過性を有する観点から、一方の主面に実質的に垂直に入射して他方の主面から出射する10.6μmの波長の光の透過率が1%以上であることは絶縁体を示している一つの指標となる。しかしながら、遠赤外線の窓として利用する場合には、その窓としての機能を得るには10.6μmの波長の
光の透過率が10%以上が好ましく、40%以上が
より好ましく、50%以上がさらに好ましい。一方で、近赤外の窓として利用する場合には、1〜2μmの波長の光の透過率が、10%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。ここで、赤外光の透過率の測定方法は、上記の可視領域の光の透過率の測定方法と同様である。波長10.6μmの遠赤外光は、発振波長10.6μmのCO
2レーザーにより、よく身近で用いられるという観点から、赤外光の指標となる。波長1〜2μmの近赤外光は、発振波長1.06μmのYAGレーザーや4〜6μmの量子カスケードレーザーの第2、第3の高調波を利用できる。
【0041】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、黒々とした色調、絶縁性および赤外光の透過性を有する観点から、全窒素濃度を孤立置換型窒素濃度の8倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上、さらに好ましくは50倍以上、さらに好ましくは100倍以上とすることができる。ここで、全窒素濃度はSIMS(2次イオン質量分析)により測定され、孤立置換型窒素濃度はESR(電子スピン共鳴分析)により測定される。
【0042】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料のような黒々ダイヤモンド、好ましくは漆黒ダイヤモンドを得るためには、ダイヤモンドに大量の不純物を含有させる必要があるが、ダイヤモンドに大量の不純物をドーピングし過ぎると、ダイヤモンドの結晶格子が壊れ、少なくとも一部がSP2結合となりグラファイト化する。そこで、不純物を大量にダイヤモンドに含有させつつ、ダイヤモンドの結晶格子を緩和するが壊れないようにバランスを取る工夫をする必要がある。そのために、まず、窒素を含有させることが重要である。
【0043】
しかし、ダイヤモンドに窒素を孤立置換型で含有させると、高圧合成ダイヤモンドのように黄色の透明な単結晶となるだけで、410nm以上750nm以下の全可視領域の光の透過率が低くはならない。そこで、孤立置換型窒素原子の含有量を極力抑え、孤立置換型以外(たとえば格子間侵入型)の非置換型窒素原子の含有量を高める。ここで、非置換型窒素原子とは、炭素原子からなるダイヤモンド格子位置に孤立置換していない窒素原子を指しており、SIMSにより測定される全窒素原子からESRにより測定される孤立置換型窒素原子を差し引いたものが該当する。非置換型窒素原子を格子間位置などに配置させると結晶格子は窮屈になって壊れてしまうので、空孔を入れながら、バランスを保つ。こうすることにより、想定以上に大量の窒素をダイヤモンドに含有させることができる。これは、孤立置換型窒素原子と、非置換型窒素原子と、全窒素原子と、空孔とをバランスよくダイヤモンド中に混在させることを意味する。
【0044】
孤立置換型窒素原子と、非置換型窒素原子と、総窒素原子と、空孔とをバランスを保つために必要な孤立置換型窒素濃度N
Sと、非置換型窒素濃度N
N、全窒素濃度N
allと、空孔濃度Vとの間の条件は、8×N
S≦N
all、7×N
S≦N
N、N
N≦N
all、0.875ppm≦N
N、および/または1ppm≦N
allが好ましく、10×N
S≦N
all、9×N
S≦N
N、N
N≦N
all、4.50ppm≦N
N、および/または5ppm≦N
allがより好ましく、13×N
S≦N
all、12×N
S≦N
N、N
N≦N
all、7.38ppm≦N
N、および/または8ppm≦N
allがさらに好ましく、20×N
S≦N
all、19×N
S≦N
N、N
N≦N
all、9.50ppm≦N
N、および/または10ppm≦N
allがさらに好ましく、50×N
S≦N
all、49×N
S≦N
N、N
N≦N
all、19.6ppm≦N
N、および/または20ppm≦N
allがさらに好ましく、100×N
S≦N
all、99×N
S≦N
N、N
N≦N
all、29.7ppm≦N
N、および/または30ppm≦N
allが特に好ましい。また、N
all≦1000ppmが好ましい。窒素が入りすぎると炭素の格子が正常に保ちにくいからである。
【0045】
このとき、空孔濃度Vについては、V≦1000×N
allが好ましく、V≦100×N
allがより好ましい。V>1000×N
allでは、空孔ばかりが多くなり、結晶がもろくなるからである。さらには、N
S<Vが好ましく、10×N
S<Vが好ましい。N
S≧Vでは、単結晶ダイヤモンド材料は、結晶全体に余裕がなくなり、非置換型窒素原子および孤立置換型原子の大部分が窮屈となり、結晶が極めて容易に欠けるからである。また、0.1×N
N<Vが好ましく、N
N<Vがより好ましい。N
S<V≦N
Nでは、単結晶ダイヤモンド材料は、非置換型窒素原子および孤立置換型原子の一部分が窮屈となり、結晶が容易に欠けるからである。さらには、0.1×N
all<Vが好ましく、N
all<Vがより好ましい。N
N<V≦N
allでは、単結晶ダイヤモンド材料は、非置換型窒素原子および孤立置換型窒素原子のごく一部分が窮屈となり、結晶が容易に欠ける場合があるからである。または、V>1ppmであることが好ましく、V>5ppmであることがより好ましい。V≦1ppmでは、結晶全体に余裕がなくなり、非置換型窒素原子および孤立置換型原子の少なくとも一部分が窮屈となり、結晶が容易に欠けるからである。空孔濃度は、イオン注入法で定量・検量された陽電子消滅法により求める。あるいは、ESR法より不純物と結合した空孔濃度を補助的に用いて下限の空孔濃度を見積もる。
【0046】
空孔は、ダイヤモンドの結晶格子を大きくは歪ませないので、単独で存在する場合もある。このように孤立単一置換型以外の窒素を大量にダイヤモンドに含有させるためには、メタン濃度の高い条件で、単結晶ダイヤモンド材料の成長表面に欠陥を導入しておくことで達成できる。欠陥とは転位などの結晶欠陥が含まれるが、表面の凹凸や研磨ダメージも影響し、これらも含む。窒素は窒素ガス(N
2)を合成雰囲気中に導入することで、単結晶ダイヤモンド中に導入する。ガスは窒素ガスに限らず、アンモニアガス(NH
3)、笑気ガス(N
2O)などの窒素を含むガスであってもよい。
【0047】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、黒々とした色調好ましくは漆黒の色調、絶縁性および赤外光の透過性を有する観点から、非置換型窒素濃度が、0.875ppm以上であることが好ましく、4.50ppm以上であることがより好ましく、7.38ppm以上であることがさらに好ましく、9.50ppm以上であることがさらに好ましく、19.6ppm以上であることがさらに好ましく、29.7ppm以上であることが特に好ましい。空孔も非置換型窒素も本発明には効果を発揮するから一定量以上あることが好ましく、双方がバランスしながら、格子を保つ効果と可視領域光透過率の低下に寄与するからである。放射線照射によって空孔を形成しても、炭素原子が必ず格子位置からはじき出され、SP2結合が増えるばかりであるので、本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料は得られない。
【0048】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、黒々とした色調好ましくは漆黒の色調、絶縁性および赤外光の透過性を有する観点から、全窒素濃度が孤立置換型窒素濃度の8倍以上のとき全窒素濃度が1ppm以上であることが好ましく、全窒素濃度が孤立置換型窒素濃度の10倍以上のとき全窒素濃度が5ppm以上であることがより好ましく、全窒素濃度が孤立置換型窒素濃度13倍以上のとき全窒素濃度が8ppm以上であることがさらに好ましく、全窒素濃度が孤立置換型窒素濃度20倍以上のとき全窒素濃度が10ppm以上であることがさらに好ましく、全窒素濃度が孤立置換型窒素濃度の50倍以上のとき全窒素濃度が20ppm以上であることがさらに好ましく、全窒素濃度が孤立置換型窒素濃度100倍以上のとき全窒素濃度が30ppm以上であることが特に好ましい。
【0049】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料において、大量の窒素を含有することができ、黒々とした色調、絶縁性および赤外光の透過性を有する観点から、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)およびイオウ(S)からなる群から選ばれる少なくとも1種類の不純物元素の総不純物濃度が50ppb以上であることが好ましく、1ppm以上であることがより好ましく、5ppm以上であることがさらに好ましく、10ppm以上であることがさらに好ましい。上記不純物元素の総不純物濃度は、SIMSにより測定される。
【0050】
単結晶ダイヤモンド材料に窒素を大量に含有させる別の方法として、窒素(N)以外の不純物元素であるケイ素(Si)、リン(P)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、イオウ(S)などを窒素(N)と一緒に含有させる方法がある。すなわち、空孔の代わりにケイ素などを含有させ(空孔にケイ素などが入ったようになる)、それよりも多くの窒素が含有してもバランスを取ることができる。あるいはこれらの不純物元素の少なくとも2種類以上を選んで含むようにする。Si、P、Al、MgおよびSの濃度をそれぞれC
Si、C
P、C
Al、C
MgおよびC
Sとすると、全窒素濃度N
allと上記不純物元素の総不純物元素濃度の和が、1ppm<(N
all+C
Si+C
P+C
Al+C
Mg+C
S)<1000ppmであることが好ましく、1ppm<(N
all+C
Si+C
P+C
Al+C
Mg+C
S)<100ppmがより好ましい。
【0051】
また、本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料においては、窒素原子を含有していなくても、上記の総不純物元素濃度が上記の範囲内にあれば、同様の効果を有する。すなわち、本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料は、黒々とした色調、絶縁性および赤外光の透過性を有する観点から、
マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)およびイオウ(S)からなる群から選ばれる少なくとも1種類の不純物元素の総不純物元素濃度が50ppb以上であることが好ましく、1ppm以上であることがより好ましく、5ppm以上であることがさらに好ましく、10ppm以上であることがさらに好ましい。また、Si、P、Al、MgおよびSの濃度をそれぞれC
Si、C
P、C
Al、C
MgおよびC
Sとすると、1ppm<(N
all+C
Si+C
P+C
Al+C
Mg+C
S)<1000ppmが好ましく、1ppm<(N
all+C
Si+C
P+C
Al+C
Mg+C
S)<100ppmがより好ましい。
【0052】
ここで、窒素以外の上記の不純物元素、すなわち、
マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)およびイオウ(S)からなる群から選ばれる少なくとも1種類の不純物元素についても、総不純物元素濃度を総置換型不純物元素濃度の8倍以上とすることが好ましく、10倍以上であることがより好ましく、20倍以上であることがさらにより好ましく、50倍以上であることが特に好ましい。上記不純物元素の総不純物濃度はSIMSにより測定され、上記不純物元素の総置換型不純物元素濃度はESRにより測定される。
【0053】
上記の不純物を添加する場合、表面欠陥、結晶欠陥を含むことがポイントであるが、原子半径が炭素より大きな元素はそれだけで、結晶欠陥を導入されやすい。これらの不純物は、SH
4、PH
3、Al(CH
3)
3などのガスの状態で供給することもできるが、Si、P
2O
5(またはInP)、Alなどの固体ソースを基板近くにおいておくのが容易である。基板より10cm以内の近距離にあれば、単結晶ダイヤモンドに十分導入可能である。複合的に導入する場合は、ヘビーPドープSiやAlPなどの固体ソースを利用することもできる。
【0054】
単結晶ダイヤモンドに窒素を大量に含有させるまた別の方法は、窒素(N)以外の不純物としてホウ素(B)を窒素(N)と一緒に含有させる方法である。ホウ素は原子半径が炭素と同程度なので、容易に格子位置にも入りやすい。しかも、窒素と同時に入れると多量に含有される。ここで、ホウ素濃度C
Bと窒素濃度C
NとがC
B>C
Nとなる条件で入れると導電性が付与されてしまうので、C
B≦C
Nの条件とする必要がある。このような条件であれば、ホウ素が置換型で入ったとしても、ほとんどが全窒素や空孔などがキャリアを補償し、キャリアが移動できなくなり絶縁性となり、ホウ素の大部分は非置換型で入り、絶縁性を有する。ホウ素はB
2H
6、(CH
3)
3BあるいはB(OCH
3)
3をソースとして導入可能である。他の不純物と複合的に導入する場合はBP、ヘビーBドープSiなどの固体ソースを利用することができる。
【0055】
ホウ素と窒素が上記比率で入っている場合においても、上記の不純物元素(すなわちマグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リンおよびイオウ)からなる群から選ばれる少なくとも1種類の2次イオン質量分析により測定される総不純物元素濃度が50ppb以上であることが好ましく、1ppm以上であることがより好ましく、5ppm以上であることがさらに好ましく、10ppm以上であることが特に好ましい。
【0056】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料においては、単結晶中に不純物を多量に混入させることを実現し、「黒々ダイヤモンド」や「漆黒ダイヤモンド」を作製することである。しかしながら、不純物を多量に混入させると、単結晶中の長距離秩序が低下または失われ、厚い結晶を形成することができなかった。すなわち、単結晶中の短距離秩序が低下または失われても局部的な欠陥が発生するに過ぎず全体として単結晶を修復可能であるが、結晶欠陥(空孔、格子間不純物など)が拡大かつ増大すると、単結晶中の長距離秩序が低下または失われるため、非晶質化、多結晶化、または結晶の割れなどが発生するからである。非晶質では無理にでも不純物は含まれる。多結晶では粒界に不純物が含まれやすくなる。結晶性を維持しつつ、不純物を多く混入させる方法としては、置換型で混入させることによって達成することができる。しかしながら、全可視領域に渡って透過率を小さくするには至らず、あるいは電気伝導が発生するなどの問題があった。本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料においては、局部的な結晶を乱しながら(空孔をも導入しながら)、不純物をうまく混入させ、電気伝導を発生させず、黒体輻射や赤外線窓用特性を得るに至った。
【0057】
本実施形態の単結晶ダイヤモンド材料は、赤外線用窓などの赤外光学部品材料や放射温度モニター用黒体などの放射温度モニター用材料として用いる場合には、板材としては、薄いことも利点であり、その厚さは5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましく、2mm以下であることがさらに好ましく、1.2mm以下であることが特に好ましい。厚さに関して気にする必要のない色調を利用する応用の場合は、この限りではない。
【0058】
(単結晶ダイヤモンド材料の製造方法)
1.種基板の準備
まず、単結晶ダイヤモンド材料の種基板として単結晶ダイヤモンド種基板を準備する。種基板は、天然単結晶ダイヤモンド、高圧合成単結晶ダイヤモンド、気相合成単結晶ダイヤモンドなどの板状のものを準備する。たとえば、6mm角や8mm角の高圧合成単結晶ダイヤモンド種基板が準備できる。また、気相合成単結晶ダイヤモンドの場合は、単結晶を複数つなぎ合わせたモザイク状の単結晶ダイヤモンド種基板を用意することもできる。大きさは16mm角あるいはそれ以上も可能である。モザイク状でも単結晶であると称しているのは、それぞれ個々の単結晶が、面方位が0.5°以内の範囲で揃っているためであり、広義の単結晶と考えているからである。
【0059】
種基板は平坦に機械研磨される。種基板の転位などの結晶欠陥密度は1000個/mm
2以上のものがよい。結晶欠陥密度が少なかった場合、表面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2013に規定する算術平均粗さRaをいう、以下同じ。)を5nm〜100nmとした特殊の基板(高荷重研磨により形成された粗表面基板)も用意する。ここで、高荷重研磨とは、たとえば、通常の研磨条件の1.5倍以上の高荷重で研磨することをいい、表面が荒れるだけでなく、ダイヤモンドの表面近傍の結晶の損傷も大きくなる。これが通常よりも非置換型不純物や空孔を導入しやすくしている。高荷重研磨を実現するためには、研磨盤などの軸が影響を受けて振動を起こすようになるために、研磨装置の振動を抑える工夫を要する。好ましくは、JIS B0601:2013に規定する表面の算術平均粗さRaが10nm〜30nmの種基板を用意する。または、100μm当たり1本の溝を入れて成長ステップを形成した基板(ステップ基板)も用意できる。ステップ基板は、オフ角が、好ましくは1°以上15°以下のもの、より好ましくは3°以上10°以下のもの、さらに好ましくは5°以上8°以下のもの、を利用する。オフ角が1°未満と小さければ、ステップが解消されて、表面が荒れた種基板ができないからである。本発明以外の通常の単結晶ダイヤモンド材料をエピタキシャル成長させるための種基板の通常の表面は、表面の算術平均粗さRaが3nmより小さいものがよいが、本発明は上記の通常の表面を有する種基板を用いないで、欠陥や表面状態を制御して、本発明に合った表面を有する種基板を用いることが重要である。
【0060】
2.単結晶ダイヤモンド材料の成長
上記の種基板上に、CVD(化学気相堆積)法により、単結晶ダイヤモンド材料をエピタキシャル成長させる。CVD法としては、熱フィラメントCVD法、マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、直流アーク放電プラズマCVD法などを用いることができる。これらの中でも、マイクロ波プラズマCVD法と直流プラズマCVD法は、不純物を制御しやすいので、好ましい。
【0061】
マイクロ波プラズマCVD法による単結晶ダイヤモンド材料のエピタキシャル成長においては、原料ガスとして水素ガス、メタンガス、窒素ガスを合成炉内に導入して、炉内圧力を4kPa以上53.2kPa以下に保ち、周波数2.45GHz(±50MHz)、あるいは915MHz(±50MHz)のマイクロ波を100W〜60kWの電力で投入することによりプラズマを発生させて、種基板上に活性種を堆積させることにより単結晶ダイヤモンド材料をエピタキシャル成長させることができる。
【0062】
炉内圧力は、4kPa以上53.2kPa以下が好ましく、8kPa以上40kPa以下がより好ましく、10kPa以上20kPa以下がさらに好ましい。炉内圧力が4kPa未満であると成長に時間がかかったり、多結晶が成長しやすくなったりする。一方、炉内圧力が53.2kPaを超えると放電が不安定になったり、成長中に1ケ所に集中したりして、長時間の成長が困難となる。
【0063】
種基板の温度は、800℃以上1300℃以下であることが好ましく、900℃以上1100℃以下であることがより好ましい。基板の温度が800℃未満であると成長に時間がかかる。一方、基板の温度が1300℃を超えるとグラファイトが成長しやすくなる。
【0064】
単結晶ダイヤモンド材料を成長させる気相中、水素ガス濃度に対するメタンガス濃度の割合は7%以上30%以下が好ましく、メタンガス濃度に対する窒素ガス濃度の割合は0.1%以上10%以下が好ましい。これにより、表面の算術平均粗さRaが5nm〜100nmの特殊な種基板(高荷重研磨により形成された粗表面種基板)を使用している効果もあり、単結晶ダイヤモンド中の全窒素原子数に対する、単結晶ダイヤモンド中の孤立置換型窒素原子数の割合が、0.1%以上20%以下である単結晶ダイヤモンド材料を得ることができる。さらに、単結晶ダイヤモンド材料中の全窒素原子の濃度が0.5ppm以上100ppm以下、かつ、孤立置換型窒素原子の濃度が30ppb以上5ppm以下である単結晶ダイヤモンドを得ることができる。水素ガス濃度に対するメタンガス濃度の割合は10%以上25%以下がより好ましく、16%以上25%以下がさらに好ましい。メタンガス濃度に対する窒素ガス濃度の割合は0.5%以上10%以下がより好ましく、1%以上10%以下がさらに好ましい。また、窒素ガス濃度Cn(%)とメタンガス濃度Cc(%)とが、以下の式(6)
A + B×log10Cn = Cc ・・・(6)
(式(6)中、10≦A≦20、2≦B≦7)
の関係を満たすことが好ましい。窒素ガス濃度Cn(%)とメタンガス濃度Cc(%)とが上式の関係を満たしながら、表面の算術平均粗さRaが5nm〜100nmの特殊な種基板(高荷重研磨により形成された粗表面種基板)上に単結晶ダイヤモンド材料を成長させる。こうして得られる単結晶ダイヤモンド材料は、可視領域の光の透過率を15%以下にするとともに、単結晶ダイヤモンド材料の硬度を維持しつつ、耐欠損性を向上させることができる。
【0065】
さらに、別の不純物を添加する時は、単結晶基板の近くに固体の小片をおいて、マイクロ波のプラズマ中に曝すことで、合成ガス雰囲気中に混入させ、ドーピングを行なう。不純物がケイ素の場合は、固体として半導体のケイ素または石英などが挙げられ、不純物がアルミニウムの場合は、固体としては単結晶サファイヤまたは多結晶アルミナなどが挙げられる。
【0066】
単結晶ダイヤモンド材料のエピタキシャル成長においては、厚い単結晶ダイヤモンド材料を成長させる観点から、不純物(たとえば窒素)を大量に入れた条件αでの成長を、ある一定時間つづけ、ある特定の厚さD
Aになると、全ての不純物(窒素も含む)を排除した条件βでの成長を、また別の一定時間つづけ、ある特定の厚さD
Bとした後に、その後元の条件αで再度成長することを繰り返すことが好ましい。これにより、多量の不純物による大きな吸収係数を維持し、なおかつ厚い単結晶ダイヤモンド材料が得られる。
【0067】
単結晶ダイヤモンドの材料のエピタキシャル成長において、上記のD
AおよびD
Bとの間の好ましい関係は、
10ppm≦N
allのとき、D
A≦0.5mmかつ0.008mm≦D
B
5ppm≦N
all<10ppmのとき、D
A≦0.8mmかつ0.005mm≦D
B
1ppm≦N
all<5ppmのとき、D
A≦1.2mmかつ0.003mm≦D
B
である。N
allは全窒素量である。D
Bはできるだけ薄い方がよいが、上記条件より薄すぎると、リセットしきれず、うまくゆかない。D
Aも上記条件より厚すぎるとグラファイト成分が急激に多くなる。
【0068】
上記の繰り返し成長により、最終的にできるダイヤモンド材料の厚さD
totalは、
D
total = n×(D
A+D
B) ・・・(7)
と式(7)で表される。ここで、nは、繰り返し周期の回数である。繰り返しを増やせば厚くでき、透過率も低くできる。N
allが1ppmより小さいと、本発明の黒を出すためには、実現できないほどの厚さが必要となる。
【0069】
3.単結晶ダイヤモンド材料の種基板からの分離
次に、エピタキシャル成長させた単結晶ダイヤモンドを種基板から分離して、単結晶ダイヤモンド材料を得る。分離方法は、たとえば、レーザー照射により切断する方法、イオン注入で予め分離境界を形成しておき、イオン注入面上に単結晶ダイヤモンド材料を成長させ、その後イオン注入の分離境界面で分離する方法などが挙げられる。
【0070】
本発明の別の実施形態にかかる工具は、上記の実施形態の単結晶ダイヤモンド材料を含む。このため、本実施形態の工具は、工具作製時、使用時において欠けの少ない工具とすることができる。本実施形態の工具は、特に制限はなく、切削バイト、フライスワイパー、エンドミル、ドリル、リーマー、カッター、ドレッサー、ワイヤーガイド、伸線ダイス、ウォータージェットノズル、ダイヤナイフ、ガラス切り、スクライバーなどが挙げられる。
【0071】
本発明のさらに別の実施形態にかかる放射温度モニターは、上記の実施形態の単結晶ダイヤモンド材料を含む。このため、本実施形態の放射温度モニターは、黒体輻射により近いもので、真の温度を評価できる。本実施形態の放射温度モニターは、特に制限はなく、温度モニターチップ、温度モニター用のホルダーなどが挙げられる。
【0072】
本発明のさらに別の実施形態にかかる赤外光学部品は、上記の実施形態の単結晶ダイヤモンド材料を含む。このため、本実施形態の赤外光学部品は、可視光の漏れが極力少なく、赤外光の感知が十分にできる。本実施形態の赤外光学部品は、特に制限なく、(具体例)赤外用窓、赤外用レンズ、飛散物やゴミを遮蔽する赤外窓用スクリーンなどが挙げられる。
【実施例】
【0073】
(実施例I)
1.種基板の準備
種基板として、高温高圧合成法によって作製されたIb型の単結晶ダイヤモンドからなる基板(厚み500μm、5mm角)を3つ準備した。これらの基板の主面の面方位は(001)面であった。準備したこれらの種基板の主面を、(001)面から[001]方向に3°オフするように機械研磨した。その後、これらの種基板の表面を算術平均粗さRaが10nmになるようにメタルボンドダイヤ砥石で速度を制御して研磨傷を形成し、粗面化した。
【0074】
2.単結晶ダイヤモンド材料の成長
上記の3つの種基板を公知のマイクロ波プラズマCVD装置内に配置して、3つの種基板上に窒素含有濃度が異なる3つの単結晶ダイヤモンド材料をそれぞれエピタキシャル成長させた。ここで、マイクロ波周波数は2.45GHz、マイクロ波電力は5kW、成長時間は60時間であった。こうして、厚さが1.2mmの3種類の気相合成単結晶ダイヤモンド材料が形成された。
【0075】
3.単結晶ダイヤモンド材料の種基板からの分離
得られた3種類の気相合成単結晶ダイヤモンド材料をレーザーで切断することにより、それぞれの種基板から分離し、その後、3種類の気相合成単結晶ダイヤモンド材料の表面を平坦に研磨した。
【0076】
4.単結晶ダイヤモンド材料の物性測定
得られた3種類の単結晶ダイヤモンド材料(試料1〜試料3)および準備した高温高圧合成Ib型ダイヤモンド材料(比較試料)について、全窒素濃度、孤立置換型窒素濃度、光透過率を測定した。全窒素濃度は、SIMSにより測定した。孤立置換型窒素濃度は、ESR分析により測定した。光透過率は、市販の分光光度計を用いて測定した。
【0077】
試料I−1〜試料I−3は、表面の算術平均粗さRaが10nmの種基板を用いて作製された単結晶ダイヤモンド材料であり、全窒素濃度がそれぞれ10ppm、20ppm、30ppmであり、孤立置換型窒素濃度がそれぞれ100ppb、180ppb、250ppbであった。これに対して、比較試料は、全窒素濃度が150ppmであり、孤立置換型窒素濃度が150ppmであった。
【0078】
試料I−1〜試料I−3は、410nm〜750nmの可視領域において最大の透過率を示す波長における光の透過率がそれぞれ14%、9%、1.5%であり、それぞれ「黒々ダイヤモンド」、「黒々ダイヤモンド」、「漆黒ダイヤモンド」に相当するものであった。また、試料I−1〜試料I−3は、全て、放射温度モニター用として利用して、実態にあった正確な温度を示した。得られた単結晶ダイヤモンド材料を用いて切削工具を作製し、試験した。試験は、被削材はアルミニウム材A5052を用い、切削速度は500m/min、切込み量0.01mm、送り量0.01mm/revの条件で行った。その結果、欠けが少なく耐摩耗性に優れたものであることが確認できた。また、試料I−1〜試料I−3は、全て、窓材料として可視光をほぼ遮断して黒く、波長10.6μmの赤外光を40%以上透過するものであり、それぞれ62%、55%、48%であった。これに対して、比較試料は、黄色い透明板であり、波長750nmの光をよく透過した。また、各試料の板厚を0.5mmとし、表面の算術平均粗さRaを1nm以下で、平行度を0.1°以下に両面研磨した板の裏表に直径1.6mmのTi電極を200nm厚さに蒸着し、室温(25℃)で50V印加して、電流電圧特性を測定した。いずれの試料もほとんど電流が流れず、1×10
12Ωcm以上であることが分かった。
【0079】
(実施例II)
本実施例では、種基板の表面粗さRaと結晶成長時のメタン濃度および窒素濃度を変えたこと以外は、実施Iと同様にして単結晶ダイヤモンド材料を作製し物性を測定した。単結晶ダイヤモンド材料に含有させる全窒素濃度が10ppm以下の場合はメタン濃度は10%で合成し、単結晶ダイヤモンド材料に含有させる全窒素濃度が10ppmより高く90ppm以下の場合はメタン濃度は18%で合成し、
単結晶ダイヤモンド材料に含有させる全窒素濃度が90ppmより高い場合はメタン濃度は25%で合成した。窒素濃度は0.1〜10%の範囲で変えて、単結晶ダイヤモンド材料に含有させる窒素濃度を調整した。単結晶ダイヤモンド材料の作製は、時々窒素添加の無い条件で結晶成長させ、再度同じ窒素を添加して結晶成長させた。窒素添加の無い条件を開始する目安としては、全窒素濃度が5ppm未満を目指す場合は、単結晶ダイヤモンドの厚さが1.0〜1.2mmとなった時に、3μm成長を行い、全窒素濃度が5ppm以上10ppm未満を目指す場合は、単結晶ダイヤモンドの厚さが0.7〜0.8mmとなった時に5μm成長を行い、全窒素濃度が10ppm以上90ppm未満を目指す場合は、単結晶ダイヤモンドの厚さが0.4〜0.5mmとなった時に8μm成長を行い、全窒素濃度が90ppm以上を目指す場合は、単結晶ダイヤモンドの厚さが0.3〜0.4mmとなった時に8μm成長を行った。これは、結晶格子を壊すことなく単結晶ダイヤモンド材料に高濃度で非置換型不純物を混入させるためであった。作製した試料II−1〜試料II−9の結果を表1にまとめた。表1において、「可視光透過率」とは、410nm〜750nmの可視領域において最大の透過率を示す波長における光の透過率を示した。
【0080】
【表1】
【0081】
表1を参照して、試料II−1〜試料II−8については、種基板の表面状態と単結晶ダイヤモンド材料の結晶成長合成条件により、孤立置換型窒素濃度に比べて全窒素濃度を大きく(すなわち、孤立置換型窒素濃度に対する全窒素濃度を高く)し、空孔も導入され、所望の可視領域の光の透過率が15%以下であり、波長10.6μmの赤外領域の光の透過率が40%以上であり、抵抗率が1×10
6Ωcm以上であった。試料II−1〜試料II−8は、赤外用の窓として、あるいは黒体輻射用の放射温度モニターとして使用することができた。切削工具を作製し、試験した。切削チップは、素材の厚さを1〜2mmの厚さに切り出し、工具用のシャンクにろう付けした後に刃先を加工した。試験は、被削材はアルミニウム材A5052を用い、切削速度は500m/min、切込み量0.01mm、送り量0.01mm/revの条件で行った。その結果、欠けが少なく耐摩耗性に優れたものであることが確認できた。試料II−1〜試料II−8については、孤立置換型窒素に対する全窒素濃度の割合が大きいことが、それらの高い耐欠け性および高い耐摩耗性に寄与したものと考えられた。また、試料II−1に注目して、非置換型窒素濃度が0.88ppm以上であると、あるいは空孔濃度と非置換型窒素濃度の和が5ppm以上であると効果がある。試料II−9は、孤立置換型窒素濃度に対する全窒素濃度の比が2.8であり8よりも低く、可視領域の透過率も67%と大きかった。
【0082】
(実施例III)
本実施例では、種基板の表面粗さRaと結晶成長時のメタン濃度および窒素濃度およびMg、Al、Si、P、およびSの少なくとも1つの不純物元素の総不純物元素濃度および総置換型不純物元素濃度を変えたこと以外は、実施例Iと同様にして単結晶ダイヤモンド材料を作製し物性を測定した。Mg、Al、Si、P、およびSの少なくとも1つの不純物元素の添加は、種基板の近くにMgO、Al
2O
3、Si、InP、ZnSなどの小片(1mm×2mm)を置くことにより行ない、小片の数で添加量を制御した。単結晶ダイヤモンド材料に含有させる全窒素濃度が10ppm以下の場合はメタン濃度は10%で合成し、単結晶ダイヤモンド材料に含有させる全窒素濃度が10ppmより高く90ppm以下の場合はメタン濃度は18%で合成した。単結晶ダイヤモンド材料に含有させる窒素濃度は0.1〜10%の範囲で変えて、単結晶ダイヤモンド材料に含有させる窒素濃度を調整した。単結晶ダイヤモンド材料の作製は、実施例IIと同じ要領で、時々窒素添加の無い条件で結晶成長させ、再度同じ窒素を添加して結晶成長させた。ただし、窒素以外の不純物元素は固体ソースを利用したので、完全にない条件というわけではなく、その時だけCO
2ガスをメタンガスの10%を添加して、不純物元素が含有すること抑制した。窒素がない条件の開始の目安は、実施例IIと同じにした。これは、結晶格子を壊すことなく単結晶ダイヤモンド材料に高濃度で非置換型不純物を混入させるためであった。作製した試料III−1〜試料III−10の結果を表2にまとめた。表2において、「可視光透過率」とは、410nm〜750nmの可視領域において最大の透過率を示す波長における光の透過率を示した。
【0083】
【表2】
【0084】
表2を参照して、試料III−1〜試料III−8については、種基板の表面状態と単結晶ダイヤモンド材料の結晶成長条件により、孤立置換型窒素濃度に対する全窒素濃度の比が2.5以上に大きく、窒素以外の不純物元素において、総置換型不純物元素濃度に対する総不純物元素濃度の比が大きく(試料III−1〜試料III−7においては当該比が8以上に大きい)、空孔も導入され、所望の可視領域の光の透過率が15%以下であり、波長10.6μmの赤外領域の光の透過率が40%以上であり、抵抗率が1×10
6Ωcm以上であった。試料III−1〜試料III−5のように、全窒素濃度が低くても、他の不純物元素が非置換型に多量に導入され、所望の可視領域の光の透過率が15%以下であった。試料III−1〜試料III−8は、赤外用の窓として、あるいは黒体輻射用の放射温度モニターとして使用することができた。切削工具を作製し、試験した。試験は、被削材はアルミニウム材A5052を用い、切削速度は500m/min、切込み量0.01mm、送り量0.01mm/revの条件で行った。その結果、欠けが少なく耐摩耗性に優れたものであることが確認できた。試料III−1〜試料III−8については、総置換型不純物元素濃度に対する総不純物元素濃度の割合が大きいことが、それらの高い耐欠け性および高い耐摩耗性に寄与したものと考えられた。試料III−9および試料III−10は、窒素においても、上記の不純物元素においても、孤立(総)置換型元素濃度に対する全(総)元素濃度の比が8以上ではなく、可視領域の透過率が67%と大きかった。
【0085】
(実施例IV)
本実施例では、種基板の表面粗さRaと結晶成長時のメタン濃度および窒素濃度およびB、Al、およびSiの少なくとも1つの不純物元素の濃度を変えたこと以外は、実施例Iと同様にして単結晶ダイヤモンド材料を作製し物性を測定した。ホウ素の添加はB
2H
6ガスの導入により行ない、AlおよびSiの添加は実施例IIIと同様に行なった。単結晶ダイヤモンド材料に含有させる全窒素濃度が10ppm以下の場合はメタン濃度は10%で合成し、単結晶ダイヤモンド材料に含有させる全窒素濃度が10ppmより高く90ppm以下の場合はメタン濃度は18%で合成した。窒素濃度は0.1〜10%の範囲で変えて、単結晶ダイヤモンド材料に含有させる窒素濃度を調整した。単結晶ダイヤモンド材料の作製は、時々窒素添加およびホウ素添加の無い条件で結晶成長させ、再度同じ窒素およびホウ素を添加して結晶成長させた。ただし、窒素およびホウ素以外の不純物元素は固体ソースを利用したので、完全にない条件というわけではなく、その時だけCO
2ガスをメタンガスの10%を添加して、不純物が含有すること抑制した。窒素がない条件の開始の目安は、実施例IIと同じにした。これは、結晶格子を壊すことなく単結晶ダイヤモンド材料に高濃度で非置換型不純物元素を混入させるためであった。作製した試料IV−1〜試料IV−10の結果を表3にまとめた。表3において、「可視光透過率」とは、410nm〜750nmの可視領域において最大の透過率を示す波長における光の透過率を示した。
【0086】
【表3】
【0087】
表3を参照して、試料IV−1〜試料IV−8については、種基板の表面状態と単結晶ダイヤモンド材料の結晶成長合成条件により、孤立置換型窒素濃度に比べ、全窒素濃度を大きくし、空孔も導入され、所望の可視領域の光の透過率が15%以下であり、波長10.6μmの赤外領域の光の透過率が40%以上であり、抵抗率が1×10
6Ωcm以上であった。試料IV−1〜試料IV−8は、赤外用の窓として、あるいは黒体輻射用の放射温度モニターとして使用することができた。切削工具を作製し、試験した。試験は、被削材はアルミ材A5052を用い、切削速度は500m/min、切込み量0.01mm、送り量0.01mm/revの条件で行った。その結果、欠けが少なく耐摩耗性に優れたものであることが確認できた。試料IV−9および試料IV−10は、ホウ素濃度が窒素濃度より多く混入され、抵抗率が低かったので、可視領域とともに赤外領域の透過率も低くなってしまった。
【0088】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。