特許第6594894号(P6594894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6594894
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】封止組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20191010BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20191010BHJP
   C08K 13/04 20060101ALI20191010BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20191010BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20191010BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   C09K3/10 Z
   C08L27/06
   C08K13/04
   C08K5/10
   C08K5/521
   F16J15/10 X
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-559589(P2016-559589)
(86)(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公表番号】特表2017-512872(P2017-512872A)
(43)【公表日】2017年5月25日
(86)【国際出願番号】US2015022929
(87)【国際公開番号】WO2015153330
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2018年3月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-76887(P2014-76887)
(32)【優先日】2014年4月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100157185
【弁理士】
【氏名又は名称】吉野 亮平
(72)【発明者】
【氏名】山邉 拓治郎
(72)【発明者】
【氏名】高桑 京子
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−092747(JP,A)
【文献】 特開昭54−006044(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101418105(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102850697(CN,A)
【文献】 Henan Chemical Industry,Vol.28, No.15,pp.44-46 (2011).
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/10− 3/12
F16J 15/00− 15/14
C09D 1/00− 10/00
C09D 101/00−201/10
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル樹脂、表面処理された中空ガラス微小球、及び可塑剤を含む封止組成物であって、
前記表面処理された中空ガラス微小球は、前記中空ガラス微小球当たり0.質量%〜2質量%のシラン化合物により処理されており、
前記封止組成物は、35〜60体積%の前記中空ガラス微小球を含有し、
前記可塑剤の前記ポリ塩化ビニル樹脂に対する質量比(可塑剤の質量/ポリ塩化ビニル樹脂の質量)が0.85〜2であり、且つ
前記封止組成物は密度が0.6〜0.9g/cmであり、
前記封止組成物の硬化生成物の引張強度が1.0MPa以上である、封止組成物。
【請求項2】
前記可塑剤の前記ポリ塩化ビニル樹脂に対する質量比(可塑剤の質量/ポリ塩化ビニル樹脂の質量)が、1.5〜2である、請求項1に記載の封止組成物。
【請求項3】
前記表面処理が、アミノシランによる表面処理である、請求項1又は2に記載の封止組成物。
【請求項4】
40〜60体積%の前記中空ガラス微小球を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の封止組成物。
【請求項5】
前記可塑剤が、フタル酸エステル、非芳香族二塩基酸エステル、及びリン酸エステルを含む群から選択される少なくとも1つである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の封止組成物。
【請求項6】
前記可塑剤が、フタル酸エステルを含む、請求項5に記載の封止組成物。
【請求項7】
前記可塑剤が、フタル酸ジオクチルを含む、請求項6に記載の封止組成物。
【請求項8】
剪断速度60s−1における粘度が、4a・s〜40Pa・sである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の封止組成物。
【請求項9】
自動車塗料に用いられる、請求項1〜のいずれか一項に記載の封止組成物。
【請求項10】
中空ガラス微小球をシラン化合物で表面処理することと、
表面処理された中空ガラス微小球をポリ塩化ビニル樹脂及び可塑剤と混合することと、を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の封止組成物を製造する方法。
【請求項11】
前記シラン化合物が、アミノシランを含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記表面処理が、前記中空ガラス微小球当たり0.質量%以上の前記シラン化合物を用いて実施される、請求項10又は11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、封止組成物及びその製造方法、より具体的には、自動車、船舶、列車、及び他の乗り物を構成する部材間の間隙を封止するために用いることができる封止組成物に加えて、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル樹脂は、安価であり、かつ優れた物理的及び化学的特性を有するので、封止組成物のベースポリマーとして広く用いられている。ポリ塩化ビニル樹脂を含有する封止組成物の密度は、比較的高い(例えば、約1.4〜1.8g/cm)ので、これは、乗り物の重量低減等を妨げる要因となる。
【0003】
封止組成物の重量を低減するための1つの方法として、中空フィラーの使用が以前から研究されている。しかし、重量低減は、封止組成物の硬化生成物の機械的強度の低下を伴うことが多いので、結果として、このような硬化生成物を含有する複合材において所望の機械的強度が得られない場合がある。例えば、0.7〜0.9g/cm以下の密度(これは、市販の封止組成物の約半分である)を有し、かつ0.8MPa以上の硬化生成物の引張強度を有する封止組成物が、特定の用途では望ましい。
【0004】
特許文献1(特開平3−020384号)には、「粒状かつ中空のガラスビーズを、重量比5%以上含有するボディーシーラー」が記載されている。
【0005】
特許文献2(特開平11−092747号)には、「塩化ビニル系樹脂を含有してなる車両用低比重高物性シーリング剤であって、シランカップリング剤により表面処理されてなるガラス中空状充填材を配合してなることを特徴とするシーリング剤」が記載されている。
【0006】
特許文献3(特開2012−525485号)には、「中空ガラス微小球およびポリマーの複合体であって、(a)前記複合体を基準として0.005〜8重量%の界面改質剤の被覆を有する、粒度が約5μmを超える中空ガラス微小球を30〜87容量%と、(b)ポリマーの相と、を含む複合体」が記載されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、高い引張強度を有する低密度封止組成物、及びその製造方法を提供する。
【0008】
本開示の1つの実施形態によれば、ポリ塩化ビニル樹脂、表面処理された中空ガラス微小球、及び可塑剤を含有する封止組成物であって、3〜60体積%の中空ガラス微小球を含有する封止組成物を提供する。
【0009】
本開示の別の実施形態によれば、中空ガラス微小球をシラン化合物で表面処理することと、表面処理された中空ガラス微小球をポリ塩化ビニル樹脂及び可塑剤と混合することと、を含む、上記封止組成物を製造する方法を提供する。
【0010】
本開示によれば、中空ガラス微小球の含量が大きいため、低密度及び高い引張強度を有する封止組成物を得ることができる。本開示の封止組成物は、自動車塗料等の用途において特に理想的に用いることができる。
【0011】
上記記載は、本発明の全ての実施形態、及び本発明に関連する全ての利点を開示すると解釈するべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態において用いられるシラン化合物の量と硬化生成物の引張強度との関係を示すグラフである。
図2A】実施例13の封止組成物の硬化生成物の引張破壊表面のSEM写真(200Χ)である。
図2B】実施例13の封止組成物の硬化生成物の引張破壊表面のSEM写真(1000Χ)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、典型的な実施形態を説明するために、以下に更に詳細に記載されるが、本発明は、これら実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本開示における「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は「メタアクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」又は「メタクリレート」を意味する。
【0015】
本開示の1つの実施形態における封止組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂、表面処理された中空ガラス微小球、及び可塑剤を含有し、30〜60体積%の中空ガラス微小球を含有する。
【0016】
塩化ビニルホモポリマー、塩化ビニルモノマーとエチレン、酢酸ビニル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等との塩化ビニル系コポリマー、又はこれらの混合物をポリ塩化ビニル樹脂として用いることができる。これら塩化ビニルホモポリマー及び塩化ビニル系コポリマーは、例えば、乳化重合、懸濁重合、ミクロ懸濁重合、又はブロック重合によって得ることができる。ポリ塩化ビニル樹脂中に含有される塩化ビニルホモポリマーの量は、ポリ塩化ビニル樹脂の質量に基づいて、約40質量%以上、約50質量%以上、又は約60質量%以上、100質量%以下、約90質量%以下、又は約80質量%以下であってよい。
【0017】
ポリ塩化ビニル樹脂は、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、又は他の有機溶媒に溶解又は分散している塩化ビニルホモポリマーの粉末又は塩化ビニル系コポリマー粉末の溶液又は分散液として、あるいは、後述されるように可塑剤と混合された塩化ビニルホモポリマー又は塩化ビニル系コポリマーの微粉末のゾル(ペースト)として便利に用いることができる。ポリ塩化ビニル樹脂をゾルとして用いるとき、ゾルの粘度は、例えば、約1000mPa・s以上又は約2000mPa・s以上、約20000mPa・s以下、又は約5000mPa・s以下であってよい。
【0018】
ポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度(又は数平均分子量)は、特に限定されない。例えば、ポリ塩化ビニル樹脂の可溶性部分に関してJIS K7367−2(1999年版ISO 1628−2)に基づいて求められるk値は、約50以上又は約60以上、約95以下又は約85以下であってよい。ポリ塩化ビニル樹脂が混合物であるとき、k値は、混合物に関して測定されたものを示す。
【0019】
一般的に、ポリ塩化ビニル樹脂は、封止組成物100重量部に基づいて約5質量部以上、約10質量部以上、又は約15質量部以上、約50質量部以下、約40質量部以下、又は約30質量部以下の量で封止組成物中に含有される。
【0020】
ガラスの成分は、金属酸化物の観点で便利に指定される。中空ガラス微小球は、主に、二酸化ケイ素(SiO)、NaO、及び他のアルカリ金属酸化物、CaO、MgO、SrO、BaO、及び他のアルカリ土類金属酸化物、ホウ酸(B)、他の二価〜五価金属酸化物(例えば、ZnO、PbO;Al、Fe、Sb、TiO、MnO、ZrO;P、V等)、フッ素、硫黄等を含有するソーダライムホウ酸塩ガラスを含有する。中空ガラス微小球は、当該技術分野において公知の方法、例えば、特開昭58−156551号、特開平2−27295号等に記載されている方法によって製造することができる。
【0021】
中空ガラス微小球の平均真空度は、約0.10g/cm以上、約0.20g/cm以上、又は約0.30g/cm以上、約1.0g/cm以下、約0.70g/cm以下、又は約0.50g/cm以下に設定してよい。平均真空度を上記範囲に設定することによって、封止組成物の製造及び使用中に中空ガラス微小球に過度の損傷を与えることなく封止組成物の密度を低下させることができる。中空ガラス微小球の平均真空度は、ASTM D2840−69(1976年版)に基づいて求めることができる。
【0022】
中空ガラス微小球の体積中央径は、約5μm以上又は約10μm以上、約100μm以下又は約50μm以下に設定してよい。D50粒径としても表される体積中央径は、最小粒径からの累積体積が50%になる粒径を意味する。言い換えれば、中空ガラス微小球の50体積%が、体積中央径以下である。体積中央径を上記範囲に設定することによって、中空ガラス微小球のフィラー含量を増大させながら、適切な流動性を封止組成物に提供することができる。体積中央径は、脱気及び脱イオン水中に中空ガラス微小球を分散させ、レーザー回折によって測定することにより求めることができる。
【0023】
中空ガラス微小球の粒径分布は、ガウス分布、正規分布、又は非正規分布であってよい。非正規分布は、単一のピーク又は複数のピーク(例えば、2つのピーク)を有してよい。中空ガラス微小球は、篩い分けして所望の粒径分布を有する中空ガラス微小球を得ることによって等級分けしてもよく、又は様々な粒径分布を有する中空ガラス微小球を混合してもよい。
【0024】
中空ガラス微小球の破壊強度は、一般的に、中空ガラス微小球の10体積%又は20体積%が破壊される圧力として、すなわち、90体積%における耐残圧強度又は80体積%における耐残圧強度として表すとき、約10MPa以上又は約30MPa以上、約200MPa以下又は約180MPa以下である。中空ガラス微小球の耐圧強度は、高いことが望ましいが、一般に、高い耐圧強度を有する中空ガラス微小球の平均真空度は、高い場合が多い。したがって、中空ガラス微小球の耐圧強度は、封止組成物の所望の密度及び強度に従って好適に選択することができる。耐圧強度は、ASTM D3102−78(1982年版)に基づいて、分散媒としてグリセロールを用いる測定によって得られる値である。中空ガラス微小球のグリセロール分散液を試験チャンバにセットする。測定サンプル中の中空ガラス微小球の体積変化を徐々に圧力を増大させながら観察し、測定サンプル中の中空ガラス微小球の残留体積が90体積%又は80体積%になる圧力(10体積%が破壊されるとき又は20体積%が破壊されるとき)を測定し、この圧力を90体積%耐残圧強度又は80体積%耐残圧強度とする。
【0025】
中空ガラス微小球は、表面処理される。理論に縛られるものではないが、ポリ塩化ビニル樹脂及び可塑剤で構成されるマトリクス中の中空ガラス微小球の分散性及び親和性は、表面処理によって増大し、中空ガラス微小球とマトリクスとの間の境界剥離が防止又は抑制され、その結果、封止組成物の硬化生成物の強度が増大すると考えられる。表面処理は、シラン化合物を含有するカップリング剤等を用いて実施してよい。
【0026】
好ましく用いることができるシラン化合物としては、ビニル基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、アミノ基、メルカプト基、又は他の官能基を有し、かつケイ素結合加水分解性ハロゲン原子(塩素、臭素、又はヨウ素)又はアルコキシ基を有する化合物が挙げられる。官能基としてアミノ基を有するアミノシランを含有するシラン化合物を用いて表面処理を実施することが有利である。また、加水分解性基は、加水分解によって揮発性アルコールを生成するアルコキシ基、特に、C1〜C6アルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等であることが有利である。
【0027】
有用なシラン化合物の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、及び他のビニルシラン;2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、及び他のエポキシシラン;3−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、及び他の(メタ)アクリレートシラン;N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、及び他のアミノシラン;並びに3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、及び他のメルカプトシランが挙げられる。これらシラン化合物の中でも、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、及び他のアミノシランを用いることが有利であり、特に、3−アミノプロピルトリメトキシシラン及び3−アミノプロピルトリエトキシシランを有利に用いることができる。
【0028】
中空ガラス微小球の表面処理は、中空ガラス微小球をシラン化合物の原液、シラン化合物の水溶液、又はアルコール溶液に浸漬することによって、中空ガラス微小球にシラン化合物の原液、シラン化合物の水溶液、又はアルコール溶液を噴霧することによって、あるいは別の公知の方法によって実施することができる。メタノール、エタノール、プロパノール等をシラン化合物のアルコール溶液の溶媒として用いることができる。中空ガラス微小球は、浸漬又は噴霧後、室温で放置してもよく、約80℃〜約200℃に加熱してもよい。中空ガラス微小球を予熱して、表面に付着している水等を除去してもよい。
【0029】
シラン化合物の使用量は、中空ガラス微小球の質量に基づいて、約0.1質量%以上、約0.25質量%以上、又は約0.4質量%以上、約5質量%以下、約2質量%以下、又は約1質量%以下であってよい。上記範囲に設定することは、硬化生成物の引張強度を増大させることができるので、経済的に有利である。特定の好ましい実施形態では、シラン化合物の使用量は、中空ガラス微小球当たり約0.25質量%以上、約1質量%以下である。
【0030】
中空ガラス微小球は、封止組成物中に約30体積%以上、約60体積%以下の量で含有される。特定の実施形態では、中空ガラス微小球は、封止組成物中に約40体積%以上又は約45体積%以上、約60体積%以下又は約58体積%以下の量で含有される。本開示の封止組成物では、中空ガラス微小球は、ポリ塩化ビニル樹脂及び可塑剤で構成されるマトリクスを表面処理された中空ガラス微小球と合わせることによって、封止組成物中に高フィラー含量で含有され得る。
【0031】
用いることができる可塑剤の例としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル(DOP、「ビス(2−エチルヘキシル)フタレート」とも呼ばれる)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸オクチルブチル、及び他のフタル酸エステル;コハク酸ジイソデシル、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチル、及び他の非芳香族二塩基酸エステル;トリメリット酸トリオクチル及び他のトリメリット酸エステル;トリブチルアセチルクエン酸、マレイン酸ブチル、オレイン酸ブチル、安息香酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、及び他の脂肪酸又は芳香族酸エステル;リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリトリル(TTP、「リン酸トリクレシル」とも呼ばれる)、及び他のリン酸エステル;アルキルジフェニル、部分水素化テルフェニル、及び他の炭化水素系油;塩素化パラフィン;エポキシ化ダイズ油、及び他のエポキシ系可塑剤;セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、フタル酸、及び他の二塩基酸、並びにエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及び他の二価アルコールから得られる可塑剤;分子量500以上又は1000以上のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及び他のポリエーテルポリオール、並びにその誘導体としてのポリエーテル系可塑剤が挙げられる。これら可塑剤の中でも、フタル酸エステル、非芳香族二塩基酸エステル、及びリン酸エステルを使用することが有利である。可塑剤は、好ましくは、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸オクチルブチル、又は他のフタル酸エステルを含み、より好ましくは、フタル酸ジオクチルを含有する。フタル酸エステル、特に、フタル酸ジオクチルを含有する可塑剤は、特に高い引張強度を有する封止組成物を提供し得る。
【0032】
可塑剤は、一般的に、封止組成物100質量部に基づいて約10質量部以上、約20質量部以上、又は約30質量部以上、約60質量部以下、約55質量部以下、又は約50質量部以下の量で封止組成物中に含有される。
【0033】
特定の実施形態では、可塑剤のポリ塩化ビニル樹脂に対する質量比(可塑剤の質量/ポリ塩化ビニル樹脂の質量)は、約0.8以上、約0.85以上、約1以上、又は約1.5以上、約5以下、約4以下、約3以下、又は約2以下である。ポリ塩化ビニル樹脂当たりの可塑剤の量を増加させると、より多くの中空ガラス微小球を封止組成物中に含有させることができる。中空ガラス微小球が約35体積%以上の量で封止組成物中に含有される実施形態では、可塑剤のポリ塩化ビニル樹脂に対する質量比は、例えば、約0.85以上かつ約5以下に設定されてよい。中空ガラス微小球が約40体積%の量で封止組成物中に含有される実施形態では、可塑剤のポリ塩化ビニル樹脂に対する質量比は、例えば、約0.85以上又は約1以上、約5以下に設定されてよい。中空ガラス微小球が約50体積%以上の量で封止組成物中に含有される実施形態では、可塑剤のポリ塩化ビニル樹脂に対する質量比は、例えば、約1.5以上かつ約5以下に設定されてよい。
【0034】
封止組成物は、任意成分として、未処理の中空ガラス微小球、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、粘土、雲母、及び他のフィラー、溶媒、イソシアネート化合物、及び他の接着改善剤、酸化チタン、カーボンブラック、及び他の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び他の添加剤を含有してよい。
【0035】
封止組成物は、上記シラン化合物で表面処理された中空ガラス微小球を、ポリ塩化ビニル樹脂、可塑剤、及び任意成分と混合することによって、調製することができる。必要に応じて撹拌手段及び温度制御手段を備える公知の機器、例えば、遊星型ミキサー、ロールミル等を混合のために用いてよい。封止組成物は、混合中又は混合後に脱気することによって消泡してもよい。
【0036】
封止組成物の粘度は、組成物を撹拌し、十分に分散させ、室温で約1日間放置した後に60s−1の剪断速度で測定したとき、例えば、約4Pa・s以上又は約10Pa・s以上、約50Pa・s以下、又は約40Pa・s以下である。目的、塗布する場所等に応じて、上記範囲外の粘度を有する封止組成物を用いることもできる。
【0037】
封止組成物は、シーリングガン又は他の塗布装置を用いて上記間隙に塗布し、ブラシ、スパチュラ等を用いて、塗布された封止組成物の表面を均一にし、例えば、約100〜150℃で約1〜2時間、熱硬化させることによって、封止を必要とする間隙を封止するために用いることができる。
【0038】
封止組成物の硬化生成物の密度は、例えば、約1.0g/cm以下、約0.9g/cm以下、又は約0.8g/cm以下である。封止組成物の密度は、中空ガラス微小球の量が増加するにつれて減少するが、一般的に、約0.6g/cm以上又は約0.65g/cm以上である。
【0039】
封止組成物の硬化生成物の引張強度は、例えば、約0.4MPa以上、約0.8MPa以上、約1.0MPa以上、又は約1.2MPa以上、約5MPa以下、又は約3MPa以下である。
【0040】
本開示の封止組成物は、理想的には、自動車、船舶、列車、及び他の乗り物を構成する部材間の間隙を封止するために用いることができる。例えば、本開示の封止組成物は、自動車のドア、エンジンルーム、床パネル、ボンネット等を構成する鋼板の継目を封止するために、これら鋼板を塗装するときに用いることができる。
【実施例】
【0041】
本開示の特定の実施形態を以下の実施例で説明するが、本発明は、これら実施形態に限定されるものではない。特に指定しない限り、部及び百分率は全て質量を基準とする。
【0042】
本実施例で使用する材料を表1に列挙する。
【0043】
【表1】
【0044】
評価方法
封止組成物を評価する方法は、以下の通りである。硬化生成物の引張強度は、試料としてダンベル形試験片を用いてTensilon(登録商標)万能試験機RTC−1325A(ロードセル50N、UR−50N−D)(株式会社オリエンテック(日本東京都豊島区)製)を用いて測定した。2枚のシートそれぞれから得られた2つの試験片を用い、試験片を温度23℃、クリップ間距離約50mm、及び引張速度約50mm/分で引っ張ったときに測定された値の平均(n=4)を引張強度とした。密度は、試料として引張強度測定用に作製されたダンベル形試験片を用いて、電子密度計SD−200L(アルファーミラージュ株式会社(日本大阪市都島区)製)を用いて測定した。粘度は、回転粘度計HAAKE(商標)RheoStress(商標)1回転式レオメータ(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社(日本横浜市神奈川区)製)を用いて、温度25℃及び剪断速度60s−1で測定した。
【0045】
表面処理された中空ガラスマイクロスフェアの調製
未処理の中空ガラス微小球を、温度125℃に制御されたヘンシェルミキサー(New−Gra Machine SEG−750、株式会社セイシン企業(日本東京都渋谷区)製)に投入した。中空ガラス微小球を、回転速度160rpmで約5分間撹拌し、次いで、KBE903を噴霧した。次に、中空ガラス微小球を、回転速度180rpmで30分間撹拌しながら乾燥させ、次いで、ミキサーから取り出した。中空ガラス微小球を室温に冷却し、ASTM E11−04 No.100メッシュ(開口150マイクロメートル)篩及びASTM E11−04 No.40メッシュ(開口425マイクロメートル)篩を用いてふるうことによって等級分けした。中空ガラス微小球の種類及び使用量、並びにKBE903の使用量を表2に列挙する。
【0046】
【表2】
【0047】
封止組成物の調製及びダンベル形試験片の作製
ポリ塩化ビニル樹脂を、表3に列挙する組成で、上述の通り処理した中空ガラス微小球、可塑剤としてのDOP、及び接着改善剤としてのTPA−B80Eと、4分間、回転速度1500rpmで、「あわとり練太郎」(株式会社シンキー(日本東京都千代田区)製)を用いて混合した。得られた混合物を0.007MPaまで減圧し、真空撹拌機「真空脱気ミキスタ」(ミキスタ工業株式会社(日本東京都江東区)製)にて80rpmで10分間、脱泡し、このように封止組成物を調製した。
【0048】
得られた封止組成物を、正方形のアルミニウム成形型(140mm×140mm、深さ3mm)に注ぎ、140℃に設定したオーブン内で1時間焼成した。次いで、硬化した封止組成物のシートを、JIS K6251−2(2010年版)ダンベル2型打抜ダイを用いて打ち抜き、このようにダンベル形試験片を作製した。
【0049】
非表面処理中空ガラス微小球を用いて同様に封止組成物を調製し、比較例としてダンベル形試験片を作製した。
【0050】
評価結果
封止組成物の硬化生成物の評価結果を表3に列挙する。図1は、シラン化合物の使用量(質量%)と硬化した材料の引張強度(MPa)との関係を示す。
【0051】
【表3】
【0052】
ポリ塩化ビニル樹脂を、表4に列挙する組成で、表面処理された中空ガラス微小球としてのiM16K−1.0、可塑剤としてのDOP、及び接着改善剤としてのTPA−B80Eと、4分間、回転速度1500rpmで、「あわとり練太郎」(株式会社シンキー(日本東京都千代田区)製)を用いて混合した。得られた混合物を0.007MPaまで減圧し、真空撹拌機にて80rpmで10分間、脱気し、このように封止組成物を調製した。
【0053】
封止組成物の粘度を測定し、同様にダンベル形試験片を作製し、硬化生成物の物性を評価した。結果を表4に列挙する。表4中、粘度を測定することができなかった組成物は「ND」と記載され、引張強度が測定されなかったものは「−」と記載される。
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
図2A及び2Bは、実施例13の封止組成物の硬化生成物の引張破壊表面のSEM写真(図2A:200Χ、図2B:1000Χ)を示す。
【0057】
ポリ塩化ビニル樹脂を、表5に列挙する組成で、中空ガラス微小球としてのiM16K−1.0(表面処理済)又はiM16K(未処理)、可塑剤としてのDINP、DOA、TTP、又はDOP、及び接着改善剤としてのTPA−B80Eと、4分間、回転速度1500rpmで、「あわとり練太郎」(株式会社シンキー(日本東京都千代田区)製)を用いて混合した。得られた混合物を0.007MPaまで減圧し、真空撹拌機にて80rpmで10分間、脱気し、このように封止組成物を調製した。
【0058】
封止組成物の粘度を測定し、同様にダンベル形試験片を作製し、硬化材料の物性を評価した。結果を表5に列挙する。表5中、粘度を測定することができなかった組成物は「ND」と記載する。引張強度の向上率(%)は、以下の式(式中、Tは、非表面処理中空ガラス微小球を用いた引張強度であり、Tは、表面処理中空ガラス微小球を用いた引張強度である)によって計算した値である。
【0059】
式1
引張強度の向上率(%)=((T−T)/T)×100
【0060】
【表6】
図1
図2A
図2B