(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の電池セルのそれぞれの両極に、抵抗とコンデンサを用いて構成されたフィルタ回路が接続された電圧検出線を介して電気的に接続され、前記複数の電池セルそれぞれの端子電圧を検出する電圧検出部と、
複数の前記電圧検出線を順次選択して前記電圧検出部と接続する選択回路と、
前記コンデンサの蓄積電荷量を増加させるために前記選択回路を介して前記電圧検出線に繰り返し電流を流す通電動作を行う電流源と、を備え、
前記電流源は、前記抵抗が正常状態である場合に、一回の前記通電動作により増加する前記蓄積電荷量が、前記通電動作中の前記端子電圧の変動幅に対応する範囲内となるような電流の大きさで、かつ、前記選択回路の選択動作の終了に応じて前記通電動作が終了すると次の選択動作による次の通電動作の時には一回の前記通電動作により増加した前記蓄積電荷量が通電前の状態に戻るような電流の大きさで、前記通電動作を行う電池監視回路。
【発明を実施するための形態】
【0009】
−第1の実施形態−
図1は、本発明の第1の実施形態による電池管理装置10の構成を示す図である。電池管理装置10は、組電池20の電池セル21、22を管理するものであり、電池監視回路100、RCフィルタ110およびマイコン130を備える。なお、説明を簡略化するため、
図1では組電池20を2つの電池セル21、22で構成されるものとして、この組電池20を管理する電池管理装置10の構成を示している。しかし、組電池20を構成する電池セルの数はこれに限定されない。任意の個数の電池セルで組電池20を構成し、その電池セルの個数に合わせて、電池管理装置10の構成を決定することができる。
【0010】
電池監視回路100は、マルチプレクサ101、電圧検出部120およびステートマシン104と、電流源G11、G12とを備える。電圧検出部120は、電池セル21、22のそれぞれの両極に、マルチプレクサ101および電圧検出線L1、L2、L3を介して電気的に接続されている。電圧検出部120は、増幅器102およびAD変換器103を有する。
【0011】
マルチプレクサ101は、マイコン130の指示に応じて、電池セル21、22のいずれかを端子電圧の測定対象として選択する。そして、電圧検出線L1、L2、L3のうち、測定対象とした電池セルの両極に接続されている一対の電圧検出線を選択し、それぞれの電圧を電圧検出部120に出力する。増幅器102は、マルチプレクサ101で選択された一対の電圧検出線間の電位差をレベルシフトした電圧信号を生成し、AD変換器103に出力する。AD変換器103は、増幅器102から出力された電圧信号を検出することで、測定対象の電池セルの端子電圧(セル電圧)を検出する。電池監視回路100は、上記のような動作を電池セル21、22について順次行うことにより、電池セル21、22それぞれの端子電圧を検出することができる。AD変換器103による端子電圧の検出結果は、アナログ値からデジタル値に変換され、マイコン130に読み込まれる。
【0012】
マイコン130は、AD変換器103から読み込んだ端子電圧の検出結果に基づいて、組電池20を監視および管理する。たとえば、端子電圧が異常な値を示す場合は、組電池20に異常があると判断し、その判断結果を示す信号を不図示の上位コントローラに出力する。
【0013】
ステートマシン104は、マイコン130の指示に応じてマルチプレクサ101を切り替えるための論理演算を行う論理回路である。マルチプレクサ101は、ステートマシン104が行う論理演算の結果に従って、電圧検出線L1、L2、L3を順次選択する。
【0014】
RCフィルタ110は、電圧検出線L1、L2、L3に重畳されたノイズを除去するためのものであり、電圧検出線L1、L2、L3に電気的に接続されている。RCフィルタ110は、電圧検出線L1、L2、L3上にそれぞれ設けられた抵抗R11、R12、R13と、電圧検出線L1、L2、L3と接地線GNDとの間にそれぞれ設けられたコンデンサC11、C12、C13とで構成される。
【0015】
電流源G11、G12は、組電池20の最高電位HVから印加される電流を電圧検出線L1、L2、L3に流すための通電動作を行う。この通電動作は、マルチプレクサ101による電圧検出線L1、L2、L3の選択動作に応じて行われる。たとえば、マルチプレクサ101が電圧検出線L1、L2を選択して電圧検出部120と接続すると、電流源G11、G12は、電圧検出線L1、L2とマルチプレクサ101を介して電気的にそれぞれ接続される。このときに電流源G11、G12がオン状態であると、電流源G11、G12から電圧検出線L1、L2に対して、図の右側から左側の方向にそれぞれ電流が流れる。こうした通電動作により、RCフィルタ110のコンデンサC11、C12の蓄積電荷量がそれぞれ増加方向に変化する。
【0016】
その後、マルチプレクサ101が他の電圧検出線を選択するか、または電流源G11、G12がオフされると、電圧検出線L1、L2に対する通電動作が終了し、コンデンサC11、C12の蓄積電荷量の変化が停止する。すると、抵抗R11、R12を経由して、通電中とは逆方向の電流が電圧検出線L1、L2にそれぞれ流れる。これにより、RCフィルタ110の時定数に従って、コンデンサC11、C12の蓄積電荷量がそれぞれ減少方向に変化する。その結果、通電中の蓄積電荷量の変化が徐々に解消されて元の蓄積電荷量に戻る。なお、電流源G11、G12のオンオフは、マイコン130により個別に制御することができる。
【0017】
上記のような通電動作の切り替えが電圧検出線L1、L2、L3について順次行われることで、マルチプレクサ101の選択動作に応じて、電流源G11、G12から電圧検出線L1、L2、L3の各々に電流が間欠的に流れる。これにより、RCフィルタ110の時定数に従って、コンデンサC11、C12、C13の蓄積電荷量がそれぞれ同一方向に増減を繰り返す。
【0018】
なお、電圧検出線L1、L2、L3の通電動作では、上記のように電流源G11、G12から電流を間欠的に印加するようにしている。そのため、電流を常時印加する場合と比べて、平均電流が同じでも電流源G11、G12の出力電流を大きく設定することができる。そのため、電流源G11、G12の出力電流のばらつきを抑えることができる。
【0019】
また、電池監視回路100において、マルチプレクサ101の選択動作は、ステートマシン104の論理演算結果を基に行われる。このときステートマシン104は、マイコン130から出力される1つのコマンドのみで論理演算を実行し、マルチプレクサ101に選択動作を行わせることができる。したがって、ステートマシン104を用いずに、マイコン130からの指示で通電動作を切り替える場合と比べて、電圧検出線L1、L2、L3に電流が流れる時間を短縮することができる。そのため、電流源G11、G12の出力電流をさらに大きく設定して、そのばらつきを抑えることができる。
【0020】
マイコン130は、上記のようにして電圧検出線L1、L2、L3の通電状態の切り替えを繰り返し行ったときの電池セル21、22の端子電圧の検出結果を取得する。そして、取得した端子電圧の検出結果に基づいて、RCフィルタ110の抵抗R11、R12、R13が正常状態であるか、それとも異常な開放状態であるかを診断する。これにより、電池管理装置10が正常であるか否かの診断を行う。
【0021】
たとえば、電流源G11、G12から電圧検出線L1、L2にそれぞれ通電してコンデンサC11、C12の蓄積電荷量を変化させた後、電圧検出線L1、L2の通電を終了した場合を考える。この場合、抵抗R11、R12がいずれも正常状態であれば、RCフィルタ110の時定数に従って、通電中におけるコンデンサC11、C12の蓄積電荷量の変化が徐々に解消する。そのため、通電終了から十分に時間が経過した後には、電圧検出線L1、L2の電圧は、それぞれ通電前の元の電圧に戻る。その間、電池セル21の端子電圧の測定値は変化しない。しかし、たとえば抵抗R11が故障等により開放状態であると、電圧検出線L1の通電が終了した後でも、通電中におけるコンデンサC11の蓄積電荷量の変化は解消されず、通電中に増加した蓄積電荷量が維持される。そのため、電圧検出線L1の通電を繰り返す毎に、コンデンサC11の蓄積電荷量が次第に増加していき、それに応じて電圧検出線L1の電圧が増大する。一方、電圧検出線L2については、抵抗R12が正常状態であるため、上記で説明したように、通電終了後には元の電圧に戻る。その結果、電池セル21の端子電圧の測定値は、電圧検出線L1の電圧が増大した分だけ大きくなる。これを利用して、マイコン130は、抵抗R11が正常状態であるか開放状態であるかの診断を行うことができる。
【0022】
さらにマイコン130は、電圧検出線L2、L3にそれぞれ接続された抵抗R12、R13に関しても、同様の方法で診断を行うことができる。すなわち、電流源G11、G12を用いて電圧検出線L2、L3の通電を繰り返したときの電池セル21、22の端子電圧を測定し、その測定値が元の値から変化するか否かを調べることで、抵抗R12、R13が正常状態であるか開放状態であるかを診断することができる。このようにして、マイコン130は、RCフィルタ110の抵抗R11、R12、R13がそれぞれ正常状態であるか開放状態であるかを診断することができる。
【0023】
上記のような診断を行うことで、マイコン130は、RCフィルタ110の導通状態を診断する診断部として機能する。その結果、RCフィルタ110の導通状態が異常であると判断した場合、マイコン130は、その判断結果を示す信号を不図示の上位コントローラに出力する。
【0024】
以上説明したように、電池管理装置10は、電圧検出線L1、L2、L3の通電状態を切り替えたときのコンデンサC11、C12、C13の蓄積電荷量の変化を利用して、RCフィルタ110の導通状態の診断を行う。このとき電池管理装置10は、電流源G11、G12から電圧検出線L1、L2、L3に流す電流を制限することで、通電終了後に電池セル21、22の端子電圧の測定を素早く行うことを可能としている。この点について、以下に詳しく説明する。
【0025】
なお、以下の説明では、
図1の電池管理装置10と同様の構成を有しているが、電流源G11、G12からの電流が制限されていない電池監視装置を、本発明に対する比較例として用いることとする。すなわち、比較例の電池監視装置では、一度の通電動作でRCフィルタ110の抵抗R11、R12、R13がそれぞれ正常状態であるか開放状態であるかを診断できるように、電流源G11、G12から出力される電流が
図1の電池管理装置10よりも大きく設定されている。
【0026】
図2は、本発明の第1の実施形態と比較例における電圧検出線の電圧変動の様子を示す図である。
図2(a)は、
図1に示した本発明の第1の実施形態による電池管理装置10における電圧検出線の電圧を示し、
図2(b)は、比較例による電池管理装置における電圧検出線の電圧を示している。なお、
図2(a)、(b)では、電圧検出線L1に電流を流した場合の電圧変化の様子を例としてそれぞれ示したが、電圧検出線L2、L3に電流をそれぞれ流した場合の電圧も、
図2(a)、(b)に示したのと同様に変化する。
【0027】
電池管理装置10では、時刻t1において電流源G11により電圧検出線L1の通電を開始すると、コンデンサC11の蓄積電荷量が増加することで、電圧検出線L1の電圧が上昇する。このとき、抵抗R11が正常状態である場合は、
図2(a)において実線で示した線
図31のように、電圧検出線L1の電圧が上昇する。このときの電圧変化の速さは、電流源G11の電流の大きさと、RCフィルタ110の時定数とに応じて定まる。その後、時刻t2において電圧検出線L1の通電を終了すると、コンデンサC11の蓄積電荷量が減少することで、電圧検出線L1の電圧が低下して元に戻る。
【0028】
一方、抵抗R11が開放状態である場合は、
図2(a)において破線で示した線
図32のように、電圧検出線L1の電圧が上昇する。このときの電圧変化の速さは、電流源G11の電流の大きさと、コンデンサC11の容量値とに応じて定まる。その後、時刻t2において電圧検出線L1の通電を終了しても、コンデンサC11の蓄積電荷量が変化しないため、電圧検出線L1の電圧は低下せずにそのまま維持される。
【0029】
電池管理装置10では、前述のように、電流源G11が電圧検出線L1に流す電流が制限されている。具体的には、抵抗R11が正常状態である場合に、電圧検出線L1に対する一回の通電動作により変化するC11の蓄積電荷量が、通電動作中の電池セル21の端子電圧の変動幅に対応する範囲内となるように、電流源G11から出力される電流の大きさが設定されている。なお、通電動作中の電池セル21の端子電圧の変動幅とは、一回の通電動作期間、すなわち時刻t1から時刻t2の期間内に、電池セル21の端子電圧測定値が変動した場合の最大変動範囲に相当する。これは、電圧検出部120の測定誤差や、通電動作中の電池セル21の充放電量に応じて定まる。
【0030】
電池管理装置10では、上記のとおり通電時に電流源G11から電圧検出線L1に流れる電流が制限されている。これにより、
図2(a)に示すように、一回の通電動作における電圧検出線L1の電圧変化は、電池セル21の端子電圧の測定に影響がないほど小さい。そのため、時刻t2において通電を終了した後、すぐに電池セル21の端子電圧測定を行うことができる。
【0031】
なお、上記では電流源G11から電圧検出線L1に電流を流す場合について説明したが、電流源G11またはG12から他の電圧検出線L2、L3に電流を流す場合についても同様である。すなわち、電池管理装置10において電流源G11、G12から出力される電流の大きさは、抵抗R11、R12、R13が正常状態である場合に、電圧検出線L1、L2、L3に対する一回の通電動作によりそれぞれ変化するC11、C12、C13の蓄積電荷量が、通電動作中の電池セル21、22の端子電圧の変動幅に対応する範囲内となるように設定されている。これにより、電圧検出線L1、L2、L3への通電終了後、すぐに電池セル21、22の端子電圧を測定できるような構成とされている。
【0032】
時刻t3において電流源G11により電圧検出線L1の通電を開始すると、電圧検出線L1の電圧が再び上昇する。このとき、抵抗R11が正常状態である場合は、前述のように電圧検出線L1の電圧が通電前の大きさに戻っているため、前回の通電時と同様に電圧検出線L1の電圧が変化する。その後、時刻t4において電圧検出線L1の通電を終了すると、電圧検出線L1の電圧が低下して元に戻る。一方、抵抗R11が開放状態である場合、電圧検出線L1の電圧は、前回の通電時の上昇分からさらに上昇し、時刻t4において電圧検出線L1の通電を終了してもそのまま維持される。同様の通電動作が繰り返し行われ、最後に時刻t5から時刻t6までの期間に通電された後、電圧検出線L1への通電が終了する。
【0033】
上記のように通電動作を複数回繰り返すと、抵抗R11が正常状態である場合は、線
図31に示すように電圧検出線L1の電圧はほとんど変化しない。一方、抵抗R11が開放状態である場合は、線
図32に示すように電圧検出線L1の電圧が次第に上昇し、これに応じて電圧検出部120で検出される電池セル21の端子電圧も上昇する。したがって、時刻t2から時刻t6までの期間を診断時間Tとして、この診断時間Tの間における電池セル21の端子電圧の上昇が所定の閾値以上であることをマイコン130により検知することで、抵抗R11が開放状態であると診断することができる。
【0034】
なお、上記の閾値は、電池セル21、22の充放電量の変動による端子電圧の変化や、外部からの流入ノイズ等を考慮しても、抵抗R11、R12またはR13が開放状態である場合にこれを確実に検知可能な値に設定されることが好ましい。また、診断時間Tは、抵抗R11、R12またはR13が開放状態である場合に、当該時間内で行われる複数回の通電動作により変化するコンデンサC11、C12またはC13の蓄積電荷量の合計によって生じる電圧検出線L1、L2またはL3の電圧変化が、上記閾値を超えるまでに要する時間に基づいて設定されることが好ましい。
【0035】
比較例による電池管理装置では、時刻t1において電流源G11により電圧検出線L1の通電を開始すると、コンデンサC11の蓄積電荷量が増加することで、電圧検出線L1の電圧が上昇する。このとき、抵抗R11が正常状態である場合は、
図2(b)において実線で示した線
図33のように、電圧検出線L1の電圧が上昇する。このときの電圧変化の速さは、電流源G11の電流の大きさと、RCフィルタ110の時定数とに応じて定まる。その後、時刻t2において電圧検出線L1の通電を終了すると、コンデンサC11の蓄積電荷量が減少することで、電圧検出線L1の電圧が低下して元に戻る。
【0036】
一方、抵抗R11が開放状態である場合は、
図2(b)において破線で示した線
図34のように、電圧検出線L1の電圧が上昇する。このときの電圧変化の速さは、電流源G11の電流の大きさと、コンデンサC11の容量値とに応じて定まる。その後、時刻t2において電圧検出線L1の通電を終了しても、コンデンサC11の蓄積電荷量が変化しないため、電圧検出線L1の電圧は低下せずにそのまま維持される。
【0037】
比較例による電池管理装置では、一度の通電動作で抵抗R11が正常状態であるか開放状態であるかを診断できるように、電流源G11から電圧検出線L1に流す電流が設定されている。そのため、
図2(b)に示すように、一回の通電動作中に電圧検出線L1の電圧が大きく変化する。これにより、抵抗R11が開放状態である場合には、電圧検出線L1の電圧は、線
図34のように通電開始後すぐに上昇し、通電終了後にも維持される。したがって、電池セル21の端子電圧の変化から、抵抗R11が開放状態であることをすぐに診断することができる。その一方で、抵抗R11が正常状態である場合には、線
図33のように、通電終了後に電圧検出線L1の電圧が低下するまでに時間がかかる。これにより、通電終了時刻t2から電圧検出線L1の電圧が元に戻る時刻t7までの期間では、電池セル21の端子電圧を測定できなくなることが分かる。
【0038】
次に、電池管理装置10においてRCフィルタ110の導通状態の診断を行うときの処理について説明する。
図3は、本発明の一実施形態による電池管理装置10において実行される診断処理のフローチャートである。
【0039】
ステップS10において、電池管理装置10は、電流源G11、G12をオンする。ステップS20において、電池管理装置10は、電池監視回路100のステートマシン104を用いて、マルチプレクサ101により電圧検出線L1、L2、L3を順次選択する。これにより、電流源G11、G12から電圧検出線L1、L2、L3への通電が順次行われ、それに応じて、前述のようにRCフィルタ110のコンデンサC11、C12、C13の蓄積電荷量がそれぞれ変化する。ステップS30において、電池管理装置10は、電流源G11、G12をオフする。
【0040】
なお、ステップS20で電圧検出線L1、L2、L3を順次選択する際に、マルチプレクサ101は、電圧検出線L1、L2、L3の各々が電圧検出部120と接続される回数が同一となるようにすることが好ましい。すなわち、いずれかの電圧検出線の接続回数が少ないと、その電圧検出線に接続されているコンデンサの蓄積電荷量の変化は、他のコンデンサと比べて少なくなってしまう。こうした事態を回避するために、ステップS20では、電圧検出線L1、L2、L3の全ての選択回数が同一となるように、マルチプレクサ101を切り替えることが好ましい。
【0041】
ステップS40において、電池管理装置10は、ステートマシン104およびマルチプレクサ101を用いて、電池セル21、22のいずれかを端子電圧の測定対象として選択する。ステップS50において、電池管理装置10は、電圧検出部120の増幅器102およびAD変換器103を用いて、ステップS40で選択した電池セルの端子電圧を測定する。ステップS60において、電池管理装置10は、ステップS50で測定した端子電圧をマイコン130により取得する。
【0042】
ステップS70において、電池管理装置10は、ステップS40で未選択の電池セルがあるか否かを判定する。端子電圧の測定対象として未選択の電池セルがあればステップS40に戻り、その中でいずれかの電池セルをステップS40で選択した後、上述のステップS40以降の処理を繰り返す。これにより、電池セル21、22の端子電圧を測定し、その測定結果をマイコン130により取得する。ステップS70で未選択の電池セルがないと判定した場合、すなわち電池セル21、22の全ての端子電圧をマイコン130により取得済みである場合は、処理をステップS80に進める。
【0043】
ステップS80において、電池管理装置10は、最初の通電終了から前述の診断時間Tが経過したか否かを判定する。最初にステップS20で電圧検出線を順次選択してからの経過時間が診断時間T未満であればステップS10に戻り、上述のステップS10以降の処理を繰り返す。これにより、診断時間Tを経過するまでは通電動作を繰り返し行い、電池セル21、22の端子電圧をマイコン130により取得する。最初の通電終了から前述の診断時間Tが経過したと判定した場合、すなわち最初にステップS20で電圧検出線を順次選択してからの経過時間が診断時間T異常である場合は、処理をステップS90に進める。
【0044】
ステップS90において、電池管理装置10は、マイコン130により、現在の電池セル21、22の端子電圧と、診断時間T前に取得された電池セル21、22の端子電圧とを比較する。ここでは、マイコン130は、電池セル21、22のそれぞれについて、現在すなわち最新の端子電圧の測定値と、それよりも診断時間T以上前の期間内で最後に取得された電池セル21、22の端子電圧の測定値との差分を算出する。
【0045】
ステップS100において、電池管理装置10は、マイコン130により、ステップS90の比較結果に基づいて、抵抗R11、R12、R13が正常状態であるか開放状態であるかを判定する。ここでは、ステップS90で算出した現在の端子電圧と診断時間T前の端子電圧との差分が前述の閾値以上であるか否かを判定する。その結果、電池セル21、22両方の端子電圧の差分がいずれも閾値未満であれば、抵抗R11、R12、R13が正常であると判断する。この場合、電池管理装置10は、
図3のフローチャートに示す診断処理を終了する。一方、電池セル21、22のいずれか少なくとも一方の端子電圧の差分が閾値以上であれば、抵抗R11、R12またはR13が開放状態であると判断する。この場合、電池管理装置10は、処理をステップS110に進める。なお、ノイズ等による誤検知防止のため、異常検知カウンタを持ち、ステップS100で複数回異常(開放状態)であると判断した場合のみステップS110に進むようにしても良い。この場合の異常検知カウンタは、1度でも正常値が検知された場合にクリアする。なお、正常検知カウンタを持ち、正常値を複数回検知した場合のみ、異常検知カウンタをクリアするようにしても良い。
【0046】
ステップS100で抵抗R11、R12またはR13が開放状態であると判定した場合、ステップS110において電池管理装置10は、マイコン130により、所定の異常信号を出力する。ここでは、RCフィルタ110の導通状態が異常であることを示す異常信号を、マイコン130から不図示の上位コントローラに出力する。ステップS110を実行したら、電池管理装置10は、
図3のフローチャートに示す診断処理を終了する。
【0047】
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0048】
(1)電池管理装置10は、マルチプレクサ101および電圧検出部120を有する電池監視回路100と、RCフィルタ110およびマイコン130とを備える。電圧検出部120は、電池セル21、22のそれぞれの両極に電圧検出線L1、L2、L3を介して電気的に接続され、電池セル21、22それぞれの端子電圧を検出する。RCフィルタ110は、抵抗R11、R12、R13とコンデンサC11、C12、C13を用いて構成され、電圧検出線L1、L2、L3に電気的に接続されている。電流源G11、G12は、コンデンサC11、C12、C13の蓄積電荷量を変化させるために電圧検出線L1、L2、L3に電流を流す通電動作を繰り返し行う。マイコン130は、電圧検出部120による電池セル21、22の端子電圧の検出結果に基づいて、抵抗R11、R12、R13が正常状態であるか開放状態であるかを診断する。この電池管理装置10において、電流源G11、G12は、抵抗R11、R12、R13が正常状態である場合に、一回の通電動作により変化するコンデンサC11、C12、C13の蓄積電荷量が、通電動作中の電池セル21、22の端子電圧の変動幅に対応する範囲内となるような電流の大きさで、通電動作を行う。マイコン130は、現在の電池セル21または22の端子電圧と過去の電池セル21または22の端子電圧との差が所定の閾値よりも大きい場合に、抵抗R11、R12またはR13が開放状態であると診断する。このようにしたので、電池管理装置10の診断終了後、すぐにセル電圧の測定を実行することができる。
【0049】
(2)マイコン130は、現在の電池セル21または22の端子電圧と、現在から所定の診断時間Tだけ前の電池セル21または22の端子電圧との差が閾値よりも大きい場合に、抵抗R11、R12またはR13が開放状態であると診断する。診断時間Tは、抵抗R11、R12またはR13が開放状態である場合に、当該時間内で行われる複数回の通電動作によりそれぞれ変化するコンデンサC11、C12、C13の蓄積電荷量の合計によって生じる電圧検出線L1、L2またはL3の電圧変化が閾値を超えるまでに要する時間に基づいて設定される。このようにしたので、抵抗R11、R12またはR13が開放状態である場合に、これを確実に診断することができる。
【0050】
(3)電流源G11、G12は、コンデンサC11、C12、C13の蓄積電荷量の変化が同一方向となるように通電動作を行う。このようにしたので、抵抗R11、R12、R13が正常状態であるときには、通電時および通電終了時における電圧検出線L1、L2、L3の電圧変化を同一方向に揃えることができる。そのため、電池セル21、22の端子電圧の測定結果に影響を及ぼすことなく、抵抗R11、R12、R13が正常状態であるか開放状態であるかを診断することができる。
【0051】
(4)電池管理装置10は、電圧検出線L1、L2、L3を順次選択して電圧検出部120と接続するマルチプレクサ101をさらに備える。電流源G11、G12は、マルチプレクサ101を介して電圧検出線L1、L2、L3と接続されている。電圧検出線L1、L2、L3への通電時には、マルチプレクサ101の選択動作に応じて、電流源G11、G12から電圧検出線L1、L2、L3の各々に電流が間欠的に流れる。このようにしたので、電流源G11、G12の出力電流を大きく設定してそのばらつきを抑えることができる。
【0052】
(5)マルチプレクサ101は、電圧検出線L1、L2、L3の各々が電圧検出部120と接続される回数が同一となるように、電圧検出線L1、L2、L3を順次選択することが好ましい。このようにすれば、電圧検出線L1、L2、L3にそれぞれ接続されているコンデンサC11、C12、C13の蓄積電荷量の変化を等しくすることができる。そのため、電池セル21、22の端子電圧の測定結果に影響を及ぼすことなく、抵抗R11、R12、R13が正常状態であるか開放状態であるかを正確に診断することができる。
【0053】
−第2の実施形態−
次に本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態で説明した電池管理装置を利用した制御システムについて説明する。
【0054】
図4は、本発明の第2の実施形態による制御システムの構成を示す図である。
図4の制御システムは、車両に搭載されており、電池管理装置10、組電池20、車両コントローラ30、エアコン用インバータ40、DC/DCコンバータ50および走行用インバータ60を備える。電池管理装置10および組電池20は、第1の実施形態で説明したものと同じである。
【0055】
車両コントローラ30は、エアコン用インバータ40、DC/DCコンバータ50および走行用インバータ60と接続されており、これらを含む様々な車両搭載機器の制御を行う。車両コントローラ30は、電池管理装置10とも接続されており、電池管理装置10の上位コントローラとして機能する。
【0056】
エアコン用インバータ40は、車両コントローラ30の制御により、組電池20から供給される直流電力を交流電力に変換してエアコン41に出力する。エアコン41は、エアコン用インバータ40から出力された交流電力を利用して不図示のコンプレッサを動作させることで、車両内の空調制御を行う。
【0057】
DC/DCコンバータ50は、車両コントローラ30の制御により、組電池20から供給される直流電力の電圧を所望の電圧に変換して蓄電池51に出力する。蓄電池51は、DC/DCコンバータ50から出力された直流電力を蓄積し、必要に応じて車両の各種電装品に供給する。また、これとは反対に、蓄電池51からの出力電力をDC/DCコンバータ50により電圧変換し、組電池20に出力してもよい。
【0058】
走行用インバータ60は、車両コントローラ30の制御により、組電池20から供給される直流電力を交流電力に変換して走行用モータ61に出力することで、走行用モータ61の駆動制御を行う。走行用モータ61は、走行用インバータ60から出力された交流電力を利用して駆動することで、車両の駆動輪に駆動力を供給し、車両を走行させる。
【0059】
なお、組電池20と、エアコン用インバータ40、DC/DCコンバータ50および走行用インバータ60との間には、XコンデンサCxおよびYコンデンサCy1、Cy2が設けられている。XコンデンサCxは、主にノーマルモードノイズを除去するためのものであり、YコンデンサCy1、Cy2は、主にコモンモードノイズを除去するためのものである。
【0060】
本実施形態の制御システムにおいて、電池管理装置10は、第1の実施形態で説明したように組電池20の監視および管理を行う。このとき電池管理装置10は、組電池20を構成する電池セル21、22の端子電圧をそれぞれ測定し、その測定結果に基づいて、電池セル21、22について異常であるか否かを診断すると共に、RCフィルタ110の抵抗R11、R12、R13がそれぞれ正常状態であるか開放状態であるかを診断する。その結果、電池セル21、22のいずれか少なくとも一つが異常であると診断した場合、または抵抗R11、R12、R13のいずれか少なくとも一つが開放状態であると診断した場合、その診断結果を示す信号を、当該異常に関する異常情報として車両コントローラ30に出力する。
【0061】
車両コントローラ30は、上記のようにして電池管理装置10から出力された異常情報を受信すると、その異常情報に基づいて、走行用インバータ60に出力するトルク指令を変更する。これにより、組電池20からの電力供給を制限するための制御を走行用インバータ60に対して行う。このとき、異常情報が表す異常の内容に応じて、以下のように出力するトルク指令を切り替える。
【0062】
電池管理装置10において電池セル21、22のいずれか少なくとも一つが異常であると診断され、この診断結果を示す異常情報を電池管理装置10から受信した場合、車両コントローラ30は、走行用モータ61の出力トルクをゼロとするトルク指令を走行用インバータ60に出力する。これにより、車両コントローラ30は、組電池20から走行用インバータ60への電力供給を全て遮断するように制限して、走行用モータ61の駆動が停止されるように、走行用インバータ60を制御する。すなわち、この場合は組電池20に異常があり、そのまま車両の走行を続けると危険な状態に至る可能性があるため、走行用モータ61を即時に停止させるように、走行用インバータ60を制御する。
【0063】
一方、電池管理装置10において抵抗R11、R12、R13のいずれか少なくとも一つが開放状態であると診断され、この診断結果を示す異常情報を電池管理装置10から受信した場合、車両コントローラ30は、走行用モータ61の出力トルクを所定の制限値以下とするトルク指令を走行用インバータ60に出力する。これにより、車両コントローラ30は、組電池20から走行用インバータ60への電力供給を制限しつつも、走行用モータ61を駆動させて車両の走行をある程度継続できるように、走行用インバータ60を制御する。すなわち、この場合は組電池20には異常がないため、上記のように組電池20に異常がある場合と比べて、組電池20からの電力供給に対する制限を緩和する。これにより、危険な状態に至らない程度に走行用モータ61の出力を絞りつつ、ユーザが修理工場等まで車両を自走させて移動できるように、走行用インバータ60を制御する。
【0064】
以上説明した本発明の第2の実施形態による制御システムは、電池管理装置10と、組電池20から供給される電力を用いて車両を走行させるための走行用モータ61の駆動制御を行う走行用インバータ60と、走行用インバータ60を制御する車両コントローラ30とを備える。この制御システムにおいて、電池管理装置10は、電池セル21、22のいずれか少なくとも一つが異常と診断した場合、または抵抗R11、R12、R13のいずれか少なくとも一つが開放状態であると診断した場合に、当該異常に関する異常情報を車両コントローラ30に出力する。こうして電池管理装置10から出力された異常情報に基づいて、車両コントローラ30は、組電池20からの電力供給を制限するための制御を走行用インバータ60に対して行う。この制御において、車両コントローラ30は、電池セル21、22のいずれか少なくとも一つが異常である場合と比べて、抵抗R11、R12、R13のいずれか少なくとも一つが開放状態である場合には、組電池20からの電力供給に対する制限を緩和する。このようにしたので、電池管理装置10を利用して、安全で使いやすい制御システムを提供することができる。
【0065】
−第3の実施形態−
次に本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態では、第3の実施形態で説明したのと同様の制御システムにおいて、耐ノイズ性を考慮した制御を行う例について説明する。
【0066】
図5は、本発明の第3の実施形態による制御システムの構成を示す図である。
図5の制御システムは、
図4に示した第2の実施形態による制御システムと同様に、車両に搭載されており、電池管理装置10、組電池20、車両コントローラ30、エアコン用インバータ40、DC/DCコンバータ50および走行用インバータ60を備える。
【0067】
図5において、エアコン用インバータ40、DC/DCコンバータ50および走行用インバータ60は、各々の動作状態に応じたノイズを組電池20に対してそれぞれ出力する。そのため、これらの各機器から組電池20に入力されるノイズが過大であると、電池管理装置10が電池セル21、22の端子電圧を測定しても、正しい測定値が得られないことがある。このような場合に、端子電圧の測定値に基づいて前述のような異常診断を行うと、誤った診断結果が導かれる可能性がある。そこで、本実施形態の制御システムでは、車両コントローラ30から出力されるノイズ情報に基づいて、組電池20に過大なノイズが入力されるような状況では、電池管理装置10による異常診断や電池セル21、22の端子電圧検出を無効化する。この点について、以下に詳しく説明する。
【0068】
本実施形態において、車両コントローラ30は、エアコン用インバータ40、DC/DCコンバータ50および走行用インバータ60の動作状態に応じて、それぞれの出力ノイズを推定する。たとえば走行用インバータ60の場合は、車両のアクセル操作量が変化したとき、低温時、インバータ制御におけるキャリア周波数の変更時、低速走行中にトルク変動が大きいときなどに、走行用インバータ60から組電池20への出力ノイズが増大すると推定できる。また、たとえばDC/DCコンバータ50の場合は、低温時、蓄電池51の充放電電流が0A近辺のときなどに、DC/DCコンバータ50から組電池20への出力ノイズが増大すると推定できる。これ以外にも様々な判断条件を用いて、エアコン用インバータ40、DC/DCコンバータ50、走行用インバータ60の各機器から組電池20への出力ノイズの大きさをそれぞれ推定することができる。こうして出力ノイズを推定したら、車両コントローラ30は、その推定結果に関するノイズ情報を電池管理装置10に出力する。
【0069】
電池管理装置10は、第1の実施形態で説明したように組電池20の監視および管理を行う。このとき電池管理装置10は、車両コントローラ30から出力されたノイズ情報に基づいて、マイコン130による抵抗R11、R12、R13の診断や、電圧検出部120による電池セル21、22の端子電圧の検出を無効化する。具体的には、ノイズ情報が表すノイズの大きさが所定値以上である場合や、複数の機器からのノイズが重畳される場合などは、電池管理装置10は、抵抗R11、R12、R13の診断や、電池セル21、22の端子電圧の検出を行わないようにする。なお、これらの一方のみを無効化してもよいし、両方を無効化してもよい。
【0070】
以上説明した本発明の第3の実施形態による制御システムは、電池管理装置10と、組電池20から供給される電力を利用するエアコン用インバータ40、DC/DCコンバータ50および走行用インバータ60の各機器の制御を行う車両コントローラ30とを備える。この制御システムにおいて、車両コントローラ30は、各機器から組電池20に出力されるノイズに関するノイズ情報を電池管理装置10に出力する。このノイズ情報に基づいて、電池管理装置10は、マイコン130による抵抗R11、R12、R13の診断および/または電圧検出部120による電池セル21、22の端子電圧の検出を無効化する。このようにしたので、電池管理装置10を利用して、耐ノイズ性に優れる制御システムを提供することができる。
【0071】
なお、以上説明した本発明の第3の実施形態において、抵抗R11、R12、R13の診断および/または電圧検出部120による電池セル21、22の端子電圧の検出結果を無効化する処理を、車両コントローラ30側で行うようにしてもよい。すなわち、車両コントローラ30は、エアコン用インバータ40、DC/DCコンバータ50および走行用インバータ60の各機器から組電池20に出力されるノイズを推定し、その推定結果に基づいて、電池管理装置10から出力される抵抗R11、R12、R13の診断結果および/または電池セル21、22の端子電圧の検出結果を無効化することができる。このようにしても、上記の作用効果を奏することができる。この場合、車両コントローラ30は、ノイズ情報を電池管理装置10に出力しなくてよい。
【0072】
また、第2、第3の実施形態でそれぞれ説明した制御システムは、車両に搭載された制御システム以外に適用してもよい。
【0073】
以上説明した実施形態や変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。