(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内周面に、径一定の円筒部と、円筒部の軸方向一方側に隣接配置され、軸方向一方側に向けて徐々に拡径する一方側拡径部と、円筒部の軸方向他方側に隣接配置され、軸方向他方側に向けて徐々に拡径する他方側拡径部とを備えた焼結軸受において、
前記円筒部の表面開孔率A、前記一方側拡径部の表面開孔率B、および前記他方側拡径部の表面開孔率Cを、C>A>Bの関係にしたことを特徴とする焼結軸受。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に、本発明の一実施形態に係る焼結軸受1を示す。この焼結軸受1は、例えば
図12に示すパワーウインド用動力伝達機構において軸62を支持するために使用される軸受であって、詳細には、軸62のうち、ウォームギア63の軸方向両側の部分を支持する一対の軸受65,65として使用されるものである。なお、以下の焼結軸受1の説明では、軸方向で相対的にウォームギア63に近い側を「軸方向一方側」と言い、その反対側を「軸方向他方側」と言う。
【0017】
焼結軸受1は、円筒状の焼結体からなり、内部気孔に潤滑油を含浸させた状態で使用される。潤滑油としては、例えばエステル系潤滑油が使用され、その中でも、動粘度が30mm
2/sec以上200mm
2/sec以下のものが好ましく使用される。焼結軸受1を構成する焼結体は、例えば、銅系、鉄系、あるいは銅鉄系の金属焼結体とされ、本実施形態では銅および鉄を主成分とした銅鉄系の金属焼結体とされる。
【0018】
焼結軸受1は、内周面に、径一定の円筒部2と、円筒部2の軸方向一方側(
図1中、右側)に隣接配置され、軸方向一方側へ向けて徐々に拡径した一方側拡径部3と、円筒部2の軸方向他方側(
図1中、左側)に隣接配置され、軸方向他方側に向けて徐々に拡径した他方側拡径部4とを有する。この焼結軸受1を
図12に示すパワーウインド用動力伝達機構で使用する場合、円筒部2は、たわみがない状態(軸線と平行な状態)で回転する軸62(
図1中の実線参照)を支持する軸受面として機能し、一方側拡径部3は、ウォームギア63がウォームホイール64から力F(
図12参照)を受けることにより、たわみが生じた状態(軸線に対して傾斜した状態)で回転する軸62(
図1中の二点鎖線参照)を支持する軸受面として機能する。これに対し、他方側拡径部4は、軸62のたわみの有無に関わらず軸受面として機能しない。要するに、焼結軸受1の他方側拡径部4に対して軸62は摺動しない。
【0019】
本実施形態において、一方側拡径部3および他方側拡径部4は、軸線に対して同じ角度で傾斜しており、その傾斜角は例えば0.5°〜3°(好ましくは1°〜2°)程度とされる。なお、
図1を含め、本発明の実施の形態を説明する図においては、理解の容易化のために両拡径部3,4の傾斜角を誇張して示している。
【0020】
焼結軸受1の内周面に設けた円筒部2、一方側拡径部3および他方側拡径部4はそれぞれ表面開孔率が異なる。具体的には、円筒部2の表面開孔率(A)が一方側拡径部3の表面開孔率(B)よりも大きく(A>B)、他方側拡径部4の表面開孔率(C)が円筒部2の表面開孔率(A)よりも大きい(C>A)。すなわち、焼結軸受1の内周面に設けた各部2〜4の表面開孔率A〜Cは、C>A>Bの関係となっている。また、焼結軸受1の外周面は径一定の円筒面に形成されており、外周面の表面開孔率は円筒部2の表面開孔率と同程度である。詳細は後述するが、焼結軸受1の内周面に設けた円筒部2、一方側拡径部3および他方側拡径部4、並びに焼結軸受1の外周面は、何れも、筒状の焼結体にサイジングを施すことで所定の形状および表面開孔率に仕上げられている。
【0021】
以上の構成において、モータ61(
図12参照)を駆動して軸62が回転すると、これに伴って、焼結軸受1の内部気孔に含浸させた潤滑油が焼結軸受1の内周面と軸62の外周面との間(の軸受隙間)に滲み出す。そして、軸62のたわみが小さい状態では、焼結軸受1の円筒部2と軸62の外周面との間に油膜が形成され、この油膜を介して軸62が回転自在に支持される。一方、軸62のたわみが大きくなると、焼結軸受1の一方側拡径部3と軸62の外周面との間に形成される油膜を介して軸62が回転自在に支持される。
【0022】
また、焼結軸受1の内周面のうち、両拡径部3,4とこれに対向する軸62の外周面との間には、潤滑油の油面を保持可能なシール部(テーパシール部)を形成することができる。そのため、焼結軸受1の内周面と軸62の外周面との間(軸受隙間)に滲み出した潤滑油が焼結軸受1の両端開口部を介して軸受外部に流出するのを効果的に防止することができる。
【0023】
また、他方側拡径部4の表面開孔率が円筒部2および一方側拡径部3の表面開孔率よりも大きいことから、軸62の回転時には、他方側拡径部4が面する領域に介在する潤滑油を他方側拡径部4の表面開孔を介して焼結軸受1の内部気孔に引き込むことができる。内部気孔に引き込まれた潤滑油は、軸62の回転時に、主に円筒部2や一方側拡径部3の表面開孔を介して軸62との摺動部(軸受隙間)に再度滲み出す。このように、本実施形態の焼結軸受1では、その内部気孔と軸受隙間との間で潤滑油を行き来させる(流動循環させる)ことができるので、潤滑油の特性変化を可及的に防止し、軸62を長期間に亘って安定的に支持することができる。
【0024】
上記の構成を有する焼結軸受1は、混合工程、圧縮成形工程、焼結工程、サイジング工程および含油工程を順に経て製造される。以下、各工程について詳述する。
【0025】
[混合工程]
混合工程は、複数種の粉末を混合することにより、圧粉体の成形用粉末(原料粉末)を得る工程であり、本実施形態では、主原料粉、低融点金属粉および固体潤滑剤粉を混合することで原料粉末を得る。原料粉末には、必要に応じて各種成形助剤、例えば離型性向上のための潤滑剤が添加される。なお、以下で説明する原料粉末はあくまでも一例であり、原料粉末に含める粉末の種類や各粉末の配合比は、焼結軸受1に対する要求特性等に応じて適宜変更される。
【0026】
主原料粉は、銅および鉄を含む金属粉末であり、本実施形態では、主原料粉として、部分拡散合金粉と扁平銅粉とを混合したものが使用される。
図2に示すように、部分拡散合金粉11としては、例えば、鉄粉12の表面に多数の銅粉13を部分拡散させたFe−Cu部分拡散合金粉が使用される。この部分拡散合金粉11の拡散部分ではFe−Cu合金が形成されており、この合金部分は鉄原子12aと銅原子13aとが相互に結合し、配列した結晶構造を有する(
図2中の拡大図を参照)。
【0027】
部分拡散合金粉11を構成する鉄粉12としては、還元鉄粉やアトマイズ鉄粉等、公知の鉄粉を使用することができ、本実施形態では、内部気孔を有する海綿状(多孔質状)をなし、含油性に優れた還元鉄粉を使用する。また、銅粉13としては、例えば、電解銅粉やアトマイズ銅粉等を使用することができ、本実施形態では、表面に多数の凹凸を有すると共に粒子全体として球形に近似した不規則形状をなし、成形性に優れたアトマイズ銅粉を使用する。銅粉13には、鉄粉12よりも小粒径のものが使用される。なお、部分拡散合金粉11における銅の割合は、例えば10〜30wt%(好ましくは22〜26wt%)とする。
【0028】
扁平銅粉は、水アトマイズ粉等からなる原料銅粉を搗砕(Stamping)することで扁平化させたものである。
図3に示すように、扁平銅粉14としては、各粒子の長さLが20〜80μm、厚さtが0.5〜1.5μm(アスペクト比L/t=13.3〜160)のものが主に用いられる。ここで言う「長さ」および「厚さ」は、扁平銅粉14の各粒子の幾何学的な最大寸法を言う。扁平銅粉14の見かけ密度は1.0g/cm
3以下とする。扁平銅粉14には、成形金型の成形面(キャビティの画成面)への付着性を高めるため、予め流体潤滑剤を付着させておくことが好ましい。流体潤滑剤は、原料粉末を金型に充填する前に扁平銅粉14に付着させていれば良く、好ましくは扁平銅粉14をその他の粉末と混合する前、より好ましくは原料銅粉を搗砕する段階で原料銅粉に付着させる。流体潤滑剤としては、脂肪酸、特に直鎖飽和脂肪酸、具体的にはステアリン酸を使用することができる。
【0029】
低融点金属粉15(
図5参照)としては、例えば錫、亜鉛、リン等、銅よりも低融点の金属の粉末が使用され、本実施形態では、焼結時の蒸散が少ない錫の粉末を使用する。低融点金属粉15としては、部分拡散合金粉11よりも小粒径のものが使用される。低融点金属粉15は、銅に対して高いぬれ性を持つので、後述する焼結工程の実行時には、まず低融点金属(本実施形態では錫)が溶融して銅粉の表面をぬらし、銅に拡散して銅を溶融させる。そして、溶融した銅と低融点金属の合金化により液相焼結が進行するため、鉄粒子相互間、鉄粒子と銅粒子の間、および銅粒子相互間の結合強度が強化される。
【0030】
固体潤滑剤粉は、主に、軸62と焼結軸受1の摩擦力を低減するために添加され、例えば黒鉛粉が使用される。黒鉛粉としては、扁平銅粉14に対する付着性が良好な鱗片状黒鉛粉を使用するのが好ましい。固体潤滑剤粉としては、黒鉛粉以外にも、例えば二硫化モリブデン粉を使用できる。なお、固体潤滑剤粉を添加しておけば、原料粉末を構成する粒子同士の摩擦力や、原料粉末と成形金型との摩擦力も低減されるので、圧粉体の成形性が向上する。
【0031】
上記原料粉末における各粉末の配合比は、例えば、Fe−Cu部分拡散合金粉11を75〜90wt%、扁平銅粉14を8〜20wt%、低融点金属粉15としての錫粉を0.8〜6.0wt%、黒鉛粉を0.5〜2.0wt%とすることができる。
【0032】
[圧縮成形工程]
圧縮成形工程では、上記の混合工程で得られた原料粉末を成形金型のキャビティに充填して圧縮することで、
図4に示す圧粉体20が成形される。本実施形態において、圧粉体20の内周面は径一定の円筒面に形成され、また、圧粉体20の外周面は、圧粉体20の両端外周縁部に形成される面取り部を除いて径一定の円筒面に形成される。
【0033】
ここで、本実施形態で使用する原料粉末に含まれる金属粉の中では、扁平銅粉14の見かけ密度が最も小さい。また、扁平銅粉14は、
図3に示したような薄板状で、かつ単位重量あたりの幅広面の面積が大きい。そのため、原料粉末を成形金型のキャビティに充填すると、扁平銅粉14は、その表面に付着させた流体潤滑剤による付着力、さらにはクーロン力等の影響を受けて成形金型の成形面に付着する。より詳細に述べると、扁平銅粉14は、
図5に示すように、その幅広面14aを成形金型23の成形面24に向け、かつ層状に重なった状態で成形面24の全域に付着する。その一方、扁平銅粉14の層状組織よりも内側の領域(キャビティの中心側となる領域)では、部分拡散合金粉11、扁平銅粉14、低融点金属粉(錫粉)15、および図示しない黒鉛粉の分散状態が全体で均一化している。そして、成形後の圧粉体20は、上記したような各粉末の分布状態をほぼそのまま保持する。
【0034】
[焼結工程]
焼結工程では、圧粉体20を焼結することにより、隣接する金属粉末(粒子)同士が結合した円筒状の焼結体30(
図6参照)を得る。本実施形態では、焼結体30にサイジングを施すことで得られる焼結軸受1の内周面を銅組織が支配的な(銅の面積比が最大の)銅リッチ面に形成することができ、かつ焼結体30の鉄組織がフェライト相とパーライト相の二相組織となるように焼結条件が設定される。上記のように、軸受面を銅リッチ面に形成すれば、軸62との摺動性に優れた焼結軸受1を得ることができ、また、鉄組織をフェライト相とパーライト相の二相組織とすれば、硬質のパーライト相が焼結軸受1の軸受面の耐摩耗性向上に寄与するので、焼結軸受1の耐久寿命を向上させることができる。但し、鉄組織に占めるパーライト相の割合が過剰になると、パーライト相による軸62に対する攻撃性が増すため、軸62が摩耗し易くなる。そのため、パーライト相は、フェライト相の粒界に点在する程度に抑えるのが好ましい。
【0035】
ここで、焼結温度(焼結炉の炉内雰囲気温度)を、例えば900℃を超える温度に設定すると、圧粉体20に含まれる黒鉛粉中の炭素が鉄と反応し、パーライト相が必要以上に形成される。ましてや、焼結温度を、銅鉄系の焼結体を得る際に一般的に採用されるような高温(概ね1100℃以上)に設定すると、焼結に伴って圧粉体20の表層部に存在する扁平銅粉14が溶融し、銅が圧粉体20(焼結体30)の内部に引き込まれるため、銅リッチの軸受面を得ることが難しくなる。一方、前述したように、本実施形態では、圧粉体20に含まれる低融点金属粉15を溶融させて液相焼結を進行させることにより、粒子相互間の結合強度を確保するため、焼結温度の下限は低融点金属の融点よりも高い温度に設定する必要がある。
【0036】
以上に鑑み、本実施形態では、焼結温度を、820℃〜900℃程度とし、かつ炉内雰囲気として炭素を含むガス(例えば、天然ガスやRXガス)雰囲気で圧粉体20を焼結する。このような焼結条件で圧粉体20を焼結すれば、焼結温度が銅の融点よりも十分に低いことに由来して、銅リッチの軸受面を備えた焼結体30(焼結軸受1)を得ることができる。また、焼結時に使用するガスに含まれる炭素が鉄に拡散してパーライト相を形成することに由来して、パーライト相を適度に含む鉄組織を備えた焼結体30を得ることができる。
【0037】
[サイジング工程]
このサイジング工程では、焼結体30の内周面および外周面を所定形状(完成品形状)に仕上げるためのサイジングを焼結体30に施す。サイジング工程は、一次サイジング金型を用いた一次サイジング工程と、二次サイジング金型を用いた二次サイジング工程の二段階に分けて実行される。以下、各サイジング工程について詳細に説明する。
【0038】
一次サイジング工程では、焼結体30の内周面30aに他方側拡径部4を圧縮成形する。この工程で使用される一次サイジング金型40は、
図6に示すように、同軸配置されたダイ41、サイジングコア42、上パンチ43および下パンチ44を有し、サイジングコア42、上パンチ43および下パンチ44は、図示しない駆動機構により昇降移動可能とされている。
【0039】
ダイ41の内周面は径一定の円筒面に形成されている。ダイ41の内径寸法d
4は、焼結体30をダイ41の内周に滑らかに導入できる一方で、他方側拡径部4の圧縮成形時[
図7(d)参照]には焼結体30の外周面を拘束可能な寸法に設定される。これを実現するため、ダイ41の内径寸法d
4は、焼結体30の外径寸法d
2と同じか、あるいは僅かに大きく設定される。具体的には、ダイ41の内径寸法d
4と焼結体30の外径寸法d
2の寸法差を、例えば10μm以下(0μm≦d
4−d
2≦10μm)程度に設定する。
【0040】
サイジングコア42は、他方側拡径部4の形状に対応した他方側拡径部成形面42aと、この成形面42aの下方に連設された径一定の円筒面42bとを有する。円筒面42bの外径寸法d
3は、他方側拡径部4の圧縮成形時[
図7(d)参照]においても、焼結体30の内周面30aと接触しない寸法に設定されている。つまり、サイジングコア42の円筒面42bの外径寸法d
3は、焼結体30の内径寸法d
1よりも十分に小さく設定されている。
【0041】
以上の構成を有する一次サイジング金型40において、まず、
図6に示すように、ダイ41の上端面と同一面上にある下パンチ44の上端面に焼結体30を載置し、その後、
図7(a)に示すようにサイジングコア42および上パンチ43を下降移動させ、焼結体30の内周にサイジングコア42の円筒面42bを挿入する。このとき、上述した寸法関係から、焼結体30の内周面30aとサイジングコア42の円筒面42bとは径方向の隙間を介して対向する。
【0042】
次いで、
図7(b)に示すように、上パンチ43を下降移動させ、上パンチ43と下パンチ44とで焼結体30を軸方向に挟持してから(焼結体30の軸方向の伸長変形を規制可能な状態にしてから)、
図7(c)に示すように、サイジングコア42、上パンチ43および下パンチ44を一体的に下降移動させてダイ41の内周に焼結体30を導入する。ダイ41の内周に焼結体30が導入された後、
図7(d)に示すように、サイジングコア42をさらに下降移動させ、焼結体30の内周に成形面42aを徐々に押し込む。これに伴い、焼結体30が径方向に膨張変形し、焼結体30の外周面がダイ41の内周面で拘束されると共に、焼結体30の内周面30aの一部円筒領域がサイジングコア42の成形面42aに押し付けられる。これにより、焼結体30の内周面30aの一部円筒領域が成形面42aに倣って変形し、他方側拡径部4が成形される。焼結体30の内周面30aに他方側拡径部4を圧縮成形している間も、焼結体30の内周面30aの残りの円筒領域(円筒部2および一方側拡径部3の成形予定領域)とサイジングコア42の円筒面42bとは非接触の状態に保持される。従って、一次サイジング工程では、焼結体30の内周面30aに他方側拡径部4のみが圧縮成形される。
【0043】
以上のようにして内周面に他方側拡径部4が成形された焼結体30は、一次サイジング金型40から離型される[
図7(e)参照]。焼結体30の離型は、例えば、サイジングコア42、上パンチ43および下パンチ44を一体的に上昇移動させることで焼結体30をダイ41から排出した後、サイジングコア42および上パンチ43をさらに上昇移動させることにより行う。これに伴い、焼結体30の内径寸法および外径寸法はスプリングバックにより拡大するため、サイジングコア42はスムーズに抜き取られる。
【0044】
以上で説明したように、一次サイジング工程では、焼結体30の内周面30aに他方側拡径部4のみが成形される。そのため、一次サイジングが施された焼結体(以下、この焼結体を「焼結体30’」ともいう)内周面の表面開孔率は、他方側拡径部4が成形された領域で相対的に小さく、他の円筒領域(円筒部2および一方側拡径部3の成形予定領域)で相対的に大きくなる。なお、他方側拡径部4は、円筒状をなした焼結体30の内周面30aにテーパ状をなした他方側拡径部成形面42aを押し付けることで成形されるので、他方側拡径部4の軸方向範囲内における表面開孔率は、軸方向他方側(円筒部2から離反した側)の端部で最も小さくなり、軸方向一方側に向かうにつれて徐々に大きくなる。以上で述べた一次サイジングの実施態様から、他方側拡径部4は、サイジングコア42によってしごかれずに(サイジングコア42との摺動を伴わずに)圧縮成形された面となる。
【0045】
二次サイジング工程では、焼結体30’の内周面に円筒部2および一方側拡径部3を成形する。この工程で使用される二次サイジング金型50は、
図8に示すように、同軸配置されたダイ51、サイジングコア52、上パンチ53および下パンチ54を有し、サイジングコア52、上パンチ53および下パンチ54は、図示しない駆動機構により昇降移動可能とされている。
【0046】
ダイ51の内周面は径一定の円筒面に形成されている。ダイ51の内径寸法d
14は、焼結体30’の外径寸法d
12よりも十分に小さく設定されており、両者の寸法差(d
12−d
14)は、例えば50〜60μm程度とされる。
【0047】
サイジングコア52は、円筒部2の形状に対応した円筒部成形面52aと、円筒部成形面52aの上方に連設され、一方側拡径部3の形状に対応した一方側拡径部成形面52bとを有する。円筒部成形面52aの外径寸法d
13は、焼結体30’の円筒状内周面(円筒部2および一方側拡径部3の成形予定領域)30a’の内径寸法d
11よりも大きく設定されており、両者の寸法差(d
13−d
11)は、例えば20μm程度とされる。
【0048】
以上の構成を有する二次サイジング金型50において、まず、
図8に示すように、ダイ51の上端面と同一面上にある下パンチ54の上端面に焼結体30’を載置する。このとき、焼結体30’は、一次サイジング工程で成形された他方側拡径部4を下側にした起立姿勢で二次サイジング金型50に配される。すなわち、焼結体30’は、一次サイジング金型40に配した焼結体30とは上下を逆にして二次サイジング金型50に配される。
【0049】
焼結体30’を二次サイジング金型50に配した後、
図9(a)に示すように、サイジングコア52および上パンチ53を下降移動させ、焼結体30’の内周にサイジングコア52の円筒部成形面52aを挿入する。このとき、上述した円筒部成形面52aの外径寸法d
13と焼結体30’の内径寸法d
11との関係性から、サイジングコア52の円筒部成形面52aは、焼結体30’の円筒状内周面30a’と摺動しながら焼結体30’の内周に挿入(圧入)される。これにより、焼結体30’の円筒状内周面30a’は、若干量目潰しされる。
【0050】
次いで、
図9(b)に示すように、上パンチ53を下降移動させ、上パンチ53と下パンチ54とで焼結体30’を軸方向に挟持してから(焼結体30’の軸方向の伸長変形を規制可能な状態にしてから)、
図9(c)に示すように、サイジングコア52、上パンチ53および下パンチ54を一体的に下降移動させることでダイ51の内周に焼結体30’を導入する。このとき、ダイ51の内径寸法d
14が焼結体30’の外径寸法d
12よりも十分に小さく設定されている関係上、焼結体30’は、その外周面がダイ51の内周面と摺動しながらダイ51の内周に導入(圧入)される。また、ダイ51の内周に焼結体30’を導入する際、焼結体30’は、軸方向の伸長変形が規制されると共に、円筒状内周面30a’がコア52の外周面で拘束されている。そのため、ダイ51の内周に焼結体30’を導入するのに伴って、焼結体30’の外周面はダイ51の内周面でしごかれる。これにより、焼結体30’の外周面が成形されると共に、焼結体30’の外周面の表面開孔率が小さくなる。ダイ51の内周に焼結体30’が導入されると、焼結体30’の外周面はダイ51で拘束される。
【0051】
焼結体30’の外周面をダイ51により拘束した状態で、
図9(d)に示すように、サイジングコア52をさらに下降移動させる。このとき、サイジングコア52は焼結体30’の円筒状内周面30a’に圧入されていることから、サイジングコア52をさらに下降移動させるのに伴って、焼結体30’の円筒状内周面30a’の一部円筒領域がサイジングコア52の円筒部成形面52aでしごかれて円筒部2が成形される。そして、サイジングコア52の下降移動がさらに進展するのに伴って、焼結体30’の上部内周にサイジングコア52の一方側拡径部成形面52bが押し込まれると、円筒状内周面30a’の上部円筒領域がサイジングコア52の一方側拡径部成形面52bに倣って変形し、一方側拡径部3が成形される。一方側拡径部3は、焼結体30’の外周面がダイ51により拘束された状態(さらに、焼結体30’の軸方向の伸長変形が規制された状態)で、円筒状内周面30a’の上部円筒領域を一方側拡径部成形面52bでさらに外径側に圧縮することで成形されることから、一方側拡径部3の表面開孔率(B)は円筒部2の表面開孔率(A)よりも小さくなる(A>B)。なお、一方側拡径部3は、円筒状内周面30a’にテーパ状をなした一方側拡径部成形面52bを押し付けることで成形されるので、一方側拡径部3の軸方向範囲内における表面開孔率は、軸方向一方側(円筒部2から離反した側)の端部で最も小さくなり、軸方向他方側に向かうにつれて徐々に大きくなる。
【0052】
本実施形態では、一次サイジングが施される焼結体30の外径寸法d
2と一次サイジングで使用するダイ41の内径寸法d
4との寸法関係(
図6参照)、および二次サイジングが施される焼結体30’の外径寸法d
12と二次サイジングで使用するダイ51の内径寸法d
14との寸法関係(
図8参照)を考慮すると、一方側拡径部3の圧縮成形時における焼結体外周面の拘束力は、他方側拡径部4の圧縮成形時における焼結体外周面の拘束力よりも大きくなる。このため、サイジングコア52の一方側拡径部成形面52bによる焼結体内周面の圧縮量(圧縮代)は、サイジングコア42の他方側拡径部成形面42aによる焼結体内周面の圧縮量よりも相対的に大きくなる。その結果、一方側拡径部3の表面開孔率(B)を、他方側拡径部4の表面開孔率(C)よりも大幅に小さくすることができる。要するに、二次サイジングの実行後、焼結体内周面の表面開孔率は、一方側拡径部3の表面開孔率(B)が最も小さく、他方側拡径部4の表面開孔率(C)が最も大きくなる(C>A>B)。
【0053】
以上のようにして、内周面に円筒部2および一方側拡径部3が成形された焼結体30’は、二次サイジング金型50から離型される[
図9(e)参照]。焼結体30’を二次サイジング金型50から離型する際には、例えば、サイジングコア52、上パンチ53および下パンチ54を一体的に上昇移動させることで焼結体30’をダイ51から排出し、その後、サイジングコア52および上パンチ53をさらに上昇移動させる、という手順を踏む。
【0054】
なお、焼結体30’を二次サイジング金型50から離型する際には、サイジングコア52および上パンチ53を一体的に上昇移動させることでサイジングコア52を焼結体30’から抜き取り、その後、下パンチ54を上昇移動させて焼結体30’をダイ51から排出する、という手順を踏んでも良い。このような手順を採用した場合、サイジングコア52の抜き取りが、いわゆる無理抜きとなるため、円筒部2は追加的にしごかれる。その結果、円筒部2の表面開孔率(A)を一層小さくすることができる。なお、このような手順で焼結体30’を離型する場合でも、円筒部2と一方側拡径部3の表面開孔率の大小関係は変化しない。
【0055】
[含油工程]
詳細な図示は省略するが、含油工程では、真空含浸等の手法により、サイジング工程で完成品形状に仕上げられた焼結体30’の内部気孔に潤滑油(例えばエステル系潤滑油)を含浸させる。これにより、
図1に示す焼結軸受(焼結含油軸受)1が完成する。
【0056】
以上のようにして得られる焼結軸受1では、サイジングコア42によるしごきを含まないサイジング(一次サイジング)を筒状の焼結体30に施すことで他方側拡径部4が成形され、その後、サイジングコア52によるしごきを含むサイジング(二次サイジング)を筒状の焼結体30’に施すことで円筒部2および一方側拡径部3が成形される。また、これら一次サイジングおよび二次サイジングにより、円筒部2の表面開孔率A、一方側拡径部3の表面開孔率B、および他方側拡径部4の表面開孔率Cが、C>A>Bの関係となるように仕上げられる。このようにすれば、焼結軸受1の内周面に互いに表面開孔率の異なる円筒部2、一方側拡径部3および他方側拡径部4を成形するにあたり、上記各部2〜4の全てを圧縮成形する必要がなく、円筒部2についてはサイジングコア52の円筒部成形面52aで焼結体30’の円筒状内周面30a’をしごくことにより成形される。そのため、本発明の構成上、焼結体30に対するサイジングは、上記各部2〜4のそれぞれを圧縮成形する場合のように三種類のサイジング金型を順次用いて実行する必要はなく、二段階に分けて実行すれば足りる。従って、設備投資および製造工程の低減を通じて焼結軸受1を低コストに得ることができる。
【0057】
また、焼結軸受1の内周面に設けるべき円筒部2および一方側拡径部3が、これらの形状に対応した成形面52a,52bを軸方向に連ねて設けたサイジングコア52を用いたサイジング(二次サイジング)を焼結体30’に施すことで成形され、しかも、一方側拡径部3は、焼結体30’の外周面がダイ52により拘束されると共に、焼結体30’の内周面(内周面のうち円筒部2の成形領域)がサイジングコア52の円筒部成形面52aにより拘束された状態で成形される。この場合、サイジングコア52の一方側拡径部成形面52bの押し込みに伴って焼結体内周部で肉の移動が生じても、肉は、サイジングコア52の移動方向前方側(円筒部2の側)ではなく、主に焼結体30’の径方向(厚さ方向)中心側に向けて移動する。これにより、円筒部2および一方側拡径部3のみならず、両部2,3の境界部(要するに、焼結軸受1の内周面のうち、軸62の支持に直接関与する領域全体)を二次サイジング工程のみで狙い形状に成形することができる。
【0058】
そして、本実施形態の焼結軸受1では、以上で説明したように、円筒部2が、サイジングコア52の円筒部成形面52aによるしごきにより成形された面となり、一方側拡径部3が、サイジングコア52の円筒部成形面52aによるしごきを経てサイジングコア52の一方側拡径部成形面52bにより圧縮成形された面となる。
【0059】
この場合、円筒部2では、
図10(b)に模式的に示すように、円筒部成形面52aでしごかれることにより生じる焼結体表面の金属組織の延びにより、その表面開口径x
2が、
図10(a)に模式的に示すサイジング前の焼結体における表面開口径x
1と比較して小さくなる(x
1>x
2)。また、一方側拡径部3では、
図10(c)に模式的に示すように、上記のしごき加工よりも圧縮量が大きい圧縮成形加工に伴う焼結体表層部の金属組織の高密度化により、その表面開口径x
3が、円筒部2の表面開口径x
2よりも小さくなる(x
2>x
3)。従って、二次サイジング工程の実施後には、一方側拡径部3の表面開孔率(B)が、円筒部2の表面開孔率(A)よりも小さくなった焼結軸受1が得られる。
【0060】
なお、他方側拡径部4は、上述したように、サイジングコア42,52によるしごきを経ずに圧縮成形された面であり、しかも外周面の拘束量が二次サイジングにおける焼結体外周面の拘束量よりも相対的に小さい一次サイジングで圧縮成形された面であることから、圧縮成形加工による表面開孔径の縮小幅は、しごき(コア52との摺動)に伴う表面開孔径の縮小幅よりも小さくなる。そのため、
図10(d)に模式的に示すように、他方側拡径部4における表面開孔径x
4は、サイジング前の焼結体における表面開孔径x
1に比べて小さくなるものの、円筒部2における表面開孔径x
2に比べて大きくなる(x
1>x
4>x
2)。従って、内周面のうち、他方側拡径部4の表面開孔率(C)が、円筒部2の表面開孔率(A)よりも大きい焼結軸受1を得ることができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態に係る焼結軸受1について説明を行ったが、本発明の実施の形態はこれに限定されるものではない。
【0062】
例えば、焼結軸受1の製造工程に含まれる圧縮成形工程においては、
図11に模式的に示すように、内周面21の一部領域、より詳しくは、他方側拡径部4の成形予定領域に、軸方向他方側に向けて徐々に拡径した拡径部22を有する圧粉体20’を成形することもできる。この場合、この圧粉体20’を焼結してなる焼結体に対し、
図6に示した一次サイジング金型40を用いて一次サイジングを施す限りにおいては、一次サイジングによる焼結体内周面の圧縮量を相対的に小さくすることができるため、他方側拡径部4の表面開孔率を
図1に示す焼結軸受1よりも大きくした焼結軸受を得ることができる。このような焼結軸受であれば、他方側拡径部4の表面開孔を介しての潤滑油の引き込み量を増すことができる。
【0063】
また、以上では、焼結軸受1の内周面に設けた一方側拡径部3および他方側拡径部4の軸線に対する傾斜角を同じにしているが、両拡径部3,4の軸線に対する傾斜角を互いに異ならせることもできる。
【0064】
また、以上では、本発明に係る焼結軸受1をパワーウインド用動力伝達機構に適用する場合について説明したが、本発明に係る焼結軸受1は他の用途に用いてもよい。例えば、携帯電話等のバイブレータとして機能する振動モータに、本発明に係る焼結軸受1を適用することもできる。
【0065】
また、本発明に係る焼結軸受1は、他方側拡径部4が軸受面として機能しない用途のみならず、他方側拡径部4が軸受面として機能する用途、すなわち、支持すべき軸が他方側拡径部4に対して摺動(接触)する用途にも用いることができる。
【0066】
また、以上の実施形態では、回転する軸62を支持する用途に本発明に係る焼結軸受1を用いる場合を示したが、これに限らず、軸62を固定して焼結軸受1を回転させる用途や、軸62および焼結軸受1の双方を回転させる用途に本発明に係る焼結軸受1を用いることも可能である。
【0067】
本発明は以上の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施することができる。