(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記軸方向繊維層の全強化繊維と前記非軸方向繊維層の全強化繊維との質量比率が100:20〜100:200である、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化樹脂中空体。
前記繊維強化樹脂中空体が自動車のインストルメントパネルを直接的または間接的に支持および固定するための部材である、請求項1〜10のいずれかに記載の繊維強化樹脂中空体。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示技術の実施態様を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施態様の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示技術、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0011】
[繊維強化樹脂中空体]
本開示技術の繊維強化樹脂中空体を図面を用いて詳しく説明する。図面に示す各種の要素は、本開示技術の理解のために模式的に示したにすぎず、寸法比や外観などは実物と異なり得ることに留意されたい。尚、本明細書で直接的または間接的に用いる「上下方向」は、図中における上下方向に対応した方向に相当する。また特記しない限り、これらの図において、共通する符号は同じ部材、部位、寸法または領域を示すものとする。
【0012】
本開示技術の繊維強化樹脂中空体(以下、単に「中空体」ということがある)は、長尺形状を有する硬化性樹脂の含浸体であり、すなわち強化繊維を含む繊維層および当該繊維層に含浸され硬化された硬化性樹脂を含み、中空形状を有する長尺状成形体である。本明細書中、中空体の長手方向を「軸方向」と呼ぶものとする。
【0013】
(繊維層)
本開示技術の中空体において強化繊維を含む繊維層は、少なくとも軸方向繊維層を含み、当該軸方向繊維層の内側または外側の少なくとも一方の側に積層された非軸方向繊維層をさらに含む。例えば、
図1に示す本開示技術の中空体10aは、軸方向繊維層1および該軸方向繊維層1の内側および外側の両側にそれぞれ非軸方向繊維層2,3を有しているが、軸方向繊維層1の内側または外側の少なくとも一方の側に非軸方向繊維層を有していればよい。中空体10aは、中空体強度の観点からは、好ましくは軸方向繊維層1の少なくとも内側、より好ましくは内側および外側の両側に非軸方向繊維層を有している。本明細書中、軸方向繊維層1の内側に積層された非軸方向繊維層は「内側非軸方向繊維層」と呼ぶことがあり、
図1中、符号「2」で示す。軸方向繊維層1の外側に積層された非軸方向繊維層は「外側非軸方向繊維層」と呼ぶことがあり、
図1中、符号「3」で示す。
【0014】
軸方向繊維層1とは、中空体の軸方向(長手方向)に対して平行に配向する強化繊維を主として含む繊維層のことであり、本開示技術においては中空体の軸方向に対して平行に配向する強化繊維のみからなる繊維層が好ましい。このような好ましい軸方向繊維層は、厳密に、中空体の軸方向に対して平行に配向する強化繊維のみからならなければならないというわけではなく、含まれる強化繊維の95質量%以上、好ましくは98質量%以上が中空体の軸方向に対して略平行に配向していればよい。ここで、略平行とは、中空体の軸方向に対して±10°の範囲内の方向も許容するという意味である。
【0015】
軸方向繊維層1を構成する強化繊維は、従来から繊維強化プラスチックの分野で使用されているあらゆる繊維が使用可能であり、例えば、ガラス繊維、炭素繊維が挙げられる。軸方向繊維層1を構成する好ましい強化繊維はガラス繊維である。軸方向繊維層を構成する強化繊維のロービング(ガラス繊維の束)は通常、500〜5000tex(g/1km)を達成するような範囲であればよい。軸方向繊維層1は強化繊維以外の繊維を含むことを妨げるものではないが、含まれる繊維の95質量%以上、好ましくは98質量%以上が強化繊維であることが好ましい。
【0016】
軸方向繊維層1は具体的には、例えば、ロービング(ガラス繊維の束)の層であってよく、当該軸方向繊維層を構成するガラス繊維の数は中空体の周方向において均一であることが好ましい。中空体の周方向とは、中空体のその軸方向に対して垂直な断面における周方向という意味である。
【0017】
軸方向繊維層1の繊維量は、中空体に必要とされる強度および寸法に応じて決定されればよい。例えば、中空体を自動車のインストルメントパネルを支持および固定するための部材(寸法3〜10cm×3〜10cmの角筒部材)として使用する場合、当該中空体1m長あたりの軸方向繊維層1の繊維量は通常、50〜1000g/mである。
【0018】
非軸方向繊維層2,3は、軸方向繊維層1とは配向方向が異なる強化繊維を含む繊維層である。軸方向繊維層1とは配向方向が異なるとは、当該非軸方向繊維層に含まれる強化繊維の配向方向が、軸方向繊維層1の強化繊維の配向方向に対して平行ではない特定の方向(例えば中空体の周方向)であるか、またはいかなる特定の方向にも限定されていない(例えばランダムな配向である)、という意味である。なお、ランダムな配向は不規則的にランダムな配向および規則的にランダムな配向を包含する。
【0019】
非軸方向繊維層2,3を構成する強化繊維は、それぞれ独立して、軸方向繊維層1を構成する強化繊維と同様に、従来から繊維強化プラスチックの分野で使用されているあらゆる繊維が使用可能であり、例えば、ガラス繊維、炭素繊維が使用される。非軸方向繊維層2,3を構成する好ましい強化繊維はガラス繊維である。非軸方向繊維層2,3を構成する強化繊維の直径は、軸方向繊維層の強化繊維の直径と同様の範囲内である。非軸方向繊維層2,3は強化繊維以外の繊維を含むことを妨げるものではないが、含まれる繊維の95質量%以上、好ましくは98質量%以上が強化繊維であることが好ましい。
【0020】
非軸方向繊維層2,3の目付量は、それぞれ独立して、中空体に必要とされる強度および寸法に応じて決定されればよい。例えば、中空体を自動車のインストルメントパネルを支持および固定するための部材(寸法3〜10cm×3〜10cmの角筒部材)として使用する場合、当該中空体の非軸方向繊維層2,3の目付量はそれぞれ独立して、通常、10〜1000g/m
2であり、好ましくは100〜500g/m
2である。
【0021】
軸方向繊維層の全強化繊維と非軸方向繊維層の全強化繊維との質量比率は通常、100:20〜100:200であり、中空体の強度の観点から好ましくは100:30〜100:150であり、より好ましくは100:50〜100:120である。非軸方向繊維層の全強化繊維とは、内側非軸方向繊維層2および外側非軸方向繊維層3の全強化繊維のことである。
【0022】
本開示技術において非軸方向繊維層は1以上の周方向繊維層および1以上の無配向繊維層を含む。
図1においては、内側非軸方向繊維層2および外側非軸方向繊維層3の両方が1以上の周方向繊維層および1以上の無配向繊維層を含んでいるが、それらのうち一方が1以上の周方向繊維層および1以上の無配向繊維層を含めばよい。例えば、中空体が内側非軸方向繊維層2を有し、外側非軸方向繊維層3を有さない場合は、内側非軸方向繊維層2が1以上の周方向繊維層および1以上の無配向繊維層を含む。また例えば、中空体が内側非軸方向繊維層2を有さず、外側非軸方向繊維層3を有する場合は、外側非軸方向繊維層3が1以上の周方向繊維層および1以上の無配向繊維層を含む。また例えば、中空体が内側非軸方向繊維層2および外側非軸方向繊維層3を有する場合は、内側非軸方向繊維層2または外側非軸方向繊維層3の少なくとも一方、好ましくは両方、が1以上の周方向繊維層および1以上の無配向繊維層を含む。この場合、具体的には、内側非軸方向繊維層2または外側非軸方向繊維層3の一方が1以上の周方向繊維層および1以上の無配向繊維層を含むとき、他方は1以上の周方向繊維層および1以上の無配向繊維層の両方を含むわけではない。すなわち、当該他方は、1以上の周方向繊維層を含み、かつ無配向繊維層を含まないという条件A;周方向繊維層を含まず、1以上の無配向繊維層を含むという条件B;または周方向繊維層も無配向繊維層も含まないという条件Cのうちのいずれか1つの条件を満たす。このような条件A〜Cを満たす内側非軸方向繊維層および外側非軸方向繊維層はそれぞれ、当該条件を満たすこと以外、以下に示す内側非軸方向繊維層2および外側非軸方向繊維層3(1以上の周方向繊維層および1以上の無配向繊維層を含む内側非軸方向繊維層2および外側非軸方向繊維層3)と同様である。以下、内側非軸方向繊維層2および外側非軸方向繊維層3に共通する説明を行うときは、「非軸方向繊維層2(3)」というものとする。
【0023】
非軸方向繊維層2(3)は、1以上の周方向繊維層および1以上の無配向繊維層を含み、それぞれ独立して、例えば、織物繊維層、組み物繊維層、および編物繊維層からなる群から選択される1以上の繊維層をさらに含んでもよい。非軸方向繊維層が1以上の周方向繊維層を含むとき、1以上の無配向繊維層をさらに含むことにより、製造時における周方向繊維層の配向の乱れが抑制され、周方向繊維層において強化繊維が周方向に対して十分に平行に配向する。このため、中空体が十分に高い強度を得ることができる。非軸方向繊維層が無配向繊維層を含まないと、周方向繊維層の配向に乱れが生じ、例えば、周方向繊維層において強化繊維が周方向に対して傾いて配向したり、または湾曲したりする。
【0024】
周方向繊維層とは、中空体の周方向に対して平行に配向する強化繊維を含む繊維層のことであり、本開示技術においては中空体の周方向に対して平行に配向する強化繊維のみからなる繊維層が好ましい。このような好ましい周方向繊維層は、厳密に、中空体の周方向に対して平行に配向する強化繊維のみからならなければならないというわけではなく、含まれる強化繊維の95質量%以上、好ましくは98質量%以上が中空体の周方向に対して略平行に配向していればよい。ここで、略平行とは、中空体の周方向に対して±8°の範囲内の方向も許容するという意味である。
【0025】
周方向繊維層の具体例としては、例えば、いわゆるスダレ状強化繊維シートが好ましく使用される。スダレ状強化繊維シートとは、複数の強化繊維束(例えば強化繊維8〜120本/束)を一方向(例えば中空体の周方向)に対して平行かつ略等間隔に並べ、連結糸により各束を結束させつつ全束を当該一方向に対して垂直方向に連結させてなる、繊維シートのことである。連結糸は熱可塑性ポリマーからなる糸であっても、または強化繊維からなる糸であってもよい。周方向繊維層を構成する強化繊維のロービング(ガラス繊維の束)は通常、100〜1000tex(g/1km)を達成するような範囲であればよい。
【0026】
無配向繊維層とは、いかなる特定の方向にも配向しない強化繊維(例えば不規則的にランダムに配向する強化繊維)を含む繊維層のことである。無配向繊維層としては、例えば、強化繊維の不織布層および強化繊維の周方向繊維含有不織布層が挙げられる。
【0027】
不織布層としては、例えば、強化繊維のいわゆるチョップドストランドマットが好ましく使用される。強化繊維のチョップドストランドマットとは、繊維長6〜66mmに切断した強化繊維をバインダー樹脂で結合させた不織布層であってもよい。強化繊維の周方向繊維含有不織布層の不織布層としてのチョップドストランドマットは、上記スダレ状強化繊維シートに対して、切断した強化繊維をランダム縫いつけることによって、形成されていてもよい。バインダーは通常、熱可塑性ポリマーを含む。
【0028】
周方向繊維含有不織布層は、上記した強化繊維の不織布層に対して中空体の周方向に平行に配向する複数の強化繊維束(周方向繊維束)(例えば強化繊維8〜120本/束の束)を略等間隔に結合させた複合繊維層であってもよい。周方向繊維含有不織布層はまた、上記スダレ状強化繊維シートに対して、繊維長6〜66mmに切断した強化繊維をランダムに縫いつけることによって、固定させた複合繊維層であってもよい。周方向繊維含有不織布層としては、例えば、チョップドストランドマットスダレが好ましく使用される。チョップドストランドマットスダレとは、上記したスダレ状強化繊維シートに対して、繊維長6〜66mmに切断した強化繊維をランダムに縫い付けた複合マットのことである。縫い付け糸は熱可塑性ポリマーからなる糸であっても、または強化繊維からなる糸であってもよい。不織布層の全強化繊維と周方向繊維としての全強化繊維との質量比率は通常、100:20〜100:200であり、中空体の強度の観点から好ましくは100:30〜100:150であり、より好ましくは100:50〜100:120である。
【0029】
織物繊維層は織組織を構成する強化繊維を含むあらゆる繊維層であってよく、織組織としては例えば、平織、綾織、朱子織、二重織等が挙げられる。織物繊維層の強化繊維は規則的にランダムに配向している。
【0030】
組み物繊維層は組み物組織を構成する強化繊維を含むあらゆる繊維層であってよい。組み物繊維層の強化繊維は規則的にランダムに配向している。
【0031】
編物繊維層は編物組織を構成する強化繊維を含むあらゆる繊維層であってよく、編物組織としては例えば、ニット編等が挙げられる。編物繊維層の強化繊維は規則的にランダムに配向している。
【0032】
図1において、内側非軸方向繊維層2は第1内側非軸方向繊維層21aおよび第2内側非軸方向繊維層22aを含み、外側非軸方向繊維層3は第1外側非軸方向繊維層31aおよび第2外側非軸方向繊維層32aを含む。しかし、内側非軸方向繊維層2および外側非軸方向繊維層3を構成する繊維層の数、種類および配置は、内側非軸方向繊維層2および外側非軸方向繊維層3が1以上の周方向繊維層および1以上の無配向繊維層を含む限り特に限定されない。
【0033】
非軸方向繊維層2(3)における無配向繊維層の層数は、周方向繊維層の配向乱れを抑制できる限り特に限定されない。
【0034】
例えば、非軸方向繊維層2(3)が1層の周方向繊維層を含むとき、無配向繊維層の層数は通常、1以上であり、特に1〜2である。
【0035】
また例えば、非軸方向繊維層2(3)が2層の周方向繊維層を含むとき、無配向繊維層の層数は通常、1以上であり、特に1〜3である。
【0036】
非軸方向繊維層2(3)において、中空体10の最表面、すなわち最外表面及び最内表面には、無配向繊維層及び周配向繊維層のいずれが配置されてもよい。なお、後述するように、外観の意匠性を向上させる観点から、無配向繊維層が中空体の最表面に配置されていることが好ましい。このとき最表面の無配向繊維層は周方向繊維層と隣接していることがより好ましい。最表面に無配向繊維層を配置させることで、金型から周方向繊維層への直接的な影響が緩和され、当該無配向繊維層と隣接する周方向繊維層において強化繊維が周方向に対して平行により一層配向し易くなり、中空体の外観における意匠性が向上する。ここに、無配向繊維層が中空体の最表面に配置されているとは、無配向繊維層が内側非軸方向繊維層2において中空体の最内表面に配置されている、または外側非軸方向繊維層3において中空体の最外表面に配置されている、という意味である。例えば、
図1に示すように、第1内側非軸方向繊維層21aおよび第1外側非軸方向繊維層31aが周方向繊維層であり、第2内側非軸方向繊維層22aおよび第2外側非軸方向繊維層32aが無配向繊維層、特に周方向繊維含有不織布層であることが好ましい。また例えば、後述する
図2の好ましい実施態様において、第4内側非軸方向繊維層24bが無配向繊維層、特に周方向繊維含有不織布層であることが好ましい。また例えば、後述する
図3の好ましい実施態様において、第4外側非軸方向繊維層34cが無配向繊維層、特に周方向繊維含有不織布層であることが好ましい。なお、中空体における繊維層の配置は、硬化性樹脂が存在しないものと仮定したときの配置である。
【0037】
特に無配向繊維層として周方向繊維含有不織布層が中空体の最表面に配置される場合、当該周方向繊維含有不織布層の不織布層が中空体の最表面に配置されていることが好ましい。すなわち、当該周方向繊維含有不織布層は、内側非軸方向繊維層2においては不織布層が中空体の最内表面に配置されるように使用されることがさらに好ましく、外側非軸方向繊維層3においては不織布層が中空体の最外表面に配置されるように使用されることがさらに好ましい。隣接する周方向繊維層において強化繊維が周方向に対して平行により一層配向し易くなり、中空体の外観における意匠性が向上するためである。例えば、
図1において、第2内側非軸方向繊維層22aとしての周方向繊維含有不織布層は、その不織布層が中空体の最内表面に配置されるように使用されることが好ましい。第2外側非軸方向繊維層32aとしての周方向繊維含有不織布層は、その不織布層が中空体の最外表面に配置されるように使用されることが好ましい。また例えば、後述する
図2の好ましい実施態様において、第4内側非軸方向繊維層24bとしての周方向繊維含有不織布層は、不織布層が中空体の最内表面に配置されるように使用されることが好ましい。また例えば、後述する
図3の好ましい実施態様において、第4外側非軸方向繊維層34cとしての周方向繊維含有不織布層は、不織布層が中空体の最外表面に配置されるように使用されることが好ましい。
【0038】
無配向繊維層として周方向繊維含有不織布層が中空体の最表面以外のところに配置される場合、当該周方向繊維含有不織布層はその不織布層が軸方向繊維層1側を向くように使用されてもよいし、または軸方向繊維層1側とは反対側を向くように使用されてもよい。
【0039】
また無配向繊維層は2層以上、連続して配置されてもよい。
【0040】
非軸方向繊維層2(3)に周方向繊維層が2層以上で含まれる場合、周方向繊維層は2層以上、連続して配置されてもよいし、またはそれらの間に無配向繊維層が配置されてもよい。
【0041】
本開示技術においては、軸方向繊維層の全強化繊維と周方向繊維層の全強化繊維との質量比率は通常、100:1〜100:100であり、中空体の強度の観点から好ましくは100:10〜100:100、より好ましくは100:20〜100:80、さらに好ましくは100:30〜100:70である。周方向繊維層の全強化繊維とは、中空体を構成する全ての周方向繊維層に含まれる全強化繊維のことであり、無配向繊維層として周方向繊維含有不織布層を用いる場合は当該周方向繊維含有不織布層に含まれる周配向繊維を構成する強化繊維も含む。
【0042】
軸方向繊維層の全強化繊維と無配向繊維層の全強化繊維との質量比率は通常、100:10〜100:100であり、中空体の強度の観点から好ましくは100:10〜100:70、より好ましくは100:20〜100:50である。無配向繊維層の全強化繊維とは、中空体を構成する全ての無配向繊維層に含まれる全強化繊維のことであり、無配向繊維層として周方向繊維含有不織布層を用いる場合は、当該周方向繊維含有不織布層に含まれる不織布層を構成する強化繊維を含むが、当該周方向繊維含有不織布層の周配向繊維を構成する強化繊維は含まない。
【0043】
中空体10aは、
図1に示す中空体の軸方向に対する垂直断面(以下、単に「垂直断面」ということがある)において、正方形状を有しているが、中空形状を有する限りこれに限定されるものではない。中空体10aの垂直断面形状の具体例としては、例えば、矩形形状、円形状、楕円形状、五角形状以上の多角形状、およびこれらの複合形状等が挙げられる。矩形形状は、正方形状および長方形状等のあらゆる四角形状を包含する概念で用いるものとする。中空体の自動車用途においては、各種部材の取り付け容易性の観点から、矩形形状、特に正方形状が好ましい。
【0044】
本開示技術においては、非軸方向繊維層2(3)を構成する各繊維層は、
図1の4aおよび4bで示すように、周方向において端部同士で重なり合っていることが好ましい。すなわち、
図1に示すように、垂直断面において、非軸方向繊維層2(3)における端部の継ぎ目で、一方の端部の上に他方の端部が乗り上げた状態となり、重なり部4a、4bが形成されることが好ましい。重なり部は中空体の軸方向において連続的に形成されている。これにより、中空体がより一層十分に高い強度を得ることができる。
【0045】
非軸方向繊維層2(3)を構成する各繊維層は、
図1における第2内側非軸方向繊維層22aのように、中空体の周方向において分割されることなく、当該繊維層自体の端部同士で互いに重なり合って、重なり部4aが形成されてもよい。
図1において第2内側非軸方向繊維層22aは、当該繊維層2自体の端部同士で互いに重なり合って、周方向において1つの重なり部4aが形成されている。
【0046】
非軸方向繊維層2(3)を構成する各繊維層はまた、
図1における第1内側非軸方向繊維層21a、第1外側非軸方向繊維層31aおよび第2外側非軸方向繊維層32aのように、中空体の周方向において2以上の繊維層に分割されて、当該2以上の繊維層のうち隣接する繊維層が周方向において端部同士で互いに重なり合って、重なり部4bが形成されてもよい。
図1において第1内側非軸方向繊維層21a、第1外側非軸方向繊維層31aおよび第2外側非軸方向繊維層32aはそれぞれ、中空体の周方向において4つの繊維層に分割されて、当該4つの繊維層のうち隣接する繊維層が周方向において端部同士で互いに重なり合って、周方向において合計4つの重なり部4bが形成されている。
【0047】
重なり部の形成位置は特に限定されないが、中空体の垂直断面形状において応力が集中し易いところ、例えば角部近傍、で、非軸方向繊維層が端部同士で重なり合っていることが好ましい。
【0048】
中空体が垂直断面において、例えば、矩形形状または多角形状を有する場合、意匠性の向上および中空体強度のさらなる向上の観点から、非軸方向繊維層2(3)を構成する各繊維層は、これらの形状が有する角部近傍において端部同士で重なり合っていることが好ましい。これらの形状において角部は応力が集中し易いので、当該角部近傍に重なり部を形成することにより強度がさらに向上するためである。このため、中空体が矩形形状または多角形状を有する場合には、同様の観点から、
図1における第1内側非軸方向繊維層21a、第1外側非軸方向繊維層31aおよび第2外側非軸方向繊維層32aは、中空体の周方向において2以上の繊維層(特に2〜4の繊維層)に角部近傍で分割されることが好ましい。その結果として、当該2以上(特に2〜4)の繊維層のうち隣接する繊維層が周方向において角部近傍で端部同士で互いに重なり合い、重なり部4bが角部近傍で形成される。なお、角部近傍とは、垂直断面において角部の頂部と重なり部との距離が5mm以内という意味であり、例えば
図1の重なり部4bのように、当該距離は0mmであることが好ましい。
【0049】
特に中空体の最内表面を構成する繊維層、例えば
図1における第2内側非軸方向繊維層22aは、中空体の中空部の搬送利用の観点から、中空体の周方向において分割されることなく、当該繊維層22a自体の端部同士で互いに重なり合っていることが好ましい。
【0050】
中空体10において、後述する曲げ試験により得られた破壊荷重(N)の値(平均値)は、中空体10の各層の材料割合等により変動するものであり、特に限定されるものではないが、十分な高い強度を備える観点から、好ましくは8000N以上30000N以下、より好ましくは9000N以上20000N以下、特に好ましくは10000N以上15000N以下である。
【0051】
中空体10において、後述する曲げ試験により得られた曲げ弾性率(GPa)の値(平均値)は、中空体10の各層の材料割合等により変動するものであり、特に限定されるものではないが、良好な加工性を備える観点から、好ましくは18GPa以上50GPa以下、より好ましくは24.5GPa以上40GPa以下、特に好ましくは25GPa以上30GPa以下、である。
【0052】
なお、上述の破壊荷重及び曲げ弾性率の値は、破壊荷重の値が上記範囲内であることが望ましいが、より好ましくは、高い強度を有しつつ良好な加工性を有する中空体10を得る観点から、両者の値が上記範囲内に含まれることが望ましい。
【0053】
本開示技術の別の実施態様を
図2および
図3に示す。以下、これらの実施態様の説明において、
図1の実施態様と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。中空体強度のさらなる向上の観点からは、前述の
図1の実施態様および後述の
図2の実施態様が好ましく、
図1の実施態様がより好ましい。
【0054】
(
図2の実施態様)
図2に示す中空体10bは、矩形形状の垂直断面を有し、軸方向繊維層1、当該軸方向繊維層1の内側に積層された第1内側非軸方向繊維層21b、第2内側非軸方向繊維層22b、第3内側非軸方向繊維層23bおよび第4内側非軸方向繊維層24bを有している。
図2において、軸方向繊維層1は前記した軸方向繊維層1と同様である。第1内側非軸方向繊維層21b、第2内側非軸方向繊維層22b、第3内側非軸方向繊維層23bおよび第4内側非軸方向繊維層24bは、1以上の周方向繊維層および1以上の無配向繊維層を含む限り、それぞれ独立して、前記した非軸方向繊維層2(3)と同様の範囲内から選択されればよい。
【0055】
本実施態様において、第2内側非軸方向繊維層22bおよび第3内側非軸方向繊維層23bは、それぞれ独立して、好ましくは周方向繊維層である。
【0056】
第1内側非軸方向繊維層21bは、特に限定されず、例えば無配向繊維層、特に周方向繊維含有不織布層、である。
【0057】
第4内側非軸方向繊維層24bは好ましくは無配向繊維層、特に周方向繊維含有不織布層、である。
【0058】
第1内側非軸方向繊維層21bとしての周方向繊維含有不織布層は、不織布層が第2内側非軸方向繊維層22bと接触するように使用されてもよいし、または不織布層が軸方向繊維層1と接触するように使用されてもよい。第4内側非軸方向繊維層24bとしての周方向繊維含有不織布層は、第3内側非軸方向繊維層23bとしての周方向繊維層の配向の観点から、不織布層が中空体の最内表面に配置されるように使用されることが好ましい。
【0059】
本実施態様においては、中空体強度のさらなる向上の観点から、第1内側非軸方向繊維層21b、第2内側非軸方向繊維層22bおよび第3内側非軸方向繊維層23bはそれぞれ、
図2に示すように、中空体の周方向において角部近傍で4つの繊維層に分割されることが好ましい。その結果として、第1内側非軸方向繊維層21b、第2内側非軸方向繊維層22bおよび第3内側非軸方向繊維層23bはそれぞれ、当該4つの繊維層のうち隣接する繊維層が周方向において端部同士で互いに重なり合い、4つの重なり部4bは角部近傍で形成されている。
【0060】
本実施態様においては、中空体の中空部の搬送利用の観点から、第4内側非軸方向繊維層24bは、中空体の周方向において分割されることなく、当該繊維層24b自体の端部同士で互いに重なり合っていることが好ましい。
【0061】
(
図3の実施態様)
図3に示す中空体10cは、矩形形状の垂直断面を有し、軸方向繊維層1、当該軸方向繊維層1の外側に積層された第1外側非軸方向繊維層31c、第2外側非軸方向繊維層32c、第3外側非軸方向繊維層33cおよび第4外側非軸方向繊維層34cを有している。
図3において、軸方向繊維層1は前記した軸方向繊維層1と同様である。第1外側非軸方向繊維層31c、第2外側非軸方向繊維層32c、第3外側非軸方向繊維層33cおよび第4外側非軸方向繊維層34cは、1以上の周方向繊維層および1以上の無配向繊維層を含む限り、それぞれ独立して、前記した非軸方向繊維層2(3)と同様の範囲内から選択されればよい。
【0062】
本実施態様において、第2外側非軸方向繊維層32cおよび第3外側非軸方向繊維層33cは、それぞれ独立して、好ましくは周方向繊維層である。
【0063】
第1外側非軸方向繊維層31cは、例えば無配向繊維層、特に周方向繊維含有不織布層、である。
【0064】
第4外側非軸方向繊維層34cは好ましくは無配向繊維層、特に周方向繊維含有不織布層、である。
【0065】
第1外側非軸方向繊維層31cとしての周方向繊維含有不織布層は、不織布層が第2外側非軸方向繊維層32cと接触するように使用されてもよいし、または不織布層が軸方向繊維層1と接触するように使用されてもよい。第4外側非軸方向繊維層34cとしての周方向繊維含有不織布層は、第3外側非軸方向繊維層33cとしての周方向繊維層の配向の観点から、不織布層が中空体の最外表面に配置されるように使用されることが好ましい。
【0066】
本実施態様においては、中空体強度のさらなる向上の観点から、第1外側非軸方向繊維層31c、第2外側非軸方向繊維層32c、第3外側非軸方向繊維層33cおよび第4外側非軸方向繊維層34cはそれぞれ、
図3に示すように、中空体の周方向において角部近傍で4つの繊維層に分割されることが好ましい。その結果として、第1外側非軸方向繊維層31c、第2外側非軸方向繊維層32c、第3外側非軸方向繊維層33cおよび第4外側非軸方向繊維層34cはそれぞれ、当該4つの繊維層のうち隣接する繊維層が周方向において端部同士で互いに重なり合い、4つの重なり部4bは角部近傍で形成されている。
【0067】
(その他の材料)
本開示技術の中空体は上記した繊維層とともに、当該繊維層に含浸された硬化性樹脂を含む。硬化性樹脂としては、従来から繊維強化樹脂中空体に使用される、あらゆる硬化性樹脂が使用可能である。硬化性樹脂の具体例として、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0068】
硬化性樹脂には、いわゆる触媒、離形剤、顔料、低収縮剤、シランカップリング剤等の添加剤を含有させて使用される。
【0069】
(寸法および外観)
本開示技術の中空体はいかなる厚みを有していてよく、用途に応じて適宜、決定されればよい。本開示技術の中空体は、例えば、1〜20mm、特に1〜10mm、好ましくは1〜3mmの厚みを有する。中空体の厚みとは、中空体の肉厚のことである。
【0070】
本開示技術の中空体はいかなる外周長を有していてよく、用途に応じて適宜、決定されればよい。本開示技術の中空体は、例えば、125〜300mmの外周長を有する。中空体の外周長とは、垂直断面における中空体の外周長のことである。中空体の垂直断面形状が矩形形状であるときの一辺の長さおよび円形状であるときの直径は特に限定されず、例えば45〜75mmである。
【0071】
本開示技術の中空体10は、その外観を目視で観察した場合に、その外表面から観察される周方鋼繊維の模様が、周方向繊維層が金型と接触したときの摩擦力の影響により、例えば弓状に歪み得る。この点において、当該中空体10の高い強度及び優れた意匠性の観点から、周方向繊維の模様に歪みが生じず周方向に平行に観察される状態であることがより望ましく、上述のごとく、最表面に無配向繊維層(マット層)を配置することが好ましい。
[繊維強化樹脂中空体の製造方法]
本開示技術の繊維強化樹脂中空体は引抜成形法により製造することができる。引抜成形法においては、詳しくは
図4に示すように、まず軸方向繊維層1を構成する強化繊維51に硬化性樹脂50を含浸させる。次いで、硬化性樹脂が含浸した強化繊維51に、内側非軸方向繊維層2を構成する繊維シート(繊維層)52を合流させ、さらに外側非軸方向繊維層3を構成する繊維シート53を合流させる。繊維シート52の数は内側非軸方向繊維層2を構成する繊維層の種類および分割数に応じて適宜、調整されればよい。繊維シート53の数は外側非軸方向繊維層3を構成する繊維層の種類および分割数に応じて適宜、調整されればよい。その後、これらの繊維および繊維シートを、垂直断面において所定の層構成となるように配置させながら、ガイド54により誘導し、強化繊維51に含浸されている硬化性樹脂をさらに繊維シート52および繊維シート53にも含浸させ、金型55の一端側から引き込む。このとき、繊維シート52および53は、所望により周方向において端
部同士で重なり合うように、ガイド54により調整される。金型55内では加熱により硬化性樹脂を十分に硬化させ、繊維強化樹脂中空体10を得る。得られた繊維強化樹脂中空体10は、金型55から連続的に引取装置56(例えば、ダブルグリッパー方式)により引き取り、切断機57によって所定長さに切断する等、後加工する。
【実施例】
【0072】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0073】
(曲げ試験)
実施例に係る繊維強化樹脂中空体の試験片に対し、以下の方法に従って、3点曲げ試験を行い、各試験片の破壊荷重及び曲げ弾性率を算出した。
【0074】
具体的には、
図6Aに示すように、後述する長さ1400mmの試験片(繊維強化樹脂中空体)10を支持ピッチk800mmにてコの字型受け台61に設置した。そして、試験片10の中央部に対し、包囲部材(コの字型治具)11を介して試験治具62により、クロスヘッドスピード20mm/分にて、破壊するまで載荷した。そして、荷重が載荷された中央部の垂直移動量、すなわちクロスヘッドの垂直移動量、及び荷重値を測定した。そうして、これらの垂直移動量及び荷重値から各試験片の破壊荷重及び曲げ弾性率を算出した。なお、
図6B及び
図6Cは、
図6AのそれぞれB−B断面及びC−C断面である。
【0075】
包囲部材はスチール製であり、厚み(t1=t2=t3)(
図6B参照)は10mm、包囲深さ(h1=h2)(
図6B参照)は38.8mm、軸方向長さ(j)(
図6A参照)は100mmであった。試験片10と包囲部材とのボルト等による連結は行わなかった。
【0076】
なお、曲げ試験は、同一構成の試験片4本のロットについて試験を行い、各ロットについて破壊荷重及び曲げ弾性率の算出値を得た後、各ロットについて得られた4つの算出値の平均値を、各試験片の破壊荷重及び曲げ弾性率の値とした。
【0077】
(試験片)
上述の繊維強化樹脂中空体の製造方法に基づいて、実施例の中空体の試験片を作製した。
図7に、以下の実施例として用いた試験片の形状及び寸法を示す。なお、
図7中の数値はmm単位である。
【0078】
また、
図8に、実施例の試験片に用いた材料を示す。
【0079】
そして、表1、表2、
図9A、
図9B、
図10、
図11に、実施例1〜4の試験片A−1、A−2、C−1及びC−2の構成、並びに上記曲げ試験により得られた破壊荷重及び曲げ弾性率の結果を示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
表2、
図10及び
図11に示すように、実施例1及び実施例2の試験片A−1及びA−2は、外側非軸方向繊維層に
図8に示すステッチ付スダレマットを使用し、そのマット層(無配向繊維層)を最外面に配置させた構成と、スダレ層(周方向繊維層)を最外面に配置させた構成である。いずれの試験片においても、破壊荷重及び曲げ弾性率ともに良好な値が得られ、最外面の層構成を逆転させても、十分に高い強度を有するとともに加工性に優れた繊維強化樹脂中空体が得られることが判った。
【0083】
また、実施例3及び実施例4の試験片C−1及びC−2は、最外層をステッチ無の構成として、それぞれチョップドストランドマット(最外面にマット層を配置した試験片A−1に対応)及びS1スダレ(最外面にスダレ層を配置した試験片A−2に対応)を最外面に配置させたものである。いずれの試験片においても、破壊荷重及び曲げ弾性率ともに良好な値が得られ、両者とも、十分に高い強度を有するとともに加工性に優れた繊維強化樹脂中空体が得られることが判った。また、実施例1,2と実施例3,4の結果を比較すると、ステッチ付きの縫い付けのあるもの(実施例1,2)の方が無いもの(実施例3,4)に比べて少し強度が高まることが判った。
【0084】
また、外観の目視観察を行った。
図12及び
図13に試験片C−1(実施例3)及びC−2(実施例4)の外観の写真を示す。
図12に示す試験片C−1の外観に比べて、
図13に示す試験片C−2の外観では、表面に現れた周方向繊維層の模様が弓状に歪んでいるのが判る。これは、周方向繊維層が金型と接触したときの摩擦力に起因するものと考えられる。外観の意匠性が製品に求められる場合は、試験片C−1のような最表面に無配向層(マット層)を配置するものがよいと考えられる。
【0085】
次に、
図1〜
図3に示す繊維強化樹脂中空体10について、表3及び表4に示す構成で試験片を作成し、上記曲げ試験により、表4に示す破壊荷重及び曲げ弾性率の結果を得た。
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
表3中、複合層Aは、
図8の「ステッチ付スダレマット」1層からなり、マット層が表3中に記載した配置となるように構成されている。また、スダレ層Aは、
図8の「S2スダレ」1層からなる。そして、ロービング層Aは、
図8における「ロービング」からなる。なお、表4に示すように、実施例5〜7の試験片の材料割合は、表2に示す実施例1〜4の材料割合とは異なる。
【0089】
実施例5の試験片は、軸方向繊維層の内側および外側の両側に非軸方向繊維層が配置された構成であり、実施例6,7の試験片は、軸方向繊維層の内側又は外側のいずれか一方に非軸方向繊維層が配置された構成である。破壊荷重及び弾性率のいずれの値も、実施例6,7の試験片に比べて、実施例5の試験片の方が良好な値が得られることが判った。
【0090】
以上述べたように、本開示技術によれば、十分に強度の高い繊維強化樹脂中空体をもたらすことができる。