【実施例】
【0038】
本発明の実施の形態に係る動力出力装置1は、
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る動力伝達装置20と、当該動力伝達装置20に接続されたエンジン2、モータ4および発電機6と、を備えている。
【0039】
エンジン2は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関として構成されている。エンジン2は、図示しない燃焼室で生じる燃焼圧力によってピストン(図示せず)を往復運動させ、当該ピストンの往復運動をクランクシャフトCSの回転運動に変換することにより動力を出力する。
【0040】
モータ4は、モータ回転軸14に固定されたロータ(図示せず)と、当該ロータの周囲を囲むように当該ロータと同軸状に設けられたステータ(図示せず)と、を備えており、電動機として駆動することができると共に発電機としても電力を発生することができる三相交流の同期発電電動機として構成されている。モータ4は、図示しないバッテリからインバータ(図示せず)を介して供給される電力によって駆動する。
【0041】
発電機6は、発電機回転軸16に固定されたロータ(図示せず)と、当該ロータの周囲を囲むように当該ロータと同軸状に設けられたステータ(図示せず)と、を備えており、発電機回転軸16がエンジン2によって回転されることにより電力を発生する三相交流の同期発電機として構成されている。発電機6によって発生された電力は、図示しないインバータを介してバッテリ(図示せず)に蓄電される。
【0042】
動力伝達装置20は、
図2に示すように、フライホイールFHを介してクランクシャフトCSに接続される第1入力軸22と、発電機回転軸16に接続される第1出力軸24と、第1入力軸22および第1出力軸24を接続する第1歯車機構TM1と、
図3に示すように、モータ回転軸14に接続される第2入力軸26と、車軸WSが接続されるディファレンシャル装置28と、第2入力軸26およびディファレンシャル装置28を接続する第2歯車機構TM2と、これらを収容する歯車ケース30と、を備えている。
【0043】
クランクシャフトCSは、本発明における「内燃機関の出力軸」に対応し、車軸WSは、本発明における「駆動軸」に対応する実施構成の一例である。なお、本実施の形態では、便宜上、
図4および
図8中の紙面上側を、「上側」ないし「上方」として規定し、
図4および
図8中紙面下側を、「下側」ないし「下方」として規定する。また、
図4および
図8中の紙面右側を、「右側」ないし「右方」として規定し、
図4および
図8中の紙面左側を、「左側」ないし「左方」として規定する。
【0044】
第1入力軸22は、
図2に示すように、ベアリングB1,B1を介して歯車ケース30に回転可能に支持されている。第1入力軸22の一端側(
図2の右側)の外周面には、スプライン突条が形成されており、当該スプライン突条にフライホイールFHが嵌合される。
【0045】
また、第1出力軸24は、ベアリングB2,B2を介して歯車ケース30に回転可能に支持されている。第1出力軸24の一端側(
図2の左側)の軸中心には、軸中心穴が形成されており、当該軸中心穴の内周面にスプライン凹条が形成されている。当該スプライン凹条に発電機回転軸16が嵌合される。第1出力軸24は、本発明における「接続軸」に対応する実施構成の一例である。
【0046】
第1歯車機構TM1は、
図2に示すように、第1入力軸22に一体形成された第1入力歯車42と、第1出力軸24に一体成形された第1出力歯車44と、第1入力歯車42および第1出力歯車44に噛み合う第1アイドラ歯車46と、当該第1アイドラ歯車46が一体形成された第1アイドラ軸47と、から構成されており、クランクシャフトCSの回転を発電機回転軸16に伝達する。第1入力歯車42は、本発明における「噛合歯車」に対応し、第1出力歯車44は、本発明における「第2噛合歯車」に対応し、第1アイドラ歯車46は、本発明における「掻き上げ歯車」に対応する実施構成の一例である。
【0047】
また、第1出力歯車44は、
図2に示すように、第1入力歯車42および第1アイドラ歯車46よりも小径に形成されており、これにより、第1歯車機構TM1は、クランクシャフトCSの回転速度を増速して発電機回転軸16に伝達する。なお、第1アイドラ軸47は、ベアリングB3,B3を介して歯車ケース30に回転可能に支持されている。
【0048】
第2入力軸26は、
図3に示すように、ベアリングB4,B4を介して歯車ケース30に回転可能に支持されている。第2入力軸26の一端側(
図3の左側)の軸中心には、軸中心穴が形成されており、当該軸中心穴の内周面にスプライン凹条が形成されている。当該スプライン凹条にモータ回転軸14が嵌合される。
【0049】
第2歯車機構TM2は、
図3に示すように、第2入力軸26に一体形成された第2入力歯車52と、ディファレンシャル装置28にボルト固定されたリングギヤ54と、第2入力歯車52に噛み合う第2アイドラ歯車56と、リングギヤ54に噛合う第3アイドラ歯車58と、第2アイドラ歯車56が固定されると共に第3アイドラ歯車58が一体形成された第2アイドラ軸59と、から構成されており、モータ回転軸14の回転を車軸WS,WSに伝達する。
【0050】
第2入力歯車52は、本発明における「モータ歯車」に対応し、リングギヤ54は、本発明における「駆動歯車」に対応する実施構成の一例である。また、第2アイドラ歯車56は、本発明における「第1中間歯車」に対応し、第3アイドラ歯車58は、本発明における「第2中間歯車」に対応する実施構成の一例である。また、第2アイドラ軸59は、本発明における「第1中間歯車の回転軸」に対応する実施構成の一例である。
【0051】
また、第2アイドラ歯車56は、
図3に示すように、第2入力歯車52および第3アイドラ歯車58よりも大径に形成されていると共に、第3アイドラ歯車58は、リングギヤ54よりも小径に形成されており、これにより、第2歯車機構TM2は、モータ回転軸14の回転速度を減速して車軸WS,WSに伝達する。なお、第2アイドラ軸59は、ベアリングB5,B5を介して歯車ケース30に回転可能に支持されている。
【0052】
ディファレンシャル装置28には、
図3に示すように、車軸WS,WSがスプライン嵌合されており、左右の車軸WS,WSに生ずる速度差(回転数差)を吸収しつつ動力を分配して伝達するように構成されている。
【0053】
歯車ケース30は、
図1ないし
図3に示すように、ハウジング32と、ケース本体34と、から構成されている。ハウジング32の締結フランジ部32a(
図4参照)とケース本体34の締結フランジ部34a(
図6参照)とを締結することによって、第1入力軸22や、第1出力軸24、第1歯車機構TM1、第2入力軸26、ディファレンシャル装置28、第2歯車機構TM2を収容するための内部空間が構成される。当該内部空間の下方部には潤滑油が貯留される。歯車ケース30は、本発明における「ケース部材」に対応する実施構成の一例である。
【0054】
ハウジング32は、
図4および
図5に示すように、取付穴61,62,63,64,65,68が形成されていると共に、取付穴68の締結フランジ部32a側に空間69を有するように構成されている。
【0055】
取付穴61,62,63,64,65,68には、一対の各ベアリングB1,B2,B3,B4,B5の一方が取り付けられる。取付穴61は、
図5に示すように、ハウジング32のほぼ中央部に形成されており、取付穴62,63は、取付穴61から
図5の左斜め下側に向かって当該順序で形成されている。より詳細には、取付穴61,62,63は、取付穴61の中心および取付穴63の中心を結ぶ第1仮想連結線VCL1(
図5の左側に向かって下り傾斜を有する直線)にほぼ沿うように配置されている。
【0056】
また、取付穴64は、
図5に示すように、取付穴61の
図5の右上側に近接して形成されており、取付穴65,68は、取付穴64から
図5の右斜め下側に向かって当該順序で形成されている。取付穴65は、当該取付穴65の中心が取付穴64の中心および取付穴68の中心を結ぶ第2仮想連結線VCL2(
図5の右側に向かって下り傾斜を有する直線)よりも上方となる位置に配置されている。
【0057】
また、空間69は、ディファレンシャル装置28の大部分を収容できるように略円錐台形状の凹部として構成されている。
【0058】
このように、ハウジング32は、
図8および
図9に示すように、エンジン2側の動力伝達経路を構成する第1入力軸22、第1アイドラ軸47および第1出力軸24(第1仮想連結線VCL1の延在方向に配列)と、モータ4側の動力伝達経路を構成する第2入力軸26、第2アイドラ軸59および車軸WS(第2仮想連結線VCL2の延在方向に配列)と、が軸方向から見たときに略逆V字状をなす配置となるように構成されている。
【0059】
また、ハウジング32は、
図5に示すように、山形リブ72と、円弧リブ74と、垂下リブ76と、庇リブ78と、を備えている。
【0060】
山形リブ72は、第1斜めリブ72aと、第2斜めリブ72bと、から構成されており、第1斜めリブ72aと第2斜めリブ72bとは、
図5の紙面方向に見て略逆V字状をなすように互いに接続されている。また、山形リブ72は、
図5の紙面垂直方向に見て締結フランジ部32aと同じ高さとなるように構成されている。即ち、山形リブ72の高さ方向の上端面と締結フランジ部32aのフランジ面とは、面一に形成されている。
【0061】
第1斜めリブ72aは、
図5に示すように、一端が取付穴68の直下に位置するハウジング32の下壁部に接続されており、
図8に示すように、当該下壁部からリングギヤ54の外周面に沿うように延在した後、当該リングギヤ54の接線方向(第2仮想連結線VCL2にほぼ平行)に延在している。第1斜めリブ72aは、本発明における「第2誘導壁」に対応する実施構成の一例である。
【0062】
第2斜めリブ72bは、
図5に示すように、一端が第1斜めリブ72aに接続されると共に、他端がハウジング32の左側壁部と下壁部との交差部に接続されている。第2斜めリブ72bは、
図8に示すように、第1斜めリブ72aに接続され第1仮想連結線VCL1にほぼ平行で第1アイドラ歯車46の接線方向に延在する直線部73aと、第1アイドラ歯車46の外周面に沿って延在する第1円弧部73bと、第1出力歯車44の外周面に沿って延在する第2円弧部73cと、から構成されている。
【0063】
直線部73aは、一端が第1斜めリブ72aに接続されると共に他端が第1円弧部73bに接続されており、第1円弧部73bは、直線部73aとの接続側とは反対側の端部において第2円弧部73cと接続されている。また、第2円弧部73cは、第1円弧部73bとの接続側とは反対側の端部においてハウジング32の左側壁部と下壁部との交差部に接続されている。
【0064】
第2斜めリブ72bは、本発明における「保持部」および「隔離壁」に対応する実施構成の一例である。また、ハウジング32の下壁部は、本発明における「ケース部材の底部」に対応する実施構成の一例である。直線部73aは、本発明における「延在部」に対応し、第1円弧部73bは、本発明における「円弧状部」に対応し、第2円弧部73cは本発明における「第2円弧状部」に対応する実施構成の一例である。
【0065】
円弧リブ74は、
図5示すように、取付穴61と直線部73aとの間の位置において、取付穴61と取付穴68とを仕切るように配置されている。即ち、円弧リブ74は、
図8に示すように、第1入力歯車42と直線部73aとの間の位置において、第1入力歯車42とリングギヤ54とを隔離するように第1入力歯車42の外周面に沿って延在している。
【0066】
また、円弧リブ74は、
図5および
図8に示すように、延在方向の一端が直線部73aと当該直線部73aの延在方向においてオーバーラップするように構成されており、
図8に示すように、延在方向の他端がリングギヤ54と第3アイドラ歯車58との噛合い部における接線VTLに接する位置まで延在するように構成されている。
【0067】
さらに、円弧リブ74は、
図5の紙面方向垂直方向に見て締結フランジ部32aと同じ高さとなるように構成されている。即ち、円弧リブ74の高さ方向の上端面と締結フランジ部32aのフランジ面とは、面一に形成されている。円弧リブ74は、本発明における「誘導部」および「誘導壁」に対応する実施構成の一例である。
【0068】
垂下リブ76は、
図5に示すように、ブリーザ室を構成するブリーザ構成壁部32bにおける取付穴61の中心の直上位置から鉛直下方に向かって垂下状に一体形成されている。
【0069】
また、垂下リブ76は、
図5の紙面垂直方向に見て締結フランジ部32aと同じ高さとなるように構成されている。即ち、垂下リブ76の高さ方向の上端面と締結フランジ部32aのフランジ面とは、面一に形成されている。垂下リブ76は、本発明における「突出壁部」に対応する実施構成の一例である。
【0070】
ブリーザ構成壁部32bは、ハウジング32の上壁部に一体形成されており、
図5の紙面垂直方向に見て締結フランジ部32aと同じ高さとなるように構成されている。これにより、ブリーザ構成壁部32bの高さ方向の上端面と締結フランジ部32aのフランジ面とは面一となっている。ブリーザ構成壁部32bは、
図8に示すように、第1および第2入力歯車42,52および第1アイドラ歯車46の外周面に対向する壁面が第1仮想連結線VCL1にほぼ平行に延在するように構成されている。ブリーザ構成壁部32bは、本発明における「上方内壁面」に対応する実施構成の一例である。
【0071】
庇リブ78は、
図8に示すように、ハウジング32の右側壁部の上下方向略中央部からリングギヤ54の外周面に沿うようにリングギヤ54と第3アイドラ歯車58との噛合い部に向かって延在している。庇リブ78は、本発明における「第3誘導
壁」に対応する実施構成の一例である。
【0072】
ケース本体34には、
図6および
図7に示すように、ハウジング32に形成された取付穴61,62,63,64,65,68に対応する位置に取付穴81,82,83,84,85,88が形成されている。取付穴81,82,83,84,85,88には、一対の各ベアリングB1,B2,B3,B4,B5の他方が取り付けられる。
【0073】
即ち、ケース本体34は、ハウジング32同様、エンジン2側の動力伝達経路を構成する第1入力軸22、第1アイドラ軸47および第1出力軸24(第1仮想連結線VCL1の延在方向に配列)と、モータ4側の動力伝達経路を構成する第2入力軸26、第2アイドラ軸59および車軸WS(第2仮想連結線VCL2の延在方向に配列)と、が軸方向から見たときに略逆V字状をなす配置となるように構成されている。
【0074】
また、ケース本体34は、
図6に示すように、取付穴88が形成された部分が他の部分よりも一段高くなるように構成されている。即ち、ケース本体34は、当該ケース本体34のうち取付穴81,82,83,84,85が形成された部分が凹状に構成されており、当該凹状部分CAに第1入力歯車42や第1アイドラ歯車46、第1出力歯車44、第2入力歯車52、第2アイドラ歯車56が収容配置される。
【0075】
さらに、ケース本体34は、
図6および
図7に示すように、斜めリブ92と、円弧リブ94と、垂下リブ96と、を備えている。斜めリブ92は、本発明における「保持部」および「隔離壁」に対応し、円弧リブ94は、本発明における「誘導部」および「誘導壁」に対応し、垂下リブ96は、本発明における「突出壁部」に対応する実施構成の一例である。
【0076】
斜めリブ92は、ハウジング32に形成された山形リブ72のうち第2斜めリブ72bに向かい合わさる位置に形成されており、
図6および
図7に示すように、第2斜めリブ72bの直線部73a、第1円弧部73bおよび第2円弧部73cのそれぞれに対応する直線部93a、第1円弧部93bおよび第2円弧部93cから構成されている。
【0077】
即ち、直線部93aは、第1アイドラ歯車46の接線方向に沿って延在し、第1円弧部93bは、第1アイドラ歯車46の外周面に沿うように構成され、第2円弧部93cは、第1出力歯車44の外周面に沿うように構成されている。直線部93aは、本発明における「延在部」に対応し、第1円弧部93bは、本発明における「円弧状部」に対応し、第2円弧部93cは本発明における「第2円弧状部」に対応する実施構成の一例である。
【0078】
また、斜めリブ92には、
図6および
図7に示すように、切欠き95が形成されている。切欠き95は、斜めリブ92の高さ方向の上端面のうち直線部93aと第1円弧部93bとの接続部近傍部を切り欠くことによって形成されている。切欠き95は、本発明における「連通部」に対応する実施構成の一例である。
【0079】
なお、斜めリブ92は、
図7の紙面垂直方向に見て締結フランジ部34aと同じ高さとなるように構成されている。即ち、斜めリブ92の高さ方向の上端面と締結フランジ部34aのフランジ面とは、面一に形成されている。
【0080】
円弧リブ94は、ハウジング32に形成された円弧リブ74に向かい合わさる位置に形成されている。即ち、円弧リブ94は、第1入力歯車42の外周面に沿うように延在するように構成されており、円弧リブ94の一端が直線部93aと当該直線部93aの延在方向においてオーバーラップするように構成されている。
【0081】
なお、円弧リブ94は、
図7の紙面垂直方向に見て締結フランジ部34aと同じ高さとなるように構成されている。即ち、円弧リブ94の高さ方向の上端面と締結フランジ部34aのフランジ面とは、面一に形成されている。
【0082】
垂下リブ96は、ハウジング32に形成された垂下リブ76に向かい合わさる位置に形成されている。即ち、垂下リブ96は、
図7に示すように、ブリーザ室を構成するブリーザ構成壁部34bにおける取付穴81の中心の直上位置から鉛直下方に向かって垂下状に一体形成されている。
【0083】
また、垂下リブ96は、図
7の紙面垂直方向に見て締結フランジ部34aと同じ高さとなるように構成されている。即ち、垂下リブ96の高さ方向の上端面と締結フランジ部34aのフランジ面とは、面一に形成されている。
【0084】
ブリーザ構成壁部34bは、ケース本体34の上壁部に一体形成されており、図
7の紙面垂直方向に見て締結フランジ部34aと同じ高さとなるように構成されている。これにより、ブリーザ構成壁部34bの高さ方向の上端面と締結フランジ部34aのフランジ面とは面一となっている。ブリーザ構成壁部34bは、ブリーザ構成壁部32bと同様、第1および第2入力歯車42,52および第1アイドラ歯車46の外周面に対向する壁面が第1仮想連結線VCL1にほぼ平行に延在するように構成されている。ブリーザ構成壁部34bは、本発明における「上方内壁面」に対応する実施構成の一例である。
【0085】
こうして構成されたハウジング32とケース本体34とをボルトによって締結すると、
図11に示すように、ハウジング32の山形リブ72のうち第2斜めリブ72bとケース本体34の斜めリブ92、ハウジング32の円弧リブ74とケース本体34の円弧リブ94、ハウジング32の垂下リブ76とケース本体34の垂下リブ96(
図11には図示せず)、および、ハウジング32のブリーザ構成壁部32bとケース本体34のブリーザ構成壁部34bがそれぞれ互いに当接する。
【0086】
これにより、歯車ケース30の内部空間のうちエンジン2側の動力伝達経路を構成する第1入力歯車42、第1アイドラ歯車46および第1出力歯車44が配置される領域Sが構成される。領域Sは、ブリーザ構成壁部32b,34b、第2斜めリブ72bおよび斜めリブ92、円弧リブ74,94、および、垂下リブ76,96によって、第1入力軸22、第1アイドラ軸47および第1出力軸24の配列方向(第1仮想連結線VCL1の延在方向)の一方側(第1入力軸22側、
図8の右側)以外が閉じられた閉空間として構成される。
【0087】
詳細には、領域Sは、各軸の軸方向から見たときに第1仮想連結線VCL1に沿う方向に延在する倒れU字状をなしている。
【0088】
したがって、領域Sは、
図8および
図10に示すように、山形リブ72および斜めリブ92によって歯車ケース30の内部空間の下方部に構成される三角形状の空間TSから隔離された状態となっている。なお、領域Sは、
図7に示すように、斜めリブ92に形成された切欠き95を介して空間TSに連通している。
【0089】
こうして構成された動力出力装置1を搭載した車両では、エンジン2によって発電機6を駆動することにより発電された電力を用いてモータ4を駆動する発電モータ駆動モードや、発電機6による発電は行わずに二次電池から供給される電力を用いてモータ4を駆動する放電モータ駆動モード、モータ4を駆動することなくエンジン2によって発電機6を駆動することにより発電された電力を二次電池に充電する充電モードなどにより運転される。
【0090】
次に、こうして構成された動力出力装置1を搭載した車両の走行に伴って動力伝達装置20を構成する各部に供給される潤滑油の動きについて説明する。まず、当該車両が平坦路で運転される際の潤滑油の動きについて説明し、続いて、当該車両が登坂路で運転される際の潤滑油の動きについて説明する。なお、本実施の形態では、当該動力出力装置1を搭載した車両が前進走行する際には、
図12および
図14に示すように、モータ回転軸14が反時計回りに回転され、当該車両が後進走行する際には、
図13および
図15に示すように、モータ回転軸14が時計回りに回転される構成とした。
【0091】
また、クランクシャフトCS、より詳細には第1入力軸22は、
図12ないし
図15に示すように、反時計回りに回転される構成とした。モータ回転軸14が反時計回りに回転されることに伴ってリングギヤ54が反時計回りに回転される態様は、本発明における「駆動歯車の第1回転方向への回転」に対応し、モータ回転軸14が時計回りに回転されることに伴ってリングギヤ54が時計回りに回転される態様は、本発明における「駆動歯車の第2回転方向の回転」に対応する実施構成の一例である。
【0092】
動力出力装置1を搭載した車両が平坦路で運転される場合には、
図12および
図13の油面OLに示すように、空間69や第2斜めリブ72bおよび斜めリブ92上に十分な潤滑油が存在しているため、第1アイドラ歯車46、第1出力歯車44およびリングギヤ54が潤滑油に十分に浸かった状態となっている。これにより、発電モータ駆動モード、放電モータ駆動モードあるいは充電モードに関わらず、また、前進走行(
図12)か後進走行(
図13)かに関わらず、これら潤滑油に浸かっている歯車(第1アイドラ歯車46、第1出力歯車44およびリングギヤ54)により掻き上げられる潤滑油によって、エンジン2側の動力伝達経路およびモータ4側の動力伝達経路における潤滑が必要な各部に十分な潤滑油が供給され、良好な潤滑状態が確保される。
【0093】
一方、動力出力装置1を搭載した車両が登坂路で運転される場合には、
図14および
図15に示すように、動力出力装置1は第1出力軸24側(
図14および
図15の左側)が車軸WS側(
図14および
図15の右側)よりも持ち上がった状態に傾斜される。これにより油面OLは傾き、空間69には十分な潤滑油が存在しているが、第2斜めリブ72bおよび斜めリブ92上には十分な潤滑油が存在しているとは言えない状態となる。即ち、第2斜めリブ72bおよび斜めリブ92上には、第1円弧部73b,93b上に第1アイドラ歯車46の歯先部が浸かる程度の潤滑油が貯留されるのみの状態となり得る。
【0094】
当該状態で動力出力装置1を搭載した車両が発電モータ駆動モードあるいは放電モータ駆動モードで運転される場合には、リングギヤ54が潤滑油に十分に浸かった状態となっているため、前進走行(
図14)か後進走行(
図15)かに関わらず、リングギヤ54により掻き上げられる潤滑油によって、エンジン2側の動力伝達経路およびモータ4側の動力伝達経路における潤滑が必要な各部に十分な潤滑油が供給され、良好な潤滑状態が確保される。
【0095】
なお、発電モータ駆動モードにおいては、エンジン2側の動力伝達経路の潤滑が必要な各部には、第1アイドラ歯車46によって掻き上げられた潤滑油も供給される。ここで、第2斜めリブ72bおよび斜めリブ92の第1円弧部73b,93b上には、リングギヤ54によって掻き上げられた潤滑油が、円弧リブ74,94および第2斜めリブ72bおよび斜めリブ92の直線部73a,93aを介して供給される。
【0096】
即ち、リングギヤ54によって掻き上げられ、円弧リブ74,94に衝突した潤滑油が、当該円弧リブ74,94によって第2斜めリブ72bおよび斜めリブ92の直線部73a,93a上に誘導され、当該直線部73a,93aによって第1円弧部73b,93bに誘導される。
【0097】
ここで、第2斜めリブ72bおよび斜めリブ92が直線部73a,93aを有する構成であるため、第1円弧部73b,93bに潤滑油を円滑に誘導することができる。また、円弧リブ74,94の一端が直線部73a,93aと延在方向においてオーバーラップするように構成されているため、円弧リブ74,94から直線部73a,93aに効率良く潤滑油を受け渡すことができる。
【0098】
なお、第1斜めリブ72aを有する構成であるため、後進走行時(
図15)にリングギヤ54で掻き上げられる潤滑油を円弧リブ74,94まで良好に誘導することができると共に、庇リブ78を有する構成であるため、前進走行時(
図14)にリングギヤ54で掻き上げられる潤滑油をリングギヤ54と第3アイドラ歯車58との噛み合い部まで良好に誘導し得て、当該噛み合い部から円弧リブ74,94に向けて飛散する潤滑油量を増加することができる。これにより、リングギヤ54によって掻き上げられた潤滑油を、第1円弧部73b,93bに一層良好に誘導することができる。
【0099】
また、第1円弧部73b,93b上には、第1アイドラ歯車46の回転に伴って切欠き95を介して空間TSに存在する潤滑油が流入する。即ち、第1アイドラ歯車46の回転によって第1アイドラ歯車46の外周面と第1円弧部73b,93bとの間の空間が負圧となることにより、空間TSに存在する潤滑油が切欠き95を介して第1円弧部73b,93b上に流入する。
【0100】
これにより、エンジン2側の動力伝達経路における潤滑が必要な各部の潤滑性をより一層向上することができる。
【0101】
一方、動力出力装置1が
図14や
図15に示すような傾斜した状態で当該動力出力装置1を搭載した車両が充電モードで運転される場合には、モータ4が駆動されないため、リングギヤ54による潤滑油の掻き上げは生じず、第1アイドラ歯車46によって掻き上げられた潤滑油のみによる潤滑となる。なお、充電モードでは、モータ4は駆動されないため、モータ4側の動力伝達経路への潤滑油の供給は不要である。
【0102】
登坂路での充電モードでは、第1円弧部73b,93bに貯留された潤滑油が、第1アイドラ歯車46によって掻き上げられ、第1アイドラ歯車46と第1出力歯車44との噛み合い部まで運ばれ、当該噛み合い部を潤滑した後、当該噛み合い部からブリーザ構成壁部32b,34bに向けて飛散される。
【0103】
ブリーザ構成壁部32b,34bに向けて飛散され、当該ブリーザ構成壁部32b,34bに衝突した潤滑油は、当該ブリーザ構成壁部32b,34bの壁面を伝って垂下リブ76,96まで流れ、当該垂下リブ76,96を伝って第1入力歯車42上に流下する。
【0104】
第1入力歯車42上に流下した潤滑油は、第1入力歯車42の回転に連れ回って、第1アイドラ歯車46との噛合い部まで運ばれ、当該噛合い部から下方に向けて飛散される。当該噛合い部から下方に向けて飛散された潤滑油の大部分は、第2斜めリブ72bおよび斜めリブ92の直線部73a,93aに衝突し、当該直線部73a,93aによって第2斜めリブ72bおよび斜めリブ92の第1円弧部73b,93bに誘導され、さらに第1アイドラ歯車46により第2円弧部73c,93cまで誘導される。これにより、第1円弧部73b,93bに貯留される潤滑油がなくなることを抑制することができる。
【0105】
また、第1入力歯車42と第1アイドラ歯車46との噛合い部から飛散される潤滑油のうち、第1入力歯車42の回転に連れ回って当該第1入力歯車42の回転方向に飛散される潤滑油は円弧リブ74,94に衝突し、当該円弧リブ74,94に衝突した後、当該円弧リブ74,94上を流れて直線部73a,93a上に流下し、当該直線部73a,93aによって第1円弧部73b,93bや第2円弧部73c,93cまで誘導される。
【0106】
このように、第1入力歯車42の回転に連れ回って当該第1入力歯車42の回転方向に飛散される潤滑油をも第1円弧部73b,93bや第2円弧部73c,93cに誘導することができるため、第1円弧部73b,93b上や第2円弧部73c,93c上に貯留される潤滑油がなくなることを効果的に抑制することができる。
【0107】
こうして第1円弧部73b,93bや第2円弧部73c,93cに誘導された潤滑油は、第1アイドラ歯車46や第1出力歯車44によって再び掻き上げられる。
【0108】
このように、第1アイドラ歯車46によって掻き上げられる潤滑油は、ブリーザ構成壁部32b,34bや、垂下リブ76,96、第2斜めリブ72bおよび斜めリブ92の直線部73a,93a、および、円弧リブ74,94によって、再び第1円弧部73b,93bや第2円弧部73c,93cに戻される構成、即ち、領域S内で循環させる構成であるため、登坂路での充電モードにおいてもエンジン2側の動力伝達経路の潤滑性が低下することを良好に抑制することができる。
【0109】
なお、第1円弧部73b,93b上には、上述同様、切欠き95を介して空間TSに存在する潤滑油が流入するため、第1円弧部73b,93b上に貯留される潤滑油がなくなることをより効果的に抑制することができる。
【0110】
もとより、発電モータ駆動モードにおいて、第1アイドラ歯車46によって掻き上げられた潤滑油によりエンジン2側の動力伝達経路が潤滑される場合においても、上述したような領域S内での潤滑油の循環が生ずることは言うまでもない。
【0111】
本実施の形態では、第1歯車機構TM1を、第1入力歯車42と、第1出力歯車44と、これら両方に噛み合う第1アイドラ歯車46と、第1アイドラ歯車46を支持する第1アイドラ軸47と、により構成したが、これに限らない。例えば、第1歯車機構TM1を第1入力歯車42とこれに直接噛み合う第1出力歯車44のみにより構成しても良いし、第2歯車機構TM2のように、第1アイドラ軸47に第1入力歯車42および第1出力歯車44それぞれ別々に噛み合う二つのアイドラ歯車を支持する構成としても良い。
【0112】
第1歯車機構TM1を第1入力歯車42とこれに直接噛み合う第1出力歯車44のみにより構成する場合には、第1入力歯車42と、第1出力歯車44とのいずれかによって潤滑油を掻き上げることができるように、第2斜めリブ72bおよび斜めリブ92を構成すれば良い。また、第1歯車機構TM1が二つのアイドラ歯車を有する構成の場合には、少なくともいずれか一方のアイドラ歯車によって潤滑油を掻き上げることができるように、第2斜めリブ72bおよび斜めリブ92を構成すれば良い。
【0113】
また、第2歯車機構TM2を、第2入力歯車52と、これに噛み合う第2アイドラ歯車56と、リングギヤ54と、これに噛み合う第3アイドラ歯車58と、これらアイドラ歯車56,58を支持する第2アイドラ軸59と、により構成したが、これに限らない。例えば、第2歯車機構TM2を第2入力歯車52とこれに直接噛み合うリングギヤ54のみにより構成しても良いし、第1歯車機構TM1のように、第2アイドラ軸59に第2入力歯車52およびリングギヤ54の両方に噛み合うアイドラ歯車を支持する構成としても良い。
【0114】
本実施の形態では、エンジン2側の動力伝達経路を構成する第1入力軸22、第1アイドラ軸47および第1出力軸24の配列方向と、モータ4側の動力伝達経路を構成する第2入力軸26、第2アイドラ軸59および車軸WSの配列方向と、を軸方向から見たときに略逆V字状をなす配置となる構成としたが、これに限らない。例えば、第1入力軸22、第1アイドラ軸47および第1出力軸24の配列方向と、モータ4側の動力伝達経路を構成する第2入力軸26、第2アイドラ軸59および車軸WSの配列方向と、を軸方向から見たときに車軸WSが最も下方に配置される倒れL字状をなす配置となる構成としても良い。
【0115】
本実施の形態では、第1斜めリブ72aと第2斜めリブ72bとが接続される構成としたが、リングギヤ54が掻き上げる潤滑油を第2斜めリブ72bや斜めリブ92に誘導することができれば、第1斜めリブ72aと第2斜めリブ72bとが接続とは接続されていなくても良いし、第1斜めリブ72aを有さない構成でも良い。
【0116】
本実施の形態では、ハウジング32およびケース本体34のほぼ中央部に形成された取付穴61,81にベアリングB1を介して第1入力軸22を支持し、ハウジング32の左側(
図5の左側)壁部と下壁部との交差部およびケース本体34の右側(
図7の右側)壁部と下壁部との交差部に形成された取付穴63,83にベアリングB3を介して第1出力軸24を支持する構成としたが、これとは逆に、取付穴63,83にベアリングB1を介して第1入力軸22を支持し、取付穴61,81にベアリングB3を介して第1出力軸24を支持する構成でも良い。
【0117】
本実施の形態では、円弧リブ74の延在方向の他端がリングギヤ54と第3アイドラ歯車58との噛合い部における接線VTLに接する位置まで延在する構成としたが、
図16に示すように、円弧リブ74の延在方向の他端は、接線VTLと交差する位置まで延在するように構成しても良い。なお、この場合、円弧リブ74に対応する円弧リブ94も円弧リブ74と同様の構成とすることが望ましい。
【0118】
当該構成によれば、動力出力装置1を搭載した車両が発電モータ駆動モードや放電モータ駆動モードで前進走行する場合に、リングギヤ54と第3アイドラ歯車58との噛合い部から飛散される潤滑油が円弧リブ74,94に衝突し易い構成となり、円弧リブ74,94を介して第2斜めリブ72bや斜めリブ92に潤滑油をより効率的に導入することができる。
【0119】
本実施の形態では、円弧リブ74,94を円弧状に形成する構成としたが、これに限らない。例えば、円弧リブ74,94を直線状に形成する構成としても良い。
【0120】
本実施の形態では、斜めリブ92に切欠き95を形成する構成としたが、斜めリブ92には切欠き95を形成せず、第2斜めリブ72bに切欠き95を形成しても良いし、全く形成しなくても良い。
【0121】
本実施の形態では、垂下リブ76が取付穴61の中心の直上位置から鉛直下方に向かって垂下するように構成したが、垂下リブ76は、
図17に示すように、取付穴61の中心と、取付穴62の中心と、の間の直上位置から鉛直下方に向かって垂下するように設けられていれば良い。なお、この場合、垂下リブ96も垂下リブ76に対応する位置に設ければよい。
【0122】
本実施の形態では、第1および第2入力歯車42,52、第1アイドラ歯車46および第1出力歯車44の上方に第1仮想連結線VCL1にほぼ平行に延在するようにブリーザ構成壁部32b,34bを設ける構成としたが、これに限らない。例えば、ブリーザ構成壁部32b,34bを設けず、ハウジング32およびケース本体34の上壁部を、第1および第2入力歯車42,52、第1アイドラ歯車46および第1出力歯車44の外周面近傍において、第1仮想連結線VCL1にほぼ平行に延在するように構成しても良い。この場合、垂下リブ76,96は、ハウジング32およびケース本体34の上壁部から垂下するように直接設ければ良い。
【0123】
本実施形態は、本発明を実施するための形態の一例を示すものである。したがって、本発明は、本実施形態の構成に限定されるものではない。