(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品は固定側密封環であり、他方の摺動部品は回転側密封環であり、これらの密封環は半径方向に形成された摺動面を有し、被密封流体が漏洩するのをシールするものであって、前記一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、漏れ側に位置すると共に漏れ側とはランド部により隔離され、漏れ流体をトラップするトラップ溝が全周にわたり設けられ、前記一対の摺動部品の前記トラップ溝より漏れ側のランド部間には流体の通過は許容するが漏れ側からのダストの進入を低減するダスト進入低減手段が形成されていることを特徴とする摺動部品。
互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品は固定側密封環であり、他方の摺動部品は回転側密封環であり、これらの密封環は半径方向に形成された摺動面を有し、被密封流体である液体又はミスト状の流体が漏洩するのをシールするものであって、前記一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、漏れ側に位置すると共に漏れ側とはランド部により隔離された漏れ液をトラップするトラップ溝が全周にわたり設けられ、前記一対の摺動部品の前記トラップ溝より漏れ側のランド部間には漏れ側からのダストの進入を低減するダスト進入低減手段が形成されていることを特徴とする摺動部品。
前記ダスト進入低減手段が、前記一対の摺動部品の前記トラップ溝より漏れ側のランド部間に形成される極小隙間帯により構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摺動部品。
前記ダスト進入低減手段が、前記一対の摺動部品の前記トラップ溝より漏れ側のランド部の表面に形成される半径方向傾斜溝により構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摺動部品。
前記トラップ溝は、前記固定側密封環及び前回転側密封環のいずれか一方に複数、他方に少なくとも1つ以上設けられ、前記固定側密封環のトラップ溝と前記回転側密封環のトラップ溝とは径方向の位置において重複しないように配置されると共にこれらのトラップ溝を画成するランド部間には流体の通過は許容するが漏れ側からのダストの進入を低減するダスト進入低減手段が形成されることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の摺動部品。
前記一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、前記トラップ溝に連通し、被密封流体側には連通しないように構成された動圧発生溝が設けられることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の摺動部品。
前記一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、被密封流体側に連通し、漏れ側には連通しないように構成された流体導入溝が設けられることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の摺動部品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1ないし3に記載の従来技術においては、例えば
図7に示すように、静止リング51の摺動面51aに回転リング52の回転により低圧流体側(以下、「漏れ側」ということがある。)の流体を被密封流体側(高圧流体側)に向かって巻き込むスパイラル溝53の漏れ側の端部53aが漏れ側に直接開口しているため、漏れ側から容易にダストが進入するという問題があった。また、装置の非定常運転時の振動等によりが静止リング51と回転リング52とのシール面が開いた場合、液漏れ対策が採られていないため、漏れ液はそのまま装置外部に流出するという問題があった。
【0006】
本発明は、相対摺動する一対の摺動部品の摺動面において、漏れ側からのダストの進入を防止すると共に漏れ側への流体漏れを防止し、摺動面の密封と潤滑との相反する両機能を向上させることのできる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の摺動部品は、第1に、互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品は固定側密封環であり、他方の摺動部品は回転側密封環であり、これらの密封環は半径方向に形成された摺動面を有し、被密封流体が漏洩するのをシールするものであって、前記一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、漏れ側に位置すると共に漏れ側とはランド部により隔離され、漏れ流体をトラップするトラップ溝が全周にわたり設けられ、前記一対の摺動部品の前記トラップ溝より漏れ側のランド部間には流体の通過は許容するが漏れ側からのダストの進入を低減するダスト進入低減手段が形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、装置の非定常運転時の振動等により回転側密封環と固定側密封環との摺動面が開いた場合でも漏れ流体をトラップ溝でトラップすることができ、漏れ側への流体漏れを防止できると共に、漏れ側から摺動面にダストが進入するのを低減することができ、摺動面の摩擦及び漏れを低減することができる。
【0008】
また、本発明の摺動部品は、第2に、互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品は固定側密封環であり、他方の摺動部品は回転側密封環であり、これらの密封環は半径方向に形成された摺動面を有し、被密封流体である液体又はミスト状の流体が漏洩するのをシールするものであって、前記一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、漏れ側に位置すると共に漏れ側とはランド部により隔離された漏れ液をトラップするトラップ溝が全周にわたり設けられ、前記一対の摺動部品の前記トラップ溝より漏れ側のランド部間には漏れ側からのダストの進入を低減するダスト進入低減手段が形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、装置の非定常運転時の振動等により回転側密封環と固定側密封環との摺動面が開いた場合でも漏れ液をトラップ溝でトラップすることができ、漏れ側への液漏れを防止できると共に、漏れ側から摺動面にダストが進入するのを低減することができ、摺動面の摩擦及び漏れを低減することができる。
【0009】
また、本発明の摺動部品は、第3に、第1又は第2の特徴において、前記ダスト進入低減手段が、前記一対の摺動部品の前記トラップ溝より漏れ側のランド部間に形成される極小隙間帯により構成されることを特徴としている。
この特徴によれば、シンプルな構成でもって漏れ側から摺動面にダストが進入するのを低減することができる。
【0010】
また、本発明の摺動部品は、第4に、第1又は第2の特徴において、前記ダスト進入低減手段が、前記一対の摺動部品の前記トラップ溝より漏れ側のランド部の表面に形成される半径方向傾斜溝により構成されることを特徴としている。
この特徴によれば、より一層、漏れ側から摺動面にダストが進入するのを低減することができる。
【0011】
また、本発明の摺動部品は、第5に、第1ないし第4のいずれかの特徴において、前記トラップ溝は、前記固定側密封環及び前回転側密封環のいずれか一方に複数、他方に少なくとも1つ以上設けられ、前記固定側密封環のトラップ溝と前記回転側密封環のトラップ溝とは径方向の位置において重複しないように配置されると共にこれらのトラップ溝を画成するランド部間には流体の通過は許容するが漏れ側からのダストの進入を低減するダスト進入低減手段が形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、装置の非定常運転時の振動等により回転側密封環と固定側密封環との摺動面が開いた場合でも漏れ液を複数のトラップ溝でトラップすることができ、漏れ側への液漏れを、一層、防止できると共に、複数のダスト進入低減手段でダストの進入を阻止することができ、漏れ側から摺動面にダストが進入するのを、一層、低減することができる。
【0012】
また、本発明の摺動部品は、第6に、第1ないし5のいずれかの特徴において、前記一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、前記トラップ溝に連通し、被密封流体側には連通しないように構成された動圧発生溝が設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、定常運転等の回転側密封環の高速回転状態において、漏れ側から気体を吸い込み、外周側の端部付近で動圧(正圧)を発生するため、回転側密封環と固定側密封環との摺動面に僅かな間隙が形成され、摺動面は気体潤滑の状態となり非常に低摩擦となる。動圧発生溝は被密封流体側には連通しないように構成されているため、静止時において漏れが発生することがない。
【0013】
また、本発明の摺動部品は、第7に、第6の特徴において、前記動圧発生溝は、漏れ側の流体を吸い込み被密封流体側にポンピングするスパイラル形状をなしていることを特徴としている。
この特徴によれば、内周側の気体及びトラップ溝内の液体が外周側に向けてポンピングされるため、トラップ溝内の液体及び外周側の液体が内周側へ漏洩することが防止される。
【0014】
また、本発明の摺動部品は、第8に、第1ないし7のいずれかの特徴において、前記一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、被密封流体側に連通し、漏れ側には連通しないように構成された流体導入溝が設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、起動時などの回転側密封環の低速回転状態において被密封流体が、積極的に摺動面に導入され、摺動面Sの潤滑を行うことができる。また、回転側密封環が定常運転等の高速回転時において流体導入溝から摺動面に導入された液体は遠心力により排出されるため、漏れ側である内周側に液体が漏洩することはない。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、漏れ側に位置すると共に漏れ側とはランド部により隔離され、漏れ流体をトラップするトラップ溝が全周にわたり設けられ、一対の摺動部品の前記トラップ溝より漏れ側のランド部間には流体の通過は許容するが漏れ側からのダストの進入を低減するダスト進入低減手段が形成されていることにより、装置の非定常運転時の振動等により回転側密封環と固定側密封環との摺動面が開いた場合でも漏れ流体をトラップ溝でトラップすることができ、漏れ側への流体漏れを防止できると共に、漏れ側から摺動面にダストが進入するのを低減することができ、摺動面の摩擦及び漏れを低減することができる。
【0016】
(2)一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、漏れ側に位置すると共に漏れ側とはランド部により隔離された漏れ液をトラップするトラップ溝が全周にわたり設けられ、一対の摺動部品の前記トラップ溝より漏れ側のランド部間には漏れ側からのダストの進入を低減するダスト進入低減手段が形成されていることにより、装置の非定常運転時の振動等により回転側密封環と固定側密封環との摺動面が開いた場合でも漏れ液をトラップ溝でトラップすることができ、漏れ側への液漏れを防止できると共に、漏れ側から摺動面にダストが進入するのを低減することができ、摺動面の摩擦及び漏れを低減することができる。
【0017】
(3)ダスト進入低減手段が、一対の摺動部品の前記トラップ溝より漏れ側のランド部間に形成される極小隙間帯により構成されることにより、シンプルな構成でもって漏れ側から摺動面にダストが進入するのを低減することができる。
【0018】
(4)ダスト進入低減手段が、一対の摺動部品の前記トラップ溝より漏れ側のランド部の表面に形成される半径方向傾斜溝により構成されることにより、より一層、漏れ側から摺動面にダストが進入するのを低減することができる。
【0019】
(5)トラップ溝は、前記固定側密封環及び前回転側密封環のいずれか一方に複数、他方に少なくとも1つ以上設けられ、前記固定側密封環のトラップ溝と前記回転側密封環のトラップ溝とは径方向の位置において重複しないように配置されると共にこれらのトラップ溝を画成するランド部間には流体の通過は許容するが漏れ側からのダストの進入を低減するダスト進入低減手段が形成されることにより、装置の非定常運転時の振動等により回転側密封環と固定側密封環との摺動面が開いた場合でも漏れ液を複数のトラップ溝でトラップすることができ、漏れ側への液漏れを、一層、防止できると共に、複数のダスト進入低減手段でダストの進入を阻止することができ、漏れ側から摺動面にダストが進入するのを、一層、低減することができる。
【0020】
(6)一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、前記トラップ溝に連通し、被密封流体側には連通しないように構成された動圧発生溝が設けられることにより、定常運転等の回転側密封環の高速回転状態において、漏れ側から気体を吸い込み、外周側の端部付近で動圧(正圧)を発生するため、回転側密封環と固定側密封環との摺動面に僅かな間隙が形成され、摺動面は気体潤滑の状態となり非常に低摩擦となる。動圧発生溝は被密封流体側には連通しないように構成されているため、静止時において漏れが発生することがない。
【0021】
(7)動圧発生溝は、漏れ側の流体を吸い込み被密封流体側にポンピングするスパイラル形状をなしていることにより、内周側の気体及びトラップ溝内の液体が外周側に向けてポンピングされるため、トラップ溝内の液体及び外周側の液体が内周側へ漏洩することが防止される。
【0022】
(8)一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、被密封流体側に連通し、漏れ側には連通しないように構成された流体導入溝が設けられることにより、起動時などの回転側密封環の低速回転状態において被密封流体が、積極的に摺動面に導入され、摺動面Sの潤滑を行うことができる。また、回転側密封環が定常運転等の高速回転時において流体導入溝から摺動面に導入された液体は遠心力により排出されるため、漏れ側である内周側に液体が漏洩することはない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置などは、特に明示的な記載がない限り、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0025】
図1ないし
図3を参照して、本発明の実施例1に係る摺動部品について説明する。
なお、以下の実施例においては、摺動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明する。また、メカニカルシールを構成する摺動部品の外周側を被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)、内周側を漏れ側(気体側)として説明するが、本発明はこれに限定されることなく、外周側が漏れ側(気体側)、内周側が被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)である場合も適用可能である。また、被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)と漏れ側(気体側)との圧力の大小関係については、例えば、被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)が高圧、漏れ側(気体側)が低圧、あるいは、その逆のいずれでもよく、また、両方の圧力が同一であってもよい。
【0026】
図1は、メカニカルシールの一例を示す縦断面図であって、摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする被密封流体、例えば、軸受部に使用された潤滑油を密封する形式のインサイド形式のものであり、ターボチャージャに備えられたコンプレッサのインペラー1を駆動させる回転軸2側にスリーブ3を介してこの回転軸2と一体的に回転可能な状態に設けられた一方の摺動部品である円環状の回転側密封環4と、ハウジング5にカートリッジ6を介して非回転状態で、かつ、軸方向移動可能な状態で設けられた他方の摺動部品である円環状の固定側密封環7とが設けられ、固定側密封環7を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング8によって、ラッピング等によって鏡面仕上げされた摺動面S同士で密接摺動するようになっている。すなわち、このメカニカルシールは、回転側密封環4及び固定側密封環7は半径方向に形成された摺動面Sを有し、互いの摺動面Sにおいて、被密封流体、例えば、液体あるいはミスト状の流体(以下、液体あるいはミスト状の流体を、単に「液体」ということがある。)が摺動面Sの外周から内周側の漏れ側へ流出するのを防止するものである。
なお、符号9はOリングを示しており、カートリッジ6と固定側密封環7との間をシールするものである。
また、本例では、スリーブ3と回転側密封環4とは別体の場合について説明しているが、これに限らず、スリーブ3と回転側密封環4とを一体に形成してもよい。
【0027】
回転側密封環4及び固定側密封環7の材質は、耐摩耗性に優れた炭化ケイ素(SiC)及び自己潤滑性に優れたカーボンなどから選定されるが、例えば、両者がSiC、あるいは、いずれか一方がSiCであって他方がカーボンの組合せが可能である。
【0028】
図2(a)は、本発明の実施例1に係る摺動部品の摺動部分を拡大して示したものである。
図2(a)において、回転側密封環4の摺動面Sには、漏れ側に位置すると共に漏れ側とはランド部R1により隔離され、漏れ液をトラップするトラップ溝10が全周にわたり設けられている。また、回転側密封環4の摺動面Sには、トラップ溝10に連通され、被密封流体側には連通されないように構成された動圧発生溝11が少なくとも1つ以上設けられている。
トラップ溝10及び動圧発生溝11は、回転側密封環4の摺動面Sに限らず、固定側密封環7の摺動面Sに設けられるなど、少なくとも一対の摺動部品のいずれか一方の摺動面に設けられればよい。
【0029】
トラップ溝10は、装置(例えば、コンプレッサ)の非定常運転時の振動等により回転側密封環4及び固定側密封環7の摺動面Sの面開き時に非密封流体である液体の漏れが生じた場合、漏れ液を溜めるためのものであり、トラップ溝10に溜められた漏れ液は、定常回転時において、動圧発生溝11の働き、あるいは、漏れ液の遠心力等により被密封流体側に戻される。
図2(a)において、トラップ溝10は断面が矩形状をなしているが、これに限らず、例えば、
図2(b)に示すように、入口から奥に向けて末広がりの形状をしたフラスコ状のトラップ溝10でもよい。フラスコ状のトラップ溝10であると、摺動部品が横置きされた場合に、奥側の広がり部分に漏れ液を溜めておくことができる。トラップ溝10の形状は、要は、所定の要領を有し、漏れ液を貯留できるものであればよい。
【0030】
動圧発生溝11は、漏れ側の流体を吸い込み被密封流体側にポンピングするためのものであり、例えば、
図3(b)に示すようにスパイラル形状をなしている
スパイラル形状の動圧発生溝11は、内周側(漏れ側)の入口11aがトラップ溝10に連通されているものの、被密封流体側の端部11bは被密封流体側には連通されておらず、回転側密封環4及び固定側密封環7の相対摺動により、漏れ側の端部から被密封流体側の端部に向けてポンピング作用を発揮するようにスパイラル状に傾斜され、動圧(正圧)を発生する。
スパイラル形状の動圧発生溝11は、
図3(b)においては、溝幅が一定に形成されているが、トラップ溝10に連通されている内周側(漏れ側)の入口11aの溝幅を拡大、すなわち、入口11aの周方向長さを他の部分より長くし、動圧発生溝11内への流体の供給効果を増大してもよい。
【0031】
スパイラル形状の動圧発生溝11は、定常運転等の回転側密封環4の高速回転状態において、漏れ側から気体を吸い込み、外周側の端部11b付近で動圧(正圧)を発生するため、回転側密封環4と固定側密封環7との摺動面Sに僅かな間隙が形成され、摺動面Sは気体潤滑の状態となり非常に低摩擦となる。同時に、トラップ溝10内の液体及び漏れ側の気体が外周側に向けてポンピングされるため、トラップ溝10内の液体及び外周側の液体が内周側へ漏洩することが防止される。また、スパイラル形状の動圧発生溝11は外周側とはランド部Rにより隔離されているため、静止時において漏れが発生することがない。
【0032】
回転側密封環4のトラップ溝10溝より漏れ側のランド部R1と固定側密封環7の摺動面Sより漏れ側のランド部R2との間には、流体の通過は許容するが漏れ側からのダストの進入を低減するダスト進入低減手段12が形成される。
本例の場合、ダスト進入低減手段12は、回転側密封環4側のランド部R1と固定側密封環7側のランド部R2との間に形成される極小隙間帯gにより構成される。この極小隙間帯gの隙間は、液体の進入は許容するがダストを構成する粒子の進入を阻止する大きさが望ましく、例えば、0.5mm以下が好ましい。この0.5mm以下にはゼロも含まれ、その意味は次のとおりである。
装置の静止時、すなわち、摺動部品の静止時においては一対の摺動面の間には隙間が存在せず、極小隙間帯gの隙間はゼロであるが、装置が始動し、一対の摺動面が相対摺動すると、摺動面間に存在する流体により動圧が発生し、一対の摺動面の間には僅かな隙間が生じ、極小隙間帯gの隙間は有限の値となる。すなわち、極小隙間帯gの隙間「0.5mm以下」は摺動部品の静止時の値を示すもので、ゼロも含まれる。
【0033】
極小隙間帯gの隙間を有限の値にする場合、極小隙間帯gは、全周にわたって設けられてもよく、あるいは、円周の一部分にのみ設けられてもよい。円周の一部分にのみ設けられる場合としては、例えば、中心角が30°の範囲の極小隙間帯gを6等配設け、他の残りの部分は隙間ゼロ(静止時において隙間ゼロ)に設定する。
【0034】
特に
図3(a)に明瞭に示されているように、回転側密封環4のトラップ溝10溝より漏れ側のランド部R1の極小隙間帯gを構成する角部13は面取りされ、この面取りされた角部13と対向する固定側密封環7側のランド部R2の角部14も面取りされて、両方の面取りされた角部13、14でもってが極小隙間帯gが形成されている。極小隙間帯gは、トラップ溝10とトラップ溝10の漏れ側において連通されている。
【0035】
上記したように、トラップ溝10溝より漏れ側にダスト進入低減手段12が配置されることで、まずはトラップ溝10溝内へのダストの進入が防止され、また、万一トラップ溝10溝内へ進入したダストの多くはトラップ溝10溝内に留まり、摺動面Sへの進入はかなり抑制される。
【0036】
以上説明した実施例1の構成によれば、以下のような効果を奏する。
(1)一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品である回転側密封環4の摺動面Sには、漏れ側に位置すると共に漏れ側とはランド部R1により隔離され、漏れ液をトラップするトラップ溝10が全周にわたり設けられ、一対の摺動部品である回転側密封環4及び固定側密封環7のトラップ溝10より漏れ側のランド部R1、R2間には流体の通過は許容するが漏れ側からのダストの進入を低減するダスト進入低減手段12が形成されていることにより、装置の非定常運転時の振動等により回転側密封環4と固定側密封環7との摺動面が開いた場合でも漏れ液をトラップ溝10でトラップすることができ、漏れ側への液漏れを防止できると共に、漏れ側から摺動面にダストが進入するのを低減することができ、摺動面の摩擦及び漏れを低減することができる。
(2)ダスト進入低減手段12が、一対の摺動部品のトラップ溝10より漏れ側のランド部間に形成される極小隙間帯gにより構成されることにより、シンプルな構成でもって漏れ側から摺動面にダストが進入するのを低減することができる。
(3)回転側密封環4の摺動面Sには、トラップ溝10に連通され、被密封流体側には連通されないように構成された動圧発生溝11が設けられていることにより、定常運転等の回転側密封環4の高速回転状態において、内周側(漏れ側)の入口11aから気体を吸い込み、外周側の端部11b付近で動圧(正圧)を発生するため、回転側密封環4と固定側密封環7との摺動面Sに僅かな間隙が形成され、摺動面Sは気体潤滑の状態となり非常に低摩擦となる。同時に、スパイラル形状の動圧発生溝11により内周側の気体及びトラップ溝10内の液体が外周側に向けてポンピングされるため、トラップ溝10内の液体及び外周側の液体が内周側へ漏洩することが防止される。また、スパイラル形状の動圧発生溝11は外周側とはランド部Rにより隔離されているため、静止時において漏れが発生することがない。
【実施例2】
【0037】
図4を参照して、本発明の実施例2に係る摺動部品について説明する。
実施例2に係る摺動部品は、回転側密封環の摺動面に複数のトラップ溝が設けられ、回転側密封環の摺動面に1つのトラップ溝が設けられている点で実施例1の摺動部品と相違するが、その他の基本構成は実施例1と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0038】
図4において、回転側密封環4の摺動面Sには、漏れ側に位置すると共に漏れ側とはランド部R3により隔離され、漏れ液をトラップするトラップ溝10−1、及び、トラップ溝10−1より被密封流体側であって、トラップ溝10−1とはランド部R4により漏れ側と反対側の位置に隔離され、漏れ液をトラップするトラップ溝10−2が全周にわたり設けられている。また、回転側密封環4の摺動面Sには、漏れ側から離れた位置に設けられたトラップ溝10−2に連通され、被密封流体側には連通されないように構成された動圧発生溝11が設けられている。
【0039】
また、固定側密封環7の摺動面Sには、漏れ側に位置すると共に漏れ側とはランド部R5により隔離され、漏れ液をトラップするトラップ溝10−3が全周にわたり設けられている。固定側密封環7側のトラップ溝10−3は、回転側密封環4側の2つのトラップ溝10−1、10−2とは径方向の位置において重複しないようにこれらの中間に位置するように配置される。トラップ溝10−3の漏れ側と反対側はランド部R6により画成されている。
なお、トラップ溝は、上記のように回転側密封環4に2つ、固定側密封環7に1つ設けられることに限らず、固定側密封環7及び回転側密封環4のいずれか一方に複数、他方に少なくとも1つ以上設けられればよく、固定側密封環7のトラップ溝と回転側密封環4のトラップ溝とが径方向の位置において重複しないように配置されればよい。
【0040】
トラップ溝10−1、10−2及び10−3は、コンプレッサの非定常運転時の振動等により回転側密封環4及び固定側密封環7の摺動面Sの面開き時に非密封流体である液体の漏れが生じた場合、漏れ液を溜めるためのものであり、トラップ溝10−1、10−2及び10−3に溜められた漏れ液は、定常回転時に被密封流体側に戻される。
なお、トラップ溝10−1、10−2及び10−3は、
図4に示す場合と反対に、トラップ溝10−1、10−2が固定側密封環に、また、トラップ溝10−3が回転側密封環に設けられてもよい。
【0041】
回転側密封環4のトラップ溝10−1より漏れ側のランド部R3と固定側密封環7の摺動面Sより漏れ側のランド部R5との間には、流体の通過は許容するが漏れ側からのダストの進入を低減するダスト進入低減手段12が形成される。
また、ランド部R4とランド部R5との間、及び、ランド部R4とランド部R6との間にも、それぞれ、ダスト進入低減手段12、12が形成される。
【0042】
本例の場合、3つのダスト進入低減手段12、12、12は、回転側密封環4側のランド部R3と固定側密封環7側のランド部R5との間、及び、回転側密封環4側のランド部R4と固定側密封環7側のランド部R5及びR6との間に形成される3つの極小隙間帯gにより構成される。この極小隙間帯gの隙間は、液体の進入は許容するがダストを構成する粒子の進入を阻止する大きさが望ましく、例えば、05mm以下が好ましい。
【0043】
それぞれの極小隙間帯gは、全周にわたって設けられてもよく、あるいは、円周の一部分にのみ設けられてもよい。円周の一部分にのみ設けられる場合としては、例えば、中心角が30°の範囲の極小隙間帯gを6等配設け、他の残りの部分は隙間ゼロに設定する。
【0044】
ランド部R3、R4、R5及びR6の極小隙間帯gを構成する角部は面取りされ、この面取りされた角部の間に極小隙間帯gが形成されている。3つのトラップ溝10−1、10−2及び10−3は、3つの極小隙間帯gを介して漏れ側に連通されている。
【0045】
以上説明した実施例2の構成によれば、以下のような効果を奏する。
(1)トラップ溝10−1、10−2、10−3は、固定側密封環7及び回転側密封環4にそれぞれ設けられ、固定側密封環7のトラップ溝10−3と回転側密封環4のトラップ溝10−1、10−2とは径方向の位置において重複しないように配置されると共にこれらのトラップ溝10−1、10−2、10−3を画成するランド部R3、R4、R5、R6間には流体の通過は許容するが漏れ側からのダストの進入を低減するダスト進入低減手段12が形成されることにより、装置の非定常運転時の振動等により回転側密封環4と固定側密封環7との摺動面が開いた場合でも漏れ液を複数のトラップ溝でトラップすることができ、漏れ側への液漏れを、一層、防止できると共に、複数のダスト進入低減手段でダストの進入を阻止することができ、漏れ側から摺動面にダストが進入するのを、一層、低減することができる。
(2)回転側密封環4の摺動面Sには、トラップ溝10−2に連通され、被密封流体側には連通されないように構成された動圧発生溝11が設けられていることにより、定常運転等の回転側密封環4の高速回転状態において、内周側(漏れ側)の入口11aから気体を吸い込み、外周側の端部11b付近で動圧(正圧)を発生するため、回転側密封環4と固定側密封環7との摺動面Sに僅かな間隙が形成され、摺動面Sは気体潤滑の状態となり非常に低摩擦となる。同時に、スパイラル形状の動圧発生溝11により内周側の気体及びトラップ溝10内の液体が外周側に向けてポンピングされるため、トラップ溝10内の液体及び外周側の液体が内周側へ漏洩することが防止される。また、スパイラル形状の動圧発生溝11は外周側とはランド部Rにより隔離されているため、静止時において漏れが発生することがない。
【実施例3】
【0046】
図5を参照して、本発明の実施例3に係る摺動部品について説明する。
実施例3に係る摺動部品は、ダスト進入低減手段が、トラップ溝より漏れ側のランド部の表面に形成される半径方向傾斜溝を備える点で実施例1の摺動部品と相違するが、その他の基本構成は実施例1と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0047】
図5において、回転側密封環4の摺動面Sには、漏れ側に位置すると共に漏れ側とはランド部R7により隔離され、漏れ液をトラップするトラップ溝10−4が全周にわたり設けられている。また、回転側密封環4の摺動面Sには、トラップ溝10−4に連通され、被密封流体側には連通されないように構成された動圧発生溝11が設けられている。
【0048】
また、固定側密封環7の摺動面Sには、漏れ側に位置すると共に漏れ側とはランド部R8により隔離され、漏れ液をトラップするトラップ溝10−5が全周にわたり設けられている。固定側密封環7側のトラップ溝10−5は、回転側密封環4側のトラップ溝10−3とは径方向において同一の位置に配置されている。
【0049】
トラップ溝10−4及び10−5は、コンプレッサの非定常運転時の振動等により回転側密封環4及び固定側密封環7の摺動面Sの面開き時に非密封流体である液体の漏れが生じた場合、漏れ液を溜めるためのものであり、トラップ溝10−4及び10−5に溜められた漏れ液は、定常回転時に被密封流体側に戻される。
【0050】
図5(b)に示すように、固定側密封環7のランド部R8の表面には、トラップ溝10−5と漏れ側とを連通するように半径方向傾斜溝15が複数形成されている。この半径方向傾斜溝15は、
図5(b)において回転側密封環4が矢印で示すように反時計方向に回転されるとした場合、トラップ溝10−5を起点として反時計方向に傾斜するように形成される。このため、漏れ側から摺動面へ向けてダスト等の異物が入りにくくなっている。
また、半径方向傾斜溝15の断面形状を半径方向において変化させてもよく、例えば、漏れ側の断面の幅及び深さを小さくし、トラップ溝10−5側に向けてテーパ状に大きくしてもよい。
なお、半径方向傾斜溝15は固定側密封環7に限らず、回転側密封環4に形成されてもよく、また、両者に形成されてもよい。また、半径方向傾斜溝15は、全周に設けられてもよく、円周方向の一部分に設けられてもよい。
【0051】
本例においては、回転側密封環4のランド部R7の表面と固定側密封環7のランド部R8の表面とは、静止時において接するように形成されており、固定側密封環7のランド部R8の表面に半径方向傾斜溝15が形成されている。
本例においては、固定側密封環7のトラップ溝10−5より漏れ側のランド部R8の表面に形成される半径方向傾斜溝15がダスト進入低減手段を構成する。
【0052】
以上説明した実施例3の構成によれば、以下のような効果を奏する。
(1)回転側密封環4の摺動面Sには、漏れ側に位置すると共に漏れ側とはランド部R7により隔離され、漏れ液をトラップするトラップ溝10−4が全周にわたり設けられ、固定側密封環7の摺動面Sには、漏れ側に位置すると共に漏れ側とはランド部R8により隔離され、漏れ液をトラップするトラップ溝10−5が全周にわたり設けられ、一対の摺動部品である回転側密封環4及び固定側密封環7のトラップ溝10−4及び10−5より漏れ側のランド部R7、R7間には流体の通過は許容するが漏れ側からのダストの進入を低減するダスト進入低減手段である半径方向傾斜溝15が形成されることにより、装置の非定常運転時の振動等により回転側密封環4と固定側密封環7との摺動面が開いた場合でも漏れ液をトラップ溝10−4、10−5でトラップすることができ、漏れ側への液漏れを防止できると共に、漏れ側から摺動面にダストが進入するのを、一層、低減することができ、摺動面の摩擦及び漏れを低減することができる。
(2)回転側密封環4の摺動面Sには、トラップ溝10−4に連通され、被密封流体側には連通されないように構成された動圧発生溝11が設けられていることにより、定常運転等の回転側密封環4の高速回転状態において、内周側(漏れ側)の入口11aから気体を吸い込み、外周側の端部11b付近で動圧(正圧)を発生するため、回転側密封環4と固定側密封環7との摺動面Sに僅かな間隙が形成され、摺動面Sは気体潤滑の状態となり非常に低摩擦となる。同時に、スパイラル形状の動圧発生溝11により内周側の気体及びトラップ溝10内の液体が外周側に向けてポンピングされるため、トラップ溝10内の液体及び外周側の液体が内周側へ漏洩することが防止される。また、スパイラル形状の動圧発生溝11は外周側とはランド部Rにより隔離されているため、静止時において漏れが発生することがない。
【実施例4】
【0053】
図6を参照して、本発明の実施例4に係る摺動部品について説明する。
実施例4に係る摺動部品は、一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面に流体導入溝及び正圧発生機構が設けられる点で前記実施例と相違するが、その他の基本構成は前記実施例と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0054】
図6(a)において、回転側密封環4の摺動面Sには、該摺動面Sの被密封流体側、すなわち、外周側の周縁に連通し、漏れ側、すなわち、内周側の周縁には連通しないように構成された流体導入溝16が設けられている。
【0055】
流体導入溝16は、外周側の周縁に沿うように1個以上配設され、平面形状は略矩形状に形成され、摺動面Sの外周側の周縁において被密封流体側と連通し、内周側とはランド部R0により隔離されている。
【0056】
また、流体導入溝16の円周方向の下流側に連通して流体導入溝16より浅い正圧発生溝17aを備える正圧発生機構17が設けられている。正圧発生機構17は、正圧(動圧)を発生することにより摺動面間の流体膜を増加させ、潤滑性能を向上させるものである。
正圧発生溝17aは、上流側が流体導入溝16に連通し、外周側とはランド部R0により隔離されている。
本例では、正圧発生機構17は、上流側において流体導入溝16に連通する正圧発生溝17a及びレイリーステップ17bを備えたレイリーステップ機構から構成されるが、これに限定されることなく、要は、正圧を発生する機構であればよい。
図6(a)において、流体導入溝16及び正圧発生機構17のなす平面形状は略L字状をなしている。
【0057】
今、回転側密封環4が反時計方向に回転するとした場合、外周側の液体は略矩形状の流体導入溝16から摺動面に導入され、摺動面Sの潤滑を行うことができる。その際、正圧発生機構17により正圧(動圧)が発生されるため、摺動面間の流体膜が増大され、潤滑性能をさらに向上させることができる。
また、回転側密封環4が定常運転等の高速回転時において流体導入溝17から摺動面に導入された液体は遠心力により排出されるため、漏れ側である内周側に液体が漏洩することはない。
【0058】
図6(b)は、流体導入溝の形状が異なる点で
図6(a)と相違するが、その他は
図6(a)と同じである。
【0059】
図6(b)において、回転側密封環4の摺動面Sには、該摺動面Sの被密封流体側、すなわち、外周側の周縁に連通し、漏れ側、すなわち、内周側の周縁には連通しないように構成された流体導入溝18が設けられている。
【0060】
流体導入溝18は、外周側の周縁に沿うように配設され、摺動面Sの外周側の周縁にのみ連通する流体導入部18a及び流体導出部16b、並びにこれらを周方向に連通する流体連通部18cから構成され、内周側とはランド部R0により隔離されている。
本例では、流体導入部18a及び流体導出部18bは周方向において一定距離隔てて設けられ、それぞれ、径方向に直線状に延びているため、流体導入溝18の平面形状は略U字形をなしている。
【0061】
また、流体導入溝18と外周側とで囲まれる部分に流体導入溝18より浅い正圧発生溝17aを備える正圧発生機構17が設けられている。正圧発生機構17は、正圧(動圧)を発生することにより摺動面間の流体膜を増加させ、潤滑性能を向上させるものである。
正圧発生溝17aは、上流側が流体導入部18aに連通し、流体導出部18b及び外周側とはランド部R0により隔離されている。
本例では、正圧発生機構17は、上流側において流体導入溝18の流体導入部18aに連通する正圧発生溝17a及びレイリーステップ17bを備えたレイリーステップ機構から構成されるが、これに限定されることなく、要は、正圧を発生する機構であればよい。
【0062】
今、回転側密封環4が時計方向に回転するとした場合、外周側の液体は略U字形の流体導入溝18の流体導入部18aから摺動面に導入され、流体導出部18bから外周側に排出されるが、その際、起動時などの回転側密封環4の低速回転状態において摺動面Sの外周側に存在する液体が、積極的に摺動面Sに導入され、摺動面Sの潤滑を行うことができる。その際、正圧発生機構17により正圧(動圧)が発生されるため、摺動面間の流体膜が増大され、潤滑性能をさらに向上させることができる。
また、回転側密封環4が定常運転等の高速回転時において流体導入溝18から摺動面に導入された液体は遠心力により排出されるため、漏れ側である内周側に液体が漏洩することはない。
【0063】
図6(b)では、流体導入溝18の平面形状は略U字形に形成されているが、これに限らず、流体導入部18aと流体導出部18bとが内径側において交叉する形状、すなわち、略V字でに形成されてもよい。
【0064】
以上説明した実施例4の構成によれば、実施例1ないし3の効果に加えて以下のような効果を奏する。
回転側密封環4の摺動面Sには、該摺動面Sの被密封流体側、すなわち、外周側の周縁に連通し、漏れ側、すなわち、内周側の周縁には連通しないように構成された流体導入溝16または18が設けられることにより、起動時などの回転側密封環4の低速回転状態において摺動面Sの外周側に存在する液体が、積極的に摺動面Sに導入され、摺動面Sの潤滑を行うことができる。その際、正圧発生機構17により正圧(動圧)が発生されるため、摺動面間の流体膜が増大され、潤滑性能をさらに向上させることができる。
また、回転側密封環4が定常運転等の高速回転時において流体導入溝16または18から摺動面に導入された液体は遠心力により排出されるため、漏れ側である内周側に液体が漏洩することはない。
【0065】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0066】
例えば、前記実施例では、摺動部品をメカニカルシール装置における一対の回転用密封環及び固定用密封環のいずれかに用いる例について説明したが、円筒状摺動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸と摺動する軸受の摺動部品として利用することも可能である。
【0067】
また、例えば、前記実施例では、摺動部品の外周側を被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)、内周側を漏れ側(気体側)として説明したが、本発明はこれに限定されることなく、外周側が漏れ側(気体側)、内周側が被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)である場合も適用可能である。また、被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)と漏れ側(気体側)との圧力の大小関係については、例えば、被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)が高圧、漏れ側(気体側)が低圧、あるいは、その逆のいずれでもよく、また、両方の圧力が同一であってもよい。
【0068】
また、例えば、前記実施例では、動圧発生溝11がスパイラルグルーブである場合について説明したが、これに限定されることなく、レイリーステップと逆レイリーステップの組み合わせでもよく、要は、漏れ側の流体を吸い込んで動圧(正圧)を発生する機構であればよい。
【0069】
また、例えば、前記実施例4では、前記実施例1の摺動部品に流体導入溝を設ける場合について説明したが、これに限定されることなく、前記実施例2及び3の摺動部品にも適用できることはいうまでもない。