【文献】
The Journal of Antibiotics (1995) Vol.48, No.10, pp.1095-1103
【文献】
The Journal of Antibiotics (1995) Vol.48, No.11, pp.1240-1247
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、バチルス アミロリキファシエンス菌株及び該菌株を含む抗菌組成物に関する。以下に、本発明を詳細に説明する。
【0013】
(本発明のバチルス アミロリキファシエンス菌株)
本発明のバチルス アミロリキファシエンス菌株(別名:TOA5001株、以下で、「本発明の菌株」と称する場合がある)は、家畜糞便からの生菌分離で得た。
該菌株は、下記実施例で詳細に述べるが、多種の微生物、特にエドワジェラ タルダ、クロストリジウム パーフリンゲンス及び植物病害カビに対し顕著にその生育を阻止することを確認している。
該菌株は、16S rDNA配列において97%以上の相同性を示したこと、その生理生化学的性状からバチルス属細菌であると同定した。
さらに、16S rDNA、groEL、gyrA、polC、purH、rpoBのDNA配列に基づくMLST(Multi Locus Sequence Typing)解析及びDNA-DNA ハイブリダイゼーション試験の結果、該菌株はバチルス アミロリキファシエンスであると同定した(参照:
図1)。
本発明のバチルス アミロリキファシエンス菌株は、寄託番号NITE ABP−01844として寄託されている。
【0014】
本発明の菌株(細菌)の菌学的性質は、以下の通りである。
グラム陽性、桿菌、好気性、芽胞形成能、運動性あり。
栄養要求性は低く、肉汁培地、SCD 培地、ブレインハートインフュジョン培地等の多様な培地に生育できる。
寒天平板培地上においては、周辺がラフの円形、黄白色を呈する。さらに、培地の種類 (ブレインハートインフュジョン培地)によっては内部に粘性を持つ隆起したコロニーを形成する。
【0015】
本発明の菌株は、上記寄託した菌株に限定されるものではなく、バチルス アミロリキファシエンスに属し、下記で説明する抗菌リポペプチド(バシロマイシンLc)産出能を有し、かつ多種の微生物、特にエドワジェラ タルダ、クロストリジウム パーフリンゲンス及び植物病害カビに対し顕著にその生育を阻止する能力を有する限り、本発明の菌株として利用可能である。
すなわち、本発明のバチルス アミロリキファシエンス菌株は、寄託菌株自体はもちろん、上記した菌学的性質を有する菌株である変異体及び子孫まで意図する。なお、変異体作成方法は、従来公知の放射線照射及びニトロソグアニジン、エチルメタンスルホン酸、メチルメタンスルホン酸などの化学物質処理によって得ることができる。
さらに、本発明の菌株は、下記の実施例で示されたように、生体内(特に、哺乳類の体内)に投与されても毒性がない。
【0016】
(本発明の菌株が産出するペプチド)
本発明の菌株が産出するペプチド(特に、抗菌ペプチド)は、該菌株を培養して、カビであるアスペルギルス ニガーの生育抑制を指標にして、公知の方法(参照:Tetrahedron Lett. 23, 3065-3068)を基にして、分取し単離ピークとして得られた
図2中のピークX1〜X3、X5〜X7の濃縮物のいずれもが抗菌性を有することを確認した。
さらに、分取したこれらのピークより精製した化合物に対するアミノ酸組成分析では、いずれも(Asn+Asp):(Gln+Glu):Ser:Tyr:Thr=2:1:2:1:1の組成比であることを確認し、さらに質量分析により、精製化合物それぞれの分子量及び分子式を得た(参照:
図3〜9)。
上記の結果、並びに、過去の報告{参照:J Antibiot (Tokyo). 1995 Oct;48(10):1095-103、薬学雑誌 122, 651-671、J Antibiot (Tokyo). 1995 Nov;48(11):1240-7}を基にして、本発明の菌株が産出するペプチドは、バシロマイシンLc(バチロペプチン、参照;下記の化学式1)であることを同定した。
【0017】
【化1】
β―AAは、C
14〜C
17からなる側鎖構造である。
【0018】
(本発明の菌株の培養及び該菌株が産出するペプチドの培養)
本発明の菌株は、炭素源及び窒素源、さらに必要に応じて無機塩類を含む栄養培地に接種後、好気条件下で培養(例えば、振盪培養、通気撹拌培養)することにより、菌体を得ることができると同時に培地中にバシロマイシンLcが産生される。
培養液の場合は、濃縮させていない培養液のままでエドワジェラ タルダ、クロストリジウム パーフリンゲンス又は植物カビ病原菌の生育を抑制し、フィルター除菌後の培養液又はこれらの凍結乾燥若しくは噴霧乾燥後においても同等の活性を有する。
固体培養の場合は、本発明の菌株が生育した固体そのもの又はその混合物 (例えば、別の固体との接触又は混合物、又は本発明の菌株生育固体を浸漬した液体) を用いることでエドワジェラ タルダ、クロストリジウム パーフリンゲンス又は植物カビ病原菌の生育を抑制することができる。ここで、固体とは、本発明の菌株が生育できるものならばいずれでもよいが、例えば、寒天培地、サイレージ、納豆等の原料となる植物体、ヨーグルトに代表される凝乳を意味する。
【0019】
炭素源としては、本発明の菌株が利用できるものならばいずれでもよく、好ましくはグルコース、シュークロース、デンプン類、セルロース混合物、その他の炭水化物を使用するのがよい。
窒素源としては、本発明の菌株が利用できるものならばいずれでもよいが、好ましくはペプトン、酵母エキス、肉汁エキスなどを使用するのがよい。
さらに、必要に応じて、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機塩類を培地に添加してもよい。
なお、本発明の菌株は、市販培地、例えばトリプトソイ培地、ブレインハートインフュジョン培地、肉汁培地に接種しての液体又は平板培養で生育可能である。
液体培養において少量で培養する場合は、試験管又はフラスコを用いる振盪培養が好ましい。大量に培養する場合は、他の発酵生産物の場合と同様に、通気撹拌培養するのが好適である。また、培養を大きなタンクで行う場合、はじめに前培養として比較的少量の培地に本発明の菌株を接種培養した後、次に培養物を大きな生産タンクに移してそこで生産培養するのが好ましい。この場合、前培養に使用する培地及び生産培養に使用する培地の組成は、両者同一であってもよいし、必要ならば両者を変えてもよい。
培養条件としては、本発明の菌株が生育する範囲内で適宜変更しうるが、通常は好気条件下にて15〜45℃、好ましくは25℃〜37℃で培養するのがよい。培養時間は、培養条件や培養量によっても異なるが、通常は約1日〜1週間である。
【0020】
(本発明の菌株が産出するペプチドの精製方法)
上記培養によって産生されたバシロマイシンLcは、酸沈殿、ブタノール抽出、イオン交換樹脂又はゲル濾過等の公知の方法によって精製される。
必要に応じて、これらの精製法を一種用いるだけでもよいし、複数を組み合わせてもよい。さらには、同様の原理に基づく他の精製法であってもよい。また、ODSカラムを用いたHPLCによって、バシロマイシンLcの側鎖の違いに伴う保持時間の差異を利用した分取が可能である。
【0021】
(本発明の菌株の回収方法)
本発明の菌株を、上記培養によって得た培養液からは遠心分離及び/又は膜濃縮によって回収できる。回収した菌体をそのまま用いても良いし、必要に応じて凍結乾燥又は噴霧乾燥にかけた乾燥菌体を用いても良い。
【0022】
(本発明の組成物の投与方法)
本発明の菌体を使用する場合は、所望の効果が発揮できる範囲内の濃度ならばいずれでもよいが、例えば、家畜への投与において、本発明の菌株が1キログラムあたり10
5〜10
9CFU (Colony forming unit) となるよう添加した飼料の給餌で好ましい。
牧草、豆類、米、デントコーン、アルファルファ、ルーサン、及び乾草、または食物残渣やおからなどが利用されるサイレージにおいては、特に開封してからの再貯蔵の際の好気性条件下での真菌等の増殖、即ち二次発酵による発熱や変敗等の品質低下が問題となるが、サイレージの劣化を防ぐため真菌の発生を抑制するには、下記実施例より、本発明の菌株を乾草1gあたり約10万〜100万個存在する濃度で運用することが好ましい。
本発明の組成物の投与時期、投与方法及び投与量は特に限定されないが、通常、配合飼料に配合するか、混餌で投与すればよい。
例えば、配合飼料に配合する場合や混飼で投与(給与)する場合の投与(給与)量は0.005%〜1%(0.001g〜10.0g/1日)である。
【0023】
(本発明のエドワジェラ症治療組成物)
本発明のエドワジェラ症治療組成物は、少なくとも、本発明の菌体(菌株も含む)、該菌体の培養物、及び/又はバシロマイシンLcを含み、エドワジェラ症の治療効果(予防、抑制、軽減、緩和及び完治を含む)を有する。
なお、エドワジェラ症とは、エドワジェラ タルダ(Edwardsiella tarda)感染を原因とする魚類の感染症である。
本発明のエドワジェラ症治療組成物の投与対象は、特に限定されないが、魚類、特に養殖魚(タイ、ヒラメ、ハマチ、アユ、ウナギ、マグロ)を対象とする。
本発明のエドワジェラ症治療組成物の投与量は、特に限定されないが、例えば、配合飼料へ0.2%〜1%添加し投与することが望ましい。
【0024】
(本発明のクロストリジウム症治療組成物)
本発明のクロストリジウム症治療組成物は、少なくとも、本発明の菌体(菌株も含む)、該菌体の培養物、及び/又はバシロマイシンLcを含み、クロストリジウム症の治療効果(予防、抑制、軽減、緩和及び完治を含む)を有する。
なお、クロストリジウム症とは、クロストリジウム パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)感染を原因とする、家畜の腸炎等であり、特に、採卵鶏、ブロイラー、養豚で重大な被害を起こしている。
本発明のクロストリジウム症治療組成物の投与対象は、特に限定されないが、ヒトを除く動物(特に、哺乳動物)であるが、例えば、豚、犬、猫、魚、鶏(特に、雛、ブロイラー、採卵鶏)、乳牛、肉牛、F1(ホルスタインと和牛との交配種)等の肥育牛、搾乳牛、馬、マウスである。
本発明のクロストリジウム症治療組成物の投与量は、特に限定されないが、例えば、配合飼料へ0.005%〜1%添加し投与することが望ましい。
である。
【0025】
(本発明の家畜の生産性向上組成物)
本発明の家畜の生産性向上組成物は、少なくとも、本発明の菌体(菌株も含む)、該菌体の培養物、及び/又はバシロマイシンLcを含み、日増体量、飼料要求率、及び/又は腹腔内脂肪/体重の比率の向上により家畜の生産性を向上させることができる。
本発明の家畜の生産性向上組成物の投与対象は、特に限定されないが、ヒトを除く動物(特に、哺乳動物)であるが、例えば、豚、犬、猫、魚、鶏(特に、雛、ブロイラー、採卵鶏)、乳牛、肉牛、F1(ホルスタインと和牛との交配種)等の肥育牛、搾乳牛、馬、マウスである。
本発明の家畜の生産性向上組成物の投与量は、特に限定されないが、例えば、配合飼料へ0.005%〜1%添加し投与することが望ましい。
【0026】
(植物病害カビ予防組成物)
本発明の植物病害カビ予防組成物は、少なくとも、本発明の菌体(菌株も含む)、該菌体の培養物、及び/又はバシロマイシンLcを含み、植物病害カビの予防効果(治療、抑制、軽減、緩和及び完治を含む)を有する。
本発明の植物病害カビ予防組成物の投与対象(塗布対象)は、特に限定されないが、植物、食品(サイレージ)、動物である。
本発明の植物病害カビ予防組成物の投与量(塗布量)は、特に限定されないが、例えば、サイレージの植物病害カビ予防に使用する場合には、本発明の菌体を乾草1gあたり約10万〜約1000万、好ましくは約100万個存在する濃度に調整するため、乾草へ0.0004%〜0.02%添加するような形態が望ましい。
【0027】
(本発明の組成物の用途)
本発明の組成物の用途は、以下の通りである。
(1)エドワジェラ症治療
(2)クロストリジウム症治療
(3)家畜の生産性向上
(4)植物病害カビ予防
(5)動物用飼料、飼料添加物及び飲料水
加えて、本発明は、動物用医薬品、飼料、飼料添加物又は飲料水、並びに/又は、本発明の組成物を、ヒトを除く動物に投与することを特徴とするエドワジェラ症、クロストリジウム症、及び/又は植物病害カビを予防、抑制、軽減、緩和、及び/又は治療しながらヒトを除く動物を飼育する方法も対象とする。
特に、本発明の組成物には、上記用途を有する医薬、動物医薬、飲食品、飼料添加物、飼料(配合飼料、混合飼料)が広く包含される。
また、本発明の組成物を、デンプン、馬鈴薯澱粉、乳糖、大豆蛋白等の担体、賦形剤、結合材、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、懸濁剤等の添加剤を配合して、周知の方法で粉剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、軟膏、液剤等に製剤化することができる。
【0028】
以下に具体例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【実施例1】
【0029】
(本発明の菌株の培養及び該菌株が産出するバシロマイシンLcの精製)
本発明の菌株を培養して、さらに培養した菌株が産出したバシロマイシンLcを精製した。詳細は、以下の通りである。
【0030】
本発明の菌株であるバチルス アミロリキファシエンスTOA5001株を、ブレインハートインフュジョン培地に2%のペプトン及び酵母エキスを添加した前培養用培地に、接種し、30℃にて16時間振盪培養して、前培養後の培養液を得た。
次に、該前培養後の培養液を、4%のグルコース、3%のペプトン及び2%の酵母エキスを含む本培養培地に、接種し、30℃〜37℃にて2〜3日間振盪培養して、本培養後の培養液を得た。該本培養後の培養液から、14000×g 20分間の遠心分離にて菌体及び培養上清を得た。
該菌体は、凍結乾燥にかけ、乾燥粉末として、以下の実施例に使用した。
該培養上清からのバシロマイシンLc精製として、まず、酸沈殿として、塩酸でpH2に調整した培養上清を4℃にて12時間静置しバシロマイシンLcを含む沈殿を得た。該沈殿を、ろ紙上に回収し、これをメタノールにて再溶解させたものを粗精製バシロマイシンLcとして得た。粗精製バシロマイシンLcを、ロータリーエバポレーターにて乾固させ、その後40%アセトニトリルと水からなる移動相に溶解させたものを分取用サンプルとして、ODSカラムを装着したHPLCシステムにて分取した。その後、ロータリーエバポレーター又は凍結乾燥機にて乾燥させた分取成分を精製バシロマイシンLcとして得た。この精製バシロマイシンLcは質量分析で十分な結果が得られる純度であることを確認した。
以上により、本発明の菌株の乾燥粉末の菌体及び本発明の菌株が産出する精製したバシロマイシンLcを得た。
【実施例2】
【0031】
(本発明の菌体の毒性確認)
本発明の菌株であるバチルス アミロリキファシエンス TOA5001株の生体内毒性を単回経口投与毒性試験及び継続経口投与毒性試験により確認した。詳細は、以下の通りである。
【0032】
(単回投与毒性試験)
実施例1で得た乾燥菌体についてGLPに準拠した単回経口投与毒性試験を実施した。詳しくは、6週齢SDラット雌雄を、それぞれ5匹からなる群として、対照群(コーンスターチ投与)、低用量群(ラットの体重1キログラムあたり3X10
8CFUの投与)、中用量群(同3X10
9CFUの投与)及び高用量群(同3X10
10CFUの投与)に対し、投与後15日間観察した。
【0033】
(単回投与毒性試験結果)
全群において死亡例及び剖検所見の異常は認められず、雌及び雄それぞれの体重も群間の有意差はなかった。
【0034】
(継続経口投与毒性試験)
上記単回経口投与毒性試験の結果に基づき、4週齢SD雄ラットを、それぞれ、4匹からなる群として、対照群 (コーンスターチ投与)及び投与群 (本発明の乾燥菌体を1匹あたり1X10
8CFU投与)に対し、10日間毎日投与した。
【0035】
(継続経口投与毒性試験結果)
全群において死亡例及び剖検所見の異常は認められず、体重増加は対照群と有意差がないこと、日ごとに全糞便を回収し培養法にて測定した投与した菌株数は、投与期間を通じて投与量とほぼ同じ1X10
8前後で検出されることを確認した(参照:
図10)。
【0036】
以上の試験結果より、本発明の菌株を生体内(特に、哺乳類の生体内)に投与しても毒性がないことを確認した。
【実施例3】
【0037】
(エドワジェラ症治療効果の確認)
本発明の菌体が、エドワジェラ症治療効果を有するかを確認した。より詳しくは、本発明の菌体が、エドワジェラ症の病原菌であるエドワジェラ タルダに対する抗菌活性を有するかどうか、さらには、公知のバチルス アミロリキファシエンスとの抗菌活性を比較した。
【0038】
(本発明の菌体によるエドワジェラ タルダに対する抗菌活性の確認)
抗エドワジェラ タルダ活性を以下の手法で確認した。
ブレインハートインフュジョン(BHI)液体培地に接種後30℃にて16時間振盪培養した本発明の菌株をBHI平板培地の中央に画線塗抹培養後、その周囲に同条件で培養したエドワジェラ タルダSU226株、SU53株又はNUF806株を塗抹し好気条件30℃で培養した。
培養結果を
図11に示す。
図11から明らかなように、それぞれのエドワジェラ タルダ株に対する明瞭な抑止円がバチルス アミロリキファシエンスTOA5001株の周囲に形成された。
【0039】
(本発明の菌体と公知のバチルス アミロリキファシエンスとの抗菌活性の比較)
本発明の菌体の抗菌活性を、同種他菌株の抗菌活性と比較した。詳細は、以下の通りである。
【0040】
特許番号3560653に記載のバチルス アミロリキファシエンス IAM1523株(現在のJCM20197株)等のバチルス アミロリキファシエンス各菌株を菌株保存機関より入手し、いずれの菌株も実施例1に記載の方法に従い、同一の培養条件で培養した。
本培養開始から38時間、48時間、及び60時間後の時点で、バチルス アミロリキファシエンス各菌株の培養液を採取し、15000xg の遠心分離後、0.45μmのフィルターで除菌ろ過した除菌培養上清を力価試験に供した。
力価試験では、除菌培養上清を等量の滅菌水で順次希釈し2倍希釈系列とした溶液を調製した。一方、エドワジェラ タルダ用力価試験培地として2倍濃度のTSI液体培地(調製時にろ紙にて寒天を除去したもの)を用意した。2倍濃度のTSI液体培地にエドワジェラ タルダ SU53株を接種後、即座に上述の除菌培養上清2倍希釈系列溶液と等量混合し、30℃好気条件にて静置培養した。
培養後の力価評価において、除菌培養上清の2倍希釈系列のうちエドワジェラ タルダ SU53株の生育を抑止した最大の希釈倍率を本実験における便宜上の力価としてバチルス アミロリキファシエンス 各菌株の抗エドワジェラ タルダ活性を定量数値化した(エドワジェラ タルダの生育に伴い、TSI培地は当初の赤橙色から黄変し、更には産生する硫化水素によって黒みを帯びる。観察時、培地が当初の赤色のままであった場合をエドワジェラ タルダの生育を抑止したと判断した。観察例として、除菌培養上清の4倍希釈液迄は赤橙色であったが8倍希釈液では濁りのある黄色を呈していた場合、4倍希釈液がエドワジェラ タルダの生育を抑止できる最小濃度として力価4とした)。
【0041】
力価試験の結果を
図12に示す。
図12から明らかなように、本発明の菌株の抗菌活性は、従来のバチルス アミロリキファシエンスの抗菌活性と比較して、38時間では少なくとも16倍(16/1)、48時間では少なくとも16倍(32/2)及び60時間では少なくとも32倍(64/2)であることを確認した。
【実施例4】
【0042】
(クロストリジウム症治療効果の確認)
本発明の菌体が、クロストリジウム症治療効果を有するかを確認した。より詳しくは、本発明の菌体が、クロストリジウム症の病原菌であるクロストリジウム パーフリンゲンスに対する抗菌活性を有するかどうか、さらには、公知のバチルス アミロリキファシエンスとの抗菌活性を比較した。
【0043】
(本発明の菌体によるクロストリジウム パーフリンゲンスに対する抗菌活性の確認)
抗クロストリジウム活性を以下の手法で確認した。
ブレインハートインフュジョン(BHI)液体培地に接種後30℃にて16時間振盪培養した本発明の菌株をBHI平板培地の中央に画線塗抹し好気培養した後、その周囲にBHI液体培地にて37℃にて16時間嫌気培養したクロストリジウム パーフリンゲンス ATCC13124株を塗抹し嫌気条件37℃で培養した。
培養結果を
図13に示す。
図13から明らかなように、クロストリジウム パーフリンゲンス株に対する明瞭な抑止円がバチルス アミロリキファシエンス TOA5001株の周囲に形成された。
【0044】
(本発明の菌体と公知のバチルス アミロリキファシエンスとの抗菌活性の比較)
本発明の菌体の抗菌活性を、同種他菌株の抗菌活性と比較した。詳細は、以下の通りである。
【0045】
バチルス アミロリキファシエンス各菌株を菌株保存機関より入手し、いずれの菌株も実施例1に記載の方法に従い同一の培養条件で培養した。本培養開始から48時間及び60時間後の時点でバチルス アミロリキファシエンス各菌株の培養液を採取し、15000xg の遠心分離後、0.45μmのフィルターで除菌ろ過した除菌培養上清を力価試験に供した。
力価試験では、除菌培養上清を等量の滅菌水で順次希釈し2倍希釈系列とした溶液を調製した。一方、クロストリジウム パーフリンゲンス用力価試験培地として2倍濃度のGAM液体培地を用意した。2倍濃度のGAM液体培地にクロストリジウム パーフリンゲンス ATCC13124株を接種後、即座に上述の除菌培養上清2倍希釈系列溶液と等量混合し、嫌気条件37℃にて静置培養した。
培養後の力価評価として、除菌培養上清の2倍希釈系列のうちクロストリジウム パーフリンゲンス ATCC13124株の生育を抑止した最大の希釈倍率を当該実験における便宜上の力価として定義し、バチルス アミロリキファシエンス 各菌株の抗クロストリジウム パーフリンゲンス活性を定量数値化した。
【0046】
力価試験の結果を
図14に示す。
図14から明らかなように、本発明の菌株の抗菌活性は、従来のバチルス アミロリキファシエンスの抗菌活性と比較して、48時間では少なくとも8倍以上(128/16)及び60時間では少なくとも5.6倍以上(90/16)倍であることを確認した。
【実施例5】
【0047】
(家畜のクロストリジウム汚染低減および生産性向上の確認)
本発明の菌体が、家畜のクロストリジウム感染汚染を低下させ、さらに生産性を向上させるかどうかを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0048】
試験区として、抗コクシジウム剤投与区、生ワクチン投与区、本発明の菌株投与区及び対照区を各区18羽にて設けた。いずれの区もブロイラーの飼育開始から共通の組成の飼料を給餌したが、抗コクシジウム剤投与区では飼料にサリノマイシン 50ppmを含有させ、本発明の菌株投与区ではバチルス アミロリキファシエンス TOA5001株を飼料1gあたり2×10
5となるよう含有させた。また、生ワクチン投与区では日生研鶏コクシ弱毒3価生ワクチン(TAM)(アイメリア テネラ、アイメリア アッセルブリーナ、アイメリア マキシマによる鶏コクシジウム症の発症抑制)を生後5日目に投与した。
全区共通の作業として、ブロイラーの28日齢時、各区18羽のうち10羽に対しコクシジウムの強制投与、即ちアイメリア テネラ及びアイメリア マキシマそれぞれ5×10
3を経口投与した。コクジジウムを投与した10羽のうち5羽を36日齢時に、残りの5羽を49日齢時に評価した。
【0049】
試験結果を
図15に示す。
0〜28日齢における日増体量及び飼料要求率に関して、本発明の菌株投与区は、他のいずれの区と比較して、優れていた。
コクシジウムを強制投与しなかった各試験区の0〜49日齢における飼料効率に関して、本発明の菌株投与区は、他のいずれの区と比較して、同等又は優れていた。
コクシジウムを28日齢時に強制投与した各試験区の0〜49日齢における日増体重に関して、本発明の菌株投与区は、他のいずれの区と比較して、優れていた。
盲腸内容物中のアイメリアのオーシスト数に関し、本発明の菌株投与区は、他のいずれの区と比較して、優れていた。
盲腸の組織評価スコアに関し、本発明の菌株投与区は、他のいずれの区と比較して、同等又は優れていた。
小腸及び大腸のクロストリジウム パーフリンゲンスの菌数に関し、本発明の菌株投与区のみ検出限界以下であった。
体重に占める腹腔内脂肪の比率に関し、本発明の菌株投与区は、他のいずれの区と比較して、優れていた。これは可食部の割合が高いことを意味している。
以上より、本発明の菌株は、クロストリジウム症治療効果(クロストリジウム パーフリンゲンス汚染の低減効果)だけでなく、日増体量、飼料要求率及び腹腔内脂肪の比率の向上により、家畜の生産性を向上させることを確認した。
【実施例6】
【0050】
(植物病害カビ予防効果の確認)
本発明の菌体が、植物病害カビ予防効果を有するかを確認した。より詳しくは、本発明の菌体が、植物病害カビの病原菌である各菌に対する抗菌活性を有するかどうか、さらには、公知のバチルス アミロリキファシエンスとの抗菌活性を比較した。
【0051】
(植物病害カビの病原菌である各菌に対する抗菌活性の確認)
ブレインハートインフュジョン(BHI)液体培地に接種後30℃にて16時間振盪培養した本発明の菌株をBHI平板培地の中央に画線塗抹培養後、その周囲に同条件で培養したアスペルギルス ニガー ATCC16404株、フザリウム オキシスポラム 87573株、フザリウム ニベール 87253株又はジベレラ ゼアエ JCM9873株を塗抹し好気条件30℃で培養した。
培養結果を
図16に示す。
図16から明らかなように、それぞれのカビに対する明瞭な抑止円、特にアスペルギルス ニガーに対しては培地周縁に至るまでの抑止円がバチルス アミロリキファシエンス TOA5001株の周囲に形成された。
【0052】
(本発明の菌体と公知のバチルス アミロリキファシエンスとの抗菌活性の比較)
抗植物病害カビ活性を以下の手法で確認した。
バチルス アミロリキファシエンス各菌株を菌株保存機関より入手し、いずれの菌株も実施例1に記載の方法に従い同一の培養条件で培養した。本培養開始から48時間、及び60時間後の時点でバチルス アミロリキファシエンス各菌株の培養液を採取し、15000xg の遠心分離後、0.45μmのフィルターで除菌ろ過した除菌培養上清を下記の力価試験に供した。
力価試験では、除菌培養上清を等量の滅菌水で順次希釈し2倍希釈系列とした溶液を調製した。一方、カビ用力価試験培地として2倍濃度のPDA液体培地(調製時にろ紙にて寒天を除去したもの)を用意した。2倍濃度のPDA液体培地にアスペルギルス ニガー ATCC16404株を接種後、即座に上述の除菌培養上清2倍希釈系列溶液と等量混合し、好気条件30℃にて静置培養した。
培養後の力価評価として、除菌培養上清の2倍希釈系列のうちアスペルギルス ニガー ATCC16404株の生育を抑止した最大の希釈倍率を当該実験における便宜上の力価として定義し、バチルス アミロリキファシエンス 各菌株の抗カビ活性を定量数値化した。
【0053】
力価試験の結果を
図17に示す。
図17から明らかなように、本発明の菌株の抗菌活性は、従来のバチルス アミロリキファシエンスの抗菌活性と比較して、38時間では少なくとも32倍(32/1)、48時間では少なくとも64倍(64/1)及び60時間では少なくとも32倍(32/1)倍であることを確認した。
【実施例7】
【0054】
(サイレージ中の植物病害カビ予防効果の確認)
本発明の菌体が、サイレージ中の植物病害カビ予防効果を確認した。詳細は、以下の通りである。
【0055】
試験用の牧草として、60〜70%程度の水分に予乾したイタリアンライグラスを使用した。基本的な動作として保存用のガラス瓶に、約1kgのイタリアンライグラスを秤りとった。牧草をガラス容器内に詰め込む際には細い木製の丸太などを用い、空気が入らないように密集するように実施した。ガラス管を中央に突き刺したゴム栓をガラス瓶に密栓した。ガラス管の上部にはゴム管を装着し上部はクリップで密封した。ゴム管の中央部には、ナイフで上下2cmほどに切れ目を入れ内部から発生するガス排出口を作成した。
試験区として、本発明の菌株乾燥粉末をイタリアンライグラス1kgに対し1%の割合で混合した。この際、乾草1gあたりには本発明の菌株は約100万個存在していた。対象区として本発明の菌株乾燥粉末に使用した賦形剤と同じバレイショデンプンをイタリアンライグラス1kgに対して1%添加した。
試験品は25℃の培養器内に保管し、10日間後にゴム栓を外し、ガラス瓶内の試料をすべて新聞紙の上に出し再度、ガラス瓶に詰め直した。再度ゴム栓を装着し、密栓し再度25℃にて保管した。さらに10日間保存した後、すべての試料を出し、真菌の含有数を測定した。真菌の測定には、ポテトデキストロース寒天培地を用い、25℃で7日間培養し真菌の出現集落を計測し菌数を算出した。
【0056】
上記菌数の算出結果として、カビの菌数として対象区では1gあたり平均200個以上であったのに対し、本発明の菌株含有試料では、1gあたり10個であった。
以上により、本発明の菌株が、サイレージ中のカビの発生を抑制する作用があることが確認され、サイレージの二次発酵を抑制させる添加物としての有用性がある。
【実施例8】
【0057】
(本発明の菌株による同時培養でのカビに対する抗菌活性の確認)
本発明の菌株を予め培養しているのではなく、カビと同時に接種した状況下であってもカビを抑制できるかを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0058】
邪魔板付フラスコにて調製したブレインハートインフュジョン(BHI)液体培地にフザリウム オキシスポラム 87573株又はフザリウム ニベール 87253株を接種すると同時に本発明の菌株を接種した試験群、各カビのみを接種した対照群を設け、好気条件30℃にて振盪培養した。
振盪培養2日後に培養液を採取し、滅菌水で順次希釈した10倍希釈系列溶液を用いてMPN菌数試験に供した。カビ用MPN試験培地として各希釈段階に対し5本用意した2倍濃度のPDA液体培地(調製時にろ紙にて寒天を除去した後、カビのみを生育させるためクロラムフェニコールを添加したもの)に対し、上述の培養液の10倍希釈系列溶液を等量混合後、好気条件30℃にて静置培養した。
【0059】
フザリウム オキシスポラム 87573株に関し、当該菌株のみを接種し培養した対照群では培養液1mlあたり1.6×10
10より多い菌数となったのに対し、当該菌株及び本発明の菌株を同時接種し培養した試験群では培養液1mlあたり7.0×10
3の菌数となり、当該カビの菌数は本発明の菌株の共存によって少なくとも100万分の一以下に低減されることが確認された。
フザリウム ニベール 87253株に関し、対照群では培養液1mlあたり9.2×10
9の菌数となったのに対し、試験群では培養液1mlあたり7.9×10
3の菌数となり、当該カビの菌数は本発明の菌株の共存によって少なくとも100万分の一以下に低減されることが確認された。
以上により、本発明の菌株は、病原菌と同時に培養しても、該病原菌の生育を顕著に阻害できることを確認した。
【実施例9】
【0060】
(本発明の菌株による同時培養でのエドワジェラ タルダに対する抗菌活性の確認)
本発明の菌株を予め培養しているのではなく、エドワジェラ タルダと同時に、しかもエドワジェラ タルダの方がより多い菌数となるよう接種した状況下であってもエドワジェラ タルダを抑制できるかを確認した。詳細は、以下の通りであり、本実施例にて示される菌数は全てMPN菌数試験法にて算出した。
【0061】
邪魔板付フラスコにて調製した海水ミネラル添加サブロー液体培地にヒラメ腎臓より分離したエドワジェラ タルダ NUF806株を培地1mlあたり1.3×10
6(MPN菌数試験法換算)となるよう接種すると同時に本発明の菌株を培地1mlあたり1.7×10
4(以下、BA少数群)、1.7×10
2(以下、BA最少数群)又は無接種(以下、対照群)を設け、好気条件25℃にて振盪培養した。
振盪培養24、48、72時間後に培養液を採取し、滅菌生理食塩水で順次希釈した10倍希釈系列溶液を用いてMPN菌数試験に供した。エドワジェラ タルダ用MPN試験培地として各希釈段階に対し5本用意した2倍濃度のTSI液体培地(調製時にろ紙にて寒天を除去した後、エドワジェラ タルダのみを生育させるためバンコマイシンを添加したもの)に対し、上述の培養液の10倍希釈系列溶液を等量混合後、好気条件37℃にて静置培養した。
【0062】
エドワジェラ タルダ NUF806株のみを接種した対照群での培養液1mlあたりの菌数は、振盪培養24時間後で既に1.4×10
9に達し、48時間後で2.2×10
9、72時間後で7.0×10
9と漸次的に増加した。
一方、初期菌数においてエドワジェラ タルダの1%程度の菌数を接種したBA少数群での培養液1mlあたりのエドワジェラ タルダ NUF806株菌数は、振盪培養24時間後で2.0×10
5未満に減り、48時間後で80、72時間後で検出限界の20未満にまで減少した。
さらに、初期菌数においてエドワジェラ タルダの0.01%程度の菌数を接種したBA最少数群での培養液1mlあたりのエドワジェラ タルダ NUF806株菌数は、振盪培養24時間後で1.3×10
7となったが、48時間後で1300と顕著に減少し、72時間後で330とさらに減少した。
以上により、初期菌数の相対比において、本菌株の接種菌数がエドワジェラ タルダの1%程度の場合であれば、48時間後にはエドワジェラ タルダの菌数は検出限界近くまで減少すること(同時期の対照群に比べて2000万分の一以下の菌数)、また、0.01%程度にしか過ぎない場合であっても、エドワジェラ タルダの菌数は72時間のうちに顕著に減少すること(同時期の対照群に比べて2000万分の一以下の菌数)を確認した。
【0063】
(結論)
以上の実施例から、本発明の菌体(菌株)又は本発明の抗菌組成物は、以下の効果を有することを確認した。
(1)生体内に投与しても毒性がない。
(2)公知のバチルス アミロリキファシエンスと比較して、顕著なエドワジェラ タルダに対する抗菌活性。
(3)公知のバチルス アミロリキファシエンスと比較して、顕著なクロストリジウム パーフリンゲンスに対する抗菌活性。
(4)公知のバチルス アミロリキファシエンスと比較して、顕著な植物病害カビに対する抗菌活性。
(5)家畜の生産性の向上。
(6)サイレージ中の植物病害カビ予防効果。
(7)病原菌(例えば、カビ、エドワジェラ タルダ)と同時に培養しても、該病原菌の生育を顕著に阻害できる。