特許第6595877号(P6595877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トリニティ工業株式会社の特許一覧

特許6595877加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置
<>
  • 特許6595877-加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置 図000002
  • 特許6595877-加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置 図000003
  • 特許6595877-加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置 図000004
  • 特許6595877-加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置 図000005
  • 特許6595877-加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置 図000006
  • 特許6595877-加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置 図000007
  • 特許6595877-加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置 図000008
  • 特許6595877-加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置 図000009
  • 特許6595877-加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置 図000010
  • 特許6595877-加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置 図000011
  • 特許6595877-加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6595877
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20191010BHJP
   B29C 45/16 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   B29C45/14
   B29C45/16
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-199117(P2015-199117)
(22)【出願日】2015年10月7日
(65)【公開番号】特開2017-71117(P2017-71117A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110343
【氏名又は名称】トリニティ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 征弘
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−000988(JP,A)
【文献】 特開2015−003389(JP,A)
【文献】 特開平06−092091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C45/14,45/16
B44C1/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柄層上にクリアコート層を有する加飾層を成形品の被加飾面上に設けてなる加飾部品を製造する方法であって、
剥離層を介して基材フィルムに印刷された前記加飾層の前記柄層側にレーザを照射して前記柄層に凹部を形成することにより、前記加飾層を加飾する凹部形成工程と、
前記凹部形成工程後、前記凹部が形成された前記加飾層を有する前記基材フィルムを成形型内に配置した状態で前記成形品となる材料を前記成形型内に流し込んでインモールド成形を行うことにより、前記柄層が前記被加飾面に付着して前記加飾層が前記成形品に一体化されるとともに、前記成形品の一部が前記凹部に充填された前記加飾部品を得るインモールド成形工程と、
前記インモールド成形工程後、前記基材フィルムから前記加飾層が一体化された前記成形品を剥離すると同時に、前記基材フィルムに印刷された前記加飾層において前記被加飾面からはみ出した余剰部分を、前記加飾層が一体化された前記成形品から分離して前記基材フィルムに残す剥離工程と
を含むことを特徴とする加飾部品の製造方法。
【請求項2】
前記インモールド成形工程前に、前記剥離層を介して前記基材フィルムに印刷された前記加飾層の前記柄層側にレーザを照射することにより、前記柄層において前記被加飾面に付着する領域の外形線に沿って切込部を形成する切込部形成工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の加飾部品の製造方法。
【請求項3】
前記切込部形成工程では、前記柄層を貫通して前記クリアコート層の一部を除去するものの、前記クリアコート層を貫通しない前記切込部を形成することを特徴とする請求項2に記載の加飾部品の製造方法。
【請求項4】
前記凹部形成工程において、前記柄層を貫通して前記クリアコート層の一部を除去する前記凹部を形成する場合、前記切込部の形成に用いるレーザと同じ波長のレーザを用いて前記凹部を形成することを特徴とする請求項3に記載の加飾部品の製造方法。
【請求項5】
前記剥離層及び前記基材フィルムを残した状態で前記柄層と前記クリアコート層とを除去する場合に用いられるレーザは、COレーザであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の加飾部品の製造方法。
【請求項6】
前記剥離層及び前記基材フィルムを残した状態で、前記柄層を除去するものの、前記クリアコート層を除去しない場合に用いられるレーザは、波長が0.5μm以上1.1μm以下のレーザであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の加飾部品の製造方法。
【請求項7】
柄層上にクリアコート層を有する加飾層を成形品の被加飾面上に設けてなる加飾部品を製造する装置であって、
前記加飾層が剥離層を介して印刷された基材フィルムを連続的に繰り出すフィルム繰出ロールと、
前記フィルム繰出ロールから繰り出された前記基材フィルムに印刷された前記加飾層の前記柄層に対して凹部を形成するためにレーザを照射するレーザ照射装置と、
前記柄層に前記凹部が形成された前記基材フィルムを配置した状態で前記成形品となる材料を流し込んでインモールド成形を行うことにより、前記柄層が前記被加飾面に付着して前記加飾層が前記成形品に一体化されるとともに、前記成形品の一部が前記凹部に充填された前記加飾部品を得る成形型と
を備えることを特徴とする加飾部品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柄層上にクリアコート層を有する加飾層を成形品の被加飾面上に設けてなる加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装部品などでは、デザイン性や品質を高めるために樹脂成形品の外表面(被加飾面)に装飾を加えるようにした加飾部品(例えば、コンソールボックス、インストルメントパネル、アームレストなど)が多く実用化されている。このような加飾部品に装飾を加える方法としては、例えば、樹脂成形品となる樹脂材料と装飾用の加飾フィルムとを成形型内に配置した状態で射出成形(インモールド成形)を行うことにより、被加飾面上に加飾フィルムが設けられた樹脂成形品を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この場合、柄が描画された加飾フィルムを用いているため、多彩な色や高精細な模様からなる柄による加飾が可能である。また、柄が描画された加飾フィルムは、製版を用いた印刷によって得られるものであるため、少品種大量生産に好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−329112号公報(図11等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のインモールド成形による加飾部品の製造方法では、柄の描画を印刷で行うため、柄の変更時に製版の設計変更等が必要となり手間が掛かってしまう。よって、インモールド成形では、多品種少量生産に対応できないという問題がある。
【0005】
しかも、従来のインモールド成形法では、樹脂成形品からの加飾フィルムのはみ出し部分が余剰部分(バリ)となってしまうため、加飾フィルムの付着後に余剰部分を切断するトリミング工程を行う必要がある。その結果、加飾部品が完成するまでに掛かる時間が長くなるため、加飾部品の製造効率が低下してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、多品種少量生産に対応することができ、かつ、加飾部品の製造効率を向上させることができる加飾部品の製造方法及び加飾部品の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明は、柄層上にクリアコート層を有する加飾層を成形品の被加飾面上に設けてなる加飾部品を製造する方法であって、剥離層を介して基材フィルムに印刷された前記加飾層の前記柄層側にレーザを照射して前記柄層に凹部を形成することにより、前記加飾層を加飾する凹部形成工程と、前記凹部形成工程後、前記凹部が形成された前記加飾層を有する前記基材フィルムを成形型内に配置した状態で前記成形品となる材料を前記成形型内に流し込んでインモールド成形を行うことにより、前記柄層が前記被加飾面に付着して前記加飾層が前記成形品に一体化されるとともに、前記成形品の一部が前記凹部に充填された前記加飾部品を得るインモールド成形工程と、前記インモールド成形工程後、前記基材フィルムから前記加飾層が一体化された前記成形品を剥離すると同時に、前記基材フィルムに印刷された前記加飾層において前記被加飾面からはみ出した余剰部分を、前記加飾層が一体化された前記成形品から分離して前記基材フィルムに残す剥離工程とを含むことを特徴とする加飾部品の製造方法をその要旨とする。
【0008】
手段1に記載の発明によれば、凹部形成工程を行い、加飾層の柄層側にレーザを照射して柄層に凹部を形成することにより、加飾層を加飾すれば、柄の変更が可能である。即ち、柄の変更時において、例えば製版の設計変更等の大掛かりな作業を行わなくても済むため、柄の変更を容易に行うことができ、ひいては、多品種少量生産に対応させることが可能である。しかも、手段1に記載の発明では、インモールド成形を行う前に、加飾層の柄層側にレーザを照射して凹部を形成することにより、柄の変更を行っている。この場合、凹部の形成部位にクリアコート層のみを残すことができるため、インモールド成形後には、凹部の形成部位に成形品となる材料の色がそのまま現れるようになる。従って、凹部の形成部位に現れた色を柄の一部として用いることができる。
【0009】
また、手段1に記載の発明では、基材フィルムから加飾層が一体化された成形品を剥離すると同時に、基材フィルムに印刷された加飾層において被加飾面からはみ出した余剰部分を成形品から分離して基材フィルムに残す剥離工程を行っている。この場合、レーザ照射等の方法を用いて余剰部分を除去しなくても済むため、加飾部品が完成するまでに掛かる時間を短縮することができる。その結果、加飾部品の製造効率が向上する。
【0010】
ここで、加飾部品は、柄層上にクリアコート層を有する加飾層を成形品の被加飾面上に設けてなる。クリアコート層の形成材料としては、アクリル樹脂や紫外線硬化型樹脂などを用いることができる。また、柄層の形成材料としては、アクリル樹脂、塩素化ポリエステル樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体などをバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色材として含有する着色インクを用いることができる。
【0011】
さらに、加飾層は、剥離層を介して基材フィルムに印刷される。ここで、剥離層の形成材料としては、メラミン系樹脂やシリコーン系樹脂などを用いることができる。また、基材フィルムの形成材料としては、PET樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂)、PMMA樹脂(ポリメタクリル酸メチル樹脂)、PC樹脂(ポリカーボネート樹脂)などを用いることができる。
【0012】
なお、凹部形成工程において照射されるレーザとしては、例えば、YAGレーザ、COレーザ、UVレーザなどを用いることができる。特に、剥離層及び基材フィルムを残した状態で柄層とクリアコート層とを除去する場合に用いられるレーザは、COレーザやUVレーザなどであることが好ましい。このようにすれば、レーザによってクリアコート層を確実に加工することができる。一方、剥離層及び基材フィルムを残した状態で、柄層を除去するものの、クリアコート層を除去しない場合に用いられるレーザは、波長が0.5μm以上1.1μm以下のレーザであることが好ましい。レーザの波長が0.5μm未満であると、レーザの焦点径が小さくなるため、所望の加工径を得ようとすると長い加工時間が必要となる。よって、柄層に対して効率的に凹部を形成できないおそれがある。一方、レーザの波長が1.1μmよりも長くなると、レーザの焦点径が大きくなりすぎるため、所望の加工径を得ることができない可能性がある。
【0013】
なお、インモールド成形工程前に、剥離層を介して基材フィルムに印刷された加飾層の柄層側にレーザを照射することにより、柄層において被加飾面に付着する領域の外形線に沿って切込部を形成する切込部形成工程を行ってもよい。このようにすれば、切込部の形成により、加飾層において成形品に一体化される領域と加飾層において余剰部分となる領域とがあらかじめ分離されるため、剥離工程において基材フィルムから成形品を剥離した際に、余剰部分を成形品から分離させやすくなる。
【0014】
また、切込部形成工程では、柄層及びクリアコート層を貫通する切込部を形成してもよいし、柄層を貫通してクリアコート層の一部を除去するものの、クリアコート層を貫通しない切込部を形成してもよい。しかし、切込部形成工程では、柄層を貫通してクリアコート層の一部を除去するものの、クリアコート層を貫通しない切込部を形成することが好ましい。このようにすれば、切込部を形成することにより、柄層において成形品に一体化される領域と柄層において余剰部分となる領域とが完全に分離され、しかも、クリアコート層において成形品に一体化される領域とクリアコート層において余剰部分となる領域とが部分的に分離されるようになる。その結果、剥離工程において基材フィルムから成形品を剥離した際に、余剰部分を成形品からいっそう分離させやすくなる。また、切込部形成工程では、クリアコート層を貫通しないように切込部を形成している。このため、切込部を介してクリアコート層と剥離層との隙間に湿気などの水分等が侵入することに起因した、クリアコート層と剥離層との密着強度の低下を防止することができる。ゆえに、剥離工程前であるにもかかわらず基材フィルムから加飾層が剥れてしまう、といった問題を回避することができる。
【0015】
さらに、切込部形成工程において、柄層を貫通してクリアコート層の一部を除去する切込部を形成するとともに、凹部形成工程において、柄層を貫通してクリアコート層の一部を除去する凹部を形成する場合、切込部の形成に用いるレーザと同じ波長のレーザを用いて凹部を形成することが好ましい。このようにすれば、凹部の形成と切込部との形成とでレーザの波長を変更しなくても済むため、加飾部品の製造効率が向上する。また、柄層を貫通してクリアコート層の一部を除去する凹部を形成することにより、凹部の形成部位にある柄層が確実に除去され、かつ、クリアコート層のみが確実に残るため、インモールド成形後には、凹部の形成部位の全体に成形品となる材料の色が確実に現れるようになる。従って、凹部の形成部位に現れた色を、確実に柄の一部として用いることができる。また、凹部が柄層を貫通し、さらに凹部の底部がクリアコート層内に到達している。従って、成形品の一部が凹部に充填されると、凹部に充填された成形品の先端部が柄層から突出するため、立体感のある意匠を得ることができる。しかも、凹部の底部がクリアコート層内に到達しているため、凹部に充填された成形品の一部とクリアコート層との接触面積が大きくなって両者の密着強度が高くなる。その結果、成形品とクリアコート層を有する加飾層とがより確実に密着するようになる。ゆえに、デラミネーション等の発生を防止することができるため、信頼性に優れた加飾部品を得ることができる。
【0016】
手段2に記載の発明は、柄層上にクリアコート層を有する加飾層を成形品の被加飾面上に設けてなる加飾部品を製造する装置であって、前記加飾層が剥離層を介して印刷された基材フィルムを連続的に繰り出すフィルム繰出ロールと、前記フィルム繰出ロールから繰り出された前記基材フィルムに印刷された前記加飾層の前記柄層に対して凹部を形成するためにレーザを照射するレーザ照射装置と、前記柄層に前記凹部が形成された前記基材フィルムを配置した状態で前記成形品となる材料を流し込んでインモールド成形を行うことにより、前記柄層が前記被加飾面に付着して前記加飾層が前記成形品に一体化されるとともに、前記成形品の一部が前記凹部に充填された前記加飾部品を得る成形型とを備えることを特徴とする加飾部品の製造装置をその要旨とする。
【0017】
手段2に記載の発明によれば、フィルム繰出ロールから繰り出された基材フィルムに対してレーザ照射装置からレーザを照射して、基材フィルムに印刷された加飾層の柄層に凹部を形成すれば、柄の変更が可能である。即ち、柄の変更時において、例えば製版の設計変更等の大掛かりな作業を行わなくても済むため、柄の変更を容易に行うことができ、ひいては、多品種少量生産に対応させることが可能である。しかも、手段2に記載の発明では、成形型を用いたインモールド成形を行う前に、加飾層の柄層側にレーザを照射して凹部を形成することにより、柄の変更を行っている。この場合、凹部の形成部位にクリアコート層のみを残すことができるため、インモールド成形後には、凹部の形成部位に成形品となる材料の色がそのまま現れるようになる。従って、凹部の形成部位に現れた色を柄の一部として用いることができる。
【0018】
また、手段2に記載の発明では、成形品を用いてインモールド成形を行うことにより、柄層が被加飾面に付着して加飾層が成形品に一体化された加飾部品が得られるようになる。この場合、加飾層が一体化された成形品を基材フィルムから剥離すると、加飾層において被加飾面からはみ出した余剰部分が、成形品から分離して基材フィルムに残るようになる。その結果、レーザ照射等の方法を用いて余剰部分を除去しなくても済むようになるため、加飾部品が完成するまでに掛かる時間を短縮することができる。ゆえに、加飾部品の製造効率が向上する。
【発明の効果】
【0019】
以上詳述したように、請求項1〜7に記載の発明によると、多品種少量生産に対応することができ、かつ、加飾部品の製造効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態における車両用加飾部品を示す要部平面図。
図2】車両用加飾部品を示す概略断面図。
図3】車両用加飾部品を示す要部断面図。
図4】車両用加飾部品の製造装置を示す概略構成図。
図5】加飾層が印刷された基材フィルムを示す要部断面図。
図6】加飾層が印刷された基材フィルムの凹部形成工程後の状態を示す要部断面図。
図7】加飾層が印刷された基材フィルムの切込部形成工程後の状態を示す要部断面図。
図8】加飾層が印刷された基材フィルムのインモールド成形工程後の状態を示す要部断面図。
図9】剥離工程を示す要部断面図。
図10】(a)は、木目模様と麻の葉柄との組み合わせによって表現される柄を示す説明図、(b)は、無地とヘアラインとの組み合わせによって表現される柄を示す説明図、(c)は、無地とヘリンボーンとの組み合わせによって表現される柄を示す説明図。
図11】他の実施形態における車両用加飾部品を示す要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0022】
図1図3に示されるように、車両用加飾部品1は、立体形状をなす樹脂成形品2を備えている。本実施形態の車両用加飾部品1は、自動車のドアに設けられたアームレストの上面を覆う装飾パネルである。また、樹脂成形品2は、凸状に湾曲した曲面である被加飾面3(外表面)を有している。車両用加飾部品1は、樹脂成形品2の被加飾面3上に接着層4を介して加飾層10を設けることにより構成されたものである。
【0023】
なお、樹脂成形品2の形成材料が、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、PC樹脂、PMMA樹脂のいずれかである場合、接着層4の形成材料としては、アクリル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、ウレタン樹脂などを用いることができる。また、樹脂成形品2の形成材料が、PP樹脂(ポリプロピレン樹脂)またはPE樹脂(ポリエチレン樹脂)である場合、接着層4の形成材料としては、塩素化ポリプロピレン樹脂やウレタン樹脂を用いることができる。
【0024】
図3に示されるように、加飾層10は、柄層11上にクリアコート層12を有するものである。詳述すると、柄層11は、樹脂成形品2の被加飾面3上に形成されている。本実施形態の柄層11は、色合いが下層側ほど濃くなるように3色(下層側から順に、こげ茶色、茶色、薄茶色)のインク層13,14,15を積層することによって形成されている。そして、第1層のインク層13が被加飾面3全体に形成される一方、第2層のインク層14が第1層のインク層13の表面に対して部分的に形成され、かつ、第3層のインク層15が第2層のインク層14の表面に対して部分的に形成されることにより、柄16の木目模様の部分(図1参照)が描画される。なお、各インク層13〜15の厚さの最小値は、それぞれ5μm以上15μm以下(本実施形態では6μm)に設定されている。
【0025】
図3に示されるように、柄層11における所定位置には、複数の凹部17が形成されている。各凹部17は、内壁面17aと、底面となるクリアコート層12の表面12aの一部とからなっている。即ち、各凹部17は、柄層11を貫通する一方、クリアコート層12を貫通しない凹部である。なお、各凹部17は、柄16の一部である格子柄18(図1参照)を構成している。そして、各凹部17には、樹脂成形品2の一部が充填されている。
【0026】
また、クリアコート層12は、アクリル樹脂からなる層であり、各インク層13〜15を保護するようになっている。なお、クリアコート層12の厚さは20μm程度に設定されている。
【0027】
次に、車両用加飾部品1の製造装置20について説明する。
【0028】
図4に示されるように、製造装置20は成形装置21を備えている。成形装置21は、インモールド成形法により、加飾層10を樹脂成形品2の被加飾面3上に設けてなる車両用加飾部品1を製造する装置である。また、成形装置21は、支持台31、フィルム送出装置32、レーザ照射装置33、成形型34及び樹脂充填装置35を備えている。フィルム送出装置32は、支持台31を構成する天板36の上方に配置されたフィルム繰出ロール37と、天板36の下方に配置されたフィルム巻取ロール38とを備えている。フィルム繰出ロール37には、加飾層10が剥離層91を介して印刷された基材フィルム90(図5参照)が巻回されている。なお、加飾層10において剥離層91とは反対側に位置する面上には、接着層4が印刷されている。フィルム送出装置32は、フィルム繰出ロール37から基材フィルム90を垂下させて連続的に繰り出すとともに、繰り出された基材フィルム90をフィルム巻取ロール38によって巻き取る機能を有している。なお、本実施形態の基材フィルム90は、PET樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂)からなるフィルムである。また、本実施形態の剥離層91は、メラミン系樹脂からなる層である。
【0029】
図4に示されるレーザ照射装置33は、後述する凹部形成工程及び切込部形成工程を実施するためにレーザL1を照射する装置である。即ち、レーザ照射装置33は、凹部形成工程及び切込部形成工程の両方において共通して用いられる装置である。具体的に言うと、レーザ照射装置33は、フィルム繰出ロール37から繰り出された基材フィルム90に印刷された加飾層10の柄層11に対して、凹部17を形成するためにレーザL1を照射するようになっている(図5図6参照)。また、レーザ照射装置33は、加飾層10の柄層11において被加飾面3に付着する領域10aの外形線A1に沿って切込部92を形成するために、柄層11に対してレーザL1を照射するようになっている(図7参照)。
【0030】
なお、図4に示されるように、レーザ照射装置33は、レーザL1を発生させるレーザ発生部41と、レーザL1を偏向させるレーザ偏向部42と、レーザ発生部41及びレーザ偏向部42を制御するレーザ制御部43とを備えている。本実施形態のレーザL1は、波長10.6μm(=10600nm)のCOレーザである。また、レーザ偏向部42は、レンズ44と反射ミラー45とを複合させてなる光学系であり、これらレンズ44及び反射ミラー45の位置を変更することにより、レーザL1の照射位置や焦点位置を調整するようになっている。即ち、本実施形態のレーザ照射装置33は、ガルバノミラー式のレーザ照射装置である。また、レーザ制御部43は、レーザL1の照射時間変調、照射強度変調、照射面積変調などの制御を行う。
【0031】
さらに、成形型34は、支持台31の天板36上に設置されており、可動型51及び固定型52からなっている。この成形型34は、基材フィルム90を可動型51の成形面上に配置した状態で、基材フィルム90の周縁部を可動型51と固定型52とで挟持するようになっている。なお、基材フィルム90が挟持される時点で、基材フィルム90に印刷された加飾層10の柄層11には凹部17が形成され、柄層11において被加飾面3に付着する領域10aの外形線A1には切込部92が形成されている(図7参照)。そして、成形型34内の成形空間(キャビティ)に樹脂成形品2となる樹脂材料を流し込むインモールド成形を行えば、柄層11が被加飾面3に付着して加飾層10が樹脂成形品2に一体化されるとともに、樹脂成形品2の一部が凹部17に充填された車両用加飾部品1を得ることができる。また、樹脂充填装置35は、天板36上において固定型52の側方に配置されており、固定型52側からキャビティ内に樹脂材料を充填するためのものである。
【0032】
次に、製造装置20の電気的構成について説明する。
【0033】
図4に示されるように、製造装置20は、装置全体を統括的に制御する制御装置22を備えている。制御装置22は、CPU60、メモリ61及び入出力ポート62等からなる周知のコンピュータにより構成されている。CPU60は、フィルム送出装置32、レーザ照射装置33、成形型34及び樹脂充填装置35に電気的に接続されており、各種の駆動信号によってそれらを制御する。
【0034】
なお、メモリ61には、レーザ照射を行うためのレーザ照射データが記憶されている。また、メモリ61には、レーザ照射に用いられるレーザ照射パラメータ(レーザL1の照射位置、焦点位置、照射角度、照射面積、照射時間、照射強度、照射周期、照射ピッチなど)を示すデータが記憶されている。
【0035】
次に、車両用加飾部品1の製造方法を説明する。
【0036】
まず、剥離層91を介して加飾層10をグラビア印刷してなるPET樹脂製の基材フィルム90を準備する。なお、基材フィルム90に対する加飾層10の印刷方法としては、グラビア印刷以外にスクリーン印刷などの周知の印刷法を使用することができる。また、加飾層10を構成する柄層11の表面上には接着層4が形成される。本実施形態の基材フィルム90は、ロールtoロール方式で印刷されたものであるため、フィルム繰出ロール37に巻回された状態でフィルム送出装置32にセットされる(図4参照)。
【0037】
次に、CPU60は、メモリ61に記憶されている射出成形データを読み出し、読み出した射出成形データに基づいてロール駆動信号を生成し、生成したロール駆動信号をフィルム送出装置32に出力する。フィルム送出装置32は、CPU60から出力されたロール駆動信号に基づいてフィルム繰出ロール37及びフィルム巻取ロール38を駆動することにより、フィルム繰出ロール37に巻回されている基材フィルム90を成形型34側に連続的に繰り出す。なお、本実施形態では、フィルム巻取ロール38の回転速度をフィルム繰出ロール37の回転速度よりも高く設定している。その結果、基材フィルム90は、移動に伴ってクリアコート層12が破断伸度に達する程度に伸びるようになる(引張工程)。
【0038】
そして、フィルム繰出ロール37から繰り出された基材フィルム90の先端部分がレーザ照射装置33の側方に到達すると、凹部形成工程が実施される。凹部形成工程では、加飾層10の柄層11側にレーザL1を照射して柄層11に凹部17を形成することにより、加飾層10を加飾する。詳述すると、まず、CPU60は、メモリ61に記憶されているレーザ照射データを読み出し、読み出したレーザ照射データに基づいて凹部形成用の駆動信号である凹部形成信号を生成し、生成した凹部形成信号をレーザ照射装置33に出力する。レーザ照射装置33は、CPU60から出力された凹部形成信号に基づいて、加飾層10にレーザL1を照射する(図4図5参照)。
【0039】
なお、レーザ照射装置33のレーザ制御部43は、レーザ発生部41からレーザL1を照射させ、凹部17のパターンに応じてレーザ偏向部42を制御する。この制御により、レーザL1の照射位置が決定されるとともに、レーザL1の焦点位置が柄層11に決定される。この場合、レーザL1のエネルギーが柄層11に集中して熱量が多くなるため、柄層11及び接着層4が昇華して除去されることにより、凹部17が形成される(図6参照)。また、本実施形態では、クリアコート層12を加工可能なCOレーザをレーザL1として用いることにより、柄層11を除去して貫通するものの、クリアコート層12、基材フィルム90及び剥離層91を除去しない凹部17を形成する。よって、本実施形態の凹部形成工程では、レーザL1の出力を柄層11の貫通に必要な出力と同じ大きさにした状態で、レーザL1を照射する。なお、柄層11の貫通に最低限必要なレーザL1の出力は3MW/cmであるため、凹部形成工程において照射されるレーザL1の出力も3MW/cmとなる。
【0040】
凹部形成工程後かつ後述するインモールド成形工程前の切込部形成工程では、加飾層10の柄層11側にレーザL1を照射することにより、柄層11において被加飾面3に付着する領域10aの外形線A1に沿って切込部92を形成する(図7参照)。詳述すると、まず、CPU60は、メモリ61に記憶されているレーザ照射データを読み出し、読み出したレーザ照射データに基づいて切込部形成用の駆動信号である切込部形成信号を生成し、生成した切込部形成信号をレーザ照射装置33に出力する。レーザ照射装置33は、CPU60から出力された切込部形成信号に基づいて、加飾層10にレーザL1を照射する。
【0041】
なお、レーザ照射装置33のレーザ制御部43は、レーザ発生部41からレーザL1を照射させ、切込部92のパターンに応じてレーザ偏向部42を制御する。この制御により、レーザL1の照射位置が、外形線A1上、または、外形線A1よりもやや余剰部分10b側にずれた位置に決定されるとともに、レーザL1の焦点位置が柄層11に決定される。この場合、レーザL1のエネルギーが柄層11に集中して熱量が多くなるため、接着層4、柄層11及びクリアコート層12が昇華して除去されることにより、切込部92が形成される(図7参照)。このとき、切込部92を形成する一対の内壁面のうち、領域10a側に位置する内壁面92aが外形線A1上に位置するようになる。また、本実施形態では、クリアコート層12を加工可能なCOレーザをレーザL1として用いることにより、柄層11を貫通してクリアコート層12の一部を除去するものの、クリアコート層12、基材フィルム90及び剥離層91を貫通しない切込部92を形成する。よって、本実施形態の切込部形成工程では、レーザL1の出力を柄層11の貫通に必要な出力よりも大きくした状態で、レーザL1を照射する。なお、柄層11の貫通に最低限必要なレーザL1の出力は上記したように3MW/cmであり、切込部形成工程において照射されるレーザL1の出力は8MW/cmとなっている。なお、本実施形態では、レーザL1の出力を変更することにより、互いに深さの異なる凹部17及び切込部92を形成していたが、レーザL1の走査速度を変更することにより、互いに深さの異なる凹部17を形成してもよい。
【0042】
そして、凹部形成工程及び切込部形成工程後にインモールド成形工程を実施する。インモールド成形工程では、凹部17及び切込部92が形成された加飾層10を有する基材フィルム90を成形型34内に配置した状態で、樹脂成形品2となる樹脂材料を成形型34内に流し込んでインモールド成形を行う。詳述すると、まず、熱可塑性を有する樹脂材料(例えばABS樹脂)を用いて、被加飾面3上に加飾層10が設けられた樹脂成形品2を形成する。具体的に言うと、フィルム繰出ロール37から繰り出された基材フィルム90において凹部17が形成された部分が可動型51と固定型52との間に到達すると、基材フィルム90が、クランプ(図示略)によって可動型51の成形面上に固定される。次に、CPU60は、メモリ61に記憶されている射出成形データを読み出し、読み出した射出成形データに基づいて加熱信号を生成し、生成した加熱信号を成形型34に設けられたヒータ(図示略)に出力する。ヒータは、CPU60から出力された加熱信号に基づいて基材フィルム90を加熱する。その後、真空引きが行われる。なお、真空引きを行うと、基材フィルム90が、可動型51に設けられた図示しない吸着流路を介して吸引保持され、可動型51の成形面と密着するようになる。
【0043】
次に、CPU60は、メモリ61に記憶されているレーザ照射データを読み出し、読み出したレーザ照射データに基づいて可動型駆動信号を生成し、生成した可動型駆動信号を成形型34に出力する。成形型34は、CPU60から出力された可動型駆動信号に基づいて可動型51を駆動することにより、可動型51を固定型52側に移動させる。このとき、可動型51の成形面上に配置された基材フィルム90も、固定型52側に移動する。なお、フィルム繰出ロール37及びフィルム巻取ロール38は、可動型51側に固定されているため、可動型51とともに移動する。その後、可動型51が固定型52に接触し、引っ張られた状態にある基材フィルム90(具体的には、加飾層10の周縁部)が可動型51と固定型52とで挟持される。この時点で、内部に樹脂成形品2と同一形状かつ同一体積のキャビティが構成される。
【0044】
そして、CPU60は、メモリ61に記憶されているレーザ照射データを読み出し、読み出したレーザ照射データに基づいて樹脂充填信号を生成し、生成した樹脂充填信号を樹脂充填装置35に出力する。樹脂充填装置35は、CPU60から出力された樹脂充填信号に基づいて、加熱した所定量の樹脂材料を、固定型52に設けられた図示しない樹脂充填流路を介してキャビティ内に充填する。その結果、柄層11が被加飾面3に付着して加飾層10が樹脂成形品2に一体化されるとともに、樹脂成形品2の一部が凹部17に充填された車両用加飾部品1が得られる(図8参照)。また、凹部17に充填された樹脂成形品2の一部は、加飾層10の装飾の一部となる。
【0045】
そして、インモールド成形工程後に剥離工程を実施する。剥離工程では、まず、可動型51及び固定型52を互いに離間させる。なお、この時点では、クリアコート層12が剥離層91を介して基材フィルム90に密着するとともに、樹脂成形品2を構成する樹脂材料が固定型52の樹脂充填流路内にある樹脂材料と繋がった状態にある。しかしながら、クリアコート層12は、インモールド形成工程時に破断伸度に達しており、特に、切込部92の形成部位において強度が低下している。しかも、基材フィルム90は、クランプによって可動型51の成形面上に固定されている。このため、可動型51及び固定型52を互いに離間させると、クリアコート層12が切込部92の形成部位を起点として破断し、柄層11及びクリアコート層12からなる加飾層10が一体化された樹脂成形品2(即ち、車両用加飾部品1)が基材フィルム90から剥離される(図9参照)。それと同時に、基材フィルム90に印刷された加飾層10において被加飾面3からはみ出した余剰部分10bが、車両用加飾部品1から分離されて基材フィルム90に残るようになる。その後、取出ロボット(図示略)によって樹脂成形品2を取り出す工程を経て、本実施形態の車両用加飾部品1が製造される。
【0046】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0047】
(1)本実施形態の車両用加飾部品1の製造方法において、凹部形成工程を行い、加飾層10の柄層11側にレーザL1を照射して柄層11に凹部17を形成することにより、加飾層10を加飾すれば、柄16の変更が可能である。即ち、柄16の変更時においては、メモリ61に記憶されているレーザ照射データや、レーザ照射パラメータを変更するだけでよいため、例えば製版の設計変更等の大掛かりな作業を行わなくても済む。例えば、柄16が異なる複数種類の加飾層10を製造する場合、全ての種類の加飾層10において共通の意匠となる領域(柄16)を柄層11によって形成し、加飾層10の種類に応じて異なる意匠となる領域(柄16)を凹部17によって形成すれば、柄16の変更を容易に行うことができ、多品種少量生産に対応させることが可能となる。
【0048】
(2)本実施形態では、インモールド成形を行う前に、加飾層10の柄層11側にレーザL1を照射して凹部17を形成することにより、柄16の変更を行っている。この場合、凹部17の形成部位にクリアコート層12のみを残すことができるため、インモールド成形後には、凹部17の形成部位に樹脂成形品2となる材料の色がそのまま現れるようになる。従って、凹部17の形成部位に現れた色を柄16の一部として用いることができる。
【0049】
(3)しかも、本実施形態では、基材フィルム90から加飾層10が一体化された樹脂成形品2を剥離すると同時に、基材フィルム90に印刷された加飾層10において被加飾面3からはみ出した余剰部分10bを樹脂成形品2から分離して基材フィルム90に残す剥離工程を行っている。この場合、レーザ照射等の方法を用いて余剰部分10bを除去しなくても済むため、車両用加飾部品1が完成するまでに掛かる時間を短縮することができる。その結果、車両用加飾部品1の製造効率が向上する。また、剥離工程後の余剰部分10bは、基材フィルム90に付着したままの状態で、基材フィルム90とともにフィルム巻取ロール38に巻き取られるため、余剰部分10bがゴミとなることを未然に防ぐことができる。
【0050】
(4)本実施形態では、インモールド成形工程前に、基材フィルム90に印刷された加飾層10の柄層11側にレーザL1を照射することにより、柄層11において被加飾面3に付着する領域10aの外形線A1に沿って切込部92を形成する切込部形成工程を行っている。その結果、切込部92の形成により、加飾層10において樹脂成形品2に一体化される領域10aと加飾層10において余剰部分10bとなる領域とがあらかじめ分離されるため、剥離工程において基材フィルム90から樹脂成形品2を剥離した際に、余剰部分10bを樹脂成形品2から分離させやすくなる。
【0051】
また、本実施形態では、クリアコート層12が破断伸度に達する程度に基材フィルム90を引っ張る引張工程を行うことにより、加飾層10が一体化された樹脂成形品2を基材フィルム90から剥離しやすくしている。しかし、本実施形態では、クリアコート層12に上記した切込部92を形成することによっても、加飾層10が一体化された樹脂成形品2を剥離しやすくしているため、引張工程を省略したとしても、樹脂成形品2を確実に剥離することができる。ゆえに、引張工程を省略することにより、車両用加飾部品1の製造効率をさらに向上させることも可能である。
【0052】
(5)本実施形態では、加飾層10を構成する柄層11及びクリアコート層12のうち、クリアコート層12が剥離層91を介して基材フィルム90に付着している。即ち、クリアコート層12は基材フィルム90に保護された状態になっている。その結果、インモールド成形時において、可動型51の成形面に対するクリアコート層12の接触が回避されるため、クリアコート層12の傷付きを防止することができる。また、剥離工程後の基材フィルム90は、切断工程等を経ることなく、そのままフィルム巻取ロール38に巻き取られるため、基材フィルム90がゴミとなるのを未然に防ぐことができる。しかも、本実施形態では、切断工程を行わないため、基材フィルム90を切断するための切断機構(レーザ照射装置など)を設置しなくても済む。
【0053】
なお、本実施形態を以下のように変更してもよい。
【0054】
・上記実施形態の車両用加飾部品1は、木目模様を構成するこげ茶色、茶色、薄茶色の3色のインク層13,14,15と、格子柄18を構成する凹部17との組み合わせによって柄16を表現していたが、インク層の色及び層数や凹部によって形成される柄の種類は、適宜変更することが可能である。例えば、図10(a)に示されるように、木目模様71を構成する3色のインク層と、麻の葉柄72を構成する凹部との組み合わせによって柄73を表現してもよい。また、図10(b)に示されるように、無地74と、ヘアライン75を構成する凹部との組み合わせによって柄76を表現してもよいし、図10(c)に示されるように、無地74と、ヘリンボーン77を構成する凹部との組み合わせによって柄78を表現してもよい。
【0055】
・上記実施形態の凹部形成工程では、格子柄18を構成する凹部17を形成していたが、ロゴなどの他のものを構成する凹部を形成してもよい。
【0056】
・上記実施形態では、凹部17及び切込部92の形成に用いられるレーザL1はCOレーザであったが、凹部17及び切込部92の形成に用いられるレーザL1をYAGレーザ等の他のレーザに変更してもよい。また、上記実施形態では、凹部17の形成に用いられるレーザL1も切込部92の形成に用いられるレーザL1も同じCOレーザであったが、互いに異なる種類のレーザであってもよい。換言すると、凹部17を形成する場合と切込部92を形成する場合とで、互いに異なる波長のレーザを用いてもよい。
【0057】
例えば、凹部17の形成に用いられるレーザ、即ち、剥離層91及び基材フィルム90を残した状態で、柄層11を除去するものの、クリアコート層12を除去しない場合に用いられるレーザを、波長が0.5μm以上1.1μm以下(具体的には、1.064μm(=1064nm))のYAGレーザとしてもよい。それとともに、切込部92の形成に用いられるレーザ、即ち、剥離層91及び基材フィルム90を残した状態で、柄層11を貫通してクリアコート層12の一部を除去するものの、クリアコート層12を貫通しない場合に用いられるレーザを、波長が10.6μm(=10600nm)のCOレーザとしてもよい。なお、上記のように、凹部17及び切込部92をそれぞれ異なる種類のレーザ(ここでは、COレーザ及びYAGレーザ)によって形成する場合、製造装置20は、COレーザを照射するレーザ照射装置と、YAGレーザを照射するレーザ照射装置とを備えることがよい。
【0058】
・上記実施形態の凹部形成工程では、柄層11を貫通する一方、クリアコート層12を貫通しない凹部17が形成されていた。しかし、凹部形成工程では、柄層81を貫通してクリアコート層82の一部を除去する凹部83(図11参照)を形成してもよい。なお、この場合、切込部92の形成に用いるレーザL1と同じ波長のレーザ、例えば、波長10.6μm(=10600nm)のCOレーザなどを用いて凹部83を形成することがよい。また、凹部83においてクリアコート層82を除去する部分の深さは、クリアコート層82の厚さの1/2以下であることが好ましく、特には、クリアコート層82の厚さの1/5以上1/3以下であることが好ましい。仮に、凹部83においてクリアコート層82を除去する部分の深さが、クリアコート層82の厚さの1/2よりも大きくなると、クリアコート層82が破れやすくなるため、クリアコート層82によって柄層81を保護できない可能性がある。
【0059】
・上記実施形態の切込部形成工程では、柄層11を貫通し、さらにクリアコート層12の一部を除去する切込部92が形成されていた。しかし、切込部形成工程では、柄層11を貫通する一方、クリアコート層12を貫通しない切込部を形成してもよい。この場合、クリアコート層12を加工可能なCOレーザやUVレーザなどに加えて、クリアコート層12を加工不能なYAGレーザをレーザL1として用いることができる。なお、切込部92は省略されていてもよい。
【0060】
・上記実施形態では、凹部形成工程を行うことによって全ての凹部17を形成した後、切込部形成工程を行うことによって全ての切込部92を形成していた。しかし、切込部形成工程を行うことによって全ての切込部92を形成した後、凹部形成工程を行うことによって全ての凹部17を形成してもよい。なお、凹部形成工程後に切込部形成工程を行う場合には、凹部17に基づいて切込部92の形成位置を決定することが可能である。
【0061】
・上記実施形態では、車両用加飾部品1をドアのアームレストに具体化したが、これ以外に、コンソールボックス、インストルメントパネルなどの部品に具体化してもよい。
【0062】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0063】
(1)上記手段1において、前記インモールド成形工程において前記成形品の一部が前記凹部に充填されることにより、前記凹部に充填された前記成形品の一部が前記加飾層の装飾の一部となることを特徴とする加飾部品の製造方法。
【0064】
(2)上記手段1において、意匠が異なる複数種類の前記加飾層を製造する場合、複数種類の前記加飾層において共通の意匠となる領域が前記柄層となり、前記加飾層の種類に応じて異なる意匠となる領域が前記凹部となることを特徴とする加飾部品の製造方法。
【符号の説明】
【0065】
1…加飾部品としての車両用加飾部品
2…成形品としての樹脂成形品
3…被加飾面
10…加飾層
10a…柄層において被加飾面に付着する領域
10b…余剰部分
11,81…柄層
12,82…クリアコート層
17,83…凹部
20…加飾部品の製造装置
33…レーザ照射装置
34…成形型
37…フィルム繰出ロール
90…基材フィルム
91…剥離層
92…切込部
A1…外形線
L1…レーザ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11