特許第6595964号(P6595964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6595964
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】路盤の補修方法
(51)【国際特許分類】
   E01C 23/00 20060101AFI20191010BHJP
   E01C 7/14 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   E01C23/00 A
   E01C7/14
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-203904(P2016-203904)
(22)【出願日】2016年10月17日
(65)【公開番号】特開2018-66127(P2018-66127A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2018年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 千秋
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】須藤 達也
【審査官】 中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−229307(JP,A)
【文献】 特開2004−339784(JP,A)
【文献】 特開2010−071067(JP,A)
【文献】 特開2015−193508(JP,A)
【文献】 特開2002−069922(JP,A)
【文献】 特開2011−094302(JP,A)
【文献】 特開昭59−015105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 23/00−23/24
E01C 7/00−7/14
E01C 3/00−3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgO含有量が5mass%以上であって、JIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比が1.5%未満の製鋼スラグを路盤材に用いて施工された路盤において、隆起若しくは破壊の前兆があり又は一部に隆起若しくは破壊が生じた場合に、当該路盤のアスファルトコンクリート層を剥がして路盤材敷設層を露出させ、この路盤材敷設層の路盤材にフライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上を混合した後、アスファルトコンクリート層を再施工して路盤を復旧することを特徴とする路盤の補修方法。
【請求項2】
フライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上の路盤材に対する混合量が、[フライアッシュ量]+[シリカフューム量]×2+[シラス量]の合計で路盤材量の5〜30mass%であることを特徴とする請求項1に記載の路盤の補修方法。
【請求項3】
路盤材敷設層の路盤材にフライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上とともにアルカリ物質を混合することを特徴とする請求項1又は2に記載の路盤の補修方法。
【請求項4】
アルカリ物質が、消石灰、セメント、未エージング鉄鋼スラグ粉、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの中から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項3に記載の路盤の補修方法。
【請求項5】
アルカリ物質の路盤材に対する混合量が路盤材量の1〜10mass%であることを特徴とする請求項3又は4に記載の路盤の補修方法。
【請求項6】
下記工程(1)〜(5)により路盤を補修することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の路盤の補修方法。
(1)路盤のアスファルトコンクリート層を剥がし、路盤材敷設層を露出させる。
(2)該路盤材敷設層の路盤材を解砕する。
(3)解砕中又は/及び解砕後の前記路盤材に、フライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上、又はフライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上とアルカリ物質を撒き、路盤材と混合する。
(4)該路盤材を転圧して路盤材敷設層を構成する。
(5)該路盤材敷設層の上にアスファルトコンクリート層を再施工し、路盤を復旧する。
【請求項7】
フライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上、又はフライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上とアルカリ物質が混合された路盤材が最適含水比となるように、工程(3)又は/及び工程(4)において路盤材に散水を行うことを特徴とする請求項6に記載の路盤の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路盤材に製鋼スラグが用いられた路盤の隆起や破壊を予防するための路盤の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路や駐車場などのアスファルトコンクリート舗装では、路盤材として製鋼スラグが用いられている。製鋼スラグは、それに含まれる遊離CaOが水和反応によって体積膨張するため、そのまま路盤材に利用した場合には、体積膨張による路盤の隆起や破壊を生じるおそれがある。このため路盤材として用いる製鋼スラグには、通常、予め遊離CaOの水和反応を進行させるエージング処理が施される。このエージング処理には、大気中に曝しておく大気エージングの他、エージング処理を短期間で終了させるために蒸気や温水を用いて水和反応を促進する蒸気エージングや温水エージングなどの方法がある。
【0003】
また、特許文献1、2には、エージング処理に代わる製鋼スラグの膨張抑制方法として、製鋼スラグに潜在水硬性又はポゾラン反応性を有するシリカ含有物質(例えば、シリカコロイダル、フライアッシュなど)を混合する方法が示されており、エージング処理した場合と同等以上にスラグの膨張を抑制できるとしている。この方法では、製鋼工程で生成した製鋼スラグに対して潜在水硬性又はポゾラン反応性を有するシリカ含有物質を混合した上で、路盤材として用いるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−116287号公報
【特許文献2】特開2003−183061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者が確認したところによれば、従来法に従ってエージング処理を十分に施した製鋼スラグや、特許文献1、2の方法に従って潜在水硬性又はポゾラン反応性を有するシリカ含有物質(例えば、シリカコロイダル、フライアッシュなど)を混合した製鋼スラグを路盤材として使用した場合でも、施工してから相当程度長い期間(例えば2〜10年程度)を経過した後に路盤材の膨張に起因するとみられる路盤の隆起や破壊が生じることがある。従来、このような施工してから長い期間を経た後に生じる路盤の隆起や破壊は、その原因が全く分からず、このため路盤材を入れ替えるくらいしか有効な対策はなかった。しかし、路盤材の入れ替えには、工事作業や新規材料に要する費用に加えて、回収した路盤材の廃棄費用がかかり、経済的な負担が極めて大きい。
【0006】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、施工してから相当程度長い期間を経過した後に路盤材の膨張による隆起や破壊を生じる恐れがある路盤について、そのような隆起や破壊を適切に予防することができる路盤の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]MgO含有量が5mass%以上であって、JIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比が1.5%未満の製鋼スラグを路盤材に用いて施工された路盤において、隆起若しくは破壊の前兆があり又は一部に隆起若しくは破壊が生じた場合に、当該路盤のアスファルトコンクリート層を剥がして路盤材敷設層を露出させ、この路盤材敷設層の路盤材にフライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上を混合した後、アスファルトコンクリート層を再施工して路盤を復旧することを特徴とする路盤の補修方法。
【0008】
[2]上記[1]の補修方法において、フライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上の路盤材に対する混合量が、[フライアッシュ量]+[シリカフューム量]×2+[シラス量]の合計で路盤材量の5〜30mass%であることを特徴とする路盤の補修方法。
[3]上記[1]又は[2]の補修方法において、路盤材敷設層の路盤材にフライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上とともにアルカリ物質を混合することを特徴とする路盤の補修方法。
【0009】
[4]上記[3]の補修方法において、アルカリ物質が、消石灰、セメント、未エージング鉄鋼スラグ粉、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの中から選ばれる1種以上であることを特徴とする路盤の補修方法。
[5]上記[3]又は[4]の補修方法において、アルカリ物質の路盤材に対する混合量が路盤材量の1〜10mass%であることを特徴とする路盤の補修方法。
【0010】
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの補修方法において、下記工程(1)〜(5)により路盤を補修することを特徴とする路盤の補修方法。
(1)路盤のアスファルトコンクリート層を剥がし、路盤材敷設層を露出させる。
(2)該路盤材敷設層の路盤材を解砕する。
(3)解砕中又は/及び解砕後の前記路盤材に、フライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上、又はフライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上とアルカリ物質を撒き、路盤材と混合する。
(4)該路盤材を転圧して路盤材敷設層を構成する。
(5)該路盤材敷設層の上にアスファルトコンクリート層を再施工し、路盤を復旧する。
【0011】
[7]上記[6]の補修方法において、フライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上、又はフライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上とアルカリ物質が混合された路盤材が最適含水比となるように、工程(3)又は/及び工程(4)において路盤材に散水を行うことを特徴とする路盤の補修方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明法により、施工してから相当程度長い期間を経過した後に路盤材の膨張による隆起や破壊を生じる恐れがある路盤を補修することにより、そのような隆起や破壊を適切に予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】MgO含有量が5mass%以上であって、エージング処理を施してJIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比を1.5%未満とした製鋼スラグを、路盤材として施工した後、11年後に回収し、この回収路盤材(製鋼スラグ)に対して、回収路盤材量の20mass%のフライアッシュを添加・混合したフライアッシュ添加材と、同じく回収路盤材量の20mass%のフライアッシュと5mass%の消石灰を添加・混合したフライアッシュ・消石灰添加材と、フライアッシュ(及び消石灰)無添加材について、長期の80℃水浸膨張試験を実施した際の水浸膨張比の推移を示すグラフ
図2】MgO含有量が5mass%以上であって、エージング処理を施してJIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比を1.5%未満とした製鋼スラグを、路盤材として施工した後、11年後に回収し、この回収路盤材(製鋼スラグ)に対して、回収路盤材量の5mass%のシリカフュームを添加・混合したシリカフューム添加材と、同じく回収路盤材量の5mass%のシリカフュームと2.5mass%の消石灰を添加・混合したシリカフューム・消石灰添加材と、シリカフューム(及び消石灰)無添加材について、長期の80℃水浸膨張試験を実施した際の水浸膨張比の推移を示すグラフ
図3】MgO含有量が5mass%以上であって、エージング処理を施してJIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比を1.5%未満とした製鋼スラグに対して、製鋼スラグ量の5〜30mass%のフライアッシュを添加・混合したフライアッシュ添加材と、フライアッシュ無添加材について、長期の80℃水浸膨張試験を実施した際の水浸膨張比の推移を示すグラフ
図4】MgO含有量が5mass%以上であって、エージング処理を施してJIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比を1.5%未満とした製鋼スラグに対して、製鋼スラグ量の2.5〜15mass%のシリカフュームを添加・混合したシリカフューム添加材と、シリカフューム無添加材について、長期の80℃水浸膨張試験を実施した際の水浸膨張比の推移を示すグラフ
図5】MgO含有量が5mass%以上であって、エージング処理を施してJIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比を1.5%未満とした製鋼スラグに対して、製鋼スラグ量の20mass%のフライアッシュと1〜10mass%の消石灰を添加・混合したフライアッシュ・消石灰添加材と、同じく製鋼スラグ量の20mass%のフライアッシュのみを添加したフライアッシュ添加材について、長期の80℃水浸膨張試験を実施した際の水浸膨張比の推移を示すグラフ
図6】MgO含有量が5mass%以上であって、エージング処理を施してJIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比を1.5%未満とした製鋼スラグに対して、製鋼スラグ量の5mass%のシリカフュームと1〜5mass%の消石灰を添加・混合したシリカフューム・消石灰添加材と、同じく製鋼スラグ量の5mass%のシリカフュームのみを添加したシリカフューム添加材について、長期の80℃水浸膨張試験を実施した際の水浸膨張比の推移を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
製鋼スラグを路盤材に利用する場合、事前にエージング処理を十分に施すことにより、膨張の原因となるような遊離CaOを水和させることができるため、遊離CaOに起因した路盤の膨張は抑えることができる。このため、JIS A5015(2013)「道路用鉄鋼スラグ」では、路盤材に利用する製鋼スラグについて、附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比が1.5%未満であることを条件としている。しかし、エージング処理を十分に施した製鋼スラグであっても、路盤材として施工してから相当程度長い期間が経過した後に、路盤材の膨張に起因するとみられる路盤の隆起や破壊が生じることがある。
【0015】
本発明者は、この原因と対策について調査・検討を行った。
実際に路盤の隆起や破壊が生じた現場の断面状況から推定すると、路盤の隆起や破壊は、(i)路盤材の膨張によりひずみが蓄積する、(ii)蓄積したひずみにより路盤内で破壊が生じる、(iii)路盤(アスファルトコンクリート層)に隆起や破壊が発生する、という経過で生じるものと考えられる。製鋼スラグを利用した路盤材の膨張の原因は、製鋼スラグが含有する鉱物の体積膨張によるものと考えられるが、路盤材に使用されている製鋼スラグは、事前のエージング処理により遊離CaOの多くが水和していること、製鋼スラグを路盤材として施工してから相当程度長い期間(例えば2〜10年程度)が経過した後に、路盤材の膨張に起因するとみられる路盤の隆起や破壊が生じていること、などの点からして、主に製鋼スラグに含まれる遊離MgOの水和によるものと考えられる。具体的には、以下のように考えられる。
【0016】
製鋼スラグに含まれる遊離MgOは、遊離CaOに較べて水和が遅く、製鋼スラグをエージング処理しても遊離MgOの水和反応は進みにくい。このため製鋼スラグを路盤材に利用する場合、事前にエージング処理を十分に施すことにより、遊離CaOの多くを水和させることができても、遊離MgOの相当量はそのまま残存し、長期間かけて水和が進行するものと考えられる。このため、路盤材として施工してから長期間にわたり遊離MgOの水和が進行して路盤材が徐々に膨張し、最終的(例えば施工してから2〜10年程度経過した後)に路盤の隆起や破壊に至るものと考えられる。一般に、製鋼スラグのMgOはCaOよりも含有量が少ないが、上記のような問題はMgO含有量が比較的高い製鋼スラグほど生じやすい。
【0017】
すなわち、製鋼スラグ中のCaOとMgOの反応の推移をより具体的に説明すると、製鋼スラグ中のCaOは、含有率が高くても、製鉄工程の冷却過程で製鋼スラグに含まれるFe、SiO等と反応し、2CaO・Fe(ダイカルライト)や2CaO・SiO(ダイカルシウムシリケート)等の鉱物を生成し、安定化する。これに消費されなかった数%の残りのCaOが遊離CaOとして存在し、これが水と反応して体積膨張する。一方、MgOは水に溶けにくく、反応が遅いため、CaOとFeやSiOとの反応が終わってから反応が始まる。すなわち、製鋼スラグが含有するMgOのほとんどが遊離MgOとして存在し、これが長期にわたって徐々に水和し、体積膨張する。
ここで、長期にわたって進行する遊離MgOの水和による体積膨張は、以下のような反応によるものであると考えられる。
MgO+HO → Mg(OH) (鉱物体積 大)
Mg(OH)+CO → MgCO+HO (鉱物体積 大)
【0018】
このような長期にわたって遊離MgOの水和による体積膨張が進行し、最終的(例えば施工してから2〜10年程度経過した後)に路盤の隆起や破壊に至るという現象に対処して、大規模な路盤の隆起や破壊を未然に防止することができる方法について検討を重ねた結果、施工後の長期にわたる遊離MgOの水和によって体積膨張が進行している路盤材に対して、路盤の補修工事としてフライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上(以下、説明の便宜上「フライアッシュ等」という場合がある。)を添加・混合することにより、路盤材中の遊離MgOとフライアッシュ等を反応させてMgO−SiO−HO(M−S−H)等の体積の小さい水和物を生成させることができ、これにより遊離MgOが消費され、以降の路盤材の体積膨張を効果的に抑制できることを知見した。なお、このMgO−SiO−HO(M−S−H)の生成に消費される水は、補修時に散水などで供給され、或いは補修後に路盤の下の路床以下の土層中の地下水層からサクションにより供給され、補修後の路盤は最適含水比に近い状態に保たれる。
【0019】
フライアッシュは、SiOの含有量が高く(通常40〜75mass%程度)且つガラス質であるため反応性が高い。また、シリカフュームもSiOの含有量が高く(通常90〜95mass%程度)且つガラス質であるため反応性が高い。また、シラスは、九州南部一帯に厚い地層として分布する火山灰土であり、フライアッシュと同様にSiOの含有量が高く(通常40〜75mass%程度)且つガラス質であるため反応性が高い。このためフライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上を路盤材に混合した場合に遊離MgOと水和反応し、上記のような水和物を生成させる。これにより、以降はMg(OH)が生成されてもフライアッシュ等に含まれるSiOが存在する限り、Mg(OH)はSiOと反応を続け、MgO−SiO−HO(M−S−H)が生成され、体積は縮小する方向に向かう。
また、フライアッシュ等に加えて消石灰等のアルカリ物質を混合すれば、路盤をアルカリにすることでフライアッシュ等と遊離MgOとの反応を活性化させ、本発明の効果がより高まることが判った。
【0020】
施工済みの路盤材に対してフライアッシュ等を混合する(或いは、さらにアルカリ物質を混合する)には、路盤のアスファルトコンクリート層を剥がして路盤材敷設層を露出させ、この路盤材敷設層の路盤材にフライアッシュ等を混合する(或いは、さらにアルカリ物質を混合する)。その後、再びアスファルトコンクリート層を再施工して路盤を復旧すればよい。このような方法を採ることにより、路盤材の膨張によってそれまでに路盤に蓄積されていた歪(膨張圧)も開放されることになり、フライアッシュ等の添加効果と相俟って、以降の路盤の隆起や破壊を適切に防止することができる。
【0021】
本発明では、路盤材として施工する製鋼スラグに最初からフライアッシュ等を混合しておくのではなく、製鋼スラグを路盤材として施工した後、路盤に隆起若しくは破壊の前兆があり或いは一部に隆起若しくは破壊が生じた場合に、補修として路盤材にフライアッシュ等を混合するものである。これは、(i)MgOを含有する製鋼スラグを路盤材として施工した場合でも、必ず路盤の隆起や破壊を生じるという訳ではないため、最初から製鋼スラグにフライアッシュ等を混合しておくことは経済的でないこと、(ii)製鋼スラグに十分なエージング処理を施しても、ある程度の遊離CaOが残存することになるが、最初から製鋼スラグにフライアッシュ等を混合しておくと、その残存した遊離CaO(遊離CaOの水和反応は遊離MgOに較べて格段に速く進行する)との反応にフライアッシュ等が消費され、水和反応が遅い遊離MgOとの反応に利用できなくなること、などの理由によるものである。特許文献1、2の方法によっても、長い期間が経過した後に路盤膨張が生じていたのは、この(ii)のような理由によるものである。また、上記(ii)の問題に対しては、最初から大量のフライアッシュ等を添加しておくことが考えられるが、路盤材として粉体が多くなりすぎる問題があり、且つ不経済でもある。
【0022】
以下、本発明の詳細を説明する。
本発明法では、MgO含有量が5mass%以上であって、JIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法(80℃10日間の水浸膨張試験)により測定される水浸膨張比が1.5%未満の製鋼スラグを路盤材の一部又は全部に用いて施工された路盤を補修対象とする。
【0023】
製鋼スラグとは、鉄鋼製造プロセスの製鋼工程で発生するスラグであり、溶銑予備処理スラグ、転炉脱炭スラグ、溶融還元スラグ、電気炉スラグなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
また、JIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法(80℃10日間の水浸膨張試験)により測定される水浸膨張比が1.5%未満の製鋼スラグとは、通常、エージング処理を施された製鋼スラグである。エージング処理は、大気エージング(通常、6ヶ月以上大気中に曝してエージングを行う)、蒸気エージング、温水エージング、加圧エージングなどのいずれでもよい。
【0024】
なお、補修対象となる路盤は、路盤材として、「MgO含有量が5mass%以上であって、JIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比が1.5%未満の製鋼スラグ」に加えて、それ以外の鉄鋼スラグ(製鋼スラグ、高炉スラグなど)、天然砕石、コンクリート廃材、廃路盤材、レンガ廃材などの1種以上を含んでいてもよい。但し、鉄鋼スラグの場合には、JIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比が1.5%未満のものが好ましい。
【0025】
さきに述べたように、製鋼スラグを路盤材として施工してから相当程度長い期間が経過した後に生じる路盤の隆起や破壊は、製鋼スラグに含まれる遊離MgOの水和膨張によるものであり、MgO含有量が5mass%未満の製鋼スラグでは、そのような問題を生じにくい。また、路盤材として施工する製鋼スラグは、事前のエージング処理により水浸膨張比(JIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比)を1.5%未満にしておかないと、施工後の短期間に遊離CaOの水和による膨張で路盤の隆起や破壊を生じる恐れがある。
【0026】
表1に示す組成を有するとともに、エージング処理を施してJIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比を1.5%未満とした製鋼スラグを、路盤材として施工した後、11年後に回収した。この回収路盤材(製鋼スラグ)に対して、回収路盤材量の20mass%のフライアッシュを添加・混合したフライアッシュ添加材と、同じく回収路盤材量の20mass%のフライアッシュと5mass%の消石灰(pHを高めることによりフライアッシュを高活性化するためのアルカリ物質)を添加・混合したフライアッシュ・消石灰添加材について、それぞれを最適含水比状態でCBRモールドに入れて締固め(締固め条件:3層×92回×4.5kgランマー)、これを30日間室内養生した後、長期の80℃水浸膨張試験を実施し、水浸膨張比を測定した。
【0027】
また、上記と同じ回収路盤材(製鋼スラグ)に対して、回収路盤材量の5mass%のシリカフュームを添加・混合したシリカフューム添加材と、同じく回収路盤材量の5mass%のシリカフュームと2.5mass%の消石灰(pHを高めることによりフライアッシュを高活性化するためのアルカリ物質)を添加・混合したシリカフューム・消石灰添加材について、それぞれを最適含水比状態でCBRモールドに入れて締固め(締固め条件:3層×92回×4.5kgランマー)、これを30日間室内養生した後、長期の80℃水浸膨張試験を実施し、水浸膨張比を測定した。
また、フライアッシュやシリカフューム無添加の回収路盤材についても、同様の80℃水浸膨張試験を実施した。
なお、以上の80℃水浸膨張試験では、上述した以外の試験条件については、JIS A5015(2013)の附属書Bに従った。
【0028】
【表1】
【0029】
以上の試験結果を図1及び図2に示す。ここで、図1及び図2(後述する図3図6も同様)の横軸の経過日数とは、供試体を浸漬して80℃で6時間保持する養生を1日1回行い、これを「1日」としたものである。図1及び図2によれば、回収路盤材(製鋼スラグ)は遊離CaOの水和がほとんど完了しているため、10日程度まではフライアッシュ添加材、シリカフューム添加材、フライアッシュやシリカフュームの無添加材ともに、水浸膨張比は低い。これに対して、10日を超えると遊離MgOの水和が始まるが、フライアッシュ添加材及びシリカフューム添加材では、フライアッシュやシリカフュームの無添加材に較べて膨張が効果的に抑えられることが判る。
【0030】
また、フライアッシュやシリカフュームに加えて消石灰を添加したフライアッシュ・消石灰添加材、シリカフューム・消石灰添加材は、消石灰(アルカリ物質)がpHを高めることでフライアッシュやシリカフュームの活性が高められるため、消石灰を添加しないフライアッシュ添加材、シリカフューム添加材に較べて、膨張がより効果的に抑えられている。
【0031】
このため本発明では、MgO含有量が5mass%以上であって、JIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比が1.5%未満の製鋼スラグを路盤材に用いて施工された路盤において、隆起若しくは破壊の前兆があり又は一部に隆起若しくは破壊が生じた場合に、当該路盤のアスファルトコンクリート層を剥がして路盤材敷設層を露出させ、この路盤材敷設層の路盤材にフライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上を混合した後、アスファルトコンクリート層を再施工して路盤を復旧する。
【0032】
また、好ましくは、路盤材にフライアッシュ等とともにアルカリ物質(粉粒状のアルカリ物質)を混合する。これにより、路盤材のpHが高くなることでフライアッシュ等の活性が高められ、遊離MgOとの反応がより進みやすい環境をつくることができる。
アルカリ物質としては、例えば、消石灰(Ca(OH))、セメント、未エージング鉄鋼スラグ粉、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)などが挙げられ、これらの1種以上を添加することができる。
【0033】
鉄鋼スラグは、鉄鋼製造プロセスで発生するスラグであり、その代表例としては、高炉スラグと製鋼スラグがある。製鋼スラグには、溶銑予備処理スラグ、転炉脱炭スラグ、溶融還元スラグ、電気炉スラグなどある。未エージング鉄鋼スラグ粉とは、鉄鋼製造プロセスで発生してから6ヶ月未満の鉄鋼スラグであって、人為的なエージング処理(例えば、蒸気エージング、温水エージング、加圧エージングなど)を施していない鉄鋼スラグの粉末である。
【0034】
ここで、「路盤に隆起若しくは破壊の前兆があり又は一部に隆起若しくは破壊が生じた場合」とは、例えば、路面にひび割れが生じた場合、歪計などで測定される路盤の歪が許容値を超えた場合、路面に凹凸が発生して平坦性を損ねた状態となった場合、路面に帯状の段差や隆起が生じた場合、路面に野球場のピッチャーズマウンド型の隆起が生じた場合、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
本発明では、路盤材に対するフライアッシュ等の混合量は特に規定しないが、以下のような混合量とするのが好ましい。すなわち、フライアッシュとシラスはSiO含有量がほぼ同等であるが、シリカフュームのSiO含有量はそれよりも多いため、フライアッシュ、シリカフューム、シラスの中から選ばれる1種以上の路盤材に対する混合量は、[フライアッシュ量]+[シリカフューム量]×2+[シラス量]の合計で路盤材量の5〜30mass%程度とするのが好ましく、10〜30mass%程度とするのがより好ましい。路盤材量に対するフライアッシュ等の混合量(上記式に基づく混合量。以下同様)が5mass%未満では、フライアッシュ等による路盤材の膨張抑制効果が低下するおそれがある。一方、路盤材量に対するフライアッシュ等の混合量が30mass%を超えても混合量に見合う効果が得られず、却って経済性を損なうことになる。
【0036】
また、路盤材に対するアルカリ物質の混合量も特に限定しないが、路盤材量の1〜10mass%程度とすることが好ましい。路盤材量に対するアルカリ物質の混合量が1mass%未満では、混合が不均一になり、アルカリ物質の添加効果が十分に得られないおそれがある。一方、路盤材量に対してアルカリ物質を10mass%を超えて混合しても、アルカリ物質がフライアッシュ等に含まれるシリカ(SiO)やアルミナ(Al)と反応し、添加量に見合う効果が得られないので、却って不経済になる。また、路盤材にシリカフュームを単独で混合する場合には、同様の理由から、路盤材量に対するアルカリ物質の混合量は5mass%を上限とすることが好ましい。
【0037】
表2に示す組成を有するとともに、エージング処理を施してJIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比を1.5%未満とした製鋼スラグに対して、製鋼スラグ量の5〜30mass%のフライアッシュを添加・混合した後、最適含水比状態でCBRモールドに入れて締固めた(締固め条件:3層×92回×4.5kgランマー)。また、同様の製鋼スラグに対して、製鋼スラグ量の2.5〜15mass%のシリカフュームを添加・混合した後、最適含水比状態でCBRモールドに入れて締固めた(締固め条件:3層×92回×4.5kgランマー)。これらを30日間室内養生した後、施工後の長い期間を想定して50日間の80℃水浸膨張試験を実施し、水浸膨張比を測定した。また、フライアッシュやシリカフューム無添加の製鋼スラグについても、同様の80℃水浸膨張試験を実施した。
なお、以上の80℃水浸膨張試験では、上述した以外の試験条件については、JIS A5015(2013)の附属書Bに従った。
【0038】
【表2】
【0039】
以上の試験結果を図3および図4に示す。実際の路盤において、路盤材として施工した製鋼スラグに残存していた遊離CaOの水和は、施工後1年以内には完了すると考えられ、したがって、施工してから1年以上(特に2年以上)経過した後に路盤の膨張を生じるような場合には、遊離MgO起因の膨張と考えられる。また、80℃水浸膨張試験では、10日間の試験期間が施工後1年間にほぼ相当すると考えられる。
【0040】
図3及び図4において、10日経過までの膨張は主に遊離CaOの水和によるもの、10日以降の膨張は主に遊離MgOの水和によるものと考えられるが、フライアッシュやシリカフューム無添加材は10日以降も遊離MgOの長期間にわたる水和により膨張が続いている。これに対して、製鋼スラグ量の5〜30mass%のフライアッシュを添加・混合したフライアッシュ添加材と、製鋼スラグ量の2.5〜15mass%のシリカフュームを添加・混合したシリカフューム添加材は、いずれも10日以降の膨張が殆ど抑えられている。
【0041】
表2に示す組成を有するとともに、エージング処理を施してJIS A5015(2013)の附属書Bに規定する道路用鉄鋼スラグの水浸膨張試験方法により測定される水浸膨張比を1.5%未満とした製鋼スラグに対して、製鋼スラグ量の20mass%のフライアッシュと1〜10mass%の消石灰を添加・混合した後、最適含水比状態でCBRモールドに入れて締固めた(締固め条件:3層×92回×4.5kgランマー)。また、同様の製鋼スラグに対して、製鋼スラグ量の5mass%のシリカフュームと1〜5mass%の消石灰を添加・混合した後、最適含水比状態でCBRモールドに入れて締固めた(締固め条件:3層×92回×4.5kgランマー)。これらを30日間室内養生した後、施工後の長い期間を想定して約100日間の80℃水浸膨張試験を実施し、水浸膨張比を測定した。また、製鋼スラグ量の20mass%のフライアッシュのみを添加・混合した製鋼スラグ、同じく製鋼スラグ量の5mass%のシリカフュームのみを添加・混合した製鋼スラグについても、同様の80℃水浸膨張試験を実施した。
【0042】
なお、以上の80℃水浸膨張試験では、上述した以外の試験条件については、JIS A5015(2013)の附属書Bに従った。
以上の試験結果を図5及び図6に示す。これによれば、製鋼スラグに対して、フライアッシュ等とともに適量のアルカリ物質を添加・混合することにより、遊離MgOの水和による膨張をより効果的に抑えられることが判る。
【0043】
本発明法は、通常、以下のようにして実施される。
すなわち、路盤に隆起若しくは破壊の前兆があり又は一部に隆起若しくは破壊が生じた場合に、下記工程(1)〜(5)により路盤を補修する。また、この路盤の補修では、フライアッシュ等、又はフライアッシュ等とアルカリ物質が混合された路盤材が最適含水比となるように、工程(3)又は/及び工程(4)において路盤材に散水を行うことが好ましい。ここで、最適含水比は、路盤材として必要とされる水分に加えて、フライアッシュ等と遊離MgOとの反応に必要な水分を考慮して決められる。
【0044】
(1)路盤のアスファルトコンクリート層を剥がし、路盤材敷設層を露出させる。
(2)該路盤材敷設層の路盤材を解砕する。
(3)解砕中又は/及び解砕後の前記路盤材にフライアッシュ等又はフライアッシュ等とアルカリ物質を撒き、路盤材と混合する。
(4)該路盤材を転圧して路盤材敷設層を構成する。
(5)該路盤材敷設層の上にアスファルトコンクリート層を再施工し、路盤を復旧する。
【0045】
すなわち、まず、補修すべき路盤のアスファルトコンクリート層をバックホウなどの重機を用いて剥がし、路盤材敷設層を露出させた後(上記工程(1))、その露出した路盤材敷設層の路盤材をブレーカーやバックホウなどで解砕する(上記工程(2))。この解砕により、路盤材の膨張によってそれまでに路盤に蓄積されていた歪(膨張圧)も開放される。解砕中又は/及び解砕後の路盤材の上にフライアッシュ等又はフライアッシュ等とアルカリ物質を撒き、スタビライザーなどを用いて路盤材と混合した後(上記工程(3))、路盤材をロードローラー、振動ローラー、タイヤローラーなどを用いて転圧して路盤材敷設層を再構成し(上記工程(4))、その後、この路盤材敷設層の上にアスファルトコンクリート層を再施工し、路盤を復旧する(上記工程(5))。このアスファルトコンクリート層の再施工は、路盤材敷設層の上にアスファルトコンクリートを充填し、その引き均し、転圧など、常法に従って行う。
【0046】
なお、路盤材に対する散水は、例えば、(i)フライアッシュ等又はフライアッシュ等とアルカリ物質をスタビライザーなどで路盤材と混合する際、(ii)路盤材をロードローラーなどを用いて転圧する際、のいずれか又は両方で行うことができる。また、その場合、散水機能を備えたスタビライザイーやロードローラーなどを用いることができる。
本発明が補修対象とする路盤には、道路などの他に、駐車場、資材置き場、宅地などをはじめとする種々の舗装された場所が含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6