特許第6595984号(P6595984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6595984腎機能に関連付けられるバイオマーカーおよびそれを使用する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6595984
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】腎機能に関連付けられるバイオマーカーおよびそれを使用する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20191010BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20191010BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20191010BHJP
【FI】
   G01N33/53 D
   G01N33/543 501A
   C12Q1/68
【請求項の数】10
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2016-514016(P2016-514016)
(86)(22)【出願日】2014年5月13日
(65)【公表番号】特表2016-520192(P2016-520192A)
(43)【公表日】2016年7月11日
(86)【国際出願番号】US2014037762
(87)【国際公開番号】WO2014186311
(87)【国際公開日】20141120
【審査請求日】2017年5月11日
(31)【優先権主張番号】61/822,965
(32)【優先日】2013年5月14日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512080284
【氏名又は名称】メタボロン,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペリション、リージス
(72)【発明者】
【氏名】コブ、ジェフリー、エドモンド
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン、メレディス、ブイ.
(72)【発明者】
【氏名】ケネディー、アダム
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/027573(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/048344(WO,A1)
【文献】 特表2014−530350(JP,A)
【文献】 特表2013−534309(JP,A)
【文献】 特開2013−044698(JP,A)
【文献】 特開平04−126099(JP,A)
【文献】 特開平02−196787(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/126146(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0273207(US,A1)
【文献】 特表2013−515243(JP,A)
【文献】 矢内充,医学検査のあゆみ−20 GFR測定法と推定GFR,モダンメディア,2013年 6月,Vol.59 No.6,Page.155-160
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
C12Q 1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体において、腎機能を評価するための方法または腎機能の評価を支援するための方法であって、
前記被験体からの血清サンプルを分析してプソイドウリジン、N−アセチルトレオニンおよび、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、myo−イノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン(C6)、S−アデノシルホモシステイン(SAH)、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリシン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン(C5)、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチンおよびクレアチニンからなる群から選択される1種以上のバイオマーカーのレベルを決定することと、
プソイドウリジン、N−アセチルトレオニンおよび前記1種以上のバイオマーカーの決定されたレベルを数学モデルで使用して推定糸球体濾過量(GFR)を計算することと、および
前記推定GFRを用いることと、
を含む、方法。
【請求項2】
被験体において、腎機能を評価するための方法または腎機能の評価を支援するための方法であって、
前記被験体からの血清サンプルを分析してプソイドウリジン、N−アセチルトレオニンおよび、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、myo−イノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン(C6)、S−アデノシルホモシステイン(SAH)、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリシン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン(C5)、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチンおよびクレアチニンからなる群から選択される1種以上のバイオマーカーのレベルを決定することと、および
前記サンプル中のプソイドウリジン、N−アセチルトレオニンおよび前記1種以上のバイオマーカーのレベルをプソイドウリジン、N−アセチルトレオニンおよび前記1種以上のバイオマーカーの腎機能参照レベルと比較することと、
を含む、方法。
【請求項3】
前記被験体が、腎臓に対して毒性作用を有するおそれのある作用剤による治療を受けているかまたはそれによる治療を検討中である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記作用剤が、コントラストイメージング剤、化学療法剤および抗生物質からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
被験体において腎機能をモニターする方法であって、
被験体からの第1の血清サンプルを分析してプソイドウリジン、N−アセチルトレオニンおよび、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、myo−イノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン(C6)、S−アデノシルホモシステイン(SAH)、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリシン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン(C5)、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチンおよびクレアチニンからなる群から選択される1種以上のバイオマーカーのレベルを決定することであって、前記第1のサンプルが第1の時間点で前記被験体から取得される、
被験体からの第2の血清サンプルを分析してプソイドウリジン、N−アセチルトレオニンおよび前記1種以上のバイオマーカーのレベルを決定することであって、前記第2のサンプルが第2の時間点で前記被験体から取得される、および
前記被験体において腎機能をモニターするために、前記第2のサンプル中のプソイドウリジン、N−アセチルトレオニンおよび前記1種以上のバイオマーカーのレベルを、(a)前記第1のサンプル中のプソイドウリジン、N−アセチルトレオニンおよび前記1種以上のバイオマーカーのレベル、(b)前記1種以上のバイオマーカーの腎機能参照レベル、(c)前記1種以上のバイオマーカーの慢性腎疾患(CKD)陽性参照レベル、および/または(d)前記1種以上のバイオマーカーのCKD陰性参照レベル、と比較することと、
を含む、方法。
【請求項6】
プソイドウリジン、N−アセチルトレオニンおよび前記1種以上のバイオマーカーが、年齢、性別、CKDの家族歴、BUN、血清中クレアチニン、尿中アルブミン、β−2ミクログロブリン、β−TRACEおよび2−マンノピラノシルトリプトファン(2−MPT)からなる群から選択される腎機能レベルの決定に有用な1種以上の臨床測定または他の測定と組み合わせて使用される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記サンプルが、質量分析、ELISAおよび抗体結合からなる群から選択される1種以上の技術を用いて分析される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記推定GFRが、CKDの診断およびモニターまたはそれらの支援を行うために使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記推定GFRが、被験体の治療方針の決定の支援を行うために使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記被験体からの血清サンプルを分析して1種以上の追加のバイオマーカーのレベルを決定することをさらに含み、前記1種以上の追加のバイオマーカーが、trans−4−ヒドロキシプロリン、トリプトファン、3−メチルヒスチジン、N−アセチルカルノシン、p−クレゾールスルフェート、N4−アセチルシチジン、N1−メチル−2−ピリドン−5−カルボキサミド、1−メチルヒスチジン、ピログルタミン、チグリルカルニチン、5−メチルチオアデノシン(MTA)、イソブチリルカルニチン、インドールラクテート、グルタリルカルニチン(C5)、コリン、1−メチルウレート、ヒドロキシイソバレロイルカルニチン、pro−ヒドロキシ−pro、N−アセチル−3−メチルヒスチジン、サリチル尿酸グルクロニド、scyllo−イノシトール、キネート、2,3−ジヒドロキシイソバレレートおよびトリゴネリン(N’−メチルニコチネート)からなる群から選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年5月14日出願の米国仮特許出願第61/822,965号明細書(その内容はすべて、これをもって参照により組み込まれる)の利益を主張する。
【0002】
本発明は、概して、腎機能バイオマーカーおよび同バイオマーカーに基づく方法に関する。
【背景技術】
【0003】
腎臓の排泄機能(糸球体濾過量、GFR)を評価する高感度で正確でかつ便利な検査の有意な臨床上の必要性は、満たされていない。腎機能の最も正確な測定量は、理想的濾過マーカー(たとえば、イヌリン、イオタラメート、イオヘキソール)を使用する必要のある測定糸球体濾過量(mGFR)である。それは複雑であるため、この測定は、経費がかかり、慣例的臨床診療で行うのが困難であり、典型的には、調査研究または潜在的腎提供者で使用されるにすぎない。したがって、血清中クレアチニンなどのマーカーに基づく腎機能の代替的測定値が複雑な式で使用され、推定GFR(eGFR)が誘導される。この手法の利点は、腎機能の評価のための慣例的臨床診療でのその使いやすさである。しかしながら、GFRを決定するこれらの方法は、腎機能を真に評価するうえで制限があり、とくに「正常」範囲にある場合、いくつかの式は、GFRを過小評価し、いくつかの式は、GFRを過大評価する。これらの制限のいくつかは、筋量、食事、および抗生物質を含めていくつかの薬剤により影響を受ける可能性のある血清中クレアチニンレベルの変動が原因であると思われる。これにより、個体間および経時でレベルが変動することになる。この不正確さを含む臨床結果は、患者の誤診をもたらす。いくつかの場合、慢性腎疾患(CKD)の個体は、現在の方法により診断されないため、適切な治療を受けらない(偽陰性)。他の場合、個体は、実際にはCKDを有していなくても、CKDを有しているとして診断されるおそれがあり(偽陽性)、その結果、この個体は、有していない疾患の治療を受ける。より最近では、腎機能を評価するためにシスタチンCの血清中レベルが使用されてきているが、腎機能のこの尺度の有用性は、個体間のシスタチンC血清中レベルの変動により制限される。したがって、偽陰性および偽陽性の診断数を低減するために、便利でかつ現在利用可能な腎機能評価検査よりも正確な検査の必要性が存在する。
【0004】
さらに、腎機能の現在の評価(たとえば、血清中クレアチニン、シスタチンC、およびeGFRの測定、BUN、尿中アルブミン)は、とくに、個体が無症状であるCKDの最初期段階では、初期腎疾患の検出またはその進行のモニターを行うのに十分な感度および/または確度を有していない。腎機能の低下を初期に検出すれば、現在利用可能な方法で問題が検出される前に、起こりうる腎機能の有意な悪化を予防できるであろう。高感度のリードアウトを有する新規な検査で個体の腎機能の評価およびモニターを行えば、現在の方法でCKDが検出可能になる前に、CKDのより初期の検出が可能になるであろう。結果として、CKDおよび関連合併症の治療および管理にかかる全コストは、削減されるであろう。CKDを初期に検出すれば、心血管疾患、貧血、栄養失調、および骨疾患を含めて、合併症は、より効果的に治療可能であり、さらにはおそらく予防が可能である。CKDの初期の検出により、健康食、禁煙、体重減少、高血圧治療などのライフスタイルの変更が可能になるであろう。これにより、さらなる腎傷害が予防または低減される可能性があるため、腎機低下およびCKDに関連付けられる転帰であることが多い透析および腎移植の必要性が低減される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CKDのリスク因子(たとえば、60歳を超える年齢、高血圧、糖尿病、心血管疾患、CKD家族歴)を有する患者で1種以上のバイオマーカー代謝物のレベルを測定することにより、患者の腎機能を評価および/またはモニターする血液または尿に基づく検査は、臨床的に有用であろう。たとえば、バイオマーカー代謝物パネルのレベルを定量的に測定することにより、標準参照レベルを基準にしてパネルの各バイオマーカーのレベルの増加または減少を腎機能の指標となるようにした検査を、バイオマーカーにより構成することが可能である。そのようなバイオマーカー検査パネルにより、現在の腎機能検査結果を置き換えたりそれに追加したり、さらには医師が初期に腎機能をより良好に評価したりおよび/または患者の腎機能を経時的にモニターしたりすることが可能である。そのような検査はまた、腎機能低下を遅らせるための治療的介入の効果を評価するのに有用でありうる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、本発明は、被験体からの生物学的サンプルを分析してサンプル中の1種以上の腎機能バイオマーカーのレベルを決定することであって、1種以上のバイオマーカーが、列挙されたバイオマーカー、すなわち、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、myo−イノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン(C6)、S−アデノシルホモシステイン(SAH)、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリシン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン(C5)、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチン、クレアチニンから選択される、決定することと、被験体の腎機能を評価するためにサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを1種以上のバイオマーカーの腎機能参照レベルと比較することと、を含む、腎機能の評価または評価支援を行う方法を提供する。
【0007】
他の実施形態では、本発明は、組成物で治療された被験体からの生物学的サンプルを分析してサンプル中の1種以上の腎機能バイオマーカーのレベルを決定することであって、1種以上のバイオマーカーが、列挙されたバイオマーカー、すなわち、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、myo−イノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン(C6)、S−アデノシルホモシステイン(SAH)、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリシン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン(C5)、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチン、クレアチニンから選択される、決定することと、腎機能を評価するためにサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを1種以上のバイオマーカーの腎機能参照レベルと比較することと、を含む、組成物に対する反応で腎機能を評価する方法を提供する。
【0008】
他の態様では、本発明は、被験体からの生物学的サンプルを分析してサンプル中の1種以上の腎機能バイオマーカーのレベルを決定することであって、1種以上のバイオマーカーが、列挙されたバイオマーカー、すなわち、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、myo−イノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン(C6)、S−アデノシルホモシステイン(SAH)、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリシン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン(C5)、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチン、クレアチニンから選択される、決定することと、被験体の腎機能のレベルを決定するために、サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを1種以上のバイオマーカーの腎機能参照レベルと比較することと、を含む、腎機能のレベル(たとえば、正常、軽度低下、中等度低下、重度低下、末期腎不全)に従って被験体の分類または分類支援を行う方法を提供する。
【0009】
他の実施形態では、本発明は、被験体において腎機能をモニターする方法を提供する。本方法は、被験体からの第1の生物学的サンプルを分析して1種以上の腎機能バイオマーカーのレベルを決定することであって、1種以上のバイオマーカーが、列挙されたバイオマーカー、すなわち、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、myo−イノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン(C6)、S−アデノシルホモシステイン(SAH)、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリシン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン(C5)、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチン、クレアチニンから選択され、かつ第1のサンプルが第1の時間点で被験体から取得される、決定することと、被験体からの第2の生物学的サンプルを分析して1種以上のバイオマーカーのレベルを決定することであって、第2のサンプルが第2の時間点で被験体から取得される、決定することと、被験体において腎機能をモニターするために、第2のサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを、(a)第1のサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベル、(b)1種以上のバイオマーカーの腎機能参照レベル、(c)1種以上のバイオマーカーのCKD陽性参照レベル、および/または(d)1種以上のバイオマーカーのCKD陰性参照レベルと、比較することと、を含む。
【0010】
さらなる実施形態では、本発明は、腎機能の評価および/または腎機能のモニターを行うための腎機能スコアを提供する。
【0011】
他の態様では、本発明は、被験体からの生物学的サンプルを分析してサンプル中の1種以上の腎機能バイオマーカーのレベルを決定することであって、1種以上のバイオマーカーが表1、2、3、および/または4から選択される、決定することと、被験体がCKDを有するかを決定するためにサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを1種以上のバイオマーカーのCKD陽性および/またはCKD陰性参照レベルと比較することと、を含む、CKDの診断または診断支援を行う方法を提供する。
【0012】
他の実施形態では、本明細書に記載の方法は、被験体における腎機能の評価に有用な他の方法(またはその結果)と組み合わせて使用されうる。たとえば、臨床パラメーター、たとえば、BUN、SCr、および/または尿中アルブミン測定など、腎機能マーカー、たとえば、β−2ミクログロブリン、β−TRACE、2−マンノピラノシルトリプトファン(2−MPT)など、さらには患者情報、たとえば、CKD家族歴または他のリスク因子などは、バイオマーカーと共に使用可能である。
【0013】
他の実施形態では、本明細書に記載の方法は、40〜80ml/分/1.73mのGFR推定値を有する患者において腎機能の評価および/またはCKDの診断を行うために使用されうる。
【0014】
一実施形態では、被験体において腎機能の評価および/またはCKDの診断を行うために、プソイドウリジン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルトレオニン、およびクレアチニンで構成されたバイオマーカーパネルを使用しうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】代謝物バイオマーカー検査(新規なバイオマーカー検査)をどこで臨床診療に組み込むことが有用であるかを例示した患者管理のアルゴリズムの例である。不確実な診断の範囲内(破線ボックスで示される)のeGFRおよび/または尿中アルブミンのスコアを有する患者は、代謝物バイオマーカー検査を受けることになろう。新規なバイオマーカー検査とは、代謝物バイオマーカー腎機能検査を意味する。G1:ステージ1のCKD、GFR>90;G2:ステージ2のCKD、GFR60〜89;G3a:ステージ3のCKD、GFR45〜59;G3b:ステージ3のCKD、GFR30〜44;G4:ステージ4のCKD、GFR15〜29;G5:ステージ5のCKD、GFR<15または透析施行。A1:アルブミン対クレアチニン比<30mg/g;A2:アルブミン対クレアチニン比30〜300mg/g;A3:アルブミン対クレアチニン比>300mg/g。CKD、慢性腎疾患;eGFR、推定糸球体濾過量;SCr、血清中クレアチニン。
図2】代謝物バイオマーカー検査の使用を示す薬剤療法を受けた場合の患者管理のアルゴリズムの例である。腎機能レベルは、代謝物バイオマーカー検査を用いて評価されよう。また、薬剤療法レジメンの推奨事項は、その結果に基づいて作成可能であろう。バイオマーカー検査とは、代謝物バイオマーカー腎機能検査を意味する。
図3A】実施例2に記載されるようにサンプルで測定されたC−グリコシルトリプトファンのレベルに基づく患者血清サンプルの分布のグラフ表示である。
図3B】実施例2に記載されるようにCKDを正常と区別するために例示的なバイオマーカーのC−グリコシルトリプトファンを用いて作成されたROC曲線のグラフ表示である。
図4A】実施例2に記載されるようにサンプルで測定されたN−アセチルトレオニンのレベルに基づく患者血清サンプルの分布のグラフ表示である。
図4B】実施例2に記載されるようにCKDを正常と区別するために例示的なバイオマーカーのN−アセチルトレオニンを用いて作成されたROC曲線のグラフ表示である。
図5A】実施例2に記載されるようにサンプルで測定されたプソイドウリジンのレベルに基づく患者血清サンプルの分布のグラフ表示である。
図5B】実施例2に記載されるようにCKDを正常と区別するために例示的なバイオマーカーのプソイドウリジンを用いて作成されたROC曲線のグラフ表示である。
図6A】実施例3に記載のモデル1を用いて計算された推定GFRとCKD−EPI式を用いて計算されたeGFRとの相関分析のグラフ表示である。
図6B】実施例3に記載のモデル2を用いて計算された推定GFRとCKD−EPI式を用いて計算されたeGFRとの相関分析のグラフ表示である。
図6C】実施例3に記載のモデル3を用いて計算された推定GFRとCKD−EPI式を用いて計算されたeGFRとの相関分析のグラフ表示である。
図6D】実施例3に記載のモデル4を用いて計算された推定GFRとCKD−EPI式を用いて計算されたeGFRとの相関分析のグラフ表示である。
図6E】実施例3に記載のモデル5を用いて計算された推定GFRとCKD−EPI式を用いて計算されたeGFRとの相関分析のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
腎機能バイオマーカー、腎機能の評価または評価支援を行う方法、慢性腎疾患(CKD)の診断または診断支援を行う方法、腎機能レベルに従って被験体を分類する方法、腎機能をモニターする方法、CKDに対する感受性を決定する方法、組成物に対する反応で腎機能を評価する方法、さらには腎機能バイオマーカーに基づく他の方法が、本明細書に記載されている。
【0017】
一実施形態では、腎機能の評価または評価支援を行うために使用可能なバイオマーカー代謝物のグループ(「パネル」としても参照される)が同定される。
【0018】
しかしながら、本発明をさらに詳細に説明する前に、以下の用語を定義する。
【0019】
定義:
「バイオマーカー」とは、第1の表現型を有する(たとえば、疾患を有する)被験体または被験体群からの生物学的サンプル中に、第2の表現型を有する(たとえば、疾患を有してない)被験体または被験体群からの生物学的サンプルと比較して、示差的に存在する(すなわち、増加または減少した)化合物、好ましくは、代謝物を意味する。バイオマーカーは、任意のレベルで示差的に存在しうるが、一般的には、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、もしくはそれ以上増加したレベルで存在するか、または一般的には、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは100%(すなわち、不在)減少したレベルで存在する。バイオマーカーは、好ましくは、統計的に有意なレベルで示差的に存在する(すなわち、ウェルチのT検定またはウィルコクソンの順位和検定のいずれかを用いて決定したとき、0.05未満のp値および/または0.10未満のq値)。
【0020】
1種以上のバイオマーカーの「レベル」とは、サンプルで測定されたバイオマーカーの絶対的または相対的な量または濃度を意味する。
【0021】
「サンプル」または「生物学的サンプル」とは、被験体から単離された生物学的物質を意味する。生物学的サンプルは、所望のバイオマーカーを検出するのに好適な任意の生物学的物質を含有しうるとともに、被験体からの細胞および/または非細胞材料を含みうる。サンプルは、任意の好適な生物学的組織または流体、たとえば、腎臓組織、血液、血漿、血清、尿、脳脊髄液(CSF)などから単離可能である。
【0022】
「被験体」とは、任意の動物を意味するが、好ましくは、哺乳動物、たとえば、ヒト、サル、マウス、ウサギ、ラットなどである。
【0023】
バイオマーカーの「参照レベル」とは、特定の疾患状態、表現型、またはそれらの欠如、さらには疾患状態、表現型、またはそれらの欠如の組合せの指標となるバイオマーカーのレベルを意味する。バイオマーカーの「参照レベル」は、バイオマーカーの絶対的または相対的な量または濃度、バイオマーカーの存在または不在、バイオマーカーの量または濃度の範囲、バイオマーカーの最小および/または最大の量または濃度、バイオマーカーの平均の量または濃度、ならびに/あるいはバイオマーカーのメジアンの量または濃度でありうるとともに、それに加えて、バイオマーカーの組合せの「参照レベル」もまた、2つ以上のバイオマーカーの絶対的または相対的な量または濃度の互いの比でありうる。特定の疾患状態、表現型、またはそれらの欠如に対するバイオマーカーの適切な参照レベルは、1つ以上の適切な被験体で所望のバイオマーカーのレベルを測定することにより決定されうるとともに、そのような参照レベルは、特定の被験体集団に合わせて調整されうる(たとえば、特定の年齢の被験体からのサンプル中のバイオマーカーレベルと、特定の年齢群での特定の疾患状態、表現型、またはそれらの欠如に対する参照レベルと、の間で比較が行えるように、参照レベルは、年齢を一致させうる)。バイオマーカーの「陽性」参照レベルとは、特定の疾患状態または表現型の指標となるレベルを意味する。バイオマーカーの「陰性」参照レベルとは、特定の疾患状態または表現型の欠如の指標となるレベルを意味する。たとえば、バイオマーカーの「CKD陽性参照レベル」とは、被験体においてCKDの陽性診断の指標となるバイオマーカーのレベルを意味し、バイオマーカーの「CKD陰性参照レベル」とは、被験体においてCKDの陰性診断(すなわち、正常腎機能、CKDの不在)の指標となるバイオマーカーのレベルを意味する。同様に、「腎機能参照レベル」とは、被験体に存在する腎機能の程度を示すものでありうる。たとえば、バイオマーカーの「正常腎機能参照レベル」とは、被験体において正常腎機能の指標となるバイオマーカーのレベルを意味し、バイオマーカーの「中等度低下の腎機能参照レベル」とは、中等度低下の腎機能の指標となるバイオマーカーのレベルを意味し、バイオマーカーの「重度低下の腎機能参照レベル」とは、被験体において重度低下の腎機能の指標となるバイオマーカーのレベルを意味する。
【0024】
「非バイオマーカー化合物」とは、第1の表現型を有する(たとえば、第1の疾患を有する)被験体または被験体群からの生物学的サンプル中に、第2の表現型を有する(たとえば、第1の疾患を有していない)被験体または被験体群からの生物学的サンプルと比較して、示差的に存在しない化合物を意味する。しかしながら、そのような非バイオマーカー化合物は、第1の表現型(たとえば、第1の疾患を有する)または第2の表現型(たとえば、第1の疾患を有していない)と比較して、第3の表現型を有する(たとえば、第2の疾患を有する)被験体または被験体群からの生物学的サンプル中のバイオマーカーでありうる。
【0025】
「代謝物」または「小分子」とは、細胞中に存在する有機および無機の分子を意味する。この用語は、大きなタンパク質(たとえば、2,000,3,000、4,000,5,000、6,000,7,000、8,000,9,000、または10,000を超える分子量を有するタンパク質)、大きな核酸(たとえば、2,000、3,000,4,000、5,000,6,000、7,000,8,000、9,000、または10,000を超える分子量を有する核酸)、大きな多糖(たとえば、2,000、3,000,4,000、5,000,6,000、7,000,8,000、9,000、または10,000を超える分子量を有する多糖)などの大きな高分子を含まない。細胞の小分子は、一般的には、細胞質または他のオルガネラたとえばミトコンドリアの溶液中に遊離状態で見いだされ、そこでは、さらに代謝可能なまたは高分子と呼ばれる大分子の生成に使用可能な中間体のプールを形成する。「小分子」という用語は、シグナリング分子および食料に由来するエネルギーを使用可能な形態に変換する化学反応の中間体を含む。小分子の例としては、糖、脂肪酸、アミノ酸、ヌクレオチド、細胞プロセスで形成される中間体、および細胞内に見いだされる他の小分子が挙げられる。
【0026】
「糸球体濾過量」または「GFR」とは、単位時間あたり腎糸球体毛細血管からボーマン嚢内に濾過される流体の体積のことである。GFRは、腎機能の計量値であり、特定の閾値以上のGFRは、正常腎機能の指標となり、閾値未満のGFRは、腎機能が損なわれているか障害されていることの指標となる。一般的には、高いGFR値は、より良好な腎機能の指標となり、一方、低いGFRは、腎機能障害(たとえば、慢性腎疾患、急性腎傷害)の指標となる。
【0027】
「推定糸球体濾過量」または「eGFR」とは、血清中クレアチニン濃度に基づく実際の糸球体濾過量の計算推定量を意味する。一般的には、低いeGFR値は、腎機能低下に関連付けられる。
【0028】
「CKD−EPI eGFR」または「慢性腎疾患疫学コラボレーション」は、eGFRを計算するための式である。式は、次のとおりである。GFR=141×min(SCr/κ,1)α×max(SCr/κ,1)−1.209×0.993年齢×1.018[女性の場合]×1.159[黒人の場合]、式中、SCrは、血清中クレアチニン(mg/dL)であり、κは、女性では0.7、男性では0.9であり、αは、女性では−0.329、男性では−0.411であり、minは、SCr/κまたは1の最小値を表し、かつmaxは、SCr/κまたは1の最大値を表す。
【0029】
「MDRD」または「腎疾患における食事の修正eGFR」は、eGFRを計算するための他の式である。式は、次のとおりである。eGFR=186×(Scr−1.154×(年齢)−0.203×(0.742、女性の場合)×(1.212、黒人の場合)、式中、Scrは、血清中クレアチニン(mg/dL)である。
【0030】
「尿中アルブミン」とは、尿中のアルブミン量を測定する検査のことであり、腎疾患を検出するために使用される。
【0031】
「血清中クレアチニン」または「SCr」とは、血清中のクレアチニンの測定を意味し、通常、GFRを推定するために使用される。
【0032】
「血中尿素窒素」または「BUN」とは、尿素の形態の血中窒素量の測定を意味する。BUNは、腎機能を測定するために使用される検査である。
【0033】
「慢性腎疾患」または「CKD」は、腎臓に損傷を与えて生体から老廃物を除去する腎臓の能力を低下させる病態を含む。この結果、体内に高レベルの老廃物が生じるとともに、疾病のリスクの増加、および高血圧、貧血、栄養健康不良、神経損傷などの合併症の発生を招く。少なくとも3ヶ月間にわたり腎機能の異常を有する患者は、CKDと診断されうる。CKDに起因する腎障害は、永続的である。
【0034】
「急性腎傷害」または「AKI」とは、腎機能の急速な損失を生じる病態を意味する。AKIに起因する腎障害は、可逆的でありうる。
【0035】
「慢性腎疾患ステージ」または「CKDステージ」とは、測定または推定の糸球体濾過量(mGFR、eGFR)を用いて現在評価される腎障害の程度を意味する。臨床的には、CKDの5つのステージが一般に認知されており、ステージ1(GFR>90)は正常、ステージ2(GFR60〜89)は最小低下、ステージ3Aおよび3B(GFR30〜59)は中等度低下、ステージ4(GFR15〜29)は重度低下、ステージ5(GFR<15または透析施行)は確定腎不全としても参照されるかなり重度または末期の腎不全とみなされる腎機能である。腎機能ステージは、任意の期間にわたり存在する腎障害(すなわち、AKIまたはCKDに起因する腎障害)を参照すべく使用されうる。
【0036】
I.バイオマーカー
一般的には、代謝プロファイルは、CKD−EPI eGFR式および/またはMDRD eGFR式を用いて計算されたeGFRにより測定された一連の腎機能を有するヒト被験体から捕集された生物学的サンプルから作成された。腎機能バイオマーカーは、被験体からの血清および尿のサンプルで測定された代謝物のレベルを分析して、レベルをeGFRと相関付けることにより同定され、eGFRと有意に相関付けられた分子は、腎機能バイオマーカーとして選択された。CKDのバイオマーカーは、CKDを有する被験体群(すなわち、eGFR<60を有する個体)から捕集された生物学的サンプルで代謝プロファイルを作成して、前記プロファイルとCKDを有していない被験体(すなわち、eGFR>または=60を有する個体)からの生物学的サンプルの代謝プロファイルとを比較することにより、同定された。対照群(たとえば、CKDと診断されなかった被験体)と比較して、CKDを有する被験体からの血清サンプルの代謝プロファイルで、統計的に有意なレベル(p<0.1)で示差的に存在する分子を含めて、示差的に存在する分子は、CKDを診断するためのバイオマーカーとして同定された。
【0037】
バイオマーカーは、本明細書でより詳細に考察される。同定されたバイオマーカーは、被験体において腎機能を評価するために、被験体をモニターして腎機能の変化(たとえば、急性腎傷害または初期CKDの指標となりうる機能の低下)を検出するために、腎機能の程度(たとえば、正常、軽度低下、中等度低下、重度低下、末期腎不全)に従って被験体を分類するために、およびCKDと診断されなかった対照被験体に対してCKDを有する被験体を区別するために、使用されうる(表1、2、3、および/または4を参照されたい)。さらに、バイオマーカーは、経時的にまたは薬剤治療、疾患(たとえば、II型糖尿病)、もしくはライフスタイル介入(たとえば、食事、運動)に対する反応で腎機能の変化をモニターするために、ならびに薬剤療法および/または腎移植に好適な候補として被験体を同定または除外するために、使用されうる。
【0038】
II.方法
A.バイオマーカーを用いた腎機能の評価
腎機能バイオマーカーは、被験体において腎機能の評価(または評価支援)を行うために使用可能である。同定されたバイオマーカーは、無症状の被験体において、症状の存在またはリスク因子(たとえば、高血圧、糖尿病、CKD家族歴、特定の化学/環境条件への暴露など)に起因してCKDまたはAKIのリスクのある被験体において、および組成物または治療的介入(たとえば、腎移植、ライフスタイルの変更)に反応する被験体において腎機能を評価することを含めて、任意の被験体において腎機能を評価するために使用可能であることが理解される。被験体は、腎機能の評価を1回以上受けることもありうることがさらに理解される。
【0039】
例示的な方法では、被験体における腎機能の評価は、(1)被験体から取得された生物学的サンプルを分析してサンプル中の1種以上の腎機能バイオマーカーのレベルを決定することと、(2)サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを1種以上のバイオマーカーの参照レベルと比較して被験体において腎機能を評価し、かつ腎機能が正常であるか障害されているかを決定し、さらには腎機能障害レベルを決定することと、を含む。1種以上のバイオマーカーは、表1、2、3、および/もしくは4、ならびに/または次のバイオマーカー、すなわち、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、myo−イノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン(C6)、S−アデノシルホモシステイン(SAH)、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリシン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン(C5)、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチン、クレアチニン、ならびにそれらの組合せからなる群から選択されうる。そのような方法を用いて腎機能の評価支援を行う場合、その方法の結果は、被験体が正常腎機能を有するか障害のある腎機能(急性腎傷害(AKI)またはCKDから生じうる)を有するか、さらには腎機能レベル(たとえば、正常、軽度障害、中程度障害、重度障害、末期腎不全)の臨床判断に有用な他の方法(もしくはその結果)および/または患者メタデータと一緒に使用されうる。
【0040】
サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを決定するために、任意の好適な方法を用いて生物学的サンプルを分析しうる。好適な方法としては、クロマトグラフィー(たとえば、HPLC、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー)、質量分析(たとえば、MS、MS−MS)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、抗体結合、他の免疫化学的技術、およびそれらの組合せが挙げられる。さらに、たとえば、測定が望まれるバイオマーカーのレベルと相関する化合物(または複数の化合物)のレベルを測定するアッセイを用いて、1種以上のバイオマーカーのレベルを間接的に測定しうる。
【0041】
列挙されたバイオマーカー、すなわち、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、myo−イノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン(C6)、S−アデノシルホモシステイン(SAH)、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリシン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン(C5)、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチン、クレアチニンから選択される1種以上のバイオマーカーのレベルは、記載の方法で決定されうる。たとえば、列挙されたバイオマーカーのすべての組合せを含めて、1種のバイオマーカー、2種以上のバイオマーカー、3種以上のバイオマーカー、4種以上のバイオマーカー、5種以上のバイオマーカー、6種以上のバイオマーカー、7種以上のバイオマーカー、8種以上のバイオマーカー、9種以上のバイオマーカー、10種以上のバイオマーカーなどのレベル。
【0042】
バイオマーカーの組合せのレベルを決定することにより、記載の方法でより大きい感度および特異度が可能になりうる。たとえば、生物学的サンプル中の2種のバイオマーカーのペアワイズ分析または特定のバイオマーカー(および非バイオマーカー化合物)のレベルの比により、腎機能の評価および腎機能の評価支援でより大きい感度および特異度が可能になりうる。たとえば、myo−イノシトール対グリセロホスホコリン(GPC)、トリプトファン対キヌレニン、トリプトファン対3−インドキシルスルフェート、および/またはトリプトファン対インドールアセテートの比を用いて、被験体において腎機能を評価しうる。さらなる例では、2種以上、3種以上、4種以上、および/または5種以上のバイオマーカーの組合せのレベルを決定することにより、本明細書に記載の方法でより大きい感度および特異度が可能になりうる。一例では、プソイドウリジン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルトレオニン、およびクレアチニンのレベルを用いて、被験体において腎機能を評価しうる。他の例では、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、myo−イノシトール、およびクレアチニンのレベルを用いて、被験体において腎機能を評価しうる。他の例では、N−アセチルトレオニン、myo−イノシトール、C−グリコシルトリプトファン、およびクレアチニンのレベルを用いて、被験体において腎機能を評価しうる。他の例では、N−アセチルトレオニン、myo−イノシトール、キヌレニン、およびクレアチニンのレベルを用いて、被験体において腎機能を評価しうる。他の例では、プソイドウリジン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルトレオニン、およびmyo−イノシトールのレベルを用いて、被験体において腎機能を評価しうる。
【0043】
単純比較(たとえば、マニュアル比較)を含めて、種々の技術を用いて、1種以上のバイオマーカーのレベルを腎機能参照レベルと比較しうる。また、1種以上の統計解析(たとえば、t検定、ウェルチのT検定、ウィルコクソンの順位和検定、相関分析、ランダムフォレスト、Tスコア、Zスコア)を用いて、または数学モデル(たとえば、アルゴリズム、統計モデル)を用いて、生物学的サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを参照レベルと比較しうる。たとえば、単一のアルゴリズムまたは複数のアルゴリズムを含む数学モデルを用いて、被験体において腎機能を評価しうる。
【0044】
本方法の結果は、被験体における腎機能の評価に有用な他の方法および測定(またはそれらの結果)と一緒に使用されうる。たとえば、臨床パラメーター、たとえば、BUN、SCr、および/または尿中アルブミン測定など、腎機能マーカー、たとえば、β−2ミクログロブリン、β−TRACE、2−マンノピラノシルトリプトファン(2−MPT)など、さらには患者情報、たとえば、CKD家族歴または他のリスク因子などは、バイオマーカーと共に使用可能である。
【0045】
一例では、コントラストイメージング剤が毒性でありうるとともに、結果として、腎傷害を引き起こしうる場合、コントラスト剤を用いてイメージング検査を受けている患者において、腎機能バイオマーカーの同定により、腎機能の評価(または評価支援)を行うことが可能である。たとえば、腎機能低下(たとえば、ステージ2のCKDまたはステージ3もしくはステージ3AのCKD)の患者において、腎機能の正確な測定は、患者および臨床医がイメージング検査のリスク対便益比を評価するのに役立つであろうし、より多くの情報に基づく決断が可能になろう。
【0046】
他の例では、腎機能を決定するための現在の標準(たとえば、SCr、eGFR、シスタチンC、尿中アルブミン、および/またはBUNの測定)を用いてCKDが診断されうる前に、腎機能バイオマーカーの同定により、腎機能の評価(または評価支援)を行って初期CKDを検出することが可能になる。臨床測定は、腎機能の初期変化を検出するのに十分な感度を有していないこともあり、またはたとえば、慢性疾病、肥満症、高齢、菜食、および/もしくは一般的筋量減少に起因して、特定の被験体において不正確なこともある。たとえば、2型糖尿病の被験体において、本明細書に記載のバイオマーカーを用いて、CKDの診断または診断支援を行いうる。CKDの正確な早期診断により、さらなる腎障害およびより重度のCKDの発生を遅延または予防しうるより早期の治療的介入が可能になりうる。
【0047】
他の例では、潜在的腎提供者である被験体における腎機能の正確な評価は、潜在的提供者が腎臓の提供に適しているかを医師が決定するのを支援するであろう。
【0048】
他の例では、提供されたバイオマーカーにより、組成物で治療される被験体において腎機能を評価する方法が可能になる。組成物は、任意の疾患または病態を治療するために被験体に投与される任意の組成物、薬剤、または療法剤でありうる。組成物は、そのほかに、疾患または病態を有する被験体に投与される任意の組成物、たとえば、コントラストイメージング剤でありうる。たとえば、また、腎機能バイオマーカーの同定により、腎機能を改変する組成物に対する被験体の反応の評価、さらには腎機能を改変する2種以上の組成物に対する相対的な患者の反応の評価が可能になる。そのような評価は、たとえば、特定の被験体に対して癌を治療するための組成物を選択したり、または一連の治療もしくは臨床試験への組入れに対して被験体を選択したりするために使用されうる。そのような評価はまた、薬剤開発プロセスの前に、その全体を通して、および/またはその後に、組成物に対する反応で腎機能をモニターするために使用されうる。
【0049】
他の実施形態では、正常とのボーダーライン上にあるeGFR値を有する患者において、本発明により腎機能の正確な決定を提供する代謝物バイオマーカー検査が可能になるため、臨床医は、さらなる腎障害のリスクを低減するように、特定の治療を選択したりまたは患者の治療を変更したりことが可能になる。すべての患者集団を正確に評価するわけではなく(多くの場合、偽陽性または偽陰性の診断をもたらす)、しかも初期腎機能障害(AKIまたは初期CKDの指標となりうる)を検出するものでもない現在の腎機能検査の限界は、そのようなバイオマーカー検査により克服される。たとえば、CKDを診断するためのスクリーニング、診断評価、治療、および臨床症状管理の最も適正な規範を示す例示的な臨床診療アルゴリズム(フローチャート)が、図1に例示されている。このフローチャートに組み込まれているのは、列挙されたバイオマーカー、すなわち、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、myo−イノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン(C6)、S−アデノシルホモシステイン(SAH)、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリシン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン(C5)、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチン、およびクレアチニンから選択される腎機能バイオマーカーパネルのレベルの分析に基づく腎機能バイオマーカー検査である。この実施例では、CKD症状を有していない患者は、現在の臨床診療ガイドラインにより推奨されるSCrおよびeGFRおよび/または尿中アルブミンを測定することにより評価された腎機能を最初に有しうる。eGFRにより測定したときのG2〜G3aのCKDステージおよび/または尿中アルブミンにより測定したときのCKDステージA1は、多くの場合、偽陽性または偽陰性の診断をもたらすため、確認試験が推奨される。これらのスコアを有する患者は、CKDの診断を支援するために、新規な代謝物バイオマーカー検査を受けるであろう(破線ボックス)。正常腎機能バイオマーカーレベルは、患者が正常腎機能を有することの指標となる。代謝物バイオマーカー検査を用いて正常と診断された患者は、腎機能を評価するために定期的にモニターされるであろう。ベースライン時の代謝物バイオマーカーレベルが正常な範囲を有意に上回るまたは下回る結果は、患者がCKDを有することの指標となる。代謝物バイオマーカー検査を用いてCKDを有すると診断された患者は、適切な治療を受けることになろう。
【0050】
一態様では、本明細書に提供されるバイオマーカーは、腎機能レベルおよび/または被験体がAKIもしくはCKDの指標となりうる腎機能障害を有する可能性を示す数値スコア(「腎機能スコア」)を医師に提供するために、数学的または統計的なモデルまたは式で使用可能である。スコアは、バイオマーカーおよび/またはバイオマーカーの組合せの参照レベルが臨床的に有意に変化することに基づく。参照レベルは、アルゴリズムから誘導可能であるか、またはGFR低下の指標から計算可能である。被験体の腎機能スコアを決定する方法は、被験体の腎機能スコアを決定するために、サンプル中の1種以上の腎機能バイオマーカーのレベルを1種以上のバイオマーカーの腎機能参照レベルと比較することを含みうる。本方法では、次のリスト、すなわち、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、myo−イノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン(C6)、S−アデノシルホモシステイン(SAH)、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリシン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン(C5)、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチン、およびクレアチニンから選択される任意の数のマーカーを利用しうる。回帰分析などの統計的手法を含めて任意の方法により、複数のバイオマーカーを腎機能と相関付けることが可能である。
【0051】
腎機能スコアを用いて、正常(すなわち、腎機能障害なし)から、軽度低下、中等度低下、重度低下、または末期腎不全まで、の腎機能の範囲内に被験体を配置することが可能である。腎機能スコアの使用例としては、限定されるものではないが、腎機能の評価、腎機能の分類、CKD発生に対する感受性、AKI発生に対する感受性、CKDの診断およびステージ、腎機能スコアの定期的決定およびモニターによるCKD進行のモニター、腎移植受容者の腎機能状態のモニター、治療的介入に対する反応の決定、薬剤有効性の評価、ならびに治療剤および/またはコントラストイメージング剤に対する耐性の決定が挙げられる。
【0052】
いくつかの実施形態では、本方法を用いて経時的に腎機能を評価することにより、腎機能をモニターすることが可能である。1種以上のバイオマーカーのレベルの経時的変化(もしあれば)(すなわち、第1の時間点での被験体からの第1のサンプルを、第2の時間点で被験体から取得された第2のサンプルと比較して)は、患者における腎機能の経時的変化の指標となりうる。被験体の腎機能を経時的に特徴付けるために、第1のサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベル、第2のサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベル、ならびに/または第1および第2のサンプル中のバイオマーカーのレベルの比較の結果を、1種以上のバイオマーカーの参照レベルと、比較しうる。1種以上のバイオマーカーのレベルが経時的に増加または減少して(たとえば、第2のサンプルを第1のサンプルと比較して)、低い腎機能参照レベルに類似してくる(または高い腎機能参照レベルに類似しなくなる)ことが比較から示唆されるのであれば、その結果は、腎機能低下の指標となる。1種以上のバイオマーカーのレベルが経時的に増加または減少して、高い腎機能参照レベルに類似してくる(または低い腎機能参照レベルに類似しなくなる)ことが比較から示唆されるのであれば、その結果は、正常腎機能の指標となる。たとえば、被験体は、第1の時間点で正常腎機能を有しうるとともに(たとえば、バイオマーカーは、高い腎機能参照レベルに類似しているかまたは低い腎機能参照レベルに類似していない)、第2の時間点で正常な範囲内を維持することから(たとえば、高い腎機能参照レベルに類似しているかまたは低い腎機能参照レベルに類似していない状態を維持することから)、腎機能の変化がないことが示唆される。他の例では、腎機能は、第1の時間点で正常でありうるとともに(たとえば、バイオマーカーは、高い腎機能参照レベルに類似しているかまたは低い腎機能参照レベルに類似していない)、その後、第2の時間点で減少するが、それでもなお腎機能の正常な範囲内を維持することから、依然として正常な範囲内にあるが腎機能が低下していることが示唆される。他の例では、第1の時間点で正常とのボーダーライン上にある腎機能を有する被験体は、第2の時間点でバイオマーカーのレベルに基づいてCKDと診断されうることから、被験体において腎機能が悪化していることが示唆される。
【0053】
また、バイオマーカーの相対量と参照レベルとの差を用いて、経時的に腎機能を評価しうる。たとえば、1種以上のバイオマーカーのレベルと高い腎機能参照レベルとの差(または1種以上のバイオマーカーのレベルと低い腎機能参照レベルとの差)が経時的に大きくなることが比較から示唆されるのであれば、その結果は、患者が腎機能低下を生じていることの指標となる。
【0054】
第1のサンプルを取得した後、より後の時間点で1つ以上の追加のサンプルを被験体から取得しうる。一態様では、1つ以上の追加のサンプルは、第1のサンプルの1、2、3、4、5、6日後、またはそれよりも後で取得される。他の態様では、1つ以上のサンプルは、第1のサンプルのまたは組成物による治療開始の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10週間後、またはそれよりも後で取得される。他の態様では、1つ以上の追加のサンプルは、第1のサンプルのまたは組成物による治療開始の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月後、またはそれよりも後で取得される。
【0055】
他の実施形態では、本方法を用いて、CKDを有する被験体またはCKDを発生する素因を有することが疑われる被験体(たとえば、CKD家族歴、薬剤療法、慢性疾病などに起因してリスクのある被験体)において、腎機能をモニターしうる。一例では、本明細書に開示されたバイオマーカーを用いて、CKDを有していない被験体において、腎機能をモニターしうる。たとえば、CKDを発生する素因を有することが疑われる被験体において、本明細書に記載のバイオマーカーを用いて、CKDの発生をモニターしうる。
【0056】
他の例では、本明細書に開示されたバイオマーカーを用いて、腎移植受容者において、腎機能をモニターしうる。
【0057】
他の実施形態では、バイオマーカーアルゴリズムを用いて、患者の腎機能をモニターすることが可能である。現在の腎機能検査の結果(たとえば、SCr、eGFR、BUN、尿中アルブミン、シスタチンC)と組み合わせてバイオマーカーアルゴリズムの結果を用いて、臨床医は、患者において薬剤治療のリスク便益比を評価することが可能である。そのほかに、臨床医は、バイオマーカーアルゴリズムを用いて、腎機能喪失を発生するリスクのある任意の患者(たとえば、糖尿病患者、高血圧者、高齢者、家族歴者、喫煙者、慢性疾病者、腎移植受容者など)を治療することが可能である。薬剤療法剤は、任意の疾患または病態を治療するために使用される任意の作用剤でありうる。
【0058】
図2に例示されているのは、バイオマーカーアルゴリズムの一例である(フローチャート)。ベースライン時に正常であり、かつ治療期間中、正常な範囲内を維持する腎機能バイオマーカーレベルは、患者が正常腎機能を有することの指標となる。
【0059】
ベースライン時の代謝物バイオマーカーレベルまたは治療期間中のこのレベルの変化が正常な範囲外にあるが、それほど過度ではない結果であれば、患者は軽度〜中等度の腎機能喪失を有することが示唆されよう。この患者は、現在の腎機能検査では結果がボーダーライン上にあるものに対応する。代謝物バイオマーカー検査の結果に基づいて、治療臨床医は、患者において現在の治療レジメン(たとえば、療法剤、用量)のリスク便益を再評価することを選択して、患者の管理を変更しうる。
【0060】
ベースライン時の代謝物バイオマーカーレベルまたは治療期間中のこのレベルの変化が有意かつ過度に正常な範囲外にある結果であれば、患者は重度の腎機能喪失を有することが示唆されよう。患者の管理の変更が強く推奨されよう(たとえば、特定の薬剤を用いた治療の継続を中断し、他の作用剤に切り替える)。
【0061】
B.バイオマーカーを用いた慢性腎疾患の診断
腎機能バイオマーカーの同定により、被験体においてCKDの診断(または診断支援)を行うことも可能になる。同定されたバイオマーカーを用いて、無症状の被験体、CKDの存在に合致する1種以上の症状を呈する被験体、および/またはCKDである可能性の高い被験体(たとえば、慢性疾病者、薬剤治療者、コントラストイメージング剤使用者など)を含めて、任意の被験体において、CKDの診断または診断支援を行うことが可能であることが理解される。例示的な方法では、被験体がCKDを有するかの診断(または診断支援)は、(1)被験体からの生物学的サンプルを分析してサンプル中の1種以上の腎機能バイオマーカーのレベルを決定することと、(2)被験体がCKDを有するかの診断(または診断支援)を行うためにサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを1種以上のバイオマーカーのCKD陽性および/またはCKD陰性参照レベルと比較することと、を含む。1種以上のバイオマーカーは、表1から選択されうる。そのような方法を用いてCKDの診断支援を行う場合、本方法の結果は、被験体がCKDを有するかの臨床判断に有用な他の方法および測定(またはそれらの結果)および/または患者メタデータと一緒に使用されうる。被験体がCKDを有するかの臨床判断に有用な方法は、当技術分野で公知である。たとえば、被験体がCKDを有するかの臨床判断に有用な方法は、たとえば、SCr、BUN、eGFR、mGFR、尿中アルブミン、およびシスタチンCを含む。被験体がCKDを有するかの決定に有用な他の測定は、たとえば、β−2ミクログロブリン、β−TRACE、および/または2−マンノピラノシルトリプトファン(2−MPT)を含む。被験体がCKDを有するかの臨床判断に有用な患者メタデータとしては、たとえば、年齢、体重、性別、および人種が挙げられる。
【0062】
サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを決定するために、任意の好適な方法を用いて生物学的サンプルを分析しうる。好適な方法としては、クロマトグラフィー(たとえば、HPLC、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー)、質量分析(たとえば、MS、MS−MS)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、抗体結合、他の免疫化学的技術、およびそれらの組合せが挙げられる。さらに、たとえば、測定が望まれるバイオマーカーのレベルと相関する化合物(または複数の化合物)のレベルを測定するアッセイを用いて、1種以上のバイオマーカーのレベルを間接的に測定しうる。
【0063】
被験体において腎機能の評価を行う方法およびその評価支援を行う方法で、表1のバイオマーカーの1種以上のレベルを決定しうる。たとえば、表1のバイオマーカーのいずれかもしくはすべての組合せまたはそれらの任意の部分を含めて、1種のバイオマーカー、2種以上のバイオマーカー、3種以上のバイオマーカー、4種以上のバイオマーカー、5種以上のバイオマーカー、6種以上のバイオマーカー、7種以上のバイオマーカー、8種以上のバイオマーカー、9種以上のバイオマーカー、10種以上のバイオマーカーなどのレベルを決定して、そのような方法に使用しうる。
【0064】
バイオマーカーの組合せのレベルを決定することにより、CKDの診断およびCKDの診断支援でより大きい感度および特異度が可能になりうる。たとえば、生物学的サンプル中の2種のバイオマーカーのペアワイズ分析または特定のバイオマーカー(および非バイオマーカー化合物)のレベルの比により、CKDの診断およびCKDの診断支援でより大きい感度および特異度が可能になりうる。たとえば、myo−イノシトール対グリセロホスホコリン(GPC)、トリプトファン対キヌレニン、トリプトファン対3−インドキシルスルフェート、および/またはトリプトファン対インドールアセテートの比を用いて、被験体においてCKDの診断および診断支援を行いうる。他の例では、2種以上、3種以上、4種以上、および/または5種以上のバイオマーカーの組合せのレベルを決定することにより、本明細書に記載の方法でより大きい感度および特異度が可能になりうる。一例では、プソイドウリジン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルトレオニン、およびクレアチニンのレベルを用いて、被験体においてCKDの診断または診断支援を行いうる。他の例では、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、myo−イノシトール、およびクレアチニンのレベルを用いて、被験体においてCKDの診断および診断支援を行いうる。他の例では、N−アセチルトレオニン、myo−イノシトール、C−グリコシルトリプトファン、およびクレアチニンのレベルを用いて、被験体においてCKDの診断および診断支援を行いうる。他の例では、N−アセチルトレオニン、myo−イノシトール、キヌレニン、およびクレアチニンのレベルを用いて、被験体においてCKDの診断および診断支援を行いうる。他の例では、プソイドウリジン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルトレオニン、およびmyo−イノシトールのレベルを用いて、被験体においてCKDの診断および診断支援を行いうる。
【0065】
サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを決定した後、レベルをCKD陽性および/またはCKD陰性参照レベルと比較して、被験体がCKDを有するかの診断または診断支援を行う。CKD陽性参照レベルに一致するサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベル(たとえば、参照レベルと同一のレベル、参照レベルと実質的に同一のレベル、参照レベルの最小および/もしくは最大をわずかに上回るおよび/もしくは下回るレベル、ならびに/または参照レベルの範囲内のレベル)は、被験体においてCKDの診断の指標となる。CKD陰性参照レベルに一致するサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベル(たとえば、参照レベルと同一のレベル、参照レベルと実質的に同一のレベル、参照レベルの最小および/もしくは最大をわずかに上回るおよび/もしくは下回るレベル、ならびに/または参照レベルの範囲内のレベル)は、被験体においてCKDでない診断の指標となる。それに加えて、CKD陰性参照レベルと比較して、サンプル中に示差的に存在する(とくに統計的に有意なレベルで)1種以上のバイオマーカーのレベルは、被験体においてCKDの診断の指標となる。CKD陽性参照レベルと比較して、サンプル中に示差的に存在する(とくに統計的に有意なレベルで)1種以上のバイオマーカーのレベルは、被験体においてCKDでない診断の指標となる。
【0066】
生物学的サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルと、CKD陽性および/またはCKD陰性参照レベルと、の単純比較(たとえば、マニュアル比較)を含めて、種々の技術を用いて、1種以上のバイオマーカーのレベルをCKD陽性および/またはCKD陰性参照レベルと比較しうる。また、1種以上の統計解析(たとえば、t検定、ウェルチのT検定、ウィルコクソンの順位和検定、相関分析、ランダムフォレスト、Tスコア、Zスコア)を用いて、または数学モデル(たとえば、アルゴリズム、統計モデル)を用いて、生物学的サンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルをCKD陽性および/またはCKD陰性参照レベルと比較しうる。
【0067】
たとえば、単一のアルゴリズムまたは複数のアルゴリズムを含む数学モデルを用いて、被験体において腎機能を評価しうる。また、数学モデルを用いて、被験体がCKDを有するかを決定しうる。また、数学モデルを用いて、CKDステージを区別しうる。例示的な数学モデルで、被験体からの任意の数(たとえば、2、3、5、7、9など)のバイオマーカーの測定レベルを用いて、測定されたバイオマーカーのレベル間の数学的関係に基づいてアルゴリズムまたは一連のアルゴリズムにより、被験体が正常腎機能またはCKDを有するか、被験体がCKDを発生する素因を有するか、被験体においてCKDが進行するか、被験体が高いステージ(重度もしくはきわめて重度の腎機能低下)、中間のステージ(中等度の機能低下)、または低いステージ(軽度の機能低下)のCKDを有するかなど、を決定しうる。さまざまな例示的な数学モデルで、被験体からの任意の数(たとえば、2、3、5、7、9など)のバイオマーカーの測定レベルを用いて、腎機能のレベルまたはステージ(たとえば、高、中、低)に基づいて被験体を分類しうる。
【0068】
一例では、CKDのバイオマーカーの同定により、これまでCKDと診断されていない被験体においてCKDの診断が可能になる。たとえば、CKDのリスク因子(たとえば、60歳を超える年齢、高血圧、糖尿病、心血管疾患、および/またはCKD家族歴など)を有する被験体において、本明細書に記載のバイオマーカーを用いて、CKDの診断または診断支援を行いうる。
【0069】
他の例では、腎機能を決定するための現在の標準(たとえば、SCr、eGFR、尿中アルブミン、シスタチンC、および/またはBUNの測定)を用いてCKDが診断されうる前に、CKDのバイオマーカーの同定により、初期の検出および診断が可能になる。CKDの早期診断により、さらなる腎障害およびより重度のCKDの発生を遅延または予防しうるより早期の治療的介入が可能になりうる。
【0070】
他の例では、被験体においてCKDを決定するための現在の標準(たとえば、SCr、尿中アルブミン、シスタチンC、および/またはBUNの測定)が、たとえば、被験体において慢性疾病、肥満症、高齢、菜食、および/または一般的筋量減少に起因して、不正確である場合、本明細書に開示されたバイオマーカーを用いて、患者においてCKDの診断または診断支援を行いうる。たとえば、2型糖尿病の被験体において、本明細書に記載のバイオマーカーを用いて、CKDの診断または診断支援を行いうる。
【0071】
C.組成物およびキット
記載の方法はいずれも、単独または組合せで、キットの形態で提供されるツールを用いて行われうる。キットは、適切な対照、標準、および/または検出試薬をさらに含みうる。一実施形態では、キットは、血液ベースのサンプルの分析のためのツールおよび試薬を含みうる。キットは、サンプル採取要素およびサンプル貯蔵槽を含みうる。たとえば、キットは、サンプル採取要素、回収血清捕集容器、サンプルラベル、サンプルバーコード、およびインストラクションプロトコルを含みうる。インストラクションプロトコルは、冊子体もしくは小冊子として、またはたとえばコンピューターディスクや他のコンピューター可読媒体などの電子媒体上に、提供されうる。
【0072】
キットは、以下の例示的な方法に従って使用されうる。ニードルおよびシリンジを用いて、被験体から血清サンプルを捕集しうる。次いで、血清を捕集容器(たとえば、バイアル、コニカルチューブなど)中に押し出しうる。次いで、捕集容器中のサンプルを生化学分析に付しうる。バーコードおよびラベルにより、生化学分析全体を通してサンプルアイデンティティーおよび分析結果を追跡しうる。
【0073】
限定ではなく例示により提供される以下の実施例を用いて、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0074】
I.一般的方法
A.代謝プロファイルの同定
一般的には、各サンプルを分析して数百種の代謝物の濃度を決定した。GC−MS(ガスクロマトグラフィー−質量分析)やLC−MS(液体クロマトグラフィー−質量分析)などの分析技術を用いて代謝物を分析した。複数のアリコートを同時かつ並列に分析し、適切な品質管理(QC)の後、各分析から得られた情報を再び組み合わせた。数千の特性に従ってすべてのサンプルを特徴付けした。最終的には、数百の化学種に相当する。使用された技術により、化学名の付いていない新規な化合物を同定することが可能であった。
【0075】
実施例1に記載されるように、患者のコホートからサンプルを捕集した。代謝物を抽出し、450μlのメタノールの添加によりサンプル(100μl)からタンパク質を沈殿させた。2つの個別のUPLC法を、一方は酸性条件で、他方は塩基性条件で利用した。沈殿させた抽出物を4つのアリコートに分けて、窒素下で、次いで、真空中で乾燥させた。1つのアリコートを50μlの水中0.1%ギ酸中に再構成し(酸性法で用いるために)、もう1つのアリコートを50μlの水中6.5mM重炭酸アンモニウムpH8中に再構成した(塩基性法で用いるために)。
【0076】
Acquity UPLCシステムを用いて2.1mm×100mm Acquity 1.7μm C18BEHカラム(Waters Corp.,Milford,MA,USA)により行われるクロマトグラフィーを両方の方法で使用した。酸性法では、移動相は、350μL/分の流量であり、溶媒Aとして水中0.1%ギ酸および溶媒Bとしてメタノール中0.1%ギ酸を使用した(グラジエントプロファイル:0%B→70%Bで分、70→98%Bで0.5分、98%Bで0.9分)。塩基性法で処理されたサンプルアリコートは、溶媒Aとして水中6.5mM重炭酸アンモニウムpH8および溶媒Bとして95/5メタノール/水中6.5mM重炭酸アンモニウムを用いて350μL/分の流量でグラジエント溶出させた(グラジエントプロファイル:0%B→70%Bで4分、70→98%Bで0.5分、98%Bで0.9分)。
【0077】
LTQ質量分析計(MS)(ThermoFisher Corporation)を用いてエレクトロスプレーイオン化(ESI)によりサンプル溶出液を分析した。40℃に加熱された個別の酸/塩基専用カラムを用いて独立した注入を行って、酸性法により正イオンをモニターし、塩基性法により負イオンをモニターした。正および負の両方の注入に対して40(任意の単位)のシースガスフローおよび5(任意の単位)の補助ガスフローを用いて、MSインターフェースキャピラリーを350℃に維持した。スプレー電圧は、正イオン注入に対して4.5kVであり、負イオン注入に対して3.75kVであった。機器は、99〜1000m/zをスキャンし、MSスキャンとMS/MSスキャンとを交互に行った。スキャン速度は、約6スキャン/秒(3MSスキャンおよび3MS/MSスキャン)であった。3m/zの分離ウィンドウを用いて、MS/MS規格化衝突エネルギーを40、活性化Qを0.25、および活性化時間を30msに設定した。3.5秒の排除時間で動的排除を用いて、MS/MSスキャンを収集した。すべてのサンプルに同位体標識化合物をスパイクし、これを用いて、保持時間、質量、および実験時間(通常20時間)全体にわたる感度安定性を含めて、機器の性能および適合性を評価した。それに加えて、8回注入ごとにすべてのサンプルからのプールアリコートからなる品質管理サンプルを分析して、技術的再現性を保証した。
【0078】
MSピークの検出および積分のために、MSピーク検出用の標準的業界手法を用いたソフトウェアを使用した。簡潔に述べると、抽出イオンクロマトグラムを所与の範囲内の質量によりビニングし、ベースラインノイズを決定し、ピーク面積を計算し、最小高さ、シグナル対ノイズ、幅、対称性、および面積を含めて、種々のユーザー定義ピーク閾値を検出MSピークに適用した。閾値基準を超える通過MSピークをリストにまとめて、記憶およびさらなる解析のために、リレーショナルデータベースに挿入した。最後に、同様に保持されたイオンフィーチャーの目視が容易になるように、ピーク頂点の保持時間に基づいて個別のMSピークをグループ化した。保持指数(RI)を用いて、クロマトグラム全体にわたり存在する保持時間(RT)マーカーに基づいて、すべてのサンプルをアライメントした。サンプル成分の保持指数は、サンプル成分の補正保持容量(時間)または保持因子をサンプル成分のピークの前後で溶出される2つの標準の補正保持容量(時間)に関連付ける補間(通常は対数)により得られる数である。
【0079】
各方法専用に作成された化学ライブラリーに対して、得られたデータを検索した(たとえば、UPLC正イオンモード専用のライブラリーに対して、UPLC正イオンデータを検索した)。生化学的同定は、3つの基準、すなわち、提案された同定を基準にして75RI単位(または約5秒)以内の保持指数、ライブラリーに対して0.4m/z以内の実験的前駆体質量マッチ、およびMS/MSフォワードおよびリバーススコアに基づくものであった。MS/MSスコアは、実験スペクトル中に存在するイオンとライブラリースペクトル中に存在するイオンとの比較に基づくものであった。生化学的同定は、ソフトウェアプログラムにより行われ、コンピューター生成同定は、ヒト分析者により検証された。
【0080】
一群の注入にわたりかつ指定のクロマトグラフィー時間ウィンドウ内で、いずれのライブラリーエントリーにも帰属されないすべてのイオンを、コンピューターソフトウェアによりチェックした。複数の注入にわたりイオンを相関付けることにより、生化学物質の天然の生物学的多様性を用いて、ライブラリーの一部としてまだエントリーに含まれない可能な新しい基準生化学物質を同定した。ライブラリーマッチを有していないが、生化学物質のスペクトルパターンの繰返し性に基づいて真正生化学物質であると判定された生化学物質はいずれも、名が付いていないが、現在および将来の研究で生化学物質を追跡できるようにライブラリーに追加した。したがって、生化学物質が同定されなかったとしても(基準化学標準がライブラリーで利用可能でなかったため)、分析方法から得られた生化学物質の性質または挙動は、生化学物質の特定の化学組成または構造が示されることなく、必要とされた(名の付いていない生化学物質として参照される)。
【0081】
名の付いていない生化学物質は、「イオンフラグメント化シグネチャー」が確立されていないが、既知の標準が化学ライブラリーで利用可能でない、エンティティーを表す。名の付いていない生化学物質は、ユニークな同定であることから、分析技術(以上に記載)により十分に特徴付けられた。名の付いていない生化学物質は、本明細書では、「X−」の後に特定の5桁の数が続く命名により指定される。表1に列挙された名の付いていない生化学小分子の分析情報の同定について説明する。たとえば、名の付いていない代謝物X−17299では、保持時間は1.2であり、保持指数は1265.9であり、定量質量は229.2であり、以上に記載の分析方法を用いた定量イオンの極性は、酸性種に対して最適化されたLC−MS/MSで測定したとき、正であった。さらなる例として、名の付いていない代謝物X−11564では、保持時間は1.2であり、保持指数は1188であり、定量質量は177.1であり、以上に記載の分析方法を用いた定量イオンの極性は、塩基性種に対して最適化されたLC−MS/MSで測定したとき、負であった。これらの分析特性により、たとえ厳密な化学的同一性(すなわち、化合物名)が知られなくていなくても、前記バイオマーカー(X−17299およびX−11564)をモニターしうる。
【0082】
B.統計解析:
t検定を用いてデータを解析することにより、定義可能な集団(たとえば、腎機能障害の集団および腎機能障害でない集団)を区別するのに有用な、定義可能な集団またはサブ集団に示差的レベルで存在する分子(たとえば、腎機能障害を有していない被験体と比較される腎機能障害を有する被験体のバイオマーカー)(既知で名の付いた代謝物または名の付いていない代謝物のいずれか)を同定した。また、定義可能な集団またはサブ集団の他の分子(既知で名の付いた代謝物または名の付いていない代謝物のいずれか)も同定した。
【0083】
また、相関分析を用いてデータを解析することにより、eGFR計算(たとえば、CKD−EPI eGFR、MDRD eGFR)と相関する分子(既知で名の付いた代謝物または名の付いていない代謝物のいずれか)を同定した。
【0084】
例示的なバイオマーカーパネルに対して、重回帰分析を用いて予測値を評価した。
【0085】
代謝物バイオマーカーレベルに基づいて、サンプル分類の感度および特異度を計算した。感度とは、すべてが真陽性である集団の中で陽性を同定する能力または陽性に分類される被験体の割合のことである。特異度とは、すべてが真陰性である集団の中で陰性を同定する能力または陰性に分類される被験体の割合のことである。これらのデータを用いて、受診者動作特性(ROC)曲線を作成した。ROC曲線は、数学モデルであり、感度対偽陽性率(1−特異度)のプロットである。この曲線の曲線下面積(AUC)は、分類子がランダムに選択された陽性症例をランダムに選択された陰性症例よりも高くランク付けする可能性である。
【0086】
実施例1:腎機能を評価するバイオマーカー
分析に使用されたサンプルは、281名の糖尿病個体から捕集された血清サンプルであった。GFRを推定するための2つの式、すなわち、1)MDRD eGFRおよび2)CKD−EPI eGFRを用いて、患者の腎機能を評価した。MDRD eGFR推定値を用いると、60ml/分/1.73m未満のeGFRを有する患者は、CKDを有すると分類され、eGFR=60ml/分/1.73m以上の患者は、正常と分類された。サンプル採取時、合計46名の患者は、CKDと分類され、235名の患者は、正常と分類された。
【0087】
代謝物のレベルを決定した後、t検定を用いてデータを解析した。CKD対正常サンプルを比較することにより、腎機能バイオマーカーを同定した。以下の表1に列挙されるように、分析の結果、CKDおよび正常の患者血清サンプル間に示差的に存在するバイオマーカーが同定された。表1のバイオマーカーはすべて、統計的に有意である(p<0.1)。腎機能障害バイオマーカーを同定する他の方法として、バイオマーカーレベルとeGFR計算(すなわち、MDRD eGFRおよびCKD−EPI eGFR)との間で相関分析を行った。各バイオマーカーに対する相関値は、表1に示される。
【0088】
表1は、各バイオマーカーに対して、バイオマーカーの生化学名、バイオマーカーとMDRDとの相関値、バイオマーカーとCKD−EPIとの相関値、正常平均レベルと比較されたCKDサンプル中のバイオマーカーの平均レベルの比である、正常被験体と比較されたCKDを有する被験体のバイオマーカーの変化倍率(CKD/正常)、およびバイオマーカーに関するデータの統計解析で決定されたp値を含む。表1にはまた、次のもの、すなわち、基準標準のインハウス化学ライブラリー中のバイオマーカー化合物に対する内部識別子(CompID)、入手可能な場合、京都遺伝子ゲノム百科事典(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)(KEGG)中のバイオマーカー化合物の識別子、および入手可能な場合、ヒューマンメタボロームデータベース(Human Metabolome Database)(HMDB)中のバイオマーカー化合物に対する識別子が列挙されている。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
実施例2:腎機能評価に関する個別バイオマーカーの診断性能
他の例では、腎機能の評価およびCKD個体の同定を行う3種の例示的なバイオマーカーを表1から選択し、診断性能に関して評価した。これらのモデルは、限定することを意図したものではなく、本発明を例証するために提示されている。同定されたバイオマーカーは、正常腎機能を有する個体からの患者サンプルとCKDを有する個体からのサンプルとの間で異なるレベルで存在した。たとえば、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルトレオニン、およびプソイドウリジンは、CKDを有する被験体と正常な被験体とを区別する有意なバイオマーカーであった。
【0094】
分析に使用されたサンプルは、281名の糖尿病個体から捕集された血清サンプルであった。GFRを推定するためにMDRD式を用いて、患者の腎機能を評価した。60ml/分/1.73m未満のMDRD eGFR推定値を有する患者は、CKDを有すると分類され、60ml/分/1.73m以上のeGFR値を有する患者は、正常と分類された。サンプル採取時、合計46名の患者は、CKDと分類され、235名の患者は、正常と分類された。受診者動作特性(ROC)曲線モデリングを用いて、診断性能に関して、CKDの診断または診断支援を行うために実施例1の表1で同定されたバイオマーカーを評価した。
【0095】
例示的なバイオマーカーのC−グリコシルトリプトファンを診断性能に関して評価した。図3Aは、サンプルで測定されたC−グリコシルトリプトファンのレベルに基づいて、患者サンプルの分布を示している。x軸は、診断群(正常またはCKD)を示し、y軸は、C−グリコシルトリプトファンのレベルを示す。次いで、数学モデルでC−グリコシルトリプトファンのレベルを用いて、バイオマーカーの診断性能を決定した。図3Bは、C−グリコシルトリプトファンのROC曲線を示している。ROC曲線は、0.8721の曲線下面積(AUC)を有する。このROC曲線に基づいて、C−グリコシルトリプトファンのレベルを測定することにより、CKD被験体が85%の感度および80%の特異度で正常被験体と区別されることが確認された。
【0096】
また、例示的なバイオマーカーのN−アセチルトレオニンを診断性能に関して評価した。図4Aは、サンプルで測定されたN−アセチルトレオニンのレベルに基づいて、患者サンプルの分布を示している。x軸は、診断群(正常またはCKD)を示し、y軸は、N−アセチルトレオニンのレベルを示す。次いで、数学モデルでN−アセチルトレオニンのレベルを用いて、バイオマーカーの診断性能を決定した。図4Bは、N−アセチルトレオニンのROC曲線を示している。ROC曲線は、0.8801のAUCを有する。このROC曲線に基づいて、N−アセチルトレオニンのレベルを測定することにより、CKD被験体が83%の感度および87%の特異度で正常被験体と区別されることが確認された。
【0097】
また、例示的なバイオマーカーのプソイドウリジンを診断性能に関して評価した。図5Aは、サンプルで測定されたプソイドウリジンのレベルに基づいて患者サンプルの分布を示している。x軸は、診断群(正常またはCKD)を示し、y軸は、プソイドウリジンのレベルを示す。次いで、数学モデルでプソイドウリジンのレベルを用いて、バイオマーカーの診断性能を決定した。図5Bは、プソイドウリジンのROC曲線を示している。ROC曲線は、0.9041のAUCを有する。このROC曲線に基づいて、プソイドウリジンのレベルを測定することにより、CKD被験体が80%の感度および93%の特異度で正常被験体と区別されることが確認された。
【0098】
実施例3:腎機能評価に関するバイオマーカーパネルの診断性能
他の例では、GFRの推定を提供する数学モデルを開発した。このモデルGFR推定を用いて腎機能を評価し、このモデルを用いて得られた推定の性能を、CKD−EPI式を用いて計算されたeGFR(「CKD−EPI eGFR」)と比較した。次のバイオマーカーの組合せ、すなわち、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、C−グリコシルトリプトファン、キヌレニン、myo−イノシトール、クレアチニンを用いて、5つの例示的なモデルを開発した。例示的なバイオマーカーはまた、正常腎機能を有する個体をCKDを有する個体から区別するのに有意であるとして、実施例1に記載されている。これらのモデルは、限定することを意図したものではなく、本発明を例証するために提示されている。
【0099】
258名の糖尿病個体から捕集された絶食血清サンプルで、バイオマーカーのプソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、C−グリコシルトリプトファン、キヌレニン、myo−イノシトール、およびクレアチニンを測定した。これらの個体で、GFRを推定するCKD−EPI式を用いて腎機能を評価した。60ml/分/1.73m以下のCKD−EPI eGFR値を有する患者は、「陽性」診断(すなわち、腎機能障害、CKD)を有すると分類され、60ml/分/1.73m超のeGFR値を有する患者は、「陰性」(すなわち、正常腎機能)を有すると分類された。合計40名の患者は、CKD陽性診断および/または腎機能障害として分類され、218名の患者は、CKD−EPI eGFR結果に基づいて陰性診断および/または正常腎機能として分類された。
【0100】
本実施例では、重回帰分析を用いて5つのモデルを作成した。すなわち、例示的なモデル1は、バイオマーカープソイドウリジン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルトレオニン、およびクレアチニンを含み、例示的なモデル2は、バイオマーカープソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、myo−イノシトール、およびクレアチニンを含み、例示的なモデル3は、バイオマーカーN−アセチルトレオニン、myo−イノシトール、C−グリコシルトリプトファン、およびクレアチニンを含み、例示的なモデル4は、バイオマーカーN−アセチルトレオニン、myo−イノシトール、キヌレニン、およびクレアチニンを含み、かつ例示的なモデル5は、バイオマーカープソイドウリジン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルトレオニン、およびmyo−イノシトールを含む。受診者動作特性(ROC)を用いておよび曲線下面積(AUC)を計算することにより、各モデルをその診断性能に関して評価した。
【0101】
例示的なモデル1では、モデル1を用いて計算されたGFR値は、CKD−EPI eGFRを用いて計算された値と有意に相関した。調整Rは、0.001未満の全p値を有して0.614であった。計算AUCに基づくモデル1の診断性能は、0.932であった。モデル1に対する相関分析の結果は、図6Aにグラフで示される。モデル1を用いて計算されたGFRは、x軸上にプロットされ、CKD−EPI eGFRは、y軸上にプロットされる。
【0102】
例示的なモデル2では、モデル2を用いて計算されたGFR値は、CKD−EPI eGFRを用いて計算された値と相関した。調整Rは、0.0001未満の全p値を有して0.614であった。計算AUCに基づくモデル2の診断性能は、0.932であった。モデル2に対する相関分析の結果は、図6Bにグラフで示される。モデル2を用いて計算されたGFRは、x軸上にプロットされ、CKD−EPI eGFRは、y軸上にプロットされる。
【0103】
例示的なモデル3では、モデル3を用いて計算されたGFR値は、CKD−EPI eGFRを用いて計算された値と相関した。調整Rは、0.0001未満の全p値を有して0.594であった。計算AUCに基づくモデル3の診断性能は、0.931であった。モデル3に対する相関分析の結果は、図6Cにグラフで示される。モデル3を用いて計算されたGFRは、x軸にプロットされ、CKD−EPI eGFRは、y軸上にプロットされる。
【0104】
例示的なモデル4では、モデル4を用いて計算されたGFR値は、CKD−EPI eGFRを用いて計算された値と有意に相関した。調整Rは、0.0001未満の全p値を有して0.613であった。計算AUCに基づくモデル4の診断性能は、0.935であった。モデル4に対する相関分析の結果は、図6Dにグラフで示される。モデル4を用いて計算されたGFRは、x軸上にプロットされ、CKD−EPI eGFRは、y軸上にプロットされる。
【0105】
例示的なモデル5では、モデル5を用いて計算されたGFR値は、CKD−EPI eGFRを用いて計算された値と有意に相関した。調整Rは、0.0001未満の全p値を有して0.563であった。計算AUCに基づくモデル5の診断性能は、0.933であった。モデルに対する相関分析の結果は、図6Eにグラフで示される。モデル5を用いて計算されたGFRは、x軸上にプロットされ、CKD−EPI eGFRは、y軸上にプロットされる。
【0106】
実施例4:中間eGFRを有する患者において腎機能を評価するバイオマーカー
45〜74mL/分/1.63mのeGFRである中間(G2〜G3a)範囲のeGFRおよび/または中間の尿中アルブミンスコアを有する患者では、腎機能の評価およびCKDの診断は、不確実であり、そのような患者は、代謝物バイオマーカー検査などのより正確に推定されたGFRが奏効しよう。腎機能評価および治療アルゴリズムへのそのような新規なバイオマーカー検査の組込みは、図1に例示されている。
【0107】
腎機能の評価およびGFRの推定に有用なバイオマーカーは、40〜80のeGFR値を有する糖尿病個体からの血清サンプル中および尿サンプル中のバイオマーカーのレベルを測定することにより同定された。
【0108】
この範囲内に入るMDRD eGFR値を有する78名の個体およびこの範囲内に入るCKD−EPI eGFR値を有する69名の個体からの血清サンプルを分析した。バイオマーカーのレベルは、MDRD eGFR値およびCKD−EPI eGFR値に相関付けられた。相関の結果は、表2に示される。表2に列挙された各バイオマーカーに対して、バイオマーカーの生化学名、バイオマーカーとCKD−EPI eGFRとの相関値、バイオマーカーとCKD−EPI eGFRとの相関のp値、バイオマーカーとMDRD eGFRとの相関値、およびバイオマーカーとMDRD eGFRとの相関のp値が示されている。
【0109】
【表5】
【0110】
【表6】
【0111】
【表7】
【0112】
【表8】
【0113】
この範囲内のMDRD eGFR値を有する76名の個体およびこの範囲内のCKD−EPI eGFR値を有する64名の個体からの血清サンプルを分析した。バイオマーカーの測定レベルは、MDRD eGFR値およびCKD−EPI eGFR値に相関付けられた。相関の結果は、表3に示される。各バイオマーカーに対して、バイオマーカーの生化学名、バイオマーカーとCKD−EPI eGFRとの相関値、バイオマーカーとCKD−EPI eGFRとの相関のp値、バイオマーカーとMDRD eGFRとの相関値、およびバイオマーカーとMDRD eGFRとの相関のp値が示されている。
【0114】
【表9】
【0115】
【表10】
【0116】
【表11】
【0117】
【表12】
【0118】
他の例では、実施例1に記載の患者血清サンプルを用いて、40〜80のeGFR CKD−EPI値を有するサンプルは、高eGFR値または低eGFR値を有するとさらに分類された。40〜60のeGFR値を有する患者サンプルは、低eGFRを有すると分類され、61〜80のeGFR値を有する患者サンプルは、高eGFRを有すると分類された。サンプル採取時、合計41名の患者は、低eGFRを有すると分類され、42名の患者は、高eGFRを有すると分類された。
【0119】
代謝物のレベルを測定し、t検定を用いて結果を解析した。高(61〜80のeGFR計算値)サンプルと低(40〜60のeGFR計算値)サンプルとを比較することにより、中間eGFR測定値(たとえば、40〜80のCKD−EPI eGFR計算値)を有する患者において腎機能バイオマーカーを分析した。表4に列挙されるように、分析の結果、高eGFRを有する患者血清サンプルと低eGFRを有するものとの間で示差的に存在するバイオマーカーが同定された。
【0120】
表4は、各バイオマーカーに対して、バイオマーカーの生化学名、低eGFRを有する被験体と比較された高eGFRを有する被験体のバイオマーカーの変化倍率(高/低の比は、40〜60のCKD−EPI eGFRを有する患者からのサンプル中の平均レベルと比較された、61〜80のCKD−EPI eGFRを有する患者からのサンプル中のバイオマーカーの平均レベルである)、およびバイオマーカーに関するデータの統計解析で決定されたp値およびq値を含む。表4にはまた、次のもの、すなわち、バイオマーカー化合物に対する内部識別子(CompID)、入手可能な場合、京都遺伝子ゲノム百科事典(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)(KEGG)中のバイオマーカー化合物の識別子、および入手可能な場合、ヒューマンメタボロームデータベース(Human Metabolome Database)(HMDB)中のバイオマーカー化合物に対する識別子が列挙されている。
【0121】
【表13】
【0122】
【表14】
【0123】
【表15】
【0124】
本発明についてその特定の実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、種々の変更形態および修正形態をなしうることは、当業者には明らかであろう。
他の記載との重複もあるが、本発明を以下に示す。
[発明1]
被験体において腎機能の評価または評価支援を行う方法であって、
被験体から生物学的サンプルを取得することと、
前記被験体からの前記生物学的サンプルを分析して1種以上のバイオマーカーのレベルを決定することであって、前記1種以上のバイオマーカーが表1、2、3、および/または4から選択される、決定することと、
腎機能を評価するために前記サンプル中の前記1種以上のバイオマーカーのレベルを前記1種以上のバイオマーカーの腎機能参照レベルと比較することと、
を含む、方法。
[発明2]
前記1種以上のバイオマーカーが、次のバイオマーカー、すなわち、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルセリン、N−アセチルアラニン、N6−カルバモイルトレオニルアデノシン、4−アセトアミドブタノエート、エリトリトール、myo−イノシトール、エリトロネート、ウレア、アラビトール、N2,N2−ジメチルグアノシン、N1−メチルアデノシン、3−メチルグルタリルカルニチン(C6)、S−アデノシルホモシステイン(SAH)、N−アセチルメチオニン、N6−アセチルリシン、キヌレニン、アラボネート、スクシニルカルニチン、リボース、キシロネート、N−ホルミルメチオニン、O−メチルカテコールスルフェート、2−メチルブチリルカルニチン(C5)、フェニルアセチルグルタミン、N2,N5−ジアセチルオルニチン、およびクレアチニンからなる群から選択される、発明1に記載の方法。
[発明3]
前記サンプルが、質量分析、ELISA、および抗体結合からなる群から選択される1種以上の技術を用いて分析される、発明1に記載の方法。
[発明4]
前記サンプルが、腎機能障害の症状を有していない被験体から取得される、発明1に記載の方法。
[発明5]
前記被験体が、慢性腎疾患を発生するリスク因子を呈する、発明4に記載の方法。
[発明6]
前記被験体がすでに高血圧と診断されている、発明5に記載の方法。
[発明7]
前記被験体がすでに糖尿病と診断されている、発明5に記載の方法。
[発明8]
前記被験体が慢性腎疾患の家族歴を有する、発明5に記載の方法。
[発明9]
前記被験体が腎機能障害の症状を有する、発明1に記載の方法。
[発明10]
前記被験体が、従来の方法を用いた腎機能評価が困難な被験体である、発明1に記載の方法。
[発明11]
前記被験体が、次のもの、すなわち、肥満者、痩身者、菜食主義者、慢性疾病者、および高齢者からなる群から選択される、発明10に記載の方法。
[発明12]
前記被験体が腎提供者の候補である、発明1に記載の方法。
[発明13]
前記被験体が、腎臓に対して毒性作用を有するおそれのある作用剤による治療を受けているかまたはそれによる治療を検討中である、発明1に記載の方法。
[発明14]
前記作用剤がコントラストイメージング剤である、発明13に記載の方法。
[発明15]
前記作用剤が化学療法剤である、発明13に記載の方法。
[発明16]
前記作用剤が抗生物質である、発明13に記載の方法。
[発明17]
前記サンプルが、腎機能障害の既知のリスク因子を有していない被験体から取得される、発明1に記載の方法。
[発明18]
前記サンプルが、療法剤による治療の前に被験体から取得される、発明1に記載の方法。
[発明19]
前記サンプルが、コントラストイメージング剤を摂取する前に被験体から取得される、発明1に記載の方法。
[発明20]
前記サンプルが、糸球体濾過量の直接測定を可能にする作用剤による処置の前に被験体から取得される、発明1に記載の方法。
[発明21]
腎機能スコアが決定されて、腎機能を評価するために使用される、発明1に記載の方法。
[発明22]
腎機能レベルの臨床判断に有用な他の方法と一緒に結果が使用される、発明1に記載の方法。
[発明23]
前記他の方法が、BUN、SCr、尿中アルブミンの測定およびCKDの家族歴を含む、発明22に記載の方法。
[発明24]
療法剤により治療された被験体において腎機能をモニターする方法であって、
前記被験体からの生物学的サンプルを分析して1種以上のバイオマーカーのレベルを決定することであって、前記1種以上のバイオマーカーが表1、2、3、および/または4から選択される、決定することと、
前記被験体において腎機能をモニターするために前記サンプル中の前記1種以上のバイオマーカーのレベルを前記1種以上のバイオマーカーの腎機能参照レベルと比較することと、
を含む、方法。
[発明25]
前記比較工程が、前記被験体において腎機能障害の進行または後退をモニターするために前記被験体に対して腎機能スコアを生成することを含む、発明24に記載の方法。
[発明26]
被験体において腎機能低下を発生する素因を決定する方法であって、
前記被験体からの生物学的サンプルを分析して1種以上のバイオマーカーのレベルを決定することであって、前記1種以上のバイオマーカーが表1、2、3、および/または4から選択される、決定することと、
腎機能低下を発生する素因を決定するために前記サンプル中の前記1種以上のバイオマーカーのレベルを前記1種以上のバイオマーカーの腎機能参照レベルと比較することと、
を含む、方法。
[発明27]
腎機能低下を発生する低い感受性、腎機能低下を発生する中間の感受性、または腎機能低下を発生する高い感受性を有するとして被験体を分類する方法であって、
前記被験体からの生物学的サンプルを分析して1種以上のバイオマーカーのレベルを決定することであって、前記1種以上のバイオマーカーが表1、2、3、および/または4から選択される、決定することと、
腎機能低下を発生する低い感受性、腎機能低下を発生する中間の感受性、または腎機能低下を発生する高い感受性を有するとして前記被験体を分類するために、前記サンプル中の前記1種以上のバイオマーカーのレベルを前記1種以上のバイオマーカーの参照レベルと比較することと、
を含む、方法。
[発明28]
前記比較工程が、腎毒性に対する高い感受性、中間の感受性、または低い感受性を有するとして前記被験体を分類するために、前記被験体に対して腎機能スコアを生成することを含む、発明27に記載の方法。
[発明29]
前記被験体が療法剤による治療を受けている、発明27に記載の方法。
[発明30]
前記被験体が療法剤による治療を受けてない、発明27に記載の方法。
[発明31]
慢性腎疾患(CKD)の診断または診断支援を行う方法であって、
被験体から生物学的サンプルを取得することと、
前記被験体からの前記生物学的サンプルを分析して1種以上の腎機能バイオマーカーのレベルを決定することであって、前記1種以上のバイオマーカーが表1、2、3、および/または4から選択される、決定することと、
CKDの診断または診断支援を行うために、前記サンプル中の前記1種以上のバイオマーカーのレベルを前記1種以上のバイオマーカーのCKD陽性および/またはCKD陰性参照レベルと比較することと、
を含む、方法。
[発明32]
被験体においてCKDの進行または後退をモニターする方法であって、
CKDと診断された被験体からの生物学的サンプルを分析して1種以上のバイオマーカーのレベルを決定することであって、前記1種以上のバイオマーカーが表1、2、3、および/または4から選択される、決定することと、
前記被験体においてCKDの進行または後退をモニターするために、前記サンプル中の前記1種以上のバイオマーカーのレベルを前記1種以上のバイオマーカーのCKD進行および/またはCKD後退参照レベルと比較することと、
を含む、方法。
[発明33]
腎機能レベルに従って被験体の分類または分類支援を行う方法であって、
被験体からの生物学的サンプルを分析して前記サンプル中の1種以上の腎機能バイオマーカーのレベルを決定することであって、前記1種以上のバイオマーカーが表1、2、3、および/または4から選択される、決定することと、
被験体の腎機能のレベルを決定するために、前記サンプル中の前記1種以上のバイオマーカーのレベルを前記1種以上のバイオマーカーの腎機能参照レベルと比較することと、
を含む、方法。
[発明34]
組成物に対する反応で腎機能を評価する方法であって、
組成物で治療された被験体からの生物学的サンプルを分析して前記サンプル中の1種以上の腎機能バイオマーカーのレベルを決定することであって、前記1種以上のバイオマーカーが表1、2、3、および/または4から選択される、決定することと、
腎機能を評価するために、前記サンプル中の前記1種以上のバイオマーカーのレベルを前記1種以上のバイオマーカーの腎機能参照レベルと比較することと、
を含む、方法。
[発明35]
被験体において腎機能をモニターする方法であって、
被験体からの第1の生物学的サンプルを分析して1種以上の腎機能バイオマーカーのレベルを決定することであって、前記1種以上のバイオマーカーが表1、2、3、および/または4から選択され、前記第1のサンプルが第1の時間点で前記被験体から取得される、決定することと、
被験体からの第2の生物学的サンプルを分析して1種以上のバイオマーカーのレベルを決定することであって、前記第2のサンプルが第2の時間点で前記被験体から取得される、決定することと、
前記被験体において腎機能をモニターするために、前記第2のサンプル中の1種以上のバイオマーカーのレベルを、(a)前記第1のサンプル中の前記1種以上のバイオマーカーのレベル、(b)前記1種以上のバイオマーカーの腎機能参照レベル、(c)前記1種以上のバイオマーカーのCKD陽性参照レベル、および/または(d)前記1種以上のバイオマーカーのCKD陰性参照レベル、と比較することと、
を含む、方法。
[発明36]
被験体において腎機能の評価または評価支援を行う方法であって、
被験体から生物学的サンプルを取得することと、
前記被験体からの前記生物学的サンプルを分析して1種以上のバイオマーカーのレベルを決定することであって、前記1種以上のバイオマーカーが表1、2、3、および/または4から選択される、決定することと、
前記1種以上のバイオマーカーの決定されたレベルを数学モデルで使用して腎機能を評価することと、
を含む、方法。
[発明37]
被験体において腎機能の評価または評価支援を行う方法であって、
被験体から生物学的サンプルを取得することと、
前記被験体からの前記生物学的サンプルを分析して1種以上のバイオマーカーのレベルを決定することであって、前記1種以上のバイオマーカーが表1、2、3、および/または4から選択される、決定することと、
前記1種以上のバイオマーカーの決定されたレベルを数学モデルで使用して推定糸球体濾過量(GFR)を計算することと、
前記推定GFRを用いて腎機能を評価することと、
を含む、方法。
[発明38]
前記1種以上のバイオマーカーが、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、C−グリコシルトリプトファン、キヌレニン、myo−イノシトール、またはクレアチニンを含む、発明1〜37のいずれか一項に記載の方法。
[発明39]
前記被験体からの前記生物学的サンプルを分析して1種以上の追加のバイオマーカーのレベルを決定することであって、前記1種以上の追加のバイオマーカーがX−17299およびX−11564から選択される、決定することと、
前記1種以上の追加のバイオマーカーの決定されたレベルを使用して腎機能を評価することと、
をさらに含む、発明1〜38のいずれか一項に記載の方法。
[発明40]
前記1種以上のバイオマーカーが、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、C−グリコシルトリプトファン、キヌレニン、myo−イノシトール、およびクレアチニンからなる群から選択される、発明36に記載の方法。
[発明41]
前記1種以上のバイオマーカーが、プソイドウリジン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルトレオニン、およびクレアチニンを含む、発明38に記載の方法。
[発明42]
前記1種以上のバイオマーカーが、プソイドウリジン、N−アセチルトレオニン、myo−イノシトール、およびクレアチニンを含む、発明38に記載の方法。
[発明43]
前記1種以上のバイオマーカーが、N−アセチルトレオニン、myo−イノシトール、C−グリコシルトリプトファン、およびクレアチニンを含む、発明38に記載の方法。
[発明44]
前記1種以上のバイオマーカーが、N−アセチルトレオニン、myo−イノシトール、キヌレニン、およびクレアチニンを含む、発明38に記載の方法。
[発明45]
前記1種以上のバイオマーカーが、プソイドウリジン、C−グリコシルトリプトファン、N−アセチルトレオニン、およびmyo−イノシトールを含む、発明38に記載の方法。
[発明46]
前記1種以上のバイオマーカーがプソイドウリジンを含む、発明36に記載の方法。
[発明47]
前記1種以上のバイオマーカーが、BUN、血清中クレアチニン、尿中アルブミン、β−2ミクログロブリン、β−TRACE、および2−マンノピラノシルトリプトファン(2−MPT)からなる群から選択される腎機能の1種以上の臨床測定または他の測定と組み合わせて使用される、発明1〜46のいずれか一項に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6