【文献】
Tomoaki Okuda, et al.,Development of a High-Volume PM2.5 Particle Sampler Using Impactor and Cyclone Techniques,Aerosol and Air Quality Research,2015年 6月,Volume 15, Issue 3,P.759-767
【文献】
吉田 英人,改良型サイクロンによるフライアッシュ微粒子の高精度分級,化学工学論文集,日本,1994年,第20巻第1号,第105頁−第112頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示される微小粒子の捕集装置10は、バーチャルインパクタ11を有している。バーチャルインパクタ11は、粒子を含む大気を、粒径が2.5μm以下の微小粒子物質つまり微小粒子を含む主流と、それよりも粒径が大きい粗大粒子を含む副流とに分粒するための分粒器である。主流は、ホースやパイプからなる主流案内配管12により主流用つまり微小粒子捕集用のサイクロン13に供給される。サイクロン13は、主流の大気中に含まれる微小粒子を主流から分離する。分離された微小粒子を収容するために、サイクロン13の下端部には捕集容器14が設けられている。
【0017】
微小粒子が分離された大気を外部に排出するために、サイクロン13の排気口には排気配管15を介して排気ファン16が接続されている。この排気ファン16は約1100LPMの排気流量を有しており、排気ファン16によりサイクロン13内には毎分約1100リットルの大気が流れる。排気配管15内を流れる大気の量を検出するために、排気配管15にはマスフローメータ17が設けられている。マスフローメータ17に流れる大気は、フィルター18により清浄化される。
【0018】
副流は、ホースやパイプ等からなる副流供給配管22により副流用つまり粗大粒子捕集用のサイクロン23に供給される。サイクロン23は、副流の大気中に含まれる粗大粒子を副流から分離する。分離された粗大粒子を捕集するために、サイクロン23の下端部には捕集容器24が設けられている。粗大粒子が分離された大気を外部に排出するために、サイクロン23の排気口には排気配管25を介して真空ポンプ26が接続されている。この真空ポンプ26は約100LPMの排気流量を有しており、真空ポンプ26によりサイクロン23内には毎分約100リットルの大気が流れる。排気配管25内を流れる大気の量を検出するために、排気配管25にはマスフローメータ27が設けられている。マスフローメータ27に流れる大気は、フィルター28により清浄化される。
【0019】
図2は
図1に示されたバーチャルインパクタの一例を示す斜視図であり、
図3はバーチャルインパクタの概略断面図である。
【0020】
バーチャルインパクタ11は分粒容器31を有しており、分粒容器31は円筒部31aと上部壁31bと底壁部31cとを有している。上部壁31bには大気導入板32が設けられており、大気導入板32には複数の加速ノズル33が設けられている。分粒容器31の上方には、雨水が加速ノズル33に入り込むのを防止するために、カバー34が設けられている。大気中に浮遊する粒子は、大気とともにカバー34と分粒容器31の外周部との間の空間35からカバー34の内部に流入する。
【0021】
分粒容器31の内部には、分粒筒体36が配置されており、分粒筒体36により、分粒容器31の内部は、外側の主流室37と内側の副流室38とに区画される。分粒筒体36は円筒部36aと天壁部36bと円錐部36cとを有し、円錐部36cの下端部には副流の流出口39が設けられている。円形の天壁部36bには、加速ノズル33に対向して複数の捕集ノズル41が設けられており、捕集ノズル41の内径は加速ノズル33の内径よりも僅かに大きく設定されている。一方、分粒容器31の円筒部31aには主流の流出口42が設けられている。加速ノズル33の内径dは4.9mmであり、捕集ノズル41の内径Dは、内径dの約1.3倍の6.35mmである。
【0022】
排気ファン16と真空ポンプ26を作動させると、粒子を含む大気が吸引されて空間35からカバー34の内側に大気が流入する。この大気の流入量は、排気ファン16と真空ポンプ26とを上述した流量とすると、両方の合計流量である約1200LPMとなる。主流室37から流出口42に吸引される大気の流量は、副流室38から流出口39に吸引される大気の流量の約10倍である。カバー34内に流入した大気は、加速ノズル33に吸引される大気により加速されて分粒容器31内に流入する。流入した大気は、加速ノズル33に対向する捕集ノズル41を通って副流室38内に流入する副流と、加速ノズル33を通過した後に向きを変えて捕集ノズル41に向かうことなく、主流室37内に振り向けられる主流とに分離される。このように、捕集ノズル41を流れる流量つまり副流の流量は、全体の流量の約10%程度であり、副流に比して大量の主流は捕集ノズル41を迂回して流出口42に流れる。
【0023】
カバー34内からそれぞれの加速ノズル33内に流入する大気には、粒径が2.5μm以下の微小粒子と、それよりも粒径が大きい粗大粒子とが含まれている。なお、
図3においては、微小粒子が符号P1で示され、粗大粒子が符号P2で示されており、粗大粒子P2は微小粒子P1よりも模式的に拡大して示されている。微小粒子は、粗大粒子に比して慣性が小さいので、微小粒子は主流に留まって主流とともに主流室37内に流入する。一方、慣性力の大きい粗大粒子は、副流に同伴して捕集ノズル41に入り込んで副流室38内に流入する。このように、大気中に浮遊する粒子は、バーチャルインパクタ11により、慣性力を利用して微小粒子と粗大粒子とに分級される。
【0024】
図4はバーチャルインパクタの変形例を示す一部切欠き正面図であり、
図5は
図4におけるA−A線断面図である。
【0025】
大気導入板32は分粒容器31に上下動自在に装着されており、大気導入板32の上下方向の位置を調整することにより、加速ノズル33と捕集ノズル41との間の距離を調整することができる。大気導入板32を上下動するために、分粒容器31には上下動機構43が設けられている。大気導入板32には、
図5に示されるように、20個の加速ノズル33が設けられており、それぞれの加速ノズル33に対向して、分粒筒体36の天壁部36bには、20個の捕集ノズル41が設けられている。なお、
図4においては、1つの捕集ノズル41が示されている。大気導入板32の外周部には、
図5に示されるように、円弧形状の複数の連通孔40が設けられており、微小粒子は、連通孔40から主流とともに主流室37内に流入する。
【0026】
それぞれの捕集ノズル41は、加速ノズル33に対向しているので、
図4に示される捕集ノズル41は、
図5に示されるように、大気導入板32の中心つまり天壁部36bの中心から同一半径の位置に円周方向に所定の間隔を隔てて設けられている。
図4においては、20個の捕集ノズル41のうちの1つが示されている。このように、それぞれの捕集ノズル41を同一半径位置に設けると、それぞれの捕集ノズル41に流入する副流の流速がほぼ同一条件となる。これにより、分粒容器31内に多量の大気を供給しても、それぞれの捕集ノズル41には粗大粒子のみが流入し、分粒効率を高めつつ、微小粒子と粗大粒子との分粒精度を高めることができる。なお、加速ノズル33およびそれに対向して設けられる捕集ノズル41の数は、複数であれば、20個に限られず、分粒処理する容量に応じて任意の数に設定することができる。
【0027】
図6は大気導入板32を上下動するための上下動機構43を示す断面図である。上下動機構43は、分粒容器31に取り付けられる円筒形状の支持台44を有し、大気導入板32が設けられた上下動筒体45が支持台44の内部に上下動自在に装着される。ガイドピン46が上下動筒体45に取り付けられ、ガイドピン46は支持台44に上下方向に延びて設けられた長孔47を貫通しており、上下動筒体45は長孔47の上下方向の長さのストロークの範囲を上下方向に駆動される。カバー34は、上下動筒体45のフランジ部45bに複数の支持駒34aにより取り付けられる。
【0028】
上下動筒体45の外周面には雄ねじ45aが設けられ、支持台44の上端面と上下動筒体45のフランジ部45bとの間に調整リング48が回転自在に設けられている。調整リング48の外周面にはローレットが刻み込まれており、調整リング48はローレット付きリングである。調整リング48には、雄ねじ45aにねじ結合される雌ねじ48aが設けられており、調整リング48を回転させて、上下動筒体45を上下動させると、大気導入板32に設けられた加速ノズル33と、分粒筒体36の天壁部36bに設けられた捕集ノズル41との間の隙間、つまり加速ノズル33の吐出口と捕集ノズル41の流入口との間のノズル間距離Sの寸法を調整することができる。
【0029】
上下動筒体45を支持台44に固定するための固定ねじ49aが支持台44に設けられ、調整リング48を上下動筒体45に固定するための固定ねじ49bが調整リング48に設けられている。
【0030】
加速ノズル33と捕集ノズル41との間の距離つまりノズル間距離Sの寸法を調整するには、カバー34を取り外すとともに、それぞれの固定ねじ49a、49bを緩めた状態のもとで、調整リング48を回転させることにより行う。
図6において、上下動筒体45の右半分が下降限位置に設定された状態を示す。調整リング48を回転させて調整リング48の上面をフランジ部45bに接触させるとともに、上下動筒体45を押し込んで調整リング48の下面を支持台44の上面に接触させると、ノズル間距離Sは、
図6においてSmimで示す最小値となる。この最小値Sminは、0.4mmである。
【0031】
この状態のもとで、調整リング48を平面から見て時計方向に回転させると、上下動筒体45は支持台44に対して上方に駆動される。このときには、ガイドピン46は長孔47に案内されて上昇移動する。調整リング48を1回転させると、上下動筒体45は1.5mm上昇する。調整リング48を8回転させると、上下動筒体45は、上昇限位置になる。
図6において上下動筒体45の左半分が上昇限位置となった状態を示す。このときのノズル間距離Sは、
図6においてSmaxで示す最大値となる。この最大値Smaxは12.4mmである。
【0032】
このように、ノズル間距離Sの値は、0.4〜12.4mmの範囲のいずれかに設定することができる。ノズル間距離Sが設定されたら、固定ねじ49aにより上下動筒体45は支持台44に固定され、固定ねじ49bにより調整リング48は上下動筒体45に固定される。バーチャルインパクタ11が使用されるときには、カバー34が上下動筒体45に取り付けられる。
【0033】
図7は、
図1に示された微小粒子捕集用つまり主流用のサイクロン13を示す一部切欠き斜視図であり、
図8は主流用のサイクロン13に設けられる捕集容器14を示す断面図であり、
図9は捕集容器14の分解斜視図である。
【0034】
サイクロン13は、
図7に示されるように、下端部に向かうに従って漸次内径が小さくなった円錐筒部51を備えており、円錐筒部51の上側には円筒部52が設けられ、円筒部52の上端には端壁部53が設けられている。円筒部52には、バーチャルインパクタ11により分粒されて微小粒子を含む主流の大気が流入する流入口54が設けられている。流入口54には
図1に示されるように、主流案内配管12が接続される。円錐筒部51の下端部には、粒子落下口55が設けられており、流入口54からサイクロン13内に流入した大気は、円筒部52と円錐筒部51とからなるサイクロン13の内周面56に沿って旋回しながら円錐筒部51の下端部の粒子落下口55に向けて流れる。主流の大気に含まれる微小粒子は、旋回流により遠心力を受けてサイクロン13の内周面に案内されて粒子落下口55に旋回しながら落下して捕集される。
【0035】
一方、円錐筒部51の下端部に到達して微小粒子が分離された大気は、サイクロン13の内部を上昇する。上昇した大気を外部に排出するために、端壁部53には、排気口57が設けられており、排気口57には
図1に示される排気配管15が接続される。排気ファン16によって、主流がサイクロン13内に吸引供給されるとともに、微小粒子が分離除去された大気は捕集装置10の外部に排気される。
【0036】
副流用のサイクロン23の基本構造は、主流用のサイクロン13とほぼ同様の構造となっているが、副流は主流に比して流量が少ないので、サイクロン23はサイクロン13に比して小型である。サイクロン23もサイクロン13と同様に円錐筒部を備え、円錐筒部は副流室から流出した大気を旋回させて粗大粒子を下端部の粒子落下口に向けて案内する。さらに、サイクロン23は、粗大粒子を含む大気が流入する流入口と、円錐筒部の内部を上昇した大気を外部に排出する排出口が設けられている。サイクロン23の下端部には、粒子落下口を通過した粗大粒子を収容する捕集容器24が設けられている。
【0037】
微小粒子を収容する捕集容器14は、
図8および
図9に示されるように、円錐筒部51の下端部に装着されて粒子落下口55を形成する継手部材61により円錐筒部51に取り付けられる。継手部材61には取付リング62が挿入されており、取付リング62は捕集容器14の上端面と継手部材61との間に突き当てられて挟み込まれる。捕集容器14の内部には円錐体63が捕集容器14の上端部側に位置させて配置される。円錐体63は上部から下部に向けて外径が大きくなった外周面64を有し、上部には棒状の支持部材65が装着されており、支持部材65は取付リング62の径方向中心部に取り付けられる。支持部材65は円錐体63に取り外し自在に装着されており、支持部材65を交換することにより、円錐体63の上端面と、取付リング62との間の距離、つまり円錐体63の設置高さhを変化させることができる。なお、円錐体63としては、円錐形状の外周面64を備えていれば、板金製としても良い。
【0038】
取付リング62の径方向外周部には、
図9に示されるように、複数の粒子通過孔66が設けられており、粒子落下口55に到達した微小粒子は、粒子通過孔66を通って外周面64に向けて落下する。円錐体63の下部と捕集容器14の内周面との間には、通過隙間67が形成されており、粒子落下口55から粒子通過孔66を介して捕集容器14に落下した微小粒子は、円錐体63の外周面と捕集容器14の内周面との間のスペース68を通過して通過隙間67から捕集容器14の底部に落下する。
【0039】
円錐筒部51の内周面に沿って旋回しながら粒子落下口55に到達した旋回流によって、捕集容器14の上端部に僅かな旋回流が発生することがある。発生した旋回流が上昇したとしても、円錐体63によって捕集容器14の底部内の気体には旋回流の発生が抑制される。これにより、捕集容器14の底部に溜まった微小粒子がサイクロン13に向けて逆流することが確実に防止され、微小粒子の捕集効率を高めることができる。
【0040】
サイクロン13の排気口57から排出される大気の中には、捕集容器14に回収されずにサイクロンを透過した微小粒子も含まれる。サイクロン13を透過する微小粒子の割合である透過率を低下させると、サイクロン13による捕集率を高めることができる。微小粒子は、内周面56の付近の旋回中の微小粒子に加わる遠心力により空気の流れから分離されて捕集される。そこで、サイクロン13内を旋回する微小粒子に加わる遠心力は、サイクロン13の内周面56の表面粗さと関係があると推測した。内周面56の表面粗さを小さく、つまり低減すると、微小粒子の遠心力の低下を抑制することができると考え、表面粗さと微小粒子の透過率との関係について実験した。さらに、サイクロン13から捕集容器14内に捕集された微小粒子は、サイクロン13内の旋回流により旋回された後に排気口57に戻る大気に吸引されて再飛散するのではないかと考え、再飛散の防止技術について検討し、捕集容器14内に再飛散を防止するための円錐体63を設けた場合と設けない場合とについての透過率を測定した。
【0041】
図10は、サイクロンの内周面56の表面粗さを相違させた場合における透過率の相違を示す特性線図である。
図10は、内周面56の表面粗さRaを相違させた場合における微小粒子の粒径(Dp)と透過率との関係を示す。なお、それぞれの実験に用いた捕集容器14には、円錐体63は設けられてない。
図10において、比較例A1は内周面56の表面粗さRaを5.1μmとした場合を示し、実施例B1は内周面56の表面粗さRaを0.17μmとした場合を示し、実施例B2は表面粗さRaを0.08μmとした場合を示す。いずれの表面粗さの場合であっても、粒径が大きくなると、透過率は低下して捕集効率が高められる。
図10に示されるように、粒径が0.1μmの粒子の透過率は、表面粗さRaが5.1μmの比較例A1の場合には76%であるのに対し、表面粗さRaが0.08μmの場合には69%であり、10%の捕集効率の向上が見られた。また、表面粗さRaが0.17μmとした場合であっても、高い捕集効率が得られたが、表面粗さRaを小さくした方が捕集効率が高められる。したがって、実験によれば、表面粗さRaとしては、0.17μm以下とし、好ましくは、0.08μm以下とすることで、捕集効率をより高めることができることを確認したが、表面粗さRaとしては、0.20μm以下であれば、同様の捕集効率を得ることができると考えられる。
【0042】
図11は、捕集容器に円錐体が設けられていない場合と、円錐体が設けられた場合とについての透過率の相違を示す特性線図である。
図11において、比較例A2は捕集容器14に円錐体63を設置していない場合であり、実施例B3は円錐体63の設置高さhを10mmとした場合であり、実施例B4は円錐体63の設置高さhを0mmとした場合である。それぞれの実験に使用したサイクロン13の内周面の表面粗さRaは、5.1μmである。なお、設置高さhは、
図8に示されるように、取付リング62と円錐体63の上面との間の距離を示す。
図11の実施例B3,B4に示されるように、円錐体63を設置しない場合よりも、設置した方が透過率を低下させることができた。また、設置高さhを0mmとして円錐体63をサイクロン13に近付けると、透過率をさらに低下させることが判明した。設置高さhを長くすると、円錐体63の上側のスペース68の容積が大きくなり、捕集容器14の上部の大気が旋回しながら上昇して微小粒子がサイクロン13内に再飛散することを抑制する効果が低下してしまったからであると考えられる。したがって、設置高さhを0とする方が捕集効果を高めることができる。
【0043】
図12は、サイクロンの内周面の表面粗さを低減させることなく捕集容器に円錐体が設けられていない場合と、表面粗さを低減しつつ円錐体を捕集容器に設けた場合とについての透過率の相違を示す特性線図である。
図12において、比較例A3は、内周面56の表面粗さRaを5.1μmとして円錐体63が設けられていない場合を示し、実施例B5は、表面粗さRaを0.08μmとし、円錐体63の設置高さhを0mmとした場合を示す。
図12に示されるように、円錐体63を設置するとともに、内周面56の表面粗さRaを0.08μmとすると、表面粗さの低減と円錐体設置との相乗効果によって、比較例A3に比して明確に透過率が低減されて捕集効率を高められることが判明した。
【0044】
50%カットオフ径は、比較例A3ではdp=0.19μmであり、実施例B5ではdp=0.15μmであった。したがって、表面粗さRaを0.17μm以下に低減し、円錐体63を捕集容器14内に設置すると、サイクロン13による微小粒子の捕集効果を大幅に向上させることができることが可能であることが判明した。このように、微小粒子であるPM2.5を大量に捕集することができると、微小粒子を使用した細胞・生物曝露実験等の毒性評価や、微小粒子の有害性と関係があると考えられる化学成分や比表面積などの測定などの微小粒子の有害性評価を進展させることができる。特に、従来に比してバーチャルインパクタ11に供給する大気の量を増加させると、短時間で多量の微小粒子を捕集することができる。
【0045】
図6に示されるように、バーチャルインパクタ11のノズル間距離Sは0.4〜12.4mmの範囲で調整することができる。そこで、ノズル間距離Sを変化させて主流に含まれる粒子つまり捕集ノズル41に流入することなく、主流に向けて透過する粒子の割合である透過率つまり分級性能を測定した。
図13はその測定結果を示し、バーチャルインパクタ11の加速ノズル33と捕集ノズル41との間のノズル間距離Sと、主流に流れる粒子の透過率を示す透過率曲線である。
【0046】
図13に示されるように、ノズル間距離Sを10mmとした場合には、主流の中に粒径(Dp)が2.5μm以上の粗大粒子が多く混入してしまうことが考えられる。一方、ノズル間距離Sを1.0mmとした場合には、粒径が2.5μm以下の微小粒子の主流への混入率が低下して、副流の中に微小粒子が多く混入していると考えられる。
【0047】
一方、ノズル間距離Sを1.9mmとした場合には、50%の分粒径は2.1μmであり、粒径が2.5μm以上の粗大粒子の混入率を低下させることができるとともに、粒径が2.5μm以下の微小粒子の透過率を、ノズル間距離Sを1.0mmとした場合よりも、高めることができる。
【0048】
さらに、ノズル間距離Sを4.9mmとした場合には、50%分粒径は2.5μmであり、80%分粒径に対する20%分粒径の比で規定する傾きは1.4であった。粒径が2.5μm以下の微小粒子の透過率はノズル間距離Sを1.9mmとした場合よりも高めることができるとともに、粒径が2.5μm以上の粗大粒子の透過率を低減させることができる。
【0049】
ノズル間距離Sを7.9mmとした場合には、50%分粒径は2.8であり、粒径が2.5μm以下の微小粒子の透過率はノズル間距離Sを4.9mmとした場合に近い値となった。ただし、粒径が2.5μm以上の粗大粒子が含まれる量は、ノズル間距離Sを4.9mmとした場合よりも多かった。
【0050】
図13に示されるように、ノズル間距離Sを、1.9〜7.9mmの範囲とすると、バーチャルインパクタ11としての実用上の分級性能としては十分と考えられる。より好ましくは、上述のように、ノズル間距離Sを4.9mmとすると、50%分粒径を2.5μmとすることができ、2.5μmよりも大きい粒子の透過率を飛躍的に低下させることができるので、主流の中に含まれる粗大粒子の量を低下させることができ、ノズル間距離Sを4.9mmとすることが好ましいことが判明した。ノズル間距離Sを3.4mm、6.4mmとした場合にも、4.9mmとした場合とほぼ同様の透過率であった。
【0051】
したがって、バーチャルインパクタ11の分級性能を高めて、主流の中に粗大粒子が含まれないように、主流に混入される粗大粒子の量を少なくするには、ノズル間距離Sを、1.9〜7.9mmの範囲とし、好ましくは、3.4mm〜6.4mmとすることが好ましい。さらに好ましくはノズル間距離Sを4.9mmとすることが好ましいことが判明した。
【0052】
バーチャルインパクタ11の分級性能を高めるとともに、サイクロン13の外部には排出される微小粒子の透過率を低下させると、分級性能の向上と相俟って、サイクロン13によって微小粒子の捕集率をさらに高めることができる。
【0053】
図14は、粗大粒子捕集用のサイクロン23の流量と粒子の透過率を示す透過率曲線である。
【0054】
上述のように、サイクロン23には毎分100リットル(LPM)の流量で空気を流している。この流量について、
図14に示されるように、50LPM、75LPM、100LPMと変化させて粗大粒子捕集用のサイクロン23における透過率を測定した。流量50LPMのときは、50%分粒径は約1.0μmであった。流量を75LPM、100LPMと高めると、50%分粒径は小さくなり、100LPMにおける50%分粒径は約0.68μmであり、粒径1μmの粒子の捕集効率は95%であった。
【0055】
バーチャルインパクタ11の分級性能により、粒径1μm以下の粒子はその殆どが微小粒子捕集用のサイクロン13に流入すると考えられるため、粗大粒子捕集用のサイクロン23では粒径1μm以上の粒子を捕集できれば十分な性能を持つと考えられる。したがって、サイクロン23としては、流量を100LPMとすることで、副流側に流入した粗大粒子を十分に捕集することができることが確認された。
【0056】
図15は、微小粒子捕集用のサイクロン13と粗大粒子捕集用のサイクロン23のそれぞれで捕集された粉体の化学成分の測定結果を示すグラフである。
図16は、
図15に示された化学成分を微小粒子の粗大粒子に対する割合を示すグラフであり、粗大粒子の重量を微小粒子の重量で除した値を示す。
【0057】
それぞれのサイクロンで捕集された粒子の化学組成を比較すると、大気中において主に粗大側に存在すると考えられるNa
+、Ca
2+、Si、Fe等は、粗大粒子捕集用のサイクロン23で捕集された粒子中に大きな割合で含まれていた。一方、大気中において主に微小粒子として存在すると考えられるEC(元素状炭素)、Cu、Zn、Pb等は微小粒子捕集用のサイクロン13で捕集された粒子中に大きな割合で含まれていた。
【0058】
したがって、バーチャルインパクタ11と、サイクロン13、23とを備えた装置により、それぞれのサイクロン13、23により特徴的な組成を持った微小粒子と粗大粒子とを捕集することができる。粗大粒子をサイクロン23を用いて捕集することにより、大気中の粗大粒子による生体への有害調査に供することができる。微小粒子とは別に、黄砂等の粗大粒子も生体内における炎症等を引き起こすことが知られており、粗大粒子と微小粒子を同時に採取して曝露実験を行うことにより、大気中の粒子による生体有害性を発現するメカニズムが詳細に解明できることが可能となる。
【0059】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。