(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596082
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】脂肪由来間葉系幹細胞から誘導多能性幹細胞を製造する方法およびその方法により製造された誘導多能性幹細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20191010BHJP
【FI】
C12N5/0775
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-518017(P2017-518017)
(86)(22)【出願日】2014年6月25日
(65)【公表番号】特表2017-518772(P2017-518772A)
(43)【公表日】2017年7月13日
(86)【国際出願番号】KR2014005618
(87)【国際公開番号】WO2015190636
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2017年6月20日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0072427
(32)【優先日】2014年6月13日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515294020
【氏名又は名称】ビービーエイチシー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BBHC CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ サンヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ウォンジュ
(72)【発明者】
【氏名】キム ホビン
(72)【発明者】
【氏名】オ ミンソン
(72)【発明者】
【氏名】イ キホ
【審査官】
小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/007900(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/032025(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カジメ(Ecklonia cava)抽出物を含む、脂肪由来間葉系幹細胞(adipose−derived mesenchymal stem cell)から内胚葉、中胚葉および外胚葉に分化し得る多能性幹細胞を取得するための培地組成物であって、
前記カジメ抽出物は、水および/または炭素数1〜4の無水または含水低級アルコールで抽出したもので培地組成物基準20〜400μg/ml含まれる、培地組成物。
【請求項2】
前記カジメ抽出物は、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle's Medium)、MEM(Minimal Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、RPMI 1640、F−10、F−12、DMEM−F12、α−MEM(α−Minimal Essential Medium)、G−MEM(Glasgow's Minimal Essential Medium)、IMDM(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)、MacCoy's 5A培地、AmnioMax、AminoMaxIIcomplete MediumおよびChang's Medium MesemCult−XF Mediumから構成された群から選択される培地に含まれることを特徴とする、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項3】
前記カジメ抽出物は、エタノール溶媒で抽出したもので培地組成物基準100〜400μg/ml含まれることを特徴とする、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項4】
前記カジメ抽出物は、水で抽出したもので培地組成物基準20〜50μg/ml含まれることを特徴とする、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項5】
前記培地組成物は、SiO2、Al2O3、TiO3、Fe2O3、CaO、Na2O、K2OおよびLiOを含有する精製脱イオン水を0.01〜10v/v%さらに含むことを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の培地組成物。
【請求項6】
(a)水および/または炭素数1〜4の無水または含水低級アルコールで抽出されたカジメ(Ecklonia cava)抽出物を20〜400μg/mlとなるように細胞培養培地に添加するステップ;および(b)前記培地で哺乳動物の脂肪由来間葉系幹細胞(adipose−derived mesenchymal stem cell)を培養して内胚葉、中胚葉および外胚葉に分化し得る多能性幹細胞を取得するステップを含む多能性幹細胞の製造方法。
【請求項7】
前記細胞培養培地は、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle's Medium)、MEM(Minimal Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、RPMI 1640、F−10、F−12、DMEM−F12、α−MEM(α−Minimal Essential Medium)、G−MEM(Glasgow's Minimal Essential Medium)、IMDM(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)、MacCoy's 5A培地、AmnioMax、AminoMaxIIcomplete MediumおよびChang's Medium MesemCult−XF Mediumから構成された群から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
エタノール溶媒で抽出された前記カジメ抽出物が、100〜400μg/mlとなるように前記細胞培養培地に添加されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
水で抽出された前記カジメ抽出物が、20〜50μg/mlとなるように前記細胞培養培地に添加されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞培養培地は、SiO2、Al2O3、TiO3、Fe2O3、CaO、Na2O、K2OおよびLiOを含有する精製脱イオン水を0.01〜10v/v%さらに含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の脂肪由来間葉系幹細胞の多能性幹細胞の誘導培地組成物、およびこれを用いて患者のカスタマイズ型誘導多能性幹細胞を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、各組織から得られる分化する前の段階の未分化細胞を総称する。未分化状態で一定期間、自身と同一の細胞を持続的に作り出すことができる性質と、適当な条件下では生物組織を構成する多様な細胞に分化することができる性質を持っている。
【0003】
幹細胞は、分化能と生成時期により、大きく胚性幹細胞(embryonic stem cell)と成体幹細胞(adult stem cell)に区分することができる。また、他の分類としては、幹細胞の分化能により、多能性(pluripotency)、多分化能(multipotency)および単分化能(unipotency)幹細胞に分けられる。
【0004】
成体幹細胞は、多分化能または単分化能幹細胞に区分することができる。代表的な成体幹細胞としては、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells;MSCs)と造血幹細胞(hematopoietic stem cells;HSCs)がある。間葉系幹細胞は、軟骨細胞(chondrocyte)、骨芽細胞(osteoblast)、脂肪細胞(adipocyte)、筋肉細胞(myocyte)、神経細胞(neuron)に分化し、造血幹細胞は、赤血球、白血球、血小板など、主に血液内の血球細胞に分化すると知られている。
【0005】
一方、多能性幹細胞は、生体を構成する3つの胚葉(germ layer)の全てに分化することができ、人体の全ての細胞や臓器組織に分化することができる多機能性を有する幹細胞を称し、一般に胚性幹細胞がこれに該当する。ヒト胚性幹細胞は、人間生命体として発生することができる胚芽から作られるため、多くの倫理的な問題点を抱えているが、成体幹細胞に比べて細胞増殖および分化能力に優れていると知られている。成体幹細胞は、骨髓、血液、脳、皮膚などから得られるため倫理的な問題は少ないが、胚性幹細胞に比べて限定された分化能力を有している。
【0006】
このような問題点を克服するための代案として、成体から由来した細胞を逆分化させて胚性幹細胞と類似したカスタマイズ型多能性幹細胞を製造するための様々な方法が試みられてきた。代表的な方法として、細胞融合法(fusion with ES cell)、体細胞核置換法(somatic cell nuclear transfer)、特定因子注入法(reprogramming by gene factor)などがある。細胞融合法は、誘導された細胞が2対の遺伝子をさらに有しており、細胞の安定性の側面から問題点があり、体細胞核置換法は、卵子が大量に必要で効率も非常に低いという点で問題がある。そして、特定因子注入法は、特定遺伝子を挿入して逆分化を誘導するために、発ガン遺伝子を含むウイルスを利用する方法であって、発ガンの危険が高く、低い効率と方法的な側面における難易度により、細胞治療剤の開発可能性の面で問題視されている。
【0007】
多能性幹細胞を成功的かつ多量に得るためには、分離された脂肪由来単核細胞を培養する段階における培養組成物が非常に重要であるところ、より多量、高効率の誘導方法で多能性幹細胞を製造するための研究が必要な状況である。
【0008】
一方、カジメを用いて、アトピー疾患の治療または予防のための組成物(韓国公開特許第2009−0043115号)や酸化染色用染毛剤組成物(韓国公開特許第2012−0126148号)に使用した場合はあるが、脂肪由来間葉系幹細胞(adipose−derived mesenchymal stem cell)を誘導多能性幹細胞(induced pluripotency stem cell)に逆分化するための用途で使用されたのは、今までない状況である。
【0009】
前記した背景技術として説明された事項は、本発明の背景に対する理解を深めるためのものであって、この技術分野で通常の知識を有する者には既に知られた従来技術に該当することを認めるものと受け止められてはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】韓国公開特許第2009−0043115号公報
【特許文献2】韓国公開特許第2012−0126148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、安全性と生産効率の高い細胞治療剤の開発の実用化のための多能性幹細胞を高効率で誘導する方法を探し出すために努力してきた。その結果、安全な天然抽出物であるカジメ抽出物を細胞培養培地に添加する場合、脂肪由来間葉系幹細胞を用いて安全かつ高い効率で誘導多能性幹細胞を製造できることを確認することにより本発明を完成した。
【0012】
したがって、本発明の目的は、カジメ抽出物を含む脂肪由来間葉系幹細胞を誘導多能性幹細胞に逆分化させるための培地組成物を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、カジメ抽出物が含まれた培地で脂肪由来間葉系幹細胞を誘導多能性幹細胞に逆分化させるステップを含む誘導多能性幹細胞の製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明のさらなる目的は、前記製造方法で製造された誘導多能性幹細胞を提供することにある。
【0015】
本発明のさらなる目的は、患者の脂肪から幹細胞を分離して、前記製造方法で製造された誘導多能性幹細胞を含む患者のカスタマイズ型細胞治療用組成物を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的および利点は、下記の発明の詳細な説明、請求の範囲および図面によりさらに明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一形態によれば、本発明は、カジメ(Ecklonia cava)抽出物を含む、脂肪由来間葉系幹細胞(adipose−derived mesenchymal stem cell)を誘導多能性幹細胞(induced pluripotency stem cell)に逆分化するための培地組成物を提供する。
【0018】
本発明者らは、胚を破壊する倫理的問題がなくウイルスを使用しないものであって、癌細胞形成の危険のない安全性と生産効率の高い細胞治療剤開発の実用化のための多能性幹細胞を高効率で誘導する方法を探そうと努力した。その結果、安全な天然抽出物であるカジメ抽出物を細胞培養培地に添加する場合、驚くべきことに、高い効率で誘導多能性幹細胞を製造できることを確認した。
【0019】
本発明の培地組成物に含まれる有効成分であるカジメ(甘苔、Ecklonia cava)は、主に南海岸、済州島の海岸一帯および鬱陵島の海岸一帯に生息する褐藻植物コンブ目コンブ科の多年生海藻類であって、主にアワビやサザエなどのエサとなり、アルギン酸やヨウ化カリウムを作る主な原料や、食用として利用することもある。
【0020】
本発明が含むカジメ抽出物は、水、(a)炭素数1〜4の無水または含水低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ノルマル−プロパノール、イソ−プロパノールおよびノルマル−ブタノールなど)、(b)前記低級アルコールと水との混合溶媒、(c)アセトン、(d)エチルアセテート、(e)クロロホルム、(f)1,3−ブチレングリコール、(g)ヘキサン、(h)ジエチルエーテルなどの有機溶媒を用いて抽出することができ、好ましくは、メタノールまたはエタノールと水との混合溶媒またはこれらのそれぞれを用いて抽出することができる。混合溶媒を用いて抽出する場合、メタノールまたはエタノールの含量は、50〜80v/v%が好ましい。
【0021】
現在、前記カジメ抽出物を化粧料などの皮膚組成物に適用するための事例が増加しているが(大韓民国公開特許第2013−0017159号、第2012−0040488号、第2010−0097293号など参照)、多能性幹細胞誘導用培地で開発された事例は皆無である。
【0022】
本発明で使用された用語「胚性幹細胞」は、受精後、発生初期の胚盤胞(blastocyst)の内部細胞塊(inner cell mass)から分離して培養した細胞で、多能性(pluripotency)を有する細胞を称する。本発明で使用された用語「多能性幹細胞」は、生体を構成する3つの胚葉(germ layer)、即ち、内胚葉(endoderm)、中胚葉(mesoderm)、外胚葉(ectoderm)の全てに分化しうる多能性を有する幹細胞を称する。
【0023】
本発明で使用された用語「分化(differentiation)」は、細胞が分裂増殖して成長する間に互いに構造や機能が特殊化する現象、即ち、生物の細胞、組織などがそれぞれに与えられたことを行うために形態や機能が変わっていくことをいう。
【0024】
本発明で使用された用語「細胞治療剤」は、ヒトから分離、培養および特殊な操作を通じて製造された細胞および組織で、治療、診断および予防の目的で使用される医薬品であり、細胞あるいは組織の機能を復元させるために、同種または異種細胞を体外で増殖、選別するか、他の方法で細胞の生物学的特性を変化させるなどの一連の行為を通じて、治療、診断および予防の目的で使用される医薬品を称する。細胞治療剤は、細胞の分化程度によって大きく体細胞治療剤、幹細胞治療剤に分類され、本発明は、特に幹細胞治療剤に関する。
【0025】
本発明の「間葉系幹細胞」は、哺乳動物由来の胚性幹細胞または成体幹細胞から分離した細胞であり、好ましくは、脂肪由来間葉系幹細胞であり、より好ましくは、人体の脂肪由来間葉系幹細胞である。前記脂肪由来幹細胞は、人体の脂肪組織から採取して得られる。脂肪からの間葉系幹細胞の採取は、多様な方法を用いて行うことができ、例えば、脂肪組織から単核細胞を分離するために人体から脂肪組織を採取してDPBS(Dulbecco’s Phosphate−Buffered Saline)で血液が出なくなるまで洗浄し、洗浄した臍帯を手術用刃で切り刻み、37℃でインキュベーション(incubation)させて単核細胞が含有された溶液が得られる。
【0026】
本発明で使用される用語「培地」は糖、アミノ酸、各種栄養物質、血清、成長因子、無機質などの細胞の成長および増殖などに不可欠な要素を含む生体外(in vitro)で幹細胞などの細胞の培養または分化のための混合物をいう。
【0027】
特に、本発明の培地は、間葉系幹細胞の培養のための培地である。このとき間葉系幹細胞は、哺乳動物由来の胚性幹細胞または成体幹細胞から分離した細胞として、無限に増殖することができる能力および様々な細胞の形態(例えば、脂肪細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、骨細胞など)に分化が可能な細胞である。また、本発明では、CD44、CD73、CD90に対する抗体には陽性反応で、CD34、CD45に対する抗体には陰性反応を示す免疫表現型を有する多分化能の間葉系幹細胞を用いる。
【0028】
当業界には多様な培地が市販されており、人為的に製造して使用することもできる。一例として、市販中の培地としては、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、MEM(Minimal Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、RPMI1640、F−10、F−12、DMEM F−12、α−MEM(α−Minimal Essential Medium)、G−MEM(Glasgow’s Minimal Essential Medium)、IMPM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、AmnioMax、AminoMaxII complete Medium(Gibco、Newyork、USA)、Chang’s Medium MesemCult−XF Medium(STEMCELL Technologies、Vancouver、Canada)などがあり、人為的に製造することができる培地と共に、本発明の培地組成物に含まれる基本培地として使用することができる。
【0029】
前記基本培地には、通常添加される血清成分(例えば、FBS(Fetal Bovine Serum))および抗生剤(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン)などを添加することができる。前記基本培地に添加される血清成分または抗生剤成分の濃度は、本発明の効果を達成することができる範囲内で変わることができ、好ましくは、10%のFBS、100unit/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシンなどを添加することができる。
【0030】
また、本発明の培地は、栄養混合物(Nutrient Mixture)をさらに含むことができる。前記栄養混合物は、細胞培養に一般に使用される各種のアミノ酸、ビタミン、無機塩などを含む混合物であり、前記アミノ酸、ビタミン、無機塩などを混合して製造するか、商業的に製造された栄養混合物を使用することができる。商業的に製造された栄養混合物は、M199、MCDB110、MCDB202、MCDB302などが例として挙げられるが、これに制限されるものではない。
【0031】
また、本発明の培地は、多能性幹細胞の誘導と安定化のために、エネルギーウォーターをさらに含むことができる。前記エネルギーウォーターは、0.01〜10v/v%で追加することが好ましく、より好ましくは、0.05〜0.5v/v%で追加する。
【0032】
本発明の培地組成物は、多能性幹細胞の誘導に特異的な培地であり、前記基本培地にカジメ抽出物を添加することで達成することができ、好ましくは、全体培地組成物基準1〜1,000μg/ml濃度で、より好ましくは、100〜400μg/ml濃度でカジメ抽出物を含むことができる。
【0033】
本発明の他の実施形態によると、本発明は、カジメ抽出物を細胞培養培地に添加するステップ;および前記培地で脂肪由来間葉系幹細胞(adipose−derived mesenchymal stem cell)を誘導多能性幹細胞(induced pluripotency stem cell)に逆分化させるステップを含む誘導多能性幹細胞の製造方法を提供する。
【0034】
本発明の一実施例によると、実験群として本発明のカジメ抽出物が含まれた培地組成物を用いた場合(DMEM F−12培地にカジメ抽出物、およびエネルギーウォーターを含む培地)と、対照群としてDMEM F−12培地のみを用いた場合とは異なり、8−10日目となる日に多能性幹細胞コロニーが形成されたことが確認できた(
図2および
図3)。
【0035】
本発明のさらなる他の実施形態によると、本発明は、前記製造方法で製造された誘導多能性幹細胞を提供する。
【0036】
本発明の誘導多能性幹細胞は、胚性幹細胞と同じ分化能を有し、細胞の形状においても、胚性幹細胞とほぼ同一である(
図2および
図3)。本発明の一実施例によると、胚性幹細胞に特徴的な遺伝子(Oct4、Sox−2)および蛋白質(SSEA−4)が発現するかどうかを調査した結果、本発明によって誘導された多能性幹細胞から胚性幹細胞と同様に、前記遺伝子および蛋白質が発現されることを確認した(
図4および
図5)。
【0037】
他の実施例によれば、誘導過程を経ない間葉系幹細胞(MSC)においては、多能性幹細胞の特徴的な遺伝子であるOCT4、SOX2とNanogの発現度が低い一方で、本発明の方法によって誘導された多能性幹細胞(実験例1−1:EtOH EPN、実験例1−2:Sonic EPN)では、これらの特徴的な遺伝子が顕著に高く発現された(
図6および
図7)。
【0038】
本発明のさらなる他の実施形態によると、本発明は、前記方法で製造された誘導多能性幹細胞を含む細胞治療用組成物を提供する。
【0039】
本発明の組成物は、任意の投与経路によって、具体的には、腹腔または胸腔投与、皮下投与、静脈または動脈の血管内投与、筋肉内投与、注射による局所投与などの方法によって投与可能である。
【0040】
本発明において、前記組成物は、通常の方法に基づいて注射剤、懸濁剤、乳化剤などの形で投与することができ、必要に応じてフロイント完全補助剤などの補助剤に懸濁されたり、またはBCGのような補助剤活性を有する物質と共に投与することも可能である。前記組成物は、滅菌されたり、安定化剤、水和剤または乳化促進剤、浸透圧調節のための塩または緩衝剤などの補助剤およびその他の治療的に有用な物質を含有することができる。
【0041】
本発明の細胞治療用組成物は、関節炎、神経系疾患、内分泌疾患、肝疾患などに適用が可能であり、今後の人のための臨床試験の結果によっては、人のための同種細胞治療薬としての可能性もある。
【発明の効果】
【0042】
本発明の特徴および利点を要約すると次の通りである。
【0043】
(i)本発明は、カジメ抽出物を含む誘導多能性幹細胞の逆分化用培地組成物を提供する。
(ii)また、本発明は、前記培地組成物を用いた誘導多能性幹細胞の製造方法を提供する。
(iii)本発明に係る培地組成物を使用すると、脂肪由来間葉系幹細胞を用いて、誘導多能性幹細胞を効率的に製造することができ、製造された多能性幹細胞は、様々な細胞への分化が可能なので、細胞治療剤として有用に使用することができる。
(iv)本発明は、胚性幹細胞と同じ分化能を有する多能性幹細胞を製造することにより、胚性幹細胞を使用しないため、胚の破壊による倫理的問題をなくし、癌を誘発しうるウイルスを使用しないため、癌細胞形成の危険がない安全な多能性幹細胞を製造することができる。
(v)さらに、天然抽出物を使用するため、従来の方法に比べて非常に容易に、顕著に高い効率で多能性幹細胞を製造することができ、患者の脂肪細胞に分離した間葉系幹細胞を用いるので、患者カスタマイズ型幹細胞治療剤の実用化を早めることができると期待される。本発明は、神経系疾患、免疫疾患などの様々な難病疾患を治療するのに大きく寄与するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】脂肪由来間葉系幹細胞からカジメ抽出物培地を注入して培養時、胚性幹細胞とほぼ同じ多能性幹細胞が誘導されることを示す図である。
【
図2】本発明の方法(実施例1−1)でカジメ抽出物(エタノール抽出物)の濃度により誘導された多能性幹細胞コロニー形成を示したものである。
【
図3】本発明の方法(実施例1−2)でカジメ抽出物(水抽出物)の濃度により誘導された多能性幹細胞コロニー形成を示したものである。
【
図4】本発明の方法(実験例1−1)で誘導された多能性幹細胞を特異的蛋白質発現を利用して、多能性幹細胞であることを確認したものである。
【
図5】本発明の方法(実験例1−2)で誘導された多能性幹細胞を特異的蛋白質発現を利用して、多能性幹細胞であることを確認したものである。
【
図6】本発明の方法(実験例1−1)で誘導された多能性幹細胞の遺伝子発現およびそれをグラフに図式化して示したものである。
【
図7】本発明の方法(実験例1−2)で誘導された多能性幹細胞の遺伝子発現およびそれをグラフに図式化して示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、ただ本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨により本発明の範囲がこれらの実施例により制限されないことは、当業界で通常の知識を有する者にとって自明である。
【実施例】
【0046】
実施例1:カジメ抽出物の製造
実施例1−1:エタノール溶媒を用いたカジメ抽出物の製造
実験に使用された生薬試料は、済州島で購入して専門家の正確な鑑定を受けた後、実験に使用した。乾燥された生薬試料100gを70%メタノール1Lに入れ、エタノールは16時間還流抽出し、ろ過紙を使用してろ過した。ろ液を回転減圧蒸発器で濃縮させて直ちに凍結乾燥した。
【0047】
実施例1−2:水を用いたカジメ抽出物の製造
実験に使用された生薬試料は、済州島で購入して専門家の正確な鑑定を受けた後、実験に使用した。乾燥された生薬試料100gを水1Lに入れて、水は16時間超音波抽出器を適用して抽出し、ろ紙を使用してろ過した。ろ液を回転減圧蒸発器で濃縮させて直ちに凍結乾燥した。
【0048】
実施例2:人体脂肪組織からの間葉系幹細胞の分離および培養
実施例2−1:人体脂肪組織の採取
脂肪組織は、脂肪吸引した後、 直ちに収集される。試料は、実験室に移動される前に、500mlの滅菌ガラス瓶に吸引された脂肪組織を集める。その後、殺菌ガラス瓶を密封した後、実験室に移される。実験室では、滅菌状態の下でclass 100のフローフードで間葉系幹細胞の抽出が行われる。試料は、まず滅菌ステンレス鋼の容器に移される。PBSは、数回洗浄した後、脂肪組織試料は、その後2cmの長さに切って50mlチューブに移され、ここで、さらなる洗浄および70%エタノールで抗感染処理して、抗生剤混合物(50IU/mlのペニシリン、50ug/mlのストレプトマイシン(Invitrogenから購入))が添加されたPBSで前記溶液がきれいになるまで数回洗浄する。
【0049】
実施例2−2:人体脂肪組織から間葉系幹細胞の分離および培養
分離された脂肪組織をPBSで洗浄した後、組織を切り刻み、collagenase type1(1mg/ml)を添加したDMEM培地を用いて37℃で10分に1回振り混ぜながら1時間切断(digestion)した。次に、PBSで洗浄した後、1000rpmで5分間遠心分離した。上澄み液は吸引(suction)し、底に残ったペレットはPBSで洗浄した後、1000rpmで5分間遠心分離した。100μmメッシュ(mesh)サイズのフィラーでフィルタリングして残骸(debris)を除去した後、PBSで洗浄した。
【0050】
間葉系細胞の分離/培養のために、前記の外殖された組織は、10%ウシ胎児血清(FBS、Hyclone)が添加された5mlのDMEM(Dulbecco’s modified eagle medium)F−12(Gibco)、10%FBS、100unit/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシンに浸して窒素95%、二酸化炭素5%の細胞培養器で37℃に維持し、低酸素症(Hypoxic)の状態を維持して幹細胞以外の細胞は死なせるようにして、間葉系幹細胞の純度を高めた。培地は3日ごと、または4日ごとに交換された。細胞の成長(outgrowth)は、光学顕微鏡でモニタリングされた。伸長する細胞は、さらなる拡張および冷凍保管(DMEM/10%FBS利用)のためにトリプシン処理(0.125%トリプシン/0.05% EDTA)した。
【0051】
間葉系幹細胞の抽出のために、細胞のペレットは、培地DMEM F−12(Gibco)、10%FBS、100unit/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシンに再懸濁およびカウントされ、10cmの組織培養皿に1×10
6細胞/皿の密度で接種された。前記培地は、3日ごと、または4日ごとに交換された。細胞の成長(growth)およびクローン形成は、光学顕微鏡でモニタリングされた。約90%の細胞数(confluence)で、細胞は前記で説明したように、サブ−培養(sub−culture)された。
【0052】
実験例1:脂肪由来間葉系幹細胞から多能性幹細胞の誘導
実験例1−1:実施例1−1のカジメ抽出物濃度によるヒト脂肪由来間葉系幹細胞の多能性幹細胞の製造
済州カジメ抽出物の濃度により、ヒト脂肪由来幹細胞から多能性幹細胞を誘導するための実験で、対照群は、MSCの専用培地でDMEM F−12(Gibco)、10%FBS、100unit/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシンを基本培地として使用し、実験群は、継代培養を三回目したヒト脂肪由来間葉系幹細胞を用いて培地に実施例1−1で製造した済州カジメ抽出物をNormal、1μg/ml、20μg/ml、50μg/ml、100μg/ml、400μg/ml、800μg/ml、1mg/mlの濃度とエネルギーウォーター(SiO
2、Al
2O
3、TiO
3、Fe
2O
3、CaO、Na
2O、K
2O、LiOを含有する精製脱イオン水、エスティーシーナラ)0.1v/v%を添加した(
図1)。ヒト脂肪由来の間葉系幹細胞を分離して洗浄された単核球細胞を6ウェルプレート(dish)に1×10
4個の細胞を接種して、37℃、5%CO
2を維持して培養した。
【0053】
その結果、実験群では、済州カジメ抽出物の濃度が100〜400μg/mlの場合にのみ、10日後にコロニーが形成されることが観察され(
図2)、このとき顕微鏡倍率は200倍の割合で観察したものである。
【0054】
実験例1−2:実施例1−2のカジメ抽出物濃度によるヒト脂肪由来間葉系幹細胞の多能性幹細胞の製造
実験例1−1と同様の方法で実験するが、済州カジメ抽出物を実施例1−2で製造したものを用いた。その結果、実験群では、済州カジメ抽出物の濃度が20〜50μg/mlの場合にのみ、10日後にコロニーが形成されることが観察され(
図3)、このとき顕微鏡倍率は200倍の割合で観察したものである。
【0055】
実験例1−3:本発明の方法によって誘導された多能性幹細胞の免疫化学的染色分析
前記実験例1および2の方法によって誘導された多能性幹細胞に対して胚性幹細胞の特異遺伝子であるOCT4、SOX2、蛋白質であるSSEA−4(stage−specific embryonic antigen−4)が発現するかどうかを、これに対する抗体を用いて、免疫化学的染色法を用いて蛋白質が発現するかどうかを分析した。
【0056】
染色プロセスは、まず4%パラホルムアルデヒド(Paraformaldehyde)を用いて細胞を固定した後、PBSで洗浄し、1%BSA溶液でブロッキング(blocking)した。OCT4、SOX3、SSEA−4に対する1次抗体を処理して、4℃で18時間反応させた後、PBSで洗浄をし、1次抗体の蛍光色素(FITC)が付いた2次抗体を処理して、室温で1時間反応させた。
【0057】
PBSで洗浄をした後、蛍光顕微鏡(fluorescence microscope)を使用して発現したかどうかを分析し、その結果を
図4および
図5に示した。BFはbright fieldを意味し、第二の画像は、それぞれの蛋白質発現に対する染色結果を意味し、第三の画像は、DAPIで染色し、細胞の核を示している。
【0058】
その結果、エタノールを用いて抽出したカジメ抽出物(実験例1−1)と水を用いて抽出したカジメ抽出物(実験例1−2)の両方、多能性幹細胞特異的マーカーであるOCT4、SOX2、SSEA−4のコロニーのみ陽性反応が現れ、多能性幹細胞であることを確認した(
図4および
図5)。
【0059】
実験例1−4:多能性幹細胞の遺伝子分析の比較
前記実験例1−1と1−2で製造された多能性幹細胞を顕微鏡で見ながら、200μlピペットを使用してコロニーのみを取り出した後、TRIzol試薬(Invitrogen社製)を使用して全体RNAを分離した。逆転写−重合酵素連鎖反応(RT−PCR)を用いてcDNAを合成した後、OCT4、Sox−2、Nanog、および対照遺伝子であるGAPDH(glyceraldehyde 3−phosphate dehydrogenase)遺伝子に特異的なプライマーを用いてPCRを行った。Nanog、OCT4、Sox−2は、胚性幹細胞で見られる特徴的遺伝子である。PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分析して、これらの遺伝子の発現を確認した結果を
図6および7に示した。
【0060】
その結果、
図6と7によると、誘導過程を経ない間葉系幹細胞(対照群、MSC)では、多能性幹細胞の特徴的な遺伝子であるOCT4、SOX2とNanogの発現度が低い一方で、本発明の方法により誘導された多能性幹細胞(実験例1−1(EtOH EPNとして示す)および実験例1−2(Sonic EPNとして示す)によって製造された多能性幹細胞)では、これらの特徴的な遺伝子が顕著に高く発現された。幹細胞遺伝子であるOCT4、SOX2とNanogの発現程度は、
図6および
図7のグラフにより明確に確認することができる。
【0061】
以上で、本発明の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界の通常の知識を有する者にとって、このような具体的な技術は、単に好ましい実施例あるだけで、これに本発明の範囲が制限されるものではないことは明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付された請求項とその等価物によって定義されるといえる。