特許第6596098号(P6596098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596098
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】毛髪処理組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/64 20060101AFI20191010BHJP
   A61K 8/84 20060101ALI20191010BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   A61K8/64
   A61K8/84
   A61Q1/10
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-551692(P2017-551692)
(86)(22)【出願日】2016年3月21日
(65)【公表番号】特表2018-510199(P2018-510199A)
(43)【公表日】2018年4月12日
(86)【国際出願番号】US2016023422
(87)【国際公開番号】WO2016160399
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年11月8日
(31)【優先権主張番号】62/142,729
(32)【優先日】2015年4月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513161449
【氏名又は名称】イーエルシー マネージメント エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ステプニュースキー,ジョージ ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】リー,ウィルソン エイ.
【審査官】 ▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0290685(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/184463(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0286893(US,A1)
【文献】 国際公開第2015/039826(WO,A1)
【文献】 特開2000−247840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
まつ毛を処理する方法であって、
化粧料として許容される水性基剤、
組成物の0.0025〜15重量%の範囲の加水分解コムギタンパク質PG-プロピルシラントリオール、及び
組成物の0.004〜6重量%の範囲のポリクオタニウム-6
を含む、第1の組成物を用意するステップ、
第1の組成物をまつ毛に塗布するステップ、
まつ毛上の第1の組成物を少なくとも1分間乾燥させるステップ、及び
まつ毛の第1の組成物上に無水マスカラ組成物を塗布するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
まつ毛を処理する方法であって、
化粧料として許容される水性基剤、
組成物の0.0025〜15重量%の範囲の加水分解コムギタンパク質PG-プロピルシラントリオール、及び
組成物の0.004〜6重量%の範囲のポリクオタニウム-6
を含む、第1の組成物を用意するステップ、
第1の組成物をまつ毛に塗布するステップ、
まつ毛上の第1の組成物を少なくとも1分間乾燥させるステップ、及び
第1の組成物上に乳化剤を含まないマスカラ組成物を塗布するステップ
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メーキャップ若しくは他の処理を施す前に頭部の毛髪に塗布することができる、又はメーキャップ若しくは他の処理製品と同時に毛髪に塗布することができるタイプの荷電タンパク質複合体に関する。一実施形態において、本発明は、前処理製品又は完全処方マスカラとして使用することができるまつ毛用製品を対象とする。
【背景技術】
【0002】
マスカラは、まつ毛がよりふっくらと長くみえるようまつ毛を着色及び手入れするために使用される。マスカラ製品は大体が、これらの目的を、粘性材料による厚いコーティングをまつ毛に塗布することによって達成しようとする。これらの通常のまつ毛手入れ用製品は一時的なものである。つまり、たった1回の洗浄で比較的簡単に落ちるということであり、まつ毛の構造への長期的な変化は達成されない。まつ毛製品が一度塗布されると、数回の洗浄では落ちない長期の利益を与えることができれば、有益であろう。本発明はそのような利益を提供する。
【0003】
まつ毛のライフサイクルが約90日であり、頭毛のライフサイクルの24分の1〜8分の1であることは周知である。水性及び/又は耐水性マスカラを頻繁に使用すると、特に配合物が保湿剤、コンディショナー又は保水剤を含有していない場合にまつ毛を乾燥させ得る。実際、マスカラの使用頻度と毛髪キューティクルにおけるひび割れの程度、毛髪キューティクルの厚さ、及び皮質における空隙度との間に正の相関性が認められた(“Internal structure changes of eyelash induced by eye makeup," K. Fukami, et al. J. Cosmetic Science, vol. 65, no. 4; p. 217-224, 2014を参照のこと)。これらの相関性から、マスカラ又はマスカラ除去剤は毛髪キューティクルにおけるひび割れ又は膨潤を誘導し、皮質の空隙度を高め得ることが示されている。その結果は、乾燥し、弱った毛髪である。
【0004】
同様に、頭部の頂部の毛髪は、頻繁な洗浄、苛酷な化学処理、苛酷な熱処理、大気汚染、UV曝露、及び他の因子をはじめとする様々な因子による劣化を受ける。キューティクルの膨潤及びひび割れ並びに空隙度の増加によって、毛髪が乾燥し、弱々しく、扱いにくくなる傾向があり、枝毛及び光沢の喪失が誘導される。眉毛などの他の体毛も同じ問題のいくつかに苦しむことがある。
【0005】
加水分解コムギ及び植物性タンパク質などのタンパク質及びアミノ酸は、ダメージを受けた毛髪に対する処理として毛髪ケア製品で使用されてきた。コムギタンパク質は毛髪に対して良好な定着性(substantivity)を示すことが公知であり、報告によると、キューティクルに浸透して、コンディショニングする利益をもたらし、破断強度を改善する。その定着性にもかかわらず、毛髪上に被着しているタンパク質は、それが付与し得る利益と共に、1回以上の洗浄の後にすすぎ落とされやすい。本発明は、いくつかの加水分解コムギタンパク質及びアミノ酸の定着性を高め、それらの利益を広げる。したがって、公知のまつ毛製品によって引き起こされるダメージに対して本発明は、著しく優れた保護をもたらす。
【0006】
安定なコロイド分散系は、コロイドの表面とバルク流体分散媒との界面にある電気二重層を特徴とする。「滑り面」はコロイドを取り囲む表面と言われることもある。滑り面の内側で、バルク流体の分子はコロイド表面に結合している。滑り面の外側で、バルク流体は流動性のままである。ゼータ電位(ζ電位)は、二重層界面の滑り面と界面から離れているバルク流体におけるある位置との電位差を指す。ζ電位の大きさは、同様に荷電したコロイド粒子間の斥力の尺度であり、したがってコロイド分散系の安定性の尺度をもたらす。概して、高いζ電位ほど、高い安定性を示す。本発明において、ζ電位は、まつ毛(又は他の毛髪)に付着するタイプのタンパク質複合体を形成するのにより適したタンパク質の同定において助けとなり得る。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、頭部の毛髪であれ、眉毛であれ、又はまつ毛であれ、ヒト毛髪に結合する荷電タンパク質-ポリマー複合体を発明した。一実施形態において、複合体は、まつ毛をメーキャップし、洗浄などの苛酷な処理からまつ毛を保護するのに特に有用である。他の実施形態において、複合体は、コンディショナー、シャンプー又は他の毛髪処理製品から送達され得る。複合体は、カチオン性ポリマーと加水分解コムギタンパク質PG-プロピルシラントリオールを反応させることによって形成される。毛髪ケア又は毛髪処理製品を塗布する前に、前処理として、荷電タンパク質-ポリマー複合体を毛髪に送達することができる。或いは、複合体をマスカラ、シャンプー又はコンディショナーなど毛髪ケア又はメーキャップ組成物に組み込み、毛髪に同時に塗布してもよい。タンパク質-ポリマー複合体は毛髪上に被着すると、後に塗布された又は同時に塗布された毛髪製品が洗い流されたときでさえ、数回試みても洗ってもすすいでも落ちない。本発明のいくつかの実施形態は、ポリリシン、及び/又はタンパク質複合体をさらに向上させる1種以上の皮膜形成剤を含む。タンパク質-ポリマー複合体には、メーキャップ若しくは処理製品の使用、処理レジメン及び環境中の攻撃物質(environmental aggressor)に関連したダメージから毛髪のキューティクルを修復且つ/又は保護する効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0008】
別段の示唆がない限り、本明細書に記載の百分率はすべて、組成物全体に対する重量による百分率である。一般性を失うことなく、下記の考察ではマスカラ及びまつ毛に焦点を絞る。
【0009】
用語「含む(comprise)」及びその派生語とは、一群の品目が明示されているものに限定されず、さらなる品目を含んでも含まなくてもよいことを意味する。
【0010】
ヒト毛髪の表面は、本来負に帯電している。したがって、一般に、正荷電タンパク質は中性又は負荷電タンパク質より容易に毛髪に結合する。ここで採用した手法は、正に帯電したカチオン性ポリマーと毛髪に有益なタンパク質若しくは毛髪に有益なアミノ酸又はそれらの両方との複合体を形成する手法であった。
【0011】
課題は、一度塗布されると、毛髪に付着し、キューティクル及び皮質の完全性を保護する、毛髪に有益なタンパク質/アミノ酸とカチオン性ポリマーとの有用な組合せを見出すことであった。他の考慮すべき点としては、まつ毛で使用するのに許容されるpH(典型的には約6.5〜8.0)を有する送達媒体に、その媒体の商業的に許容される保存安定性を維持しながら、タンパク質-カチオン性ポリマー複合体を分散できることが挙げられる。本発明の研究の第1段階は、いくつかの概念実証実験からなるものであった。いくつかの潜在的な成分を排除した後、下記の材料に焦点を絞った。
【0012】
Croda社のHydrotriticum(商標) 2000 PEは、約75〜10,000ダルトンの範囲において約3,000ダルトンの平均分子量を有する、加水分解コムギタンパク質及びアミノ酸の20%水溶液である(CAS-No. 70084-87-6)。
【0013】
Croda社のCrodasone(商標) W PF-LQ-WDは、化学名がタンパク質加水分解物、コムギ、[2-ヒドロキシ-3-[3-(トリメトキシシリル)プロポキシ]プロピル]加水分解物であるポリマーの26〜30%水溶液である(CAS-No. 152887-30-4)。本ポリマーは、加水分解コムギタンパク質PG-プロピルシラントリオールとしても知られる。
【0014】
Vege Tech社(Glendale, CA)のQuinoa;300〜200,000ダルトンの様々な分子量。
【0015】
Merquat(商標) 100は、ポリクオタニウム-6(ジアリルジメチルアンモニウムクロリドの高帯電カチオン性ホモポリマー)の39〜44%水溶液である(Lubrizol Corporation社から入手可能)。
【0016】
ポリリシンの25%溶液を時としてpH調整剤として使用した。
【実施例】
【0017】
実験1:タンパク質/アミノ酸とカチオン性ポリマーの複合体がタンパク質又はカチオン性ポリマー単独より良い定着性を有することを検証する。
1. プロペラミキサーで混合しながら、下記の表に示す4種の溶液を調製した。A1は対照の溶液である。ポリリシンをpH調整剤として使用した。
2. 4束の白髪を用意し、対照溶液に3時間浸し、それらの束を50℃で乾燥した。
3. X1、P1及びC1の各溶液に1束を4時間浸漬し、それらの束を50℃で乾燥した。
4. 4束すべてについて、分光光度計を使用して、L*a*b*値を異なる3か所において測定した。
5. それぞれの毛髪束を瓶1杯の水の中で振盪させながら洗浄し、30回まで繰り返し、50℃で乾燥した。
6. 分光光度計を使用して、L*a*b*値を異なる3か所において測定し、各試料のΔEを次式に従って算出した。
ΔE=Sqrt{(L1-L2)2+(a1-a2)2+(b1-b2)2}
【0018】
以下の表に結果を示す。
【0019】
【表1】
【0020】
比較的大きなΔEは、毛髪の赤色染料がすすぎ落とされるため、毛髪試料の色が大いに変化したことを示す。比較的小さいΔEは、洗浄を繰り返した後でさえ、赤色の染料色が毛髪に保持されるため、毛髪試料の色は少ししか変化しなかったことを示す。被検試料が対照よりもっと色を保持するとき、その色の保持は、キューティクルに対するダメージを修復するタンパク質の保持に起因すると考えられる。
【0021】
加水分解コムギタンパク質とカチオン性ポリマーの複合体を含むX1試料は、群を抜いて最高に機能し(最小のΔE)、加水分解コムギタンパク質を含むが、カチオン性ポリマーを含まない試料P1より有意に良好に機能し、またカチオン性ポリマー単独より有意に良好に機能した。炭化水素による洗浄を行って、実験全体を繰り返し、試料X1は再度群を抜いて良好に機能した。
【0022】
カチオン性ポリマーは加水分解コムギタンパク質PG-プロピルシラントリオールの定着性を改善し、水又は炭化水素による洗浄を繰り返した後でさえ残存する優れたキューティクル修復となると理論上想定される。さらに、定着性の改善は、相乗的で、且つタンパク質とカチオン性ポリマーの和の個々の寄与から予想され得る改善を上回る改善であると思われる。
【0023】
実験2:加水分解コムギタンパク質PG-プロピルシラントリオール(Crodasone(商標) W PF-LQ-WD)及び他の2種の植物性タンパク質を、市販の目化粧品製品における適合性についてさらに調査する。
【0024】
ステップI:
様々な比のタンパク質とポリクオタニウム-6を溶液状態でブレンドして、ポリリシンでpHの調整を試み、安定性を書き留める。
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
ステップ2:ΔEを決定する
ステップ1から、影付きの溶液をさらなる研究のために選択する。これらはすべて、0.1重量%の赤色33を含み、適量の水を加えて100とした水溶液として調製した。また、赤色33の0.1%溶液を対照(A1とラベルした)として使用した。
【0029】
【表5】
【0030】
1. 9束の白髪を用意し、対照溶液に3時間浸し、それらの束を50℃で乾燥させた。
2. 上記の各溶液に1束を4時間浸漬し、それらの束を50℃で乾燥した。
3. 分光光度計を使用して、L*a*b*値を異なる3か所において測定した。
4. それぞれの毛髪束を瓶1杯の水の中で振盪させながら洗浄し、30回まで繰り返し、50℃で乾燥した。
5. 分光光度計を使用して、L*a*b*値を異なる3か所において測定し、各試料のΔEを算出した。
ΔE=Sqrt{(L1-L2)2+(a1-a2)2+(b1-b2)2}
【0031】
比較的大きなΔEは、毛髪の赤色染料がすすぎ落とされるため、毛髪試料の色が大いに変化したことを示す。比較的小さいΔEは、洗浄を繰り返した後でさえ、赤色の染料色が毛髪に保持されるため、毛髪試料の色は少ししか変化しなかったことを示す。被検試料が対照よりもっと色を保持するとき、その色の保持は、キューティクルに対するダメージを修復するタンパク質複合体の保持に起因すると考えられる。
【0032】
上記の表に結果を示す。この予備研究において、Q2複合体(Quinoa)で処理した試料は、水ですすいだ後、最小のΔE(5.84)を有した。これは、毛髪が、少なくとも水性環境においてQ2複合体に対して比較的高い定着性を有したことを意味する。しかし、炭化水素による洗浄を行って、実験全体を繰り返したとき、試料Q2はそれほど好転しなかった。Q4のQuinoa試料は、水によるすすぎに対して同様に良く機能したが、炭化水素によるすすぎに対しては良く機能しなかった。Q3のQuinoa試料は、炭化水素によるすすぎにも水によるすすぎにも良く機能しなかった。全体として、これは、Quinoa複合体が炭化水素に抵抗性を示さないことを意味し、複合体が皮脂油によって毛髪から取り除かれることもあることが示唆され、その場合、キューティクルは大きな利益を得ない可能性がある。
【0033】
一方、Hydrotriticum(商標) 2000 PE試料は、炭化水素によるすすぎにおいて良く機能したが、水によるすすぎにおいては良く機能しなかった。これは、この特定のコムギタンパク質複合体が皮脂油によっては毛髪から取り除かれないが、水分によって取り除かれることを意味する。理想的ではないが、この加水分解コムギタンパク質複合体は、すすぎの合間に又は無水系の技術として毛髪に幾らかの利益をもたらす。
【0034】
最高に機能する複合体はX1及びX3(pHをポリリシンで調整した加水分解コムギタンパク質PG-プロピルシラントリオール(Crodasone(商標) W PF-LQ-WD))であり、水又は炭化水素ですすいだ後に最小のΔE値のいくつかを有するものであった。水によるすすぎでは、X1及びX3の複合体はそれぞれ、対照試料A1より約20倍及び21倍良く機能した。炭化水素によるすすぎでは、X1及びX3の複合体はそれぞれ、対照試料A1より約21倍及び12倍良く機能した。このことから、これらの複合体が水及び炭化水素による洗浄の後でさえ有益な量のキューティクル修復をもたらすことが示唆される。興味深いことには、X2複合体(ポリリシンを含まない、すなわち低pHのCrodasone(商標) W PF-LQ-WD)は同様には機能しなかったが、それでもなお対照より有意な改善を示し、Hydrotriticum(商標) 2000 PE及びquinoa試料より総体的によかった。X2試料のpH(4.85)はX1(7.29)及びX3(8.35)と比較して低いことに留意する。これによって、X2が同様には機能しない可能性がある。
【0035】
これまでのところ、加水分解コムギタンパク質試料はquinoaタンパク質試料より有意に良く機能しているということができる。また、加水分解コムギタンパク質PG-プロピルシラントリオール(Crodasone(商標) W PF-LQ-WD)試料は、Hydrotriticum(商標) 2000 PEタンパク質試料より良く機能している。Quinoa及びHydrotriticum(商標) 2000 PEはシステインを含有し、それによって、ジスルフィド結合を介して毛髪に共有結合することが可能になる。
【0036】
Crodasone(商標) W PF-LQ-WDはポリシロキサンである。それは、タンパク質加水分解物、加水分解コムギ[2-ヒドロキシ-3-[3-(トリメトキシシリル)プロポキシ]プロピル]加水分解物の26〜30%水溶液である。Crodasone(商標) W PF-LQ-WDの固形物部分は、報告によるとコムギタンパク質71.4%及び3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン28.6%である。3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)は、加水分解コムギタンパク質におけるペプチド鎖の側鎖又は末端アミノ基と反応して、タンパク質シリコーンポリマーを生成する。残存しているGPTMSは、容易に加水分解して、2,3-ヒドロキシプロピルトリヒドロキシシランを生じ、次いで重合して、ポリシリコーンを形成する。説明することなく、ポリシロキサン形の加水分解コムギタンパク質(すなわち、Crodasone(商標) W PF-LQ-WD)は、ジスルフィド結合を形成することができる加水分解コムギタンパク質(すなわち、Quinoa及びHydrotriticum(商標) 2000 PE)より良い結果をもたらしつつあることに留意するにすぎない。このことは予想外である。
【0037】
さらに、炭化水素によるすすぎ試験に関して、良く機能した3種の試料(X1、X3、H3)はpHが6.83〜8.35であり、ζ電位が約11mVと30mVの間であった。次の最高に機能した2種(X2、H4)はζ電位が約13mVと22mVの間であったが、pHはより低かった(4.85及び5.23)。最悪の3つの結果は、pHが(最高に機能したもののpHと重なる)7.39〜9.39であるが、ζ電位が(最高に機能したもののζ電位の範囲外である)30mVより大きい試料によってもたらされた。
【0038】
水によるすすぎ試験に関して、良く機能した4種の試料(X1、X3、Q2、Q4)はpHが7.29〜8.35であり、ζ電位が約14mVと62mVの間であった。次の最高に機能した2種(X2、H4)はζ電位が約13mVと22mVの間であったが、pHはより低かった(4.85及び5.23)。最悪の2つの結果は、ζ電位が約11〜V31mV(最高に機能したもののζ電位と重なる)であるがpHが6.83〜9.39(最高に機能したもののpHの範囲外である)である試料によってもたらされた。
【0039】
全体的にみて、これらの結果から、水によるすすぎ試験及び炭化水素によるすすぎ試験における良い結果は、pHが約7.3〜8.5であり、ζ電位が約10〜30mVである、媒体中でタンパク質とカチオン性ポリマーの複合体が送達されるときに予期されることが示唆される。さらに、本来pHを調整するために添加されるポリリシンは、毛髪のコムギタンパク質保持を増大させて、加水分解コムギタンパク質試料に有益な効果を及ぼすが、quinoaタンパク質試料には一般的に悪化させる効果を及ぼすと思われる。
【0040】
実験3:X1複合体(加水分解コムギタンパク質PG-プロピルシラントリオール及びポリクオタニウム-6)の上に水中油型マスカラ乳濁液を塗布する影響を調査する。
1. 上記のように、X1溶液を調製した。A1は対照の溶液である。
2. 4束の白髪を用意し、対照溶液に3時間浸し、それらの束を50℃で乾燥させた。
3. 溶液X1に3束を4時間浸漬し、それらを50℃で乾燥した。
4. 3束すべてについて、分光光度計を使用して、L*a*b*値を異なる3か所において測定した。
5. 水中油型マスカラ(Estee Lauder High Impact Mascara)を各束に塗布し、それらの束を50℃で乾燥した。
6. それぞれの毛髪束を瓶1杯の水50%、Permethyl(登録商標) 99A 50%の中で振盪させながら洗浄し、30回まで繰り返し、50℃で乾燥した。
7. 分光光度計を使用して、L*a*b*値を異なる3か所において測定し、各試料のΔEを算出した。
【0041】
水中油型マスカラを施したX1被検試料の平均ΔEは244であった。この結果から、水中油型マスカラはタンパク質複合体の付着に干渉していることが明らかである。水中油型マスカラの乳化剤がタンパク質-カチオン性ポリマー複合体の付着性に有害な影響を及ぼしているのではないかと思われた。
【0042】
懸濁化剤、毛髪コンディショニング剤、顔料及び防腐剤を含むが、乳化剤を含まない無水マスカラを用いて、上記と同じ実験を繰り返した。無水マスカラを施したX1被検試料の平均ΔEは、対照試料の85.05に対して12.41であった。これは、水中油型マスカラの乳化剤がタンパク質複合体の付着に干渉していることを明確に示すものであり、無水マスカラの結果は、まつ毛へのタンパク質付着の利益は現実の使用状態において実現できることを示すものである。例えば、加水分解コムギタンパク質-カチオン性ポリマー複合体の水溶液を、2種レジメン製品において現実の利益のために使用することができる。前処理ステップにおいて、本明細書におけるX1などのタンパク質-カチオン性ポリマー複合体の水溶液でまつ毛を処理し、次いで無水マスカラをその上に塗布する。マスカラをすすぎ落としたときでさえ、相当量のタンパク質が毛髪に付着したままであり、毛髪を修復し、無水マスカラを洗い落とすことによって引き起こされるダメージを軽減する。
【0043】
実験4:皮膜形成剤で改変されたX1複合体の上に水中油型マスカラ乳濁液を塗布する影響を調査する。
水中油型マスカラについての先の結果に基づいて、皮膜形成剤をタンパク質-ポリリシン-カチオン性ポリマー複合体の水溶液に添加した場合、まつ毛へのタンパク質付着を改善することができると思われた。様々なPVP型、ポリウレタン型、アクリレート型及びアセタート型皮膜形成剤を試みた。優れた結果は、乾燥させた後に水及び油に対して良好な耐久性を有するSyntran(登録商標) PC5776 (Interpolymer社)であった。処方X1に代えて、下記に示す処方X11を使用したことを除いて、上記の実験を繰り返した。
【0044】
【表6】
【0045】
水中油型マスカラを施したX11被検試料の平均ΔEは6.04であり、皮膜形成剤を含まないX1被検試料に比べて劇的な改善であった。したがって、皮膜形成剤Syntran(登録商標) PC5776は、タンパク質-ポリリシン-カチオン性ポリマー複合体を水中油型マスカラ中の乳化剤との干渉から保護した。
【0046】
この結果から、加水分解コムギタンパク質PG-プロピルシラントリオール-ポリクオタニウム-6複合体の水溶液を、2種レジメン製品において現実の利益のために使用できることがさらに示唆される。前処理ステップにおいて、まつ毛を本明細書におけるX11などの加水分解コムギタンパク質PG-プロピルシラントリオール-ポリクオタニウム-6複合体の水溶液で処理し、次いで水中油型マスカラをその上に塗布する。マスカラをすすぎ落としたときでさえ、相当量のタンパク質が毛髪に付着したままであり、毛髪を修復し、水中油型マスカラを洗い落とすことによって引き起こされるダメージを軽減する。
【0047】
懸濁化剤、毛髪コンディショニング剤、顔料及び防腐剤を含むが、乳化剤を含まない無水マスカラを用いて、上記と同じ実験を繰り返した。無水マスカラを施したX11被検試料の平均ΔEは、X1試料の12.41に対して9.55であった。したがって、皮膜形成剤は、無水マスカラを塗布する前に複合体が前処理ステップとして使用されたとき、加水分解コムギタンパク質PG-プロピルシラントリオール-ポリクオタニウム-6複合体の付着も改善した。
【0048】
本発明者らの観察に基づいて、有用な組成物は、組成物の0.0025〜15重量%の範囲で加水分解コムギタンパク質PG-プロピルシラントリオールを含むものであろう。加水分解コムギタンパク質がCrodasone(商標) W PF-LQ-WDの形で供給される場合、その範囲は約0.01〜約50重量%であろう。
【0049】
ポリクオタニウム-6の有用な範囲は組成物の0.004〜6重量%である。ポリクオタニウム-6がMerquat(商標) 100である場合、有用な範囲は組成物の約0.01〜15重量%である。
【0050】
ポリリシンはオプションであり、タンパク質の毛髪上での保持を改善すると思われる。ポリリシンが使用される場合、その有用な範囲は組成物の0.001〜4重量%である。
【0051】
アクリレート系皮膜形成剤(Syntran(登録商標) PC5776など)は使用される場合、組成物の0.5〜15重量%を占めることができる。
【0052】
組成物の残部は、組成物の50〜80重量%の水を含む化粧料として許容される水性基剤、並びに着色剤、保湿剤、増粘剤及びpH調整剤など毛髪製品でよく使用される化粧料として許容される補助剤である。
【0053】
本発明による有効なまつ毛前処理用組成物の一例を、下記の表のA欄に示す。
【0054】
【表7】
【0055】
B欄の処方によって、本発明によるまつ毛前処理用組成物は黒酸化鉄などの着色剤を含むことができるということを示している。着色剤を含むときには、やはり組成物を、その上に塗布されたマスカラ組成物から供給される色に加えて、まつ毛に色を与える前処理用組成物として製剤化することができる。或いは、B欄の処方は完成した商業的に実現可能なマスカラ製品である。この処方を典型的なマスカラブラシでまつ毛に塗布すると、まつ毛の分離及び延長が非常に良かった。まつ毛を洗浄すると、色は除去されたが、タンパク質-カチオン性ポリマー複合体はまつ毛に残ったままであった。
【0056】
A欄及びB欄の組成物はpHが7.2であり、商業的に安定している。したがって、本発明の組成物は、マスカラ、シャンプー、コンディショナー、及び眉毛メーキャップなど、まつ毛(及び身体の他のいずれかの毛髪)の前処理用組成物又は完成品として作用することができる。これらの製品タイプはいずれも、顔料又は染料を含むことができる。最適な顔料又は染料はもともと親水性のものか、又は親水性になるように表面処理したものである。本発明の組成物に、1種以上の親水性顔料又は染料を組成物の0.001〜12重量%含めることができる。
【0057】
本発明は、まつ毛を処理する方法も包含する。第1の方法において、アクリレート系皮膜形成剤を含まない本発明による前処理組成物を用意し、まつ毛に塗布する。前処理組成物を少なくとも1分間、好ましくは少なくとも2分間乾燥させる。次いで、無水マスカラ組成物をまつ毛の前処理組成物上に塗布する。
【0058】
第2の方法において、本明細書に記載されるようにアクリレート系皮膜形成剤を含む本発明による前処理組成物を用意し、まつ毛に塗布する。前処理組成物を少なくとも1分間、好ましくは少なくとも2分間乾燥させる。次いで、水系又は無水のマスカラ組成物をまつ毛の前処理組成物上に塗布する。
【0059】
第3の方法において、顔料又は染料を含む本発明の組成物を用意し、組成物をまつ毛に塗布する。
【0060】
第4の方法において、本発明の組成物を用意し、毛髪に塗布し、続いて水で毛髪からすすぎ落とす。例えば、本発明による加水分解コムギタンパク質PG-プロピルシラントリオール-ポリクオタニウム-6複合体を含むシャンプー、コンディショナー又は眉毛製品を用意し、その組成物を頭部の毛髪又は眉毛に塗布し、続いて水で毛髪からすすぎ落とす。本発明の様々な実施形態を以下に示す。
1.化粧料として許容される水性基剤、
組成物の0.0025〜15重量%の範囲の加水分解コムギタンパク質、及び
組成物の0.004〜6重量%の範囲のポリクオタニウム-6
を含む、毛髪処理組成物。
2.加水分解コムギタンパク質が、加水分解コムギタンパク質、[2-ヒドロキシ-3-[3-(トリメトキシシリル)プロポキシ]プロピル]加水分解物である、上記1に記載の組成物。
3.組成物の0.001重量%〜4重量%のポリリシンをさらに含む、上記2に記載の組成物。
4.組成物の0.5重量%〜15重量%のアクリレート系皮膜形成剤をさらに含む、上記2に記載の組成物。
5.アクリレート系皮膜形成剤が、アクリレート/エチルヘキシルアクリレート/hema/スチレンコポリマー/アクリレート/ジメチルアミノエチルメタクリレート皮膜形成剤である、上記4に記載の組成物。
6.組成物の0.001重量%〜12重量%の親水性顔料又は染料をさらに含む、上記2に記載の組成物。
7.身体の毛髪を処理する方法であって、
上記3に記載の組成物を用意するステップ、
該組成物を毛髪に塗布するステップ、及び
該組成物を水で毛髪からすすぎ落とすステップ
を含む、方法。
8.まつ毛を処理する方法であって、
上記2に記載の第1の組成物を用意するステップ、
第1の組成物をまつ毛に塗布するステップ、
まつ毛上の第1の組成物を少なくとも1分間乾燥させるステップ、及び
まつ毛の第1の組成物上に無水マスカラ組成物を塗布するステップ
を含む、方法。
9.まつ毛を処理する方法であって、
上記4に記載の第1の組成物を用意するステップ、
第1の組成物をまつ毛に塗布するステップ、
第1の組成物を少なくとも1分間乾燥させるステップ、及び
まつ毛の第1の組成物上に水系マスカラ組成物を塗布するステップ
を含む、方法。
10.まつ毛を処理する方法であって、
まつ毛に上記6に記載の組成物を塗布するステップ
を含む、方法。